説明

試料液減圧装置

【課題】試料液が流入する試料液流入管と、試料液流入管内に進退可能に挿入された芯線と、芯線の動作を制御する制御部とを有する試料液減圧装置において、芯線を前進させるときに、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生することを防止する。
【解決手段】制御部に、試料液流入管14内において、芯線32を所定距離X前進させる動作と、芯線を所定距離Y後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を前進させるように芯線の動作を制御する機能を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所等の高圧ボイラ水配管から試料液を採取するためのボイラ水サンプリング装置などに使用される芯線挿入方式の試料液減圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所の高圧ボイラ水配管から試料液を採取してその水質を分析する場合、ボイラ水サンプリング装置で高圧の試料液を一定圧力に減圧してから分析装置に導入することが行なわれる。また、このとき高圧試料液を減圧するための減圧装置として、試料液を流す試料液流通管の中に芯線を入れ、試料液流通管と芯線との間隙に試料液を通すことにより、管摩擦抵抗によって試料液の減圧を行なう芯線挿入方式の試料液減圧装置が使用されている。
【0003】
この場合、日本国内の電力会社の発電プラントに採用されているボイラ水サンプリング装置は、起動から停止まで自動化されている。したがって、電力負荷による発電プラントの起動停止およびユニットの出力調整により、高圧試料液の圧力が変動するときには、試料液流通管への芯線の挿入長さを自動的に変更して、試料液を常時一定圧力にする減圧動作を行う必要がある。そのため、従来、試料液流通管への芯線の挿入長さをモータ駆動により変化させ、高圧試料液の減圧量を変更して試料液の二次側圧力を一定にする試料液自動減圧装置が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の試料液減圧装置は、図2に示すように、主管12と、主管12の先端部にそれぞれ連結された試料液流入管14及び試料液流出管16と、主管12の基端側開口部を閉塞する閉塞体18と、モータ(駆動手段)20により回転せしめられる駆動軸22と、駆動軸22と同軸上に配置された回転可能な従動軸24と、駆動軸22の回転運動を従動軸24に伝達する回転伝達機構26と、試料液流入管14、試料液流出管16内の試料液流入路28、試料液流出路30に進退可能に挿入された芯線32、34とを有する。
【0005】
従動軸24は、主管12内に配設された外面にねじ山を有するねじ軸36に連結され、ねじ軸36には内面にねじ山を有するリング状の芯線保持体38が取り付けられ、芯線保持体38には芯線32、34が取り付けられている。そして、従動軸24が回転するとねじ軸36が回転し、これにより芯線保持体38が進退して芯線32、34の位置調整が行われるようになっている。
【0006】
図2の試料液減圧装置10を用いて例えば火力発電所の高圧ボイラ水配管からの試料液の減圧を行う場合、試料液流入管14に減圧前の試料液が流れる一次側配管40(高圧ボイラ側の配管)を接続し、試料液流出管16に減圧後の試料液が流れる二次側配管42(分析装置側の配管)を接続する。そして、この状態で一次側配管40を流れる試料液を試料液流入管14内の試料液流入路28、主管12内、試料液流出管16内の試料液流出路30に順次流し、管摩擦抵抗によって試料液を減圧してから二次側配管42に流す。
【0007】
また、電力負荷による発電プラントの起動停止およびユニットの出力調整により、高圧試料液の圧力が変動し、試料液流入路28、試料液流出路30への芯線32、34の挿入長さを変更する場合には、モータ20の作動により駆動軸22を正転又は逆転させてねじ軸36を回転させ、芯線32、34を前進又は後退させる。この場合、二次側配管42を流れる試料液の圧力は圧力センサ(図示せず)により連続的に検出されており、上記芯線32、34の前進又は後退動作は、モータ20及び圧力センサに電気的に接続された制御部44の制御により自動的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−138476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2の試料液減圧装置は、芯線を、試料液流入管及び試料液流出管への芯線挿入割合が50〜80%程度の位置(以下、この芯線位置を「減圧位置」という。)に位置させて試料液の減圧を行う。また、発電プラントの停止時や、試料液減圧装置の保守作業時には、芯線を、減圧位置から試料液流入管及び試料液流出管への芯線挿入割合が95%程度の位置(以下、この芯線位置を「待機位置」という。)に移動させる。なお、上記芯線挿入割合は、下記式で表される数値であり、減圧位置は後述する図1(a)の芯線位置、待機位置は後述する図1(e)の芯線位置である。
・芯線挿入割合=(試料液流入管又は試料液流出管への芯線挿入長さ/試料液流入管又は試料液流出管の長さ)×100(%)
したがって、図2の試料液減圧装置では、発電プラントの停止時及び試料液減圧装置の保守作業時に、制御部の制御により、芯線を減圧位置から待機位置まで、一定速度で連続的に前進させて移動させている。しかし、このように芯線を連続的に前進させた場合、図3に示すように、試料液流入管14内において、芯線32の表面や試料液流入管14の内壁に堆積した異物50を介して、試料液流入管14と芯線32との噛み込み52が発生し、芯線32が前進しなくなるという問題があった。なお、芯線32の基端側は円柱部32a、先端側は先細りテーパ部32bとなっているが、上記噛み込み52は、芯線32と試料液流入管14の内壁との隙間が最も少ない円柱部32aで発生することが多い。
【0010】
上記噛み込みの発生原因は、近年、火力発電所、特にコンバインド発電方式の火力発電所におけるボイラ水の水質管理方法が変わり、ボイラ水へのヒドラジン(錆防止用脱酸素剤。発がん性物質であることが指摘されている。)の注入量が大きく減少した結果、ボイラ水中で異物が大量に発生し、この異物が芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積することに由来すると考えられる。なお、試料液流出管内の芯線表面や試料液流出管の内壁には異物がほとんど堆積せず、したがって芯線を減圧位置から待機位置まで連続的に前進させて移動させるときに、試料液流出管と芯線との噛み込みは発生しない。また、上記異物の成分については現在分析中であるが、主に金属酸化物であると考えられる。
【0011】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされてもので、芯線を前進させるときに、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生することを防止することができる芯線挿入方式の試料液減圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成するため、試料液が流入する試料液流入管と、前記試料液流入管内に進退可能に挿入された芯線と、前記芯線の動作を制御する制御部とを有する試料液減圧装置において、前記制御部は、前記試料液流入管内において、芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を前進させるように芯線の動作を制御する機能を備えていることを特徴とする試料液減圧装置を提供する。
【0013】
芯線をある位置からそれより先方のある位置まで前進させるときに、従来のように連続的に前進させた場合には、芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物に起因して、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生する。これに対し、本願発明では、芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、つまり芯線の往復動作を行いながら芯線を前進させるので、芯線の後退動作時に芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物を下流側に流して除去することができ、その結果、芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物に起因する試料液流入管と芯線との噛み込みが防止されると考えられる。
【0014】
本発明において、制御部は、試料液減圧装置を用いたプラントの停止時、又は、試料液減圧装置の保守作業時において、芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を第1の所定位置(例えば、前記減圧位置)から第2の所定位置(例えば、前記待機位置)まで前進させるように芯線の動作を制御することができる。この場合、上記芯線の動作は、通常、試料液減圧装置の上流側に設置されたサンプリング弁は閉じ、下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態で行う。
【0015】
本発明において、制御部は、所定時間毎に(例えば24時間毎)、芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を第1の所定位置(例えば、前記減圧位置)から第2の所定位置(例えば、前記待機位置)まで前進させるように芯線の動作を制御することができる。この場合、上記芯線の動作は、通常、試料液減圧装置の上流側及び下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態で行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る試料液減圧装置は、芯線を前進させるときに、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生することを防止することができる。
【0017】
例えば、最近の高効率火力発電所は、発電プラントの稼動を開始すると、長期間連続して発電プラントを運転する。そして、コンバインド発電方式の火力発電所におけるドラムボイラのボイラ水サンプリング装置は、試料液減圧装置の芯線挿入割合をほぼ一定にした状態で長期間運転するため、試料液流入管内の芯線表面や試料液流入管の内壁に異物が大量に堆積する。このような状況に対し、本発明の試料液減圧装置は、発電プラントの停止時に、芯線を減圧位置から待機位置まで前進させるに当たり、芯線を所定距離前進させる動作と、所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を前進させることにより、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生することを防止することができる。なお、上記芯線の動作時に、通常、試料液減圧装置の上流側に設置されたサンプリング弁は閉じ、下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態とする。
【0018】
また、本発明の試料液減圧装置は、適宜あるいは必要に応じて試料液減圧装置の保守作業を行う時に、芯線を減圧位置から待機位置まで前進させるに当たり、芯線を所定距離前進させる動作と、所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を前進させることにより、試料液流入管と芯線との噛み込みが発生することを防止することができ、しかも、芯線の後退動作時に芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物を下流側に流して除去することにより、異物が芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積することを抑制することが可能である。なお、上記芯線の動作時に、通常、試料液減圧装置の上流側に設置されたサンプリング弁は閉じ、下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態とする。
【0019】
さらに、試料液減圧装置の減圧運転中に、所定時間毎に(例えば1日に1回)、試料液減圧装置の上流側及び下流側に設置されたサンプリング弁を開いたまま、芯線を所定距離前進させる動作と、所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を減圧位置から待機位置まで前進させれば、芯線の後退動作時に芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物を下流側に流して除去することができ、これにより異物が芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積することを抑制することが可能である。なお、上記芯線の動作時に、通常、試料液減圧装置の上流側及び下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る試料液減圧装置における芯線の動作を示す説明図である。
【図2】従来の芯線挿入方式の試料液減圧装置の一例を示す一部断面図である。
【図3】試料液流入管と芯線との噛み込みを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明に係る試料液減圧装置における芯線の動作を示す説明図である。本試料液減圧装置の全体構成は、図2に示した装置と同じであるから、装置全体については図2を参照する。また、図1において、図2の装置と同一の構成部分には、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0022】
本例の試料液減圧装置を、火力発電所のボイラ水サンプリング装置に使用した場合、芯線32を図1(a)に示す減圧位置(通常、試料液流入管及び試料液流出管への芯線挿入割合が50〜80%程度の位置)に位置させた状態で、試料液の減圧を行う。なお、減圧運転時に高圧試料液の圧力が変動したときには、芯線を前進又は後退させる。また、発電プラントの停止時や、試料液減圧装置の保守作業時には、上記減圧位置から、芯線32を図1(e)に示す待機位置(通常、試料液流入管及び試料液流出管への芯線挿入割合が95%程度の位置)まで前進させる。
【0023】
この場合、本例の試料液減圧装置では、芯線32を、図1(a)の減圧位置から、モータの正転により、試料液流入路28内で、図1(b)に示すように所定距離X前進させる。次に、芯線32を、モータの逆転により、図1(c)に示すように所定距離Y後退させる。次に、芯線32を、モータの正転により、図1(d)に示すように所定距離X前進させる。このように、本例の試料液減圧装置は、芯線32を所定距離前進させる動作と、所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、最終的に、芯線32を図1(e)に示す待機位置まで前進させるものである。このモータの動作は、モータに電気的に接続された制御部により制御される。
【0024】
本発明において、1回に芯線を前進させる距離と、1回に芯線を後退させる距離は適宜設定できるが、1回の芯線の前進距離X及び後退距離Yをそれぞれ等しくし、かつ、X:Yを1:0.5〜0.8とすることが適当である。より具体的には、X:Yを1:0.5〜0.8とし、かつ、Xを1.5〜3.0mm、Yを0.75〜2.4mmとすることが適当である。
【0025】
実際の発電プラントのボイラ水サンプリング装置に設置された試料液減圧装置において、長さ130mmの試料液流入管に芯線挿入割合が50〜80%程度になるように芯線を挿入した減圧状態(図1(a)の状態)から、芯線挿入割合が95%程度になるように芯線を挿入した待機状態(図1(e)の状態)まで、モータの作動により駆動軸を約1回転正転させて芯線を所定距離前進させた後、駆動軸を約0.5回転逆転させて芯線を所定距離後退させる動作を繰り返して芯線を前進させた。この場合、駆動軸の正転を64回、逆転を63回行った。その結果、芯線表面や試料液流入管の内壁に堆積した異物に起因する試料液流入管と芯線との噛み込みは生じなかった。
【符号の説明】
【0026】
10 試料液減圧装置
12 主管
14 試料液流入管
16 試料液流出管
20 モータ
22 駆動軸
24 従動軸
26 回転伝達機構
32、34 芯線
40 一次側配管
42 二次側配管
44 制御部
50 異物
52 噛み込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液が流入する試料液流入管と、前記試料液流入管内に進退可能に挿入された芯線と、前記芯線の動作を制御する制御部とを有する試料液減圧装置において、前記制御部は、前記試料液流入管内において、芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を前進させるように芯線の動作を制御する機能を備えていることを特徴とする試料液減圧装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記試料液減圧装置を用いたプラントの停止時、又は、前記試料液減圧装置の保守作業時において、前記芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を第1の所定位置から第2の所定位置まで前進させることを特徴とする請求項1に記載の試料液減圧装置。
【請求項3】
前記制御部は、所定時間毎に、前記芯線を所定距離前進させる動作と、芯線を所定距離後退させる動作とを繰り返しながら、芯線を第1の所定位置から第2の所定位置まで前進させることを特徴とする請求項1に記載の試料液減圧装置。
【請求項4】
試料液減圧装置の上流側に設置されたサンプリング弁は閉じ、下流側に設置されたサンプリング弁は開いた状態で、芯線を第1の所定位置から第2の所定位置まで前進させることを特徴とする請求項2に記載の試料液減圧装置。
【請求項5】
試料液減圧装置の上流側及び下流側に設置されたサンプリング弁を開いた状態で、芯線を第1の所定位置から第3の所定位置まで前進させることを特徴とする請求項3に記載の試料液減圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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