説明

試料溶液調製方法および試料溶液調製装置

【課題】 激しい振とう攪拌ではなく穏やかな攪拌にて前処理を行うことができ、前処理工程の完全自動化が可能となる試料溶液調製方法および試料溶液調製装置を得る。
【解決手段】 試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製方法であって、試料溶液を調製する工程が、調製用の容器内に試料溶液を注入した後に、容器に軽振動を印加して試料溶液を撹拌する振とう撹拌処理と、容器内の試料溶液をピペッティングして試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌処理とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を含む検体から核酸を分離精製するために、検体から核酸を含む試料溶液を得る方法に関し、さらに詳しくは、前処理工程を効率よく自動化する試料溶液調製方法および試料溶液調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシリボ核酸(DNA)は、様々な形態で使用され、例えば、ヒトの病原因子の検出および診断に日常的に用いられている。一般的にDNAは極めて少量でしか入手できず、単離および精製操作が煩雑で時間を要する。このため、あらゆる形態のあらゆる源からDNAを高い回収率をもって精製する方法が種々開発されている。例えば下記特許文献1に開示されるDNAを精製する方法では、DNAの精製において水溶性有機溶媒を使用することからなり、水溶性有機溶媒、例えばエタノール、プロパノール、およびイソプロパノールを使用し、核酸を二酸化珪素、シリカポリマー、珪酸マグネシウム等の固相に吸着させ、引き続く洗浄、脱着等の操作によって精製することで、DNAを高い回収率で精製可能とし、さらに、水溶性有機溶媒の使用により、カオトロプのような腐食性かつ有毒な組成物の使用を避けるようになされている。
【0003】
また、下記特許文献2に開示される核酸の分離精製方法は、核酸を固相に吸着および脱着させる過程を含む核酸の分離精製方法において、固相として表面に水酸基を有する有機高分子を使用し、二個の開口を有する容器内に固相を収容した核酸分離精製ユニットを使用することによって、核酸を含む試料溶液から純度の高い核酸を分離することを可能としている。
【0004】
【特許文献1】特公平7−51065号公報
【特許文献2】特開2003−128691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるDNAを精製する方法は、分離性能に優れるものの、簡便性、迅速性、自動化適性においては十分でなく、同一性能の吸着媒体の工業的大量生産が困難であり、かつ取扱いが不便で、種々の形状に加工しがたい等の問題点があった。
また、特許文献2に開示される核酸の分離精製方法は、二個の開口を有する容器内に固相を収容した核酸分離精製ユニットを使用することによって、核酸を含む試料溶液から純度の高い核酸を分離することを可能としているものの、試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、核酸を含む試料溶液を前段の処理工程において如何にして調製するかが、課題として残されている。
試料溶液の精製にあたり、試料溶液を撹拌する必要があるが、例えば、ボルテックスのような撹拌を行うと、試料溶液が容器から飛び出してしまい、別途に蓋を用意する等、手間のかかることとなる。しかし、振動の度合いを弱めると、必要十分な撹拌効果が得られず、結果として核酸の抽出量が減少して核酸抽出効率を悪くさせた。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、激しい振とう攪拌ではなく穏やかな攪拌とピペッティングの組み合わせにて前処理を行うことができ、前処理工程の完全自動化が可能となる試料溶液調製方法および試料溶液調製装置を提供し、もって、洗浄等を経て脱着させて核酸を分離精製する方法において、効率よく、簡便で、迅速で、自動化適性に優れ、再現性のある核酸を含む試料溶液を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、前記核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製方法であって、調製用の容器内に前記試料溶液を注入した後に、前記容器に軽振動を印加して前記試料溶液を撹拌する振とう撹拌処理と、前記容器内の試料溶液をピペッティングして前記試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌処理とを含むことを特徴とする試料溶液調製方法。
【0007】
(2)前記振とう撹拌処理は、回転振とう撹拌であって、回転速度が400〜2000rpmの範囲であることを特徴とする(1)記載の試料溶液調製方法。
【0008】
(3)前記ピペッティング撹拌処理は、1回当たりのピペッティングの容量が50〜1000μlの範囲であることを特徴とする(1)又は(2)記載の試料溶液調製方法。
【0009】
(4)前記ピペッティング撹拌処理は、ピペッティングの繰り返し回数が10〜100回の範囲であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【0010】
(5)前記試料溶液を調製する工程が、複数の前記容器内に注入された試料溶液を同時に処理することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【0011】
(6)前記調製用の容器内に前記試料溶液を注入する工程において、タンパク質分解酵素と、核酸を含む試料と、カオトロピック塩、界面活性剤、消泡剤、核酸安定化剤および緩衝剤から選ばれる少なくとも1つを含む前処理液を、
前記タンパク質分解酵素と、前記試料と、前記前処理液とをこの順序で、
前記前処理液と、前記試料と、前記タンパク質分解酵素とをこの順序で、
又は
前記試料と、前記前処理液と、前記タンパク質分解酵素とをこの順序で添加する工程であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【0012】
(7)前記調製用の容器内に前記試料溶液を注入する工程が、前記タンパク質分解酵素、前記試料、前記前処理液を添加した後に、さらに水溶性有機溶媒を添加することを特徴とする(6)記載の試料溶液調製方法。
【0013】
(8)前記試料溶液が、全血を調製して得られたものであることを特徴とする(6)又は(7)記載の試料溶液調製方法。
【0014】
(9)前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする(7)記載の試料溶液調製方法。
【0015】
(10)前記水溶性有機溶媒の添加後に前記試料溶液が固相と接触することを特徴とする(7)記載の試料溶液調製方法。
【0016】
(11)前記固相が膜形状であることを特徴とする(10)記載の試料溶液調製方法。
【0017】
(12)前記固相が、シリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有することを特徴とする(10)又は(11)記載の試料溶液調製方法。
【0018】
(13)前記固相が、有機高分子を含有することを特徴とする(10)〜(12)のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【0019】
(14)前記有機高分子が、多糖構造を有する有機高分子であることを特徴とする(13)記載の試料溶液調製方法。
【0020】
(15)前記有機高分子が、アセチルセルロースであることを特徴とする(13)又は(14)記載の試料溶液調製方法。
【0021】
(16)前記有機高分子が、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子であることを特徴とする(13)又は(14)記載の試料溶液調製方法。
【0022】
(17)前記有機高分子が、再生セルロースであることを特徴とする(13)又は(14)記載の試料溶液調製方法。
【0023】
(18)試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、前記核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製装置であって、前記試料溶液を注入する調製用の容器と、該容器に軽振動を印加して前記試料溶液を撹拌する振とう撹拌手段と、前記容器内の試料溶液をピペッティングして前記試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌手段とを備えたことを特徴とする試料溶液調製装置。
【0024】
この試料溶液調製方法では、核酸を多孔膜に吸着及び脱着させる過程を含む核酸の分離精製に先立って行う、検体から核酸を含む試料溶液を得る方法において、溶解液が添加された後、まず振とう操作により攪拌した後、ピペッティングで攪拌処理が行われ、検体から核酸を含む試料溶液が得られる。これにより、ボルテックスを使用するような激しい振とう攪拌ではなく穏やかな攪拌とピペッティングの組み合わせにて前処理が行われ、飛散防止の蓋が不要となり、前処理工程の完全自動化が実現可能となる。
【0025】
そして、この試料溶液調製方法では、回転速度が400rpm以下となった場合に生じやすい撹拌不足が排除される一方、回転速度が2000rpm以上となった場合に生じやすい激しい振とう攪拌による試料溶液の飛散が排除され、穏やかかつ効果的な攪拌が可能となる。
【0026】
また、この試料溶液調製方法では、ピペッティングの容量が50μl以下の場合に生じやすいピペッティング量不足による撹拌不良が排除される一方、ピペッティングの容量が1000μl以上の場合に生じやすいピペッティング試料溶液と非ピペッティング試料溶液との混合不足による撹拌不良が排除される。
【0027】
さらに、この試料溶液調製方法では、ピペッティングの繰り返し回数が10回以下の場合に生じやすいピペッティング撹拌不良による収量減少が排除される一方、ピペッティングの繰り返し回数が100回以上の場合に生じやすいピペッティング撹拌過多による収量減少が排除される。
【0028】
また、この試料溶液調製方法では、複数の容器内に注入されたそれぞれの試料溶液が同時に同一組で調製処理可能となり、容器の装填作業や試料液の注入作業等を、誤って別の組のものにすることなく、確実に作業を行うことができる。
【0029】
また、この試料溶液調製装置では、試料溶液の注入された調製用の容器に対し、まず振とう撹拌手段によって軽振動が印加され、その後、容器内の試料溶液がピペッティング撹拌手段によってピペッティングにより撹拌される。従って、軽振動とピペッティングとの形態の異なる撹拌によって緩やかかつ効果的な撹拌が可能となる。これにより、蓋の必要なボルテックスを使用せずに済み、自動化の障害となる蓋が排除され、前処理工程の完全自動化が実現可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る試料溶液調製方法によれば、試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、調製用の容器内に試料溶液を注入した後に、容器に軽振動を印加して試料溶液を撹拌する振とう撹拌処理と、容器内の試料溶液をピペッティングして試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌処理とを含むので、ボルテックスを使用するような激しい振とう攪拌ではなく穏やかな攪拌とピペッティングの組み合わせにて前処理を行うことができ、前処理工程の完全自動化を実現させることができる。この結果、核酸を含む試料溶液中の核酸を核酸吸着性の多孔膜に吸着させた後、洗浄等を経て脱着させて核酸を分離精製する方法において、効率よく、簡便で、迅速で、自動化適性に優れ、再現性のある核酸を含む試料溶液を得ることができる。
【0031】
本発明に係る試料溶液調製装置によれば、核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製装置において、試料溶液を注入する調製用の容器と、この容器に軽振動を印加して試料溶液を撹拌する振とう撹拌手段と、容器内の試料溶液をピペッティングして試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌手段とを備えたので、蓋の必要なボルテックスを使用せずに済み、自動化の障害となる蓋を排除して、前処理工程の完全自動化を実現させることができる。この結果、核酸を含む試料溶液中の核酸を核酸吸着性の多孔膜に吸着させた後、洗浄等を経て脱着させて核酸を分離精製する方法において、効率よく、簡便で、迅速で、自動化適性に優れ、再現性のある核酸を含む試料溶液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る試料溶液調製方法および試料溶液調製装置の好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る試料溶液調製方法の手順を表す流れ図である。
核酸の分離精製処理(S13)では、核酸を含む試料溶液中の核酸を核酸吸着性の固相に吸着させ、その後、洗浄等を経て核酸を脱着させる。このような核酸の分離精製では処理に先立って、検体から核酸を含む試料溶液を得る。試料溶液は、試料溶液の調製(S11)の後、撹拌されて分離精製処理されることになる。本発明では、この分離精製処理される前の試料溶液が、溶解液の添加された後、まず振とう操作により攪拌され、次いで、ピペッティングで攪拌処理されて(S12)得られることに特徴を有する。
【0033】
図2は本発明に係る試料溶液調製装置の外観斜視図である。
試料溶液調製装置100は、後述する核酸抽出装置の前段に設置される。試料溶液調製装置100は、ローダー部11と、撹拌部13と、収納部15とに大別される。ローダー部11は、ベース部17上に設けられる。ローダー部11には枠状のコンベア21が設けられ、コンベア21は複数の収容箱19を載置可能とし、この収納箱19をXY方向に搬送して撹拌部13へ供給可能としている。ベース部17の背部には後述の制御部等を内蔵する支持体部23が立設され、支持体部23は撹拌部13の上方に位置するピペッティング撹拌手段であるピペッティング撹拌装置25を支持している。
【0034】
図3は図2の要部拡大斜視図、図4はピペッティング撹拌動作の過程を(a)(b)(c)に表した説明図、図5は撹拌動作の過程を表したタイムチャートである。
撹拌部13の下部には振とう撹拌手段である加振装置27が、コンベア21の一部分に組み込まれている。加振装置27は内部に電動モータ等を備えた加振源27aを有する。加振源27aは、コンピュータ等からなる制御部PCによって駆動が制御される。加振装置27は、この加振源27aを駆動制御することによって上部に供給された収容箱19に軽振動を印加し、内部に収容された容器29内の試料溶液31を振とう撹拌可能としている。
【0035】
加振装置27による振とう撹拌処理は、単一方向(図3中の矢印V方向)の回転振とう撹拌によって行われる。本実施の形態では、この回転振とう撹拌が、回転速度400〜2000rpmの範囲で行われるようになっている。回転速度がこのような範囲に設定されることで、回転速度が400rpm以下となった場合に生じやすい撹拌不足が排除される一方、回転速度が2000rpm以上となった場合に生じやすい激しい振とう攪拌による試料溶液の飛散が排除され、穏やか、かつ効果的な攪拌が可能となるようになっている。
【0036】
収容箱19には、試料溶液の注入される複数の調製用の容器29が収容される。従って、試料溶液31を調製する工程では、複数の容器29内に注入された試料溶液31が同時に処理可能となっている。このように、複数の容器29内に注入されたそれぞれの試料溶液31が同時に同一組で調製処理可能となることで、容器29の装填作業や試料液の注入作業等を、誤って別の組のものにすることなく、確実に作業を行うことができるようになっている。
【0037】
収容箱19は、撹拌部13において、加振装置27に載置された状態で、上記のピペッティング撹拌装置25の直下に配置される。ピペッティング撹拌装置25には容器29に対応して複数のピペット33が垂設され、ピペット33は図示しない昇降装置によって容器29に先端33aを挿入可能としている。ピペット33には給排管35を介して圧力調整部37が接続され、圧力調整部37は制御部PCに接続されて駆動制御される。
【0038】
ピペッティング撹拌装置25は、図4(a)に示した先端33aを試料溶液31中に挿入した状態から、制御部PCによって圧力調整部37が駆動され、ピペット33内が低圧となることで図4(b)に示すように試料溶液31の一部が吸引される。また、ピペット33内が高圧となることで図4(c)に示すように試料溶液31がピペット33から排出される。これにより、容器29内の試料溶液31がピペッティングによって撹拌されるようになっている。
【0039】
ピペッティング撹拌装置25によって行われるピペッティング撹拌処理は、1回当たりのピペッティングの容量が50〜1000μlの範囲であることが好ましい。このよう範囲に設定されることで、ピペッティング容量が50μl以下の場合に生じやすいピペッティング量不足による撹拌不良が排除される一方、ピペッティング容量が1000μl以上の場合に生じやすいピペッティング試料溶液と非ピペッティング試料溶液との混合不足による撹拌不良が排除される。
【0040】
また、ピペッティング撹拌処理は、ピペッティングの繰り返し回数が10〜100回の範囲であることが好ましい。このような範囲に設定されることで、ピペッティングの繰り返し回数が10回以下の場合に生じやすいピペッティング撹拌不良による収量減少が排除される一方、ピペッティングの繰り返し回数が100回以上の場合に生じやすいピペッティング撹拌過多による収量減少が排除される。
【0041】
このように、試料溶液調製装置100は、試料溶液31中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、核酸を含む試料溶液31を調製するのに用いられる。そして、試料溶液31の注入された調製用の容器29に対し、まず加振装置27によって軽振動が印加され、その後、容器29内の試料溶液31がピペッティング撹拌装置25によってピペッティングにより撹拌される。従って、図5に示すように、軽振動とピペッティングとの形態の異なる撹拌によって緩やかかつ効果的な撹拌が可能となる。これにより、蓋の必要なボルテックスを使用せずに済み、自動化の障害となる蓋が排除され、前処理工程の完全自動化が実現可能となっている。
【0042】
ここで、調製用の容器29内に試料溶液31を注入する工程は、タンパク質分解酵素と、核酸を含む試料と、カオトロピック塩、界面活性剤、消泡剤、核酸安定化剤および緩衝剤から選ばれる少なくとも1つを含む前処理液とをこの順序で添加する工程とすることができる。また、試料溶液31を注入する工程は、前処理液と、試料と、タンパク質分解酵素とをこの順序で添加する工程であってもよい。さらに、試料溶液31を注入する工程は、試料と、前処理液と、タンパク質分解酵素とをこの順序で添加する工程とすることもできる。
【0043】
また、調製用の容器29内に試料溶液を注入する工程は、タンパク質分解酵素、試料、前処理液を添加した後に、さらに水溶性有機溶媒を添加するものであってもよい。この場合、試料溶液31は、全血を調製して得られたものとすることができる。また、水溶性有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールから選ばれる少なくとも1つを含むものとすることができる。
【0044】
次に、上記の試料溶液調製装置100によって調製した試料溶液31中から核酸を抽出する核酸抽出装置200について説明する。
図6はカートリッジの斜視図である。
試料溶液調製装置100によって調製された試料溶液31は、容器29から、核酸抽出装置200のカートリッジ30に移される。カートリッジ30は、上端が開口した筒状本体30aの底部に固相である核酸吸着性多孔膜30bが保持され、筒状本体30aの核酸吸着性多孔膜30bより下方部位はロート状に形成され、下端中心部に細管ノズル状の排出部30cが所定長さに突出形成されてなる。カートリッジ30の上部開口30dより後述の試料液、洗浄液、回収液が分注された後、上部開口30dより加圧エアが導入され、各液が核酸吸着性多孔膜30bを通して排出部30cより後述の廃液容器又は回収容器に流下排出する。なお、図示の場合、筒状本体30aは上部と下部に分割され嵌着する構造となっている。また、上部開口30dは、内周面をテーパ状にカットした傾斜面30eを有し、この傾斜面30eは、後述の核酸抽出装置における加圧エア供給機構の加圧ノズル先端の傾斜外周面に略一致するように形成されている。
【0045】
図7は核酸抽出動作の手順を(a)〜(g)で表した工程説明図である。
核酸抽出装置による核酸の抽出工程を説明する。
核酸抽出処理は、基本的に図7(a)〜(g)に示すような抽出工程によって核酸の抽出を行う。まず図7の(a)工程で、廃液容器41上に位置するカートリッジ30に溶解処理された核酸を含む試料液Sを注入する。次に(b)工程で、カートリッジ30に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜30bを通して試料液Sを通過させ、この核酸吸着性多孔膜30bに核酸を吸着させ、通過した液状成分は廃液容器41に排出する。
【0046】
次に(c)工程でカートリッジ30に洗浄液Wを自動分注し、(d)工程でカートリッジ30に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜30bに核酸を保持したままその他の不純物の洗浄除去を行い、通過した洗浄液Wを廃液容器41に排出する。この(c)工程及び(d)工程は複数回繰り返してもよい。
【0047】
その後、(e)工程でカートリッジ30の下方の廃液容器41を回収容器43に交換してから、(f)工程でカートリッジ30に回収液Rを自動分注し、(g)工程でカートリッジ30に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜30bと核酸の結合力を弱め、吸着されている核酸を離脱させて、核酸を含む回収液Rを回収容器43に排出し回収する。
【0048】
上記カートリッジ30における核酸吸着性多孔膜30bは、基本的には核酸が通過可能な多孔質体であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0049】
次に、上記した核酸の抽出処理に用いられる核酸抽出装置について説明する。
図8は核酸抽出装置の前面カバーが開放された状態を示す斜視図、図9は核酸抽出装置の移動ヘッドの概略構成図、図10は核酸抽出装置の概略ブロック構成図である。
核酸抽出装置200は、容器内にフィルター部材を収容したカートリッジ30、廃液を収容する廃液容器41(図10参照)、及び核酸を含む回収液を収容する回収容器43(図10参照)をそれぞれ複数配列させて保持する保持機構45と、カートリッジ30に単一の加圧ノズル47から加圧エアを導入する加圧エア供給機構49(図9参照)と、カートリッジ30に洗浄液及び回収液をそれぞれ分注する分注ノズル51を有する分注機構53(図9参照)と、加圧エア供給機構49の加圧ノズル47と保持機構45とを相対移動させる移動機構55とを備えて構成される。フィルター部材は、核酸吸着性固相(ここでは核酸吸着性多孔性膜)が用いられる。
【0050】
核酸抽出装置200の装置本体57には、保持機構45、加圧エア供給機構49、分注機構53に加えて、移動機構55等を収容すると共に天面に操作パネル59を供え前面側が開放された箱状の本体部61と、本体部61の開放面を覆う前面カバー63とを備える。
【0051】
加圧エア供給機構49は、昇降移動する可動体としての移動ヘッド65と、この移動ヘッド65に設置された単一の加圧ノズル47と、加圧エアを発生するエアポンプ67と、リリーフバルブ69と、加圧ノズル47側に設置され給気経路を開閉する開閉バルブ71と、加圧ノズル47側に設置された圧力センサ73と、加圧ノズル47を昇降動作させるノズル昇降手段を備えている。ノズル昇降手段は、パルスモータ等のノズル昇降モータ75とこれに接続されるネジ−ナット機構により昇降動作を実現している。この構成により、順次カートリッジ30に加圧エアを送給する。そして、エアポンプ67と、リリーフバルブ69と、加圧ノズル47はそれぞれ制御部77からの制御指令に基づいて動作する。
【0052】
移動ヘッド65は、装置本体57の内部に設置された移動手段としてのパルスモータ等のヘッド移動モータ79、ヘッド移動モータ79により回転駆動される駆動側プーリ81、回転自在でテンション調整を行う従動側プーリ(図示せず)、駆動側プーリ81と従動側プーリとの間を懸架されるタイミングベルト83とを備えている。なお、ヘッド移動モータ79は、フォトセンサ85a〜85cの検出に伴う制御により駆動され、カートリッジ30の配列方向に沿って移動ヘッド65を移動させる。
【0053】
加圧ノズル47は移動ヘッド65に上下移動可能にかつ下方に付勢されて設置され、加圧ノズル47の下方先端の外周面は、円錐形状とされている。これにより、加圧ノズル47が下降移動した際に、カートリッジホルダ87にセットされたカートリッジ30の上部開口30dに、加圧ノズル47先端で当接させることで、カートリッジ30のテーパ状にカットされた傾斜面30eが、加圧ノズル47の先端の円錐面と密着してカートリッジ30内を密閉する。この密封状態の下で、漏れのないカートリッジ30内への加圧エア送給が可能となる。
【0054】
リリーフバルブ69はエアポンプ67と開閉バルブ71との間の通路のエアを排出する際に大気開放作動される。開閉バルブ71は選択的に開作動されて、エアポンプ67からの加圧エアが加圧ノズル47を経てカートリッジ30内に導入されるようにエア回路が構成されている。以上の構成により、エアポンプ67からカートリッジ30までの間に給気流路が形成される。
【0055】
分注機構53は、カートリッジホルダ87上をカートリッジ30の並び方向に移動可能な前述の移動ヘッド65に、一体に搭載された洗浄液分注ノズル51w及び回収液分注ノズル51rと、洗浄液ボトル56wに収容された洗浄液Wを洗浄液分注ノズル51wに給送する洗浄液供給ポンプ52wと、回収液ボトル56rに収容された回収液Rを回収液分注ノズル51rに給送する回収液供給ポンプ52rと、廃液容器台89に載置された廃液容器91等を備える。
【0056】
移動ヘッド65は、ヘッド移動モータ79によって各カートリッジ30上で順次停止し、復帰状態では廃液容器91上に停止して、各カートリッジ30上の空間を空けるように駆動制御される。各カートリッジ30上の空間が空くことによって、作業性が大きく向上される。
【0057】
洗浄液分注ノズル51w及び回収液分注ノズル51rは先端が下方に向けて屈曲され、洗浄液分注ノズル51wは、バルブ55wを介して洗浄液供給ポンプ52wに接続され、洗浄液供給ポンプ52wは洗浄液ボトル56wに接続されている。回収液分注ノズル51rは、バルブ55rを介して回収液供給ポンプ52rに接続され、回収液供給ポンプ52rは回収液ボトル56rに接続されている。洗浄液ボトル56w及び回収液ボトル56rは、操作性を高めるために、それぞれ装置本体57の前面側に装着されている。洗浄液供給ポンプ52w及び回収液供給ポンプ52rはチューブポンプで構成され、それぞれポンプモータ53w,53r(パルスモータ)によってセンサ54w,54rの位置検出に基づいて所定量の洗浄液W及び回収液Rを分注するように駆動制御される。これら、ポンプモータ53w,53r、及びバルブ55w,55rは、制御部77からの指令に基づいて動作する。
【0058】
洗浄液W又は回収液Rを分注する場合には、バルブ55w又は55rを開き、ポンプモータ53w又は53rを駆動して洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rのロータ部材を回転作動させる。これにより、洗浄液W又は回収液Rを洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rにより吸引してバルブ55w又は55rを通じて洗浄液分注ノズル51w又は回収液分注ノズル51rより吐出させる。この吐出時には、洗浄液分注ノズル51w又は回収液分注ノズル51rをカートリッジ30上に移動させておく。これにより、所定量の洗浄液W又は回収液Rがカートリッジ30に分注される。
【0059】
洗浄液ボトル56w及び回収液ボトル56rは、容器本体56wb,56rbとキャップ56wu,56ruよりなり、両キャップ56wu,56ruにはそれぞれ細パイプ状の吸引チューブ58w,58rが設置され、該吸引チューブ58w,58rの下端が容器本体56wb,56rbの底部近傍に開口して、洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rの作動に応じて洗浄液W、回収液Rを吸い上げるようになっている。
【0060】
上記のような各機構45〜53は、装置本体57の上部に設置された操作パネル59の入力操作に対応して、連係された制御部77によって制御される。つまり、制御部77に接続された記憶部93に予め記憶されているプログラムに基づいて駆動制御される。また、各機構45〜53は、装置本体57に対して開閉自在に配設された前面カバー63で装置本体57の前面を覆うことにより装置本体57内に収容される。
【0061】
従って、本発明に係る試料溶液調製方法によれば、試料溶液31中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、調製用の容器29内に試料溶液31を注入した後に、容器29に軽振動を印加して試料溶液31を撹拌する振とう撹拌処理と、容器29内の試料溶液31をピペッティングして試料溶液31を撹拌するピペッティング撹拌処理とを含むので、ボルテックスを使用するような激しい振とう攪拌ではなく穏やかな攪拌とピペッティングの組み合わせにて前処理を行うことができ、前処理工程の完全自動化を実現させることができる。この結果、核酸を含む試料溶液31中の核酸を核酸吸着性の多孔膜に吸着させた後、洗浄等を経て脱着させて核酸を分離精製する方法において、効率よく、簡便で、迅速で、自動化適性に優れ、再現性のある核酸を含む試料溶液31を得ることができる。
【0062】
また、本発明に係る試料溶液調製装置100によれば、試料溶液31を注入する調製用の容器29と、この容器29に軽振動を印加して試料溶液31を撹拌する加振装置27と、容器29内の試料溶液31をピペッティングして試料溶液31を撹拌するピペッティング撹拌装置25とを備えたので、蓋の必要なボルテックスを使用せずに済み、自動化の障害となる蓋を排除して、前処理工程の完全自動化を実現させることができる。この結果、核酸を含む試料溶液31中の核酸を核酸吸着性の多孔膜に吸着させた後、洗浄等を経て脱着させて核酸を分離精製する方法において、効率よく、簡便で、迅速で、自動化適性に優れ、再現性のある核酸を含む試料溶液31を得ることができる。
【0063】
次に、上記のカートリッジ11が備える核酸吸着性固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔膜)11bについて詳細に説明する。
ここでいう核酸吸着性固相は、シリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有するものとすることができる。さらに、固相は、有機高分子を含有するものであってもよい。有機高分子は、多糖構造を有する有機高分子であることが好ましい。また、有機高分子は、アセチルセルロースであってもよい。さらに、有機高分子は、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子とすることもできる。有機高分子は、再生セルロースであってもよい。これらについて、以下に詳細に説明する。
【0064】
上記カートリッジ11に内有する核酸吸着性固相11bは、基本的には核酸が通過可能な多孔性であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0065】
上記核酸抽出カートリッジ11に内有する核酸吸着性固相11bは、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する多孔性固相である。これは、多孔性固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。好ましくは、核酸吸着性多孔性固相は、親水基を有する多孔性固相であり、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相の親水基同士が引き合うようになると推定される。
【0066】
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、オキシエチレン基等を挙げることができる。好ましくは水酸基である。
【0067】
ここで、親水基を有する多孔性固相とは、多孔性固相を形成する材料自体が、親水性基を有する多孔性固相、または多孔性固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した多孔性固相を意味する。多孔性固相を形成する材料は有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相等を、使用することができるが、加工の容易性から、多孔性固相を形成する材料は有機高分子等の有機材料を用いることが好ましい。
【0068】
親水基を有する材料の多孔性固相としては、水酸基を有する有機材料の多孔性固相を挙げることができる。水酸基を有する有機材料の多孔性固相としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等で、形成された多孔性固相を挙げることができるが、特に多糖構造を有する有機材料の多孔性固相を好ましく使用することができる。
【0069】
水酸基を有する有機材料の多孔性固相として、好ましくは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物から成る有機高分子の多孔性固相を使用することができる。アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物を好ましく使用する事ができる。
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
【0070】
更に好ましい、水酸基を有する有機材料としては、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が挙げられる。アセチルセルロースの表面鹸化物とは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理したものであり、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物も好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することである。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比(質量比)は、99:1〜1:99であることが好ましい。更に好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比は、90:10〜50:50であることである。この場合、鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができる。核酸の分離効率をあげるためには、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロースの場合には、鹸化率(表面鹸化率)が約5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、水酸基を有する有機高分子の表面積を大きくするために、アセチルセルロースの多孔性固相を鹸化処理することが好ましい。この場合、多孔性固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよいが、裏非対称性の多孔性膜を好ましく使用することができる。
【0071】
鹸化処理とは、アセチルセルロースを鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触したアセチルセルロースの部分に、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作成された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMR、IR又はXPSにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
【0072】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を多孔性固相に結合することができる。
有機材料の多孔性固相にグラフトポリマー鎖を結合する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、多孔性固相を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
【0073】
まず、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に多孔性固相と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と、多孔性固相の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。多孔性固相と反応する官能基としては、多孔性固相の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
【0074】
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシル基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
【0075】
多孔性固相を基点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖を形成させる方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱等の方法で基材表面上に活性種を与え、多孔性固相と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって多孔性固相と結合させる方法を指す。
基材に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば、親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーを特に好ましく用いることができる。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、もしくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
【0076】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができるが、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
【0077】
また、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0078】
親水基を有する無機材料である多孔性固相としては、前述のようにシリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する多孔性固相を挙げることができる。シリカ化合物を含有する多孔性固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
【0079】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
【0080】
親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、上記、親水基を持たない有機材料の多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法において、記載した親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
【0081】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができる。
【0082】
また、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コ−ティングしたアセチルセルロ−スまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0083】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、もしくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を加工して作製した多孔性固相を挙げることができる。
【0084】
上記の核酸吸着性多孔性固相は、上記のように膜状に形成して用いることができる。また、カートリッジの形状等に応じてこの他にも、粒子状やブロック状に形成して用いることもできる。
上記の核酸吸着性多孔性固相を膜状に形成した場合、その核酸吸着性多孔性膜は、溶液が内部を通過可能であり、厚さが10μm〜500μmである。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。洗浄がし易い点で、厚さが薄いほど好ましい。
【0085】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、最小孔径が0.22μm以上である。さらに好ましくは、最小孔径が0.5μm以上である。また、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いる事が好ましい。これにより、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難い。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。
【0086】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、空隙率が50〜95%である。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2である。
【0087】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。これにより、過圧時に均一な圧力が得られる。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
【0088】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
【0089】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
【0090】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、一辺が5mmの正方形の多孔性膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに、1時間以内では溶解しないが48時間以内に溶解するセルロース誘導体が、好ましい。また、一辺が5mmの正方形の多孔質膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに1時間以内に溶解するが、ジクロロメタン5mLに浸漬したときには24時間以内に溶解しないセルロース誘導体がさらに好ましい。
【0091】
核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を一方の面から他方の面へと通過させることが、液を多孔性膜へ均一に接触させることができる点で、好ましい。核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を核酸吸着性多孔性膜の孔径が大きい側から小さい側に通過させることが、目詰まりし難い点で好ましい。
【0092】
核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜を通過させる場合の流速は、液の多孔性膜への適切な接触時間を得るために、膜の面積cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の多孔性膜への接触時間が短すぎると十分な核酸抽出効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、上記流速は、膜の面積cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
【0093】
また、使用する溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、1枚であってもよいが、複数枚を使用することもできる。複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、同一のものであっても、異なるものであって良い。
【0094】
複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材料の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸吸着性多孔性膜との組合せであっても良い。例えば、ガラスフィルターと再生セルロースの多孔性膜との組合せを挙げることができる。また、複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸非吸着性多孔性膜との組合せであってもよい、例えば、ガラスフィルターと、ナイロンまたはポリスルホンの多孔性膜との組合せを挙げることができる。
【0095】
次に、試料溶液について詳細に説明する。
<核酸を含む試料溶液>
核酸を含む試料溶液は、核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤、消泡剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を核酸可溶化試薬として用いて処理することにより得られ、特に好ましくは水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液である。
【0096】
(検体)
本発明において使用できる検体は、核酸を含むものであれば特に制限はなく、例えば診断分野においては、採取された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液等の体液、又は植物(もしくはその一部)、動物(もしくはその一部)、細菌、ウイルスなどの生物材料が対象となり、これらをそのままあるいはこれらの溶解物もしくはホモジネートなどを試料として用いる。
【0097】
「試料」とは、核酸を含む任意の試料を意味する。具体的には、上記検体において記載したものが挙げられる。試料溶液中の核酸の種類は1種類でも2種類以上であってもよい。前記核酸分離精製方法に供される個々の核酸の長さは特に限定されず、例えば、数bp〜数Mbpの任意の長さの核酸であってもよい。取り扱い上の観点からは、核酸の長さは一般的には、数bp〜数百kbp程度であることが好ましい。
【0098】
本発明において「核酸」は一本鎖または二本鎖の、DNAまたはRNAのいずれでもよく、また、分子量の制限も無い。
【0099】
検体は、細胞膜および核膜等を溶解して核酸を水溶液内に分散して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。
【0100】
(消泡剤)
消泡剤としては、シリコン系消泡剤(例えば、シリコーンオイル、ジメチルポリシロキサン、シリコーンエマルジョン、変性ポリシロキサン、シリコーンコンパウンドなど)、アルコール系消泡剤(例えば、アセチレングリコール、ヘプタノール、エチルヘキサノール、高級アルコール、ポリオキシアルキレングリコールなど)、エーテル系消泡剤(例えば、ヘプチルセロソルブ、ノニルセロソルブ−3−ヘプチルコルビトールなど)、油脂系消泡剤(例えば、動植物油など)、脂肪酸系消泡剤(例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸など)、金属セッケン系消泡剤(例えば、ステアリン酸アルミ、ステアリン酸カルシウムなど)、脂肪酸エステル系消泡剤(例えば、天然ワックス、トリブチルホスフェートなど)、燐酸エステル系消泡剤(例えば、オクチルリン酸ナトリウムなど)、アミン系消泡剤(例えば、ジアミルアミンなど)、アミド系消泡剤(例えば、ステアリン酸アミドなど)、その他の消泡剤(例えば、硫酸第二鉄、ボーキサイトなど)などが挙げられる。好ましくは、シリコン系消泡剤、アルコール系消泡剤である。これらの消泡剤は、単独または組み合わせて用いてもよい。特に好ましくは、消泡剤として、シリコン系消泡剤とアルコール系消泡剤の2つの成分を組み合わせて使用することである。アルコール系消泡剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
消泡剤は、検体に直接添加しても、核酸可溶化試薬として用いる前処理液に含有されていてもよい。消泡剤を前処理液に含有しない場合には、消泡剤を添加する時期は、前処理液を使用する前でも後でもよい。
消泡剤の、核酸を含む試料溶液中における濃度は0.1〜10質量%であることが好ましい。
(核酸安定化剤)
核酸安定化剤としては、ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有するものが挙げられる。検体によっては、核酸を分解するヌクレアーゼ等が含まれていることがあり、核酸をホモジナイズするとこのヌクレアーゼが核酸に作用し、収量が激減することがある。前記核酸安定化剤は、検体中の核酸を安定に存在させることができ、好ましい。
【0101】
ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有する核酸安定化剤としては、一般的に還元剤として使用される化合物を用いることができる。還元剤としては、水素、ヨウ化水素、硫化水素、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化化合物、アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛等の電気的陽性の大きい金属、またはそれのアマルガム、アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸などの有機酸化物、メルカプト化合物等が挙げられる。中でもメルカプト化合物が好ましい。メルカプト化合物としては、N−アセチルシステイン、メルカプトエタノールや、アルキルメルカプタン等が挙げられる。特に、β−メルカプトエタノールが好ましい。メルカプト化合物は単独または複数組み合わせて用いてもよい。
前記核酸安定化剤は、前処理液における濃度は0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.3〜15質量%で、用いることができる。メルカプト化合物は、前処理液における濃度は0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5質量%で、用いることができる。
【0102】
また、ヌクレアーゼの活性を不活性化させる作用を有する核酸安定化剤として、キレート剤を用いることができる。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、EGTA等を挙げることができる。キレート剤は単独または複数組み合わせて用いてもよい。キレート剤は、前処理液における濃度は1mmol/L〜1mol/Lであることが好ましく、より好ましくは5mmol/L〜100mmol/Lで、用いることができる。
【0103】
(カオトロピック塩)
カオトロピック塩としては、グアニジン塩、イソチアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等を使用することができる。中でもグアニジン塩が好ましい。グアニジン塩としては、塩酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジン、チオシアン酸グアニジンが挙げられ、中でも塩酸グアニジンが好ましい。これらの塩は単独でも、複数組み合わせて用いてもよい。前記前処理液中のカオトロピック塩濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.5mol/L〜4mol/L、さらに好ましくは、1mol/L〜3mol/Lである。
カオトロピック塩の代わりに、カオトロピック物質として尿素を用いることもできる。
【0104】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
本発明においてはノニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤を好ましく用いることができる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤である。ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤のなかでも、POEデシルエ−テル、POEラウリルエ−テル、POEトリデシルエ−テル、POEアルキレンデシルエ−テル、POEソルビタンモノラウレ−ト、POEソルビタンモノオレエ−ト、POEソルビタンモノステアレ−ト、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、POEアルキルアミン、POEアセチレングリコ−ルがさらに好ましい。
【0105】
カチオン界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムプロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリドが挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独または複数組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の前記前処理液における濃度は0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0106】
(緩衝剤)
緩衝剤としては、通常用いられるpH緩衝剤(buffer)を挙げることができる。好ましくは、生化学試験に通常用いられるpH緩衝剤が挙げられる。このような緩衝剤としては、クエン酸塩、リン酸塩または酢酸塩からなる緩衝剤、Tris−HCl、TE(Tris−HCl/EDTA)、TBE(Tris−Borate/EDTA)、TAE(Tris−Acetate/EDTA)、グッド緩衝剤が挙げられる。グッド緩衝剤としては、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、Bis−Tris(Bis(2-hydoroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic asid)、PIPES(Piperaxine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamino)-2-aminoethanesulfonic acid)、CAPS(N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid) が挙げられる。
これらの緩衝剤は、前記前処理液中の濃度は1〜300mmol/Lであることが好ましい。
【0107】
(タンパク質分解酵素)
タンパク質分解酵素としては、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼが挙げられ、少なくとも1つのタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。また、タンパク質分解酵素は、複数種以上のタンパク質分解酵素の混合物も好ましく用いることができる。
前処理液は、核酸の回収量及び回収効率の向上、必要な核酸を含む検体の微量化及び迅速化の観点から、タンパク質分解酵素を含むことが好ましい。
セリンプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばプロテアーゼKなどを好ましく用いることができる。システインプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばパパイン、カテプシン類などを好ましく用いることができる。金属プロテアーゼとしては、特に限定されず、例えばカルボキシペプチターゼ等を好ましく用いることができる。
タンパク質分解酵素の前記前処理液における濃度は、添加時の全容積1mlあたり好ましくは0.001IU〜10IU、より好ましくは0.01IU〜1IUで用いることができる。
【0108】
また、タンパク質分解酵素は、核酸分解酵素を含まないタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。また、安定化剤を含んだタンパク質分解酵素を好ましく用いることができる。安定化剤としては、金属イオンを好ましく用いることができる。具体的には、マグネシウムイオンが好ましく、例えば塩化マグネシウムなどの形で添加することができる。タンパク質分解酵素の安定化剤を含ませることにより、核酸の回収に必要なタンパク質分解酵素の微量化が可能となり、核酸の回収に必要なコストを低減することができる。
タンパク質分解酵素の安定化剤の前記前処理液における濃度は、好ましくは1〜1000mmol/L、より好ましくは10〜100mmol/Lで含有することが好ましい。
【0109】
なお、プロテアーゼを使用する場合には、インキュベートすることがある。その場合のインキュベート条件としては、環境温度が室温〜80℃、好ましくは40℃〜70℃がよい。
【0110】
タンパク質分解酵素は、予めカオトロピック塩、界面活性剤等、緩衝剤等のその他の試薬とともに混合されて前処理液(以下、前処理液Aという。)として核酸の回収に供されても良い。
また、タンパク質分解酵素は、カオトロピック塩、界面活性剤等、緩衝剤等のその他の試薬を含む前処理液(以下、前処理液Bという。)とは個別の2つ以上の試薬として供されても良い。後者の場合、タンパク質分解酵素を含む試薬を先に検体と混合した後に、前処理液Bと混合される。また、前処理液Bを先に検体と混合した後に、タンパク分解酵素を混合してもよい。
また、タンパク質分解酵素を検体または、検体と前処理液Bとの混合液に、タンパク質分解酵素保存容器から直接目薬状に滴下させることもできる。この場合、操作を簡便にすることができる。
【0111】
前処理液は、乾燥された状態、すなわち前処理剤として供給されることも好ましい。また、凍結乾燥のように乾燥された状態のタンパク質分解酵素を予め含む容器を用いることができる。前記の、前処理剤、および/または乾燥された状態のタンパク質分解酵素を予め含む容器を用いて、核酸を含む試料溶液を得ることもできる。
前記の方法で核酸を含む試料溶液を得る場合、前処理剤および乾燥された状態のタンパク質分解酵素の保存安定性が良く、核酸収量を変えずに操作を簡便にすることができる。
【0112】
また、試料溶液に含まれる前記化合物の溶解性の向上の観点から、前処理液に水溶性有機溶媒を添加してもよい。水溶性有機溶媒としては、アルコール類、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでも良い。具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール及びその異性体、ブタノール及びその異性体などが挙げられ、中でもエタノールが特に好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、単独でも複数組み合わせて用いてもよい。上記の水溶性有機溶媒の濃度は、核酸を含む試料溶液中において、1〜20質量%となるように調製することが好ましい。
【0113】
{水溶性有機溶媒と吸着工程}
核酸が可溶化し分散した溶液中に、水溶性有機溶媒を添加して、固相と接触させることにより、試料溶液中の核酸を効果的に固相に吸着させるために、核酸を含む試料溶液は、さらに、水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液であることが好ましい。すなわち、前記の前処理液により処理されて得られた液に、さらに水溶性有機溶媒を添加して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。さらには、得られた核酸を含む試料溶液中に塩が存在することが、可溶化された核酸を、より効果的に、固相に吸着させることができ好ましい。
【0114】
水溶性有機溶媒と塩の存在により、核酸の周りに存在する水分子の水和構造を破壊され、核酸は不安定な状態で可溶化することになる。この状態の核酸を、固相と接触させると、核酸表面上の極性基と固相表面の極性基間で相互作用し、核酸は固相表面上に吸着するものと考えられる。特に固相として、表面に水酸基を有する有機高分子を用いた場合に顕著に吸着が起こり、好ましい。本発明の方法では、前記のとおり、可溶化した核酸混合液に水溶性有機溶媒を混合することと、得られた核酸混合液中に塩が存在することが、核酸を不安定な状態にさせることができ、好ましい。
【0115】
この水溶性有機溶媒としては、アルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等上げられる。これらの中でも、アルコールが好ましい。アルコールとしては、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでも良い。中でもメタノール、エタノール、プロパノール及びその異性体、ブタノール及びその異性体を好ましく用いることができる。より好ましくは、エタノールを用いることができる。これらの水溶性有機溶媒は単独でも複数組み合わせて用いてもよい。
【0116】
これら水溶性有機溶媒の核酸を含む試料溶液における最終濃度は、5〜90質量%であることが好ましい。エタノールの添加濃度は、この範囲内で、擬集物を生じないでできるだけ高くすることが特に好ましい。さらに好ましくは20質量%〜70質量%である。
【0117】
得られる核酸混合液中に存在することが好ましい塩としては、各種カオトロピック物質(グアニジウ塩、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム)や塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム等が挙げられ、特にグアニジウム塩が、細胞膜の溶解と核酸の可溶化の効果を併有するので特に好ましい。
【0118】
得られる試料溶液のpHは、好ましくはpH3〜10、より好ましくはpH4〜9、さらに好ましくはpH5〜8のものが用いられる。
【0119】
また、得られる核酸を含む試料溶液は、表面張力は0.05J/m以下であることが好ましく、粘度は1〜10000mPaであることが好ましく、比重は0.8〜1.2の範囲であることが好ましい。この範囲の溶液にすることで、吸着工程において、核酸を含む試料溶液を前記固相に接触させて、核酸を吸着させた後に残った溶液を、洗浄工程において除去しやすくする。
【実施例1】
【0120】
(1)核酸分離精製容器の作成
内径7mm、核酸吸着用の固相を収容する、2つの開口を有する核酸精製用容器をポリプロピレンで作成した。
【0121】
(2)核酸分離精製ユニット
核酸吸着性多孔膜として、トリアセチルセルロ−スの多孔膜を鹸化処理した多孔膜を使用し、上記(1)で作成した核酸精製カートリッジの核酸吸着性多孔膜収納部に収容した。
【0122】
(3)DNA可溶化試薬及び洗浄液の調製
表1に示す処方のDNA可溶化試薬および洗浄液を調製した。
【表1】

【0123】
(4)核酸精製操作
ヒト全血200μlを真空採血管を用いて採血した。これに、表1に示した処方のDNA可溶化試薬200μlとプロテアーゼK20μlを添加して、60℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、エタノール200μlを添加して攪拌した。
【0124】
攪拌条件は 表2に示す条件にて実施した。ピペッティング条件については表3に示す条件にて実施した。
攪拌後、上記の様に処理した全血試料中を、上記(1)及び(2)で作成したアセチル価の異なるアセチルセルロ−スの混合物から成る有機高分子の多孔膜を有する核酸精製ユニットの一の開口に注入し、続いて上記一の開口に圧力差発生装置を結合し、核酸分離精製ユニット内を加圧状態にし、注入した全血試料を含む試料溶液を、上記多孔膜に通過させることで、上記性多孔膜に接触させ、核酸分離精製ユニットの他の開口より排出した。
【0125】
続いて、上記核酸分離精製ユニットの上記一の開口に洗浄液を注入し、上記一の開口に圧力差発生装置を結合し、核酸分離精製ユニット内を加圧状態にし、注入した洗浄液を、上記多孔膜に通過させ、他の開口より排出した。続いて、上記核酸分離精製ユニットの上記一の開口に回収液を注入し、核酸分離精製ユニットの上記一の開口に圧力差発生装置を結合して核酸分離精製カ−トリッジ内を加圧状態にし、注入した回収液を、上記多孔膜に通過させ、他の開口より排出し、この液を回収した。
【0126】
(5)DNAの分離精製の確認
回収液の260nm吸収スペクトルを測定しDNAの収量を求めた。
【0127】
比較例と実施例とにおける攪拌条件とDNA収量の関係とを表2に、ピペッティング条件については表3に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
【表3】

【0130】
表2,3の結果から分かるように、攪拌条件にて振とうによる攪拌とピペッティングによる攪拌の2つを組み合わせて行うことにより、DNAの収量が著しく向上することが知見できた。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明に係る試料溶液調製方法の手順を表す流れ図である。
【図2】本発明に係る試料溶液調製装置の外観斜視図である。
【図3】図2の要部拡大斜視図である。
【図4】ピペッティング撹拌動作の過程を(a)、(b)、(c)に表した説明図である。
【図5】撹拌動作の過程を表したタイムチャートである。
【図6】カートリッジの斜視図である。
【図7】抽出動作の手順を(a)〜(g)で表した工程説明図である。
【図8】核酸抽出装置の前面カバーが開放された状態を示す斜視図である。
【図9】核酸抽出装置の移動ヘッドの概略構成図である。
【図10】核酸抽出装置の概略ブロック構成図である。
【符号の説明】
【0132】
25 ピペッティング撹拌装置(ピペッティング撹拌手段)
27 加振装置(振とう撹拌手段)
29 容器
30b 核酸吸着性多孔膜(固相)
31 試料溶液
100 試料溶液調製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、前記核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製方法であって、
調製用の容器内に前記試料溶液を注入した後に、
前記容器に軽振動を印加して前記試料溶液を撹拌する振とう撹拌処理と、
前記容器内の試料溶液をピペッティングして前記試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌処理とを含むことを特徴とする試料溶液調製方法。
【請求項2】
前記振とう撹拌処理は、回転振とう撹拌であって、回転速度が400〜2000rpmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の試料溶液調製方法。
【請求項3】
前記ピペッティング撹拌処理は、1回当たりのピペッティングの容量が50〜1000μlの範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の試料溶液調製方法。
【請求項4】
前記ピペッティング撹拌処理は、ピペッティングの繰り返し回数が10〜100回の範囲であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【請求項5】
前記試料溶液を調製する工程が、複数の前記容器内に注入された試料溶液を同時に処理することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【請求項6】
前記調製用の容器内に前記試料溶液を注入する工程において、タンパク質分解酵素と、核酸を含む試料と、カオトロピック塩、界面活性剤、消泡剤、核酸安定化剤および緩衝剤から選ばれる少なくとも1つを含む前処理液を、
前記タンパク質分解酵素と、前記試料と、前記前処理液とをこの順序で、
前記前処理液と、前記試料と、前記タンパク質分解酵素とをこの順序で、
又は
前記試料と、前記前処理液と、前記タンパク質分解酵素とをこの順序で添加する工程であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【請求項7】
前記調製用の容器内に前記試料溶液を注入する工程が、前記タンパク質分解酵素、前記試料、前記前処理液を添加した後に、さらに水溶性有機溶媒を添加することを特徴とする請求項6記載の試料溶液調製方法。
【請求項8】
前記試料溶液が、全血を調製して得られたものであることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の試料溶液調製方法。
【請求項9】
前記水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項7記載の試料溶液調製方法。
【請求項10】
前記水溶性有機溶媒の添加後に前記試料溶液が固相と接触することを特徴とする請求項7記載の試料溶液調製方法。
【請求項11】
前記固相が膜形状であることを特徴とする請求項10記載の試料溶液調製方法。
【請求項12】
前記固相が、シリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有することを特徴とする請求項10又は請求項11記載の試料溶液調製方法。
【請求項13】
前記固相が、有機高分子を含有することを特徴とする請求項10〜請求項12のいずれか1項記載の試料溶液調製方法。
【請求項14】
前記有機高分子が、多糖構造を有する有機高分子であることを特徴とする請求項13記載の試料溶液調製方法。
【請求項15】
前記有機高分子が、アセチルセルロースであることを特徴とする請求項13又は請求項14記載の試料溶液調製方法。
【請求項16】
前記有機高分子が、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子であることを特徴とする請求項13又は請求項14記載の試料溶液調製方法。
【請求項17】
前記有機高分子が、再生セルロースであることを特徴とする請求項13又は請求項14記載の試料溶液調製方法。
【請求項18】
試料溶液中の核酸を抽出する核酸分離精製工程の前段で、前記核酸を含む試料溶液を調製する試料溶液調製装置であって、
前記試料溶液を注入する調製用の容器と、
該容器に軽振動を印加して前記試料溶液を撹拌する振とう撹拌手段と、
前記容器内の試料溶液をピペッティングして前記試料溶液を撹拌するピペッティング撹拌手段とを備えたことを特徴とする試料溶液調製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−527973(P2008−527973A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524128(P2006−524128)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/JP2006/301923
【国際公開番号】WO2006/080579
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】