説明

試料表面温度センサ及び該センサを用いた腐食試験機

【課題】この発明は、試料面の温度を正確に把握できる表面温度センサ及び、該温度センサを用いて試料に付着した塩の影響を受けることなく試料面温度を一定にした腐食試験を実施でき、試験の再現性を向上することができる腐食試験機を実現することを目的とする。
【解決手段】この発明の表面温度センサは、金属板とこの金属板の裏面に密着配置された温度センサとからなる。また、この発明の腐食試験機は、試料及び試料表面温度センサを載置する試料枠と、湿度調整機構と、温度調整機構と、湿度検出手段と、該試料表面温度センサと、湿度検出手段により検出された湿度の値をもとに試験槽内の湿度が設定した値となるように湿度調整機構を制御し、試料表面温度センサの測定値をもとに試料表面温度が設定した値となるように温度調整機構を制御する制御部とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は試料表面温度センサ及び該センサを用いた腐食試験機に係り、特に、試料表面の温度を正確に把握する温度センサ及び、該温度センサを用いて試料に付着した塩の影響を受けることなく試料表面温度を一定にした腐食試験を実施する腐食試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の表面処理や腐食性を評価するための手段として、腐食試験がある。腐食試験には、塩水噴霧試験や塩水噴霧・湿潤・乾燥等の試験条件を組み合わせた複合サイクル試験等があり、これらの腐食試験を行う腐食試験機も数多く開発されている。
この腐食試験機には、試験槽内に蒸気を導入する第一・第二の湿度発生器と、試験槽の壁に水をスプレーして試験槽内の空気を冷却する手段と、試験槽内の空気を温度調整する循環風路とによって、乾燥試験から湿潤試験に移行する際に、一定時間で試験槽内の雰囲気温度を短時間で降下させると同時に湿度を上昇させるものがある。(特許文献1)
また、試験槽を上下に2分割し、上方のランプ室に対して下方の試験室を仕切板で仕切った状態で試験室内の試料に酸性雨溶液をスプレーし、酸性雨溶液スプレー中はランプ室を光源の輻射熱とヒータで高温に維持し、スプレー停止と同時に仕切板を開きランプ室の調温空気を試験室に導入することで、短時間で人工酸性雨溶液による濡れを乾燥できるようにし、酸性雨による腐食を促進試験できるようにしたものがある。(特許文献2)
また、腐食試験のように自然環境に対応させ、人工的に劣化を促進させて試料の品質を評価する手段として耐候試験がある。耐候試験は、人工光源から試料に光を当てて試料の耐候性を調べるもので、光源からの輻射熱により、試験槽内の温度と試料表面温度が異なることから、試料表面温度を代表する温度を測定するブラックパネル温度計を試料と同等の位置に設けている。(特許文献3)
この輻射熱の影響を調べるという考えから、光照射試験を組み合わせた複合サイクル試験機において、試料面温度を測定して試験する劣化促進試験方法がある。(特許文献4)
また、試料を高温に加熱するような試験では、試料の温度を測定するものもある。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−37216号公報
【特許文献2】特開平7−20036号公報
【特許文献3】特開2002−195936号公報
【特許文献4】特開平5−322741号公報
【特許文献5】特開2007−212320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の腐食試験において、試験時の温度制御は、試験槽内の雰囲気温度のみを試験槽内の温度センサにより測定し、その値を基に行っていた。また、腐食試験において光照射を行う試験や、試料を高温に加熱する試験のような特殊な試験を行わない場合は、試料表面温度と試験槽内の雰囲気温度に差異があるという考えはなく、試料表面温度は、試験槽内の雰囲気温度と同じであるという認識で試験が行われていた。
【0005】
しかしながら、腐食試験では、試験中に試料表面に付着した塩の影響によって、実際の試料表面温度と試験槽内の雰囲気温度との間に差が出てしまうという問題がある。このように、試料表面の温度が試験槽内の雰囲気温度と異なるという現象は、試験中に試料表面に付着した塩及び塩水が状態変化(凝縮替熱及び蒸発替熱)するために生じる。
【0006】
このため、試験槽内の雰囲気温度のみを測定して温度制御を行っていた従来の腐食試験では、試料表面の温度が試料に付着した塩の影響を受けて変化することを検知できていなかった。このため、試験槽内の雰囲気温度と試料表面の温度との温度差を測定することも出来なかった。また、試料表面の温度が試験槽内の雰囲気温度と異なっているにもかかわらず、試験槽内の雰囲気温度のみで温度制御を行うことになり、腐食試験の再現性が悪くなるという問題があった。
【0007】
この発明は、この欠点を解消し、試料表面温度センサを用いて試料表面の温度を正確に把握でき、試料に付着した塩の影響を受けることなく試料表面の温度を一定にした腐食試験を実施でき、試験の再現性を向上することができる腐食試験機を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の試料表面温度センサは、試験槽内で試料に塩を付着させる腐食試験において、試料と同等の位置に配した金属板に温度センサを付設し、前記金属板の表面温度を測定することを特徴とする。
【0009】
また、この発明の前記試料表面温度センサは、前記金属板が前記試料と同じ粗さの表面を有し、前記温度センサ部分が防水防熱材で覆われていることを特徴とする。
【0010】
また、この発明の前記試料表面温度センサは、前記金属板の局部的な温度ではなく温度平均値を測定可能な温度センサによって構成されることを特徴とする。
【0011】
また、この発明の腐食試験機は、上述の試料表面温度センサと、試験槽内に設置され試料及び前記試料表面温度センサを載置する試料枠と、前記試験槽内の湿度を検出する湿度検出手段と、前記試験槽内の湿度を調整する湿度調整機構と、前記試料表面の温度を調整する温度調整機構と、前記湿度検出手段により検出された湿度の値が設定した試験条件の値となるように前記湿度調整機構を制御し、前記試料表面温度センサの値が設定した試験条件の値となるように前記温度調整機構を制御する制御部とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明の試料表面温度センサを用いることで、腐食試験中に試験槽内の雰囲気温度だけでなく、試料表面の温度を把握することができる。
これにより、この発明の腐食試験機は、湿度検出手段によって求められた試験槽内の湿度の測定値と試料表面温度センサの測定値とをもとに温湿度制御を行うので、サイクル試験を行っている際に、試料表面に付着する塩の量が違っても各試験の温湿度条件によって、同じ試料表面温度で試験でき、試験の再現性が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試料表面温度センサの斜視図である。(実施例)
【図2】腐食試験機のシステム構成図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0015】
図1及び図2は、この発明の実施例を示すものである。図1において、試料表面温度センサ1は、金属板2と温度センサ3とによって構成される。金属板2は、試料11と同じ粗さの表面4を有している。温度センサ3は、金属板2の裏面5に密着配置されて防水防熱材6で覆われ、金属板2の局部的な温度でなく温度平均値を測定可能である。試料表面温度センサ1は、試料枠10に載せられた試料11と近接して並べることができるように、試料枠10の任意の位置に載せることができる。試料表面温度センサ1は、試料11と近接して設置され、試料11と同じ粗さの表面4を有する金属板2の温度平均値を温度センサ3で測定し、試料表面温度として出力する。
【0016】
図2において、7は腐食試験機である。腐食試験機7は、試験槽8と、試験槽8の上部を閉鎖する蓋体9とからなり、試験槽8内には、試料枠10を設置している。試料枠10には、任意の位置に試料11を載せることができる。
【0017】
腐食試験機7は、試験槽8内に塩水を噴霧する塩水噴霧機構12を備えている。塩水噴霧機構12は、試験槽8内の試料枠10よりも下部に溶液溜め部31を配置し、溶液溜め部31の上部に試料枠10を挿通して突出される噴霧塔13を立設している。噴霧塔13は、内部に噴霧ノズル14を備え、試験槽8内の上部に達する上端に噴霧口15を備えている。塩水噴霧機構12は、溶液溜め部31の塩水を噴霧ノズル14で噴霧塔13内に噴霧して塩水ミストを生成し、生成した塩水ミストを噴霧塔13上端の噴霧口15から試験槽8内に自然落下させ、試料枠10に載せた試料11に接触させる。
【0018】
また、腐食試験機7は、試験槽8内の湿度を調整する湿度調整機構として、加湿器16を備えている。加湿器16は、試験槽8の外部に設置した加湿器本体17を試験槽8下部に接続している。加湿器本体17内には、水を加熱して蒸気を発生するヒータ18を備えている。加湿器16は、ヒータ18によって発生した加湿器本体17内の蒸気を試験槽8に供給し、試験槽8内の空気を加湿する。
【0019】
さらに、腐食試験機7は、試験槽8内の雰囲気温度を調整する温度調整機構として、加熱器19を備えている。加熱器19は、試験槽8の外部に上下方向に延びる加熱器本体20を設置し、加熱器本体20の下部を試験槽8内の試料枠10より下部に接続するとともに上部を試験槽8内の試料枠10より上部に接続している。加熱器本体20内には、空気を加熱するヒータ21と加熱した空気を送風するファン22とを備えている。ファン22は、ファンモータ23により駆動される。加熱器19は、試験槽8下方の空気を加熱器本体20内に導入してヒータ21で加熱し、ファン22で試験槽8上方に送出する。
【0020】
腐食試験機7は、試験槽8内の乾球温度を測定する乾球温度センサ24を備え、試験槽8内の湿球温度を測定する湿球温度センサ25を備えている。腐食試験機7は、乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25の付着物を洗浄する洗浄ノズル26を備えている。洗浄ノズル26は、図示しない洗浄液容器から送られる洗浄液を噴射し、乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25を洗浄する。
【0021】
また、腐食試験機7は、試料表面温度センサ1を備えている。腐食試験機7は、試料表面温度センサ1について、試験を実施する試料11と同じ粗さの表面4を任意に選択できるように、異なる粗さの表面4を有する金属板2から構成される複数の試料表面温度センサ1を備えている。
【0022】
腐食試験機7は、加湿器16及び加熱器19を制御する制御部27を備えている。制御部27には、前記加湿器16のヒータ18を加湿器用電力調整器28を介して接続し、前記加熱器19のヒータ21を加熱器用電力調整器29を介して接続し、前記加熱器19のファンモータ23を接続し、前記乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25を湿度変換器30を介して接続している。
【0023】
制御部27は、乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25が測定した乾球温度及び湿球温度の測定値を湿度変換器30により湿度に変換して得て、得られた湿度をもとに試験槽8内の湿度が設定した値となるように加湿器用電力調整器28で加湿器16のヒータ18を制御する。また、制御部27は、試料表面温度センサ1が測定した値をもとに試料11の表面温度が設定した値となるように加熱器用電力調整器29で加熱器19のヒータ21を制御する。
【0024】
次に作用を説明する。
腐食試験機7によって試験槽8内の試料11のサイクル試験、例えば塩水噴霧試験、乾燥試験、湿潤試験を実施する場合は、試験を実施する試料11と同じ粗さの表面4を有する金属板2から構成される試料表面温度センサ1を選択し、選択した試料表面温度センサ1を試料11と並べて試料枠10に載せる。
【0025】
腐食試験機7は、試料11を異なる試験条件でのサイクル試験の実施時に、制御部27によって、乾球温度センサ24で試験槽8内の雰囲気温度を測定し、乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25の測定値をもとに湿度変換機30により湿度算出し試験槽8内の湿度が設定した値となるように加湿器16を制御する。同時に、腐食試験機7は、制御部27によって、試料11と並べた試料表面温度センサ1の金属板2の温度平均値を測定し、測定した値が設定値となるように加熱器19を制御する。
【0026】
このように、腐食試験機7は、サイクル試験の実施時に、試験槽8内の雰囲気温度を乾球温度センサ24で測定し、更に試料11と同じ粗さの表面4を有する金属板2の温度平均値を試料表面温度センサ1で測定しているので、試験中に試験槽8内の雰囲気温度だけでなく、試料表面の温度を把握することができる。
【0027】
これにより、この腐食試験機7は、乾球温度センサ24及び湿球温度センサ25で測定した乾球温度及び湿球温度と試料表面温度センサ1で測定した温度平均値とによって試験槽8内の温湿度制御を行うので、塩水噴霧試験、乾燥試験、湿潤試験のサイクル試験を行っている際に、試料表面に付着する塩の量が違っても各試験の温湿度条件によって、同じ試料表面温度で試験でき、試験の再現性が良くなる。
【0028】
また、この腐食試験機7は、試験槽8内の雰囲気温度を制御して、試験を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明は、サイクル試験を行っている際に、試料表面に付着する塩の量が違っても各試験の温湿度条件によって、同じ試料表面温度で試験でき、試験の再現性が良くなるものであり、サイクル試験を行う腐食試験だけでなく、試験を単独で行う腐食試験にも適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 試料表面温度センサ
2 金属板
3 温度センサ
4 表面
5 裏面
6 防水防熱材
7 腐食試験機
8 試験槽
9 蓋体
10 試料枠
11 試料
12 塩水噴霧機構
13 噴霧塔
14 噴霧ノズル
15 噴霧口
16 加湿器
17 加湿器本体
18 ヒータ
19 加熱器
20 加熱器本体
21 ヒータ
22 ファン
23 ファンモータ
24 乾球温度センサ
25 湿球温度センサ
26 洗浄ノズル
27 制御部
28 加湿器用電力調整器
29 加熱器用電力調整器
30 湿度変換器
31 溶液溜め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験槽内で試料に塩を付着させる腐食試験において、試料と同等の位置に配した金属板に温度センサを付設し、前記金属板の表面温度を測定することを特徴とする試料表面温度センサ。
【請求項2】
前記金属板が前記試料と同じ粗さの表面を有し、前記温度センサ部分が防水防熱材で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の試料表面温度センサ。
【請求項3】
前記金属板の局部的な温度ではなく温度平均値を測定可能な温度センサによって構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の試料表面温度センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかの項に記載の試料表面温度センサと、
試験槽内に設置され試料及び前記試料表面温度センサを載置する試料枠と、
前記試験槽内の湿度を検出する湿度検出手段と、
前記試験槽内の湿度を調整する湿度調整機構と、
前記試料表面の温度を調整する温度調整機構と、
前記湿度検出手段により検出された湿度の値が設定した試験条件の値となるように前記湿度調整機構を制御し、前記試料表面温度センサの値が設定した試験条件の値となるように前記温度調整機構を制御する制御部とからなることを特徴とする腐食試験機。

【図1】
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【図2】
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