説明

試料調製のためのマルチキャピラリー装置

【課題】試料調製のための改良されたマルチキャピラリー装置およびその使用方法を提供する。
【解決手段】タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、および他の生体材料(例えば、細胞)の試料を単離(イムノアッセイ)、精製、および濃縮する際に用いるための効率的な試料調製装置である。固定相で被覆され、一体要素内に配置された複数の均一なキャピラリー管を備える、生体試料の取扱いに特に有用な高表面積マルチキャピラリー試料調製装置である。このマルチキャピラリー装置は、ピペット、マイクロピペット、シリンジ、または他の分析もしくは試料調製機器への取り付けに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願への参照)
本願は、2004年9月30日に出願された米国特許出願第10/955,377号および2003年9月30日に出願された米国仮特許出願第60/507,474号の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、生体試料の取扱いに特に有用なマルチキャピラリー試料調製装置に関する。具体的には、このマルチキャピラリー装置は、ピペット、マイクロピペット、シリンジ、またはその他類似の分析機器と共に使用するのに適している。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
多くの生体試料は、一般に、ゲル電気泳動によって分離され、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化質量分析(MALDI−MS)によって分析される。しかしながら、これらの技法の1つの不利な点は、分析が、生体試料の調製に一般に使用される塩、緩衝剤、および低分子量有機化合物の存在により大きく影響されることである。分析の感度と選択性を向上させるために、しばしば吸着性および膜状の装置を用いて、分析前に試料を精製および濃縮する。そうした装置は、所望の構成物質を捕捉する一方混入物は通過させる、好適な寸法および形状の筐体内に固定された、多孔質吸着剤の下地または半透性膜を特徴とする。
【0004】
0.01から100マイクログラム(μg)の範囲の試料を取扱うためには、ピペット、マイクロピペット、シリンジ、または類似の分析機器(以下、集合的に「ピペット」とする)が一般に使用されている。これらのピペットのチップには、ペプチドおよび他の生体分子を精製、濃縮、または分画することができる、1つ以上の吸着性または膜状のプラグがはめ込まれている。
【0005】
しかしながら、吸着性および膜状のプラグの主な欠点は、多孔質材料が、概して、タンパク質やポリヌクレオチドなどの小さい生体分子を分離するのに有効でないことである。多孔質プラグは、DNA、RNA、および細胞などの大きい生体材料および核酸を単離および精製することに関しても不十分である。この欠点は、試料処理中に、分子が海綿様の膨張性で多孔質の吸着剤シリカの迷路を通って進まなければならないことに起因する。
【0006】
試料調製に用いられる多孔質材料には、均一性、一貫性、および再現性がほとんどない。既存のピペットチップでの試料損失は、典型的には約40〜60%である。低い試料回収率は主に、試料が多孔質材料の不規則な空隙を通って移動しなければならず、それにより試料の一部が小さい空隙内に留まって、回収できないことに起因する。さらに、十分な成果を得るためには、試料を多孔質材料に複数回(例えば、10回)通過させなければならない。これらの試料調製装置は、通常再利用できず、自動機器類に適さないが、これは低い試料回収率が試料の持ち越しによる汚染を引き起こす恐れがあるためである。
【0007】
遠心機ローターによって作動するスピンカラムおよびその他の器具は一般的に、生体試料および核酸試料の単離と精製に使用されている。しかしながら、一部の適用例では、検体を回転させて単離および精製するための遠心機の使用を回避することが望ましい。この理由の一部は、水平分離は、例えば最大4,000RPMの遠心力が、十分な分離を達成するために、スピンカラムと試料の垂直軸に沿って加えられる、あるいは伝えられる結果をもたらす可能性があることである。空気抵抗は、スピンカラムおよびその内容物を加熱する抗力と摩擦を発生して、スピンカラムに悪影響を与える。熱伝達、きつい遠心力、および付随する空気抵抗により、試料断片のかなりの破損が避けられない。スピンカラムおよび遠心処理時に抽出された生体試料および核酸試料の質の低下は、使用者にとって極めて望ましくない。
【0008】
したがって、機器分析前に多孔質材料を用いて生体試料および核酸試料を精製および濃縮することは、時間がかかり、再現性が乏しく、処理能力が低く、試料を多孔質プラグに繰り返し通過させる必要があることがわかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、分析前に、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、および他の生体材料(例えば、細胞)の試料を単離(イムノアッセイ)、精製、および濃縮する際に用いるための効率的な試料調製装置を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
また、処理能力を増加させ、試料損失を減少させる、高い試料容量を有する試料調製装置を提供することも本発明の目的である。
【0011】
均一性、一貫性、およびほぼ同一の試料通過経路を実現する、再現性の高い試料調製装置を提供することは、本発明のさらなる目的である。
【0012】
簡単で、費用効率が高く、またシリカ系多孔質基材あるいは遠心機などの特別な装置の使用を必要としない試料調製装置を提供することは、本発明のさらに別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、生体試料の取扱いに特に有用な、高表面積マルチキャピラリー試料調製装置である。このマルチキャピラリー装置は、シリカ系多孔質基材の使用を必要としない。それどころか、この装置は複数の平行なキャピラリー管を含み、各管の空洞は、試料の処理を通して開放され、閉塞されない状態のままである。装置のキャピラリー管は互いに無関係に作用するため、試料分子は、1つのキャピラリーから別のキャピラリーに、物理的に交換される、または拡散されることがない。マルチキャピラリー装置は、好ましくは「ピペット」またはその他の試料調製もしくは分析機器への取り付けに適した筐体内に配置され、マイクロリットルおよびナノリットル範囲で、またより大きい質量負荷および容積で、核酸試料または生体試料の単離、精製、濃縮、および/または分画を可能にする。本発明の実施形態において、マルチキャピラリー装置は、複数の均一なキャピラリーが貫通した一体要素を特徴とする。該一体要素は、典型的に、ピペットチップ、シリンジ針、または管の下端に取り付けられ、ピペットを用いて操作される。
【0014】
タンパク質の分離および精製の適用例では、不溶性の固定相材料が、支持または媒介構成物質を使用せずに、各キャピラリー管の内面(壁)上に沈積される。
【0015】
本発明には、タンパク質試料調製のためにマルチキャピラリー装置を調製する方法も含まれる。かかる方法では、キャピラリー管の内壁をまず固定相材料で被覆し、それから一体要素を適当な筐体内に取り付ける。あるいは、一体要素をまず筐体内に固定し、その後キャピラリーの壁を固定相で被覆してもよい。操作には、マルチキャピラリー試料調製装置をピペット、マイクロピペット、管、シリンジ、または類似の分析機器に取り付ける。
本願発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
生体試料の取扱いに特に有用な試料調製装置であって、
(a)要素の上端で試料を受け取とり、上記要素の下端で濃縮、精製、または分離された試料を放出するための要素であって、空洞を画定する要素と、
(b)上記空洞内に配置され、それぞれのキャピラリー管が内壁と第1および第2の開口部とを有する内腔を画定する複数のキャピラリー管と、
(c)マルチキャピラリー要素を保持するための実質的に円筒形または円錐形の形態を有する筐体であって、試料調製または分析機器への取り付けに適した筐体と、
を備える試料調製装置。
(項目2)
固定相が上記キャピラリー管の内壁上に媒介構成物質を用いずに沈積される、項目1に記載の試料調製装置。
(項目3)
上記キャピラリー管の内腔は、上記固定相によって閉塞されず、
上記固定相は、高い効率を得るように個々のキャピラリー管の半径と相関する厚さを有する、
項目2に記載の試料調製装置。
(項目4)
上記固定相は不溶性である、項目2または3に記載の試料調製装置。
(項目5)
上記不溶性固定相は、上記キャピラリー管の内壁に化学的に結合されている、項目4に記載の試料調製装置。
(項目6)
上記不溶性固定相は、上記キャピラリー管の内壁に架橋されている、項目4に記載の試料調製装置。
(項目7)
上記不溶性固定相は、上記キャピラリー管の内壁に架橋され、かつ化学的に結合されている項目4に記載の試料調製装置。
(項目8)
上記固定相被膜の厚さは、上記キャピラリー管の半径のn乗に比例し、nは1より大きい、項目2または3に記載の試料調製装置。
(項目9)
下記の関係が適用できる:
(化2)



[式中、dは不溶性固定相の厚さであり、cは定数であり、rはキャピラリーの半径であり、n>1である]
項目2または3に記載の試料調製装置。
(項目10)
生体試料の取扱いに特に有用な試料調製装置であって、
(a)要素の上端で試料を受け取り、上記要素の下端で濃縮、精製、または分離された試料を放出するための要素であって、空洞を画定する要素と、
(b)上記空洞内に配置され、それぞれのキャピラリー管が内壁と第1および第2の開口部とを有する内腔を画定し、上記キャピラリー内壁は無孔構造体を有する複数のキャピラリー管と、
(c)マルチキャピラリー要素を保持するための実質的に円筒形または円錐形の形態を有する筐体であって、試料調製または分析機器への取り付けに適した筐体と、
を備え、
(d)上記キャピラリー内壁の無孔構造体は、上記試料が1つのキャピラリー管から別のキャピラリー管に拡散するのを防止する、
試料調製装置。
(項目11)
固定相が上記キャピラリー管の無孔内壁上に媒介構成物質を用いずに沈積される、項目10に記載の試料調製装置。
(項目12)
上記キャピラリー管の内腔は、上記固定相によって閉塞されず、
上記固定相は、高い効率を得るように個々のキャピラリー管の半径と相関する厚さを有する、
項目11に記載の試料調製装置。
(項目13)
上記固定相は不溶性であり、それにより分離中に上記固定相の移動相内への放出を防止する、項目11または12に記載の試料調製装置。
(項目14)
下記の関係式が適用できる:
(化3)



[式中、dは不溶性固定相の厚さであり、cは定数であり、rはキャピラリーの半径であり、n>1である]
項目2または3に記載の試料調製装置。
(項目15)
上記マルチキャピラリー要素は、溶融シリカ、ガラス、セラミック、ステンレススチール、またはポリエーテルエーテルケトンから形成される、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目16)
上記キャピラリー管の1つ以上の内径は、約0.1μmから約200μmの範囲にある、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目17)
上記マルチキャピラリー要素の外径は、約0.1mmから約20mmの範囲にある、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目18)
上記マルチキャピラリー要素の長さは、約0.1mmから約250mmの範囲にある、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目19)
上記筐体の容積は、約0.1μLから約100mLの範囲にある、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目20)
上記筐体は、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ガラス、溶融シリカ、セラミック、またはステンレススチールから形成される、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目21)
上記キャピラリー管の内壁は、上記管の表面積を増大させるための不活性材料の粒子を含む、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目22)
上記キャピラリー管の内壁は、上記管の表面積を増大させるための瘤のある表面を含む、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目23)
上記試料は、タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド、バイオポリマー、ウイルス、胞子、細胞、微生物、核酸、またはその他の生物試料を含む、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目24)
上記筐体は、チップ、ピペット、マイクロピペット、またはシリンジを含む、項目1または10に記載の試料調製装置。
(項目25)
生体試料の取扱いに特に有用な試料調製装置を調製する方法であって、
(a)複数のキャピラリー管を含む要素であって、上記要素の第1の端部で試料を受け取り、上記要素の第2の端部で分離された試料を放出するための要素に、固定相溶液を導入する工程と、
(b)同時に、上記要素を上記溶液の蒸発を促進する環境に暴露する工程と、
(c)上記固定相を上記キャピラリー管の内側に架橋あるいは化学的に結合する工程と、
を含み、
(d)上記固定相は、高い効率を得るように個々のキャピラリー管の半径と相関する厚さを有する、
方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施形態による、試料調製用マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図2−1】図2A、2C、および2D(SEM)は、装置の個々のキャピラリーを示す拡大横断面図である。図2Bは、個々のキャピラリー管の分解斜視図である。
【図2−2】図2A、2C、および2D(SEM)は、装置の個々のキャピラリーを示す拡大横断面図である。図2Bは、個々のキャピラリー管の分解斜視図である。
【図2−3】図2A、2C、および2D(SEM)は、装置の個々のキャピラリーを示す拡大横断面図である。図2Bは、個々のキャピラリー管の分解斜視図である。
【図3−1】図3は、従来の試料調製装置の横断面図を示すSEM画像である。
【図3−2】図3は、従来の試料調製装置の横断面図を示すSEM画像である。
【図4−1】図4A〜4Dはそれぞれ、本発明による、ピペットチップおよびピペット形式マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図4−2】図4A〜4Dはそれぞれ、本発明による、ピペットチップおよびピペット形式マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図4−3】図4A〜4Dはそれぞれ、本発明による、ピペットチップおよびピペット形式マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図5−1】図5A〜5Cは、本発明による試料調製用シリンジ形式マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図5−2】図5A〜5Cは、本発明による試料調製用シリンジ形式マルチキャピラリー装置の斜視図である。
【図6】図6は、本発明による試料調製用マルチキャピラリー装置における、3成分混合物の分離を示すクロマトグラムである。
【図7A】図7Aは、試料濃縮におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す、図7Bの標準SPEカートリッジと比較したクロマトグラムである。
【図7B】図7Aは、試料濃縮におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す、図7Bの標準SPEカートリッジと比較したクロマトグラムである。
【図8A】図8Aおよび8Bは、複雑なペプチド混合物の脱塩におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す質量スペクトルである。
【図8B】図8Aおよび8Bは、複雑なペプチド混合物の脱塩におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す質量スペクトルである。
【図9A】図9Aおよび9Bは、複雑なペプチド混合物の分画におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す質量スペクトルである。
【図9B】図9Aおよび9Bは、複雑なペプチド混合物の分画におけるマルチキャピラリー試料調製装置の性能を示す質量スペクトルである。
【図10−1】図10は、従来の装置と本発明によるマルチキャピラリー試料調製装置とを比較した、試料の容量および回収性能(10A)、再現性(10B)、および時間性能(10C)を示すゲルである。比較データは、表2に示す。
【図10−2】図10は、従来の装置と本発明によるマルチキャピラリー試料調製装置とを比較した、試料の容量および回収性能(10A)、再現性(10B)、および時間性能(10C)を示すゲルである。比較データは、表2に示す。
【図10−3】図10は、従来の装置と本発明によるマルチキャピラリー試料調製装置とを比較した、試料の容量および回収性能(10A)、再現性(10B)、および時間性能(10C)を示すゲルである。比較データは、表2に示す。
【図11−1】図11Aは、DNAの精製に用いられる従来のスピンカラムの斜視図である。図11Bおよび11Cは、スピンカラムのSEM画像である。
【図11−2】図11Aは、DNAの精製に用いられる従来のスピンカラムの斜視図である。図11Bおよび11Cは、スピンカラムのSEM画像である。
【図11−3】図11Aは、DNAの精製に用いられる従来のスピンカラムの斜視図である。図11Bおよび11Cは、スピンカラムのSEM画像である。
【図12−1】図12Aおよび12Bはそれぞれ、従来のスピンカラムと本発明のマルチキャピラリー試料調製装置とのDNAの質およびサイズを判定するために実施した、パルスフィールドおよびアガロース・ゲル電気泳動分析である。
【図12−2】図12Aおよび12Bはそれぞれ、従来のスピンカラムと本発明のマルチキャピラリー試料調製装置とのDNAの質およびサイズを判定するために実施した、パルスフィールドおよびアガロース・ゲル電気泳動分析である。
【図13−1】図13Aおよび13Bはそれぞれ、DNA収率と試料調製に要した時間とに関する、従来のスピンカラムと本発明のマルチキャピラリー試料調製装置との試料の精製結果である。
【図13−2】図13Aおよび13Bはそれぞれ、DNA収率と試料調製に要した時間とに関する、従来のスピンカラムと本発明のマルチキャピラリー試料調製装置との試料の精製結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明により、市販のピペットとともに使用する平行キャピラリーアレイまたはマルチキャピラリー試料調製装置12が提供され、マイクロリットルおよびナノリットル範囲、またより大きい質量負荷および容積での生体試料の単離、精製、濃縮、および/または分画が可能となる。本発明は、手動および自動のピペット、マイクロピペット20、シリンジ22、および他の試料取扱い機器または分析機器との使用に適合された、取り外し可能なマルチキャピラリー装置12、および一体的に組み込まれたマルチキャピラリー装置12を含む。なお、マルチキャピラリー装置12は、シリカ系多孔質基材の使用を必要としない。
【0018】
図1および2を参照すると、上端および下端を有し、チャンバーを画定する一体要素(ロッド、管など)14を備える試料調製用マルチキャピラリー装置12が示されている。均一の内径および長さを有するキャピラリー管16は、チャンバー内に配置される。各キャピラリー管16は、内腔を画定する、内面および外面を有する非多孔質または無孔の壁を含む。各管16は、対向する端部に第1および第2の開口部も含み、それにより抵抗および背圧が低くなる。
【0019】
タンパク質またはペプチドの分離および精製の適用例では、不溶性固定相18をキャピラリー管16の無孔内壁上に沈積させることが好ましい。核酸(例えば、DNAおよびRNA)などの極性化合物の分離および精製では、不溶性固定相18が極性材料を含むことが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、固定相18の厚さは、マルチキャピラリー装置12の効率を最適にするように、個々のキャピラリー管16の半径と相関する。結果として、固定相18の塗布時に、より広いキャピラリーの内面にはより多くの量が沈着し、より狭いキャピラリーの内面にはより少ない量が沈着する。このプロセスによって、キャピラリー16はほぼ均一となり、これはマルチキャピラリー装置12の効率を実質的に高める。高いピーク効率を得るための以下の関係が、発明者により導かれた:
【0020】
【化1】

固定相膜厚dは、キャピラリーの半径rのn乗に比例する(n>1であり、cは定数である)。
【0021】
より好ましい実施形態において、固定相被膜18の厚さは、キャピラリー管16の半径のn乗に比例し、nは1より大きい。
【0022】
最高のピーク効率を実現するためには、固定相の厚さdは、キャピラリーの半径rの3乗に比例する。
【0023】
固定相媒体18は、安定した化学結合または架橋によって、無孔中空キャピラリー管16の内面上に保持される。その結果、分離中に固定相媒体18が移動相内に放出されることがなく、試料の汚染を減少させる。マルチキャピラリー装置12の開放管システムでは、支持媒介構成物質ならびに吸着性および膜状のプラグ(例えば、多孔質吸着剤シリカの粒子または繊維)は必要ない。各キャピラリー管16の管腔または内部空洞は、タンパク質、ペプチド、核酸、または生体試料の分離プロセスを通して、閉塞されず障害物がない状態のままである。この安定した分離の表面媒介機構では、試料分子は、キャピラリー管16の無孔壁間および無孔壁を通して、あるいは1つのキャピラリーから別のキャピラリーへと拡散することができない。個々のキャピラリー管16は、物理的および機能的に、互いに無関係のままである。
【0024】
試料調製用マルチキャピラリー装置12は、ピペット20に取り付け可能な適切な形状およびサイズを有するピペットチップ、針、管、または他の筐体の末端部分の周囲に、取り外し可能に(機械的に)取り付けても、あるいは固定的に挿入しても(例えば、溶融または接着により)よい。マルチキャピラリー装置12は、その第1の端部で移動(液)相の試料を受け取り、塩や緩衝剤などの混入物を含まない、濃縮および精製された試料を装置12の第2の端部で放出する。
【0025】
図2A、2B、および2C(走査型電子顕微鏡画像)に示されるように、マルチキャピラリー装置12の構造は独特で、従来のスピンカラムおよびシリカベースの吸着性および膜状の「プラグ」(図3および11を参照)とは異なる。後者は不規則な空隙と大きく異なる試料経路とを特徴とするが、これらが生体試料を取り込み、それにより半分を超える試料が通常は回収不能となる。マルチキャピラリー装置12は、その内面上に不溶性固定相媒体18を有する複数の均一なキャピラリー管16を備え、それによって試料をマルチキャピラリー装置12の流路に挿入して、開放された事実上同一の経路を通って前進させることができる。したがって、各キャピラリー管16の内部空洞または流路は、試料の分離プロセスを通して、閉塞されず障害物がない状態のままである。
【0026】
図12および13に示されるように、マルチキャピラリー装置12の開放された非閉塞キャピラリーチャネルから抽出された精製(DNA)試料断片は、かなり大きい断片を含み、断片の破損または「せん断」の著しい減少を示している。これらの大きい断片は、概して、精製された試料の質が、試料処理に用いられる従来の多孔質シリカプラグと比較して良好であることを反映している。従来の吸着性および膜状のプラグでは、試料は、多孔質材料の曲がりくねった不規則な空隙を通って移動しなければならず、それによって試料の一部が小さい空隙内に留まり、回収することができない。そのため、断片せん断は避けられない。その開放された非閉塞チャネル構造により、本発明のマルチキャピラリー装置12は、現在試料調製に使用されている海綿様の膨張性および多孔質のシリカ材料と比較して、実質的な均一性および一貫性を実現する。
【0027】
マルチキャピラリー装置12の開放された非閉塞チャネル構造によって可能になった試料損失の著しい減少により、既存の多孔質シリカのプラグ、粒子(タンパク質およびペプチドの場合)、および繊維(DNAおよびRNAの場合)で要求されるように、試料を分離材料に複数回通過させる必要がなくなる。結果、マルチキャピラリー装置12は、試料の持ち越しによる汚染がないため、概して再利用可能であり、自動機器類に好都合に適合する。要するに、本マルチキャピラリー装置12は、結合能力、回収率、向上した処理能力、均一性、および再現性に関して、従来の吸着性および膜状のプラグよりも優れた特徴を示す。
【0028】
本発明の一実施形態において、キャピラリー管16の無孔内壁は、マルチキャピラリー装置12の表面積を増大させるために、不活性材料の粒子、もしくは瘤のあるまたは平坦でない表面を含む。このような例では、内壁は、例えば鉱酸もしくは塩基、または有機酸あるいは塩基などの溶媒と組み合わせたエッチングプロセスを用いることによって、改変することができる。
【0029】
本発明は、液体クロマトグラフィーおよび試料調製の適用例に適合された、任意の固定相18および界面化学の使用を包含する。いくつかの実施形態において、キャピラリー壁の内面上に沈積された固定相媒体18は、有機分子、バイオポリマー、またはより大きい粒子の単層を含む。かかる分子および粒子には、炭化水素およびそのC−、N−、S−、およびP−誘導体;タンパク質、核酸、および多糖類;線状および架橋ポリシロキサンおよびその他のポリマー;ならびにウイルスおよび細胞が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態において、固定相被膜18は、キャピラリー16の内面を有機ケイ素化合物で処理し、これらの基を適当な試薬および粒子でさらに修飾することによって形成される。
【0030】
固定相18の沈積のための代替技法は、キャピラリー管16の内壁上での、例えばブタジエン、スチレン、ジビニルベンゼンなどの不飽和化合物の重合を伴う。
【0031】
下記の実施例に記載される固定相材料18の沈積に用いられる技法は、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、および尿素;酢酸、ヨード酢酸、トリフルオロ酢酸、およびギ酸;ならびにリン酸塩、酢酸塩、および炭酸塩緩衝液など、試料調製および液体クロマトグラフィーに一般に用いられる有機溶媒および水−有機溶媒に対して、固定相材料を不溶性にする。
【0032】
マルチキャピラリー試料調製装置12は、有利には、広範な試料調製および分析機器との使用に適している。図1、4、および5に示されるように、これらには手動および自動ピペットならびにマイクロピペット20、シリンジ22、使い捨て装置、および自動試料取扱い機器が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、マルチキャピラリー装置12は、例えば滑合または圧入によって、ピペットチップ20またはその他の適当な筐体の終端部の周囲に挿入され、弾性シーリングリングおよび/または筐体の壁などの機械的手段によって、取り外し可能に所定の位置に保持される。
【0033】
別の実施形態において、マルチキャピラリー装置12は、溶融、熱収縮、または接着によって、ピペットチップ20またはその他の筐体の終端領域の周囲に一体的かつ永久的に組み込んで(例えば、現場成型)、一般にポリプロピレンまたはその他の熱可塑性材料から作られたピペットチップ20または他の筐体の表面に一体要素14を融合させる。代替として、プラズマおよび/または化学的手段を用いて、一体要素14をピペットチップ20または他の筐体の表面に接着することもできる。
【0034】
さらに別の実施形態において、マルチキャピラリー装置12は、実質的に円筒形、円錐形、または他の筐体形態の中空流路と、取り外し可能にまたは固定的に係合するように、あるいは一列に揃うように適合される。マルチキャピラリー装置12は、様々なサイズおよび形態のハウジングに組み込むために、好適なサイズと形状にする。ただし、筐体の容積は、好ましくは約0.1μLから約100mLの範囲であり、より好ましくは約1から約1000μLの範囲であり、最も好ましくは約2から約200μLの範囲である。
【0035】
ピペット20による操作のためのピペットチップまたは他の筐体内にマルチキャピラリー装置12を設置するために用いられるあらゆる技法は、液相状態の試料を一体要素14のキャピラリー管16を通して、要素14を回避することなく正確に方向付けるべきであることは理解されるであろう。かかる適合において、マルチキャピラリー装置12は、その第1の端部で試料を受け取り、塩や緩衝剤などの混入物を含まない、濃縮および精製された試料を第2の端部で放出する。本発明のマルチキャピラリー装置12は、タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド、および他の分子ならびにバイオポリマーだけでなく、ウイルス、胞子、細胞(例えば、癌細胞および幹細胞)、および微生物も自由に透過できる。ただし、試料分子が1つのキャピラリー管16から別のキャピラリー管に拡散できないことは理解されるであろう。
【0036】
本発明の一体要素14、キャピラリー管16、チップ、ピペット20、シリンジ22、および他の筐体を作製するための好ましい材料には、ガラス、溶融シリカ、セラミック、金属(例えば、ステンレススチール)、およびプラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、またはポリエーテルエーテルケトン)が含まれるが、これらに限定されない。試料調製およびクロマトグラフィーの適用例では、多数(例えば、数百または数千)のキャピラリー管を使用して、試料装填容量を向上させるための十分な表面積を提供することが望ましい。ただし、本発明で使用されるマルチキャピラリー装置12、固定相媒体18、溶媒、チップ、および他の筐体の数ならびに寸法は、適用に応じて異なるであろうことは理解されるであろう。
【0037】
例として、マルチキャピラリー装置12に備えられるキャピラリー管16の数は、約100から約1,000,000の範囲としてよい。各キャピラリー管16の内径は、約0.1μmから約200μmの範囲としてよい。一体要素14の外径は、約0.1mmから約1mの範囲としてよく、長さは、約0.1mmから約2mの範囲としてよい。好ましい実施形態において、キャピラリー管16の数は約1000から約10,000の範囲であり、各キャピラリーの内径は約5μmから約100μmの範囲であり、一体要素14の外径は約1mmから約20mmの範囲であり、長さは約1mmから約250mmの範囲である。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
C−1固定相
トルエンにトリメチルクロロシラン5%を含む溶液を10μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ250mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、アセトン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0039】
(実施例2)
C−4固定相
トルエンにブチルジメチルクロロシラン10%を含む溶液を40μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径25μmのキャピラリーおよそ4600本が貫通した外径2mm×長さ300mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、アセトン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0040】
(実施例3)
C−8固定相
トルエンにオクチルトリクロロシラン10%を含む溶液を50μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ250mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、アセトン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0041】
(実施例4)
C−12固定相
トルエンにドデシルトリクロロシラン5%を含む溶液を75μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径65μmのキャピラリーおよそ3300本が貫通した外径6mm×長さ300mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、アセトン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0042】
(実施例5)
C−18固定相1
トルエンにオクタデシルトリエトキシシラン10%を含む溶液を10μL/分にて6時間ポンプで送出し、清潔で乾燥した、直径20μmのキャピラリーおよそ4,000本が貫通した外径2.3mm×長さ300mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。溶液をポンプで送出しながら、150℃に加熱したオーブン内で、マルチキャピラリー装置の反対端を線速度0.5mm/分で移動させる。装置をトルエン、アセトン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0043】
(実施例6)
C−18固定相2
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンにオクタデシルジメチルクロロシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器および塩化カルシウム管を装備したフラスコ内に設置する。混合物を6時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0044】
(実施例7)
C−16、C−30、フェニル、ナフチル、およびシアノ固定相
実施例6に記載の条件に従い、C−16、C−30、フェニル、ナフチル、およびシアノ基を有する固定相を、それに対応して、ヘキサデシルトリクロロシラン、トリアコンチルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、(1−ナフチルメチル)トリクロロシラン、および3−シアノプロピルトリクロロシランから調製する。
【0045】
(実施例8)
エポキシド固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持して、反応によって調製されたメタノールを除去する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0046】
(実施例9)
ジオール固定相1
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ3mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を3時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、および水で繰り返し洗浄する。水50mLを加え、硝酸を用いてpHを2.0に調整する。混合物を室温で2時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0047】
(実施例10)
ジオール固定相2
(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン2.5gを水50mLが入ったフラスコに滴下し、その間0.01M 水酸化カリウムを用いてpHを5〜6に維持する。直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本をフラスコ内に設置する。還流冷却器を用いて、混合物を3時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水、メタノール、およびテトラヒドロフランで繰り返し洗浄する。水50mLを加え、硝酸を用いてpHを2.0に調整する。混合物を室温で2時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0048】
(実施例11)
アミノ固定相
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド25本を、トルエンに3−アミノプロピルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0049】
(実施例12)
トリメチルアンモニウム固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに3−アミノプロピルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を6時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄する。フラスコに、メタノールにトリメチルアミン5%を含む溶液30mLを加える。フラスコに塩化カルシウム管を装備し、混合物を0〜5℃で48時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをメタノール、水、0.01M HCl、水、およびテトラヒドロフランで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0050】
(実施例13)
カルボン酸固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、カルボキシエチルシラントリオール(ナトリウム塩)の5%水溶液50mLが入ったフラスコ内に設置する。塩酸を加えて、pHを2.0に調整する。還流冷却器を用いて、混合物を3時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0051】
(実施例14)
スルホン酸固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ3mmのマルチキャピラリーガラスロッド25本を、3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパンスルホン酸の5%水溶液50mLが入ったフラスコ内に設置する。還流冷却器を用いて、混合物を3時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0052】
(実施例15)
リン酸固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ3mmのマルチキャピラリーガラスロッド30本を、(3−トリヒドロキシシリルプロピル)メチルホスホン酸ナトリウム塩の5%水溶液50mLが入ったフラスコ内に設置する。混合物をHCLでpH2.0に酸性化し、還流冷却器を用いて3時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0053】
(実施例16)
イミノ二酢酸固定相
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、および水で繰り返し洗浄する。0.1M ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)に2M
イミノ二酢酸を含む溶液20mLを加え、混合物を室温で24時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水で洗液が中性になるまで洗浄し、その後メタノールで3回洗浄し、室温で乾燥させる。
【0054】
(実施例17)
システイン固定相
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド25本を、トルエンに3−ブロモプロピルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄する。メタノールにシステイン1%を含む溶液50mLとトリエチルアミン1mLとを加え、還流冷却器を用いて混合物を5時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをメタノール、水、メタノール、および塩化メチレンで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0055】
(実施例18)
グルタチオン固定相
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに11−ブロモウンデシルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで繰り返し洗浄する。メタノールにグルタチオン0.5%を含む溶液50mLとトリエチルアミン1mLとを加え、還流冷却器を用いて混合物を5時間ゆっくりと還流する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをメタノール、水、メタノール、および塩化メチレンで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0056】
(実施例19)
キラル固定相
トルエンに(R)−N−1−フェニルエチル−N′−トリエトキシシリルプロピル尿素5%を含む溶液を10μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径10μmのキャピラリーおよそ4000本が貫通した外径1mm×長さ300mmのマルチキャピラリーガラスロッドに105℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0057】
(実施例20)
ポリブタジエン固定相
イソオクタンにビニルトリクロロシラン10%を含む溶液を20μL/分にて6時間ポンプで送出し、直径10μmのキャピラリーおよそ4,400本が貫通した外径1mm×長さ250mmのマルチキャピラリーガラスロッドに90℃で通す。マルチキャピラリーロッドをイソオクタン、テトラヒドロフラン、メタノール、トルエン、およびイソオクタンで濯ぐ。イソオクタン100mLにポリブタジエン100mg(分子量3,400)と過酸化ジクミル0.5mgとを含む溶液100mgを10μL/分にて6時間ポンプで送出し、マルチキャピラリーガラスロッドに90℃で通す。マルチキャピラリーロッドをトルエン、テトラヒドロフラン、およびメタノールで濯ぎ、窒素気流で乾燥させる。
【0058】
(実施例21)
ビオチン固定相
直径10μmのキャピラリーおよそ4400本が貫通した外径1mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド25本を、トルエンに3−アミノプロピルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、メタノール、およびジメチルホルムアミドで繰り返し洗浄する。ビオチンの飽和ジメチルホルムアミド溶液15mLと、ジメチルホルムアミド10mLに1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物0.3gを含む溶液と、ジメチルホルムアミド10mLにN,N′−ジシクロヘキシルカルボジイミド0.25gを含む溶液とを加え、混合物を室温で5時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをジメチルホルムアミド、メタノール、水、メタノール、および塩化メチレンで繰り返し洗浄し、室温で乾燥させる。
【0059】
(実施例22)
ヘパリン固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ2.5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに3−アミノプロピルトリメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、メタノール、水、および0.05M 2−モルホリノエタンスルホン酸緩衝液(pH5.6)で繰り返し洗浄する。0.05M 2−モルホリノエタンスルホン酸緩衝液(pH5.6)に、ヘパリン(ウシ腎臓由来)0.2g、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N′−エチルカルボジイミド1g、およびN−ヒドロキシスクシンイミド0.5gを含む溶液10mLを加える。混合物を室温で3時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを水、リン酸緩衝液(pH8)、および20%塩化ナトリウムで洗浄し、その後水で洗浄して、4℃で保管する。
【0060】
(実施例23)
糖タンパク質固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ3mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン5%を含む溶液20mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、メタノール、および水で繰り返し洗浄する。0.4M 塩化ナトリウムと0.2M ホウ酸塩緩衝液(pH8.5)の1:1混合物にα1酸(ウシ血漿由来)100mgを含む溶液4mLを加える。混合物を室温で48時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離する。マルチキャピラリーロッドを0.4M 塩化ナトリウムと0.2M ホウ酸塩緩衝液(pH8.5)の1:1混合物で繰り返し洗浄し、その後水で洗浄して、4℃で保管する。
【0061】
(実施例24)
トリプシン固定相
直径25μmのキャピラリーおよそ4600本が貫通した外径2mm×長さ5mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン5%を含む溶液20mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を5時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、メタノール、および水で繰り返し洗浄する。0.2M リン酸緩衝液(pH7.0)にトリプシン(ウシ膵臓由来)100mgを含む溶液7mLをフラスコに加える。混合物を室温で15時間ゆっくりと攪拌し、液相を分離する。マルチキャピラリーロッドを0.2M リン酸緩衝液(pH7.0)、水、0.2M トリス緩衝液(pH7.5)で2時間繰り返し洗浄し、その後水で洗浄して、4℃で保管する。
【0062】
(実施例25)
アビジン、レクチン、およびプロテインA固定相
実施例24に記載の条件に従い、アビジン、レクチン、およびプロテインA固定相を、それに対応して、アビジン(卵白由来)、レクチン(アガリクス・ビスポラス由来)、およびプロテインA(黄色ブドウ球菌由来)を用いて調製する。
【0063】
(実施例26)
抗体固定相
直径40μmのキャピラリーおよそ1400本が貫通した外径2.3mm×長さ3mmのマルチキャピラリーガラスロッド20本を、トルエンに10−(カルボメトキシ)デシルジメチルメトキシシラン5%を含む溶液50mLが入った、還流冷却器を装備したフラスコ内に設置する。混合物を3時間ゆっくりと還流する間、冷却器を温度70℃で維持する。液相を分離し、マルチキャピラリーロッドをトルエン、メタノール、および塩化メチレンで繰り返し洗浄する。塩化メチレンにトリメチルヨードシラン1mLを含む溶液35mLを加える。混合物を室温で72時間ゆっくりと攪拌する。
【0064】
液相を分離し、マルチキャピラリーロッドを塩化メチレン、メタノール、90%メタノール、および水で繰り返し洗浄する。0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸緩衝液(pH4.5)に0.02M エチル(ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドを含む溶液20mLを加え、混合物を室温で1時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離し、0.1M リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)にリシン抗体5μg/mLを含む溶液5mLを加える。混合物を室温で2時間ゆっくりと攪拌する。液相を分離する。マルチキャピラリーロッドをリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)で繰り返し洗浄し、そのあと水で洗浄して、4℃で保管する。
【0065】
(実施例27)
ポリプロピレン製ピペットチップ形式マルチキャピラリー試料調製装置
実施例6に記載されるように調製した外径1mm〜5mmのマルチキャピラリー要素10を、容積10μL〜5,000μLのポリプロピレン製マイクロピペットチップの下端に向けてしっかりと押す。ポリプロピレンが軟化し始める温度にサーモスタットで調節されたオーブンに、ピペットチップの下部を10分間入れる。図4Aおよび4Bに、試料調製用ポリプロピレン製ピペットチップ形式マルチキャピラリー装置12、20を示す。
【0066】
(実施例28)
ポリエチレン製ピペット形式マルチキャピラリー試料調製装置
実施例6に記載されるように調製した外径1mm〜5mmのマルチキャピラリー要素10を、使い捨てのポリエチレン製ホールピペットの下端にしっかりと収める。ポリエチレンが軟化し始める温度にサーモスタットで調節されたオーブンに、ピペットの下部を10分間入れる。図4Cに、試料調製用ポリエチレン製ピペット形式マルチキャピラリー装置12、20を示す。
【0067】
(実施例29)
シリンジ形式マルチキャピラリー試料調製装置(1)
実施例5に記載されるように調製した外径2mmのマルチキャピラリー要素10を熱収縮管に取り付ける。除去可能なシリンジ針を熱収縮管の第2の端部に取り付ける。熱収縮管区域をその収縮管に推奨される温度で10分間加熱する。図5Aに、代表的な試料調製用シリンジ形式マルチキャピラリー装置12、22を示す。
【0068】
(実施例30)
シリンジ形式マルチキャピラリー試料調製装置(2)および(3)
実施例5に記載されるように調製した外径2.3mmのマルチキャピラリー要素10を除去可能な熱可塑性シリンジハブにしっかりと収める。熱可塑性物質が軟化し始める温度にサーモスタットで調節されたオーブン内で、ハブを10分間加熱する。図5Bおよび5Cに、試料調製用シリンジ形式マルチキャピラリー装置12、22を示す。
【0069】
(実施例31)
3成分混合物の分離
実施例5に記載されるように調製し、標準HPLC付属品を用いてLC−600型Shimadzu液体クロマトグラフ装置に設置した試料調製用マルチキャピラリー装置上で、3成分混合物(ウラシル、フルオレン、およびフェナントレン)を分離する。クロマトグラフ条件およびクロマトグラムを図6に再現する。クロマトグラムは、約1.8分でウラシルのピークを、約2.1分でフルオレンのピークを、約2.4分でフェナントレンのピークを示している。この実施例は、本発明の試料調製用マルチキャピラリー装置を用いた液体クロマトグラフィーの適用例を示しており、これにより典型的な有機混合物を3分未満で分析することが可能となる。
【0070】
(実施例32)
HPLC分析のための試料濃縮
図7Aを参照すると、実施例5に記載されるように調製した、直径40μmのキャピラリーおよそ1,400本を含む外径2.3mm×長さ100mmの試料調製用マルチキャピラリーC−18装置を用いて、HPLC分析前に試料を濃縮している。現在のところ、固相抽出(「SPE」)カートリッジとして既知の短いHPLCカラムが、試料調製に一般的に使用されている。SPEカートリッジと比較すると、試料調製用マルチキャピラリー装置12ははるかに速く、簡単で、また再利用可能である。表1に、本試料調製用マルチキャピラリー装置12(図7A)の標準SPEカートリッジ(図7B)と比較した性能を示す。
【表1A】

【表1B】

【0071】
(実施例33)
ウシ血清アルブミンの加水分解
アセトニトリルと0.2mM 重炭酸アンモニウム(pH7.5)の40:60混合物にウシ血清アルブミン0.25mg/mLを含む溶液10μL量を、実施例24に記載されるように調製したマルチキャピラリー試料調製装置に吸引し、サーモスタットで37℃に調節する。5分後、消化された試料をバイアルに分注し、4℃で保管する。
【0072】
(実施例34)
ペプチド試料の脱塩
実施例34に記載されるように調製したウシ血清アルブミン消化物を窒素気流で乾燥させ、10μLの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液に溶解する。実施例5および27に記載されるように、この試料1μLをマルチキャピラリー試料調製装置から吸引、分注する。0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む5%アセトニトリル/水10μLの3回分をマルチキャピラリー試料調製装置へ/からポンプで送入、送出した。0.1%TFAを含む70%アセトニトリル/水5μL分を用いて、マルチキャピラリー試料調製装置から試料を溶出させ、MALDI−MSで分析する。図8Aおよび8Bに、脱塩前後の試料のMALDI−MSスペクトルを示す。
【0073】
(実施例35)
ペプチドの分画
実施例34に記載のように、ウシ血清アルブミンの酵素加水分解によって得られた100ピコモル/μLペプチド混合物3μL量を、長さ10cmのC−18マルチキャピラリー試料調製装置に導入する。0.1%TFA水溶液100μL、続いて0.1%TFAを含む40%アセトニトリル/水30μLを用いて、試料を100μL/分で溶出する。40%アセトニトリル/水3μLを10画分採取し、MALDI−MSで分析する。図9Aおよび9Bに、第3画分および第6画分の質量スペクトルを示す。この実施例は、複雑なペプチド混合物のMALDI−MS分析前の、本発明のマルチキャピラリー試料調製装置の分画能力を示している。
【0074】
(実施例36)
タンパク質のゲル電気泳動
図10Aおよび10Bは、市販の多孔質シリカベースの装置と比較して、本発明による試料調製用マルチキャピラリー装置の試料容量、回収率、および再現性を評価するために調製されたゲルを示している。レーン1および10は、比較の目的で挿入されたタンパク質標準物質である。レーン2〜5は従来の装置を表し、レーン3〜10は本発明のマルチキャピラリー試料調製装置を示している。
【0075】
電気泳動に使用する試験試料は、以下の4種の代表的なタンパク質の混合物である:ホスホリラーゼB(分子量97,400)、ウシ血清アルブミン(分子量66,200)、炭酸脱水酵素(分子量31,000)、およびリゾチーム(分子量14,400)。これらのタンパク質は、大きさが異なり、特性が一般的に知られていることから選択された。さらに、これらのタンパク質は、標準物質として一般に用いられている。全ての結果は、精度を確保するために、数回再現および再試験した。試験は、ChromBA,Inc.(米国ペンシルベニア州ステートカレッジ)、The Materials Research Institute(米国ペンシルベニア州ユニバーシティーパーク)、The
Milton Hershey Medical Center(米国ペンシルベニア州ハーシー)、Huck Institute(米国ペンシルベニア州ユニバーシティーパーク)、APD LifeSciences Inc.(米国ペンシルベニア州ステートカレッジ)、およびMassTech Inc.(米国メリーランド州コロンビア)で実施した。合計40を超えるゲルを使用したが、これには市場で最も普及している2つの相、C18およびCが含まれる。さらに、500を超える試料調製装置を試験した。
【0076】
両図において、従来のシリカベースの装置(図10A:レーン2〜5;図10B:レーン1〜2)は、薄くかつ様々なバンドを示している。対照的に、本発明の装置(図10A:レーン6〜9;図10B:レーン3〜10)は、はっきりした濃いバンドを示し、はるかに優れた結合能力および回収率を表している。さらに、本装置のバンドは、明らかにレーン間でより同一であり、優れた再現性を表している。表2に示されるように、さらなる定量化により、本発明の試料調製装置は、平均して、従来の装置によって結合および解放されるタンパク質のほぼ2倍を結合および解放し、また半分の誤差の範囲(結合された試料の量の差異)を示すことが明らかにされている。
【表2】

【0077】
図10Cは、本発明による試料調製用マルチキャピラリー装置の使用速度(時間性能)を市販のシリカベースの装置と比較して評価するために作製されたゲルを示している。製造業者が推奨するように、適切な結果を得るためには、試料をシリカベースの装置のチップにおよそ10回通過させなければならない。その主な理由として、ほとんどの試料は、濾材の大きい空隙を通って移動し、実質的に吸着および除去されないことがあげられる。具体的には、図10Cのレーン1〜4に示されるように、従来の装置は、チップを10回通過させた後でさえ薄いバンドを示している。
【0078】
対照的に、レーン5〜10は、本発明のマルチキャピラリー装置を1回のみ通過させた試料のほぼ同一の地点を示している。注目すべきことに、バンドは、シリカベースの装置のものよりもはるかに濃くかつ幅広く、はるかに多量のタンパク質が存在することを示している。
【0079】
図10A〜10Cにおいて、電気泳動によって生じたゲル上のバンドの濃さとサイズは、試料調製装置(すなわち、一体型のシリカベースのプラグを備えるピペットチップ対マルチキャピラリー要素)によって結合され、試料調製装置から回収されたタンパク質の量を示している。本発明のマルチキャピラリー装置12の優れた性能は、図2に示されるように、良好なチップ間の複製に加え、試料が均一で一貫した事実上同一の経路で装置を通過することに一部起因する。図3および図11は、対照的に、市販の(市場を先導する)多孔質シリカおよびシリカ繊維ベースの試料調製装置の断面を示している。シリカベースの装置は、不規則な粒径および繊維径、大きい空隙(濃い部分)、ならびに大きく異なる試料経路を示している。さらに、従来の装置は、チップ間の不十分な複製(すなわち著しい差異)を示している。
【0080】
(実施例37)核酸の単離
シリンジ22形式、ピペットチップ20形式双方のマルチキャピラリー装置12を扱う以下の実験は、マルチキャピラリー装置を試料取扱い、および組織、血液、細菌細胞、尿などの種々の生体試料からのDNAの抽出に用いる利点を明らかにしている。
【0081】
試料調製用マルチキャピラリー装置12(外径1〜2.5mm、長さ0.25〜3cm、直径10〜40μmのキャピラリーおよそ4000本、内部容積2〜90μL)に、溶解した生体試料10〜1,000μLを2回装填する。装填溶液廃棄後、マルチキャピラリー装置12を洗浄緩衝液で濯ぎ、タンパク質および他の非DNA型物質を排除する。次に、溶出緩衝液10〜300μLを用いて、吸着したDNAを溶出する。Packard
FluoroCount装置での530nmにおけるYo−Pro蛍光(収率の判定)、アガロース・ゲル電気泳動(質の判定)、およびパルスフィールドゲル電気泳動(DNAのサイズおよび質の判定)を含む種々の方法を用いて、溶出されたDNAを分析する。
【0082】
図13Aおよび13Bは、それぞれ、本発明による25μm×1cm×200μLのピペットチップ形式マルチキャピラリー装置12、20、および市販の(市場を先導する)スピンカラム16本を用いた、ラット肝臓の16試料の精製結果をDNA収率および試料調製に要した時間に関して比較する棒グラフである。DNA収率のデータはYo−Pro蛍光を用いて取得し、時間は試料ごとにストップウォッチを用いて記録した。本実験は、本発明のマルチキャピラリー装置12が、DNA収率に関しては従来のスピンカラムと同程度であるが、処理に要する時間は著しく短いことを明らかにしている。注目すべきことに、本マルチキャピラリー装置の使用により、DNA単離の試料調製のための「実地」作業時間は7分の1に減少する。
【0083】
アガロース・ゲル電気泳動およびパルスフィールドゲル電気泳動分析は、DNAの質とサイズを判定するために実施した。図12Bは、ピペットチップ形式マルチキャピラリー装置(レーン1〜7)、および市販のスピンカラム(レーン8〜9)を用いてウシ全血から抽出したDNAを分析するために実施した0.8%アガロース・ゲルを示しているが、これは同程度のDNAの収率および質を示している。さらに、図12Aに示されるように、パルスフィールドゲル電気泳動を利用して、本発明のマルチキャピラリー装置12、および市販のスピンカラムを用いて精製された試料のDNA鎖の長さを分類した。主要なスピンカラムと比較して、本マルチキャピラリー装置12を用いて抽出した試料は、かなり大きなDNA断片を示し、これは試料処理時におけるDNAの損傷または「せん断」の著しい減少を示唆している。大きなDNA断片は、精製試料のより高い質を反映しているが、これはPCRおよび配列決定などの多くの下流の適用例にとって非常に望ましい。
【0084】
図12および13に表されるように、遠心機を用いて操作される市販のスピンカラムを用いて処理した検体では、著しいDNAのせん断が避けられない。しかしながら、本発明のマルチキャピラリー装置12では、不溶性の表面媒介分離機構を用いることにより、DNAのせん断はおおむね回避されるが、この機構は、試料処理を通して、キャピラリーチャネル(管腔)が開放され、閉塞されない状態のままにする。一般に利用されている遠心機の代わりに、試料処理に穏やかなピペット操作手段を用いることはさらに、本明細書において開示されるマルチキャピラリー装置12を用いて処理したDNAの質およびサイズにも貢献する。
【0085】
表3は、上述の方法によって調製した5つのマルチキャピラリー装置12の吸着性の読取りを示している。平均DNA回収収率は50〜60%であり、これは試料調製用マルチキャピラリー装置12が核酸の試料取扱い、精製、および単離に有効であることを示している。
【表3】

【0086】
(実施例38)
細胞の試料取扱い
細胞の試料取扱いのためのマルチキャピラリー装置12の使用を実証するため、以下の細胞を増殖させて評価した:マウス骨髄腫Sp2/0−Agl4、サイズおよそ25μm;マウスマクロファージJ774A1、サイズおよそ15μm;およびヒト前立腺腫瘍THP−1、サイズおよそ20μm。シリンジ形式試料調製用マルチキャピラリー装置12、22(外径2.3mm、長さ150mm、直径40μmのキャピラリーおよそ1400本、内部容積262μL)をシリンジに取り付け、平衡塩類溶液1mLで濯ぎ、細胞生存率を導く環境を作る。室温で、1.5〜3.0mL量の細胞懸濁液を流速1mL/分でマルチキャピラリー装置に通過させ、続いて0.5mL量の平衡塩類溶液を通過させる。溶出された細胞懸濁液を遠心分離によって濃縮し、血球計を用いて細胞を計数する。マルチキャピラリー装置通過後の細胞生存率の変化を、表4に示す。
【表4】

【0087】
本データは、装置を通過した各細胞種の大部分が、無傷で現れることを明らかにしている。したがって、試料調製用マルチキャピラリー装置は、細胞の試料取扱いに非常に有効である。
【0088】
既存のピペットチップの製造業者は、その技術文献において、40〜60%の試料損失が、精製生成物の平均であると記載している。対照的に、本発明によって提供される増加した容量と回収率は、ピペットチップにおける試料損失という重大な問題を実質的に軽減および/または排除する。さらに、本発明は従来のシリカベースの装置が必要とするような繰り返しの試料通過を避けることから、機器の消耗も低減される。
【0089】
前述の実施例1〜38に示されるように、本発明のマルチキャピラリー装置12は、使用者が、かなり短時間で、優れた試料調製結果を得ることを可能にする。実際、良質の結果を迅速かつ再現可能に返す装置12の能力により、使用者は、利用可能な試料調製ステーションの処理能力を、使用する試料およびシステムに応じて、少なくとも数倍増加させることができる。
【0090】
要するに、本発明のマルチキャピラリー試料調製装置12は、有利には、試料処理能力を向上させ、高い再現性という形で差異を減少させる。マルチキャピラリー装置12は、本発明の範囲から逸脱することなく、数々の適用例において使用することができる。これには、小分子、ポリマー、ウイルス、および細胞の試料取扱い;生体試料、およびDNAおよびRNAを含む核酸の単離、精製、濃縮、脱塩、および分画;固相抽出;ヘッドスペース分析;ガスクロマトグラフィー;液体クロマトグラフィー(例えば、HPLC);超臨界クロマトグラフィー;電気クロマトグラフィー;およびキャピラリー電気泳動が含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
上述の適用例の代表例には、タンパク質、ペプチド、およびポリヌクレオチドなどの生体試料の試料調製、質量分光分析前のペプチド混合物の分画、機器分析前の試料の脱塩、ペプチド溶液の脱塩、タンパク質溶液の脱塩、機器分析前の試料濃縮、および質量分光分析前のペプチド濃縮が含まれる。
【0092】
本発明は、実施例およびその好ましい実施形態に関して具体的に示され記載されているが、当業者には、本発明の趣旨および適用範囲を逸脱することなく、形態および詳細に様々な変更を行なうことができることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図10−1】
image rotate

【図10−2】
image rotate

【図10−3】
image rotate

【図11−1】
image rotate

【図11−2】
image rotate

【図11−3】
image rotate

【図12−1】
image rotate

【図13−1】
image rotate

【図13−2】
image rotate

【図12−2】
image rotate


【公開番号】特開2012−123014(P2012−123014A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−33888(P2012−33888)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2009−529161(P2009−529161)の分割
【原出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(509079237)クロンバ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】