説明

試液作成方法

【課題】 固体の試料に含まれるハロゲン元素を他の元素と同一の試液を用いて分析できるハロゲン元素分析用の試液を作成する方法を提供する。
【解決手段】 銀イオンを添加した硝酸を収容した容器2内に分析対象の固体のプラスチック材1を入れ(a)、ヒータ3にて加熱して、プラスチック材1を分解させた分解液4を得る(b)。プラスチック材1に含まれている全ての塩素は、気体となって放散することなく、塩化銀の沈殿5として捕集される(c)。この分解液4にアンモニア水を加えて、塩化銀を溶解させ、塩化物イオンが遊離した溶液6を得る(d)。得られた溶液6を試液として、ICP発光分析装置を用いて、塩素分析を行う。この同じ溶液6(試液)に対して、他の元素の分析を併せて行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の試料に含まれるハロゲン元素(塩素、臭素、ヨウ素)を分析する際に使用するハロゲン元素分析用の試液を作成する方法に関し、特に、ハロゲン元素が気体として放散することを防止して他の元素の分析と共用できる試液を作成するためのハロゲン元素分析用の試液作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体の試料に含まれる元素を分析する方法として、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、原子吸光分析法などが知られている、これらの手法では、酸液を用いて分析対象の固体試料を酸分解し、その分解液を試液として分析を行っている。なお、本発明に関連する技術として、溶液中の塩素を定量する手法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平6−87056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、固体の試料に含まれる元素を分析する場合、試料を酸分解させた溶液を試液とすることが一般的であるが、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素は、酸分解または加熱により気体となって溶液から放散してしまう。よって、このような手法では、ハロゲン元素を分析できないという問題がある。そこで、ハロゲン元素に関しては、別の手法にて分析を行っている。即ち、固体試料を有機溶媒に溶解させた溶液を試液とし、その試液に対してハロゲン元素の分析を行っている。
【0004】
このように従来では、ICP発光分光分析法などにより、固体試料に含まれる元素を分析する場合に、ハロゲン元素とその他の一般的な元素とで、異なる試液を準備しなければならず、処理効率が悪いという問題がある。また、有機溶媒に溶解できる試料しかハロゲン元素の分析を行えないという問題もある。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、固体の試料に含まれるハロゲン元素を他の元素と同一の試液を用いて分析することができるハロゲン元素分析用の試液作成方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の他の目的は、分析可能な試料の種類数を増加できるハロゲン元素分析用の試液作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る試液作成方法は、固体の試料に含まれるハロゲン元素を分析するための試液を作成する方法において、ハロゲン捕集剤を添加した酸液で前記試料を分解してハロゲン化合物を含む分解液を得、該分解液にハロゲン溶解剤を加えて前記ハロゲン化合物を溶解して前記試液を得ることを特徴とする。
【0008】
第1発明にあっては、分析対象の試料を酸液で分解して分解液を得る際に、ハロゲン元素を捕集するハロゲン捕集剤を酸液に添加しておく。試料に含まれるハロゲン元素は、分解過程で気体となって逃げずに、ハロゲン捕集剤に捕集されて、ハロゲン化合物が分解液中に生成される。このハロゲン化合物を溶解して、ハロゲン元素が遊離した試液を得る。この試液に対して、ハロゲン元素の分析を行う。よって、特別な有機溶媒による溶液(試液)を準備することなく、他の元素と同じ溶液(試液)を用いたハロゲン元素の分析が可能となる。また、有機溶媒に溶解可能であるという制約が試料に求められないため、ハロゲン元素を分析できる固体の試料の種類は多くなる。
【0009】
第2発明に係る試液作成方法は、第1発明において、前記ハロゲン捕集剤が、銀イオン、第1水銀イオン、鉛イオン、及びタリウムイオンからなる群から選ばれた少なくとも一つのイオンであることを特徴とする。
【0010】
第2発明にあっては、ハロゲン元素を捕集するハロゲン捕集剤として、ハロゲン元素と反応して沈殿物を生成する銀イオン、第1水銀イオン、鉛イオン、及びタリウムイオンの中の少なくとも一つのイオンを酸液に添加する。よって、試料に含まれるハロゲン元素を確実に捕集する。
【0011】
第3発明に係る試液作成方法は、第1または第2発明において、前記酸液が、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、リン酸及び過酸化水素からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸液であることを特徴とする。
【0012】
第3発明にあっては、試料を分解する酸液として、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、リン酸、過酸化水素の単独、またはこれらを複数混合したものを使用する。よって、分析対象の固体試料を容易に酸分解する。
【発明の効果】
【0013】
第1発明では、ハロゲン捕集剤を添加した酸液で分析対象の固体の試料を分解して分解液を得、この分解液にハロゲン溶解剤を加えてハロゲン化合物を溶解して試液を得るようにしたので、従来のように特別な有機溶媒による試液を準備する必要がなくなって、ICP発光分光分析法などにより、他の元素と同じ試液を用いてハロゲン元素及びその他の元素を同時に分析することができ、ハロゲン元素を含む固体試料の元素分析を簡便に行うことができる。また、有機溶媒に溶けなくて従来ハロゲン元素の分析を行えなかった試料についても分析を行えるようになり、ハロゲン元素の分析可能な固体試料の種類数を多くすることができる。
【0014】
第2発明では、ハロゲン捕集剤として、銀イオン、第1水銀イオン、鉛イオン、及びタリウムイオンの中の少なくとも一つを使用するようにしたので、試料に含まれるハロゲン元素を確実に捕集することができ、ハロゲン元素の正確な含有量を分析することができる。
【0015】
第3発明では、酸液として、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、リン酸、過酸化水素の単独、またはこれら複数混合したものを使用するようにしたので、分析対象の固体試料を容易かつ確実に分解することができ、ハロゲン元素の正確な含有量を分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。図1は、本発明の試液作成方法の手順を示す概略図である。以下では、分析対象の固体の試料としてプラスチック材を用い、ハロゲン捕集剤として銀イオン(Ag+ )を使用し、酸液として硝酸(HNO3 )を使用して、試料(プラスチック材)に含まれる塩素を分析する場合を例として説明する。
【0017】
まず、分析対象の固体のプラスチック材1を、含まれているハロゲンと当量以上の濃度となるように銀イオンを添加した硝酸20mlを収容した容器2内に入れ(図1(a))、その容器2をヒータ3にて加熱して、プラスチック材1を分解させた分解液4を得る(図1(b))。
【0018】
ここで、プラスチック材1に塩素が含まれている場合、酸分解により発生した塩素は下記(A)に示す反応式に従って銀イオンと反応し、ハロゲン化合物としての塩化銀が沈殿する(図1(c))。したがって、プラスチック材1に含まれている塩素は、気体となって放散することがなく、含まれている全ての塩素が塩化銀の沈殿5として捕集される。
Ag+ +Cl- →AgCl …(A)
【0019】
次に、この塩化銀の沈殿5(ハロゲン化合物)を含む分解液4にアンモニア水を加えて、pHを7〜8.5に調整する。下記(B)に示す反応式により、銀が錯イオン(銀アンミン錯体)となって塩化銀は溶解し、塩化物イオンが遊離した溶液6を得る(図1(d))。この溶液6が、ICP発光分光分析装置で使用される試液となる。
AgCl+2NH3 →[Ag(NH3 2 + +Cl- …(B)
【0020】
ここで、pHを7〜8.5に調整するのは、Al、Fe、Zn、Crなどの金属がプラスチック材1に含まれている場合、強アルカリ状態にすると、その水酸化物が沈殿して塩素を巻き込む可能性があるからである。プラスチック材1に金属がほとんど含まれていない場合には、pHを7〜13程度にしても良い。
【0021】
なお、アンモニア水の代わりに、分解液4にチオ硫酸ナトリウム溶液を加えても、銀が錯体([Ag(S2 3 2 3-)となって塩化銀は溶解し、塩化物イオンが遊離した溶液6(試液)を得ることができる。
【0022】
そして、得られた溶液6を試液として、ICP発光分光分析装置内の誘導結合プラズマ中に導入し、塩素分析を行う。この同じ試液に対して、塩素以外の他の元素の分析を併せて行うことができる。
【0023】
なお、上述した例では、塩素を分析する場合について説明したが、臭素、ヨウ素の他のハロゲン元素についても同様の方法により試液を作成して分析を行うことが可能である。
【0024】
また、上述した例では、ハロゲン捕集剤として銀イオンを使用することとしたが、これは例示であり、沈殿物を生成してハロゲンを捕集する第1水銀イオン、鉛イオン、タリウムイオンなどを使用しても良く、さらに、これらに銀イオンを含めた中から複数のイオンをハロゲン捕集剤として同時に使用することも可能である。また、アルカリ中で沈殿物を作らない試料については、例えば金属材料であっても水酸化ナトリウム溶液を用いても良い。
【0025】
また、上述した例では、試料を溶解する酸液として硝酸を使用することとしたが、分析対象のハロゲンを含まない酸液、例えば硝酸以外に、硫酸、フッ化水素酸、リン酸、過酸化水素などを用いても良く、さらに、これらに硝酸を含めた中の複数の酸液を混合して使用するようにしても良い。
【0026】
また、上述した例では、分析対象の試料としてプラスチック材を用いることとしたが、これは例示であり、金属材、ゴム材、塵埃など、全ての種類の固体試料に対して本発明を適用できることは勿論である。
【0027】
また、上述した例では、元素分析装置としてICP発光分光分析装置を使用することとしたが、試液に対してハロゲン元素を分析できる装置であれば、いずれの種類の分析装置であっても良いことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の試液作成方法の手順を示す概略図である。
【符号の説明】
【0029】
1 プラスチック材(固体の試料)
2 容器
3 ヒータ
4 分解液
5 塩化銀の沈殿(ハロゲン化合物)
6 溶液(試液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の試料に含まれるハロゲン元素を分析するための試液を作成する方法において、ハロゲン捕集剤を添加した酸液で前記試料を分解してハロゲン化合物を含む分解液を得、該分解液にハロゲン溶解剤を加えて前記ハロゲン化合物を溶解して前記試液を得ることを特徴とする試液作成方法。
【請求項2】
前記ハロゲン捕集剤は、銀イオン、第1水銀イオン、鉛イオン、及びタリウムイオンからなる群から選ばれた少なくとも一つのイオンであることを特徴とする請求項1記載の試液作成方法。
【請求項3】
前記酸液は、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、リン酸及び過酸化水素からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸液であることを特徴とする請求項1または2記載の試液作成方法。

【図1】
image rotate