説明

試薬収容容器

本発明は試薬収容容器であり、該容器の収容物を長時間加熱または冷却の維持や高い精度の温度制御を含めて携帯して行うことができ、また、発生した病気の病原体等の特定を現場において容易、迅速かつ機敏に行うことができる容器
である。試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部を囲むように設けた恒温容器とを有し、該恒温容器内であって、該恒温容器に囲まれた該液収容部外に、該液収容部を加熱する発熱剤または冷却する冷却剤を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、試薬収容容器に関するものであって、特に、試薬を収容する1または2以上の液収容部を有する試薬収容容器である。
【背景技術】
容器に収容したDNA等の遺伝子、免疫物質、蛋白質、種々の生体内物質、細菌等の微生物、ウィルス等について、捕獲、抽出、濃縮、検査、分析を行うには、前記容器に収容された試薬との反応を促進させるため、または、細胞膜を破壊するために加熱あるいは冷却を施す場合や保存のための適合温度にする操作が必要であった。そのために、加熱または冷却用の恒温装置(例えば、特開平13−074750号公報、特開2002−214091号公報またはWO01/53839 A1の第6図)や温度制御装置が必要であり(特開平14−010777号公報)、前記各液収容部を該恒温装置内に挿入し、または載置して加熱または冷却によって温度を制御し、保存のために温度調整する操作を施して反応の促進などを行うことが必要であった。このような加熱または冷却を行うために、前記恒温装置はアルミブロック、ペルチェ素子、ファン、フィン等、およびこれらを駆動する電源が必要となっている。
ところで、近年、新種または未知の細菌やウィルス等による新たな病気が発生し、また、生物化学兵器の使用や、バイオテロのおそれが現実味を帯びてくると、前記ウィルス等の分析を、戦場や、病気の発生地域や、テロ現場等の場所に行って迅速に実行する必要性が高まってきている。その際、目的対象物や、検査または分析の内容によっては、細胞膜の破壊やインキュベーション等の反応の促進のために、外気温、室温に比べ高い温度または低い温度を長時間にわたって維持する必要があった。外気温、室温に比較して高温または低温で加熱または冷却し、これを長時間維持するために、アルミブロック等を有する加熱手段や冷却手段を用いて行うことは電気容量が過大となりバッテリー電源では対応できないという欠点があった。
また、アルミブロックおよびまたは発電機等からなる加熱器または冷却器を携帯することは、使用者に負担となるという欠点があった。また、これらの装置は高価であり、再使用を行う必要があるが、コンタミネーションを防止するために消毒等をその都度行なう必要があるという欠点があった。
本発明が解決しようとする問題点は、長時間の加熱または冷却をバッテリー電源を用いて行うことができず発電機を用いて行なわなければならない点である。
そこで、本発明の第1の目的は、加熱または冷却による長時間の加熱または冷却の維持や高い精度の温度制御を含めて携帯して行うことができる試薬収容容器を提供することである。
第2の目的は、使用者により、DNA等の遺伝子、免疫物質、蛋白質、種々の生体内物質、細菌等の微生物、ウィルス等の捕獲、抽出、濃縮、検査、分析を効率良く行なうことができる携帯に便利な試薬収容容器を提供することである。
第3の目的は、発生した病気の病原体の特定を、または戦場においてもしくはバイオテロによって使用される生物化学兵器の特定を、現場において容易、迅速かつ機敏に行うことができる試薬収容容器を提供することである。
第4の目的は、安価に作成できて恒温装置を含めて再使用の必要のない使い捨て可能な試薬収容容器を提供することである。
【発明の開示】
第1の発明は、試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部を囲むように設けた恒温容器とを有し、該恒温容器内であって、該恒温容器に囲まれた該液収容部外に、該液収容部を加熱する発熱剤または冷却する冷却剤を有する試薬収容容器であることを最も主要な特徴とする。
ここで、「試薬」とは、該収容容器を用いて行なわれる処理に必要な試薬であり、通常は液状である。例えば、種々の塩基配列網羅したオリゴヌクレオチド群の各々を磁性粒子に固定し該磁性粒子を蛍光物質で標識化して液体中に懸濁させた試薬、目的の遺伝物質とのハイブリダイゼーションを促進する酵素、細胞膜を破壊してDNA、RNA等を抽出するための試薬、例えば、カオトロピック溶液等がある。
前記液収容部が複数個ある場合には、該液収容部を直列に配列したカートリッジ状またはマイクロプレート状が好ましい。これによって、複数の試薬をコンパクトかつ関連付けて収容することができるので、取扱いが容易であるという利点がある。その際、前記恒温容器で囲まれた液収容部は、他の液収容部群から隔離されるように設けて、他の液収容部への加熱や冷却の影響を及ぼさないようにするのが好ましい。
「液収容部を囲む」は、液収容部の外面を囲み開口部を除く場合と、液収容部の開口部の一部または全部を含めて囲むようにする場合がある。「恒温容器」は、発熱剤または冷却剤による加熱または冷却の効果を維持するために熱の出入りを遮断または低減させる機能を有するものである。そのため、恒温容器は断熱性の素材で形成するかまたは断熱性のある構造をもたせることによって行なう。該恒温容器としては、該液収容部を収容する容器状で該収容部の開口部を除く上側部分に蓋が設けられているものや、該液収容部を挿入する1または2以上の孔が設けられた箱状のものであっても良い。
「少なくとも1の前記液収容部を囲む」のであるから、複数の液収容部をまとめて1の恒温容器で囲む場合と、複数の液収容部を恒温容器で個々に囲む場合またはそれらの組合せがある。その場合、各恒温容器の温度は同一に設定される場合と異なる場合とがある。
「発熱剤」は、室温または外気温よりも高い温度に維持するための物質であり、「冷却剤」は、室温または外気温よりも低い温度に維持するための物質である。発熱剤には、例えば、鉄粉、活性炭、塩類、水、保水材を混合して用いたものがある。この発熱剤は鉄粉と酸素とが化学反応を起こすことによって発熱するものであり、保水剤は水を保持するものである。鉄粉を用いるのは、空気に触れる表面積をできるだけ大きくして反応を促進させ、食塩等の塩類は反応を早めるために用いている。活性炭は酸素をつけるための触媒として用いられている。保水剤としては、例えば、オガクズ、バーミキュライト(蛭石)、珪藻土等が用いられている。その他、酸化物と金属粉末からなる自己燃焼性発熱体の燃焼反応を少量の着火剤の使用で開始させるものであっても良い。
冷却剤には、例えば、恒温容器全体またはその一部に、素焼き等の多孔性の物質で形成された孔部を有し、恒温容器内に、水、アルコールを含む気化しやすい気体、または揮発性気体を収容したものがある。または、冷却剤として、高吸水性樹脂を用い、水を導入するための孔部または口部を有するものがある。この場合には、水を吸収した高吸水性樹脂を予め冷却しておくことによってより保冷効果が高まる。ここで、高吸水性樹脂とは、水と接触すると短時間に吸水、膨潤し、水全体をゲル化させる性質をもつ高分子をいい、デンプン系、カルボキシメチルセルロース系、ポリアクリル酸系、ポバール系等に分類される。その池、使用時に前記液収容部の外面または外部に冷却スプレーで冷却用液化ガスからなる冷却剤を吹き付けるものであっても良い。該冷却用液化ガスは不燃性であるのが好ましい。
また、前記容器は、例えば、ガラス、アルミニウム等の金属等の無機材質や、アクリル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂で形成される。前記恒温容器は、加熱を行う場合には、熱に強い素材が好ましい。例えば、冷却を行う場合には、例えば素焼きの陶磁器のような多孔性剤を用いる。また、該恒温容器については、外部との間で熱の出入りを遮断しまたは低減させる断熱効果の高い素材または構造の容器にすることにより容器内の反応熱が効率よく伝達されて試薬温度の調整に貢献するので好ましい。
第1の発明に係る試薬収容容器は、発熱剤または冷却剤を収容可能な恒温容器を有しているので、加熱や冷却によって所定温度に維持する必要がある試薬を恒温用容器が設けられている液収容部に収容することによって、加熱や冷却については、複雑な恒温装置を用いたりバッテリー電源または発電機によらずに、該液収容部に収容されている試薬を室温または外気温と異なる温度に維持することができるという利点がある。また、簡便な構成で、安価に製造することができ、かつ、恒温装置を含めて使い捨て可能な試薬収容容器を提供することができるという利点がある。さらに、小型かつ軽量にできるのでどこにでも携帯して持ち運び可能であり、病気発生地域、戦場、バイオテロ現場等において迅速かつ機敏に使用することができるという利点がある。
さらに、主な熱の発生、吸収を化学変化や化学反応により行い、周囲の恒温容器により熱を遮断することによって電力消費を不必要とした。したがって、精密な温度制御についてのみ電力を用いることができるので全体として電力消費を低減させ、携帯可能なバッテリー電源を用いて、精密な温度制御を行うことができる。特に、今後予想されるバッテリー性能の飛躍的向上や将来実用化される燃料電池が実現した場合は、それらと組み合わせることによって、一層長時間稼動できる装置を提供することができる。
第2の発明は、前記恒温容器には、該恒温容器内と外部との間で気体等の物質の出入りが可能な孔部または/および口部を有する試薬収容容器である。該孔部は、気体等の物質の出入が可能な隙間であって、例えば、前記鉄粉を用いた発熱剤を恒温容器に収容した場合には、孔部としては空気を導入するための空気導入口であり、必ずしも該孔部は肉眼で見える必要のない通気フィルターや多孔性の素材であっても良い。例えば、恒温容器に多孔性の構造をもたせて、該多孔性素材の表面に吸い上げられた液体が気化する際に奪う気化熱を利用する場合には、前記孔部は、該多孔性の構造をもつ素材部分がこれに相当する。この場合には、前記液体が冷却剤であり、該孔部は、肉眼では見にくい微小な多数の孔がこれに相当する。また、冷却剤として例えば冷却用液化ガスを箱状の該恒温容器で囲まれた液収容部の外面に冷却スプレーにより直接噴射する場合には、該孔部は該冷却スプレーからの冷却用液化ガスを噴射可能なように前記恒温容器に設けた孔が前記孔部に相当する。
口部とは、発熱時または冷却時に蓋や液収容部等によって塞がれた状態で用いるものである。この点で、発熱時または冷却時に蓋またはフィルム等で塞がれない状態で用いられる孔部とは異なる。前記口部に設けた該蓋等に孔部を設けるようにしても良い。該口部は前記液収容部を装着するために用いたり、後述するように冷却剤や発熱剤を供給するために用いる。前記蓋または液収容部は口部に対して着脱可能に設ける場合と固定して設ける場合がある。
第2の発明に係る試薬収容容器では、前記恒温容器には、外部との間で気体等の物質の出入りが可能な孔部や口部を設けるようにしている。したがって、恒温容器に物理的な刺激を与えることによる内部物質間の化学反応によるのではなく、空気、冷却用液化ガス等の外部物質の導入による該外部物質との化学反応によって加熱または冷却を維持させることができる。したがって、物理的な刺激を加える必要がなく、かつ該外部物質の導入によって確実に加熱または冷却を起こさせることができるという利点がある。
第3の発明は、前記恒温容器は、該恒温容器によって囲まれた前記液収容部に固定して設けた試薬収容容器である。
該液収容部は、試薬収容容器に固定されている場合と、該試薬収容容器から着脱自在に設けられている場合がある。
第3の発明に係る試薬収容容器は、前記恒温容器を、該恒温容器を囲む液収容部に固定して設けている。したがって、使用時において、液収容部を恒温容器に挿入して組み合わせたり、発熱剤または冷却剤を収容する等の操作を必要としないので、扱いがより一層容易となる利点がある。
第4の発明は、前記恒温容器は、該恒温容器によって囲まれる前記液収容部に対して着脱自在に設けた試薬収容容器である。
第4の発明に係る試薬収容容器は、恒温容器によって囲まれるべき前記液収容部に対して着脱自在に設けている。したがって、恒温容器に液収容部を装着した際にかさばる場合には、使用時にのみ該恒温容器と該液収容部とを組み立て、運搬時には恒温容器から液収容部を外せば持ち運びが容易である。また、恒温容器が液収容部と別個に設けられているので、複数の試薬収容容器の液収容部に対して1つの恒温容器を用いて共用または兼用するようにすれば、効率的に利用することができるという利点がある。
第5の発明は、前記冷却剤または発熱剤は、前記恒温容器の前記孔部または/および口部を通して該恒温容器内に外部から供給される試薬収容容器である。
本発明では、前記孔部または該口部を通して冷却剤や発熱剤を供給するものである。この場合には、孔部または口部は冷却剤または発熱剤を供給しやすい形状または大きさに形成する。
第5の発明に係る試薬収容容器は、前記発熱剤または冷却剤を前記恒温容器の前記孔部または口部を通して外部から供給するようにしている。したがって、予め恒温容器内に発熱剤または冷却剤を収納しておく必要がなく、より一層構造が簡単で、製造コストを引き下げることができる。さらに、孔部からまたは着脱可能な蓋等を設けた場合の口部から前記発熱剤または冷却剤を追加して供給することができるので、長期に渡って加熱または冷却を続行することができる利点がある。
第6の発明は、前記液収容部の一部または全部に所定試薬が収容されるとともに、少なくとも前記試薬を収容した液収容部の開口部を密封用フィルムで剥離可能または穿孔可能に密封した試薬収容容器である。ここで、「密封用フィルム」は、例えば、セルロース、アルミ箔、ビニール等によって形成される。
第6の発明に係る試薬収容容器の一部または全部に剥離可能な密封用フィルムを設けて、前記各開口部を覆うようにしているので、該密封用フィルムを剥がしまたは穿孔するだけで、収容された必要な試薬を利用できるので、迅速に処理を実行することができるという利点がある。
第7の発明は、前記孔部は、前記密封用フィルムで剥離可能または穿孔可能に密封した試薬収容容器である。ここで、孔部を密封用フィル厶で覆うのは、気体等の入出を遮断して加熱または冷却が開始されないようにするためであり、該密封用フィルムを孔部から剥がしまたは穿孔することによって、発熱剤を空気等に触れさせ、または冷却剤を導入し、または冷却剤を気化させて加熱または冷却を開始する。
なお、加熱または冷却の開始は、このような場合に限られず、例えば、冷却スプレーによる前記液収容部への冷却用液化ガスの噴射により、または、火花による着火機溝により加熱を開始させるようなものや、水を封入した袋を前記恒温容器内に設けておき、該袋を破壊することにより加熱または冷却を開始させるようにしても良い(特開平5−010526号)。
第7の発明は、前記複数個の液収容部は直列に配列されたカートリッジ状またはマイクロプレート状に形成された試薬収容容器である。
第7の発明に係る試薬収容容器によれば、前記孔部を密封用フィルムを設けて覆うようにしているので、該密封用フィルムを剥がしまたは穿孔するだけで、加熱または冷却の恒温処理を実行することができるので、迅速で効率的な利用を行なうことができるという利点がある。第6の発明および第7の発明によれば、該密封用フィルムを剥離または穿孔することによって、容易に、試薬を利用することができるとともに、また同時に液収容部内を容易に加熱しまたは冷却することができる。
第8の発明は、前記容器は基部を有し、前記液収容部の開口部および/または前記孔部が該基部に位置するように前記収容部および前記恒温容器が基部に設けられた試薬収容容器である。
第8の発明に係6試薬収容容器では、前記基部に前記各液収容部の開口部および/または孔部を位置するように前記液収容部を設けるようにしているので、1枚のフィルムでこれらの開口部および孔部を塞ぐようにしており、該フィルムを剥がすことまたは穿孔することによって容易に試薬を利用しかつ恒温処理を行なわしめることができるという利点がある。
第9の発明は、前記試薬収容容器は複数の前記恒温容器を有し、該各恒温容器で維持されるべき各温度は異なるように設定されている試薬収容容器である。
例えば、ある恒温容器は加熱用であり、ある恒温容器は冷却用である。または、加熱用または冷却用であっても、発熱剤または冷却剤を適当に選ぶことによって温度の高さの異なる恒温容器を設けることができる。この場合、恒温容器を温度によって見分けることができるように着色、文字、記号、図形等によって識別可能となるようにすることが好ましい。
第9の発明に係る試薬収容容器では、複数の恒温容器を設けるようにし、かつ各温度を異なるように設定しているので、1の液収容部について、温度を変更する制御を行うことなく、物質の移動により、種々の温度に設定することができるので、温度変更のための装置を必要とせず、装置規模を縮小することができるという利点がある。また、1の試薬収容容器のみを用いて、種々の温度制御を必要とする処理を効率的に行なうことができるという利点がある。
第10の発明は、複数の前記恒温容器またはその近傍の基部に、該恒温容器の温度を感知して該温度に応じた変化を視覚的に示す感温物質を有する感温部を設けた試薬収容容器である。
ここで、「感温物質」には、例えば、透明度、色彩または形状が変化するものがある。該感温部は、外部から測定可能となるように前記感温物質を収容しまたは付着する必要がある。感温物質には、例えば、温度で色彩が変化するインク(サーモインキやサーモラベル(登録商標))や、形状記憶合金を用いたものがある。
第10の発明に係る試薬収容容器では、該恒温容器の温度を感知して該温度に応じた変化を視覚的に表示する感温物質を有する感温部を設けている。したがって、液収容部内の温度を把握することができるので、液収容部内の温度を管理して、信頼性の高い処理を行うことができるという利点がある。
第11の発明に係る試薬収容容器では、前記基部には、1または2以上のチューブ装着部を有し、該チューブ装着部には、液収容部または恒温容器を装着可能である。該チューブ装着部は、例えば、貫通孔であったり、また装着すべきチューブを収容する容器状のものであっても良い。ここで、チューブとは、液収容部、恒温容器、測定用器具、ピペットチップ等の各種機能を有する容器や器具を示す。
第11の発明に係る試薬収容容器では、チューブ装着部に着脱自在に恒温容器または液収容部等のチューブを装着することによって容器に種々の機能をもたせ、多様性または汎用性のある処理を行うことができるという利点がある。
第12の発明は、基部と、試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部を囲むように設けた恒温容器と、該恒温容器内であって該恒温容器に囲まれた該液収容部外の空間に収容され、該液収容部を加熱する発熱剤または冷却する冷却剤と、前記基部に設けられ、前記恒温容器と外部との間で気体の出入り可能な孔部と、前記液収容部の全部または一部に試薬を収容するとともに、前記基部上に剥離可能または穿孔可能に貼付されて少なくとも試薬を収容した液収容部の開口部および前記孔部を塞ぐ密封用フィルムとを有する試薬収容容器である。
第12の発明に係る試薬収容容器では、基部に液収容部の開口部と孔部とを設けて、少なくとも試薬の収容されている液収容部の開口部および孔部を密封用フィルムで剥離可能または穿孔可能に塞ぐように貼付している。したがって、基部において、容易に開口部および孔部を塞ぐことができ、また、処理実行の際に、該フィルムを簡単かつ確実に除去することができるという利点がある。
第13の発明は、試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部の壁の全体または一部を形成する恒温部材とを有し、前記恒温部材は、外部からの信号に応じて前記液収容部内を加熱しまたは冷却する試薬収容容器である。
ここで、「壁」は側壁のみならず、底壁等を含み、液収容部を囲んでいる部分をいう。「恒温部材」とは、外部からの信号に応じてその温度を上昇させまたは下降することが可能な部材をいう。
「信号」とは、前記恒温部材が導電性部材の場合には、電磁気的信号、すなわち電気または磁気による信号である。恒温部材による温度を検知して、該温度に基づいて信号を発生することも可能である。
「壁の全体または一部を形成する恒温部材」であるから、恒温部材としては、容器の壁と同程度以下の薄さをもつことになる。すると、薄い壁をもつ液収容部であれば、恒温部材も薄く形成されることになる。
第13の発明によれば、液収容部の壁の外側に恒温部材を取付ける場合に比較して、液収容部内と壁が直接接触しているので、壁による熱の反射または遮断を防止し、液収容部内に対して熱をより一層効率的に伝達することができ、熱効率が高い。
さらに、液収容部の壁を恒温部材で形成しているので、金属ブロック等の必要以上に大きな恒温部材を液収容部の外側に設ける必要がなく、外側には、その駆動装置、例えばバッテリーを設けるだけで足りるので全体として軽量化を図ることができる。
予め液収容部に最適な恒温部材を形成することができ、外部に、液収容部や容器の種々の条件を満足する恒温部材を設ける必要がなく、反応性、多様性がある。
前記液収容部を適当な形状にすることによって加熱または冷却の信号を与えてから液温が均等な温度分布になるまでの時間を短縮化して、迅速かつ効率的に処理を行うことができる。
また、恒温部材は、液収容部の壁の全部または一部を形成するものであるので熱容量が少なくて済み、加熱または冷却に必要なエネルギを節約してバッテリー電源によっても十分に対応させることが可能である。
第14の発明は、前記壁は、その内壁面が液収容部内に面し、その外壁面が液収容部外にあって、その内外壁面間が一体的に形成された試薬収容容器である。
ここで、「内外壁面間が一体的に形成され」とは、前記液収容部の内壁面と外壁面とで挟まれた壁の部分は、例えば、金属、樹脂等またはこれらを結合した固体の状態で分割自在ではないように壁として形成されていることを意味する。したがって、壁全体または壁の一部として形成された恒温部材としては、壁から分離自在な恒温部材を有する場合、例えば、単に壁に接触しているだけに過ぎない恒温部材や、壁に螺子等によって着脱自在に取り付けられた恒温部材、壁に溶接等で取り付けた別部材に対して着脱自在に取付けた恒温部材、壁から完全に離れている恒温部材は分割可能であるので除外される。そのために、液収容部の壁が、液収容部の壁として要求される厚さ程度になるように恒温部材を形成するようにすれば、試薬収容容器のサイズや装置全体の規模を抑制し、加熱手段の存在を意識することなく取り扱うことができる。
第14の発明によれば、壁が一体的に形成され、したがって、壁の全体または一部を形成しているので、前述した効果を奏する他、より一層熱効率が高く、恒温制御を高い精度で行うことができる。
第14の発明によれば、液収容部または試薬収容容器をコンパクトかつ構造を簡単化し、軽量化し、簡単かつ安価に製造することができる。
第15の発明は、前記恒温部材は所定電気抵抗をもつ導電性部材を有し、前記信号は電磁気的信号である試薬収容容器である。
ここで、「所定電気抵抗」としては、所定の電流を前記導電性部材内を流すことによって、該導電性部材が目的に応じた温度を達成するのに心要な発熱を行うことができる値である。例えば、表面抵抗値でいうと、単位面積あたり例えば、数百Ωから数Ω程度、また、誘導加熱を可能とする抵抗値は、例えば、数Ωcm以上である。導電性部材としては、例えば、所定電気抵抗値をもつ1種類の物質からなる場合、または、異なる抵抗値をもつ2種類以上の物質が接合、溶着、蒸着、溶融、溶接、接着、付着、貼着しているような場合がある。前者の場合には、電磁気的信号としての電流値の大きさに温度が依存し、後者の場合には電流値のみならず、ペルティエ効果により、電流の向きにも温度が依存し加熱のみならず冷却も可能とする。
「導電性部材」としては、例えば、金属、金属酸化物等の金属化合物、合金、半導体、半金属、導電性樹脂等の導電性物質、これらの導電性物質と非導電性物質、例えばセラミックス、ガラス、合成樹脂等とを組み合わせたもの、または、導電性物質同士を組み合わせたものであっても良い。例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、鉄、鉄合金、ニクロム合金、2種煩の異なる導電性物質で形成した部材を接着、溶接、接合することによって結合した場合がある。これらの部材に電流を流すことによって、または鉄、鉄合金の場合には、時間的に変動する磁場を印加することによって、これらの部材を誘導加熱することができる。2種類の金属を接合した場合には、電流の方向によって加熱および冷却を行うことができる。
導電性部材の形状としては、線状、薄膜状、箔状、膜状、薄板状、板状、細長形状、層状等がある。導電性部材の補強のために該導電性部材を非導電性部材に接着、溶着、蒸着した物であっても良い。「電磁気的信号」とは、電気的信号または磁気的信号であって、所定温度の熱や冷気を加えることによる熱力学的信号を除く。
第15の発明によれば、前記恒温部材として、所定電気抵抗をもつ導電性部材を有している。したがって、電磁気供給部からの電気的または磁気的信号によって、容易、かつ確実に加熱または冷却を行うことができる。また、全体として装置規模を縮小することができる。
また、第15の発明によれば、恒温部材が試薬収容容器自体に形成されているので、該試薬収容容器の形状に拘らず、接触部等の位置さえ共通すれば、種々の試薬収容容器に使用することができるので、電磁気供給部及び試薬収容容器の規格化を可能にする。また、導電性部材は、抵抗値および電流値を適当に設定することによって少量の材料で発熱が可能であるため、恒温部材、したがって試薬収容容器のサイズまたは量を小さくしかつ軽量化することができる。
また、試薬収容容器が存在しないのに加熱装置だけ駆動されるような事故を未然に防止し、また、各々試薬収容容器に応じた恒温処理されることになって、信頼性の高い恒温制御を行うことができる。
第16の発明は、前記試薬収容容器には外部に設けた電磁気供給部の端子と接触することによって電気的信号を受ける接触部が設けられた試薬収容容器である。
ここで、接触部としては、前記導電性部材そのもの、または、導電性部材と電気的に接続した電極であっても良い。また、接触部は、前記液収容部の前記壁または該液収容部の他の部位、例えば、開口部に、外側に向かって設けられた鍔、フランジ、さらには、該試薬収容容器の、基部、基台、支持板、支持台または支持部等である。接触部を設けることによって、外部端子との電気的接続と試薬収容容器の支持との両方を兼ね備えることができるので、構造上、コンパクト隣かつ扱いやすい。
なお、前記導電部材が金属部材であって、外部に設けた電磁気供給部から時間的に変動する磁気的信号である磁力線を照射しまたは照射しないことによってその温度の上昇または下降することもできる。この場合、金属部材としては、鉄、ステンレス鋼等の鉄合金によるものがある。前記恒温部材の温度は、磁気的信号である前記磁力線の時間的変動、または磁力線の強さに依存して変化させることができる。
第16の発明によれば、接触部との接触によって電気的信号を供給することができるので、接触部が試薬収容容器の支持部を兼ねることによって構造を簡単化しまた扱いやすい。また、所定の構造をもつ試薬収容容器を所定の位置に設置して接触部と接触させることによって初めて恒温制御が行われるので、より一層操作ミスや誤動作による発熱を防止しやすい。
第17の発明は、前記導電性部材は、前記液収容部の壁を形成し、または、前記壁を被覆し、該壁に内蔵され、若しくは該壁に付着した試薬収容容器である。
ここで、「液収容部の壁を形成し」とは、壁自体を導電性部材で形成し、「前記壁を被覆し」とは、壁面の全体を覆うように設けたものであり、「前記壁面に付着し」とは、壁面の一部に設けたものをいう。
第17の発明によれば、恒温部材として導電性部材で壁を形成し、壁に被覆しまたは内蔵等しているので、電気的な信号によって容易に温度の制御を行うことができる。また、壁自体に導電性部材を設けて発熱等を行うので効率が高い。試薬収容容器全体をコンパクトに形成することができる。試薬収容容器のみならず試薬収容容器外においても、加熱手段の存在を意識しないで取り扱うことができるので扱いやすい。
第18の発明は、前記液収容部の前記壁は、空隙、溝または孔を有するフレームを有し、膜状部材または薄板が前記フレームの前記空隙、溝または孔を覆おうように設けた試薬収容容器である。
ここで、「膜状部材」または「薄板」は、可撓性のある軟質材の場合と非可撓性の硬質材の場合がある。「フレーム」としては、例えば、樹脂、ガラス、金属等の剛性のある物質で形成される。フレームを金属部材で形成して、外部からフレームに向けて前記磁力線を照射し、または照射しないことによって温度の上昇または下降を行うことも可能である。また、該膜状部材または薄板に恒温部材である前記導電性薄膜を形成して壁とするのが適当である。
第18の発明によると、前記フレームの空隙、溝または孔を恒温部材を形成した膜状部材や薄板で覆うことによって、恒温部材と液収容部内との間の距離が近づくので、液収容部内への加熱冷却効果を高めるとともに、フレームを設けているので、剛性がある。
なお、第13の発明から第18の発明について、第6の発明、第8の発明、第9の発明、第11の発明を組み合わせて、試薬収容容器を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は試薬収容容器を示す図(実施例1)、第2図は他の試薬収容容器を示す図(実施例2)、第3図は試薬収容容器を示す斜視図(実施例3)、第4図は加熱または冷却の実験例を示す図、第5図は他の試薬収容容器を示す図(実施例4)である。
1、10、20、30、40 試薬収容容器
2、11、23、41 基部
3、4、12、15、24、25、42、45 ホール
5、16、22、31 恒温容器
6、18、29 孔部
7、19、 蓋
8、17 発熱剤
14、44 貫通孔
46、56 酸化スズ膜
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る試薬収容容器によれば、主な熱の発生、吸収を恒温容器内の化学変化や化学反応により行い、周囲に設けた恒温容器により外部から熱を遮断することで、加熱または冷却に用いる電力を低減することが可能であり、温度制御だけを電力により行うこともできる。したがって装置全体の電力消費を低減することができる。さらに今後予想されるバッテリー性能の飛躍的向上や将来実用化される燃料電池が実現した場合は、それらと組み合わせることで、低電力で長時間稼動できる装置を提供することができた。
また、使用者によって、DNA等の遺伝子、免疫物質、蛋白質、種々の生体内物質、最均等の微生物、ウィルス当の捕獲、抽出、濃縮、検査、分析を効率良く行なうことができる携帯に便利な試薬収容容器を提供することができた。
さらに、新たな病気の発生地域における病原体の特定、戦場やバイオテロ現場において使用される生物化学兵器の特定を、現場において迅速かつ確実に行ない、迅速に対抗策を立てることができる試薬収容容器を提供した。
以下、具体的に、本願実施の形態に係る試薬収容容器を説明する。
【実施例1】
第1図(a)は、本発明の実施例に係る試薬収容容器1の平面図を示し、第1図(b)(C)は、第1図(a)で示したAA線視断面図とBB線視断面図を各々表す。
該試薬収容容器1は、上から見ると細長い長方形状に形成された基部2と、該基部2に開口部を有するように設けられた複数個(この例では10個)の前記液収容部に相当するホール3と、該ホール3よりも離れた位置に設けられた前記液収容部に相当する1個のホール4とを有する。該ホール4の外面の周囲は、恒温容器5によって囲まれている。したがって、ホール4内の収容物は、2重の壁で囲まれていることになる。また、その恒温容器5の上側には環状の蓋7を有し、該恒温容器5の上側に設けた口部5aを該蓋7が塞いでいる。該蓋7は前記口部5aに対して着脱可能に設けられている。該蓋7には空気導入用の孔部6が複数個設けられている。
また、該恒温容器5内であって、前記ホール4の外面である外壁の外側には、発熱剤が収容されている。該発熱剤は、例えば、鉄粉、活性炭、食塩、および水分を保持した保水材を混合したものが収容されている。これらの量は、設定すべき温度、有効時間、ホール4または恒温容器の容量、ホール4の材質、または試薬の種類等によって定められる。本実施例によると、恒温容器5を一群のホール3から離れた位置に設けているので、恒温容器5による前記ホール3への加熱の影響を小さくして信頼性のある処理を行うことができる。
また、本実施例にあっては、前記基部2の上側表面に貼付しているフィルム等(図示せず)を剥がすだけで、各ホール3、4内に収容されている試薬を利用することができるとともに、孔部6を通って空気が前記恒温部材5内に導入されることになり、前記鉄粉が酸化されることにより発生する熱により加熱することができるので取り扱い易い。
また、本実施例にあっては、1群のホール3を直列には位置したカートリッジ状に形成しているので、一連の処理を、1個のカートリッジ状容器を用いて処理することができるので、効率的かつ迅速に処理を行うことができる。
【実施例2】
続いて、第2の実施例に係る試薬収容容器10を第2図に基づいて説明する。
第2図(a)は、該試薬収容容器10の平面図であり、第2図(b)(c)は、第2図(a)におけるA’A’線視断面図と、B’B’線視断面図であり、第2図(d)(e)は、恒温容器の平面図と、恒温容器および該恒温容器が囲んでいる液収容部としてのホール15の断面図であり、第2図(f)は、前記恒温容器16を前記試薬収容容器10に装着した場合のA’A’線視断面図を示す。
第2図(a)に示すように、本実施例に係る試薬収容容器10は、上から見て細長い長方形状に形成された基部11と、該基部11に開口部を有するように設けられた複数個(この例では10個)の液収容部に相当するホール12と、一群のホール12よりも離れた位置に形成されたホール13および前記チューブ装着部に相当する貫通孔14とを有する。該貫通孔14には、種々の機能をもつチューブ、例えば、種々の試薬を収容している液収容部や恒温容器等を装着することが可能である。
該恒温容器16は、前記ホール13よりも小さい内径外径をもつ試薬を収容するホール15の外面の周囲を、その開口部を除いて囲むように形成されている。該ホール13の外面である外壁の外側には、発熱剤が収容されている。その恒温容器16の上側にある環状の開口部をもつ口部17aには環状の蓋19が嵌められており、該蓋19には、前記恒温容器16内に空気を導入する空気導入用の孔部18が複数個形成されている。該蓋19の外径は、前記貫通孔14の内径よりも大きく形成することによって、該恒温容器16が前記貫通孔14から脱落しないように形成している。
本実施例によれば、貫通孔14の位置が一群の前記ホール12よりも離れた位置に形成されているので、該貫通孔14に、恒温容器16を取付けても、他のホール12への影響は小さい。なお、ホール13には、外部からの温度変化の影響を受けにくい試薬、例えば磁性粒子の懸濁液を収容し、または外部からの温度変化の影響を受けにくい処理を行うために用いれば良い。
また、本実施例によれば、貫通孔14に恒温容器16を着脱自在に装着することができるので、恒温処理が終了した場合に別の恒温容器を装着して内容物を入れ替えてさらに恒温処理を続行させたり、または恒温処理を行う前後に別の機能を有する各種チューブを装着して、多様性のある処理を行うことができる。
以上説明した実施例1または実施例2において使用する発熱剤の例を説明する。
前記ホール4またはホール15に、例えば、蒸留水500μlを収容し、前記発熱剤としては、例えば、鉄粉を質量28.9g(重量比54%)、活性炭8g(15%)、食塩1.6g(3%)、水分15g(28%)を用いる。これらの量は、発熱量や発熱時間に合わせて選ばれる。該発熱剤を用いた場合の前記蒸留水の温度の時間依存性を示す実験例を第4図(a)に示す。
該発熱剤による発熱反応の化学反応は、
Fe+3/4O+3/2HO=Fe(OH)+96kcal/mol である。
また、該実験例には、保水材の量によって発熱温度および持続時間を制御することができることを示すために保水材としては、吸水ポリマーを用いて、その吸水ポリマーの量、0g、80g、40g、20g、30gを前記発熱剤に加えた場合の前記ホール4またはホール15内に前記蒸留水の温度の時間依存性をも示している。
該実験例によると、保水材を全く含有しない場合には、前記ホール内の蒸留水は、約10分程度で85℃にまで加熱され、1時間で程度で温度は減衰し始め、2時間を過ぎる時点で室温程度に戻る。一方、種々の量の保水材を加えることによって、反応速度すなわち到達温度が制御できることが示されている。これは、吸水ポリマー表面に発熱剤が固着固定化し、酸素と結びつく確率が制限されるためである。また、反応速度は、混合層内の発熱剤の分散率、空隙率にも依存する可能性がある。
【実施例3】
続いて、第3の実施例に係る試薬収容容器20について第3図に基づいて説明する。
第3図(a)に示すように、該試薬収容容器20は、上から見ると細長い長方形状に形成された容器部21と、該容器部21に収容された一部試薬を冷却して維持するための角筒状の恒温容器22とからなっている。前記容器部21は、基部23と、該基部23に開口部を有するように設けた複数個の前記液収容部に相当するホール24と、該ホール24よりも所定長さ離れた位置に設けられた前記液収容部に相当する1個のホール25からなる。
前記恒温容器22は、前記液収容部であるホール25を囲むために前記容器部21と別体に設けられ、該恒温容器22は、前記容器部21の前記ホール24の深さまたはそれよりもやや長い高さの中空をもつ角筒26と、該角筒26の上面に前記基部23の横幅またはそれよりもやや長い間隔で穿設され、前記ホール25が挿入されて前記ホール25によって嵌合されるべき複数個(この例では8個)の口部27とを有するものである。なお、該角筒26の両端の開口部は、該恒温容器に設けた前記孔部29に相当する。
したがって、前記容器部21の長手方向は、該角筒26の長手方向に直角に最大8本が並列に載置した状態で組み合わされることになる。また、前記各口部27の内径部は、前記ホール24の外形部に密着するように形成する。これによって、前記恒温容器22からの冷却剤の漏れを防止して、より保温効果を高めることができる。前記該ホール24の外径部または前記口部27の内径部のどちらか一方には、Oリング構造を形成して、該ホール24と前記口部27との間の密封効果を高めるようにするのが好ましい。
該恒温容器22によって前記ホール25を冷却して維持するには、使用時において図中矢印28の方向に、前記孔部29より冷却スプレーによって冷却用液化ガスを吹き付けたものを冷却剤として用いる。なお、前記所定長さは該恒温容器22の前記角筒26の上面の縁から口部27の開口部のうち前記縁に最も近い端部までの距離またはそれよりも長いことが必要である。
第3図(b)は、他の例に係る試薬収容容器30を示すものである。
該試薬収容容器30は、前述した容器部21と、恒温容器31とからなる。第3図(b)では、前記容器部21の液収容部(ホール)25が口部27に嵌合した状態を表わしている。該恒温容器31は、前記角筒26の中空の内部に、吸熱体の機能をもつ熱導電性の素材、例えば銅、アルミニウム等の金属製の円筒状の2本のチャンバー32,33を有する点で、前記恒温容器22とは異なるものである。
2本の該チャンバー32,33は、前記角筒26の軸方向(長手方向)と該円筒軸方向(長手方向)を揃えた状態であって、かつ、前記各口部27に前記ホール25が挿入して嵌合した際に、該ホール25の両側から挟むように近接または接触する位置となるように設けたものである。この例の場合には、前記冷却スプレーによる冷却用液化ガスは、該チャンバー32,33の軸方向に沿ってその中空の内部に吹き付けられることになる。該例に係る恒温容器31に、熱導電性の素材で形成されたチャンバー32,33を設け、組み合わされた前記容器部21の前記ホール25の側面に接触または近接するように設けているので、該恒温容器31に載置された複数本の前記ホール25に対して、一様で厶ラのない冷却を実行することができる。
このようにして得られる冷却効果に関する実験例を第4図(b)に示す。
該実験は恒温容器なしで前記試料収容容器の前記ホール25(アルミニウム製)に2mlの蒸留水を収容し、該ホール25に直接冷却スプレーによって、冷却用液化ガスとしてLPG(石油液化ガス)を噴射したものである。該例によると、約60秒以内に4℃に到達し、該冷却効果がある程度保持されていることがわかる。したがって、恒温容器を用いてホール25に直接冷却スプレーによって冷却用ガスを噴射すれば、その持続時間はさらに長期になると考えられる。ここで、冷却用ガスとしては、その他、原液と噴射剤とからなり、粉末状または霧状に噴射されたとき、噴射剤の気化熱により噴出物が氷結状態またはシャーベット状態で、適用部位に付着するようにして冷却状態を保持させるようにしたものであっても良い。そのような例としては、前記原液として1価の低級アルコール40.0〜97.0重量%、1価の高級アルコール3.0〜15.0重量%を含有し、前記噴射剤としてジメチルエーテルまたは液化石油ガスを含有するものがある(特開平12−087017号公報)。
なお、該恒温容器は、冷却する場合のみならず、第1図または第2図で説明したように加熱する場合にも、該当する液収容部および恒温容器の組み合わせたものを、該恒温容器の前記口部に挿入嵌合するように形成して、挿入嵌合することによって、保温をさらに高めることができる。
【実施例4】
続いて、第4の実施例に係る試薬収容容器40を第5図に基づいて説明する。
第5図(a)は、該試薬収容容器40の平面図であり、第5図(b)(c)は、第5図(a)におけるA”A”線視断面図と、B”B”線視断面図であり、第5図(d)(e)は、恒温部材を有する液収容部の平面図と、恒温部材を有する液収容部としてのホール45の断面図であり、第5図(f)は、前記恒温部材を有する液収容部としてのホール45を前記試薬収容容器40に装着した場合のA”A”線視断面図を示す。
第5図(a)に示すように、本実施例に係る試薬収容容器40は、上から見て細長い長方形状に形成された基部41と、該基部41に開口部を有するように設けた複数個(この例では10個)の液収容部に相当するホール42と、一群のホール42よりも離れた位置に形成されたホール43および前記チューブ装着部に相当する貫通孔44とを有する。該貫通孔44には、種々の機能をもつチューブ、例えば、種々の試薬を収容している液収容部を装着することが可能である。
前記液収容部としてのホール45は、その外面の周囲を、その開口部を除いて恒温部材としての導電性薄膜である酸化スズ膜46が囲むように、溶着、接着、付着等により被覆形成されている。該ホール45の環状の開口部には、前記貫通孔44の内径よりも大きい半径を持つフランジ49が設けられて、該ホール45が前記貫通孔44から脱落しないように形成している。該フランジ49の裏側には、前記導電性薄膜である酸化スズ膜46が延設され、または該導電性薄膜の酸化スズ膜46と電気的に接続した1の接触部49aが設けられ、該酸化スズ膜46の底部分を他の接触部46aとする。また、前記基部41自体または前記貫通孔44およびホール43の開口部を囲む高台部分44aを導電性部材で形成する。該高台部分44aまたは基部41をバッテリー48の一方の電極と電気的に接続し、該バッテリー48の他方の電極と端子47とを接続しておく。前記ホール45を前記貫通孔44に装着した際に、前記接触部49aは該高台部分44aまたは基部41と接触し、前記ホール45の接触部46aは、端子47と接触するようにする。これによって、前記ホール45を前記貫通孔44に装着するだけで、前記酸化スズ膜46に前記端子、接触部49a,46aを通して電流を流すことができ、これによって、前記酸化スズ膜46がもつ電気的抵抗によって発熱させて、前記液収容部であるホール45内を加熱することができる。
本実施例によれば、貫通孔44の位置が一群の前記ホール42よりも離れた位置に形成されているので、該貫通孔44に、前記ホール45を取付けても、他のホール42への影響は小さい。なお、ホール43には、外部からの温度変化の影響を受けにくい試薬、例えば磁性粒子の懸濁液を収容し、または外部からの温度変化の影響を受けにくい処理を行うために用いれば良い。
また、本実施例によれば、貫通孔44に前記ホール45を着脱自在に装着することができるので、恒温処理が終了した場合に別のホールを装着して内容物を入れ替えてさらに恒温処理を続行させたり、または恒温処理を行う前後に別の機能を有する各種チューブを装着して、多様性のある処理を行うことができる。
さらに、本実施零例によれば、導電性薄膜を用い、該導電性薄膜に電流を供給することによって加熱を行うようにしている。したがって、導電性薄膜は熱容量が小さいので、大きなエネルギーを供給しなくても、加熱を行うことができるので、バッテリー電源によっても十分に加熱を行うことができる。また、試薬収容容器に導電性薄膜を用いることによって、容器の軽量化を達成することができる。
なお、第5図(g)には、第5図(a)に示した基部41に設けた前記貫通孔44に挿入可能な他の例に係る恒温部材を有する液収容部としてのホール55を示すものである。該ホール55は、その側面に孔55aを有するフレームに、恒温部材である導電性薄膜、例えば酸化スズ膜56が溶着、接合、蒸着等された膜状部材56aを前記フレームに接着して、前記孔55aを覆って形成されたものである。符号59は、フランジである。
該例に係るホール55によれば、前記恒温部材は、前記膜状部材または薄板のフレームに比較して薄い部材を介して液収容部内の液と接触するので、効率的かつ迅速に加熱または冷却を行うことができる。また、該ホール55はフレームを有しているので剛性がある。なお、この場合には、前記酸化スズ膜56の所定部分(前記接触部の1に相当)は、導電性薄膜で形成された基部41にも受けられた前記貫通孔44と接触するとともに、前記端子47は、該酸化スズ膜56の前記所定部分とは離れた他の部分(他の接触部に相当)と接触するような位置に設ける必要がある。
以上の説明において、鉄粉を用いる酸化反応による発熱剤の例を上げたが、これは例示に過ぎず、持続時間や温度によっては、他の発熱剤、例えば、アルミニウム等と石灰等による水酸化反応を利用するものであっても良い。この場合には、前記恒温容器の孔部または口部から水を導入することによって発熱を開始する。その他、該検査目的に応じた種々の発熱反応を利用することができる。また、冷却を行う例として、冷却スプレーによる冷却用液化ガスを用いる場合のみを説明したが、該場合に限られることなく、例えば、前記恒温容器またはその一部(例えば蓋)に多孔性の素材を用い該恒温容器内に気化しやすい揮発性のアルコール、水等を封入し、非使用時において前記多孔性の素材を用いた部分(または全体)に貼着されていた密封フィル厶を除去または穿孔することによって冷却を行うようにしても良い。なお、多孔性の素材を恒温容器に用いた場合には、肉眼で見えない多数の孔をもつ該多孔性の素材部分が孔部に相当する。
またこれらの冷却剤に所定の保冷剤を恒温容器内外で組み合わせることによって、その持続時間を制御することが可能である。
さらに、前記容器に、感温物質からなる感温部を前記試薬収容容器の前記恒温容器またはその近傍に取り付けて、該恒温容器内の温度を監視するようにしても良い。
なお、上記実施例にあっては、10個または11個または図上5個の液収容部が直列状には位置されたカートリッジ状の容器のみについて説明したが、この個数は該場合に限られるものではない。また、恒温容器の個数も1の場合に限られることはなく、複数個の恒温容器を設けることができる。さらに、前記恒温容器は例示したものに過ぎず、口部の個数も8個の場合に限られず、1個の場合を含め種々の場合が可能である。また、液収容部の配置についても、1個の場合であってもよく、また、複数の液収容部を行列状に配置させたマイクロプレートであっても良い。
以上の例では、導電性薄膜として酸化スズ膜を用いた場合のみについて説明したが、他の酸化金属、金属化合物や金属等物質であっても良く、1種類の導電性部材のみならず2種類の導電性部材を接合、蒸着、溶着等によって結合したものであっても良い。
また、各構成要素、液収容部、導電性薄膜、恒温容器、貫通孔、接触部、端子、ホール、基部等は、適当に変更しながら組み合わせて任意に結合して、試薬収容容器を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
DNA等の遺伝子、免疫物質、蛋白質、血液等のヒト等の生体内物質、細菌等の微生物、ウィルス等の捕獲、抽出、濃縮、検査、分析等を必要とする分野、例えば、工業、医療保健業、薬剤製造業、農業、水産業、畜産業、生化学、軍事、治安等のあらゆる分野で利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部を囲むように設けた恒温容器とを有し、該恒温容器内であって、該恒温容器に囲まれた該液収容部外に、該液収容部を加熱する発熱剤または冷却する冷却剤を有する試薬収容容器。
【請求項2】
前記恒温容器には外部との間で気体等の物質の出入りが可能な孔部または/および口部を設けた請求の範囲1に記載の試薬収容容器。
【請求項3】
前記恒温容器は、該恒温容器によって囲まれた前記液収容部に固定して設けた請求の範囲1または請求の範囲2のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項4】
前記恒温容器は、該恒温容器によって囲まれた前記液収容部に対して着脱自在に設けた請求の範囲1または請求の範囲2のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項5】
前記発熱剤または冷却剤は、前記恒温容器の前記孔部または/および前記口部を通して該恒温容器内に供給される請求の範囲2ないし請求の範囲4のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項6】
前記液収容部の一部または全部に所定試薬が収容されるとともに、少なくとも該試薬を収容した液収容部の各開口部を密封用フィルムで剥離可能または穿孔可能に密封した請求の範囲1ないし5のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項7】
前記孔部は、前記密封用フィルムで剥離可能または穿孔可能に密封した請求の範囲2ないし請求の範囲6のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項8】
前記試薬収容容器は基部を有し、前記液収容部の開口部および/または前記孔部が該基部に位置するように前記液収容部および恒温容器が該基部に設けられた請求の範囲1ないし請求の範囲7のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項9】
前記試薬収容容器は、複数の前記恒温容器を有し、該各恒温容器で維持されるべき各温度は異なるように設定されている請求の範囲1ないし請求の範囲8のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項10】
前記恒温容器またはその近傍の基部に、該恒温容器の温度を感知して該温度に応じた変化を視覚的に表示する感温物質を有する感温部を設けた請求の範囲1ないし請求の範囲9のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項11】
前記基部には、1または2以上のチューブ装着部を有し、該チューブ装着部には、液収容部または恒温容器を着脱自在に装着可能である請求の範囲1ないし請求の範囲10のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項12】
基部と、試薬を収容する1または2以上の液収容部と、
少なくとも1の前記液収容部を囲むように設けた恒温容器と、
該恒温容器内であって該恒温容器に囲まれた該液収容部外に収容され、該液収容部を加熱する発熱剤または冷却する冷却剤と、
前記基部に設けられ、前記恒温容器と外部との間で気体等の物質の出入り可能な孔部と、
前記液収容部の全部または一部に試薬を収容するとともに、前記基部上に剥離可能または穿孔可能に貼付されて、少なくとも試薬を収容した液収容部の開口部および前記孔部を塞ぐ密封用フィルムとを有する試薬収容容器。
【請求項13】
試薬を収容する1または2以上の液収容部と、少なくとも1の前記液収容部の壁の全体または一部を形成する恒温部材とを有し、前記恒温部材は、外部からの信号に応じて前記液収容部を加熱しまたは冷却する試薬収容容器。
【請求項14】
前記壁は、その内壁面が液収容部内に面し、その外壁面が液収容部外にあって、その内外壁面間が一体的に形成された請求の範囲13に記載の試薬収容容器。
【請求項15】
前記恒温部材は所定電気抵抗をもつ導電性部材を有し、前記信号は電磁気的信号である請求の範囲13又は請求の範囲14のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項16】
前記試薬収容容器には外部に設けた電磁気供給部の端子と接触することによって電気的信号を受ける接触部が設けられた請求の範囲13乃至請求の範囲15のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項17】
前記導電性部材は、前記液収容部の壁を形成し、または、前記壁を被覆し、該壁に内蔵され、若しくは該壁に付着した請求の範囲13乃至請求の範囲16のいずれかに記載の試薬収容容器。
【請求項18】
前記液収容部の前記壁は、空隙、溝または孔を有するフレームを有し、膜状部材または薄板が前記フレームの前記空隙、溝または孔を覆おうように設けた請求項の範囲13乃至請求の範囲17のいずれかに記載の試薬収容容器。

【国際公開番号】WO2005/045399
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515379(P2005−515379)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016896
【国際出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(502338292)ユニバーサル・バイオ・リサーチ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】