説明

試薬容器及びこれを備える自動分析装置

【課題】試薬容器を冷却する冷却構造を複雑化及び大型化することなく、収容されている試薬を均一化し、もって測定結果の精度を向上させる自動分析装置及び試薬容器を提供する。
【解決手段】底面側に配された自動分析装置の冷却部によって冷却される試薬容器の上部を、下部と比べて低い熱抵抗値にする。または、容器の上部は、下部と一体形成される壁部と、壁部の少なくとも一部を囲うとともに、熱伝導物質で組成された被覆体とから形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検試料と試薬とを分注して反応を測定する自動分析装置及びこの自動分析装置に保持される試薬容器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、被検試料と試薬とを分注して反応を測定する装置である。反応管に血液や尿等の被検試料と試薬とを分注してこれらを反応させた後、反応によって生じる色調の変化を光測定することにより検体中の被測定物質または酵素の濃度や活性を測定する。
【0003】
試薬は、変性を招かないように冷却しておく必要がある。多くの試薬を分析毎に試薬庫から取りだして設置し、使用後元に戻すのは効率的でないため、自動分析装置には、冷却機構を有する試薬庫が設けられていることが多い。この冷却機構を有する試薬庫が設けられた自動分析装置は、試薬庫に試薬ラックを回転可能に収納し、この試薬ラックに試薬容器を複数並べて収容している。
【0004】
冷却機構を有する試薬庫は、一般的に底部に一定の厚みを持たせ、この底部の内部空間に、冷水循環系あるいはペルチェ素子を備える冷却部が設けられている。冷却部は、上方に位置する試薬ラックに収納された試薬容器内の試薬を冷却する。換言すると、試薬容器の底面側には、冷却部が配されており、試薬容器の底面側から上方へ冷気が伝わっていき、内容物の試薬を冷却する。
【0005】
試薬容器の底面側に冷却部を設けた場合には、底面側に近い試薬が先に冷却されていく。従って、試薬容器の底面側に近い試薬のほうが液面側よりも温度が低いという温度分布が発生し、同時に、試薬の温度と濃度とは相関するため、底面側に近い試薬のほうが液面側よりも濃度が高いという濃度分布が発生してしまう。この試薬の不均一性は、底面側の試薬の方が温度が低いと試薬容器内に対流が発生しづらいために、静置状態では解消されづらい。
【0006】
このような試薬の不均一性が発生した場合には、液面に近い試薬を分注した場合と底面側に近い試薬を分注した場合とにおいて、分注した試薬の温度及び濃度が異なってしまうため、測定精度の低下を招いてしまう。
【0007】
そこで、試薬容器内の試薬を均一にするために、試薬容器の側面に冷却部を設ける構成が提示されている(例えば、「特許文献1」参照。)。この試薬容器の側面に冷却部は、試薬容器の側面に、冷却板と、ペルチェ素子及び高熱伝導部材で構成される廃熱処理機構とを並べた構成を有する。
【0008】
この試薬容器の側面に冷却部を設ける構成では、液面に近い試薬も底面に近い試薬も均一に冷却することができるため、温度分布や濃度分布が発生しづらくなり、試薬の均一性は保たれる。しかし、このような試薬容器の側面に冷却部を設ける構成では、廃熱のために、試薬容器の側面に配される冷却部と試薬容器の底面側に配される廃熱機構とを繋ぐ伝達機構を設ける必要が生じ、冷却機構が複雑化してしまっていた。また、試薬庫の幅方向に試薬容器と冷却部とが並ぶ構成をとるために、試薬庫の寸法が大きくなり、装置自体が大型化してしまっていた。
【0009】
【特許文献1】特開2007−24714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試薬容器を冷却する冷却構造を複雑化及び大型化することなく、収容されている試薬を均一化し、もって測定結果の精度を向上させる自動分析装置及び試薬容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明に係る試薬容器は、被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置に保持されて用いられ、前記保持されたときに前記自動分析装置の冷却部が底面側に位置して冷却されるとともに、蓋側から前記試薬が取り出される試薬容器であって、容器の蓋側の側壁が底面側の側壁と比べて低い熱抵抗値を有すること、を特徴とする。
【0012】
前記蓋側の側壁の少なくとも一部が、前記底面側の側壁よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で形成されているようにしてもよい(請求項2記載の発明に相当)。
【0013】
前記底面側の側壁の少なくとも一部が、前記蓋側の側壁よりも熱伝導率が低い熱遮断物質で形成されているようにしてもよい(請求項3記載の発明に相当)。
【0014】
前記蓋側の側壁の厚みが底面側の側壁よりも薄く形成されているようにしてもよい(請求項4記載の発明に相当)。
【0015】
収容される前記試薬の粘度に応じて、前記蓋側の側壁の前記熱抵抗値と前記底面側の側壁の前記熱抵抗値との間に差が設けられているようにしてもよい(請求項5記載の発明に相当)。
【0016】
収容される前記試薬の粘度に応じて、前記蓋側の側壁の少なくとも一部が熱伝導物質で形成され、または、前記底面側の側壁の少なくとも一部が熱遮断物質で形成され、または、前記蓋側の側壁の少なくとも一部が熱伝導物質で形成されるとともに、前記底面側の側壁の少なくとも一部が熱遮断物質で形成されているようにしてもよい(請求項6記載の発明に相当)。
【0017】
上記課題を解決するために、請求項7記載の本発明に係る試料容器は、被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置に保持されると共に、前記保持されたときに前記自動分析装置の冷却部が底面側に位置して冷却されるとともに、蓋側から前記試薬が取り出される試薬容器であって、容器の蓋側の側壁は、前記底面側の側壁と一体形成される壁部と、前記壁部の少なくとも一部を囲うとともに、前記壁部よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で組成された被覆体と、から形成されること、を特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するために、請求項8記載の本発明に係る自動分析装置は、被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置であって、前記試薬を収容するとともに、蓋側から該試薬が取り出される試薬容器と、前記試薬容器の底面側に位置する冷却部を有し、前記試薬容器を保持する試薬庫と、を備え、前記試薬容器は、容器の蓋側の側壁が底面側の側壁と比べて低い熱抵抗値を有すること、を特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するために、請求項9記載の本発明に係る自動分析装置は、被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置であって、前記試薬を収容するとともに、蓋側から該試薬が取り出される試薬容器と、前記試薬容器の蓋側とは逆の底面側の側壁に配される冷却部を有し、前記試薬容器を保持する試薬庫と、を備え、前記試薬容器の蓋側の側壁は、前記底面側の側壁と一体形成される壁部と、前記壁部の少なくとも一部を囲うとともに、前記壁部よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で組成された被覆体と、から形成されること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、試薬容器の底面側に冷却部を配していても、液面に近い試薬が底面側よりも先に冷却されて温度が下がるために、試薬容器内の試薬に対流が生じ、試薬が均一になる。これにより、試薬容器の底面側に冷却部を配していても、測定結果の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る自動分析装置及び当該装置に保持される試薬容器の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0022】
図1は、試薬容器7を保持する自動分析装置100の構成を示す図である。
【0023】
自動分析装置100は、被検試料と試薬とを分注して反応を測定することにより、被検試料に含まれる化学成分を分析する装置である。被検試料は、分析対象であり、例えば血液や尿等である。試薬は、被検試料の成分を化学反応させる薬品である。試薬容器7は、この試薬を内容物として収容しておく器である。試薬容器7には、被検試料の項目や該項目のキャリブレータに対して選択的に反応する第1試薬や、第1試薬と対の第2試薬が収容されている。
【0024】
この試薬容器7は、円形状の試薬ラック1に環状に並んで収納されている。第1試薬の入った試薬容器7を収納した試薬ラック1は、試薬庫2に収納され、第2試薬の入った試薬容器7を収容した試薬ラック1は、試薬庫3に収納される。
【0025】
被検試料やキャリブレータは、被検試料容器17に収容される。この被検試料容器17は、ディスクサンプラ6にセットされている。
【0026】
試薬ラック1は、各々図示しない駆動装置によって1サイクル毎に所定角度ずつ回動する。また、ディスクサンプラ6は、図示しない駆動装置によって1サイクル毎に制御された角度回転する。
【0027】
試薬庫2の近傍には、第1試薬分注プローブ14が配置され、試薬庫3の近傍には、第2試薬分注プローブ15が配置され、ディスクサンプラ6の近傍には、分注プローブ16が配置される。第1試薬分注プローブ14は、試薬庫2上の所定吸引位置に存在する試薬容器7から1サイクル毎に第1試薬を吸引する。第2試薬分注プローブ15は、試薬庫3上の所定吸引位置に存在する試薬容器7から1サイクル毎に第2試薬を吸引する。分注プローブ16は、ディスクサンプラ6上の被検試料容器17から被検試料或いはキャリブレータを吸引する。
【0028】
第1試薬分注プローブ14、第2試薬分注プローブ15、及び分注プローブ16は、所謂ストローであり、図示しないポンプによって1サイクル毎に内部に負圧がかけられることで、第1試薬、第2試薬、又は被検試料を吸引する。
【0029】
吸引された第1試薬、第2試薬、及び被検試料に吐出されることで、反応管4に分注される。反応管4は、円形状の反応ディスク5に環状に並んで収納されている。反応ディスク5も、図示しない駆動装置によって1サイクル毎に所定角度ずつ回動する。
【0030】
第1試薬分注プローブ14は、第1試薬分注アーム8に支持され、第2試薬分注プローブ15は、第2試薬分注アーム9に支持され、分注プローブ16は、分注アーム10に支持される。第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、及び分注アーム10は、図示しない駆動装置によって回動及び上下動可能となっており、第1試薬分注プローブ14、第2試薬分注プローブ15、及び分注プローブ16は、この第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、又は分注アーム10の回動及び上下動によって試薬容器7及び被検試料容器17内に先端を突入させ、試薬及び被検試料或いはキャリブレータを吸引する。
【0031】
また、第1試薬分注プローブ14、第2試薬分注プローブ15、及び分注プローブ16は、この第1試薬分注アーム8、第2試薬分注アーム9、又は分注アーム10の回動及び上下動によって反応管4上に位置し、図示しないポンプによって1サイクル毎に内部が加圧されることで、第1試薬、第2試薬、及び被検試料を反応管4内に吐出する。
【0032】
反応ディスク5の外周囲には、撹拌ユニット11と、測光ユニット13と、洗浄ユニット12が円周方向に沿って並べられている。
【0033】
撹拌ユニット11は、1サイクル毎に、撹拌位置に停止した反応管4内における被検試料+第1試薬、キャリブレータ+第1試薬、被検試料+第1試薬+第2試薬、キャリブレータ+第1試薬+第2試薬などの混合液を撹拌する。例えば、撹拌ユニット11は、図示しない圧電体を一端に備えた攪拌棒が配されている。反応管4内に攪拌棒を差し込み、圧電体の圧電効果により攪拌棒を高周波振動させることにより攪拌を行う。この撹拌により試薬と被検試料との反応が促進される。
【0034】
測光ユニット13は、被検試料と試薬との混合液を含む反応管4を測光位置から測定する。測光ユニット13は、反応管4を挟んで配置される光源と受光部を有し、例えば、この混合液の吸光度を測光する。
【0035】
洗浄ユニット12は、洗浄・乾燥位置に停止した反応管4内の測定を終えた混合液を吸引すると共に、反応管4内を洗浄・乾燥する。
【0036】
図2は、このような自動分析装置100の試薬庫2,3の断面図である。
【0037】
試薬庫2,3は、外筒と内筒でなる2重筒状の容器である。外筒は、底が塞がれ、上面が開口している。内筒は、この外筒の底の中心から開口へ向けて立設されている。この試薬庫2,3のアニュラス空間(トーラス空間)に、試薬ラック1が同心円状に納められる。試薬ラック1は、試薬容器7を環状に収納し、試薬庫2,3内を内筒を中心に回動する。
【0038】
試薬庫2,3の外筒の底部は、一定の厚みを有している。この試薬庫2,3の外筒の底部には、内部に、冷水循環系あるいはペルチェ素子を備える冷却部19が設けられている。冷却部19は、上方に位置する試薬ラック1に収納された試薬容器7内の試薬を冷却する。試薬の変性を招かないようにするためである。換言すると、試薬容器7の底面側には、冷却部19が配されており、試薬容器7の底面側から上方へ冷気が伝わっていき、内容物の試薬を冷却する。
【0039】
図3は、このような自動分析装置100に保持されたときに、底面側に冷却部19が配置される試薬容器7の第1の具体例を示す側面断面図である。
【0040】
この試薬容器7は、内部空間を囲む壁部71の厚みは一定である。そして、この壁部71を立設方向を横断するように二分したときの上側に相当する上部72、即ち試薬を取り出される蓋側の壁部71が熱伝導物質721で形成されている。上部72以外の壁部71、即ち底面側である下部73は、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate, PET)やポリプロピレン(Polypropylene, PP)等の樹脂で形成されている。尚、上部72の範囲は、上部72の側面壁のみであってもよいし、蓋まで熱伝導物質721で形成されていてもよい。
【0041】
熱伝導物質721は、PETやPPよりも熱伝導率が高い物質であり、例えば、炭化ケイ素や、窒化アルミニウムや銅などの金属である。熱伝導率は、単位時間に単位面積を通過する熱エネルギーを温度勾配で割った物理量である。上部72の全てが熱伝導物質721で形成される場合には、熱伝導物質721としては、内部の試薬と直接接触するため、耐薬品性及び耐候性を有する炭化ケイ素が望ましい。
【0042】
即ち、この試薬容器7は、上部72と下部73とで熱抵抗値に差が設けられており、冷却部19に遠い上部72が、冷却部19に近い下部73と比べて低い熱抵抗値を有している。尚、熱抵抗値(m2+K/W)は、壁部71の厚み(m)を熱伝導率(W/(m+K))で除した数値である。本実施形態では、壁部71の厚みは一定であるため、熱伝導物質721で形成されている上部72は、下部73よりも熱抵抗値が低い。
【0043】
図4は、このような上部72を熱伝導物質721で形成した試薬容器7内で生じる試薬の対流を説明する試薬容器7の側面断面図である。
【0044】
図4の(a)に示すように、上部72の方が下部73よりも熱抵抗値が低いため、試薬容器7の外部と内部との間で貫流する熱量は、下部73よりも上部72を介した方が多くなる。従って、上部72に接する試薬、即ち液面に近い試薬の方が先に冷却されて温度が下がっていき、単位体積当たりの試薬の重量は、底面に近い試薬よりも液面に近い試薬のほうが重くなる。
【0045】
すると、図4の(b)に示すように、液面に近い試薬と底面に近い試薬の比重が変わり、液面に近い試薬が沈降し、底面に近い試薬が浮き上がっていく。即ち、試薬容器7内の試薬に対流が生じる。
【0046】
この対流により、図4の(c)に示すように、試薬容器7を冷却する冷却部19を容器の底面側に配置したままであっても、試薬容器7内の試薬が均一になり、試薬の残量に関係なく常に同じ状態の試薬を吸引することが可能となる。これにより、冷却構造の複雑化及び大型化を招くことがなく、測定結果の精度を向上させることができる。
【0047】
尚、上部72の全てを熱伝導物質721で形成する具体例を説明したが、上部72と下部73の熱抵抗値に差が生じれば、上部72の一部を熱伝導物質721で形成し、上部72の他をPETやPP等で形成するようにしてもよい。
【0048】
図5は、上部72を熱伝導物質721で形成する試薬容器7の第1の変形例を示す側面断面図である。図6は、上部72を熱伝導物質721で形成する試薬容器7の第2の変形例を示す側面断面図である。図7は、上部72を熱伝導物質721で形成する試薬容器7の第3の変形例を示す側面断面図である。
【0049】
例えば、図5に示すように、上部72を二重構造とし、内殻を熱伝導物質721で形成し、外殻をPETやPP等で形成する。この熱伝導物質721とPETやPP等との二重構造は、一体成形により実現してもよいし、内殻に外殻を接着するようにしてもよい。
【0050】
上部72の内殻を熱伝導物質721で形成する場合には、内殻の組成を、耐薬品性及び耐候性を有する炭化ケイ素とすることが望ましい。
【0051】
また、例えば、図6に示すように、上部72を二重構造とし、外殻を熱伝導物質721で形成し、内殻をPETやPP等で形成する。上部72の外殻を熱伝導物質721で形成する場合には、熱伝導物質721が直接試薬と接することはないので、外殻の組成に耐薬品性及び耐候性は必要とせず、外殻の組成は、窒化アルミニウムや銅など金属とすることができる。
【0052】
また、例えば、図7に示すように、PETやPPで形成した上部72の一部を刳り貫き、又は削り取り、この刳り貫き又は削り取った部分に熱伝導物質721を嵌め込んでもよい。
【0053】
次に、自動分析装置100に保持されたときに、底面側に冷却部19が配置される試薬容器7の第2の具体例を説明する。図8は、試薬容器7の第2の具体例を示す側面断面図である。
【0054】
上部72が下部73と比べて低い熱抵抗値を有する態様として、下部73を熱遮断物質731で形成し、上部72は、この熱遮断物質731よりも熱伝導率の高いPETやPPで形成するようにしてもよい。尚、下部73の範囲は、下部73の側面壁のみであってもよいし、底まで熱遮断物質731で形成されていてもよい。
【0055】
熱遮断物質731は、PETやPPよりも熱伝導率が低い物質であり、例えば、ポリスチレンやセラミックスや発泡スチロールなどが挙げられる。下部73の全てが熱遮断物質731で形成される場合には、熱遮断物質731としては、内部の試薬と直接接触するため、耐薬品性及び耐候性を有するポリスチレンが望ましい。
【0056】
即ち、この試薬容器7は、下部73の熱抵抗値を上部72よりも上げることにより、冷却部19に近い下部73と比べて、冷却部19に遠い上部72の低い熱抵抗値を実現している。
【0057】
この第2の具体例では、下部73の方が上部72よりも熱抵抗値が高くなるため、試薬容器7の外部と内部との間で貫流する熱量は、下部73よりも上部72を介した方が多くなる。従って、上部72に接する試薬、即ち液面に近い試薬の方が先に冷却されて温度が下がっていき、試薬容器7内の試薬に対流が生じる。この対流により、試薬容器7を冷却する冷却部19を容器の底面側に配置したままであっても、試薬容器7内の試薬が均一になる。
【0058】
図9は、下部73を熱遮断物質731で形成する試薬容器7の第1の変形例を示す側面断面図である。図10は、下部73を熱遮断物質731で形成する試薬容器7の第2の変形例を示す側面断面図である。図11は、下部73を熱遮断物質731で形成する試薬容器7の第3の変形例を示す側面断面図である。
【0059】
例えば、図9に示すように、下部73を二重構造とし、内殻を熱遮断物質731で形成し、外殻をPETやPP等で形成する。下部73の内殻を熱遮断物質731で形成する場合には、内殻の組成を、耐薬品性及び耐候性を有するポリスチレンとすることが望ましい。
【0060】
また、例えば、図10に示すように、下部73を二重構造とし、外殻を熱遮断物質731で形成し、内殻をPETやPP等で形成する。下部73の外殻を熱遮断物質731で形成する場合には、熱遮断物質731が直接試薬と接することはないので、外殻の組成に耐薬品性及び耐候性は必要とせず、外殻の組成は、セラミックスや発泡スチロールとすることができる。
【0061】
また、例えば、図11に示すように、PETやPPで形成した下部73の一部を刳り貫き、又は削り取り、この刳り貫き又は削り取った部分に熱遮断物質731を嵌め込んでもよい。
【0062】
尚、下部73を熱遮断物質731で形成する変わりに、下部73の内部に真空層を設けるようにして、この真空層で熱を遮断するようにしても第2の具体例と同様の効果を得ることができる。
【0063】
次に、自動分析装置100に保持されたときに、底面側に冷却部19が配置される試薬容器7の第3の具体例を説明する。図12は、試薬容器7の第3の具体例を示す側面断面図である。
【0064】
上部72が下部73と比べて低い熱抵抗値を有する態様として、上部72の厚みを下部73よりも薄く形成する。上部72と下部73が同じ素材で形成されている場合、熱伝導率は同じだが上部72の厚みが薄くなる分、上部72が下部73と比べて低い熱抵抗値となる。
【0065】
この第3の具体例においては、上部72と下部73が同じ熱伝導率であっても壁の薄さの分だけ、上部72の方が下部73よりも熱抵抗値が低くなるため、試薬容器7の外部と内部との間で貫流する熱量は、下部73よりも上部72を介した方が多くなる。従って、上部72に接する試薬、即ち液面に近い試薬の方が先に冷却されて温度が下がっていき、試薬容器7内の試薬に対流が生じる。この対流により、試薬容器7を冷却する冷却部19を容器の底面側に配置したままであっても、試薬容器7内の試薬が均一になる。
【0066】
次に、自動分析装置100に保持されたときに、底面側に冷却部19が配置される試薬容器7の第4の具体例を説明する。図13は、試薬容器7の第4の具体例を示す側面断面図である。
【0067】
図13に示すように、第4の具体例に係る試薬容器7の上部72は、壁部71と被覆体722により形成されている。壁部71は、下部73と一体形成され、底面から試薬容器7の上部まで延びて立設されている。被覆体722は、この壁部71の上部72に相当する位置に接触してこの位置を囲っている。
【0068】
被覆体722は、試薬容器7の上部72の外形又は外形の一部と形状が一致して、この外形又は外形の一部に嵌め合わせられる部材である。例えば、被覆体722と上部72に凸部及び凹部が形成され、この凸部と凹部を嵌め合わせる。また、この被覆体722は、貼着面を有した金属シールであってもよい。この被覆体722は、熱伝導物質721で組成されている。
【0069】
試薬容器7の外周囲に存在する空気は、熱伝導率が低い。特に、冷気が弱まる上部域では、空気の対流が少なくなるので壁部71と空気との間の熱移動が少なくなる。しかし、被覆体722が装着されることで、上部72の熱交換量が高まり、上部72に接する試薬が下部73と接する試薬よりも先に冷却され、対流が促進され、試薬容器7を冷却する冷却部19を容器の底面側に配置したままであっても、試薬容器7内の試薬が均一になる。
【0070】
尚、この熱伝導物質721で組成された被覆体722を上部72の壁部71に装着する態様と同様の効果を得るものとして、下部73を、壁部71と、熱遮断物質731で組成された被覆体とで形成するようにして、下部73の熱移動を低下させるようにしてもよい。
【0071】
次に、自動分析装置100に保持されたときに、底面側に冷却部19が配置される試薬容器7の第5の具体例を説明する。図14は、試薬容器7の第5の具体例を示す側面断面図である。
【0072】
図14に示すように、試薬容器7では、熱伝導物質721で形成された上部72(第1の具体例)、熱遮断物質731で形成された下部73(第2の具体例)、又は下部73よりも薄く形成された上部72(第3の具体例)のうち、少なくとも2以上を併用してもよい。2以上を併用することで、上部72と下部73との熱抵抗値の差はさらに拡がり、試薬の対流効果は更に高まる。
【0073】
この各種の熱抵抗値の差は、収容される試薬の粘度に応じて設けることができる。収容する試薬の粘度が低い場合には、対流が起こりやすい。従って、この粘度が低い試薬を収容する試薬容器7には、第1の具体例乃至第3の具体例のうちの何れか一つを適用する。一方、試薬の粘度が高い場合には、対流が起こり難い。従って、この粘度が高い試薬を収容する試薬容器7には、第1の具体例乃至第3の具体例のうちの何れか2以上を併用して適用する。
【0074】
以上のように、各実施形態に係る試薬容器7では、上部72のほうが下部73よりも単位時間当たりの熱交換量が多くなるように形成されているため、試薬容器の底面側に冷却部を配していても、液面に近い試薬が底面側よりも先に冷却されて温度が下がるために、試薬容器内の試薬に対流が生じ、試薬が均一になる。これにより、試薬容器の底面側に冷却部を配していても、測定結果の精度を向上させることができる。
【0075】
また、収容される試薬の粘度に応じて、熱抵抗値の差を設けるように、上部72の少なくとも一部が熱伝導物質721で形成され、または、下部73の少なくとも一部が熱遮断物質731で形成され、または、上部72の少なくとも一部が熱伝導物質721で形成されるとともに、下部73の少なくとも一部が熱遮断物質731で形成されているようにすることで、効率よく試薬の対流を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】試薬容器を保持する自動分析装置の構成を示す図である。
【図2】自動分析装置の試薬庫の断面図である。
【図3】自動分析装置に保持されたときに、底面側に冷却部が配置される試薬容器の第1の具体例を示す側面断面図である。
【図4】上部を熱伝導物質で形成した試薬容器内で生じる試薬の対流を説明する試薬容器の側面断面図である。
【図5】上部を熱伝導物質で形成する試薬容器の第1の変形例を示す側面断面図である。
【図6】上部を熱伝導物質で形成する試薬容器の第2の変形例を示す側面断面図である。
【図7】上部を熱伝導物質で形成する試薬容器の第3の変形例を示す側面断面図である。
【図8】試薬容器具の第2の具体例を示す側面断面図である。
【図9】下部を熱遮断物質で形成する試薬容器の第1の変形例を示す側面断面図である。
【図10】下部を熱遮断物質で形成する試薬容器の第2の変形例を示す側面断面図である。
【図11】下部を熱遮断物質で形成する試薬容器の第3の変形例を示す側面断面図である。
【図12】試薬容器具の第3の具体例を示す側面断面図である。
【図13】試薬容器の第4の具体例を示す側面断面図である。
【図14】試薬容器具の第5の具体例を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 試薬ラック
2 試薬庫
3 試薬庫
4 反応管
5 反応ディスク
6 ディスクサンプラ
7 試薬容器
71 壁部
72 上部
721 熱伝導物質
722 被覆体
73 下部
731 熱遮断物質
8 第1試薬分注アーム
9 第2試薬分注アーム
10 分注アーム
11 撹拌ユニット
12 洗浄ユニット
13 測光ユニット
14 第1試薬分注プローブ
15 第2試薬分注プローブ
16 分注プローブ
17 被検試料容器
19 冷却部
100 自動分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置に保持されて用いられ、前記保持されたときに前記自動分析装置の冷却部が底面側に位置して冷却されるとともに、蓋側から前記試薬が取り出される試薬容器であって、
容器の蓋側の側壁が底面側の側壁と比べて低い熱抵抗値を有すること、
を特徴とする試薬容器。
【請求項2】
前記蓋側の側壁の少なくとも一部が、前記底面側の側壁よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で形成されていること、
を特徴とする請求項1記載の試薬容器。
【請求項3】
前記底面側の側壁の少なくとも一部が、前記蓋側の側壁よりも熱伝導率が低い熱遮断物質で形成されていること、
を特徴とする請求項1記載の試薬容器。
【請求項4】
前記蓋側の側壁の厚みが底面側の側壁よりも薄く形成されていること、
を特徴とする請求項1記載の試薬容器。
【請求項5】
収容される前記試薬の粘度に応じて、前記蓋側の側壁の前記熱抵抗値と前記底面側の側壁の前記熱抵抗値との間に差が設けられていること、
を特徴とする請求項1記載の試薬容器。
【請求項6】
収容される前記試薬の粘度に応じて、前記蓋側の側壁の少なくとも一部が熱伝導物質で形成され、または、前記底面側の側壁の少なくとも一部が熱遮断物質で形成され、または、前記蓋側の側壁の少なくとも一部が熱伝導物質で形成されるとともに、前記底面側の側壁の少なくとも一部が熱遮断物質で形成されていること、
を特徴とする請求項5記載の試薬容器。
【請求項7】
被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置に保持されると共に、前記保持されたときに前記自動分析装置の冷却部が底面側に位置して冷却されるとともに、蓋側から前記試薬が取り出される試薬容器であって、
容器の蓋側の側壁は、
前記底面側の側壁と一体形成される壁部と、
前記壁部の少なくとも一部を囲うとともに、前記壁部よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で組成された被覆体と、
から形成されること、
を特徴とする試薬容器。
【請求項8】
被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置であって、
前記試薬を収容するとともに、蓋側から該試薬が取り出される試薬容器と、
前記試薬容器の底面側に位置する冷却部を有し、前記試薬容器を保持する試薬庫と、
を備え、
前記試薬容器は、
容器の蓋側の側壁が底面側の側壁と比べて低い熱抵抗値を有すること、
を特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
被検試料及び試薬を反応管に分注してその混合液を測定する自動分析装置であって、
前記試薬を収容するとともに、蓋側から該試薬が取り出される試薬容器と、
前記試薬容器の蓋側とは逆の底面側の側壁に配される冷却部を有し、前記試薬容器を保持する試薬庫と、
を備え、
前記試薬容器の蓋側の側壁は、
前記底面側の側壁と一体形成される壁部と、
前記壁部の少なくとも一部を囲うとともに、前記壁部よりも熱伝導率が高い熱伝導物質で組成された被覆体と、
から形成されること、
を特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229194(P2009−229194A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73902(P2008−73902)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】