説明

試薬用容器

【課題】被覆フィルムを貫通したピペットチップや注射針等により試薬を回収する際の試薬の回収性、遮光性、耐試薬性のいずれもが高く、突き刺し性が確保された試薬用容器を提供する。
【解決手段】本発明の試薬用容器1は、試薬Sを収容する試薬収容部(ウェル11)を有する容器本体10と、容器本体10に貼着され、試薬収容部の開口部を被覆する被覆フィルム20とを備え、被覆フィルム20は、アルミニウム層21と、容器本体10に貼着されるシール層22とを有し、アルミニウム層21にエンボスが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬を収容・保存するために使用される試薬用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生物工学や化学等の分野においては、試薬を収容・保存する際に試薬用容器が用いられている。試薬用容器としては、例えば、試験管状のものや、所謂チップにウェル(凹部)と称される試薬収納部が形成されたもの等が挙げられる。
これら試薬用容器に収容された試薬は、例えば、ピペットチップや注射針等により吸い取られて分取され、分取された試薬は別の容器や同一チップ上に配置された反応部等に分注される。
ところで、上記試薬用容器の試薬収納部が密封されない場合には、長時間放置したり加熱したりした際に試薬が蒸発することがあった。
そこで、試薬の蒸発を防止することを目的として、例えば、特許文献1には、試薬収容部を有する容器本体と、容器本体に貼着され、試薬収容部の開口部を被覆する被覆フィルムとを備える試薬用容器が提案されている。特許文献1に記載の試薬用容器では、ピペットチップや注射針の先端を被覆フィルムに突き刺して貫通させることにより、試薬が分取されるようになっている。
【特許文献1】特開平09−099932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の試薬用容器では、被覆フィルムを貫通したピペットチップや注射針等により試薬を吸い取る際の吸い取り性が低く、試薬の回収性が低いという問題があった。
また、被覆フィルムとしては、光による試薬の変質または劣化を防止するために遮光性が高いもの、試薬に対する耐性(以下、耐試薬性という。)が確保されたものが求められる。さらに、被覆フィルムとしては、ピペットチップや注射針の先端を複数の異なる箇所に突き刺すことができる、すなわち、突き刺し性が確保されたものが求められる。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、被覆フィルムを貫通したピペットチップや注射針等により試薬を回収する際の試薬の回収性、遮光性が共に高く、耐試薬性および突き刺し性が共に確保された試薬用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の構成を含む。
[1] 試薬を収容する試薬収容部を有する容器本体と、容器本体に貼着され、試薬収容部の開口部を被覆する被覆フィルムとを備える試薬用容器であって、
被覆フィルムは、アルミニウム層と、容器本体に貼着されるシール層とを有し、アルミニウム層にエンボスが形成されていることを特徴とする試薬用容器。
[2] アルミニウム層のエンボスの模様が、直線状の第1の溝と該第1の溝に直交する第2の溝とが各々多数形成された碁盤目格子状の模様であり、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が2mm以下であることを特徴とする[1]に記載の試薬用容器。
[3] アルミニウム層が厚さ10μm以下の硬質アルミニウム箔からなることを特徴とする[1]または[2]に記載の試薬用容器。
[4] アルミニウム層とシール層との間に中間層が設けられていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の試薬用容器。
[5] 被覆フィルムのアルミニウム層におけるシール層側と反対側の面に、保護層が設けられていることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の試薬用容器。
[6] 保護層が、脆性材料からなることを特徴とする[5]に記載の試薬用容器。
【発明の効果】
【0005】
本願請求項1に係る発明の試薬用容器では、アルミニウム層にエンボスが形成されていることにより、ピペットチップや注射針の先端を被覆フィルムに突き刺した際に、被覆フィルムを略直線状に開裂させることができ、試薬収容部内に空気を流入させるための隙間を形成できる。その結果、ピペットチップや注射針等により試薬を吸い取った際に試薬収容部内が陰圧になりにくく、吸い取り性が高いため、試薬の回収性が高い。さらに、アルミニウム層にエンボスが形成されているため、突き刺し性が確保されている。
また、本願請求項1に係る発明の試薬用容器では、被覆フィルムがアルミニウム層を有するため、遮光性が高い。また、被覆フィルムの耐試薬性が確保されている。
【0006】
本願請求項2に係る発明および本願請求項3に係る発明によれば、被覆フィルムをより容易に略直線状に開裂させることができるため、試薬の回収性をより高くすることができる。
本願請求項4に係る発明によれば、アルミニウム層に試薬が直接接触しにくいため、耐試薬性をより高くすることができる。
本願請求項5に係る発明によれば、アルミニウム層の空気による酸化や損傷を防ぐことができ、しかも被覆フィルムの取り扱い性を向上させることができる。
本願請求項6に係る発明によれば、被覆フィルムをより容易に略直線状に開裂させることができるため、試薬の回収性をより高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の試薬用容器の一実施形態例について説明する。
図1および図2に、本実施形態例の試薬用容器を示す。この試薬用容器1は、試薬Sを収容する試薬収容部であるウェル11,11・・・を有する略直方体状の容器本体10と、容器本体10に貼着され、容器本体10のウェル11,11・・・の開口部11a,11a・・・の全ておよびその周辺を被覆する1枚の被覆フィルム20とを備えるものである。
【0008】
[容器本体]
容器本体10の材質としては特に制限されないが、成形加工性に優れることから、樹脂製であることが好ましい。容器本体10を構成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン系ポリマー、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
容器本体10は、2種類以上の樹脂製の部材が接合されたものでもよいし、樹脂製の部材と金属製の部材とが接合されたものであってもよい。これらの材質は、試薬Sの性質や容器本体10に求められる機械的物性に応じて適宜選択することが好ましい。
容器本体10の厚さは、使用時に充分な強度を確保できる厚さであればよい。
【0009】
容器本体10におけるウェル11の形状としては、例えば、半球状、円錐台形状、角錐台形状、円筒状、角柱状等が挙げられる。これらの形状は、加工性、試薬Sの注入性等に応じて適宜選択すればよい。
ウェル11の大きさは、収容される試薬Sの量に応じて設定されるが、利便性の点から、その開口部11aの直径を5〜10mm、深さを5mm以下に設定することが好ましい。
【0010】
また、ウェル11の内壁表面には、防湿性、ガスバリア性を付与し、また、耐試薬性をより向上させるために、シリコーン樹脂のコーティング層や金属化合物の蒸着層が設けられてもよい。
さらには、ウェル11に収容した試薬Sの回収効率をより向上させるために、内壁表面にプラズマ処理やコロナ処理等の表面処理を施してもよい。
【0011】
容器本体10は、例えば、ポリカーボネートのような硬質樹脂からなる場合には、ポリカーボネート製の直方体状の板の所定の位置を切削してウェル11を形成する方法(切削法)により製造することが好ましい。また、ポリプロピレンのような軟質樹脂からなる場合には、溶融した樹脂を、ウェル11を形成可能な形状を有する型枠内に充填した後に冷却して成形する方法(溶融成形法)により製造することが好ましい。
【0012】
[被覆フィルム]
被覆フィルム20は、アルミニウム層21と、容器本体10に貼着されるシール層22と、それらの間に設けられた中間層23とを有する。また、アルミニウム層21におけるシール層22側と反対側の面に、保護層24が設けられている。
【0013】
本実施形態例におけるアルミニウム層21では、図3に示すように、エンボス21aが全面に形成されている。エンボス21aの模様は、直線状の第1の溝21b,21b・・・と第1の溝21b,21b・・・に直交する第2の溝21c,21c・・・が各々多数形成された碁盤目格子状の模様である。
第1の溝21b,21b同士の間隔および第2の溝21c,21c同士の間隔は2mm以下であることが好ましい。エンボス21aの模様が碁盤目格子状であり、第1の溝21b,21b同士の間隔および第2の溝21c,21c同士の間隔が2mm以下であれば、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができる。
ここで、溝同士の間隔とは、各溝の幅方向の中央同士の間隔のことである。
【0014】
アルミニウム層21にエンボス21aを形成する方法としては、平滑なアルミニウム層の片面にエンボスが形成された版(エンボス処理版)を押圧する方法、平滑なアルミニウム層の片面にエンボスが形成されたロール(エンボスロール)に接触させる方法等が挙げられる。
被覆フィルム20において、エンボス処理版やエンボスロールが接触した面がシール層22側および保護層24側のどちらに配置されても構わない。
【0015】
アルミニウム層21としては、例えば、アルミニウム箔、アルミニウムの蒸着膜等が用いられるが、中でも、厚さ10μm以下の硬質アルミニウム箔からなることが好ましい。アルミニウム層21が厚さ10μm以下の硬質アルミニウム箔からなれば、ピペットや注射針を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができる。
また、硬質アルミニウム箔の厚さは8μm以下であることがより好ましい。
ここで、硬質アルミニウム箔とは、伸びが1%/180mm以下、破裂度が0.5kg/cm以下のアルミニウム箔である。本発明における伸びはJIS C 2151に準拠した引張試験において、引張速度50mm/minで測定した値であり、破裂度はJIS P 8112に準拠して測定した値である。
【0016】
シール層22は、ヒートシール可能な樹脂から形成されることが好ましい。ヒートシール可能な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(マレイン酸等の酸変性体を含む)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合ポリエステル系樹脂である酸成分変性ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。これらの中でも、シール強度の点から、酸変性ポリエチレンテレフタレート、マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
また、シール層22は、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができる点から、その厚さが15μm以下であって、破裂度が1kg/cm以下であることが好ましい。
【0017】
シール層22は、例えば、溶融した樹脂を層状に直接成形する方法(例えば、押し出し成形法やインフレーション成形法等)、樹脂を溶媒に溶解した塗布液を塗布することにより形成する方法等により形成される。
【0018】
中間層23は、アルミニウム層21とシール層22との密着性向上、ガスバリア性の向上、試薬Sのアルミニウム層21への接触防止等を目的として設けられる層である。中間層23を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、セルロース系樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルが好ましい。ポリエステルは、加工性および耐熱性に優れる上、硬度が高いため、ピペットチップや注射針等を突き刺した際に、中間層23にピペットチップや注射器の先端が密着することを防止できる。
中間層23の厚さは、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができる点から、10μm以下であることが好ましい。
【0019】
保護層24は、アルミニウム層21を保護するものである。保護層24を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル等が挙げられる。
また、保護層24は、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができることから、脆性材料からなることが好ましい。脆性材料としては、例えば、サンドブラスト加工等により表面がマット調に加工されたマット調ポリエチレンテレフタレートフィルム、発泡状の樹脂フィルム等が挙げられる。
保護層24は、厚さが15μm以下であって、伸びが30%/180mm以下、破裂度が2kg/cm以下であることが好ましい。保護層24がこのような物性値である場合にも、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20をより容易に略直線状に開裂させることができる。
【0020】
[製造方法]
試薬用容器1は、例えば、容器本体10におけるウェル11の開口部11aを覆うように被覆フィルム20を重ねた後、被覆フィルム20の、ウェル11の開口部11aの周囲に位置する部分に、加熱したシールバーを押圧することにより得られる。
【0021】
[用途]
上述した試薬用容器1は、化学反応、抗原抗体反応、DNA反応、たんぱく質反応等の検出をチップ上で行うμ−Total Analysis System技術やLab−on−Chip技術に好適に利用される。
例えば、抗原抗体反応の検出では、あらかじめ、容器本体10のウェル11に試薬Sである抗体を収容し、ウェル11を被覆フィルム20により密封する。次いで、ピペットチップの先端を被覆フィルム20に突き刺して貫通させ、そのピペットチップにより前記抗体を分取し、分取した抗体を、同じ試薬用容器あるいは別の部材の反応部に配置された抗原に滴下する。その際、抗原または抗体に標識物質を付けておくことにより、抗原抗体反応の有無を検出できる。標識物質としては、蛍光物質等の発光物質を用いることができ、標識物質として発光物質を用いた場合には、抗原抗体反応が起こった際に発光させることができる。
【0022】
DNA反応の検出では、あらかじめ、容器本体10のウェル11に試薬Sである検体DNAを収容し、ウェル11を被覆フィルム20により密封する。次いで、ピペットチップの先端を被覆フィルム20に突き刺して貫通させ、ピペットチップにより前記検体DNAを分取し、分取した検体DNAを同じ試薬用容器あるいは別の部材の反応部に配置された核酸プローブに滴下する。その際、検体DNAに標識物質を付けておくことにより、DNA反応の有無を検出できる。
このような試薬用容器1を用いたDNA反応は、一塩基遺伝子多型(SNP)の解析に適用できる。SNPの解析の場合、核酸プローブやその他検出に用いる試薬Sは複数あってもよい。SNPの解析としては、サードウェイブテクノロジーズ,Inc(米国ウィスコンシン州マディソン市)が開発したインベーダー法を採用することができる。
【0023】
以上説明した試薬用容器1では、被覆フィルム20のアルミニウム層21にエンボス21aが形成されているため、試薬Sを回収するために被覆フィルム20にピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に、突き刺した部分のみに孔が開くのではなく、被覆フィルム20を略直線状に開裂させることができる。具体的には、図4に示すように、直線状の裂け目25を形成させることができる。その結果、ウェル11内に空気を流入させるための隙間を形成することができ、ピペットチップや注射針に取り付けられた注射器により試薬Sを吸い取った際に、ウェル11内が陰圧になりにくく、試薬Sを容易に吸い取ることができ、試薬Sの回収性を向上させることができる。
また、試薬用容器1では、ピペットチップや注射針の先端を突き刺した際に被覆フィルム20が略直線状に開裂するため、開裂後でも、被覆フィルム20にピペットチップや注射針の先端を突き刺すことができる部分が残っており、突き刺し性が確保されている。
また、被覆フィルム20のアルミニウム層21によって遮光性を高くできるため、試薬Sの変質・劣化を防ぐことができる。
さらに、本発明者が調べた結果、被覆フィルム20は、耐試薬性が確保されていることが判明した。
【0024】
また、上記試薬用容器1では、被覆フィルム20のアルミニウム層21とシール層22との間に中間層23が設けられているため、ウェル11に収容されている試薬Sによってシール層22の一部が侵されたとしても、アルミニウム層21と試薬Sとが直接に接触することを防止できる。その結果、被覆フィルム20の耐試薬性をより向上させることができる。
さらに、アルミニウム層21におけるシール層22側と反対側の面に保護層24が設けられているため、アルミニウム層21の空気による酸化や損傷を防ぐことができ、しかも被覆フィルム20の取り扱い性を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明の試薬用容器は、上述した実施形態例に限定されない。例えば、上述した実施形態例の試薬用容器は、ウェルを有する容器本体と、ウェルの開口部を被覆する被覆フィルムとを備えるものであったが、容器本体が、試薬収容部を有するチューブ状またはボトル状のものであって、試薬収容部の開口部が被覆フィルムで被覆されたものであってもよい。
また、上述した実施形態例では、1枚の被覆フィルムにより複数のウェルの開口部を被覆したが、一つの開口部に対して1枚の被覆フィルムを被覆してもよい。
また、アルミニウム層のエンボスの模様は、碁盤目格子状に限定されず、例えば、ドット状、波状の模様等であってもよい。エンボスは全面に形成せずに、一部のみに形成しても構わない。
さらに、被覆フィルムは、アルミニウム層とシール層とを有すれば、必ずしも中間層および/または保護層が設けられていなくてもよい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
まず、厚さ10μmの硬質アルミニウム箔(破裂度0.05kg/cm、伸び1%/180mm)の片面に、エンボス模様が形成されたエンボス処理版を温度200℃、線圧100kg/cmで圧着させて、硬質アルミニウム箔にエンボスを全面に形成させた。その際に用いたエンボス処理版は、直線状の第1の溝と該第1の溝に直交する第2の溝が各々多数形成された碁盤目格子状の模様であり、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が4mmのものである。これにより、碁盤目格子状の模様のエンボスが形成され、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が4mmの硬質アルミニウム箔からなるアルミニウム層を得た。
次いで、アルミニウム層のエンボスが形成された側の面に、サンドブラスト加工が施された厚さ15μmのマット調ポリエチレンテレフタレートフィルム(破裂度2kg/cm、伸び6%/180mm)からなる保護層を、ポリエステルウレタン系接着剤(厚さ2μm)を介して積層した。
次いで、アルミニウム層のもう一方の片面に、マレイン酸変性ポリプロピレンを主成分としたヒートシールラッカーを厚さ3μmで塗布してシール層を形成して、被覆フィルムを得た。
また、ポリプロピレンを射出成形して、試薬収容部である半球状のウェルが4つ形成された容器本体を作製した。
次いで、各ウェルにpH4の水溶液またはpH11の水溶液(試薬)を収容した後、該水溶液を収容した4つのウェルの全てが被覆されるように、かつ、シール層が容器本体に接するように、容器本体に被覆フィルムを重ねた。そして、被覆フィルムにおけるウェルの開口部の周囲に位置する部分に、シールバーを200℃、3秒、20N/cmで押圧し、ヒートシールして、試薬用容器を得た。
【0027】
得られた試薬用容器について、被覆フィルムの突き刺し性、回収率、耐試薬性を評価した。評価結果を表1に示す。
[被覆フィルムの突き刺し性]
被覆フィルムにポリプロピレン製ピペットチップ(200μl)を突き刺して、突き刺し性を以下の基準で評価した。
◎:5回以上突き刺し可能であった。
○:3回以上5回未満突き刺し可能であった。
[回収率]
試薬を100μl回収することを目標として、ピペットチップによりウェルに収容された試薬を回収し、その実際の回収量を測定した。そして、(実際の回収量)/100μl×100%の式により回収率を求めた。一般に、回収率が85%以上であれば、実用的であるとされている。
[被覆フィルムの耐試薬性]
ウェルにpH4の水溶液またはpH11の水溶液(試薬)を収容した試薬用容器を作製後、40℃、相対湿度90%の環境下で72時間放置した。そして、被覆フィルムを剥離し、その表面を目視により観察して以下の基準で評価した。
○:変化なし。
×:被覆フィルムのアルミニウム層が変色していた。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2)
エンボス処理版として、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が2mmのものを用いて、碁盤目格子状の模様のエンボスが形成され、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が2mmのアルミニウム層を得たこと以外は実施例1と同様にして試薬用容器を得た。そして、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0030】
(実施例3)
硬質アルミニウム箔として、厚さが7μmのものを用いたこと以外は実施例2と同様にして試薬用容器を得た。そして、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
硬質アルミニウム箔にエンボスを形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして試薬用容器を得た。そして、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
硬質アルミニウム箔にエンボスを形成しなかったこと以外は実施例3と同様にして試薬用容器を得た。そして、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0033】
(比較例3)
硬質アルミニウム箔にエンボスを形成せず、また、押圧面に碁盤目格子状の凸条が形成され、平行な凸条同士の間隔が2mmで押圧面の面積が被覆フィルムの面積と略同等のシールバーを用い、被覆フィルムを容器本体にヒートシールして、被覆フィルムの保護層のみにエンボスを形成したこと以外は実施例1と同様にして試薬用容器を得た。そして、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0034】
アルミニウム層にエンボスが形成された被覆フィルムを備える実施例1〜3の試薬用容器では、突き刺し性が確保され、また、試薬の回収性に優れていた。さらに、被覆フィルムは耐試薬性も確保されていた。しかも、被覆フィルムがアルミニウム層を有しているため、遮光性に優れていた。
これに対し、アルミニウム層にエンボスが形成されていない被覆フィルムを備える比較例1,2の試薬用容器では、試薬の回収性が低かった。
また、硬質アルミニウム箔にエンボスが形成されず、保護層にエンボスが形成された比較例3の試薬用容器は、アルミニウム層に変質が認められ、耐試薬性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の試薬用容器の一実施形態例を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1の試薬用容器の被覆フィルムを構成するアルミニウム層の表面を拡大した図である。
【図4】図1の試薬用容器において、被覆フィルムが略直線状に開裂した状態を示す上面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 試薬用容器、10 容器本体、11 ウェル(試薬収容部)、11a 開口部、20 被覆フィルム、21 アルミニウム層、21a エンボス、21b 第1の溝、21c 第2の溝、22 シール層、23 中間層、24 保護層、25 裂け目、S 試薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を収容する試薬収容部を有する容器本体と、容器本体に貼着され、試薬収容部の開口部を被覆する被覆フィルムとを備える試薬用容器であって、
被覆フィルムは、アルミニウム層と、容器本体に貼着されるシール層とを有し、アルミニウム層にエンボスが形成されていることを特徴とする試薬用容器。
【請求項2】
アルミニウム層のエンボスの模様が、直線状の第1の溝と該第1の溝に直交する第2の溝とが各々多数形成された碁盤目格子状の模様であり、第1の溝同士の間隔および第2の溝同士の間隔が2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の試薬用容器。
【請求項3】
アルミニウム層が厚さ10μm以下の硬質アルミニウム箔からなることを特徴とする請求項1または2に記載の試薬用容器。
【請求項4】
アルミニウム層とシール層との間に中間層が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試薬用容器。
【請求項5】
被覆フィルムのアルミニウム層におけるシール層側と反対側の面に、保護層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の試薬用容器。
【請求項6】
保護層が、脆性材料からなることを特徴とする請求項5に記載の試薬用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290730(P2007−290730A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119160(P2006−119160)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】