説明

試験容器及びその試験容器を用いた試験方法

【課題】 試験体の過度の乾燥を防止することを可能とした試験容器を提供する。
【解決手段】 スイープガスの供給及び排出が行われる発生ガス混合部と、発生ガス混合部に隣接して配置され、試験中に試験体から発生するガスを発生ガス混合部へ排出するための少なくとも1つの小孔部を有し、小孔部以外は試験体を密閉して格納する試験体格納部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験体、特にコンクリート試験体を格納する試験体格納部を備えることにより、スイープガスによる試験体の過度の乾燥を防止することを可能とし、試験体への放射線の影響を適切に評価することを可能とした試験容器及びその試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線を受けるコンクリートの特性に関する研究が進められている。一般に放射線照射試験は、コンクリートや金属等の試験体を格納する試験容器に放射線を照射することにより実施される。
【0003】
コンクリートの放射線照射試験では、試験容器に格納したコンクリートに放射線を照射することによりコンクリート中の水分が分解し、水素ガスが発生する。このため、完全密封された試験容器の場合には、水素ガス濃度が上昇し続けることになる。試験容器内の水素ガス濃度が高まると様々な支障が生じるため、試験容器内の水素ガス濃度を4%以下とすることが好ましい。
【0004】
試験容器内の水素ガス濃度を低減することを可能とする構造としては、例えば、試験容器内に湿度0%のヘリウムガスを供給し、試験容器内に発生したガスを流しだす構造がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
非特許文献1に記載の試験容器によれば、コンクリート試験体に直接ヘリウムガスを接触させることにより、試験体から発生するガスを除去することを可能としている。
【0006】
さらに、非特許文献2によれば、放射線による発熱もコンクリートの性能に影響しているとされ、高温環境下にコンクリート試験体を暴露した場合には強度が低下するとした文献も多数存在する。したがって、放射線による発熱の影響を加味した試験方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JMTR(材料試験炉)のホームページ 照射設備 照射キャプセル FGS照射設備とFGSキャプセル [平成21年5月11日検索] インターネットURL(http://jmtr.jaea.go.jp/irr/fgs/fgs.html)
【非特許文献2】Hilsdorf, Kropp, and Koch,“The Effects of Nuclear Radiation on the Mechanical Properties of Concrete.”American Concrete institute Publication, SP 55-10, 1978, pp.223-251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の試験容器によれば、ヘリウムガスが直接コンクリート試験体に接触することとなるため、コンクリート試験体は厳しい乾燥状態に長時間曝されることとなり、コンクリート試験体が劣化する可能性がある。そして、劣化の度合いによっては試験結果から放射線の影響の有無を判断することができなくなる可能性がある。
【0009】
また、供給するヘリウムガスに湿分を含ませ、供給する手法も考えられる。この場合には、試験容器内を60℃、60%RHとすることが好ましいが、現状の放射線を照射する装置等では制御することが困難であり、これ以上の湿度を確保するには、ガスの供給ロスを防ぐための大掛かりな改造が必要となり、現実的ではない。また、湿分には、水に含まれる不純物の放射化を防ぐために純水を使用する必要があるため、純水の使用によりコンクリートをさらに劣化させる可能性もある。
【0010】
また、熱によるコンクリート試験体への影響も考慮し、コンクリート試験体への放射線の影響を適切に評価する必要もある。
【0011】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、小孔を有する試験体格納容器を備えることにより、試験体の乾燥を防止することを可能とするとともに、試験体への放射線の影響を適切に評価することを可能とした試験容器及び試験方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の試験容器は、スイープガスの供給及び排出が行われる発生ガス混合部と、発生ガス混合部に隣接して配置され、試験中に試験体から発生するガスを発生ガス混合部へ排出するための少なくとも1つの小孔部を有し、小孔部以外は試験体を密閉して格納する試験体格納部とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の試験方法は、試験体を試験容器に格納し放射線を照射して放射線照射試験を行い、試験体を試験容器に格納し放射性照射試験のモニタリング温度で加熱のみを行う照射影響確認試験を行い、放射線照射試験の結果と照射影響確認試験の結果とを比較して、試験体への放射線の影響を分離して評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試験容器及び試験方法によれば、試験体の過度の乾燥を防止することが可能となり、同時に、試験体への放射線の影響を適切に評価することが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の試験容器の構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態の放射線照射試験及び影響確認試験の関連を示す図である。
【図3】本発明の試験容器の乾燥防止効果を確認する事前確認試験方法を説明する図である。
【図4】照射中に発生した水素ガスと酸素ガスのガス濃度測定結果の一例を示す図である。
【図5】高速中性子照射量とコンクリート試験体の圧縮強度との関係を示す図である。
【図6】高速中性子照射量とコンクリート試験体の静弾性係数との関係を示す図である。
【図7】Hilsdorfらによりまとめられた中性子照射量と圧縮強度の関係を示す図である。
【図8】本発明者らが、図7をスクリーニングし再整理した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態である試験容器について、図を参照して詳細に説明をする。なお、以下の説明においては、主に放射線照射試験を例に説明をするがこれに限られるものではなく、一般的な試験に使用することも当然に可能である。また、以下の説明において、本実施形態の試験容器のことをセミシール容器とも呼ぶものとする。ここで、セミシールとは、完全密封しないで、一部にガス抜き用の小孔を有するシールのことをいう。
【0017】
図1は、本実施形態の試験容器の構成を示す断面図である。本実施形態の試験容器100は、約φ60mmの円形断面を有し、容器本体部の全長が、おおよそ1300mmの外形を有する。なお、本実施形態の試験容器の全長及び形状はこれに限られず、試験体の形状等に合わせて適宜変更可能(例えば、角柱状など)である。
【0018】
本実施形態の試験容器100は、外筒容器10と、排出管20と、供給管30と、第1の内筒容器40と、第2の内筒容器50とを有する。
【0019】
外筒容器10は、略中空円筒上の形状を有する。外筒容器10内部の上部には上部端栓10aが備わり、下部には下部端栓10bが備わる。そして、上部端栓10a及び下部端栓10bの間の空間(以下、発生ガス混合部10cとする)は外界に対して気密の状態が保たれている。
【0020】
供給管30は、外筒容器10の上部から上部端栓10aを貫通して発生ガス混合部10c内に進入しており、供給管30の出口部30aは発生ガス混合部10c内の下部に配置される。そして、供給管30は、不図示のスイープガス供給装置からのスイープガスを発生ガス混合部10cに供給する。
【0021】
排出管20は、外筒容器10の上部から上部端栓10aを貫通して発生ガス混合部10c内に進入しており、排出管20の入口部20aは発生ガス混合部10c内の上部に配置される。そして、排出管20は、発生ガス混合部10cからスイープガスを外部に排出する。
【0022】
このような構成により、外筒容器10の内部には、供給管30の出口部30aから排出管20の入口部20aへ向かうスイープガスの一定方向の流れが形成されることとなる。
【0023】
第1の内筒容器40は、発生ガス混合部10c内の上部かつ排出管20の入口部20aの下部に配置される。第1の内筒容器40は、その容器径に対して微小な径の約φ1mmのガス抜き穴40aを有し、ガス抜き穴40aは、容器上面(すなわち、排出管20の入口部20aに面する側)に配置されている。そして、第1の内筒容器40は、試験体格納部40b内に、コンクリート試験体Aを、ガス抜き穴40a以外の箇所において、ほぼ密閉して格納する。
【0024】
第2の内筒容器50は、発生ガス混合部10c内の下部かつ第1の内筒容器40の下部に配置される。また、第2の内筒容器50は、第1の内筒容器40と同様に直径が約φ1mmのガス抜き穴50aを有し、ガス抜き穴50aは、容器上面方向(すなわち、第1の内筒容器40に面する側)に配置されている。そして、第2の内筒容器50は、試験体格納部50b内に、コンクリート試験体Bを、ガス抜き穴50a以外の箇所において、ほぼ密閉して格納する。
【0025】
なお、第1の内筒容器40の内壁とコンクリート試験体A側面との間隔、及び、第2の内筒容器50の内壁とコンクリート試験体B側面との間隔は、0.1から0.2mmとすることが好ましい。これは、内筒容器の内壁とコンクリート試験体とが密着している場合には、発生する水素ガス及び酸素ガスが適切に排出されないからであり、また、0.2mmより間隔が広い場合には、コンクリート試験体の乾燥が進みやすいと考えられるからである。
【0026】
なお、本実施形態においては、内筒容器の個数を2つとしたが、これに限られるものではなく、試験体の数に応じて、適宜個数を増減させること可能である。
【0027】
次に、本実施形態の試験容器の使用方法について説明をする。
【0028】
まず、第1の内筒容器40及び第2の内筒容器50に試験体A、Bを各々格納する。そして、スイープガスの一定方向の流れが内部に形成される発生ガス混合部10cの内部に、各内筒容器40、50を各小孔部がスイープガスの流れの下流の方向に向くように配置して収納する。
【0029】
次に、本実施形態の試験容器100を、放射線を照射する装置等に装荷した後に、供給管30から発生ガス混合部10c内に所定の流量のスイープガス(例えば、ヘリウムガス)を供給する。
【0030】
供給されたヘリウムガスは、供給管30の出口部30aから供給され、排出管20の入口部20aから排出されるため、発生ガス混合部10cの下部から上部へ向けてのヘリウムガスの一定方向の流れが、第1の内筒容器40及び第2の内筒容器50の外側に沿って形成される。
【0031】
ここで、コンクリート試験体A、Bについては、第1の内筒容器40及び第2の内筒容器50に格納されており、また、ガス抜き穴40a、50aは、ヘリウムガスの流れの下流方向に配置されているため、コンクリート試験体A、Bにヘリウムガスの流れが直接接触することはない。これにより、コンクリート試験体A、Bの過度の乾燥を防止することが可能となる。
【0032】
また、コンクリート試験体A、B内の水分が放射線照射により水素及び酸素に分解されることにより、第1の内筒容器40及び第2の内筒容器50の内部の試験体格納部40b、50bの圧力が高まり、発生した水素ガス及び酸素ガスが直径約φ1mmのガス抜き穴40a、50aを通して、試験体格納部40b、50bから発生ガス混合部10cに放出される。
【0033】
また、発生ガス混合部10c内は大気圧と同等の一定の圧力であるため、試験時には試験体格納部40b、50b内の圧力は、発生ガス混合部10c内の圧力よりも高くなる。したがって、発生ガス混合部10c内のスイープガスが、ガス抜き穴40a、50aから試験体格納部40b、50b内に流入することはない。
【0034】
発生ガス混合部10cに放出された水素ガスは、発生ガス混合部10cの下部から上部へ流れるヘリウムガスとともに、排出管20から試験容器100の外部へと排出される。これにより、試験容器100内部の水素ガス濃度が過度に高まることを防止することが可能となる。
【0035】
ガス抜き穴40a、50aの直径については、径が大きいとコンクリート試験体からの湿分の放出が促進し乾燥が進むことが予想され、径が小さいと水素ガスが十分に放出しない可能性がある。本発明者らの評価の結果、ガス抜き穴40a、50aの直径を約φ1mmとすることがコンクリートの乾燥及び水素ガスの放出の面から好ましいことが判明した。
【0036】
次に、本実施形態の試験容器を用いた影響確認試験について説明をする。
【0037】
本試験では、放射線を受けるコンクリートの健全性を評価する項目として、1)圧縮強度、2)静弾性係数、3)水分量等のコンクリート物性を対象としている。試験は、日本原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR)を用いたコンクリート試験体の放射線照射試験及び、照射試験の結果を評価するための影響確認試験で構成されている。各試験の関連図を図2に示す。
【0038】
放射線照射試験は加速照射試験であるため、γ線による内部発熱によりコンクリート試験体の温度が約60℃程度まで上昇することが事前解析により確認されている。また、試験体は、試験容器内を流れる乾燥したヘリウムガスによる極度の乾燥を避ける目的で、セミシール容器に装荷している。放射線を受ける構造物のコンクリートの物性変化を分析・評価するためには、このような試験環境に特有な温度・湿度に関わる条件を排除する必要がある。
【0039】
そこで、本試験では、加速照射試験の他に、図2に示した各種の「影響確認試験」(基本試験、乾燥影響確認試験、照射影響確認試験)を実施する。
【0040】
(a)放射線照射試験
放射線照射試験は加速照射試験であるため、γ線によるコンクリート試験体の内部発熱により試験体の温度が約60℃に上昇することが本試験を対象とした解析により確認されている。また、試験体は、試験容器内を流れる乾燥したヘリウムガスによる極度の乾燥を避ける目的で、セミシール容器に装荷している。
【0041】
(b)影響確認試験
影響確認試験は、放射線を受けるコンクリートと受けないコンクリートの違いを評価するための試験として、照射影響確認試験、乾燥影響確認試験および基本試験の3種類を実施する。
【0042】
i)照射影響確認試験
照射影響確認試験は、放射線照射試験から発熱の影響、乾燥の影響を取除き、放射線の影響のみを抽出するために実施している。試験体を放射線照射試験と同形状のセミシール容器に入れ、容器外部の設定温度を照射試験のモニタリング温度(上記放射線照射試験における試験体の平均計測温度)で加熱した試験である。
【0043】
ii)乾燥影響確認試験
乾燥影響確認試験は、セミシール容器条件の影響を評価するため、照射影響確認試験からセミシール容器を使用せず、試験体を露出した状態で、実施するものである。温度条件は、照射影響確認試験と同じく照射試験のモニタリング温度で加熱し、湿度は60% RH一定としている。
【0044】
iii)基本試験
基本試験は、コンクリート試験体物性の経時変化を見るために温度20℃、湿度60%RH一定とした試験である。
【0045】
表1は、本実施形態の試験容器を用いた影響確認試験を行った結果を示す表である。
【0046】
【表1】



【0047】
表1からわかるように、コンクリート試験体の質量は試験方法により変化することがわかる。したがって、データを比較すればコンクリート試験体の質量変化の要因を分析することが可能となる。
【0048】
このように、放射線照射試験と照射影響確認試験との結果を比較することにより、放射線の影響のみ評価することが可能となる。また、照射影響確認試験と乾燥影響確認試験との結果を比較することにより、シール条件の影響を評価することが可能となる。また、乾燥影響確認試験と基本試験との結果を比較することにより温度の影響を評価することが可能となる。さらに、放射線照射試験と基本試験との結果を比較することにより強度の基準、材齢の補正を行うことが可能となる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の試験容器は、試験体の過度の乾燥を防止することが可能となり、同時に、試験容器内部のガスの排出を促進することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態の試験容器を用いた試験方法によれば、影響確認試験を行うことにより、放射線を受けるコンクリートと受けないコンクリートの違いを適切に評価することが可能となる。
【0051】
なお、上記実施形態においては、供給するスイープガスをヘリウムガスとしたが、これに限られず、使用目的に応じて、適宜不活性ガス等を用いることも可能である。
【0052】
また、上記実施形態においては、不要なガスの例として、水素ガスを例に挙げて説明をしたが、これに限られず、水素ガス以外のガスが発生する試験体に適用することも可能である。
【0053】
また、上記実施形態においては、試験体の例として、コンクリート試験体を例に挙げて説明をしたが、これに限られず、乾燥を防ぐ必要のある各種試験体に適用することも可能である。
【0054】
さらに、上記実施形態では、試験容器を内筒容器と外筒容器との組み合わせとしたが、これに限られるものではなく、例えば、スイープガスが流入及び流出する発生ガス混合部と、この発生ガス混合部に直径約φ1mmのガス抜き穴を介して接続する試験体格納部とを有する一体的な構造としてもよい。
【0055】
(第1実験例)
次に、本実施形態の試験容器を用いた試験方法について説明をする。第1実験例として本発明の試験容器の乾燥防止効果を確認する事前確認試験について説明をする。
【0056】
1.試験の目的
照射試験中に発生する水素ガスを強制的に排出する目的で、湿度0%のヘリウムガスが約60cc/minの速度で試験容器内に流される。ヘリウムガスが直接コンクリート試験体に当たることにより懸念される試験体の極度の乾燥を防ぐための対策として計画された、試験体のセミシール化の有効性を確認する。
【0057】
2.試験の概要
2.1 セミシール容器(図1参照)
(1)材料:SUS304
(2)サイズ
内径:φ50.4mm
容器内上部空間(試験体上面と内筒容器上壁との間隔)の高さ:7mm
発生ガス混合エリア(発生ガス混合部10c)の高さ:25mm
(3)構造:上部にφ1mmの穴を設け、それ以外は全て密閉
【0058】
2.2 コンクリート試験体
(1)調合:照射試験用コンクリート試験体と同一材料、同一調合、同一製作方法
(2)サイズ:φ50×100(ダミー試験体:φ50×25)
【0059】
2.3 試験パラメータ及び試験体数
表2は、試験パラメータ及び試験体数を示す表である。
【0060】
【表2】



【0061】
2.4 試験方法(図3参照)
実験ケースは、恒温・恒湿槽内に設置したセミシール容器に0%RHのヘリウムガスを60cc/minで供給し、水蒸気と混合したガスをセミシール容器から直接恒温・恒湿槽外部へ排気する構成とした。
【0062】
また、比較ケース、標準ケースは、それぞれコンクリート試験体を恒温・恒湿槽及び養生室にシール無しで静置した。
【0063】
2.5 測定項目
(1)測定項目:質量(試験開始前および30日経過後)
(2)発生ガス混合エリアからのガス抜き管にトラップを設け、放出ガスの湿度を測定した。
【0064】
表3は、試験結果を示す表である。
【0065】
【表3】



【0066】
3.試験結果
(1)実験ケースと標準ケースの質量変化は、ほぼ同じである。
(2)比較ケースは、実験ケースや標準ケースと比較して、質量変化が4倍以上大きくなる。
【0067】
4.結論
φ1mmの穴のみ開けた容器にコンクリート試験体を封入するセミシール容器は、湿度0%のヘリウムガスによる試験体の極度の乾燥に対する防止策として有効であることを確認した。
【0068】
(第2実験例)
次に第2実験例として、本発明の試験容器を用いた実際のコンクリート評価について説明をする。
【0069】
1.試験方法
1.1 コンクリート試験体
コンクリート試験体の調合を表4に示す。試験体の作製に使用した材料は、日本の原子力発電所で一般的に使用されているものの中から選定した。コンクリート試験体の形状は、試験容器の大きさを踏まえ、φ50mm×100mmの円筒形とした。コンクリートは打設後、20℃、60%RHの環境で3か月間の封緘養生を行った後、試験開始まで同環境で気中養生を行った。なお、照射によるコンクリート試験体への影響を比較するため、照射期間中、20℃、60%RHの環境下に暴露した非照射の試験体を用いた試験も実施した。
【0070】
【表4】



【0071】
1.2 照射設備
照射試験は、日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターの材料試験炉(JMTR)を使用して行った。
【0072】
1.3 照射試験容器
本試験では、上部にφ1mmの穴を設け、それ以外は全て密閉された構造を有する直径60mm、高さ約1mのステンレス製の試験容器を用いた(図1参照)。この試験容器の中に、コンクリート試験体(φ50mm×100mm)4体、熱電対を埋め込んだ温度測定用のコンクリート試験体(φ50mm×25mm)4体、中性子照射量を測定するためのフルエンスモニタ等を装荷した。
【0073】
1.4 照射条件
(1)温度
コンクリート試験体の温度は、日本の原子力発電所の設計規格である社団法人日本機械学会のコンクリート製原子炉格納容器規格で定められている65℃の制限値以下に収めることを目標とした。なお、この65℃という温度制限値は、The American Society of Mechanical Engineers(ASME)のコンクリート製原子炉格納容器に関する規格に示される値(150°F)を踏まえて設定されている。(表5)
【0074】
【表5】



【0075】
(2)中性子照射量
選定した照射孔における照射条件に基づき、中性子照射量を3水準設定した。3水準のステップごとの目標中性子照射量を表6に示す。最終的な目標中性子照射量は、標準的な沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉圧力容器外側における60年分の高速中性子照射量(3.0×1018n/cm2(E>0.1MeV))を超える値とし、ステップ1では10年分、ステップ2では60年分、ステップ3では40年分の中性子照射量を設定した。
【0076】
【表6】



【0077】
(3)発生ガス濃度
コンクリートに放射線を照射すると、コンクリート中の水分が分解し、水素ガス等が発生する。そのため、水素ガス濃度を4%以下に抑えるために、試験容器内に一定流量のキャリアガスを供給し、発生したガスを逃がすこととした。また、発生ガスの濃度を確認するため、定期的に測定を行った。
【0078】
1.5 測定項目
照射中の測定項目及び照射後のコンクリート試験体を用いた測定項目を以下に示す。
(1)照射中:温度、中性子照射量、発生ガス濃度(水素ガス、酸素ガス、窒素ガス)
(2)照射後:圧縮強度、静弾性係数、寸法、外観、走査型電子顕微鏡(SEM)観察
【0079】
2.測定結果
照射中の測定結果の一覧を表7に示す。
【0080】
【表7】



【0081】
(1) 温度
照射中のコンクリート試験体の温度は、すべてのステップで温度制限値(65℃)以下を満足した。
【0082】
(2) 中性子照射量
中性子照射量を解析により算出するとともに、フルエンスモニタの放射化量から得られた中性子照射量により解析結果を補正した。
【0083】
高速中性子照射量は、すべてのステップで目標値を上回ることができた。また、40年を想定していたステップ3においても、標準的なBWRの原子炉圧力容器外側における60年分の高速中性子照射量(3.0×1018n/cm2(E>0.1MeV))を超えていた。最大高速中性子照射量は12.0×1018n/cm2(E>0.1MeV)であった。
【0084】
(3) 発生ガス
照射中に発生した水素ガスと酸素ガスのガス濃度測定結果の一例を図4に示す。水素ガス濃度は、照射開始直後にピークを示し、その後徐々に減少したことから、放射線照射による水の分解が収まっていると考えられる。また、酸素ガス濃度は、照射開始から約100時間後から確認され、約400時間後から徐々に減少した。これらの傾向は、全てのステップで同じ傾向を示した。
【0085】
なお、これらのガス以外に、窒素ガスも測定したが、照射開始時点でごくわずかに検出されただけであった。
【0086】
3.照射後の測定結果
(1) 圧縮強度
高速中性子照射量とコンクリート試験体の圧縮強度との関係を図5に示す。図の縦軸は、非照射試験体の圧縮強度(4体の平均値)に対する照射試験体の圧縮強度の比率を示している。
【0087】
この図から明らかなように、照射試験体の圧縮強度は、照射量に関わらず非照射試験体と同等であった。また、本試験の最大照射量である12.0×1018n/cm2(E>0.1MeV)まで、中性子照射量の影響を受けず、ほぼ一定の圧縮強度を示すことが分かった。
【0088】
(2) 静弾性係数
高速中性子照射量とコンクリート試験体の静弾性係数との関係を図6に示す。図の縦軸は、非照射試験体の静弾性係数(4体の平均値)に対する照射試験体の静弾性係数の比率を示している。
【0089】
照射試験体の静弾性係数は、標準的なBWRの原子炉圧力容器外側における60年分の高速中性子照射量(3.0×1018n/cm2(E>0.1MeV))程度では非照射試験体と変わりがなかった。6.0×1018n/cm2を超えるとやや低下する傾向が見られるが、コンクリート構造体に影響を与えるほどの低下ではない。
【0090】
(3) 寸法
照射前後のコンクリート試験体の直径、高さを比較した結果、いずれの試験体も変化率は±0.1%以内で、測定器の測定誤差と同等であり、照射による寸法変化はほとんど無いことが分かった。
【0091】
(4) 外観・走査型電子顕微鏡(SEM)観察
照射後のコンクリート試験体の外観に変状やひび割れは観察されなかった。さらに、コンクリートを微視的に観察するために、試験体を破砕し、破砕面のSEM観察を行った。この結果、非照射試験体との明らかな違いは観察されなかった。
【0092】
4.既往の知見との比較
Hilsdorfらの文献中に掲載されている、中性子照射量と圧縮強度の関係を示した図は、日本の高経年化した原子力発電所のコンクリートの健全性を評価する際に引用されている。
【0093】
図7は照射量の増加に伴い、圧縮強度が低下する傾向を示しているが、プロットされている個々のデータを我々が調査した結果、以下のデータが含まれていることが明らかになった。
【0094】
(a) 照射中の試験体の温度が100℃以上の高温になっている。(約140℃〜550℃)
(b) 試験体の大きさが非常に小さい。(一辺が8mm〜15mm)
(c) 圧縮強度ではなく、曲げ強度のデータで評価している。
【0095】
100℃を超える高温環境下にコンクリートを暴露した場合、圧縮強度が低下することを示す文献は多く存在する。例えば、社団法人日本コンクリート工学協会「コンクリート便覧」では、コンクリートの耐熱性に関して、「圧縮強度の低下は100℃前後までは比較的小さいが、それ以上では加熱温度に反比例して残存圧縮強度比が小さくなる傾向を示す」と結論付ける試験結果の例を示している。
【0096】
一般に、照射密度が大きくなるほど、試験体の温度は高くなり、温度による影響は大きくなる。すなわち、圧縮強度が低下する原因は、照射量だけではなく、照射中の温度の影響も大きい。
【0097】
そこで、図7のデータのうち、(a)〜(c)に該当するデータをスクリーニングし、再整理した。その結果を図8に示す。これによると、中性子照射量の範囲は限られるが、中性子照射量の増加に伴い、コンクリートの圧縮強度が低下する傾向はないことが分かる。この図に本試験の結果をあわせてプロットした結果、本試験の照射量の範囲では、既往の知見とほぼ同等の傾向となった。
【0098】
5.まとめ
以上の結果から、本試験における照射量の範囲では、放射線照射はコンクリートの圧縮強度に大きな影響を及ぼさず、遮へい性能への大きな影響も無いことを確認した。また、本試験においては、放射線による寸法や組織の変化もほとんど生じないことや、放射線分解によるガスの発生挙動等の知見が得られた。これらの知見は、原子力発電所のコンクリート構造物のみならず、放射線を受ける原子力施設等の長期的な健全性評価においても有用な知見であると考えられる。
【符号の説明】
【0099】
100:試験容器
10:外筒容器
20:排出管
30:供給管
40:第1の内筒容器
50:第2の内筒容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイープガスの供給及び排出が行われる発生ガス混合部と、
前記発生ガス混合部に隣接して配置され、試験中に試験体から発生するガスを前記発生ガス混合部へ排出するための少なくとも1つの小孔部を有し、前記小孔部以外は前記試験体を密閉して格納する試験体格納部と、
を備えることを特徴とする試験容器。
【請求項2】
前記発生ガス混合部を備え、前記スイープガスの一定方向の流れが内部に形成される外筒容器と、
前記試験体格納部を備え、前記小孔部を前記スイープガスの流れの下流の方向に向けて前記外筒容器の内部に配置された内筒容器と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の試験容器。
【請求項3】
前記試験容器は、放射線照射試験用の試験容器であることを特徴とする請求項1または2に記載の試験容器。
【請求項4】
前記試験容器は、加熱試験用の試験容器であることを特徴とする請求項1または2に記載の試験容器。
【請求項5】
放射線照射試験時又は加熱試験時には、前記試験体から発生するガスにより、前記試験体格納部内の圧力が前記発生ガス混合部内の圧力よりも高くなり、前記小孔部から前記試験体格納部内への前記スイープガスの流入が阻止されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の試験容器。
【請求項6】
試験体を請求項1から5のいずれかに記載の試験容器に格納し、放射線を照射して放射線照射試験を行い、
前記試験体を請求項1から5のいずれかに記載の試験容器に格納し、前記放射性照射試験のモニタリング温度で加熱のみを行う照射影響確認試験を行い、
前記放射線照射試験の結果と前記照射影響確認試験の結果とを比較して、前記試験体への放射線の影響を分離して評価することを特徴とする試験方法。
【請求項7】
前記試験体を請求項1から5のいずれかに記載の試験容器に格納せずに、所定の恒湿とした環境下で前記放射性照射試験のモニタリング温度で加熱を行う乾燥影響確認試験をさらに行い、
前記照射影響確認試験の結果と前記乾燥影響確認試験の結果とを比較して、前記試験体への前記試験容器の影響を分離して評価することを特徴とする請求項6に記載の試験方法。
【請求項8】
前記試験体を請求項1から5のいずれかに記載の試験容器に格納せずに、所定の恒温及び所定の恒湿とした環境下で静置する基本試験をさらに行い、
前記乾燥影響確認試験の結果と前記基本試験との結果とを比較して、前記試験体への前記温度の影響を分離して評価することを特徴とする請求項7に記載の試験方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−33399(P2011−33399A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177922(P2009−177922)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)