説明

試験数決定方法

【課題】成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験の試験結果から特性値を取得するに際して、試験の適切な試験数を決定できる試験数決定方法を提供する。
【解決手段】予め、1セットあたりに取得する特性値の数aとセット数b、試験毎の特性値のばらつきを表す仮の正規分布を設定しておき、仮の正規分布に従う乱数をa個発生させてその平均値Msと標準偏差Ssを求めることをbセット繰返し、平均値Msの平均値と標準偏差、標準偏差Ssの平均値と標準偏差を求め、他方、仮の正規分布に従う乱数をc個発生させ、試験をc回行ったときの試験結果を予測して特性値を求めることをa回繰返して平均値Mtと標準偏差Stを求めることをbセット繰返し、平均値Mtの平均値と標準偏差、標準偏差Stの平均値と標準偏差を求め、両者の平均値と標準偏差の検定を行い、試験数cを変えつつ検定を繰返すことで有意差がないと判断される試験数cを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通試験などの成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験の試験数を決定する試験数決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐弾性能や飛散物のコンテインメント(封じ込め)性能を評価するために貫通試験が行われている。
【0003】
貫通試験は、試験体に飛翔体を衝突させ、飛翔体が試験体を貫通したか否かを判定する試験である。したがって、貫通試験で得られるデータは、ある試験衝突速度に対する貫通・非貫通の2値データのみであり、貫通試験の試験結果から試験体の貫通限界V50(貫通確率50%となる速度)を推定するためには、衝突速度を変化させつつ複数回の試験を行う必要がある。
【0004】
さらに、貫通限界V50は、試験体の個体ごとにばらつきがある。そのため、統計的に意味がある貫通限界V50を取得するためには、ある程度の試験数が必要になる。試験数が過剰であれば試験費用が大きくなってしまい、過少であれば試験結果の精度が得られないことになるため、適切な試験数を見積もることは重要である。
【0005】
従来の貫通限界V50を求める方法としては、貫通限界V50の推定が可能になるまで貫通試験を行う方法や、ある衝突速度幅内に貫通と非貫通が同数現れた速度を貫通限界V50とする方法、あるいは、試験体の貫通限界V50のばらつきに正規分布を仮定し最尤推定によって貫通限界V50を求める方法などが知られている。
【0006】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−503137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的な材料試験(例えば引張試験)のように破断強度が直接数値で得られるような試験では規格により試験数が定められているが、貫通試験のように成功・失敗の2値の試験結果を得る試験については、試験数を定めた規格がないという問題がある。
【0009】
つまり、現状では、試験数をどのように決定するかという基準が不明であり、上述の従来の貫通限界V50を求める方法のように、経験により試験数を決定するしかなかった。しかし、経験により試験数を決定する場合、当然に試験数が過剰あるいは過小となってしまう可能性があり、コストや精度の観点で問題がある。
【0010】
また、上述のように、貫通限界V50は試験体の個体ごとにばらつきがあるが、従来方法では、得られる貫通限界V50がどの程度のばらつきを含むものであるか考慮していないという問題もある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験の試験結果から特性値を取得するに際して、試験の適切な試験数を決定することが可能な試験数決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験を、成功・失敗に寄与するパラメータを変化させつつ繰返し、その試験結果から、成功確率が所定の値となるときの前記パラメータの値を特性値として取得するに際して、前記試験の適切な試験数を決定するための方法であって、予め、1セットあたりに取得する特性値の数aと、何セット試験を行うかというセット数bを設定しておくと共に、試験毎の特性値のばらつきを表す仮の正規分布を設定しておき、前記仮の正規分布に従う乱数をa個発生させてその平均値Msと標準偏差Ssを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Msの平均値MMsと標準偏差SMs、b個の標準偏差Ssの平均値MSsと標準偏差SSsを求める基準演算工程を行い、他方、特性値を1つ取得する際の試験数cを仮に設定し、前記仮の正規分布に従う乱数をc個発生させ、前記試験をc回行ったときの試験結果を予測し、その予測した試験結果を基に特性値を求めることをa回繰返すと共に、得られたa個の特性値の平均値Mtと標準偏差Stを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Mtの平均値MMtと標準偏差SMt、b個の標準偏差Stの平均値MStと標準偏差SStを求める試験結果予測工程を行い、前記基準演算工程と前記試験結果予測工程の演算結果を基に、両者の平均値と標準偏差の検定を行う検定工程を行い、試験数cを変えつつ前記試験結果予測工程と前記検定工程を繰返すことで、前記検定にて有意差がないと判断される試験数cを求める試験数決定方法である。
【0013】
前記試験は、試験体に飛翔体を衝突させ、前記飛翔体が前記試験体を貫通したか否かを判定する貫通試験であり、前記特性値は、貫通確率が50%となるときの衝突速度である貫通限界V50であってもよい。
【0014】
前記1セットあたりに取得する特性値の数aとセット数bは、予め選定した基準とする材料試験の規格に規定されている1セットあたりの試験数とセット数に設定されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験の試験結果から特性値を取得するに際して、試験の適切な試験数を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る試験数決定方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】図1の基本演算工程の手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の試験結果予測工程の手順を示すフローチャートである。
【図4】図3の試験結果予測工程を説明するイメージ図である。
【図5】図2の基本演算工程で得た平均値Msと、図3の試験結果予測工程で得た平均値Mtの対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
本発明の試験数決定方法は、成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験を、成功・失敗に寄与するパラメータを変化させつつ繰返し、その試験結果から、成功確率が所定の値となるときのパラメータの値を特性値として取得するに際して、試験の適切な試験数を決定する方法である。
【0019】
以下の説明では、一例として、貫通試験により貫通限界V50を取得する場合を説明する。貫通試験とは、試験体に飛翔体を衝突させ、飛翔体が試験体を貫通したか否かを判定する試験であり、この貫通試験を衝突速度を変化させつつ繰返すことで、その試験結果から、特性値として、貫通確率が50%となるときの衝突速度である貫通限界V50を取得できる。
【0020】
ただし、本発明は、貫通試験により貫通限界V50を取得する場合の試験数の決定に限定されるものではない。例えば、スパークギャップの測定を行う際の試験数や、火薬の着火エネルギの測定を行う際の試験数を決定する際にも本発明は適用可能である。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る試験数決定方法の手順を示すフローチャートである。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係る試験数決定方法では、まず、ステップS1にて、1セットあたりに取得する特性値(ここでは貫通限界V50)の数aと、何セット試験を行うかというセット数(バッチ数、試行回数)bを設定しておく。つまり、本実施の形態では、a個の貫通限界V50を取得することをbセット繰返して、得られたa×b個の貫通限界V50を基に、貫通限界V50の平均値やばらつきを評価する。
【0023】
本実施の形態では、規格化されている一般的な材料試験(例えば引張試験)の試験数を根拠として、貫通試験の試験数を決定する。換言すれば、規格化されている一般的な材料試験と同程度の精度で特性値(貫通限界V50)が取得できるように、適切な貫通試験の試験数を決定する。
【0024】
一般的な材料試験では、例えば15回の試験を3セット繰返す、といった具合に、1セットあたりの試験数とセット数が規格に規定されている(例えば、MIL−HDBK−17−1E参照)ので、ステップS1では、具体的には、基準とする材料試験を選定すると共に、当該材料試験の規格を参照し、規格に規定されている1セットあたりの試験数とセット数を、a,bの値として設定することになる。
【0025】
なお、これらa,bの値は、必ずしも一般的な材料試験に準拠させる必要はなく、要求される精度に応じて適宜任意の値に設定することも可能である。また、一般的な材料試験の規格を、必要に応じて一部変更するなどして設定することも勿論可能である。
【0026】
a,bの値を設定した後、ステップS2にて、試験毎の特性値のばらつきを表す仮の正規分布(仮の平均値と標準偏差)を設定する。本実施の形態では貫通試験を対象としているので、ステップS2では、試験体ごとの貫通限界V50のばらつきを表す仮の正規分布を設定することになる。
【0027】
この仮の正規分布は、例えば、事前に予備試験を行い、その試験結果を基に設定することが可能である。また、以前に同じ試験体を用いて貫通試験を行った材料データがある場合には、その材料データを用いて仮の正規分布を設定することも可能である。
【0028】
その後、ステップS3の基準演算工程を行う。基準演算工程では、試験体の貫通限界V50(=標本値)の分布が正規分布に従うとして乱数により発生させた値を貫通限界V50として、試験体数(乱数を発生させた数)と貫通限界V50の平均値、標準偏差との関係を求める。
【0029】
具体的には、図2に示すように、基準演算工程では、ステップS31にて変数iに初期値1を代入した後、ステップS32にて、ステップS2で設定した仮の正規分布に従う乱数(貫通限界V50)をa個発生させ、ステップS33にて、a個の乱数の平均値Msと標準偏差Ssを求める。これにより、例えば、
平均値Ms 200m/s、標準偏差Ss 3m/s
といったデータが得られる。
【0030】
その後、ステップS34にてiがb以上か判定し、NOと判定された場合、ステップS35にてiをインクリメントした後、ステップS32に戻る。つまり、ステップS32,S33をbセット繰返す。これにより、例えば、表1に示すようなb個の平均値Msと標準偏差Ssが得られることになる。
【0031】
【表1】

【0032】
ステップS34にてYESと判定された場合、すなわち、ステップS32,S33をbセット繰返した後、ステップS36にて、得られたb個の平均値Msの平均値MMsと標準偏差SMs、b個の標準偏差Ssの平均値MSsと標準偏差SSsを求める。
【0033】
図1に戻り、基準演算工程を行った後、ステップS4にて、特性値(貫通限界V50)を1つ取得する際の試験数cに初期値を設定する。ステップS4で設定する試験数cの初期値は、なるべく小さい値に設定することが望ましい。これは、本実施の形態では、試験数cを徐々に増やしながら最適な試験数を求めていくためである。
【0034】
試験数cに初期値を設定した後、ステップS5の試験結果予測工程を行う。試験結果予測工程では、貫通試験による貫通・非貫通の複数回の試験結果から求まる特性値(貫通限界V50)の値が1つの標本値に相当するとみなす。この仮定が妥当となるのに必要な貫通試験の試験数cと貫通限界V50の平均値、標準偏差とそれらのばらつきの関係を求める。
【0035】
具体的には、図3に示すように、試験結果予測工程では、ステップS51にて変数jに初期値1を代入し、ステップS52にて変数iに初期値1を代入した後、ステップS53にて、ステップS2で設定した仮の正規分布に従う乱数(貫通限界V50)をc個発生させる。ステップS53で得たc個の乱数は、c個の試験体を準備した際のそれぞれの試験体の貫通限界V50を模したものである。
【0036】
その後、ステップS54にて、貫通試験手順に従って衝突条件(飛翔体を試験体に衝突させる際の衝突速度)を設定し、ステップS53で得た試験体の貫通限界V50との大小関係から、貫通試験をc回行ったときの貫通・非貫通の試験結果を予測する。
【0037】
このとき設定する衝突条件は、特に限定するものではないが、実際に貫通試験を行う際の衝突条件と同じ条件を用いる必要がある。具体的には、衝突条件としては、例えば、衝突速度の範囲(最大値、最小値)を設定し、最初の衝突速度を最大値と最小値の中間値に設定して貫通試験を行い、貫通した場合にはその中間値と最小値の中間の値、非貫通の場合にはその中間値と最大値の中間の値・・・、といった具合に順次衝突速度を設定していく方法が挙げられる。なお、貫通限界V50を求める際の具体的な試験手順については、例えば、MIL−STD−331Cに具体的に開示されている。
【0038】
貫通・非貫通の判定のイメージ図を図4に示す。図4に示すように、貫通・非貫通の判定は、試験体の貫通限界V50(ステップS53で発生させた乱数)が、衝突速度(ステップS54で衝突条件に応じて設定した衝突速度)より大きければ「非貫通」、試験体の貫通限界V50が衝突速度以下であれば「貫通」、と判定することになる。
【0039】
その後、ステップS55にて、ステップS54で予測したc回の貫通試験の試験結果を基に、最尤推定(最尤法)により、特性値である貫通限界V50を求める。最尤推定は公知であるためここでは説明を省略する。
【0040】
ステップS56では、iがa以上か判定し、NOと判定されれば、ステップS57にてiをインクリメントした後、ステップS53に戻る。つまり、ステップS53〜S55をa回繰り返し、特性値である貫通限界V50をa個取得する。
【0041】
ステップS56にてYESと判定された場合、すなわち、ステップS53〜S55をa回繰り返した後、ステップS58にて、得られたa個の特性値の平均値Mtと標準偏差Stを求める。これにより、例えば、
平均値Mt 205m/s、標準偏差St 4m/s
といったデータが得られる。
【0042】
その後、ステップS59にてjがb以上か判定し、NOと判定されれば、ステップS60にてjをインクリメントした後、ステップS52に戻る。すなわち、ステップS52〜S58をbセット繰り返す。これにより、例えば、表2に示すようなb個の平均値Mtと標準偏差Stが得られることになる。
【0043】
【表2】

【0044】
ステップS59にてYESと判定された場合、すなわち、ステップS52〜S58をbセット繰り返した後、ステップS61にて、得られたb個の平均値Mtの平均値MMtと標準偏差SMt、b個の標準偏差Stの平均値MStと標準偏差SStを求める。
【0045】
図1に戻り、試験結果予測工程を行った後、ステップS6にて、基準演算工程と試験結果予測工程の演算結果を基に、両者の平均値と標準偏差の検定を行う検定工程を行う。つまり、ステップS36で得た平均値Msの平均値MMsと標準偏差SMs、標準偏差Ssの平均値MSsと標準偏差SSsと、ステップS61で得た平均値Mtの平均値MMtと標準偏差SMt、標準偏差Stの平均値MStと標準偏差SStとを基に、両者の検定を行う。
【0046】
検定工程における平均値の検定は、t検定により行えばよい。また、標準偏差(分散)の検定は、F検定により行えばよい。t検定、F検定は公知であり、平均値の検定をt検定、分散の検定をF検定により行うのは一般的な手法であるため、ここではその説明を省略する。
【0047】
一例として、平均値Msと平均値Mtの対応関係を図5に示す。図5における横軸の試験数は、1セットあたりの貫通試験の試験数、すなわちc×aを表している。図5に示すように、試験数cを増やすほど(c×aが大きくなるほど)、平均値Mtの標準偏差SMtが小さくなり、ばらつきが小さくなり、平均値Msのエラーバー(分散)の範囲内に収束していくことが分かる。
【0048】
検定工程を行った後、ステップS7にて、検定の結果有意差があったかを判定する。ステップS7にてYESと判定された場合、ステップS8にて試験数cを増やした後、ステップS5に戻る。つまり、試験数cを変えつつ、ステップS5の試験結果予測工程とステップS6の検定工程を繰返す。ステップS8にて試験数cをどのように増やすかは、特に限定されるものではなく、例えば1ずつ増やすなど一定の値ずつ増やすようにしてもよいが、検定の結果に応じて、両者の差が大きいと考えられる場合は増やす数を大きく、差が小さいと考えられる場合は増やす数を小さくすれば、計算時間を短縮できるので好ましい。
【0049】
ステップS7にてNOと判断された場合、すなわち、検定にて有意差がないと判断された場合、ステップS9にて、試験数cを適切な試験数に決定する。つまり、本実施の形態では、検定により基準演算工程で得た結果と同等の結果が得られる最小の貫通試験の試験数cを、試験結果予測工程の結果から求めている。
【0050】
なお、試験数cは、特性値(貫通限界V50)を1つ取得する際の試験数であるから、1セットあたりの試験数でいうとc×a、bセット行ったときの総試験数はc×a×bということになる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態に係る試験数決定方法では、材料試験の規格を参照するなどして、予め、1セットあたりに取得する特性値(貫通限界V50)の数aとセット数bを設定しておくと共に、試験毎の特性値のばらつき(試験体ごとの貫通限界V50のばらつき)を表す仮の正規分布を設定しておき、仮の正規分布に従う乱数をa個発生させてその平均値Msと標準偏差Ssを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Msの平均値MMsと標準偏差SMs、b個の標準偏差Ssの平均値MSsと標準偏差SSsを求める基準演算工程を行い、他方、特性値(貫通限界V50)を1つ取得する際の試験数cを仮に設定し、仮の正規分布に従う乱数をc個発生させ、試験(貫通試験)をc回行ったときの試験結果を予測し、その予測した試験結果を基に特性値(貫通限界V50)を求めることをa回繰返すと共に、得られたa個の特性値(貫通限界V50)の平均値Mtと標準偏差Stを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Mtの平均値MMtと標準偏差SMt、b個の標準偏差Stの平均値MStと標準偏差SStを求める試験結果予測工程を行い、さらに、基準演算工程と試験結果予測工程の演算結果を基に、両者の平均値と標準偏差の検定を行う検定工程を行い、試験数cを変えつつ試験結果予測工程と検定工程を繰返すことで、検定にて有意差がないと判断される試験数cを求めている。
【0052】
つまり、本実施の形態では、試験体の貫通限界V50(=標本値)のばらつき(標準偏差)と、複数回の貫通試験から得られる貫通限界V50のばらつきを計算し、比較することで必要試験数を決定している。
【0053】
従来、貫通試験のように成功・失敗の2値の試験結果を得る試験については、試験数を定めた規格がなかったが、本発明によれば、試験ごとの特性値のばらつき(貫通試験の場合は試験体の個体ごとの貫通限界V50のばらつき)を考慮しつつ、適切な試験数を決定することが可能となる。その結果、試験数が過剰あるいは過小となってしまうことがなくなり、低コストかつ高精度に特性値(貫通限界V50)を求めることが可能になる。
【0054】
また、本実施の形態では、1セットあたりに取得する特性値の数aとセット数bを、予め選定した基準とする材料試験の規格に規定されている1セットあたりの試験数とセット数に設定しているので、規格化されている一般的な材料試験の試験数を根拠として、その材料試験と同程度の精度を得るために必要な貫通試験の試験数cを決定することが可能になる。
【0055】
さらに、本実施の形態では、演算過程で平均値や標準偏差を計算しているため、試験数cを決定して実際に試験を行ったときに、当該試験の試験結果から得た特性値が、どの程度のばらつきをもつものであるか分かる。
【0056】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0057】
例えば、上記実施の形態では言及しなかったが、最初に仮定した仮の正規分布を、実際に試験(貫通試験)を行いながら修正するようにしてもよい。このようにすることで、実際の貫通試験での試験結果をフィードバックして試験数cを決定することを繰り返すうちに、より適切な試験数cを得ることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成功・失敗の2値の試験結果が得られる試験を、成功・失敗に寄与するパラメータを変化させつつ繰返し、その試験結果から、成功確率が所定の値となるときの前記パラメータの値を特性値として取得するに際して、前記試験の適切な試験数を決定するための方法であって、
予め、1セットあたりに取得する特性値の数aと、何セット試験を行うかというセット数bを設定しておくと共に、
試験毎の特性値のばらつきを表す仮の正規分布を設定しておき、
前記仮の正規分布に従う乱数をa個発生させてその平均値Msと標準偏差Ssを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Msの平均値MMsと標準偏差SMs、b個の標準偏差Ssの平均値MSsと標準偏差SSsを求める基準演算工程を行い、
他方、特性値を1つ取得する際の試験数cを仮に設定し、前記仮の正規分布に従う乱数をc個発生させ、前記試験をc回行ったときの試験結果を予測し、その予測した試験結果を基に特性値を求めることをa回繰返すと共に、得られたa個の特性値の平均値Mtと標準偏差Stを求めることをbセット繰返し、得られたb個の平均値Mtの平均値MMtと標準偏差SMt、b個の標準偏差Stの平均値MStと標準偏差SStを求める試験結果予測工程を行い、
前記基準演算工程と前記試験結果予測工程の演算結果を基に、両者の平均値と標準偏差の検定を行う検定工程を行い、
試験数cを変えつつ前記試験結果予測工程と前記検定工程を繰返すことで、前記検定にて有意差がないと判断される試験数cを求める
ことを特徴とする試験数決定方法。
【請求項2】
前記試験は、試験体に飛翔体を衝突させ、前記飛翔体が前記試験体を貫通したか否かを判定する貫通試験であり、
前記特性値は、貫通確率が50%となるときの衝突速度である貫通限界V50である
請求項1記載の試験数決定方法。
【請求項3】
前記1セットあたりに取得する特性値の数aとセット数bは、予め選定した基準とする材料試験の規格に規定されている1セットあたりの試験数とセット数に設定される
請求項2記載の試験数決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36896(P2013−36896A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174035(P2011−174035)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】