説明

試験紙測定容器

【課題】ポアサイズの大きな試験紙を、ケースの所定箇所にほぼ水平に設置し、水平方向または斜め水平方向に吸い上げることのできる試験紙測定容器の構造を提供する。
【解決手段】細長いケース2を使用し、前記ケース2の上面に、試験紙を設置するための試験紙設置溝3と、前記試験紙設置溝3の延長線上につながり、サンプル液を溜めるための第1の凹部4と、前記試験紙設置溝3と前記第1の凹部4との間に形成された第2の凹部5とを形成している。
【効果】特に複雑な操作や力を必要とせず、前記ケース2に形成された試験紙設置溝3に、試験紙を設置する、あるいは試験紙を溝に沿って滑り込ませるだけで、試験紙をケース2設置することができる。また、サンプル液が試験紙とケースの隙間を流れても、第2の凹部5に入るようになっているので、試験者の手が汚染されることは少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルに含まれる抗体の濃度を検出するための試験紙測定容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、胃潰瘍、胃炎の原因として、ヘリコバクタピロリー(HP)と言われているバクテリアが存在することが知られている。
患者の胃の中にHPが存在すれば、抗生物質の投与による除菌治療を行う必要がある。したがって、患者にHPが存在するか否かを確認することが重要である。
HP感染の診断方法としては、血液中のHPに対する抗体を検出する方法(抗体検出法)が知られている。抗体検出法は、その簡便性や経済性のために広く用いられている。
【0003】
近年、血液中のHP抗体に代わり、尿中に存在するHP抗体を検出することにより、HPへの感染診断が可能であることが知られている。
この尿中のHP抗体を検出するため、試験紙を尿に浸し、その色の変化を測定して陽性、陰性などを判定する試験紙測定方法が知られている。
この測定方法は、細長い試験紙を内蔵したケースのサンプル液窓に、サンプル液希釈液で希釈した尿サンプル液を滴下する。尿サンプル液は毛管現象により試験紙を横に移動していき、試験紙上に配置された固相化したHP抗原と反応して捕捉され、色を呈する(下記特許文献1,2参照)。
【0004】
このような試験紙測定方法は、尿中に存在するHP抗体を検出するだけでなく、一般に、サンプル液(全血・血漿・血清等の血液や尿、唾液、関節液、骨髄液等の体液、さらには便、喀痰、咽頭や鼻腔の拭い液、肺洗浄液が想定される)中に含有される特異抗原や、特異抗体を捕捉するために用いられる。
この捕捉のためには、(1)ニトロセルロース、プラスティック、濾紙等の担体に、抗体や抗原を固相化する。(2)固相化された抗体や抗原に捕捉された抗原や抗体を、金コロイドや着色ラテックスにより標識した抗体や抗原でサンドイッチ(免疫複合体形成)する。なお形成される免疫複合体の構造には、(固相抗体:サンプル液中抗原:標識抗体)、(固相抗原:サンプル液中抗体:標識抗体)、(固相抗原:サンプル液中抗体:標識抗原)が考えられる。(3)サンドイッチが形成された部分では金コロイドや着色ラテックスにより着色する。このような仕組みにより、目視または機器により判定が可能となる。
【0005】
このような試験紙測定方法を、「イムノクロマト測定法」とも言う。
イムノクロマト測定法を実施する測定系は大きく二つに分類される。
一つは、図12、図13に示すように、プラスティックや紙でできたケース101に、試験紙102が内蔵されたもので、ケース上に設けられた窓103にサンプル液を滴下して測定を行う。下記特許文献1,2に記載されている測定系もこのタイプである。本系の特徴としては、一度サンプル液をアプライすれば、試験者は、その後汚染した内容物に触れる心配がない点があげられる。
【0006】
他の一つは、図14、図15に示すように、スティック状の試験紙201を試験管等の容器202に垂直に入れて、サンプル液を試験紙に吸い上げさせて測定を行うものである。この測定系では、垂直に立てた容器202内で測定可能であるため、多数のサンプル液を測定するときに場所を要しない等の実施上のメリットが考えられる。
しかし、垂直に立てた容器202内で測定する場合、測定に用いた容器202の構造によってはライン部分が隠れてしまい、目視による判定結果が困難となり、スティック状の試験紙201を容器202からとり出して確認する状況が発生する。スティック状の試験紙201にはサンプル液が染みこんでいるために試験者は直接触れてしまう可能性が高い。患者に結果を提示する際も同様の危険がある。
【0007】
そこで、最近では、汚染防止の観点から、ケースを使用した測定系が主流である。
【特許文献1】特開平11-295311号公報
【特許文献2】国際公開WO 01/57502 A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記ケースを使用する系を採用した場合、下記の問題点が指摘されていた。
(1)試験紙の目詰まり:前述の尿中に存在するHP抗体を、ケースを使用する系で実施した場合、尿中に存在する微少な沈査が試験紙上に堆積し、日詰まりを起こすケースが報告されていた。
ケースを使用した測定系で目詰まりを起こす大きな理由として以下の点が考えられる。
【0009】
(1-1)ポアサイズの小さな試験紙にサンプル液をアプライしたこと、
(1-2)サンプル液のアプライはケース上の直径5mm程度の小さなサンプル液窓(図13の“102”)に対して行ったこと、
(1-3)試験紙の上部からサンプル液を滴下したこと、
以上の3つの要因から、尿中の沈査が小さなサンプル液窓上に堆積し、ポアサイズの小さな試験紙を目詰まりさせたと考えられる。
【0010】
前記(1)の課題は、試験紙とサンプル液との接触面を広くし、かつポアサイズの大きな試験紙を使用することで解決できると考えられが、ケースを使用した測定系では、サンプル液窓上にサンプル液を滴下するため、重力の影響で滴下したサンプル液が一気にケース内の試験紙に流れ込み、かつ試験紙内を短時間で大量に移動するため測定が成り立たないことがある。
【0011】
(2)組み立ての困難さ:ケースを使用した測定系では、図16に示すように、ケース内部に短冊状の試験紙102を所定位置に納め、ケース101の上下の蓋を閉じる作業が必須となる。ユーザにこの組み立て作業を強いることは困難であり、あらかじめケース内にパッケージした製品形態が求められる。しかし、製造工程で、ケース内部に短冊状のスティックを所定位置に納めて、ケースを閉じる作業は複雑でありコストもかかる。
【0012】
そこで、試験紙の目詰まりが起こりにくく、ユーザが簡単かつ迅速にケースの定位置に試験紙を納められる試験紙測定容器の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、ポアサイズの大きな試験紙を、ケースの所定箇所にほぼ水平に設置し、水平方向または斜め水平方向に吸い上げることのできる試験紙測定容器の構造を発明した。
本発明の試験紙測定容器は、細長いケースを使用し、前記ケースの上面に、試験紙を設置するための試験紙設置溝と、前記試験紙設置溝の延長線上につながり、サンプル液を溜めるための第1の凹部と、前記試験紙設置溝と前記第1の凹部との間に形成され、ケースと試験紙との隙間を伝わるサンプル液を滴下させるための第2の凹部とを形成している。
【0014】
試験者は、特に複雑な操作や力を必要とせず、前記ケースに形成された試験紙設置溝に、試験紙を設置する、あるいは試験紙を試験紙設置溝に沿って滑り込ませるだけで、試験紙をケースに設置することができる。試験紙への検体の吸収がスムーズに行われ、目視も容易となる。また、サンプル液が試験紙とケースの隙間を流れても、前記第2の凹部に入るようになっているので、試験者が汚染されることは少ない。
【0015】
この試験紙測定容器を用いた測定方法は次のようになる。まずケース上面の試験紙設置溝にポアサイズの大きな試験紙を設置する。このとき、試験紙の先端部が第1の凹部に収納されるようにする。なお「ポアサイズの大きな試験紙」とは、サンプル液を垂直に吸い上げて測定することができる試験紙であって、ポアサイズが比較的大きくサンプル液を吸い上げやすくなっている。次に第1の凹部にサンプル液を滴下し、試験紙を用いてサンプル液を吸い上げさせる。これにより、試験者は、試験紙に直接触れることなく測定結果を目視で容易に判定することができる。また、患者への測定結果の提示はケース部分を持って行えばよい。試験者は試験紙に触れることなく測定を行うことができるため、感染や汚染を過度に気にする必要はない。
【0016】
前記試験紙設置溝の底面は、前記ケースの下面と所定の角度をなして、前記第1の凹部に向かって傾斜していることが好ましい。この傾斜している試験紙設置溝に沿って試験紙を設置すれば、試験紙の先端部は、第1の凹部に突っ込まれるので、第1の凹部にサンプル液を滴下させれば、サンプル液は自動的に吸い取られる。
前記第1の凹部の底面は、前記試験紙設置溝に設置された試験紙の先端を沿わせるためのガイド面を有することが望ましい。このガイド面があれば、傾斜している試験紙設置溝に沿って設置された試験紙の先端部は、第1の凹部に入りやすくなる。
【0017】
前記ケースは前記第1の凹部を覆うための蓋部をさらに備え、前記蓋部は、前記試験紙設置溝に設置された試験紙の先端を、前記第1の凹部の底面に対して押さえつけるための押さえ片を有する構造であっても良い。この蓋の構造により、蓋を閉じたときに、前記試験紙設置溝に設置された試験紙の先端を、前記第1の凹部の底面に対して押さえつけることができるので、特に試験紙設置溝を傾斜させる構造をとらなくても、試験紙の先端を、前記第1の凹部のサンプル液に漬けることができる。
【0018】
前記試験紙設置溝は、試験紙を上から容易に設置し、目視できるように、上に開いて形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、サンプル液と広い接触面積を有するポアサイズの大きな試験紙を用いてサンプル液を水平方向または斜め水平方向から吸い上げさせる構造を採用したので、試験者は、複雑な操作や力を必要とせず、ケース上面に形成された上に開いた試験紙設置溝に、試験紙を設置する、あるいは試験紙を試験紙設置溝に沿って滑り込ませるだけで、試験紙をケースに設置することができる。また、サンプル液が試験紙とケースの隙間を流れても、第2の凹部に入るようになっているので、試験者が汚染されることは少ない。
【0020】
よって、試験紙をケースに組み込んだ形で製造する必要がなく、製造コストの低減が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る試験紙測定容器を示す平面図であり、図2は側断面図である。また図3は試験紙測定容器の全体を示す斜視図である。
試験紙測定容器は、細長いケース2と、ケース2の上面に形成され試験紙を設置するための試験紙設置溝3と、ケース2の上面に形成され試験紙設置溝3の延長線上につながり、サンプル液を溜めるための第1の凹部4と、試験紙設置溝3と第1の凹部4との間に形成された第2の凹部5とを備えている。
【0022】
ケース2全体は合成樹脂で形成され、折りたたみできる蓋部6と、第1の凹部4及び第2の凹部5が形成された中間部2iと、試験紙設置溝3が形成された試験紙設置部2jとに区分することができる。
試験紙設置部2jの両側部には、背が高く盛り上がった壁7があり、これらの盛り上がった壁7の中間に、試験紙設置溝3が形成されている。試験紙設置溝3は、試験紙を上から設置できるように、上方に開いて形成されている。
【0023】
試験紙設置溝3の幅wは、試験紙の幅eよりも広くなっていて、試験者が、複雑な操作や力を必要とせず、ケース2の上から試験紙を簡単に設置できるようになっている。試験紙設置溝3の幅wと試験紙の幅eとの差(w−e)は、具体的には、0.2〜3.0mmあればよく、望ましくは0.4〜2.0mmが好ましい。試験紙設置溝3の底面は、ほぼ平らな面になっており、ケース2の下面2kと所定の角度θをなして(図2参照)、第1の凹部4に向かって傾斜している。ケース2の下面2kは、通常水平に設置されるので、試験紙設置溝3の底面は、水平面から角度θをなして第1の凹部4に向かって傾斜していることになる。この角度θの好ましい範囲は、5度〜20度、望ましくは8〜12度である。θが5度よりも小さければ、試験紙の先端部が、第1の凹部4に滴下されたサンプル液に接触することが困難になる。θが20度よりも大きければ、試験紙の先端部が第1の凹部4に当接するときに、試験紙が折れ曲がって変形するおそれがある。
【0024】
中間部2iに形成された第1の凹部4は、サンプル液を溜めるための凹部である。第1の凹部4の底面のうち、試験紙設置溝3の延長上にある部分は、試験紙設置溝3に設置された試験紙の先端を沿わせるためガイド面4aとなっている。この第1の凹部4の底面のガイド面4aは、試験紙設置溝3の底面と滑らかにつながった平面を形成していることが好ましい。滑らかにつながった平面となっていれば、試験紙設置溝3に導入された試験紙の先端部がスムーズに第1の凹部4に収納されるからである。
【0025】
試験紙設置溝3と第1の凹部4との間に形成された第2の凹部5は、試験紙設置溝3にセットされた試験紙とケース2との隙間を伝わって上昇して行くサンプル液をトラップするための凹部である。この第2の凹部5の設置位置は、第2の凹部5とガイド面4aの先端との距離をyとすると、yは8〜20mm、望ましくは12〜18mmである。また、この第2の凹部5の試験紙導入方向に沿った幅xは2〜8mm、望ましくは3〜6mmがよい。
【0026】
中間部2iと蓋部6との間は、樹脂の肉厚が薄くなっていて、この薄肉の部分を折り返して蓋部6を折りたたむことが出来る。蓋部6の中央には、第1の凹部4にサンプル液を滴下し、溜められたサンプル液に試験紙が接触しているかどうかを目視することができる開口部8が設けられている。蓋部6の先端には、蓋部6を折りたたんだときに中間部2iに形成された小孔9に係合する突起10が設けられている。
【0027】
図4は、この試験紙測定容器の使用状態を示す断面図である。試験紙設置溝3に試験紙Tを設置してその先端部が第1の凹部4に入るようにする。蓋部6を折りたたんだ状態で、開口部8からサンプル液Sを滴下する。サンプル液Sは、第1の凹部4に溜まるとともに、試験紙Tの先端部に接触して、斜め上方向に吸い上げられていく。このとき毛管現象によって試験紙設置溝3の上面と試験紙Tの下面との間を伝わって昇って行くサンプル液Sは、第2の凹部5でトラップされて、第2の凹部5にたまっていく。従って、サンプル液Sがケース2の試験紙設置部2jに付着するおそれは少なくなり、試験者がケース2を触っても、試験者の指がサンプル液Sに触れる可能性は低くなる。
【0028】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る試験紙測定容器を示す平面図であり、図6は側断面図である。また図7は試験紙測定容器の全体を示す斜視図である。
試験紙測定容器は、細長いケース2と、ケース2の上面に形成された2つの側壁7と、これらの側壁7間に形作られた、試験紙を設置するための試験紙設置溝3と、ケース2の上面に形成され試験紙設置溝3の延長線上につながり、サンプル液Sを溜めるための第1の凹部4と、試験紙設置溝3と第1の凹部4との間に形成された第2の凹部5とを備えている。
【0029】
ケース2全体は合成樹脂で形成され、折りたたみできる蓋部6と、第1の凹部4及び第2の凹部5が形成された中間部2iと、試験紙を設置するための試験紙設置溝3が形成された試験紙設置部2jとに区分することができる。
試験紙設置部2jに形成された試験紙設置溝3は、試験紙を上から設置できるように、上方に開いて形成されている。試験紙設置溝3の幅wは、試験紙の幅eよりも広くなっていて、試験者が複雑な操作や力を必要とせず、ケース2の上から試験紙を簡単に設置できるようになっている。試験紙設置溝3の幅wと試験紙の幅eとの差(w−e)は、具体的には、0.2〜3.0mmあればよく、0.4〜2.0mmが望ましい。
【0030】
中間部2iに形成された第1の凹部4は、滴下されるサンプル液Sを溜めるために形成された凹部である。第1の凹部4の底面の一部には、試験紙設置溝3に設置された試験紙Tの先端を沿わせるための、第1の凹部4の底面よりもさらに深いガイド面4bが形成されている。このガイド面4bの底面は、側断面視したとき、直線となっている(図6、図8参照)。
【0031】
中間部2iに形成された第2の凹部5は、試験紙設置溝3にセットした試験紙と試験紙設置溝3との隙間を上昇していくサンプル液Sをトラップするための凹部である。この第2の凹部5の設置位置は、第2の凹部5とガイド面4bの先端との距離をyとすると、yは8〜20mm、望ましくは12〜18mmである。また、この第2の凹部5の試験紙導入方向に沿った幅xは2〜8mm、望ましくは3〜6mmである。
【0032】
これらの第1の凹部4の周辺にある面、第2の凹部5の周辺にある面と、試験紙設置溝3とは、同一平面をなしている。この平面を“2u”で表す。平面2uは、ケース2の下面2kと平行である。従ってこのケース2を水平な台に設置したとき、この平面2uも水平面となる。
中間部2iと蓋部6との間は、樹脂の肉厚が薄くなっていて、この薄肉の部分を折り返して蓋部6を折りたたむことが出来る。蓋部6は中間部2iからつながる2つの片6a,6bによって形成される。各片6a,6bの間に存在する空間は、第1の凹部4にサンプル液Sを滴下することができる開口部8となっている。この開口部8を通して、溜められたサンプル液Sに試験紙Tが接触しているかどうかを目視することができる。また、各片6a,6bには、蓋部6を折りたたんだときに、中間部2iに形成された小孔9に係合する突起10が設けられている。
【0033】
また、各片6a,6bには、蓋部6の先端からこの開口部8の中心部に向かって折り返された折り返し片12a,12bが形成されている。折り返し片12a,12bには、試験紙設置溝3に設置された試験紙の先端を、第1の凹部4のガイド面4bに対して押さえつけるための押さえ片11a,11bが立設されている。押さえ片11a,11bの形状は、第1の凹部4のガイド面4bに対応した形状となっている。押さえ片11aと押さえ片11bとの距離を“v”で表している。この距離vは、試験紙の幅eよりも狭くなっていることが好ましい。試験紙の幅eと試験紙設置溝3の幅vとの差(e−w)は、具体的には、0.2〜3.0mmあればよく、0.4〜2.0mmが望ましい。
【0034】
図8は、試験紙測定容器の使用状態を示す断面図である。試験紙設置溝3に試験紙Tを設置して、その先端部が平面視して第1の凹部4の上にかかるようにする。この状態で蓋部6を折りたたむと、蓋部6の押さえ片11a,11bが試験紙Tの先端部を押さえつけて、試験紙Tの先端部を、第1の凹部4の底面に形成されたガイド面4bに押さえつける。この押さえ付けによって、試験紙Tの先端部は下方向に曲げられる。その後、開口部8から第1の凹部4にサンプル液Sを滴下すると、試験紙Tの先端部はサンプル液Sに接触して、サンプル液Sを吸い上げていく。このとき毛管現象によって、試験紙設置溝3の上面と試験紙Tの下面との間を伝わって昇って行くサンプル液Sは、第2の凹部5でトラップされて、第2の凹部5にたまっていく。従って、サンプル液Sがケース2に付着することは少なくなり、試験者がケース2を触っても、試験者の指がサンプル液Sに触れる可能性は低くなる。
【0035】
次に、本発明の試験紙測定容器に用いる試験紙Tの構造を図9に示す。この試験紙Tは、細長いプラスティックの台紙に、サンプル液をアプライするためのサンプル液吸い上げパッド22と、サンプル液吸い上げパッド22につながる、抗体や抗原が塗布されたニトロセルロースメンブラン23と、ニトロセルロースメンブラン23につながる、サンプル液を吸収保持するサンプル液吸収パッド24とが貼り付けられている。さらに、サンプル液吸い上げパッド22上には、金コロイド標識抗体を乾燥保持させた金コロイド標識抗体パッド25が付着している。さらに使用時、各部材が破壊されるのを防止するために、全面にラミネートシール26が貼り付けられている。ニトロセルロースメンブラン23には、測定終了時にテストライン23aとコントロールライン23bの2本のライン若しくはコントロールライン23bの1本のみ出現するように設計、製作されている。このテストライン23aの出現を目視にて確認することによってサンプル中に抗体が存在すると判断することができる。コントロールライン23bの出現は、測定が成立したことを意味しており、コントロールライン23bが出現しなかつた場合は、その測定に何か問題が発生したということで再測定が必要と判断される。
【0036】
サンプル液吸い上げパッド22には、尿沈査などがあっても目詰まりをおこさないボアサイズの大きい材料を選択した。サンプル液吸い上げパッド22は、ポアサイズが1〜30μm、望ましくは10〜20μmのガラス繊維又は紙である。サンプル液吸い上げパッド22の厚さは0.1〜3.0mm、望ましくは0.2〜1.5mmとする。
また、サンプル液吸収パッド24は水の吸収量が10〜300mg/cm2、望ましくは20〜200mg/cm2のガラス繊維又は紙である。サンプル液吸収パッド24の厚さは0.1〜3.0mm、望ましくは0.2〜1.5mmがよい。
【0037】
このように、サンプル液の展開時に目詰まりを起こさせないように、サンプル液吸い上げパッド22やサンプル液吸収パッド24のポアサイズを大きくした結果、尿中の沈査に対して目詰まりを起こさず、また喀痰抽出液もサンプル液として使用できる試験紙Tを提供することができる。
なお従来、粘性サンプル液や不溶性サンプル液をアプライする前に、濾過用フィルター(図示せず)によりサンプル液を濾過し、その濾過したサンプル液を試験紙Tにアプライする「前処理」が必要であったが、今回選択した材料の試験紙Tにおいては、粘性の極めて高い喀痰および、微粒子の存在する尿でも展開可能であるため、サンプル液をアプライする前の濾過操作を必要としない。
【0038】
金コロイド標識抗体パッド25は厚さ0.1〜1.5mm、望ましくは0.3〜0.8mmのガラス繊維又は紙である。その設置場所はサンプル液吸い上げパッド22上である。金コロイド標識抗体パッド25の長さtは約10mm、金コロイド標識抗体パッド25から試験紙Tの吸い上げ端Taまでの距離zは、4〜18mm、好ましくは6〜15mmである。
金コロイド標識抗体パッド25をサンプル液吸い上げパッド22上に配置した理由は次のとおりである。従来の図12、図13に示したケースを使用する測定系に用いるポアサイズの小さなタイプの試験紙では、金コロイド標識抗体パッド25は、図11に示されるように、サンプル液吸い上げパッド22とニトロセルロースメンブラン23との間に挿入されていた。
【0039】
ところが本発明の試験紙Tの構造では、サンプル液の展開時に目詰まりを起こさせないように、サンプル液吸い上げパッド22やサンプル液吸収パッド24のポアサイズを大きくしている。この結果、サンプル液の流量が大きいために、図11の構造では、金コロイド標識抗体パッド25に保持された金コロイド標識抗体は一気に流れ去り、抗体検出感度が低下するおそれがある。
【0040】
そこで、金コロイド標識抗体パッド25に乾燥保持された大量の金コロイド標識抗体を徐々に溶解し、流すために、本発明の実施形態では、図10に示すように、金コロイド標識抗体パッド25を、サンプル液吸い上げパッド22上に配置することとした。これにより、金コロイド標識抗体は、サンプル液の流れに応じて徐々に溶解され、ニトロセルロースメンブラン23に向かって流れて行く。従来の構造(図11)のように一気に流れ去ることはない。したがって、抗体検出感度を適切な値に維持することができる。
【0041】
前記構造の試験紙Tの使用により、測定操作前のサンプル液の濾過操作を不要とし、目詰まり無く生体成分を測定できることが可能となった。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記記載に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る試験紙測定容器を示す平面図である。
【図2】試験紙測定容器を示す側断面図である。
【図3】試験紙測定容器の全体を示す斜視図である。
【図4】試験紙測定容器の使用状態を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る試験紙測定容器を示す平面図である。
【図6】試験紙測定容器の側断面図である。
【図7】試験紙測定容器の全体を示す斜視図である。
【図8】試験紙測定容器の使用状態を示す拡大断面図である。
【図9】本発明の試験紙測定容器に用いる試験紙の構造を示す図である。
【図10】試験紙の構造を示す一部拡大断面図である。
【図11】従来の試験紙の構造を示す一部拡大断面図である。
【図12】プラスティックや紙でできたケース101に、試験紙102が内蔵された従来の測定系を示す概略図である。
【図13】ケース101上に設けられた窓103にサンプル液を滴下して測定を行う方法を説明する図である。
【図14】従来のスティック状の試験紙の概観図である。
【図15】スティック状の試験紙201を試験管等の容器202に垂直に入れて、サンプル液を試験紙に吸い上げさせて測定を行う状態を示す図である。
【図16】ケース内部に短冊状の試験紙102を所定位置に納め、ケース101の上下の蓋を閉じる作業を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
2 ケース
2i 中間部
2j 試験紙設置部
2k 下面
2u 平面
3 試験紙設置溝
4 第1の凹部
4a,4b ガイド面
5 第2の凹部
6 蓋部6
7 壁
8 開口部
9 小孔
10 突起
12a,12b 折り返し片
11a,11b 押さえ片
S サンプル
T 試験紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースの上面に形成され、試験紙を設置するための試験紙設置溝と、
前記ケースの上面に形成され、前記試験紙設置溝の延長線上につながり、サンプル液を溜めるための第1の凹部と、
前記ケースの上面に形成され、前記試験紙設置溝と前記第1の凹部との間に形成された第2の凹部とを備えることを特徴とする試験紙測定容器。
【請求項2】
前記試験紙設置溝の底面は、前記ケースの下面と所定の角度をなして、前記第1の凹部に向かって傾斜している請求項1記載の試験紙測定容器。
【請求項3】
前記所定の角度は、5度〜20度である請求項2記載の試験紙測定容器。
【請求項4】
前記第1の凹部の底面は、前記試験紙設置溝に設置された試験紙の先端を沿わせるためのガイド面を有する請求項2記載の試験紙測定容器。
【請求項5】
前記ガイド面は、前記試験紙設置溝の底面と滑らかにつながった平面を形成している請求項4記載の試験紙測定容器。
【請求項6】
前記ケースは前記第1の凹部を覆うための蓋部をさらに備え、
前記蓋部は、前記試験紙設置溝に設置された試験紙の先端を、前記第1の凹部の底面に対して押さえつけるための押さえ片を有する請求項1記載の試験紙測定容器。
【請求項7】
前記第1の凹部の底面は、前記押さえ片により押さえつけられた試験紙の先端を沿わせるためのガイド面を有する請求項6記載の試験紙測定容器。
【請求項8】
前記試験紙設置溝は、試験紙を上から設置できるように、上に開いて形成されていることを特徴とする請求項1記載の試験紙測定容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−14690(P2009−14690A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180176(P2007−180176)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】