説明

認知機能障害危険度算出装置、認知機能障害危険度算出システム、及びプログラム

【課題】認知機能障害の危険度を精度良く算出することができるようにする。
【解決手段】特徴量選択部22によって、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、音声データの発話者について求められたHDS−Rスコアとを含む複数の学習データに基づいて、複数種類の韻律特徴量から、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる韻律特徴量の組み合わせを選択する。重み付け決定部24によって、複数の学習データの各々の選択された韻律特徴量の組み合わせとHDS−Rスコアとに基づいて、選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する。特徴量抽出部28によって、入力された音声データから、複数種類の韻律特徴量を抽出する。危険度算出部30によって、抽出された韻律特徴量のうちの選択された韻律特徴量の組み合わせと、重み付け決定部24によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能障害危険度算出装置、認知機能障害危険度算出システム、及びプログラムに係り、特に、音声データに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する認知機能障害危険度算出装置、認知機能障害危険度算出システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、認知症のスクリーニングは、HDS−R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、MMSE(Mini‐MentalState Examination)、CDR(Clinical DementiaRating)などが、fMRI、FDG‐PET、CSFバイオマーカーなどの神経生理学に基づくテストと同様に広く用いられている。これらは一定のトレーニングを受けた医師、あるいは臨床心理士などにより、主として医療機関において実施されている。
【0003】
また、患者の認知症の症状レベルを特定してそれに応じた質問と正解を生成し、患者の回答と正解とを比較して正誤の判定を行う認知症診断支援システムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−282992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、繰り返し診断を行う場合、患者が質問に対する正解を覚えてしまう可能性があり、正しい判定ができなくなってしまう、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる認知機能障害危険度算出装置、認知機能障害危険度算出システム、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために第1の発明に係る認知機能障害危険度算出装置は、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段と、前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段と、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段と、を含んで構成されている。
【0008】
第2の発明に係るプログラムは、コンピュータを、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段、前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段として機能させるためのプログラムである。
【0009】
第1の発明及び第2の発明によれば、特徴量選択手段によって、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、複数種類の韻律特徴量から、危険度との相関が最も高くなる韻律特徴量の組み合わせを選択する。重み付け決定手段によって、複数の学習データの各々の選択された韻律特徴量の組み合わせと危険度とに基づいて、選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する。
【0010】
そして、特徴量抽出手段によって、入力された音声データから、複数種類の韻律特徴量を抽出する。危険度算出手段によって、特徴量抽出手段によって抽出された韻律特徴量のうちの選択された韻律特徴量の組み合わせと、重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する。
【0011】
このように、認知機能障害の危険度との相関が最も高くなる韻律特徴量の組み合わせと、韻律特徴量の組み合わせの各々に対して決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる。
【0012】
第3の発明に係る認知機能障害危険度算出装置は、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段と、前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段と、前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段と、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段と、を含んで構成されている。
【0013】
第4の発明に係るプログラムは、コンピュータを、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段、前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段、前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段として機能させるためのプログラムである。
【0014】
第3の発明及び第4の発明によれば、合成変数生成手段によって、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する。そして、合成変数選択手段によって、複数の学習データと、生成された複数種類の合成変数とに基づいて、複数種類の合成変数から、危険度との相関が最も高くなる合成変数の組み合わせを選択する。重み付け決定手段によって、複数の学習データの各々について求められる合成変数の組み合わせと、複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する。
【0015】
そして、特徴量抽出手段によって、入力された音声データから、複数種類の韻律特徴量を抽出する。危険度算出手段によって、特徴量抽出手段によって抽出された韻律特徴量から求められる合成変数の組み合わせと、重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する。
【0016】
このように、認知機能障害の危険度との相関が最も高くなる、韻律特徴量の合成変数の組み合わせと、合成変数の組み合わせの各々に対して決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる。
【0017】
上記の複数種類の韻律特徴量は、音声の周波数成分に関する特徴量、音声のフォルマント構造に関する特徴量、音声の大きさに関する特徴量、発話速度に関する特徴量、及び質問に回答するまでの反応時間に関する特徴量の少なくとも1つを含むようにすることができる。
【0018】
上記の学習データの認知機能障害の危険度を、発話者に対する長谷川式簡易知能評価スケールによって求められたものとすることができる。
【0019】
上記の特徴量抽出手段は、質問に対する回答として入力された音声データから、複数種類の韻律特徴量を抽出するようにすることができる。
【0020】
第5の発明に係る認知機能障害危険度算出システムは、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段、及び前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段を含む特徴量選択装置と、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段を含む危険度算出装置と、を含んで構成されている。
【0021】
第6の発明に係る認知機能障害危険度算出システムは、音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して主成分分析を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段、前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段、及び前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段を含む合成変数選択装置と、入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段を含む危険度算出装置と、を含んで構成されている。
【0022】
本発明のプログラムは、記録媒体に格納して提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の認知機能障害危険度算出装置、認知機能障害危険度算出システム、及びプログラムによれば、認知機能障害の危険度との相関が最も高くなる韻律特徴量の組み合わせと、韻律特徴量の組み合わせの各々に対して決定された重み付けとに基づいて、又は、認知機能障害の危険度との相関が最も高くなる、韻律特徴量の合成変数の組み合わせと、合成変数の組み合わせの各々に対して決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置の構成を示す概略図である。
【図2】(A)音声データから抽出された周波数成分を示すグラフ、及び(B)フォルマント周波数を示すグラフである。
【図3】(A)音声データから抽出された短時間パワーを示すグラフ、及び(B)音声データの振幅を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るコンピュータの学習処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るコンピュータの認知機能障害危険度算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置の構成を示す概略図である。
【図7】第1の実施の形態及び第2の実施の形態の手法で、選択された韻律特徴量又は合成変数のうちの有意な韻律特徴量又は合成変数の例を示す図である。
【図8】第1の実施の形態及び第2の実施の形態の手法において、算出された危険度とHDS−Rスコアとの相関を示す図である。
【図9】第1の実施の形態の手法で算出された危険度とHDS−Rスコアとの散布図である。
【図10】第2の実施の形態の手法で算出された危険度とHDS−Rスコアとの散布図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出システムの構成を示す概略図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、危険度算出対象であるユーザの音声を入力して、認知機能障害の危険度を算出する認知機能障害危険度算出装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0026】
図1に示すように、第1の発明の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置10は、ユーザからの音声を入力するための音声入力部12と、音声を出力するスピーカ13と、入力された音声データに基づいて、認知機能障害の危険度を算出して、表示装置16に表示させるコンピュータ14とを備えている。
【0027】
音声入力部12は、例えば、音声を入力するためのマイクロホンで構成されている。
【0028】
コンピュータ14は、CPU、ROM、RAM、及びHDDを備え、HDDには、後述する学習処理ルーチン及び認知機能障害危険度算出処理ルーチンに対するプログラムが記憶されている。
【0029】
コンピュータ14は、機能的には次に示すように構成されている。図1に示すように、コンピュータ14は、学習データ記憶部20、特徴量選択部22、重み付け決定部24、質問再生部25と、音声取得部26、特徴量抽出部28、危険度算出部30を備えている。
【0030】
学習データ記憶部20には、学習データとして、音声データから得られた複数種類の音声韻律特徴量と、当該音声データの発話者に対して求められた認知機能障害の危険度とからなるデータが予め記憶されており、多数の発話者に対する学習データが予め記憶されている。
【0031】
本実施の形態では、学習データを得るために、口頭による質疑応答形式のテストとして改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)を実施したときの音声会話を記録した音声データを用いている。例えば、質疑応答の中から「見当識」と「数字逆唱」についての2問の回答音声を収集し、これに追加して、出身地、子供のころの遊び、学生時代、の3つのテーマについて雑談したものから任意の発話音声の冒頭1フレーズについても収集して、音声データを収集した。このように得られた音声データから得られた複数種類の音声韻律特徴量と、テストによって得られた、認知機能障害の危険度を表わすHDS−Rスコアとを学習データとして収集して、学習データ記憶部20に格納した。
【0032】
複数種類の音声韻律特徴量として、例えば、以下に示す130種の音声韻律特徴量が用いられる。これらの特徴抽出の際には、量子化ビット数16およびサンプリング周波数44.1[KHz]のデジタル音声を用い、短時間分析におけるフレーム長を23[msec]、フレーム周期11[msec]とし、窓関数としてHamming窓(1024ポイント)を使用した。
【0033】
まず、音声の高さに関係するピッチ構造を反映させるために、基本周波数と基本周波数のn倍の周波数を持つn次高調波成分から得られる、以下に示す53種の音声韻律特徴量を用いた。ただし、基本周波数の時間変化の振幅とは、1事例の基本周波数のデータ列の上位25%と下位25%の値を無視したときの最大値と最小値の幅とする。
【0034】
F1−7. 発音開始直後t秒間の基本周波数の時間変化の振幅(t=0.05,0.10,・・・,0.35)
F8. 周波数重心(各高調波成分のパワー値を重みとする周波数の重みつき平均)
F10−48. 全高調波成分のパワー値の合計に対する基音からn次までの高調波成分のパワー値の合計の割合(n=2,3, ・・・,40)
F49. 奇数次の高調波成分(基音含む)と偶数次の高調波成分とのパワー値の合計の比
F50−53. 基本周波数の標準偏差、平均、最大、最小値(図2(A)参照)
【0035】
また、音声の特徴を表すフォルマント構造を反映させるために、以下に示すフォルマント周波数(図2(B)参照)とフォルマント帯域幅を、音声韻律特徴量として56種類用いる。
【0036】
F54−57. 第nフォルマント周波数の標準偏差(n=1,・・・,4)
F58−61. 第nフォルマント周波数の平均値(n=1,・・・,4)
F62−65. 第nフォルマント周波数の最大値(n=1,・・・,4)
F66−69. 第nフォルマント周波数の最小値(n=1,・・・,4)
F70−73. 第nフォルマント周波数の中央値(n=1,・・・,4)
F74−77. 第nフォルマント周波数の最大値と最小値の差(n=1,・・・,4)
F78−81. 第nフォルマント周波数の線形近似直線の傾き(n=1,・・・,4)
F82−85. 第nフォルマント帯域幅の標準偏差(n=1,・・・,4)
F86−89. 第nフォルマント帯域幅の平均値(n=1,・・・,4)
F90−93. 第nフォルマント帯域幅の最大値(n=1,・・・,4)
F94−97. 第nフォルマント帯域幅の最小値(n=1,・・・,4)
F98−101. 第nフォルマント帯域幅の中央値(n=1,・・・,4)
F102−105. 第nフォルマント帯域幅の最大値と最小値の差(n=1,・・・,4)
F106−109. 第nフォルマント帯域幅の線形近似直線の傾き(n=1,・・・,4)
【0037】
更に、音声の大きさに関係する振幅構造を反映させるために、短時間パワーとその包絡線から得られる、以下に示す10種類の音声韻律特徴量を用いる。
【0038】
F110. パワー包絡線の線形最小二乗法による近似直線の傾き
F111−117. 発音開始直後t 秒間のパワー包絡線の微分係数の中央値(t=0.05,0.10,・・・,0.35)
F118−124. 最大パワー値と発音開始からt 秒後のときのパワー値の比(t=0.05,0.10,・・・,0.35)
F125−128. 短時間パワーの標準偏差、平均、最大、最小値(図3(A)参照)
【0039】
また、時間構造を反映させるために、2種類の韻律特徴量として、図3(B)に示すような、発話者が話す速さ、及び質問に回答するまでの反応時間を用いる。
【0040】
F129. 1モーラあたりの発話継続時間
F130. 返答までの反応時間
【0041】
次に、韻律特徴量の組み合わせを選択する原理について説明する。
【0042】
本実施の形態では、ユーザの音声データから音声韻律特徴を抽出し、解析することで認知機能障害(CI)と健常(NL)を判別することを目的としている。しかしながら、解析を行なう際に、音声データから抽出した韻律特徴量が多すぎると、その韻律特徴量の中には認知機能障害の判別に無関係な韻律特徴量が含まれる可能性があり、モデルの構築や判別の精度に悪影響を与えることが考えられる。また、韻律特徴量が多すぎるとモデルが複雑になりすぎたり、計算コストが高くなったりする短所もある。
【0043】
そこで、本実施の形態では、上記の130種類の音声韻律特徴に対して、特徴選択を行なう。特徴選択の手法としては、科学的理論や事前の知識によって適当な変数を指定する変数指定法や、全ての変数の組合せを計算し、最良と思われるものを選択する総当たり法、一定の規則にしたがって変数を逐次選択していく逐次選択法などがあげられる。現在のところ、高齢者の認知機能障害と因果関係の高い音声特徴は特定されておらず、特徴選択として有用な理論や事前の知識は存在しない。また、抽出した韻律特徴量のすべての組合せを計算することは計算コストが高くなる。そのため、一般的に多用されている逐次選択法として例えばフォワードステップワイズ法(FSW)を用いて特徴選択を行なう。なお、フォワードステップワイズ法は、より良い組み合わせとなるように、組み合わせを増減させて逐次選択していく方法であり、非特許文献(Draper,N. and Smith, H.: Applied Regression Analysis (3rd edition), John Wiley & Sons (1998))に記載の方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0044】
本実施の形態では、特徴量選択部22によって、学習データ記憶部20に記憶された多数の学習データに基づいて、フォワードステップワイズ法に従って、認知機能障害の危険度(HDS−Rスコア)との相関が最も高くなる音声韻律特徴量の組み合わせを探索し、探索された音声韻律特徴量の組み合わせを、選択する音声韻律特徴量の組み合わせとする。
【0045】
また、重み付け決定部24では、選択された韻律特徴量の組み合わせを入力とし、かつ、認知機能障害の危険度を出力する学習モデルを構築し、学習データ記憶部20に記憶された多数の学習データにおける、選択された韻律特徴量の組み合わせと認知機能障害の危険度(HDS−Rスコア)とに基づいて、例えば韻律特徴量の組み合わせを説明変数とし、かつ、HDS−Rスコアを目標属性とした重回帰分析を行うことによって、選択された各韻律特徴量に対する重み付けを学習する。ここで構築された学習モデルを、音声韻律に基づく認知機能障害評定(SPCIR: speech prosody−based cognitive impairmentrating)のモデルと称することとする。
【0046】
質問再生部25では、予め設定された質問データをスピーカ25から再生する。例えば、質問データとして、「出身地はどちらですか?」などの日常的な会話における質問を用いている。
【0047】
音声取得部26では、スピーカ25から質問が再生されたときに、質問に対する回答として、音声入力部12によって入力されたユーザの音声データを取得する。
【0048】
特徴量抽出部28は、取得したユーザの音声データから、上記の130種類の音声韻律特徴量を抽出する。
【0049】
危険度算出部30は、特徴量抽出部28によって抽出された音声韻律特徴量のうち、特徴量選択部22によって選択された韻律特徴量の組み合わせに対応するものを取り出し、重み付け決定部24によって決定された重み付けを適用した学習モデルに、取り出した韻律特徴量の組み合わせを入力して、認知機能障害の危険度を算出する。
【0050】
次に、本実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置10の作用について説明する。
【0051】
まず、オペレータが、学習用の音声データから得られた複数種類の音声韻律特徴量とHDS−Rを、学習データとしてコンピュータ14に入力して、学習データ記憶部20に多数格納させる。
【0052】
そして、コンピュータ14において、図4に示す学習処理ルーチンが実行される。
【0053】
まず、ステップ100で、学習データ記憶部20から学習データを読み出し、ステップ102において、上記ステップ100で読み出した学習データを用いて、フォワードステップワイズ法に従って、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる音声韻律特徴量の組み合わせを探索し、探索された音声韻律特徴量の組み合わせを、選択する音声韻律特徴量の組み合わせとする。
【0054】
そして、ステップ104で、上記ステップ100で読み出した学習データを用いて、学習モデルにおける、上記ステップ102で選択された音声韻律特徴量の各々に対する重み付けを学習して、決定する。
【0055】
次のステップ106では、上記ステップ102で選択された音声韻律特徴量の組み合わせと、上記ステップ104で学習された重み付けとを、メモリ(図示省略)に記憶させて、学習処理ルーチンを終了する。
【0056】
学習データが追加されるなど、学習データ記憶部20の学習データが更新されるたびに、コンピュータ14において、上記の学習処理ルーチンが再度実行される。
【0057】
そして、操作部(図示省略)によって危険度の算出指示が入力されると、コンピュータ14において、図5に示す認知機能障害危険度算出処理ルーチンが実行される。
【0058】
まず、ステップ118において、スピーカ13から質問データを再生し、ステップ120において、音声入力部12を介して質問の回答として入力された音声データを取得し、ステップ122で、取得した音声データから、130種類の音声韻律特徴量を抽出する。
【0059】
そして、ステップ124において、上記ステップ122で抽出した音声韻律特徴量から、上記学習処理ルーチンで選択された音声韻律特徴量の組み合わせに対応する音声韻律特徴量を選択する。次のステップ126では、上記学習処理ルーチンで学習された重み付けを適用した学習モデルに、上記ステップ124で選択した音声韻律特徴量の組み合わせを入力して、認知機能障害の危険度を算出し、ステップ128において、表示装置16に算出結果を表示させて、認知機能障害危険度算出処理ルーチンを終了する。
【0060】
以上説明したように、第1の発明の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置によれば、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる音声韻律特徴量の組み合わせと、音声韻律特徴量の組み合わせの各々に対して学習された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる。
【0061】
また、従来の改訂長谷川式簡易知能評価スケールを用いた判定方法と比較した場合に、質問に対する回答の正しさや発音の正しさなど、言語の内容を考慮する必要がないため、客観的に、認知機能障害の危険度を判定することができる。また、繰り返し、認知機能障害の危険度を算出する場合であっても、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる。
【0062】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
第2の実施の形態では、複数種類の韻律特徴量から主成分分析によって得られた合成変数を用いて、認知機能障害の危険度を算出している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0064】
図6に示すように、第2の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置210のコンピュータ214は、学習データ記憶部20、変数合成部221、合成変数選択部222、重み付け決定部224、質問再生部25、音声取得部26、特徴量抽出部28、合成変数算出部229、危険度算出部230を備えている。
【0065】
変数合成部221は、学習データ記憶部20に記憶された学習データの例えば130種類の音声韻律特徴量に基づいて、主成分分析(PCA)による変数合成を行って、例えば130種類の主成分(合成変数)を生成する。また、変数合成部221は、各学習データについて、130種類の音声韻律特徴量から130種類の合成変数に変換する。
【0066】
合成変数選択部222は、学習データ記憶部20に記憶された多数の学習データの合成変数及び認知機能障害の危険度(HDS−Rスコア)に基づいて、フォワードステップワイズ法に従って、認知機能障害の危険度との相関が最も高くなる合成変数の組み合わせを探索し、探索された合成変数の組み合わせを、選択する合成変数の組み合わせとする。
【0067】
また、重み付け決定部224では、選択された合成変数の組み合わせを入力として、認知機能障害の危険度を出力する学習モデルを構築し、学習データ記憶部20に記憶された多数の学習データにおける、選択された合成変数の組み合わせと認知機能障害の危険度(HDS−Rスコア)とに基づいて、例えば合成変数の組み合わせを説明変数とし、かつ、HDS−Rスコアを目標属性とした重回帰分析を行うことによって、学習モデルにおける、各合成変数に対する重み付けを学習する。
【0068】
合成変数算出部229は、特徴量抽出部28によって抽出された130種類の音声韻律特徴量に基づいて、変数合成部221で生成された130種類の合成変数を算出する。
【0069】
危険度算出部230は、合成変数算出部229によって算出された合成変数のうち、合成変数選択部222によって選択された合成変数の組み合わせに対応するものを取り出し、重み付け決定部24によって重み付けが決定された学習モデルに、取り出した合成変数の組み合わせを入力して、認知機能障害の危険度を算出する。
【0070】
次に、第2の実施の形態に係る学習処理ルーチンについて説明する。
【0071】
まず、学習データ記憶部20から学習データを読み出し、学習データの音声韻律特徴量に基づいて、主成分分析を行って、合成変数を生成するとともに、各学習データの音声韻律特徴量を合成変数に変換する。そして、学習データを用いて、フォワードステップワイズ法に従って、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる合成変数の組み合わせを探索し、探索された合成変数の組み合わせを、選択する合成変数の組み合わせとする。
【0072】
そして、学習データを用いて、学習モデルにおける、上記で選択された合成変数の各々に対する重み付けを学習して、決定する。次に、上記で選択された合成変数の組み合わせと、上記で学習された重み付けとを、メモリ(図示省略)に記憶させて、学習処理ルーチンを終了する。
【0073】
学習データが追加されるなど、学習データ記憶部20の学習データが更新されるたびに、コンピュータ14において、上記の学習処理ルーチンが再度実行される。
【0074】
また、第2の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出処理ルーチンについて説明する。
【0075】
まず、スピーカ13から質問データを再生し、音声入力部12を介して質問の回答として入力された音声データを取得し、取得した音声データから、130種類の音声韻律特徴量を抽出する。そして、抽出した130種類の音声韻律特徴量から、学習処理ルーチンで生成された130種類の合成変数を算出する。
【0076】
そして、上記で算出した合成変数から、上記学習処理ルーチンで選択された合成変数の組み合わせに対応する合成変数を選択する。次に、上記学習処理ルーチンで学習された重み付けを適用した学習モデルに、上記で選択した合成変数の組み合わせを入力して、認知機能障害の危険度を算出し、表示装置16に算出結果を表示させて、認知機能障害危険度算出処理ルーチンを終了する。
【0077】
次に、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態の手法を用いて認知機能障害の危険度を算出した結果について説明する。
【0078】
ここで、115名の高齢者(年齢38−99歳、男性32名、女性83名)から、総数319の音声データを収集して、認知機能障害の危険度を算出し、HDS−Rスコアとの相関性を求めた。図7〜図10では、第1の実施の形態で説明した認知機能障害危険度の算出方法による算出結果をSPCIRFSW−AICと表わし、第2の実施の形態で説明した認知機能障害危険度の算出方法による算出結果をSPCIRPCA−FSW−AICと表わす。
【0079】
図7、図8に示すように、第1の実施の形態の手法では、19個の韻律特徴量が選択され、そのうち、F129、F128、F118、F130、F57、F8、F101、F59、F110、F72、F69、F73が、有意な韻律特徴量であると判断された。このように、AIC規準を用いた特徴量選択により、有意な韻律特徴量が選択されていることがわかった。
【0080】
また、HDS−Rスコアとの相関Rが、0.67であり、補正済み決定係数(信頼度)がR=0.41であった。図9に示すように、算出された認知機能障害の危険度とHDS−Rスコアとの間に、比較的有意な相関を持つことが分かった。
【0081】
また、第2の実施の形態の手法では、130種類の全特徴を適切に合成した55個の主成分(合成変数)が選択され、多くの合成変数が、有意であると判断された。高い固有値を持つ主成分(例えばPC2、PC7、PC4)のみならず、PC77、PC115、PC103などの低い固有値を持つ主成分も、HDS−Rスコアの推定に有用であることが示された。
【0082】
また、HDS−Rスコアとの相関Rが、0.77であり、図10に示すように、算出された認知機能障害の危険度とHDS−Rスコアとの間に強い相関を持つことが示唆された。また、補正済み決定係数R=0.50であり、韻律特徴に基づく高齢者の発話音声解析の認知機能障害のスクリーニングへの応用可能性として有意義な結果となった。
【0083】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出装置によれば、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる、音声韻律特徴量の合成変数の組み合わせと、合成変数の組み合わせの各々に対して学習された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を精度良く算出することができる。
なお、上記の実施の形態では、主成分分析を行って、音声韻律特徴量の合成変数を生成する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、因子分析を行って、音声韻律特徴量の合成変数を生成するようにしてもよい。
【0084】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
第3の実施の形態では、学習データから韻律特徴量の選択及び重み付けの学習を行う装置と、認知機能障害の危険度を算出する装置とがネットワークを介して接続されている点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0086】
図11に示すように、第3の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出システム310は、学習データから韻律特徴量の選択及び重み付けの学習を行う特徴量学習装置311と、入力された音声データから、認知機能障害の危険度を算出する複数の認知機能障害危険度算出装置312とを備えており、特徴量学習装置311と、複数の認知機能障害危険度算出装置312とは、インターネットなどのネットワーク313で接続されている。
【0087】
特徴量学習装置311は、例えばコンピュータサーバで構成され、機能的には次に示すように構成されている。上記図11に示すように、特徴量学習装置311は、学習データ記憶部20、特徴量選択部22、重み付け決定部24、及びパラメータ送信部324を備えている。
【0088】
パラメータ送信部324は、特徴量選択部22によって選択された韻律特徴量の組み合わせ、及び重み付け決定部24によって決定された学習モデルの重み付けを示すパラメータを、ネットワーク313を介して複数の認知機能障害危険度算出装置312に送信する。
【0089】
認知機能障害危険度算出装置312は、音声入力部12、スピーカ13、コンピュータ314、及び表示装置16を備えている。
【0090】
コンピュータ314は、パラメータ受信部325、質問再生部25、音声取得部26、特徴量抽出部28、及び危険度算出部30を備えている。
【0091】
パラメータ受信部325は、特徴量学習装置311から送信されたパラメータを受信し、メモリ(図示省略)に格納しておく。
【0092】
危険度算出部30は、特徴量抽出部28によって抽出された音声韻律特徴量のうち、メモリに格納されたパラメータが示す韻律特徴量の組み合わせに対応するものを取り出し、メモリに格納されたパラメータが示す重み付けを適用した学習モデルに、取り出した韻律特徴量の組み合わせを入力して、認知機能障害の危険度を算出する。
【0093】
次に、本実施の形態に係る認知機能障害危険度算出システム310の作用について説明する。
【0094】
オペレータが、学習用の音声データから得られた複数種類の音声韻律特徴量とHDS−Rを、学習データとして特徴量学習装置311に入力して、学習データ記憶部20に記憶される学習データが追加される度に、上記の第1の実施の形態で説明した学習処理ルーチンが実行される。そして、特徴量学習装置311は、選択された音声韻律特徴量の組み合わせと、学習された重み付けとを示すパラメータを、ネットワーク313を介して認知機能障害危険度算出装置312に送信する。
【0095】
そして、認知機能障害危険度算出装置312では、上記のパラメータを受信して、メモリ(図示省略)に格納する。
【0096】
また、認知機能障害危険度算出装置312において、危険度の算出指示が入力されると、コンピュータ314において、上記の第1の実施の形態で説明した認知機能障害危険度算出処理ルーチンが実行される。
【0097】
このように、HDS−Rスコアとの相関が最も高くなる音声韻律特徴量の組み合わせと、音声韻律特徴量の組み合わせの各々に対して学習された重み付けとを、特徴量学習装置で学習し、ネットワークを介して、学習結果を、複数の認知機能障害危険度算出装置に配布することにより、各認知機能障害危険度算出装置では、最新の学習結果を用いて、認知機能障害の危険度を算出することができる。
【0098】
なお、上記の第2の実施の形態の構成に、上記の実施の形態を適用するようにしてもよい。この場合には、認知機能障害危険度算出システムは、ネットワーク313で接続された、学習データから合成変数の選択及び重み付けの学習を行う合成変数学習装置と、複数の認知機能障害危険度算出装置とを備えており、合成変数学習装置は、学習データ記憶部20、変数合成部221、合成変数選択部222、重み付け決定部224、及びパラメータ送信部324を備える。また、認知機能障害危険度算出装置のコンピュータは、パラメータ受信部325、質問再生部25、音声取得部26、特徴量抽出部28、合成変数算出部229、及び危険度算出部30を備える。
【0099】
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0100】
第4の実施の形態では、入出力端末と、認知機能障害危険度算出装置とがネットワークを介して接続されている点が、第3の実施の形態と主に異なっている。
【0101】
図12に示すように、第4の実施の形態に係る認知機能障害危険度算出システム410では、複数の入出力端末412と認知機能障害危険度算出装置414とを備えており、複数の入出力端末412と、認知機能障害危険度算出装置414とは、ネットワーク313で接続されている。
【0102】
入出力端末412は、音声入力部12、スピーカ13、表示装置16、質問再生部25、音声取得部26、及び通信部425を備えており、スピーカ13から再生された質問に対する回答として、音声入力部12を介してユーザから音声データが入力されると、通信部425によって、ネットワーク313を介して音声データを認知機能障害危険度算出装置414へ送信する。
【0103】
認知機能障害危険度算出装置414は、通信部424によって音声データを受信すると、音声データに基づいて、認知機能障害の危険度を算出して、通信部424によって、算出結果を、ネットワーク313を介して入出力端末412へ送信する。
【0104】
入出力端末412は、通信部425によって、算出結果を受信すると、表示装置16に、算出された認知機能障害の危険度を表示する。
【0105】
なお、認知機能障害危険度算出装置414の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0106】
このように、複数の入出力端末と、認知機能障害危険度算出装置とをネットワークで接続し、音声データ及び算出結果を送受信することにより、各入出力端末で、認知機能障害の危険度を判定することができる。
【0107】
なお、上記の第2の実施の形態の構成に、上記の実施の形態を適用するようにしてもよい。この場合には、認知機能障害危険度算出システムは、ネットワーク313で接続された、各入出力端末412と、認知機能障害危険度算出装置210と同様の機能を有する装置とを備えるようにすればよい。
【0108】
また、上記の第1の実施の形態〜第4の実施の形態では、130種類の音声韻律特徴量を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の種類の音声韻律特徴量を用いてもよく、また、より少ない又はより多い種類の音声韻律特徴量を用いてもよい。
【0109】
また、フォワードステップワイズ法(変数増減法)を用いて、最適な音声韻律特徴量又は合成変数の組み合わせを探索する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の逐次選択法を用いて、最適な音声韻律特徴量又は合成変数の組み合わせを探索するようにしてもよい。例えば、変数増加法、変数減少法などを用いて、最適な音声韻律特徴量又は合成変数の組み合わせを探索するようにしてもよい。また、EMアルゴリズム、遺伝的アルゴリズム(GA)、粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、PSO)などの同時選択法を用いて、最適な音声韻律特徴量又は合成変数の組み合わせを探索するようにしてもよい。
【0110】
また、重回帰分析を用いて、当該学習モデルで用いる、各音声韻律特徴量又は各合成変数の重み付けを学習する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、リッジ回帰、サポートベクトル回帰(SV回帰)、カーネル回帰などの手法を用いて、各音声韻律特徴量又は各合成変数の重み付けを学習するようにしてもよい。
また、上記の実施の形態では、長谷川式スコアなど認知機能テストの点数(0〜30)に相当する数値を、認知機能障害の危険度として算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば,健常(NL)、認知症疑い(MCI)、認知症(AD)の3分類で表わされる認知機能障害の危険度を求めるようにしてもよい。この場合には、ベイジアンネットワーク、正準判別分析、線形判別分析、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ法、サポートベクトルマシン(SVM)などの学習モデルを用いて、認知機能障害の危険度を算出するようにすればよい。また、当該学習モデルで用いる、各音声韻律特徴量又は各合成変数の重み付けを学習により決定するようにすればよい。
【0111】
また、質問をスピーカから再生する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、表示装置によって質問を表示するようにしてもよい。
また、質問に対する回答として入力された音声データに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、音声モニタリングにより入力された音声データに基づいて、認知機能障害の危険度を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0112】
10、210、312、414 認知機能障害危険度算出装置
12 音声入力部
14、214、314 コンピュータ
20 学習データ記憶部
22 特徴量選択部
24、224 重み付け決定部
25 質問再生部
28 特徴量抽出部
30、230 危険度算出部
221 変数合成部
222 合成変数選択部
229 合成変数算出部
310、410 認知機能障害危険度算出システム
311 特徴量学習装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段と、
前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段と、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段と、
を含む認知機能障害危険度算出装置。
【請求項2】
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段と、
前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段と、
前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段と、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段と、
を含む認知機能障害危険度算出装置。
【請求項3】
前記複数種類の韻律特徴量は、音声の周波数成分に関する特徴量、音声のフォルマント構造に関する特徴量、音声の大きさに関する特徴量、発話速度に関する特徴量、及び質問に回答するまでの反応時間に関する特徴量の少なくとも1つを含む請求項1又は2記載の認知機能障害危険度算出装置。
【請求項4】
前記学習データの認知機能障害の危険度を、前記発話者に対する長谷川式簡易知能評価スケールによって求められたものとした請求項1〜請求項3の何れか1項記載の認知機能障害危険度算出装置。
【請求項5】
前記特徴量抽出手段は、質問に対する回答として入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する請求項1〜請求項4の何れか1項記載の認知機能障害危険度算出装置。
【請求項6】
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段、及び
前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段
を含む特徴量選択装置と、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段
を含む危険度算出装置と、
を含む認知機能障害危険度算出システム。
【請求項7】
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段、
前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段、及び
前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段
を含む合成変数選択装置と、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段
を含む危険度算出装置と、
を含む認知機能障害危険度算出システム。
【請求項8】
コンピュータを、
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データに基づいて、前記複数種類の韻律特徴量から、前記危険度との相関が最も高くなる前記韻律特徴量の組み合わせを選択する特徴量選択手段、
前記複数の学習データの各々の前記選択された韻律特徴量の組み合わせと前記危険度とに基づいて、前記選択された韻律特徴量の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量のうちの前記選択された韻律特徴量の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
コンピュータを、
音声データから抽出される複数種類の韻律特徴量と、前記音声データの発話者について求められた認知機能障害の危険度とを含む複数の学習データの前記複数種類の韻律特徴量に対して分析処理を行って、前記複数種類の韻律特徴量を合成した合成変数を複数種類生成する合成変数生成手段、
前記複数の学習データと、前記生成された複数種類の合成変数とに基づいて、前記複数種類の合成変数から、前記危険度との相関が最も高くなる前記合成変数の組み合わせを選択する合成変数選択手段、
前記複数の学習データの各々について求められる前記合成変数の組み合わせと、前記複数の学習データの各々の前記危険度とに基づいて、前記選択された合成変数の組み合わせの各々に対する重み付けを決定する重み付け決定手段、
入力された音声データから、前記複数種類の韻律特徴量を抽出する特徴量抽出手段、及び
前記特徴量抽出手段によって抽出された前記韻律特徴量から求められる前記合成変数の組み合わせと、前記重み付け決定手段によって決定された重み付けとに基づいて、認知機能障害の危険度を算出する危険度算出手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−255106(P2011−255106A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134403(P2010−134403)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年12月11日〜12日 国際複合医工学学会(ICME)、日本学術振興会(JSPS)、岡山大学主催の2009年認知症早期診断・リハビリ技術国際シンポジウムにて発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(510164599)株式会社イフコム (1)
【出願人】(510164050)
【Fターム(参考)】