説明

認知機能障害疾患のバイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患の検出方法

【課題】 非認知機能障害被験者と認知機能障害疾患患者において存在量が異なるタンパク質およびその部分ペプチドを用いて軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出する方法ならびに該タンパク質および該部分ペプチドからなる軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーの提供。
【解決手段】 配列番号1、3、5、7のタンパク質および、これらのタンパク質の部分ペプチドである配列番号2、4、6で表されるアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのタンパク質またはタンパク質から生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる認知機能障害疾患の診断のためのバイオマーカーならびにこれを用いた診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患の検出に用い得る新規なタンパク質およびペプチドであるバイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の正常と正常以外の状態を呈する試料を用いてその差異を判別する手段としては、一般的には体外診断薬において用いられてきた技術が主たる従来技術である。体外診断薬のうち最も多いのが、血液中の成分をバイオマーカーとして分析することで診断検査を行うものである。本分野における従来技術では、血液中の単独の特定のタンパク質または分子量1万以下のいわゆるペプチドの存在量、あるいは酵素タンパク質の場合は活性の測定を行って、正常(健常人)試料と疾患試料との明らかな差をもって診断の一助としてきた。すなわちあらかじめ一定数の健常人と疾患患者由来の試料における単独もしくは複数の特定のタンパク質またはペプチドの量もしくは活性量を計測し、異常値と正常値の範囲を決め、評価する試料を同様の方法で測定し、異常値と正常値のどちらの範囲に属するかによって検査評価を行うものである。
【0003】
具体的な計測方法としては、試料をそのまま、またはあらかじめ希釈しておき、単独または複数の特定のタンパク質またはペプチドの量を、基質と反応させると発色する酵素によって標識された特異的1次抗体または2次抗体を用いて、試料の発色量で計測する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA; Enzyme Linked Immmunosorbent Assay)や化学発光測定法(CLIA; ChemiLuminescent Immunoassay)と、1次抗体または2次抗体に結合させたラジオアイソトープを用いて計測する放射性免疫測定法(RIA; RadioImmunoassay)、タンパク質が酵素の場合は直接基質を与えて産生物を発色などで計測する酵素活性測定法などがある。抗体を用いるこれらの方法を酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法と呼ぶこととする。また酵素の基質分解産物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する方法もある。またHPLCと質量分析装置を組み合わせたLC-MS/MS法ならびにこれを用いたselected reaction
monitoring(SRM)/multiple reaction monitoring(MRM)法もある。また、試料に適当な前処理を施した後、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)を行ってタンパク質またはペプチドを分離した後、目的のタンパク質またはペプチドについて銀染色、クマシーブルー染色、あるいは対応する抗体を用いた免疫染色(ウエスタン・ブロッティング)を行って、試料中の濃度を測定する方法もある。また、生体試料をカラムクロマトグラフィーによって分画し、その画分に含まれるタンパク質とペプチドを質量分析によって分析する手法がある。またカラムクロマトグラフィーではなく、前処理としてプロテインチップを用いて質量分析する方法や、前処理として磁気ビーズを用いて質量分析する方法がある。
【0004】
さらに、発明者はビーズ(磁気ビーズを含む)に対象となるタンパク質またはペプチドに対する抗体を結合させ、これにより測定したいタンパク質またはペプチドを捕捉したのち、ビーズから溶出して質量分析により測定するimmunoMS法を開発している。またインタクトなタンパク質の解析を目的としてトリプシンなどで分解した後、上記の方法で質量分析まで行う方法も報告されている(特許文献1参照)。しかしいずれもインタクトなタンパク質の性質を利用して、そのまま分画し、または特異的に吸着するタンパク質分子を選別して質量分析で解析するものである。
【0005】
アルツハイマー病を主とする認知機能障害疾患は、我が国においても近年の高齢化に伴って急激に増加している。1995年に約130万人であったが、2005年には約190万人となり、2020年には約300万人に達すると予想されている。アルツハイマー病は認知機能障害疾患の60-90%を占めると言われている。本疾患は患者の記憶を喪失させるのみでなく人格をも崩壊して患者の社会生活機能を喪失させてしまうことから、社会問題化しつつある。本邦においては1999年末に抗アセチルコリンエステラーゼ阻害薬である塩酸Donepezilが認可を受け、早期に投与されれば高い確率で認知機能の低下を「遅らせる」ことができるようになった。アルツハイマー病においては、現状の治療法やこれから開発される治療薬効果をあげるためには早期に診断することが最重要の課題となっている。
【0006】
米国精神医学会によるアルツハイマー病の主たる診断基準(DSM IV)を以下に示す。
A.多彩な認知欠損の発現で、以下の両方により明らかにされる。
(1)記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を想起する能力の障害)
(2)以下の認知障害の一つまたはそれ以上
a)失語(言語の障害)
b)失行(運動機能の障害がないにもかかわらず、動作を行う能力の障害)
c)失認(感覚機能の障害がないにもかかわらず、対象を認識または同定する能力の障害)
d)実行能力(計画を立てる・組織化する・順序だてる・抽象化する)の障害
B.基準A(1)およびA(2)の認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しい低下を示す(非特許文献1)。
【0007】
アルツハイマー病(Alzheimer disease)(AD)の関連疾患にはいろいろなものがある。ADなどの認知症は徐々に認知機能の低下が出現するため、認知症の前駆状態と呼ぶべき状態が存在する。このような状態を軽度認知機能障害(mild cognitive impairment)(MCI)と呼んでいる。米国のデータでは物忘れ外来を受診したMCIのうち、1年に10-15%、4年間でおよそ50%がADに移行するという。ADの前駆状態の大部分は健忘型MCIに含まれる。現在の定義によると、MCIは認知機能の低下に関する訴えが聞かれるが、基本的な日常生活には支障がない状態とされる。前頭側頭型認知症(FTD)は認知機能低下とともに周囲を気にせずわが道を行く行動が特徴的で、周囲に合わせようとするADと対照的である。FTDには大脳皮質に組織学的にPick球の存在を認めるPick病が含まれる。レビー小体型認知症(DLB)は、記憶障害が進行性であり幻視などの視覚認知障害があることを特徴としている。臨床症状からの診断では認知症の10-30%がDLBであり、老年期の変性性認知症疾患ではアルツハイマー型認知症(AD)に次いで2番目に多いとされる。組織学的には大脳におけるレビー小体の存在を特徴とする。FTDおよびDLBは認知症を認め痴呆型であるので痴呆型神経疾患とも呼ばれる(非特許文献1)。
【0008】
本発明において、認知機能障害疾患と総称するとき、MCI、ADおよび痴呆型神経疾患を含むものとする。
【0009】
認知症の診断に広く用いられている検査は、改訂長谷川式知能評価スケール(HDS-R)とMMSE (Mini-Mental State Examination)で、被験者への問診を行い、その結果から判断するものである。HDSは1991年に改訂されてHDS-Rと称されるようになった。これは9項目の質問からなり、見当識、記銘力、計算能力、記憶・想起および常識をテストするものである。30点満点で23点以下を認知症の疑いありとする。また、MMSEは痴呆の診断のために米国で考案されたもので、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などをカバーする。30点満点で11の質問からなり、HDS-Rと同様に23点以下で認知症の疑いありとする。両テストの結果は割合によく一致するとされている。これらの問診法はあくまでスクリーニングの目的で用いられ、確定診断に至ることはないし、HDS-R、MMSEともに重症度分類に用いられることはない(非特許文献1)。
【0010】
画像診断法としては、脳萎縮・脳溝脳室拡大など、脳の形態的異常を見るCT・MRIと脳血流量を見る脳血流シンチグラフィ(SPECT)および酸素消費量・ブドウ糖消費量を見るポジトロン断層法(PET)がある。SPECTおよびPETは核医学的方法で、形態的異常の起きる前に異常を検出することができるとされている(非特許文献1)。しかし、これらの画像診断は特殊な設備を必要とするため、すべての医療機関で実施することができないという欠点を有する。また画像を見る医師によって判断が異なることがあり、客観性に欠ける。
【0011】
このようにADを含む認知症の診断は、客観性を欠く、かつ高価な装置の使用を前提とした方法に依存しているのが現状であり、疾患発見のためのスクリーニングは不可能である。ここに血液(血清、血漿を含む)のような容易に得られる患者の試料を用いて客観的診断を可能にするバイオマーカーが見出されるならば、スクリーニングを行うことによって、現在最重要の課題となっている認知機能障害疾患の早期発見が可能となる。本発明はそのような新規バイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患の検出方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-333274号公報
【特許文献2】特開2006-308533号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】中野今治、水澤英洋編集:よくわかるアルツハイマー病、2004、永井書店
【非特許文献2】N. Benkiraneら、J. Biol. Chem. Vol. 268,26279-26285, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、非認知機能障害被験者(健常人を含み、何らかの疾患に罹患していてもよいが認知機能障害疾患には罹患していない被験者non-demented control、すなわち健常人、以下NDCと略称する)と認知機能障害疾患患者において存在の有無、存在量が異なるタンパク質およびその部分ペプチドを用いて軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出する方法を提供し、さらに該タンパク質および該部分ペプチドからなる軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、認知機能障害疾患を検出する方法について鋭意検討を行い、軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出することができるペプチドを血清中に見出した。本発明において見出された該ペプチドは血清中のみならず、血液、血漿、脳脊髄液、尿などの他の生体試料中に検出される場合もバイオマーカーとして意義をもつものである。同時に、これらのペプチドの起源であるタンパク質またはペプチド(以下、インタクトタンパク質またはペプチドと称する)もバイオマーカーとしての意義をもつ。
【0016】
具体的には、本発明者は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4および配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin (isoform 1)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin
(isoform 2)から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片を認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーとして用い得ることを見出した。
【0017】
さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS+)、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS-)、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin由来ペプチドGELSを認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーとして用い得ることを見出した。
【0018】
本発明者らは、さらに、これらのタンパク質やペプチドないしペプチド断片を2次元液体クロマトグラフィー(2D-LC) MALDI TOF-MS法(質量分析法)やimmunoMS法を用いることにより、一度に多数のタンパク質ないしペプチドないしペプチド断片を測定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid
receptor subunit alpha-4、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric
acid receptor subunit alpha-6、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin
(isoform 1)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin (isoform 2)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【0020】
[2] 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid
receptor由来ペプチドGBRA(VS+)、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS-)、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin由来ペプチドGELSから選択される認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【0021】
[3] 配列番号2、4、および6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドから選択される、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し出現または増加する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【0022】
[4] 配列番号2、4、および6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドから選択される、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し出現または増加するアルツハイマー病バイオマーカー。
【0023】
[5] 生体試料中の[1]〜[4]のいずれか1項に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、認知機能障害疾患の検出方法。
【0024】
[6] 検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる[1]〜[4]のいずれか1項に記載の認知機能障害疾患の検出方法。
【0025】
[7] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための認知機能障害疾患の検出キット。
【0026】
[8] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む認知機能障害疾患の検出キット。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、被験者由来の生体試料中の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS+)、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS-)、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin由来ペプチドGELS配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドの種類および量を計測することにより、被験者が認知機能障害疾患に罹患しているかどうかを診断することができる。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドの量を計測することにより、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し増加する場合にアルツハイマー病と診断することができる。
【0028】
本発明は、また精度および特異性の両方が極めて高い診断システムを提供する。本発明によって血液のような生体試料について特定の検査方法がなかった認知機能障害疾患に対して精度の高い診断がはじめて可能になる。さらに、本発明のバイオマーカーは、薬剤効果判定においても有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】クラスター図。(A)で囲まれた範囲に存在する点の集まりが、AD, MCI, NDCの各サンプル群で検出されたMarker Aの質量ピークの保持時間(Retention Time)とm/zを示す。
【図2】差異解析の結果の1例、Marker Aの場合。MarkerAは図3のMS/MS解析の結果得られたアミノ酸配列に示すように、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha由来ペプチドGBRA(VS+)である。図2はAD、MCI、NDC間の比較。AD-Aは施設AのAD、AD-Bは施設BのAD、MCI-Aは施設AのMCI、MCI-Bは施設BのMCI、NDC-Aは施設AのNDC、NDC-Cは施設CのNDCである。
【図3】Marker A (配列番号2 GBRA(VS+))のTOF/TOF型質量分析計によるMS/MSスペクトル図。図3上部にGBRA(VS+)のアミノ酸配列と、MS/MSスペクトルで現れるbイオンとyイオンを示した。
【図4】クラスター図。(B)で囲まれた範囲に存在する点の集まりが、AD, MCI, NDCの各サンプル群で検出されたGBRA(VS-)の質量ピークの保持時間(Retention Time)とm/zを示す。
【図5】GBRA(VS-)の差異解析の結果。AD、MCI、NDC間の比較。疾患名および施設の表示は図2と同一である。
【図6】クラスター図。(C)で囲まれた範囲に存在する点の集まりが、AD, MCI, NDCの各サンプル群で検出されたGELSの質量ピークの保持時間(Retention Time)とm/zを示す。
【図7】GELSの差異解析の結果。AD、MCI、NDC間の比較。疾患名および施設の表示は図2と同一である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、被験者が認知機能障害疾患に罹患しているとき、インタクトなタンパク質および/またはその部分ペプチドの種類および量を検出すると同時に、インタクトなタンパク質とその部分ペプチドの種類と量の変動を測定することにより被験者が認知機能障害疾患に罹患しているかどうかを診断する方法である。ここで、ペプチドは、一般的には分子量1万以下のアミノ酸が連結したものをいい、あるいはアミノ酸残基の数としては数個から50個以下程度のものをいう。本発明においては、インタクトなタンパク質の部分ペプチドを認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るが、部分ペプチドという場合、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドであって分子量1万以下のものをいう。本発明において、インタクトなタンパク質の部分ペプチドとは、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドをいい、転写・翻訳による発現合成過程で部分ペプチドとして生成する場合と、インタクトなタンパク質として合成された後に、生体内で消化分解を受けて消化分解産物ペプチドとして生成する場合がある。この原因としては、生体が認知機能障害疾患等の正常以外の状態にあるときに、タンパク質の合成および制御機構が脱制御されることが挙げられる。すなわち、本発明は、生体内のタンパク質の発現合成および/または消化分解を指標として被験者が正常状態であるか認知機能障害疾患に罹患しているかを判別し、また認知機能障害疾患に罹患している場合の疾患の進行度をも評価判別する方法でもある。本発明において、認知機能障害疾患の検出とは、被験者が認知機能障害疾患に罹患しているかどうかの評価判別、すなわち診断を行うことをいう。また、被験者がより重篤な認知機能障害に罹患するリスクの評価等も含み得る。
【0031】
本発明の方法において、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るインタクトなタンパク質として、具体的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin (isoform 1)、および配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin
(isoform 2)が挙げられ、これらのインタクトなタンパク質の部分ペプチドであるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片も同じ目的に用い得る。
【0032】
また、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得る部分ペプチドとして、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS+)、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS-)、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin由来ペプチドGELSが挙げられる。本発明においては、上記のインタクトなタンパク質およびペプチドをマーカーとして用いるが、配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列からなるタンパク質およびペプチドも含み、これらのタンパク質またはペプチドも本発明の方法においてバイオマーカーとして用いることができる。ここで、「1個または数個」とは「1個または3個」、「1個または2個」または「1個」をいう。さらに、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るこれらのペプチドとして、配列番号1〜21で表されるアミノ酸配列から生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片も含まれる。ペプチド断片についてアミノ酸残基5個以上とした理由は、非特許文献2の以下の記載による。すなわち、ヒストンH3のC端(130-135)のアミノ酸残基配列IRGERAについてRをKに置換したペプチドおよびIRを欠失させ、代わりにCGGをGERAに結合させたペプチドCGGGERAがペプチドIRGERAを免疫原として得た抗体によって認識されたとの報告である。これは、抗原性の認識が4個以上のアミノ酸残基からなるペプチドによってなされることを示している。本発明では、ヒストンH3のC端以外にも一般性を持たせるために、残基数を1つ増やして、5個以上としたが、このような低分子のペプチドをも対象とすることは、イムノ・ブロット法、ELISA法、immunoMS法などのような免疫学的手法を用いて検出ならびに分別する方法を用いるときに重要である。
【0033】
なお、インタクトなタンパク質またはその部分ペプチドに糖鎖が付加されることがある。これらの糖鎖が付加したタンパク質および部分ペプチドも認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得る。
【0034】
なお、本発明において、バイオマーカーを定量してもよいし、定性により存在、非存在を決定してもよい。
【0035】
本発明で血清等の生体試料中のバイオマーカーを分離する方法としては、2次元電気泳動あるいは2次元クロマトグラフィーを用い得る。この場合の2種類のクロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等の公知のクロマトグラフィーから選択すればよい。またLC-MS/MS法を用いたSRM/MRM法で定量することもできる。さらに、発明者が開発したビーズ(磁気ビーズを含む)に対象となるタンパク質またはペプチドに対する抗体を結合させ、これにより測定したいタンパク質またはペプチドを捕捉したのち、ビーズから溶出して質量分析により測定するimmunoMS法を用いれば、2次元電気泳動あるいはクロマトグラフィーを用いることなく、簡便に目的のタンパク質、タンパク質断片、ペプチドの有無あるいは量を評価することができる。
【0036】
本発明の方法によれば、被験者の認知機能障害が軽度の段階で評価することができ、予防医学にも有用である。さらに、認知機能障害疾患に罹患した患者に心理療法や薬物療法を行った場合、障害の進行が抑制されるならば、血清などの生体試料中のタンパク質/部分ペプチドの量にも反映される。これを測定することにより、治療効果の評価と判定を行うこともできる。
【0037】
生体試料中のタンパク質の種類および量は種々の方法で測定することができる。対象となるタンパク質(タンパク質断片および部分ペプチドを含む)が特定されていて、それに対する抗体(1次抗体)が得られている場合は、以下の方法を用いることができる。
【0038】
1.イムノ・ブロット法
最も単純な方法である。数段階に希釈した被験血清を用意し、その一定量(1マイクロリットル前後)をニトロセルローズ・メンブレンなどの適当なメンブレンに滴下し、風乾する。BSAなどのタンパク質を含むブロッキング溶液で処理した後、洗浄し、1次抗体を反応させ、洗浄後1次抗体を検出するための標識された2次抗体を反応させる。メンブレンを洗浄後、標識を可視化して濃度を測定する。
【0039】
2.ウエスタン・ブロット法
等電点ないしSDS-PAGEを含む一次元ないし2次元ゲル電気泳動を行った後で、分離されたタンパク質を一旦、PVDFメンブレンなどの適当なメンブレンに転写し、1次抗体と標識された2次抗体を用いて上述のイムノ・ブロット法と同様に操作して、目的のタンパク質の存在量を測定する。
【0040】
3.ELISA法
タンパク質またはその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロタイタープレート等の担体に結合させ、試料を段階希釈後、抗体を結合させたマイクロタイタープレートにこれを適当量加えてインキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測することによって評価判定を行う。抗体の代わりにタンパク質またはその部分ペプチドに結合し得る物質を用いてもよい。例えば、アプタマー等を用いることができる。
【0041】
さらに以下に方法(特許文献2参照)を例示するが、それらには限定されない。
4.マイクロアレイ(マイクロチップ)を用いた方法
マイクロアレイとは、担体(基板)上に測定しようとする物質に結合し得る物質を整列(アレイ)固定化させたデバイスを総称していう。本発明の場合、タンパク質および部分ペプチドに対する抗体またはアプタマーを整列固定化させて用いればよい。測定は、固相化した抗体等に、生体試料を添加し、マイクロアレイ上に測定しようとするタンパク質または部分ペプチドを結合させ、次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測すればよい。
【0042】
5.質量分析法
質量分析法においては、例えば、特定のタンパク質とその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロビーズもしくは基板(プロテインチップ)に結合させる。マイクロビーズは磁気ビーズであってもよい。基板の素材は問わない。使用する抗体は(1)特定のタンパク質の完全長のみを認識する抗体、(2)部分ペプチドのみを認識する抗体、(3)特定のタンパク質とその部分ペプチドの両方を認識する抗体のすべて、または上記(1)と(2)、(1)と(3)、もしくは(2)と(3)の組み合わせでもよい。試料を原液または緩衝液で段階希釈後、抗体を結合させたマイクロビーズまたは基板にこれを適当量加え、インキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。その後、マイクロビーズまたは基板上に捕捉されたタンパク質および部分ペプチドをMALDI-TOF-MS、SELDI-TOF-MSなどを用いた質量分析によって分析し、タンパク質、タンパク質断片および部分ペプチドのピークの質量数とピーク強度を計測する。適当な内部標準物質をもとの生体試料に一定量加えておき、そのピーク強度を測定して、対象となる物質のピーク強度との比を求めることにより、もとの生体試料中の濃度を知ることができる。この方法をimmunoMS法という。また試料を原液または緩衝液で希釈または一部のタンパク質を除去した後、HPLCで分離、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いた質量分析によって定量することができる。その際に、同位体標識した内部標準ペプチドを用いたSRM/MRM法による絶対定量によって資料中の濃度を知ることができる。
【0043】
さらに、上記の方法の他、2次元電気泳動を用いた方法、表面プラズモン共鳴を用いた方法等によっても、タンパク質および部分ペプチドを解析することが可能である。
【0044】
本発明は、被験者から採取した生体試料を2次元電気泳動ないし表面プラズモン共鳴法に供し、前記バイオマーカーの有無ないし量を指標に認知機能障害疾患を検出する方法をも包含する。
【実施例】
【0045】
2次元液体クロマトグラフィー(2D-LC) MALDI TOF-MSによる認知機能障害疾患診断マーカーペプチドの探索
【0046】
(1)血清試料
以下、括弧の前は略称である。
AD(アルツハイマー病)24例、MCI(軽度認知機能障害)25例および、NDC(認知機能障害疾患には罹患していない被験者、すなわち健常人)14例からなる。各疾患試料はさらに採血施設グループで分類した。すなわち、ADは施設Aおよび、施設Bの2グループ、MCIは施設Aおよび、施設Bの2グループ、NDCは施設Aおよび、施設Cの2グループに分類した。グループ別に分類した血清試料は等量に混合して試験に用いた。
【0047】
(2)方法
血清25μlの各々に475μlの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加え、100℃で15分間煮沸した。その後、分子量1万以下のペプチドを回収するためにミリポア社YM-10を用いて限外ろ過を行った。次に以下のように、2D-LC MALDI TOF-MS法による分析を行った。すなわち、限外ろ過で回収されたサンプルを2次元HPLC(SCX陽イオン交換ならびにC18逆相カラム)を用いて1サンプルあたり合計1,146に分画した。SCX陽イオン交換カラムでは6つの画分に分画した、すなわちSCX 1は素通り画分、SCX 2は塩濃度10%で溶出した画分、SCX 3は塩濃度20%で溶出した画分、SCX 4は塩濃度30%で溶出した画分、SCX
5は塩濃度50%で溶出した画分、SCX 6は塩濃度100%で溶出した画分である。SCXで分画された6つの画分はそれぞれC18逆相カラムで191の画分に分画した。すべてのサンプルはオンラインで接続されたスポッティングロボット(AccuSpot, SHIMADZU)を用いてMALDI TOF/TOF型質量分析計(ultraflex TOF/TOF, BRUKER DALTONICS)用のMALDIターゲットプレート(MTP AnchorChip(TM) 600/384 plate (BRUKER DALTONICS))上のウエルにマトリックス溶液(α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸, α-CHCA)と混合しながらスポットし共結晶化した。ultraflex TOF/TOFに装着後した後、レーザーを照射しリフレクトロンモードで質量ならびにその質量におけるピーク面積(以下に述べる正規化プロセスを含む)を自動測定した。ピーク面積はマトリックス溶液に予め加えられた各ウエル当り250 fmolのbradykinin 1-7で正規化し、Area値とした。すなわち、サンプルの特定の質量におけるピーク面積をbradykinin
1-7 250 fmolから得られるピーク面積で割った値をArea値とした。このArea値はサンプル血清25μlに対応する。群間で血清中の存在量に差のあるペプチドの検出(差異解析)は、我々が開発した多群間統計解析ソフトウェアであるParnassum(TM) (MCBI)を用いて行った。存在量に差の認められたペプチドは、そのままultraflex TOF/TOFでMS/MSにてアミノ酸配列を決定し、その起源であるインタクトタンパク質またはペプチドを同定した。
【0048】
(3)結果
図1および、図2はそれぞれの疾患グループの混合血清を2D-LC MALDI TOF-MSに供して得られたデータをParnassumソフトウェアで差異解析を行った結果である。図1は1次元目のSCX陽イオン交換カラムで6つの画分に分画したもののうち、最初に分画される画分(SCX 1)をC18逆相カラムで191の画分に分画した画分をMALDI TOF-MSで測定したスペクトルについて、横軸は質量(m/z)を、縦軸は逆相カラムクロマトグラフィーの保持時間で表した図である。図中の点はTOF-MSのピークであり、点が集合している部分は誤差範囲内で同一m/zかつ同一保持時間の1個のペプチドに由来するピークと規定し、これをクラスターとして示している。図1の(A)で囲まれた部分はMarker Aのクラスターである。
【0049】
図2はMarker Aの差異解析の結果を示す。Marker
Aは後に図3に示すように、Gamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS+)である。図2はNDC、MCI、AD 間の比較である。NDCよりMCIとADの患者においてMarker Aが増加していることが分かった。これらの結果から、Marker Aは認知機能障害疾患(MCI、AD)患者を認知機能障害疾患には罹患していない被験者、すなわち健常人(NDC)と区別するのに有用であることが分かった。
【0050】
図3はMarker Aについて、ultraflex TOF/TOF型質量分析計でMS/MS解析した結果を示す。y-ionを示すシグナルが十分に現れており、アミノ酸配列が容易に決定できた。この結果についてMascotによる検索を行い、その起源であるタンパク質またはペプチド(以下、インタクトタンパク質またはペプチドという)がGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4あるいは、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6と同定され、検出されたペプチドがこの2つのたんぱく質に共通するトポロジカル領域部分に存在するアミノ酸配列VSDVEMEYTであることが明らかとなった。
Marker
A以外のGamma-aminobutyric acid receptor subunit alphaに由来するペプチド断片は検出されなかったことから、Marker AはGamma-aminobutyric acid receptor subunit
alpha-4、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6のいずれに由来するかを特定することはできなかった。したがって、配列番号1にGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4タンパク質、配列番号3にGamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6タンパク質の配列を示した。配列番号2はGamma-aminobutyric acid receptor subunit alphaに対するUniProtのEntry NameであるGBRAをペプチド名の略称として用いることにする。ただし、後述のように、GBRAにはGBRA(VS+)とGBRA(VS-)の2種類のペプチドがある。検出された他のペプチドについても同様にUniProtのEntry Nameをペプチド名の略称として以下の記述に用いる。
【0051】
Marker
Aを含め、群間で血清中の存在量に差のあるペプチドをultraflex TOF/TOFにてMS/MSを行い、アミノ酸配列を決定するとともに、インタクトタンパク質またはペプチドを同定した。結果を以下に示す。Marker A以外のペプチドについてもy-ionおよびb-ionを示すシグナルが十分に現れており、アミノ酸配列が容易に決定できた。以下のアミノ酸配列は2つの配列のセットを1組として示しているが、そのうちの1番目の配列はインタクトタンパク質のアミノ酸配列であり、2番目の配列は検出されたペプチドの配列である。1番目の配列の下線部が検出されたペプチドの配列に対応している。1はN末端であることを表わす。
【0052】
〔1〕 Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4由来ペプチド GBRA(VS+)
Gamma-aminobutyric acid
receptor subunit alpha-4由来ペプチド(GBRA)には2種類あり、GBRA(VS+)は配列番号2のペプチドそのもの意味し、後述する配列番号4のペプチドGBRA(VS-)は配列番号2のペプチドのN端側の2つのアミノ酸残基(VS)を欠くペプチドを意味する。配列番号2のGBRA(VS+)がADとMCIの比較でADのほうが高値であり、またMCIとNDCの比較でMCIのほうが高値であり、判別力を示した。(図2)
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MVSAKKVPAI ALSAGVSFAL LRFLCLAVCL NESPGQNQKE EKLCTENFTR
051 ILDSLLDGYD NRLRPGFGGP VTEVKTDIYV TSFGPVSDVE MEYTMDVFFR
101 QTWIDKRLKY DGPIEILRLN NMMVTKVWTP DTFFRNGKKS VSHNMTAPNK
151 LFRIMRNGTI LYTMRLTISA ECPMRLVDFP MDGHACPLKF GSYAYPKSEM
201 IYTWTKGPEK SVEVPKESSS LVQYDLIGQT VSSETIKSIT GEYIVMTVYF
251 HLRRKMGYFM IQTYIPCIMT VILSQVSFWI NKESVPARTV FGITTVLTMT
301 TLSISARHSL PKVSYATAMD WFIAVCFAFV FSALIEFAAV NYFTNIQMEK
351 AKRKTSKPPQ EVPAAPVQRE KHPEAPLQNT NANLNMRKRT NALVHSESDV
401 GNRTEVGNHS SKSSTVVQES SKGTPRSYLA SSPNPFSRAN AAETISAARA
451 LPSASPTSIR TGYMPRKASV GSASTRHVFG SRLQRIKTTV NTIGATGKLS
501 ATPPPSAPPP SGSGTSKIDK YARILFPVTF GAFNMVYWVV YLSKDTMEKS
551 ESLM (配列番号1)
【0053】
Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alphaペプチド GBRA(VS+)
VSDVEMEYT (配列番号2)
【0054】
〔2〕 Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6由来ペプチド GBRA(VS+)
配列番号2のペプチドGBRA(VS+)はMS/MSおよび、MASCOTデータベース検索の結果から、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4 (配列番号1)およびGamma-aminobutyric acid receptor subunit
alpha-6のタンパク質に共通するトポロジカル領域部分に存在するアミノ酸配列である。以下に配列番号3として、Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alpha-6インタクトタンパク質のアミノ酸配列を示す。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MASSLPWLCI ILWLENALGK LEVEGNFYSE NVSRILDNLL EGYDNRLRPG
051 FGGAVTEVKT DIYVTSFGPV SDVEMEYTMD VFFRQTWTDE RLKFGGPTEI
101 LSLNNLMVSK IWTPDTFFRN GKKSIAHNMT TPNKLFRIMQ NGTILYTMRL
151 TINADCPMRL VNFPMDGHAC PLKFGSYAYP KSEIIYTWKK GPLYSVEVPE
201 ESSSLLQYDL IGQTVSSETI KSNTGEYVIM TVYFHLQRKM GYFMIQIYTP
251 CIMTVILSQV SFWINKESVP ARTVFGITTV LTMTTLSISA RHSLPKVSYA
301 TAMDWFIAVC FAFVFSALIE FAAVNYFTNL QTQKAKRKAQ FAAPPTVTIS
351 KATEPLEAEI VLHPDSKYHL KKRITSLSLP IVSSSEANKV LTRAPILQST
401 PVTPPPLSPA FGGTSKIDQY SRILFPVAFA GFNLVYWVVY LSKDTMEVSS
451 SVE (配列番号3)
【0055】
念のため、GBRA(VS+)の配列を以下に示す。
Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alphaペプチド GBRA(VS+)
VSDVEMEYT (配列番号2)
【0056】
〔3〕 Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4由来ペプチド GBRA(VS-)
配列番号4のGBRA(VS-)はParnassumのクラスタリングにより、図4の(B)のクラスターを形成しており、差異解析の結果、NDCと比較してADおよびMCIの方が高値であり、認知機能障害疾患患者と認知機能障害疾患には罹患していない被験者、すなわち健常人とを区別するのに有用であることが判った。(図5)
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MVSAKKVPAI ALSAGVSFAL LRFLCLAVCL NESPGQNQKE EKLCTENFTR
051 ILDSLLDGYD NRLRPGFGGP VTEVKTDIYV TSFGPVSDVE MEYTMDVFFR
101 QTWIDKRLKY DGPIEILRLN NMMVTKVWTP DTFFRNGKKS VSHNMTAPNK
151 LFRIMRNGTI LYTMRLTISA ECPMRLVDFP MDGHACPLKF GSYAYPKSEM
201 IYTWTKGPEK SVEVPKESSS LVQYDLIGQT VSSETIKSIT GEYIVMTVYF
251 HLRRKMGYFM IQTYIPCIMT VILSQVSFWI NKESVPARTV FGITTVLTMT
301 TLSISARHSL PKVSYATAMD WFIAVCFAFV FSALIEFAAV NYFTNIQMEK
351 AKRKTSKPPQ EVPAAPVQRE KHPEAPLQNT NANLNMRKRT NALVHSESDV
401 GNRTEVGNHS SKSSTVVQES SKGTPRSYLA SSPNPFSRAN AAETISAARA
451 LPSASPTSIR TGYMPRKASV GSASTRHVFG SRLQRIKTTV NTIGATGKLS
501 ATPPPSAPPP SGSGTSKIDK YARILFPVTF GAFNMVYWVV YLSKDTMEKS
551 ESLM (配列番号1)
【0057】
Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alphaペプチド GBRA(VS-)
DVEMEYT (配列番号4)
【0058】
〔4〕 Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6由来ペプチド GBRA(VS-)
配列番号4のペプチドGBRA(VS-)はMS/MSおよび、MASCOTデータベース検索の結果から、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-4タンパク質(配列番号1)および、Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alpha-6タンパク質に共通するトポロジカル領域部分に存在するアミノ酸配列である。以下に配列番号3として、Gamma-aminobutyric acid receptor subunit alpha-6インタクトタンパク質のアミノ酸配列を示す。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MASSLPWLCI ILWLENALGK LEVEGNFYSE NVSRILDNLL EGYDNRLRPG
051 FGGAVTEVKT DIYVTSFGPV SDVEMEYTMD VFFRQTWTDE RLKFGGPTEI
101 LSLNNLMVSK IWTPDTFFRN GKKSIAHNMT TPNKLFRIMQ NGTILYTMRL
151 TINADCPMRL VNFPMDGHAC PLKFGSYAYP KSEIIYTWKK GPLYSVEVPE
201 ESSSLLQYDL IGQTVSSETI KSNTGEYVIM TVYFHLQRKM GYFMIQIYTP
251 CIMTVILSQV SFWINKESVP ARTVFGITTV LTMTTLSISA RHSLPKVSYA
301 TAMDWFIAVC FAFVFSALIE FAAVNYFTNL QTQKAKRKAQ FAAPPTVTIS
351 KATEPLEAEI VLHPDSKYHL KKRITSLSLP IVSSSEANKV LTRAPILQST
401 PVTPPPLSPA FGGTSKIDQY SRILFPVAFA GFNLVYWVVY LSKDTMEVSS
451 SVE (配列番号3)
【0059】
念のため、GBRA(VS-)の配列を以下に示す。
Gamma-aminobutyric
acid receptor subunit alphaペプチド GBRA(VS-)
DVEMEYT (配列番号4)
【0060】
〔5〕 Gelsolin (isoform 1)由来ペプチド GELS
Gelsolin由来ペプチドGELS(配列番号6)はParnassumのクラスタリングにより、図6の(C)のクラスターを形成しており、差異解析の結果、ADがMCIおよびNDCと比較して高値であり、アルツハイマー型認知症患者を認知機能障害疾患には罹患していない被験者、すなわち健常人のみならず軽度認知機能障害疾患患者と区別するのに有用であることが判った。(図7)
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAPHRPAPAL LCALSLALCA LSLPVRAATA SRGASQAGAP QGRVPEARPN
051 SMVVEHPEFL KAGKEPGLQI WRVEKFDLVP VPTNLYGDFF TGDAYVILKT
101 VQLRNGNLQY DLHYWLGNEC SQDESGAAAI FTVQLDDYLN GRAVQHREVQ
151 GFESATFLGY FKSGLKYKKG GVASGFKHVV PNEVVVQRLF QVKGRRVVRA
201 TEVPVSWESF NNGDCFILDL GNNIHQWCGS NSNRYERLKA TQVSKGIRDN
251 ERSGRARVHV SEEGTEPEAM LQVLGPKPAL PAGTEDTAKE DAANRKLAKL
301 YKVSNGAGTM SVSLVADENP FAQGALKSED CFILDHGKDG KIFVWKGKQA
351 NTEERKAALK TASDFITKMD YPKQTQVSVL PEGGETPLFK QFFKNWRDPD
401 QTDGLGLSYL SSHIANVERV PFDAATLHTS TAMAAQHGMD DDGTGQKQIW
451 RIEGSNKVPV DPATYGQFYG GDSYIILYNY RHGGRQGQII YNWQGAQSTQ
501 DEVAASAILT AQLDEELGGT PVQSRVVQGK EPAHLMSLFG GKPMIIYKGG
551 TSREGGQTAP ASTRLFQVRA NSAGATRAVE VLPKAGALNS NDAFVLKTPS
601 AAYLWVGTGA SEAEKTGAQE LLRVLRAQPV QVAEGSEPDG FWEALGGKAA
651 YRTSPRLKDK KMDAHPPRLF ACSNKIGRFV IEEVPGELMQ EDLATDDVML
701 LDTWDQVFVW VGKDSQEEEK TEALTSAKRY IETDPANRDR RTPITVVKQG
751 FEPPSFVGWF LGWDDDYWSV DPLDRAMAEL AA (配列番号5)
【0061】
Gelsolin由来ペプチド GELS
GLGLSYLSSH IANVERVPFD (配列番号6)
【0062】
〔6〕 Gelsolin (isoform 2)由来ペプチド GELS
Gelsolinタンパク質はUniProtデータベースより、isoformが2つ存在しており、配列番号6のペプチドGELSはGelsolin (isoform 1)タンパク質(配列番号5)および、Gelsolin
(isoform 2)タンパク質に共通するトポロジカル領域部分に存在するアミノ酸配列である。以下に配列番号7として、Gelsolin (isoform 2)インタクトタンパク質のアミノ酸配列を示す。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MVVEHPEFLK AGKEPGLQIW RVEKFDLVPV PTNLYGDFFT GDAYVILKTV
051 QLRNGNLQYD LHYWLGNECS QDESGAAAIF TVQLDDYLNG RAVQHREVQG
101 FESATFLGYF KSGLKYKKGG VASGFKHVVP NEVVVQRLFQ VKGRRVVRAT
151 EVPVSWESFN NGDCFILDLG NNIHQWCGSN SNRYERLKAT QVSKGIRDNE
201 RSGRARVHVS EEGTEPEAML QVLGPKPALP AGTEDTAKED AANRKLAKLY
251 KVSNGAGTMS VSLVADENPF AQGALKSEDC FILDHGKDGK IFVWKGKQAN
301 TEERKAALKT ASDFITKMDY PKQTQVSVLP EGGETPLFKQ FFKNWRDPDQ
351 TDGLGLSYLS SHIANVERVP FDAATLHTST AMAAQHGMDD DGTGQKQIWR
401 IEGSNKVPVD PATYGQFYGG DSYIILYNYR HGGRQGQIIY NWQGAQSTQD
451 EVAASAILTA QLDEELGGTP VQSRVVQGKE PAHLMSLFGG KPMIIYKGGT
501 SREGGQTAPA STRLFQVRAN SAGATRAVEV LPKAGALNSN DAFVLKTPSA
551 AYLWVGTGAS EAEKTGAQEL LRVLRAQPVQ VAEGSEPDGF WEALGGKAAY
601 RTSPRLKDKK MDAHPPRLFA CSNKIGRFVI EEVPGELMQE DLATDDVMLL
651 DTWDQVFVWV GKDSQEEEKT EALTSAKRYI ETDPANRDRR TPITVVKQGF
701 EPPSFVGWFL GWDDDYWSVD PLDRAMAELA A (配列番号7)
【0063】
念のため、GBRAの配列を以下に示す。
Gelsolin由来ペプチド GELS
GLGLSYLSSH IANVERVPFD (配列番号6)
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明において開示されたバイオマーカーを用いて、軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出することができるので、診断薬を含む診断分野における用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric
acid receptor subunit alpha-4、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric
acid receptor subunit alpha-6、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin
(isoform 1)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin (isoform 2)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS+)、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるGamma-aminobutyric acid receptor由来ペプチドGBRA(VS-)、および配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin由来ペプチドGELSから選択される認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【請求項3】
配列番号2、4、および6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドから選択される、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し出現または増加する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【請求項4】
配列番号2、4、および6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドから選択される、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し出現または増加するアルツハイマー病バイオマーカー。
【請求項5】
生体試料中の請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項6】
検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための認知機能障害疾患の検出キット。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む認知機能障害疾患の検出キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−37349(P2012−37349A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176971(P2010−176971)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構SBIR技術革新事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504019456)株式会社MCBI (9)
【Fターム(参考)】