説明

認知機能障害疾患を含む精神疾患のバイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患を含む精神疾患の検出方法

【課題】 非認知機能障害被験者と認知機能障害疾患患者において存在量が異なるタンパク質およびその部分ペプチドを用いて軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出する方法ならびに該タンパク質および該部分ペプチドからなる軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーの提供。同時に、認知機能障害疾患以外の精神疾患の検出方法およびバイオマーカーの提供。
【解決手段】 配列番号1、3、6、8、10、13、15、18および20のタンパク質からなる群および、これらのタンパク質の部分ペプチドである配列番号2、4、5、7、9、11、12、14、16、17、19、21で表されるアミノ酸配列からなる部分ペプチドからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質またはタンパク質から生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる認知機能障害疾患および精神疾患の診断のためのバイオマーカーならびにこれを用いた診断方法および、診断方法で用いるペプチド特異抗体を作成するための配列番号22で表される抗原ペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患の検出に用い得る新規なタンパク質およびペプチドであるバイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患の検出方法に関する。同時に、本発明は認知機能障害疾患以外の精神疾患であるうつ病、統合失調症などの検出方法およびバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
生体の正常と正常以外の状態を呈する試料を用いてその差異を判別する手段としては、一般的には体外診断薬において用いられてきた技術が主たる従来技術である。体外診断薬のうち最も多いのが、血液中の成分をバイオマーカーとして分析することで診断検査を行うものである。本分野における従来技術では、血液中の単独の特定のタンパク質または分子量1万以下のいわゆるペプチドの存在量、あるいは酵素タンパク質の場合は活性の測定を行って、正常(健常人)試料と疾患試料との明らかな差をもって診断の一助としてきた。すなわちあらかじめ一定数の健常人と疾患患者由来の試料における単独もしくは複数の特定のタンパク質またはペプチドの量もしくは活性量を計測し、異常値と正常値の範囲を決め、評価する試料を同様の方法で測定し、異常値と正常値のどちらの範囲に属するかによって検査評価を行うものである。
【0003】
具体的な計測方法としては、試料をそのまま、またはあらかじめ希釈しておき、単独または複数の特定のタンパク質またはペプチドの量を、基質と反応させると発色する酵素によって標識された特異的1次抗体または2次抗体を用いて、試料の発色量で計測する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA; enzyme linked immmunosorbent assay)や化学発光測定法(CLIA; chemiluminescent immunoassay)と、1次抗体または2次抗体に結合させたラジオアイソトープを用いて計測する放射性免疫測定法(RIA; radioimmunoassay)、タンパク質が酵素の場合は直接基質を与えて産生物を発色などで計測する酵素活性測定法などがある。抗体を用いるこれらの方法を酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法と呼ぶこととする。また酵素の基質分解産物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する方法もある。またHPLCと質量分析装置を組み合わせたLC-MS/MS法ならびにこれを用いたselected reaction
monitoring(SRM)/multiple reaction monitoring(MRM)法もある。また、試料に適当な前処理を施した後、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)を行ってタンパク質またはペプチドを分離した後、目的のタンパク質またはペプチドについて銀染色、クマシーブルー染色、あるいは対応する抗体を用いた免疫染色(ウエスタン・ブロッティング)を行って、試料中の濃度を測定する方法もある。また、生体試料をカラムクロマトグラフィーによって分画し、その画分に含まれるタンパク質とペプチドを質量分析によって分析する手法がある。またカラムクロマトグラフィーではなく、前処理としてプロテインチップを用いて質量分析する方法や、前処理として磁気ビーズを用いて質量分析する方法がある。
【0004】
さらに、発明者はビーズ(磁気ビーズを含む)に対象となるタンパク質またはペプチドに対する抗体を結合させ、これにより測定したいタンパク質またはペプチドを捕捉したのち、ビーズから溶出して質量分析により測定するimmunoMS法を開発している。またインタクトなタンパク質の解析を目的としてトリプシンなどで分解した後、上記の方法で質量分析まで行う方法も報告されている(特許文献1参照)。しかしいずれもインタクトなタンパク質の性質を利用して、そのまま分画し、または特異的に吸着するタンパク質分子を選別して質量分析で解析するものである。
【0005】
アルツハイマー病を主とする認知機能障害疾患は、我が国においても近年の高齢化に伴って急激に増加している。1995年に約130万人であったが、2005年には約190万人となり、2020年には約300万人に達すると予想されている。アルツハイマー病は認知機能障害疾患の60-90%を占めると言われている。本疾患は患者の記憶を喪失させるのみでなく人格をも崩壊して患者の社会生活機能を喪失させてしまうことから、社会問題化しつつある。本邦においては1999年末に抗アセチルコリンエステラーゼ阻害薬である塩酸 Donepezilが認可を受け、早期に投与されれば高い確率で認知機能の低下を「遅らせる」ことができるようになった。アルツハイマー病においては、現状の治療法やこれから開発される治療薬効果をあげるためには早期に診断することが最重要の課題となっている。
【0006】
米国精神医学会によるアルツハイマー病の主たる診断基準(DSM IV)を以下に示す。
A.多彩な認知欠損の発現で、以下の両方により明らかにされる。
(1)記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を想起する能力の障害)
(2)以下の認知障害の一つまたはそれ以上
a)失語(言語の障害)
b)失行(運動機能の障害がないにもかかわらず、動作を行う能力の障害)
c)失認(感覚機能の障害がないにもかかわらず、対象を認識または同定する能力の障害)
d)実行能力(計画を立てる・組織化する・順序だてる・抽象化する)の障害
B.基準A(1)およびA(2)の認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しい低下を示す。
(非特許文献1)
【0007】
アルツハイマー病(Alzheimer
disease)(AD)の関連疾患にはいろいろなものがある。ADなどの認知症は徐々に認知機能の低下が出現するため、認知症の前駆状態と呼ぶべき状態が存在する。このような状態を軽度認知機能障害(mild cognitive impairment)(MCI)と呼んでいる。米国のデータでは物忘れ外来を受診したMCI のうち、1年に10-15%、4年間でおよそ50%がADに移行するという。ADの前駆状態の大部分は健忘型MCI に含まれる。現在の定義によると、MCI は認知機能の低下に関する訴えが聞かれるが、基本的な日常生活には支障がない状態とされる。前頭側頭型認知症(FTD)は認知機能低下とともに周囲を気にせずわが道を行く行動が特徴的で、周囲に合わせようとするADと対照的である。FTDには大脳皮質に組織学的にPick球の存在を認めるPick病が含まれる。レビー小体型認知症(DLB)は、記憶障害が進行性であり幻視などの視覚認知障害があることを特徴としている。臨床症状からの診断では認知症の10-30%がDLBであり、老年期の変性性認知症疾患ではアルツハイマー型認知症(AD)に次いで2番目に多いとされる。組織学的には大脳におけるレビー小体の存在を特徴とする。FTDおよびDLBは認知症を認め痴呆型であるので痴呆型神経疾患とも呼ばれる。(非特許文献1)
【0008】
本発明において、認知機能障害疾患と総称するとき、MCI、ADおよび痴呆型神経疾患を含むものとする。
【0009】
認知症の診断に広く用いられている検査は、改訂長谷川式知能評価スケール(HDS-R)とMMSE (Mini-Mental State Examination)で、被験者への問診を行い、その結果から判断するものである。HDSは1991年に改訂されてHDS-Rと称されるようになった。これは9項目の質問からなり、見当識、記銘力、計算能力、記憶・想起および常識をテストするものである。30点満点で23点以下を認知症の疑いありとする。また、MMSEは痴呆の診断のために米国で考案されたもので、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などをカバーする。30点満点で11の質問からなり、HDS-Rと同様に23点以下で認知症の疑いありとする。両テストの結果は割合によく一致するとされている。これらの問診法はあくまでスクリーニングの目的で用いられ、確定診断に至ることはないし、HDS-R、MMSEともに重症度分類に用いられることはない。(非特許文献1)
【0010】
画像診断法としては、脳萎縮・脳溝脳室拡大など、脳の形態的異常を見るCT・MRIと脳血流量を見る脳血流シンチグラフィ(SPECT)および酸素消費量・ブドウ糖消費量を見るポジトロン断層法(PET)がある。SPECTおよびPETは核医学的方法で、形態的異常の起きる前に異常を検出することができるとされている。(非特許文献1) しかし、これらの画像診断は特殊な設備を必要とするため、すべての医療機関で実施することができないという欠点を有する。また画像を見る医師によって判断が異なることがあり、客観性に欠ける。
【0011】
このようにADを含む認知症の診断は、客観性を欠く、かつ高価な装置の使用を前提とした方法に依存しているのが現状であり、疾患発見のためのスクリーニングは不可能である。ここに血液(血清、血漿を含む)のような容易に得られる患者の試料を用いて客観的診断を可能にするバイオマーカーが見出されるならば、スクリーニングを行うことによって、現在最重要の課題となっている認知機能障害疾患の早期発見が可能となる。本発明はそのような新規バイオマーカーおよび該バイオマーカーを用いた認知機能障害疾患の検出方法を提供するものである。同時に、本発明は認知機能障害疾患以外の精神疾患であるうつ病、統合失調症などについてもその検出方法とバイオマーカーを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-333274号公報
【特許文献2】特開2006-308533号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】中野今治、水澤英洋編集:よくわかるアルツハイマー病、2004、永井書店
【非特許文献2】N.Benkiraneら、J. Biol. Chem. Vol. 268, 26279-26285, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、非認知機能障害被験者(健常人を含み、何らかの疾患に罹患していてもよいが認知機能障害疾患には罹患していない被験者)と認知機能障害疾患患者において存在の有無、存在量が異なるタンパク質およびその部分ペプチドを用いて軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出する方法を提供し、さらに該タンパク質および該部分ペプチドからなる軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーの提供を目的とする。同時に、本発明は認知機能障害疾患以外の精神疾患であるうつ病、統合失調症などについてもその検出方法とバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、認知機能障害疾患を検出する方法について鋭意検討を行い、軽度認知機能障害、アルツハイマー病を含む認知機能障害疾患ならびに精神疾患を検出することができるペプチドを血清中に見出した。本発明において見出された該ペプチドは血清中のみならず、血液、血漿、脳脊髄液、尿などの他の生体試料中に検出される場合もバイオマーカーとして意義をもつものである。同時に、これらのペプチドの起源であるタンパク質またはペプチド(以下、インタクトタンパク質またはペプチドと称する)もバイオマーカーとしての意義をもつ。
【0016】
具体的には、本発明者は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPendrin、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるClusterin
precursor、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation
initiation factor 3 subunit J、配列番号20で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片を精神疾患診断ないし認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーとして用い得ることを見出した。
【0017】
さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドを精神疾患診断ないし認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーとして用い得ることを見出した。
【0018】
本発明者らは、さらに、これらのタンパク質やペプチドないしペプチド断片を2次元液体クロマトグラフィー(2D-LC) MALDI TOF-MS法(質量分析法)やimmunoMS法を用いることにより、一度に多数のタンパク質ないしペプチドないしペプチド断片を測定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPendrin、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるClusterin
precursor、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation
initiation factor 3 subunit J、配列番号20で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる精神疾患診断ないし認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【0020】
[2] 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドからなる精神疾患診断のためのバイオマーカー。
【0021】
[3] 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドからなる認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【0022】
[4] 配列番号2、5、7、9、11、12、14、16からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し出現または増加する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【0023】
[5] 配列番号4、17、19、21からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し消失または減少する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【0024】
[6] 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し出現または増加するアルツハイマー病バイオマーカー。
【0025】
[7] 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し消失または減少するアルツハイマー病バイオマーカー。
【0026】
[8] 生体試料中の[1]および[2]のいずれか1項に記載の少なくとも1つの精神疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、精神疾患の検出方法。
【0027】
[9] 生体試料中の[1]および[3]のいずれか1項に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、認知機能障害疾患の検出方法。
【0028】
[10] 生体試料中の[4]に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患バイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが精神疾患に罹患していない被験者と比較して多く存在する場合に認知機能障害疾患に罹患していると判断する認知機能障害疾患の検出方法。
【0029】
[11] 生体試料中の[5]に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患バイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが精神疾患に罹患していない被験者と比較して少なく存在する場合に認知機能障害疾患に罹患していると判断する認知機能障害疾患の検出方法。
【0030】
[12] 検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる[8]に記載の精神疾患の検出方法。
【0031】
[13] 検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる[9]〜[11]のいずれか1項に記載の認知機能障害疾患の検出方法。
【0032】
[14] [1]および[2]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための精神疾患の検出キット。
【0033】
[15] [1]および[3]〜[5]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための認知機能障害疾患の検出キット。
【0034】
[16] [1]および[2]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む精神疾患の検出キット。
【0035】
[17] [1]および[3]〜[5]のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む認知機能障害疾患の検出キット。
【0036】
[18] 抗体またはアプタマーが基板上に固相化されている[16]または[17]に記載の検出キット。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、被験者由来の生体試料中の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドの種類および量を計測することにより、被験者が精神疾患ないし認知機能障害疾患に罹患しているかどうかを診断することができる。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの量を計測することにより、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し増加する場合にアルツハイマー病と診断することができるし、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの量を計測することにより、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し減少する場合にアルツハイマー病と診断することができる。
【0038】
本発明は、また精度および特異性の両方が極めて高い診断システムを提供する。本発明によって血液のような生体試料について特定の検査方法がなかった認知機能障害疾患に対して精度の高い診断がはじめて可能になる。さらに、本発明のバイオマーカーは、薬剤効果判定においても有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】2D-LCMALDI TOF-MS法でアルツハイマー病(AD)患者血清を分離した図。
【図2】差異解析の結果の1例、Marker Aの場合。Marker Aは図3に示すように、Neurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2Bである。A)はADN、MCI、AD 間の比較、B)はADN、AD、NDall、NDdem、NDnon 間の比較である。それぞれの平均値(SD)/1000は以下のとおり。A) ADN, 0.1 (0.1); MCI 45.8(42.2); AD 41.7 (22.2)。B) ADN 0.1 (0.2); AD 34.0 (27.8);NDall 19.2 (15.8); NDdem 24.3 (20.8); NDnon 14.0 (6.1)。C)、D)、E)はそれぞれMCI対ADN、AD対ADN、AD対NDnonの比較におけるROC曲線である。
【図3】Marker A (配列番号2 NRX2B)のTOF/TOF型質量分析計によるMS/MSスペクトル図。
【図4】血清中THRB (R-)(A)とB))とTHRB (R+) (C)とD))の非精神疾患被験者(ADN)および認知症を含む精神疾患患者間における比較
【図5】A) 血清中THRB(R-)とTHRB (R+)の非精神疾患被験者(AND)および認知機能障害疾患患者(MCI、AD)間における個体ごとの比較。 B) 血清中THRB (R-)のAD対NDnonの比較におけるROC曲線。
【図6】血清中S264Aの非精神疾患被験者(AND)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(A)とB))および血清中COPZ1の非精神疾患被験者(AND)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(C)とD))
【図7】血清中PARR2 (S-)(A))とPARR2 (S+) (B))の非精神疾患被験者(AND)および認知機能障害疾患患者(MCI、AD)間における比較
【図8】血清中GELSの非精神疾患被験者(AND)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(A)とB))
【図9】血清中CLUS (N-termSDVP)の非精神疾患被験者(ADN)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(A)とB))および血清中CLUS (N-term RFFT) の非精神疾患被験者(ADN)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(C)とD))
【図10】血清中EIF3Jの非精神疾患被験者(ADN)および認知症を含む精神疾患患者間における比較(A)とB))および血清中LRC27の非精神疾患被験者(ADN)および認知機能障害疾患患者(MCI、AD)間における比較(C))
【図11】ADとMCIの患者血清からNRX2B に特異的な抗体を用いてimmunoMS法によって捕捉・検出されたNRX2Bペプチドの質量スペクトル。図左の矢印部分の拡大が図右。内在性NRX2Bペプチド(図右、実線矢印)および安定同位体標識NRX2B合成ペプチド(図右、破線矢印)のピークをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、被験者が認知機能障害疾患に罹患しているとき、インタクトなタンパク質および/またはその部分ペプチドの種類および量を検出すると同時に、インタクトなタンパク質とその部分ペプチドの種類と量の変動を測定することにより被験者が認知機能障害疾患に罹患しているかどうかを診断する方法である。また同時に、精神疾患に罹患しているかどうかを診断する方法でもある。ここで、ペプチドは、一般的には分子量1万以下のアミノ酸が連結したものをいい、あるいはアミノ酸残基の数としては数個から50個以下程度のものをいう。本発明においては、インタクトなタンパク質の部分ペプチドを認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るが、部分ペプチドという場合、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドであって分子量1万以下のものをいう。本発明において、インタクトなタンパク質の部分ペプチドとは、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドをいい、転写・翻訳による発現合成過程で部分ペプチドとして生成する場合と、インタクトなタンパク質として合成された後に、生体内で消化分解を受けて消化分解産物ペプチドとして生成する場合がある。この原因としては、生体が認知機能障害疾患等の正常以外の状態にあるときに、タンパク質の合成および制御機構が脱制御されることが挙げられる。すなわち、本発明は、生体内のタンパク質の発現合成および/または消化分解を指標として被験者が正常状態であるか認知機能障害疾患に罹患しているかを判別し、また認知機能障害疾患に罹患している場合の疾患の進行度をも評価判別する方法でもある。本発明において、認知機能障害疾患の検出とは、被験者が認知機能障害疾患に罹患しているかどうかの評価判別、すなわち診断を行うことをいう。また、被験者がより重篤な認知機能障害に罹患するリスクの評価等も含み得る。
【0041】
本発明の方法において、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るインタクトなタンパク質またはペプチドとして、具体的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPendrin、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるClusterin
precursor、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation
initiation factor 3 subunit J、配列番号20で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27が挙げられ、これらのインタクトなタンパク質の部分ペプチドであるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片も同じ目的に用い得る。
【0042】
また、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得る部分ペプチドとして、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27が挙げられる。本発明においては、上記のインタクトなタンパク質およびペプチドをマーカーとして用いるが、配列番号1〜21で表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列からなるタンパク質およびペプチドも含み、これらのタンパク質またはペプチドも本発明の方法においてバイオマーカーとして用いることができる。ここで、「1個または数個」とは「1個または3個」、「1個または2個」または「1個」をいう。さらに、認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得るこれらのペプチドとして、配列番号1〜21で表されるアミノ酸配列から生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片も含まれる。ペプチド断片についてアミノ酸残基5個以上とした理由は、非特許文献2の以下の記載による。すなわち、ヒストンH3のC端(130-135)のアミノ酸残基配列IRGERAについてRをKに置換したペプチドおよびIRを欠失させ、代わりにCGGをGERAに結合させたペプチドCGGGERAがペプチドIRGERAを免疫原として得た抗体によって認識されたとの報告である。これは、抗原性の認識が4個以上のアミノ酸残基からなるペプチドによってなされることを示している。本発明では、ヒストンH3のC端以外にも一般性を持たせるために、残基数を1つ増やして、5個以上としたが、このような低分子のペプチドをも対象とすることは、イムノ・ブロット法、ELISA法、immunoMS法などのような免疫学的手法を用いて検出ならびに分別する方法を用いるときに重要である。
【0043】
なお、インタクトなタンパク質またはその部分ペプチドに糖鎖が付加されることがある。これらの糖鎖が付加したタンパク質および部分ペプチドも認知機能障害疾患検出のためのバイオマーカーとして用い得る。
【0044】
なお、本発明において、バイオマーカーを定量してもよいし、定性により存在、非存在を決定してもよい。
【0045】
本発明で血清等の生体試料中のバイオマーカーを分離する方法としては、2次元電気泳動あるいは2次元クロマトグラフィーを用い得る。この場合の2種類のクロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等の公知のクロマトグラフィーから選択すればよい。またLC-MS/MS法を用いたSRM/MRM法で定量することもできる。さらに、発明者が開発したビーズ(磁気ビーズを含む)に対象となるタンパク質またはペプチドに対する抗体を結合させ、これにより測定したいタンパク質またはペプチドを捕捉したのち、ビーズから溶出して質量分析により測定するimmunoMS法を用いれば、2次元電気泳動あるいはクロマトグラフィーを用いることなく、簡便に目的のタンパク質、タンパク質断片、ペプチドの有無あるいは量を評価することができる。
【0046】
本発明の方法によれば、被験者の認知機能障害が軽度の段階で評価することができ、予防医学にも有用である。さらに、認知機能障害疾患に罹患した患者に心理療法や薬物療法を行った場合、障害の進行が抑制されるならば、血清などの生体試料中のタンパク質/部分ペプチドの量にも反映される。これを測定することにより、治療効果の評価と判定を行うこともできる。
【0047】
生体試料中のタンパク質の種類および量は種々の方法で測定することができる。対象となるタンパク質(タンパク質断片および部分ペプチドを含む)が特定されていて、それに対する抗体(1次抗体)が得られている場合は、以下の方法を用いることができる。
【0048】
1.イムノ・ブロット法
最も単純な方法である。数段階に希釈した被験血清を用意し、その一定量(1マイクロリットル前後)をニトロセルローズ・メンブレンなどの適当なメンブレンに滴下し、風乾する。BSAなどのタンパク質を含むブロッキング溶液で処理した後、洗浄し、1次抗体を反応させ、洗浄後1次抗体を検出するための標識された2次抗体を反応させる。メンブレンを洗浄後、標識を可視化して濃度を測定する。
【0049】
2.ウエスタン・ブロット法
等電点ないしSDS-PAGEを含む一次元ないし2次元ゲル電気泳動を行った後で、分離されたタンパク質を一旦、PVDFメンブレンなどの適当なメンブレンに転写し、1次抗体と標識された2次抗体を用いて上述のイムノ・ブロット法と同様に操作して、目的のタンパク質の存在量を測定する。
【0050】
3.ELISA法
タンパク質またはその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロタイタープレート等の担体に結合させ、試料を段階希釈後、抗体を結合させたマイクロタイタープレートにこれを適当量加えてインキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測することによって評価判定を行う。抗体の代わりにタンパク質またはその部分ペプチドに結合し得る物質を用いてもよい。例えば、アプタマー等を用いることができる。
【0051】
さらに以下に方法(特許文献2参照)を例示するが、それらには限定されない。
4.マイクロアレイ(マイクロチップ)を用いた方法
マイクロアレイとは、担体(基板)上に測定しようとする物質に結合し得る物質を整列(アレイ)固定化させたデバイスを総称していう。本発明の場合、タンパク質および部分ペプチドに対する抗体またはアプタマーを整列固定化させて用いればよい。測定は、固相化した抗体等に、生体試料を添加し、マイクロアレイ上に測定しようとするタンパク質または部分ペプチドを結合させ、次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測すればよい。
【0052】
5.質量分析法
質量分析法においては、例えば、特定のタンパク質とその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロビーズもしくは基板(プロテインチップ)に結合させる。マイクロビーズは磁気ビーズであってもよい。基板の素材は問わない。使用する抗体は(1)特定のタンパク質の完全長のみを認識する抗体、(2)部分ペプチドのみを認識する抗体、(3)特定のタンパク質とその部分ペプチドの両方を認識する抗体のすべて、または上記(1)と(2)、(1)と(3)、もしくは(2)と(3)の組み合わせでもよい。試料を原液または緩衝液で段階希釈後、抗体を結合させたマイクロビーズまたは基板にこれを適当量加え、インキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。その後、マイクロビーズまたは基板上に捕捉されたタンパク質および部分ペプチドをMALDI-TOF-MS、SELDI-TOF-MSなどを用いた質量分析によって分析し、タンパク質、タンパク質断片および部分ペプチドのピークの質量数とピーク強度を計測する。適当な内部標準物質をもとの生体試料に一定量加えておき、そのピーク強度を測定して、対象となる物質のピーク強度との比を求めることにより、もとの生体試料中の濃度を知ることができる。この方法をimmunoMS法という。また試料を原液または緩衝液で希釈または一部のタンパク質を除去した後、HPLCで分離、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いた質量分析によって定量することができる。その際に、同位体標識した内部標準ペプチドを用いたSRM/MRM法による絶対定量によって資料中の濃度を知ることができる。
【0053】
さらに、上記の方法の他、2次元電気泳動を用いた方法、表面プラズモン共鳴を用いた方法等によっても、タンパク質および部分ペプチドを解析することが可能である。
【0054】
本発明は、被験者から採取した生体試料を2次元電気泳動ないし表面プラズモン共鳴法に供し、前記バイオマーカーの有無ないし量を指標に認知機能障害疾患を検出する方法をも包含する。
【実施例1】
【0055】
2次元液体クロマトグラフィー(2D-LC) MALDI TOF-MSによる認知機能障害疾患診断マーカーペプチドの探索
【0056】
(1)血清試料
以下、括弧の前は略称である。
AD(アルツハイマー病)20例、ADN(AD患者と年齢・性別をマッチさせた精神疾患に罹患していない被験者、Nはnormalを意味する)20例
およびNDall(神経疾患)20例から得られた血清を用いた。NDallはNDdem(痴呆型神経疾患)10例とNDnon(非痴呆型神経疾患)10例からなる。さらにNDdemはレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症各5例からなり、NDnonは統合失調症、うつ病の各5例からなる。なお、NDnonは以下の記述で非認知障害神経疾患とも呼ぶことがある。
【0057】
(2)方法
血清25μlの各々に475μlの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加え、100℃で15分間煮沸した。その後、分子量1万以下のペプチドを回収するためにミリポア社YM-10を用いて限外ろ過を行った。次に以下のように、2D-LC MALDI TOF-MS法による分析を行った。すなわち、回収されたサンプルを2次元HPLC(SCX陽イオン交換ならびにC18逆相カラム)を用いて1サンプルあたり1,146に分画した。分画されたすべてのサンプルはオンラインで接続されたスポッティングロボット(AccuSpotと名づけられている)を用いてMALDI TOF/TOF型質量分析計(ultraflex TOF/TOF)用のMALDIターゲットプレート(MTP AnchorChipTM 600/384 plate (BRUKER DALTONICS))上のウエルにスポットし、マトリックス溶液(α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸, CHCA)を混合して共結晶化後にレーザーを照射しリフレクトロンモードで質量ならびにその質量におけるピーク面積(以下に述べる正規化プロセスを含む)を自動測定した。ピーク面積はマトリックス溶液に予め加えられた各ウエル当り250 fmolのbradykinin 1-7で正規化し、Area値とした。すなわち、サンプルの特定の質量におけるピーク面積をbradykinin
1-7 250 fmolから得られるピーク面積で割って10,000倍した値をArea値とした。このArea値はサンプル血清25μlに対応する。群間で血清中の存在量に差のあるペプチドの検出(差異解析)は、我々が開発した多群間統計解析ソフトウェアであるDeViewを用いて行った。存在量に差の認められたペプチドは、そのままultraflex
TOF/TOFでMS/MSにてアミノ酸配列を決定し、その起源であるインタクトタンパク質またはペプチドを同定した。
【0058】
(3)結果
図1は、AD患者1例の血清を2D-LC MALDI TOF-MSに供して得られたもので、1次元目のSCX陽イオン交換カラムで6つの画分に分画した後、それぞれをC18逆相カラムで191の画分に分画した画分をMALDI TOF-MSで測定したスペクトルについて、横軸は質量(m/z)を、縦軸は逆相カラムクロマトグラフィーの分画としてDeViewで視覚化した図である。SCX 1は素通り画分、SCX 2は塩濃度10%で溶出した画分、SCX
3は塩濃度20%で溶出した画分、SCX 4は塩濃度30%で溶出した画分、SCX 5は塩濃度50%で溶出した画分、SCX 6は塩濃度100%で溶出した画分である。図1に見るように、多くの血清でSCX 1、SCX 3、SCX 4、SCX5 の画分でペプチドが多く存在しており、2D-LCで分画し、MALDI TOF-MSで検出したペプチドの総数はおよそ4,000であった。
【0059】
差異解析の結果の1例としてMarker Aの場合を図2に示す。Marker Aは後に図3に示すように、Neurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2Bである。図2のA)はADN、MCI、AD 間の比較、B)
はADN、AD、NDall、NDdem、NDnon間の比較である。A)とB)はそれぞれ別の実験の結果で、ADNおよびADについては両実験で同じサンプルが用いられた。(すなわち、ADNおよびADについては測定結果の再現性を示していることになる。)図2のA)ではADNよりMCIとAD患者においてMarker Aが増加していることが分かった。図2のB)ではADNより ADとNDall、NDdem、NDnonにおいてMarker Aが増加していることが分かった。とくに、AD対NDnonの比較ではADのほうがNDnonより有意に高かった(t-検定、p
= 0.035)。これらの結果から、Marker Aは認知機能障害疾患(MCI、AD、NDdem)患者を非認知障害神経疾患(NDnon)患者と区別するのに有用であることが分かった。
【0060】
図2のA)およびB)の結果から、Marker Aがバイオマーカーとしてどの程度に有用であるかを評価するために受信者操作特性曲線(receiver operating characteristic curve, ROC曲線)による分析を行った。図2のC)、D)、E)はそれぞれMCI対ADN、AD対ADN、AD対NDnonの比較におけるROC曲線である。ROC曲線の下部の面積値(AUC of ROC)(以下、ROC値という)が1に近いほどバイオマーカーとしての有用性が高くなる。感度(sensitivity)と特異度(specificity)の代表的な値は図2のC)、D)、E)においてy軸上の100%の点からROC曲線に直線を引いたとき、その距離が最小となるROC曲線上の点の座標(図中のopen square)の値である。この点を与えるcutoff値が異なる群の間の分別に有用な閾値となり、そのときの感度と特異度(すなわち上述の代表的な値)がROC値とともにバイオマーカーの有用性の指標となる。
図2のC)では、MCI対ADNにおいて代表的な値としての感度が90%、特異度が100%、ROC値が0.99であり、D)ではAD対ADNにおいて代表的な値としての感度が100%、特異度が100%、ROC値が1であった。E)ではAD対NDnonを比較しており、感度が100%、特異度が50%、ROC値が0.710であった。
【0061】
以上から、Marker A(NRX2B)はMCIおよびADをADNと区別する上で有用であり、ADを非痴呆型神経疾患(NDnon)と区別する上でも有用性があることが明らかとなった。とくに、MCIはADの前段階であることから、ADに移行する可能性がある被験者を早期に診断、検出するマーカーとしてMarker A(NRX2B)はきわめて有用と考えられる。
【0062】
図3はMarker Aについて、ultraflex TOF/TOF型質量分析計でMS/MS解析した結果を示す。y-ionおよびb-ionを示すシグナルが十分に現れており、アミノ酸配列が容易に決定できた。この結果についてMascotによる検索を行い、その起源であるタンパク質またはペプチド(以下、インタクトタンパク質またはペプチドという)がNeurexin-2-beta precursorであり、検出されたペプチドがこれに由来するRSGGNATLQVDSWPであることが明らかとなった。Neurexin-2-beta
precursor に対するSwiss-ProtのEntry
NameであるNRX2Bをペプチド名の略称として用いることにする。検出された他のペプチドについても同様にSwiss-ProtのEntry Nameをペプチド名の略称として以下の記述に用いる。
【0063】
Marker Aを含め、群間で血清中の存在量に差のあるペプチドについてUltraflex TOF/TOFでMS/MSにてアミノ酸配列を決定するとともに、インタクトタンパク質またはペプチドを同定した結果を以下に示す。Marker A以外のペプチドについてもy-ionおよびb-ionを示すシグナルが十分に現れており、アミノ酸配列が容易に決定できた。以下のアミノ酸配列は2つの配列のセットを示しているが、1番目の配列の配列全体はインタクトタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列を示す。1番目の配列の下線部および2番目の配列からなるペプチドが検出されたペプチドである。1はN末端であることを表わす。遺伝子変異によるアミノ酸残基の変異があるタンパク質について、該当する箇所のアミノ酸残基は(X)で表わした。
【0064】
〔1〕 Neurexin-2-beta
precursor由来ペプチド NRX2B
配列番号2のNRX2BがADNで検出されず、MCIとAD患者およびNDall、NDdem、NDnon 患者において検出された。さらにADとNDnonの比較でもADのほうが高値であり、判別力を示した(既出、図2)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MPPGGSGPGG CPRRPPALAG
PLPPPPPPPP PPLLPLLPLL
041 LLLLLGAAEG
ARVSSSLSTT HHVHHFHSKH GTVPIAINRM
081 PFLTRGGHAG
TTYIFGKGGA LITYTWPPND RPSTRMDRLA
121 VGFSTHQRSA VLVRVDSASG
LGDYLQLHID QGTVGVIFNV
161 GTDDITIDEP
NAIVSDGKYH VVRFTRSGGN ATLQVDSWPV
201 NERYPAGNFD
NERLAIARQR IPYRLGRVVD EWLLDKGRQL
241 TIFNSQAAIK IGGRDQGRPF
QGQVSGLYYN GLKVLALAAE
281 SDPNVRTEGH
LRLVGEGPSV LVASAECPSD DEDLEECEPS
321 TGGELILPII
TEDSLDPPPV ATRSPFVPPP PTFYPFLTGV
361 GATQDTLPPP
AARRPPSGGP CQAERDDSDC EEPIEASGFA
401 SGEVFDSSLP
PTDDEDFYTT FPLVTDRTTL LSPRKPAPRP
441 NLRTDGATGA PGVLFAPSAP
APNLPAGKMN HRDPLQPLLE
481 NPPLGPGAPT
SFEPRRPPPL RPGVTSAPGF PHLPTANPTG
521 PGERGPPGAV
EVIRESSSTT GMVVGIVAAA ALCILILLYA
561 MYKYRNRDEG
SYQVDQSRNY ISNSAQSNGA VVKEKAPAAP
601 KTPSKAKKNK DKEYYV (配列番号1)
【0065】
Neurexin-2-beta
precursor由来ペプチド NRX2B
RSGGNATLQV DSWP (配列番号2)
【0066】
〔2〕 Prothrombin
precursor由来ペプチド (THRB (R-))
Prothrombin
precursor由来ペプチドには2種類あり、(R-)はC端のRを欠くペプチドを意味する。配列番号4のTHRB (R-)はADNで特異的に検出され、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonではきわめて低値であった。図4および図5にTHRB (R-)とTHRB (R+)を並べて示す。図4は散布図であり、図5、A)はADN、MCI、ADの個体ごとに、THRB (R-)とTHRB (R+)の出現がどう違うかを示している。同一個体内でもADNでは圧倒的にTHRB (R-)が多く、MCI、ADでは逆転してTHRB (R+)が多く出現している。両者はMCIとADNの判別にきわめて有用なマーカーといえる。図5、B)はTHRB (R-) のAD対NDnonの比較におけるROC曲線で、ROC値は0.815と高い値を示し、NDnonに比してADでは低値であった。すなわち、THRB (R-)はNRX2Bと同様に認知機能障害疾患(MCI、AD、NDdem)患者を非認知障害神経疾患(NDnon)患者と区別するのに有用であることが分かった。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAHVRGLQLP
GCLALAALCS LVHSQHVFLA PQQARSLLQR VRRANTFLEE
051 VRKGNLEREC VEETCSYEEA
FEALESSTAT DVFWAKYTAC ETARTPRDKL
101 AACLEGNCAE
GLGTNYRGHV NITRSGIECQ LWRSRYPHKP EINSTTHPGA
151 DLQENFCRNP
DSSTTGPWCY TTDPTVRRQE CSIPVCGQDQ VTVAMTPRSE
201 GSSVNLSPPL
EQCVPDRGQQ YQGRLAVTTH GLPCLAWASA QAKALSKHQD
251 FNSAVQLVEN
FCRNPDGDEE GVWCYVAGKP GDFGYCDLNY CEEAVEEETG
301 DGLDEDSDRA IEGRTATSEY
QTFFNPRTFG SGEADCGLRP LFEKKSLEDK
351 TERELLESYI
DGRIVEGSDA EIGMSPWQVM LFRKSPQELL CGASLISDRW
401 VLTAAHCLLY
PPWDKNFTEN DLLVRIGKHS RTRYERNIEK ISMLEKIYIH
451 PRYNWRENLD
RDIALMKLKK PVAFSDYIHP VCLPDRETAA SLLQAGYKGR
501 VTGWGNLKET
WTANVGKGQP SVLQVVNLPI VERPVCKDST RIRITDNMFC
551 AGYKPDEGKR
GDACEGDSGG PFVMKSPFNN RWYQMGIVSW GEGCDRDGKY
601 GFYTHVFRLK
KWIQKVIDQF GE (配列番号3)
【0067】
Prothrombin precursor由来ペプチド THRB (R-)
GLDEDSDRAI EG (配列番号4)
【0068】
〔3〕 Prothrombin
precursor 由来ペプチド (THRB (R+))
配列番号5のTHRB (R+)がADNで検出されず、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonで検出された(図4)。(R+)はC端にRを有するペプチドを意味する。説明は〔2〕 Prothrombin precursor由来ペプチド (THRB (R-))を参照。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAHVRGLQLP
GCLALAALCS LVHSQHVFLA PQQARSLLQR VRRANTFLEE
051 VRKGNLEREC
VEETCSYEEA FEALESSTAT DVFWAKYTAC ETARTPRDKL
101 AACLEGNCAE
GLGTNYRGHV NITRSGIECQ LWRSRYPHKP EINSTTHPGA
151 DLQENFCRNP
DSSTTGPWCY TTDPTVRRQE CSIPVCGQDQ VTVAMTPRSE
201 GSSVNLSPPL
EQCVPDRGQQ YQGRLAVTTH GLPCLAWASA QAKALSKHQD
251 FNSAVQLVEN
FCRNPDGDEE GVWCYVAGKP GDFGYCDLNY CEEAVEEETG
301 DGLDEDSDRA
IEGRTATSEY QTFFNPRTFG SGEADCGLRP LFEKKSLEDK
351 TERELLESYI
DGRIVEGSDA EIGMSPWQVM LFRKSPQELL CGASLISDRW
401 VLTAAHCLLY
PPWDKNFTEN DLLVRIGKHS RTRYERNIEK ISMLEKIYIH
451 PRYNWRENLD
RDIALMKLKK PVAFSDYIHP VCLPDRETAA SLLQAGYKGR
501 VTGWGNLKET
WTANVGKGQP SVLQVVNLPI VERPVCKDST RIRITDNMFC
551 AGYKPDEGKR
GDACEGDSGG PFVMKSPFNN RWYQMGIVSW GEGCDRDGKY
601 GFYTHVFRLK
KWIQKVIDQF GE (配列番号3)
【0069】
Prothrombin precursor由来ペプチド THRB (R+)
GLDEDSDRAI EGR (配列番号5)
【0070】
〔4〕 Pendrin由来ペプチド (S26A4)
配列番号7のS26A4がADNで検出されず、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonで検出された(図6)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAAPGGRSEP
PQLPEYSCSY MVSRPVYSEL AFQQQHERRL QERKTLRES
051 AKCCSCSRKR
AFGVLKTLVP ILEWLPKYRV KEWLLSDVIS GVSTGLVATL
101 QGMAYALLAA
VPVGYGLYSA FFPILTYFIF GTSRHISVGP FPVVSLMVGS
151 VVLSMAPDEH FLVSSSNGTV
LNTTMIDTAA RDTARVLIAS ALTLLVGIIQ
201 LIFGGLQIGF
IVRYLADPLV GGFTTAAAFQ VLVSQLKIVL NVSTKNYNGV
251 LSIIYTLVEI
FQNIGDTNLA DFTAGLLTIV VCMAVKELND RFRHKIPVPI
301 PIEVIVTIIA
TAISYGANLE KNYNAGIVKS IPRGFLPPEL PPVSLFSEML
351 AASFSIAVVA
YAIAVSVGKV YATKYDYTID GNQEFIAFGI SNIFSGFFSC
401 FVATTALSRT
AVQESTGGKT QVAGIISAAI VMIAILALGK LLEPLQKSVL
451 AAVVIANLKG
MFMQLCDIPR LWRQNKIDAV IWVFTCIVSI ILGLDLGLLA
501 GLIFGLLTVV LRVQFPSWNG
LGSIPSTDIY KSTKNYKNIE EPQGVKILR
551 SSPIFYGNVD
GFKKCIKSTV GFDAIRVYNK RLKALRKIQK LIKSGQLRAT
601 KNGIISDAVS
TNNAFEPDED IEDLEELDIP TKEIEIQVDW NSELPVKVNV
651 PKVPIHSLVL
DCGAISFLDV VGVRSLRVIV KEFQRIDVNV YFASLQDYV
701 EKLEQCGFFD
DNIRKDTFFL TVHDAILYLQ NQVKSQEGQG SILETITLIQ
751 DCKDTLELIE
TELTEEELDV QDEAMRTLAS (配列番号6)
【0071】
Pendrin由来ペプチド S26A4
LAGLIFGLLT VVLR (配列番号7)
【0072】
〔5〕 Coatomer
subunit zeta-1 由来ペプチド (COPZ1)
配列番号9のCOPZ1がADNで低値であったが、MCIとADおよびNDdemで高い値を示した(図6)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MEALILEPSL YTVKAILILD
NDGDRLFAKY YDDTYPSVKE QKAFEKNIFN
051 KTHRTDSEIA
LLEGLTVVYK SSIDLYFYVI GSSYENELML MAVLNCLFDS
101 LSQMLRKNVE
KRALLENMEG LFLAVDEIVD GGVILESDPQ QVVHRVALRG
151 EDVPLTEQTV
SQVLQSAKEQ IKWSLLR (配列番号8)
【0073】
Coatomer subunit
zeta-1由来ペプチド COPZ1
AILILDNDGD RLFAKYYDD (配列番号9)
【0074】
〔6〕 Retinoic
acid receptor responder protein 2 precursor 由来ペプチド (RARR2
(S-))
配列番号11のRARR2 (S-)がADNで検出されず、AD、MCIで検出された(図7)。Retinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドには2種類あり、(S-)はC端にSを欠くペプチドを意味する。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MRRLLIPLAL
WLGAVGVGVA ELTEAQRRGL QVALEEFHKH PPVQWAFQET
051 SVESAVDTPF
PAGIFVRLEF KLQQTSCRKR DWKKPECKVR PNGRKRKCLA
101 CIKLGSEDKV
LGRLVHCPIE TQVLREAEEH QETQCLRVQR AGEDPHSFYF
151 PGQFAFSKAL PRS (配列番号10)
【0075】
Retinoic acid
receptor responder protein 2 precursor由来ペプチド RARR2 (S-)
PHSFYFPGQF AFSKALPR (配列番号11)
【0076】
〔7〕 Retinoic
acid receptor responder protein 2 precursor 由来ペプチド (RARR2
(S+))
配列番号12のRARR2 (S+)がRARR2 (S-)と同様ADNで検出されず、AD、MCIで検出された(図7)。(S+)はC端にSを有するペプチドを意味する。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MRRLLIPLAL
WLGAVGVGVA ELTEAQRRGL QVALEEFHKH PPVQWAFQET
051 SVESAVDTPF
PAGIFVRLEF KLQQTSCRKR DWKKPECKVR PNGRKRKCLA
101 CIKLGSEDKV
LGRLVHCPIE TQVLREAEEH QETQCLRVQR AGEDPHSFYF
151 PGQFAFSKAL PRS (配列番号10)
【0077】
Retinoic acid
receptor responder protein 2 precursor由来ペプチド RARR2 (S+)
PHSFYFPGQF AFSKALPRS (配列番号12)
【0078】
〔8〕 Gelsolin
precursor 由来ペプチド (GELS)
配列番号14のGELSがADNで低値であったが、MCIとADで比較的高い値を示した(図8)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAPHRPAPAL
LCALSLALCA LSLPVRAATA SRGASQAGAP QGRVPEARPN
051 SMVVEHPEFL
KAGKEPGLQI WRVEKFDLVP VPTNLYGDFF TGDAYVILKT
101 VQLRNGNLQY
DLHYWLGNEC SQDESGAAAI FTVQLDDYLN GRAVQHREVQ
151 GFESATFLGY
FKSGLKYKKG GVASGFKHVV PNEVVVQRLF QVKGRRVVRA
201 TEVPVSWESF
NNGDCFILDL GNNIHQWCGS NSNRYERLKA TQVSKGIRDN
251 ERSGRARVHV
SEEGTEPEAM LQVLGPKPAL PAGTEDTAKE DAANRKLAKL
301 YKVSNGAGTM
SVSLVADENP FAQGALKSED CFILDHGKDG KIFVWKGKQA
351 NTEERKAALK
TASDFITKMD YPKQTQVSVL PEGGETPLFK QFFKNWRDPD
401 QTDGLGLSYL
SSHIANVERV PFDAATLHTS TAMAAQHGMD DDGTGQKQIW
451 RIEGSNKVPV
DPATYGQFYG GDSYIILYNY RHGGRQGQII YNWQGAQSTQ
501 DEVAASAILT
AQLDEELGGT PVQSRVVQGK EPAHLMSLFG GKPMIIYKGG
551 TSREGGQTAP
ASTRLFQVRA NSAGATRAVE VLPKAGALNS NDAFVLKTPS
601 AAYLWVGTGA SEAEKTGAQE
LLRVLRAQPV QVAEGSEPDG FWEALGGKAA
651 YRTSPRLKDK
KMDAHPPRLF ACSNKIGRFV IEEVPGELMQ EDLATDDVML
701 LDTWDQVFVW
VGKDSQEEEK TEALTSAKRY IETDPANRDR RTPITVVKQG
751 FEPPSFVGWF
LGWDDDYWSV DPLDRAMAEL AA (配列番号13)
【0079】
Gelsolin precursor由来ペプチド GELS
PVRAATASRG AS (配列番号14)
【0080】
〔9〕 Clusterin
precursor 由来ペプチド (CLUS (N-term SDVP))
配列番号16のCLUS (N-term
SDVP)がADNで低値であったが、MCIとADで比較的高い値を示した(図9)。Clusterin precursor由来ペプチドには2種類あり、(N-term SDVP)はN端がSDVPであるものを示す。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MMKTLLLFVG
LLLTWESGQV LGDQTVSDNE LQEMSNQGSK YVNKEIQNAV
051 NGVKQIKTLI
EKTNEERKTL LSNLEEAKKK KEDALNETRE SETKLKELPG
101 VCNETMMALW
EECKPCLKQT CMKFYARVCR SGSGLVGRQL EEFLNQSSPF
151 YFWMNGDRID
SLLENDRQQT HMLDVMQDHF SRASSIIDEL FQDRFFTREP
201 QDTYHYLPFS
LPHRRPHFFF PKSRIVRSLM PFSPYEPLNF HAMFQPFLEM
251 IHEAQQAMDI
HFHSPAFQHP PTEFIREGDD DRTVCREIRH NSTGCLRMKD
301 QCDKCREILS
VDCSTNNPSQ AKLRRELDES LQVAERLTRK YNELLKSYQW
351 KMLNTSSLLE
QLNEQFNWVS RLANLTQGED QYYLRVTTVA SHTSDSDVPS
401 GVTEVVVKLF DSDPITVTVP
VEVSRKNPKF METVAEKALQ EYRKKHREE (配列番号15)
【0081】
Clusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term
SDVP)
SDVPSGVTEV VVKLFDS (配列番号16)
【0082】
〔10〕 Clusterin
precursor 由来ペプチド (CLUS (N-term RFFT))
配列番号17のCLUS (N-term
RFFT)がADNに検出され、ADでは全く検出されなかった(図9)。(N-term RFFT)はN端がRFFTであるものを示す。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MMKTLLLFVG
LLLTWESGQV LGDQTVSDNE LQEMSNQGSK YVNKEIQNAV
051 NGVKQIKTLI
EKTNEERKTL LSNLEEAKKK KEDALNETRE SETKLKELPG
101 VCNETMMALW
EECKPCLKQT CMKFYARVCR SGSGLVGRQL EEFLNQSSPF
151 YFWMNGDRID
SLLENDRQQT HMLDVMQDHF SRASSIIDEL FQDRFFTREP
201 QDTYHYLPFS LPHRRPHFFF
PKSRIVRSLM PFSPYEPLNF HAMFQPFLEM
251 IHEAQQAMDI
HFHSPAFQHP PTEFIREGDD DRTVCREIRH NSTGCLRMKD
301 QCDKCREILS
VDCSTNNPSQ AKLRRELDES LQVAERLTRK YNELLKSYQW
351 KMLNTSSLLE
QLNEQFNWVS RLANLTQGED QYYLRVTTVA SHTSDSDVPS
401 GVTEVVVKLF
DSDPITVTVP VEVSRKNPKF METVAEKALQ EYRKKHREE (配列番号15)
【0083】
Clusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term
RFFT)
RFFTREPQDT YHYLPFSLPH (配列番号17)
【0084】
〔11〕 Eukaryotic
translation initiation factor 3 subunit J 由来ペプチド (EIF3J)
配列番号19のEIF3JがADNに検出され、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonでは全く検出されないか、ほとんど検出されなかった(図10)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MAAAAAAAGD
SDSWDADAFS VEDPVRKVGG GGTAGGDRWE GEDEDEDVKD
051 NWDDDDDEKK
EEAEVKPEVK ISEKKKIAEK IKEKERQQKK RQEEIKKRLE
101 EPEEPKVLTP
EEQLADKLRL KKLQEESDLE LAKETFGVNN AVYGIDAMNP
151 SSRDDFTEFG
KLLKDKITQY EKSLYYASFL EVLVRDVCIS LEIDDLKKIT
201 NSLTVLCSEK
QKQEKQSKAK KKKKGVVPGG GLKATMKDDL ADYGGYDGGY
251 VQDYEDFM (配列番号18)
【0085】
Eukaryotic
translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチド EIF3J
GVVPGGGLKA TMKDDLADYG
GYDGG + Oxidation (M) (配列番号19)
【0086】
〔12〕 Leucine-rich
repeat-containing protein 27 由来ペプチド (LRC27))
配列番号21のLRC27がADNに検出され、ADでは全く検出されなかった(図10)。
インタクトタンパク質/ペプチド
001 MEGSSSYEVP
SVAAADLEEG AGQTRSLPAT PSKDVHKGVG GIIFSSSPIL
051 DLSESGLCRL
EEVFRIPSLQ QLHLQRNALC VIPQDFFQLL PNLTWLDLRY
101 NRIKALPSGI
GAHQHLKTLL LERNPIKMLP VELGSVTTLK ALNLRHCPLE
151 FPPQLVVQKG
LVAIQRFLRM WAVEHSLPRN PTSQEAPPVR EMTLRDLPSP
201 GLELSGDHAS
NQGAVNAQDP EGAVMKEKAS FLPPVEKPDL SELRKSADSS
251 ENWPSEEEIR
RFWKLRQEIV EHVKADVLGD QLLTRELPPN LKAALNIEKE
301 LPKPRHVFRR
KTASSRSILP DLLSPYQMAI RAKRLEESRA AALRELQEKQ
351 ALMEQQRREK
RALQEWRERA QRMRKRKEEL SKLLPPRRSM VASKIPSATD
401 LIDNRKVPLN
PPGKMKPSKE KSPQASKEMS ALQERNLEEK IKQHVLQMRE
451 QRRFHGQAPL
EEMRKAAEDL EIATELQDEV LKLKLGLTLN KDRRRAALTG
501 NLSLGLPAAQ
PQNTFFNTKY GESGNVRRYQ (配列番号20)
【0087】
Leucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチド LRC27
SSPILDLSES GLCRLEEVFR
IPS (配列番号21)
【0088】
すでに引用してあるが、図2、図4および図6から図10に、配列番号2
(NRX2B)から配列番号21 (LRC27)) までのペプチドについて、ADN、MCI、AD間の比較についての散布図およびADN、AD、NDall、NDdem、NDnon間の比較についての散布図とそれぞれの比較におけるt検定のp値を示した。
【0089】
表1に上記12種類のマーカーペプチドについて、MCI対ADNおよびAD対ADNの比較におけるROC値のリストを示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1には各マーカーペプチドの認知機能障害疾患の検出における有用性が示されている。これらのマーカーペプチドについては、それぞれ単独、あるいは組み合わせで用いることにより、液体クロマトグラフィーおよび/または他の適当な分離手段を用いて、あるいは用いないで直接、血清中の存在量を質量分析または免疫学的あるいは酵素学的方法などの他の方法によって測定することにより、AD、MCIのような認知機能障害疾患、神経疾患の非痴呆型と痴呆型を診断上区別することが可能である。ADNで検出されず、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonで検出されるペプチドマーカー、あるいはその逆に、ADNで検出され、MCI、AD、NDall、NDdem、NDnonで検出されないペプチドマーカーは精神疾患の検出にも有効である。
【実施例2】
【0092】
マーカーペプチド合成とマーカーペプチド特異ポリクローナル抗体作成
【0093】
配列番号2のNeurexin-2-beta precursor由来ペプチド
NRX2Bを認識する特異抗体を作製するために抗原ペプチドを合成した。合成ペプチドにはキャリアタンパク質と結合させるために、C末端にシステイン残基を付加した。キャリアタンパク質と結合させたペプチド(RSGGNATC-KLH、下記参照)とアジュバントを混合し、ウサギに免疫した。1〜2週間おきに合計8回免疫し、4週間おきに2回試験採血を行い、抗体力価をエンザイムイムノアッセイ法(EIA法)で測定した。免疫開始から3か月後、全採血を行って抗血清を回収して、抗原ペプチドをリガンドとしたペプチドカラムを用いて特異抗体の精製を行った。
【0094】
特異抗体を作製するための合成抗原ペプチドの配列を下に示す。下線部のC末端のシステイン残基(C)はキャリアタンパク質と結合させるために付加した。
【0095】
RSGGNATC
(配列番号22)
【実施例3】
【0096】
抗体ビーズの作成
【0097】
(1)方法
(1−1) 抗体の調製と磁気ビーズへの結合
配列番号22で表わされるアミノ酸配列のペプチドを特異的に認識する抗体(抗NRX2B 抗体、Rabbit IgG) 1 mgを0.1 M MESで3 mlの抗体溶液とした。磁気ビーズMagnosphereTM
MS300/carboxyl (JSR Corporation)を1 ml (10 mg beads)を0.1 M MESで洗浄し、抗体溶液と混合して室温で30分間穏やかに振盪した。
(1−2) 抗体と磁気ビーズのクロスリンク
400 ml のEDC溶液(10 mg/ml 1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride
in 0.1 M MES)を抗体ビーズ溶液に加えて3時間穏やかに懸濁し抗体とビーズを共有結合化した。
(1−3) ブロッキング
200 mM ethanolamine (pH 8.0)を1 ml加えビーズを洗浄し、さらに200 mM ethanolamine (pH 8.0)を1 ml加え、室温で1時間穏やかに浸透し、アミン基のブロッキングを行った。
(1−4) 洗浄
200 mM ethanolamine (pH 8.0)を除去した後、1 ml のTBST溶液(25 mM Tris-HCl (pH 7.2) containing 0.15 M NaCl
and 0.05% Tween 20)で3回ビーズを洗浄した。
(1−5) 保存
TBST溶液を1ml加えてビーズを懸濁した後、4℃で保存した。
【実施例4】
【0098】
患者血清中に2D-LC MALDI TOF-MS法で検出されたm/z 1488のピークがNRX2BであることのimmunoMS法による立証
【0099】
(1) 方法
比較のためのコントロールとしてNRX2Bよりm/zが6大きい安定同位体標識NRX2B合成ペプチド(バリン(V)の炭素(12C、5個)と窒素(14N、1個)がそれぞれ(13C、5個)、(15N、1個)で置換されている)を用いた。内在性ペプチドも安定同位体標識ペプチドもともに抗NRX2B 抗体によって捕捉される。ADとMCIの患者血清25 μlの各々に200 fmol/μlの安定同位体標識NRX2B合成ペプチドを1 μl添加し、4℃で10分間温置した。その後、475 μlの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加え、105℃で5分間煮沸した。その後、14,000×gで15分間遠心後、上清に0.3 M塩化ナトリウム、0.2% n-オクチルグルコシドを含む100 mM トリス-HCl
(pH 7.5)を500 μl加えて、ペプチド溶液とした。ペプチド溶液に実施例3で作成した抗NRX2B 抗体ビーズを20 μl加えて2時間穏やかに振盪した。その後、磁性スタンドに1分間静置し上清を取り除いた。0.15 M塩化ナトリウム、0.1% n-オクチルグルコシドを含む50 mM トリス-HCl (pH 7.5)(TBS)を1
ml加えて、10分間穏やかに振盪した。磁性スタンドに1分間静置し上清を取り除いた。さらにTBSを500 μl加えて磁性スタンドに1分間静置し上清を取り除いた。これを3回繰り返した。さらに、50 mM 炭酸アンモニウムを500 μl加えて磁性スタンドに1分間静置し上清を取り除いた。これを3回繰り返した。2-プロパノール:水:ギ酸=4:4:1の溶液を50 μl加えて10分間放置し、磁性スタンドに1分間静置してろ液を回収した。これを2回繰り返した。ろ液は遠心真空乾燥を行い、乾固した。その後、5% アセトニトリルを含む0.095% TFAを20 μl加えて、超音波で再溶解した。C18ピペットチップ(PerfectPure
C-18 Tip、Eppendorf社)でペプチドを濃縮してMALDIターゲットプレート(MTP AnchorChipTM 600/384 plate (BRUKER
DALTONICS))にスポットし、MALDI TOF型質量分析計(AXIMA
CFR plus、SHIMADZU-Kratos)で質量測定した。
【0100】
(2) 結果
上記方法を用いて、NRX2BペプチドがADとMCIの患者血清から検出された結果を質量スペクトルとして図11に示す。図11 A)は得られたスペクトルの全体像、図11
B)は図11 A)の矢印部分の拡大図である。図11 B)の破線矢印で示されるシグナルはスパイクした安定同位体標識NRX2B合成ペプチドであり、実線矢印で示されるシグナルは内在性NRX2Bペプチドである。観測された質量値は想定された値の測定誤差範囲内であり、かつ安定同位体標識NRX2B合成ペプチドと内在性NRX2Bペプチドのm/zの差は6であったから、捕捉されたペプチドがNRX2Bであることが立証されたことになる。
【0101】
本実験において、本発明者が独自に開発したimmunoMS法を用いて、血清からペプチドマーカーであるNRX2Bを検出し、ADとMCIの患者をADNから区別することが可能であることを示すことができた。本実験は同時に、NRX2Bに対する特異的な抗体が本ペプチドマーカーの検出に有効であることも示している。さらに、NRX2Bに対する特異的な抗体がNRX2Bのアミノ酸配列に含むペプチドあるいはタンパク質に対して免疫学的検出法が有効である可能性も示している。また、本実験では1種類のペプチドマーカーを認識する特異抗体で判別したが、実施例1で見出された他のバイオマーカーペプチドを認識する特異抗体を組み合わせれば、さらに病態の診断の精度が高まることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明において開示されたバイオマーカーを用いて、軽度認知機能障害およびアルツハイマー病を含む認知機能障害疾患を検出できるばかりでなく、認知機能障害疾患以外の精神疾患も検出することができるので、診断薬を含む診断分野における用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPendrin、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるClusterin
precursor、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation
initiation factor 3 subunit J、配列番号20で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質ないしペプチドまたは該タンパク質ないし該ペプチドから生じるアミノ酸残基5個以上のペプチド断片からなる精神疾患診断ないし認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチド THRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit
zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドからなる精神疾患診断のためのバイオマーカー。
【請求項3】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるNeurexin-2-beta precursor由来ペプチドNRX2B、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R-)、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるProthrombin precursor由来ペプチドTHRB (R+)、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるPendrin由来ペプチドS26A4、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCoatomer subunit zeta-1由来ペプチドCOPZ1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2 (S-)、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるRetinoic
acid receptor responder protein 2 precursor由来ペプチドRARR2
(S+)、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるGelsolin precursor由来ペプチドGELS、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるClusterin
precursor由来ペプチドCLUS (N-term SDVP)、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるClusterin precursor由来ペプチドCLUS (N-term RFFT)、配列番号19で表されるアミノ酸配列からなるEukaryotic translation initiation factor 3 subunit J由来ペプチドEIF3J、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるLeucine-rich
repeat-containing protein 27由来ペプチドLRC27からなる群から選択される少なくとも1つのペプチドからなる認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカー。
【請求項4】
配列番号2、5、7、9、11、12、14、16からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し出現または増加する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【請求項5】
配列番号4、17、19、21からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、認知機能障害疾患患者生体試料中において、精神疾患に罹患していない被験者の生体試料中と比較し消失または減少する認知機能障害疾患バイオマーカー。
【請求項6】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し出現または増加するアルツハイマー病バイオマーカー。
【請求項7】
配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、アルツハイマー病患者生体試料中において、非痴呆型神経疾患患者の生体試料中と比較し消失または減少するアルツハイマー病バイオマーカー。
【請求項8】
生体試料中の請求項1および2のいずれか1項に記載の少なくとも1つの精神疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、精神疾患の検出方法。
【請求項9】
生体試料中の請求項1および3のいずれか1項に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患診断のためのバイオマーカーを測定することを含む、認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項10】
生体試料中の請求項4に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患バイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが精神疾患に罹患していない被験者と比較して多く存在する場合に認知機能障害疾患に罹患していると判断する認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項11】
生体試料中の請求項5に記載の少なくとも1つの認知機能障害疾患バイオマーカーを測定し、該バイオマーカーが精神疾患に罹患していない被験者と比較して少なく存在する場合に認知機能障害疾患に罹患していると判断する認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項12】
検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる請求項8に記載の精神疾患の検出方法。
【請求項13】
検出がイムノ・ブロット法またはウエスタン・ブロット法、酵素もしくは蛍光もしくは放射性物質標識抗体法または質量分析法またはimmunoMS法または表面プラズモン共鳴法により行われる請求項9〜11のいずれか1項に記載の認知機能障害疾患の検出方法。
【請求項14】
請求項1および2のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための精神疾患の検出キット。
【請求項15】
請求項1および請求項3〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための認知機能障害疾患の検出キット。
【請求項16】
請求項1および2のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む精神疾患の検出キット。
【請求項17】
請求項1および請求項3〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバイオマーカーに対する抗体もしくはアプタマーを含む認知機能障害疾患の検出キット。
【請求項18】
抗体またはアプタマーが基板上に固相化されている請求項16または17に記載の検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−271078(P2010−271078A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121226(P2009−121226)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(504019456)株式会社MCBI (9)
【Fターム(参考)】