認知症の予防・治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤
【課題】ATP産生低下を抑制することにより「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」を向上させ、更に脳血流を改善して細胞外電解質の恒常性を維持することによる認知症の予防及び治療に有効な組成物の提供。
【解決手段】利水薬若しくは化湿薬、或いは活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬、更に、利水薬または化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬と活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物及びそれを含有する漢方・生薬製剤。利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニンなどである。活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天などである。漢方薬が、加味帰脾湯、抑肝散加陳皮半夏などである。
【解決手段】利水薬若しくは化湿薬、或いは活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬、更に、利水薬または化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬と活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物及びそれを含有する漢方・生薬製剤。利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニンなどである。活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天などである。漢方薬が、加味帰脾湯、抑肝散加陳皮半夏などである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症の予防・治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症には、アルツハイマー型認知症と脳血管認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症などがある。脳血管性の認知症は脳の血管にコレステロールがたまり、血管が硬くなる動脈硬化によって引き起こされる。認知症の治療に優れた治療薬はなく、回想法や運動療法などと組み合せて、症状の進行を抑制し、日常生活を維持していくのが現状である。
【0003】
認知症患者は、高齢社会の進展に伴い年々増加傾向にあり、現在約170万人いるといわれている。65歳以上の人の約10%、85歳以上の約30%が認知症を有し、その半数がアルツハイマー病といわれている。また要介護認定者の約50%が認知症を患っているともいわれている。若年性認知症患者も約37,800人いると推定されており、認知症が若年層にも広がりを見せていることが明らかになっている。
【0004】
アルツハイマー病の神経病理学的特徴は、大脳皮質や海馬での神経原線維変性、老人斑と大量の神経細胞脱落である。神経原線維変性は微小管結合タンパクの1つであるタウタンパクが過剰にリン酸化され線維封入体となったもので、老人斑はアミロイドβタンパクの細胞外蓄積である。アルツハイマー病ではこのアミロイドβタンパクの蓄積が神経原線維変性を加速し、繊維化したタウタンパクは細胞内輸送を阻害する。さらにはアミロイドβタンパク自体がシナプスの機能障害などの細胞毒性を有する。
【0005】
神経細胞(ニューロン)は、細胞体(脳細胞)、樹状突起、軸策、シナプスで構成されている。ニューロンはシナプス結合を介して信号伝達しており、ニューロンを同時刺激することにより、2つのニューロン間の信号伝達が持続的に向上する。このことを、神経科学の分野において、長期増強(LTP)という。記憶はこのシナプスに貯えられているとみられているので、長期増強は記憶の主要なメカニズムであると広く考えられている。特に、海馬LTPの機構解明が進んでおり、シナプス後細胞にカルシウムイオンが流入すること、このカルシウムの流入がグルタミン酸受容体の一種のNMDA受容体を介して行なわれることが認められている。
【0006】
このNMDA受容体は静止膜電位時にマグネシウムによってブロックされ、シナプス後細胞へのカルシウムの流入が阻害されているが、脱分極によりマグネシウムのブロックから開放され、受容体にグルタミン酸が結合した際に、カルシウムの細胞内への流入が起きてLTPが成立する(記憶の成立)。そして、長期記憶は、数分以内に成立するLTPに引き続いて伝達効率の増大状態を長期維持する相であり、タンパクの新合成を伴い、ニューロンの形態変化を介して、シナプスの新生が起こるのだろうと考えられている。
【0007】
このように、記憶・学習行動などヒトの脳機能を実現するために、神経回路が物理的・生理的に、その性質を変化できることをシナプスの可塑性といい、アポトーシスによるニューロンの減少と発芽によるシナプス接合部の増加という物理的な変化とLTPにより信号の通りがよくなるという生理的な変化が含まれる。
【0008】
神経線維の電気信号の発生は、ニューロンを取り巻く膜の内側と外側に存在するイオンのアンバランスによるもので、細胞の内側にはカリウムイオンが多く、外側には主として
ナトリウムイオンと塩素イオンが多く分布しており、細胞内外の濃度差で生じる電位差に起因するものである。このイオンの濃度勾配で生じ電位差が静止電位であり、この状態を膜が分極しているという。
【0009】
この電位差が刺激によって一時的に逆転(脱分極)する現象が活動電位であり、インパルスやスパイクとも呼ばれる。発生した活動電位はシナプスに向かって軸索方向に伝播され、プレシナプスに達するとカルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが流入し、神経伝達物質がシナプス間隙に放出することにより情報が伝達される。以上のようにして電気インパルスは神経細胞間を伝達され、同様の過程が多数のニューロンで繰り返し行われる。これが神経細胞の情報伝達処理の概観である。
【0010】
神経細胞の活動が円滑に維持されるためには、静止膜電位を深く維持する必要がある。そのためには細胞外のカリウムイオンを低濃度に保つ必要がある。そして、細胞外のカリウムイオンを保つ要因として、(1)ATP生成とNaK-ATPアーゼ活性、(2)アストロサイトのカリウムイオンの取り込みが挙げられる。
【0011】
ATPは生命活動におけるエネルギー源であり、基礎代謝におけるATP消費の40%がNaK-ATPアーゼで、その内訳は脳が13%、腎が10%を占めることが知られており、認知機能低下ではNaK-ATPアーゼが低下することも知られている。即ち、NaK-ATPアーゼ機能が低下することにより、細胞外にカリウムイオンが滞留し脱分極を誘導し、神経細胞死誘導の原因となる。
【0012】
ATP産生はミトコンドリアが担っており、神経細胞への酸素及び基質の供給が必要である。虚血によりこれらの供給が停止すると、嫌気的な反応が促進され、細胞内に乳酸と水素イオン濃度が上昇する。細胞内の水素イオンの増加は細胞膜上のNa-H交換系を介して細胞外へ水素イオンをくみ出すと同時に細胞内にナトリウムイオン流入を引き起こす。これによりナトリウムイオンの過負荷が誘発されると、Na-Ca交換系を介してカルシウムイオンの流入しカルシウムイオンの過負荷が誘導される。この過負荷により、膜タンパクやミトコンドリアの変性を引き起こすことになる。
【0013】
ミトコンドリアは細胞質のカルシウムイオン濃度を低下させようとカルシウムイオンを取り込むが、ミトコンドリア内に大量のカルシウムイオン蓄積の結果、ミトコンドリア膜電位の低下をまねく。ミトコンドリア内膜の膜電位は約-180mVで、この値は細胞膜の約-90mVよりも低値となる。ミトコンドリア内膜の電子伝達系はミトコンドリア内膜を境界にした電気的勾配を作り出し、それを起電力にしてF1/F0ATPアーゼでADPをATPへと変換する。この膜電位の低下はATP産生能の低下を意味するものであり、細胞内のカルシウムイオンやナトリウムイオンの上昇はミトコンドリアのエネルギー産生能を低下を引き起こすことになる。
【0014】
また、ATPは膜輸送体のエネルギー源であり、イオン輸送性ATPアーゼやABC(ATP-Binding Cassette)輸送体により、イオン、アミノ酸やペプチドなどが輸送される。認知症との関連性が知られているアミロイドβの除去に関与する脳内HDL産生にはApoE及びABCA1が関与すること考えられており、ABCA1欠損によりアミロイドβの脳内沈着が加速することも報告されている(非特許文献1)ことから、アストロサイトで新生された未成熟なHDLにABC輸送体を介してコレステロールが取り込まれ成熟することにより、アミロイドβのクリアランス機能が向上すると考えられる。このように、アミロイドβもATP加水分解に依存して脳から排泄されるといえる。
【0015】
それゆえに、神経細胞の活動が円滑に維持されるためには、細胞外のカリウムイオンを低濃度に保ち静止膜電位を深く維持する必要がある。そのためには、ミトコンドリアにお
けるATP生成低下を抑制することと細胞膜NaK-ATPアーゼなどのATPアーゼを活性化することが大切である。
【0016】
また細胞外カリウムイオンの調節は、古くから提唱されてきたアストロサイトの機能である。アストロサイトの静止膜電位は通常の神経細胞などよりも非常に低く保たれているのみならず、細胞膜がカリウムイオンに内向き整流性であり、カリウムイオンはさまざまなカリウムチャネルを介してアストロサイトに取り込まれる。アストロサイトはカリウムイオンを吸収することにより、神経細胞の膜電位をより早急に下げて次の電気的活動に備えることを助けるとともに、神経活動が不活発な部位における細胞外カリウムイオン濃度を上昇させ、こういった部位の電気的な興奮を高める役割があると考えられる。
【0017】
一方、アルツハイマーのような認知症でみられる神経細胞死(アポトーシス)において、過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化や細胞内カルシウムの急激な上昇が主要な原因であることがよく知られている。
【0018】
近年、ニューロンの維持及び新生には、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境が重要であると考えられている。アポトーシスは、ニューロンのみに影響を与えるものではなく、アストロサイトへの影響も認知症の発症に関係が深いことが分かってきた。アストロサイトは、ニューロンに栄養を与え、エネルギーを供給し、細胞外環境の恒常性を制御する上で重要であることが分ってきた。また、神経幹細胞の分化を促進することが明らかになっている。さらに、アストロサイトのアポトーシスには、その周囲に対して有害な影響を与え、数多くの神経変性疾患の病因に関与することも分ってきた。
【0019】
グルタミン酸は、ニューロンの主要な興奮性の神経伝達物質であり、記憶・学習行動に重要な役割を果たしており、神経終末から放出されたグルタミン酸は、アストロサイト及びシナプス後細胞膜に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。しかし、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害性があり、NMDA受容体が過剰に活性化されてアポトーシスを誘導する。従って、シナプス間隙のグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。
【0020】
このような過剰なグルタミン酸は、認知症でみられるような虚血での低酸素と低グルコースにより起こり得ることが示唆される。ATPが枯渇すると、ナトリウムポンプ活性が低下し、細胞内ナトリウムイオンが増加、細胞外カリウムイオンが増加し、膜電位の脱分極が生ずる。
【0021】
ニューロンやアストロサイトのグルタミン酸トランスポーターは負の膜電位(細胞外ナトリウム高濃度)により促進されるので、細胞外カリウムイオンが増加して脱分極することにより、グルタミン酸トランスポーターの機能が低下し、グルタミン酸が細胞外に貯留することになる。また、脱分極により、電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムイオンが細胞内に流入して、細胞内のカルシウム依存性プロテアーゼが活性化され、アポトーシスが起きる。
【0022】
一方、細胞内のカルシウムイオンは、形質膜や小胞体に存在するCa-ATPアーゼ(Caポンプ)やNa-Ca交換輸送系により、定常的に低く抑えられている。ニューロンのエネルギー代謝の低下は、これらの機能も低下させる。カルシウムイオンの上昇がアポトーシスの直接的な原因となる。
【0023】
それゆえに、アストロサイトによる細胞外グルタミン酸の調節とNMDA受容体の活性化に関与する電解質、特にカリウムイオンの恒常性維持は、認知症や総合失調症のような神経疾患の治療に重要である。
【0024】
以上のように、脳内の細胞外のカリウムイオンを低濃度に保つことにより神経細胞のATP産生低下を抑制し静止膜電位を深く維持することと、アストロサイト機能を保護することにより、細胞外環境の恒常性を維持してアポトーシスを防止することは、ニューロンを保護することであり、認知症の予防や治療に有用であると考えられる。
【0025】
特に、アストロサイトの細胞外環境の恒常性維持機能は、イオン・水・小分子のベクトル輸送ともいわれ、イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調によるものであり、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して細胞外環境の恒常性を制御する上で重要であることが分ってきた。
【0026】
このようなアストロサイトによる電解質の恒常性維持機能には、アクアポリン4(AQP4)が大きく関与しており、毛細血管周囲のアストロサイト足突起に高発現している。このAQP4は脳虚血時の細胞死に関与するとも考えられている。すなわち、脳虚血では、神経膜細胞を維持するためのエネルギー代謝が障害されるため、ナトリウムイオンとともに細胞内に水が移行して浮腫を生じるが、乳酸アシドーシス条件では細胞容積感受性クロライドチャネル(VSOR)が抑制されて持続性膨張が起こり、ネクローシスが生じる。
【0027】
また、過剰のグルタミン酸によりNMDA受容体の過興奮刺激が持続すると、持続的な脱分極による受容体を介したカチオンと塩素イオンの流入とともに、水の流入が駆動され、持続的膨張によりネクローシスを引き起こすことになる。
【0028】
このように、AQP4の働きはイオンチャネルやポンプ、アミノ酸トランスポーターと密接に関係し、これらの協奏的な作用により細胞外環境の恒常性が維持されているものと考えられる。
【0029】
以上のような理由から、正常な神経活動としてニューロンを維持し、記憶を成立させるべくニューロンの新生を行なうためには、脳内の神経細胞、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境が重要で、特に、細胞外カリウムイオンを低濃度に保って神経細胞の膜電位を深く維持するために、ATP産生低下を抑えて、ATP依存性の膜輸送体の機能を円滑にすること、アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を正常にすることは、認知症の改善に有効であることが考えられる。
【0030】
加えて、脳血流を促進してニューロンに酸素とグルコースを供給して基礎代謝のエネルギーを維持することとも認知症の改善に重要である。脳血流の促進は、精神活動時に、血液循環を良くして細胞に酸素とグルコースを供給することである。それにより、ミトコンドリアでのATP産生が促進され、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送を円滑に調節することができるからである。
【0031】
しかし、脳内の細胞外カリウムイオンを深く維持することによる認知症の予防及び治療に対する提案や、更に脳血流を促進することとを組み合わせた認知症の予防及び治療に対する提案はこれまで全くなかった。
【0032】
認知症の治療薬としては、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬やアミロイドβの産生・代謝に関与する酵素阻害薬及び免疫療法などが開発されてきている。例えば、軽度から中程度のアルツハイマー病に対しての第一選択薬はコリンエステラーゼ阻害薬の単剤使用であるが、副作用等により使用継続が困難であるか臨床効果がみられない場合は、別のコリンエステラーゼ阻害薬に変更する、あるいはNMDA阻害薬の使用を考慮することが推奨されているが、これらは対症療法的な治療手段であるため、薬理効果と副作用のモニタリングを行いながら治療継続する必要がある。この治療反応性は、認知、ADL、行動
など多角的な見地から評価されるべきものとされている。
【0033】
一方、認知症の改善の目的で、脳血流を改善する方法が種々提案されており、例えば、脳血流を促進する物質として、イフェンプロジル、シンナリジン、ニセルゴリン、ビンポセチン、ビンカミン、エストロゲン、イチョウ葉、丹参などが知られているが、満足できる効果は得られていない。
【0034】
また、脳血流を改善する手段として、人尿性キニナーゼを有効成分とする脳機能改善剤(特許文献1)、エンドセリン変換酵素阻害剤(特許文献2)、ムラサキイモ由来の血液循環改善剤(特許文献3)、イソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とする医薬組成物(特許文献4)、コリンエステラーゼ阻害剤と加味温胆湯との併用(特許文献5)、アンジオテンシン2受容体阻害剤を有効成分とするアルツハイマー病の予防又は治療のための医薬(特許文献6)が提案されている。
【0035】
また、脳虚血疾患の改善として、システインプロテアーゼインヒビター(特許文献7)、L−ブチルフタリド(特許文献8)が提案されている。また、神経伝達機能改善剤としてセレノシステイン含有タンパク質(特許文献9)、神経成長刺激としてRho−キナーゼ阻害剤(特許文献10)、細胞増殖因子(特許文献11)、NMDA受容体活性化のためグリシントランスポーター阻害剤(特許文献12)やシンナミド化合物の併用(特許文献13)、アミロイドβ抑制のための多価不飽和脂肪酸(特許文献14)、丹参由来成分(特許文献15)やリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2阻害剤(特許文献16)が提案されている。しかし、これらの提案はいずれも根本的な治療手段ではないので、満足する効果が得られていないのが現状である。
【0036】
一方、体内の電解質と水分を調節する物質として、生体ホルモンである鉱質コルチコイドが知られているが、脳内の細胞外のカリウムイオンなど電解質の恒常性維持に有効な物質は知られていない。また細胞外のカリウムイオンを低濃度に保ち、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることが、認知症の予防及び治療に有効であることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開平5−155781号公報
【特許文献2】特開平9−12455号公報
【特許文献3】特開2001−145471号公報
【特許文献4】WO2005/072721号公報
【特許文献5】特開2006−176503号公報
【特許文献6】WO2009/001661号公報
【特許文献7】特表2002−507579号公報
【特許文献8】特表2007−518744号公報
【特許文献9】特開2004−182616号公報
【特許文献10】特表2005−525301号公報
【特許文献11】WO2006/011600号公報
【特許文献12】特開2009−185010号公報
【特許文献13】特表2010−524844号公報
【特許文献14】特表2009−502745号公報
【特許文献15】特表2009−511467号公報
【特許文献16】特表2010−526805号公報
【非特許文献1】Hirsch-Reinshagen等:J Biol. Chem., 280, 43243(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明は、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、更に「脳血流を改善」して細胞外環境の恒常性を維持することにより、認知症の予防及び治療に有効な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
従来、神経細胞、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持させるために、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることが認知症の予防及び治療に有効であることは知られておらず、更に、これらの作用を有する物質は知られていなかった。
【0040】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行ったところ、漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、神経細胞外カリウムイオンの増加による細胞死やATP産生低下を抑制することを見出し、更に、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する組成物に、脳血流、特に前頭葉血流が改善されることと、脳の細胞外電解質の恒常性を保つことにより、認知症の基準のとなる中核症状及び周辺症状となる精神活動を改善或いは向上させる作用があることを見出した。
【0041】
即ち、利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、ATP産生低下を抑制することにより、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」を向上させ、更に利水薬若しくは化湿薬と活血化お薬が「脳血流を改善」して細胞外環境の恒常性を維持することにより、認知症の予防及び治療に有効であることが示唆された。
【0042】
また、脳のエネルギー及び電解質代謝は、試験例4及び5により、額部の皮下水分の電解質濃度を指標に評価することができることが分った。このことは、アストロサイトが毛細血管と接し、血液と物質交換を行なっているが、毛細血管は静脈に移行し、硬膜静脈洞に注がれ、その血液の一部は導出静脈によって頭部外表の静脈に注がれる。細胞間液は、血液により運ばれた物質が毛細血管壁を介して拡散されるので、額部皮下水分量や電解質濃度を測定することにより、脳のエネルギーや電解質代謝を知る手がかりになり得るものと考えられる。
【0043】
額部皮下水分量と電解質量の評価により、更に、漢方でいうところの(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する組成物に、脳のエネルギー及び電解質代謝を向上させることが確認され、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることにより電解質のターンオーバーを促進させ、毛細血管とアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持させることが示唆された。
【0044】
即ち、本発明は、漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する認知症の予防及び治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤である。更に、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物からなる認知症の予防及び治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤は、ATP産生低下を抑制することにより、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保って静止膜電位を深く維持することにより、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」を向上させ、更に利水薬若しくは化湿薬と活血化お薬を含む混合物が「脳血流を改善」して、神経細胞、毛細血管とアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持することにより、認知症の中核症状及び周辺症状を改善させることができ、認知症の予防及び治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP産生量の変化
【図2】PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときの細胞生存率の変化
【図3】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量の低下作用
【図4】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する利水薬若しくは化湿薬の効果
【図5】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する活血化お薬の効果
【図6】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する生薬エキスの効果
【図7】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率の低下作用
【図8】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する利水薬若しくは化湿薬の効果
【図9】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する活血化お薬の効果
【図10】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する生薬エキスの効果
【図11】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する漢方薬の効果
【図12】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する漢方薬の効果
【図13】認知機能MMSEスコアと精神作業時皮下水分電解質濃度
【図14】認知機能MMSEスコアと精神作業時TOI
【図15】認知機能MMSE高値群或いは低値群の精神作業時皮下水分電解質濃度
【図16】認知機能MMSE高値群或いは低値群の精神作業時TOI
【図17】「計画性がある」VAS度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図18】「計画性がある」VAS度数と安静時TOI
【図19】「集中力低下」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図20】「集中力低下」度数と安静時TOI
【図21】「頭がすっきりする」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図22】「頭がすっきりする」度数とクレペリン時TOI
【図23】「やる気が出ない」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図24】「やる気が出ない」度数と安静時TOI
【図25】「日中眠たくなる」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図26】「日中眠たくなる」度数と安静時TOI
【図27】「心の中で憤慨する」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図28】「心の中で憤慨する」度数と安静時TOI
【図29】「物事に気乗りしない」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図30】「物事に気乗りしない」度数とクレペリン時TOI
【図31】「憂うつだ」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図32】「憂うつだ」度数とクレペリン時TOI
【図33】「計画性」VAS度数に対する効果
【図34】「日中覚醒」VAS度数に対する効果
【図35】クレペリン時の皮下水分濃度に対する効果
【図36】安静時TOIに対する効果
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0048】
本発明に用いられる利水薬は、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通などが挙げられ、化湿薬は、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草などが挙げられ、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保って静止膜電位を深く維持することにより、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能」を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して細胞外環境の恒常性を維持する作用が強いものが好ましい。更に、茯苓中のパキマ酸やデヒドロパキマ酸、白朮中のアトラクチロン、蒼朮中のベータオイデスモールなど生薬中の有効成分を用いることも可能である。
【0049】
本発明に用いられる活血化お薬は、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草などが挙げられ、脳血流、特に前頭葉血流を良くして酸素とグルコースを供給する作用が強いものが好ましい。
【0050】
更に、必要に応じて、漢方でいうところの利気薬に該当する香附子、木香、陳皮、枳実、厚朴など、安心薬に該当する竜骨、牡蠣、酸棗仁、柏子仁、遠志、合歓皮などを追加することで、症状改善の増強が期待できる。
【0051】
本発明に用いられる漢方薬とは、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する漢方処方として、加味帰脾湯、加味逍遙散、冠心逐お丹、帰脾湯、きゅう帰調血飲、人参湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加ヨクイニン、ヨクイニン湯、桂芍知母湯、血府逐お湯、酸棗仁湯、十全大補湯、逍遥散、大柴胡湯、通導散、当帰散、当帰芍薬散、当帰湯、天王補心丹、女神湯、人参養栄湯、半夏白朮天麻湯、補中益気湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、竜胆瀉肝湯、温経湯、附子理中湯、四逆散、加味温胆湯、竹茹温胆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴朴湯、參蘇飲、釣藤散、八味地黄丸、牛車腎気丸、六君子湯、香砂六君子湯、参苓白朮散、茯苓飲、呉茱萸湯、五積散、当帰四逆湯、四君子湯、異功散、啓脾湯、右帰丸、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、竹茹温胆湯、牛膝散などが挙げられる。
【0052】
また、利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する漢方処方にも、所望の効果が期待でき、防已黄耆湯、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加苓朮附湯、真武湯、苓姜朮甘湯、苓桂姜朮甘湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、半夏厚朴湯、小半夏加茯苓湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、二陳湯、六味地黄丸、杞菊地黄丸、知柏地黄丸、左帰丸、血府逐お湯、二朮湯、かっ香正気散、温胆湯、香蘇散、五苓散、茯苓沢瀉湯、苓桂甘棗湯、四逆湯などが挙げられる。
【0053】
更に、活血薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する漢方処方にも、認知症の症状の程度によっては、所望の効果が期待でき、温清飲、四物湯、桃核承気湯などが挙げられる。
【0054】
本発明の組成物は、例えば、利水薬が茯苓の場合、茯苓の重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0055】
本発明の組成物は、例えば、本発明の組成物は、例えば、活血化お薬が当帰の場合、当帰の重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0056】
また、例えば、利水薬が茯苓及び白朮の場合、茯苓3〜30重量部、白朮1〜15重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、白朮3〜10重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0057】
また、例えば、利水薬が茯苓、活血化お薬が当帰の場合、茯苓3〜30重量部、当帰1〜15重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、当帰3〜10重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0058】
また、例えば、利水薬が茯苓、活血化お薬が当帰及び丹参の場合、茯苓3〜20重量部、当帰2〜15重量部、丹参2〜20重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、当帰3〜8重量部、丹参3〜15重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0059】
また、利水薬が茯苓及び白朮、活血化お薬が当帰及び川きゅうの場合、茯苓3〜20重量部、白朮3〜15重量部、当帰1〜10重量部、川きゅう1〜10重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜10重量部、白朮5〜10重量部、当帰3〜8重量部、川きゅう3〜8重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0060】
また、漢方薬が桂枝茯苓丸の場合、桂皮2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、牡丹皮2〜5重量部、桃仁2〜5重量部、芍薬2〜5重量部からなる生薬混合物、好ましくは桂皮4重量部、茯苓4重量部、牡丹皮4重量部、桃仁4重量部、芍薬4重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて熱水抽出分離により得られる。
【0061】
また、漢方薬が桂枝茯苓丸加ヨクイニンの場合、桂皮2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、牡丹皮2〜5重量部、桃仁2〜5重量部、芍薬2〜5重量部、ヨクイニン5〜20重量部からなる混合生薬、好ましくは桂皮4重量部、茯苓4重量部、牡丹皮4重量部、桃仁4重量部、芍薬4重量部、ヨクイニン10重量部からなる混合生薬から得られる濃縮エキスまたは乾燥エキス粉末が挙げられる。
【0062】
また、漢方薬が抑肝散加陳皮半夏の場合、当帰2〜5重量部、茯苓2〜6重量部、釣藤鉤2〜5重量部、柴胡1〜4重量部、川きゅう2〜5重量部、甘草0.5〜3重量部、朮2〜6重量部、陳皮2〜5重量部、半夏3〜8重量部からなる生薬混合物、好ましくは当帰3重量部、茯苓4重量部、釣藤鉤3重量部、柴胡2重量部、川きゅう3重量部、甘草1
.5重量部、白朮4重量部、陳皮3重量部、半夏5重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて同様に熱水抽出分離により得られる。
【0063】
また、漢方薬が加味帰脾湯の場合、人参2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、柴胡2〜5重量部、酸棗仁2〜5重量部、竜眼肉2〜5重量部、朮2〜5重量部、黄耆1〜4重量部、当帰1〜4重量部、山梔子1〜4重量部、遠志0.5〜3重量部、生姜0.2〜2、甘草0.5〜3重量部、木香0.5〜3重量部、大棗0.5〜3重量部からなる生薬混合物、好ましくは人参3重量部、茯苓3重量部、柴胡3重量部、酸棗仁3重量部、竜眼肉3重量部、白朮3重量部、黄耆2重量部、当帰2重量部、山梔子2重量部、遠志1.5重量部、生姜0.5重量部、甘草1重量部、木香1重量部、大棗1.5重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて同様に熱水抽出分離により得られる。
【0064】
前述の熱水抽出分離により得られた抽出液を、減圧濃縮して濃縮エキスとし、さらに、噴霧乾燥、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等により乾燥エキス粉末とすることもできる。
【0065】
このようにして得られたエキス粉末はそのままの形で使用することもできるが、通常、食品及び/又は医薬品に使用される通常の賦形剤(例えば、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、白糖等)を加え、例えば、乾式造粒法或は湿式造粒法により造粒して製造し、このようにした造粒物をそのまま使用することもできるが、それらをさらに打錠機を用いた圧縮成形物として使用することもできる。
【0066】
また、漢方エキスが特有のえぐみを有することから、マスキングした製剤が服用上好ましく、被覆剤で被覆したフィルムコート剤とすることもできる。また、成分の安定性の点や簡単に摂取できる形態として、粉砕したものをそのまままた上記造粒物をハードカプセルやソフトカプセルに充填し摂取してもよい。
【0067】
或いは、各生薬をそれぞれ個別に抽出したエキスを混合して、前述した同様の方法により使用することもできる。また、各生薬をそれぞれ粉砕して粉末とし、混合して、そのまま使用することもできる。
【0068】
また、抽出したエキスに、通常、液状の食品などに使用される甘味料、酸味料、乳化剤、フレーバー、分散助剤などの賦形剤を加えて溶解し、液体の形状として製造することもできる。
【0069】
以上のような、内服固形の顆粒、錠剤、散剤、液剤の形態だけではなく、半固形状の形態のもの及び、水や湯などに溶解し液状にして用いることができる粉末状の形態などに加工することもできる。
【0070】
以下、試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0071】
(試験例1)細胞外電解質の神経細胞に対する影響について、次の試験により確認した。すなわち、PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP産生量及び細胞生存率の変化を調べた。
【0072】
(試験方法)
1)神経前駆細胞及び培養
ラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC12(独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンターより購入)は、1型コラーゲンでコートした100mmディッシュを用いて、1×106個/ディッシュとなるように播種し、10%熱不活性化ウマ血清及び10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を有し、抗生物質(100IU/mlのペニシリン及び100mg/mlのストレプトマイ
シンを補足した10mlのDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)中で、5%CO2を含む湿気のある雰囲気中37℃に調整したインキュベーターにより維持した。約7日間でコンフルエントに達した。その間、2回の培地交換を行なった。
【0073】
2)PC12細胞に対する脱分極剤KCl及び細胞死誘導剤グルタミン酸の添加の影響
PC12細胞をKClの添加により細胞外のカリウムイオン濃度を高めて脱分極をさせた後に、神経細胞興奮因子であるグルタミン酸(L-グルタミン酸)を添加することで細胞死を誘導させることが可能なKCl及びグルタミン酸の添加量の検討を行った。1型コラーゲンでコートした96ウェルプレートに、PC12細胞を1×104個/ウェルで播種し、一晩培養した。その後、各ウェルの培地を吸引し、血清無添加のDMEM培地で希釈した0〜70mMKClを100μl/ウェルずつ添加した。24時間後に、0〜30mMグルタミン酸を100μl/ウェルずつ添加し、ウェルの総量200μl/ウェルとした。そして、インキュベーター内にプレートを静置し、24時間後に細胞内ATP量と細胞生存率の測定を行った。
【0074】
3)細胞内ATP量の測定
各ウェルから培養上清を150μlずつ抜き、50μl/ウェルずつATP反応試薬(Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加した。添加後、遮光したプレートを2分間振盪させた後、10分間常温で静置した。その後、プレートをホワイトプレートに移し、ルミノメーター(Centro/CentroXS3 LB960、Berthold Technologys社製)でルシフェラーゼ発光をATP量として測定した。尚、ATP量は培地のみを添加し試験を行った場合の発光率100%とした。
【0075】
4)細胞生存率の測定
各ウェルから培養上清をアスピレーターで全て吸引し、DMEM培地で10倍に希釈したCCK8試薬を100μl/ウェル添加し、インキュベーターで4時間反応させた後、吸光度計(Multiskan Spectrum 、Thermo Fisher Scientific社製)で吸光度を測定した。尚、細胞生存率は培地のみを添加し試験を行った場合の細胞内ATP量を100%とした。
【0076】
(試験結果)
細胞内ATP量は、10mMグルタミン酸のみの刺激に比べて、50mM以上の KClで処理した後にグルタミン酸刺激した方が、ATPの生成を強く抑制することが確認された。一方、細胞生存率は、10mM以上のグルタミン酸のみの刺激に比べて、50mM以上のKCl添加24時間後に10mM以上のグルタミン酸の添加で更に細胞生存率が低下した。以上から、50mMKClにて脱分極させた後に10mMグルタミン酸の添加でATP生成の抑制及び細胞死を誘導することが確認できた(図1及び2)。尚、グルタミン酸添加により、培地のpHが低下するが、グルタミン酸20mM以下では細胞生存率に影響がないことを確認した。以上の結果より、PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成量及び細胞生存率の低下に対する効果の確認する試験方法として、PC12細胞を1×104個/ウェルで播種し、一晩培養後に、血清無添加DMEM培地を用い、55mMKClを100μl/ウェルずつ添加し、24時間後に10mMグルタミン酸を100μl/ウェルずつ添加し、その24時間後に細胞内ATP量及び細胞生存率の測定を行うこととした。
【0077】
(試験例2)PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成量及び細胞生存率の低下に対する利水薬若しくは化湿薬或いは活血化お薬の効果
【0078】
(試験方法)
試験例1と同様に、PC12細胞を用いて、55mMKClと0〜200μg/mlの利水薬若しくは化湿薬である実施例1〜3の生薬エキス、活血化お薬である実施例4及び5の生薬エキス、比較例1及び2の生薬エキスを添加24時間後に10mMグルタミン酸で24時間刺激することによりATP生成抑制及び細胞死を誘導させたときの細胞内ATP量及び細胞生存率を評価した。
【0079】
(試験結果)
55mMKCl及び10mMグルタミン酸の添加により、細胞内ATP量及び細胞生存率が有意に低下した(図3及び7)。また、55mMKCl及び10mMグルタミン酸添加の条件の細胞のコントロール100%に対して、利水薬である実施例1〜3の白朮、蒼朮及び茯苓の各エキス或いは実施例4及び5の各エキスを添加したところ、細胞内ATP量及び細胞生存率ともに有意に増加した(図4、5、8、9)。一方、比較例1の安神薬である遠志エキス、比較例2の鎮咳・去痰薬の桜皮エキスは細胞内ATP量及び細胞生存率ともに変化なし、もしくは低下した(図6及び10)。
【0080】
(試験例3)
(試験方法)
PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成抑制及び細胞死誘導したPC12細胞に対する漢方薬の効果
試験例1と同様に、PC12細胞を用いて、55mMKClと0〜200μg/mlの実施例4及び5の漢方薬エキスを添加24時間後に10mMグルタミン酸で24時間刺激することによりATP生成抑制及び細胞死を誘導させたときの細胞内ATP量及び細胞生存率を評価した。
【0081】
(試験結果)
55mMKCl及び10mMグルタミン酸添加の条件の細胞のコントロール100%に対して、実施例11の抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒及び実施例12の加味帰脾湯エキス顆粒を粉末化し溶解して添加したところ、細胞内ATP量及び細胞生存率ともに有意に増加した(図11及び12)。
【0082】
(試験例4)
認知機能と額部皮下水分の電解質濃度との関連について、次の試験により確認した。
【0083】
96歳の高齢者(女性24名、男性6名)を対象に、認知機能検査(MMSE)を実施した。また、安静時及び精神作業として標準注意・意欲検査(CPT X課題)と数字記憶を5分間実施している間の額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)を分極電流計(AMICA)により測定した。更に、精神作業時の前頭葉血流をNIRO―200を用いて測定した。
【0084】
分極電流計は、(有)アミカ社製を使用した。分極電流計とは、皮膚にパルス電圧(DC3v、500μsecの短形波)を印加し、1μsec単位で電極間を流れた電流量を精密に計測し、電気生理学的に皮膚の状態を測る装置である。
【0085】
皮膚表面に電圧を加えると、水分の多い皮下の真皮層に電気が流れるが、最初に検出される電流(BP値、単位μA)は真皮層の断面積に比例することから、真皮水分量を推測することができる。一方、IQ値は、基底膜に溜まった電気量(IQ値:単位μC)を示し、電解質が多くなるとIQ値が高くなる。そして、IQ/BP値は、電解質濃度を示すことになる。
【0086】
精神作業時の前頭葉血流は、光トポグラフィ法(NIRS)による脳酸素代謝と脳血液循環を指標とした。このNIRSは頭蓋骨外から近赤外光を照射・受光し、無侵襲で局所脳血流動態を計測する方法で、例えば、赤外線酸素モニタ装置(浜松ホトニクス社製NIRO200)を用いることできる。この装置により、脳血流の指標として、酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)、脱酸素化ヘモグロビン濃度(HHb)、ヘモグロビン酸素飽和度(TOI)、組織中総ヘモグロビン相対値(nTHI)の各測定値が得られる。
【0087】
そして「酸素化ヘモグロビン濃度変化量(ΔO2Hb)」とは、酸素と結合したヘモグ
ロビンの濃度の経時的変化量を示す数値で、通常μmoL/Lで表示される。
「脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量(ΔHHb)」とは、酸素が外れたヘモグロビンの濃度の経時的変化量を示す数値で、通常μmoL/Lで表示される。
このΔO2HbとΔHHbの変化量により、精神作業による酸素供給量の変動を測ることができる。
【0088】
「ヘモグロビン酸素飽和度(TOI)」とは、血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを示す数値で、酸素化ヘモグロビンと総ヘモグロビンの濃度比であり、通常%で表示される。
また、「組織中総ヘモグロビン相対値(nTHI)」とは、組織ヘモグロビン指標で、血流量を示す数値であり、a.u.(任意単位)で表される。
【0089】
酸素化ヘモグロビンの変化は「局所脳血流の変化」と高い相関を示していること(Hoshi,et.al., Journal of Applied Physilogy, 90, 1657, 2001)、 神経活動に必要な大量の酸素と栄養を運ぶ「局所脳血流の増加」はその部位の神経活動の増加を反映したものであると報告されていること(Jueptner M & Weller C. (Neuroimage, 2, 148(1995))から、「TOI」を前頭葉血流の指標とした。
【0090】
中核症状の認知機能(MMSE)と精神作業時皮下水分の電解質濃度(ΔIQ/BP)或いはヘモグロビン酸素総和度(TOI)との間の相関関係を解析した(スピアマンの順位相関係数の検定)。
【0091】
図13に示すように、MMSEスコアとΔIQ/BPとの間に有意な正の相関が認められ、認知症の疑いがあると判定されるMMSE23点以下では、ΔIQ/BPの顕著な増加は全く認められなかった。尚、図14に示すように、MMSEとTOIとの間には顕著な相関は認められなかった。
【0092】
中核症状の認知機能(MMSE)について、スコア高低で分割し(MMSE低値群:MMSE27点以下、MMSE高値群:MMSE28点以上)、精神作業時皮下水分の電解質濃度(ΔIQ/BP)を比較した(t-検定)。
【0093】
図15に示すように、MMSE低値群はMMSE高値群と比較してΔIQ/BPが有意に低値を示した。尚、図16に示すように、このときのTOIには差が認められなかった。
【0094】
(試験例5)
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査(VAS)、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO-200を用いて測定した。
【0095】
POMSの質問項目のスコア(5段階)、意識調査として自覚的な活動意識のVAS度数(VASスコア(Visual Analogue Scale)法による評価で、10cmスケールの自覚的な意識値(cm)を度数とした)、その他の体調アンケートにおいて、認知症の中核症状或いは周辺症状に関連する自覚症状の程度と、皮下水分の電解質濃度IQ/BP(安静時或いはクレペリン検査時の変化量)との関連を解析した(単回帰分析及び対応のないt-検定)。
【0096】
表1に示すように、中核症状として「計画性がある(VAS度数)」と安静時皮下水分の電解質濃度との間には、有意な正の相関が認められた。
【0097】
また表2に示すように、周辺症状として「日中覚醒(VAS度数)」と安静時皮下水分の電解質濃度との間にも、有意な正の相関が認められた。
【0098】
(試験例6)認知症の中核症状及び周辺症状と額部皮下水分の電解質濃度との関連について、次の試験により確認した。
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査(VAS)、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO−200を用いて測定した。
【0099】
POMSの質問項目のスコア(5段階)、意識調査として自覚的な活動意識のVAS度数(VASスコア(Visual Analogue Scale)法による評価で、10cmスケールの自覚的な意識値(cm)を度数とした)、その他の体調アンケートにおいて、認知症の中核症状或いは周辺症状に関連する自覚症状の程度と、脳血流(安静時TOI及びクレペリン検査時のTOI)及び皮下水分の電解質濃度IQ/BP(安静時或いはクレペリン検査時の変化量)との関連を解析した(単回帰分析及び対応のないt-検定)。
【0100】
中核症状として「計画性がある」VAS度数と安静時皮下水分の電解質濃度との間に、また、周辺症状として「日中覚醒」VAS度数と安静時皮下水分の電解質濃度との間に、それぞれ有意な正の相関が認められた(表1及び2)。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
中核症状として「計画性がある」意識調査のVAS度数及び体調アンケートでの「集中力低下」について、ネガティブな症状の自覚を有するほど、安静時額部皮下水分の電解質濃度が有意に低かった(図17、図19)。尚、この時のTOIには差が認められなかった(図18、図20)。また、「頭がすっきりする」POMSの度数が低いほど、精神作業時の額部水分の電解質濃度が有意に低下し(図21)、この時のTOIも有意に低かった(図22)。
【0104】
周辺症状として体調アンケート「やる気が出ない」及び「日中ねむたくなる」について、ネガティブな症状の自覚を有するほど、安静時額部皮下水分の電解質濃度が有意に低かった(図23、図25)。尚、この時のTOIには差が認められなかった(図24、図26)。また、「心の中で憤慨する」POMSの度数が低いほど、安静時の額部水分の電解質濃度が有意に低く(図27)、この時のTOIも有意に低かった(図28)。
【0105】
また、周辺症状として「物事に気のりがしない」POMSの度数及び「憂うつだ」POMSの度数について、度数が低いほど、精神作業時の額部水分の電解質濃度が有意に低下し(図29、図31)、この時のTOIも有意に低かった(図30、図32)。
【0106】
以上のように、額部の皮下水分の電解質濃度は、脳のエネルギー及び電解質代謝の活動を評価する指標にとなりうることが確認された。
【0107】
(試験例7)本発明の組成物の中核症状及び周辺症状に対する効果をダブルブラインド並行群間比較試験により評価した。
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、女性は月経期から次の月経期まで、男性は1ヶ月間、実施例5の錠剤(実薬)或いは比較例のプラセボを服用した。検査項目として、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査VAS、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO−200を用いて測定した。
【0108】
実施例13の実薬を1ヶ月服用した群(実薬群)は、比較例3のプラセボ群と比較して、「計画性」意識調査のVAS度数及び「日中覚醒」意識調査のVAS度数が有意に高かった(共分散分析)(図33及び34)。また、実薬群、クレペリン時の電解質濃度変化が有意に高く(対応のないt-検定)、安静時TOIも有意に高かった(共分散分析)(図35及び36)。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0110】
実施例1(白朮の抽出エキス)
白朮100gに精製水を1L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.5gを得た。
【0111】
実施例2(蒼朮の抽出エキス)
蒼朮100gに精製水を1L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.4gを得た。
【0112】
実施例3(茯苓の抽出エキス)
茯苓160gに精製水を1.6L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス3.6gを得た。
【0113】
実施例4(当帰の抽出エキス)
当帰120gに精製水を1.2L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス32.3gを得た。
【0114】
実施例5(人参の抽出エキス)
人参100gに精製水を1.0L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス32.0gを得た。
【0115】
実施例6(加味帰脾湯の漢方エキス)
人参3.0kg、白朮3.0kg、茯苓3.0kg、黄耆2.0kg、当帰2.0kg、遠志1.5kg、柴胡3.0kg、山梔子2.0kg、甘草1.0kg、木香1.0kg、大棗1.5kg、生姜0.5kg、酸棗仁3.0kg、竜眼肉3.0kgに精製水を295L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、乾燥したエキス5.6kgを得た。
【0116】
実施例7(抑肝散加陳皮半夏の漢方エキス)
半夏5.0kg、白朮4.0kg、茯苓4.0kg、川きゅう3.0kg、陳皮3.0kg、当帰3.0kg、柴胡2.0kg、甘草1.5kg、釣藤鈎3.0kgに精製水を285L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、乾燥したエキス5.0kgを得た。
【0117】
実施例8(生薬混合抽出液)
茯苓10kg、白朮5kgに精製水を150L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離し、抽出液100Lを得た。
【0118】
実施例9(生薬混合抽出液)
茯苓10kg、白朮・当帰・川きゅう各5kgに精製水を250L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離し、抽出液190Lを得た。
【0119】
実施例10(生薬混合乾燥エキス粉末)
茯苓10kg、丹参8kg及び当帰5kgに精製水を230L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離して実施例2の抽出液約170Lを得た。減圧濃縮後に噴霧乾燥を行い、実施例10の生薬混合乾燥エキス粉末を約3.5kg得た。
【0120】
実施例11(顆粒剤)
加味帰脾湯エキス粉末(実施例6) 5600g
ヒドロキシプロピルセルロース 200g
乳糖 1700g
合計 7500g
【0121】
(製造方法)
上記の各成分を混合し、その混合物を常法により顆粒とし、2.5gずつに分封して実施例11の顆粒剤を得た。
【0122】
実施例12(顆粒剤)
抑肝散加陳皮半夏エキス粉末(実施例7) 5000g
ヒドロキシプロピルセルロース 200g
乳糖 2300g
合計 7500g
【0123】
(製造方法)
上記の各成分を混合し、その混合物を常法により顆粒とし、2.5gずつに分封して実施例12の顆粒剤を得た。
【0124】
実施例13(錠剤)
(素錠部)
桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末* 1800g
結晶セルロース 380g
クロスカルメロースナトリウム 300g
含水二酸化ケイ素 130g
ステアリン酸マグネシウム 30g
小 計 2640g
(剤皮部)
ヒプロメロース 82g
酸化チタン 14g
カルナウバロウ 微量
小 計 96g
合 計 2736g
*桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末1800gは、桂皮2kg、茯苓2kg、牡丹皮2kg、桃仁2kg、芍薬2kg、ヨクイニン5kgの混合物から熱水で抽出し乾燥して得られる。
【0125】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製する。すなわち上表に記載の、桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末からステアリン酸マグネシウムまでの成分をとり、一錠重量330mgの錠剤を製し、その錠剤に上表の剤皮部ヒプロメロースからカルナウバロウを用いて、コーティングを施し、実施例13のフィルムコーティングの錠剤(一錠重量342mg 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末225mg含有)を得た。
【0126】
実施例14(液剤)
桂枝茯苓丸エキス粉末* 2300g
白糖 8000g
精製水 残 量
合計 90kg
*桂枝茯苓丸エキス粉末2300gは、桂皮4kg、茯苓4kg、牡丹皮4kg、桃仁4kg、芍薬4kgの混合物から熱水で抽出し乾燥して得られる。
【0127】
(製造方法)
上記成分に精製水を加えて加熱溶解し、冷後、精製水を加えて全量90kgとする。この液を30gずつ容器に分注し、締栓後、加熱殺菌し実施例14の液剤を得た。
【0128】
比較例1(遠志の抽出エキス)
遠志120gに精製水を1.2L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.4gを得た。
【0129】
比較例2(桜皮の抽出エキス)
桜皮100gに精製水を1.0L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス8.7gを得た。
【0130】
比較例3(プラセボ)
(素錠部)
乳糖 1800g
結晶セルロース 380g
クロスカルメロースナトリウム 300g
含水二酸化ケイ素 130g
ステアリン酸マグネシウム 30g
小 計 2640g
(剤皮部)
ヒプロメロース 82g
酸化チタン 14g
カルナウバロウ 微量
小 計 96g
合 計 2736g
【0131】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製する。すなわち上表に記載の、乳糖からステアリン酸マグネシウムまでの成分をとり、一錠重量330mgの錠剤を製し、その錠剤に上表の剤皮部ヒプロメロースからカルナウバロウを用いて、コーティングを施し、比較例3のプラセボ(一錠重量342mg)を得た。
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症の予防・治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症には、アルツハイマー型認知症と脳血管認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症などがある。脳血管性の認知症は脳の血管にコレステロールがたまり、血管が硬くなる動脈硬化によって引き起こされる。認知症の治療に優れた治療薬はなく、回想法や運動療法などと組み合せて、症状の進行を抑制し、日常生活を維持していくのが現状である。
【0003】
認知症患者は、高齢社会の進展に伴い年々増加傾向にあり、現在約170万人いるといわれている。65歳以上の人の約10%、85歳以上の約30%が認知症を有し、その半数がアルツハイマー病といわれている。また要介護認定者の約50%が認知症を患っているともいわれている。若年性認知症患者も約37,800人いると推定されており、認知症が若年層にも広がりを見せていることが明らかになっている。
【0004】
アルツハイマー病の神経病理学的特徴は、大脳皮質や海馬での神経原線維変性、老人斑と大量の神経細胞脱落である。神経原線維変性は微小管結合タンパクの1つであるタウタンパクが過剰にリン酸化され線維封入体となったもので、老人斑はアミロイドβタンパクの細胞外蓄積である。アルツハイマー病ではこのアミロイドβタンパクの蓄積が神経原線維変性を加速し、繊維化したタウタンパクは細胞内輸送を阻害する。さらにはアミロイドβタンパク自体がシナプスの機能障害などの細胞毒性を有する。
【0005】
神経細胞(ニューロン)は、細胞体(脳細胞)、樹状突起、軸策、シナプスで構成されている。ニューロンはシナプス結合を介して信号伝達しており、ニューロンを同時刺激することにより、2つのニューロン間の信号伝達が持続的に向上する。このことを、神経科学の分野において、長期増強(LTP)という。記憶はこのシナプスに貯えられているとみられているので、長期増強は記憶の主要なメカニズムであると広く考えられている。特に、海馬LTPの機構解明が進んでおり、シナプス後細胞にカルシウムイオンが流入すること、このカルシウムの流入がグルタミン酸受容体の一種のNMDA受容体を介して行なわれることが認められている。
【0006】
このNMDA受容体は静止膜電位時にマグネシウムによってブロックされ、シナプス後細胞へのカルシウムの流入が阻害されているが、脱分極によりマグネシウムのブロックから開放され、受容体にグルタミン酸が結合した際に、カルシウムの細胞内への流入が起きてLTPが成立する(記憶の成立)。そして、長期記憶は、数分以内に成立するLTPに引き続いて伝達効率の増大状態を長期維持する相であり、タンパクの新合成を伴い、ニューロンの形態変化を介して、シナプスの新生が起こるのだろうと考えられている。
【0007】
このように、記憶・学習行動などヒトの脳機能を実現するために、神経回路が物理的・生理的に、その性質を変化できることをシナプスの可塑性といい、アポトーシスによるニューロンの減少と発芽によるシナプス接合部の増加という物理的な変化とLTPにより信号の通りがよくなるという生理的な変化が含まれる。
【0008】
神経線維の電気信号の発生は、ニューロンを取り巻く膜の内側と外側に存在するイオンのアンバランスによるもので、細胞の内側にはカリウムイオンが多く、外側には主として
ナトリウムイオンと塩素イオンが多く分布しており、細胞内外の濃度差で生じる電位差に起因するものである。このイオンの濃度勾配で生じ電位差が静止電位であり、この状態を膜が分極しているという。
【0009】
この電位差が刺激によって一時的に逆転(脱分極)する現象が活動電位であり、インパルスやスパイクとも呼ばれる。発生した活動電位はシナプスに向かって軸索方向に伝播され、プレシナプスに達するとカルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが流入し、神経伝達物質がシナプス間隙に放出することにより情報が伝達される。以上のようにして電気インパルスは神経細胞間を伝達され、同様の過程が多数のニューロンで繰り返し行われる。これが神経細胞の情報伝達処理の概観である。
【0010】
神経細胞の活動が円滑に維持されるためには、静止膜電位を深く維持する必要がある。そのためには細胞外のカリウムイオンを低濃度に保つ必要がある。そして、細胞外のカリウムイオンを保つ要因として、(1)ATP生成とNaK-ATPアーゼ活性、(2)アストロサイトのカリウムイオンの取り込みが挙げられる。
【0011】
ATPは生命活動におけるエネルギー源であり、基礎代謝におけるATP消費の40%がNaK-ATPアーゼで、その内訳は脳が13%、腎が10%を占めることが知られており、認知機能低下ではNaK-ATPアーゼが低下することも知られている。即ち、NaK-ATPアーゼ機能が低下することにより、細胞外にカリウムイオンが滞留し脱分極を誘導し、神経細胞死誘導の原因となる。
【0012】
ATP産生はミトコンドリアが担っており、神経細胞への酸素及び基質の供給が必要である。虚血によりこれらの供給が停止すると、嫌気的な反応が促進され、細胞内に乳酸と水素イオン濃度が上昇する。細胞内の水素イオンの増加は細胞膜上のNa-H交換系を介して細胞外へ水素イオンをくみ出すと同時に細胞内にナトリウムイオン流入を引き起こす。これによりナトリウムイオンの過負荷が誘発されると、Na-Ca交換系を介してカルシウムイオンの流入しカルシウムイオンの過負荷が誘導される。この過負荷により、膜タンパクやミトコンドリアの変性を引き起こすことになる。
【0013】
ミトコンドリアは細胞質のカルシウムイオン濃度を低下させようとカルシウムイオンを取り込むが、ミトコンドリア内に大量のカルシウムイオン蓄積の結果、ミトコンドリア膜電位の低下をまねく。ミトコンドリア内膜の膜電位は約-180mVで、この値は細胞膜の約-90mVよりも低値となる。ミトコンドリア内膜の電子伝達系はミトコンドリア内膜を境界にした電気的勾配を作り出し、それを起電力にしてF1/F0ATPアーゼでADPをATPへと変換する。この膜電位の低下はATP産生能の低下を意味するものであり、細胞内のカルシウムイオンやナトリウムイオンの上昇はミトコンドリアのエネルギー産生能を低下を引き起こすことになる。
【0014】
また、ATPは膜輸送体のエネルギー源であり、イオン輸送性ATPアーゼやABC(ATP-Binding Cassette)輸送体により、イオン、アミノ酸やペプチドなどが輸送される。認知症との関連性が知られているアミロイドβの除去に関与する脳内HDL産生にはApoE及びABCA1が関与すること考えられており、ABCA1欠損によりアミロイドβの脳内沈着が加速することも報告されている(非特許文献1)ことから、アストロサイトで新生された未成熟なHDLにABC輸送体を介してコレステロールが取り込まれ成熟することにより、アミロイドβのクリアランス機能が向上すると考えられる。このように、アミロイドβもATP加水分解に依存して脳から排泄されるといえる。
【0015】
それゆえに、神経細胞の活動が円滑に維持されるためには、細胞外のカリウムイオンを低濃度に保ち静止膜電位を深く維持する必要がある。そのためには、ミトコンドリアにお
けるATP生成低下を抑制することと細胞膜NaK-ATPアーゼなどのATPアーゼを活性化することが大切である。
【0016】
また細胞外カリウムイオンの調節は、古くから提唱されてきたアストロサイトの機能である。アストロサイトの静止膜電位は通常の神経細胞などよりも非常に低く保たれているのみならず、細胞膜がカリウムイオンに内向き整流性であり、カリウムイオンはさまざまなカリウムチャネルを介してアストロサイトに取り込まれる。アストロサイトはカリウムイオンを吸収することにより、神経細胞の膜電位をより早急に下げて次の電気的活動に備えることを助けるとともに、神経活動が不活発な部位における細胞外カリウムイオン濃度を上昇させ、こういった部位の電気的な興奮を高める役割があると考えられる。
【0017】
一方、アルツハイマーのような認知症でみられる神経細胞死(アポトーシス)において、過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化や細胞内カルシウムの急激な上昇が主要な原因であることがよく知られている。
【0018】
近年、ニューロンの維持及び新生には、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境が重要であると考えられている。アポトーシスは、ニューロンのみに影響を与えるものではなく、アストロサイトへの影響も認知症の発症に関係が深いことが分かってきた。アストロサイトは、ニューロンに栄養を与え、エネルギーを供給し、細胞外環境の恒常性を制御する上で重要であることが分ってきた。また、神経幹細胞の分化を促進することが明らかになっている。さらに、アストロサイトのアポトーシスには、その周囲に対して有害な影響を与え、数多くの神経変性疾患の病因に関与することも分ってきた。
【0019】
グルタミン酸は、ニューロンの主要な興奮性の神経伝達物質であり、記憶・学習行動に重要な役割を果たしており、神経終末から放出されたグルタミン酸は、アストロサイト及びシナプス後細胞膜に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。しかし、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害性があり、NMDA受容体が過剰に活性化されてアポトーシスを誘導する。従って、シナプス間隙のグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。
【0020】
このような過剰なグルタミン酸は、認知症でみられるような虚血での低酸素と低グルコースにより起こり得ることが示唆される。ATPが枯渇すると、ナトリウムポンプ活性が低下し、細胞内ナトリウムイオンが増加、細胞外カリウムイオンが増加し、膜電位の脱分極が生ずる。
【0021】
ニューロンやアストロサイトのグルタミン酸トランスポーターは負の膜電位(細胞外ナトリウム高濃度)により促進されるので、細胞外カリウムイオンが増加して脱分極することにより、グルタミン酸トランスポーターの機能が低下し、グルタミン酸が細胞外に貯留することになる。また、脱分極により、電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムイオンが細胞内に流入して、細胞内のカルシウム依存性プロテアーゼが活性化され、アポトーシスが起きる。
【0022】
一方、細胞内のカルシウムイオンは、形質膜や小胞体に存在するCa-ATPアーゼ(Caポンプ)やNa-Ca交換輸送系により、定常的に低く抑えられている。ニューロンのエネルギー代謝の低下は、これらの機能も低下させる。カルシウムイオンの上昇がアポトーシスの直接的な原因となる。
【0023】
それゆえに、アストロサイトによる細胞外グルタミン酸の調節とNMDA受容体の活性化に関与する電解質、特にカリウムイオンの恒常性維持は、認知症や総合失調症のような神経疾患の治療に重要である。
【0024】
以上のように、脳内の細胞外のカリウムイオンを低濃度に保つことにより神経細胞のATP産生低下を抑制し静止膜電位を深く維持することと、アストロサイト機能を保護することにより、細胞外環境の恒常性を維持してアポトーシスを防止することは、ニューロンを保護することであり、認知症の予防や治療に有用であると考えられる。
【0025】
特に、アストロサイトの細胞外環境の恒常性維持機能は、イオン・水・小分子のベクトル輸送ともいわれ、イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調によるものであり、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して細胞外環境の恒常性を制御する上で重要であることが分ってきた。
【0026】
このようなアストロサイトによる電解質の恒常性維持機能には、アクアポリン4(AQP4)が大きく関与しており、毛細血管周囲のアストロサイト足突起に高発現している。このAQP4は脳虚血時の細胞死に関与するとも考えられている。すなわち、脳虚血では、神経膜細胞を維持するためのエネルギー代謝が障害されるため、ナトリウムイオンとともに細胞内に水が移行して浮腫を生じるが、乳酸アシドーシス条件では細胞容積感受性クロライドチャネル(VSOR)が抑制されて持続性膨張が起こり、ネクローシスが生じる。
【0027】
また、過剰のグルタミン酸によりNMDA受容体の過興奮刺激が持続すると、持続的な脱分極による受容体を介したカチオンと塩素イオンの流入とともに、水の流入が駆動され、持続的膨張によりネクローシスを引き起こすことになる。
【0028】
このように、AQP4の働きはイオンチャネルやポンプ、アミノ酸トランスポーターと密接に関係し、これらの協奏的な作用により細胞外環境の恒常性が維持されているものと考えられる。
【0029】
以上のような理由から、正常な神経活動としてニューロンを維持し、記憶を成立させるべくニューロンの新生を行なうためには、脳内の神経細胞、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境が重要で、特に、細胞外カリウムイオンを低濃度に保って神経細胞の膜電位を深く維持するために、ATP産生低下を抑えて、ATP依存性の膜輸送体の機能を円滑にすること、アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を正常にすることは、認知症の改善に有効であることが考えられる。
【0030】
加えて、脳血流を促進してニューロンに酸素とグルコースを供給して基礎代謝のエネルギーを維持することとも認知症の改善に重要である。脳血流の促進は、精神活動時に、血液循環を良くして細胞に酸素とグルコースを供給することである。それにより、ミトコンドリアでのATP産生が促進され、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送を円滑に調節することができるからである。
【0031】
しかし、脳内の細胞外カリウムイオンを深く維持することによる認知症の予防及び治療に対する提案や、更に脳血流を促進することとを組み合わせた認知症の予防及び治療に対する提案はこれまで全くなかった。
【0032】
認知症の治療薬としては、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬やアミロイドβの産生・代謝に関与する酵素阻害薬及び免疫療法などが開発されてきている。例えば、軽度から中程度のアルツハイマー病に対しての第一選択薬はコリンエステラーゼ阻害薬の単剤使用であるが、副作用等により使用継続が困難であるか臨床効果がみられない場合は、別のコリンエステラーゼ阻害薬に変更する、あるいはNMDA阻害薬の使用を考慮することが推奨されているが、これらは対症療法的な治療手段であるため、薬理効果と副作用のモニタリングを行いながら治療継続する必要がある。この治療反応性は、認知、ADL、行動
など多角的な見地から評価されるべきものとされている。
【0033】
一方、認知症の改善の目的で、脳血流を改善する方法が種々提案されており、例えば、脳血流を促進する物質として、イフェンプロジル、シンナリジン、ニセルゴリン、ビンポセチン、ビンカミン、エストロゲン、イチョウ葉、丹参などが知られているが、満足できる効果は得られていない。
【0034】
また、脳血流を改善する手段として、人尿性キニナーゼを有効成分とする脳機能改善剤(特許文献1)、エンドセリン変換酵素阻害剤(特許文献2)、ムラサキイモ由来の血液循環改善剤(特許文献3)、イソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とする医薬組成物(特許文献4)、コリンエステラーゼ阻害剤と加味温胆湯との併用(特許文献5)、アンジオテンシン2受容体阻害剤を有効成分とするアルツハイマー病の予防又は治療のための医薬(特許文献6)が提案されている。
【0035】
また、脳虚血疾患の改善として、システインプロテアーゼインヒビター(特許文献7)、L−ブチルフタリド(特許文献8)が提案されている。また、神経伝達機能改善剤としてセレノシステイン含有タンパク質(特許文献9)、神経成長刺激としてRho−キナーゼ阻害剤(特許文献10)、細胞増殖因子(特許文献11)、NMDA受容体活性化のためグリシントランスポーター阻害剤(特許文献12)やシンナミド化合物の併用(特許文献13)、アミロイドβ抑制のための多価不飽和脂肪酸(特許文献14)、丹参由来成分(特許文献15)やリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2阻害剤(特許文献16)が提案されている。しかし、これらの提案はいずれも根本的な治療手段ではないので、満足する効果が得られていないのが現状である。
【0036】
一方、体内の電解質と水分を調節する物質として、生体ホルモンである鉱質コルチコイドが知られているが、脳内の細胞外のカリウムイオンなど電解質の恒常性維持に有効な物質は知られていない。また細胞外のカリウムイオンを低濃度に保ち、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることが、認知症の予防及び治療に有効であることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開平5−155781号公報
【特許文献2】特開平9−12455号公報
【特許文献3】特開2001−145471号公報
【特許文献4】WO2005/072721号公報
【特許文献5】特開2006−176503号公報
【特許文献6】WO2009/001661号公報
【特許文献7】特表2002−507579号公報
【特許文献8】特表2007−518744号公報
【特許文献9】特開2004−182616号公報
【特許文献10】特表2005−525301号公報
【特許文献11】WO2006/011600号公報
【特許文献12】特開2009−185010号公報
【特許文献13】特表2010−524844号公報
【特許文献14】特表2009−502745号公報
【特許文献15】特表2009−511467号公報
【特許文献16】特表2010−526805号公報
【非特許文献1】Hirsch-Reinshagen等:J Biol. Chem., 280, 43243(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明は、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、更に「脳血流を改善」して細胞外環境の恒常性を維持することにより、認知症の予防及び治療に有効な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
従来、神経細胞、毛細血管やアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持させるために、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることが認知症の予防及び治療に有効であることは知られておらず、更に、これらの作用を有する物質は知られていなかった。
【0040】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行ったところ、漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、神経細胞外カリウムイオンの増加による細胞死やATP産生低下を抑制することを見出し、更に、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する組成物に、脳血流、特に前頭葉血流が改善されることと、脳の細胞外電解質の恒常性を保つことにより、認知症の基準のとなる中核症状及び周辺症状となる精神活動を改善或いは向上させる作用があることを見出した。
【0041】
即ち、利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、ATP産生低下を抑制することにより、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保ち、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」を向上させ、更に利水薬若しくは化湿薬と活血化お薬が「脳血流を改善」して細胞外環境の恒常性を維持することにより、認知症の予防及び治療に有効であることが示唆された。
【0042】
また、脳のエネルギー及び電解質代謝は、試験例4及び5により、額部の皮下水分の電解質濃度を指標に評価することができることが分った。このことは、アストロサイトが毛細血管と接し、血液と物質交換を行なっているが、毛細血管は静脈に移行し、硬膜静脈洞に注がれ、その血液の一部は導出静脈によって頭部外表の静脈に注がれる。細胞間液は、血液により運ばれた物質が毛細血管壁を介して拡散されるので、額部皮下水分量や電解質濃度を測定することにより、脳のエネルギーや電解質代謝を知る手がかりになり得るものと考えられる。
【0043】
額部皮下水分量と電解質量の評価により、更に、漢方でいうところの(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する組成物に、脳のエネルギー及び電解質代謝を向上させることが確認され、神経細胞の膜輸送やアストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能を向上させることにより電解質のターンオーバーを促進させ、毛細血管とアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持させることが示唆された。
【0044】
即ち、本発明は、漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する認知症の予防及び治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤である。更に、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物からなる認知症の予防及び治療に有効な組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の組成物及びそれを含有する漢方・生薬製剤は、ATP産生低下を抑制することにより、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保って静止膜電位を深く維持することにより、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水・小分子のベクトル輸送機能」を向上させ、更に利水薬若しくは化湿薬と活血化お薬を含む混合物が「脳血流を改善」して、神経細胞、毛細血管とアストロサイトからなる微小環境の恒常性を維持することにより、認知症の中核症状及び周辺症状を改善させることができ、認知症の予防及び治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP産生量の変化
【図2】PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときの細胞生存率の変化
【図3】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量の低下作用
【図4】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する利水薬若しくは化湿薬の効果
【図5】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する活血化お薬の効果
【図6】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する生薬エキスの効果
【図7】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率の低下作用
【図8】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する利水薬若しくは化湿薬の効果
【図9】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する活血化お薬の効果
【図10】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する生薬エキスの効果
【図11】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときのATP生成量低下に対する漢方薬の効果
【図12】PC12細胞を55mMKCl添加後に10mMグルタミン酸を添加したときの細胞生存率低下に対する漢方薬の効果
【図13】認知機能MMSEスコアと精神作業時皮下水分電解質濃度
【図14】認知機能MMSEスコアと精神作業時TOI
【図15】認知機能MMSE高値群或いは低値群の精神作業時皮下水分電解質濃度
【図16】認知機能MMSE高値群或いは低値群の精神作業時TOI
【図17】「計画性がある」VAS度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図18】「計画性がある」VAS度数と安静時TOI
【図19】「集中力低下」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図20】「集中力低下」度数と安静時TOI
【図21】「頭がすっきりする」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図22】「頭がすっきりする」度数とクレペリン時TOI
【図23】「やる気が出ない」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図24】「やる気が出ない」度数と安静時TOI
【図25】「日中眠たくなる」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図26】「日中眠たくなる」度数と安静時TOI
【図27】「心の中で憤慨する」度数と安静時の皮下水分電解質濃度
【図28】「心の中で憤慨する」度数と安静時TOI
【図29】「物事に気乗りしない」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図30】「物事に気乗りしない」度数とクレペリン時TOI
【図31】「憂うつだ」度数とクレペリン時の皮下水分電解質濃度
【図32】「憂うつだ」度数とクレペリン時TOI
【図33】「計画性」VAS度数に対する効果
【図34】「日中覚醒」VAS度数に対する効果
【図35】クレペリン時の皮下水分濃度に対する効果
【図36】安静時TOIに対する効果
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0048】
本発明に用いられる利水薬は、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通などが挙げられ、化湿薬は、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草などが挙げられ、脳内の細胞外カリウムイオンを低濃度に保って静止膜電位を深く維持することにより、「神経細胞の膜輸送」、「アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能」を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して細胞外環境の恒常性を維持する作用が強いものが好ましい。更に、茯苓中のパキマ酸やデヒドロパキマ酸、白朮中のアトラクチロン、蒼朮中のベータオイデスモールなど生薬中の有効成分を用いることも可能である。
【0049】
本発明に用いられる活血化お薬は、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草などが挙げられ、脳血流、特に前頭葉血流を良くして酸素とグルコースを供給する作用が強いものが好ましい。
【0050】
更に、必要に応じて、漢方でいうところの利気薬に該当する香附子、木香、陳皮、枳実、厚朴など、安心薬に該当する竜骨、牡蠣、酸棗仁、柏子仁、遠志、合歓皮などを追加することで、症状改善の増強が期待できる。
【0051】
本発明に用いられる漢方薬とは、(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有する漢方処方として、加味帰脾湯、加味逍遙散、冠心逐お丹、帰脾湯、きゅう帰調血飲、人参湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加ヨクイニン、ヨクイニン湯、桂芍知母湯、血府逐お湯、酸棗仁湯、十全大補湯、逍遥散、大柴胡湯、通導散、当帰散、当帰芍薬散、当帰湯、天王補心丹、女神湯、人参養栄湯、半夏白朮天麻湯、補中益気湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、竜胆瀉肝湯、温経湯、附子理中湯、四逆散、加味温胆湯、竹茹温胆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴朴湯、參蘇飲、釣藤散、八味地黄丸、牛車腎気丸、六君子湯、香砂六君子湯、参苓白朮散、茯苓飲、呉茱萸湯、五積散、当帰四逆湯、四君子湯、異功散、啓脾湯、右帰丸、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、竹茹温胆湯、牛膝散などが挙げられる。
【0052】
また、利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する漢方処方にも、所望の効果が期待でき、防已黄耆湯、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加苓朮附湯、真武湯、苓姜朮甘湯、苓桂姜朮甘湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、半夏厚朴湯、小半夏加茯苓湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、二陳湯、六味地黄丸、杞菊地黄丸、知柏地黄丸、左帰丸、血府逐お湯、二朮湯、かっ香正気散、温胆湯、香蘇散、五苓散、茯苓沢瀉湯、苓桂甘棗湯、四逆湯などが挙げられる。
【0053】
更に、活血薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有する漢方処方にも、認知症の症状の程度によっては、所望の効果が期待でき、温清飲、四物湯、桃核承気湯などが挙げられる。
【0054】
本発明の組成物は、例えば、利水薬が茯苓の場合、茯苓の重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0055】
本発明の組成物は、例えば、本発明の組成物は、例えば、活血化お薬が当帰の場合、当帰の重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0056】
また、例えば、利水薬が茯苓及び白朮の場合、茯苓3〜30重量部、白朮1〜15重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、白朮3〜10重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0057】
また、例えば、利水薬が茯苓、活血化お薬が当帰の場合、茯苓3〜30重量部、当帰1〜15重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、当帰3〜10重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0058】
また、例えば、利水薬が茯苓、活血化お薬が当帰及び丹参の場合、茯苓3〜20重量部、当帰2〜15重量部、丹参2〜20重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜15重量部、当帰3〜8重量部、丹参3〜15重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0059】
また、利水薬が茯苓及び白朮、活血化お薬が当帰及び川きゅうの場合、茯苓3〜20重量部、白朮3〜15重量部、当帰1〜10重量部、川きゅう1〜10重量部からなる生薬混合物に、好ましくは茯苓5〜10重量部、白朮5〜10重量部、当帰3〜8重量部、川きゅう3〜8重量部からなる生薬混合物に、生薬の合計重量に対して5〜25倍量、好ましくは8〜20倍量の水を加えて、通常80〜100℃で30分間〜2時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離することにより得られる。
【0060】
また、漢方薬が桂枝茯苓丸の場合、桂皮2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、牡丹皮2〜5重量部、桃仁2〜5重量部、芍薬2〜5重量部からなる生薬混合物、好ましくは桂皮4重量部、茯苓4重量部、牡丹皮4重量部、桃仁4重量部、芍薬4重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて熱水抽出分離により得られる。
【0061】
また、漢方薬が桂枝茯苓丸加ヨクイニンの場合、桂皮2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、牡丹皮2〜5重量部、桃仁2〜5重量部、芍薬2〜5重量部、ヨクイニン5〜20重量部からなる混合生薬、好ましくは桂皮4重量部、茯苓4重量部、牡丹皮4重量部、桃仁4重量部、芍薬4重量部、ヨクイニン10重量部からなる混合生薬から得られる濃縮エキスまたは乾燥エキス粉末が挙げられる。
【0062】
また、漢方薬が抑肝散加陳皮半夏の場合、当帰2〜5重量部、茯苓2〜6重量部、釣藤鉤2〜5重量部、柴胡1〜4重量部、川きゅう2〜5重量部、甘草0.5〜3重量部、朮2〜6重量部、陳皮2〜5重量部、半夏3〜8重量部からなる生薬混合物、好ましくは当帰3重量部、茯苓4重量部、釣藤鉤3重量部、柴胡2重量部、川きゅう3重量部、甘草1
.5重量部、白朮4重量部、陳皮3重量部、半夏5重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて同様に熱水抽出分離により得られる。
【0063】
また、漢方薬が加味帰脾湯の場合、人参2〜5重量部、茯苓2〜5重量部、柴胡2〜5重量部、酸棗仁2〜5重量部、竜眼肉2〜5重量部、朮2〜5重量部、黄耆1〜4重量部、当帰1〜4重量部、山梔子1〜4重量部、遠志0.5〜3重量部、生姜0.2〜2、甘草0.5〜3重量部、木香0.5〜3重量部、大棗0.5〜3重量部からなる生薬混合物、好ましくは人参3重量部、茯苓3重量部、柴胡3重量部、酸棗仁3重量部、竜眼肉3重量部、白朮3重量部、黄耆2重量部、当帰2重量部、山梔子2重量部、遠志1.5重量部、生姜0.5重量部、甘草1重量部、木香1重量部、大棗1.5重量部からなる生薬混合物に、同様に水を加えて同様に熱水抽出分離により得られる。
【0064】
前述の熱水抽出分離により得られた抽出液を、減圧濃縮して濃縮エキスとし、さらに、噴霧乾燥、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等により乾燥エキス粉末とすることもできる。
【0065】
このようにして得られたエキス粉末はそのままの形で使用することもできるが、通常、食品及び/又は医薬品に使用される通常の賦形剤(例えば、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、白糖等)を加え、例えば、乾式造粒法或は湿式造粒法により造粒して製造し、このようにした造粒物をそのまま使用することもできるが、それらをさらに打錠機を用いた圧縮成形物として使用することもできる。
【0066】
また、漢方エキスが特有のえぐみを有することから、マスキングした製剤が服用上好ましく、被覆剤で被覆したフィルムコート剤とすることもできる。また、成分の安定性の点や簡単に摂取できる形態として、粉砕したものをそのまままた上記造粒物をハードカプセルやソフトカプセルに充填し摂取してもよい。
【0067】
或いは、各生薬をそれぞれ個別に抽出したエキスを混合して、前述した同様の方法により使用することもできる。また、各生薬をそれぞれ粉砕して粉末とし、混合して、そのまま使用することもできる。
【0068】
また、抽出したエキスに、通常、液状の食品などに使用される甘味料、酸味料、乳化剤、フレーバー、分散助剤などの賦形剤を加えて溶解し、液体の形状として製造することもできる。
【0069】
以上のような、内服固形の顆粒、錠剤、散剤、液剤の形態だけではなく、半固形状の形態のもの及び、水や湯などに溶解し液状にして用いることができる粉末状の形態などに加工することもできる。
【0070】
以下、試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0071】
(試験例1)細胞外電解質の神経細胞に対する影響について、次の試験により確認した。すなわち、PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP産生量及び細胞生存率の変化を調べた。
【0072】
(試験方法)
1)神経前駆細胞及び培養
ラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC12(独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンターより購入)は、1型コラーゲンでコートした100mmディッシュを用いて、1×106個/ディッシュとなるように播種し、10%熱不活性化ウマ血清及び10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を有し、抗生物質(100IU/mlのペニシリン及び100mg/mlのストレプトマイ
シンを補足した10mlのDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)中で、5%CO2を含む湿気のある雰囲気中37℃に調整したインキュベーターにより維持した。約7日間でコンフルエントに達した。その間、2回の培地交換を行なった。
【0073】
2)PC12細胞に対する脱分極剤KCl及び細胞死誘導剤グルタミン酸の添加の影響
PC12細胞をKClの添加により細胞外のカリウムイオン濃度を高めて脱分極をさせた後に、神経細胞興奮因子であるグルタミン酸(L-グルタミン酸)を添加することで細胞死を誘導させることが可能なKCl及びグルタミン酸の添加量の検討を行った。1型コラーゲンでコートした96ウェルプレートに、PC12細胞を1×104個/ウェルで播種し、一晩培養した。その後、各ウェルの培地を吸引し、血清無添加のDMEM培地で希釈した0〜70mMKClを100μl/ウェルずつ添加した。24時間後に、0〜30mMグルタミン酸を100μl/ウェルずつ添加し、ウェルの総量200μl/ウェルとした。そして、インキュベーター内にプレートを静置し、24時間後に細胞内ATP量と細胞生存率の測定を行った。
【0074】
3)細胞内ATP量の測定
各ウェルから培養上清を150μlずつ抜き、50μl/ウェルずつATP反応試薬(Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加した。添加後、遮光したプレートを2分間振盪させた後、10分間常温で静置した。その後、プレートをホワイトプレートに移し、ルミノメーター(Centro/CentroXS3 LB960、Berthold Technologys社製)でルシフェラーゼ発光をATP量として測定した。尚、ATP量は培地のみを添加し試験を行った場合の発光率100%とした。
【0075】
4)細胞生存率の測定
各ウェルから培養上清をアスピレーターで全て吸引し、DMEM培地で10倍に希釈したCCK8試薬を100μl/ウェル添加し、インキュベーターで4時間反応させた後、吸光度計(Multiskan Spectrum 、Thermo Fisher Scientific社製)で吸光度を測定した。尚、細胞生存率は培地のみを添加し試験を行った場合の細胞内ATP量を100%とした。
【0076】
(試験結果)
細胞内ATP量は、10mMグルタミン酸のみの刺激に比べて、50mM以上の KClで処理した後にグルタミン酸刺激した方が、ATPの生成を強く抑制することが確認された。一方、細胞生存率は、10mM以上のグルタミン酸のみの刺激に比べて、50mM以上のKCl添加24時間後に10mM以上のグルタミン酸の添加で更に細胞生存率が低下した。以上から、50mMKClにて脱分極させた後に10mMグルタミン酸の添加でATP生成の抑制及び細胞死を誘導することが確認できた(図1及び2)。尚、グルタミン酸添加により、培地のpHが低下するが、グルタミン酸20mM以下では細胞生存率に影響がないことを確認した。以上の結果より、PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成量及び細胞生存率の低下に対する効果の確認する試験方法として、PC12細胞を1×104個/ウェルで播種し、一晩培養後に、血清無添加DMEM培地を用い、55mMKClを100μl/ウェルずつ添加し、24時間後に10mMグルタミン酸を100μl/ウェルずつ添加し、その24時間後に細胞内ATP量及び細胞生存率の測定を行うこととした。
【0077】
(試験例2)PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成量及び細胞生存率の低下に対する利水薬若しくは化湿薬或いは活血化お薬の効果
【0078】
(試験方法)
試験例1と同様に、PC12細胞を用いて、55mMKClと0〜200μg/mlの利水薬若しくは化湿薬である実施例1〜3の生薬エキス、活血化お薬である実施例4及び5の生薬エキス、比較例1及び2の生薬エキスを添加24時間後に10mMグルタミン酸で24時間刺激することによりATP生成抑制及び細胞死を誘導させたときの細胞内ATP量及び細胞生存率を評価した。
【0079】
(試験結果)
55mMKCl及び10mMグルタミン酸の添加により、細胞内ATP量及び細胞生存率が有意に低下した(図3及び7)。また、55mMKCl及び10mMグルタミン酸添加の条件の細胞のコントロール100%に対して、利水薬である実施例1〜3の白朮、蒼朮及び茯苓の各エキス或いは実施例4及び5の各エキスを添加したところ、細胞内ATP量及び細胞生存率ともに有意に増加した(図4、5、8、9)。一方、比較例1の安神薬である遠志エキス、比較例2の鎮咳・去痰薬の桜皮エキスは細胞内ATP量及び細胞生存率ともに変化なし、もしくは低下した(図6及び10)。
【0080】
(試験例3)
(試験方法)
PC12細胞をKClによる脱分極後にグルタミン酸を添加したときのATP生成抑制及び細胞死誘導したPC12細胞に対する漢方薬の効果
試験例1と同様に、PC12細胞を用いて、55mMKClと0〜200μg/mlの実施例4及び5の漢方薬エキスを添加24時間後に10mMグルタミン酸で24時間刺激することによりATP生成抑制及び細胞死を誘導させたときの細胞内ATP量及び細胞生存率を評価した。
【0081】
(試験結果)
55mMKCl及び10mMグルタミン酸添加の条件の細胞のコントロール100%に対して、実施例11の抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒及び実施例12の加味帰脾湯エキス顆粒を粉末化し溶解して添加したところ、細胞内ATP量及び細胞生存率ともに有意に増加した(図11及び12)。
【0082】
(試験例4)
認知機能と額部皮下水分の電解質濃度との関連について、次の試験により確認した。
【0083】
96歳の高齢者(女性24名、男性6名)を対象に、認知機能検査(MMSE)を実施した。また、安静時及び精神作業として標準注意・意欲検査(CPT X課題)と数字記憶を5分間実施している間の額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)を分極電流計(AMICA)により測定した。更に、精神作業時の前頭葉血流をNIRO―200を用いて測定した。
【0084】
分極電流計は、(有)アミカ社製を使用した。分極電流計とは、皮膚にパルス電圧(DC3v、500μsecの短形波)を印加し、1μsec単位で電極間を流れた電流量を精密に計測し、電気生理学的に皮膚の状態を測る装置である。
【0085】
皮膚表面に電圧を加えると、水分の多い皮下の真皮層に電気が流れるが、最初に検出される電流(BP値、単位μA)は真皮層の断面積に比例することから、真皮水分量を推測することができる。一方、IQ値は、基底膜に溜まった電気量(IQ値:単位μC)を示し、電解質が多くなるとIQ値が高くなる。そして、IQ/BP値は、電解質濃度を示すことになる。
【0086】
精神作業時の前頭葉血流は、光トポグラフィ法(NIRS)による脳酸素代謝と脳血液循環を指標とした。このNIRSは頭蓋骨外から近赤外光を照射・受光し、無侵襲で局所脳血流動態を計測する方法で、例えば、赤外線酸素モニタ装置(浜松ホトニクス社製NIRO200)を用いることできる。この装置により、脳血流の指標として、酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)、脱酸素化ヘモグロビン濃度(HHb)、ヘモグロビン酸素飽和度(TOI)、組織中総ヘモグロビン相対値(nTHI)の各測定値が得られる。
【0087】
そして「酸素化ヘモグロビン濃度変化量(ΔO2Hb)」とは、酸素と結合したヘモグ
ロビンの濃度の経時的変化量を示す数値で、通常μmoL/Lで表示される。
「脱酸素化ヘモグロビン濃度変化量(ΔHHb)」とは、酸素が外れたヘモグロビンの濃度の経時的変化量を示す数値で、通常μmoL/Lで表示される。
このΔO2HbとΔHHbの変化量により、精神作業による酸素供給量の変動を測ることができる。
【0088】
「ヘモグロビン酸素飽和度(TOI)」とは、血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを示す数値で、酸素化ヘモグロビンと総ヘモグロビンの濃度比であり、通常%で表示される。
また、「組織中総ヘモグロビン相対値(nTHI)」とは、組織ヘモグロビン指標で、血流量を示す数値であり、a.u.(任意単位)で表される。
【0089】
酸素化ヘモグロビンの変化は「局所脳血流の変化」と高い相関を示していること(Hoshi,et.al., Journal of Applied Physilogy, 90, 1657, 2001)、 神経活動に必要な大量の酸素と栄養を運ぶ「局所脳血流の増加」はその部位の神経活動の増加を反映したものであると報告されていること(Jueptner M & Weller C. (Neuroimage, 2, 148(1995))から、「TOI」を前頭葉血流の指標とした。
【0090】
中核症状の認知機能(MMSE)と精神作業時皮下水分の電解質濃度(ΔIQ/BP)或いはヘモグロビン酸素総和度(TOI)との間の相関関係を解析した(スピアマンの順位相関係数の検定)。
【0091】
図13に示すように、MMSEスコアとΔIQ/BPとの間に有意な正の相関が認められ、認知症の疑いがあると判定されるMMSE23点以下では、ΔIQ/BPの顕著な増加は全く認められなかった。尚、図14に示すように、MMSEとTOIとの間には顕著な相関は認められなかった。
【0092】
中核症状の認知機能(MMSE)について、スコア高低で分割し(MMSE低値群:MMSE27点以下、MMSE高値群:MMSE28点以上)、精神作業時皮下水分の電解質濃度(ΔIQ/BP)を比較した(t-検定)。
【0093】
図15に示すように、MMSE低値群はMMSE高値群と比較してΔIQ/BPが有意に低値を示した。尚、図16に示すように、このときのTOIには差が認められなかった。
【0094】
(試験例5)
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査(VAS)、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO-200を用いて測定した。
【0095】
POMSの質問項目のスコア(5段階)、意識調査として自覚的な活動意識のVAS度数(VASスコア(Visual Analogue Scale)法による評価で、10cmスケールの自覚的な意識値(cm)を度数とした)、その他の体調アンケートにおいて、認知症の中核症状或いは周辺症状に関連する自覚症状の程度と、皮下水分の電解質濃度IQ/BP(安静時或いはクレペリン検査時の変化量)との関連を解析した(単回帰分析及び対応のないt-検定)。
【0096】
表1に示すように、中核症状として「計画性がある(VAS度数)」と安静時皮下水分の電解質濃度との間には、有意な正の相関が認められた。
【0097】
また表2に示すように、周辺症状として「日中覚醒(VAS度数)」と安静時皮下水分の電解質濃度との間にも、有意な正の相関が認められた。
【0098】
(試験例6)認知症の中核症状及び周辺症状と額部皮下水分の電解質濃度との関連について、次の試験により確認した。
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査(VAS)、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO−200を用いて測定した。
【0099】
POMSの質問項目のスコア(5段階)、意識調査として自覚的な活動意識のVAS度数(VASスコア(Visual Analogue Scale)法による評価で、10cmスケールの自覚的な意識値(cm)を度数とした)、その他の体調アンケートにおいて、認知症の中核症状或いは周辺症状に関連する自覚症状の程度と、脳血流(安静時TOI及びクレペリン検査時のTOI)及び皮下水分の電解質濃度IQ/BP(安静時或いはクレペリン検査時の変化量)との関連を解析した(単回帰分析及び対応のないt-検定)。
【0100】
中核症状として「計画性がある」VAS度数と安静時皮下水分の電解質濃度との間に、また、周辺症状として「日中覚醒」VAS度数と安静時皮下水分の電解質濃度との間に、それぞれ有意な正の相関が認められた(表1及び2)。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
中核症状として「計画性がある」意識調査のVAS度数及び体調アンケートでの「集中力低下」について、ネガティブな症状の自覚を有するほど、安静時額部皮下水分の電解質濃度が有意に低かった(図17、図19)。尚、この時のTOIには差が認められなかった(図18、図20)。また、「頭がすっきりする」POMSの度数が低いほど、精神作業時の額部水分の電解質濃度が有意に低下し(図21)、この時のTOIも有意に低かった(図22)。
【0104】
周辺症状として体調アンケート「やる気が出ない」及び「日中ねむたくなる」について、ネガティブな症状の自覚を有するほど、安静時額部皮下水分の電解質濃度が有意に低かった(図23、図25)。尚、この時のTOIには差が認められなかった(図24、図26)。また、「心の中で憤慨する」POMSの度数が低いほど、安静時の額部水分の電解質濃度が有意に低く(図27)、この時のTOIも有意に低かった(図28)。
【0105】
また、周辺症状として「物事に気のりがしない」POMSの度数及び「憂うつだ」POMSの度数について、度数が低いほど、精神作業時の額部水分の電解質濃度が有意に低下し(図29、図31)、この時のTOIも有意に低かった(図30、図32)。
【0106】
以上のように、額部の皮下水分の電解質濃度は、脳のエネルギー及び電解質代謝の活動を評価する指標にとなりうることが確認された。
【0107】
(試験例7)本発明の組成物の中核症状及び周辺症状に対する効果をダブルブラインド並行群間比較試験により評価した。
健常成人(女性n=40、男性n=14)を対象に、女性は月経期から次の月経期まで、男性は1ヶ月間、実施例5の錠剤(実薬)或いは比較例のプラセボを服用した。検査項目として、分極電流計(AMICA)による額部皮下水分値(BP:水分量、IQ:電解質量、IQ/BP:電解質濃度)測定と、気分プロフィール調査(POMS)、意識調査VAS、体調アンケートを実施し、更に、精神作業(クレペリン検査)時の前頭葉血流をNIRO−200を用いて測定した。
【0108】
実施例13の実薬を1ヶ月服用した群(実薬群)は、比較例3のプラセボ群と比較して、「計画性」意識調査のVAS度数及び「日中覚醒」意識調査のVAS度数が有意に高かった(共分散分析)(図33及び34)。また、実薬群、クレペリン時の電解質濃度変化が有意に高く(対応のないt-検定)、安静時TOIも有意に高かった(共分散分析)(図35及び36)。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0110】
実施例1(白朮の抽出エキス)
白朮100gに精製水を1L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.5gを得た。
【0111】
実施例2(蒼朮の抽出エキス)
蒼朮100gに精製水を1L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.4gを得た。
【0112】
実施例3(茯苓の抽出エキス)
茯苓160gに精製水を1.6L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス3.6gを得た。
【0113】
実施例4(当帰の抽出エキス)
当帰120gに精製水を1.2L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス32.3gを得た。
【0114】
実施例5(人参の抽出エキス)
人参100gに精製水を1.0L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス32.0gを得た。
【0115】
実施例6(加味帰脾湯の漢方エキス)
人参3.0kg、白朮3.0kg、茯苓3.0kg、黄耆2.0kg、当帰2.0kg、遠志1.5kg、柴胡3.0kg、山梔子2.0kg、甘草1.0kg、木香1.0kg、大棗1.5kg、生姜0.5kg、酸棗仁3.0kg、竜眼肉3.0kgに精製水を295L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、乾燥したエキス5.6kgを得た。
【0116】
実施例7(抑肝散加陳皮半夏の漢方エキス)
半夏5.0kg、白朮4.0kg、茯苓4.0kg、川きゅう3.0kg、陳皮3.0kg、当帰3.0kg、柴胡2.0kg、甘草1.5kg、釣藤鈎3.0kgに精製水を285L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、乾燥したエキス5.0kgを得た。
【0117】
実施例8(生薬混合抽出液)
茯苓10kg、白朮5kgに精製水を150L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離し、抽出液100Lを得た。
【0118】
実施例9(生薬混合抽出液)
茯苓10kg、白朮・当帰・川きゅう各5kgに精製水を250L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離し、抽出液190Lを得た。
【0119】
実施例10(生薬混合乾燥エキス粉末)
茯苓10kg、丹参8kg及び当帰5kgに精製水を230L加えて、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱水抽出分離して実施例2の抽出液約170Lを得た。減圧濃縮後に噴霧乾燥を行い、実施例10の生薬混合乾燥エキス粉末を約3.5kg得た。
【0120】
実施例11(顆粒剤)
加味帰脾湯エキス粉末(実施例6) 5600g
ヒドロキシプロピルセルロース 200g
乳糖 1700g
合計 7500g
【0121】
(製造方法)
上記の各成分を混合し、その混合物を常法により顆粒とし、2.5gずつに分封して実施例11の顆粒剤を得た。
【0122】
実施例12(顆粒剤)
抑肝散加陳皮半夏エキス粉末(実施例7) 5000g
ヒドロキシプロピルセルロース 200g
乳糖 2300g
合計 7500g
【0123】
(製造方法)
上記の各成分を混合し、その混合物を常法により顆粒とし、2.5gずつに分封して実施例12の顆粒剤を得た。
【0124】
実施例13(錠剤)
(素錠部)
桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末* 1800g
結晶セルロース 380g
クロスカルメロースナトリウム 300g
含水二酸化ケイ素 130g
ステアリン酸マグネシウム 30g
小 計 2640g
(剤皮部)
ヒプロメロース 82g
酸化チタン 14g
カルナウバロウ 微量
小 計 96g
合 計 2736g
*桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末1800gは、桂皮2kg、茯苓2kg、牡丹皮2kg、桃仁2kg、芍薬2kg、ヨクイニン5kgの混合物から熱水で抽出し乾燥して得られる。
【0125】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製する。すなわち上表に記載の、桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末からステアリン酸マグネシウムまでの成分をとり、一錠重量330mgの錠剤を製し、その錠剤に上表の剤皮部ヒプロメロースからカルナウバロウを用いて、コーティングを施し、実施例13のフィルムコーティングの錠剤(一錠重量342mg 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンエキス粉末225mg含有)を得た。
【0126】
実施例14(液剤)
桂枝茯苓丸エキス粉末* 2300g
白糖 8000g
精製水 残 量
合計 90kg
*桂枝茯苓丸エキス粉末2300gは、桂皮4kg、茯苓4kg、牡丹皮4kg、桃仁4kg、芍薬4kgの混合物から熱水で抽出し乾燥して得られる。
【0127】
(製造方法)
上記成分に精製水を加えて加熱溶解し、冷後、精製水を加えて全量90kgとする。この液を30gずつ容器に分注し、締栓後、加熱殺菌し実施例14の液剤を得た。
【0128】
比較例1(遠志の抽出エキス)
遠志120gに精製水を1.2L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス41.4gを得た。
【0129】
比較例2(桜皮の抽出エキス)
桜皮100gに精製水を1.0L加え、100℃で1時間加熱してエキスを煎出し、熱時抽出液を分離し、凍結乾燥したエキス8.7gを得た。
【0130】
比較例3(プラセボ)
(素錠部)
乳糖 1800g
結晶セルロース 380g
クロスカルメロースナトリウム 300g
含水二酸化ケイ素 130g
ステアリン酸マグネシウム 30g
小 計 2640g
(剤皮部)
ヒプロメロース 82g
酸化チタン 14g
カルナウバロウ 微量
小 計 96g
合 計 2736g
【0131】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製する。すなわち上表に記載の、乳糖からステアリン酸マグネシウムまでの成分をとり、一錠重量330mgの錠剤を製し、その錠剤に上表の剤皮部ヒプロメロースからカルナウバロウを用いて、コーティングを施し、比較例3のプラセボ(一錠重量342mg)を得た。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有することを特徴とする認知症予防・治療用組成物。
【請求項2】
利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、神経細胞外カリウムイオン増加に伴う脱分極によるATPの生成低下を抑制する作用を有することを特徴とする請求項1記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項3】
利水剤若しくは化湿薬、または活血化お薬が、アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して恒常性を保つことを特徴とする請求項1又は2に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項4】
利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝、呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項5】
活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項6】
漢方でいうところの(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有することを特徴とする認知症予防・治療用組成物。
【請求項7】
(1)利水薬若しくは化湿薬が、神経細胞外カリウムイオン増加による脱分極によるATPの生成低下を抑制する作用を有することを特徴とする請求項6記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項8】
(1)利水薬若しくは化湿薬が、アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して恒常性を保つことを特徴とする請求項6又は7に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項9】
(2)活血化お薬が、脳血流(特に前頭葉血流)を促進する請求項6乃至8のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項10】
(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項11】
(2)活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草である請求項6乃至10のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有する認知症予防・改善のための認知症予防・治療用漢方薬。
【請求項13】
前記漢方薬が、加味帰脾湯、加味逍遙散、冠心逐お丹、帰脾湯、きゅう帰調血飲、人参湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加ヨクイニン、ヨクイニン湯、桂芍知母湯、血府逐お湯、酸棗仁湯、十全大補湯、逍遥散、大柴胡湯、通導散、当帰散、当帰芍薬散、当帰湯、天王補心丹、女神湯、人参養栄湯、半夏白朮天麻湯、補中益気湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、竜胆瀉肝湯、温経湯、附子理中湯、四逆散、加味温胆湯、竹茹温胆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴朴湯、參蘇飲、釣藤散、八味地黄丸、牛車腎気丸、六君子湯、香砂六君子湯、参苓白朮散、茯苓飲、呉茱萸湯、五積散、当帰四逆湯、四君子湯、異功散、啓脾湯、右帰丸、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、竹茹温胆湯、牛膝散、防已黄耆湯、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加苓朮附湯、真武湯、苓姜朮甘湯、苓桂姜朮甘湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、半夏厚朴湯、小半夏加茯苓湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、二陳湯、六味地黄丸、杞菊地黄丸、知柏地黄丸、左帰丸、血府逐お湯、二朮湯、かっ香正気散温胆湯、香蘇散、五苓散、茯苓沢瀉湯、苓桂甘棗湯、四逆湯、温清飲、四物湯、桃核承気湯である認知症予防・治療に用いる漢方・生薬製剤。
【請求項1】
漢方でいうところの利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含有することを特徴とする認知症予防・治療用組成物。
【請求項2】
利水薬若しくは化湿薬、または活血化お薬が、神経細胞外カリウムイオン増加に伴う脱分極によるATPの生成低下を抑制する作用を有することを特徴とする請求項1記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項3】
利水剤若しくは化湿薬、または活血化お薬が、アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して恒常性を保つことを特徴とする請求項1又は2に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項4】
利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝、呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項5】
活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項6】
漢方でいうところの(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する少なくとも1種の生薬、及び(2)活血化お薬に該当する少なくとも1種の生薬を含む混合物を含有することを特徴とする認知症予防・治療用組成物。
【請求項7】
(1)利水薬若しくは化湿薬が、神経細胞外カリウムイオン増加による脱分極によるATPの生成低下を抑制する作用を有することを特徴とする請求項6記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項8】
(1)利水薬若しくは化湿薬が、アストロサイトのイオン・水ベクトル輸送機能(イオンチャネル・アクアポリン・アミノ酸トランスポーターの機能的な協調)を向上させ、細胞外液の電解質やアミノ酸のターンオーバーを促進して恒常性を保つことを特徴とする請求項6又は7に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項9】
(2)活血化お薬が、脳血流(特に前頭葉血流)を促進する請求項6乃至8のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項10】
(1)利水薬若しくは化湿薬に該当する生薬が、茯苓、白朮、蒼朮、猪苓、沢瀉、防已、ヨクイニン、木通、独活、香附子、木香、陳皮、じんぎょう、五加皮、枳実、附子、桂枝呉茱萸、牛膝、魚油、積雪草である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項11】
(2)活血化お薬が、当帰、川きゅう、桃仁、莪朮、紅花、益母草、延胡索、丹参、人参、芍薬、三りょう、莪朮、乳香、ウコン、降香、姜黄、蘇木、田七人参、イチョウ葉、ヒメツルニチニチ草、紅景天、白花鬼針草である請求項6乃至10のいずれか1項に記載の認知症予防・治療用組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有する認知症予防・改善のための認知症予防・治療用漢方薬。
【請求項13】
前記漢方薬が、加味帰脾湯、加味逍遙散、冠心逐お丹、帰脾湯、きゅう帰調血飲、人参湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加ヨクイニン、ヨクイニン湯、桂芍知母湯、血府逐お湯、酸棗仁湯、十全大補湯、逍遥散、大柴胡湯、通導散、当帰散、当帰芍薬散、当帰湯、天王補心丹、女神湯、人参養栄湯、半夏白朮天麻湯、補中益気湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、竜胆瀉肝湯、温経湯、附子理中湯、四逆散、加味温胆湯、竹茹温胆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴朴湯、參蘇飲、釣藤散、八味地黄丸、牛車腎気丸、六君子湯、香砂六君子湯、参苓白朮散、茯苓飲、呉茱萸湯、五積散、当帰四逆湯、四君子湯、異功散、啓脾湯、右帰丸、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、竹茹温胆湯、牛膝散、防已黄耆湯、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加苓朮附湯、真武湯、苓姜朮甘湯、苓桂姜朮甘湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、半夏厚朴湯、小半夏加茯苓湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、二陳湯、六味地黄丸、杞菊地黄丸、知柏地黄丸、左帰丸、血府逐お湯、二朮湯、かっ香正気散温胆湯、香蘇散、五苓散、茯苓沢瀉湯、苓桂甘棗湯、四逆湯、温清飲、四物湯、桃核承気湯である認知症予防・治療に用いる漢方・生薬製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2012−126716(P2012−126716A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257021(P2011−257021)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 和漢医薬学会、和漢医薬学雑誌 27巻 増刊号、2010年8月6日発行
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 和漢医薬学会、和漢医薬学雑誌 27巻 増刊号、2010年8月6日発行
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]