説明

認知症を処置するための組成物及びその利用

【課題】新たな認知症を治療するための組成物を提供する。
【解決手段】本発明の認知症を処置するための組成物は、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含むので、新たな認知症を治療するための組成物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルツハイマー病等の認知症を処置するための組成物及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知症は、主に認知機能低下又は人格の変化等を呈する精神疾患であり、その中でも認知症の一種であるアルツハイマー病は、認知症の半分以上を占めるとされている。
【0003】
また、アルツハイマー病には、家族性アルツハイマー病(Familial AD;FAD)、及びアルツハイマー型老年性認知症(senile dementia of Alzheimer type;SDAT)の2つのタイプがある。家族性アルツハイマー病は、30〜60歳代という比較的若年層が発症するものであり、アルツハイマー病の中でも極少数を占める。また、アルツハイマー型老年性認知症はアルツハイマー病患者の多くを占めており、通常60歳以上で発症するとされている。
【0004】
アルツハイマー病が発症する危険因子には、例えば、年齢、家族歴、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、及び生活習慣等が関連すると言われているが、或る特定の原因遺伝子を有することによって発症の危険性が高くなることが知られている(非特許文献1)。これまで、この原因遺伝子として21番染色体のアミロイド前躯体タンパク質(APP)717点突然変異が発見されており、その後、1番及び12番染色体上のプレセリン1,2遺伝子、また19番染色体上のアポE遺伝子が同定されている。これらの遺伝子には、近年、アルツハイマー病が発症する原因の一つとして考えられているβアミロイドというタンパク質の分解を阻害する作用が見られる。
【0005】
通常、脳内で生産されたβアミロイドは直ちに分解されるが、上記遺伝子の保有者はβアミロイドの分解が阻害され、脳内に蓄積することになる。そのため、脳内に蓄積されたβアミロイドが神経細胞を死滅させ、各種神経伝達物質の分泌量を低下させる。これにより、脳内の神経伝達を円滑に行なうことが困難になるために、認知機能に支障を来たすとされている。これまで、βアミロイドが神経細胞を死滅させる機構について様々な検討がなされており、その中でもβアミロイドがミトコンドリアでの代謝活性に関与しているのではないかと注目されている。
【0006】
これまで、アルツハイマー病を治療するための薬剤としては、塩酸ドネペジル(アリセプト)が一般的に用いられている。この薬剤は、脳内に存在する神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制することができるため、アルツハイマー病を改善する効果が見られる。
【0007】
一方、ミトコンドリアでの代謝活性を改善することにより、アルツハイマー病を治療することを目的とした技術も検討されており、本発明者らは、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10の3剤を併用することによって、アルツハイマー病に対して優れた治療効果が得られることを見出している(特許文献1)。また、この他にも副作用の少ないアルツハイマー病の治療薬として、カルノジン酸あるいはロズマリン酸を有効成分とし、さらにビタミン類を含む健忘症の予防・治療剤(特許文献2)も知られている。
【特許文献1】特開平4−112823号公報(平成4年4月14日公開)
【特許文献2】特開2006−199666号公報(平成18年8月3日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、様々なアルツハイマー病の治療薬が開発されているが、アルツハイマー病を根絶するには至っていない。
【0009】
このような事情に鑑みると、従来公知のアルツハイマー病の治療薬のみで十分ということはなく、新たなアルツハイマー病の治療薬の開発が強く求められている。
【0010】
すなわち、本発明者は上述した鉄剤、ビタミンB及びコエンザイムQ10の3剤を併用した治療剤に関する特許(特許番号第3064360号、特許文献1)取得後も、さらに臨床試験を重ねて検討を行なった。その結果、当該3剤を治療対象者へ投与することにより一旦は顕著な改善効果が認められるものの、投与後にある程度の期間が経過すると次第に効果が低減することが明らかとなった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、新たな認知症を処置するための組成物及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった。その結果、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10の3剤に加え、ビタミンBをさらに併用することによって、新たな認知症の治療効果が見られることを見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る認知症を処置するための組成物は、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含むことを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る認知症を処置するための組成物において、上記認知症が、家族性アルツハイマー病又はアルツハイマー老年性認知症であることが好ましい。また、さらには脳血管性認知症も含めた認知症であることが好ましい。これは、本発明に係る組成物の治療効果が、特に言語性記憶及び動作性記憶の改善という点に関して著しいことによる。
【0015】
また、本発明に係る認知症を処置するための組成物は、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10投与患者を対象とする、ビタミンBを含むことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る飲食品は、上記本発明に係る認知症を処置するための組成物を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る認知症を処置するための組成物は、以上のように、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含むので、新たな認知症を処置するための組成物を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。
【0019】
〔1.本発明に係る組成物〕
本発明に係る認知症を処置するための組成物は、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含めばよい。本明細書中において使用される用語「組成物」は、各種成分が一物質中に含有されている形態を指す。
【0020】
本発明に係る組成物は、認知症を処置するために使用され得る。認知症とは、一旦正常に発達した脳が、後天的な脳の器質的障害により、進行性の知能障害及び行動障害を呈する精神疾患である。この認知症は、主に脳血管性認知症又はアルツハイマー型認知症(以下、「アルツハイマー病」として記すこともある)に大別できる。なお、ここでいう「処置」とは、治療、予防、改善、及び症状悪化防止等の医学的及び/又は薬学的有効性のある諸効果を含むものとして扱う。
【0021】
また、本発明に係る組成物に含まれる、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBとしては、一般的に知られている公知化合物を用いればよい。すなわち、使用可能な鉄剤は特に限定されず、例えばクエン酸第一鉄ナトリウム、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄、EDTA鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、及びピロリン酸第二鉄等が挙げられる。また、使用可能なビタミンB製剤は特に限定されず、例えば塩酸ピリドキシン及びリン酸ピリドキサールが挙げられる。使用可能なコエンザイムQ10製剤は特に限定されず、ユビデカレノンが挙げられる。また、使用可能なビタミンB製剤は特に限定されず、例えば、ビタミンB塩では硝酸チアミンが挙げられ、ビタミンB誘導体では塩酸セトチアミン(塩酸ジセチアミン)、オクトチアミン、チアミンジスルフィド、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミン、及びベンフォチアミンが挙げられる。
【0022】
本発明に係る組成物は、これら4種の化合物が含まれているので、新たな認知症の治療効果を得ることができる。
【0023】
例えば、本発明に係る組成物を重度のアルツハイマー病患者に投与することによって、従来、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10の3成分を併用して投与する場合に比して、さらに長期に亘って症状の改善効果を維持することができる。
【0024】
また、本発明に係る組成物では、認知症の中でも家族性アルツハイマー病又はアルツハイマー老年性認知症を処置することが好ましく、さらには脳血管性認知症も含めた認知症であることが好ましい。本発明に係る組成物によって家族性アルツハイマー病又はアルツハイマー老年性認知症を処置することは、その他の認知症を処置することに比べ、さらに顕著な改善効果が得られる。また、本発明に係る組成物の治療効果が、特に言語性記憶及び動作性記憶の改善という点に関して著しいために、脳血管性認知症も含めた認知症に対しても改善効果が得られる。
【0025】
また、本発明に係る組成物は、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、及びサルなど)に対して適用することができる。
【0026】
本発明に係る組成物において、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBの含有量としては限定されるものではないが、例えば、本発明に係る組成物を製剤の形態にて患者に投与する場合、後述にて例示する各有効成分の成人1日当りの投与量に従って含有量を設定すればよい。
【0027】
本発明に係る組成物は、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBをそのまま混合されたものであってもよいが、薬学的に受容可能なキャリアを含んでもよい。本発明に係る組成物の製造方法としては、例えば医薬組成物の製造法として公知の手段に従って製造することができる。
【0028】
一実施形態において、本発明に係る組成物は、医薬組成物であり得る。医薬組成物中に使用される薬学的に受容可能なキャリアは、医薬組成物の投与形態及び剤型に応じて選択することができる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、薬理学的に受容可能なキャリアとしては、製剤素材として使用可能な各種有機又は無機のキャリア物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、又は崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、又は無痛化剤などとして配合される。
【0030】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、及び結晶セルロースなどが挙げられ、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、及びコロイドシリカなどが挙げられる。
【0031】
結合剤としては、例えば、α化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0032】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、及びカルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0033】
溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、及びトリカプリリンなどが挙げられる。
【0034】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0035】
懸濁剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、あるいはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子が挙げられる。
【0036】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、及びD-マンニトールなどが挙げられる。
【0037】
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、及びクエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0038】
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0039】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、及びソルビン酸などが挙げられる。
【0040】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩及びアスコルビン酸などが挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る医薬組成物は、製剤技術分野において慣用的な方法に従って製造することができる。本実施形態に係る医薬組成物における鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBの含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、当該医薬組成物を用いて後述の投与量範囲で鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを投与できるような量であれば特に限定されない。
【0042】
本実施形態に係る医薬組成物の剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口剤、あるいは、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤などの非経口剤が挙げられる。用語「非経口」は、本明細書中で使用される場合、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、及び関節内の注射及び注入を含む投与の様式をいう。
【0043】
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、投与対象、投与経路、症状などによっても異なるが、当業者は、これら投与対象、投与経路、又は症状などに応じて最適な条件を適宜設定することができる。
【0044】
本実施形態に係る医薬組成物は、製剤形態に応じた適当な投与経路で投与できる。投与方法も特に限定はなく、内用、外用及び注射によって適用することができる。注射剤は、例えば静脈内、筋肉内、皮下、及び皮内などに投与することができる。
【0045】
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的及び当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、及び症状によって適宜設定され一定ではない。例えば、製剤中に含有される各有効成分の成人1日当りの投与量は、鉄剤では50〜250mg、好ましくは100〜250mgであり、さらに好ましくは100〜150mgであり、ビタミンBでは40〜210mg、好ましくは180〜210mgであり、コエンザイムQ10では60〜180mg、好ましくは60〜120mgであり、ビタミンBでは140〜280mg、好ましくは210〜235mgである。また、症状に応じて各成分の投与量を調整してもよい。例えば、症状の軽い患者に対しては、各成分の投与量をここに例示した範囲の各下限値としてもよく、症状の重い患者に対しては、各成分の投与量をここに例示した範囲の各上限値としてもよい。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、又は数回に分けて行なってもよい。また、本実施形態に係る医薬組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。
【0046】
また、本発明に係る組成物は、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10投与患者を対象とする、ビタミンBを含むものであってもよい。すなわち、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10投与患者に対して、ビタミンBを含む組成物を投与すればよい。これにより、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10の3成分が投与された患者の認知症の改善効果を、長期に亘って維持することができる。なお、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10投与患者とは、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10が投与された患者を意味し、鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10を投与する目的としては認知症の処置に限定されない。
【0047】
〔2.本発明に係る飲食品〕
本発明に係る飲食品は、上記本発明に係る認知症を処置するための組成物を含んでいればよい。本発明に係る飲食品は、上記本発明に係る組成物を含んでいるので、認知症を処置するための新たな効果が期待できる。
【0048】
本発明の組成物を飲食品に利用する場合、そのままの形態、オイルなどに希釈した形態、乳液状形態食、又は食品業界で一般的に使用される担体を添加した形態などのものを調製してもよい。
【0049】
乳液状形態としては、例えば、油相部に組成物を添加し、さらにグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセロール、デキストリン、ナタネ油、大豆油、コーン油などの液状の脂肪を加え、水相部にL−アスコルビン酸あるいはそのエステル又は塩、例えばローカストビーンガム、アラビアガム又はゼラチンなどのガム質、例えばヘスペリジン、ルチン、ケルセチン、カテキン、チアニジンなどのフラボノイド類又はポリフェノール類或いはその混合物などを添加し、乳化することによって調製できる。
【0050】
飲料の形態では、例えば、非アルコール飲料又はアルコール飲料であってもよい。非アルコール飲料としては、例えば、炭酸系飲料、果汁飲料、ネクター飲料などの非炭酸系飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー、及びココアなどが挙げられる。また、アルコール飲料の形態としては、例えば、スピリッツ、リキュール、チューハイ、果実酒類、麦酒、発泡酒、及び薬用酒などの一般食品の形態を例示できる。
【0051】
飲食物としては、例えば、洋菓子類(プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、チューインガム、チョコレート、ペストリー、バタークリーム、カスタードグリーム、シュークリーム、ホットケーキ、パン、ポテトチップス、フライドポテト、ポップコーン、ビスケット、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ワッフル、ケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー、せんべい、おかき、おこし、まんじゅう、あめなど)、乾燥麺製品(マカロニ、パスタ)、卵製品(マヨネーズ、生クリーム)、飲料(機能性飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、無果汁飲料、果肉飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料)、嗜好品(緑茶、紅茶、インスタントコーヒー、ココア、缶入りコーヒードリンク)、乳製品(アイスクリーム、ヨーグルト、コーヒー用ミルク、バター、バターソース、チーズ、発酵乳、加工乳)、ペースト類(マーマレード、ジャム、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、果実のシロップ漬け)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、ラード)、魚介類製品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、ちくわ、ハンペン、魚の干物、鰹節、鯖節、煮干し、うに、いかの塩辛、スルメ、魚のみりん干し、貝の干物、鮭などの燻製品)、佃煮類(小魚、貝類、山菜、茸、昆布)、カレー類(即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー)、調味料剤(みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、ケチャップ、オイスターソース、固形ブイヨン、焼き肉のたれ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、ペースト、インスタントスープ、ふりかけ、ドレッシング、サラダ油)、揚げ製品(油揚げ、油揚げ菓子、即席ラーメン)、豆乳、マーガリン、ショートニングなどを挙げることができる。なお、上記飲食物は、組成物を従来公知の製造方法に従って、一般食品の原料と配合することにより、加工製造することができる。
【0052】
また、上記飲食物は、例えば、機能性食品、栄養補助食品、又は健康食品類として用いることができる。その形態は、特に限定されるものではなく、例えば、食品の製造例としては、アミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミンなどの蛋白質、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物などの他、アミノ酸単体の混合物などを、従来公知の方法に従って使用することができる。また、ソフトカプセル、タブレットなどの形態で利用することもできる。
【0053】
栄養補助食品又は機能性食品の一例としては、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料などが配合された流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク剤、カプセル剤、経腸栄養剤などの加工形態を挙げることができる。上記各種食品には、例えば、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの飲食物は、栄養バランス、風味を良くするために、さらにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの栄養的添加物、甘味料、香辛料、香料、又は色素などを配合することもできる。
【0054】
また、本発明の組成物を安定化させるために抗酸化剤等を用いてもよく、例えば、トコフェロール、L−アスコルビン酸、BHA、及びローズマリー抽出物などを従来公知の方法に従って併用することができる。
【0055】
また、本発明に係る飲食品において、本発明に係る組成物の含有量としては特に限定されない。
【0056】
このように、本発明に係る組成物は、少なくとも、鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含めばよいといえる。すなわち、複数の鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含有する薬剤もまた、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0057】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献及び非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
本実施例の組成物は、次のように調製した。すなわち、クエン酸第一鉄ナトリウム100〜150mg、ビタミンB40〜180mg、コエンザイムQ10120mg(分3投与)、及びビタミンB210〜235mgを秤量し、これらをカプセルに充填した。なお、上記組成物中の各成分の含有量は、例えば、症状が軽度認知障害である患者には各成分の含有量における下限値とし、症状が重症ADである患者には各成分の含有量における上限値とした。また、軽度AD、中等度ADの患者に対しては、クエン酸第一鉄ナトリウムをそれぞれ、100mg、100〜150mg、ビタミンBを100mg、100〜180mg、ビタミンBを210mg、210〜235mgとした。
【0059】
このように調製した組成物を被験者に投与した。本実施例の被験者はアルツハイマー病を発症している人、あるいは、その前段階に位置する人であり、各被験者の症状の進行度は以下に示すMMSE(mini-mental state examination)検査による指標を用いた。
【0060】
ここで、「アルツハイマー病の前段階に位置する人」とは、最近問題となっている軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の患者を指す。軽度認知障害とは、アルツハイマー病と健康な状態との間のグレーゾーンのことであり、アルツハイマー病の前段階に位置付けられている。例えば、以下に示すMMSE検査において24〜30点の「正常」であっても、忘れっぽくなった(物忘れ)等の軽い認知障害が伴う場合には、その約半数がアルツハイマー病を発症するといわれている。
【0061】
MMSE検査とは、認知症のスクリーニングテストとして世界的に広く用いられており、図1に示す11項目の質問からなる。図1は、MMSE検査における設問事項を表わす。このMMSE検査の回答から総合得点を導き出し、症状の進行度を判定した。具体的には、全問正解すると30点であり、総合得点が21点以下の場合には、認知症などの認知障害がある可能性が高いと判断される。その中でも重症度を3段階に分類しており、軽度では23〜20点、中等度では19〜10点、及び重度では9〜0点である。また、24〜30点であっても、軽い認知障害が伴う場合には軽度認知障害として扱った。この指標に基づき、各段階の被験者を抽出して本実施例の組成物を12ヶ月間投与した。抽出した被験者は、男性4人(59〜71歳)、及び女性8人(57〜81歳)であった。
【0062】
また、アルツハイマー病、及びMCI患者に対する治療効果の判定も、上述したMMSE検査により行なった。なお、当該検査は、投与前、投与開始後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、8ヶ月及び12ヶ月の時点で行なった。これにより得られた結果を以下の表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
なお、表中、FA、MM、MT、HN、YI、MR、HT、TY、NS、TS、及びIKは被験者のイニシャルを表わす。ADはアルツハイマー病を表わす。
【0065】
また、この結果を示したグラフを図2〜5に示す。図2は、実施例の組成物又は比較例の組成物を投与した軽度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフであり、図3は、実施例の組成物又は比較例の組成物を投与した中等度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフであり、図4は、実施例の組成物又は比較例の組成物を投与した重度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。また、図5は、実施例の組成物を投与したMCI患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。
【0066】
この表に示すように、実施例の組成物を投与したすべての被験者が開始前から投与後1ヶ月までの間で、MMSE検査の得点が1〜5点上昇した。その後、3ヶ月、6ヶ月、及び8ヶ月経過した時点では何れも投与後1ヶ月よりも高い又は同じ値であった。また、中等度AD患者であるYI及びTY、重症AD患者であるTS及びIK、ならびに軽度認知障害FAでは、12ヶ月経過した時点でも投与後1ヶ月よりも高い又は同じ値であった。
【0067】
この結果から、本実施例の組成物では、アルツハイマー病患者及びMCI患者に対する治療効果が何れの進行段階においても見られ、さらに8ヶ月又は12ヶ月まで効果を持続させることができると分かった。
【0068】
<比較例>
比較例では、クエン酸第一鉄ナトリウム100〜150mg、ビタミンB40〜180mg、及びコエンザイムQ10120mg(分3投与)を秤量し、カプセルに充填した。なお、比較例においても、上記組成物中の各成分の含有量は、例えば、症状が軽度認知障害である患者には各成分の含有量における下限値とし、症状が重症ADである患者には各成分の含有量における上限値とした。また、軽度AD、中等度ADの患者に対しては、クエン酸第一鉄ナトリウムをそれぞれ、100mg、100〜150mg、ビタミンBを100mg、100〜180mg、ビタミンBを210mg、210〜235mgとした。また、比較例における被験者は、軽度AD患者は30人、中等度AD患者は88人、また重度AD患者は46人であった。
【0069】
この比較例の組成物をアルツハイマー病患者及びMCI患者に投与した結果を、上述した図2〜5に示している。
【0070】
図2に示すように、比較例の組成物を投与した軽度AD患者では開始後1ヶ月で1.5点程上昇し、さらに6ヶ月経過した時点で開始前よりも1.8点程上昇していることが分かった。しかしながら、その後は低下傾向にあり、12ヶ月後には3ヶ月目と同値にまで下がった。
【0071】
比較例の組成物を投与した中等度AD患者では、図3に示すように開始後1ヶ月で3点程上昇するが、その後6ヶ月経過した時点から徐々に低下することが分かった。
【0072】
また、図4に示す比較例の組成物を投与した重度AD患者では、開始後1ヶ月で3点程上昇するが、その直後に徐々に低下することが分かった。
【0073】
図5は、最近問題となってきたアルツハイマー病の前段階に位置し、その約半数がアルツハイマー病に移行すると言われている軽度認知障害患者2名のMMSEの推移を表わすグラフである。この比較例は一例ではあるが、やはり他の群と同様に一旦は改善するものの、その後、時間の経過とともに徐々に低下する傾向が見られる。一方、実施例は組成物投与後速やかに正常値に改善し、その後も低下が見られていないことは注目に値する。
【0074】
以上の結果より、実施例の組成物では、8ヶ月又は12ヶ月が経過した時点でも一旦回復した症状が再び悪化する兆候が見られないため、本発明の組成物によるアルツハイマー病疾患治療の開発を期待させるものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る組成物によれば、例えば、家族性アルツハイマー病又はアルツハイマー老年性認知症等の認知症の処置に新たな効果が見られるので、医薬産業、又は食品産業等において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例において認知症の評価に用いるMMSEの設問事項である。
【図2】実施例又は比較例の組成物を投与した軽度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。
【図3】実施例又は比較例の組成物を投与した中等度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。
【図4】実施例又は比較例の組成物を投与した重度のAD患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。
【図5】実施例又は比較例の組成物を投与した軽度認知障害(MCI)患者に行なったMMSE検査の得点の推移を表わすグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄剤、ビタミンB、コエンザイムQ10、及びビタミンBを含むことを特徴とする認知症を処置するための組成物。
【請求項2】
上記認知症が、家族性アルツハイマー病、アルツハイマー老年性認知症又は脳血管性認知症であることを特徴とする請求項1に記載の認知症を処置するための組成物。
【請求項3】
鉄剤、ビタミンB、及びコエンザイムQ10投与患者を対象とする、ビタミンBを含むことを特徴とする認知症を処置するための組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を含む飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292798(P2009−292798A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150941(P2008−150941)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【特許番号】特許第4206428号(P4206428)
【特許公報発行日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(508172605)
【出願人】(508172753)株式会社アンチフォー (1)
【Fターム(参考)】