説明

認知症を治療するための使用及び組成物

アルツハイマー型の認知症に罹患している患者において、非選択的末梢性抗コリン作用剤と組み合わせたアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の投与により、併発する有害作用を減らすことによって、前記AChEIの最大耐薬量、ひいてはその効力を高めるための方法について記載する。この方法によって、前記患者のCNSでは増強されたアセチルコリンエステラーゼ阻害が達成されて、それにより、前記患者におけるアルツハイマー型認知症の症状の緩和がより大きな程度まで改善される。アルツハイマー型認知症に罹患している患者において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の最大耐薬量、ひいてはその効力を高めるための医薬組成物の製造のための非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)の使用と、本記載に明示される式IIの非選択的末梢性抗コリン作用剤とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含んでなる医薬組成物についても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー型の認知症に罹患している患者において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を非選択的末梢性抗コリン作用剤と組み合わせることによって、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の最大効力及び最大耐薬量を高めるための方法、又は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)と組み合わせたアルツハイマー型認知症の治療用医薬組成物製造のための非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)の使用に関する。本発明はまた、ソリフェナシン、プロピベリン、オキシフェンシクリミン、及びトルテロジンからなる群より選択される、四級アンモニウム化合物又はスルホニウム化合物又は非四級アンモニウム化合物からなる非選択的末梢性抗コリン作用剤をアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とともに含んでなる、アルツハイマー型の疾患における認知症の治療薬のような慣用のコリン様治療薬の効力を増加及び延長してその毒性を減少させるための医薬組成物に関する。
【0002】
定義
「AChEI(s)」:アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(群)。
「nsPAChA(s)」:非選択的末梢性抗コリン作用剤(群)。
【0003】
「非選択的」:nsPAChAsに関連して、現在同定されているムスカリンM受容体の様々なサブタイプ、即ちM1〜M5受容体、に広く渡って阻害活性を示す抗コリン作用剤へ適用される。
【0004】
「末梢性」:nsPAChAsに関連して、全身投与に続いて中枢神経系に入ることがほとんどできない(限定された能力を有する)ので、臨床的に明らかな度合いほどは脳機能に影響を及ぼさない抗コリン作用剤へ適用される。これらの薬物には、四級と三級の両方のアンモニウム抗コリン作用剤、特に、低い脂質溶解性を有するものが含まれうる。
【0005】
「CNS」:中枢神経系。
「CSF」:脳脊髄液。
「PNS」:末梢神経系。
【0006】
「IR」:有効成分の組成物からの即時放出。
「ER」:有効成分の組成物からの延長放出。
【背景技術】
【0007】
アルツハイマー型の認知症には、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病認知症、及びレビー小体認知症のような、認知及び行動の機能不全を伴うヒトの関連疾病が含まれる。ほとんどは、進行性の認知障害、多様な神経行動及び/又は神経精神医学系の障害、及び日常生活の活動における制約を特徴とする、ヒトの中枢神経系(CNS)の慢性の神経変性障害である。
【0008】
アルツハイマー病は、最も一般的な認知症の形態である。罹患率の研究は、2000年度に全世界で約2500万人のアルツハイマー病患者がいて、この数字は、有効な予防又は神経保護療法が現れなければ、2050年までに1億1400万へ増加すると予測されることを示した。発症は、通常、65歳をすぎた人々において起こる。臨床徴候には、日常生活の諸活動を行う能力の低下を伴う,進行性の認知損失と他の関連した神経行動上の無能力が含まれる。
【0009】
孤発性アルツハイマー病の根本原因は、おそらくはこの疾患が不均質性であり(heterogenous)、遺伝及び環境上の危険因子の複雑な相互作用に相俟った加齢関連の変化を伴うために、知られていない。アルツハイマー病の病態生理を説明すべく進展した現行の仮説は、2つの誤折し、そして、凝集したタンパク質である、細胞外βアミロイドと細胞内タウの推定上の有害な影響に注目する。おそらくは、この選択的な神経変性プロセスの結果として、神経伝達物質のアセチルコリンの合成が低下する。この低減は、疑いなく、脳内の正常なシナプス伝達に干渉する。従って、このアセチルコリン不足を正すように作用する薬物が現行の療法の主軸を構成するのである。
【0010】
アルツハイマー型の認知症には、パーキンソン病に関連した認知障害も含まれる。1例はパーキンソン病認知症であり、相対的に晩年に発症する、やはり慢性の進行性CNS変性障害である。パーキンソン病それ自体は、主として運動機能に影響を及ぼす。しかし、二次症状には、認知の悪化、特に、実行機能の不足が含まれる。
【0011】
パーキンソン病とよく結び付けられる、別のアルツハイマー型認知症は、レビー小体を伴う認知症、又はレビー小体認知症として知られている。今日、レビー小体認知症は、一般的には別の疾患とみなされているが、アルツハイマー病やパーキンソン病認知症からの識別は、臨床的に難しい場合がある。従って、レビー小体認知症は、診断されないか又はアルツハイマー病又はパーキンソン病認知症と誤診されがちである。レビー小体認知症の臨床症状は、典型的には、皮質及び皮質下の認知障害の1つであり、視空間及び実行の機能不全がアルツハイマー病より顕著である。レビー小体認知症の中核的な臨床特徴は、パーキンソニズムに加えて、認知低下に注意の変動と再発性の視覚性幻覚が加わることである。
【0012】
パーキンソン病認知症もレビー小体認知症も、神経病理学的には、皮質レビー小体の病理とシヌクレインタンパク質の沈積の存在を特徴とする。この病因には、遺伝因子がある役割を担うらしい。パーキンソン病認知症とレビー小体認知症の病理が不均質で重複していて、アルツハイマー型及び血管型の諸変化としばしば混同されるのも、驚くことではない。脳アセチルコリン媒介性神経伝達の減少は、上記障害のいずれにも見出される主要な臨床異常と結び付けられてきて、今日、コリン作用性の伝達を刺激するように作用する薬物が療法への主要アプローチを構成する。
【0013】
上記に言及した障害に加えて、CNSのコリン作用性伝達を強める薬物を他の様々な認知障害のために適応外投与することは、普及している。この使用の中には、コリン作用性の機能不全の明確な証拠が現行では相対的にほとんど存在しない認知障害も含まれる。それでも、ますます多くの臨床試験によって、限定されないが、血管型認知症、ダウン症候群、外傷性脳損傷、及び軽度認知障害が含まれる、様々な追加の認知機能障害へAChEI治療を合理的に広げることが今や裏付けられている。
【0014】
上記に注目したように、アルツハイマー型の認知症と関連障害では、アセチルコリンが含まれる神経伝達物質のレベル低下が報告されてきた。特に、アセチルコリン媒介性伝達の不足は、これらの障害に関連した認知異常とある種の神経行動異常に寄与すると考えられている。従って、CNSにおけるコリン作用性の伝達を強めることが知られている薬物が広く療法に使用されている。
【0015】
今日、AChEIsは、アルツハイマー型認知症に罹患している患者の標準治療法の一部であり、他の様々な慢性・進行性の認知機能障害に広く適応外使用されている。AChEIsには、一般的な作用機序として、アセチルコリン媒介性神経伝達の増強がある。いずれも、ヒトのCNSにおいて、アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害することによって、そのアセチルコリンの効能(availability)を増加して延長するように作用する。4種のAChEIsがアルツハイマー病の治療とパーキンソン病認知症のために米国FDAによって承認されている:タクリン、ドネペジル[Aricept(登録商標)]、リバスチグミン[Exelon(登録商標)]、及びガランタミン[Razadyne(登録商標)]。AChEIsは、錠剤、カプセル剤、及び溶液剤のような即時放出型、並びに経口投与用の迅速溶解及び延長放出型、並びに非経口(例、経皮)投与用の放出型が含まれる様々な製剤で利用可能である。
【0016】
例えば、タクリンは、10、20、30、40mg/カプセルを含有するカプセル剤において提示されて、40〜160mg(4用量へ分割)の推奨1日投与量で使用された;ドネペジルは、5、10mg/錠を含有する口腔内崩壊錠剤において塩酸塩として提示されて、5〜10mgの推奨1日投与量で使用される;リバスチグミンは、1.5、3、4.5、及び6mgのリバスチグミン塩基に相当する量で酒石酸塩を含有するカプセル剤において、2mgのリバスチグミン塩基に相当する酒石酸塩を含有する経口溶液剤として、そしてリバスチグミンを4.6mg/24時間又は9.5mg/24時間で放出する経皮パッチ剤の形態において提示されて、IR型の推奨1日投与量は、6〜12mg(2用量へ分割)であり、最大推奨パッチ用量は、9.5mg/24時間である;そして、ガランタミンは、それぞれ4mg、8mg、及び12mgのガランタミン塩基に相当する5.126、10.253、及び15.379mgの臭化水素酸ガランタミンをそれぞれ含有する8mg、16mg、及び24mgのERカプセル剤において、そして4mg/mLの経口溶液剤として利用可能であり、その推奨1日投与量は16mg〜32mgであるが、米国では、最大推奨1日用量が24mg(2用量へ分割)へ抑えられた。
【0017】
AChEIsのリバスチグミン、ドネペジル、及びガランタミンの認知症疾患の治療への効力に関する概説が Angelescu et al.によって、MMW-Fortschr. Med. Sonderheit, 2007, 149, 76-78(「Angelescu 2007」)に公表されている。
【0018】
他のAChEIs、特にイピダクリンのようなタクリン類似体;フェンセリンとその類似体;イコペジル;及び、ザナペジルについては、評価中である。
AChEIsは、それらの薬理学的プロフィールにおいて、そしてアセチルコリンエステラーゼ及びブチリルコリンエステラーゼに対するそれらの親和性において様々である。ドネペジルとガランタミンは、ブチリルコリンエステラーゼよりアセチルコリンエステラーゼに対してそれぞれ1000倍と50倍選択的であり、一方、リバスチグミンは両酵素を同様の親和性で阻害して(Thomsen et al., Life Scie. 1990, 46, 1553-58)、そして、フェンセリンのある種の類似体はブチリルコリンエステラーゼに対してより選択的である(例えば、Qian-sheng Yu et al., J Med Chem, 1997, 40(18), 2895-2898 及びUS6,683,105を参照のこと)。
【0019】
現在利用可能なAChEIsによる、CNS中のコリン作用性伝達の増強は、アルツハイマー型認知症の患者へ治療利益を付与する。治療効力は、標準化された尺度を使用して、認知機能不全とこれらの障害に関連した他の神経行動異常の改善の度合いによって測定可能である。
【0020】
しかしながら、残念なことに、現在利用可能な医薬品の中で、これらの医薬品をその最大の安全及び耐薬量で投与するときでも、上記に言及した認知障害のいずれかに罹患している患者に対してわずかな臨床利益以上のものをもたらすものはない。このことがアルツハイマー型認知症への現行のAChEI療法の成功を制限している第一の問題である。
【0021】
アルツハイマー型の認知症がある患者を対象にした、ドネペジル(Rogers et al., Neurology 1998, 50, 136-45; Winblad et al. Neurology. 2001 Aug 14; 57(3): 489-95)、リバスチグミン(Rosler et al., Brit. Med. J. 1999, 318, 633-38; Farlow et al. Eur. Neurol., 2000, 44, 236-41)、及びガランタミン(Raskind et al., Neurology, 2000, 54, 2261-68; Tariot et al., Neurology, 2000, 54, 2269-76)の慎重に実施された臨床試験では、認知症に関連した認知測定値と全般測定値に関して、わずかではあるが統計学的には有意な利益が実証された。きわめて重要な臨床試験における効果の大きさは、プラセボと6ヶ月にわたり比較して、アルツハイマー病評価スケール(ADAS−Cog)の70ポイント認知サブスケールに対して2.8ポイントの改善、又は30ポイント・ミニメンタルステータス検査(MMSE)に対して1〜1.5ポイントの改善というオーダーであった。7ポイントの臨床医問診に基づく変化の印象スケール(CIBIC)によって評価した全般測定値の差は、プラセボを服用している患者と比較して、AChEIを服用している患者において0.3〜0.5ポイントのオーダーであった。この一般的に使用されている3種のAChEIsでは、効力が同様であった。AChEIsはまた、アルツハイマー型認知症の患者において、行動及び神経精神医学系の症状に対して有益な効果を及ぼすらしい。
【0022】
アルツハイマー型認知症への現行のAChEI療法の成功を制限している第二の問題は、推奨量であっても、これらの薬物がいずれも、主にムスカリン型の末梢性コリン作用性受容体を過剰刺激することによって、投薬制限性の有害反応をもたらすことである。結果として、不都合な胃腸系、呼吸器系、心臓血管系、泌尿器系、及び他の器官系の機能不全の徴候及び症状が出現する。上記のAChEIs、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、及びガランタミンでは、これらの副作用に、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、体重減少;気管支分泌物の増加、呼吸困難、気管支れん縮、及び気管支痙攣;徐脈、上室性心臓伝導異常、血管拡張、低血圧、眩暈、及び失神;膀胱痙攣、排尿頻度の増加、及び失禁;発赤及び発汗;疲労、頭痛、流涙、縮瞳、及び両眼視覚の喪失が通常含まれる(Physicians Desk Reference 2008, Thomson PDR, ニュージャージー州モントベール)。
【0023】
最も頻繁に報告されるリバスチグミンの有害作用は、例えば、胃腸系の有害作用、特に悪心である。この薬物を6〜12mg/日の推奨治療の経口用量範囲で服用する患者の約半数が吐気を催して、約1/3が少なくとも1回嘔吐する。嘔吐は、リバスチグミン処置患者の2%で重篤であり、14%で軽度又は中等度であった。プラセボでの1%未満と比較して、5%の患者が嘔吐のためにリバスチグミンを中止した。17%の患者で食欲の喪失が報告されて、リバスチグミン療法の間に25%で体重が低下(平均して7〜10ポンド)した。おそらくは、この観察された体重減少には、薬物誘発性の食欲不振、悪心、及び嘔吐が寄与する。これらの不都合な胃腸系の有害作用は、AChEI治療で生じる他の有害作用とともに、ほとんどの患者においてリバスチグミン投与量を1日6mg以上に増やすことを困難にする。
【0024】
AChEIの使用に付随する有害事象は、末梢性コリン作用性受容体、特にムスカリン型の受容体(mAChR)の過剰刺激を主に反映するようである。今日、ムスカリン受容体の5つのサブタイプ、M1〜M5が同定されている。進行中の研究は、これらの受容体に対する薬物の結合親和性を決定することだけでなく、それらの分布と生理学上の役割を見出すことに着手している。例えば、M1受容体は、交感神経節後ニューロン(自律神経節)、胃組織、及び筋間神経叢に見出されるので、それらは、唾液腺と胃腸管からの分泌に関与している。M2受容体は、心筋と平滑筋に存在して、心房心筋の収縮力と房室結節の伝導速度、即ち心拍数の調節との関連が示唆されてきた。M2受容体はまた、胃腸平滑筋、並びに膀胱壁内の排尿平滑筋細胞や他の構造上にも存在している。M3受容体は、胃底、膀胱、及び気管の収縮に媒介する、優勢なムスカリン受容体サブタイプである。それらは、胃壁細胞が含まれる腺細胞と血管平滑筋、並びに膀胱壁内の排尿平滑筋細胞や他の構造上でも発現されている。M3受容体は、外分泌腺分泌、平滑筋収縮、嘔吐、瞳孔拡張、食物摂取、及び体重増加に関与している。
【0025】
ムスカリン受容体サブタイプの特性決定は、依然として不完全であり、より最近同定されたM4及びM5受容体に関して特に不完全であり、現在では、当初想定されたよりずっと複雑であるとみられている。特定のムスカリン受容体サブタイプと具体的な身体機能、又は過剰刺激の特定の症状との間の正確な関連は、まだ十分に知られていない。同様に、多くの薬物がそのムスカリン受容体結合プロフィールに関して不完全に特性決定されたままである。それでも、利用可能な証拠は、現在使用されているAChEIsのいずれもの推奨用量レベルの投与に関連して生じる有害事象の多くを、現在認められている末梢性ムスカリン受容体サブタイプの刺激へ関連付けることが可能であることを示している。従って、どの特定のヒト被検者にもきわめて重篤なAChEI起因性の有害作用を生じるこれらのムスカリン受容体サブタイプへきわめて高い親和性で結合するムスカリンアンタゴニストであれば、その個体に最適であることが証明されるかもしれない。しかしながら、実際問題として、アセチルコリンはすべてのムスカリン受容体サブタイプと相互作用するので、臨床療法への最良のアプローチとして概して好ましいのは、サブタイプ非選択的なムスカリンアンタゴニストである。
【0026】
有害事象は、AChEI療法の安全性及び忍容性を有意に低下させる。臨床実践においてそれらを制限しようとする試みは、今のところ、低用量で治療を開始してから、その用量をゆっくり上昇させることに依っている。それでもやはり、現行の臨床実践では、AChEI投与量は、主に副作用によって導かれるのであって、神経精神医学系疾患の治療におけるほとんどの薬物とは対照的に、治療効果によって導かれるわけではない。推奨用量より高い用量の投与は、これらの副作用の頻度及び重篤性を高めるだけでなく、追加の種類の有害反応を招く傾向がある。これらには、コリン様作用薬の高用量投与で通常見出されるものが含まれる。これらの高用量有害作用の頻度と潜在的な重篤性を考慮して、臨床実践では、AChEIsの最大推奨経口用量が意図的に超えられることはほとんどない。
【0027】
AChEIsがこの酵素の活性をCNS中で弱めることができる度合いは、CSF中のAChE活性及び関連タンパク質レベルのアッセイによって評価可能である。これら薬物の推奨最大用量レベルでも、典型的には、アルツハイマー病患者のCNSにおいて約45%のAChEI阻害(AChEタンパク質レベルの同時増加を伴わない)しか達成されないこと(Brannan S et al. ACNP 第46回年次会合、プログラム番号4、フロリダ州ボカラトン、2007年12月10日−「Brannan 2007」;Farlow M et al AAN Poster 2008;Davidsson P et al Neurosci Lett 2001; 300: 157-60;Amici S et al Mech Ageing Dev 2001; 122: 2057-62)、AChEI活性の阻害と認知改善が有意に相関していること(Giacobini et al. J Neural Transm. 2002 Jul; 109 (7-8): 1053-65; Darreh-Shori T et al, J Neural Trans 2006; 113: 1791-801)、そして、通常は、最大の機能効果のためにはより高い度合いの酵素遮断を達成しなければならないこと(Jann et al., Clin Pharmacokinet. 2002; 41(10): 719-39−「Jann 2002」)が報告されている。
【0028】
一方、リバスチグミンの用量を2倍にすること(このことは、即時放出錠剤によるAChEI投与を、ピーク血液レベルを鈍化させることによって副作用を減らす皮膚パッチ剤に置き換えたときに臨床的に実践された)は、アルツハイマー病の患者において、副作用を増やすことなく、認知改善の量を有意に高めた。
【0029】
これらの有害作用はまた、用量制限性であるために、AChEI療法の効力を制約する。ヒトの認知機能不全の動物モデルでの諸研究は、アセチルコリンエステラーゼ阻害の量と認知改善の度合いの間に正の用量−応答関係があることを示している(Bennett BM et al., Neuropsychopharmacology. 2007 Mar; 32(3): 505-13)。アルツハイマー病のヒト患者における認知及び行動症状に対するAChEIの効果に関しても、同様の結論が導かれてきた(Jann 2002; Winblad B, Cummings J, Andreasen N, Grossberg G, Onofrj M, Sadowsky C, Zechner S, Nagel J, Lane R. Int J Geriatr Psychiatry. 2007 May; 22(5): 456-67)。
【0030】
先行技術
AChEIのタクリンでのアルツハイマー病の治療に末梢性コリン作用性の胃腸の副作用(具体的には、激しい腹痛、悪心、嘔吐、及び下痢)を併発した4名の患者に関する報告には、AChEIの副作用を軽減することの利益が記載されている(Faber et al. Am J Psychiatry 156: 1, 1999, 156頁−「Faber 1999」)。これらの有害事象は、1日4回、7.5〜15mgを服用する抗コリン作用薬、プロパンテリン(Pro−Banthine(登録商標))の併用によって改善された。これらの結果に基づいて、著者たちは、コリンエステラーゼ阻害剤による不都合な胃腸のコリン作用性効果のある患者でのプロパンテリンの併用を推奨した。
【0031】
それでも、この一般的な概念を、アルツハイマー型認知症の治療を改善するのに上記のように適用することは、これらの障害に罹患している患者に対して限られた利益しか提供しない。プロパンテリンには、この適用における全般的な臨床有用性を失わせる欠点がある。このように、この抗コリン作用薬と臭化メタンテリンのようなこの種の他剤は、このアプローチの治療ポテンシャルの実現を完成させるに達しないのである。Faber et al. による、使用に選択されたこの抗コリン作用薬に関しては4つの主要な問題がある:(1)有効なムスカリン受容体遮断の範囲が胃腸の副作用を軽減するものにのみ限定されたこと;(2)きわめて服薬履行性が悪い認知症の患者における現行の実践使用には、抗コリン作用薬の作用時間が短すぎたこと;(3)最大推奨用量で投与される抗コリン作用薬それ自体が、AChEIの有害作用に付加して現れる有害作用をもたらす可能性があること;そして(4)この報告では、有害事象を抑えることによって、AChEI用量を増やすことで効力を高めることが可能であり得ることが開示も示唆もされていないこと。
【0032】
特に、上記の問題(1)に関しては、プロパンテリンが胃腸の分泌及び運動機能を標的にする、及び/又は胃腸管中のM1受容体をかなり選択的に遮断するというという点で、それは、他のムスカリン受容体サブタイプのAChEI起因性の刺激の効果、特に、CNSの外側の様々な部位に位置しているM2及びM3サブタイプのそれを阻害するその限られた能力の故に、コリンエステラーゼ阻害剤療法の副作用の多くを軽減する効力を欠くであろう。
【0033】
AChEI治療の間に起こるような末梢性M2サブタイプムスカリン受容体の過剰刺激は、徐脈、低血圧、動悸、心房細動、及び他の上室性の心伝導異常といった、頻繁に生じる心臓血管系の副作用に寄与する。これらの異常のいずれも、AChEIでの眩暈及び失神の発生に寄与する可能性がある。同様に、AChEI治療の間に生じるような末梢性M3サブタイプムスカリン受容体の過剰刺激はまた、低血圧、眩暈、及び失神(血管拡張による)のような、頻繁に生じるAChEIsの副作用だけでなく、呼吸困難(肺の気管支収縮による)、食欲不振、消化不良、体重減少、及び腹部の激痛(腸運動の増加による);尿失禁(括約筋の拡張による);及び発汗(外分泌腺の過剰分泌による)にも寄与する可能性がある。最大推奨用量を使用した、Faber 1999 による上記に引用した論文によって注目されたように、プロパンテリンの有害作用には、一般に、頻脈、便秘、かすみ目、口渇、及び尿閉を含めることができる。これらのいずれも安全性及び忍容性の課題を提起して、アルツハイマー型認知症を日常的に明示する高齢者の生活の質を悪化させる。
【0034】
残念ながら、短い作用時間を有する、この種のいくつかの薬物の問題以外に、コリン作用性の伝達を遮断するように作用する薬物は、コリン作用性の副作用を概して軽減するかもしれないが、同時に、中枢のコリン作用性受容体を遮断するそれらの能力によって、AChEI療法の治療利益を減らしてしまうのである。実際、CNSに入る抗コリン作用薬は、一般に、認知機能不全を増悪させるそのポテンシャルを考慮して、アルツハイマー型認知症の患者に禁忌である。さらに、それらは、高齢者で特に認められる様々な有害作用の中でも、口渇、視覚障害を伴う瞳孔拡張と急性の閉塞隅角緑内障のリスク、肺感染症の危険を高める気管支分泌低下、食物吸収障害を伴う胃酸分泌減少、麻痺性イレウスを伴う胃運動低下、偽性閉塞及び便秘、尿閉、見当識障害、激昂、幻覚及び譫妄、心伝導障害及び上室性頻拍性不整脈、狭心症悪化及び鬱血性心不全、並びに体温調節障害を引き起こす場合がある。
【0035】
US5,837,724は、抗コリン作用性のダリフェナシン、化学的には2−[1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン−3−イル]−2,2−ジフェニル−アセトアミドの投与を含んでなる認知を増強するための方法を開示して、ダリフェナシンとAChEIを含んでなる組成物(それによると、組合せ療法におけるAChEIの使用は、特に有益であり得て、相乗効果を有し得る)も開示する。しかしながら、この文献では、切迫性尿失禁のある患者でのオキシブチニン(AChEIを伴わない)とダリフェナシンの比較しか提供されていない。さらに、ダリフェナシンは、M3選択的な抗ムスカリン剤である(C. R Chappie et al. Expert Opin Investig Drugs. 2004 Nov; 13(11): 1493-500)ので、AChEIsのコリン作用性の副作用の緩和は、CNSの外側に位置するM1及びM2サブタイプ受容体をそれぞれ刺激する胃腸及び心臓への効果を阻害するその限られた能力のために、不完全でしかないに違いない。
【0036】
WO2004/069246は、AChEIsと血液脳関門を通過し得ない抗コリン作用性ムスカリン受容体遮断剤を含んでなる医薬組成物を開示し、前記組成物は、老人性認知症の治療を抑えることなく胃腸系の副作用を抑えることができるので、AChEIsの使用を老人性認知症の治療に広げることができる。この文献は、抗コリン作用薬として、臭化プロパンテリン、臭化メチルスコポラミン、ヨウ化イソプロパミド、バレタメート、メト臭化及びメト硝酸スコポラミン、メト硝酸アトロピン、臭化ジポニウム、臭化ピペンゾレート、臭化ペンチエネート、メト臭化ベナクチジン、及び硫酸ジブトリンが引用されているが、具体的に記載されている組成物は、いずれも、臭化プロパンテリンを抗コリン作用剤として作製されているので、その短い作用時間のために、本発明に従って使用されて、アルツハイマー型の認知症に罹患している服薬履行性が悪い高齢者に必要とされる、抗コリン作用剤の1日1回又は2回の投与とは対照的に、1日4回服用される。特に、この引用文献は、ある種の抗コリン作用薬が副作用を少なくする点からだけでなく、認知症の症状に対する効力を高める点からもアルツハイマー型認知症の治療を改善可能であることを開示も示唆もしない。
【0037】
最後に、一連の文献において、A. K. Gunnar Aberg は、尿失禁(US2005/0043342,現在は米国特許6,974,820号)、心収縮障害に罹患している患者の平滑筋障害(US2007/0004766)、及び記憶障害に罹患している患者の平滑筋障害(US2006/0293356)を治療することへの抗コリン作用性トロスピウムの使用を開示している。この最後の文献によれば、記憶障害に罹患している患者の平滑筋障害は、薬物起因性の記憶障害又は既存の記憶障害の薬物起因性の悪化を回避しながら、トロスピウムで治療可能である。この文献は、そのAChEIsに通常の抗コリン作用薬とは反対の効果があると述べているが、それは、AChEIとトロスピウムを組み合わせることによって、アルツハイマー型認知症の症状を改善する可能性について言及も示唆もしていない。
【0038】
Faber 1999 の公表の後で、抗コリン作用剤の安全性と血液脳関門通過能力に関する他の研究成果が公表されてきた。
例えば、認知症及びアルツハイマー病の被検者の膀胱機能不全に関する概説において、Schultz-Lampel, Urologe (A), 2003, 42, 1579-1587 は、診断の合理的根拠と療法の可能性を例解している。他のあり得る薬物群の中でも、著者は、オキシブチニン、プロピベリン、トルテロジン、及び塩化トロスピウムを取り上げて、最後のものがCNS合併症を回避することが可能であるとしている。この論文には、どのAChEIも引用されていない。
【0039】
前向き無作為化研究において、Takeda et al., 33rd Annu. Meet. Int. Continence Soc, 2003, 5-9 October, Abstract 166(「Takeda 2003」)は、尿失禁のある高齢の認知症患者を対象として、認知機能、排尿症状、排尿機能、及び介護者の影響に対する、抗コリン作用薬の塩酸プロピベリン及び塩酸オキシブチニンの効果を報告している。この研究では、AChEIsが引用されていない。著者らは、塩酸プロピベリン及び塩酸オキシブチニンが認知機能と尿失禁の両方に対してだけでなく、介護者の負担や生活の質に対しても有益な効果があったと結んでいる。この文献には、どのAChEIも引用されていない。
【0040】
Scheifer et al., Clinical Therapeutics, 2004, 27(2), 144-153 は、高齢者の過活動膀胱の治療に使用される抗コリン作用薬のCNS有害作用について記載している。この文献には、どのAChEIも引用されていない。
【0041】
過活動膀胱の患者に今日処方されている抗コリン作用薬の概説(Der Urologe, 2006, 7, 830-833)において、H. Madersbacher は、あり得るCNS副作用が含まれる有害事象プロフィールに対する、薬物動態/薬力学の影響へ特に注目を払った。特に、この著者によれば、トルテロジンは、AChEIsとの組合せにおいて、譫妄状態を引き起こすことによって老人患者の認知状況を劇的に悪化させたが、この状態は、治療の中断後に消失した。
【0042】
経口トルテロジンを使用するマウスの薬理学的試験において、Cappon et al., Eur. J. Pharmacol., 2008, 579, 225-228 は、この試験薬がマウス受動回避モデルにおいて記憶に対して影響を及ぼさないことを観察して、トルテロジンがこの試験条件下では認知機能を壊さないと結論した。この文献には、どのAChEIも引用されていない。
【0043】
Siegler et al., Clin Parmacol Ther 2004; 75, 484-488(「Siegler et al. 2004」)は、コリンエステラーゼ阻害剤を認知症のために服用している患者において、尿失禁の抗コリン作用薬での治療について研究した。著者らは、排尿筋の不安定性の影響に患わされている認知症の患者のために抗コリン作用薬とコリンエステラーゼ阻害剤を一緒に処方することが適正であり得て、この組合せは、真に臓器特異的な医薬品の非存在時には部位指向性療法の不完全ではあるがしばしば有効な手段であると結んでいる。
【0044】
要約すると、上記の文献は、プロパンテリンで達成されて、さらなる研究によって確かめられた、Faber 1999 によって発見された副作用軽減を利用して、前記AChEIの用量を高めると同時に神経行動機能と生活の質を改善することを可能にすることによって、他のやり方では不十分なAChEIへの治療応答の大きさ及び/又は期間を改善し得ることを開示も示唆もしていない。これまでは、この方向での試みがなされなかったのである。
【0045】
それでも、アルツハイマー型認知症の症状の実質的な改善を可能にするためにAChEIの用量レジメンを増強することの緊急ニーズがあったし、あり続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】US6,683,105
【特許文献2】US5,837,724
【特許文献3】WO2004/069246
【特許文献4】US2005/0043342
【特許文献5】US2007/0004766
【特許文献6】US2006/0293356
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】MMW-Fortschr. Med. Sonderheit, 2007, 149, 76-78
【非特許文献2】Life Scie. 1990, 46, 1553-58
【非特許文献3】J Med Chem, 1997, 40(18), 2895-2898
【非特許文献4】Neurology 1998, 50, 136-45;
【非特許文献5】Neurology. 2001 Aug 14; 57(3): 489-95
【非特許文献6】Brit. Med. J. 1999, 318, 633-38
【非特許文献7】Eur. Neurol., 2000, 44, 236-41
【非特許文献8】Neurology, 2000, 54, 2261-68
【非特許文献9】Neurology, 2000, 54, 2269-76
【非特許文献10】ACNP 第46回年次会合、プログラム番号4、フロリダ州ボカラトン、2007年12月10日−「Brannan 2007」
【非特許文献11】Farlow M et al AAN Poster 2008
【非特許文献12】Neurosci Lett 2001; 300: 157-60
【非特許文献13】Mech Ageing Dev 2001; 122: 2057-62
【非特許文献14】J Neural Transm. 2002 Jul; 109 (7-8): 1053-65
【非特許文献15】J Neural Trans 2006; 113: 1791-801
【非特許文献16】Clin Pharmacokinet. 2002; 41(10): 719-39−「Jann 2002」。
【非特許文献17】Neuropsychopharmacology. 2007 Mar; 32(3): 505-13
【非特許文献18】Int J Geriatr Psychiatry. 2007 May; 22(5): 456-67
【非特許文献19】Faber et al. Am J Psychiatry 156: 1, 1999, 156頁−「Faber 1999」
【非特許文献20】Expert Opin Investig Drugs. 2004 Nov; 13(11): 1493-500
【非特許文献21】Urologe (A), 2003, 42, 1579-1587
【非特許文献22】33rd Annu. Meet. Int. Continence Soc, 2003, 5-9 October, Abstract 166(「Takeda 2003」)
【非特許文献23】Clinical Therapeutics, 2004, 27(2), 144-153
【非特許文献24】Der Urologe, 2006, 7, 830-833
【非特許文献25】Cappon et al., Eur. J. Pharmacol., 2008, 579, 225-228
【非特許文献26】Clin Parmacol Ther 2004; 75, 484-488(「Siegler et al. 2004」)
【発明の概要】
【0048】
AChEIsの量と臨床意義のある用量範囲で達成される認知改善の度合いとの間に用量応答関係があることを示す、ヒト認知機能の動物モデルにおける、上記に引用した既報の諸研究の結果を考慮して、AChEIsの用量制限性の副作用を抑制又は消失させることが可能であれば、より高い用量の投与により、安全性や忍容性に有意な有害効果を同時に及ぼさない一方で、大いに求められている治療効果の大きさの増加を提供して、薬物作用時間を延長させることが可能になると仮定した。
【0049】
本発明による療法アプローチは、AChEIの副作用に強く対抗するのとは対照的に、その中枢活性をかなり弱めることなく、しかし先行技術によって、特にWO2004/069246によって教示されるようなその効力を高めることなくその種々の副作用を同時に全体的に消すことによって、AChEIの治療効果の増加(即ち、効力の増加)をもたらすという意味で、先行技術によって教示されるアプローチを逆転させる。
【0050】
このように、アルツハイマー型認知症の症状を前記症状に罹患している患者において改善するときに、前記AChEIを上記に定義されるようなnsPAChAと、即ち、CNSより完全ではないとしても概ね排除されて、すべてのムスカリン性アセチルコリン受容体で直接的な薬理学的アンタゴニストとして高い親和性で作用する抗コリン作用剤と、追加の副作用を招く可能性が低い用量で組み合わせて前記患者へ投与することによって、AChEIの効果を最大にすることが実際に可能であることが見出された。
【0051】
驚くべきことに、nsPAChA/AChEIの組合せ治療によって、現行の最大耐薬量より高いAChEI用量で、そして抗コリン作用療法で現在使用されているものに等しいか又はそれより低いnsPAChA用量でも、臨床的に有意なコリン作用性の末梢性の有害作用の発現を伴わずに、コリン様効力の最大化が達成されることも見出された。
【0052】
本発明によれば、薬理活性量のAChEIと薬理活性量のnsPAChAを医薬担体と組み合わせて含んでなる医薬組成物は、アルツハイマー型認知症の症状を前記症状に罹患している患者において、AChEI療法をその重篤な副作用のために中止したか又はもはやそれに応答しない患者の場合であっても改善するので、患者の生活の質の改善だけでなく、それらの症状の客観的でかつては実現されなかった改善を保証する。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、PNS中のコリン作用性受容体の同時刺激の結果として生じる、アルツハイマー型認知症のコリン様治療薬の一般的な有害事象を軽減することによって、アルツハイマー型認知症への慣用のコリン作用療法の効力を増強するために改善された方法を提起する。コリン様療法より生じる、CNS中ではなくPNS中のすべてのムスカリン受容体の活性化を選択的に阻害するように作用する薬物には、その有害作用を抑えるポテンシャルがあるので、より高いコリン様治療薬の用量が投与可能であり、末梢媒介性の有害作用をさほど伴うことなく、より高くてより延長された抗認知症効果がもたらされる。有利な薬理作用時間を有する末梢性抗コリン作用薬と延長放出性のコリン様薬を単一剤形において組み合わせることによって、さらに長い作用時間という患者にとっての利益も達成される。
【0054】
このように、本発明の目的は、アルツハイマー型認知症に罹患している患者において、併発する明らかな有害作用を伴わずに、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の最大耐薬量を増やすための方法を提供することであり、前記方法は、前記AChEIを非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)と組み合わせて前記患者へ投与することを含み、それによって前記患者のCNSでは増強されたアセチルコリンエステラーゼ阻害が達成されて、前記患者におけるアルツハイマー型認知症の症状は改善される。
【0055】
本発明はまた、アルツハイマー型認知症の治療用医薬組成物の製造のための非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)のAChEIと組み合わせた使用を提供し、これにより前記AChEIの最大耐薬量は高められ、CNS中でのより高い度合いのアセチルコリンエステラーゼ阻害が達成されて、アルツハイマー型認知症の症状は、併発する明らかな有害作用を伴わずに、より大きな程度まで改善される。
【0056】
アルツハイマー型認知症の症状を改善するときのnsPAChAsの効力は、前記nsPAChAsがすべてのAChEIsの治療用量の4倍までの増加を可能にするという事実による。
【0057】
有利なAChEIsは、1,2,3,4−テトラヒドロ−9−アクリジンアミン(タクリン)、9−アミノ−2,3,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−1H−シクロペンタ[b]キノリン(イピダクリン);(±)−2,3−ジヒドロ−5,6−ジメトキシ−2−[[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]メチル]−1H−インデン−1−オン(ドネペジル)及びその医薬的に許容される塩、特に塩酸塩、3−[2−(1−ベンジル−4−ピペリジル)エチル]−5,7−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2−f]−1,2−ベンゾイソオキサゾール−6−オン(イコペジル)及びその医薬的に許容される塩、特にマレイン酸塩、3−[1−ベンジルピペリジン−4−イル]−1−(2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1−ベンザゼピン−8−イル)プロパン−1−オン(ザナペジル)及びその医薬的に許容される塩、特にフマル酸塩、(S)−N−エチル−N−メチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−フェニルカルバメート(リバスチグミン)及びその医薬的に許容される塩、特に(2R,3R)−酒石酸水素塩、4aS,6R,8aS−3−メトキシ−11−メチル−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロキシ−6H−ベンゾフロ[3a,3,2−e,f]ベンザピン−6−オール(ガランタミン);(1R,9S,13E)−1−アミノ−13−エチリデン−11−メチル−6−アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ−2(7),3,10−トリエン−5−オン(ヒュペルジンA)、並びに一般式I:
【0058】
【化1】

【0059】
[式中、Qは、(C−C)アルキル又はメトキシ基で置換されていてもよいフェニル基であり、Zは、酸素又はイオウ原子、又はN−E’基であり、EとE’は、独立して、水素であるか又は、フェニル若しくはベンジル基で置換されていてもよいメチル基である]によって含まれる、フェンセリンとその類似体のように、この適応症のために現在使用されているか又は試験されているものである。
【0060】
US6,683,105に記載されている例示の式(I)のAChEIsは、フェンセリン(Q=フェニル;E=CH;Z=N−CH);(−)−N,N−ビスノルフェンセリン(Q=フェニル;E=H;Z=N−H);4’−メトキシフェンセリン(Q=4’−メトキシフェニル;E=CH;Z=N−CH);(−)−N,N−ビスベンジルノルフェンセリン(Q=フェニル;E=CH;Z=N−CH);トルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=N−CH);N−ベンジルノルトルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=N−CH−C);N−フェネチルノルトルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=N−CH−CH−C);N−ノルトルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=N−H);N−ベンジルノルトルセリン(Q=o−トリル;E=N−CH−C;Z=N−CH);N−フェネチルノルトルセリン(Q=o−トリル;E=N−CH−CH−C;Z=N−CH);N−ノルトルセリン(Q=o−トリル;E=H;Z=N−CH);N,N−ビスノルトルセリン(Q=o−トリル;E=H;Z=N−H);(−)−N,N−ビスベンジルノルトルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=N−CH);シムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=N−CH);N−ベンジルノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=N−CH−C);N−フェネチルノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=N−CH−CH−C);N−ノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=N−H);N−ベンジルノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=N−CH−C;Z=N−CH);N−フェネチルノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=N−CHCH;Z=NCH);N−ノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=H;Z=N−CH);N,N−ビスノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=H;Z=N−H);(−)−N,N−ビスベンジルノルシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=N−CH);チアシムセリン(Q=p−イソプロピルフェニル;E=CH;Z=S);チアトルセリン(Q=o−トリル;E=CH;Z=S)である。
【0061】
塩酸ドネペジル、リバスチグミン(2R,3R)−酒石酸水素塩、及びガランタミンは、好ましいAChEIsである。
有利には、使用されるnsPAChAsは、四級アンモニウムnsPAChAs、スルホニウムnsPAChAs、3,4−ジヒドロ−1−フェニル−2(1H)−イソキノリンカルボン酸(1S)−(3R)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル(ソリフェナシン)及びその医薬的に許容される塩、2,2−ジ(フェニル)−2−プロポキシ酢酸1−メチルピペリジン−4−イル(プロピベリン)及びその医薬的に許容される塩、α−シクロヘキシル−α−ヒドロキシ−α−フェニル酢酸1,4,5,6−テトラヒドロ−1−メチルピリミジン−2−イルメチル(オキシフェンシクリミン)及びその医薬的に許容される塩、(R)−N,N−ジイソプロピル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロパンアミン(トルテロジン)及びその医薬的に許容される塩である。前記nsPAChAsは、併用投与されるAChEIの作用時間に対応する適正な作用時間を有するnsPAChAsが成功裡に使用可能であるとしても、好ましくは、少なくとも6時間、有利には8〜24時間、より有利には10〜24時間、好ましくは12〜24時間の作用時間がある化合物である。
【0062】
特に有利な四級アンモニウムnsPAChAs又はスルホニウムnsPAChAsは、式II:
【0063】
【化2】

【0064】
[式中、
Rは、式(a)〜(e):
【0065】
【化3】

【0066】
{AはメチルであってA’は(C−C)アルキル若しくは2−フルオロエチル基であるか又はAとA’は1,4−ブチレン又は1,5−ペンチレン鎖を形成し、Lは、水素又はメトキシであり、AlkとAlk’は、それぞれ(C−C)アルキルであり、そして、Yは、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、及び2−オキサ−1,3−プロピレンからなる群より選択される二価の基であり;対応する対イオンは、クロロ、ブロモ、ヨード、酒石酸、酒石酸水素、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、硫酸、硫酸水素、又はメチル硫酸のアニオンのような、医薬的に許容されるアニオンである}の基からなる群より選択される基であり;
nとmは、独立して、0又は1であり;
Xは、(C−C)アルキレン基であり;
とRは、それぞれ、フェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−シクロヘキセニル、2−チエニルであり、そしてRが基(a)であるときは、それぞれ(C−C)アルキルも表し;
は、H又はOHであるか、又はRが基(a)であるときのみ、COOAlk基でもあり、Alkは(C−C)アルキル基である]
の化合物である。
【0067】
AchEIsと組み合わせた、アルツハイマー型認知症の治療用医薬品を製造するために使用される、上記式IIの例示のnsPAChAsは:
臭化メチルアニソトロピン[R=(a);A=A’=CH;L=H;n=1;m=0;R=R=n−C;R=H];
臭化シクロトロピウム[R=(a);A=CH;A’=イソプロピル;L=H;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロペンチル;R=H];
臭化フルトロピウム[R=(a);A=CH;A’=2−フルオロエチル;L=H;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
臭化メチルホマトロピン[R=(a);A=A’=CH;L=H;n=1;m=0;R=フェニル;R=R=H];
臭化シントロピウム[R=(a);A=CH;A’=イソプロピル;L=H;n=1;m=0;R=R=n−C;R=H];
メチル硫酸テマトロピウム[R=(a);A=A’=CH;L=H;n=1;m=0;R=フェニル;R=COOC;R=H];
臭化トロペンジリン[R=(a);A=A’=CH;L=メトキシ;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
塩化トロスピウム[R=(a);A+A’=1,4−ブチレン;L=H;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
臭化クリジニウム[R=(b)−3−;Alk=メチル;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
臭化ドロクリジニウム[R=(b)−3−;Alk=メチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロペンチル;R=OH];
臭化ベンジロニウム[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=エチル;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
臭化ベンゾピロニウム[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=0;R=R=フェニル;R=OH];
臭化シクロピロニウム[R=(c)−3−;Alk=メチル、及びAlk’=エチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロペンチル;R=H];
臭化グリコピロニウム(グリコピロレート)[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロペンチル;R=H];
臭化ヘテロニウム[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=2−チエニル;R=OH];
臭化ヘキソピロニウム[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロヘキシル;R=H];
臭化オキシピロニウム[R=(c)−2−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=シクロヘキシル;R=OH];
臭化リトロピロニウム[R=(c)−3−;AlkとAlk’の両方=メチル;n=1;m=0;R=フェニル;R=シクロペンチル;R=OH];
ヨウ化エチピリウム[R=(d);Alk=メチル;Y=1,2−エチレン;n=1;m=1;X=1,2−エチレン;R=R=フェニル;R=OH];
メチル硫酸フェンクレキソニウム[R=(d);Alk=CH;Y=1,3−プロピレン;n=0;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=1−シクロヘキセニル;R=H];
塩化トリシクラモール(プロシクリジンメトクロリド)[R=(d);Alk=メチル;Y=1,2−エチレン;n=0;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=シクロヘキシル;R=OH];
ヨウ化チエモニウム[R=(d);Alk=メチル;Y=2−オキサ−1,3−プロピレン;n=0;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=2−チエニル;R=OH];
ヨウ化ヘキサソニウム[R=(e);n=1;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=シクロヘキシル;R=H];及び
ヨウ化オキシソニウム[R=(e);n=1;m=1;X=1,2−エチレン;R=フェニル;R=シクロヘキシル;R=OH]である。
【0068】
US3,480,626に記載されて、塩化トロスピウムというその国際一般名で知られている、アゾニアスピロ[3β−ベンジロイルオキシ−(1α,5α)−ノルトロパン−8,1’−ピロリジン]クロリド(式II,A+A’=1,4−ブチレン)、トロスピウムの酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、及びコハク酸塩、US6,017,927に記載されるソリフェナシンとそのコハク酸との化合物、DD106643に記載されるプロピベリン及びその塩酸塩、GB795758に記載されるオキシフェンシクリミン及びその塩酸塩、US5,382,600に記載されるトルテロジン及びその酒石酸水素塩は、好ましいnsPAChAsである。US2006/0293356には、トロスピウムの他の医薬的に許容される塩、特にコハク酸及び酒石酸とのそれが引用されている。トロスピウムは、長期作用性のnsPAChAであり、その吸収量は、約18時間の平均血漿半減期を有する。
【0069】
nsPAChAsがAChEIsの最大耐薬治療量の増加を可能にするという事実は、健常ボランティアを対象とした、リバスチグミンのようなAChEI剤単独の場合の、並びに、塩化トロスピウムのようなnsPAChAと併用した場合の、無作為の、制御された安全性、寛容性、薬物動態及び薬力学の試験に由来する、。
【0070】
リバスチグミン[(2R,3R)−酒石酸水素塩]と塩化トロスピウム(本試験では、単に「トロスピウム」と呼称する)の両方の承認された標準の経口剤形を使用する。トロスピウムのプラセボ錠剤は、標準トロスピウム錠剤と外観が本質的に同一である。すべての薬物を1日1回、午前中に経口投与する。
【0071】
本試験の一次目的は、代表的なAChEIであるリバスチグミンの単独療法として(即ち、リバスチグミン単独を3mg〜36mgの範囲に及ぶ1日用量で経口投与するとき)、そして組合せ療法として(即ち、リバスチグミンを代表的なnsPAChAであるトロスピウム[20又は40mgの1日用量で]と一緒に経口投与するとき)の最大耐薬量(MTD)を決定することである。
【0072】
本試験の二次目的は、リバスチグミンのMTDで投与するときに、EEG活性に影響を及ぼすトロスピウムの能力を判定することである。
これは、36名の被検者について単一のセンターで14日間まで実施した、無作為の、盲検、プラセボ対照、クロスオーバーの、そして並行群間、用量上昇、非治療の試験である。臨床歴、身体検査、バイタルサイン、及び臨床検査が含まれる医療手技を、スクリーニング時に、試験を通して一定の所定間隔で、そして最終の薬物投与後7日目のフォローアップ来診時に実施する。最初と最後のトロスピウム用量の投与から5時間後にEEGを得る。本試験の間、単回1日用量のリバスチグミン又はリバスチグミンプラセボとトロスピウム又はトロスピウムプラセボをいずれも午前8時に経口投与する。薬物投与に先立つ8時間の間とその後4時間まで、すべての被検者を絶食状態(NPO)に維持する。酒石酸水素リバスチグミンの1日用量は、3mgから始めて、臨床的に適正とみなされているように、少量増分で36mg(リバスチグミン塩基で)にまで及んでよく;トロスピウムの1日用量は、20mgから始めて、臨床的に適正なように、40mgへ増やしてよい。
【0073】
被検者は、全般的に良好な健康状態にあるとみなされる、18歳〜80歳を含む。併用医薬品は、中枢神経系に入らず、コリン作用性の機能に末梢で影響を及ぼさないことが知られていて、試験を通して一定の用量で与えられるもの以外は、許容されない。
【0074】
臨床の有害な経験(AEs)、バイタルサイン(座位の収縮期及び拡張期血圧;橈骨動脈拍)、12リードECG、尿分析が含まれる臨床検査、及び身体検査に基づいて、安全性と忍容性を評価する。特にリバスチグミンのAEsに関連して、常に以下を評価する:食欲不振、悪心、嘔吐。トロスピウムのAEsに関連して、常に以下を評価する:口渇、便秘、消化不良、腹痛、かすみ目、頭痛、眩暈、嗜眠、及び混乱。
【0075】
薬物動態評価には、リバスチグミンをそのMTDで単独療法として与えるときと、リバスチグミンをそのMTDでトロスピウムとともに与えるときの試験日(名目上は、試験5日目と11日目)に静脈血試料を抜き取って、両薬物のその経口投与から75分後の血清濃度を測定する。
【0076】
一次及び二次目的の測定値の解析は、治療意図(ITT)集団と試験完了者の両方で実施する。ITT集団には、すべてのベースライン評価と少なくとも1回の無作為化後評価を受けた無作為化被検者がすべて含まれる。
【0077】
意図される使用のために、PAChAは、有効成分としての前記nsPAChAを医薬担体と混合して含んでなる医薬組成物に製剤化される。
nsPAChAは、疾患関連の認知症と他の神経行動症状を最大限に緩和するのに十分なAChEIの用量の投与によって引き起こされ得る、末梢性媒介性の有害作用を抑える量で存在する。
【0078】
従って、本発明は、その別の側面により、有効成分としての非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)を医薬担体と混合して含んでなる、アルツハイマー型認知症に罹患している患者のCNSにおいてより高いアセチルコリンエステラーゼ阻害を誘導するための医薬組成物を提供し、前記患者は、最大耐薬量より高いアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の用量を服用する。このように、AChEIsを単独で服用するときには他のやり方で達成し得ない、より高いアセチルコリンエステラーゼ阻害のそのような誘導によって、前記患者におけるアルツハイマー型認知症の症状は、さらに改善される。
【0079】
有利にも、これらの医薬組成物は、nsPAChA有効成分を、胃腸の激痛、膀胱痙攣、喘息、動揺病、筋肉痙攣、及び平滑筋収縮障害のような障害の治療に現在使用されている組成物で使用される投与量の20%〜200%の量で含む。本発明によるnsPAChAsを使用して製造される組成物は、アルツハイマー型認知症に罹患している患者に対して、末梢コリン作用系の過剰刺激の臨床的に有意な症状を伴うことなく、AChEIの最大耐薬量の1.5〜4倍までの投与を可能にする。
【0080】
本組成物は、好ましくは、経口又は非経口、特に経皮投与用の単位剤形に製剤化されて、ここで有効成分は、医薬担体と混合される。
本発明によるnsPAChAsを使用して製造される医薬組成物は、アルツハイマー型認知症の症状の治療に適応されて、それとともに同時的又は連続的に投与されるAChEIの現在使用される用量の増加を可能にすることによって、前記治療用量の前記増加を妨げる副作用を伴わずに、前記症状をより大きな程度で改善する。
【0081】
塩化トロスピウムを好ましい有効成分として使用する経口投与に好ましい医薬組成物は、IR製剤において、前記有効成分の4〜40mg、好ましくは10〜40mg、又はER製剤において、その15〜120mg、好ましくは30〜120mgを含有可能である。前記好ましい医薬組成物は、5〜40mgの塩酸ドネペジル、3〜20mgの酒石酸リバスチグミン、又は8〜40mgのガランタミンの同時又は連続投与を、明確な副作用を伴わずに可能にする。
【0082】
有利な態様により、本発明によるnsPAChAsを使用することによって製造する医薬組成物は、他の有効成分、特に、CNSにおいてコリン作用剤として作用してアルツハイマー型認知症の症状を改善するAChEIを、治療関連の有害作用をほとんど伴わずに、疾患関連の神経行動症状を最大限に緩和するのに十分な量で含有する単位形態でも存在する。
【0083】
このように、本発明の別の目的は:
(a)ソリフェナシン、ソリフェナシンの医薬的に許容される塩、プロピベリン、プロピベリンの医薬的に許容される塩、オキシフェンシクリミン、オキシフェンシクリミンの医薬的に許容される塩、トルテロジン、トルテロジンの医薬的に許容される塩、及び式II:
【0084】
【化4】

【0085】
[式中:
Rは、式(a)〜(e):
【0086】
【化5】

【0087】
{AはメチルであってA’は(C−C)アルキル若しくは2−フルオロエチル基であるか又はAとA’は1,4−ブチレン又は1,5−ペンチレン鎖を形成し、Lは、水素又はメトキシであり、AlkとAlk’は、それぞれ(C−C)アルキルであり、そして、Yは、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、及び2−オキサ−1,3−プロピレンからなる群より選択される二価の基であり;対応する対イオンは、医薬的に許容されるアニオンである}の基からなる群より選択される基であり;
nとmは、独立して、0又は1であり;
Xは、(C−C)アルキレン基であり;
とRは、それぞれ、フェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−シクロヘキセニル、2−チエニルであり、そしてRが基(a)であるときは、それぞれ(C−C)アルキルも表し;
は、H又はOHであるか、又はRが基(a)であるときのみ、COOAlk基でもあり、Alkは(C−C)アルキル基である]
の四級アンモニウム又はスルホニウム化合物からなる群より選択されるnsPAChA;並びに
(b)AChEI;
を少なくとも1つの医薬担体と混合して含む医薬単位形態を提供することである。
【0088】
本発明によりヒトのアルツハイマー型認知症の治療を改善するための医薬組成物は、nsPAChA[成分(a)]とAChEI[成分(b)]の混合物を含んでよく、ここで成分(b)は、疾患関連の神経行動症状を最大限に緩和するのに十分な量で存在して、ここで成分(a)は、血液脳関門を明らかには通過しないで、付随のnsPAChAを伴わずに投与されたならばAChEIによって引き起こされる末梢媒介性の有害作用を抑える第二の量で存在する。
【0089】
有利なnsPAChAsは、ソリフェナシン及びその塩、プロピベリン及びその塩、オキシフェンシクリミン及びその塩、並びに、ホマトロピン四級塩、アニソトロピン四級塩、トロスピウム四級塩、クリジニウム四級塩、ベンジロニウム四級塩、及びグリコピロニウム四級塩のような上記式IIの四級アンモニウム塩又はスルホニウム塩である。
【0090】
好ましい成分(a)は、トロスピウムの医薬的に許容される塩、具体的にはトロスピウムの塩化物、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、又は酒石酸塩、ソリフェナシンの医薬的に許容される塩、特にはコハク酸とのその1:1化合物、プロピベリンの医薬的に許容される塩、特にはその塩酸塩、オキシフェンシクリミンの医薬的に許容される塩、特にはその塩酸塩、又はトルテロジンの医薬的に許容される塩、特にはそのL−酒石酸水素塩である。
【0091】
有利な成分(b)は、1,2,3,4−テトラヒドロ−9−アクリジンアミン(タクリン)、9−アミノ−2,3,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−1H−シクロペンタ[b]キノリン(イピダクリン);(±)−2,3−ジヒドロ−5,6−ジメトキシ−2−[[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]メチル]−1H−インデン−1−オン(ドネペジル)及びその医薬的に許容される塩、(S)−N−エチル−N−メチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−フェニルカルバメート(リバスチグミン)及びその医薬的に許容される塩、4aS,6R,8aS−3−メトキシ−11−メチル−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロキシ−6H−ベンゾフロ[3a,3,2−e,f]ベンザピン−6−オール(ガランタミン);(1R,9S,13E)−1−アミノ−13−エチリデン−11−メチル−6−アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ−2(7),3,10−トリエン−5−オン(ヒュペルジンA)、及びフェンセリンと一般式Iにより含まれるその類似体である。
【0092】
有利なAChEIsには、アルツハイマー型の認知症に罹患している患者への標準治療の今や一部であり、他の様々な認知機能の慢性進行性障害に適応外でも広く使用されているものが含まれる。AChEIsは、一般的な作用機序として、アセチルコリン媒介性神経伝達の増強を有する。いずれも、ドネペジル、ドネペジルの医薬的に許容される塩、特にはその塩酸塩;イコペジル、イコペジルの医薬的に許容される塩、特にはそのマレイン酸塩;ザナペジル、ザナペジルの医薬的に許容される塩、特にはそのフマル酸塩;リバスチグミン、リバスチグミンの医薬的に許容される塩、特にはその酒石酸水素塩;ガランタミン、ガランタミンの医薬的に許容される塩;ヒュペルジンAのように、ヒトのCNSにおいて、アセチルコリンの分解酵素、アセチルコリンエステラーゼを阻害することによって、そのアベイラビリティを高めて延長させるように作用する。
【0093】
好ましい成分(b)は、タクリン;ヒュペルジンA;塩酸ドネペジル;リバスチグミンの(2R,3R)−酒石酸水素塩(酒石酸リバスチグミン);ガランタミンからなる群より選択されるAChEIであり、最後の3つの化合物が特に好ましい。上記に示したように、これらのAChEIsは、その薬理学的プロフィールとAChE及びブチリルコリンエステラーゼへのその親和性において様々である。
【0094】
成分(b)の用量は、前記成分の固有のアセチルコリンエステラーゼ阻害効力に従って変動し得る。有利には、前記用量は、同じAChEIが単独で投与されるときに現在使用される最大耐薬量より1.5倍〜4倍高い。
【0095】
本発明の単位形態では、即時放出又は延長放出のために、nsPAChA成分(a)は、胃腸の激痛、膀胱痙攣、喘息、動揺病、筋肉痙攣のような障害の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有されるnsPAChAの量の20%〜600%の量で存在して、AChEI成分(b)は、アルツハイマー型認知症の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記AChEIの量の100%〜600%の量で存在する。
【0096】
より特定的には、nsPAChAは、IR単位形態において、上記障害の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記nsPAChAの量の20%〜200%に及ぶ量で存在するか、又はER単位形態において、上記障害の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記nsPAChAの量の75%〜600%に及ぶ量で存在する。例えば、成分(a)として使用される好ましい抗コリン作用剤である塩化トロスピウムは、IR単位形態において、投与量単位につき4mg〜120mg、特に約4〜約40mg、好ましくは、投与量単位につき10〜40mgの量で存在するか、又はER単位形態では、15〜120mg、好ましくは30〜120mgの量で、即ち、過活動膀胱の治療用のIR単位形態に存在する塩化トロスピウムの量の20%〜600%の量で存在する。
【0097】
即時放出又は延長放出のための単位形態において、AChEI成分(b)は、アルツハイマー型認知症の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記AChEIの量の約100%〜約600%の量で存在する。
【0098】
より特定的には、AChEI成分(b)は、IR単位形態において、アルツハイマー型認知症の緩和治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記AChEIの量の約100%〜約400%、好ましくは150%〜400%に及ぶ量で存在するか、又はER単位形態において、アルツハイマー型認知症の治療に現行で投与されるIR単位剤形に含有される前記AChEIの量の150%〜600%、好ましくは200%〜600%に及ぶ量で存在する。例えば、好ましい成分(b)の中で、塩酸ドネペジルは、投与量単位につき5mg〜60mg、好ましくは7.5〜60mgの量で存在し、リバスチグミンは、その酒石酸水素塩として、用量単位につき1.5mg〜36mg、好ましくは2.25mg〜36mgの量で存在し、ガランタミンは、用量単位につき4〜72mgの量で存在する。ヒュペルジンAは、用量単位につき100μg〜1.2mg、好ましくは150μg〜1.2mgの量で存在する。
【0099】
有利には、前記AChEIは、単独で投与されるとき、同じAChEIの最大耐薬量より高い用量で投与可能であり、好ましくは、アルツハイマー型認知症の治療における現行推奨量より1.5〜4倍高いものである。
【0100】
本発明の単位形態は、錠剤、カプセル剤、経口投与用に予め測定した容量の液体溶液剤又は懸濁液剤、又は経皮適用のためのパッチ剤であってよい。前記単位形態において、nsPAChAとAChEIは、既知の技術に従って、医薬組成物中の医薬担体と混合して、一緒に混合しても分離させてもよい。
【0101】
成分(a)と成分(b)は、経口使用のための既知製剤において慣用の医薬担体とともに製剤化されて、ここで前記成分は、例えば、カプセル剤又は2コンパートメントカプセル剤に導入される2つの錠剤、又は多層(二層)錠剤において一緒に混合されるか又は分離され、ここでこの2つの成分は、既知の技術に従って、ともにIR又はER形態であるか、2つの成分の一方がIR形態にあって、他方がER形態にある。
【0102】
医薬担体及び媒体は、経口、頬内、及び非経口、特に経皮の投与のための組成物の製造に通常使用されるものである。適正な単位形態は、錠剤、軟又は硬ゼラチンカプセル剤、サシェ剤中の散剤又は顆粒剤、及び好適に測定された経口溶液剤又は懸濁液剤のような経口形態、並びに経皮投与用のパッチ剤を含む。
【0103】
成分(a)と成分(b)はまた、シクロデキストリン、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、又はメチル−β−シクロデキストリンとのその複合体の1つの形態で存在してよい。
【0104】
成分(a)と成分(b)はまた、1以上の担体又は添加剤と一緒であってもよい、マイクロカプセル剤の形態で製剤化可能である。
経口投与では、成分(a)と成分(b)は、一緒に又は別々に、その有効成分を、前記有効成分を錠剤、糖衣錠剤、経口崩壊錠剤、カプセル剤、液体溶液剤又は懸濁液剤、シロップ剤、等に製剤化することを可能にする慣用の医薬的に許容される担体と混合することによって製剤化される。
【0105】
IR錠剤用の担体には、例えば、デンプン、セルロースとその誘導体;タルク、ステアリン酸、又はステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;タルク、粉末化セルロース、乳糖、トウモロコシデンプン又はコーンスターチのようなデンプン、マンニトール、ソルビトールのような希釈剤;微結晶性セルロース又はクロスポビドンのような崩壊剤;ポリエチレングリコール又はステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤(lubrifiants);メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸塩のようなリガンド;サッカロース、デキストロース、マンニトール、サッカリンのような甘味剤;又は天然若しくは合成オイル剤のような香味剤が含まれる。
【0106】
経口崩壊錠剤用の担体には、例えば、滑沢剤、凝集剤、甘味剤、香味剤、又は脱凝集剤、並びに、ソルビトール、マンニトール、乳糖、及びセルロースのように、成分(a)及び(b)の頬内粘膜吸収を向上させる薬剤が含まれる。
【0107】
液体、通常は水性の懸濁液剤又は溶液剤用の担体には、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムのような抗酸化剤、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドンのような濃化剤、メチルパラベン、エチルパラベン、エチレンジアミノ四酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、又はソルビン酸のアルカリ塩のような保存剤、並びに香味剤と甘味剤が含まれる。
【0108】
経口崩壊錠剤と液体の懸濁液剤又は溶液剤に含有される甘味剤は、ショ糖、デキストロース、キシリトール、マンニトール、又はソルビトールのような、還元されていてもよい天然糖、又は、サッカリンナトリウム又はアスパルテームのような合成産物であってよい。
【0109】
香味剤は、合成オイル及び天然オイルの医薬的に許容されるフレーバー及びテイストであり、後者は、シナモン、ペパーミント、アニス及びシトロンの葉、苦味扁桃、柑橘類、特にオレンジ及び/又はレモン、リンデン及びグレープフルーツのオイルといった、植物、葉、花、果実、及びこれらの組合せより抽出される。また、チョコレート、バニラ、又はユーカリのフレーバー、並びに、果実、特に、リンゴ、洋ナシ、モモ、イチゴ、チェリー、アプリコット、オレンジ、レモン、及びブドウのエキスも、有利に使用可能である。
【0110】
本発明による組成物は、本明細書の上記に記載のように、2つの錠剤を含有するカプセル剤の形態であってよく、そのうちの一方は成分(a)を含んでなり、他方は成分(b)を含んでなる。
【0111】
nsPAChA/AChEIの会合物(association)は、この2つの成分の一方又は両方が、例えば前記成分のヒドロキシプロピルメチルセルロース又はフィルムコート微顆粒剤中の分散剤として制御放出製剤にある錠剤に製剤化可能である。有利にも、AChEIは、ER製剤において、錠芯にあり、nsPAChAは、IR製剤において、多層錠剤の外層にあり、ここでは、例えば、錠芯と外層がともにフィルムでコートされている。同様に、一方が成分(a)をIR又はER製剤において含有して、他方が成分(b)をIR又はER製剤において含有する、2つの別々の部分より作製されるカプセル剤も使用可能である。
【0112】
ER錠剤の担体及び媒体には、アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー及びコポリマー;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、又はナトリウムカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体;ゴム;ワックス;グリセリド又は脂肪族アルコール、又はこれらの混合物のような放出遅延(retardant)材料が含まれる。
【0113】
特に、本発明の単位形態は、トロスピウムの医薬的に許容される塩をnsPAChAとして、そして、10mg〜160mgの量のタクリン、5mg〜40mgの量のドネペジル及びその医薬的に許容される塩、1.5〜36mgの量のリバスチグミン及びその医薬的に許容される塩、4〜48mgの量のガランタミン、及び100μg〜1.2mgの量のヒュペルジンAからなる群より選択されるメンバーをAChEIとして含む。
【0114】
1つの態様によれば、本発明の組成物は、即時又は延長放出用の医薬担体と混合して、成分(a)と成分(b)を一緒に混合することによって製剤化する。この態様による有利な組成物は、4〜40mgの塩化トロスピウムを成分(a)として;そして
−5〜50mgのドネペジル(塩酸塩として);又は
−1.5〜30mgのリバスチグミン(酒石酸水素塩として);又は
−4〜60mgのガランタミンを成分(b)として含み、ここで成分(a)及び(b)は、IR製剤において、一緒に医薬担体とともに混合されて、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0115】
別の態様によれば、本発明の組成物は、例えば、GB1204580又はUS2007/0224259に記載されるように、成分(a)を即時及び延長放出用の医薬担体と錠剤(錠剤A)において混合し、成分(b)を、別に、即時及び延長放出用の医薬担体と錠剤(錠剤B)において混合して、錠剤Aと錠剤Bを経口投与用のカプセル剤に導入することによって製剤化する。この態様による有利な組成物は、4〜40mgの塩化トロスピウムを成分(a)として、IR製剤において医薬担体と混合して含んでなる錠剤A;及び
−5〜50mgのドネペジル(塩酸塩として);又は
−1.5〜30mgのリバスチグミン(酒石酸水素塩として);又は
−4〜50mgのガランタミンを成分(b)として、IR製剤において医薬担体とともに含んでなる錠剤Bをそれぞれ含有する軟又は硬ゼラチンカプセル剤からなり、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0116】
さらなる態様によれば、本発明による組成物は、例えばWO2006/089493に記載のように、一方の薬物含有層からの薬物の放出が他方の薬物含有層からの薬物の放出に干渉しない、2つの薬物用量を放出する二層錠剤に製剤化される。この態様による有利な組成物は、
層A(4〜40mgの塩化トロスピウムを成分(a)として、IR製剤において医薬担体とともに含んでなる)及び
層B(4〜60mgのガランタミンを成分(b)として、IR製剤において医薬担体と混合して含んでなる)からなり、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0117】
別の態様によれば、本発明の組成物は、口腔で崩壊可能な錠剤に製剤化される。この態様による特に有利な組成物は、
−4〜40mgの塩化トロスピウムを成分(a)として;及び
−5〜50mgの塩酸ドネペジルを成分(b)として、頬内粘膜吸収用のIR製剤において医薬担体と混合して含んでなる経口崩壊錠剤であり、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0118】
別の態様によれば、本発明の組成物は、成分(a)と成分(b)が慣用の担体又は媒体と混合して水に溶解又は懸濁している、経口投与用の溶液剤に製剤化される。この態様による特に有利な組成物は、
−4〜40mgの塩化トロスピウムを成分(a)として;及び
−4〜50mgのガランタミンを成分(b)として経口投与用の液体IR製剤において医薬担体と混合して含んでなる経口溶液剤又は懸濁液剤であり、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0119】
別の態様によれば、本発明の組成物は、経皮投与用のパッチ剤に製剤化される。この態様による特に有利な組成物は、
−4mg/24時間〜120mg/24時間の塩化トロスピウムを成分(a)として;及び
−4.6mg/24時間〜30mg/24時間のリバスチグミン(酒石酸水素塩として)を成分(b)として、全身の経皮投与に適している医薬的に許容される担体又は希釈剤とともに含んでなる経皮パッチ製剤である。
【0120】
本発明の別の態様は、
−5〜15mgのコハク酸ソリフェナシンを成分(a)として;及び
−4〜50mgのガランタミンを成分(b)として、経口投与用のIR製剤において医薬担体と混合して含んでなる錠剤からなる単位剤形を提供し、前記組成物は、1日1回又は2回投与されるように予定される。
【0121】
アルツハイマー型認知症の治療において現在単独で使用されているアセチルコリンエステラーゼ阻害剤タイプの既知の薬物と比較して、上記の組み合わされた医薬組成物は、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のより多いのでより療法上有効な量の安全で忍容し得る投与を可能にすることによって、より大きくてより長い効力とより少ない有害作用を示す。特に、本発明の医薬組成物のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、アセチルコリンエステラーゼ阻害を必要とする患者、特にアルツハイマー型の認知症を1日1回又は2回のベースで治療するときに、単独でも、他の医薬品と組み合わせても安全で有効である。
【0122】
本発明の組成物で治療される病理学的状態には、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病認知症、及び、脳のアセチルコリン媒介性の神経伝達を増強するように企図された医薬品によって一部治療される、ヒトの認知及び神経行動機能の他の障害が含まれる。
【0123】
治療効力は、アルツハイマー型の認知症に関連した認知と他の神経行動の無能力が抑えられる度合いによって、文献にあるような標準尺度を使用して測定する。
【実施例】
【0124】
以下の実施例により、本発明を例解する。
実施例1
15mgの塩酸ドネペジルと20mgの塩化トロスピウムを含有する経口崩壊錠剤。
【0125】
1.5キログラムの塩酸ドネペジルと1.8kgのコーンスターチを徹底的に混合して、この混合物を完全に均質化し、35メッシュ篩いに通過させた後で、2.4kgのコーンスターチと一緒に徹底的に撹拌して35メッシュの篩いにかけた、すでに製造済みの2kgの塩化トロスピウムの混合物を加える。このように入手した混合物に0.6kgのイチゴフレーバー粉末、0.2kgのサッカリンナトリウム、13.08kgの乳糖、4.4kgの微結晶性セルロース、及び2.9kgのソルビトールを加える。この混合物を完全な均質化に至るまで混合してから、0.1kgのステアリン酸マグネシウムを加え、再び混合し、7mmのパンチで圧縮して、以下の組成を有する100,000個の経口崩壊錠剤を得る:
塩酸ドネペジル 15.00mg
塩化トロスピウム 20.00mg
コーンスターチ 42.00mg
イチゴフレーバー粉末 6.00mg
サッカリンナトリウム 2.00mg
乳糖 130.00mg
微結晶性セルロース 44.00mg
ソルビトール 29.00mg
ステアリン酸マグネシウム 1.00mg
実施例2
以下の成分を混合することによって、経口投与用のカプセル剤を製造する:
成分 重量部
リバスチグミン(酒石酸水素塩として) 900
塩化トロスピウム 2.000
乳糖USP 7.350
コロイド状二酸化シリコン(Aerosil(登録商標))50
混合後、この混合物を40メッシュ篩いに通して篩って、9mgのリバスチグミンと20mgの塩化トロスピウムを含有する2ピース硬ゼラチンカプセル3号に導入する。
【0126】
実施例3
1.8kgのガランタミンと2.0kgの塩化トロスピウム、0.25kgのゼラチン、0.25kgのステアリン酸マグネシウム、及び10kgのコーンスターチを混合して、この混合物を慣用の打錠機によって、18mgのガランタミンと20mgの塩化トロスピウムを含有する錠剤へ成型することによって、経口投与用の即時放出錠剤を製造する。
【0127】
実施例4
1800gのガランタミンと5kgの脱イオン水を加えた、翼撹拌機を取り付けたブレンダーにおいて経口液体組成物を製造する。温度を40℃に維持して、この混合物を、完全な溶液になるまで激しく撹拌する。温度を25℃としてから、20.22gのソルビン酸カリウム、44.11gのメタ重亜硫酸ナトリウム、147gの市販イチゴ香味剤を加える。澄明な溶液が得られるまで、撹拌を室温で続ける。得られる溶液の温度を20℃として、2757gのキシリトール、2000gの塩化トロスピウム、及び18.38gの微結晶性セルロースを4.41kgの脱イオン水に含有する先に製造した溶液に加える。穏やかに撹拌して完全な分散状態を得た後で、このように入手した溶液剤を1.5メッシュの篩いに通過させる。このようにして、約15kgの溶液剤を入手して、以下の組成の1500単位用量に導入する:
ガランタミン 18.00mg
塩化トロスピウム 20.00mg
メタ重亜硫酸ナトリウム 4.40mg
ソルビン酸カリウム 2.02mg
キシリトールC 27.57mg
イチゴ香味剤 80.00mg
微結晶性セルロース 10.00mg
脱イオン水で10,000.00mgへ
実施例5
医薬担体とともに製剤化した4mgのガランタミンを含有する錠剤、医薬担体とともに製剤化した12mgのガランタミンを含有する錠剤、及び医薬担体とともに製剤化した20mgの塩化トロスピウムを含有する錠剤を、GB1,254,580に記載のようにカプセルに分配して、16mgのガランタミンと20mgのトロスピウムを含有する単位剤形を製造する。同じやり方で、医薬担体とともに製剤化した8mgのガランタミンを含有する単位剤形、医薬担体とともに製剤化した20mgのガランタミンを含有する錠剤、及び医薬担体とともに製剤化した20mgの塩化トロスピウムを含有する錠剤を製造する。
【0128】
実施例6
2Kgの塩化トロスピウムの代わりに1.5Kgの塩酸プロピベリンを使用すること以外は実施例1に記載のように操作することによって、以下の組成を有する経口崩壊錠剤を入手する:
塩酸ドネペジル 15.00mg
塩酸プロピベリン 15.00mg
コーンスターチ 42.00mg
イチゴフレーバー粉末 6.00mg
サッカリンナトリウム 2.00mg
乳糖 130.00mg
微結晶性セルロース 44.00mg
ソルビトール 29.00mg
ステアリン酸マグネシウム 1.00mg


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー型認知症の治療用医薬組成物の製造のための、非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)と組み合わせた使用であって、これにより併発する有害作用を同時に減らすことによって、前記AChEIの最大耐薬量は高められ、CNS中でのより高いアセチルコリンエステラーゼ阻害が達成されて、アルツハイマー型認知症の症状の緩和が向上される、前記使用。
【請求項2】
前記nsPAChAが、四級アンモニウムnsPAChAs、スルホニウムnsPAChAs、3,4−ジヒドロ−1−フェニル−2(1H)−イソキノリンカルボン酸(1S)−(3R)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル(ソリフェナシン)及びその医薬的に許容される塩、2,2−ジ(フェニル)−2−プロポキシ酢酸1−メチルピペリジン−4−イル(プロピベリン)及びその医薬的に許容される塩、α−シクロヘキシル−α−ヒドロキシ−α−フェニル酢酸1,4,5,6−テトラヒドロ−1−メチルピリミジン−2−イルメチル(オキシフェンシクリミン)及びその医薬的に許容される塩、(R)−N,N−ジイソプロピル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロパンアミン(トルテロジン)及びその医薬的に許容される塩からなる群より選択される請求項1の使用。
【請求項3】
前記四級アンモニウムnsPAChAs又はスルホニウムnsPAChAsが、式(II):
【化1】

[式中:
Rは、式(a)〜(e):
【化2】

{AはメチルであってA’は(C−C)アルキル若しくは2−フルオロエチル基であるか又はAとA’は1,4−ブチレン又は1,5−ペンチレン鎖を形成し、Lは、水素又はメトキシであり、AlkとAlk’は、それぞれ(C−C)アルキルであり、そして、Yは、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、及び2−オキサ−1,3−プロピレンからなる群より選択される二価の基であり;対応する対イオンは、医薬的に許容されるアニオンである}の基からなる群より選択される基であり;
nとmは、独立して、0又は1であり;
Xは、(C−C)アルキレン基であり;
とRは、それぞれ、フェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−シクロヘキセニル、2−チエニルであり、そしてRが基(a)であるときは、それぞれ(C−C)アルキルも表し;
は、H又はOHであるか、又はRが基(a)であるときのみ、COOAlk基でもあり、Alkは(C−C)アルキル基である]
を有する、請求項2の使用。
【請求項4】
前記nsPAChAが、アゾニアスピロ[3β−ベンジロイルオキシ−(1α,5α)−ノルトロパン−8,1’−ピロリジン](トロスピウム)の医薬的に許容される塩、ソリフェナシンとコハク酸とのその化合物、プロピベリン及びその塩酸塩、オキシフェンシクリミン及びその塩酸塩、トルテロジン及びその酒石酸水素塩からなる群より選択される、請求項1の使用。
【請求項5】
前記AChEIが、1,2,3,4−テトラヒドロ−9−アクリジンアミン(タクリン)、(±)−2,3−ジヒドロ−5,6−ジメトキシ−2−[[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]メチル]−1H−インデン−1−オン(ドネペジル)及びその医薬的に許容される塩、(S)−N−エチル−N−メチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−フェニルカルバメート(リバスチグミン)及びその医薬的に許容される塩、4aS,6R,8aS−3−メトキシ−11−メチル−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロキシ−6H−ベンゾフロ[3a,3,2−e,f]ベンザゼピン−6−オール(ガランタミン);並びに(1R,9S,13E)−1−アミノ−13−エチリデン−11−メチル−6−アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ−2(7),3,10−トリエン−5−オン(ヒュペルジンA)からなる群より選択される、請求項1の使用。
【請求項6】
前記AChEIの用量が前記AChEIの単独使用時の最大耐薬量の100%〜400%である、請求項5の使用。
【請求項7】
(a)ソリフェナシン、ソリフェナシンの医薬的に許容される塩、プロピベリン、プロピベリンの医薬的に許容される塩、オキシフェンシクリミン、オキシフェンシクリミンの医薬的に許容される塩、トルテロジン、トルテロジンの医薬的に許容される塩、及び式II:
【化3】

[式中:
Rは、式(a)〜(e):
【化4】

{AはメチルであってA’は(C−C)アルキル若しくは2−フルオロエチル基であるか又はAとA’は1,4−ブチレン又は1,5−ペンチレン鎖を形成し、Lは、水素又はメトキシであり、AlkとAlk’は、それぞれ(C−C)アルキルであり、そして、Yは、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、及び2−オキサ−1,3−プロピレンからなる群より選択される二価の基であり;対応する対イオンは、医薬的に許容されるアニオンである}の基からなる群より選択される基であり;
nとmは、独立して、0又は1であり;
Xは、(C−C)アルキレン基であり;
とRは、それぞれ、フェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−シクロヘキセニル、2−チエニルであり、そしてRが基(a)であるときは、それぞれ(C−C)アルキルも表し;
は、H又はOHであるか、又はRが基(a)であるときのみ、COOAlk基でもあり、Alkは(C−C)アルキル基である]
の四級アンモニウム又はスルホニウム化合物からなる群より選択されるnsPAChA;並びに
(b)AChEI;
を少なくとも1つの医薬担体と混合して含む医薬単位形態。
【請求項8】
前記nsPAChAが、トロスピウムの医薬的に許容される塩、ソリフェナシンの医薬的に許容される塩、プロピベリンの医薬的に許容される塩、オキシフェンシクリミンの医薬的に許容される塩、及びトルテロジンの医薬的に許容される塩からなる群より選択される、請求項7の単位形態。
【請求項9】
前記nsPAChAが4mg〜120mgの量のトロスピウムの医薬的に許容される塩である、請求項7の単位形態。
【請求項10】
前記nsPAChAがトロスピウムの医薬的に許容される塩であり、AChEIは、10mg〜160mgの量のタクリン、5mg〜40mgの量のドネペジル及びその医薬的に許容される塩、1.5〜36mgの量のリバスチグミン及びその医薬的に許容される塩、4〜48mgの量のガランタミン、並びに100μg〜1.2mgの量のヒュペルジンAからなる群より選択される、請求項7の単位形態。
【請求項11】
アルツハイマー型認知症に罹患している患者において、併発する明らかな有害作用を伴わずにアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の最大耐薬量を高めるための方法であって、前記患者へ前記AChEIを非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)と組み合わせて投与することを含み、それによって前記患者のCNSでは増強されたアセチルコリンエステラーゼ阻害が達成されて、前記患者におけるアルツハイマー型認知症の症状は改善される、前記方法。
【請求項12】
アルツハイマー型認知症に罹患している患者のCNSにおいてより高いアセチルコリンエステラーゼ阻害を誘導するための医薬組成物であって、前記患者は、単独投与時に達成可能な最大耐薬量より高いアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の用量を服用する、有効成分として非選択的末梢性抗コリン作用剤(nsPAChA)を医薬担体と混合して含んでなる、前記組成物。

【公表番号】特表2011−518776(P2011−518776A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501792(P2011−501792)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/001662
【国際公開番号】WO2009/120277
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(510257514)チェイス・ファーマスーティカルズ・コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】