説明

認知症及び他の神経障害の診断方法

【課題】患者の認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するための方法、及び本方法で役立つ代謝産物マーカー及び化合物を提供する。
【解決手段】患者から試料を得る工程と、1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために試料を分析する工程と、1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の標準試料から得られる対応するデータと比較する工程と、認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するために比較を用いる工程とを含む。患者の認知症又は認知症のリスクを評価する際に役立つこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床的に診断された認知症又は他の神経障害と正常な患者との間で存在度が有意に異なることが発見されている、小分子又は代謝産物に関する。本発明は、認知症及び他の神経障害の診断方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
加齢脳の最も重症な結果は認知症であり、それは、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition (DSM-IV)で、以下のように定義される。
【0003】
「記憶障害及び以下の認知障害、すなわち失語症、失行症、失認症又は実行機能の障害の少なくとも1つを含む複数の認知欠損の発達。認知障害は、職業的又は社会的な機能の障害を引き起こすのに十分重症でなければならず、それ以前のより高いレベルの機能からの低下を示さなければならない。」(American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders - Fourth Edition. Washington D.C.: American Psychiatric Association; 1994.)
【0004】
我々の社会で高齢者の数は急増し、結果として、認知症は主要な健康問題となりつつある。1991年に、健康と加齢に関するカナダ試験は、65歳を超える集団の25%がある型の認知症を有すると推定した。その研究は、カナダで認知症を抱える人数は、2011年及び2031年までにそれぞれ2倍及び3倍になるとも推定した(Canadian Study of Health and Aging Working Group. Canadian Study of Health and Aging: study methods and prevalence of dementia. CMAJ, 1994. 150: p. 899-913.)。
【0005】
認知症の臨床症状は、神経変性(例えばアルツハイマー病[AD、Alzheimer's Disease]、レーヴィ小体を有する認知症[DLB、dementia with Lewy bodies]及び前頭側頭葉認知症[FTLD、frontotemporal lobe dementia])、血管性(例えば多発脳梗塞性認知症)若しくは無酸素性事象(例えば心停止)、脳への外傷(例えばボクサー認知症[ボクサー認知症])、又は、感染性因子(例えばクロイツフェルト・ヤコブ病)若しくは毒性因子(例えばアルコール誘導性認知症)への曝露から生じることがある(Cummings, J.L., and Benson, D.F. Dementia: a clinical approach. Stoneham MA: Butterworth, 1992.)。
【0006】
ADは認知症で最も一般的な原因であって、血管認知症(VaD、vascular dementia
)、DLB及びFTLDがそれに続く(Dugue, M., et al. Review of Dementia. Mt Sinai J Med, 2003. 72: p. 45-53.)。認知症の型の鑑別診断は直接的ではなく、一般的に他の障害の排除に基づく(McKhann, G., et al. Clinical diagnosis of Alzheimer's
disease: report of the NINCDS-ADRDA Work Group under the auspices of Department
of Health and Human Services Task Force on Alzheimer's Disease. Neurology, 1984. 34: p. 939-44.)。例えば、ビタミンB12欠乏症、貧血症、感染症、性病又は甲状
腺障害が認知症症状の可能な理由であり得るかどうか判断するために、血液化学検査値が測定される。症状が、腫瘍、感染症又は血管性事象の存在によることができるかどうか判断するために、磁気共鳴画像法又はコンピュータ断層撮影法などの様々な神経画像処理技術を利用することができる(Dugue, M., et al. Review of Dementia. Mt Sinai J Med, 2003. 72: p. 45-53.)。
【0007】
認知症症状を他の障害によって説明することができない場合、臨床症状(例えば転倒の頻度、視覚又は聴覚の幻覚の急な開始、存在、その他)に基づいて排他的にAD、DLB又はFTLDの診断がなされる。剖検で脳の組織病理学的評価が実施されるまでは、確定的な診断を得ることができない(McKhann, G., et al. Clinical diagnosis of Alzheimer's disease: report of the NINCDS-ADRDA Work Group under the auspices of Department of Health and Human Services Task Force on Alzheimer's Disease. Neurology, 1984. 34: p. 939-44.、McKeith, I.G., et al. Consensus guidelines for the clinical and pathologic diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB): report of the consortium on DLB internal workshop. Neurology, 1996. 47: p. 1113-24.、Neary, D., et al. Frontotemporal lobar degeneration: a consensus on clinical diagnostic criteria. Neurology, 1998. 51: p. 1546-54.)。85歳を超える人々におけるADの有病率に関する前向き研究は、ADの神経病理学的基準を有する個体の半分より多くの者は、非認知症であったか又は誤ってVaDと診断されたことを示した。同様に、臨床上の特徴に基づいてADと診断された個体の35%は、神経病理学的評価がその診断を支持しなかったことから、誤って診断されたものである(Polvikoski, T., et al. Prevalence of Alzheimer's disease in very elderly people: a prospective neuropathological study. Neurology, 2001. 56: p. 1690-6.)。様々な認知症の臨床症状はしばしば重
複するので誤診の程度は理解でき、それは、関連情報が臨床医に知らされるかどうかに依存する。
【0008】
異なる型の認知症は、特定の神経病理学的特徴に基づく。ADの確定診断は、2種類のニューロンタンパク質の沈着、すなわち、神経細胞内神経原線維濃縮体(NFT、neurofibrillary tangle)の形のタウ、及び老人斑(SP、senile plaque)を形成する細胞外β−アミロイドの蓄積に基づく。タウは、細管の結合及び重合の促進による、ニューロン軸索における微小管の形成にとって重要である。ADでは、タウは過リン酸化されることによって、その基本機能を破壊する。タウは集積し、軸索中で濃縮体を形成する。ニューロンはそれ以上機能することができず、死に至る。タウタンパクは細胞外空間に放出され、そこで、それは脳脊髄液(CSF、cerebrospinal fluid)中に検出することができる(Lee, V.M.Y., et al. Neurodengerative tauopathies. Annu Rev Neurosci, 2001. 24: p. 1121-59.)。しかし、SPの形成は、アミロイド前駆体タンパク質(APP、amyloid precursor protein)からの、40及び42残基のタンパク質β−アミロイドの蓄積による(Morishima-Kawashima, M. and Ihara, Y. Alzheimer's disease: β-Amyloid protein and tau. J Neurosci Res, 2002. 70: p. 392-41)。β−アミロイドの形成及び分泌はホメオスタシスによって緊密に調節されるが、ホメオスタシスを破壊して脳内でのタンパク質の蓄積をもたらし、その周辺のニューロンを破壊する何かがADでは発生する(Morris, J.C., et al. Very mild Alzheimer's disease: informant-based clinical, psychometric, and pathological distinction from normal aging. Neurology, 1991. 41: p. 469-78.、Price, J.L. et al. The distribution of tangles, plaques and related immunohistochemical markers in healthy aging and Alzheimer's disease. Neurobiol Aging, 1991. 12: p. 295-312.)。CSF内での増加するタウの量及びβ−アミロイドの非存在が、ADの可能な診断マーカーとして提案されているが、結果は一貫していない。問題は、正常な加齢の間に増加するNFT及びSPの存在によるのかもしれない(Price, J.L., and Morris, J.C. Tangles and plaques in nondemented aging and "preclinical" Alzheimer's disease. Ann Neurol, 1999. 45: p. 358-68.)。NFT及びSPがADの診断であるためには、それらは脳の特定の領域(新皮質及び辺縁系領域)に一緒に局在しなければならない(Price, J.L. et al. The distribution of tangles, plaques and related immunohistochemical markers in healthy aging and Alzheimer's disease. Neurobiol Aging, 1991. 12: p. 295-312.)。NFTを伴わないSPは、軽度の認知障害(MCI、mild cognitive impairment)の個体及び75歳より上の非認知症の個体の27%で、同じ領域に存在する(Price, J.L., and Morris, J.C. Tangles and plaques in nondemented aging and "preclinical" Alzheimer's disease. Ann Neurol, 1999. 45: p. 358-68.)。
【0009】
DLBの診断は、脳幹及び皮質ニューロン中の、レーヴィ小体と称されるα−シヌクレインと呼ばれるタンパク質沈着物の存在に基づく(McKeith, I.G., et al. Consensus guidelines for the clinical and pathologic diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB): report of the consortium on DLB internal workshop. Neurology, 1996. 47: p. 1113-24.)。認知欠損は、脳中のレーヴィ小体の量に対応する。
【0010】
FTLDは、特定の神経病理学的特徴を特徴としない。一般的に、前頭/側頭の皮質領域は、ニューロンの減少、海綿状変化(微小空胞化)及び重症の星状細胞神経膠症を起こす。FTLDの臨床症状は、病状の種類よりも病状が発見される場所によって決まる(Neary, D., et al. Frontotemporal lobar degeneration: a consensus on clinical diagnostic criteria. Neurology, 1998. 51: p. 1546-54.)。
【0011】
現在では、認知症を診断するのを助けるために様々な神経心理学的検査が用いられる。例えば、言語能力(言葉及び理解)、記憶、幾何学図形を複製する能力並びに現在の時間と場所の見当識を検査するために、アルツハイマー病評価スケール(ADAS、Alzheimer's Disease Assessment Scale)認知サブセットが用いられる。同様に認知障害を測定するフォルスタインのミニ精神状態検査(MMSE、Mini-Mental State Exam)は、広く検証されている、見当識、短期及び長期の記憶、行動、言語及び理解の検査法である。これらの検査は個体の認知障害のレベルを示すことができるが、それらは、認知症がADによって、又は、AD以外の認知症によって起こることができるのかを示すものではない。
【0012】
記載される認知症のいずれかで何らかの症状が明らかになるまでには、不可逆的なニューロンの減少が起きていると一般に受け取られている(Price, J.L., et al. Neuron number in the entorhinal cortex and CA1 in preclinical Alzheimer disease. Arch Neurol, 2001. 58: p. 1395-402.)。MCIは、正常な認知機能を有する、記憶の顕著な障害を特徴とする(Petersen, R.C., et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol, 1999. 56: p. 303-8.)。MCIを有する個体の多数は後にAD、DLB又はFTLDと診断され、認知症が十分発達した全ての個体は最初にMCIに類似した軽度の認知症症状を示すことから、MCIは正常な加齢と数種類の認知症との間の移行段階と考えられる(Bennett, D.A., et al. Natural history
of mild cognitive impairment in older persons. Neurology, 2002. 59: p. 198-205.)。
【0013】
認知症の種類を客観的に互いに識別する必要性がある。好ましくは、そのような方法は特異的、正確及び効率的である。明らかに、剖検の前に認知症の鑑別診断をする差し迫った必要がある。
【0014】
臨床症状の前に神経病理学的変化を検出することができるバイオマーカーは、大きな価値があろう。ADのバイオマーカーで期待されるものに関して、1999年にコンセンサスに到達した(Growdon, J.H., et al. Application of the National Institute on Aging (NIA)-Reagan Institute criteria for the neuropathological diagnosis of Alzheimer disease. J Neuropathol Exp Neurol, 1999. 58: p. 1147-55.)。
1.神経病理学上の基本的な特徴を検出すること
2.ADを検出するための>80%の診断鋭敏度
3.他の認知症を識別するための>80%の特異性
4.信頼できること
5.再現性のあること
6.非侵襲性であること
7.実施が簡単なこと
8.安価であること
【0015】
ヒト血清中のAD特異バイオマーカーの識別は極めて有用であろうが、その理由は、それが非侵襲性であり、臨床症状の出現の前にAD病状の存在を検出し、異なる形の認知症であるが類似した臨床症状を有するであろう患者を区別するために用いることができるからである。
【非特許文献1】American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders - Fourth Edition. Washington D.C.: American Psychiatric Association; 1994.
【非特許文献2】Canadian Study of Health and Aging Working Group. Canadian Study of Health and Aging: study methods and prevalence of dementia. CMAJ, 1994. 150: p. 899-913.
【非特許文献3】Cummings, J.L., and Benson, D.F. Dementia: a clinical approach. Stoneham MA: Butterworth, 1992.
【非特許文献4】Dugue, M., et al. Review of Dementia. Mt Sinai J Med, 2003. 72: p. 45-53.
【非特許文献5】McKhann, G., et al. Clinical diagnosis of Alzheimer's disease: report of the NINCDS-ADRDA Work Group under the auspices of Department of Health and Human Services Task Force on Alzheimer's Disease. Neurology, 1984. 34:p. 939-44.
【非特許文献6】McKeith, I.G., et al. Consensus guidelines for the clinicaland pathologic diagnosis of dementia with Lewy bodies (DLB): report of the consortium on DLB internal workshop. Neurology, 1996. 47: p. 1113-24.
【非特許文献7】Neary, D., et al. Frontotemporal lobar degeneration: a consensus on clinical diagnostic criteria. Neurology, 1998. 51: p. 1546-54.
【非特許文献8】Polvikoski, T., et al. Prevalence of Alzheimer's disease invery elderly people: a prospective neuropathological study. Neurology, 2001. 56: p. 1690-6.
【非特許文献9】Lee, V.M.Y., et al. Neurodengerative tauopathies. Annu RevNeurosci, 2001. 24: p. 1121-59.
【非特許文献10】Morishima-Kawashima, M. and Ihara, Y. Alzheimer's disease: β-Amyloid protein and tau. J Neurosci Res, 2002. 70: p. 392-410
【非特許文献11】Morris, J.C., et al. Very mild Alzheimer's disease: informant-based clinical, psychometric, and pathological distinction from normal aging. Neurology, 1991. 41: p. 469-78.
【非特許文献12】Price, J.L. et al. The distribution of tangles, plaques and related immunohistochemical markers in healthy aging and Alzheimer's disease.Neurobiol Aging, 1991. 12: p. 295-312.
【非特許文献13】Price, J.L., and Morris, J.C. Tangles and plaques in nondemented aging and "preclinical" Alzheimer's disease. Ann Neurol, 1999. 45: p. 358-68.
【非特許文献14】Price, J.L., et al. Neuron number in the entorhinal cortex and CA1 in preclinical Alzheimer disease. Arch Neurol, 2001. 58: p. 1395-402.
【非特許文献15】Petersen, R.C., et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol, 1999. 56: p. 303-8.
【非特許文献16】Bennett, D.A., et al. Natural history of mild cognitive impairment in older persons. Neurology, 2002. 59: p. 198-205.
【非特許文献17】Growdon, J.H., et al. Application of the National Institute on Aging (NIA)-Reagan Institute criteria for the neuropathological diagnosis of Alzheimer disease. J Neuropathol Exp Neurol, 1999. 58: p. 1147-55.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、臨床的に診断された認知症又は他の神経障害と正常な患者との間で存在度が有意に異なることが発見されている小分子又は代謝産物に関する。本発明は、認知症及び他の神経障害の診断方法にも関する。
【0017】
本発明は、AD認知症、非AD認知症、認知障害又はそれらの組合せを識別して診断するための、1又は複数の代謝産物マーカーを特定する方法であって、
臨床的に診断されたAD認知症、臨床的に診断された非AD認知症、かなりの認知障害又はそれらの任意の組合せを有する1人又は複数の患者からの、複数の代謝産物を含む1又は複数の試料を高分解能質量分析計に導入する工程と、
代謝産物の定量化データを取得する工程と、
前記定量化データのデータベースを構築する工程と、
試料からの特定及び定量化データを、参考試料からの試料から取得した対応するデータと比較する工程と、
同試料と前記参考試料との間で異なる1又は複数の代謝産物マーカーを特定する工程とを含み、
【0018】
代謝産物マーカーは、表1〜7、10〜13及び18に記載の代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。本方法は、最適診断のために必要とされる最小限の数の代謝産物マーカーを選択する工程をさらに含むことができる。それには限定されない例では、高分解能質量分析計はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS、Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer)である。
【0019】
本発明は、表7〜13に記載の代謝産物からなる群から選択される新規化合物も提供する。代謝産物は、ホスファチジルコリン関連化合物、エタノールアミンプラスマロゲン、内因性脂肪酸、必須脂肪酸、脂質酸化副産物、前記代謝産物クラスの代謝産物誘導体、及び、何らかの前記代謝産物クラスの同化的/異化的代謝に寄与することができる任意の代謝産物からなる群から選択することができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、化合物は、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582、565.3394、569.369、801.555及び857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物からなる群から選択することができる。ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)699.5198、d)723.5195、e)751.5555及びf)803.568であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物は、それぞれ
a)図4Aで示す抽出イオンクロマトグラム(EIC、extracted ion chromatogram)及び図6で示すMS/MSスペクトル、
b)図4Bで示すEIC及び図7で示すMS/MSスペクトル、
c)図4Cで示すEIC及び図8で示すMS/MSスペクトル、
d)図4Dで示すEIC及び図9で示すMS/MSスペクトル、
e)図4Eで示すEIC及び図10で示すMS/MSスペクトル、並びに
f)図4Fで示すEIC及び図11で示すMS/MSスペクトル
であることを特徴とすることもできる。
【0021】
先に述べた化合物は、さらに、それぞれ分子式a)C2551NOP、b)C2755NOP、c)C3974NOP、d)C4174NOP、e)C4378NOP及びf)C4381NO10Pで、並びに/又は、それぞれa)図12、b)図13、c)図17、d)図18、e)図19及びf)図14で示す構造を特徴とすることもできる。
【0022】
化合物は、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)567.3547、b)565.3394、c)805.5832、d)827.57、e)829.5856、f)831.5997及びg)853.5854であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物からなる群から選択することもできる。これらの化合物は、さらに、それぞれ分子式a)C2755NOP、b)C2755NOP、c)C4383NO10P、d)C4581NO10P、e)C4583NO10P、f)C4585NO10P及びg)C4783NO10Pで、並びに/又は、それぞれa)図15A、b)図15B、c)図15C、d)図15D、e)図15E、f)図15F及びg)図15Gで示す構造を特徴とすることもできる。
【0023】
化合物は、さらに、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24からなる群から選択することができる。これらの化合物中で、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物は、それぞれa)図21、b)図22、c)図23、d)図24、e)図25、f)図26、g)図27及びh)図28で示すMS/MSスペクトルをさらに特徴とすることができる。
【0024】
先に述べた化合物は、さらに、それぞれ分子式a)C3976NOP、b)C3974NOP、c)C4174NOP、d)C4374NOP、e)C4180NOP、f)C4178NOP、g)C4582NOP及びh)C4578NOPで、並びに/又は、それぞれ構造
【0025】
【化1】


を特徴とすることができる。
【0026】
新規化合物は、表30に記載の代謝産物からなる群から選択することもできる。これらの化合物中で、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493及び742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物が、特に興味深い。
【0027】
本発明の化合物の1又は複数は、認知症の鑑別診断のために使用することができる。
【0028】
他の実施形態では、本発明は、患者の認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するための方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の標準試料(reference sample)から得た対応するデータと比較する工程と、
d)認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するために前記比較を用いる工程とを含む方法。
【0029】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS、liquid chromatography mass spectrometry)によって試料を分析することを含むことができ、或いは
、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0030】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た第1の参考試料である。1又は複数の参考試料は、臨床的に診断されたAD−認知症の患者から得た第2の参考試料、臨床的に診断された非AD認知症の患者から得た第3の参考試料、及び/又はかなりの認知障害を起こしている患者から得た第4の参考試料を含むこともできる。
【0031】
上記方法の一代替形態では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、表1〜7で記載の代謝産物又はそれらの組合せから選択される。これらの代謝産物マーカーは、ホスファチジルコリン関連化合物、エタノールアミンプラスマロゲン、内因性脂肪酸、必須脂肪酸、脂質酸化副産物、前記代謝産物クラスの代謝産物誘導体、及び、何らかの代謝産物クラスの同化的/異化的代謝に寄与することができる任意の代謝産物からなる群から選択することができる。
【0032】
最適な診断のために必要とされる1又は複数の代謝産物マーカーは、ダルトン単位で測定される正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物及びそれらの任意の組合せを含むことができる。
これらの中で、正確な質量が、699.5198、723.5195、723.5197及び751.555の代謝産物は、エタノールアミンプラスマロゲンであって、AD認知症患者で特に減少し、正確な質量が、541.3432、569.3687、803.568及び886.5582の代謝産物マーカーは、ホスファチジルコリン代謝産物であって、ADAS−cogの認知障害の患者で減少し、認知障害の程度は減少の程度と相関する。
【0033】
1又は複数の代謝産物マーカーは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)699.5198、d)723.5195、e)751.5555及びf)803.568であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物でよい。これらの代謝産物は、さらに、それぞれ
a)図4Aで示す抽出イオンクロマトグラム(EIC)及び図6で示すMS/MSスペクトル、
b)図4Bで示すEIC及び図7で示すMS/MSスペクトル、
c)図4Cで示すEIC及び図8で示すMS/MSスペクトル、
d)図4Dで示すEIC及び図9で示すMS/MSスペクトル、
e)図4Eで示すEIC及び図10で示すMS/MSスペクトル、
f)図4Fで示すEIC及び図11で示すMS/MSスペクトル、
を特徴とすることができる。
【0034】
代謝産物は、さらに、それぞれ分子式a)C2551NOP、b)C2755NOP、c)C3974NOP、d)C4174NOP、e)C4378NOP及びf)C4381NO10Pで、並びに/又は、それぞれa)図12、b)図13、c)図17、d)図18、e)図19及びf)図14で示す構造を特徴とすることもできる。
【0035】
上記方法の他の形態では、試料及び参考試料は脳脊髄液(CSF)試料でよく、1又は複数の代謝産物マーカーは、表13に記載の代謝産物又はそれらの組合せから選択される。特に関心があるのは最適な診断に必要とされる代謝産物マーカーであり、それらは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物及びそれらの任意の組合せを含むことができる。これらの中で、代謝産物マーカー207.0822、432.1532、562.46、622.2539、640.2637、730.6493及び742.2972は、AD認知症患者で増加し、代謝産物マーカー275.8712、371.7311、373.728、485.5603及び487.6482は、AD認知症患者で減少する。
【0036】
上記方法の他の形態では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24から選択することができる。これらの中で、特に関心のある1又は複数の代謝産物マーカーは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含むことができ、a)〜h)のレベルの減少は、重度の認知障害を伴うAD認知症を示す。
【0037】
上記代謝産物は、それぞれa)図21、b)図22、c)図23、d)図24、e)図25、f)図26、g)図27及びh)図28で示すMS/MSスペクトルをさらに特徴とすることができる。代謝産物は、さらに、それぞれ分子式a)C3976NOP、b)C3974NOP、c)C4174NOP、d)C4374NOP、e)C4180NOP、f)C4178NOP、g)C4582NOP及びh)C4578NOPで、並びに/又は、それぞれ構造
【0038】
【化2】


を特徴とすることができる。
【0039】
本発明の他の態様では、患者の認知症又は認知症のリスクを評価するための方法であって、
a)前記患者から血清試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)認知症又は認知症のリスクを評価するために前記比較を用いる工程とを含む方法が提供される。
【0040】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって試料を分析することを含むことができ、或いは、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0041】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た第1の参考試料であることができる。1又は複数の参考試料は、さらに、ADAS−cogで測定される認知障害の患者から得た第2の参考試料、及び/又は、MMSEで測定される認知障害の患者から得た第3の参考試料を含むこともできる。
【0042】
上記方法の1又は複数の代謝産物マーカーは、表10〜12で記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよい。特に関心のあるのは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582、565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される1又は複数の代謝産物マーカーである。これらの中で、患者試料中の代謝産物マーカー699.5198、723.5195、723.5197及び751.555の減少はAD病状を示し、患者試料中の代謝産物マーカー541.3432、569.3687、803.568及び886.5582の減少は、ADAS−cogによる認知障害を示し、患者試料中の代謝産物マーカー565.3394、569.369、801.555及び857.6186の減少は、MMSEによる認知障害を示す。
【0043】
本発明の他の実施形態では、患者の認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するための方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの内部対照代謝産物に対する比率を得る工程と、
d)前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部対照代謝産物に対する各比率を1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
e)認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するために前記比較を用いる工程とを含む方法が提供される。
【0044】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって試料を分析することを含むことができ、或いは、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0045】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た第1の参考試料であることができる。1又は複数の参考試料は、さらに、臨床的に診断されたAD−認知症の患者から得た第2の参考試料、臨床的に診断された非AD認知症の患者から得た第3の参考試料、及び/又はかなりの認知障害を起こしている患者から得た第4の参考試料を含むことができる。
【0046】
上記方法の一態様では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24から選択される。特に関心のあるものは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む1又は複数の代謝産物マーカー、及びダルトン単位で測定した正確な質量が719.54648であるか又はそれと実質的に同等である代謝産物を含む内部対照代謝産物である。これらの代謝産物及び内部対照代謝産物を使用する場合、代謝産物の内部対照代謝産物に対する比率の低下は、重度の認知障害を伴うAD認知症を示す。
【0047】
上記代謝産物は、さらに、それぞれa)図21、b)図22、c)図23、d)図24、e)図25、f)図26、g)図27及びh)図28で示すMS/MSスペクトルを特徴とすることができる。これらの代謝産物は、さらに、それぞれ分子式a)C3976NOP、b)C3974NOP、c)C4174NOP、d)C4374NOP、e)C4180NOP、f)C4178NOP、g)C4582NOP及びh)C4578NOPを特徴とすることができ、内部対照代謝産物は分子式C3978NOPを特徴とすることができ、並びに/又は前記代謝産物は、それぞれ構造
【0048】
【化3】



で、内部標準代謝産物は、さらに、構造
【0049】
【化4】


を特徴とすることができる。
【0050】
本発明のさらに他の実施形態では、患者の認知症を治療するための療法の効力を評価する方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記定量化データを1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)前記療法が患者の認知症状態を改善しているかどうかを判断するために前記比較を用いる工程とを含む方法が提供される。
【0051】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって試料を分析することを含むことができ、或いは、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0052】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た複数の試料、臨床的に診断されたAD患者から得た複数の試料、前記患者から得た1又は複数の治療前基準試料、又は、それらの任意の組合せでよい。
【0053】
上記方法の一態様では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、表1〜7で記載の代謝産物又はそれらの組合せから選択される。最適な診断に必要とされるこれらの代謝産物マーカーは、ホスファチジルコリン関連化合物、エタノールアミンプラスマロゲン、内因性脂肪酸、必須脂肪酸、脂質酸化副産物、前記代謝産物クラスの代謝産物誘導体、及び、何らかの前記代謝産物クラスの同化的/異化的代謝に寄与することができる任意の代謝産物からなる群から選択することができる。特に関心があるのは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物である。
【0054】
他の態様では、試料及び参考試料は脳脊髄液(CSF)試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、表13に記載の代謝産物又はそれらの組合せから選択される。特に関心があるのは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物である。
【0055】
第3の態様では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24から選択することができる。これらの代謝産物の中で、ダルトン単位で測定した正確な質量が、701.53951、699.52026、723.52026、747.52026、729.56721、727.55156、779.58286及び775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物が、特に関心があるものであろう。
【0056】
本発明は、患者の認知症を治療するための療法の効力を評価する方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの内部対照代謝産物に対する比率を得る工程と、
d)前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部対照代謝産物に対する各比率を1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
e)前記療法が患者の認知症状態を改善しているかどうかを判断するために前記比較を用いる工程とを含む方法も提供する。
【0057】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって試料を分析することを含むことができ、或いは、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0058】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た複数の試料、臨床的に診断されたAD患者から得た複数の試料、前記患者から得た1又は複数の治療前基準試料、又は、それらの任意の組合せでよい。
【0059】
上記方法では、試料及び参考試料は血清試料であり、1又は複数の代謝産物マーカーは、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24から選択することができる。特に関心があるのは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、701.53951、699.52026、723.52026、747.52026、729.56721、727.55156、779.58286及び775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物、並びに、ダルトン単位で測定した正確な質量が719.54648であるか又はそれと実質的に同等である内部対照代謝産物である。
【0060】
HTSアッセイを含む本発明の方法は、本出願で特定の「健康状態」が、それに限定されないが認知症を指す、以下のことのために用いることができる。
【0061】
1.個体からとられる任意の生体試料を用いて複数の健康状態を区別することができる小分子代謝産物バイオマーカーを特定すること、
【0062】
2.本出願で記載の、血清、血漿、全血、血清、CSF及び/又は他の組織生検材料で特定される代謝産物を用いて健康状態を特定診断すること、
【0063】
3.本出願で言及するものなどの管理された統計的方法を用いて最適診断アッセイの性能統計のために必要な最小限の代謝産物特性を選択すること、
【0064】
4.LC−MS/MS、MSn及びNMRを用いて非標的メタボロミック分析から選択されるバイオマーカー代謝産物の構造特性を特定すること、
【0065】
5.血清中の選択された代謝産物のレベルを分析するためのハイスループットLC−MS/MS方法を開発すること、
【0066】
6.それらに限定されないが質量分析、NMR、UV検出、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法、enzyme-linked immunosorbant assay)、化学反応、像解析、その他を含む
任意の方法を用いて、FTMS分析の患者血清から開示される代謝産物特性の任意の組合せのレベルを測定することにより、所与の健康状態を、又は健康状態を起こすリスクを診断すること。
【0067】
リスクを評価するために、文字通り全ての者を彼らの寿命にわたって長くスクリーニングすることができるので、認知症の診断に及ぼす本発明の影響は膨大である。本発明の試験の性能特性が一般集団を代表するものであるとすると、この試験は単独で今日利用できる他のいかなるスクリーニング法よりも優れたものであることができるが、その理由は、それが臨床症状の出現の前に疾患の進行を検出する潜在能力を有することができるからである。
【0068】
本発明のこの概要は、必ずしも本発明の全ての特徴を記載するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
本発明のこれら及び他の特徴は、添付の図を参照する以下の記載からより明らかになる。
【0070】
本発明は、臨床的に診断された認知症又は他の神経障害と正常な患者との間で存在度が有意に異なることが発見されている小分子又は代謝産物に関する。本発明は、認知症及び他の神経障害の診断方法にも関する。
【0071】
本発明は、1又は複数の疾患又は特定の健康状態の代謝産物マーカーを発見し、検証し、実施するための新規方法を提供する。本発明の一実施形態では、AD認知症、非AD認知症、認知障害又はそれらの組合せを鑑別診断するための特異的バイオマーカーを特定する方法であって、臨床的に診断されたAD認知症、臨床的に診断された非AD認知症又はかなりの認知障害を有する1人又は複数の患者からの、複数の代謝産物を含む1又は複数の試料を高分解能質量分析計(例えば、それに限定するものではないが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS))に導入する工程と、代謝産物の特定及び定量化データを取得する工程と、前記特定及び定量化データのデータベースを構築する工程と、試料からの特定及び定量化データを、非認知症の正常患者からの試料から取得した対応するデータと比較する工程と、異なる1又は複数の代謝産物を特定する工程とを含む方法が提供される。本発明の方法を用いて特定される代謝産物マーカーには、表1〜7、10〜13及び18で記載の代謝産物を含めることができる。本方法は、最適診断のために必要とされる最小限の数の代謝産物マーカーを選択する工程をさらに含むことができる。
【0072】
特定の集団で所与の健康状態の生化学的マーカーを決定するために、その健康状態(すなわち特定の疾患)を代表する一群の患者及び/又は一群の「正常な」対応体が必要である。次に、FTMS及び/又はLC−MSを用いて試料中に存在する生化学物質を分析することによって、それら2つの群の間の生化学的相違を特定することを期待して、特定の健康状態カテゴリーの患者から採取される生体試料を、正常な集団から採取される同じ試料と、並びに類似した健康状態カテゴリーの患者と比較することができる。
【0073】
上記の代謝産物マーカーの発見のための方法は、非標的のメタボロミックな手法又は方法を用いて実行することができる。複数の非標的のメタボロミクス手法が、NMR(Reo,
N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82)、GC−MS(Fiehn, O., et al. Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol, 2000. 18(11): p. 1157-61.、Viani, P., et al., Effect of endothelin-1 induced ischemia on peroxidative damge and membrane properties in rat striatum synaptosomes. Neurochem Res, 1995. 20: p. 689-95.、Zhang, J.-P., Sun, G.Y. Free fatty acids, neutral glycerides, and phosphoglycerides in transient focal cerebral ischemia. J Neurochem, 1995. 64: p. 1688095.)、LC−MS及びFTMS手法(Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82、Demediuk, P., et al. Membrane lipd changes in laminectomized and traumatized cat spinal cord. Proc Natl Acad Sci U S A, 1985. 82: p. 7071-5.、Wells, K., et al., Neural membrane phospholipids in Alzheimer disease. Neurochem Res, 1995. 20: p. 1329-33.、Ginsberg, L., et al., Disease and anatomic specificity of ethanolamine plasmalogen deficiency in Alzheimer's disease brain. Brain Res, 1995. 698: 223-6.)を含む科学文献で記載されている。本発明で差別的に発現された代謝産物の発見のために使用したメタボリックプロファイリング手法は、Phenomenome Discoveriesによる非標的FTMS手法(Zhang, J.-P., Sun, G.Y. Free fatty acids, neutral glycerides, and phosphoglycerides in transient focal cerebral ischemia. J Neurochem, 1995. 64: p. 1688095.、Ginsberg, L., et al., Disease and anatomic specificity of ethanolamine plasmalogen deficiency in Alzheimer's disease brain. Brain Res, 1995. 698: 223-6.、Ginsberg, L., Xuereb, J.H. Gershfeld, N.L. Membrane instability, plasmalogen content, and Alzheimer's disease. J Neurochem, 1998. 70: p. 2533-8.、Guan, Z., et al. Decrease and structural modifications of phosphatidylethanolamine plasmalogen in the brain with Alzheimer disease. J Neuropathol Exp Neurol, 1999. 58: 740-7.、Pettegrew, J.W., et al., Brain membrane phospholipid alterations in Alzheimer's disease. Neurochem Res, 2001. 26: p. 771-82.)、また、米国特許出願公開2004−0029120A1号明細書、カナダ国特許出願2,298,181号明細書及び国際公開0157518パンフレットも参照)であった。非標的分析は、事前知識なしに又は分析前の成分の選択なしに、試料中のできるだけ多くの分子を測定することを含む。したがって、新規代謝産物バイオマーカーを発見する非標的分析の能力は、所定の分子リストを検出する標的方法に対して高い。本発明では、臨床的に診断されたAD個体及び非AD個体の間で異なる血清試料中の代謝産物成分を特定するために、非標的方法を用いる。認知症を有する臨床的に診断されたAD個体と認知症を有する臨床的に診断された非AD個体とで異なる代謝産物成分をCSF試料中で特定するために、同じ技術を用いた。
【0074】
しかし、本発明で開示される差別的に調節される代謝産物のいくつか又は全てを発見するために他の代謝産物プロファイリング手法を用いることができること、及び、発見されたもの又は測定されたものであれ、本明細書で記載する代謝産物が、それらを検出、測定するために用いることができる分析技術とは無関係にある特異な化学成分を表すことを、当業者は認めよう。
【0075】
本発明は、患者の認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するための方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するために前記比較を用いる工程とを含む方法も提供する。
試料分析工程(工程b)は、質量分析計(MS、mass spectrometer)を用いて試料を分
析することを含むことができる。例えば、それらに限定するものではないが、そのような質量分析計は、FTMS型、オービトラップ(orbitrap)型、飛行時間(TOF、time of flight)型又は四重極型でよい。代わりに、質量分析計は、さらなるプレ検出器マスフィルターを備えることができよう。例えば、それらに限定するものではないが、そのような器具は、四重極−FTMS(Q−FTMS、quadrupole-FMS)、四重極−TOF(Q−TOF、quadrupole-TOF)又は三重四重極(TQ、triple quadrupole、若しくはQQQ
)と一般に呼ばれる。さらに、質量分析計は親イオン検出モード(MS)又は、n>=2であるMSnモードで作動させることができた。MSnは、親イオンが衝突誘発性解離(CID、collision induced dissociation)又は他の断片化手法によって断片化して断片イオンを形成し、その後、前記断片の1又は複数が質量分析計によって検出される状況を指す。次に、そのような断片をさらに断片化して、さらなる断片を形成することができる。代わりに、液体若しくはガスクロマトグラフィー系を用いて、又は、直接注入によって、試料を質量分析計に導入することができた。
【0076】
用語「鑑別診断」又は「鑑別診断する」は、病態の様々な態様を互いから区別することができることを意味する。詳細には、本発明は、認知症の様々な状態の鑑別診断を可能にする。例えば、それらに限定するものではないが、本発明は、AD認知症、非AD認知症、認知障害又はそれらの組合せの鑑別診断を提供することができる。
【0077】
本明細書で開示される代謝産物の全て又はサブセットを用いることによる、任意の種類の神経障害の診断又は排除を本発明は企図する。用語「認知症」は、本明細書で、認知障害並びに認知障害を引き起こす病状の両方を示す広義の用語として用いる。認知症は、いくつかの神経障害によって起こることができる。本明細書で使用する「AD認知症」は、アルツハイマー病(AD、本明細書では「SDAT」と呼ぶこともできる)に起因する認知症を指し、「非AD認知症」の種類には、それらには限定されないが、レーヴィ小体を伴う認知症(DLB)、前頭側頭葉認知症(FTD)、血管誘発認知症(例えば多発脳梗塞性認知症)、無酸素性事象誘発認知症(例えば心停止)、脳外傷誘発認知症(例えばボクサー認知症[ボクサーの認知症])、感染因子(例えばクロイツフェルト・ヤコブ病)若しくは毒性因子(例えばアルコール誘発認知症)への曝露から生じる認知症、自閉症、多発性硬化症、パーキンソン病、双極性障害、貧血、ハンチントン舞踏病、大うつ病性障害、非開放性頭部損傷、水頭症、記憶喪失、不安障害、外傷性脳損傷、強迫性障害、精神分裂症、精神発達遅滞及び/又は癲癇が含まれる。AD認知症並びにFTD及びDLBの非AD認知症が、特に関心がある。
【0078】
認知障害は、当技術分野で公知の任意の方法によって評価することができる。例えば、それに限定するものではないが、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)−認知サブセットを用いることができる。この神経心理学的検査は、言語能力(言葉及び理解)、記憶、幾何学図形を複製する能力及び現在の時間と場所の見当識を検査するために用いられる。検査のエラーは記録され、逆スコアの障害(すなわち、ADASのスコアが高いほど、認知障害は大きい)が得られる。0〜15のスコアは正常とみなされ、16〜47は軽度から中程度の障害とみなされ、48〜70のスコアは中程度から重度の障害とみなされる(Graham, D.P., et al. The alzheimer's disease assessment scale - cognitive subscale: normative date for older adult controls. Alzheimer Dis Assoc Disord, 2004. 18: p. 236-40.)。他の神経心理学的検査である、認知障害を測定するフォルスタインのミニ精神状態検査(MMSE)を用いてもよい。MMSEは広く使われており、見当識、短期及び長期の記憶、行動、言語及び理解の広く検証された検査である。当業者は、同じ認知欠損の態様を測定するさらなる神経心理学的評価、例えば、それらに限定されないが、ブレストロスの認知症評価スケール、7分スクリーニング、ウェクスラー記憶スケール(WMS、Wechsler Memory Scale)、ハルステッド−ライタン検査、レイ聴覚言
語学習検査、カリフォルニア言語学習検査、ブシケ選択的想起検査、ボストンネーミング検査、言語機能の臨床評価、ピーボディー画像用語検査、マティス認知症評価スケール、記憶評価スケール、記憶及び学習の検査、記憶及び学習の広範囲評価を用いることもできることを認めよう。
【0079】
さらに、当業者は、認知障害又は構造変化を示す能力を有する任意の画像化技術、例えば、それらに限定されないが、構造磁気共鳴画像法(MRI、magnetic resonance imaging)、陽電子放出断層撮影法(PET、positron emission tomography)、コンピュータ断層撮影法(CT、computerized tomography)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI、functional magnetic resonance imaging)、脳波検査法(EEG、electroencephalography)、単陽電子放出断層撮影法(SPECT、single positron emission tomography)、
事象関連電位、脳磁気図記録法、多様式画像化は、その認知欠損及びAD病状の原因である構造的/部位的脳領域を測定するものであり、したがって、本発明で開示される代謝産物に関連するであろうことを認めよう。
【0080】
本発明に従い、体内の任意の箇所に由来する任意の種類の生体試料、例えば、それらに限定されないが、血液(血清/血漿)、CSF、尿、便、呼気、唾液、又は、腫瘍、隣接する正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、髪、脳、腎臓、膵臓、肺、結腸、胃、その他を含む任意の固体組織の生検材料を用いることができる。血清又はCSFである試料に、特に関心がある。用語「血清」を本明細書で用いるが、血漿又は全血又は全血の亜分画を用いることもできることを、当業者は認めよう。CSFは、局所麻酔薬を必要とする腰椎穿刺によって得ることができる。
【0081】
それには限定されない実施例において、血液サンプルを患者から引き抜く場合、試料処理のためにいくつかの方法がある。処理の範囲は、全く処理しない単純なもの(すなわち凍結全血)又は、特定の細胞型の単離のような複雑なものでもよい。最も一般的な常用手法は、全血からの血清又は血漿の調製を含む。ろ紙又は他の固定材料などの固相支持体上への血液サンプルのスポッティングを含む全ての血液サンプル処理方法も、本発明によって企図される。
【0082】
他のそれには限定されない実施例において、腰椎穿刺手法を用いてCSF試料を収集することができるが、局所麻酔薬を背中の腰部に適用する。次に、それが硬膜下腔を突き通すまで、針をL4及びL5椎骨の間の麻痺させた皮膚に挿入する。CSFは、無菌試験管に収集することができる。
【0083】
例えば、決して限定するものではないが、CSF試料を得ることは採血することよりも患者に多くの不快感をもたらすが、AD及び非ADの間の鑑別診断であるAD特異血清検査で陽性の結果が出た後に使用するCSFアッセイは、高い程度の確証を有する。
【0084】
決して限定するものではないが、上述の処理した血液、血清又はCSF試料は、次に、処理した血清又はCSF試料中に含まれる代謝産物の検出及び測定に使用される組織的な分析技術に適合するように、さらに処理することができる。処理の種類は、それ以上の処理はしないものから、分別抽出及び化学的誘導体化のような複雑なものまで様々であることができる。抽出法には、超音波処理、ソックレー抽出、マイクロ波抽出(MAE、microwave assisted extraction)、超臨界流体抽出(SFE、supercritical fluid extraction)、加速溶媒抽出(ASE、accelerated solvent extraction)、加圧液体抽出(PLE、pressurized liquid extraction)、加圧熱水抽出(PHWE、pressurized hot water extraction)及び/又は、メタノール、エタノール、アルコール類及び水の混合物
、又は酢酸エチル若しくはヘキサンなどの有機溶媒などの普通溶媒中での界面活性剤抽出(PHWE、surfactant assisted extraction)が含まれよう。FTMS非標的分析のために代謝産物を抽出するための特に関心のある方法は、無極性代謝産物が有機溶媒に溶解し、極性代謝産物が水性溶媒に溶解する、液/液抽出を実施することである。
【0085】
抽出した試料は、当技術分野で公知である任意の適当な方法で分析することができる。例えば、決して限定するものではないが、生体試料の抽出物は、直接注入による又はクロマトグラフィー分離の後の、基本的に任意の質量分析プラットホーム上での分析に適合する。代表的な質量分析計は、試料中の分子をイオン化する源泉及びイオン化された分子又は分子断片を検出するための検出器を含む。一般的な源泉のそれには限定されない例には、電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI、electrospray ionization)、気圧
化学イオン化(APCI、atmospheric pressure chemical ionization)、気圧光イオン化(APPI、atmospheric pressure photo ionization)、マトリックス援用レーザ脱
離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorption ionization)、表面強化
レーザ脱離イオン化(SELDI、surface enhanced laser desorption ionization)及びそれらの派生物が含まれる。一般的な質量分離及び検出システムには、四重極、四重極イオントラップ、リニアイオントラップ、飛行時間型(TOF)、磁性セクター、イオンサイクロトロン(FTMS)、オービトラップ(Orbitrap)及びそれらの派生物及び組合せが含まれてもよい。他のMSベースのプラットホームに勝るFTMSの利点は、低分解能器具ではその多くが見逃される、わずか1/100ダルトンだけ異なる代謝産物の分離を可能にするその高い分解能力である。
【0086】
用語「代謝産物」は、そのレベル又は強度が試料中で測定され、疾病状態を診断するマーカーとして用いることができる特定の小分子を意味する。これらの小分子は、本明細書で「代謝産物マーカー」、「代謝産物成分」、「バイオマーカー」又は「生化学的マーカー」と称することもできる。
【0087】
代謝産物は通常、上記方法で用いられる質量分析法で測定されるそれらの正確な質量を特徴とする。正確な質量は、「正確な中性質量」又は「中性質量」と称すこともできる。代謝産物の正確な質量は、本明細書ではダルトン(Da)又は、それに実質的に同等である質量で示される。「それと実質的に同等である」は、正確な質量の±5ppmの差は同じ代謝産物を示すことを意味し、そのことは、当業者は認めよう。正確な質量は、中性代謝産物の質量として示される。当業者が認めるように、試料の分析中に起こる代謝産物のイオン化は、1又は複数の水素原子の損失又は獲得及び電子の損失又は獲得を引き起こす。これは、正確な質量を、イオン化の間に失われるか獲得される水素及び電子の質量分だけ正確な質量と異なる、「イオン化質量」に変化させる。特に明記しない限り、本明細書では、正確な中性質量と称す。
【0088】
同様に、代謝産物がその分子式又は分子構造で記載される場合、中性代謝産物の分子式又は分子構造が示される。当然、イオン化代謝産物の分子式又は分子構造は、イオン化の間に失われるか獲得される水素の数の分だけ、中性分子の式又は構造と異なる。
【0089】
分析中にデータが収集され、1又は複数の代謝産物の定量化データが得られる。「定量化データ」は、試料中に存在する特定の代謝産物のレベル又は強度を測定することによって得られる。
【0090】
定量化データは、1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較される。「参考試料」は、特定の疾病状態のための任意の適当な参考試料である。例えば、決して限定するものではないが、本発明で、参考試料は、非認知症の対照個体、すなわちAD認知症、非AD認知症又は認知障害を起こしていない者(本明細書では「「正常な」対応個体」とも称す)からの試料でよく、また、参考試料は、ADと臨床的に診断された患者、臨床的に診断された非AD認知症患者、又はかなりの認知障害と診断された患者から得られる試料でもよい。当業者によって理解されるように、1つ以上の参考試料を定量化データとの比較のために用いることができる。例えば、それに限定するものではないが、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た第1の参考試料でよい。1又は複数の参考試料は、臨床的に診断されたAD−認知症の患者から得た第2の参考試料、臨床的に診断された非AD認知症の患者から得た第3の参考試料、かなりの認知障害を起こしている患者から得た第4の参考試料、又はそれらの任意の組合せをさらに含むことができる。
【0091】
本発明は、本発明の方法を用いて特定される新規化合物も提供する。前記のように、新規化合物は、認知症の鑑別診断で代謝産物マーカーとして用いることができる。
【0092】
一実施形態では、化合物は、表1〜7で記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよい。これらの代謝産物を血清試料中で特定し、それらは、ホスファチジルコリン関連化合物、エタノールアミンプラスマロゲン、内因性脂肪酸、必須脂肪酸、脂質酸化副産物、前記代謝産物クラスの代謝産物誘導体、及び、何らかの前記代謝産物クラスの同化的/異化的代謝に寄与することができる任意の代謝産物でよい。
【0093】
最適な化合物群は、表1〜7で記載の代謝産物から特定することができる。例えば、それらに限定するものではないが、代謝産物マーカーは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物でよい。正確な質量が、699.5198、723.5195、723.5197及び751.555の代謝産物は、現在、エタノールアミンプラスマロゲンと同定されており、AD認知症患者で特異的に減少する。正確な質量が、541.3432、569.3687、803.568及び886.5582の代謝産物マーカーは、現在、ホスファチジルコリン代謝産物と同定されており、ADAS−cogの認知障害患者で減少し、認知障害の程度は減少の程度と相関する。
【0094】
ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)699.5198、d)723.5195、e)751.5555、f)803.568であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物は、それぞれ
【0095】
a)図4Aで示す抽出イオンクロマトグラム(EIC)及び図6で示すMS/MSスペクトル、C2551NOPの分子式、並びに/又は図12で示す構造、
【0096】
b)図4Bで示すEIC及び図7で示すMS/MSスペクトル、C2755NOPの分子式、並びに/又は図13で示す構造、
【0097】
c)図4Cで示すEIC及び図8で示すMS/MSスペクトル、C3974NOPの分子式、並びに/又は図17で示す構造、
【0098】
d)図4Dで示すEIC及び図9で示すMS/MSスペクトル、C4174NOPの分子式、並びに/又は図18で示す構造、
【0099】
e)図4Eで示すEIC及び図10で示すMS/MSスペクトル、C4378NOPの分子式、並びに/又は図19で示す構造、
【0100】
f)図4Fで示すEIC及び図11で示すMS/MSスペクトル、C4381NO10Pの分子式、並びに/又は図14で示す構造
【0101】
をさらに特徴とすることができる。
【0102】
エタノールアミンプラスマロゲン代謝産物(中性質量699.5198、723.5195、751.5555)及びホスファチジルコリン代謝産物(中性質量699.5198、723.5195、751.5555)は、かなりの認知障害を示すAD対象の血清で減少することが現在分かっている。これは、AD及び認知症と関連するこれらの代謝産物の血清ベースの変化の最初の報告である。開示される血清ホスファチジルコリン関連の代謝産物の減少は、AD状態に関係なくADAS−cogで測定されるかなりの認知障害を示す全ての患者で発生すること、及び、減少の程度は認知障害の程度と相関することがさらに分かっている。しかし、開示されるエタノールアミンプラスマロゲンの観察される減少は、認知障害とは無関係であり、AD対象で特異的に生じ、したがって、ADの真の診断基準である。
【0103】
エタノールアミンプラスマロゲンは、1種のエタノールアミンリン脂質である。エタノールアミンリン脂質は、それらのsn−1構造(アシル、エーテル又はビニルエーテル)に基づいて、さらに区別することができる。sn−2位置は一般的にアシルであり、sn−3位置はホスホエタノールアミン部分を含む。したがって、これら3つのクラスは、ジアシル(本明細書ではPtdEtとも称す)、アルキルアシル(本明細書ではプラスマニルとも称す)又はアルケニルアシル(本明細書ではEtnPl若しくはプラスメニルとも称す)と記載される。エタノールアミンリン脂質の様々な基本構造は、本明細書で用いる標準的な命名法と一緒に図20で示す。
【0104】
開示されるエタノールアミンプラスマロゲンの減少は、最初の又は初期の段階のADを表すことができ、特定のエタノールアミンプラスマロゲンの血清レベルを測定することによって、生きている対象で非侵襲的に検出することができる。同様に、認知障害は、特定のホスファチジルコリン代謝産物の血清レベルを測定することによって、非侵襲的に数量化することができる。
【0105】
他の代謝産物も、特定された。例えば、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)699.5198、d)723.5195、e)751.5555、f)803.568であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物がそうであり、それらは、それぞれ
【0106】
a)分子式C2755NOP、及び/又は図15Aで示す構造、
【0107】
b)分子式C2755NOP、及び/又は図15Bで示す構造、
【0108】
c)分子式C4383NO10P、及び/又は図15Cで示す構造、
【0109】
d)分子式C4581NO10P、及び/又は図15Dで示す構造、
【0110】
e)分子式C4583NO10P、及び/又は図15Eで示す構造、
【0111】
f)分子式C4585NO10P、及び/又は図15Fで示す構造、
【0112】
g)分子式C4783NO10P、及び/又は図15Gで示す構造
【0113】
をさらに特徴とすることができる。
【0114】
AD認知症に特異的な代謝産物(正確な質量699.5198、723.5195、723.5197、751.555)のエタノールアミンプラスマロゲンとしての同定に基づいて、他のエタノールアミンリン脂質代謝産物マーカーを同定した。これらは、表18で記載され、特性決定される(正確な質量、名前/組成、分子式)、代謝産物M05〜M24である。代謝産物の構造は、表18で示す代謝産物名及び図20で示す命名法に基づいて推測することができる。
【0115】
表18に記載の化合物の中で、特に関心のあるものには、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物が含まれ、それらは、それぞれ
【0116】
a)図21で示すMS/MSスペクトル、分子式C2755NOP、及び/又は構造
【0117】
【化5】

【0118】
b)図22で示すMS/MSスペクトル、分子式C3974NOP、及び/又は構造
【0119】
【化6】

【0120】
c)図23で示すMS/MSスペクトル、分子式C4174NOP、及び/又は構造
【0121】
【化7】

【0122】
d)図24で示すMS/MSスペクトル、分子式C4374NOP、及び/又は構造
【0123】
【化8】

【0124】
e)図25で示すMS/MSスペクトル、分子式C4180NOP、及び/又は構造
【0125】
【化9】

【0126】
f)図26で示すMS/MSスペクトル、分子式C4178NOP、及び/又は構造
【0127】
【化10】

【0128】
g)図27で示すMS/MSスペクトル、分子式C4582NOP、及び/又は構造
【0129】
【化11】

【0130】
h)図28で示すMS/MSスペクトル、分子式C4578NOP、及び/又は構造
【0131】
【化12】

【0132】
をさらに特徴とすることができる。
【0133】
本発明の他の実施形態では、化合物は、表13に記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよい。これらの代謝産物は、CSF試料中で特定された。ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物が、特に興味深い。認知症の診断で用いる場合、代謝産物マーカー207.0822、432.1532、562.46、622.2539、640.2637、730.6493及び742.2972は、AD認知症患者で増加し、代謝産物マーカー275.8712、371.7311、373.728、485.5603及び487.6482は、AD認知症患者で減少する。
【0134】
本発明の他の方法では、患者の認知症又は認知症のリスクを評価するための方法が記載される。本方法は、
a)前記患者から血清試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)認知症又は認知症のリスクを評価するために前記比較を用いる工程とを含む。
【0135】
試料分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)により試料を分析することを含むことができる。或いは、試料分析工程(工程b)は、その方法がハイスループット方法である場合、リニアイオントラップ質量分析及びその後の液体クロマトグラフィーにより試料を分析することを含むことができる。
【0136】
1又は複数の参考試料は、非認知症対照個体から得た第1の参考試料、ADAS−cogで測定される認知障害の患者から得た第2の参考試料、MMSEで測定される認知障害の患者から得た第3の参考試料、又はこれらの1又は複数の組合せを含むことができる。
【0137】
決して限定するものではないが、認知症又は認知症のリスクを評価するために用いる1又は複数の代謝産物マーカーは、表10〜12に記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよい。特に関心があるのは、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582、565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物である。患者試料中の代謝産物マーカー699.5198、723.5195、723.5197及び751.555の減少はAD病状を示し、患者試料中の代謝産物マーカー541.3432、569.3687、803.568及び886.5582の減少は、ADAS−cogによる認知障害を示し、565.3394、569.369、801.555及び857.6186は、MMSEによる認知障害を示す。
【0138】
本発明の他の実施形態では、患者の認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するための方法が提供される。本方法は、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの内部標準代謝産物に対する比率を得る工程と、
d)前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部標準代謝産物に対する各比率を1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
e)認知症又は認知症のリスクを鑑別診断するために前記比較を用いる工程とを含む。
【0139】
試料分析工程(工程b)は、質量分析計(MS)を用いて試料を分析することを含むことができる。例えば、それらに限定するものではないが、そのような質量分析計は、FTMS型、オービトラップ(orbitrap)型、飛行時間(TOF)型又は四重極型でよい。代わりに、質量分析計は、さらなるプレ検出器マスフィルターを備えることができよう。例えば、それらに限定するものではないが、そのような器具は、四重極−FTMS(Q−FTMS)、四重極−TOF(Q−TOF)又は三重四重極(TQ若しくはQQQ)と一般に呼ばれる。さらに、質量分析計は親イオン検出モード(MS)又は、n>=2であるMSnモードで作動させることができた。MSnは、親イオンが衝突誘発性解離(CID)又は他の断片化手法によって断片化されて断片イオンを形成し、その後、前記断片の1又は複数が質量分析計によって検出される状況を指す。次に、そのような断片をさらに断片化して、さらなる断片を形成することができる。代わりに、液体若しくはガスクロマトグラフィー系を用いて、又は、直接注入によって、試料を質量分析計に導入することができた。
【0140】
直前の方法において、1又は複数の参考試料は、非認知症の対照個体から得た第1の参考試料でよい。1又は複数の参考試料は、臨床的に診断されたAD−認知症の患者から得た第2の参考試料、臨床的に診断された非AD認知症の患者から得た第3の参考試料、かなりの認知障害を起こしている患者から得た第4の参考試料、又はそれらの任意の組合せをさらに含むことができる。
【0141】
前記方法において、試料及び参考試料は、血清試料であることができる。1又は複数の代謝産物マーカーは、表18で記載され、特性決定される(正確な質量、名前/組成、分子式)、代謝産物から選択することができる。「内部標準代謝産物」は、患者に本来存在する内因性の代謝産物を指す。疾病状態にわたって変動しない任意の適当な内因性代謝産物を、内部標準代謝産物として用いることができる。例えば、それに限定するものではないが、内部標準代謝産物は、表18に示すホスファチジルエタノールアミン16:0/18:0(PtdEt16:0/18:0、M01)であることができ、この内部標準代謝産物はC3978NOPの分子式、及び、
【0142】
【化13】

を特徴とする構造を有する。
【0143】
代謝産物マーカーの内部標準代謝産物に対する比率の使用は、代謝産物マーカーの絶対レベルの測定よりも安定で再現性のある測定を提供する。内部標準代謝産物は本来全ての試料に存在し、疾病状態の間で異なることはあまりないようなので、試料間の変動(取扱い、抽出、その他によるもの)は最小化される。
【0144】
表18に記載の化合物の中で、上記方法で特に関心のあるものには、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物が含まれる。a)〜h)の内部標準代謝産物に対する比率の低下は、重度の認知障害を伴うAD認知症を示す。これらの代謝産物は、さらに、それぞれ
【0145】
a)図21で示すMS/MSスペクトル、分子式C2755NOP、及び/又は構造
【0146】
【化14】

【0147】
b)図22で示すMS/MSスペクトル、分子式C3974NOP、及び/又は構造
【0148】
【化15】

【0149】
c)図23で示すMS/MSスペクトル、分子式C4174NOP、及び/又は構造
【0150】
【化16】

【0151】
d)図24で示すMS/MSスペクトル、分子式C4374NOP、及び/又は構造
【0152】
【化17】

【0153】
e)図25で示すMS/MSスペクトル、分子式C4180NOP、及び/又は構造
【0154】
【化18】

【0155】
f)図26で示すMS/MSスペクトル、分子式C4178NOP、及び/又は構造
【0156】
【化19】

【0157】
g)図27で示すMS/MSスペクトル、分子式C4582NOP、及び/又は構造
【0158】
【化20】

【0159】
h)図28で示すMS/MSスペクトル、分子式C4578NOP、及び/又は構造
【0160】
【化21】

【0161】
をさらに特徴とすることができる。
【0162】
本発明の他の実施形態では、患者の認知症を治療するための療法の効力を評価する方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記定量化データを1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)前記療法が患者の認知症状態を改善しているかどうかを判断するために前記比較を用いる工程とを含む方法が提供される。
【0163】
任意選択で、分析工程(工程b)の後に、1又は複数の各代謝産物マーカーの内部標準代謝産物に対する比率を得ることができる。この場合、前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部標準代謝産物に対する比率を1又は複数の参考試料から得た対応するデータと比較して、その療法の効力を評価する。
【0164】
分析工程(工程b)は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)によって試料を分析することを含むことができ、或いは、その方法がハイスループットな方法である場合は、液体クロマトグラフィー及びリニアイオントラップ質量分析によって試料を分析することを含むことができる。
【0165】
用語「療法」は、評価する患者の健康状態又は認知症の状態を改善することができる、任意の適当な療法コースを意味する。療法の効力を評価する場合、患者の健康状態を改善するか又は低下させる、特定の療法の影響が測定される。その際に、当業者は、その療法が認知症の状態を治療するのに有効であるかどうかを判断できよう。
【0166】
上記方法において、1又は複数の参考試料は、任意の適当な参考試料でよい。例えば、決してそれらに限定するものではないが、参考試料は、非認知症の対照個体から得た複数の試料、臨床的に診断されたAD患者から得た複数の試料、前記患者から得た1又は複数の治療前基準試料、又は、それらの任意の組合せでよい。患者からの治療前基準試料は、代謝産物の変化がその患者に特異的になるので、特に有用である。
【0167】
試料及び参考試料は、血清試料であることができる。この場合、1又は複数の代謝産物マーカーは、表1〜7で記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよく、例としては、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物マーカーがある。或いは、代謝産物マーカーは、正確な質量が表18に記載のものであるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物M05〜M24から選択することができ、例としては、ダルトン単位で測定した正確な質量が、701.53951、699.52026、723.52026、747.52026、729.56721、727.55156、779.58286及び775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物がある。代謝産物M05〜M24は、代謝産物及び内部標準代謝産物の間の比率が得られる場合にも、用いることができよう。内部代謝産物は、例えば、表18で記載の代謝産物M01でよかろう。
【0168】
試料及び参考試料は、脳脊髄液(CSF)試料でもよい。この場合、1又は複数の代謝産物マーカーは、表13に記載の代謝産物から選択することができるか又はそれらの組合せでよく、例としては、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物がある。
【0169】
特定された代謝産物は、全身で容易に測定することができる。AD及び他の神経障害に関連する大多数の研究は末梢系を無視しているので、この点は基本的に重要である。血液サンプル中で神経変性過程を測定する能力は、認知症の診断においてかなりの価値を有する。本発明の特定のエタノールアミンプラスマロゲン代謝産物に関しては、これらはAD病状の有効な生化学的マーカーであるが、その理由は、この分子種の含量が、認知症がしばしば付随する疾患であるパーキンソン病で不変であるからである(Emre, M., Dementia
associated with Parkinson's disease. Lancet Neurol, 2003. 2(4): p. 229-37.)。
さらに、ADに対するプラスマロゲン代謝産物の特異性は、リスクを評価するために又は、臨床症状の出現より前の疾患の早期発見のために、その血清中レベルを個体の寿命をとおして時系列で容易に測定することができることを示す。
【0170】
本発明は、AD認知症及び非AD認知症状態の鑑別診断のために、ハイスループット方法も提供する。本方法は、親分子の断片化を含むことができ、非限定的実施例において、これはQ−Trap(商標)システムによって達成することができる。代謝産物の検出は、比色化学的アッセイ(UV若しくは他の波長)、抗体ベースの酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、核酸検出アッセイのためのチップベースのポリメラーゼ連鎖反応、ビーズベースの核酸検出法、ディップスティック化学的アッセイ又は他の化学反応、画像分析、例えば磁気共鳴画像(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)スキャン、コンピュータ断層撮影法(CT)スキャン、核磁気共鳴(NMR、nuclear magnetic resonance)及び様々な質量分析ベースの系を含む、様々なアッセイプラットホームの1つを用いて実施することができる。
【0171】
人血中の代謝産物のレベルを測定し、そのレベルを正常な「標準」集団でのレベルと比較するためのハイスループット方法により、その人がADを有するかどうか予測することができる。これは、いくつかの方法で実施することができる。1つの方法は、前述の通り、検査試料を分類する予測アルゴリズムを用いることであり、それは、ADを有する確率を出力する。代謝産物の強度を測定することができる限り、予測的手法はアッセイ方法とは独立して機能するであろう。他の方法は、単に質量分析計からの閾値強度レベルを設定し、その人のプロフィールが彼らのAD状態を示すであろう閾値の上又は下にあるかどうかを判断することに基づくことができよう。或いは、決してそれに限定するものではないが、好ましい方法は、非認知症の正常な集団及びAD集団における6つの代謝産物のモル濃度を測定するために実施することができる、真に定量的なアッセイである。次に、AD陽性について絶対閾値濃度を決定することができよう。臨床場面では、これは、代謝産物又は代謝産物の組合せの測定レベルがある濃度より低いならば、個体がAD陽性であるという関連する可能性が存在することを意味するものであろう。したがって、最適診断検査は、血清中の代謝産物の強度を測定する方法、及び、その強度値を受け取って、ADを有する予測確率並びに健康である(すなわち、AD陰性である)予測確率を出力するためのアルゴリズムを含むことができよう。
【0172】
試料中の小分子又は代謝産物に基づく本発明の方法及び特定されるバイオマーカーは、特定の代謝産物を検出することができるアッセイの開発が比較的簡単でアッセイあたりの費用が経済的であるので、理想的なスクリーニング検査のために1999年に特定された基準を満たす(非特許文献82)。この検査の侵襲性は最小限であり、認知障害及びAD病状を指し示す。現在の臨床化学ラボラトリーハードウェアに適合する臨床アッセイへの本方法の変換は、商業的に許容され、有効である。さらに、本発明の方法は、検査を実施して解釈するために、高度に訓練された人員を必要としない。
【0173】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。
【実施例1】
【0174】
差別的に発現される代謝産物の識別
差別的に発現された代謝産物を、かなりの認知障害が付随する及び付随しない臨床的に診断されたAD、臨床的に診断された非AD及び非認知症対照で特定した。
【0175】
臨床試料。記載したAD血清診断アッセイについては、非認知症の健康な個体、及び、臨床的に診断されたAD及び非AD認知症患者の代表的な集団から試料を得た。本発明で記載されるADの生化学的マーカーは、可能性のあるADと臨床的に診断された患者(かなりの認知障害を伴う患者43人、認知障害を認めない患者32人)からの75個の血清試料、臨床的に診断された非AD認知症の患者30人からの血清試料、及び非認知症対照からの31個の血清試料の分析に由来した。3群の試料は、年齢、民族性、体重、職業が異なり、様々な非認知症関連の健康状態を示していた多様な個体集団からのものであった。全ての試料は、単一時点で収集したものであった。患者の認知障害は、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)−認知サブセットを用いても評価した。
【0176】
記載したAD CSF診断アッセイについては、臨床的に診断された認知症を伴うADを代表する患者及び非AD認知症患者の群から試料を得た。本発明で記載されるADの生化学的マーカーは、臨床的に診断されたAD認知症患者からの6個のCSF試料、及び臨床的に診断された非AD認知症患者からの5個のCSF試料の分析に由来した。
【0177】
両群の試料は、年齢、民族性、体重、職業が異なり、様々な非認知症関連の健康状態を示していた多様な個体集団からのものであった。全ての試料は、単一時点で収集したものであった。136個の血清試料及び本出願で用いる11個のCSF試料に含まれる代謝産物を、超音波処理及び激しい混合(ボルテックス混合)により極性及び無極性の抽出物に分離した。
【0178】
質量分析。136人の個体(臨床的に診断されたADが75人、臨床的に診断された非ADが30人及び非認知症の健常対照者が31人)から収集した血清抽出物、並びに、11個のCSF抽出物(臨床的に診断されたAD患者が6人、臨床的に診断された非AD患者が5人)の分析を、FTMSへの直接注入及び、ESI又は気圧化学イオン化(APCI)による正及び負のモードでのイオン化によって実施した。試料抽出物は、負のイオン化モードではメタノール:0.1%(v/v)水酸化アンモニウム(50:50、v/v)で、又は、正のイオン化モードではメタノール:0.1%(v/v)蟻酸(50:50、v/v)で3倍又は6倍に希釈した。APCIについては、試料抽出物は、希釈せずに直接注入した。全ての分析は、7.0Tの能動的に保護された超伝導磁石を備えたBruker Daltonics社製のAPEX IIIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Bruker Daltonics社製、Billerica、MA)で実施した。試料は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び/又はAPCIを用いて、毎時1200μLの流速で直接注入した。イオン転移/検出パラメータは、セリン、四アラニン、レセルピン、Hewlett-Packard社製の調整混合物、及び副腎皮質刺激ホルモン断片4〜10の標準混合物を用いて最適化した。さらに、器具の条件は、器具製造業者の推奨に従って、100〜1000amuの質量範囲にわたってイオン強度及び広帯域蓄積を最適化するために調整した。上記標準物の混合物は、100〜1000amuの取得範囲にわたる質量正確度のために、各試料スペクトルを内部較正するために用いた。
【0179】
全体で、各試料について、抽出物及びイオン化モードの組合せを含む6つの別個の分析が得られた。
水抽出物
1.正のESI(分析モード1101)
2.負のESI(分析モード1102)
有機抽出物
3.正のESI(分析モード1201)
4.負のESI(分析モード1202)
5.正のAPCI(分析モード1203)
6.負のAPCI(分析モード1204)
【0180】
質量分析データ処理。各内部標準質量ピークがその理論上の質量と比較して<1p.p.m.の質量誤差を有するように、線形最小二乗回帰線を用いて、質量軸値を較正した。Bruker Daltonics社製のXMASSソフトウェアを用いて、1メガワードのデータファイルサ
イズを取得し、2メガワードにゼロ充てんした。sinmデータ変換を、フーリエ変換及びマグニチュード計算の前に実施した。各分析からの質量スペクトルを積算し、正確な質量及び各ピークの絶対強度を含むピークリストを作成した。100〜2000m/zの範囲の化合物を分析した。異なるイオン化モード及び極性にわたってデータを比較、要約するために、水素付加体形成を仮定して、検出された全質量ピークをそれらの対応する中性質量に変換した。次に、DISCOVAmetrics(商標)ソフトウェア(Phenomenome Discoveries Inc.社製、Saskatoon、SK、Canada)を用いて、自然発生した二次元の(質量対試料強度)
アレイを作成した。複数ファイルからのデータを積算し、次にこの合併ファイルを処理して固有の質量を求めた。各固有質量の平均を求め、y軸を表した。この値は、統計学的に同等であると決定された、全ての検出された正確な質量の平均を表す。較正標準に対する機器の質量正確度が約1ppmであることを考慮すると、当業者は、これらの平均質量がこの平均質量の±5ppm内に入る個々の質量を含むことができることを認めよう。当初、分析するために選択した各ファイルのためにコラムを作成し、x軸を表した。選択した各ファイルで見られる各質量の強度を、次に、それを表すx,y座標に埋め込んだ。強度値を含まない座標は、空欄にした。アレイに入った後、データをさらに処理、可視化、解釈し、推定される化学的同一性を割り当てた。次に、検出した全ての代謝産物の質量及び強度を得るために、各スペクトルのピークを拾った。全てのモードからのこれらのデータは、次に、1試料につき1つのデータファイルを作成するために合併させた。次に、全136個の試料からのデータを合併、整列させ、各試料がコラムによって表され、各固有の代謝産物が単列によって表される二次元の代謝産物アレイを作成した。所与の代謝産物試料の組合せに対応する細胞で、その試料中の代謝産物の強度が示される。データがこのフォーマットで表される場合、試料群間で差を示す代謝産物を判定した。同じ手法を用いて、11個のCSF試料を二次元の代謝産物アレイに併合させた。
【0181】
A.血清バイオマーカー
【0182】
以下の異なる臨床群の間で血清で有意に異なる代謝産物について選択するために、スチューデントのt検定を用いた。p<0.05未満の代謝産物を、有意とみなした。
【0183】
A1−臨床的に診断されたAD患者(n=75)対非認知症対照(n=31)。この比較から、262個の代謝産物が得られた(表1を参照)。
【0184】
A2−かなりの認知障害を伴う臨床的に診断されたAD患者(n=32)対非認知症対照(n=31)。この比較から、292個の代謝産物が得られた(表2を参照)。
【0185】
A3−かなりの認知障害を伴う臨床的に診断されたAD患者(n=32)対かなりの認知障害を伴う臨床的に診断された非AD患者(n=30)。この比較から、118個の代謝産物マーカーが得られた(表3を参照)。
【0186】
A4−かなりの認知障害を伴う臨床的に診断されたAD患者(n=32)対かなりの認知障害を伴わない臨床的に診断されたAD患者(n=43)。この比較から、97個の代謝産物マーカーが得られた(表4を参照)。
【0187】
A5−臨床的に診断された非AD患者(n=30)対非認知症対照(n=31)。この比較から、199個の代謝産物マーカーが得られた(表5を参照)。
【0188】
A6−軽度の認知障害を伴う臨床的に診断されたAD患者(n=43)対非認知症対照(n=31)。この比較から、136個の代謝産物が得られた(表6を参照)。
【0189】
A7−かなりの認知障害を有する患者(n=42)及び軽度の認知障害を有する患者(n=43)。この比較から、81個の代謝産物が得られた(表7を参照)。
【0190】
表1〜7は、血清中のその濃度又は量が検査した集団の間で有意に異なり(p<0.05)、したがって、前記各集団の識別のために潜在的な診断有用性を有する生化学的マーカーを示す。これらの特徴は、それらの正確な質量及び分析モードによって記載され、これらは、共同で、各代謝産物の推定される分子式並びに化学的特性(例えば極性及び推定される官能基)を提供するのに十分である。
【0191】
数百の可能な代謝産物の最初のリストから、8個の代謝産物の組合せが血清認知症検査の基準を満たすと判断された。この組合せは、AD認知症を、非AD認知症、ADの初期段階及び健常対照から区別することができる。8個の代謝産物の最良の組合せには、中性質量(ダルトン単位で測定したもの)が541.3432、569.3687、699.5198、723.5195、723.5197、751.5555、803.568、886.5582である代謝産物が含まれた。これらは実質量であるが、当業者は、±5ppmの差が同じ代謝産物を指し示すことを認めるであろう。
【0192】
本結果を分析する際に、当業者は、以下の臨床群が関心対象であることを理解するであろう。かなりの認知障害を伴う非AD、かなりの認知障害を伴うAD、かなりの認知障害を伴わないAD及び非認知症の対照。4つの異なる臨床群の8個のバイオマーカーの平均±SEMを表す棒グラフを、図1に示す。対照の、非認知症の個体と比較して、3つの非対照状態は、以下の通りに記載することができる。
【0193】
1.かなりの認知障害を伴うAD対対照
a.バイオマーカー541.3432−減少
b.バイオマーカー569.3687−減少
c.バイオマーカー699.5198−差はない
d.バイオマーカー723.5195−差はない
e.バイオマーカー723.5197−差はない
f.バイオマーカー751.5555−差はない
g.バイオマーカー803.568−減少
h.バイオマーカー886.5582−減少
【0194】
2.かなりの認知障害を伴う臨床的に診断されたAD対対照
a.バイオマーカー541.3432−減少
b.バイオマーカー569.3687−減少
c.バイオマーカー699.5198−減少
d.バイオマーカー723.5195−減少
e.バイオマーカー723.5197−減少
f.バイオマーカー751.5555−減少
g.バイオマーカー803.568−減少
h.バイオマーカー886.5582−減少
【0195】
3.かなりの認知障害を伴わない臨床的に診断されたAD対対照
a.バイオマーカー541.3432−減少
b.バイオマーカー569.3687−差はない
c.バイオマーカー699.5198−減少
d.バイオマーカー723.5195−減少
e.バイオマーカー723.5197−減少
f.バイオマーカー751.5555−減少
g.バイオマーカー803.568−差はない
h.バイオマーカー886.5582−差はない
【0196】
上述の3つの非対照ケースのそれぞれで、固有のマーカーサブセットが減少した。
【0197】
かなりの認知障害を有する2つの異なる臨床群の8個のバイオマーカーの平均±SEMを表す棒グラフを、図2に示す。かなりの認知障害を伴う非AD認知症と比較して、かなりの認知障害を伴うAD患者は、
a.バイオマーカー541.3432−差はない
b.バイオマーカー569.3687−差はない
c.バイオマーカー699.5198−減少
d.バイオマーカー723.5195−減少
e.バイオマーカー723.5197−減少
f.バイオマーカー751.5555−減少
g.バイオマーカー803.568−差はない
h.バイオマーカー886.5582−差はない
と記載することができる。
【0198】
本発明の結果は、かなりの認知障害を伴う臨床的に診断されたADの個体、かなりの認知障害を伴わない臨床的に診断されたADの個体(これは、初期ADの可能性がある)、かなりの認知障害を伴う非AD認知症の個体、及び非認知症対照の血清の間の、明らかな相違を示す。本出願で記載のように、これらの知見により、異なる型の認知症を互いから、及び、認知障害の初期段階から識別及び区別することができる。上の結果から、質量が、699.5198、723.5195、723.5997、751.5555の代謝産物マーカーはAD病状に特異的であるが、質量が、541.3432、569.3687、803.568、886.5582であるマーカーは認知障害に特異的であると、ADAS−cog検査からさらに結論づけることができる。
【0199】
第2の神経心理学的検査である、認知障害を測定するフォルスタインのミニ精神状態検査(MMSE)を、136人の患者全てに適用した。MMSEは広く使われており、見当識、短期及び長期の記憶、行動、言語及び理解の広く検証された検査である。かなりの認知障害を有しない臨床的に診断されたAD患者(n=43)において、それらの患者のうちの15人は、正常な認知を示すMMSEスコア(MMSE≧28)を有したが、残りの28人の患者は、軽度の障害(18〜23のスコア、n=11)又は重度の認知障害(9〜17のスコア、n=17)を示すMMSEスコアを有した。ADAS−cog検査で有意な認知障害を伴わない(p<0.05)43人の臨床的に診断されたAD患者で、MMSEスコア(正常、軽度又は重度の認知障害)が有意に異なる代謝産物について選択するために、F検定を用いた。23個の代謝産物が、この基準を満たした(表8に示す)。これらは全て、2つの集団の間で統計学的に異なる特徴であり、したがって、潜在的な診断有用性を有する。これらの特徴は、それらの正確な質量及び分析モードによって記載され、これらは、共同で、各代謝産物の推定される分子式並びに化学的特性(例えば極性及び推定される官能基)を提供するのに十分である。
【0200】
23個の代謝産物からの、その全ては減少することが観察された4個の代謝産物の最適なサブセットを、主成分分析(PCA、Principal Components Analysis)を用いて選択
した。群間で最大の分離を生じさせることができた4個の代謝産物は、565.3394、569.369、801.555、857.6186であった。これらの代謝産物は、表8でアスタリスクによって示され、MMSEでの認知障害と関連する4代謝産物バイオマーカーパネルを表す。代謝産物の第2のセットが認知障害と関連するという事実は、ADAS−cogが特異的に測定しない他の1つ又はいくつかの認知状態に対してMMSEが特異的でなければならないことを示唆する。
【0201】
したがって、合計3つの4バイオマーカーパネルを136人の患者に適用して彼らを8つのカテゴリーの1つに分類することができ、それは、同時に、AD病状の存在(バイオマーカー699.5198、723.5195、723.5997、751.5555)、ADAS−cogによる認知障害の存在(541.3432、569.3687、803.568、886.5582)、及びMMSEによる認知障害の存在(565.3394、569.369、801.555、857.6186)を示す。0/1バイナリーモデルを用いると、認知障害及びAD病状のないことを示す「000」からMMSE及びADAS−cog障害並びにAD病状を示す「111」までの3桁コードを用いて、各患者を標識することができる。表9は、8つのカテゴリーへの患者試料の分離を示す。
【0202】
3つの4バイオメーカーパネルを個々に代謝産物アレイに適用し、PCAプロットで最大の分離を示した患者を選択した。これらの患者を選択した理由は、彼らが異なる3群[AD(n=20)対非AD病状(n=20)、高ADASスコア(n=20)対低ADASスコア(n=12)、MMSEスコア上の認知障害(n=20)対MMSEスコア上の正常な認知(n=20)]の間の最良の識別子であったからである。異なる臨床群の間でスチューデントのt検定を実施した(p<0.05)。AD対非AD病状のp値基準を満たした116個の代謝産物を、表10に記載する。表11は、高ADASスコア対低ADASスコアのp値基準を満たした124個の代謝産物を記載し、表12は、MMSE上の障害スコア及びMMSE上の正常な認知のp値基準を満たした344個の代謝産物のリストを含む。
【0203】
ADAS−cog及びMMSE神経心理学的検査は、行動、見当識、記憶及び言語能力に関連する認知エラーを測定する。したがって、ADAS−cogスコア及び/又はMMSEと関連するバイオマーカーが、なじみの薄いシーケンスを考案、組織化及び開始する能力、自己及び環境の認識、並びに記憶及び言語能力と関係することを示唆することは、理にかなっている。このように、これらのバイオマーカーは、認知症と関連する認知障害に限定されず、むしろ、任意の種類の行動、見当識、記憶及び/又は言語上の欠陥をもたらす任意の状態が、生体試料中で類似した減少を示すであろう。
【0204】
この発見のために用いた試料セット(136個体)は微々たるものではなく、様々な民族的及び地理的背景の個体並びに様々な年齢及び健康状態の個体を含んだ。したがって、これらの知見が一般認知症集団を代表すると予想する、強固な理由がある。
【0205】
B.CSFバイオマーカー。
【0206】
CSF試料で、臨床的に診断されたAD患者と臨床的に診断された非AD患者との間で異なる代謝産物について選択するために、スチューデントのt検定を用いた(p<0.05)。42個の代謝産物が、この基準を満たした(表13に示す)。これらの代謝産物は、2つの集団の間で統計学的に異なり、したがって、潜在的な診断有用性を有する。これらの代謝産物は、それらの正確な質量及び分析モードによって記載され、これらは、共同で、各代謝産物の推定される分子式並びに化学的特性(例えば極性及び推定される官能基)を提供するのに十分である。
【0207】
上の42個の代謝産物から、12個の代謝産物の最適なサブセットを選択した。これらの代謝産物は、2つの群の間で最大の統計的差を有した(p<0.01)。各群で、試料の少なくとも60%(臨床的に診断されたADでは4/6、臨床的に診断された非ADでは3/5)で検出されなかった代謝産物は除外した。パネルは、質量207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972を含む。これらは実質量であるが、当業者は、±5ppmの差が同じ代謝産物を指し示すことを認めるであろう。
【0208】
12バイオマーカーパネルを、診断未確定患者からの5個のCSF試料を用いて検査した。試料に関して入手できる唯一の情報は、対象の年齢、性別及び個体が認知欠陥を有するかどうかであった。12バイオマーカーパネルが正しい場合、対象は、AD認知症、非AD認知症を有するか又は正常と診断することができた。診断未確定患者によって提供された5個のCSF試料から、1つは非AD認知症と、2つはAD認知症と、2つは正常と診断された。2人の健常人は、ミニ精神状態検査(MMSE)スコアが示すように、認知障害を有さなかった。したがって、12個の代謝産物の特性セットを用いて、AD及び非ADの認知症を診断することが可能であった。
【0209】
2つの異なる臨床群の12個のバイオマーカーの平均±SEMを表す棒グラフを、図3に示す。かなりの認知障害を伴う非AD認知症と比較して、かなりの認知障害を伴うAD患者は、以下のように記述することができる。
a.バイオマーカー207.0822−増加
b.バイオマーカー275.8712−減少
c.バイオマーカー371.7311−減少
d.バイオマーカー373.728−減少
e.バイオマーカー432.1532−増加
f.バイオマーカー485.5603−減少
g. バイオマーカー487.6482−減少
h.バイオマーカー562.46−増加
i.バイオマーカー622.2539−増加
j.バイオマーカー640.2637−増加
k.バイオマーカー730.6493−増加
l.バイオマーカー742.2972−増加
【0210】
これらの結果に基づいて、臨床的に診断された非AD及びAD患者のCSFの間で、明瞭な区別がなされた。したがって、そのような知見は、AD認知症を非AD認知症から識別及び区別することを可能にし、本出願で記載されるCSFでの認知症診断検査の基礎をなすことができる。これらの知見は、一般認知症集団を代表すると予想される。
【0211】
非標的型のFTMSベースのプラットホームを、血清及びCSFでの最適代謝産物の識別及び選択で用いたが、他のMSベースのプラットホーム、ELISA、比色アッセイなどを含む他の分子の事後検出方法を、分子の検出のために用いることができる。
【実施例2】
【0212】
発見された代謝産物の独立した確認方法
A.血清バイオマーカー
【0213】
FTMS法を用いて発見された8個の診断代謝産物の、非認知症の正常血清及び臨床的に診断されたAD血清の間での強度差を検査するために、独立した質量分析方法を用いた。8個の代表的な臨床的に診断されたAD試料抽出物及び8個の代表的な非認知症対照試料抽出物を、ABI Q-Star質量分析計に連結したHP 1100高性能液体クロマトグラフィーを
用いてLC−MSによって分析した。
【0214】
5個の臨床的に診断されたAD及び非認知症の生存対照試料抽出物からの水性分画を窒素ガスの下で蒸発させ、100μLのメタノール:水:蟻酸(5:94.9:0.1)で再構成した。再構成した試料の5μLをフルスキャンのHPLC(Agilent Technologies社)(Metasil AQ 3uを備えたHP 1100、100×2mmのカラム)にかけ、10μLを流速0.2ml/分のMS/MSにかけた。
【0215】
HPLCからの溶出液を、ターボイオンスプレーイオン(ESI)源を取り付けたABI Q-Star XL質量分析計を負のモードで用いて分析した。フルスキャンモードのスキャン型
は飛行時間型(TOF)であり、蓄積時間1.0000秒、質量範囲50〜1500Da、及び継続時間70分であった。源パラメータは以下の通りであった。イオン源ガス1(GS1、gas 1)55;イオン源ガス2(GS2、gas 2)90;カーテンガス(CUR、Curtain gas)40;ネブライザー流(NC、Nebulizer Current)0;温度450℃;デクラスタリングポテンシャル(DP、Declustering Potential)−55;フォーカシングポテンシャル(FP、Focusing Potential)−265;デクラスタリングポテンシャル2(DP2)−15。MS/MSモードでは、スキャン型は生成イオンであり、蓄積時間1.0000秒、スキャン範囲50〜1000Da、継続時間70分であった。全ての源パラメータは上と同じであるが、衝突エネルギー(CE、collision energy)は−50Vであり、衝突ガス(CAD、collision gas、窒素)は5psiであった。
【0216】
前にFTMSで見出された8個の代謝産物質量の6つを、ABI Q-Star質量分析計で検査した。正確な質量が723.5195及び723.5197である代謝産物は同じ代謝産物であると判定され、正確な質量が886.5582である代謝産物は検出されなかった。したがって、残りの分析のためには6個の代謝産物(699.5198、723.5195、751.5555、541.3432、569.3687、803.568)だけを用いた。
【0217】
6個のバイオマーカーの抽出イオンクロマトグラム(EIC)を、図4で示す。上部パネルは8個の非認知症対照のEICを示し、それぞれの下部パネルは8個の臨床的に診断されたADのEICを示す。Q-starの感度はFTMSよりも優れ、非認知症の対照対象及び臨床的に診断されたAD集団の間の、選択されたバイオマーカーのより大きな強度差をもたらす。図5は、FTMS及びQ-Starで検出された、8個の非認知症の対照及び8個の臨床的に診断されたAD試料の6個のバイオマーカーの平均生強度を示す。
【0218】
B.CSFバイオマーカー
【0219】
本発明で記載される代謝産物及び臨床変数とのそれらの関連を、独立した質量分析系を用いてさらに確認する。調査中の臨床変数の間で強度が異なる代謝産物を特定する目的で質量及び強度情報を得るために、様々な群のそれぞれからの代表的な試料抽出物を、HP 1050高性能液体クロマトグラフィー、又はABI Q-Starに連結した同等物、又は同等の質量
分析計を用いてLC−MSによって再分析する。
【実施例3】
【0220】
一次代謝産物バイオマーカーの構造解明
代謝産物の構造解明のために用いることができる特性には、正確な質量及び分子式の決定、極性、酸/塩基性質、NMRスペクトル並びにMS/MS又はMSnスペクトルが含まれる。これらのデータ、特にMS/MSスペクトルは、特定の代謝産物のフィンガープリントとして用いることができ、完全な構造が決定されているかどうかに関係なく、特定の代謝産物の特異識別子である。
【0221】
A.血清バイオマーカー−構造解明
【0222】
1.LC滞留時間。目的の代謝産物を含む抽出物を、上の実施例2で記載のように、C18カラムを用いる逆相LC−MS及びMSによる分析にかけた。表14は、6個の血清代
謝産物マーカーそれぞれについて得られた滞留時間及び検出質量を記載する。6個のバイオマーカー全ての滞留時間は、これらのHPLC条件下で約29〜42分である。
【0223】
2.抽出条件。抽出条件は、バイオマーカーの化学的性質に関する洞察も提供する。血清中の全8個の代謝産物(実施例1からのもの)を負のモードでイオン化したが(3個はAPCIで5個はESIで)、それは、カルボン酸又はリン酸などの酸性部分を含む分子を指し示す。水素原子を失うことができる任意の部分は、負のイオン化モードで検出することができる。代謝産物マーカーの3つは、有機酢酸エチル分画に抽出され(プラスマロゲン代謝産物)、それは、これらの代謝産物が酸性条件下で無極性であることを示し、1つは有機酢酸エチル分画に抽出、乾燥され、ブタノール中に再懸濁されたが、それは、この代謝産物(プラスマロゲン代謝産物)が酸性条件下で無極性であることを示す。代謝産物のうちの4つ(ホスファチジルコリン関連代謝産物)は有機分画に抽出せず、むしろ、水メタノール/水酸化アンモニウム分画に残り、それは、これらの代謝産物が非常に極性であることを示す。
【0224】
3.MS/MSスペクトル。最高の診断の能力を有すると特定された6個の血清代謝産物は、衝突誘発性解離(CID)を用いるMS/MS断片化を受けた。所与分子の構造は、その分子に特異的である(人の指紋に相当する)、既定条件下での特異断片化パターンを決定する。分子構造のわずかな変化でさえ、異なる断片化パターンをもたらすことができる。分子同一性のフィンガープリントを提供することに加えて、CIDによって生成される断片は、分子構造に関する洞察を得るために、及び、非常に特異的なハイスループット定量検出法を生成するために用いることができる(例としては、(Hager, J.W., et al., High-performance liquid chromatography-tandem mass spectrometry with a new quadrupole/linear ion trap instrument. J Chromatogr A, 2003. 1020(1): p. 3-9.、Hopfgartner, G., et al., Triple quadrupole linear ion trap mass spectrometer for the analysis of small molecules and macromolecules. J Mass Spectrom, 2004. 39(8): p. 845-55、Xia, Y.Q., et al., Use of a quadrupole linear ion trap mass spectrometer in metabolite identification and bioanalysis. Rapid Commun Mass Spectrom, 2003. 17(11): p. 1137-45.、Zhang, M.Y., et al., Hybrid triple quadrupole-linear ion trap mass spectrometry in fragmentation mechanism studies: application to structure elucidation of buspirone and one of its metabolites. J Mass Spectrom, 2005. 40(8): p. 1017-1029.)を参照)。図6〜11は、6個のマーカーのそれぞれの−50Vの衝突エネルギー(CE)電圧でのMS/MSスペクトルを示す。
【0225】
次に、各マーカーの表(表15〜17)で示すように、ADAS−cogスコアに固有の代謝産物の各断片イオンの推定される式を計算するために、各親質量のCID MS/MSから得られた質量を用いた。断片化データに固有の情報は各代謝産物に高度に特異的及び説明的であり、それは、各分子について構造に関する洞察を得るために用いることができる。全てのパラメータを前述のようにし、衝突ガスとして5psiの窒素を用い、−50ボルトの衝突エネルギー(CE)設定を用いて、ABI-Q Star XLでMS/MSを実施
した。
【0226】
断片化パターン及び質量に基づいて、ADAS−cogスコアに固有の代謝産物マーカーに、ホスファチジルコリン関連骨格を有する構造を割り当てた。CID MS/MSから、ADAS−cogスコアに固有の3つの代謝産物(正確な中性質量が、541.3432、569.3687、803.568のもの)の分子式は、それぞれC2551NOP、C2755NOP及びC4381NO10Pと決定された。それらの構造を、図12〜14に示す。さらなるマーカーの推定される構造を、図15に示す。
【0227】
正確な中性質量が751.5555、699.5198及び723.5195である、AD病状に特異的な3つの代謝産物を、FT−ICRMS及びLC/MS手法を用いて、また、HRAPCI−MS及びMS/MS分光分析によって分析した。各代謝産物マーカーの断片化パターンから決定される娘イオンを、図16〜18に示す。分子式は、それぞれC4378NOP、C3974NOP及びC4174NOPと決定された。断片化パターン及び質量に基づいて、AD病状に固有の代謝産物マーカーに、エタノールアミンプラスマロゲン骨格を有する構造を割り当てた。
【0228】
751.5555代謝産物(C4378NOP)については、負イオン化条件のために、測定されたHRAPCI−MS m/zは、750.5482([M−H]−、C4377NOPの計算値750.5477)であった。測定されたMS/MS断片質量(MS/MS m/z)の相対強度は、以下の通りであった。750([M−H]−、25%)、482(1%)、464(12%)、446(5%)、329(8%)、303(100%)、259(12%)、205(8%)、140(8%)。MS/MS断片を、図16に示す。m/z303の強いMS/MS断片イオン、及び、ケトンとしてのsn−2アシル基(m/z464)の損失、小さいもののsn−1ビニルエーテル側鎖(m/z482)の損失による他の断片イオン、並びにホスホエタノールアミン(m/z140)による断片イオンは、代謝産物が、sn−2位置のアラキドン酸を有するプラスメニルホスファチジルエタノールアミン型の分子であることを示した。これらの結果に基づいて、751.5555代謝産物の構造は、1−O−1’−(Z)−オクタデセニル−2−アラキドイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンと判明した。これは、それらのLC/MS及びMS/MSスペクトルデータの比較によって確認された(図19)。
【0229】
分子式C3974NOP(中性質量699.5198)及びC4174NOP(中性質量723.5195)を有する2つの残りの代謝産物は、LC/MSで751.5555代謝産物と同時溶出することが分かった。代謝産物のMS/MS断片イオン及び断片化パターンは、751.5555代謝産物のそれらと類似していた。
【0230】
699.5198代謝産物については、測定されたHRAPCI−MS m/zは、698.5125([M−H]−、C3973NOPの計算値698.5130)であった。測定されたMS/MS m/zの相対強度は、以下の通りであった。698([M−H]−、8%)、536(4%)、279(100%)、255(15%)、119(10%)。MS/MS断片を、図17に示す。これらの結果及び751.5555代謝産物とのその構造類似性に基づき、699.5198代謝産物の構造は、1−O−1’−(Z)−ヘキサデセニル−2−リノレイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンと決定された。
【0231】
723.5195代謝産物については、測定されたHRAPCI−MS m/zは、722.5124([M−H]−、C4173NOPの計算値722.5130)であった。測定されたMS/MS m/zの相対強度は、以下の通りであった。722([M−H]−、12%)、482(1%)、436(15%)、418(6%)、303(100%)、279(6%)、259(15%)、255(10%)、205(4%)、140(5%)。MS/MS断片を、図18に示す。これらの結果及び751.5555代謝産物とのその構造類似性に基づき、723.5195代謝産物の構造は、1−O−1’−(Z)−ヘキサデセニル−2−アラキドイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンと提案された。
【0232】
4.NMRスペクトル。MS/MS断片化は、代謝産物に関する非常に特異的で記述的な情報を提供する。しかし、核磁気共鳴(NMR)は、代謝産物の構造を解明し、確認する際に役立つことができる。NMR分析技術は質量分析技術よりも一般的に感度が低いので、HPLCに複数の注入を実施して、目的代謝産物に対応する滞留時間ウィンドウを収集、併合する。次に、合わせた抽出物を蒸発乾燥させ、NMR分析のために適当な溶媒で再構成する。
【0233】
複数のNMR技術及び機器を利用でき、例えば、NMRスペクトルデータは、目的代謝産物のクロマトグラフィー分離及び精製の後、低温プローブを備えたBruker Avance社製600 MHz分光器で記録される。1HNMR、13CNMR、noe−difference
spec、並びに異核多重量子相関(HMQC、heteronuclear multiple quantum correlation)及び異核多重結合相関(HMBC、heteronuclear multiple bond correlation)のような2次元NMR技術が、バイオマーカーの構造解明研究のために用いられる。
【0234】
B.CSFバイオマーカー
【0235】
12個のCSF代謝産物マーカーの構造特性(LC滞留時間、抽出条件、MS/MS断片)を、上で詳述されているのと同様に決定する。
【実施例4】
【0236】
血清中エタノールアミンリン脂質の特性評価
AD病状に特異的な代謝産物マーカーはエタノールアミンプラスマロゲン骨格を有するという事実に基づいて、他の血清プラスマロゲンがADの指標となることができるかどうかについて、さらに調査した。血清中のエタノールアミンリン脂質のこの特性評価は、質量分析検出器と組み合わせたクロマトグラフィー法を用いて実施した。
【0237】
クロマトグラフィーを含むMS/MS適用及び実験については、Agilent 1100HPLCシステムを、Applied Biosystems QSTAR XL質量分析計と組み合わせて用いた。Agilent Zorbax RX-SIL(4.6×150mm、5μm)カラムを、順相クロマトグラフィーのために用いた。条件には、実行時間が合計15分の、1.0ml/分の流速でのアイソクラチック移動相(55:40:5のイソプロパノール:ヘキサン:HO)が含まれた。カラムを、35℃に加熱した。試料注入量は、10μlであった。試料の有機溶媒抽出物(酢酸エチル)を、窒素ガスの下で蒸発乾燥させ、注入前に残留物をイソプロパノール:ヘキサン:HOが55:40:5の溶液100μLで再構成した。
【0238】
QSTAR XL機器に、負のモードで作動するAPCI(加熱したネブライザー)源を取り付けた。主な機器パラメータの値は、DP、−60;FP、−265;DP2、−15;GS1、75;GS2、15;CUR、30;NC、−3;TEM、400℃;スキャン範囲、50〜1500amu;蓄積時間、1秒であった。
【0239】
3つのクラスのエタノールアミンリン脂質は、ジアシル(本明細書ではPtdEtとも称す)、アルキルアシル(本明細書ではプラスマニルとも称す)又はアルケニルアシル(本明細書ではEtnPl若しくはプラスメニルとも称す)と記載される。エタノールアミンリン脂質の様々な基本構造は、本明細書で用いる標準的な命名法と一緒に図20で示す。表18は、現在特定され、特に関心のある、プラスマニル及びプラスメニルのエタノールアミンリン脂質(M5〜M24)のリストを示す。
【0240】
図21〜32は、血清中に検出された、選択された代謝産物に関する構造情報を示す。これらの図は、選択された分子の滞留時間、MS/MS断片化パターン及び推定される構造を例示する。これらの分子の間の保存されたMS/MS断片化機構のために、理論上のMS/MS移行は、親イオン質量及びsn-1若しくはsn-2位置の部分の断片質量の組合せを用いることによって、任意のエタノールアミンリン脂質について決定することができる。
【実施例5】
【0241】
ハイスループット市販方法の開発
AD認知症及び非AD認知症状態の鑑別診断のための、ハイスループット方法を確立した。
【0242】
ハイスループットスクリーニング(HTS、high throghput screening)を、Agilent 1100 LCシステムに連結したリニアイオントラップ質量分析計(Q-trap 4000、Applied Biosystems社製)で実施した。試料は、15μLの内部標準(5μg/mLの(24〜13C)コール酸のメタノール溶液)を、各試料の120μLの酢酸エチル分画に加えることによって調製した。100μlの試料をフローインジェクション分析(FIA、flow injection analysis)によって注入し、負のAPCIモードで監視した。本方法は、各代謝
産物及び1つの内部標準の1つの親/娘移行の多重反応監視(MRM、multiple reaction monitoring)スキャンモードに基づいた。各移行は、70msの間スキャンし、総周期時間は2.475秒であった。アイソクラチックなEtOAcの10%メタノール溶液溶出を、360μl/分の流速で1分間実施した。源パラメータは以下の通りに設定した。CUR:10.0、CAD:8、NC:−4.0、TEM:400、GS1:30、GS2:50、インターフェースヒーターはオンにした。化合物パラメータは、以下の通りに設定した。DP:−120.0、EP:−10、NC:−4.0、CE:−40、CXP:−15。図33は、一定濃度の内部標準(24〜13C)−コール酸を維持しながら正常な血清試料を希釈することによって生成したEtnPl16:0/22:6のための、この方法の代表的な標準曲線を例示する。
【実施例6】
【0243】
エタノールアミンリン脂質の血清レベルに及ぼす加齢及び認知症程度の影響
様々なレベルの認知症を有する40〜95歳の752人の対象におけるエタノールアミンリン脂質の血清レベルに及ぼす加齢及び認知症程度の影響を調査した。対象コホートに関する臨床データを、表19に示す。
【0244】
年齢の影響を、認知症を起こしていない、認知状態が未検査の一組の年齢30〜95歳の対象を用いて評価した。対象を、彼らの年代(30代、40代、50代、60代及び≧70歳)に基づいて、5つのサブグループの1つに分けた。40〜49歳のコホートは、この年齢での低い認知症発生率のために、前認知症標準群として用いた。目的代謝産物(表18を参照)を、実施例5で記載のハイスループット方法を用いて測定した。
【0245】
認知症程度の影響は、68人の認知的に確認された非認知症の対象(MMSE≧28)、現時点でSDAT(ADAS−cogが6〜70、MMSEが0〜26)と診断された256人の対象、20人の死後確認されたSDAT、及び20人の死後確認された対照が含まれた、56〜95歳の対象で判定した。対象を、彼らのMMSEスコア[≧28=認知的に正常]又は彼らのADAS−cogスコア[5〜19=低い認知障害)、20〜39=中程度、40〜70=重度]に基づいて、4つの認知症サブグループの1つに分類した。
【0246】
6A.エタノールアミンリン脂質の絶対レベル
【0247】
女性だけがEtnPlの年齢関連の減少を示したという点で、かなりの性別偏りが観察された。男性及び女性の遊離ドコサヘキサエン酸(DHA、遊離22:6、M25)は、40〜49歳のコホートと比較して、50〜59歳、60〜69歳及び70+コホートで有意に増加した。しかし、男性だけが、16:0/22:6−EtnPl(M19)及び18:0/22:6−EtnPl(M24)の同時増加を示した(男性については表20〜21を、女性については表22〜23を参照)。これらのデータは、女性において、DHAのEtnPlへのパケジングの際に年齢関連の機能障害がある可能性を示す。この性差により、非常に高齢の女性における認知症の発生率の増加を説明することができる(Fiehn, O., et al. Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol, 2000. 18(11): p. 1157-61.)。
【0248】
男性及び女性において、全ての認知症サブグループのEtnPlの大半は、認知対照と比較して有意に減少した。男性及び女性において、遊離DHA(M25)は、重度認知症の対象だけで有意に減少した。女性において、18:2を含むEtnPlの両方が、軽度又は中程度の認知症の女性に対して重度認知症の対象で有意に低く、16:0/20:4(M17)が軽度の群に対して重度の群で低かった点で、認知症の影響は3つのEtnPl(16:0/18:2(M16)、18:0/18:2(M21)及び16:0/20:4(M17)で観察された(表24〜26を参照)。男性においては、遊離DHA(M25)が軽度の群に対して中程度の群、及び、中程度の群に対して重度の群で減少し、16:0/22:6(M19)が軽度の群に対して重度の群で減少した点で、認知症の影響はDHA(M25)及び16:0/22:6(M19)で観察された(表27〜29を参照)。これらの結果は、ADにおける進行性の認知能低下が、両性で僅かに異なって現れることを示す。
【0249】
脳白質は18:1を含むEtnPl及び18:2を含むEtnPlを主に含み、20:
4を含むEtnPl及び22:6を含むEtnPlのレベルは低いが、灰白質は有意により高いレベルの20:4を含むEtnPl及び22:6を含むEtnPlを含む(Cummings, J.L., Kaufer, D. Neuropsychiatric aspects of Alzheimer's disease: the cholinergic hypothesis revisited. Neurology, 1996. 47(4): p. 876-83.)。女性においては、認知症の進行は白質(18:2)及び灰白質(20:4)のEtnPlに同等に影響を及ぼすようであるが、男性においては、主に灰白質(22:6)EtnPlがより大きな影
響を受けるようである。
【0250】
病理確認をした20人のAD対象及び最小限のアミロイド沈着を有する20人の対象からの死後収集血清試料も、分析した。灰白質及び白質のEtnPlは、年齢を合致させた対照と比較して、死後確認ADで有意に減少していた(表30及び31を参照)。
【0251】
6B.エタノールアミンリン脂質の相対レベル
【0252】
16:0/18:0PtdEt(M01)を有する各エタノールアミンリン脂質のレベルの間で比率を得るために、上で収集したデータを再分析した。このようなエタノールアミンリン脂質レベルの測定は、絶対レベルの測定よりも安定で再現性がある。さらに、16:0/18:0PtdEt(M01)は本来全ての試料に存在し、疾病状態の間で異なることはあまりないようなので、この手法は、試料間の変動(取扱い、抽出、その他によるもの)を最小化する。
【0253】
得られた結果は、6Aで得られた観察及び結論をさらに支持する。性的偏りはEtnPlの年齢関連の減少に関してであり、M01に対する比率が測定されたデータで明らかであった(男性については表32〜33を、女性については表34〜35を参照)。認知障害の重症度に関する同じ傾向も観察された(男性については表36〜38を、女性については表39〜41を参照)。さらに、死後血清試料の病理結果は、類似した傾向を示す(表42及び43)。
【0254】
EtnPlの絶対レベル及びM01に対するEtnPlの比率は、両方とも認知症の有意な影響を示した。8つのEtnPl(16:0/18:1(M15)、16:0/18:2(M16)、16:0/20:4(M17)、16:0/22:6(M19)、18:0/18:1(M20)、18:0/18:2(M21)、18:0/20:4(M22)、18:0/22:6(M24))全てのEtnPl対M01比は、軽度群と比較して重度認知症群で有意に低く、8つのうちの6つは、中程度の群と比較して重度の群で有意に低かった
【実施例7】
【0255】
灰白質及び白質スコア分布
白質及び灰白質特異EtnPlスコアリングシステムを開発し、それによって、各対象の各EtnPlをそれらのそれぞれの性特異認知正常平均に標準化し、log2変換し、平均を中心にした。各対象の白質スコアを、そのようなプラスメニル16:0/18:1(M15)、16:0/18:2(M16)、18:0/18:1(M20)及び18:0/18:2(M21)EtnPlの最低値とし、彼らの灰白質スコアを、プラスメニル16:0/20:4(M17)、16:0/22:6(M19)、18:0/20:4(M22)及び18:0/22:6(M24)EtnPlの最低値とした。
【0256】
これらの簡略化されたスコアは、灰白質及び白質両方のEtnPlがADの全ての段階で減少すること(図39)、並びに、死後確認ADにおけるレベルが両性の重度認知症対象におけるレベルに非常に合致することを明らかにした(表44〜45)。様々なレベルの認知症の対象における横断的白質及び灰白質のスコア分布は、母平均の認知症依存性変動を明らかに示した(表46〜47)。白質及び灰白質スコアに及ぼす年齢の影響も、測定された(表48〜49)。これは、灰白質EtnPlの血清レベルの変化が白質の変化に先行することがあり、おそらく、ADの初期危険因子である可能性を示した。そのような横断データでは、対象間のベースライン変動は説明されない。これらのスコアの個々の長期的な軌跡により、さもなければ健康で非認知症の対象で、ADの初期リスクをより正確に検出することができる。
【0257】
これらのスコアに基づき、リスクの予測を男女の対象で実施することができ(表49〜50)、そこでは、約20〜30%の認知正常対象が中間の若しくは高いリスクとして分類されるカットオフ値が用いられる。このカットオフ値を用いて、対象の白質及び灰白質スコアを評価する。対象の検査結果が両スコアで正常であるならば、対象は低リスクにあると考えられる。対象の検査結果がスコアの1つで陽性であるならば、対象は中間のリスクにあると考えられ、対象が両スコアで陽性であるならば、対象は高リスクにあると考えられる。
【実施例8】
【0258】
男女併合対象における認知症重症度及びAD病状の血清EtnPlレベルに及ぼす影響
認知症程度の影響は、68人の認知的に確認された非認知症の対象(MMSE≧28)及び、現時点でAD(ADAS−cogが6〜70、MMSEが0〜26)と診断された256人の対象が含まれた、56〜95歳の324人(女性176人、男性148人)の対象で判定した。AD病状の影響は、20人の死後確認されたAD及び19人の対照対象から収集した血清試料を用いて判定した(表19)。対象を、彼らのMMSEスコア[≧28=認知的に正常]又は彼らのADAS−cogスコア[5〜19=低い認知障害、20〜39=中程度、40〜70=重度]に基づいて、4つの認知症重症度コホートの1つに分類した。
【0259】
16:0/18:1(M15)、16:0/18:2(M16)、16:0/20:4(M17)、16:0/22:6(M19)、18:0/18:1(M20)、18:0/18:2(M21)、18:0/20:4(M22)、18:0/22:6(M24)のEtnPl、遊離ドコサヘキサエン酸(DHA、遊離22:6、M25)、及びホスファチジルエタノールアミン(PtdEt)16:0/18:0(D16:0/18:0 M01)の平均血清レベルを、各群について測定した(図34)。全認知症サブグループの8つ全てのEtnPlは、認知対照と比較して有意に減少することが観察された(24の対比較、t検定p値2.6e−2〜2.0e−10、中央値=3.9e−5)。遊離のDHA(M25)は、中程度及び重度認知症の対象で有意に減少した(p<0.05)。8つ全てのEtnPlは、年齢を合致させた対照と比較して、死後確認SDATでも有意に減少していた。D16:0/18:0(M01)レベル、非プラスマロゲンリン脂質は、異なる認知症コホートにわたって不変であった。
【実施例9】
【0260】
認知症重症度の関数としての人口分布
EtnPl 16:0/22:6(M19)対PtdEt 16:0/18:0の比率(M01)(DHA−EtnPl)は、最も強い全体的な性別非依存性の認知症影響を示したので(表38、41)、以降の全ての人口分布及び比較のために用いた。この比率を用いた重要な比較の概要を、表52に記載する。次に、この比率をlog(2)変換し、認知障害が進行する各コホートの集団ヒストグラムを作成するために用いた(図35)。カットオフ値は、Bennett et al(非特許文献35)の知見に基づいて選択した(すなわ
ち、CN群の約30%がADとして検出されること)(図35、点線)。このカットオフを用いて、軽度、中程度及び重度の認知症の対象のそれぞれ63%、79%及び83%が、その後ADとして分類された。
【0261】
ADでこれらの分布をAβ病状の既知の分布と比較するために、4つの前向き病理研究(Polvikoski, T., et al. Prevalence of Alzheimer's disease in very elderly people: a prospective neuropathological study. Neurology, 2001. 56: p. 1690-6.、非
特許文献35〜37)の結果を併合し、Aβは各集団で正規分布すると仮定して、認知症及び非認知症の集団におけるAβ病状の理論上の人口分布を生成した(図36A)。これらの研究から、臨床的に診断されたAD対象のわずか71%(140人/198人)が死亡時にAD病状を有し、認知正常対象の32%(87人/268人)が死亡時にADの神経病理学的基準を満たすことが報告された。我々の認知検査した対象の全てからのデータを合わせた場合、彼らの血清EtnPlレベルに基づき、非認知症集団の32%(22人/68人)及び認知症集団の75%(192人/256人)がAD陽性と分類された(図36B)。この比較は、観察された22:6含有EtnPl減少の分布が、認知症及び非認知症の対象でのAD病状の理論的分布に完全に合致することを明らかにした。
【実施例10】
【0262】
疾患進行及び血清EtnPl減少の線形外挿
臨床的に診断されたAD集団においてEtnPlの減少及び認知症の増加の間に相関が存在するかどうかを調査するために、各認知症コホートの22:6含有EtnPlの平均レベル(CNに標準化したもの)及びこれら3つのコホートのそれぞれの平均ADAS−cogスコアを用いて、線形回帰分析を実施した(図37)。3つの認知症コホートの22:6含有EtnPlの平均レベル及び平均ADAS−cogスコアの間に、非常に高い
相関が観察された(r2=0.99)。しかし、この線形の減少は、CN群へ外挿されなかった(X対CN)。1年に7.5ADAS−cog単位のADの臨床的進行を仮定すると、この外挿により、22:6含有EtnPlレベルは、臨床認知障害(ADAS−cog=15)が明白になる約7年前に低下し始めると予測される。
【実施例11】
【0263】
血清DHA−EtnPlレベルに及ぼす暦年齢の影響
上記予測を実験的に検証することができるかどうかを調査するために、認知状態が未知であるが現時点で認知症と診断されていない209人の対象(男性110人、女性99人、表19)の血清中22:6含有EtnPlレベルを測定し、臨床AD及びCNコホート
と比較した(図38)。この分析の結果から、50〜59歳のコホートに対して60〜69歳のコホートでの、血清中22:6含有EtnPlの有意な減少が明らかになった(図38A)。CN群は平均して13歳年長であったが、CN群に対しても、このコホートは有意に低いレベルを有していた。面白いことに、70〜95歳のコホートは、50〜59歳のコホート及びCNコホートから有意に異なることはなかったが、SDATコホートよりも有意に高いレベルを有した。
【実施例12】
【0264】
血清DHA−EtnPlレベルで特定される亜母集団
図38Bで示す各年齢群での血清DHA−EtnPlの分布も、検討した。年齢及び認知症状態によって区別した5群(3年齢群、CN及びAD)の人口分布は、3つの異なる集団(P1〜P3、図38B)の存在を明らかにする。これらの集団は、下記の通り指定した。P1−AD病状を有し、残りの余力のない対象;P3−AD病状がほとんど又は全くない対象;P2−P3からP1に移行する対象。これらのP2対象は、AD病状を有し、多少のレベルの残存余力を有すると仮定される。
【0265】
AD対象は診断から10年未満の平均余命を有し(非特許文献38、39)、低レベルの22:6含有EtnPlはAD重症度と高度に関連するので、70〜95歳のコホートで観察されるP1対象数の減少は、P1とP2又はP3の間の平均余命の差によるものであろう。P2の移行的性質は、図7Bの下方の3つのパネルで観察されるように、P2と比較したP3に存在する対象の割合の間で異なる比率を検討することで、最もよく示される。これらの3つのコホートは、認知症状態だけが異なる。P3対P2比は、確認された認知正常群での3:1(68%対22%)から、認知状態が未知の正常な健康高齢群での
1:1(43%対46%)の中間比に、確認された認知症ADコホートでの0.6:1(
25%対40%)に変化する。
【0266】
全ての引用は、本明細書で参照により組み込まれる。
【0267】
本発明は、1又は複数の実施形態に関して記載された。しかし、請求項で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、いくつかの変更及び修正を加えることができることは、当業者にとって明らかになる。
【0268】
【表1】
















【0269】
【表2】




















【0270】
【表3】








【0271】
【表4】






【0272】
【表5】





【表5】

【表5】



【0273】
【表6】








【0274】
【表7】






【0275】
【表8】

【0276】
【表9】






【0277】
【表10】









【0278】
【表11】








【0279】
【表12】






















【0280】
【表13】




【0281】
【表14】

【0282】
【表15】

【0283】
【表16】

【0284】
【表17】

【0285】
【表18】

【0286】
【表19】

【0287】
【表20】

【0288】
【表21】

【0289】
【表22】

【0290】
【表23】

【0291】
【表24】

【0292】
【表25】

【0293】
【表26】

【0294】
【表27】

【0295】
【表28】

【0296】
【表29】

【0297】
【表30】

【0298】
【表31】

【0299】
【表32】

【0300】
【表33】

【0301】
【表34】

【0302】
【表35】

【0303】
【表36】

【0304】
【表37】

【0305】
【表38】

【0306】
【表39】

【0307】
【表40】

【0308】
【表41】

【0309】
【表42】

【0310】
【表43】

【0311】
【表44】

【0312】
【表45】

【0313】
【表46】

【0314】
【表47】

【0315】
【表48】

【0316】
【表49】

【0317】
【表50】

【0318】
【表51】

【0319】
【表52】

【図面の簡単な説明】
【0320】
【図1】非認知症対照と比較した各異なる臨床群(かなりの認知障害を伴うAD、非AD認知症及び認知障害をあまり伴わないAD)のAD血清8バイオマーカーパネルの平均の信号対雑音±SEMを示す図。
【図2】かなりの認知障害を伴う2つの臨床群(AD及び非AD認知症)のAD血清8バイオマーカーパネルの平均の信号対雑音±SEMを示す図。
【図3】かなりの認知障害を伴う2つの臨床群(AD及び非AD認知症)のAD CSF12バイオマーカーパネルの平均の信号対雑音±SEMを示す図。
【図4】代謝産物541.3432(A)、569.3687(B)、699.5198(C)、723.5195(D)、751.5555(E)及び803.568(F)のQ−Star抽出イオンクロマトグラム(EIC)を示す図。上部パネルは非認知症の対象からの8試料を、下パネルは臨床的に診断されたAD対象からの8試料を示す。
【図5】FTMS及びQ−Star分析からの8個のAD試料及び8個の非認知症対照試料の平均のADバイオマーカー強度を示す図。
【図6】CE電圧−50Vによる代謝産物541.3432のMS/MSスペクトルを示す図。
【図7】CE電圧−50Vによる代謝産物569.3687のMS/MSスペクトルを示す図。
【図8】CE電圧−50Vによる代謝産物699.5198のMS/MSスペクトルを示す図。
【図9】CE電圧−50Vによる代謝産物723.5195のMS/MSスペクトルを示す図。
【図10】CE電圧−50Vによる代謝産物751.5555のMS/MSスペクトルを示す図。
【図11】CE電圧−50Vによる代謝産物803.568のMS/MSスペクトルを示す図。
【図12】ADAS−cog血清バイオマーカー541.3432の構造決定を示す図。
【図13】ADAS−cog血清バイオマーカー569.3687の構造決定を示す図。
【図14】ADAS−cog血清バイオマーカー803.568の構造決定を示す図。
【図15a】、
【図15b】さらなる血清バイオマーカーの推定構造を示す図。A−567.3547の質量の代謝産物、B−565.3394の質量の代謝産物、C−805.5832の質量の代謝産物、D−827.57の質量の代謝産物、E−829.5856の質量の代謝産物、F−531.5997の質量の代謝産物、及び、G−853.5854の質量の代謝産物。
【図16】751.5555代謝産物のMS/MS分析で得られた断片並びにその提案された構造を示す図。
【図17】699.5198代謝産物のMS/MS分析で得られた断片並びにその提案された構造を示す図。
【図18】723.5195代謝産物のMS/MS分析で得られた断片並びにその提案された構造を示す図。
【図19】751.5555代謝産物(18:0/20:4 EtnPl)のLC−MS及びMS/MS分析を示す図。パネルA1は、純粋な標準の親イオン750(M−H−)の抽出イオンクロマトグラム(EIC)であり、パネルA2は、滞留時間4.8〜5.0分時の親イオンM/Z750のMS/MSスペクトルである。パネルB1は、認知機能が正常な対象からの親イオン750のEICであり、パネルB2は、4.8〜5.0分時の親イオンM/Z750のMS/MSスペクトルである。パネルC1は、AD対象からの親イオン750のEICであり、パネルC2は、4.8〜5.0分時の親イオンM/Z750のMS/MSスペクトルである。
【図20】エタノールアミンリン脂質の一般構造並びに本明細書で用いる命名法を示す図。
【図21】ヒト血清中のEtnPl16:0/18:1(M15)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図22】ヒト血清中のEtnPl16:0/18:2(M16)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図23】ヒト血清中のEtnPl16:0/20:4(M17)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図24】ヒト血清中のEtnPl16:0/22:6(M19)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図25】ヒト血清中のEtnPl18:0/18:1(M20)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図26】ヒト血清中のEtnPl18:0/18:2(M21)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図27】ヒト血清中のEtnPl18:0/20:4(M23)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図28】ヒト血清中のEtnPl18:0/22:6(M24)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図29】ヒト血清中のEtnPl18:1/18:2及びプラスマニル16:0/20:4(M07)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図30】ヒト血清中のEtnPl20:0/20:4及びEtnPl18:0/22:4(M23)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図31】ヒト血清中のプラスマニル18:0/20:4(M12)及びプラスマニル16:0/22:4(M08)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図32】ヒト血清中のEtnPl18:1/20:4、EtnPl16:0/22:5、プラスマニル16:0/22:6(M09)の抽出イオンクロマトグラム(上パネル)及びMS/MSスペクトル(下パネル)を示す図。
【図33】健康なヒト血清中のEtnPl16:0/22:6(M19)のQ−Trapフローインジェクション分析標準曲線を示す図。
【図34】認知症重症度及びSDAT病状の血清EtnPlレベルに及ぼす影響(男女対象を合わせたもの)。(A)一価及び二価不飽和EtnPl及び飽和PtdEt内部標準。(B)多価不飽和EtnPl及び遊離のDHA(22:6)。EtnPl略記号:(脂肪酸炭素:二重結合、ビニルエーテル二重結合を含まず)及びグリセリン骨格上の位置(sn−1/sn−2)。D16:0/18:0は、sn−1にパルミチン酸(16:0)及びsn−2にステアリン酸(18:0)を有するジアシルグリセロホスファチジルエタノールアミンを表し、22:6は、遊離のDHAを表す。値は、平均値±SEM(n=19〜112)で表す。
【図35】異なるレベルの認知症重症度を有する対象(男女対象を合わせたもの)における、血清DHA−EtnPl(Log(2)EtnPl16:0/22:6(M19)対PtdEt16:0/18:0(M01)比)分布を示す図。
【図36】参考文献5〜8から編集したAD病状の理論的分布(A)及び認知機能が正常な対象及び認知症の対象における、血清22:6含有EtnPl(Log(2)EtnPl16:0/22:6(M19)対PtdEt16:0/18:0(M01)比)の実験的に決定された分布(B)の比較を示す図。矢印は、ADの陽性の診断を示す。
【図37】256名のAD対象における、重症度(ADAS−cog)及び血清22:6含有EtnPl(EtnPl16:0/22:6(M19)対PtdEt16:0/18:0(M01)比)のレベルの線形回帰分析を示す図。Xは、EtnPl減損の予測される開始である。値は、平均値±SEM(n=66〜112)で表す。臨床的進行は、ADAS−cogの7.5ポイント/年を仮定する。
【図38】AD対象、認知機能が正常な対象及び一般集団対象における、血清22:6含有EtnPl(EtnPl16:0/22:6(M19)対PtdEt16:0/18:0(M01)比)レベルを示す図。(A)平均値±SEM(n=68〜256)。(B)Log(2)分布。
【図39】男性及び女性における血清の白質及び灰白質EtnPlスコアの分布を示す図。
【0321】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のアルツハイマー病、認知症、アルツハイマー病のリスク又は認知症のリスクを診断するための方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを1又は複数の標準試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)アルツハイマー病、認知症、アルツハイマー病のリスク又は認知症のリスクを診断するために、前記比較を用いる工程と
を含み、1又は複数の代謝産物マーカーが表1〜8、10〜13又は18に正確な質量で記載される代謝産物から選択される方法。
【請求項2】
定量化データがフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、飛行時間型、オービトラップ、四重極若しくは三重四重極質量分析計を用いて得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
質量分析計にはクロマトグラフィーシステムが装着される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1又は複数の標準試料が、
a)非認知症対照個体から得た1又は複数の標準試料、
b)認知症対象から得た1又は複数の標準試料、
c)アルツハイマー病を有すると病理診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
d)アルツハイマー病を有すると臨床的に診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
e)ADAS−cogで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、
f)MMSEで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、或いは
g)上のa)〜f)の任意の組合せ
である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(a)アルツハイマー病(AD)の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表1〜4、6又は10に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)699.5198、b)723.5195、c)723.5197及びd)751.5555であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はADの存在又はリスクを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図4Cで示すEIC及び図8で示すMS/MSスペクトル、
b)図4Dで示すEIC及び図9で示すMS/MSスペクトル、及び
c)図4Eで示すEIC及び図10で示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C3974NOP、b)C4174NOP及びd)C4378NOPで特徴付けられる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図17に示す構造、
b)図18に示す構造、及び
c)図19に示す構造
で特徴付けられる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
(a)アルツハイマー病評価スコア(ADAS−cog)で測定される認知障害を診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表2〜7、11に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)803.568、d)886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はADAS−cogによる認知障害を示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図4Aに示す抽出イオンクロマトグラム(EIC)及び図6に示すMS/MSスペクトル、
b)図4Bに示すEIC及び図7に示すMS/MSスペクトル、並びに
c)図4Fに示すEIC及び図11に示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C2551NO、b)C2755NOP及びc)C4381NO10Pで特徴付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図12に示す構造、
b)図13に示す構造、及び
c)図14に示す構造
で特徴付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
(a)フォルスタインのミニ精神状態試験(MMSE)に関して認知障害のレベルを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表2〜6、8、12に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はMMSEによる認知障害を示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(a)アルツハイマー病の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が脳脊髄液(CSF)試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表13に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
最適な診断に必要とされる1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
代謝産物マーカー207.0822、432.1532、562.46、622.2539、640.2637、730.6493及び742.2972がAD認知症患者で増加し、代謝産物マーカー275.8712、371.7311、373.728、485.5603及び487.6482がAD認知症患者で減少する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(a)アルツハイマー病又は認知症の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表18に正確な質量で記載される代謝産物又はそれらの組合せから選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、a)〜h)のレベルの減少が重度の認知障害を伴うAD認知症を示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図21に示すMS/MSスペクトル、
b)図22に示すMS/MSスペクトル、
c)図23に示すMS/MSスペクトル、
d)図24に示すMS/MSスペクトル、
e)図25に示すMS/MSスペクトル、
f)図26に示すMS/MSスペクトル、
g)図27に示すMS/MSスペクトル、及び
h)図28に示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C3976NOP、b)C3974NOP、c)C4174NOP、d)C4374NOP、e)C4180NOP、f)C4178NOP、g)C4582NOP及びh)C4578NOPで特徴付けられる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
代謝産物が、さらに、それぞれ構造
【化1】




で特徴付けられる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
患者のアルツハイマー病、認知症、アルツハイマー病のリスク又は認知症のリスクを診断するための方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの内部対照代謝産物に対する比率を得る工程と、
d)前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部対照代謝産物に対する各比率と、1又は複数の標準試料から得た対応するデータとを比較する工程と、
e)アルツハイマー病、認知症、アルツハイマー病のリスク又は認知症のリスクを診断するために前記比較を用いる工程と
を含み、1又は複数の代謝産物マーカーが表1〜8、10〜13又は18に正確な質量で記載される代謝産物から選択される方法。
【請求項26】
定量化データが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、飛行時間型、オービトラップ、四重極又は三重四重極質量分析計を用いて得られる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
質量分析計にはクロマトグラフィーシステムが装着される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
1又は複数の標準試料が、
a)非認知症対照個体から得た1又は複数の標準試料、
b)認知症対象から得た1又は複数の標準試料、
c)アルツハイマー病を有すると病理診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
d)アルツハイマー病を有すると臨床的に診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
e)ADAS−cogで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、
f)MMSEで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、或いは
g)上のa)〜f)の任意の組合せ
である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
(a)アルツハイマー病(AD)の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表1〜4、6又は10に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項25に記載の方法。
【請求項30】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)699.5198、b)723.5195、c)723.5197及びd)751.5555であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はADの存在又はリスクを示す、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図4Cに示すEIC及び図8に示すMS/MSスペクトル、
b)図4Dに示すEIC及び図9に示すMS/MSスペクトル、並びに
d)図4Eに示すEIC及び図10に示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C3974NOP、b)C4174NOP及びd)C4378NOPで特徴付けられる、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図17に示す構造、
b)図18に示す構造、及び
d)図19に示す構造
で特徴付けられる、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
(a)アルツハイマー病評価スコア(ADAS−cog)で測定される認知障害のレベルを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表2〜7、11に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項25に記載の方法。
【請求項35】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)541.3432、b)569.3687、c)803.568、d)886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はADAS−cogによる認知障害を示す、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図4Aで示す抽出イオンクロマトグラム(EIC)及び図6で示すMS/MSスペクトル、
b)図4Bで示すEIC及び図7で示すMS/MSスペクトル、及び
c)図4Fで示すEIC及び図11で示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C2551NOP、b)C2755NOP及びc)C4381NO10Pで特徴付けられる、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
1又は複数の代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図12に示す構造、
b)図13に示す構造、及び
c)図14に示す構造
で特徴付けられる、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
(a)フォルスタインのミニ精神状態試験(MMSE)によって測定される認知障害のレベルを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表2〜6、8、12に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項25に記載の方法。
【請求項40】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、患者試料中の前記代謝産物マーカーの減少はMMSEによる認知障害を示す、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
(a)アルツハイマー病の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が脳脊髄液(CSF)試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表13に正確な質量で記載される代謝産物から選択される、
請求項25に記載の方法。
【請求項42】
最適な診断に必要とされる1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、207.0822、275.8712、371.7311、373.728、432.1532、485.5603、487.6482、562.46、622.2539、640.2637、730.6493、742.2972であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
代謝産物マーカー207.0822、432.1532、562.46、622.2539、640.2637、730.6493及び742.2972がAD認知症患者で増加し、代謝産物マーカー275.8712、371.7311、373.728、485.5603及び487.6482がAD認知症患者で減少する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
(a)アルツハイマー病又は認知症の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、表18に正確な質量で記載される代謝産物又はそれらの組合せから選択される、
請求項25に記載の方法。
【請求項45】
1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、a)701.53591、b)699.52026、c)723.52026、d)747.52026、e)729.56721、f)727.55156、g)779.58286及びh)775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含み、a)〜h)のレベルの減少がアルツハイマー病又は認知症のリスクの存在を示す、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
代謝産物が、さらに、それぞれ
a)図21に示すMS/MSスペクトル、
b)図22に示すMS/MSスペクトル、
c)図23に示すMS/MSスペクトル、
d)図24に示すMS/MSスペクトル、
e)図25に示すMS/MSスペクトル、
f)図26に示すMS/MSスペクトル、
g)図27に示すMS/MSスペクトル、及び
h)図28に示すMS/MSスペクトル
で特徴付けられる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
代謝産物が、さらに、それぞれ分子式a)C3976NOP、b)C3974NOP、c)C4174NOP、d)C4374NOP、e)C4180NOP、f)C4178NOP、g)C4582NOP及びh)C4578NOPで特徴付けられる、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
代謝産物が、さらに、それぞれ構造
【化2】




で特徴付けられる、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
アルツハイマー病状、認知症、認知障害又はそれらの組合せを診断するための1又は複数の代謝産物マーカーを特定する方法であって、
臨床的に診断されたアルツハイマー病、臨床的に診断された認知症、病理診断されたアルツハイマー病、臨床的に診断された認知障害又はそれらの任意の組合せを有する1人又は複数の患者からの、複数の代謝産物を含む1又は複数の試料を、高分解能質量分析計に導入する工程と、
代謝産物の定量化データを取得する工程と、
前記定量化データのデータベースを構築する工程と、
試料からの特定及び定量化データと、標準試料からの試料から取得した対応するデータとを比較する工程と、
同試料と前記標準試料との間で異なる1又は複数の代謝産物マーカーを特定する工程とを含み、代謝産物マーカーが表1〜8、10〜13及び18に記載の代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。
【請求項50】
最適な診断のために必要とされる最小限の数の代謝産物マーカーを選択する工程をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
高分解能質量分析計がフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
患者のアルツハイマー病、認知症又は認知障害を治療するための療法の効力を評価する方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)前記定量化データを1又は複数の標準試料から得た対応するデータと比較する工程と、
d)前記療法が患者の生化学的状態を改善しているかどうかを判断するために前記比較を用いる工程と
を含み、1又は複数の代謝産物マーカーが表1〜8、10〜13又は18に正確な質量で記載される代謝産物から選択される方法。
【請求項53】
定量化データが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、飛行時間型、オービトラップ、四重極又は三重四重極質量分析計を用いて得られる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
質量分析計にはクロマトグラフィーシステムが装着される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
1又は複数の標準試料が、
a)非認知症対照個体から得た1又は複数の標準試料、
b)認知症対象から得た1又は複数の標準試料、
c)アルツハイマー病を有すると病理診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
d)アルツハイマー病を有すると臨床的に診断された対象から得た1又は複数の標準試料、
e)ADAS−cogで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、
f)MMSEで測定された認知障害の患者から得た1又は複数の標準試料、或いは
g)上のa)〜f)の任意の組合せ
である、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
(a)アルツハイマー病(AD)の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、699.5198、723.5195、723.5197及び751.5555であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項52に記載の方法。
【請求項57】
(a)アルツハイマー病評価スコア(ADAS−cog)で測定される認知障害のレベルに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項52に記載の方法。
【請求項58】
(a)フォルスタインのミニ精神状態試験(MMSE)で測定される認知障害のレベルに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項52に記載の方法。
【請求項59】
(a)認知症の存在又はそのリスクに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、701.53591、699.52026、723.52026、747.52026、729.56721、727.55156、779.58286及び775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項52に記載の方法。
【請求項60】
患者の認知症を治療するための療法の効力を評価する方法であって、
a)前記患者から試料を得る工程と、
b)1又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを得るために前記試料を分析する工程と、
c)1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの内部対照代謝産物に対する比率を得る工程と、
d)前記1又は複数の代謝産物マーカーの内部対照代謝産物に対する各比率と、1又は複数の標準試料から得た対応するデータとを比較する工程と、
e)前記療法が患者の認知症状態を改善しているかどうかを判断するために前記比較を用いる工程と
を含み、1又は複数の代謝産物マーカーが表1〜8、10〜13又は18に正確な質量で記載される代謝産物から選択される方法。
【請求項61】
定量化データが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、飛行時間型、オービトラップ、四重極又は三重四重極質量分析計を用いて得られる、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
質量分析計にはクロマトグラフィーシステムが装着される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
1又は複数の標準試料が、
a)非認知症対照個体から得た複数の試料、
b)臨床的に診断されたAD患者、c)ADAS−cogで測定される認知障害の患者、MMSEで測定される認知障害の患者から得た複数の試料、又はそれらの組合せ、
患者から得た1又は複数の治療前基準試料、或いは
d)それらの任意の組合せ
である、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
(a)アルツハイマー病(AD)の存在又はそのリスクを診断し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、699.5198、723.5195、723.5197及び751.5555であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項60に記載の方法。
【請求項65】
(a)アルツハイマー病評価スコア(ADAS−cog)で測定される認知障害のレベルに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、541.3432、569.3687、803.568、886.5582であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項60に記載の方法。
【請求項66】
(a)フォルスタインのミニ精神状態試験(MMSE)で測定される認知障害のレベルに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が565.3394、569.369、801.555、857.6186であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項60に記載の方法。
【請求項67】
(a)認知症の存在又はそのリスクに関して認知症を治療する療法の効力を評価し、
(b)試料及び標準試料が血清試料であり、
(c)1又は複数の代謝産物マーカーが、ダルトン単位で測定した正確な質量が、701.53591、699.52026、723.52026、747.52026、729.56721、727.55156、779.58286及び775.55156であるか又はそれらと実質的に同等である代謝産物を含む、
請求項60に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15a】
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【図15b】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2012−255793(P2012−255793A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−169181(P2012−169181)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【分割の表示】特願2008−556622(P2008−556622)の分割
【原出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】