説明

誘導加熱用電源装置

【課題】磁気エネルギーを回生するスイッチを用いて誘導加熱用電源装置を構成する。
【解決手段】逆導通型半導体スイッチをブリッジ構成にして、その直流端子にエネルギー蓄積コンデンサを接続して磁気エネルギー回生スイッチとなし、その交流端子に誘導コイルを接続する。半導体スイッチにゲート信号を印加してオン/オフさせることで可変周波数の交番パルス電流を得るが、電圧は磁気エネルギーの回生により自動的に発生するので、直流電源から平滑用コイルを介してコンデンサの両端に接続して電力を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱用電源装置に関し、特に、誘導加熱装置の誘導コイル(ワークコイルとも言う。)に高周波の交番パルス電流を供給するための誘導加熱用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、交番パルス電流を誘導加熱装置の誘導コイルのようなインダクタンス負荷に流す場合、インダクタンス負荷に蓄積する磁気(スナバ)エネルギーの効果により、電流変化に伴う高電圧を電源から供給する必要がある。
【0003】
半導体スイッチで構成される従来の電圧型インバータによって、交番パルス電流を誘導コイルに流すためには、インバータは電流変化に伴う電圧を出力する必要があるが、インバータの電流と電圧との間に位相差が生じて、所謂、力率が悪い電源となってしまう。
高周波回路ではよく使われる共振コンデンサを、誘導コイルに直列、または並列につけることで力率を改善でき、インバータ容量を下げることが出来る。誘導加熱装置用インバータは、固定した共振コンデンサを用いる場合、LとCとで決まる1つの周波数においてしか力率を改善することができなかった。
回路の磁気エネルギーを蓄積して負荷に回生する磁気エネルギー回生スイッチ(Magnetic Energy Recovery Switch:以後“MERS”と呼ぶ。特許文献1参照。)を用いてオン/オフすれば、電流を急変させるのに必要な電圧を磁気エネルギー蓄積コンデンサに流れ込む電流により自動的に発生させることができるので、電源からはこの電圧を供給する必要がなくなるという利点がある。
【0004】
図2は、本発明者がすでに提案している交番パルス電流発生装置を示すものである(特許文献2、3参照。)。
図2に示されているように、MERSを交流電源5と誘導性負荷3との間に挿入して交流電源5に同期してオン/オフすれば、誘導性負荷3の磁気エネルギーは、エネルギー蓄積コンデンサ2に蓄積され、再びそのエネルギーは誘導性負荷3に回生されるので、誘導性負荷3のインダクタンスによる過渡電圧はすべてスイッチMERSにおいて発生することになる。
【0005】
抵抗分が少なくインダクタンスが主である誘導性負荷に交番パルス電流を流す場合、従来は誘導性負荷に蓄積する磁気エネルギーの効果により、電流変化に伴う高電圧を電源から供給する必要があったが、図2の場合では、電源電圧は抵抗分電圧(低い電圧)のみでよいという利点があって特許出願されたものである。
【特許文献1】特開2000−358359号公報
【特許文献2】特開2004−260991号公報
【特許文献3】特開2005−223867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図2に示す交番パルス電流発生装置は、誘導性負荷3と直列に低電圧ながら大電流の交流電源5を接続する必要があるため、誘導加熱用電源装置としては使い勝手がよくない。
そこで、本発明は、かかるMERSの利点を生かしつつ、大電流の交流電源を不要とし、さらに単純で部品数の少ない構成で、交番パルス電流を発生する誘導加熱用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加熱物を誘導加熱するための誘導コイルに高周波の交番パルス電流を供給するための誘導加熱用電源装置に関し、本発明の上記目的は、直流電源(5)と、該直流電源からの直流電力を平滑するための平滑用コイル(4)と、自己消弧形素子とダイオードとの逆並列回路から成る逆導通型半導体スイッチを4個ブリッジ接続して構成されるブリッジ回路(1)と、前記ブリッジ回路(1)の直流端子間に接続され、前記ブリッジ回路(1)のスイッチ遮断時に回路の回生磁気エネルギーを蓄積するコンデンサ(2)と、前記逆導通型半導体スイッチのオン/オフを制御する制御手段(6)とを備えるとともに、
前記制御手段(6)は、前記誘導コイル(3)に供給する交番パルス電流の周期で、前記逆導通型半導体スイッチのうち対角線上に位置するペアを同時にオン/オフさせ、かつ2組のペアが同時にオンすることのないように制御するとともに、発生する前記交番パルス電流の周波数が、前記誘導コイル(3)のインダクタンスと前記コンデンサ(2)の静電容量とで決まる共振周波数よりも低くなるように運転制御することにより、パルス周波数によらず共振条件を維持でき、回路の磁気エネルギーを回生して再利用するとともに、前記平滑用コイル(4)を介して前記直流電源(5)から前記コンデンサ(2)を充電することで前記誘導コイル(3)に持続して交番パルス電流を供給することを特徴とする誘導加熱用電源装置によって達成される。
【0008】
また、本発明の上記目的は、前記直流電源(5)に替えて、商用交流電源より整流用ブリッジダイオードを介して整流した直流電力を前記平滑用コイル(4)に供給することを特徴とする前記誘導加熱用電源装置によっても達成される。
【0009】
さらに、本発明の上記目的は、前記ブリッジ回路(1)と前記コンデンサ(2)とで構成される磁気エネルギー回生スイッチを、ブリッジの右半分を逆導通型半導体スイッチ2つの直列接続として、左半分はコンデンサを2つの直列接続として、各コンデンサを並列ダイオードでクランプしたハーフブリッジ構成の磁気エネルギー回生スイッチで置き換えたことを特徴とする前記誘導加熱用電源装置によっても達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘導加熱用電源装置は磁気エネルギー回生スイッチ(MERS)のみで交番パルス電流を発生でき、かつ、交番パルス電流の周波数はスイッチMERSのゲート信号の制御により可変できるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明に係る誘導加熱用電源装置の構成を示す回路ブロック図である。誘導加熱用電源装置は、直流電源5と、直流電源5からの直流電力を平滑するための平滑用コイル4と、自己消弧形素子とダイオードとの逆並列回路から成る逆導通型半導体スイッチ(SW1〜SW4)を4個ブリッジ接続して構成されるブリッジ回路1と、ブリッジ回路1の直流端子間に接続され、ブリッジ回路1のスイッチ遮断時に回路の回生磁気エネルギーを蓄積するコンデンサ2と、逆導通型半導体スイッチのオン/オフを制御する制御手段6と、被加熱物を誘導加熱するための誘導コイルを含む誘導性負荷3を備えている。コンデンサ2は誘導性負荷3の磁気エネルギーを吸収するだけの極めて小さな静電容量でよいことが特長である。
【0012】
図3を用いて誘導加熱用電源装置の動作の説明を述べる。まず、コンデンサ2に電圧が充電された状態から始めるが、図3(1)の磁気エネルギー回生スイッチのスイッチSW1,SW3のペアにゲート信号を送ってオンすると、コンデンサ2の電荷が負荷3に放電する(電流は矢印方向に流れる)。このとき、(SW2,SW4)のペアをオンさせた場合は、負荷3に流れる電流の方向は矢印とは逆になる。このように、どちらのペアをオンするかで、電流の方向を選択することができる。コンデンサ2の電流はペアのスイッチSW1、SW3のどちらかをオフすることで停止させることができ、コイル電流はダイオードを介して流れ続ける。例えば、SW1をオフした場合はSW4のダイオードを介して電流が流れる。
【0013】
次に、図3(2)に示すが、コンデンサが放電し、電圧がゼロになると、自動的にSW2及びSW4のダイオードがオンして、電流は全スイッチを還流して流れ続ける(並列導通状態)。負荷に流れる電流は負荷の抵抗Rにより減衰する。
【0014】
次に、図3(3)に示すように、全スイッチをオフにすると、自然に負荷の電流はダイオードを介してコンデンサに充電され、電流が停止するまでコンデンサの電圧は上昇する。電流が停止したところで回生磁気エネルギーが蓄積コンデンサに移動したことになる。ここで図3(1)の状態に戻る。このときコンデンサの電圧極性は電流の方向に拠らず常に同じである。
【0015】
コンデンサの静電容量が小さく、負荷のインダクタンスLとの共振周波数はパルス周波数より高くなっているため、半導体スイッチはゼロ電圧スイッチング、ゼロ電流スイッチングになっている。すなわち、磁気エネルギー回生スイッチを用いて、誘導性負荷の磁気エネルギーを回生して、交互に両極性電流パルスを誘導性負荷に発生する構成になっている。
【0016】
交番パルス電流は誘導性負荷の誘導コイルに含まれる抵抗成分R、または電磁誘導された2次抵抗にエネルギーが消費されて電流は減衰する。エネルギーの注入は、定電流電源5より行われる。定電流電源5を蓄積コンデンサ2に接続して、コンデンサ2の両端には、電流切り替え時にLとCの共振の半サイクルの間と、ゲートを停止した後(全スイッチをオフにして後)、コイル電流が停止している間、コンデンサ電圧が現れるので、ここに定電流電源5から、(電流)×(コンデンサ電圧)分の電力が注入される(図4)。
【0017】
定電流電源5は大きなインダクタンスを持つ平滑用コイル4を介した電圧源により実現できる。この場合、電源電流が平滑用コイル4によりリップルの少ない直流になり、振動するパルス負荷電流より小さくなる。定電流電源5が高電圧、小電流で構成できるのが本発明の特徴であり、定電流電源5からの給電線が細くてもよいという利点がある。
【実施例1】
【0018】
図5にシミュレーション回路を示す。回路定数は、エネルギー蓄積コンデンサ2:C=0.47μF、誘導負荷コイル3:L=1mH、等価抵抗R=5Ω、電流源インダクタンス4(平滑用コイル)L=40mH、直流電源:AC100Vをブリッジダイオード7で整流したものである。
【0019】
回路動作の説明と入力電力と出力の概算は以下のようである。
(1)大きなインダクタンス4を介して電源を接続するのでリップルの少ない電流が流れる。
(2)コンデンサに電圧が生じている期間、定電流Iinが流入して電源から電力が注入される。コンデンサの電圧が生じている期間は、負荷のLとエネルギー蓄積コンデンサCとの半サイクルのLC共振状態の期間であるが、交番パルスの1サイクルではこれが2回あるので、その時間TはT=2π√(LC)である。
(3)コンデンサ電圧の大きさは平均値でピークの電圧Vcの2/πであるから、この間の電力Pinは電圧が大きいほど大きい。また、電源電圧が一定であれば、コンデンサ電圧が大きいほど電流が下がる。
(4)全スイッチをオフにして負荷電流を停止すると、コンデンサは磁気エネルギーを蓄積し、その電圧を保持している時間は電力が流入している。
(5)短絡していると電圧は無いので、その時間の比、コンデンサ電圧の平均値を波形率Dと定義すると、Pin=D*Vc*Iinである。
(6)本シミュレーションのケースでは、Dを0.65とすると、Dはコンデンサ電圧波形によっている。
Pin=0.65*Imax*Z*Iin
【0020】
また、誘導性負荷3の等価抵抗RとωLとの比がこのLC共振回路のQであるから、
Q=ωL/R
コンデンサのピーク電圧をVcとすると、誘導コイルの最大電流Imaxは、
LC回路のサージインピーダンスをZ=√(L/C)とすると、
Imax=Vc/Z
このImaxの電流が等価抵抗Rで消費される電力をWrとする。電流がダイオードでクランプされて直流になっても抵抗で減衰する場合も含めて、概略以下のように近似できるとする。
Wr=Imax*Imax*R/2
これがPinとバランスするところまで電圧・電流振動は成長する。
Pin=0.65*Imax*Z*Iin=Imax*Imax*R/2
ここで、ImaxとIinの電流比はこの式より、
Imax/Iin=2*0.65*Z/R=1.3*Z/R
Imax/Iin≒Z/R
である。
これは回路のQとほぼ同じ値となり、アナロジーとして納得のいく結果である。すなわち、定電流入力IinのQ倍の電流が負荷に流れると考えられる。
【0021】
本シミュレーションの場合、L=1mH、C=0.47μF、R=5Ω、であるから、
Z=√(L/C)=46.12となり、Iin=0.5Aとすると、
Imax/Iin≒Z/R=9.2
Imax=9.2*Iin=4.6A
Vc=Imax*Z=212V
となり計算値とシミュレーション結果(図6)は概算で一致している。
【0022】
以上の概算で重要なところは、入力電力Pinが負荷のRと電流の2乗に比例し、また直流電源電圧に比例することである。電源電圧に比例した電流が流れるということは、電圧位相と同相の電流であって、例えば、整流用ブリッジダイオードで整流した交流の半波を直流電源にすれば力率1の交流入力になることを意味している。
【実施例2】
【0023】
図7はモデル実験の回路図と結果を示す図であり、図に示すように商用交流電源8から整流用ブリッジダイオード7によって電流を供給すれば交流電流は電圧と同相になって交流電源からは高調波も少なく、かつ交流入力力率が良くなっている。
【実施例3】
【0024】
図8に示すように、磁気エネルギー回生スイッチをハーフブリッジで構成しても同じ効果が得られる。コンデンサが2倍の静電容量になるが、スイッチが2つでダイオードには短時間のみ電流が流れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る誘導加熱用電源装置の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】従来の磁気エネルギー回生スイッチを用いたパルス電流発生装置である。
【図3】本発明に係る誘導加熱用電源装置のパルス電流発生の動作説明図である。
【図4】直流電源からの電力の注入(コンデンサの充電)を説明する図である。
【図5】商用周波数電源により駆動する場合の実施例を示す図である。
【図6】図5の実施例のシミュレーション条件と結果を示す図である。
【図7】モデル実験の回路図と実験結果である。
【図8】ハーフブリッジ構成の磁気エネルギー回生スイッチを用いた誘導加熱用電源装置の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ブリッジ回路
2 エネルギー蓄積コンデンサ
3 誘導性負荷
4 平滑用コイル
5 直流電源
6 (ゲート)制御手段
7 整流用ブリッジダイオード
8 AC電源
9 クランプ用ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を誘導加熱するための誘導コイル(3)に高周波の交番パルス電流を供給するための誘導加熱用電源装置であって、該誘導加熱用電源装置は、
直流電源(5)と、該直流電源からの直流電力を平滑するための平滑用コイル(4)と、
自己消弧形素子とダイオードとの逆並列回路から成る逆導通型半導体スイッチを4個ブリッジ接続して構成されるブリッジ回路(1)と、
前記ブリッジ回路(1)の直流端子間に接続され、前記ブリッジ回路(1)のスイッチ遮断時に回路の回生磁気エネルギーを蓄積するコンデンサ(2)と、
前記逆導通型半導体スイッチのオン/オフを制御する制御手段(6)と、
を備えるとともに、
前記制御手段(6)は、前記誘導コイル(3)に供給する交番パルス電流の周期で、前記逆導通型半導体スイッチのうち対角線上に位置するペアを同時にオン/オフさせ、かつ2組のペアが同時にオンすることのないように制御するとともに、
発生する前記交番パルス電流の周波数が、前記誘導コイル(3)のインダクタンスと前記コンデンサ(2)の静電容量とで決まる共振周波数よりも低くなるように運転制御することにより、
パルス周波数によらず共振条件を維持でき、回路の磁気エネルギーを回生して再利用するとともに、前記平滑用コイル(4)を介して前記直流電源(5)から前記コンデンサ(2)を充電することで前記誘導コイル(3)に持続して交番パルス電流を供給することを特徴とする誘導加熱用電源装置。

【請求項2】
前記直流電源(5)に替えて、商用交流電源より整流用ブリッジダイオードを介して整流した直流電力を前記平滑用コイル(4)に供給することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱用電源装置。

【請求項3】
前記ブリッジ回路(1)と前記コンデンサ(2)とで構成される磁気エネルギー回生スイッチを、ブリッジの右半分を逆導通型半導体スイッチ2つの直列接続として、左半分はコンデンサを2つの直列接続として、各コンデンサを並列ダイオード(9)でクランプしたハーフブリッジ構成の磁気エネルギー回生スイッチで置き換えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱用電源装置。

【請求項4】
被加熱物を誘導加熱するための誘導コイルと、請求項1乃至3のいずれかに記載の誘導加熱用電源装置とを備え、前記誘導加熱用電源装置から前記誘導コイルに高周波の交番パルス電流を供給して誘導加熱を行うことを特徴とする誘導加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−92745(P2008−92745A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273511(P2006−273511)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】