説明

誘導加熱装置および誘導加熱定着装置

【課題】電力を効率よく定着ローラに供給でき、したがって大電流を流す必要がなく廉価な誘導加熱定着装置を提供すること。
【解決手段】 直流電源と、この直流電源の出力電流を入力とし高周波電力に変換する一対のスイッチング素子と、この一対のスイッチング素子の出力に並列に接続された共振コンデンサと、この共振コンデンサに並列に接続された、抵抗と誘導コイルから成る定着ローラと、前記共振コンデンサに並列に接続された帰還回路と、を備え、前記帰還回路は共振回路を有し、この共振回路の共振周波数を前記共振コンデンサと前記誘導コイルの並列共振回路の共振周波数に近くなるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像の定着などに用いられる誘導加熱定着装置に係り、特に電力を効率よく定着ローラに供給する構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から誘導加熱ローラ装置おいて、ハーフブリッジ型インバータなどの直列共振動作を行う高周波回路が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような誘導加熱ローラ装置では、回路電流が大きくなるので、大電流を流すことが可能な高価な部品を用いた電源を用いなければならず、また部品点数も多くなって高価な装置になってしまう問題点があった。
【特許文献1】特開2002−334773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような従来の誘導加熱定着装置の問題点にかんがみてなされたもので、電力を効率よく定着ローラに供給でき、したがって大電流を流す必要がなく廉価な誘導加熱定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1によれば、直流電源と、この直流電源の出力電流を入力とし高周波電力に変換する一対のスイッチング素子と、この一対のスイッチング素子の出力に並列に接続された共振コンデンサと、この共振コンデンサに並列に接続された、抵抗と誘導コイルから成る定着ローラと、前記共振コンデンサに並列に接続された帰還回路と、を備え、前記帰還回路は共振回路を有し、この共振回路の共振周波数を前記共振コンデンサと前記誘導コイルの並列共振回路の共振周波数に近くなるように設定することを特徴とする誘導加熱装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電力を効率よく定着ローラに供給でき、したがって大電流を流す必要がなく廉価な誘導加熱定着装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1に本発明一実施形態の構成例を示す。主回路基板には、次のような構成の回路が設けられている。V1は、所要交流電圧を直流電圧に変換した直流電源である。マイナス端子がアースされた直流電源V1のプラス端子は、抵抗R1,抵抗R2,コイルL1及びコイルL2の各一端が接続される。例えばNチャンネルMOSFETから構成されたスイッチング素子M1とスイッチング素子M2のソースは互いに接続されており、これらスイッチング素子のドレイン間には共振コンデンサCpが接続されている。
【0008】
スイッチング素子M1のドレインはコイルL1の他端に、スイッチング素子M2のドレインはコイルL2の他端に各々接続されている。スイッチング素子M2のゲートには抵抗R1の他端が、またスイッチング素子M1のゲートには抵抗R2の他端がそれぞれ接続されている。スイッチング素子M1,M2のゲート間には抵抗R3と抵抗R4が直接に接続されており、これらの抵抗R3,R4の接続点及びスイッチング素子M1,M2のソースは接地されている。
【0009】
スイッチング素子M1とM2のドレインの間に設けられた共振コンデンサCpと並列に、帰還回路12が設けられる。この帰還回路12は、トランスTと、このトランスTの一次側コイルT1と直列に接続され、他端が共振コンデンサCpの一端に接続されたコンデンサC1,C2とから成る。トランスTの二次側コイルT2の両端はスイッチング素子M1,M1のゲートに接続されている。
【0010】
共振コンデンサCpの両端は、主回路基板の外側でコンデンサC3、C4を介して定着ローラ13に接続されている。定着ローラ13は、抵抗R5とこれに並列に接続された誘導コイルL3から成る。誘導コイルL3と共振コンデンサCpは並列共振回路を構成している。
【0011】
また、トランスTの一次側コイルT1とコンデンサC1,C2は直列共振回路14を構成する。この共振周波数は、上記スイッチング素子M1,M2により変換される高周波の周波数以上の周波数である。
【0012】
この実施形態の動作を説明する。スイッチング素子M1とM2は交互にオンオフ動作し、供給される直流もしくは脈動する直流を高周波の交流に変換する。
【0013】
いま、スイッチング素子M1がオン、スイッチング素子M2がオフの状態にあるとすると、直流電源V1からコイルL2、誘導コイルL3及びスイッチング素子M1の経路に電流が流れることにより、誘導コイルL3に電力が供給される。同時に、共振コンデンサCpと誘導コイルL3との間には共振電流15が発生し、オフ状態にあるスイッチング素子M2のドレイン−ソース間にはこの共振による正弦波が印加される。
【0014】
上記共振コンデンサCp及び誘導コイルL3と並列に設けられている帰還回路12にも同様の正弦波電圧が自励発振により生ずる。この帰還回路12において発生する正弦波は、スイッチング素子M1,M2のゲート−ソース間に極性が逆になるように印加される。したがって、スイッチング素子M1,M2が交互にオンオフすることにより、発振は維持され誘導コイルL3に電力が供給される。
【0015】
ところで、スイッチング素子M1,M2のオンオフ動作周波数(共振コンデンサCpと誘導コイルL3の並列共振回路の共振周波数)に対して帰還回路12の直列共振回路の共振周波数が変化すると、これらのドレインーソース間波形も変化する。図2(a)(b)(c)に直列共振回路の共振周波数を変えた場合のスイッチング素子M1又はM2のゲート波形と、ドレイン−ソース間の波形を示す。帰還回路12の直列共振周波数が動作周波数に近い場合は、図2(a)に示すように、スイッチング素子M1,M2のゲート波形も正弦波となり、ドレイン−ソース間の波形も高調波の少ない波形となる。一方、直列共振回路14の共振周波数が動作周波数から少し外れると、図2(b)に示すようにスイッチング素子M1,M2のゲート波形に高調波が少し乗ってきて、ドレイン−ソース波形にも高調波が現れる。
【0016】
更に直列共振回路の共振周波数が動作周波数からかなり外れると、図2(c)に示すようにスイッチング素子M1,M2のゲート波形に高調波が乗ってきて、かなり波形が崩れ、ドレイン−ソース波形も相当崩れてしまう。このように帰還回路12の直列共振回路14の共振周波数が動作周波数から遠くなるほど帰還波形は共振崩れを起こしてしまい、スイッチング時の効率が悪化してしまう。
【0017】
そこで、帰還回路12の直列共振回路14の共振周波数を変えるために、図3に示す回路構成で、コンデンサCV1,CV2の値を可変として実験を行った。その結果を図4に示す。図3において各部品の値は、V1=80V、R1=R2=22kΩ、R3=R4=1kΩ、L1=L2=30μH、Cp=5000pF、C3=C4=50nF、L3=2.5μH,R5=250Ω、R6=R7=100MΩ、とした。また、トランスTの一次側T1は29ターンで15.3μH、二次側T2は6ターンで0.83μH、結合計数k=0.87、コアはTMPであり、3連とした。
【0018】
図4に、CV1,CV1の値(pF)を変化させた場合の、直列共振周波数(MHz)、入力VDC(V)、回路入力Win(W)、動作周波数(MHz)、ゲート電圧Vgs(W)、FET温度(℃)、FET温度上昇(deg)、回路効率(%)の各値を示す。この図4に示す表から、直列共振周波数が動作周波数に近いほど、回路効率がよいことが理解できる。
【0019】
本発明の上記実施形態によれば、帰還回路に有する直列共振回路の共振周波数を誘導コイルL3と共振コンデンサCpの並列共振回路の共振周波数に近づけるので、電力を効率よく定着ローラに供給できる利点がある。
【0020】
なお、この実施形態において直流共振周波数が動作周波数に近いほど回路効率がよいことの原則に立てば、共振周波数はkHzオーダでもよい。このときの動作周波数がkHzになるように、回路部品の定数を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明一実施形態による回路構成例を示す図。
【図2】本発明一実施形態において直列共振回路の共振周波数を変えたときのスイッチング素子の入出力における波形の変化を説明するための図。
【図3】本発明一実施形態においてコンデンサCV1,CV2の値を変えて共振周波数を変化させたとき測定回路の図。
【図4】図3の測定回路においてコンデンサCV1,CV2の値を変えたときの回路効率の変化のデータを示す図。
【符号の説明】
【0022】
12・・・帰還回路、
13・・・定着ローラ、
14・・・直列共振回路、
V1・・・直流電源、
R1〜R7・・・抵抗、
L1,L2・・・コイル、
L3・・・誘導コイル
M1,M2・・・スイッチング素子、
Cp・・・共振コンデンサ、
T・・・トランスT,
T1・・・一次側コイル
T2・・・二次側コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
この直流電源の出力電流を入力とし高周波電力に変換する一対のスイッチング素子と、
この一対のスイッチング素子の出力に並列に接続された共振コンデンサと、
この共振コンデンサに並列に接続された、抵抗と誘導コイルから成る定着ローラと、
前記共振コンデンサに並列に接続された帰還回路と、を備え、
前記帰還回路は共振回路を有し、この共振回路の共振周波数を前記共振コンデンサと前記誘導コイルの並列共振回路の共振周波数に近くなるように設定することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
直流電源と、
この直流電源の出力電流を入力とし高周波電力に変換する一対のスイッチング素子と、
この一対のスイッチング素子の出力に並列に接続された共振コンデンサと、
この共振コンデンサに並列に接続された、抵抗と誘導コイルから成る定着ローラと、
前記共振コンデンサに並列に接続され、一次側のコイルと直列にコンデンサを接続され二次側コイルの出力を前記一対のスイッチング素子の入力に帰還するトランスと、を備え、
前記トランスの一次側のコイルとこれに接続された前記コンデンサの直列共振回路の共振周波数を前記共振コンデンサと前記誘導コイルの並列共振回路からなる共振周波数にほぼ等しくなるように設定することを特徴とする、誘導加熱定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−286300(P2006−286300A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102333(P2005−102333)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】