説明

誘導加熱装置

【課題】通電電流を増加させることなく発熱体としての管体の高温化を図った誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】管体2と、管体2に挿通された絶縁電線3とを備え、絶縁電線3に交流電流を通電することで管体2に誘導電流を生起させ、管体2を発熱させるようにした誘導加熱装置1は、管体2が窪み部7を有する。管体2を流れる誘導電流iは、管体2の窪み部7によって流れが阻害されつつ流れるため、窪み部7が無い場合と比べて電気抵抗が増大する。従って、ジュール熱の温度が高まり、窪み部7が無い場合と比べて管体2が高温に発熱する。この効果は、絶縁電線3に通電する交流電流を増加させることなく得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱(Induction Heating)を利用した誘導加熱装置に係り、特に、通電電流を増加させることなく発熱温度の高温化を図った誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱を利用した誘導加熱装置として、発熱体となる管体と、管体に挿通された絶縁電線と、絶縁電線に接続された交流電源とを備えたものが知られている(特許文献1〜3参照)。この誘導加熱装置は、交流電源から絶縁電線に通電された交流電流の交番磁束によって管体に電磁誘導による誘導電流(渦電流)を生起させ、誘導電流が流れる管体の電気抵抗に基づくジュール熱によって管体を発熱させるものである。
【0003】
かかる誘導加熱装置は、発熱体となる管体を加熱が要求される被加熱部材に敷設することで、管体によって被加熱部材を加熱し、被加熱部材が凍結等することを防止する。被加熱部材としては、例えば、水門設備の扉体が突き当てられる戸当たり金物、道路の車道面や歩道面、鉄塔や橋梁の雪が積もる部分等が挙げられる。これらの被加熱部材に発熱体となる管体を敷設することで、冬季や厳冬期において、水門設備の扉体が戸当たり金物に氷着することを防止でき、道路の車道面や歩道面を融雪して凍結を防止でき、鉄塔や橋梁の冠雪や着雪を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−40293号公報
【特許文献2】特開2009−256942号公報
【特許文献3】特開2009−287389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の誘導加熱装置は、誘導電流(渦電流)が生起される管体の内周面及び外周面が、延伸方向に平坦に形成されていた。
【0006】
このため、誘導電流(渦電流)は、管体の平坦な内周面及び外周面に沿ってスムーズに流れ、平坦な内周面及び外周面の電気抵抗に応じたジュール熱に転化されていた。従来、かかるジュール熱の高温化を図るためには、絶縁電線に通電する交流電流すなわち投入電力を増大し、管体に生起される誘導電流(渦電流)を大きくするようにしていた。しかし、これでは消費電力が増大してしまう。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、通電電流を増加させることなく管体の高温化を図った誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために創案された本発明に係る誘導加熱装置は、管体と、管体に挿通された絶縁電線とを備え、絶縁電線に交流電流を通電することで管体に誘導電流を生起させ、管体を発熱させるようにした誘導加熱装置であって、管体が、管体の厚み方向に窪んだ窪み部を有することを特徴とする誘導加熱装置である。
【0009】
窪み部が、管体の外周面に形成されていてもよい。
【0010】
窪み部が、管体の周方向に沿ってリング状に形成されたリング溝から成り、リング溝が、単独で或いは管体の長手方向に間隔を隔てて複数、配設されていてもよい。
【0011】
管体が、リング溝同士の間隔が狭い高発熱部と、高発熱部よりもリング溝同士の間隔が広い低発熱部とを有していてもよい。
【0012】
窪み部が、管体に螺旋状に形成された螺旋溝から成っていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る誘導加熱装置によれば、誘導電流が生起される管体が、窪み部を有している。このため、管体を流れる誘導電流は、管体の窪み部によって流れが阻害されつつ流れることになり、窪み部が無い場合と比べて電気抵抗が増大した状態となる。従って、ジュール熱の温度が高まり、窪み部が無い場合と比べて管体が高温に発熱する。この効果は、絶縁電線に通電する交流電流を増加させることなく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置の斜視図である。
【図2】図1に示す管体及び絶縁電線の部分側断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置の側面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る誘導加熱装置の側面図である。
【図5】本発明のその他の変形例を示す誘導加熱装置の側断面図であり、(a)はリング溝を管体の内周面に形成したもの、(b)はリング溝を管体の内周面及び外周面に形成したもの、(c)はリング溝を管体の内周面及び外周面に位置をずらして形成したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(誘導加熱装置:第1実施形態)
図1及び図2に、本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置1の概要を示す。図1は第1実施形態に係る誘導加熱装置1の斜視図、図2は誘導加熱装置1を構成する管体2及び絶縁電線3の側断面図である。
【0017】
この誘導加熱装置1は、管体2と、管体2に挿通された絶縁電線3と、絶縁電線3に接続された交流電源4とを備えており、交流電源4から絶縁電線3に通電された交流電流の交番磁束によって、管体2に電磁誘導による誘導電流(渦電流)を生起させ、誘導電流が流れる管体2の電気抵抗に基づくジュール熱によって管体2を発熱させるものである。
【0018】
(管体2)
管体2の材質には、絶縁電線3に交流電流を通電した際、誘導電流が生起され易い材質が用いられる。例えば、SS材(一般構造用圧延鋼材)、SM材(溶接構造用圧延鋼材)、SN材(建築構造用圧延鋼材)等の炭素鋼の他、硅素鋼、コバルト、ニッケル等の磁性体が、管体2の材質として用いられる。本実施形態では、管体2には、サイズ10A(外径17.3mm、肉厚2.3mm)のSGP管(配管用炭素鋼管)が用いられている。
【0019】
管体2は、加熱が要求される被加熱部材5に敷設されている。被加熱部材5としては、既述のように、水門設備の扉体が突き当てられる戸当たり金物、道路の車道面や歩道面、鉄塔や橋梁の雪が積もる部分等が挙げられる。本実施形態では、被加熱部材5の形状は、板状に形成されているが、板状に限られるものではない。
【0020】
管体2は、溶接等によって被加熱部材5に取り付けられ、その取付部には伝熱セメント6が打設(塗布)されている。伝熱セメント6は、粉末状の炭素、セラミック、珪酸ソーダ、カルシウムシリケイト等から構成されており、誘導電流によって発熱した管体2の熱を的確に被加熱部材5に伝導する。
【0021】
(絶縁電線3)
管体2には、絶縁電線3が引き抜き可能に挿通されており、絶縁電線3には、交流電源4が接続され、交流電流が通電されるようになっている。交流電源4には、50Hz又は60Hzの商用周波数の交流電源を用いてもよいが、これに限られるものではない。絶縁電線3には、耐熱絶縁電線が用いられる。よって、絶縁電線3に交流電流を通電した際、管体2が発熱しても、その熱によって絶縁電線3が熱損傷することを回避できる。
【0022】
絶縁電線3は、管体2に挿通されているため、水分や鋭利な突起等から防護される。加えて、絶縁電線3は、管体2に引き抜き可能に挿通されているため、数年から数十年毎に行われるメンテナンス時に、絶縁電線3の端部を把持することで、管体2から引き抜かれる。
【0023】
(窪み部7)
絶縁電線3に交流電流を通電した際、電磁誘導による誘導電流(渦電流)が生起される管体2は、管体2の厚み方向に窪んだ窪み部7を有している。窪み部7は、管体2の外周面21に周方向に沿ってリング状に形成されたリング溝71から成り、そのリング溝71が、管体2の長手方向に間隔を隔てて複数配設されている。リング溝71は、管体2の外周面21に形成されているので、その外周面21を切削すること等によって容易に形成できる。
【0024】
本実施形態においては、リング溝71は、等間隔に形成され、溝深さ及び溝幅が等しいが、これに限られるものではない。また、リング溝71は、溝深さが管体2の肉厚の半分程度、溝幅が溝深さと同程度となっているが、これに限られるものではない。
【0025】
(作用・効果)
本実施形態に係る誘導加熱装置1においては、絶縁電線3に交流電流を通電することで誘導電流が生起される管体2が、窪み部7(リング溝71)を有している。このため、図2に示すように、管体2を流れる誘導電流(渦電流)iは、管体2のリング溝71によって流れが阻害されつつ流れることになり、リング溝71が無い場合と比べて電気抵抗が増大した状態となる。
【0026】
詳しくは、図2の上部に模式的に示すように、管体2の外周面21に沿って流れる誘導電流(渦電流)iは、リング溝71を迂回するように流れるため、リング溝71が無い従来の外周面が平坦な管体よりも電流経路が長くなり、長くなった分に応じて電気抵抗が増大する。この結果、誘導電流(渦電流)iによるジュール熱の温度が高まり、窪み部7(リング溝71)が無い場合よりも管体2が高温に発熱することになる。この効果は、リング溝71が管体2の周方向に連続してリング状に形成されているため、管体2の全周に亘って得られる。
【0027】
また、図2の下部に模式的に示すように、管体2を流れる誘導電流(渦電流)iは、管体2のリング溝71が形成されていない厚肉部22からリング溝71が形成された薄肉部23に流れる際、縮流されて渦電流密度が高まる。加えて、管体2の薄肉部23の電流通過断面積が厚肉部22の電流通過断面積よりも小さいため、薄肉部23での電気抵抗が厚肉部22での電気抵抗よりも大きくなる。よって、管体2のリング溝71の近傍(薄肉部23の近傍)において、誘導電流(渦電流)iによるジュール熱の温度が局部的に高まる。この効果も、リング溝71が管体2の周方向に連続してリング状に形成されているため、管体2の全周に亘って得られる。
【0028】
上述した効果は、交流電源4から絶縁電線3に通電する交流電流を増大することなく達成できる。すなわち、本実施形態に係る誘導加熱装置1によれば、通電電流を増加させることなく管体2の高温化が図れる。換言すれば、この誘導加熱装置1によれば、管体2にリング溝71が無い誘導加熱装置(従来例)と同一の通電電流で管体2の温度を従来例よりも高めることができ、従来例よりも少ない通電電流で管体2を従来例と同等の温度に加熱できる。
【0029】
(第2実施形態)
図3に本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置11を示す。図3は第2実施形態に係る誘導加熱装置11の側面図である。第2実施形態に係る誘導加熱装置11は、上述した第1実施形態に係る誘導加熱装置1と基本的な構成要素は同一であり、管体2に複数形成されたリング溝71の配置(間隔)が第1実施形態と相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。なお、図3では、図1の伝熱セメント6を省略している。
【0030】
第2実施形態の誘導加熱装置11を構成する管体2は、リング溝71同士の間隔w1が狭い高発熱部2Hと、高発熱部2Hよりもリング溝71同士の間隔w2が広い低発熱部2Lとを有している。第2実施形態によれば、リング溝71同士の間隔w1が狭い高発熱部2Hにおいては、リング溝71同士の間隔w2が広い低発熱部2Lよりも、電気抵抗が大きく渦電流密度が高まるため、高温で発熱する。よって、管体2の長手方向に沿って発熱温度を異ならせることができる。また、リング溝71同士の間隔を様々に設定することで、管体2の長手方向に沿ってリング溝71同士の間隔に応じた発熱温度とすることができ、被加熱部材5の性状に合わせた発熱分布を得ることができる。なお、第2実施形態の基本的な作用効果は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0031】
(第3実施形態)
図4に本発明の第3実施形態に係る誘導加熱装置12を示す。図4は第3実施形態に係る誘導加熱装置12の側面図である。第3実施形態に係る誘導加熱装置12は、上述した第1実施形態に係る誘導加熱装置1と基本的な構成要素は同一であり、管体2の窪み部7がリング溝71ではなく螺旋溝72である点が第1実施形態と相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。なお、図4でも、図1の伝熱セメント6を省略している。
【0032】
螺旋溝72は、管体2の外周面21を螺旋状に切削すること等によって容易に形成でき、管体2の外周面21に等ピッチで形成されている。この螺旋溝72によっても管体2を流れる誘導電流(渦電流)の流れが阻害されるため、螺旋溝72が無い場合と比べて電気抵抗が増大する。従って、第3実施形態においても第1実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、螺旋溝72の螺旋ピッチを管体2の長手方向に沿って異ならせ、ピッチの狭い螺旋部分での発熱温度をピッチの広い螺旋部分の発熱温度よりも高めるようにしてもよい。
【0033】
(その他の変形例)
図5(a)、図5(b)、図5(c)に、本発明のその他の変形例に係る誘導加熱装置13、14、15を示す。これらの誘導加熱装置13〜15は、上述した第1実施形態に係る誘導加熱装置1と基本的な構成要素は同一であり、誘導加熱装置13では窪み部7としてのリング溝71が管体2の外周面21ではなく内周面24に形成された点、誘導加熱装置14ではリング溝71が管体2の外周面21及び内周面24の同位置に形成された点、誘導加熱装置15ではリング溝71が管体2の外周面21及び内周面24に位置を交互にずらして形成された点、が相違する。これら変形例に係る誘導加熱装置13〜15においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0034】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、窪み部7としてのリング溝71の断面形状は、上述した各実施形態では四角断面形状としたが、半円断面形状や三角断面形状でもよい。また、リング溝71は複数ではなく1個(単独)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、管体に挿通された絶縁電線に交流電流を通電することで管体に誘導電流を生起させ、管体を発熱させるようにした誘導加熱装置に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 誘導加熱装置
11〜15 誘導加熱装置
2 管体
21 外周面
24 内周面
2H 高発熱部
2L 低発熱部
3 絶縁電線
4 交流電源
7 窪み部
71 リング溝
72 螺旋溝
w1 間隔
w2 間隔
i 誘導電流(渦電流)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体と、該管体に挿通された絶縁電線とを備え、該絶縁電線に交流電流を通電することで前記管体に誘導電流を生起させ、前記管体を発熱させるようにした誘導加熱装置であって、
前記管体が、前記管体の厚み方向に窪んだ窪み部を有することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記窪み部が、前記管体の外周面に形成された請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記窪み部が、前記管体の周方向に沿ってリング状に形成されたリング溝から成り、該リング溝が、単独で或いは前記管体の長手方向に間隔を隔てて複数、配設された請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記管体が、前記リング溝同士の間隔が狭い高発熱部と、該高発熱部よりも前記リング溝同士の間隔が広い低発熱部とを有する請求項3に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記窪み部が、前記管体に螺旋状に形成された螺旋溝から成る請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114879(P2013−114879A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259649(P2011−259649)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【Fターム(参考)】