誘導型NO合成酵素産生抑制剤
【課題】誘導型NO合成酵素産生抑制剤を提供する。
【解決手段】フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を含有することを特徴とする、誘導型NO合成酵素産生抑制剤。
【解決手段】フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を含有することを特徴とする、誘導型NO合成酵素産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導型NO合成酵素産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインは生体内での主たる細胞遊走因子であり、細胞運動の亢進や細胞接着分子の活性化を介して、リンパ球の組織浸潤を制御している。ケモカインは、その最初の2つのシステイン残基の配列により、CC、CXC、C、CXXXCの4つのサブファミリーに分類される。CC、CXC、Cケモカインのメンバーは、約70アミノ酸からなる分泌蛋白質であり、それ自身には接着分子としての活性はないが、細胞接着を誘導することができる。分泌されたケモカインは、標的細胞表面上の7回膜貫通型受容体に結合して、三量体G蛋白質を介してインテグリンを活性化し、細胞の接着や遊走を誘導する。
【0003】
最近になって、従来の細胞遊走機構に加えて、新規の簡潔なリンパ球浸潤機構が同定された。この機構は活性化された内皮細胞上に発現するフラクタルカインと、血流中の単球、NK細胞、そしてT細胞の一部に発現する7回膜貫通型受容体CX3CR1により媒介される。フラクタルカインはCXXXCケモカインの唯一のメンバーであり、その構造と機能において、他のケモカインには見られない際だった特徴を有している。フラクタルカインは、ケモカインドメイン、ムチンドメイン、細胞膜貫通領域、細胞質内領域を有する膜結合型として細胞表面上に発現する。膜結合型フラクタルカインはCX3CR1と結合することで、生理的血流速存在下においても、セレクチンやインテグリンの介在なしに、単独で強固な接着を媒介することが可能である。すなわち、セレクチンやインテグリンを介する多段階の細胞浸潤機構と同様な機能を、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は一段階の反応で媒介する。さらに、膜結合型フラクタルカインからシェディングによって分泌される分泌型フラクタルカインは、CX3CR1に結合して、従来のケモカインと同様に、インテグリンの活性化や細胞遊走を誘導する。
【0004】
また、フラクタルカインは、血管内皮細胞を炎症性サイトカインのTNFやIL-1で処理すると発現が誘導される。一方CX3CR1は単球や、NK細胞のほとんどと、T細胞の一部に発現しているが、好中球には発現していない。したがって、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、損傷を受けた組織の内皮細胞上、又は組織内に、ある種の免疫細胞を動員するための、きわめて効率の良い機構であると考えられる。フラクタルカインは上記のように炎症時に血管内皮細胞に誘導され、CX3CR1は多種類の白血球に存在していることから、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、炎症性疾患における病態形成および進展への関与も強く示唆されている。実際にフラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系と炎症性疾患における関与については数多く報告されており、関節リューマチ(非特許文献1)、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(非特許文献2)、乾癬およびアトピー性皮膚炎(非特許文献3 、非特許文献4)、喘息(非特許文献5)、動脈硬化症(非特許文献6)、急性呼吸促迫症候群(非特許文献7)、など数多くの疾患について報告がなされている。一方ではCX3CR1ノックアウトマウスを用いた解析(動脈硬化症(非特許文献8)、虚血性再灌流による組織障害(非特許文献9))、抗フラクタルカインモノクローナル抗体を用いた炎症性疾患の病態モデル解析(マウスII型コラーゲン誘発関節炎、実験的自己免疫性脳髄膜炎(特許文献1)、コンカナバリンA誘発肝障害(特許文献1)、抗CX3CR1抗血清を用いた病態モデル解析(WKYラット半月体形成性腎炎(非特許文献10)、アロ心臓移植片の拒絶(非特許文献11))、あるいはフラクタルカイン抑制変異体を用いた炎症性疾患の病態モデル解析(MRL/lpr ループス腎炎(2004年4月 日本リュウマチ学会))から、炎症性疾患において、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系を阻害することで病態進展抑制及び改善効果が期待され、炎症性疾患における新たな治療体系を構築できるもの
と期待されている。しかしながらフラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することにより発揮される、これら病態改善作用の詳細なメカニズムは未だ不明であるのが現状である。
【0005】
これまでに白血球の分類は、数多くの細胞表面マーカーによりリンパ球、単球、顆粒球それぞれの集団が細かく分類されてきている。最近ではケモカイン受容体の分布から、さらに詳細な分類がなされてきており、単一集団と思われていた集団がいくつかの亜集団から形成される集合であることが判明しつつある。マウスの解析からCX3CR1は、上述のように単球、NK細胞、そしてT細胞の一部に発現することが報告されているが、その中でも単球にはCX3CR1を強発現しCCR2を発現しない集団(CX3CR1highCCR2-)とCX3CR1が低発現でCCR2を強発現する集団(CX3CR1lowCCR2+)の2つが存在することが明らかとなりつつある。CX3CR1ノックアウトマウスやCCR2ノックアウトマウスの解析から、CX3CR1lowCCR2+は炎症時に炎症部位に誘導され、炎症性サイトカインであるTNFαや強力なNO(一酸化窒素)合成酵素のiNOS(inducible Nitrogen Oxide Synthetase)を産生し、組織障害に寄与することが示唆されている(非特許文献12、非特許文献13)。しかしながらCX3CR1highCCR2-について、炎症時における機能や重要性については言及されておらず、むしろ非炎症時の構成的な組織マクロファージの供給に必要であり、これら細胞の機能を阻害することは好ましくないと言われている。
【0006】
一方、ヒト末梢血における単球においても細胞表面マーカー(CD16、CD62Lなど)とCX3CR1の発現により詳細な分類がなされている。その一つの集団であるCD16+CD62L-の単球は炎症性疾患において、末梢血中に増加することが報告されており、病態進展との関与が強く示唆されている。CD16+CD62L-の単球はCX3CR1を高発現していることが報告されており、先にあげたマウスCX3CR1highCCR2-とほぼ同様の性質をもつと予想される(非特許文献14)。またCD16+CD62L-の単球はTNFαやiNOSを強く産生することがすでに報告されており、炎症性疾患における末梢血中の増加と相まって、病態進展に強く関与していることが考えられる。しかしCX3CR1の機能を阻害することで、これら細胞からのTNFαやiNOS産生抑制が認められるかどうか具体的な報告は存在しない。
【0007】
最も高いNO合成能力を持つiNOSは、eNOS(endothelial NOS)およびnNOS(neural NOS)のように定常的には発現しておらず、刺激因子(例えば炎症性サイトカイン及び/又はリポ多糖体など)によって誘導され、一過性に大量に産生されて細菌、ウイルス、真菌、寄生虫の排除などの生体防御反応に関わっている。しかしながら過剰なNOの産生は組織障害的に作用するため、病変部におけるiNOSの過剰な産生は病態を進展させる大きな要因となると考えられている。実際にNOが病態形成や進行に関わると考えられている疾患としては、炎症性疾患(例えば、リウマチ性炎症、関節リューマチ、変形性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、動脈硬化症、自己免疫疾患、又は急性炎症など)、アレルギー疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)、虚血性障害(例えば、梗塞若しくは虚血などに起因する各種の心臓障害若しくは脳障害、又は虚血後の再潅流障害など)、ショック(例えば、内毒性ショック、出血性ショック、又は心臓性ショックなど)、病的な血圧低下(例えば、サイトカインを用いる癌治療における血圧低下、又は敗血症、出血性ショック、若しくは肝硬変において生じる血圧低下など)、移植拒絶反応、神経系障害(例えば、アルツハイマー病、てんかん、又は片頭痛など)、腫瘍、又はインシュリン依存性糖尿病などが挙げられる。
【0008】
一方では病態モデルにおけるiNOS活性の阻害あるいはiNOSノックアウトマウスの解析から、関節リューマチ(非特許文献15)、変形性関節症(非特許文献16)、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(非特許文献17、非特許文献18)、コンカナバリンA誘発肝障害(非特許文献19)、喘息(非特許文献20)、エンドトキシン誘導急性肺障害(非特許文献21)、動脈硬化症(非特許文献22)、虚血性障害(非特許
文献23、非特許文献24、非特許文献25)、移植拒絶反応(非特許文献22)などにおいて病態の改善が報告されている。
【0009】
このように実際に数多くの疾患モデル動物においてiNOS活性の阻害あるいはiNOSノックアウトマウスによる病態改善の報告がなされているが、未だ有望なiNOS活性を阻害する薬剤は上市されていない。
【0010】
さらに、iNOSの酵素活性阻害剤による過剰なNO産生の抑制は、敗血症ショックに典型的な血圧低下や血管神経麻痺などの組織破壊や臓器障害を改善する一方で、血圧・血流の調節というNOの根幹的な生理機能を遮断する危険性が示唆されている(非特許文献26)。特にiNOSノックアウトマウスを用いた敗血症における心筋機能の解析では、産生する細胞の種類によるiNOSの役割の違いが指摘されている。心筋細胞で発現するiNOSは敗血症時のアドレナリン作動性刺激による心筋細胞の短縮という有益な反応に必須である一方、心筋細胞の近傍に浸潤した炎症性細胞で発現するiNOSは心筋細胞の障害という有害な反応に関与している(非特許文献27)。
【0011】
したがって、細胞種選択的なiNOS活性の阻害という新しいアプローチ、例えばiNOSの酵素阻害ではなく炎症性細胞におけるiNOSの酵素阻害や産生抑制などによる薬剤の提供が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−345454号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Arthritis Rheum. 2002 Nov;46(11):2878-83
【非特許文献2】Am J Pathol. 2001 Mar;158(3):855-66
【非特許文献3】J Allergy Clin Immunol. 2004 May;113(5):940-8
【非特許文献4】J Clin Invest. 2001 May;107(9):1173-81
【非特許文献5】J Allergy Clin Immunol. 2003 Dec;112(6):1139-46
【非特許文献6】J Clin Invest. 2003 Apr;111(8):1241-50
【非特許文献7】Clin Exp Immunol. 1999 Nov;118(2):298-303
【非特許文献8】Circulation. 2003 Feb 25;107(7):1009-16
【非特許文献9】J Neuroimmunol. 2002 Apr;125(1-2):59-65
【非特許文献10】Kidney Int. 1999 Aug;56(2):612-20
【非特許文献11】J Clin Invest. 2001 Sep;108(5):679-88
【非特許文献12】Immunity. 2003 Jul;19(1):71-82
【非特許文献13】Immunity. 2003 Jul;19(1):59-70
【非特許文献14】J Exp Med. 2003 Jun 16;197(12):1701-7
【非特許文献15】Eur J Pharmacol. 2002 Oct 18;453(1):119-29
【非特許文献16】Arthritis Rheum. 1998 Jul;41(7):1275-86
【非特許文献17】J Pharmacol Exp Ther. 2001 Sep;298(3):1128-32
【非特許文献18】Eur J Pharmacol. 2001 Jan 19;412(1):91-9
【非特許文献19】J Clin Invest. 2001 Feb;107(4):439-47
【非特許文献20】J Pharmacol Exp Ther. 2003 Mar;304(3):1285-91
【非特許文献21】Anesth Analg. 2003 Dec;97(6):1751-5
【非特許文献22】Eur J Pharmacol. 2000 Mar 10;391(1-2):31-8
【非特許文献23】Br J Pharmacol. 1999 May;127(2):546-52
【非特許文献24】Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2002 Jun;282(6):H1996-2003
【非特許文献25】Nitric Oxide. 2004 May;10(3):170-7
【非特許文献26】Curr Drug Targets Inflamm Allergy. 2002 Mar;1(1):89-108
【非特許文献27】Circulation. 2003 Sep 2;108(9):1107-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、新しい概念に基づく、炎症性疾患治療剤、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、これまでの知見から、CX3CR1の機能を阻害することで、iNOSの産生が抑制され病態の改善を示した報告がなかったことに注目し、この機能解明により新しい概念に基づく炎症性疾患治療剤の創出に成り得るとの仮説を構築し、鋭意検討を行った。
【0016】
その結果、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体を用いて、後述する実施例に記載の各種病態モデルで検討した結果、iNOSの産生が抑制され、かつ、病態が改善されることを初めて見出した。さらに、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体がConA肝炎に有効であることは報告されているが、今般、ConA肝炎での肝臓におけるiNOS mRNAの発現抑制と、炎症性細胞でのiNOSの産生が抑制されることを初めて見出した。これらのことから、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体またはCX3CR1の機能を阻害する化合物(以下「CX3CR1アンタゴニスト」と略記する場合もある)は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患[炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群など]の治療に有用であることを明らかにし、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを含有することを特徴とする、炎症性疾患治療剤。
(2)抗体が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする、(1)記載の剤。
(3)抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、(2)記載の剤。
(4)受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126であることを特徴とする、(3)記載の剤。
(5)炎症性疾患が炎症性腸疾患である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(6)炎症性疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である(5)記載の剤。
(7)炎症性疾患が乾癬である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(8)炎症性疾患がアトピー性皮膚炎である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。(9)炎症性疾患が喘息である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(10)炎症性疾患が動脈硬化症である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(11)炎症性疾患が虚血再灌流における組織障害である(1)〜(4)いずれか一項に記載の剤。
(12)炎症性疾患が急性呼吸促迫症候群である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(13)受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマHam @mFKN#126.1.1。
(14)(13)記載のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126。
また、治療上有効量の、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを炎症性疾患の治療が必要な患者に投与することを含む、炎症性疾
患の治療方法、及び、炎症性疾患治療剤の製造における、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルの体重減少における、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図2】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける大腸内便性状のスコアと大腸肥厚に対する、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図3】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の形態的な変化に対する、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(器官の形態の写真)。
【図4】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の組織障害に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図5】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、各種因子のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図6】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、DAIに対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図7】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸肥厚、大腸短縮化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図8】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の形態的な変化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(器官の形態の写真)。
【図9】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の組織障害に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図10】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸肥厚、大腸短縮化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(#126)の改善作用を示す。
【図11】ConA肝炎における、肝組織での各種因子の発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図12】ConA肝炎における、肝実質内のiNOS及びCX3CR1陽性の炎症性細胞の増加に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図13】ConA肝炎肝組織における蛍光二重染色の結果を示す(顕微鏡写真)。
【図14】ConA肝炎肝組織におけるCX3CR1陽性細胞またはiNOS陽性細胞中の各マーカー陽性細胞の割合を示す。
【図15】CX3CR1陽性細胞のフローサイトメトリーの結果を示す。
【図16】ConA肝炎肝組織における組織染色の結果を示す(顕微鏡写真)。
【図17】ConA肝炎におけるケモカインの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のケモカイン発現に対する効果を示す。
【図18】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、白血球マーカーのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。「正常」は陰性対照、「cIgG」はコントロール抗体投与群、「@FKN」は抗フラクタルカイン投与群を意味する(図19〜25においても同様である)。
【図19】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図20】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図21】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、サイトカインのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図22】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、血管新生分子および組織破壊プロテアーゼのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図23】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、樹状細胞およびT細胞活性化分子のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図24】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、オキサゾロン腸注24時間後のサイトカイン、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図25】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、オキサゾロン腸注3日後の好中球マーカー、サイトカイン、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1>微生物の寄託
ハイブリドーマHam @mFKN5H8-4は、2004(平成16年)年9月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6)に寄託され(受託番号:FERM P-20236)、その寄託は、ブタペスト条約に基づく国際寄託に移管された(受託番号:FERM BP-10372)。
【0020】
ハイブリドーマHam @mFKN#126.1.1は、2004(平成16年)年9月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6)に寄託され(受託番号:FERM P-20235)、その寄託は、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された(受託番号:FERM BP-10371)。
【0021】
<2>フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0022】
哺乳動物(例えばマウス、ハムスター又はウサギ)は、該哺乳動物において免疫応答を引き起こす免疫原の形態のCX3CR1又はフラクタルカイン又は蛋白質断片(例えばペプチド断片)で免疫することができる。
【0023】
CX3CR1又はフラクタルカインの遺伝子(例えば、GenBank NM_001337又はNM_002996参照)を組み込んだ発現ベクターを宿主細胞、例えば細菌、哺乳類細胞株又は昆虫細胞株中で発現させ、培養液又は菌体・細胞から標準的な方法に従ってCX3CR1又はフラクタルカインを精製することができる。また、例えばGST等との融合蛋白質として発現させ、GSTとの融合蛋白質の場合はグルタチオンカラムにより精製しても構わない。
【0024】
CX3CR1又はフラクタルカインのペプチドはCX3CR1又はフラクタルカインのアミノ酸配列に基づき、公知の方法(例えば、F-moc又はT-boc化学合成)により合成することができ、合成されたペプチドは適当な担体、例えばKLHと結合させることで免疫原性を高めることも許される。
【0025】
精製されたCX3CR1又はフラクタルカイン又はペプチド断片をアジュバントと共に免疫後、抗血清を得ることができ、所望なら抗血清からポリクローナル抗体を単離することができる。また、モノクローナル抗体を産生するには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫動物より回収し、標準的な細胞融合法によりミエローマ細胞と融合させて細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を得る。かかる技術は当該技術分野では確立された方法であり、適当な
マニュアル(Harlow et al, Antibodies: A Laboratory Mannual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory)に準じて行うことができる。更に、モノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 72, 1983)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., Monoclonal Antibody inCancer Therapy, 1985, Allen R. Bliss, Inc., pages 77-96)、コンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science, 246: 1275, 1989)等他の方法により作製しても良い。
【0026】
また別法として、CX3CR1を発現させた昆虫細胞をそのまま哺乳類動物に免疫して、該哺乳動物のリンパ球よりハイブリドーマを作製し、産生される抗体のスクリーニングを、CX3CR1を発現させた哺乳類細胞(昆虫細胞との交叉免疫性が低く、昆虫細胞由来の蛋白質に対する抗体が結合しない細胞)で行う方法も許される。また、特開2002-345454号公報の方法により調製することもできる。
【0027】
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体のスクリーニングは、後述するスクリーニング方法によって行うことができる。
【0028】
<3>CX3CR1アンタゴニスト
本発明は、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体が、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患の治療に有用であることを見出したことにより完成したものである。したがって、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する化合物、CX3CR1アンタゴニストも本発明に使用することができる。前記作用を有する化合物であれば特に限定されず、公知な化合物であってもよく、新規な化合物であってもよい。さらに、後述するスクリーニング方法によって得られる化合物であってもよい。
【0029】
本明細書において「化合物」は、例えば遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、核酸(オリゴDNA、オリゴRNA)、合成ペプチドライブラリー、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物等由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーである。具体的には、国際公開第03/018549号パンフレット、国際公開第00/09511号パンフレット、国際公開第02/076990号パンフレットに記載された化合物などが挙げられる。既知化合物はそれ自体公知の製造方法によって製造するか、天然化合物であればそれ自体公知の抽出方法またはそれ自体公知の精製方法によって取得するか、または市販されている場合は購入することにより得ることができる。また既知化合物の誘導体等は、化学的手段、物理的手段および/または生化学的手段により改変し得ることができる。
【0030】
<4>CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体のスクリーニング方法
CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストは、フラクタルカイン又は膜結合型フラクタルカインを発現する細胞に対し、CX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングできる。以下にCX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングする具体的な方法について記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
フラクタルカインに対する遊走は、例えばトランスウェルカルチャーインサート(コースター社製)を用いて、測定することができる。
【0032】
トランスウェルカルチャーインサートに、フラクタルカインを発現していない細胞例え
ばECV304細胞を培養し、カルチャーインサート上面に単層の細胞層を形成させる。フラクタルカインを、適当な濃度好ましくは10 nMの濃度になるように、遊走溶液(例えばRPMI-1640: M199 = 1 : 1, 0.5% BSA, 20 mM HEPES, pH7.4)で希釈し、24穴のウェルプレートに加える。ECV304細胞を培養したトランスウェルカルチャーインサートを24穴のトランスウェルに取りつけ、遊走溶液に懸濁した適当な個数、好ましくは106個の末梢血単核球細胞をトランスウェルカルチャーインサートに加える。適当な条件好ましくは37℃で4時間培養した後、ECV304細胞を通過して、ウェルプレートに遊走してきた細胞を回収し、細胞表面マーカーや細胞内抗原により同定する。好ましくは蛍光標識した該細胞表面マーカーや細胞内抗原に対する抗体で蛍光染色した後、FACScaliburを用いて定量する。
【0033】
遊走溶液中に、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を加え、キラーリンパ球、好ましくはパーフォリン及びグランザイムB又はCX3CR1を発現する細胞、更に好ましくはCX3CR1を発現する細胞の遊走が抑制されれば、該抗体はCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害すると検定される。
【0034】
また、ECV304細胞に膜結合型フラクタルカインを発現させ、MIP-1βなどの他のケモカインに遊走して来る末梢血単核球細胞を測定することによっても、抗体がCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害するか否かを検定可能である。
【0035】
<5>iNOSの産生抑制
本明細書において「iNOSの産生抑制」、「iNOSの産生が抑制され」とは、iNOSのmRNA発現量が抑制されること、もしくはiNOSタンパク質の産生量が抑制されることを意味する。iNOSの産生抑制は、リアルタイムPCR法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法(固相酵素免疫測定法)、iNOS酵素活性測定法、いずれかを用いて測定することができる。例えば、リアルタイムPCRは具体的には、以下の様に行う。トータルRNAを組織及び細胞から常法により精製し、逆転写酵素と適当なプライマーを用いてcDNAを作製する。作製したcDNAをもとに、各分子に特異的なプライマーとDNAポリメラーゼを用いることで各分子を特異的に増幅させることができる。各分子は、増幅させる際に適当な蛍光色素を取り込ませることで、特定の機器(PRISM 7700 Sequence Detector (Applied Biosystems社製)など)を用いて増幅曲線をモニターすることができる。内部標準遺伝子(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子など)により各分子の補正を行うことで、各分子の組織及び細胞におけるmRNA発現量を定量的に測定することができる。
【0036】
<6>フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストの用途
本発明は、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを含有する炎症性疾患治療剤を提供するものである。前記治療剤においては、前記抗体はフラクタルカインと結合するものであることが好ましい。抗体を含有する本発明の治療剤をヒトに適用する場合には、以下の態様が好ましい。
【0037】
ヒト以外の動物、例えばマウスを免疫動物として作製されたマウスモノクローナル抗体は、ヒトに投与した場合異種蛋白質として認識されて、モノクローナル抗体に対する免疫応答を生じさせてしまうことが多い。この問題点を回避する一つの方法はキメラ抗体、すなわち抗原結合領域がマウスモノクローナル抗体由来、それ以外の領域がヒト抗体由来の抗体である。本発明におけるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体はキメラ抗体も含むものである。キメラ抗体としては、抗原結合領域としてマウスモノクローナル抗体の可変領域全体を使ったキメラ抗体(Morrison et al., Proc. Natl.Acad. Sci.
USA, 81: 6851, 1985、Takeda et al., Nature, 314: 452, 1985)、また抗原結合領域としてヒト由来のフレームワーク領域とマウスモノクローナル抗体由来の超可変領域を組み合わせて使ったキメラ抗体(Teng et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 80: 7308-12,
1983、 Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 7279, 1983)が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
また本明細書におけるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体は、CX3CR1又はフラクタルカインと特異的に結合する抗体のフラグメント、例えばFab又は(Fab')2フラグメントをも包含するものである。
【0039】
本発明の治療剤は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療が必要な患者に対して投与できる。炎症性疾患は、自己免疫疾患またはその他の炎症性疾患であってもよい。また、炎症性疾患は、腎炎、心筋炎、自己免疫性肝障害、多発性硬化症、リウマチ、または、その他の炎症性疾患であってもよい。
【0040】
本発明の治療剤の投与は、注射(皮下、静脈内など)などの常法により行うことができる。
【0041】
治療剤の形態は、投与方法により適宜選択され、医薬的に許容可能な担体と組み合わせた医薬組成物であってもよく、例えば、注射用途に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液および滅菌注射溶液又は分散液を即座に調製するための滅菌粉末が挙げられる。注射用途に適した医薬組成物はいずれの場合においても滅菌されていなければならず、容易な注射器操作が可能な程度に流体でなければならない。該組成物は製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌や真菌などの混入微生物の作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物を含む溶媒であるか又は分散媒体であってよい。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用からの保護は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより行うことができる。多くの場合等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどが組成物中に含まれているのが好ましいであろう。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどを組成物中に配合することにより行うことができる。
【0042】
注射用溶液の調製は、必要なら上記成分の1又はその組合せとともに所要量のフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を適当な溶媒中に配合し、ついで滅菌濾過することにより行うことができる。一般に分散液の調製は、基本的な分散媒体と上記から選ばれた必要な他の成分を含む滅菌媒体中に活性化合物を配合することにより行う。滅菌注射溶液調製のための滅菌粉末の場合は、好ましい調製法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより活性成分と前もって滅菌濾過した所望の追加成分との粉末が得られる。
【0043】
本発明の治療剤の投与量は、抗体の選択、投与対象、患者の年齢、性差、薬剤に関する感受性、投与方法、疾患の履歴など、そして医師の判断に変化し得るが、適当な投与量範囲は患者の体重1kgあたり例えば約0.01〜30mg、好ましくは約0.1〜10mg程度を投与するのが好ましい範囲である。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することがで
きる。
【0044】
さらに、CX3CR1に対する抗体と、その抗体に結合した細胞毒性物質とを含むイムノトキシンとすることもできる。
【0045】
毒性物質としては、サポリン、リシン、Pseudomonas外毒素、ジフテリア毒素、化学療法剤などが挙げられる。抗体と毒性物質の結合は、従来のイムノトキシンの作製に用いられる方法によって行うことができる。このイムノトキシンは、CX3CR1発現細胞特異的に増殖抑制を示す。
【0046】
CX3CR1アンタゴニストを含有する炎症性疾患治療剤を、ヒトに適用する場合には、以下の態様が好ましい。CX3CR1アンタゴニストは塩を形成してもよく、薬学的に許容し得る酸または塩基などとの塩が挙げられる。従って、CX3CR1アンタゴニストまたはその塩は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療に用いることができる。得られた物質を単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また当該治療剤は、経口または非経口(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。
【0047】
従って、CX3CR1アンタゴニストまたはその塩を含有する医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とされ、具体的には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口剤、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口剤を挙げることができる。これらの製剤は通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等を用いて常法により製造することができる。使用可能な無毒性の上記添加剤としては、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、またはその塩、エタノール、クエン酸、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
それらの投与形態としては、また、必要な投与量範囲は、得られる化合物の選択、投与対象、投与経路、製剤の性質、患者の状態、そして医師の判断に左右される。しかし、適当な投与量は患者の体重1kgあたり例えば約1.0〜1,500μg、好ましくは約10〜500μg程度を投与するのが好ましい範囲である。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することができる。
【0049】
本明細書において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果及び/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾病および/または症状を完全にまたは部分的に防止する点では予防的であり、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点では治療的である。本明細書において「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、例えば以下の(a)〜(c)の治療を含む:
(a)疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを防止すること;
(b)疾病症状を阻害する、即ち、その進行を阻止すること;
(c)疾病症状を緩和すること、即ち、疾病または症状の後退を引き起こすこと。
【0050】
本発明で用いられるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストは、iNOSの産生抑制の作用を有するので、CX3CR1アンタゴニストを有効成分とするiNOS産生抑制剤も提供される。iNOS産生抑制剤は、上述した治療剤と同様に組成物としてもよく、iNOS産生抑制が必要な患者に、上述した治療剤と同様に投与することができる。
【0051】
続いて実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なおこれらは実施の一例をして示すものであり、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。また以下の記載に用いる略号は当該分野において慣例として用いられる略号に基づくものである。
【実施例1】
【0052】
マウスCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の効果
(1)抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の調製
抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)は、以下の方法により調製した(特開2002-345454号公報)。抗原にはマウスフラクタルカイン(R&D社製)を用いた。抗原はTiterMaxアジュバンドと混合した後、アルメニアハムスターに免疫し、以降抗原のみで追加免疫を行った。血清中の抗体価はELISAを用いて測定した。抗体価が上昇したアルメニアハムスターからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(ベーリンガー社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、96-ウェルプレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて、ELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗マウスフラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈を2回行い、クローニングを行った。モノクローナル抗体は、不完全フロイントアジュバントを投与したSCIDマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、プロテインAカラムを用いて精製した。中和活性は、CX3CR1発現細胞のマウスフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和抗体(5H8-4)を得た。この中和抗体を産生するハイブリドーマをHam @mFKN5H8-4と名づけた。
【0053】
(2)方法
CD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルの作製についてはPowrie et al. , Int. Immunol., 5, 1461-1471, 1993を参考にした。雌性、8〜10週齢のBalb/cマウス(日本チャールズ・リバー)の脾臓を摘出し、孔径100μmのセルストレーナー(ファーミンジェン社製)上で組織をすり潰し脾臓細胞を分離した。分離した脾臓細胞は、脾臓一個あたり5mlの塩化アンモニウム溶液(0.75%塩化アンモニウム、16mMトリス緩衝液、pH7.4)を加え15分室温に放置し赤血球を溶解した。脾臓細胞溶液にPBSを2倍容量加え、1500rpmで5分遠心して沈殿を回収した。分離した脾臓細胞からCD4 T cell Isolation kit(ミルテニー社製)によりCD4 Tリンパ球を精製した。CD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球を分離するために、精製したCD4 Tリンパ球に対して、フィコエリスリン(PE)標識抗CD4抗体(eBioscience社製)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗CD45RB抗体(eBioscience社製)を用い二重染色を行った。二重染色の後、FACSAria(ベクトンディッキンソン社製)を用いCD4陽性CD45RB強陽性細胞をソーティングし目的の細胞を回収した。回収された細胞はPBSで洗浄後、2x106/mlの細胞濃度にPBSにて懸濁した。雌性、8〜10週齢のSCIDマウス(日本クレア)の腹腔に、上記で調製したCD4陽性CD45RB強陽性細胞を200μlずつ、すなわち4x105/mouseで移入を行った。各群7匹のCD4陽性CD45RB強陽性細胞を移入したSCIDマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を、細胞移入後2週間目より、3日に1回投与した。なお投与は尾静脈から行った。また陰性対照群として、CD4 T cell Isolation kit(ミルテニー社製)により精製し、CD45RBの発現強度による分離をして
いないマウスCD4 Tリンパ球(トータルCD4)を1.2x106/mouseで移入したSCIDマウス4匹を用いた。各抗体投与後2週間後に剖検を行い体重減少、大腸内便性状をスコア化したもの、大腸肥厚、iNOS mRNA発現解析、病理学的観察により評価を行った。便性状のスコアは表1に示すようにデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎で用いられている便性状のスコア(Cooper et al., Lab. Invest., 69, 238-249, 1993)を使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
また大腸肥厚はダイヤルシックネスゲージ(ピーコック社製)を用い、肛門部から約1.5cmの部位を内容物を除き測定した。また大腸は形態的観察とマイヤーのヘマトキシリン・エオジン染色による組織切片染色にて病理組織学的観察を行った。
【0056】
またiNOS等のmRNA発現は、大腸よりRNeasy mini kit (キアゲン社製)を用いて精製した全RNA (500 ng)をAMV逆転写酵素 (TAKARA社製)とランダムヘキサマー (TAKARA社製)を用いて逆転写して得たcDNAをテンプレートとして、リアルタイムPCRにて解析した。リアルタイムPCRは、各種プライマーとQuantiTect SYBR Green PCR kit (Qiagen社製)の試薬、ウラシル-DNA-グリコシラーゼ (Invitrogen社製)を混合した反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detector (Applied Biosystems社製)を用いて行った。PCRは、50℃ 2分、95℃ 15分の反応を行った後、95℃ 15秒および60℃ 1分の反応を35サイクル実施した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0057】
【表2】
【0058】
(3)結果
コントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、体重減少が抑制された(図1)。またコントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、大腸内便性状スコアおよび大腸肥厚において改善を示した(図2)。大腸部位の形態的観察においても、コントロール抗体投与群では結腸から直腸部位において肥厚が観察され、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与により改善が認められた(図3)。組織切片染色においてコントロール抗体群では大腸粘膜層に非常に多くの白血球(Tリンパ球、単球、マクロファージなど)が浸潤し、粘液を産生する杯細胞の消失や大腸上皮組織の損傷、過形成が認められるのに対し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では、白血球の浸潤が抑制され大腸上皮細胞の損傷も僅かであった(図4)。一方mRNA発現に関してもコントロール抗体投与群ではiNOSの発現が上昇し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)によりその発現が顕著に抑制された。また、パーフォリン、Fas、FasLなどの細胞障害性因子、IFNγ、TNFαなどのサイトカインのmRNAに関してもコントロール抗体投与群では発現が上昇し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では発現の抑制が認められた(図5)。以上の結果から、フラクタルカイン-CX3CR1経路がCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおいて重要な役割を果たすことが明らかとなった。その作用はiNOS産生を抑制することで過剰なNOの産生を抑制し
、組織障害を軽減しているものと推察された。つまりフラクタルカイン-CX3CR1の相互作用阻害に基づくiNOS産生抑制は、炎症性腸疾患に有用な治療体系であることが示唆された。
【実施例2】
【0059】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の効果
(1)方法
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルについてはIijima et al. , J. Exp. Med.
, 199, 471-482, 2004を参考にした。雄性8〜10週齢Balb/cマウス(日本チャールズ・リバー)の腹部を約2cm四方剃毛した。3% 4-エトキシメチレン-2-フェニル-2-オキサゾリン-5-オン(以下オキサゾロン、シグマ社製)を含む100%エタノール溶液を150μlずつ各マウスに塗布した。オキサゾロン感作してから4日目に絶食し、5日目にジエチルエーテル麻酔下のマウスの肛門から約3cmの部位に、0.5%オキサゾロンを含む50%エタノール生理食塩水溶液を100μlずつマウスに腸注した。なお陰性対照群として正常Balb/cマウスに50%エタノール生理食塩水溶液を100μlずつ腸注したマウス5匹を設定した。各群7匹のオキサゾロン腸注したマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を投与した。なお抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与は感作5日目(オキサゾロン腸注直前)に行った。なお抗体投与は尾静脈から行った。評価項目は疾患活動指数[Disease Activity Index](以下DAI;便の硬度、血の含有度合い、そして体重増減をスコア化してDAI値として算出)、大腸の短縮化、大腸肥厚および病理学的観察により評価を行った。なおDAIは表3に示すようにデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎で用いられているDAI(Cooper et al., Lab. Invest., 69, 238-249, 1993)を使用した。
【0060】
【表3】
【0061】
またオキサゾロン腸注2日目より下痢および軟便が認められるため、DAIについては経時的に観察を行った。また大腸は形態的観察とマイヤーのヘマトキシリン・エオジン染色による組織切片染色にて病理組織学的観察を行った。
【0062】
(2)結果
コントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、DAIにおいてオキサゾロン腸注2日目より改善を示した(図6)。また大腸の肥厚および短縮化もコントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は改善を示した(図7)。大腸部位の形態的観察において、コントロール抗体投与群では結腸から直腸部位において肥厚が観察され、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与により改善が認められた(図8)。組織切片染色においてコントロール抗体群では大腸粘膜層に非常に多くの白血球(Tリンパ球、単球、マクロファージなど)が浸潤し、粘液を産生する杯細胞の消失や大腸上皮組織の損傷、過形成が認められるのに対し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では、白血球の浸潤が抑制され大腸上皮細胞の損傷も僅かであった(図9)。以上の結果からフラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系がオキサゾロン誘発大腸炎モデルにおいても重要な役割を果たしていることが予想され、フラクタルカイン-CX3CR1細
胞浸潤系が炎症性腸疾患において有用な治療体系であることが示唆された。
【実施例3】
【0063】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(#126)の効果
(1)抗フラクタルカイン抗体(#126)の調製
マウスフラクタルカイン(Genzyme社製)とTiterMaxTMGoldアジュバンドを混合した後、アルメニアハムスターに複数回免疫し、さらに最終免疫をマウスフラクタルカインのみで行った。血清中の抗体価を固相化したフラクタルカインを用いたELISAで測定し、抗体価が上昇したアルメニアハムスターからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(Rosh社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、プレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて固相化したフラクタルカインを用いたELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗フラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、2回の限界希釈によりクローニングを行った。モノクローナル抗体は、プリスタンを投与したSCIDおよびヌードマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、プロテインAカラムを用いて精製した。得られた抗体の中和活性は、CX3CR1発現細胞のマウスフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和活性を有する#126抗体を得た。この中和抗体を産生するハイブリドーマをHam @mFKN#126.1.1と名づけた。
【0064】
(2)方法
実施例2と同様の方法を用い検討を行った。評価項目は大腸短縮および大腸肥厚とした。各群7匹のオキサゾロンを腸注したマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(#126)(抗体はPBS溶液)を投与した。
【0065】
(3)結果
抗フラクタルカイン抗体(#126)は抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)と同様に、コントロール抗体投与群に比較し、大腸短縮および大腸肥厚を改善した(図10)。以上の結果から、異なる2種類の抗フラクタルカイン抗体がオキサゾロン誘発大腸炎モデルにおいて効果を示したことは、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系の阻害が炎症性腸疾患治療に有用であることが強く示唆された。
【実施例4】
【0066】
ConA肝炎におけるiNOSの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のiNOS産生に対する効果
(1)方法
1群4匹のC57BL/6マウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を静脈内投与し、直後にコンカナバリンA(ConA、シグマアルドリッチ社製)を12 mg/kgで静脈内投与した。その2時間後に肝臓を摘出し、RNA抽出を行った。なお陰性対照群としてC57BL/6マウスにPBS(リン酸バッファー)を静脈内投与したマウス4匹を設定した。iNOSのmRNA発現は、実施例1と同様の方法にてRNAを回収し、cDNAを合成し、リアルタイム PCRにて測定した。また、コントロール抗体あるいは抗フラクタルカイン抗体とConA、陰性対照群としてPBSを静脈内投与して12時間後の肝臓を摘出し、凍結組織切片を作製した。抗iNOS抗体と抗CX3CR1抗体で免疫組織染色を行い、iNOS、CX3CR1の陽性細胞の数を測定した。
【0067】
(2)結果
ConAの投与により上昇したiNOS mRNA発現は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に減少した。また、グランザイムB、Fasなどの細胞障害性因子、IFNγ、TNFα、IL-4などのサイトカインのmRNAに関しても、ConAの投与により発現が上昇し、抗フラクタルカイン
抗体(5H8-4)の投与により発現の減少が認められた(図11)。また、免疫組織染色の結果から、iNOS陽性の炎症性細胞はConAの投与により増加し、抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に減少していた(図12)。また、CX3CR1陽性の炎症性細胞もConAの投与により増加し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の投与により顕著に減少していた(図12)。以上の結果からフラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、ConA肝炎での肝臓におけるiNOS mRNAの発現抑制と、炎症性細胞でのiNOS産生が抑制されることが明らかとなり、炎症性細胞による過剰なNOの産生が阻害されることで、肝臓の組織障害が軽減されることが示唆された。
【実施例5】
【0068】
ConA肝炎におけるCX3CR1およびiNOS発現細胞の解析
免疫組織染色の結果を詳細に解析した。CX3CR1陽性細胞は主に丸く小型で、核は馬蹄形で細胞質は少なく、門脈(portal vein)や中心静脈(central vein)、類洞(sinusoid)に隣接しており、一部は壊死部(necrotic region)の辺縁部でも認められた。iNOS陽性細胞は、主に大きく進展しており、核は馬蹄形で細胞質は大きく、類洞に隣接しており、壊死部の辺縁部に加え壊死部の中でも見られたが、門脈や中心静脈近傍では見られなかった。このように、CX3CR1陽性細胞とiNOS陽性細胞の形態や局在には異なる点が見られたので、CX3CR1およびiNOS陽性細胞の特徴を詳細に解析した。
【0069】
(1)方法
実施例4と同様にConA静脈内投与12時間後の肝臓(ConA肝炎肝組織)を用い、凍結組織切片を作製した。抗CX3CR1抗体あるいは抗iNOS抗体(BD Bioscience社製)と抗BM8抗体(BMA社製)、抗CD11b抗体(eBioscience社製)、あるいは抗MCP-1抗体(Gengyme Techne社製)で蛍光二重染色を行い、CX3CR1陽性細胞およびiNOS陽性細胞におけるBM8、CD11b、MCP-1の陽性率を測定した。
【0070】
上記の抗CX3CR1抗体は、抗原としてマウスCX3CR1 C末ペプチド(CSILSSFTHYTSEGDGSLLL(配列番号31))を用いてウサギで作製した抗体であった。具体的には以下のようにして得た。配列番号31の合成ペプチドをKLHと結合させ、ウサギ(JW)にアジュバントと共に1回あたり250μg/羽免疫した。アジュバントは、初回のみフロインド完全アジュバントを使用し、残りはフロインド不完全アジュバントを用いた。計5回免疫し、抗体価の上昇を、ペプチドを固相化したELISAにより確認し、血清を回収した。上記の配列のペプチドをThiopropyl Sepharose 4B(Amersham Bioscience社製)に結合させたものを用いてアフィニティー精製を行い、回収した血清から抗CX3CR1抗体を得た。
【0071】
さらに、末梢血(PBL)おけるCX3CR1陽性細胞、および、C57BL/6雄9週令の骨髄細胞をM-CSF (50ng/ml)で5日間培養し、骨髄細胞から分化させたマクロファージ(BMMφ)におけるCX3CR1陽性細胞を、マクロファージおよび単球に特異的なF4/80、ならびに、未熟骨髄系細胞の表面マーカーであるLy6Cについて、抗F4/80抗体(CALTAG社製)および抗Ly6C抗体(BMA社製)を用いて、フローサイトメトリー(FACS)により解析した。また、抗Ly6C抗体によるConA肝炎肝組織の組織染色、および、蛍光標識したマクロファージを浸潤させたConA肝炎肝組織の、抗MCP-1抗体による組織染色を行った。
【0072】
(2)結果
代表的な染色像を図13に示す。図中、写真の左および上の文字は、蛍光染色に用いた抗体が認識するマーカーを示す。また、バーの長さは20μmである。また、各マーカーの陽性率の測定結果を図14に示す。図中、BM8+はBM8陽性、CD11b+はCD11b陽性、MCP1+は、MCP-1陽性を意味する。
【0073】
CX3CR1陽性細胞は、丸く小型のCD11b陽性が68.9±2.7% (n=3)、大型で進展したBM8陽性
が53.4±2.0% (n=3)であった。一方、iNOS陽性細胞は、大型で進展したBM8陽性が81.6±1.8% (n=3)、CD11b陽性が12.6±3.0% (n=3)であった。したがって、CX3CR1陽性細胞はiNOS陽性細胞と必ずしも同じ細胞ではなく、一部は別の細胞集団で発現していることが明らかとなった。最近、iNOS産生細胞の浸潤には、CCR2が関与することが細菌感染モデルマウスにおいて報告されている(非特許文献13)。そこで、CCR2のリガンドであるMCP-1の発現を解析した。MCP-1陽性細胞は、CX3CR1と同様に丸く小型であった。CX3CR1陽性細胞の72.5±3.7% (n=3)がMCP-1を発現しており、逆にMCP-1陽性細胞のほとんどがCX3CR1陽性であった。したがって、ConA肝炎では、CX3CR1陽性細胞は、MCP-1を発現する主な細胞であることが明らかとなった。一方、MCP-1陽性細胞とiNOS陽性細胞は、形態が異なることから予想されるように、iNOS陽性細胞の14.6±2.2% (n=3)しかMCP-1を発現しておらず、ほとんど一致しなかった。したがって、iNOS陽性細胞の多くは、CX3CR1/MCP-1陽性細胞と異なることが明らかとなった。興味深いことに、肝臓の類洞血管(sinusoidal vessel)や壊死部では、iNOS陽性細胞とMCP-1陽性細胞は高頻度で隣接して存在していた。
【0074】
CX3CR1陽性細胞のFACSによる解析結果を図15に示す。また、組織染色の結果を図16に示す。
【0075】
末梢血(PBL)でCX3CR1陽性細胞をFACSで解析した結果、CX3CR1はF4/80陽性の単球で発現しており、発現量はLy6C-成熟単球で強く、Ly6C+未熟単球で弱かった。ConA投与12時間後の肝臓を未熟骨髄系細胞の表面マーカーであるLy6Cで組織染色した結果、iNOS陽性のF4/80陽性細胞はLy6C陽性であり、未熟単球由来であることが示唆された。次に、C57BL/6雄9週令の骨髄細胞をM-CSF (50ng/ml)で5日間培養し、骨髄細胞から分化させたマクロファージ(BMMφ)を得た。付着したBMMφを1mM EDTA/PBSで回収しFACSで解析を行った結果、末梢血成熟型単球と同様のCX3CR1hi F4/80+ Ly6C-/lowであった。そこで、BMMφをCFSE 10μMで蛍光標識して2.5x106個/250μlの細胞をマウスに静注し、さらに10分後にConA (15mg/kg)を静注して12時間後に肝臓を回収して浸潤を検討した。ConA投与により、BMMφの肝臓への浸潤は著しく増加した。また、浸潤した蛍光標識細胞は、ConA投与によりMCP-1を産生していた。iNOSは、蛍光標識細胞では発現せず、宿主由来であった。
【0076】
以上の結果から、炎症時にはCX3CR1陽性成熟型単球は炎症局所に浸潤してMCP-1を発現し、iNOS産生未熟型単球の炎症局所への浸潤を誘導することで病態を形成することが示唆された。
【実施例6】
【0077】
ConA肝炎におけるケモカインの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のケモカイン発現に対する効果
(1)方法
実施例4で作製したConAを静脈内投与2時間後の肝臓由来cDNAを用い、実施例1と同様の方法にて、ケモカインのmRNA発現をリアルタイムPCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりであった。コントロール遺伝子として、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)遺伝子を用いた。
【0078】
【表4】
【0079】
(2)結果
結果を図17に示す。図中、「normal」は陰性対照、「control」はコントロール抗体投与群、「anti-FKN」は抗フラクタルカイン投与群を意味する。
ConAの投与により2時間後に肝臓でのMCP-1、KC、MIP-2、IP-10、MIP-1α、MIP-1βのmRNAの発現が上昇した。これらのケモカインの mRNA発現は抗フラクタルカイン抗体の投与により減少した。以上の結果から、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、多種類のケモカインの産生が抑制され、炎症の初期誘導反応である炎症性細胞浸潤と活性化の増幅回路が広範囲に作動しなくなることが示唆された。
【実施例7】
【0080】
マウスCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現に対する効果
(1)方法
実施例1で作製した大腸由来cDNAを用い、実施例1と同様の方法にて、さらに詳細に白血球マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および組織破壊に関与する分子のmRNA発現をTaqMan PCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0081】
【表5−1】
【0082】
【表5−2】
【0083】
【表5−3】
【0084】
(2)結果
コントロール抗体投与群ではCD4、T-bet、F4/80、M-CSF receptor (M-CSF R)、Ly-6G、CD11cなどの各種白血球マーカーのmRNA発現が亢進していた(図18)。これらの結果から、実施例1の組織切片染色における、コントロール抗体投与群でのおびただしい数の浸潤した白血球はCD4 + T細胞(特にTh1タイプCD4+ T細胞)や単球/マクロファージ、好中球、樹状細胞など多種類の白血球から構成されている可能性が示唆された。また各々のケモカイン-ケモカイン受容体、KC、MIP-2、CXCR2、MCP-1、MCP-3、CCR2、MIP-1α、MIP-1β、CCR5、IP-10、I-TAC、CXCR3、TARC、MDC、CCR4のmRNA発現亢進がコントロール抗体投与群において認められたことから、浸潤した白血球はこれらケモカイン−ケモカイン受容体機構を介して浸潤したものと推察された(図19、図20)。さらに一連の炎症性サイトカイン、IL-1β、IL-6、IL-12α、Il-12β、Il-23α、Il-17、RANKL や組織破壊に関与するプロテアーゼMMP-2、MMP-9、MMP-14さらに炎症部位での血管新生に関与するbFGFやVEGF Receptor 2のmRNA発現もコントロール抗体投与群において顕著な亢進が認められた(
図21、図22)。また樹状細胞などの活性化受容体であるCD40やTLR2、活性化T細胞で発現し、樹状細胞などを活性化する分子CD40L、樹状細胞の活性化により発現が増強するCD80、CD86などのT細胞活性化補助シグナル分子群およびMHC Class IIの発現亢進が認められたことから、T細胞および樹状細胞などの抗原提示細胞が病変部位において活性化され、抗原特異的な獲得免疫系が作動している可能性が示唆された(図23)。これら一連の白血球マーカー、ケモカイン−ケモカイン受容体、サイトカイン、組織破壊分子、血管新生関連分子、T細胞・樹状細胞活性化分子のmRNA発現は、抗フラクタルカイン抗体投与により顕著に抑制されていた(図18〜図23)。以上の結果から、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、炎症性サイトカインやケモカインの産生が抑制され、炎症性細胞浸潤と活性化の増幅回路が広範囲に作動しなくなり、炎症性腸疾患の病態進展が抑制される可能性が示唆された。
【実施例8】
【0085】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現に対する効果
(1)方法
実施例2と同様の方法により炎症性腸疾患モデルを作製した。コントロール抗体、坑フラクタルカイン抗体(5H8-4)を実施例2の方法に従い投与した。オキサゾロン腸注後24時間および3日目に剖検を行い、大腸を摘出後、大腸組織より実施例1と同様の方法を用いRNAを抽出した。陰性対照群には50%エタノール生理食塩水を腸注した。RNAを抽出後、実施例1と同様の方法を用いcDNAを合成しサイトカイン、ケモカインのmRNA発現をTaqMan PCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0086】
【表6】
【0087】
(2)結果
オキサゾロン腸注24時間後において、コントロール抗体投与群ではIL-1β、IL-6などの炎症性サイトカイン、KC、MIP-2、MCP-1、MCP-3、MIP-1α、MIP-1βなどのケモカイン、ケモカイン受容体CXCR2のmRNA発現の亢進が認められ、この発現亢進は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に抑制された(図24)。オキサゾロン腸注3日後においては、IL-1β、IL-6、KC、MIP-2、MCP-1、MCP-3、CXCR2に加え、好中球のマーカーであるLy-6GのmRNA発現の亢進が認められ、この発現亢進は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に抑制された(図25)。以上の結果から、坑フラクタルカイン抗体のオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける病態改善効果の一部は、IL-1βやIL-6の炎症性サイトカインやケモカインの産生が抑制されること、好中球の浸潤が抑制されることで発揮されることが示唆された。
【産業上の利用の可能性】
【0088】
炎症性細胞によるiNOS活性の産生抑制による、過剰なNO産生を選択的に阻害するという新しいアプローチに基づく炎症性疾患治療剤が提供される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導型NO合成酵素産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインは生体内での主たる細胞遊走因子であり、細胞運動の亢進や細胞接着分子の活性化を介して、リンパ球の組織浸潤を制御している。ケモカインは、その最初の2つのシステイン残基の配列により、CC、CXC、C、CXXXCの4つのサブファミリーに分類される。CC、CXC、Cケモカインのメンバーは、約70アミノ酸からなる分泌蛋白質であり、それ自身には接着分子としての活性はないが、細胞接着を誘導することができる。分泌されたケモカインは、標的細胞表面上の7回膜貫通型受容体に結合して、三量体G蛋白質を介してインテグリンを活性化し、細胞の接着や遊走を誘導する。
【0003】
最近になって、従来の細胞遊走機構に加えて、新規の簡潔なリンパ球浸潤機構が同定された。この機構は活性化された内皮細胞上に発現するフラクタルカインと、血流中の単球、NK細胞、そしてT細胞の一部に発現する7回膜貫通型受容体CX3CR1により媒介される。フラクタルカインはCXXXCケモカインの唯一のメンバーであり、その構造と機能において、他のケモカインには見られない際だった特徴を有している。フラクタルカインは、ケモカインドメイン、ムチンドメイン、細胞膜貫通領域、細胞質内領域を有する膜結合型として細胞表面上に発現する。膜結合型フラクタルカインはCX3CR1と結合することで、生理的血流速存在下においても、セレクチンやインテグリンの介在なしに、単独で強固な接着を媒介することが可能である。すなわち、セレクチンやインテグリンを介する多段階の細胞浸潤機構と同様な機能を、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は一段階の反応で媒介する。さらに、膜結合型フラクタルカインからシェディングによって分泌される分泌型フラクタルカインは、CX3CR1に結合して、従来のケモカインと同様に、インテグリンの活性化や細胞遊走を誘導する。
【0004】
また、フラクタルカインは、血管内皮細胞を炎症性サイトカインのTNFやIL-1で処理すると発現が誘導される。一方CX3CR1は単球や、NK細胞のほとんどと、T細胞の一部に発現しているが、好中球には発現していない。したがって、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、損傷を受けた組織の内皮細胞上、又は組織内に、ある種の免疫細胞を動員するための、きわめて効率の良い機構であると考えられる。フラクタルカインは上記のように炎症時に血管内皮細胞に誘導され、CX3CR1は多種類の白血球に存在していることから、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、炎症性疾患における病態形成および進展への関与も強く示唆されている。実際にフラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系と炎症性疾患における関与については数多く報告されており、関節リューマチ(非特許文献1)、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(非特許文献2)、乾癬およびアトピー性皮膚炎(非特許文献3 、非特許文献4)、喘息(非特許文献5)、動脈硬化症(非特許文献6)、急性呼吸促迫症候群(非特許文献7)、など数多くの疾患について報告がなされている。一方ではCX3CR1ノックアウトマウスを用いた解析(動脈硬化症(非特許文献8)、虚血性再灌流による組織障害(非特許文献9))、抗フラクタルカインモノクローナル抗体を用いた炎症性疾患の病態モデル解析(マウスII型コラーゲン誘発関節炎、実験的自己免疫性脳髄膜炎(特許文献1)、コンカナバリンA誘発肝障害(特許文献1)、抗CX3CR1抗血清を用いた病態モデル解析(WKYラット半月体形成性腎炎(非特許文献10)、アロ心臓移植片の拒絶(非特許文献11))、あるいはフラクタルカイン抑制変異体を用いた炎症性疾患の病態モデル解析(MRL/lpr ループス腎炎(2004年4月 日本リュウマチ学会))から、炎症性疾患において、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系を阻害することで病態進展抑制及び改善効果が期待され、炎症性疾患における新たな治療体系を構築できるもの
と期待されている。しかしながらフラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することにより発揮される、これら病態改善作用の詳細なメカニズムは未だ不明であるのが現状である。
【0005】
これまでに白血球の分類は、数多くの細胞表面マーカーによりリンパ球、単球、顆粒球それぞれの集団が細かく分類されてきている。最近ではケモカイン受容体の分布から、さらに詳細な分類がなされてきており、単一集団と思われていた集団がいくつかの亜集団から形成される集合であることが判明しつつある。マウスの解析からCX3CR1は、上述のように単球、NK細胞、そしてT細胞の一部に発現することが報告されているが、その中でも単球にはCX3CR1を強発現しCCR2を発現しない集団(CX3CR1highCCR2-)とCX3CR1が低発現でCCR2を強発現する集団(CX3CR1lowCCR2+)の2つが存在することが明らかとなりつつある。CX3CR1ノックアウトマウスやCCR2ノックアウトマウスの解析から、CX3CR1lowCCR2+は炎症時に炎症部位に誘導され、炎症性サイトカインであるTNFαや強力なNO(一酸化窒素)合成酵素のiNOS(inducible Nitrogen Oxide Synthetase)を産生し、組織障害に寄与することが示唆されている(非特許文献12、非特許文献13)。しかしながらCX3CR1highCCR2-について、炎症時における機能や重要性については言及されておらず、むしろ非炎症時の構成的な組織マクロファージの供給に必要であり、これら細胞の機能を阻害することは好ましくないと言われている。
【0006】
一方、ヒト末梢血における単球においても細胞表面マーカー(CD16、CD62Lなど)とCX3CR1の発現により詳細な分類がなされている。その一つの集団であるCD16+CD62L-の単球は炎症性疾患において、末梢血中に増加することが報告されており、病態進展との関与が強く示唆されている。CD16+CD62L-の単球はCX3CR1を高発現していることが報告されており、先にあげたマウスCX3CR1highCCR2-とほぼ同様の性質をもつと予想される(非特許文献14)。またCD16+CD62L-の単球はTNFαやiNOSを強く産生することがすでに報告されており、炎症性疾患における末梢血中の増加と相まって、病態進展に強く関与していることが考えられる。しかしCX3CR1の機能を阻害することで、これら細胞からのTNFαやiNOS産生抑制が認められるかどうか具体的な報告は存在しない。
【0007】
最も高いNO合成能力を持つiNOSは、eNOS(endothelial NOS)およびnNOS(neural NOS)のように定常的には発現しておらず、刺激因子(例えば炎症性サイトカイン及び/又はリポ多糖体など)によって誘導され、一過性に大量に産生されて細菌、ウイルス、真菌、寄生虫の排除などの生体防御反応に関わっている。しかしながら過剰なNOの産生は組織障害的に作用するため、病変部におけるiNOSの過剰な産生は病態を進展させる大きな要因となると考えられている。実際にNOが病態形成や進行に関わると考えられている疾患としては、炎症性疾患(例えば、リウマチ性炎症、関節リューマチ、変形性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、動脈硬化症、自己免疫疾患、又は急性炎症など)、アレルギー疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)、虚血性障害(例えば、梗塞若しくは虚血などに起因する各種の心臓障害若しくは脳障害、又は虚血後の再潅流障害など)、ショック(例えば、内毒性ショック、出血性ショック、又は心臓性ショックなど)、病的な血圧低下(例えば、サイトカインを用いる癌治療における血圧低下、又は敗血症、出血性ショック、若しくは肝硬変において生じる血圧低下など)、移植拒絶反応、神経系障害(例えば、アルツハイマー病、てんかん、又は片頭痛など)、腫瘍、又はインシュリン依存性糖尿病などが挙げられる。
【0008】
一方では病態モデルにおけるiNOS活性の阻害あるいはiNOSノックアウトマウスの解析から、関節リューマチ(非特許文献15)、変形性関節症(非特許文献16)、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(非特許文献17、非特許文献18)、コンカナバリンA誘発肝障害(非特許文献19)、喘息(非特許文献20)、エンドトキシン誘導急性肺障害(非特許文献21)、動脈硬化症(非特許文献22)、虚血性障害(非特許
文献23、非特許文献24、非特許文献25)、移植拒絶反応(非特許文献22)などにおいて病態の改善が報告されている。
【0009】
このように実際に数多くの疾患モデル動物においてiNOS活性の阻害あるいはiNOSノックアウトマウスによる病態改善の報告がなされているが、未だ有望なiNOS活性を阻害する薬剤は上市されていない。
【0010】
さらに、iNOSの酵素活性阻害剤による過剰なNO産生の抑制は、敗血症ショックに典型的な血圧低下や血管神経麻痺などの組織破壊や臓器障害を改善する一方で、血圧・血流の調節というNOの根幹的な生理機能を遮断する危険性が示唆されている(非特許文献26)。特にiNOSノックアウトマウスを用いた敗血症における心筋機能の解析では、産生する細胞の種類によるiNOSの役割の違いが指摘されている。心筋細胞で発現するiNOSは敗血症時のアドレナリン作動性刺激による心筋細胞の短縮という有益な反応に必須である一方、心筋細胞の近傍に浸潤した炎症性細胞で発現するiNOSは心筋細胞の障害という有害な反応に関与している(非特許文献27)。
【0011】
したがって、細胞種選択的なiNOS活性の阻害という新しいアプローチ、例えばiNOSの酵素阻害ではなく炎症性細胞におけるiNOSの酵素阻害や産生抑制などによる薬剤の提供が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−345454号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Arthritis Rheum. 2002 Nov;46(11):2878-83
【非特許文献2】Am J Pathol. 2001 Mar;158(3):855-66
【非特許文献3】J Allergy Clin Immunol. 2004 May;113(5):940-8
【非特許文献4】J Clin Invest. 2001 May;107(9):1173-81
【非特許文献5】J Allergy Clin Immunol. 2003 Dec;112(6):1139-46
【非特許文献6】J Clin Invest. 2003 Apr;111(8):1241-50
【非特許文献7】Clin Exp Immunol. 1999 Nov;118(2):298-303
【非特許文献8】Circulation. 2003 Feb 25;107(7):1009-16
【非特許文献9】J Neuroimmunol. 2002 Apr;125(1-2):59-65
【非特許文献10】Kidney Int. 1999 Aug;56(2):612-20
【非特許文献11】J Clin Invest. 2001 Sep;108(5):679-88
【非特許文献12】Immunity. 2003 Jul;19(1):71-82
【非特許文献13】Immunity. 2003 Jul;19(1):59-70
【非特許文献14】J Exp Med. 2003 Jun 16;197(12):1701-7
【非特許文献15】Eur J Pharmacol. 2002 Oct 18;453(1):119-29
【非特許文献16】Arthritis Rheum. 1998 Jul;41(7):1275-86
【非特許文献17】J Pharmacol Exp Ther. 2001 Sep;298(3):1128-32
【非特許文献18】Eur J Pharmacol. 2001 Jan 19;412(1):91-9
【非特許文献19】J Clin Invest. 2001 Feb;107(4):439-47
【非特許文献20】J Pharmacol Exp Ther. 2003 Mar;304(3):1285-91
【非特許文献21】Anesth Analg. 2003 Dec;97(6):1751-5
【非特許文献22】Eur J Pharmacol. 2000 Mar 10;391(1-2):31-8
【非特許文献23】Br J Pharmacol. 1999 May;127(2):546-52
【非特許文献24】Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2002 Jun;282(6):H1996-2003
【非特許文献25】Nitric Oxide. 2004 May;10(3):170-7
【非特許文献26】Curr Drug Targets Inflamm Allergy. 2002 Mar;1(1):89-108
【非特許文献27】Circulation. 2003 Sep 2;108(9):1107-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、新しい概念に基づく、炎症性疾患治療剤、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、これまでの知見から、CX3CR1の機能を阻害することで、iNOSの産生が抑制され病態の改善を示した報告がなかったことに注目し、この機能解明により新しい概念に基づく炎症性疾患治療剤の創出に成り得るとの仮説を構築し、鋭意検討を行った。
【0016】
その結果、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体を用いて、後述する実施例に記載の各種病態モデルで検討した結果、iNOSの産生が抑制され、かつ、病態が改善されることを初めて見出した。さらに、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体がConA肝炎に有効であることは報告されているが、今般、ConA肝炎での肝臓におけるiNOS mRNAの発現抑制と、炎症性細胞でのiNOSの産生が抑制されることを初めて見出した。これらのことから、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する抗体またはCX3CR1の機能を阻害する化合物(以下「CX3CR1アンタゴニスト」と略記する場合もある)は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患[炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群など]の治療に有用であることを明らかにし、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを含有することを特徴とする、炎症性疾患治療剤。
(2)抗体が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする、(1)記載の剤。
(3)抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、(2)記載の剤。
(4)受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126であることを特徴とする、(3)記載の剤。
(5)炎症性疾患が炎症性腸疾患である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(6)炎症性疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である(5)記載の剤。
(7)炎症性疾患が乾癬である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(8)炎症性疾患がアトピー性皮膚炎である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。(9)炎症性疾患が喘息である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(10)炎症性疾患が動脈硬化症である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(11)炎症性疾患が虚血再灌流における組織障害である(1)〜(4)いずれか一項に記載の剤。
(12)炎症性疾患が急性呼吸促迫症候群である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の剤。
(13)受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマHam @mFKN#126.1.1。
(14)(13)記載のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126。
また、治療上有効量の、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを炎症性疾患の治療が必要な患者に投与することを含む、炎症性疾
患の治療方法、及び、炎症性疾患治療剤の製造における、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルの体重減少における、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図2】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける大腸内便性状のスコアと大腸肥厚に対する、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図3】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の形態的な変化に対する、抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(器官の形態の写真)。
【図4】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の組織障害に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図5】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、各種因子のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図6】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、DAIに対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図7】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸肥厚、大腸短縮化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図8】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の形態的な変化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(器官の形態の写真)。
【図9】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸の組織障害に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図10】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、大腸肥厚、大腸短縮化に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(#126)の改善作用を示す。
【図11】ConA肝炎における、肝組織での各種因子の発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図12】ConA肝炎における、肝実質内のiNOS及びCX3CR1陽性の炎症性細胞の増加に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す(顕微鏡写真)。
【図13】ConA肝炎肝組織における蛍光二重染色の結果を示す(顕微鏡写真)。
【図14】ConA肝炎肝組織におけるCX3CR1陽性細胞またはiNOS陽性細胞中の各マーカー陽性細胞の割合を示す。
【図15】CX3CR1陽性細胞のフローサイトメトリーの結果を示す。
【図16】ConA肝炎肝組織における組織染色の結果を示す(顕微鏡写真)。
【図17】ConA肝炎におけるケモカインの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のケモカイン発現に対する効果を示す。
【図18】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、白血球マーカーのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。「正常」は陰性対照、「cIgG」はコントロール抗体投与群、「@FKN」は抗フラクタルカイン投与群を意味する(図19〜25においても同様である)。
【図19】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図20】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図21】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、サイトカインのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図22】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、血管新生分子および組織破壊プロテアーゼのmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図23】マウスCD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、樹状細胞およびT細胞活性化分子のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図24】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、オキサゾロン腸注24時間後のサイトカイン、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【図25】マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、オキサゾロン腸注3日後の好中球マーカー、サイトカイン、ケモカインおよびケモカイン受容体のmRNA発現に対する抗マウスフラクタルカイン抗体(5H8-4)の改善作用を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1>微生物の寄託
ハイブリドーマHam @mFKN5H8-4は、2004(平成16年)年9月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6)に寄託され(受託番号:FERM P-20236)、その寄託は、ブタペスト条約に基づく国際寄託に移管された(受託番号:FERM BP-10372)。
【0020】
ハイブリドーマHam @mFKN#126.1.1は、2004(平成16年)年9月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6)に寄託され(受託番号:FERM P-20235)、その寄託は、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された(受託番号:FERM BP-10371)。
【0021】
<2>フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0022】
哺乳動物(例えばマウス、ハムスター又はウサギ)は、該哺乳動物において免疫応答を引き起こす免疫原の形態のCX3CR1又はフラクタルカイン又は蛋白質断片(例えばペプチド断片)で免疫することができる。
【0023】
CX3CR1又はフラクタルカインの遺伝子(例えば、GenBank NM_001337又はNM_002996参照)を組み込んだ発現ベクターを宿主細胞、例えば細菌、哺乳類細胞株又は昆虫細胞株中で発現させ、培養液又は菌体・細胞から標準的な方法に従ってCX3CR1又はフラクタルカインを精製することができる。また、例えばGST等との融合蛋白質として発現させ、GSTとの融合蛋白質の場合はグルタチオンカラムにより精製しても構わない。
【0024】
CX3CR1又はフラクタルカインのペプチドはCX3CR1又はフラクタルカインのアミノ酸配列に基づき、公知の方法(例えば、F-moc又はT-boc化学合成)により合成することができ、合成されたペプチドは適当な担体、例えばKLHと結合させることで免疫原性を高めることも許される。
【0025】
精製されたCX3CR1又はフラクタルカイン又はペプチド断片をアジュバントと共に免疫後、抗血清を得ることができ、所望なら抗血清からポリクローナル抗体を単離することができる。また、モノクローナル抗体を産生するには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫動物より回収し、標準的な細胞融合法によりミエローマ細胞と融合させて細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を得る。かかる技術は当該技術分野では確立された方法であり、適当な
マニュアル(Harlow et al, Antibodies: A Laboratory Mannual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory)に準じて行うことができる。更に、モノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 72, 1983)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., Monoclonal Antibody inCancer Therapy, 1985, Allen R. Bliss, Inc., pages 77-96)、コンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science, 246: 1275, 1989)等他の方法により作製しても良い。
【0026】
また別法として、CX3CR1を発現させた昆虫細胞をそのまま哺乳類動物に免疫して、該哺乳動物のリンパ球よりハイブリドーマを作製し、産生される抗体のスクリーニングを、CX3CR1を発現させた哺乳類細胞(昆虫細胞との交叉免疫性が低く、昆虫細胞由来の蛋白質に対する抗体が結合しない細胞)で行う方法も許される。また、特開2002-345454号公報の方法により調製することもできる。
【0027】
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体のスクリーニングは、後述するスクリーニング方法によって行うことができる。
【0028】
<3>CX3CR1アンタゴニスト
本発明は、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体が、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患の治療に有用であることを見出したことにより完成したものである。したがって、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害し、CX3CR1の機能を阻害する化合物、CX3CR1アンタゴニストも本発明に使用することができる。前記作用を有する化合物であれば特に限定されず、公知な化合物であってもよく、新規な化合物であってもよい。さらに、後述するスクリーニング方法によって得られる化合物であってもよい。
【0029】
本明細書において「化合物」は、例えば遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、核酸(オリゴDNA、オリゴRNA)、合成ペプチドライブラリー、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物等由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーである。具体的には、国際公開第03/018549号パンフレット、国際公開第00/09511号パンフレット、国際公開第02/076990号パンフレットに記載された化合物などが挙げられる。既知化合物はそれ自体公知の製造方法によって製造するか、天然化合物であればそれ自体公知の抽出方法またはそれ自体公知の精製方法によって取得するか、または市販されている場合は購入することにより得ることができる。また既知化合物の誘導体等は、化学的手段、物理的手段および/または生化学的手段により改変し得ることができる。
【0030】
<4>CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体のスクリーニング方法
CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストは、フラクタルカイン又は膜結合型フラクタルカインを発現する細胞に対し、CX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングできる。以下にCX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングする具体的な方法について記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
フラクタルカインに対する遊走は、例えばトランスウェルカルチャーインサート(コースター社製)を用いて、測定することができる。
【0032】
トランスウェルカルチャーインサートに、フラクタルカインを発現していない細胞例え
ばECV304細胞を培養し、カルチャーインサート上面に単層の細胞層を形成させる。フラクタルカインを、適当な濃度好ましくは10 nMの濃度になるように、遊走溶液(例えばRPMI-1640: M199 = 1 : 1, 0.5% BSA, 20 mM HEPES, pH7.4)で希釈し、24穴のウェルプレートに加える。ECV304細胞を培養したトランスウェルカルチャーインサートを24穴のトランスウェルに取りつけ、遊走溶液に懸濁した適当な個数、好ましくは106個の末梢血単核球細胞をトランスウェルカルチャーインサートに加える。適当な条件好ましくは37℃で4時間培養した後、ECV304細胞を通過して、ウェルプレートに遊走してきた細胞を回収し、細胞表面マーカーや細胞内抗原により同定する。好ましくは蛍光標識した該細胞表面マーカーや細胞内抗原に対する抗体で蛍光染色した後、FACScaliburを用いて定量する。
【0033】
遊走溶液中に、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を加え、キラーリンパ球、好ましくはパーフォリン及びグランザイムB又はCX3CR1を発現する細胞、更に好ましくはCX3CR1を発現する細胞の遊走が抑制されれば、該抗体はCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害すると検定される。
【0034】
また、ECV304細胞に膜結合型フラクタルカインを発現させ、MIP-1βなどの他のケモカインに遊走して来る末梢血単核球細胞を測定することによっても、抗体がCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害するか否かを検定可能である。
【0035】
<5>iNOSの産生抑制
本明細書において「iNOSの産生抑制」、「iNOSの産生が抑制され」とは、iNOSのmRNA発現量が抑制されること、もしくはiNOSタンパク質の産生量が抑制されることを意味する。iNOSの産生抑制は、リアルタイムPCR法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法(固相酵素免疫測定法)、iNOS酵素活性測定法、いずれかを用いて測定することができる。例えば、リアルタイムPCRは具体的には、以下の様に行う。トータルRNAを組織及び細胞から常法により精製し、逆転写酵素と適当なプライマーを用いてcDNAを作製する。作製したcDNAをもとに、各分子に特異的なプライマーとDNAポリメラーゼを用いることで各分子を特異的に増幅させることができる。各分子は、増幅させる際に適当な蛍光色素を取り込ませることで、特定の機器(PRISM 7700 Sequence Detector (Applied Biosystems社製)など)を用いて増幅曲線をモニターすることができる。内部標準遺伝子(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子など)により各分子の補正を行うことで、各分子の組織及び細胞におけるmRNA発現量を定量的に測定することができる。
【0036】
<6>フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストの用途
本発明は、フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストを含有する炎症性疾患治療剤を提供するものである。前記治療剤においては、前記抗体はフラクタルカインと結合するものであることが好ましい。抗体を含有する本発明の治療剤をヒトに適用する場合には、以下の態様が好ましい。
【0037】
ヒト以外の動物、例えばマウスを免疫動物として作製されたマウスモノクローナル抗体は、ヒトに投与した場合異種蛋白質として認識されて、モノクローナル抗体に対する免疫応答を生じさせてしまうことが多い。この問題点を回避する一つの方法はキメラ抗体、すなわち抗原結合領域がマウスモノクローナル抗体由来、それ以外の領域がヒト抗体由来の抗体である。本発明におけるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体はキメラ抗体も含むものである。キメラ抗体としては、抗原結合領域としてマウスモノクローナル抗体の可変領域全体を使ったキメラ抗体(Morrison et al., Proc. Natl.Acad. Sci.
USA, 81: 6851, 1985、Takeda et al., Nature, 314: 452, 1985)、また抗原結合領域としてヒト由来のフレームワーク領域とマウスモノクローナル抗体由来の超可変領域を組み合わせて使ったキメラ抗体(Teng et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 80: 7308-12,
1983、 Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 7279, 1983)が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
また本明細書におけるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体は、CX3CR1又はフラクタルカインと特異的に結合する抗体のフラグメント、例えばFab又は(Fab')2フラグメントをも包含するものである。
【0039】
本発明の治療剤は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療が必要な患者に対して投与できる。炎症性疾患は、自己免疫疾患またはその他の炎症性疾患であってもよい。また、炎症性疾患は、腎炎、心筋炎、自己免疫性肝障害、多発性硬化症、リウマチ、または、その他の炎症性疾患であってもよい。
【0040】
本発明の治療剤の投与は、注射(皮下、静脈内など)などの常法により行うことができる。
【0041】
治療剤の形態は、投与方法により適宜選択され、医薬的に許容可能な担体と組み合わせた医薬組成物であってもよく、例えば、注射用途に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液および滅菌注射溶液又は分散液を即座に調製するための滅菌粉末が挙げられる。注射用途に適した医薬組成物はいずれの場合においても滅菌されていなければならず、容易な注射器操作が可能な程度に流体でなければならない。該組成物は製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌や真菌などの混入微生物の作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物を含む溶媒であるか又は分散媒体であってよい。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用からの保護は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより行うことができる。多くの場合等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどが組成物中に含まれているのが好ましいであろう。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどを組成物中に配合することにより行うことができる。
【0042】
注射用溶液の調製は、必要なら上記成分の1又はその組合せとともに所要量のフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を適当な溶媒中に配合し、ついで滅菌濾過することにより行うことができる。一般に分散液の調製は、基本的な分散媒体と上記から選ばれた必要な他の成分を含む滅菌媒体中に活性化合物を配合することにより行う。滅菌注射溶液調製のための滅菌粉末の場合は、好ましい調製法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより活性成分と前もって滅菌濾過した所望の追加成分との粉末が得られる。
【0043】
本発明の治療剤の投与量は、抗体の選択、投与対象、患者の年齢、性差、薬剤に関する感受性、投与方法、疾患の履歴など、そして医師の判断に変化し得るが、適当な投与量範囲は患者の体重1kgあたり例えば約0.01〜30mg、好ましくは約0.1〜10mg程度を投与するのが好ましい範囲である。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することがで
きる。
【0044】
さらに、CX3CR1に対する抗体と、その抗体に結合した細胞毒性物質とを含むイムノトキシンとすることもできる。
【0045】
毒性物質としては、サポリン、リシン、Pseudomonas外毒素、ジフテリア毒素、化学療法剤などが挙げられる。抗体と毒性物質の結合は、従来のイムノトキシンの作製に用いられる方法によって行うことができる。このイムノトキシンは、CX3CR1発現細胞特異的に増殖抑制を示す。
【0046】
CX3CR1アンタゴニストを含有する炎症性疾患治療剤を、ヒトに適用する場合には、以下の態様が好ましい。CX3CR1アンタゴニストは塩を形成してもよく、薬学的に許容し得る酸または塩基などとの塩が挙げられる。従って、CX3CR1アンタゴニストまたはその塩は、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系が関与する疾患であって、iNOS活性または炎症性細胞による過剰なNOの産生が原因となる炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎、クローン病)、乾癬、アトピー性皮膚炎、喘息、動脈硬化症、虚血再灌流における組織障害、急性呼吸促迫症候群などの治療に用いることができる。得られた物質を単独で用いることも可能であるが、薬学的に許容され得る担体と配合して医薬品組成物として用いることもできる。この時の有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。また当該治療剤は、経口または非経口(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。
【0047】
従って、CX3CR1アンタゴニストまたはその塩を含有する医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とされ、具体的には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、あるいはシロップ剤等による経口剤、または注射剤、点滴剤、リポソーム剤、坐薬剤等による非経口剤を挙げることができる。これらの製剤は通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等を用いて常法により製造することができる。使用可能な無毒性の上記添加剤としては、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、またはその塩、エタノール、クエン酸、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
それらの投与形態としては、また、必要な投与量範囲は、得られる化合物の選択、投与対象、投与経路、製剤の性質、患者の状態、そして医師の判断に左右される。しかし、適当な投与量は患者の体重1kgあたり例えば約1.0〜1,500μg、好ましくは約10〜500μg程度を投与するのが好ましい範囲である。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば経口投与は静脈注射による投与よりも高い投与量を必要とすると予想される。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することができる。
【0049】
本明細書において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果及び/または生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾病および/または症状を完全にまたは部分的に防止する点では予防的であり、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点では治療的である。本明細書において「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、例えば以下の(a)〜(c)の治療を含む:
(a)疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを防止すること;
(b)疾病症状を阻害する、即ち、その進行を阻止すること;
(c)疾病症状を緩和すること、即ち、疾病または症状の後退を引き起こすこと。
【0050】
本発明で用いられるフラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体またはCX3CR1アンタゴニストは、iNOSの産生抑制の作用を有するので、CX3CR1アンタゴニストを有効成分とするiNOS産生抑制剤も提供される。iNOS産生抑制剤は、上述した治療剤と同様に組成物としてもよく、iNOS産生抑制が必要な患者に、上述した治療剤と同様に投与することができる。
【0051】
続いて実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なおこれらは実施の一例をして示すものであり、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。また以下の記載に用いる略号は当該分野において慣例として用いられる略号に基づくものである。
【実施例1】
【0052】
マウスCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の効果
(1)抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の調製
抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)は、以下の方法により調製した(特開2002-345454号公報)。抗原にはマウスフラクタルカイン(R&D社製)を用いた。抗原はTiterMaxアジュバンドと混合した後、アルメニアハムスターに免疫し、以降抗原のみで追加免疫を行った。血清中の抗体価はELISAを用いて測定した。抗体価が上昇したアルメニアハムスターからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(ベーリンガー社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、96-ウェルプレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて、ELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗マウスフラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈を2回行い、クローニングを行った。モノクローナル抗体は、不完全フロイントアジュバントを投与したSCIDマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、プロテインAカラムを用いて精製した。中和活性は、CX3CR1発現細胞のマウスフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和抗体(5H8-4)を得た。この中和抗体を産生するハイブリドーマをHam @mFKN5H8-4と名づけた。
【0053】
(2)方法
CD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルの作製についてはPowrie et al. , Int. Immunol., 5, 1461-1471, 1993を参考にした。雌性、8〜10週齢のBalb/cマウス(日本チャールズ・リバー)の脾臓を摘出し、孔径100μmのセルストレーナー(ファーミンジェン社製)上で組織をすり潰し脾臓細胞を分離した。分離した脾臓細胞は、脾臓一個あたり5mlの塩化アンモニウム溶液(0.75%塩化アンモニウム、16mMトリス緩衝液、pH7.4)を加え15分室温に放置し赤血球を溶解した。脾臓細胞溶液にPBSを2倍容量加え、1500rpmで5分遠心して沈殿を回収した。分離した脾臓細胞からCD4 T cell Isolation kit(ミルテニー社製)によりCD4 Tリンパ球を精製した。CD4陽性CD45RB強陽性Tリンパ球を分離するために、精製したCD4 Tリンパ球に対して、フィコエリスリン(PE)標識抗CD4抗体(eBioscience社製)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗CD45RB抗体(eBioscience社製)を用い二重染色を行った。二重染色の後、FACSAria(ベクトンディッキンソン社製)を用いCD4陽性CD45RB強陽性細胞をソーティングし目的の細胞を回収した。回収された細胞はPBSで洗浄後、2x106/mlの細胞濃度にPBSにて懸濁した。雌性、8〜10週齢のSCIDマウス(日本クレア)の腹腔に、上記で調製したCD4陽性CD45RB強陽性細胞を200μlずつ、すなわち4x105/mouseで移入を行った。各群7匹のCD4陽性CD45RB強陽性細胞を移入したSCIDマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を、細胞移入後2週間目より、3日に1回投与した。なお投与は尾静脈から行った。また陰性対照群として、CD4 T cell Isolation kit(ミルテニー社製)により精製し、CD45RBの発現強度による分離をして
いないマウスCD4 Tリンパ球(トータルCD4)を1.2x106/mouseで移入したSCIDマウス4匹を用いた。各抗体投与後2週間後に剖検を行い体重減少、大腸内便性状をスコア化したもの、大腸肥厚、iNOS mRNA発現解析、病理学的観察により評価を行った。便性状のスコアは表1に示すようにデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎で用いられている便性状のスコア(Cooper et al., Lab. Invest., 69, 238-249, 1993)を使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
また大腸肥厚はダイヤルシックネスゲージ(ピーコック社製)を用い、肛門部から約1.5cmの部位を内容物を除き測定した。また大腸は形態的観察とマイヤーのヘマトキシリン・エオジン染色による組織切片染色にて病理組織学的観察を行った。
【0056】
またiNOS等のmRNA発現は、大腸よりRNeasy mini kit (キアゲン社製)を用いて精製した全RNA (500 ng)をAMV逆転写酵素 (TAKARA社製)とランダムヘキサマー (TAKARA社製)を用いて逆転写して得たcDNAをテンプレートとして、リアルタイムPCRにて解析した。リアルタイムPCRは、各種プライマーとQuantiTect SYBR Green PCR kit (Qiagen社製)の試薬、ウラシル-DNA-グリコシラーゼ (Invitrogen社製)を混合した反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detector (Applied Biosystems社製)を用いて行った。PCRは、50℃ 2分、95℃ 15分の反応を行った後、95℃ 15秒および60℃ 1分の反応を35サイクル実施した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0057】
【表2】
【0058】
(3)結果
コントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、体重減少が抑制された(図1)。またコントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、大腸内便性状スコアおよび大腸肥厚において改善を示した(図2)。大腸部位の形態的観察においても、コントロール抗体投与群では結腸から直腸部位において肥厚が観察され、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与により改善が認められた(図3)。組織切片染色においてコントロール抗体群では大腸粘膜層に非常に多くの白血球(Tリンパ球、単球、マクロファージなど)が浸潤し、粘液を産生する杯細胞の消失や大腸上皮組織の損傷、過形成が認められるのに対し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では、白血球の浸潤が抑制され大腸上皮細胞の損傷も僅かであった(図4)。一方mRNA発現に関してもコントロール抗体投与群ではiNOSの発現が上昇し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)によりその発現が顕著に抑制された。また、パーフォリン、Fas、FasLなどの細胞障害性因子、IFNγ、TNFαなどのサイトカインのmRNAに関してもコントロール抗体投与群では発現が上昇し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では発現の抑制が認められた(図5)。以上の結果から、フラクタルカイン-CX3CR1経路がCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおいて重要な役割を果たすことが明らかとなった。その作用はiNOS産生を抑制することで過剰なNOの産生を抑制し
、組織障害を軽減しているものと推察された。つまりフラクタルカイン-CX3CR1の相互作用阻害に基づくiNOS産生抑制は、炎症性腸疾患に有用な治療体系であることが示唆された。
【実施例2】
【0059】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の効果
(1)方法
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルについてはIijima et al. , J. Exp. Med.
, 199, 471-482, 2004を参考にした。雄性8〜10週齢Balb/cマウス(日本チャールズ・リバー)の腹部を約2cm四方剃毛した。3% 4-エトキシメチレン-2-フェニル-2-オキサゾリン-5-オン(以下オキサゾロン、シグマ社製)を含む100%エタノール溶液を150μlずつ各マウスに塗布した。オキサゾロン感作してから4日目に絶食し、5日目にジエチルエーテル麻酔下のマウスの肛門から約3cmの部位に、0.5%オキサゾロンを含む50%エタノール生理食塩水溶液を100μlずつマウスに腸注した。なお陰性対照群として正常Balb/cマウスに50%エタノール生理食塩水溶液を100μlずつ腸注したマウス5匹を設定した。各群7匹のオキサゾロン腸注したマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を投与した。なお抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与は感作5日目(オキサゾロン腸注直前)に行った。なお抗体投与は尾静脈から行った。評価項目は疾患活動指数[Disease Activity Index](以下DAI;便の硬度、血の含有度合い、そして体重増減をスコア化してDAI値として算出)、大腸の短縮化、大腸肥厚および病理学的観察により評価を行った。なおDAIは表3に示すようにデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎で用いられているDAI(Cooper et al., Lab. Invest., 69, 238-249, 1993)を使用した。
【0060】
【表3】
【0061】
またオキサゾロン腸注2日目より下痢および軟便が認められるため、DAIについては経時的に観察を行った。また大腸は形態的観察とマイヤーのヘマトキシリン・エオジン染色による組織切片染色にて病理組織学的観察を行った。
【0062】
(2)結果
コントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は、DAIにおいてオキサゾロン腸注2日目より改善を示した(図6)。また大腸の肥厚および短縮化もコントロール抗体投与群に対して、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群は改善を示した(図7)。大腸部位の形態的観察において、コントロール抗体投与群では結腸から直腸部位において肥厚が観察され、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与により改善が認められた(図8)。組織切片染色においてコントロール抗体群では大腸粘膜層に非常に多くの白血球(Tリンパ球、単球、マクロファージなど)が浸潤し、粘液を産生する杯細胞の消失や大腸上皮組織の損傷、過形成が認められるのに対し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)投与群では、白血球の浸潤が抑制され大腸上皮細胞の損傷も僅かであった(図9)。以上の結果からフラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系がオキサゾロン誘発大腸炎モデルにおいても重要な役割を果たしていることが予想され、フラクタルカイン-CX3CR1細
胞浸潤系が炎症性腸疾患において有用な治療体系であることが示唆された。
【実施例3】
【0063】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける抗フラクタルカイン抗体(#126)の効果
(1)抗フラクタルカイン抗体(#126)の調製
マウスフラクタルカイン(Genzyme社製)とTiterMaxTMGoldアジュバンドを混合した後、アルメニアハムスターに複数回免疫し、さらに最終免疫をマウスフラクタルカインのみで行った。血清中の抗体価を固相化したフラクタルカインを用いたELISAで測定し、抗体価が上昇したアルメニアハムスターからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(Rosh社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、プレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて固相化したフラクタルカインを用いたELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗フラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、2回の限界希釈によりクローニングを行った。モノクローナル抗体は、プリスタンを投与したSCIDおよびヌードマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、プロテインAカラムを用いて精製した。得られた抗体の中和活性は、CX3CR1発現細胞のマウスフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和活性を有する#126抗体を得た。この中和抗体を産生するハイブリドーマをHam @mFKN#126.1.1と名づけた。
【0064】
(2)方法
実施例2と同様の方法を用い検討を行った。評価項目は大腸短縮および大腸肥厚とした。各群7匹のオキサゾロンを腸注したマウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(#126)(抗体はPBS溶液)を投与した。
【0065】
(3)結果
抗フラクタルカイン抗体(#126)は抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)と同様に、コントロール抗体投与群に比較し、大腸短縮および大腸肥厚を改善した(図10)。以上の結果から、異なる2種類の抗フラクタルカイン抗体がオキサゾロン誘発大腸炎モデルにおいて効果を示したことは、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系の阻害が炎症性腸疾患治療に有用であることが強く示唆された。
【実施例4】
【0066】
ConA肝炎におけるiNOSの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のiNOS産生に対する効果
(1)方法
1群4匹のC57BL/6マウスに、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を静脈内投与し、直後にコンカナバリンA(ConA、シグマアルドリッチ社製)を12 mg/kgで静脈内投与した。その2時間後に肝臓を摘出し、RNA抽出を行った。なお陰性対照群としてC57BL/6マウスにPBS(リン酸バッファー)を静脈内投与したマウス4匹を設定した。iNOSのmRNA発現は、実施例1と同様の方法にてRNAを回収し、cDNAを合成し、リアルタイム PCRにて測定した。また、コントロール抗体あるいは抗フラクタルカイン抗体とConA、陰性対照群としてPBSを静脈内投与して12時間後の肝臓を摘出し、凍結組織切片を作製した。抗iNOS抗体と抗CX3CR1抗体で免疫組織染色を行い、iNOS、CX3CR1の陽性細胞の数を測定した。
【0067】
(2)結果
ConAの投与により上昇したiNOS mRNA発現は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に減少した。また、グランザイムB、Fasなどの細胞障害性因子、IFNγ、TNFα、IL-4などのサイトカインのmRNAに関しても、ConAの投与により発現が上昇し、抗フラクタルカイン
抗体(5H8-4)の投与により発現の減少が認められた(図11)。また、免疫組織染色の結果から、iNOS陽性の炎症性細胞はConAの投与により増加し、抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に減少していた(図12)。また、CX3CR1陽性の炎症性細胞もConAの投与により増加し、抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の投与により顕著に減少していた(図12)。以上の結果からフラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、ConA肝炎での肝臓におけるiNOS mRNAの発現抑制と、炎症性細胞でのiNOS産生が抑制されることが明らかとなり、炎症性細胞による過剰なNOの産生が阻害されることで、肝臓の組織障害が軽減されることが示唆された。
【実施例5】
【0068】
ConA肝炎におけるCX3CR1およびiNOS発現細胞の解析
免疫組織染色の結果を詳細に解析した。CX3CR1陽性細胞は主に丸く小型で、核は馬蹄形で細胞質は少なく、門脈(portal vein)や中心静脈(central vein)、類洞(sinusoid)に隣接しており、一部は壊死部(necrotic region)の辺縁部でも認められた。iNOS陽性細胞は、主に大きく進展しており、核は馬蹄形で細胞質は大きく、類洞に隣接しており、壊死部の辺縁部に加え壊死部の中でも見られたが、門脈や中心静脈近傍では見られなかった。このように、CX3CR1陽性細胞とiNOS陽性細胞の形態や局在には異なる点が見られたので、CX3CR1およびiNOS陽性細胞の特徴を詳細に解析した。
【0069】
(1)方法
実施例4と同様にConA静脈内投与12時間後の肝臓(ConA肝炎肝組織)を用い、凍結組織切片を作製した。抗CX3CR1抗体あるいは抗iNOS抗体(BD Bioscience社製)と抗BM8抗体(BMA社製)、抗CD11b抗体(eBioscience社製)、あるいは抗MCP-1抗体(Gengyme Techne社製)で蛍光二重染色を行い、CX3CR1陽性細胞およびiNOS陽性細胞におけるBM8、CD11b、MCP-1の陽性率を測定した。
【0070】
上記の抗CX3CR1抗体は、抗原としてマウスCX3CR1 C末ペプチド(CSILSSFTHYTSEGDGSLLL(配列番号31))を用いてウサギで作製した抗体であった。具体的には以下のようにして得た。配列番号31の合成ペプチドをKLHと結合させ、ウサギ(JW)にアジュバントと共に1回あたり250μg/羽免疫した。アジュバントは、初回のみフロインド完全アジュバントを使用し、残りはフロインド不完全アジュバントを用いた。計5回免疫し、抗体価の上昇を、ペプチドを固相化したELISAにより確認し、血清を回収した。上記の配列のペプチドをThiopropyl Sepharose 4B(Amersham Bioscience社製)に結合させたものを用いてアフィニティー精製を行い、回収した血清から抗CX3CR1抗体を得た。
【0071】
さらに、末梢血(PBL)おけるCX3CR1陽性細胞、および、C57BL/6雄9週令の骨髄細胞をM-CSF (50ng/ml)で5日間培養し、骨髄細胞から分化させたマクロファージ(BMMφ)におけるCX3CR1陽性細胞を、マクロファージおよび単球に特異的なF4/80、ならびに、未熟骨髄系細胞の表面マーカーであるLy6Cについて、抗F4/80抗体(CALTAG社製)および抗Ly6C抗体(BMA社製)を用いて、フローサイトメトリー(FACS)により解析した。また、抗Ly6C抗体によるConA肝炎肝組織の組織染色、および、蛍光標識したマクロファージを浸潤させたConA肝炎肝組織の、抗MCP-1抗体による組織染色を行った。
【0072】
(2)結果
代表的な染色像を図13に示す。図中、写真の左および上の文字は、蛍光染色に用いた抗体が認識するマーカーを示す。また、バーの長さは20μmである。また、各マーカーの陽性率の測定結果を図14に示す。図中、BM8+はBM8陽性、CD11b+はCD11b陽性、MCP1+は、MCP-1陽性を意味する。
【0073】
CX3CR1陽性細胞は、丸く小型のCD11b陽性が68.9±2.7% (n=3)、大型で進展したBM8陽性
が53.4±2.0% (n=3)であった。一方、iNOS陽性細胞は、大型で進展したBM8陽性が81.6±1.8% (n=3)、CD11b陽性が12.6±3.0% (n=3)であった。したがって、CX3CR1陽性細胞はiNOS陽性細胞と必ずしも同じ細胞ではなく、一部は別の細胞集団で発現していることが明らかとなった。最近、iNOS産生細胞の浸潤には、CCR2が関与することが細菌感染モデルマウスにおいて報告されている(非特許文献13)。そこで、CCR2のリガンドであるMCP-1の発現を解析した。MCP-1陽性細胞は、CX3CR1と同様に丸く小型であった。CX3CR1陽性細胞の72.5±3.7% (n=3)がMCP-1を発現しており、逆にMCP-1陽性細胞のほとんどがCX3CR1陽性であった。したがって、ConA肝炎では、CX3CR1陽性細胞は、MCP-1を発現する主な細胞であることが明らかとなった。一方、MCP-1陽性細胞とiNOS陽性細胞は、形態が異なることから予想されるように、iNOS陽性細胞の14.6±2.2% (n=3)しかMCP-1を発現しておらず、ほとんど一致しなかった。したがって、iNOS陽性細胞の多くは、CX3CR1/MCP-1陽性細胞と異なることが明らかとなった。興味深いことに、肝臓の類洞血管(sinusoidal vessel)や壊死部では、iNOS陽性細胞とMCP-1陽性細胞は高頻度で隣接して存在していた。
【0074】
CX3CR1陽性細胞のFACSによる解析結果を図15に示す。また、組織染色の結果を図16に示す。
【0075】
末梢血(PBL)でCX3CR1陽性細胞をFACSで解析した結果、CX3CR1はF4/80陽性の単球で発現しており、発現量はLy6C-成熟単球で強く、Ly6C+未熟単球で弱かった。ConA投与12時間後の肝臓を未熟骨髄系細胞の表面マーカーであるLy6Cで組織染色した結果、iNOS陽性のF4/80陽性細胞はLy6C陽性であり、未熟単球由来であることが示唆された。次に、C57BL/6雄9週令の骨髄細胞をM-CSF (50ng/ml)で5日間培養し、骨髄細胞から分化させたマクロファージ(BMMφ)を得た。付着したBMMφを1mM EDTA/PBSで回収しFACSで解析を行った結果、末梢血成熟型単球と同様のCX3CR1hi F4/80+ Ly6C-/lowであった。そこで、BMMφをCFSE 10μMで蛍光標識して2.5x106個/250μlの細胞をマウスに静注し、さらに10分後にConA (15mg/kg)を静注して12時間後に肝臓を回収して浸潤を検討した。ConA投与により、BMMφの肝臓への浸潤は著しく増加した。また、浸潤した蛍光標識細胞は、ConA投与によりMCP-1を産生していた。iNOSは、蛍光標識細胞では発現せず、宿主由来であった。
【0076】
以上の結果から、炎症時にはCX3CR1陽性成熟型単球は炎症局所に浸潤してMCP-1を発現し、iNOS産生未熟型単球の炎症局所への浸潤を誘導することで病態を形成することが示唆された。
【実施例6】
【0077】
ConA肝炎におけるケモカインの発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)のケモカイン発現に対する効果
(1)方法
実施例4で作製したConAを静脈内投与2時間後の肝臓由来cDNAを用い、実施例1と同様の方法にて、ケモカインのmRNA発現をリアルタイムPCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりであった。コントロール遺伝子として、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)遺伝子を用いた。
【0078】
【表4】
【0079】
(2)結果
結果を図17に示す。図中、「normal」は陰性対照、「control」はコントロール抗体投与群、「anti-FKN」は抗フラクタルカイン投与群を意味する。
ConAの投与により2時間後に肝臓でのMCP-1、KC、MIP-2、IP-10、MIP-1α、MIP-1βのmRNAの発現が上昇した。これらのケモカインの mRNA発現は抗フラクタルカイン抗体の投与により減少した。以上の結果から、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、多種類のケモカインの産生が抑制され、炎症の初期誘導反応である炎症性細胞浸潤と活性化の増幅回路が広範囲に作動しなくなることが示唆された。
【実施例7】
【0080】
マウスCD4陽性CD45RB強陽性(CD4+CD45RBhigh)Tリンパ球移入炎症性腸疾患モデルにおける、細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現に対する効果
(1)方法
実施例1で作製した大腸由来cDNAを用い、実施例1と同様の方法にて、さらに詳細に白血球マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および組織破壊に関与する分子のmRNA発現をTaqMan PCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0081】
【表5−1】
【0082】
【表5−2】
【0083】
【表5−3】
【0084】
(2)結果
コントロール抗体投与群ではCD4、T-bet、F4/80、M-CSF receptor (M-CSF R)、Ly-6G、CD11cなどの各種白血球マーカーのmRNA発現が亢進していた(図18)。これらの結果から、実施例1の組織切片染色における、コントロール抗体投与群でのおびただしい数の浸潤した白血球はCD4 + T細胞(特にTh1タイプCD4+ T細胞)や単球/マクロファージ、好中球、樹状細胞など多種類の白血球から構成されている可能性が示唆された。また各々のケモカイン-ケモカイン受容体、KC、MIP-2、CXCR2、MCP-1、MCP-3、CCR2、MIP-1α、MIP-1β、CCR5、IP-10、I-TAC、CXCR3、TARC、MDC、CCR4のmRNA発現亢進がコントロール抗体投与群において認められたことから、浸潤した白血球はこれらケモカイン−ケモカイン受容体機構を介して浸潤したものと推察された(図19、図20)。さらに一連の炎症性サイトカイン、IL-1β、IL-6、IL-12α、Il-12β、Il-23α、Il-17、RANKL や組織破壊に関与するプロテアーゼMMP-2、MMP-9、MMP-14さらに炎症部位での血管新生に関与するbFGFやVEGF Receptor 2のmRNA発現もコントロール抗体投与群において顕著な亢進が認められた(
図21、図22)。また樹状細胞などの活性化受容体であるCD40やTLR2、活性化T細胞で発現し、樹状細胞などを活性化する分子CD40L、樹状細胞の活性化により発現が増強するCD80、CD86などのT細胞活性化補助シグナル分子群およびMHC Class IIの発現亢進が認められたことから、T細胞および樹状細胞などの抗原提示細胞が病変部位において活性化され、抗原特異的な獲得免疫系が作動している可能性が示唆された(図23)。これら一連の白血球マーカー、ケモカイン−ケモカイン受容体、サイトカイン、組織破壊分子、血管新生関連分子、T細胞・樹状細胞活性化分子のmRNA発現は、抗フラクタルカイン抗体投与により顕著に抑制されていた(図18〜図23)。以上の結果から、フラクタルカインとCX3CR1の相互作用を阻害することで、炎症性サイトカインやケモカインの産生が抑制され、炎症性細胞浸潤と活性化の増幅回路が広範囲に作動しなくなり、炎症性腸疾患の病態進展が抑制される可能性が示唆された。
【実施例8】
【0085】
マウスオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける、細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現と抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)の細胞表面マーカー、サイトカイン、ケモカイン、細胞活性化および細胞障害性分子のmRNA発現に対する効果
(1)方法
実施例2と同様の方法により炎症性腸疾患モデルを作製した。コントロール抗体、坑フラクタルカイン抗体(5H8-4)を実施例2の方法に従い投与した。オキサゾロン腸注後24時間および3日目に剖検を行い、大腸を摘出後、大腸組織より実施例1と同様の方法を用いRNAを抽出した。陰性対照群には50%エタノール生理食塩水を腸注した。RNAを抽出後、実施例1と同様の方法を用いcDNAを合成しサイトカイン、ケモカインのmRNA発現をTaqMan PCRにて測定した。使用したプライマーのセットは以下のとおりである。
【0086】
【表6】
【0087】
(2)結果
オキサゾロン腸注24時間後において、コントロール抗体投与群ではIL-1β、IL-6などの炎症性サイトカイン、KC、MIP-2、MCP-1、MCP-3、MIP-1α、MIP-1βなどのケモカイン、ケモカイン受容体CXCR2のmRNA発現の亢進が認められ、この発現亢進は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に抑制された(図24)。オキサゾロン腸注3日後においては、IL-1β、IL-6、KC、MIP-2、MCP-1、MCP-3、CXCR2に加え、好中球のマーカーであるLy-6GのmRNA発現の亢進が認められ、この発現亢進は抗フラクタルカイン抗体の投与により顕著に抑制された(図25)。以上の結果から、坑フラクタルカイン抗体のオキサゾロン誘発炎症性腸疾患モデルにおける病態改善効果の一部は、IL-1βやIL-6の炎症性サイトカインやケモカインの産生が抑制されること、好中球の浸潤が抑制されることで発揮されることが示唆された。
【産業上の利用の可能性】
【0088】
炎症性細胞によるiNOS活性の産生抑制による、過剰なNO産生を選択的に阻害するという新しいアプローチに基づく炎症性疾患治療剤が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を含有することを特徴とする、誘導型NO合成酵素産生抑制剤。
【請求項2】
抗体が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする、請求項1記載の剤。
【請求項3】
抗フラクタルカイン抗体が、受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126が認識するエピトープを認識するものであることを特徴とする、請求項2記載の剤。
【請求項4】
抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項2または3記載の剤。
【請求項5】
抗フラクタルカイン抗体が、受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126であることを特徴とする、請求項4記載の剤。
【請求項1】
フラクタルカインとCX3CR1との相互作用を阻害する抗体を含有することを特徴とする、誘導型NO合成酵素産生抑制剤。
【請求項2】
抗体が、抗フラクタルカイン抗体であることを特徴とする、請求項1記載の剤。
【請求項3】
抗フラクタルカイン抗体が、受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126が認識するエピトープを認識するものであることを特徴とする、請求項2記載の剤。
【請求項4】
抗フラクタルカイン抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項2または3記載の剤。
【請求項5】
抗フラクタルカイン抗体が、受託番号 FERM BP-10372のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体5H8-4、または受託番号 FERM BP-10371のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体#126であることを特徴とする、請求項4記載の剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−41359(P2012−41359A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235023(P2011−235023)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【分割の表示】特願2006−542371(P2006−542371)の分割
【原出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【分割の表示】特願2006−542371(P2006−542371)の分割
【原出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】
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