説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】ローラシェルの内部に配置する誘導発熱機構をジャーナルの内周面で軸受を介して支持しても誘導発熱機構の振動による軸受機能の喪失を防止することができるようにすること。
【解決手段】ローラシェルの両側に取り付けられた中空のジャーナル2内を挿通する誘導発熱機構を支持する支持ロッド8の周方向の外周面上下左右の位置にそれぞれ電磁石13a〜13d取り付け、上部電磁石13aの吸引作用により、誘導発熱機構と一体化した支持ロッド8の端部を中空のジャーナル2内周面から離して支持するとともに、複数の電磁石13a〜13dそれぞれの近傍位置に配置した位置センサ14a〜14dで支持ロッド8の変位を検出し、その検出に基づいて各電磁石13a〜13dの吸引作用力を個別に制御して支持ロッド8の変位を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種装置において、ローラの両端にジャーナルを一体的に連結し、この両端のジャーナルをそれぞれ機台に軸受を介して回転自在に支持することによって両持式とするとともに、ローラの内部に、ローラを誘導発熱させるための鉄心とその鉄心に巻回した誘導コイルからなる誘導発熱機構を配置し、これを両側のジャーナル内を通る支持ロッドによって支持する構成は既によく知られている。
【0003】
図8(a)(b)はこのような誘導発熱ローラ装置の一例の構成を示すもので、1は磁性材料からなるローラシェル、2、3はローラシェル1の両端に一体的に締結されたジャーナルで、これはその外周と機台4との間に配置された軸受5,6によって両持式に回転自在に支持されている。7は誘導発熱機構で、両側のジャーナル2,3内を通る支持ロッド8に固定されている。
【0004】
支持ロッド8は、一端縁を閉塞した中空をなし、閉塞した端部側で、図8(b)に拡大して示すようにジャーナル2の内周面と対向する周壁に中空内と外部と連通する細孔9が周囲方向および長手方向に複数形成され、中空内と連通する開口とされた他端部はジャーナル3から導出されて機台4に固定支持されている。そして、その開口から圧縮空気を供給し、細孔9から噴出させて閉塞した端部を空気圧でジャーナル2の内周面に空間を介して支持する、すなわち支持ロッド8の一端は静圧気体軸受10によりジャーナル2の内周面で空間を介して支持されている。また、ジャーナル2には支持ロッド8の細孔9から噴出した空気を排出する孔11が形成され、その端縁にモータ12が直結されている。
【特許文献1】特公平6−78767号公報
【0005】
このようにローラシェルの内部に配置する誘導発熱機構を固定する支持ロッドを静圧気体軸受でジャーナルの内周面で空間を介して支持すると、静圧気体軸受に供給する空気により誘導発熱機構を冷却することができ、また、軸受に機械的な制限がないので長寿命化が図れ、軸受の保守、点検、交換などのための着脱作業が不要となり、さらには、ローラの組立、解体における作業性が大幅に改善されるといった利点がある。
【0006】
しかし、静圧気体軸受であっても転がり軸受やすべり軸受などの機械軸受と同様に、ローラの回転にともなう振動を支持ロッドに伝達し、誘導発熱機構を振動させる。その振動数が誘導発熱機構を固定した支持ロッドの1次の固有振動数になると共振し大きな振幅の振動となる。たとえばローラの外径400mm、ローラの面長3800mmの場合、ローラの回転周速が600m/分(回転数約480RPM)に達すると、内部誘導発熱機構の1次の単純支持モードにおける機械的固有振動と合致して共振し大きな振幅の振動となる。そして、この振動は支持ロッドに伝達され、その振動による力が静圧気体軸受に加わる。静圧気体軸受はその力に抗することができず軸受としての機能を失い、誘導発熱機構の誘導コイルがローラシェルの内周面に接触して破損するといった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明が解決しようとする課題は、ローラシェルの内部に配置する誘導発熱機構をジャーナルの内周面で軸受を介して支持しても誘導発熱機構の振動による軸受機能の喪失を防止することができるようにし、斯かる問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ローラの両側に取り付けられた中空のジャーナルの外周を、その両側で軸受を介して機台に回転自在に支持するとともに、前記ローラを誘導発熱させるための誘導発熱機構を、前記両側のジャーナルの中空内を挿通する支持ロッドに固定して前記ローラの内部に設置してなる誘導発熱ローラ装置において、前記誘導発熱機構の両側から前記ジャーナルの中空内に延びる前記支持ロッドの少なくとも一方に、前記ジャーナルの中空内周面と対向する磁極を有する電磁石を設け、前記電磁石の前記誘導発熱機構に働く重力と逆方向の吸引作用で前記支持ロッドと一体の誘導発熱機構を懸垂してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、誘導発熱機構と一体化した支持ロッドの少なくとも一端部を、支持ロッドの外周面に取り付けた電磁石の、誘導発熱機構に働く重力と逆方向の吸引作用によりジャーナルの内周面から離して支持するので、軸受に機械的な制限がなく軸受の長寿命化が図れ、軸受の保守、点検、交換などのための着脱作業が不要となり、また、ローラの組立、解体における作業性が大幅に改善されるとともに、支持ロッドのジャーナルの中空内面に対する位置の調整がし易く、この調整により簡単に誘導発熱機構の共振による振動の作用力に抗することができ、軸受機能の喪失を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ローラシェルの内部に配置する誘導発熱機構をジャーナルの内周面で軸受を介して支持しても誘導発熱機構の振動による軸受機能の喪失を防止することができるようにする目的を、ジャーナル内に位置する支持ロッドの外周面に電磁石を固定し、この電磁石の吸引作用で支持ロッドをジャーナルの内周面から離して支持することにより実現した。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図(a)と正面図(b)である。なお、図8に示す誘導発熱ローラ装置と対応する部分には同一の符号を付している。図1(a)(b)において、2はローラシェルの一方の端部に一体的に締結された中空内周面を磁性体としたジャーナル、8は図示しないローラシェル内に配置した誘導発熱機構を支持する支持ロッド、13a〜13dは電磁石、14a〜14d(14cおよび14dは図示なし)は位置センサである。
【0012】
電磁石13a〜13dは、4個のホモポーラ型の電磁石(ヘテロポーラ型電磁石でもよい。)からなり、各電磁石13a、13b、13c、13dはジャーナル2内に伸びる支持ロッド8の外周面に、周方向に沿って図1(b)に示すようにそれぞれ上下左右の4箇所、すなわち上部位置に電磁石13a、下部位置に電磁石13b、左位置に電磁石13c、右位置に電磁石13dが取り付けられ、各電磁石13a、13b、13c、13dの磁極はジャーナル2の内周面と空間を隔てて対向している。
【0013】
そして、各電磁石13a、13b、13c、13dのコイルは、図5に示すようにそれぞれ制御可能のパワーアンプA1、A2、A3、A4に接続されている。すなわち、電磁石13aのコイルはパワーアンプA1、電磁石13bのコイルはパワーアンプA2、電磁石13cのコイルはパワーアンプA3、電磁石13dのコイルはパワーアンプA4に接続され、各電磁石13a、13b、13c、13dのコイルに流す電流は、各パワーアンプA1、A2、A3、A4よってそれぞれ個別に制御される。この制御で各電磁石13a、13b、13c、13dの磁力、すなわち吸引力が個別に制御される。
【0014】
位置センサ14a〜14dはそれぞれの電磁石13a〜13dの近傍位置、すなわち、位置センサ14aは電磁石13aの近傍位置、位置センサ14bは電磁石13bの近傍位置、位置センサ14cは電磁石13cの近傍位置、位置センサ14dは電磁石13dの近傍位置に配置され、ジャーナル2の内周面に対する位置を各電磁石13a、13b、13c、13dの配置位置で検出する。
【0015】
それぞれの位置で検出した位置センサ14a〜14dの検出信号は、図5に示すように上部の電磁石13aの近傍位置に配置した位置センサ13aの検出信号と下部の電磁石13bの近傍位置に配置した位置センサ13bの検出信号と比較し、その比較結果を制御器17に入力し、また、左部の電磁石13cの近傍位置に配置した位置センサ14cの検出信号と右部の電磁石13dの近傍位置に配置した位置センサ14dの検出信号と比較し、その比較結果を制御器15に入力する。
【0016】
上部位置の電磁石13aのコイルには、誘導発熱機構(図示なし)と一体化した支持ロッド8に働く重力と均衡する磁力を発生させる電流を流し、この磁力の吸引作用で支持ロッド8を浮揚させる。また、浮揚した支持ロッド8の位置を安定させるために、左右の電磁石13c、13dのコイルに吸引力が均衡する電流を流す。これにより支持ロッド8はジャーナル2内で磁力により懸垂され、支持ロッド8をジャーナル2の内周面から離れて位置する。この状態でローラが回転し、支持ロッド8と一体化されローラシェルの内部に配置した誘導発熱機構が振動し始め、その振動が支持ロッド8に伝達されると、振動の作用力で支持ロッド8はジャーナル2内を移動する。
【0017】
支持ロッド8の上方向への移動分は、上部の位置センサ14aと下部の位置センサ14bが検出して出力する。その両者の出力は比較され、その比較に基づいて制御器15からパワーアンプA2に下部の電磁石13bのコイルに電流を流し、必要に応じて上部の電磁石13aのコイルに流す電流を減少する。これにより支持ロッド8を下方向への吸引力が増加し支持ロッド8の上方向への移動を抑制する。同様に下方向への移動は、電磁石13aのコイルに流す電流を増加し、この増加によって支持ロッド8の上方向への吸引力が増加し、支持ロッド8の下方向への移動を抑制する。左右方向への移動についても同様に、左方向への移動では、右部の電磁石13dのコイルに流す電流を増加し、この増加によって支持ロッド8の右方向への吸引力が増加し、支持ロッド8の左方向への移動を抑制し、左方向への移動では、左部の電磁石13cのコイルに流す電流を増加し、この増加によって支持ロッド8の左方向への吸引力が増加し、支持ロッド8の右方向への移動を抑制する。これらの上下左右の移動の抑制により誘導発熱機構の振動を抑制することができる。
【0018】
ところで、図1に示す実施例では、ジャーナル2を磁性体としているが、平坦状の珪素鋼板またはインボリュート曲線状に湾曲した珪素鋼板を放射状に積層して円筒状に形成した磁性体筒を、図2に示すように磁性体筒16の内周面と電磁石とが対向するジャーナル2の内周面に嵌め込むようにしてもよい。また、その磁性体筒の両端部を内側に突出する凹状に形成し、図3に示すように凹状に形成した磁性体筒17の内側に突出する端面を電磁石の磁極面と対向させてジャーナル2の内周面に嵌め込むようにしてもよい。この場合、図4に示すように磁性体筒17(磁性体筒16でもよい。)がジャーナル2の軸方向に沿ってすべり移動するようにすると、ローラおよび支持ロッドの熱による伸張差に対応することができる。
【0019】
また、以上の実施例では、電源の停電など不測の事態が発生すると、支持ロッド8がジャーナル2の内面に落下し電磁石などの部材を破損する恐れがある。この恐れを解消するために、図6に示すように支持ロッド8の外周面とジャーナル2の内面面との間に、支持ロッド8の外径よりも多少大きい内径を有するか、ジャーナル2の内径よりも多少小さい外径を有する転がり軸受あるいはすべり軸受などの機械軸受18を設けるようにするとよい。なお、図6は支持ロッド8の外径よりも多少大きい内径を有する転がり軸受を示しており、支持ロッド8と軸受の間に隙間がある。
【0020】
また、上部に配置した電磁石13aのみでは支持ロッド8を浮揚する力以上の力が得られない場合には、図7に示すように電磁石13aと支持ロッド8の軸方向に別の電磁石19と位置センサ20を付加するとよい。この場合、位置センサ20のジャーナル13の内周面との位置の検出で電磁石19のコイルに流す電流を単独で制御する。勿論電磁石13aの磁力と協働して誘導コイルの振動を抑制するようにしてもよい。
【0021】
以上の各実施例では支持ロッドの端部の外周面の周方向の4箇所に等間隔に位置センサを配置し、対向する位置センサの検出信号の比較によって支持ロッドの振動を検出し、その検出信号の比較によって振動を抑制するように各電磁石が発する吸引作用力を制御しているが、支持ロッドの振動をコンピュータ等で分析して予測し、その予測に基づいて各電磁石が発する吸引作用力を制御するようにしても良く、位置センサの代わりに振動による加速度を検出する加速度センサを用いて各電磁石の吸引作用力を制御しても良い。
【0022】
また、各実施例では電磁石は、支持ロッドの外周面に、周方向に上下左右の対象位置の4箇所に取り付けているが、電磁石の数は4個に限定されるものでなく、その配置位置も上下左右の4箇所に限定されるものではない。
【0023】
さらに、以上の説明は、ローラシェルの両端に一体的に締結されたジャーナルの一方のジャーナル内で支持ロッドの一方を支持する場合の説明であるが、両側のジャーナル内で両側の支持ロッドを電磁石の吸引作用力によって支持するようにしてもよい。この場合、支持ロッドの回転を機台で阻止することとなる。
【0024】
以上の実施例のいずれもジャーナルの内周面と空間を介して支持ロッドが支持されるので、軸受部の長寿命化が図れ、軸受の保守、点検、交換などのための着脱作業が不要となり、また、ローラの組立、解体における作業性が大幅に改善されるとともに、内部誘導コイルの1次の単純支持モードにおける機械的固有振動に伴う誘導コイルが破損する恐れをなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図(a)と正面図(b)である。
【図2】本発明の他の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図(a)と説明用正面図(b)である。
【図3】本発明の他の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図である。
【図4】本発明の他の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図である。
【図5】本発明の実施例に係る制御回路の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る誘導発熱ローラ装置の一端部の断面図である。
【図8】誘導発熱ローラ装置の断面図(a)と要部拡大断面図(b)である。
【符号の説明】
【0026】
1 ローラシェル
2、3 ジャーナル
4 機台
7 誘導発熱機構
8 支持ロッド
13a〜13d、19 電磁石
14a〜14d、20 位置センサ
16、17 磁性体筒
18 機械軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラの両側に取り付けられた中空のジャーナルの外周を、その両側で軸受を介して機台に回転自在に支持するとともに、前記ローラを誘導発熱させるための誘導発熱機構を、前記両側のジャーナルの中空内を挿通する支持ロッドに固定して前記ローラの内部に設置してなる誘導発熱ローラ装置において、前記誘導発熱機構の両側から前記ジャーナルの中空内に延びる前記支持ロッドの少なくとも一方に、前記ジャーナルの中空内周面と対向する磁極を有する電磁石を設け、前記電磁石の前記誘導発熱機構に働く重力と逆方向の吸引作用で前記支持ロッドと一体の誘導発熱機構を懸垂してなることを特徴とする誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−321793(P2007−321793A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149625(P2006−149625)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】