説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】霧状の冷却媒体を用いてローラ本体及び/誘導発熱機構を冷却する誘導発熱ローラ装置において、霧状に冷却媒体により引き起こされるローラ本体内部の錆の発生及び/又は誘導発熱機構の絶縁低下を防止する。
【解決手段】回転自在に支持されたローラ本体2と、ローラ本体2の内部においてローラ本体2に対して静止状態に保持され、ローラ本体2を誘導発熱させる誘導発熱機構3と、霧状の冷却媒体をローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される隙間部Xに導入するとともに、冷却媒体を隙間部Xから外部に排出する冷却機構8と、霧状の冷却媒体の供給停止後において、隙間部X内にガスを供給して、隙間部X内に存在する冷却媒体を外部に排出するガス供給機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関し、特に冷却性能の優れた誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等には、回転するローラ本体の内部に誘導発熱機構を配置し、これによりローラ本体の周壁部を誘導電流によって発熱させる誘導発熱ローラ装置が用いられている。
【0003】
そして近年、例えば連続材の種類を変更することに伴うローラ本体による加熱温度の変更を短時間で行う要請がある。また、延伸処理工程の終了後において、安全衛生上の観点から、ローラ本体の温度が一定温度以下に低下しなければ、作業者がその場から離れることができない。このようなことからローラ本体を可及的短時間で冷却する必要がある。さらに、誘導発熱ローラ装置を連続材の加熱に用いるだけでなく、冷却に用いる場合もあり、誘導発熱ローラ装置に冷却機能を持たせる必要がある。
【0004】
このように誘導発熱ローラ装置に冷却機能を持たせたものとしては、特許文献1に示すように、ローラ本体の周壁内に中心軸方向に沿って、且つ周方向に等間隔に複数の冷却媒体通路を設け、当該冷却媒体通路内に冷却媒体を循環させることによって、ローラ本体を冷却させるものが考えられている。
【0005】
しかしながら、冷却媒体通路に冷却媒体を循環させるためには、外部から冷却媒体をローラ本体又はその端部に一体的に設けた軸部(ジャーナル部)を介して供給する必要があり、ローラ本体又はそのジャーナル部は回転体であるため、ロータリジョイント又はメカニカルシールといった回転シール機構が必要となる。
【0006】
一方で、回転シール機構を用いない構成としては、特許文献2に示すように、ローラ本体の内部に冷却媒体を導入する冷媒導入機構と、当該冷媒導入機構により導入された冷却媒体をローラ本体の内周壁に向かって水滴状に散布する冷媒散布機構と、を備え、散布された冷却媒体がローラ本体の内周壁に接触して気化する際の気化潜熱(気化熱)によってローラ本体を冷却するものが考えられている。そして、冷媒散布機構は、軸方向に沿ってローラ本体の内周壁における一端部から他端部に亘って延設された吐出管を有し、当該吐出管の側壁に設けられた吐出口から冷却媒体を水滴状に散布するものである。
【0007】
しかしながら、冷却媒体を直接ローラ本体の内周壁に散布するものであるため、冷却媒体の中に含まれる不純物又は非蒸発成分がローラ本体の内周壁に堆積してしまう。また、冷媒散布機構の吐出管は微細な孔を通じて冷却媒体が散布されるように構成されているため、冷却媒体に含まれる塵等が微細な孔に詰まり、散布機構が目詰まりしてしまうことがあり、誘導発熱ローラ装置を分解して吐出管等を交換しなければならないという問題がある。さらに、誘導発熱ローラ装置では連続材を加熱する目的で加熱ローラとして使用する場合と、連続材を冷却する目的で冷却ローラとして使用する場合とが交互に発生する場合がある。この場合、冷却ローラとして使用した後に加熱ローラとして使用する場合には、冷媒散布機構の吐出管内に滞留している冷却媒体がローラ本体からの伝熱により加熱されて、場合によっては沸騰を起こす恐れがある。
【0008】
このような問題点を解決すべく、本出願人は、ローラ本体に回転シール機構を設ける必要が無く、ローラ本体の腐食を抑制しながらも、ローラ本体を冷却するために、回転自在に支持されたローラ本体と、ローラ本体の内部においてローラ本体に対して静止状態に保持され、ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、霧状の冷却媒体をローラ本体及び誘導発熱機構の間に形成される隙間部に導入するとともに、当該冷却媒体を隙間部から外部に排出する冷却機構とを備えた誘導発熱ローラ装置の開発を進めている。この誘導発熱ローラ装置は、霧状の冷却媒体をローラ本体内に導入することにより、霧状の冷却媒体がローラ本体の内周壁に接触して蒸発するときの気化潜熱及び霧状の冷却媒体がローラ本体内で温度上昇するときの顕熱並びに気化蒸発するときの潜熱によりローラ本体又は誘導発熱機構を冷却するというものである。
【0009】
しかしながら、ローラ本体の所望の温度に冷却した後に霧状の冷却媒体の供給を停止しても、当該隙間部に霧状の冷却媒体が残留している。そうすると、残留した霧状の冷却媒体がローラ本体の内側周面で結露してしまい、ローラ本体において錆が生じてしまう可能性がある。また、残留した冷却媒体が誘導発熱機構の誘導コイルで結露することによって、誘導コイルの絶縁低下を招き、最悪の場合には短絡事故を引き起こしてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−353588号公報
【特許文献2】特開2003−269442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、霧状の冷却媒体を用いてローラ本体及び/又は誘導発熱機構を冷却する誘導発熱ローラ装置において、ローラ本体及び/又は誘導発熱機構の冷却を停止している段階において、霧状に冷却媒体により引き起こされるローラ本体内部の錆の発生及び/又は誘導発熱機構の絶縁低下を防止することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、回転自在に支持されたローラ本体と、前記ローラ本体の内部において前記ローラ本体に対して静止状態に保持され、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、霧状の冷却媒体を前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間に形成される隙間部に導入するとともに、当該冷却媒体を隙間部から外部に排出する冷却機構と、前記霧状の冷却媒体の供給停止後において、前記隙間部内にガスを供給して、前記隙間部内に存在する冷却媒体を外部に排出するガス供給機構とを備えることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、霧状の冷却媒体の供給停止後において、隙間部にガスを供給して隙間部内に残留している冷却媒体を外部に排出することにより、霧状の冷却媒体が結露してローラ本体に付着して錆を発生させることを防止することができる。また、結露した冷却媒体が誘導発熱機構に付着することによる絶縁低下及び短絡事故を防止することができる。さらに、隙間部にガスを供給することによって隙間部内において既に結露している冷却媒体の気化蒸発を促進することができ、これによってもローラ本体内部での錆の発生及び誘導発熱機構の絶縁低下を防止することができる。
【0014】
霧状の冷却媒体の供給停止後において隙間部内に残留している霧状の冷却媒体を結露する前に効率よく外部に排出するためには、前記ガス供給機構が、前記霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間、前記隙間部にガスを供給するものであることが望ましい。また、ガス供給のタイミングとしては、霧状の冷却媒体の供給停止直後でなくとも、その供給停止後所定時間経過後にガスを供給するものでもよい。
【0015】
霧状の冷却媒体の供給停止後にガスを供給することによって隙間部内の霧状の冷却媒体が減り、多量のガスを供給する必要がなくなる。一方で、霧状の冷却媒体を外部に排出する必要がなくなっても結露している冷却媒体を蒸発気化させると共に、更なる結露を防止する必要がある。この観点から、前記ガス供給機構が、前記霧状の冷却媒体の供給停止からの経過時間に応じて、前記隙間部に供給するガス流量を調整するものであることが望ましい。
【0016】
冷却機構及びガス供給機構を共通として誘導発熱ローラ装置の構成を簡略化するためには、前記冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、前記ミスト生成装置に圧縮空気を供給する圧縮空気供給回路と、前記ミスト生成装置に冷却媒体を供給する冷却媒体供給回路とを有し、前記ガス供給機構が、前記圧縮空気供給回路を用いて構成され、前記冷却媒体供給回路を閉止した後において、前記圧縮空気供給回路からの圧縮空気を、前記ミスト生成装置を介して前記隙間部に供給するものであることが望ましい。
【0017】
霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間は、残留している霧状の冷却媒体の除去及び結露した冷却媒体の除去を行うと共に、その一定期間経過後は、内部結露の防止及び結露した冷却媒体の除去を行うためには、前記圧縮空気供給回路が、圧縮空気源及びミスト生成装置の間において分岐しており、前記ミスト生成装置に霧状の冷却媒体生成用の高圧空気を供給するための高圧用減圧弁を有する第1分岐路と、前記ミスト生成装置に低圧空気を供給するための低圧用減圧弁を有する第2分岐路と、前記第1分岐路及び前記第2分岐路を切り替える切替機構とを有し、前記ガス供給機構が、前記隙間部への霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間は、前記切替機構により前記第1分岐路を用いて高圧空気を供給し、当該一定期間経過後は、前記切替機構により前記第2分岐路を用いて低圧空気を供給するように構成されていることが望ましい。これならば、第1分岐路及び第2分岐路を切り替えるだけという簡単な構成及び制御により、隙間部に供給されるガスの流量を変更することができる。
【0018】
霧状の冷却媒体を供給しない状態においてローラ本体内部における結露をより完全に防止するためには、前記低圧空気の供給が、前記隙間部への霧状の冷却媒体の供給、及び霧状の冷却媒体の供給後の高圧空気の供給以外において連続的に行われるように構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、霧状の冷却媒体を用いてローラ本体又は誘導発熱機構を冷却する誘導発熱ローラ装置において、ローラ本体又は誘導発熱機構の冷却を停止している段階において、霧状に冷却媒体により引き起こされるローラ本体内部の錆の発生又は誘導発熱機構の絶縁低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図2】同実施形態における各供給回路の構成を示す模式図である。
【図3】同実施形態における温度制御装置の制御回路を示す模式図である。
【図4】同実施形態における温度制御装置の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等において用いられるものである。
【0023】
具体的にこのものは、図1に示すように、回転自在に支持された中空円筒状のローラ本体2と、このローラ本体2内に収容される誘導発熱機構3と、を備えている。
【0024】
ローラ本体2の両端部には、ジャーナル41がOリング等のシール部材S1を介して取り付けられている。このシール部材S1により後述の霧状の冷却媒体が外部に漏洩することを防止している。また、ジャーナル41は、中空の駆動軸42と一体に構成されており、駆動軸42は、転がり軸受等の軸受51を介して機台52に回転自在に支持されている。そして、ローラ本体2は、例えばモータ等の回転駆動機構(不図示)により外部から与えられる駆動力によって回転されるように構成されている。
【0025】
誘導発熱機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。円筒状鉄心31の両端部にはそれぞれ、支持軸6が取り付けられている。この支持軸6は、それぞれ駆動軸42の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受7を介して駆動軸42に対して回転自在に支持されている。これにより、誘導発熱機構3は、回転するローラ本体2の内部において、ローラ本体2に対して静止状態に保持される。誘導コイル32には、リード線L2が接続されており、このリード線L2には、交流電圧を印加するための交流電源Vが電力調整装置11を介して接続されている。なお、支持軸6の外面と駆動軸42の内面との間には、オイルシール又はラビリンスシール等のシール機構S2が設けられており、霧状の冷却媒体が外部に漏洩しないように構成している。
【0026】
このような誘導発熱機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2の側周壁21を通過する。この通過によりローラ本体2に誘導電流が発生し、その誘導電流でローラ本体2はジュール発熱する。
【0027】
そして、本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、ローラ本体2及び誘導発熱機構3を霧状の冷却媒体により冷却する冷却機構8を備えている。
【0028】
この冷却機構8は、図1に示すように、霧状の冷却媒体をローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される概略筒状をなす隙間部Xの軸方向一端部から導入するとともに、隙間部Xの軸方向他端部から冷却媒体をローラ本体2外部に排出することにより、ローラ本体2及び誘導発熱機構3を冷却するものである。なお、軸方向とは、図1の矢印に示すように紙面左右方向である。
【0029】
具体的にこのものは、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置81と、ミスト生成装置81に圧縮空気を供給する圧縮空気供給回路82と、ミスト生成装置81に冷却媒体である水を供給する冷却媒体供給回路83と、ミスト生成装置81からの霧状の冷却媒体を隙間部Xの軸方向一端部から導入する冷却媒体導入路84と、隙間部Xを通過した冷却媒体を軸方向他端部から外部に排出するための冷却媒体排出路85と、を備えている。
【0030】
隙間部Xは、気密性を有するものであり、主として、ローラ本体2の内周壁面と誘導発熱機構3の外側周面とにより形成される概略円筒状の隙間X1、および、ローラ本体2の両端部に設けられたジャーナル41の内面と誘導発熱機構3の軸方向端面とにより形成される概略円環状の隙間X2からなる。
【0031】
ミスト生成装置81は、圧縮空気供給回路82からの圧縮空気と冷却媒体供給回路83からの水とを混合して霧状(ミスト状)の冷却媒体を生成するものである。この霧状の冷却媒体は、噴射された直後に気化蒸発しない程度の粒径であって、且つ、空気とともに運搬される過程で重力で落下したり、流路の屈曲部において壁面に衝突して液化しない程度の粒径である。具体的に霧状の冷却媒体は、30〜100μmの範囲の粒径を有するものである。
【0032】
圧縮空気供給回路82は、圧縮空気源821と、一端が圧縮空気源821に接続され、他端がミスト生成装置81に接続される圧縮空気配管822と、当該圧縮空気配管822上に設けられ、ミスト生成装置81への圧縮空気の供給、停止を制御する開閉弁823と、当該開閉弁823の下流に設けられ、ミスト生成装置81に供給される圧縮空気の流量を調整する流量調整弁824(本実施形態では減圧弁)を備えている。なお、圧縮空気供給回路82の具体的な構成及び開閉弁823に対する温度制御装置TCの具体的な制御態様については後述する。
【0033】
冷却媒体供給回路83は、貯水タンク831と、一端が貯水タンク831に接続され、他端がミスト生成装置81に接続される冷却媒体配管832と、当該冷却媒体配管832上に設けられ、ミスト生成装置81への冷却媒体の供給、停止を制御するための開閉弁833と、当該開閉弁833の下流に設けられ、ミスト生成装置81に供給される冷却媒体の流量を調整する流量調整弁834(本実施形態では減圧弁)とを備えている。なお、開閉弁833は、温度制御装置TCからのON/OFF信号により開閉する電磁弁であり、温度制御装置TCの具体的な制御態様については後述する。
【0034】
冷却媒体導入路84は、誘導発熱機構3の一端部に設けられた支持軸6(以下、この支持軸を6Aとする。)の内部に中心軸に沿って形成された中空部61により構成されている。具体的に中空部61は、支持軸6Aの中心軸と同軸上に形成された概略円柱形状をなす空間である。
【0035】
中空部61は支持軸6Aの外部端面において開口しており、この開口部に前記ミスト生成装置81の吐出口81sが中空部61内部を向くように取り付けられる。具体的には中空部61の中心軸上にミスト生成装置81の吐出口81sが位置するように取り付けられている。このようにミスト生成装置81を、目詰まり等の不具合時に誘導発熱ローラ装置100から容易に着脱できる位置に設けている。なお、中空部61の開口部とミスト生成装置81とはシール構造(不図示)を介して着脱可能に取り付けられている。
【0036】
また中空部61は、支持軸6Aの基端部(誘導発熱機構3側の端部)において複数の貫通孔61Hを介して隙間部Xと連通している。この貫通孔61Hが冷却媒体導入路84の下流側開口を形成している。この貫通孔61Hは、隙間部Xの軸方向一端部(本実施形態では隙間X2)に配置されており、支持軸6Aにおいてラジアル方向に複数個等間隔に形成されている。
【0037】
冷却媒体排出路85は、誘導発熱機構3の他端部に設けられた支持軸6(以下、この支持軸を6Bとする。)の内部に沿って設けられた冷却媒体排出管85Tにより構成されている。この冷却媒体排出管85Tは、支持軸6Bの内部に中心軸にそって形成された中空部62内に挿入して設けられ、支持軸6Bの基端部(誘導発熱機構3側の端部)において隙間部Xを向いて開口しており、当該開口が冷却媒体排出路85の上流側開口となる。そして、この上流側開口は、隙間部Xの軸方向他端部(本実施形態では隙間X2)に配置されている。なお、支持軸6Bの中空部62内には、前述した誘導コイル32に接続されるリード線L2も設けられる。
【0038】
また、支持軸6B外部における冷却媒体排出管85T上に、隙間部Xを減圧する減圧装置9が設けられている。この減圧装置9は、冷却媒体排出管85T上流側の空気を吸引して外部に排出することによって隙間部X内を減圧する。これにより、隙間部Xが減圧されて、隙間部Xに導入された霧状の冷却媒体が蒸発し易くして、ローラ本体2を冷却し易くすると共に、気化した冷却媒体がローラ本体2の内周壁及び誘導発熱機構3上で結露しにくくすることができる。また、減圧装置9によって霧状の冷却媒体が隙間部Xを所定の流速で通過するように構成している。具体的には、隙間部Xにおける霧状の冷却媒体の流速が0.3m/s以上とすることによって、高い熱伝導率を得ることができ、ローラ本体2の冷却効率を大幅に構造させることができる。
【0039】
また、上記のとおり霧状の冷却媒体を隙間部Xに供給することから、隙間部Xを形成する部材表面、具体的にはローラ本体2の内周壁面、ジャーナル41の内面及び支持軸6の外周面に防錆処理を施している。また、誘導発熱機構3の外側周面には、冷却媒体による電気故障を防止するために防水膜Fが、略全体に亘って設けられている。この防水膜Fは、ローラ本体2内部のミスト濃度により決定される露点温度と、冷却動作時における誘導発熱機構3との関係で結露が懸念される場合に必要となるが、誘導発熱機構3の温度が前記露点温度以上であることが明らかな場合は省略可能である。
【0040】
このような冷却機構8によって、霧状の冷却媒体をローラ本体2内に導入することにより、霧状の冷却媒体がローラ本体2の内周壁に接触して蒸発するときの気化潜熱及び霧状の冷却媒体がローラ本体2内で温度上昇するときの顕熱並びに気化蒸発するときの潜熱によりローラ本体2又は誘導発熱機構3を冷却することができる。そして、霧状の冷却媒体をローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される概略筒状をなす隙間部Xの軸方向端部から導入するとともに、隙間部Xの軸方向端部から冷却媒体をローラ本体2外部に排出することにより、隙間部X全体に霧状の冷却媒体を行き渡らせることができる。また、霧状の冷却媒体を用いているので、ローラ本体2に接触する冷却媒体を少なくすることができ、ローラ本体2内壁の腐食、不純物の堆積等を抑制することができる。例えば、誘導発熱ローラ装置のローラ本体2の温度を200℃から150℃に自然冷却する場合には約30分かかるところ、この冷却機構8を用いることによってローラ本体2の温度を200℃から150℃に冷却する時間を約10分に短縮することができる。
【0041】
しかして、本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、冷却機構8による隙間部Xへの霧状の冷却媒体の供給停止後において、隙間部X内に冷却媒体除去用のガスを供給して、隙間部X内に存在する冷却媒体を外部に排出するガス供給機構をさらに備えている。
【0042】
このガス供給機構は、冷却機構8の構成の一部を用いて構成されている。具体的にガス供給機構は、圧縮空気供給回路82及び冷却媒体導入路84を用いて構成され、冷却機構8の冷却媒体供給回路83を閉止した後において、圧縮空気供給回路82からの圧縮空気を、ミスト生成装置81及び冷却媒体導入路84を介して隙間部Xに供給するものである。なお、隙間部Xに供給された空気は、冷却媒体排出路85を介して外部に排出される。
【0043】
ガス供給機構を構成する圧縮空気供給回路82は、図1及び図2に示すように、圧縮空気源821及びミスト生成装置81の間において圧縮空気配管822が分岐しており、ミスト生成装置81に霧状の冷却媒体生成用の高圧空気を供給するための高圧用減圧弁824Aを有する第1分岐路822Aと、ミスト生成装置81に低圧空気を供給するための低圧用減圧弁824Bを有する第2分岐路822Bと、第1分岐路822A及び第2分岐路822Bを切り替える切替機構とを有する。なお、第2分岐路822Bにより供給される低圧空気の流量は、第1分岐路822Aにより供給される高圧空気の流量よりも小さく設定されており、例えば10%程度に設定されている。
【0044】
本実施形態の切替機構は、第1分岐路822A及び第2分岐路822Bそれぞれに設けられた第1開閉弁823A及び第2開閉弁823Bにより構成されている。第1開閉弁823A及び第2開閉弁823Bは、温度制御装置TCからのON/OFF信号により開閉する電磁弁である。なお、切替機構としては、第1分岐路822A及び第2分岐路822Bの分岐点又は合流点に三方切換弁を設けることによって構成しても良い。
【0045】
次に本実施形態の誘導発熱ローラ装置100の温度制御について、冷却機構8及びガス供給機構の動作とともに図3及び図4を参照して説明する。なお、図3は温度制御装置TC内の圧縮空気供給回路82及び冷却媒体供給回路83の制御回路図であり、図4は、ローラ本体2の温度と、誘導発熱機構3(誘導コイル電力)、圧縮空気供給回路82(開閉弁823A及び823BのON/OFF)及び冷却媒体供給回路83(開閉弁833のON/OFF)の動作との対応関係を示す制御フローを示す図である。
【0046】
温度制御装置TCは、ローラ本体2の周壁に埋設された温度センサ2Tの検出信号を温度検出装置(具体的には回転トランス)10を介して受け付けて、当該検出信号が示す検出温度(PV)及び予め定められた設定温度(SV)を比較し、検出温度(PV)が設定温度(SV)となるように誘導コイル32への電力供給と霧状の冷却媒体の供給とを制御する。なお、温度制御装置TCは、検出温度(PV)と設定温度(SV)との差に応じて、例えばサイリスタを用いて構成された電力調整装置11に誘導コイル32へ入力すべき信号を出力する。
【0047】
また、温度制御装置TCは、検出温度(PV)が設定温度(SV)よりも高い場合には、霧状の冷却媒体を隙間部Xに供給してローラ本体2を冷却すべく、圧縮空気供給回路82の第1分岐路822A上の第1開閉弁823A及び冷却媒体供給回路83上の開閉弁833にON信号を出力する。なお、図4においては、検出温度(PV)が設定温度(SV)+1℃よりも高い場合に霧状の冷却媒体を隙間部Xに供給する態様を示している。これにより、第1開閉弁823A及び開閉弁833が開放されて、ミスト生成装置81に圧縮空気及び冷却媒体が供給され、霧状の冷却媒体が生成される。
【0048】
その後、温度制御装置TCは、ローラ本体2が霧状の冷却媒体により冷却されて検出温度(PV)が設定温度(SV)を下回った段階で、霧状の冷却媒体の供給を停止するため、第1開閉弁823A及び開閉弁833にOFF信号を出力する。このとき、第1分岐路822A上の開閉弁823Aは遅延タイマT1により予め定められた設定時間だけ遅れて閉塞し、それまでの間、高圧空気のみがミスト生成装置81を介して隙間部X内に供給され続けることになる。つまり、高圧空気が、霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間、隙間部Xに供給され、隙間部Xに残留している霧状の冷却媒体を外部に排出することができるとともに既に結露している冷却媒体(結露水)を蒸発させて外部に排出することができる。また、高圧空気を停止直後に供給することにより、残留している霧状の冷却媒体が結露する時間を可及的に短くしている。
【0049】
そして、温度制御装置TCは、第1分岐路822A上の第1開閉弁823Aが閉塞した時点で、第2分岐路822B上の第2開閉弁823BにON信号を出力する。これにより、第2開閉弁823Bが開放されて、低圧空気のみがミスト生成装置81を介して隙間部X内に供給される。このように、隙間部Xへの霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間は、切替機構により第1分岐路822Aを用いて高圧空気を供給し、当該一定期間経過後は、切替機構により第2分岐路822Bを用いて低圧空気を供給するように構成されている。つまり、霧状の冷却媒体の供給停止からの経過時間に応じて、隙間部Xに供給するガス流量を2段階(高圧空気及び低圧空気)で調整するように構成されている。このように一定時間経過後において低圧空気を供給することにより、内部結露の防止及び結露した冷却媒体の除去を行うことができる。
【0050】
その後、霧状の冷却媒体の供給動作が開始されるまでの間、つまり、再び検出温度(PV)が設定温度(SV)を上回り冷却動作が開始されるまでの間、温度制御装置TCは、隙間部Xに低圧空気を供給し続けるように、第2開閉弁823BにON信号を出力し続ける。つまり、低圧空気の供給は、隙間部Xへの霧状の冷却媒体の供給、及び霧状の冷却媒体の供給後の高圧空気の供給以外において随時連続して行われるように構成されている。
【0051】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100によれば、霧状の冷却媒体の供給停止後において、隙間部Xにガスを供給して隙間部X内に残留している冷却媒体を外部に排出することにより、霧状の冷却媒体が結露してローラ本体2に付着して錆を発生させることを防止することができる。また、結露した冷却媒体が誘導発熱機構3に付着することによる絶縁低下及び短絡事故を防止することができる。さらに、隙間部Xにガスを供給することによって隙間部X内において既に結露している冷却媒体(結露水)の気化蒸発を促進することができ、これによってもローラ本体2内部での錆の発生及び誘導発熱機構3の絶縁低下を防止することができる。
【0052】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0053】
例えば、前記実施形態では、冷却機構の一部の構成を用いてガス供給機構を構成し、誘導発熱ローラ装置の構成を簡略化するものであったが、その他、冷却機構とガス供給機構とを別構成としても良い。このとき、ガス供給機構により供給されるガスとしては、空気の他に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを用いることが考えられる。
【0054】
また、前記実施形態では、霧状の冷却媒体の供給停止後において、高圧空気及び低圧空気の2段階供給を行うものであったが、その他、圧縮空気供給回路の分岐数を3つ以上にして、各分岐路において異なる減圧弁を用いることにより、霧状の冷却媒体の供給停止からの経過時間に応じて、3段階以上の空気の供給を行うようにしても良い。
【0055】
前記実施形態では、ジャーナルの一端側に冷却機構(ガス供給機構)、他端側に回転トランスが装備されており、ジャーナルの端部の一方に回転駆動機構を取り付ける場合、その構成が複雑になり、適用が難しくなることが考えられる。この場合、冷却機構を回転トランスが装備されている側と同一端部に設けることが望ましい。
【0056】
また、前記実施形態では両持ち式の誘導発熱ローラ装置について説明したが、ジャーナルの一方のみを回転自在に2点支持する誘導発熱ローラ装置に適用することもできる。さらに、いわゆる片持ち型の誘導発熱ローラ装置に適用することもできる。
【0057】
その上、冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、ミスト生成装置に接続され、ローラ本体及び誘導発熱機構の間に形成される概略筒状をなす隙間部の軸方向に沿って配置された複数の冷却媒体供給口を有し、隙間部に霧状の冷却媒体を供給する冷却媒体供給管と、を備えるものであっても良い。このときガス供給機構は、圧縮空気供給回路及び冷却媒体供給管を用いて構成される。
【0058】
加えて、前記実施形態では、霧状の冷却媒体を隙間部の軸方向一端部から導入し、軸方向他端部から排出するように構成しているが、隙間部の軸方向一端部から導入して、同じ軸方向一端部から排出するようにしても良い。
【0059】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
100 ・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・ローラ本体
3 ・・・誘導発熱機構
X ・・・隙間部
8 ・・・冷却機構
81 ・・・ミスト生成装置
82 ・・・圧縮空気供給回路
822A・・・第1分岐路
822B・・・第2分岐路
824A・・・高圧用減圧弁
824B・・・低圧用減圧弁
83 ・・・冷却媒体供給回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されたローラ本体と、
前記ローラ本体の内部において前記ローラ本体に対して静止状態に保持され、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、
霧状の冷却媒体を前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間に形成される隙間部に導入するとともに、当該冷却媒体を隙間部から外部に排出する冷却機構と、
前記霧状の冷却媒体の供給停止後において、前記隙間部内にガスを供給して、前記隙間部内に存在する冷却媒体を外部に排出するガス供給機構とを備える誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記ガス供給機構が、前記霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間、前記隙間部にガスを供給するものである請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記ガス供給機構が、前記霧状の冷却媒体の供給停止からの経過時間に応じて、前記隙間部に供給するガス流量を調整するものである請求項1又は2記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、前記ミスト生成装置に圧縮空気を供給する圧縮空気供給回路と、前記ミスト生成装置に冷却媒体を供給する冷却媒体供給回路とを有し、
前記ガス供給機構が、前記圧縮空気供給回路を用いて構成され、前記冷却媒体供給回路を閉止した後において、前記圧縮空気供給回路からの圧縮空気を、前記ミスト生成装置を介して前記隙間部に供給するものである請求項1、2又は3記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
前記圧縮空気供給回路が、圧縮空気源及びミスト生成装置の間において分岐しており、前記ミスト生成装置に霧状の冷却媒体生成用の高圧空気を供給するための高圧用減圧弁を有する第1分岐路と、前記ミスト生成装置に低圧空気を供給するための低圧用減圧弁を有する第2分岐路と、前記第1分岐路及び前記第2分岐路を切り替える切替機構とを有し、
前記ガス供給機構が、前記隙間部への霧状の冷却媒体の供給停止直後から一定期間は、前記切替機構により前記第1分岐路を用いて高圧空気を供給し、当該一定期間経過後は、前記切替機構により前記第2分岐路を用いて低圧空気を供給するように構成されている請求項4記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項6】
前記低圧空気の供給が、前記隙間部への霧状の冷却媒体の供給、及び霧状の冷却媒体の供給後の高圧空気の供給以外において連続的に行われるように構成されている請求項5記載の誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−154952(P2011−154952A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16879(P2010−16879)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】