説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】ローラ本体及び誘導発熱機構により形成される隙間部内に霧状の冷却媒体を供給するものにおいて、霧状の冷却媒体によりローラ本体が局所的に冷却されてしまうことを防止する。
【解決手段】霧状の冷却媒体を隙間部の軸方向端部から導入する冷却機構を備えた誘導発熱ローラ装置であって、冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、誘導発熱機構の両端部から延びる支持軸の内部に形成されるとともに、下流側開口が支持軸の外側周面に開口し、ミスト生成装置からの霧状の冷却媒体を隙間部の軸方向端部に半径方向に沿って導入する冷却媒体導入路とを有し、ガイド部が、隙間部の軸方向端部に設けられ、下流側開口からの半径方向に沿って流れる霧状の冷却媒体を、隙間部の軸方向下流側へ案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関し、特に冷却性能の優れた誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等には、回転するローラ本体の内部に誘導発熱機構を配置し、これによりローラ本体の周壁部を誘導電流によって発熱させる誘導発熱ローラ装置が用いられている。
【0003】
そして近年、例えば連続材の種類を変更することに伴うローラ本体による加熱温度の変更を短時間で行う要請がある。また、延伸処理工程の終了後において、安全衛生上の観点から、ローラ本体の温度が一定温度以下に低下しなければ、作業者がその場から離れることができない。このようなことからローラ本体を可及的短時間で冷却する必要がある。さらに、誘導発熱ローラ装置を連続材の加熱に用いるだけでなく、冷却に用いる場合もあり、誘導発熱ローラ装置に冷却機能を持たせる必要がある。
【0004】
このように誘導発熱ローラ装置に冷却機能を持たせたものとしては、特許文献1に示すように、ローラ本体の周壁内に中心軸方向に沿って、且つ周方向に等間隔に複数の冷却媒体通路を設け、当該冷却媒体通路内に冷却媒体を循環させることによって、ローラ本体を冷却させるものが考えられている。
【0005】
しかしながら、冷却媒体通路に冷却媒体を循環させるためには、外部から冷却媒体をローラ本体又はその端部に一体的に設けた軸部(ジャーナル部)を介して供給する必要があり、ローラ本体又はそのジャーナル部は回転体であるため、ロータリジョイント又はメカニカルシールといった回転シール機構が必要となる。
【0006】
一方で、回転シール機構を用いない構成としては、特許文献2に示すように、ローラ本体の内部に冷却媒体を導入する冷媒導入機構と、当該冷媒導入機構により導入された冷却媒体をローラ本体の内周壁に向かって水滴状に散布する冷媒散布機構と、を備え、散布された冷却媒体がローラ本体の内周壁に接触して気化する際の気化潜熱(気化熱)によってローラ本体を冷却するものが考えられている。そして、冷媒散布機構は、軸方向に沿ってローラ本体の内周壁における一端部から他端部に亘って延設された吐出管を有し、当該吐出管の側壁に設けられた吐出口から冷却媒体を水滴状に散布するものである。
【0007】
しかしながら、冷却媒体を直接ローラ本体の内周壁に散布するものであるため、冷却媒体の中に含まれる不純物又は非蒸発成分がローラ本体の内周壁に堆積してしまう。また、冷媒散布機構の吐出管は微細な孔を通じて冷却媒体が散布されるように構成されているため、冷却媒体に含まれる塵等が微細な孔に詰まり、散布機構が目詰まりしてしまうことがあり、誘導発熱ローラ装置を分解して吐出管等を交換しなければならないという問題がある。さらに、誘導発熱ローラ装置では連続材を加熱する目的で加熱ローラとして使用する場合と、連続材を冷却する目的で冷却ローラとして使用する場合とが交互に発生する場合がある。この場合、冷却ローラとして使用した後に加熱ローラとして使用する場合には、冷媒散布機構の吐出管内に滞留している冷却媒体がローラ本体からの伝熱により加熱されて、場合によっては沸騰を起こす恐れがある。
【0008】
このような問題点を解決すべく、本出願人は、ローラ本体に回転シール機構を設ける必要が無く、ローラ本体の腐食を抑制しながらもローラ本体を冷却するために、回転自在に支持されたローラ本体と、ローラ本体の内部においてローラ本体に対して静止状態に保持され、ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、霧状の冷却媒体をローラ本体及び誘導発熱機構の間に形成される概略筒状をなす隙間部の軸方向端部から導入するとともに、前記隙間部の軸方向端部から冷却媒体をローラ本体外部に排出する冷却機構とを備えた誘導発熱ローラ装置の開発を進めている。この誘導発熱ローラ装置は、霧状の冷却媒体をローラ本体内に導入することにより、霧状の冷却媒体がローラ本体の内周壁に接触して蒸発するときの気化潜熱及び霧状の冷却媒体がローラ本体内で温度上昇するときの顕熱並びに気化蒸発するときの潜熱によりローラ本体又は誘導発熱機構を冷却するというものである。
【0009】
具体的には、冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、誘導発熱機構の両端部から延びる支持軸の内部に形成され、霧状の冷却媒体を隙間部に導入する冷却媒体導入路を備えている。そして、この冷却媒体導入路の下流側開口は、支持軸の外側周面に開口し、霧状の冷却媒体を隙間部の軸方向端部に半径方向に沿って導入するように構成することが考えられている。
【0010】
しかしながら、冷却媒体導入路の下流側開口から出た霧状の冷却媒体は、ローラ本体の軸方向端部の内面に衝突しながら隙間部の軸方向下流側に流れるので、その衝突部分では霧状の冷却媒体が液滴化しやすい。そうすると、その衝突部分では多くの液滴が気化蒸発することになり、隙間部の下流側と比べると冷却密度が高くなってしまう。その結果、ローラ本体の軸方向端部が局所的に過大冷却されてしまい、ローラ本体の温度分布に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0011】
特に、対をなす複数の誘導発熱ローラ装置をニップローラとして用い、そのローラニップ部にウエブ等を通過させることにより熱間圧延又は厚み調整を行うカレンダー用途においては、ローラ本体の熱間における円筒度が極めて重要であり、前記のように局所的に過大冷却されてしまうと、ローラ本体の軸方向端部近傍の外径が、その他の外径よりも小さくなってしまい、熱間円筒度が劣化してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−353588号公報
【特許文献2】特開2003−269442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、ローラ本体及び誘導発熱機構により形成される隙間部内に霧状の冷却媒体を供給するものにおいて、当該霧状の冷却媒体によりローラ本体が局所的に過大冷却されてしまうことを防止することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、回転自在に支持されたローラ本体と、前記ローラ本体の内部において前記ローラ本体に対して静止状態に保持され、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、霧状の冷却媒体を前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間に形成される概略筒状をなす隙間部の軸方向端部から導入するとともに、前記隙間部の軸方向端部から冷却媒体をローラ本体外部に排出する冷却機構とを備え、前記冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、前記誘導発熱機構の両端部から延びる支持軸の内部に形成されるとともに、下流側開口が前記支持軸の外側周面に開口し、前記ミスト生成装置からの霧状の冷却媒体を前記隙間部の軸方向端部に半径方向に沿って導入する冷却媒体導入路とを有し、前記隙間部の軸方向端部に設けられ、前記下流側開口からの半径方向に沿って流れる霧状の冷却媒体を、前記隙間部の軸方向下流側へ案内するガイド部を備えることを特徴とする。
【0015】
このようなものであれば、冷却媒体導入路の下流側開口から半径方向に流れる冷却媒体を、ガイド部によって隙間部の軸方向下流側へ方向転換するように案内しているので、霧状の冷却媒体がローラ本体の軸方向端部の内面に衝突することにより生じる液滴化を低減することができる。これによって、下流側開口に対向するローラ本体の軸方向端部が局所的に過大冷却されることを防止することができる。また、ガイド部によって霧状の冷却媒体の流れを半径方向から軸方向に効率良く方向転換できるようになり、隙間部全体に霧状の冷却媒体を行き渡らせ易くすることができる。
【0016】
ガイド部に霧状の冷却媒体が当たることになるので、当該ガイド部が他の部材に比べて過大冷却されることが考えられる。この過大冷却されたガイド部からローラ本体が受ける熱影響を可及的に小さくするためには、前記ガイド部が、前記ローラ本体の内側周面に断熱層を介在させて設けられていることが望ましい。
【0017】
ガイド部からローラ本体に与える熱影響を簡単な構成により可及的に小さくするためには、前記ガイド部が、前記ローラ本体の両端部に設けられたジャーナルの内面に固定され、前記ローラ本体の内側周面から離間して設けられていることが望ましい。
【0018】
また、ガイド部と当該ガイド部が固定されている部材とを熱的に分離してガイド部からの熱影響を抑制するためには、前記ガイド部が、前記隙間部の軸方向端部を形成する部材に、断熱性を有する固定部材によって固定されていることが望ましい。
【0019】
ローラ本体が誘導発熱機構に対して回転することから、ローラ本体は、誘導発熱機構の支持軸に設けられた冷却媒体導入路の下流側開口に対して回転することになる。この構成の下、下流側開口から半径方向に流れる霧状の冷却媒体を効率よく隙間部下流側に案内するためには、前記ガイド部が、前記隙間部の軸方向端部の全周に設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、ローラ本体及び誘導発熱機構により形成される隙間部内に霧状の冷却媒体を供給するものにおいて、当該霧状の冷却媒体によりローラ本体が局所的に過大冷却されてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図2】同実施形態の冷却媒体導入路及びガイド部を主として示す拡大図である。
【図3】同実施形態のA−A線断面図である。
【図4】変形実施形態に係るガイド部を示す部分拡大断面図である。
【図5】別の変形実施形態に係るガイド部を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等において用いられるものである。
【0024】
具体的にこのものは、図1に示すように、回転自在に支持された中空円筒状のローラ本体2と、このローラ本体2内に収容される誘導発熱機構3とを備えている。
【0025】
ローラ本体2の両端部には、ジャーナル41がOリング等のシール部材S1を介して取り付けられている。このシール部材S1により後述の霧状の冷却媒体が外部に漏洩することを防止している。また、ジャーナル41は、中空の駆動軸42と一体に構成されており、駆動軸42は、転がり軸受等の軸受51を介して機台52に回転自在に支持されている。そして、ローラ本体2は、例えばモータ等の回転駆動機構(不図示)により外部から与えられる駆動力によって回転されるように構成されている。
【0026】
誘導発熱機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。円筒状鉄心31の両端部にはそれぞれ、支持軸6が取り付けられている。この支持軸6は、それぞれ駆動軸42の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受7を介して駆動軸42に対して回転自在に支持されている。これにより、誘導発熱機構3は、回転するローラ本体2の内部において、ローラ本体2に対して静止状態に保持される。誘導コイル32には、リード線L2が接続されており、このリード線L2には、交流電圧を印加するための交流電源Vが電力調整装置11を介して接続されている。なお、支持軸6の外面と駆動軸42の内面との間には、オイルシール又はラビリンスシール等のシール機構S2が設けられており、霧状の冷却媒体が外部に漏洩しないように構成している。
【0027】
このような誘導発熱機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2の側周壁21を通過する。この通過によりローラ本体2に誘導電流が発生し、その誘導電流でローラ本体2はジュール発熱する。
【0028】
そして、本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、ローラ本体2及び誘導発熱機構3を霧状の冷却媒体により冷却する冷却機構8を備えている。
【0029】
この冷却機構8は、図1に示すように、霧状の冷却媒体をローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される概略筒状をなす隙間部Xの軸方向一端部から導入するとともに、隙間部Xの軸方向他端部から冷却媒体をローラ本体2外部に排出することにより、ローラ本体2及び誘導発熱機構3を冷却するものである。なお、軸方向とは、図1の矢印に示すように紙面左右方向である。
【0030】
具体的にこのものは、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置81と、ミスト生成装置81に圧縮空気を供給する圧縮空気供給回路82と、ミスト生成装置81に冷却媒体である水を供給する冷却媒体供給回路83と、ミスト生成装置81からの霧状の冷却媒体を隙間部Xの軸方向上流側端部から導入する冷却媒体導入路84と、隙間部Xを通過した冷却媒体を軸方向下流側端部から外部に排出するための冷却媒体排出路85と、を備えている。
【0031】
隙間部Xは、気密性を有するものであり、主として、ローラ本体2の内周壁面と誘導発熱機構3の外側周面とにより形成される概略円筒状の隙間X1、および、ローラ本体2の両端部に設けられたジャーナル41の内面と誘導発熱機構3の軸方向端面とにより形成される概略円環状の隙間X2からなる。
【0032】
ミスト生成装置81は、圧縮空気供給回路82からの圧縮空気と冷却媒体供給回路83からの水とを混合して霧状(ミスト状)の冷却媒体を生成するものである。この霧状の冷却媒体は、噴射された直後に気化蒸発しない程度の粒径であって、且つ、空気とともに運搬される過程で重力で落下したり、流路の屈曲部において壁面に衝突して液化しにくい程度の粒径である。具体的に霧状の冷却媒体は、30〜100μmの範囲の粒径を有するものである。
【0033】
圧縮空気供給回路82は、圧縮空気源821と、一端が圧縮空気源821に接続され、他端がミスト生成装置81に接続される圧縮空気配管822と、当該圧縮空気配管822上に設けられ、ミスト生成装置81への圧縮空気の供給、停止を制御する開閉弁823と、を備えている。なお、開閉弁823は、温度制御装置TCからのON/OFF信号により開閉する電磁弁である。
【0034】
冷却媒体供給回路83は、貯水タンク831と、一端が貯水タンク831に接続され、他端がミスト生成装置81に接続される冷却媒体配管832と、当該冷却媒体配管832上に設けられ、ミスト生成装置81への冷却媒体の供給、停止を制御するための開閉弁833と、当該開閉弁833の下流に設けられ、ミスト生成装置81に供給される冷却媒体の流量を調整する流量調整弁834(例えば減圧弁)とを備えている。なお、開閉弁833は、温度制御装置TCからのON/OFF信号により開閉する電磁弁である。
【0035】
温度制御装置TCは、ローラ本体2の周壁に埋設された温度センサ2Tの検出信号を温度検出装置(具体的には回転トランス)10を介して受け付けて、当該検出信号が示す検出温度及び予め定められた設定温度を比較し、検出温度が設定温度となるように誘導コイル32への電力供給と霧状の冷却媒体の供給とを制御する。なお、温度制御装置TCは、検出温度と設定温度との差に応じて、例えばサイリスタを用いて構成された電力調整装置11に誘導コイル32へ入力すべき信号を出力する。
【0036】
また、温度制御装置TCは、検出温度が設定温度よりも高い場合には、霧状の冷却媒体を隙間部Xに供給してローラ本体2を冷却すべく、圧縮空気供給回路82の開閉弁823及び冷却媒体供給回路83上の開閉弁833にON信号を出力する。一方で検出温度が設定温度を下回った段階で、霧状の冷却媒体の供給を停止するため、開閉弁823及び開閉弁833にOFF信号を出力する。
【0037】
冷却媒体導入路84は、特に図2に示すように、誘導発熱機構3の一端部に設けられた支持軸6(以下、この支持軸を6Aとする。)の内部に中心軸に沿って形成された中空部61により構成されている。具体的に中空部61は、支持軸6Aの中心軸と同軸上に形成された概略円柱形状をなす空間である。
【0038】
中空部61は支持軸6Aの外部端面において開口しており、この開口部に前記ミスト生成装置81の吐出口81sが中空部61内部を向くように取り付けられる。具体的には中空部61の中心軸上にミスト生成装置81の吐出口81sが位置するように取り付けられている。このようにミスト生成装置81を、目詰まり等の不具合時に誘導発熱ローラ装置100から容易に着脱できる位置に設けている。なお、中空部61の開口部とミスト生成装置81とはシール構造(不図示)を介して着脱可能に取り付けられている。
【0039】
また中空部61は、支持軸6Aの基端部(誘導発熱機構3側の端部)において複数の貫通孔61Hを介して隙間部Xと連通している。この貫通孔61Hが冷却媒体導入路84の下流側開口を形成している。この貫通孔61Hは、隙間部Xの軸方向上流側端部(本実施形態では隙間X2)に配置されており、支持軸6Aにおいてラジアル方向に複数個等間隔に形成されている。この構成により、下流側開口(貫通孔61H)から出た霧状の冷却媒体は、隙間部Xの軸方向上流側端部に半径方向に沿って導入されることになる。具体的には、その霧状の冷却媒体は、隙間部Xのうち、ローラ本体2の両端部に設けられたジャーナル41の内面と誘導発熱機構3の軸方向上流側端面3Xとにより形成される概略円環状の隙間X2に半径方向に沿って導入される。
【0040】
冷却媒体排出路85は、誘導発熱機構3の他端部に設けられた支持軸6(以下、この支持軸を6Bとする。)の内部に沿って設けられた冷却媒体排出管85Tにより構成されている。この冷却媒体排出管85Tは、支持軸6Bの内部に中心軸に沿って形成された中空部62内に挿入して設けられ、支持軸6Bの基端部(誘導発熱機構3側の端部)において隙間部Xを向いて開口しており、当該開口が冷却媒体排出路85の上流側開口となる。そして、この上流側開口は、隙間部Xの軸方向下流側端部(本実施形態では隙間X2)に配置されている。なお、支持軸6Bの中空部62内には、前述した誘導コイル32に接続されるリード線L2も設けられる。
【0041】
また、支持軸6B外部における冷却媒体排出管85T上に、隙間部Xを減圧する減圧装置9が設けられている。この減圧装置9は、冷却媒体排出管85T上流側の空気を吸引して外部に排出することによって隙間部X内を減圧する。これにより、隙間部Xが減圧されて、隙間部Xに導入された霧状の冷却媒体が蒸発し易くして、ローラ本体2を冷却し易くすると共に、気化した冷却媒体がローラ本体2の内周壁及び誘導発熱機構3上で結露しにくくすることができる。また、減圧装置9によって霧状の冷却媒体が隙間部Xを所定の流速で通過するように構成している。具体的には、隙間部Xにおける霧状の冷却媒体の流速が0.3m/s以上とすることによって、高い熱伝導率を得ることができ、ローラ本体の冷却効率を大幅に構造させることができる。
【0042】
また、上記のとおり霧状の冷却媒体を隙間部Xに供給することから、隙間部Xを形成する部材表面、具体的にはローラ本体2の内周壁面、ジャーナル41の内面及び支持軸6の外周面に防錆処理を施している。また、誘導発熱機構3の外側周面には、冷却媒体による電気故障を防止するために防水膜Fが、略全体に亘って設けられている。この防水膜Fは、ローラ本体2内部のミスト濃度により決定される露点温度と、冷却動作時における誘導発熱機構3との関係で結露が懸念される場合に必要となるが、誘導発熱機構3の温度が前記露点温度以上であることが明らかな場合は省略可能である。
【0043】
このような冷却機構8によって、霧状の冷却媒体をローラ本体2内に導入することにより、霧状の冷却媒体がローラ本体2の内周壁に接触して蒸発するときの気化潜熱及び霧状の冷却媒体がローラ本体2内で温度上昇するときの顕熱並びに気化蒸発するときの潜熱によりローラ本体2又は誘導発熱機構3を冷却することができる。そして、霧状の冷却媒体をローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される概略筒状をなす隙間部Xの軸方向端部から導入するとともに、隙間部Xの軸方向端部から冷却媒体をローラ本体2外部に排出することにより、隙間部X全体に霧状の冷却媒体を行き渡らせることができる。また、霧状の冷却媒体を用いているので、ローラ本体2に接触する冷却媒体を少なくすることができ、ローラ本体2内壁の腐食、不純物の堆積等を抑制することができる。例えば、誘導発熱ローラ装置のローラ本体2の温度を200℃から150℃に自然冷却する場合には約30分かかるところ、この冷却機構8を用いることによってローラ本体2の温度を200℃から150℃に冷却する時間を約10分に短縮することができる。
【0044】
しかして、本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、下流側開口(貫通孔61H)からの隙間部Xの軸方向上流側端部に半径方向に沿って流れる霧状の冷却媒体を、隙間部Xの軸方向下流側へ案内するガイド部Gを備えている。
【0045】
このガイド部Gは、図2及び図3に示すように、隙間部Xの軸方向端部(具体的には隙間X1及び隙間X2の連結部分)において下流側開口(貫通孔61H)に対向するように設けられており、隙間部Xの軸方向端部の全周に設けられた断面概略湾曲状をなす環状板である。
【0046】
また、ガイド部Gは、ローラ本体2の上流側端部に設けられたジャーナル41の内面に固定されている。このとき、ガイド部Gは、断熱特性に優れた材料からなる固定部材Tにより固定されている。固定部材Tは、ジャーナル41とガイド部Gとの熱的な分離作用を大きくするために、ガイド部Gとジャーナル41との間に複数個設けられ、ガイド部Gとジャーナル41とを部分的に連結している。また、複数の固定部材Tは、ガイド部Gを周方向に等間隔に配置されている。なお、固定部材Tが環状をなすものであり、ガイド部G及びジャーナル41を周方向全体に亘って固定するものであっても良い。
【0047】
さらに、ガイド部Gは、ローラ本体2内の内側周面に断熱層を介在させて設けられており、本実施形態では、ガイド部Gがローラ本体2の内側周面から離間して設けられることによって、断熱層として空気層ASが介在する構成としている。このようにガイド部Gとローラ本体2の内側周面との間に空気層ASを設けることによって、ローラ本体2がガイド部Gの温度により熱影響を受けにくくしている。このようにガイド部Gは固定部材T以外とは接触しないように配置されている。
【0048】
その上、ガイド部Gの下流側端部G1は、軸方向において誘導発熱機構3(円筒状鉄心31)の上流側端面3Xと略同じ位置、又はそれよりも軸方向下流側に位置するように構成されている。これにより、ガイド部Gが、隙間X2を半径方向に流れる略全ての霧状の冷却媒体を受けて軸方向に方向転換することができ、ローラ本体2の内側周面に半径方向に流れる霧状の冷却媒体が直接的に衝突することを防止している。
【0049】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100によれば、冷却媒体導入路84の下流側開口(貫通孔61H)から半径方向に流れる冷却媒体をガイド部Gで隙間部Xの軸方向下流側へ案内することによって、霧状の冷却媒体がローラ本体2の軸方向上流側端部の内面に衝突することにより生じる液滴化を防止することができる。これによって、ローラ本体2の軸方向上流側端部が局所的に過大冷却されることを防止することができる。また、ガイド部Gによって霧状の冷却媒体の流れを半径方向から軸方向に方向転換しやすくすることによって、霧状の冷却媒体を効率よく隙間部Xの軸方向に変えることができ、隙間部X全体に行き渡らせ易くすることができる。
【0050】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
前記実施形態のガイド部Gは、断面概略湾曲形状をなす環状板であったが、その他、図4に示すように、部分円錐状をなす環状板であっても良い。
【0052】
また、前記実施形態のガイド部Gは、ジャーナル41及びガイド部Gとは別体の固定部材Tにより、ジャーナル41に対して固定される構成であったが、その他、図5に示すように、ジャーナル41の内面に固定用の突部41Tを形成し、当該突部41Tにガイド部Gを固定するようにしても良い。また、図示しないが、ガイド部に固定用の突部を形成して、当該突部をジャーナルの内面に固定しても良い。なお、突部を形成することなくジャーナル及びガイド部同士を固定するようにしても良い。このとき、ジャーナルとガイド部との接触面積を可及的に小さくすることが望ましい。
【0053】
さらに、前記実施形態では、ガイド部をジャーナル内面に固定するものであったが、ガイド部をローラ本体の内側周面に固定するように構成しても良い。
【0054】
その上、前記ガイド部はジャーナル及びローラ本体と別体をなすものであったが、ガイド部をジャーナル又はローラ本体と一体成型により一体としても良い。
【0055】
加えてガイド部は環状板に限られず、霧状の冷却媒体の半径方向の流れを軸方向の流れに変換する湾曲状又は部分円錐状のガイド面を有するものであれば、板以外の部材を用いて構成することもできる。
【0056】
前記実施形態では、ジャーナルの一端側に冷却機構、他端側に回転トランスが装備されており、ジャーナルの端部の一方に回転駆動機構を取り付ける場合、その構成が複雑になり、適用が難しくなることが考えられる。この場合、冷却機構を回転トランスが装備されている側と同一端部に設けることが望ましい。
【0057】
また、前記実施形態では両持ち式の誘導発熱ローラ装置について説明したが、ジャーナルの一方のみを回転自在に2点支持する誘導発熱ローラ装置に適用することもできる。さらに、いわゆる片持ち型の誘導発熱ローラ装置に適用することもできる。
【0058】
加えて、前記実施形態では、霧状の冷却媒体を隙間部の軸方向一端部から導入し、軸方向他端部から排出するように構成しているが、隙間部の軸方向一端部から導入して、同じ軸方向一端部から排出するようにしても良い。
【0059】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
100・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・ローラ本体
3 ・・・誘導発熱機構
X ・・・隙間部
6 ・・・支持軸
8 ・・・冷却機構
81 ・・・ミスト生成装置
84 ・・・冷却媒体導入路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されたローラ本体と、
前記ローラ本体の内部において前記ローラ本体に対して静止状態に保持され、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、
霧状の冷却媒体を前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間に形成される概略筒状をなす隙間部の軸方向端部から導入するとともに、前記隙間部の軸方向端部から冷却媒体をローラ本体外部に排出する冷却機構とを備え、
前記冷却機構が、霧状の冷却媒体を生成するミスト生成装置と、前記誘導発熱機構の両端部から延びる支持軸の内部に形成されるとともに、下流側開口が前記支持軸の外側周面に開口し、前記ミスト生成装置からの霧状の冷却媒体を前記隙間部の軸方向端部に半径方向に沿って導入する冷却媒体導入路とを有するものであり、
前記隙間部の軸方向端部に設けられ、前記下流側開口からの半径方向に沿って流れる霧状の冷却媒体を、前記隙間部の軸方向下流側へ案内するガイド部を備える誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記ガイド部が、前記ローラ本体の内側周面に断熱層を介在させて設けられている請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記ガイド部が、前記ローラ本体の両端部に設けられたジャーナルの内面に固定され、前記ローラ本体の内側周面から離間して設けられている請求項1又は2記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記ガイド部が、前記隙間部の軸方向端部を形成する部材に、断熱性を有する固定部材によって固定されている請求項1、2又は3記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
前記ガイド部が、前記隙間部の軸方向端部の全周に設けられている請求項1、2、3又は4記載の誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−154953(P2011−154953A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16880(P2010−16880)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】