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誘導結合プラズマ質量分析装置
説明

誘導結合プラズマ質量分析装置

【課題】高マトリクス試料を連続して再現性良く測定することのできる誘導結合プラズマ質量分析装置を提供する。
【解決手段】誘導結合プラズマ質量分析装置は、プラズマトーチ20に供給されるエアロゾル中の液滴の量、当該エアロゾル中のキャリアガス76A、76Bの流量、高周波電源80のRF出力、及びプラズマトーチ20とサンプリング用インタフェース15、16との間の距離Zの全ての因子を合わせて制御する制御装置70を備える。制御装置70での制御によって、測定されるイオンの感度を所望の程度に変更して設定できるようにし、設定されるイオン検出程度の最大値と最小値の比は、イオンの感度の比で少なくとも10倍とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマをイオン源として用いた質量分析装置である、誘導結合プラズマ質量分析装置の技術に関し、特に高マトリクス試料を分析するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ質量分析装置は、微量な金属イオンを検出するための高感度の分析装置として従前より知られている。その基本構成は、液体等の試料からプラズマを生成するプラズマ生成部、及び生成されたプラズマからイオンを取り出して分析する質量分析部を含む。
【0003】
プラズマ生成部は、特に液体試料の場合、所定流量のガスを用いて所定の濃度の液体試料を霧化するネブライザ、霧化された液滴の一部を当該ガスと共にエアロゾルの形で取り出すスプレーチャンバ、及びプラズマガスによりプラズマを生成し、さらに前述のエアロゾルが当該プラズマ内に導入されるようにしたプラズマトーチとを含む。誘導結合プラズマを生成するため、プラズマトーチの近傍又は周囲にはワークコイルが配置され、当該ワークコイルは高周波電源に接続される。
【0004】
エアロゾルの生成について、さらに詳述すれば、ネブライザには、液体試料と合わせてキャリアガスの少なくとも一部が提供される。当該一部のキャリアガスが液体試料を吹く際に液体試料が霧化されることになる。霧化された液滴は、スプレーチャンバ内を周回する。その際、比較的大径の液滴はスプレーチャンバ内壁に付着して回収され、比較的小径の液滴のみがプラズマトーチに向けて排出される。すなわち、それらの小径の液滴は、霧化のために使用されたキャリアガスと共にエアロゾルを構成し、プラズマトーチへと導かれる。通常、キャリアガスとしては、不活性ガス、典型的にはアルゴンガスが用いられる。
【0005】
プラズマトーチは、通常、試料を含むエアロゾルが導入される内管、及びその外側を包囲するようにして設けられる1又は複数の外管を備える。外管には、補助ガス及びプラズマ生成のためのプラズマガス等が導入され得る。ワークコイルの動作によってプラズマガスによるプラズマが生成された後、試料を含むエアロゾルが導入され、これにより、試料中の金属はイオン化され、プラズマ中に分散することになる。
【0006】
プラズマ生成部の後段に位置する質量分析部の前端位置には、生成されたプラズマに面するインタフェースが設けられる。インタフェースは、通常、サンプリングコーン及びスキマーコーンの2段の構成とされ、それぞれが、生成されたプラズマからイオンを取り出すためのオリフィスを備える。インタフェースの後段には、イオンをイオンビームの形で取り出すための引き出し電極が配置される。取り出されたイオンビームは、さらに後段に位置する質量分析装置に導かれ、元素の同定が行われる。これにより、質量スペクトルの形で分析結果を得ることができる。
【0007】
誘導結合プラズマ質量分析装置は、業界では広く知られるものではあるが、一例として、その全体構成は、下記の特許文献1中に示されており、プラズマ生成部の構成については、特許文献2中に示されている。また、特許文献3には、プラズマ生成部と質量分析部との結合に関連した技術が記載されている。
【0008】
かかる装置が測定対象とすることが望まれる試料の一つに、高マトリクス試料がある。高マトリクス試料とは、被測定元素以外に高濃度の金属塩他の水溶性物質を含む試料をいう。代表的な高マトリクス試料として、海水が挙げられる。従来の装置の通常の方法によって、かかる高マトリクス試料を分析すると、装置の後段へと導かれる多量のイオンによってサンプリングコーン、スキマーコーン等の表面に金属塩他の物質が析出して汚染を生じたり、オリフィスを塞いで分析ができなくなったりする等の不都合を生じる。一般には、マトリクス濃度或いはTDS(Total Dissolved Solid)で1000乃至2000ppmを超える濃度の試料は、通常のモードでの測定はできないと考えられている。
【0009】
一方で、誘導結合プラズマ発光分析装置によれば、パーセントオーダー或いはそれ以上の高い濃度の高マトリクス試料であっても、後述の希釈の手法を用いることなく、通常の測定を行うことができる。もっとも、誘導結合プラズマ分光分析装置は、その感度或いは検出限界の面で誘導結合プラズマ質量分析装置に比較して3桁或いはそれ以上劣っているという欠点を有し、定量分析に係るユーザの要求を満足させることは極めて難しい。
【0010】
特許文献4には、マトリクス濃度の異なる多種の試料の分析を行うため、光学測定装置及び質量分析装置の両方を備えた装置について記載されている。しかしながら、特許文献4に記載される装置は、構造が複雑で、その維持・取り扱いは容易ではなく、実用的なものでないし、上述の定量分析の問題を解決するものでもない。
【0011】
単一の質量分析装置によって、広範なマトリクス濃度範囲の液体試料を高感度に分析できれば、実用上極めて有効である。一つの手法として、直接は測定対象とすることができない高濃度の試料について、エアロゾル生成前に許容できる程度に希釈するという方法がある。希釈は、通常、人の手作業によるか、或いはオートダイリュータにより自動的に行われ得る。例えば、特許文献5には、オートダイリュータを用いた液体試料の希釈方法について記載されている。
【特許文献1】特開2000―67804号公報
【特許文献2】特開平10−188877号公報
【特許文献3】特開平10−208691号公報
【特許文献4】特開平8−152408号公報
【特許文献5】特開平11−6788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、希釈を手作業で行う場合には、多くの手間がかかり、特に試料数が多い場合には、時間的な不都合が生じる他、誤った作業を行ってしまう虞もある。一方、希釈のためにオートダイリュータを用いた場合には、追加の装置を操作する工程を設けることにより制御が複雑なものとなり、あるいは、液体試料を希釈する作業中に外部環境或いは用いる器具等を介して試料の汚染を生じる虞もある。
【0013】
そこで、本発明は、高マトリクス試料を含む種々の濃度の試料を、ユーザが手間になるような作業を行うことなく、連続して再現性良く測定することのできる誘導結合プラズマ質量分析装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、高周波電源に接続されたワークコイルに近接配置されるプラズマトーチに、分析試料を含む液滴及びキャリアガスを有するエアロゾルを導入し、エアロゾル含有元素のイオンを含むようにしたプラズマを、オリフィスを備えたインタフェースに向けて生成し、イオンの少なくとも一部を、オリフィスを通過させて取り出すようにした誘導結合プラズマ質量分析装置において、エアロゾル中の液滴の量、エアロゾル中のキャリアガスの流量、高周波電源のRF出力、及びプラズマトーチとインタフェースとの間の距離の全ての条件を包括して制御する制御装置を備え、該制御装置での制御によって、測定されるイオンの感度を所望の程度に設定できるようにして、設定されるイオンの感度の最大値と最小値との比が少なくとも10倍とされることを特徴とする誘導結合プラズマ質量分析装置を提供する。
【0015】
イオンの感度の最小値と最大値の比は、さらに大きくても良く、少なくとも20倍とされても良い。
【0016】
また、好ましくは、制御のために用いられる全ての因子の条件について予め定められた複数の組のいずれかをユーザが選択できるようにしても良い。当該複数の組の各々は、少なくともエアロゾル中のキャリアガスの流量、高周波電源のRF出力、及びプラズマトーチとインタフェースとの間の距離の条件に関連して、いわゆる感度―酸化物イオン比線図上で、分析条件に対応する点が、各感度における酸化物イオン比が略最小とされ、且つ感度に対して酸化物イオン比が比例して増加する単一の略直線状の包絡線に沿う点のいずれかとして決定され得る。この場合、各点は、感度―酸化物イオン比線図上に設定される一定の領域内の点とされても良い。
【0017】
さらに、キャリアガスは、エアロゾルを生成する際に用いられる第1のガスと、エアロゾルの生成後に混合される第2のガスとを含み、制御装置は、第1のガス及び第2のガスの両者の流量を制御することにより、単位時間あたりに供給される液滴の量を決定するようにしても良い。この場合、制御装置は、第1のガス及び第2のガスの全流量を一定にし、第1のガス及び第2のガスの流量比のみを変更することにより、単位時間あたりに供給される液滴の量を変更するように制御し得る。
【0018】
また、プラズマトーチとインタフェースとの間の距離は、プラズマトーチ又はインタフェースのいずれかを軸線方向に移動させることにより変更され得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の誘導結合プラズマ質量分析装置は、上述した全ての条件について包括的に適当な条件又はパラメータを決定し、それらに基づく総合的な制御によって、オリフィスを通過するイオン量の程度を調節するので、液体希釈手段等の追加の装置を必要とすることなく、またユーザに大きな手間となる作業を要求することなく、高マトリクス試料を含む種々のマトリクス濃度の試料を連続して測定することができる。
【0020】
すなわち、本発明の誘導結合プラズマ質量分析装置は、低マトリクス濃度から高マトリクス濃度まで種々の濃度の試料に対応して、インタフェースを通過するイオン量を容易に調節することができるので、高マトリクス試料を簡易に且つ精度良く測定でき、同じ装置で通常の試料も連続して測定可能となる。本発明では、エアロゾルによる希釈とプラズマの調整との2段の工程で、インタフェースを通過するイオン量を調節しているので、十分高い濃度の高マトリクス試料(例えば、数万ppm程度の試料)でも、他の希釈手段を用いることなく測定可能である。
【0021】
また、本発明の装置では、プラズマ中に酸化物等の化合物が生じにくい比較的高いプラズマ温度の状態で、制御のための条件を設定し得るので、かかる場合には、高マトリクス試料であっても、妨害イオン等により減感作用を受けることなく十分な感度で測定を行うことが可能である。
【0022】
さらに、本発明の装置では、エアロゾルの生成後にもガスを追加し、生成時に用いるガスと合わせて流量制御するようにし得るので、エアロゾル中のキャリアガスがプラズマに与える影響を含めて制御のための条件を設定でき、特に、キャリアガスの総流量を変えることなく、エアロゾル中の液滴含有量を変更することもできる。かかる手法によれば、キャリアガスがプラズマに与える影響を最小にして希釈の程度を容易に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適実施形態となる誘導結合プラズマ質量分析装置について詳細に説明する。図1は、本発明の誘導結合プラズマ質量分析装置の本体のうち、プラズマ生成部を主として示す図である。各要素と合わせて、制御システムの構成も示している。なお、本発明の作用の説明における「希釈」の語は、後述のインタフェース部を通過する試料イオンの量を減らすことのできる全ての手段を含むものであり、従来技術の説明以外の箇所では、いわゆる液体を用いない「ドライ」方式の希釈をも意味するものである。
【0024】
前述の通り、この種の誘導結合プラズマ質量分析装置は、プラズマ生成部の後段に質量分析部を備えている。図1中には、質量分析部のうち、その前端でイオンビームを取り出すよう作用するインタフェース部を構成するところの、サンプリングコーン15、スキマーコーン16のみが示される。図示しないが、スキマーコーン16の後側へと導かれたイオンビームは、さらに後方に位置する質量分析装置へと案内され、これにより、質量電荷比を基に分離され、元素の同定が行われる。
【0025】
プラズマ生成部10は、主たる構成要素として、エアロゾル生成手段30及びプラズマトーチ20を含む。エアロゾル生成手段30は、液体試料を霧化するネブライザ40と、霧化された液体試料を巡回させ、比較的小径の液滴のみを取り出すようにするスプレーチャンバ50とを備える。
【0026】
ネブライザ40には、液体試料61及びエアロゾル生成のためのガス76Aが供給される。供給される液体試料61を所定流量のガス76Aで吹くことによって、液体試料61を霧化することができる。エアロゾル生成のためには、不活性ガス、典型的にはアルゴンガスが用いられる。ガス供給量の制御については後述する。
【0027】
液体試料61は、液体試料供給手段60によって供給される。液体試料供給手段60は、液体試料を蓄える容器62と、配管に沿った位置に設けられるペリスタルティックポンプ63とを備える。ペリスタルティックポンプ63は、制御部64により制御される。すなわち、ペリスタルティックポンプ63は、制御部64の制御に基づいて、容器62から必要量の液体試料61をネブライザ40に供給する。
【0028】
スプレーチャンバ50は、内部に、霧化された液滴が巡回することのできるチャンバ51を備えている。チャンバ51内には、筒状の壁52が設けられ、その内外で逆方向に気流が生じるようにされる。霧化された液滴は、気流により運ばれるが、比較的大径の液滴は、チャンバ51の内壁面に付着し、ドレイン53を介して排出される。一方、比較的小径の液滴は、エアロゾルとして、接続開口54を介して接続管31に向けて排出される。
【0029】
エアロゾルは、接続管31を通過して、プラズマトーチ20に供給される。なお、接続管31の中間部には、希釈のために追加される追加希釈ガス76Bの導入口32が設けられる。追加希釈ガス76Bの作用については後述する。
【0030】
プラズマトーチ20は、エアロゾルが導入される内管21の外側に、第1及び第2の外管22、23を備える。第1の外管22には、補助ガス(または中間ガス)77Aが導入され、最外の第2の外管23には、プラズマガス77Bが導入される。プラズマトーチ20の先端には、ワークコイル25が配置される。ワークコイル25は、マッチングボックス81を介して、高周波電源(RF電源)80に接続されている。
【0031】
ワークコイル25は、プラズマトーチ20にプラズマ5を発生するためのエネルギーを提供する。プラズマトーチ20に、補助ガス77A及びプラズマガス77Bを提供した状態で、高周波電源80をオン状態にして、プラズマ5を点火状態にすることができる。その後、試料の分析のために、内管21から液体試料の液滴を含むエアロゾルが提供される。これによって、エアロゾル中の液滴中に存する元素は、プラズマ5内でイオン化される。
【0032】
高周波電源80の出力の変更により、インタフェース15、16を通過するイオン数の増減を制御することができる。なお、酸化物―イオン比の図に関連して後述する一定の条件の下では、高周波電源80の出力を上げる方向に制御することで、インタフェース15、16を通過するイオン数を減らすように制御することができる。
【0033】
本実施形態では、プラズマトーチ20は、モータ等の駆動装置27によって移動可能とされた台座26上に固定される。これにより、プラズマトーチ20は、エアロゾルの導入方向に変位可能される。これは、プラズマトーチ20と、インタフェース15、16との間の距離(サンプリング深さ)Zを調節するものである。典型的には、台座26として、X―Yステージが用いられる。駆動装置27は、制御部90によって制御される。なお、図1中には、プラズマトーチ20のみが台座26上に固定されているように示されるが、スプレーチャンバ50及びネブライザ40を含む位置までの部分がプラズマトーチ20と同様に台座に固定され、駆動装置27によって変位制御されるようにすることができる。
【0034】
一般的には、両者間の距離Zが短ければ、インタフェース15、16を通過するイオン量は多く、逆に距離Zが長ければ、通過するイオン量は少ない傾向にある。従って、プラズマトーチ20及びインタフェース間距離Zを調節することにより、インタフェース15、16を通過するイオン数を変更することができる。
【0035】
本発明の特徴的な点の一つは、エアロゾルを構成するキャリアガス及びエアロゾル中に含有される金属イオンを含むプラズマの双方を適正に制御し、高マトリクス試料等の液体試料を簡易に且つ再現性良く希釈できる点にある。すなわち、本発明の制御システムにより、液体を用いた手間のかかる希釈作業は不要となり、ユーザに要求される操作は極めて簡便なものとなる。以下に、本実施形態における制御システムの作用について説明する。
【0036】
本実施形態による誘導結合プラズマ質量分析装置は、制御装置70、それに接続された記憶装置95、及びユーザインタフェース装置100を含む。制御装置70は、高周波電源80、駆動装置27を制御する制御部90、及び液体試料61を供給するためのペリスタルティックポンプ63を制御する制御部64に対して、それぞれ制御信号73A、73B、73Cを送ることができるよう構成される。さらに、制御装置70は、その一部に、ガスの制御を行うためのガス制御部79を含む。
【0037】
ガス制御部79は、ガス流量制御装置74A、74B、75A、75Bに対して、制御信号71A、71B、72A、72Bを送ることができる。制御信号71A、71Bは、それぞれガス流量制御装置74A、74Bにおけるエアロゾル生成ガス76A及び追加希釈ガス76Bの供給量を決定し、制御信号72A、72Bは、それぞれガス流量制御装置75A、75Bにおける補助ガス77A及びプラズマガス77Bの供給量を決定する。
【0038】
なお、制御装置70は、単独又は複数のICを含むことができる。また、制御装置70は、ユーザインタフェース装置100と一体又は別体の組み合わせから成る、表示装置を含むコンピュータ装置として構成されても良い。記憶装置95は、書き換え可能なメモリ装置より構成され得る。図1中には、記憶装置95は、制御装置に結合するように示したが、ユーザインタフェース装置100に結合されるように構成されても良い。
【0039】
ガス制御部79による制御によって、エアロゾル状態での希釈を行わせることができる。図示されるように、スプレーチャンバ50から排出されるエアロゾルに対して、さらに追加希釈ガス76Bを追加し、キャリアガス全量に対する液体試料の液滴の含有割合を減らすことができる。低マトリクス試料の分析の場合等、エアロゾル段階での希釈が必要とされない場合には、エアロゾル生成ガス76Aのみがエアロゾルのキャリアガスとされる。一方で、高マトリクス試料の分析の場合には、追加希釈ガス76Bを追加することによって、エアロゾルを希釈することができる。後者の場合は、エアロゾル生成ガスと希釈追加ガスの両方がキャリアガスとなる。
【0040】
すなわち、本発明では、プラズマトーチ20に達するエアロゾル中に含有される液滴の割合及びキャリアガスの流量は、制御信号73Cを介して行う液体試料61の供給量の制御、及び制御信号71A、71Bを介して行うエアロゾル生成ガス76Aと追加希釈ガス76Bの流量制御によって、複合的ではあるが一対一の対応をもって決定され得る。
【0041】
そこで、例えば、エアロゾル生成ガス76Aの流量に対応した、或いは、それと液体試料61の供給量とに対応したエアロゾル中の液滴含有割合の相関を記録しておき、一方で、希釈追加ガス76Bの流量値をキャリアガスの流量値に加えることにより、エアロゾルを希釈する度合いを数値化することが可能である。かかる数値化は、良好な希釈の再現性を確保するために有効である。
【0042】
エアロゾル生成後に制御可能な希釈を行えるようにしておくことは、後述するプラズマ5の制御との関連でも有効である。追加希釈ガス76Bを供給する手段を持たない場合に、試料に対して希釈を行うべく、エアロゾル生成の際のエアロゾル生成ガスの供給量を減らして液滴含有割合を変更するとすれば、キャリアガスとしての全流量も減ることになる。そうすると、プラズマトーチ20に生成されるプラズマ5が、エアロゾルのキャリアガスによって冷却される程度が低くなってしまう。かかる場合には、最終的にインタフェース15、16を通過するイオン量の程度を精度良く制御することは極めて困難である。
【0043】
本発明の装置では、エアロゾル生成ガスの供給量を減らした場合であっても、適量な追加希釈ガスを追加することによってキャリアガスの全流量に変更がないようにすることができるので、エアロゾル中のキャリアガスの流量を変えることなく、液滴含有量のみが異なるエアロゾルをプラズマトーチ20に供給することができ、分析結果に十分な再現性を確保する。
【0044】
ガス制御部79で各ガスを制御するための基礎データは、ユーザインタフェース装置100を利用して直接入力されても良いし、記憶装置95に予め記憶させておいても良い。図示しないが、ユーザインタフェース装置100は、入力のための装置と、入力及び制御のステータス等を表示する表示装置とを含むことができる。
【0045】
図2は、本発明での制御因子を決定するために参照される、いわゆる感度―酸化物イオン比特性を示すグラフである。この感度―酸化物イオン比のグラフは、横軸(x軸)に特定イオンの検出感度をとり、縦軸(y軸)に当該イオンの酸化物イオン比を対数で表して示したものである。図中に曲線で囲まれるように示された領域は、可変パラメータとして、上述の因子、即ち、キャリアガス流量と、高周波電源出力と、プラズマトーチ及びインタフェース間距離Zとを変更した際の、測定点の分布領域を示すものである。本実施形態では、特定イオンとして、Ce(セリウム)を用いているが、他に、Ba(バリウム)、及びLa(ランタン)も用いることもできる。また、指標として用いられるものは、酸化物イオン比に限らず、本発明で示すところの物理現象の指標となる他の化合物とイオンとの感度比であっても良い。
【0046】
本発明では、制御のためのパラメータに一定の規則性を設定することにより、制御を行うことができる。かかる規則性は、感度―酸化物イオン比から導出される。図示されるように、測定点は、2つの曲線間に挟まれた領域R1内に分布することになる。本発明では、上述の各パラメータを外側の包絡線110の下側に位置するところの矢印Sに沿う点となるように設定する。換言すれば、本発明で、制御装置が制御する全ての因子は、特定の金属イオンの感度と金属イオンの酸化物イオンとの相関を示す感度―酸化物比線図上で、各感度における酸化物イオン比が略最小とされ、感度に対して酸化物イオン比の対数が略比例関係を成す包絡線に沿うという条件に適合するように設定する。
【0047】
すなわち、本発明による装置では、供給されるエアロゾル中のキャリアガスの総流量を変更することなく、液滴量のみを変更することができると共に、単位時間に供給される液滴量を変更することなく、キャリアガスを変更することもできる。後者の場合、キャリアガスの流量に応じて、プラズマ温度他、プラズマの状態が変化する。
【0048】
しかしながら、特にプラズマ温度が低くなった場合には、マトリクス元素が他の元素と結合して、単元素イオンの状態ではなくなり、被測定元素の分析に対して障害となる干渉を生じることになる。かかる状態は、意図的に生ぜしめる場合は格別、所定の元素の分析を目的とする場合には好ましくない。そこで、本発明では、キャリアガスの総流量が少ない場合でも、逆に多い場合でも、プラズマの温度(特にガス温度)を下げることのないように、上述のパラメータを設定する。例えば、本実施形態の場合、制御のためのパラメータの組に対応する点は、後述のように、図3のグラフ中に略平行四辺形で示される、所定の酸化物イオン比と感度とにより画定された領域R2の内側の点として決定することができる。かかる領域は、所定の数式関係の充足、または所定の数値範囲の設定等、種々の方法により決定され得る。
【0049】
かかるパラメータ設定方法を採ることにより、分析時に比較的高いガス温度を維持でき、キャリアガスの流量が比較的少ない場合でも、或いは逆に後述のように希釈のためにキャリアガスの流量を多くした場合でも、被測定元素が他の化合物を形成することによる分析精度に対する悪影響を回避することができる。
【0050】
また、前述したように各可変パラメータをユーザが直接入力して決定する場合で、その入力値が所定の範囲外(例えば、図2中の領域R2の外側)にある場合は、入力値の使用を拒否するようにすることができる。すなわち、例えば、ユーザインタフェース装置100は、パラメータを順次入力する際に、後に入力するパラメータが適当でないと判断した場合に、その受け付けを拒絶することができ、他の場合には、全パラメータを入力した後に警告が生じるようにしても良い。一方、本発明の装置が、各可変パラメータを予め記憶装置95に記憶させておく構成の場合には、記憶させるパラメータの組として、上の条件を満足するものを選んでおくようにすることができる。以下に、パラメータの設定の例について説明する。
【0051】
図3は、特に、プラズマ状態にある試料に作用する各条件のパラメータについて、それらを変更した場合の条件設定の例を示す図である。(a)には、マトリクス濃度の異なる試料に対応して選択可能な複数のモードの条件設定が示され、(b)には、各モードに対応する感度―酸化物イオン比のグラフ上の位置が示される。
【0052】
図3(a)に示す各モードに対応した数値は、後述のエアロゾルに対して作用する各パラメータとともに、読み出し可能な記憶装置に記憶させておくことができる。この例では、5のモードを設定しているが、数はさらに少なくても良いし、逆にモードを多数設定して、所定の範囲で略連続的なパラメータの変更を行うことも可能である。なお、本例では、キャリアガスは、その全量をエアロゾル生成ガスとして供給しており、ペリスタルティックポンプによる液体試料の供給量も一定としている。
【0053】
図3(a)の表中で、モード1が高感度側、モード5が低感度側である。すなわち、低マトリクス試料の分析に際しては、モード1側よりのモードが使用され、高マトリクス試料の分析に際しては、モード5側よりのモードが使用される。表中のセリウムイオンの感度に着目すると、モード1とモード5とでは、4倍を超える感度比が実現されていることが理解される。
【0054】
一方、図3(b)によれば、各モードに対応する点は、感度―酸化物イオン比のグラフ上で、底側包絡線に沿う点となっていることが理解される。したがって、前述のように、各モードで、酸化物他が分析結果に与える悪影響が極力減らされることが理解される。
【0055】
図4には、他のパラメータ設定例が示される。(a)には、マトリクス濃度の異なる試料に対応して選択可能な複数のモードの条件設定が示され、(b)には、各モードに対応する感度―酸化物イオン比のグラフ上の位置が示される。本例では、(a)に示すように、高周波電源の出力(RF出力)が、一定の値とされ、他のパラメータを変更することにより、感度差を実現している。
【0056】
図3と同様に、図4の例でも、低マトリクス試料は、モード1側よりの条件で分析され、高マトリクス試料は、モード6側よりの条件で実現される。最大感度を得るモード1と最小感度を得るモード6のセリウムイオンの感度を比較すると、4倍を超える(6倍以上の)感度比が実現されている。また、図4(b)に示すように、感度―酸化物イオン比のグラフ上で各モードに対応する点は、図3の場合と同様に、底側包絡線に沿う点となっている。
【0057】
図3及び図4が、プラズマ状態にある試料に作用するパラメータの条件設定を示す表であるのに対し、図5は、エアロゾル状態にある試料に作用するパラメータの条件設定の例を示す表である。例えば、分析対象となる試料が低マトリクス試料の場合は、スプレーチャンバから排出されたエアロゾルが希釈される必要はないかも知れないが、分析対象となる試料が高マトリクス試料の場合には、エアロゾルに対して希釈ガスが追加され、さらなる希釈が要求される場合もある。図5中の各表は、希釈ガスの追加量に応じたエアロゾル希釈の程度を示している。
【0058】
図5中には、3種類の設定を例示している。(a)は、キャリアガスの総流量を1.05ml/分に固定した設定例、(b)は、キャリアガスの総流量を1.05ml/分から0.95ml/分に変更した段を含む設定例、および(c)は、キャリアガスの総流量を0.95ml/分に固定した設定例である。これらは、あくまでも例示的なものであって、他にも種々の設定が可能である。
【0059】
重要な点は、図3及び図4に例示されるような手法によって、一旦キャリアガス流量が設定され、そのキャリアガス流量の条件に対して、エアロゾルの希釈が掛け合わされるように作用する点である。すなわち、希釈の程度を決定する際に、まず、図3又は図4に示される、プラズマに作用するパラメータについて、適当な希釈の程度が決定され、その後、それに掛け合わされる形で、エアロゾルに作用するためのパラメータが図5に示す表から決定される。
【0060】
具体例により、図3及び図4に示すプラズマに作用するパラメータと、図5に示すエアロゾルに作用するパラメータとの協働作用について説明する。一例として、図3(a)に示す第4モードでは、キャリアガスの総流量は1.05ml/分であり、一連のモード設定のうち、最大の感度を有する第1モードに比較して、感度で約1/2となっている。これは、プラズマに作用するパラメータの変更のみによって、インタフェースを通過する試料イオンの量を約半分に減らしていることを意味する。
【0061】
この場合、図5に示すパラメータを適当に選択することによって、さらなる希釈を行うことができる。前述したように、図5(a)に示す一連のモードは、全てキャリアガス総流量1.05ml/分である。そこで、図3(a)における第4モードにして、初期設定を図5(a)のAモードにした後、第4モードを維持しつつ、図5(a)のモードをBモードに変更すれば、さらに感度を1/2に、即ちインタフェースを通過する試料イオン量を1/2に変更する希釈を行うことができ、結果として、最大値に比して1/4程度の希釈が可能となる。
【0062】
また、他の場合には、これらのモードを両方共に変更することもできる。例えば、図3(a)に示す第4モードから第5モードに変更することにより、第1モードに比して約1/2の希釈から約1/4の希釈に変更することができる。この場合、キャリアガスの総流量は、1.05ml/分から0.95ml/分に変更される。そこで、図5中で、そのような変更に対応できるモード変更を図5中の表から選択することになる。
【0063】
一例として、図5(b)の一連のモードを用いて、初期設定をキャリア総流量1.05ml/分であるAモードにした後、第4から第5モードへの変更に合わせて、キャリア総流量が0.95ml/分であるBモードに変更する。そうすると、第5モード選択による約1/4の希釈とBモード選択による約1/2の希釈との掛け合わせによって、約1/8の希釈を行うことができる。
【0064】
上述したように、プラズマに作用するパラメータ、及びエアロゾルに作用するパラメータの変化を協働させることによって、種々の希釈を行うことができる。両者は、試料に対する物理的作用を異にするため、被測定試料に応じて、適当な設定パラメータを選択することができる。図3乃至図5に示した表中のパラメータは、あくまでも例示のためのものであり、多数のパラメータを記憶装置に記憶させて必要に応じて読み出すことにより、種々の異なる希釈条件を提供することができる。
【0065】
もっとも、用途が限られており、必要以上の種類のパラメータの組を要しない場合には、プラズマに作用するパラメータ及びエアロゾルに設定するパラメータの組を予め数種類程度決定し、それらのみを記憶装置95に記憶させて、読み出すようにしても良い。
【0066】
図6は、図1の変形例となる実施形態を説明する図であり、サンプリング深さZの変更を実現するための他の手段を示す図である。前述したように、図1に示す実施形態では、インタフェース15、16は固定されたものとされ、インタフェース15、16に対してプラズマトーチ20が可動となるようにした。図4に示す実施形態では、逆に、プラズマトーチ20を固定し、プラズマトーチ20に対してインタフェース15、16が可動となるようにされる。
【0067】
図6に示すように、サンプリングコーン15及びスキマーコーン16は、ユニット化され、このユニット17が枠体18の内部を、図示しない案内手段によって案内されて移動可能とされる。一例として、図示しない駆動装置は枠体18側に設けられ、当該駆動装置は制御部91によって制御される。なお、サンプリングコーン15とスキマーコーン16との間は減圧され、さらにスキマーコーン16の後段はさらに高真空となるよう減圧されるが、それらの手段は、図6には示していない。
【0068】
以上のように本発明の好適となる実施形態について説明したが、これはあくまでも例示的なものであり本発明を制限するものではなく、当業者によってさらに様々な変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による誘導結合プラズマ質量分析装置のプラズマ生成部周辺の構成を示す図である。
【図2】いわゆる感度―酸化物イオン比特性を示すグラフである。
【図3】プラズマ状態にある試料に作用するパラメータの設定例を説明する図であり、(a)は、マトリクス濃度の異なる試料に対応して選択可能な複数のモードの条件設定を示し、(b)は、各モードに対応する感度―酸化物イオン比のグラフ上の位置を示す。
【図4】高周波電源の出力を固定した場合のパラメータ設定例を示す図3類似の表及び図である。
【図5】エアロゾル状態にある試料に作用するパラメータの設定例を示す表であり、(a)及び(c)は、キャリアガスの総流量が所定の値に固定される設定例、及び(b)は、キャリアガスの総流量が変更される段を含む設定例をそれぞれ示す。
【図6】サンプリング深さZを変更するための他の手段を説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
10 プラズマ生成部
15 サンプリングコーン
16 スキマーコーン
20 プラズマトーチ
30 エアロゾル生成部
40 ネブライザ
50 スプレーチャンバ
60 液体試料供給手段
64 制御部
70 制御装置
74 キャリアガス制御部
75 プラズマガス制御部
80 高周波電源
90 制御部
95 記憶装置
100 ユーザインタフェース装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源に接続されたワークコイルに近接配置されるプラズマトーチに、分析試料を含む液滴及びキャリアガスを有するエアロゾルを導入し、該エアロゾル含有元素のイオンを含むようにしたプラズマをオリフィスを備えたインタフェースに向けて生成し、前記イオンの少なくとも一部を、前記オリフィスを通過させて取り出すようにした誘導結合プラズマ質量分析装置において、
前記エアロゾル中の液滴の量、前記エアロゾル中のキャリアガスの流量、前記高周波電源のRF出力、及び前記プラズマトーチと前記インタフェースとの間の距離の全ての条件を包括して制御する制御装置を備え、該制御装置での制御によって、測定される前記イオンの感度を所望の程度に設定できるようにして、分析される前記イオンの感度の最大値と最小値との比が少なくとも10倍とされることを特徴とする誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記全ての条件のうち、少なくとも前記エアロゾル中のキャリアガスの流量、前記高周波電源のRF出力、及び前記プラズマトーチと前記インタフェースとの間の距離の条件を、特定の金属イオンの感度と前記金属イオンの酸化物イオンとの相関を示す感度―酸化物イオン比線図上で、分析条件に対応する点が、各感度における酸化物イオン比が略最小とされ、感度に対して酸化物イオン比の対数が略比例関係を成す包絡線に沿って位置するように決定されることを特徴とする、請求項1に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項3】
少なくとも前記エアロゾル中のキャリアガスの流量、前記高周波電源のRF出力、及び前記プラズマトーチと前記インタフェースとの間の距離の条件は、分析条件に対応する点が、前記感度―酸化物イオン比線図上の所定の領域内に位置するように決定されることを特徴とする、請求項2に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項4】
前記キャリアガスは、前記エアロゾルを生成する際に用いられる第1のガスと、前記エアロゾルの生成後に追加混合される第2のガスとを含み、前記制御装置は、前記第1のガス及び前記第2のガスの両者の流量を制御することにより、前記エアロゾル中の前記液滴の含有割合を調節できるようにしたことを特徴とする、請求項2に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項5】
前記第2のガスの量を変更しない条件設定で、前記包絡線に沿う各位置での感度の最大値及び最小値の比が、4倍以上となることを特徴とする、請求項4に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第1のガス及び前記第2のガスの総流量を一定にし、前記第1のガス及び第2のガスの流量比のみを変更することにより、前記プラズマトーチに前記単位時間あたりに供給される前記液滴の量を変更するように制御できることを特徴とする、請求項5に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記第1のガス及び前記第2のガスの総流量を一定にし、前記第1のガス及び第2のガスの流量比のみを変更することにより、前記プラズマトーチに前記単位時間あたりに供給される前記液滴の量の最大値と最小値との比が5倍以上となるようにされることを特徴とする、請求項6に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。
【請求項8】
前記プラズマトーチと前記インタフェースとの間の距離は、前記プラズマトーチ又は前記インタフェースのいずれかを軸線方向に移動させることにより変更されることを特徴とする、請求項1に記載の誘導結合プラズマ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−45901(P2008−45901A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219520(P2006−219520)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】