説明

誘導装置

【課題】ミサイルなどの飛翔体に搭載される誘導装置で、誘導信号の変動および角度追尾のレスポンス悪化を招くことのない誘導装置を得る。
【解決手段】発振器とアンテナジンバルに搭載するフロントエンドに温度センサを取り付け、発振器温度とフロントエンドの温度を実運用する際の範囲で変動させて、発振器温度とDIF系またはSUM系信号位相の温度変動分のデータベースを構築する。同様にフロントエンドに搭載するフロントエンド温度と残りの系のIF信号位相差のデータベースを構築する。構築したデータベースを用いて、線形補間により各部温度からDIF系およびSUM系のIF信号位相の温度変動分を予測する。予測で求められたDIF系、SUM系IF信号の位相差分を位相器で補正することでDIF系、SUM系IF信号位相差を低減することができ、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるため、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミサイルなどの飛翔体に搭載される誘導装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、飛翔体に搭載される誘導装置は、目標からの受信波から得られる角度誤差を誘導信号に変換し、誘導信号にしたがってアンテナを指向することにより目標を追尾しているが、角度誤差を得る方式の1つとして、モノパルス方式が知られている。
【0003】
モノパルス方式とは、受信電力からDIF系およびSUM系の2系統の信号を生成し、フロントエンドなどで各信号をダウンコンバートして角度誤差を計算し、誘導信号を得る方式である。ここで、フェーズドアレイではないアンテナにおいては、ビームの指向にアンテナジンバルが用いられている。
【0004】
モノパルス方式で、かつアンテナの指向にアンテナジンバルを用いた誘導装置においては、アンテナジンバルの機構上、ロータリジョイントでアンテナジンバル上に高周波を伝導するので、限られた信号数のみしかアンテナジンバル上に伝導することはできない。
一般に、ロータリジョイントは、ジョイントの回転軸を導波路とするので、2軸のアンテナジンバル上に伝導することのできる高周波は2信号である。
【0005】
一般的なアンテナにおいて、モノパルス方式を採用した場合には、アンテナジンバル上に高周波である送信波と局発信号との2信号を伝導し、受信波のDIF系およびSUM系の2信号を、発振器からの局発信号を用いて、アンテナジンバル上のフロントエンドでダウンコンバートすることにより、誘導信号を計算する。
【0006】
したがって、アンテナジンバル上に伝導できる高周波の数は、2信号で十分である。
しかし、たとえば、単一のアンテナを使用するデュアルバンドレーダのように、DIF系およびSUM系の信号をそれぞれ2セット(異なる周波数帯域)で必要とするアンテナの場合には、送信波も異なる周波数の2セットが必要となるので、ロータリジョイントで伝導可能な高周波信号数の制限により、局発信号をアンテナジンバル上に伝導することができなくなる。
【0007】
この場合、受信信号のDIF系またはSUM系信号の一方は、高周波のままロータリジョイントでアンテナジンバル外のフロントエンドに伝導して、発振器からの高周波信号によりダウンコンバートし、残りの系の信号については、アンテナジンバル上に同軸ケーブルで伝導した低周波信号をアンテナジンバル上で高周波にアップコンバートし、生成した高周波を用いてアンテナジンバル上でダウンコンバートした後、IF信号として同軸ケーブルなどで後段の受信機に伝導する方式が考えられる。
【0008】
しかし、上記方式では、発振器内のアップコンバート用能動素子と、アンテナジンバル上のアップコンバート用能動素子との温度差により、DIF系信号とSUM系信号との間で位相差が生じてしまい、角度ディスクリの傾きが温度によって変動することから、誘導信号が変動し、角度追尾のレスポンスが悪くなる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の誘導装置は、角度誤差検出にモノパルス方式を用い、かつビームの指向にアンテナジンバル方式を採用し、単一のアンテナを使用するデュアルバンドレーダのようなDIF系およびSUM系の信号を2セット必要とするアンテナを採用した場合には、ロータリジョイントで伝導可能な高周波信号数の制限によって高周波信号数が不足するので、受信信号(DIF系、SUM系信号)のうちの一方の系については発振器の高周波を用いてダウンコンバートし、他方の系については、アンテナジンバルから降ろさずに、アンテナジンバル上に同軸ケーブルで伝導した低周波信号をアンテナジンバル上で高周波にアップコンバートし、生成した高周波を用いてアンテナジンバル上でダウンコンバートすることにより、IF信号として同軸ケーブルで後段の受信機に接続することが考えられるが、発振器内のアップコンバート用能動素子とアンテナジンバル上のアップコンバート用能動素子との温度差により、DIF系およびSUM系の信号間で位相差が生じ、角度ディスクリの傾きが温度によって変動することから、誘導信号が変動して角度追尾のレスポンスが悪くなり、結局、実用化することができないという課題があった。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、モノパルス方式を用い、ビームの指向にアンテナジンバル方式を採用した誘導装置において、誘導信号の変動および角度追尾のレスポンス悪化を招くことなく、DIF系およびSUM系の2信号を用いた誘導装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る誘導装置は、高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号を受信するためのアンテナが搭載されたアンテナジンバルと、DIF系受信信号からDIF系IF信号を生成するDIF系フロントエンドと、SUM系受信信号からSUM系IF信号を生成するSUM系フロントエンドと、DIF系IF信号およびSUM系IF信号からビデオ信号を生成する受信機と、受信機に対する低周波の局発信号を生成する発振器と、を備え、DIF系フロントエンドおよびSUM系フロントエンドのうちの一方のフロントエンドは、アンテナジンバルに搭載され、DIF系フロントエンドおよびSUM系フロントエンドのうちの他方のフロントエンドは、アンテナジンバルの外部に配設され、発振器は、アンテナジンバル上の一方のフロントエンドに対する低周波の基準信号と、アンテナジンバルの外部に配設された他方のフロントエンドに対する高周波の局発信号とを生成する誘導装置であって、一方のフロントエンドに取り付けられて一方の系温度を検出する第1の温度センサと、発振器に取り付けられて発振器温度を検出する第2の温度センサと、一方の系温度と発振器温度との温度差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部と、一方のフロントエンドと受信機との間に挿入された位相器とをさらに備え、位相器は、位相補正量を用いて、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした位相補正後のIF信号を受信機に入力するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、角度誤差検出にモノパルス方式を用い、ビームの指向にアンテナジンバル方式を採用した誘導装置において、DIF系およびSUM系の信号を2セット必要とするアンテナを使用した場合であっても、DIF系およびSUM系の信号間の位相差を低減することができ、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1が適用される誘導装置の基本構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1による各IF信号の位相差計算処理を図式的に示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1が適用される誘導装置の基本構成を概略的に示すブロック図である。
【0015】
また、図2はこの発明の実施の形態1に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図であり、代表的に1セットの受信波に関連する構成のみ(送信機10、送受信切換部11などを省略)を示している。図2において、図1内の構成と同一部分には同一符号が付され、対応する部分については、符号の後に「A」が付されている。
【0016】
図1において、誘導装置は、アンテナ2を搭載したアンテナジンバル1と、アンテナジンバル1に設置されたDIF系フロントエンド3と、アンテナジンバル1を回転可能に支持するロータリジョイント4と、異なる周波数の2信号(送信用源信号)を送信する2セットの発振器9と、発振器9からの2セットの送信用源信号を個別に送信波に変換する2セットの送信機10と、送受信切換部11と、アンテナジンバル1の外部に設置されたSUM系フロントエンド12と、ビデオ信号を生成する2セットの受信機13と、を備えている。
【0017】
受信機13は、DIF系フロントエンド3から生成される2セットのDIF系IF信号(目標の方向に対応)と、SUM系フロントエンド12から生成される2セットのSUM系IF信号(目標までの距離に対応)とから、目標情報を含むビデオ信号を生成してA/D変換器(図示せず)に出力する。
【0018】
発振器9は、2セットの送信用源信号を生成するとともに、DIF系フロントエンド3に対する基準信号(低周波)と、SUM系フロントエンド12に対するダウンコンバート用の局発信号(高周波)と、受信機13に対するダウンコンバート用の局発信号(低周波)を生成する。
【0019】
アンテナ2は、送受信アンテナからなり、空間に2セット(異なる周波数)の電波を放射するとともに、目標およびクラッタからの4セット(2セットの各々に対するDIF系およびSUM系)の反射波を、各2セットずつの高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号として受信する。
このとき、アンテナジンバル1は、ロータリジョイント4を介して、アンテナ2のビームを指向調整する。
【0020】
ロータリジョイント4は、送信機10から入力された2セットの送信信号をアンテナ2に送出するとともに、アンテナ2からの2セットの受信波(SUM系受信信号)を送受信切換部11に送出する。
送受信切換部11は、送信時には、アンテナ2に送信波(高周波)を出力し、受信時には、信号経路を切換えて、アンテナ2からのSUM系受信信号をSUM系フロントエンド12に送出する。
【0021】
アンテナジンバル1上のDIF系フロントエンド3は、発振器9からの基準信号を用いて、アンテナ2により受信されたDIF系受信信号に基づくDIF系IF信号を生成する。
アンテナジンバル1の外部のSUM系フロントエンド12は、アンテナ2により受信されたSUM系受信信号を、ロータリジョイント4および送受信切換部11を介して取り込み、発振器9からの局発信号を用いて受信信号をダウンコンバートし、SUM系IF信号を生成する。
【0022】
なお、図1においては、DIF系フロントエンド3をアンテナジンバル1上に設置し、SUM系フロントエンド12をアンテナジンバル1の外部に設置した例を示しているが、DIF系フロントエンド3およびSUM系フロントエンド12のうちの任意の一方のみがアンテナジンバル1上に設置され、他方が外部に配置されていればよい。
【0023】
図2において、この発明の実施の形態1に係る誘導装置は、DIF系フロントエンド3Aに取り付けられてDIF系温度tを検出する温度センサ20と、発振器9に取り付けられて発振器温度Tを検出する温度センサ21と、DIF系温度tと発振器温度Tとの温度差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部22と、DIF系フロントエンド3Aと受信機13(図1)との間に挿入された位相器23と、をさらに備えている。
【0024】
発振器9からの基準信号(低周波)は、ケーブル(図示せず)を介してアンテナジンバル1A上に導かれる。
温度センサ21により計測された発振器温度Tは、ケーブル(図示せず)を介して位相器制御部22に導かれる。また、発振器9からSUM系フロントエンド12への局発信号(高周波)は、導波管など(図示せず)を介して導かれる。
【0025】
DIF系フロントエンド3Aは、アップコンバータ5と温度センサ20とを備えており、発振器9からの基準信号(低周波)を取り込み、内部のアップコンバータ5を用いて、基準信号を高周波の局発信号に変換し、アップコンバートされた局発信号を用いて受信信号をダウンコンバートし、DIF系IF信号を生成する。
【0026】
また、DIF系フロントエンド3Aは、内部構成品の温度センサ20で計測した自身のDIF系温度tを位相器制御部22に入力する。同様に、発振器9に取り付けられた温度センサ21は、計測した発振器温度Tを位相器制御部22に入力する。
【0027】
位相器23は、位相器制御部22で算出された位相補正量を用いて、DIF系IF信号の位相を調節してSUM系IF信号に位相を合わせることにより、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした、位相補正後のDIF系IF信号を受信機13に入力する。
【0028】
なお、図2において、発振器9、送信機10、送受信切換部11、DIF系フロントエンド3A、SUM系フロントエンド12、および受信機13は、それぞれ、2セット分をまとめて1つのブロックで示している。
【0029】
次に、図3の説明図を参照しながら、この発明の実施の形態1による位相器制御部22の位相差計算処理について説明する。
まず、図3(a)のように、発振器9の温度T(T、T、・・・)を、実運用する際の範囲で変化させ、その際に、SUM系IF信号の位相が基準温度(たとえば、20℃)での位相からどれだけ変化したかを計測して、発振器温度TとSUM系IF信号位相の温度変動φ(φ、φ、・・・)とのデータベース(テーブル)を作成する。
【0030】
次に、図3(b)のように、線形補間を用いた以下の式(1)により、実運用時の発振器温度Tから、SUM系IF信号位相の温度変動φを求める。
【0031】
【数1】

【0032】
式(1)において、実運用時の発振器温度Tと、常温からのSUM系IF信号位相の温度変動φとに対し、サンプルの温度差(T−T)および位相差(φ−φ)は、添え字「1、2、・・・」で表している。
なお、発振器温度T、T、Tに関しては、T<T<Tの関係があるものとする。
図3(b)においては、発振器温度Tおよび温度変動φに対応したサンプル点P1と、発振器温度Tおよび温度変動φに対応したサンプル点P2とが示されている。
【0033】
同様に、図3(c)のように、DIF系フロントエンド3AのDIF系温度t(t、t、・・・)を実運用する際の範囲で変化させ、その際に、DIF系IF信号の位相が基準温度(たとえば、20℃)での位相からどれだけ変化したかを計測して、DIF系温度tとDIF系IF信号位相の温度変動ψ(ψ、ψ、・・・)とのデータベース(テーブル)を作成する。
【0034】
次に、図3(d)のように、以下の式(2)により、線形補間を用いて実運用時のDIF系フロントエンドの温度からDIF系IF信号の温度変動を求める。
【0035】
【数2】

【0036】
ここで、実運用時のDIF系温度tと、常温からのDIF系IF信号位相の温度変動ψとに対し、サンプルの温度差(t−t)および位相差(ψ−ψ)は、添え字「1、2、・・・」で表す。
なお、DIF系温度t、t1、に関しては、t<t<tの関係があるものとする。
図3(d)においては、DIF系温度tおよび温度変動ψに対応したサンプル点Q1と、DIF系温度tおよび温度変動ψに対応したサンプル点Q2とが示されている。
【0037】
図3(a)〜図3(d)のように作成したデータベースにより、発振器温度T、DIF系温度tにおけるDIF系IF信号を基準としたSUM系IF信号の位相差θは、以下の式(3)により求められる。
【0038】
【数3】

【0039】
位相器制御部22は、温度センサ20、21から入力されたDIF系温度tおよび発振器温度Tから、式(1)〜式(3)により、現在温度で生じるDIF系IF信号を基準としたSUM系IF信号の位相差θを予測演算し、式(3)で予測した位相差θの符号を反転させた値を、キャンセル用の位相補正量として位相器23に入力する。
【0040】
以下、位相器23は、位相補正量にしたがって、DIF系IF信号の位相を補正して受信機13(図1)に入力する。
なお、位相器23の設置場所は、DIF系フロントエンド3Aの後段側に限らず、SUM系フロントエンド12の後段側であってもよい。ただし、この場合、位相器制御部22は、予測した位相差θの符号を反転させずに、SUM系IF信号に対する位相補正量とすればよい。
【0041】
図2に戻り、アンテナジンバル1Aに搭載されたアンテナ2は、目標およびクラッタから反射された4セットの受信波のうち、2セットのDIF系受信信号をDIF系フロントエンド3Aに入力し、他の2セットのSUM系受信信号を、ロータリジョイント4を介してSUM系フロントエンド12に入力する。
【0042】
DIF系フロントエンド3Aは、アップコンバータ5により、発振器9からの基準信号(低周波)を用いて、SUM系フロントエンド12に対する局発信号(高周波)と同一周波数の局発信号を生成し、この局発信号を用いてDIF系受信信号をダウンコンバートし、DIF系IF信号を生成する。また、温度センサ20により、自身のDIF系温度tを計測して出力する。
一方、SUM系フロントエンド12は、発振器9からの局発信号(高周波)を用いてSUM系受信信号をダウンコンバートし、SUM系IF信号を生成する。
【0043】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1、図2)に係る誘導装置は、高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号を受信するためのアンテナ2が搭載されたアンテナジンバル1Aと、DIF系受信信号からDIF系IF信号を生成するDIF系フロントエンド3Aと、SUM系受信信号からSUM系IF信号を生成するSUM系フロントエンド12と、DIF系IF信号およびSUM系IF信号からビデオ信号を生成する受信機13と、受信機13に対する低周波の局発信号を生成する発振器9と、を備えている。
【0044】
DIF系フロントエンド3AおよびSUM系フロントエンド12のうちの一方のフロントエンド(DIF系フロントエンド3A)は、アンテナジンバル1Aに搭載され、他方のフロントエンド(SUM系フロントエンド12)は、アンテナジンバル1Aの外部に配設されている。
発振器9は、DIF系フロントエンド3Aに対する低周波の基準信号と、SUM系フロントエンド12に対する高周波の局発信号とを生成する。
【0045】
また、この発明の実施の形態1(図2)に係る誘導装置は、DIF系フロントエンド3Aに取り付けられてDIF系温度t(一方の系温度)を検出する温度センサ20(第1の温度センサ)と、発振器9に取り付けられて発振器温度Tを検出する温度センサ21(第2の温度センサ)と、DIF系温度tと発振器温度Tとの温度差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部22と、DIF系フロントエンド3Aと受信機13との間に挿入された位相器23と、をさらに備えている。
位相器23は、位相補正量を用いて、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした位相補正後のDIF系IF信号を受信機13に入力する。
【0046】
すなわち、発振器9とアンテナジンバル1A上のDIF系フロントエンド3Aとの各々に温度センサ20、21を取り付け、発振器温度TおよびDIF系温度tを実運用する際の範囲で変動させて、発振器温度TとSUM系(またはDIF系)IF信号の位相の温度変動φとのデータベース(図3(b))を構築するとともに、DIF系温度tとDIF系IF信号位相の温度変動ψとのデータベース(図3(d))を構築し、各データベースを用いて、線形補間により、各部温度からDIF系およびSUM系のIF信号位相の温度変動分を予測し、予測で求められたDIF系IF信号とSUM系IF信号との位相差θを位相器23で補正(キャンセル)する。
【0047】
これにより、DIF系IF信号とSUM系IF信号との位相差を低減することができ、この結果、ビデオ信号に基づく誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、目標に対する角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【0048】
また、上記構成により、角度誤差検出にモノパルス方式を用い、かつビーム指向にアンテナジンバル1Aを採用した誘導装置において、DIF系およびSUM系の信号を2セット必要とするアンテナ2を使用した場合でも、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差を低減することができ、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【0049】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図2)では、温度センサ20、21を用いたが、図4のように、位相検波器25、26を用いてもよい。
図4はこの発明の実施の形態2に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「B」を付して詳述を省略する。
【0050】
図4において、アンテナジンバル1B上のDIF系フロントエンド3Bは、前述と同様のアップコンバータ5を備えている。
DIF系フロントエンド3Bの出力端子には、位相検波器25が設けられている。
位相検波器25は、DIF系フロントエンド3BからのDIF系IF信号の位相を検波して、位相器制御部22Bの一方の端子に入力するとともに、位相器23に対してDIF系信号をスルー入力する。
【0051】
また、SUM系フロントエンド12の出力端子には、位相検波器26が設けられている。
位相検波器26は、SUM系フロントエンド12からのSUM系IF信号の位相を検波して、位相器制御部22Bの他方の端子に入力するとともに、受信機13(図1)に対してSUM系IF信号をスルー入力する。
【0052】
位相器制御部22Bは、DIF系およびSUM系の各IF信号の位相差(DIF系IF信号位相を基準としたSUM系IF信号位相の差)を計算し、位相差の符号を反転させた値を、キャンセル用の位相補正量として位相器23に入力する。
【0053】
以下、前述と同様に、位相器23は、位相補正量にしたがって、DIF系IF信号の位相を補正する。
なお、この場合も、位相器23の設置場所は、DIF系フロントエンド3Bの後段側に限らず、SUM系フロントエンド12の後段側であってもよく、位相器制御部22Bは、位相差の符号を反転させずに、SUM系IF信号に対する位相補正量とすればよい。
【0054】
以上のように、この発明の実施の形態2(図1、図4)に係る誘導装置は、アンテナジンバル1B上のDIF系フロントエンド3Bの出力端子に設けられてDIF系IF信号位相(第1のIF信号位相)を検出する位相検波器25(第1の位相検波器)と、アンテナジンバル1Bの外部のSUB系フロントエンド12の出力端子に設けられてSUM系IF信号位相(第2のIF信号位相)を検出する位相検波器26(第2の位相検波器)と、DIF系IF信号位相とSUM系IF信号位相との位相差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部22Bと、DIF系フロントエンド3Bと受信機13との間に挿入された位相器23とを備えている。
【0055】
位相器23は、位相補正量を用いて、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした位相補正後のIF信号(DIF系IF信号)を受信機13に入力する。
これにより、前述と同様に、DIF系IF信号とSUM系IF信号との位相差を低減することができ、この結果、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【0056】
また、上記構成により、角度誤差検出にモノパルス方式を用い、ビーム指向にアンテナジンバル1Bを採用した誘導装置において、DIF系およびSUM系の信号を2セット必要とするアンテナ2を使用した場合でも、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差を低減することができ、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【0057】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2(図2、図4)では、一方のフロントエンドの出力側に位相補正用の位相器23を設けたが、図5のように、前述の温度センサ20、21に加えて、DIF系フロントエンド3C内にヒータ制御部30およびヒータ31(温度調節手段)を設けてもよい。
【0058】
図5はこの発明の実施の形態3に係る誘導装置の要部構成を具体的に示すブロック図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「C」を付して詳述を省略する。
【0059】
図5において、アンテナジンバル1C上のDIF系フロントエンド3Cは、アップコンバータ5および温度センサ20に加えて、ヒータ制御部30およびヒータ31を備えている。
また、発振器9には、発振器温度Tを計測する温度センサ21が設けられており、発振器温度Tは、温度センサ21から、ケーブルを介してアンテナジンバル1C上のヒータ制御部30に入力される。
【0060】
ヒータ制御部30は、温度センサ20で計測されたDIF系温度tと、温度センサ21で計測された発振器温度Tとを入力情報として、ヒータ31の指令値を算出し、t=Tとなるように、ヒータ31を制御する。
具体的には、ヒータ制御部30は、DIF系温度tを基準とした発振器温度Tの差分を計算し、得られた差分に所定ゲインを乗算して指令値(電力値)とし、ヒータ31に入力する。
【0061】
以下、ヒータ31は、指令値にしたがって作動し、DIF系温度tが発振器温度Tと一致するまで、DIF系フロントエンド3Cを暖める。
これにより、DIF系温度tと発振器温度Tとの温度差がキャンセルされるので、温度差に起因した各IF信号の位相差もキャンセルされることになる。
【0062】
以上のように、この発明の実施の形態3(図5)に係る誘導装置のアンテナジンバル1C上のDIF系フロントエンド3Cは、DIF系温度tを検出する温度センサ20と、DIF系温度tを調節するヒータ制御部30およびヒータ31(温度調節手段)とを備え、発振器9は、発振器温度Tを検出する温度センサ21を備えている。
ヒータ制御部30およびヒータ31は、DIF系温度tと発振器温度Tとの温度差をキャンセルするようにDIF系温度tを調節する。
【0063】
すなわち、発振器9とアンテナジンバル1C上のDIF系フロントエンド3Cとに温度センサ20、21を取り付け、発振器温度TとDIF系温度tとから両者の温度差を算出し、DIF系フロントエンド3C上のヒータ制御部30およびヒータ31を用いて、DIF系温度tを発振器温度Tと一致するまで暖める。
【0064】
これにより、DIF系IF信号とSUM系IF信号との位相差の原因となる、発振器9とDIF系フロントエンド3Cとの間の温度差を低減することができるので、前述と同様に、DIF系IF信号とSUM系IF信号との位相差を低減することができる。
また、この結果、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、角度追尾のレスポンス低下を防ぐことができる。
【0065】
さらに、上記構成により、角度誤差検出にモノパルス方式を用い、ビーム指向にアンテナジンバル1Cを採用した誘導装置において、DIF系およびSUM系の信号を2セット必要とするアンテナ2を使用した場合でも、DIF系IF信号とSUM系IF信号との間の位相差を低減することができ、誘導信号の温度による変動を防ぐことができるので、アンテナジンバル1Cのレスポンス低下を防ぐことができる。
【0066】
なお、上記実施の形態3(図5)では、発振器9の温度Tが上昇しやすいことから、DIF系温度tよりも高いこと(T>t)を前提として、DIF系フロントエンド3C内にヒータ制御部30およびヒータ31を設けたが、T<tの場合も想定して、温度調節手段として冷却ファンなどを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
また、この発明は、誘導装置に限らず、航空においても、デュアルバンドレーダでDIF系およびSUM系を複数要する特殊なアンテナを備えるレーダなどへの利用可能性がある。
【符号の説明】
【0068】
1、1A、1B、1C アンテナジンバル、2 アンテナ、3A、3B、3C DIF系フロントエンド、4 ロータリジョイント、5 アップコンバータ、9 発振器、10 送信機、11 送受信切換部、12 SUM系フロントエンド、13 受信機、20、21 温度センサ、22、22B 位相器制御部、23 位相器、25、26 位相検波器、30 ヒータ制御部、31 ヒータ、t、t、t DIF系温度、T、T、T 発振器温度、θ 位相差、φ、φ、φ 温度変動、ψ、ψ、ψ 温度変動。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号を受信するためのアンテナが搭載されたアンテナジンバルと、
前記DIF系受信信号からDIF系IF信号を生成するDIF系フロントエンドと、
前記SUM系受信信号からSUM系IF信号を生成するSUM系フロントエンドと、
前記DIF系IF信号および前記SUM系IF信号からビデオ信号を生成する受信機と、
前記受信機に対する低周波の局発信号を生成する発振器と、を備え、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの一方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルに搭載され、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの他方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルの外部に配設され、
前記発振器は、前記アンテナジンバル上の前記一方のフロントエンドに対する低周波の基準信号と、前記アンテナジンバルの外部に配設された前記他方のフロントエンドに対する高周波の局発信号とを生成する誘導装置であって、
前記一方のフロントエンドに取り付けられて一方の系温度を検出する第1の温度センサと、
前記発振器に取り付けられて発振器温度を検出する第2の温度センサと、
前記一方の系温度と前記発振器温度との温度差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部と、
前記一方のフロントエンドと前記受信機との間に挿入された位相器と
をさらに備え、
前記位相器は、前記位相補正量を用いて、前記DIF系IF信号と前記SUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした位相補正後のIF信号を前記受信機に入力することを特徴とする誘導装置。
【請求項2】
高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号を受信するためのアンテナが搭載されたアンテナジンバルと、
前記DIF系受信信号からDIF系IF信号を生成するDIF系フロントエンドと、
前記SUM系受信信号からSUM系IF信号を生成するSUM系フロントエンドと、
前記DIF系IF信号および前記SUM系IF信号からビデオ信号を生成する受信機と、
前記受信機に対する低周波の局発信号を生成する発振器と、を備え、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの一方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルに搭載され、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの他方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルの外部に配設され、
前記発振器は、前記アンテナジンバル上の前記一方のフロントエンドに対する低周波の基準信号と、前記アンテナジンバルの外部に配設された前記他方のフロントエンドに対する高周波の局発信号とを生成する誘導装置であって、
前記一方のフロントエンドの出力端子に設けられて第1のIF信号位相を検出する第1の位相検波器と、
前記他方のフロントエンドの出力端子に設けられて第2のIF信号位相を検出する第2の位相検波器と、
前記第1のIF信号位相と前記第2のIF信号位相との位相差に応じた位相補正量を算出する位相器制御部と、
前記一方のフロントエンドと前記受信機との間に挿入された位相器と
をさらに備え、
前記位相器は、前記位相補正量を用いて、前記DIF系IF信号と前記SUM系IF信号との間の位相差をキャンセルした位相補正後のIF信号を前記受信機に入力することを特徴とする誘導装置。
【請求項3】
高周波のDIF系受信信号およびSUM系受信信号を受信するためのアンテナが搭載されたアンテナジンバルと、
前記DIF系受信信号からDIF系IF信号を生成するDIF系フロントエンドと、
前記SUM系受信信号からSUM系IF信号を生成するSUM系フロントエンドと、
前記DIF系IF信号および前記SUM系IF信号からビデオ信号を生成する受信機と、
前記受信機に対する低周波の局発信号を生成する発振器と、を備え、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの一方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルに搭載され、
前記DIF系フロントエンドおよび前記SUM系フロントエンドのうちの他方のフロントエンドは、前記アンテナジンバルの外部に配設され、
前記発振器は、前記アンテナジンバル上の前記一方のフロントエンドに対する低周波の基準信号と、前記アンテナジンバルの外部に配設された前記他方のフロントエンドに対する高周波の局発信号とを生成する誘導装置であって、
前記一方のフロントエンドは、
一方の系温度を検出する第1の温度センサと、
前記一方の系温度を調節する温度調節手段と、を有し、
前記発振器は、発振器温度を検出する第2の温度センサを有し、
前記温度調節手段は、前記一方の系温度と前記発振器温度との温度差をキャンセルするように前記一方の系温度を調節することを特徴とする誘導装置。
【請求項4】
前記温度調節手段は、前記一方の系温度と前記発振器温度との温度差に応じた指令値を算出するヒータ制御部と、前記指令値にしたがって前記一方のフロントエンドを暖めるヒータとを含むことを特徴とする請求項3に記載の誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220578(P2011−220578A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88477(P2010−88477)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】