説明

誘導電動機の駆動方法、及び駆動装置、インバータ装置

【課題】誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに回転子を高トルクで駆動(起動)する誘導電動機の駆動方法、及び駆動装置、インバータ装置を提供する。
【解決手段】誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流iを固定子巻線に流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように二次電流iを生成する励磁電流を固定子巻線に供給し、高出力トルクで誘導電動機を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の停止中又は低速回転時に、瞬時に大きなトルクを発生させる誘導電動機の駆動方法、及び駆動装置、インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機を可変速駆動する駆動装置としてインバータ装置が導入されている。例えば、近年飛躍的な成長を見せる半導体や太陽電池パネル等の製造装置においては、種々のプロセスガスの排気を目的として回転式真空ポンプが利用されている。該真空ポンプに回転力を供給するための誘導電動機を駆動する駆動装置においても、インバータ装置が導入されている。
【0003】
このようなプロセスガスを扱う回転式真空ポンプのうち、ドライ真空ポンプ、ターボ分子ポンプ、複合分子ポンプ、ネジ溝分子ポンプ等では、ポンプ内部にガス反応生成物が付着しロータがロックすることがある。このようなガス反応生成物の固着は、大気開放時、ポンプ温度低下時、ポンプ停止時に発生しやすい。このようなロータロックが発生した場合、通常のインバータ装置によるポンプ始動では固着物を破壊に至らしめロータをロック状態から脱出するだけのトルクを誘導電動機から取り出すことができない。
【0004】
このような固着への対策として、特許文献1に開示されたターボ真空ポンプに関する技術がある。該技術は磁気軸受により浮上制御、支持されているロータを該浮上制御によって所望の方向に所望の距離だけ変位させ、付着物を掻き落としたり、ポンプ温度を上昇させ生成物を昇華させるなどの方法である。また、特許文献2に開示された技術は、メンテナンス等の大気開放時でも超低速でロータの回転を継続させ、ロックを未然に防ぎ、ロックした場合には起動トルクを増大させる手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−73088号公報
【特許文献2】特開2006−266248公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示する手法では、固着が強力である場合、磁気軸受の制御力では十分な効果が発揮できない場合も多く、そもそも磁気軸受を導入していない回転式真空ポンプに対しては、この手法は利用できない。また、ポンプ温度を昇温させるにも上限があり、この制約の範囲を超えた温度で昇華する反応生成物に対してはロック状態から脱出させる効果を期待するのは難しい。
【0007】
また、特許文献2に開示する手法では、例えば作業員が装置内部にアクセスする際の安全確保等、電源遮断が要求された場合、超低速でロータの回転を継続させることはできない。仮に、超低速回転を継続しても、大気開放により反応生成物の付着が進行することは明らかで、固着を完全に防止することは難しい。加えて、ロータロックが発生した場合に始動トルクを増加すると、モータが要求する電流値が増加するため、ポンプシステムの電源入力部に用いる過電流保護回路やブレーカが大容量化するという問題もある。
【0008】
加えて、上記従来の手法は、真空ポンプへの反応生成物付着の問題に限定した対策であり、誘導電動機を用いたその他の回転機械アプリケーションへの応用は難しい。
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに回転子を高トルクで駆動(起動)する誘導電動機の駆動方法、及び駆動装置、インバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給し、高出力トルクで誘導電動機を駆動することを特徴とする誘導電動機の駆動方法にある。
【0011】
また、本発明は、誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流す定常的電流供給手段と、定常的電流供給手段で固定子巻線に定常的な電流を流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給するインパルス状電流供給手段とを備えたことを特徴とする誘導電動機の駆動装置にある。
【0012】
また、本発明は、半導体スイッチによる三相フルブリッジ回路で構成され、誘導電動機を可変速駆動するインバータ装置であって、誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することを特徴とする。
【0013】
上記のように誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することにより、インパルス状の電流が誘導電動機の回転子導体に誘導されると、前記固定子巻線に流している定常的な電流と直ちに直交し、短時間で、且つ効率的にインパルス状のトルクを発生させることが可能となり、回転子を高トルクで駆動(起動)できる。
【0014】
また、本発明は、上記インバータ装置において、三相フルブリッジ回路は、誘導電動機の固定子のU相にハイサイド電圧、V相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のV相にハイサイド電圧、W相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のW相にハイサイド電圧、U相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のU相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のV相にローサイド電圧、W相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のW相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡することによって、誘導電動機の回転子に所定方向の磁界と直交する磁界を発生させるように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給すると同時に、三相フルブリッジ回路の半導体スイッチのうち、U相、又はV相、又はW相にハイサイド電圧を印加するスイッチと、ローサイド電圧を印加するスイッチを交互に50%デューティの割合でON/OFFし、定常的な電流とインパルス状の励磁電流を同時に供給することを特徴とする。これにより、予め流しておいた励磁電流の流れる経路を確保しつつインパルス状の電流を供給することができ、インバータ回路に特別な回路を付加することなく、インパルス状のトルクを発生させることが可能となる。
【0015】
また、本発明は、半導体スイッチによる三相フルブリッジ回路で構成され、誘導電動機を可変速駆動するインバータ装置であって、三相フルブリッジ回路の半導体スイッチに並列接続された少なくとも2つ以上の短絡手段を有し、短絡手段は誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することを特徴とするインバータ装置にある。これにより、インバータ回路に簡単な構成を付加するだけで半導体スイッチに大きな電流を流すことなく、インパルス状の電流を誘導電動機の固定子巻線に供給することができ、回転子に巨大なインパルス状のトルクを発生させることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、上記インバータ装置において、前記短絡手段は、誘導電動機の固定子のU相にハイサイド電圧、V相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のV相にハイサイド電圧、W相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のW相にハイサイド電圧、U相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のU相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のV相にローサイド電圧、W相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、誘導電動機の固定子のW相にローサイド電圧、U相にハイサイド電圧が同時に印加するように接続され、誘導電動機の回転子に所定方向の磁界と直交する磁界を発生させるように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給すると同時に、三相フルブリッジ回路の半導体スイッチのうち、U相、又はV相、又はW相にハイサイド電圧を印加するスイッチと、ローサイド電圧を印加するスイッチを交互に50%デューティの割合でON/OFFし、定常的な電流とインパルス状の励磁電流を同時に供給することを特徴とする。これにより、簡単な構成を付加するだけで、予め流しておいた励磁電流の流れを確保しつつ半導体スイッチの容量を上回る高インパルス状の大電流を供給することができ、インバータ装置の能力を上回るインパルス状のトルクを発生させることが可能となる。
【0017】
また、本発明は、上記インバータ装置において、三相フルブリッジ回路の入力電源は、交流電源をダイオード整流回路によって整流した電源又は直流電源であって、入力電源の電圧脈動を抑制する平滑コンデンサと、インバータ装置の電源投入時に平滑コンデンサへの突入電流を防止する突入防止抵抗器と、平滑コンデンサの充電が十分完了した際に突入防止抵抗器をバイパスするスイッチ手段とを有し、インバータ装置は、三相フルブリッジ回路が、固定子にインパルス状の励磁電流を供給する前に、スイッチ手段をOFFすることを特徴とする。これにより、インパルス状のトルクを発生させるエネルギーを平滑コンデンサから取り出すことができ、インパルス状の大電流が系統に流れることを防止することが可能となる。
【0018】
また、本発明は、上記インバータ装置において、誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように、定常的な電流を流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するようなインパルス状の励磁電流を固定子巻線に供給する動作を所定の回数繰り返してリトライすることを特徴とする。これにより、繰り返しインパルス状のトルクを発生させ、一度のインパルス状のトルクの発生では破壊し得なかった、例えば回転式真空ポンプの回転子に付着した強固な固着物を破壊し、ロータをロック状態から脱出させることが可能となる。
【0019】
また、本発明は、上記インバータ装置において、前記リトライは、定常的な電流の供給により誘導電動機の固定子に発生する所定方向の磁界が、定常的な電流を流した状態で固定子巻線に供給されるインパルス状の励磁電流により生成される磁界に対して、90°又は−90°のいずれかの角度となることをリトライ毎に選択可能であることを特徴とする。これにより、インパルス状のトルクを発生させる方向を任意に選択することができ、効率的に上記固着物を破壊することが可能となり、効率的にロータをロック状態から脱出させることが可能となる。
【0020】
また、本発明は、上記インバータ装置において、インパルス状の電流を流した後、誘導電動機を回転始動させ、その後所定すべり以上、及び/又は所定時間になっても所定回転数に到達しないときにエラー信号を発報する発報手段を有することを特徴とする。これによりインパルス状のトルクを以ってしても上記固着物が破壊できず、誘導電動機を始動させることができなかった場合、エラー信号を発報して、誘導電動機が始動不可能の状態に陥ったことを通知することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することにより、インパルス状の電流が誘導電動機の回転子導体に誘導されると、前記固定子巻線に流している定常的な電流と直ちに直交し、短時間に効率的に高インパルス状のトルクを発生させることが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、回転機械が破壊されない程度のインパルス状のトルクを発生すれば、ロック状態にある回転機械を分解、ロックの原因を除去、組立てを行う前に回転機械をロック状態からの脱出を試みることが可能となり、装置が使用できなくなる状況を低減できる。また、本発明によれば、瞬間的に効率良くインパルス状のトルクを発生するため、大電流が長時間流れない。これにより、意図的に電流リミット値を引き上げトルクアップを試みる手法と比較して、同一デバイスでより巨大なトルクを発生することが可能となる。
【0023】
更に本発明によれば、インパルス状のトルクの発生エネルギーはインバータ装置の平滑コンデンサから供給されるため、系統には大電流を流す恐れが無い。そのためブレーカ等の回路保護装置の作動を避けつつ大きい電流を供給することが可能となる。平滑コンデンサに蓄電されるエネルギーを調整すれば、インパルス状のトルクの強度を調節することも可能である。
【0024】
加えて本発明によれば、インパルス状のトルクを連続して発生させたり、トルクの発生方向を任意に選択することが可能である。このため、負荷に対してインパルス状のトルクをより効果的に与えることができ、効率的に誘導電動機の始動を妨げる負荷を破壊することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】誘導電動機のトルク発生原理を説明するための図である。
【図2】誘導電動機の一相分のT型等価回路を示す図である。
【図3】α相のT型等価回路を示す図である。
【図4】β相のT型等価回路を示す図である。
【図5】一般的な三相インバータ回路を示す図である。
【図6】図5の三相インバータ回路のスイッチ状態で供給される電圧のベクトルを示す図である。
【図7】インパルス状のトルク発生制御シーケンスのフローを示す図である。
【図8】三相誘導電動機のステータコイルにインバータから定常的な励磁電流imαを流した状態を示す図である。
【図9】三相誘導電動機のステータコイルにインバータからインパルス状の励磁電流i2βを流した状態を示す図である。
【図10】三相誘導電動機に所定方向に磁界が発生するように励磁電流を流す短絡手段を付加しインバータ装置の回路を示す図である。
【図11】図10のインバータ回路の短絡手段によって出力されるベクトルを示す図である。
【図12】図10のインバー装置に突入防止回路を付加したインバータ装置の回路を示す図である。
【図13】図12のインバータ装置の突入防止回路のスイッチSW3を閉じて励磁電流iを流した状態を示す図である。
【図14】図12のインバータ装置の突入防止回路のスイッチSW3を開放して励磁電流iを流した状態を示す図である。
【図15】リトライモードの制御シーケンスの一例のフローを示す図である。
【図16】逆方向トルク発生時の制御シーケンスの一例のフローを示す図である。
【図17】逆方向トルク発生時のベクトルを示す図である。
【図18】インパルス状のトルク発生モードを含む始動シーケンスの一例のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明では誘導電動機を回転式真空ポンプに利用した場合を例に挙げて説明する。図1に示すように、誘導電動機は、固定子巻線に供給される励磁電流imと、該励磁電流imと直交した前記誘導電動機の回転子導体に誘導供給される二次電流i2のベクトルの内積Aに比例したトルクτを発生する。誘導電動機のベクトル制御では、この励磁電流imと二次電流i2を適切に制御することで、トルクτを回転速度とは無関係に制御する。本発明では二次電流i2の立ち上がり時間が急峻であることに着目し、固定子巻線(ステータコイル)に予め励磁電流imを流し、所定方向の磁界を発生させておく。その後励磁電流imと直交するインパルス状の励磁電流をステータコイルに供給し、発生する二次電流i2によって、瞬時的に大きなトルクを発生させることが可能となる。以後、予め所定方向の磁界を発生させておく手法を「予励磁」と表現する。
【0027】
ここからは、三相交流U相、V相、W相を表現するための3つの基本ベクトルから成る三相座標系を、直交する2つの基本ベクトルα、βからなる直交座標系に変換(三相二相変換)して考える。一般に直交座標系で用いられる基本ベクトル方向の電流iα、iβは、三相固定子巻線に流れる電流iu、iv、iwを用いて、
iα=iu−(1/2)・iv−(1/2)・iw
iβ={(3)1/2/2}・iv−{(3)1/2/2}・iw
と表現できる。
【0028】
図2は誘導電動機の一相分のT型等価回路を示す図である。図2において、L1は誘導電動機固定子巻線の漏れインダクタンス、R1は誘導電動機固定子巻線の抵抗成分、L2は誘導電動機回転子導体の漏れインダクタンス、R2は誘導電動機回転子導体の抵抗成分、Lmは励磁インダクタンス、Rmは鉄損を表現するための等価抵抗、Esは速度起電力である。一般に、Lm>>L2である。誘導電動機の固定子と回転子のすべりをsとすると、Esは(1−s)/sに比例する。以下、回転子が停止又は低速回転状態、つまりs=1、即ちEs=0として説明する。
【0029】
先ず、図3に示すα相のT型等価回路に直流電圧Vαを印加する。Lm>>L2であるため、高周波数成分が多く含まれるステップ入力の初期では、〔(ωLm・Rm)/(ωLm+Rm)〕>>(ωL2+R2)となる(以下(ωLm・Rm)/(ωLm+Rm)を「ωLm//Rm」と記す)。このため直流電圧Vαが印加された直後は一次電流iの多くが漏れインダクタンスL2を通るiとして流れる。その後時間の経過と共に、直流電圧Vαに含まれる高周波数成分が減少すると、ωLm//Rmは0,ωL2+R2はR2に収束していく。即ち励磁電流iは増加し、二次電流iは減少する。十分時間が経過すると、直流電圧Vαの周波数成分は直流成分のみとなり、励磁インダクタンスLmは直流成分に対してインピーダンス0となって漏れインダクタンスL2と抵抗成分R2を含む回路を短絡するため、i=iとなる。
【0030】
続いて図4に示すβ相のT型等価回路に直流電圧Vβを印加する。上記α相の場合と同様に、直流電圧Vβが印加された直後はβ相の二次電流iが急峻に立ち上がる。即ちβ相の二次電流iは、インパルス状の電流となる。このとき、予め供給されていたα相の励磁電流iと急峻に立ち上がったβ相の二次電流iが強力なトルクτを発生する。そして時間の経過と共に、α相と同様にβ相の二次電流iも減少してゆくため、やがてトルクτは消滅する。このように、直交関係を適切に保って電流を供給することで、短時間であるがロータに大きなインパルス状のトルクτを発生させることが可能となる。
【0031】
上記の制御を実際の三相フルブリッジ回路の動作で考える。図5は一般的な三相インバータ回路を示す図、図6はインバータ装置のスイッチ状態によって供給される直流電圧のベクトル方向を示す図、図7はインパルス状のトルク発生の制御シーケンスの一例のフローを示す図である。図5において、11は三相交流電源、12はダイオード整流回路、13は直流回路、14は三相フルブリッジ回路、15は三相誘導電動機、C1は直流回路13の平滑コンデンサ、UH、VH、WH、UL、VL、WLは三相フルブリッジ回路を構成する半導体スイッチである。ここでUH、VH、WHはハイサイド半導体スイッチ、UL、VL、WLはローサイド半導体スイッチである。
ここで図5に示すインバータ回路の半導体スイッチUH、VH、WLがONのときは、(H,H,L)と表現し、半導体スイッチUH、VH、WHがONのときは、(H,H,H)と表現する。
【0032】
先ず、定常的に励磁電流を供給し、所定方向に磁界を発生させる(予励磁)。ここでは、U、V、W各相のスイッチ状態が(H,H,L)と(H,H,H)でスイッチングしている状態を一例として説明する。(H,H,H)ベクトルはゼロベクトルであり、前記スイッチング状態によって(H,H,L)ベクトル方向に直流電圧が印加される。このベクトル方向をαとしてα相方向にとることで、誘導電動機15の固定子巻線に印加される直流電圧はVαとなる。スイッチングのデューティ比を制御して、直流電圧Vαは所望の大きさで印加される。直流電圧Vαが印加されてから誘導電動機の固定子巻線の時定数と比較して十分時間が経過すると、三相誘導電動機15の固定子巻線に流れる電流i1はα相の励磁電流iとして流れる。このときの三相フルブリッジ回路14の半導体スイッチUH、VH、WH、UL、VL、WLの状態と電流の流れる経路の様子を、図8に示す(ハイサイド半導体スイッチUH、VHをON、ハイサイド半導体スイッチWHをOFF、ローサイド半導体スイッチWLをON、ローサイド半導体スイッチUL、VLをOFFの状態)。
【0033】
その後、図9に示すように、半導体スイッチUH及び半導体スイッチVLを短絡状態(ON)とすると同時に半導体スイッチWH及び半導体スイッチWLを50%デューティでスイッチングさせる。これによりα相の励磁電流iが流れる経路を保ちながら、インバータ回路14は半導体スイッチUH、VL、WHがON時の(H,L,H)ベクトルと半導体スイッチUH,VL,WLがON時の(H,L,L)ベクトルの中間の方向に電圧Vβを出力する。このベクトルが図6にβとして示される。図2に示すT型等価回路ではLm>>L2であるため、電圧Vβが印加された直後では、iはβ相の二次電流iとして流れる。このとき三相誘導電動機15の固定子巻線に流れるα相の励磁電流iと、回転子導体に誘導されるβ相の二次電流iが直交し、固定子と回転子の間にトルクτが発生する。このときの三相フルブリッジの半導体スイッチの状態と電流の流れる様子経路を図9に示す(ハイサイド半導体スイッチUHをON、ハイサイド半導体スイッチVH、WHをOFF、ローサイド半導体スイッチVLをON、ローサイド半導体スイッチUL、WLをOFFの状態)。時間の経過と共に、α相と同様にβ相の二次電流iも減少していくため、二次電流iはインパルス状の電流となり、発生するトルクτもインパルス状のトルクとなる。
【0034】
上記インパルス状のトルクの発生を図7のフローに基づいて説明する。先ずステップST1でインパルス発生モード開始とする。次にステップST2で図6に示すように、(H,H,L)ベクトルと(H,H,H)ベクトルで励磁電流imを供給(予励磁)し、ステップST3でこの励磁電流を一定時間維持する。次にステップST4で半導体スイッチUH,VLをONとし、半導体スイッチWH、WLを50%のデューティでスイッチングし、ステップST5でインパルス状のトルクτを発生する。なお、図6では(H,H,L)ベクトルと(H,H,H)ベクトルでトルクτを発生しているが、勿論、上記以外の半導体スイッチを利用して、図6に示す以外のベクトルを発生させても、電流の直交関係が保たれている限り本発明の作用効果が発揮されることは言うまでもない。
【0035】
上記インパルス状のトルクτの発生では、三相フルブリッジ回路14の入力電圧をステップ入力するために、三相フルブリッジ回路14の半導体スイッチUH、VH、WH、UL、VL、WLには瞬間的に大電流が流れる。この大電流が各半導体スイッチの瞬時電流容量を超過すると、半導体スイッチは焼損に至る。焼損を防止するには、半導体スイッチの瞬時電流容量が所望のインパルス状のトルク発生に必要な電流値を上回るように、インバータ装置を設計する必要がある。しかし、非常時のインパルス状のトルク発生に備えて半導体スイッチの電流容量を選定することでオーバスペック設計に繁がる嫌いがある。
【0036】
そこで半導体スイッチをバイパスする短絡手段を備えたインバータ装置の回路構成例を図10に示す。図10では、前述のインパルス状のトルク発生制御でβ相の励磁電流iの供給時に短絡状態となる半導体スイッチUHと半導体スイッチVLをバイパスするように短絡手段SW1と短絡手段SW2を図5の回路に追加している。このインバータ装置の回路でインパルス状のトルクを発生する場合も、(H,H.L)ベクトルと(H,H,H)ベクトルによって、図11に示すベクトルαX方向に予励磁を行う。なお、ベクトルαXは図6のベクトルαと対応させている。励磁電流iが立ち上がった後、短絡手段SW1及び短絡手段SW2を同時にONとする。このとき半導体スイッチWH及び半導体スイッチWLを50%デューティでスイッチングすれば、図11に示すようなベクトルβX方向に電圧が印加され、二次電流iが供給される。このベクトルβXは図6のベクトルβと同一方向のベクトルであり、該二次電流iと励磁電流iとが直交してインパルス状のトルクを発生する。
【0037】
上記短絡手段の接続方法、及び接続される短絡手段の数については、図10の様態に限定されるものではなく、上記半導体スイッチUH、VLとは異なるハイサイドスイッチとローサイドスイッチをバイパスする短絡手段を備えたとしても、これによって供給され二次電流i2と直交するように励磁電流imを供給して予励磁を行っておけば、本発明によるインパルス状のトルク発生の効果は得られることは言うまでもない。
【0038】
上記の手順によってインパルス状のトルクを発生させる際、インパルス状の二次電流i2の立上がりによって誘導電動機は瞬間的に大電流を要求する。この大電流を三相交流電源11から供給しようとすると、インバータ装置の電源入力部に設けたサーキットブレーカ等の回路保護機能が作動し、上記インパルス状のトルク発生モード中に電源が遮断される可能性がある。また、大電流を系統に流すことになるため、周辺機器にも悪影響を与える恐れがある。そこで本発明では、インバータ装置の三相フルブリッジ回路の入力部に設けられた直流回路13の平滑コンデンサC1に蓄電されたエネルギーを利用するインバータ装置を提供する。
【0039】
一般的にインバータ装置の回路では、図12に示すように三相フルブリッジ回路14の入力部に設けられた直流回路13に平滑コンデンサC1への電流の突入を防止する突入防止抵抗器Rrと、平滑コンデンサC1の充電完了後に該突入防止抵抗器Rrをバイパスするスイッチ手段SW3による突入防止回路17が付加されている。先ずスイッチ手段SW3を開いた状態で平滑コンデンサC1を充電する。次にスイッチ手段SW3を閉じ、この状態で励磁電流iを供給し、予励磁を行う。この時のスイッチ手段SW3の状態と三相フルブリッジの半導体スイッチの状態と電流の流れる経路の様子を図13に示す(半導体スイッチUH、VHをON、半導体スイッチWHをOFF、半導体スイッチWLをON、半導体スイッチUL、VLをOFFにすることにより、点線矢印で示すように励磁電流iがステータコイルU、V、Wに流れる。)
【0040】
その後インパルス状の励磁電流iを供給する前に、突入防止抵抗器Rrをバイパスするスイッチ手段SW3を開放し、三相フルブリッジ回路14とダイオード整流回路との間に突入防止抵抗Rrを挿入する。これにより二次電流i供給時に系統から供給される電流が制限され、系統に大電流が流れることを防ぐ。励磁電流iの供給に伴って三相フルブリッジ回路14が要求するインパルス状の電流は、平滑コンデンサC1から供給される。このときスイッチ手段SW3の状態と三相フルブリッジ回路14の半導体スイッチUH、VH、WH、UL、VL、WLの状態と電流の流れる経路の様子を図14に示す(半導体スイッチUHをON、半導体スイッチVH、WHをOFF、半導体スイッチVLをON、半導体スイッチUL、WLをOFFにすることにより、実線矢印で示すように平滑コンデンサC1からインパルス状の電流がステータコイルU、Wに供給される)。
【0041】
平滑コンデンサC1に蓄電されるエネルギーを調整することでインパルスベクトルの強度調整が可能である。予励磁の後、突入防止回路17のスイッチ手段SW3を開放してから直ちに励磁電流iを供給せず、スイッチ手段SW3を開放したまま励磁電流iの供給を継続する。この動作により平滑コンデンサC1に蓄えられたエネルギーを励磁電流iとして放出する。エネルギーの放出に伴い平滑コンデンサC1の端子間電圧は減少し、所望の電圧になったところで励磁電流iを供給することにより、インパルス状のトルクτの強さを調整することができる。
【0042】
上記制御を行い、インパルス状のトルクτを発生させ回転式真空ポンプ内に生成固着した反応生成物の破壊を試みるも、一度のインパルス状のトルクτを与えただけでは、固着物が破壊されない可能性もある。そこで本発明は、誘導電動機の回転子に複数回のインパルス状のトルクτを繰り返し与える。図15は誘導電動機の回転子に複数回のインパルス状のトルクτを繰り返し与えるリトライモードの制御シーケンスの一例を示すフロー図である。
【0043】
インバータ装置が誘導電動機の始動異常を検出すると、始動を妨げる負荷(真空ポンプ内に生成固着してロータを拘束する反応生成物)を破壊するために、インパルス状のトルク発生モードの動作を含む図15のステップST11のリトライモード開始に移行する。ステップST12でリトライモードのインパルス状のトルクτの発生回数が規定回数になったか否かを判断し、NOであったらステップST13でリトライモードの発生回数のカウント値を更新し、ステップST14でインパルス状のトルク発生モードを開始する。ステップST15で(H,H,L)ベクトルと(H,H,H)ベクトルで励磁電流imを供給(予励磁)し、ステップST16で励磁電流imを一定時間維持する。
【0044】
続いてステップST17で半導体スイッチUH、VLをONとし、半導体スイッチWH、WLを50%のデューティでスイッチングし、ステップST18でインパルス状のトルクτを発生し、ステップST19でインパルス状のトルク発生モードを終了する。続いてステップST20で真空ポンプの回転がOKかを判断し、YESであったらステップST21でリトライモードを終了させ、ステップST22で通常加速モードを開始する。ステップST20でNO、即ち真空ポンプが回転しない場合、前記ステップST12に戻り、インパルス状のトルク発生回数が規定回数に達したら、ステップST23でエラー発報を行い、ステップST24でリトライモードを終了する。
【0045】
上記ステップST14のインパルス状のトルク発生モードの中にリトライモードを設け、誘導電動機にインパルス状のトルクを数回連続して与え、その後に始動を試みてもよい。この場合も、所定回数始動を試みてもなお異常が検出される場合には、エラーを発報してリトライモードを終了できることは言うまでもない。
【0046】
トルクτが発生する方向は、図1に示す励磁電流iと二次電流i2の電流ベクトルの外積によって決定する。即ち、該励磁電流im若しくは二次電流i2のいずれかの電流方向を逆転することで、前記トルクτの発生方向とは逆方向にトルクτを発生させることが可能である。例えば、図10に示すような、三相フルブリッジ回路14に短絡手段SW1、SW2を備えたインバータ装置の場合、インパルスの励磁電流iのベクトル方向に自由度を持たせることは難しい。このため、図10に示すインバータ装置を利用して逆方向にトルクを発生させるためには、励磁電流iのベクトル方向を反転させれば良い。このときの制御シーケンスのフローを図16に、電流のベクトル図を図17に示す。
【0047】
上記逆方向にインパルス状のトルクτを発生させる場合を図16のフローに基づいて説明する。図10に示すインバータ装置において、先ずステップST31でインパルス状のトルク発生モードが開始されると、逆転トルクτを発生させるために先ず予励磁の方向を反転する。即ち、ステップST32で図17に示すように、(L,L,H)ベクトルと(L,L,L)ベクトルで励磁電流imを供給(予励磁)し、ステップST33でこの励磁電流を一定時間維持する。次にステップST34で半導体スイッチUH、VLをONとし、半導体スイッチWH、WLを50%のデューティでスイッチングし、ステップST35でインパルス状のトルクを発生させ、ステップST36でインパルス状のトルク発生モードを終了する。
【0048】
上記のように予励磁を(L,L,H)ベクトルと(L,L,L)行うと、(L,L,L)ベクトルは(H,H,H)ベクトルと同様にゼロベクトルであるので、予励磁のための直流電圧は(L,L,H)ベクトルの方向に印加される。この方向をαX’とすれば、図6又は図11に示すαXとは逆方向のベクトルとなり、励磁電流i’は前記iとは逆向きに流れる。続いて短絡手段SW1、SW2により半導体スイッチUH,VLを短絡しインパルス状の励磁電流を供給するが、該インパルス状の励磁電流のベクトル方向は図11と同じ方向であり、この電流は前記励磁電流iと同じである。このとき、励磁電流imαと励磁電流iの直交関係が図6若しくは図11に示す直交関係と逆転するため、トルクτの発生方向も反転し、逆方向のインパルス状のトルクτを発生させる。
【0049】
勿論、半導体スイッチの短絡手段を有さない、図5に示す回路構成のインバータ装置においては、励磁電流i’のベクトル方向、励磁電流iのベクトル方向共に自由度を持たせられるので、直交関係を保っていれば上記以外のベクトル方向に電流を流しても、本発明の効果は損なわれない。また、短絡手段が図10に示す半導体スイッチとは異なる半導体スイッチをバイパスするように付加された場合は、該短絡手段によって発生するインパルス状の励磁電流と直交するようなベクトル方向に励磁電流を供給し予励磁を行っておけばよいことは言うまでもない。
【0050】
インバータ装置で以上の動作を組み合わせて行うインパルス状のトルク発生モードを含む始動シーケンス例のフローを図18に示す。同図に基づいてインパルス状のトルク発生モードを含む始動シーケンスを説明する。先ず、ステップST41で始動とし、ステップST42で通常始動を開始する。次にステップST43で回転式真空ポンプの回転がOKか否かを確認し、YES(回転OK)であったらステップST44で通常加速モードを開始する。NOであったらステップST45に移行してリトライモードを開始する。続くステップST46ではリトライ回数が規定回数に達しているかを判断し、YESであったらステップST47でエラー発報し、ステップST48でリトライモードを終了する。
【0051】
前記ステップST46でNO、即ちリトライ回数が規定回数を越えていない場合は、ステップST49でリトライ回数を記録するカウント手段の値を更新し、ステップST50でインパルス状のトルク発生モードを開始し、ステップST51に移行する。ステップST51では直流回路13の平滑コンデンサC1を充電した後、スイッチ手段SW3により突入防止抵器Rrを短絡する。続いてステップST53で回転方向が正転方向か逆転方向かを判断、即ち予励磁方向が正転方向か逆転方向かを判断し、正転方向ではステップST54に移行し、逆転方向ではステップST55に移行する。
【0052】
ステップST54では図6に示すように、(H,H,L)ベクトルと(H,H,H)ベクトルで定常的な励磁電流iを供給(予励磁)し、正転方向の磁界を発生させる。ステップST55では図17に示すように、(L,L,H)ベクトルと(L,L,L)ベクトルで定常的な励磁電流i’を供給(予励磁)し、逆転方向の磁界を発生させる。この時ステップST56において短絡手段SW3を開放し、必要とあれば励磁電流i、磁電流i’の供給を一定時間維持し、平滑コンデンサC1に蓄えられたエネルギーを調整する。ステップST57で平滑コンデンサC1の端子電圧が所望の値になった時に(H,L,L)ベクトルと(H,L,H)ベクトルを50%デューティでスイッチングさせ、ステップST58でインパルス状の励磁電流iを供給することにより誘導電動機がインパルス状のトルクを発生する。
【0053】
ステップST59においてインパルス状のトルク発生モードを終了し、続いてステップST60で、回転式真空ポンプの再始動を試み、続いてステップST61で真空ポンプの回転がOKかを判断しNOであったら前記ステップST46に移行し、YESであったら、ステップST62でリトライモード終了し、ステップST63に移行し通常加速モードに入る。
【0054】
上記のベクトル以外のベクトルを発生させても、予励磁で発生している磁界のベクトルとインパルス状の電流によって発生する磁界のベクトルが直交していれば、本発明の効果を損なわないことは言うまでもない。また、インパルス状のトルク発生モードの中にリトライモードを設け、誘導電動機にインパルス状のトルクを数回連続して与え、その後に始動を試みても良い。この場合も、所定回数始動を試みてもなお異常が検出される場合には、エラーを発報してリトライモードを終了できることは言うまでもない。
【0055】
以上の機能を有するインバータ装置により、誘導電動機の回転子をロックするような負荷に対しても、強力なトルクを発生させ、回転式真空ポンプの回転子ロック等を含む装置が使用不可能になる状況を大幅に低減することが可能となる。これは即ち、信頼性の高い誘導電動機ドライブシステムを提供することを意味する。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することにより、インパルス状の電流が誘導電動機の回転子導体に誘導されると、前記固定子巻線に流している定常的な電流と直ちに直交し、短時間で、且つ効率的にインパルス状のトルクを発生させることが可能となり、回転子を高トルクで駆動(起動)できるから、本誘導電動機を例えばガス反応物生成物の付着によりロータがロックされることの多い回転式真空ポンプの駆動装置として用いた場合、ロータがロックされた場合に誘導電動機を高トルクで駆動し、回転式真空ポンプのロータを回転させることにより、反応物生成物を破壊し、ロータを回転可能にすることができる。
【符号の説明】
【0058】
11 三相交流電源
12 ダイオード整流回路
13 直流回路
14 三相フルブリッジ回路
15 三相誘導電動機
17 突入防止回路
UH 半導体スイッチ
VH 半導体スイッチ
WH 半導体スイッチ
UL 半導体スイッチ
VL 半導体スイッチ
WL 半導体スイッチ
C1 平滑コンデンサ
SW1 短絡手段
SW2 短絡手段
SW3 スイッチ手段
Rr 突入防止抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給し、高出力トルクで前記誘導電動機を駆動することを特徴とする誘導電動機の駆動方法。
【請求項2】
誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流す定常的電流供給手段と、
前記定常的電流供給手段で前記固定子巻線に定常的な電流を流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給するインパルス状電流供給手段とを備えたことを特徴とする誘導電動機の駆動装置。
【請求項3】
半導体スイッチによる三相フルブリッジ回路で構成され、誘導電動機を可変速駆動するインバータ装置であって、
前記誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに該誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を固定子巻線に流した状態で、
前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ装置において、
前記三相フルブリッジ回路は、
前記誘導電動機の固定子のU相にハイサイド電圧、V相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のV相にハイサイド電圧、W相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のW相にハイサイド電圧、U相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のU相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のV相にローサイド電圧、W相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のW相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡することによって、
前記誘導電動機の回転子に前記所定方向の磁界と直交する磁界を発生させるように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給すると同時に、
前記三相フルブリッジ回路の半導体スイッチのうち、U相、又はV相、又はW相にハイサイド電圧を印加するスイッチと、ローサイド電圧を印加するスイッチを交互に50%デューティの割合でON/OFFし、前記定常的な電流と前記インパルス状の励磁電流を同時に供給することを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
半導体スイッチによる三相フルブリッジ回路で構成され、誘導電動機を可変速駆動するインバータ装置であって、
前記三相フルブリッジ回路の半導体スイッチに並列接続された少なくとも2つ以上の短絡手段を有し、
前記短絡手段は誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに前記誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように定常的な電流を流した状態で、
前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給することを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のインバータ装置において、
前記短絡手段は、
前記誘導電動機の固定子のU相にハイサイド電圧、V相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のV相にハイサイド電圧、W相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のW相にハイサイド電圧、U相にローサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のU相にローサイド電圧、V相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のV相にローサイド電圧、W相にハイサイド電圧が同時に印加するように短絡するか又は、
前記誘導電動機の固定子のW相にローサイド電圧、U相にハイサイド電圧が同時に印加するように接続され、
前記誘導電動機の回転子に前記所定方向の磁界と直交する磁界を発生させるように固定子巻線にインパルス状の励磁電流を供給すると同時に、
前記三相フルブリッジ回路の半導体スイッチのうち、U相、又はV相、又はW相にハイサイド電圧を印加するスイッチと、ローサイド電圧を印加するスイッチを交互に50%デューティの割合でON/OFFし、前記定常的な電流と前記インパルス状の励磁電流を同時に供給することを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか1項に記載のインバータ装置において、
前記三相フルブリッジ回路の入力電源は、交流電源をダイオード整流回路によって整流した電源又は直流電源であって、
前記入力電源の電圧脈動を抑制する平滑コンデンサと、
前記インバータ装置の電源投入時に前記平滑コンデンサへの突入電流を防止する突入防止抵抗器と、
前記平滑コンデンサの充電が十分完了した際に前記突入防止抵抗器をバイパスするスイッチ手段とを有し、
前記インバータ装置は、前記三相フルブリッジ回路が、固定子に前記インパルス状の励磁電流を供給する前に、
前記スイッチ手段をOFFすることを特徴とするインバータ装置。
【請求項8】
請求項3乃至6のいずれか1項に記載のインバータ装置において、
前記誘導電動機の回転子が停止状態又は低速回転状態であるときに誘導電動機の固定子に所定方向の磁界が発生するように、定常的な電流を流した状態で、前記所定方向の磁界と直交する磁界を生成するようなインパルス状の励磁電流を固定子巻線に供給する動作を所定の回数繰り返してリトライすることを特徴とするインバータ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のインバータ装置において、
前記リトライは、
定常的な電流の供給により誘導電動機の固定子に発生する所定方向の磁界が、前記定常的な電流を流した状態で固定子巻線に供給されるインパルス状の励磁電流により生成される磁界に対して、90°又は−90°のいずれかの角度となることをリトライ毎に選択可能であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項10】
請求項3乃至9のいずれか1項に記載のインバータ装置において、
前記インパルス状の電流を流した後、前記誘導電動機を回転始動させ、その後所定すべり以上、及び/又は所定時間になっても所定回転数に到達しないときにエラー信号を発報する発報手段を有することを特徴とするインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−200057(P2012−200057A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61296(P2011−61296)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【Fターム(参考)】