説明

誘発されたジスキネジアを治療又は予防するためのキセノンベースの吸入可能薬物

本発明は、ヒトなどの哺乳類におけるジスキネジアを治療又は予防するために吸入を介して使用され得るガス状キセノンベースの薬物に関し、前記ジスキネジアは、ドーパミンアゴニスト又はドーパミン前駆物質によって誘発される。特に、ドーパミンアゴニストはレボドーパ(L−ドーパ)である。本発明は特にパーキンソン病の治療状況において実施するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、ガス状キセノンに基づくガス状薬物に関し、これは、吸入後に、パーキンソン病の治療において用いられるドーパミン作動性アゴニストによって誘発された、哺乳類、特にヒトにおけるジスキネジアを予防又は治療することが可能である。
【0002】
ジスキネジアは、異常な不随意運動によって明らかになる疾患である。これにはいくつかのタイプがある。特に、
-舞踏病:顔面、手、足、又は胴に作用する、不規則で急な不意の運動、例えばハンチントン舞踏病、
-バリスム:舞踏病のものに類似した動きだが、より痙攣的で激しい、
-ジストニア:通常、ねじり運動及び反復運動を生じさせる激しい筋収縮、及び異常な位置又は姿勢、及び
-アテトージス:肢体及び特に手、胴体又は顔の無意識な、遅い、しなやかで非協同的な動き。
【0003】
動き及び他の障害は、大脳基底核及び関連する脳構造の機能障害による。そのような障害は、遺伝性又は後天性の疾患、原因不明の神経変性の結果として生じ得るか、又はそれらは医原性であり得る。
【0004】
障害のスペクトルは、それ故に極めて広く、運動能力につながるもの(アキネジア、低運動、運動緩徐)及び緊張亢進(例えば、パーキンソン病、ある形態のジストニアなど)だけでなく、不随意運動(運動亢進、ジスキネジアなど)の障害をも含む。
【0005】
それらの障害に関連する病態生理学的メカニズムの知識は、類似するメカニズムが運動機能亢進又はジスキネジアの何れかによって特徴づけられる障害の媒介物であることを示唆する。換言すれば、ジスキネジアの一つの形態に対して有効な治療は、異なる病因を有する他の形態のジスキネジアに対しても有効であり得る。しかしながら、これは、いまだ証明されていない。
【0006】
実際に、文献「O. Rascol et al., Dyskinesia: L-dopa-induced and tardive dyskinesia; Clin. Neuropharmacol.; 2001; Nov-Dec; 24(6):313-23」に記載されているように、二つの主なタイプのジスキネジアがあり、即ち、神経弛緩薬によって誘発される晩発性ジスキネジアとL−ドーパ又はレボドーパによって誘発されるジスキネジアがあり、いずれも影響を受けているものに無意識の異常な動きをもたらす。
【0007】
しかしながら、この文献は、それら二つのタイプのジスキネジアは、それらを誘発する化合物のみでなく根源的な疾病に関しても総合的に相違すると明確に述べているために、類似はそこまでである。
【0008】
L−ドーパ又は他の類似のドーパミン作動性アゴニストによって誘発されるジスキネジアに関して、文献「Molecular mechanisms of L-DOPA-induced dyskinesia, Peter J., Nature Reviews Neuroscience, 2008.」に記載されているように、それらのジスキネジアは、大脳基底核又はパーキンソン症候群に関連する動作障害に対して用いられるドーパミン補充療法(replacement therapies)の副作用として表れる。
【0009】
実際に、パーキンソン症候群の症状は、ゆっくりとした動き(即ち、動作緩慢)、硬直及び振顫によって特徴づけられる。
【0010】
パーキンソン病において、主要な病態は、黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの変性である。
【0011】
現在、最も広く用いられているパーキンソン症候群の対症療法は、例えばドーパミンレセプターアゴニスト、特に、通常L-ドーパと呼ばれるレボドーパなどのドーパミン置換薬物の使用に基づく。
【0012】
しかしながら、それらは、特に長期の治療において、それらの使用が治療の抗パーキンソン病効果の浸食、及び、舞踏病及びジストニアなどの誘発されたジスキネジアに反映される副作用の出現を著しく生じさせ得るという欠点を有する。
【0013】
それ故、この場合にジスキネジアはL−ドーパ又は他の類似のドーパミン作動性アゴニストによるパーキンソン病の治療の副作用である。
【0014】
しかるに、それらの副作用はそれらのドーパミン作動性治療の使用及び利益を制限する。
【0015】
さらにその上、ジスキネジアの他の原因は、神経遮断性薬物による精神病の治療であり、これは、晩発性ジスキネジアの名の下に知られる神経遮断薬誘発ジスキネジアを引き起こす。
【0016】
今日まで、非常に多くのジスキネジア治療が提案されているが、それらは本当には有効ではないと証明されているか、又は、それらは望ましくない副作用を起こす。
【0017】
例えば、文献WO−A−2005/011711及びUS−A−6559190は、晩発性ジスキネジアの治療又は予防のための吸入されたキセノンの使用の可能性を教示している。しかしながら、それらの文献は、レボドーパなどのドーパミン作動性アゴニストの使用によって誘発されるジスキネジアの治療の問題を扱っていない。
【0018】
それ故、生じる課題は、哺乳類において、特にヒトにおいて生じるジスキネジアに対して有効な医薬産物及び治療を提案することであり、それは、パーキンソン病の治療において用いられるレボドーパ又はドーパミン前駆物質などのドーパミン作動性アゴニストの使用の結果として生じるか又はそれによって誘発されるものである。
【0019】
換言すれば、本発明は、そのようなパーキンソン病の治療を目的としておらず、パーキンソン病の治療において用いられ、パーキンソン病の治療におけるそれらの使用に対する反応において特定のジスキネジアを引き起こし得るか又は誘発し得る、L−ドーパなどのドーパミン作動性アゴニストタイプの薬物によって引き起こされる副作用を軽減することを目的とする。
【0020】
このように、本発明の解決手段は、哺乳類におけるジスキネジアを治療又は予防するための、吸入によって使用されるガス状キセノンに基づくガス状薬物に基づき、前記ジスキネジアはドーパミン作動性アゴニストによって誘発される。
【0021】
それぞれの個々の場合に依存して、本発明に従う吸入可能なガス状薬物は、以下の特徴の一以上を含み得る:
− ジスキネジアはドーパミン作動性アゴニストによって誘発される。
− 哺乳類はヒトであり、即ち、男性又は女性であり、青年又は他の任意の個体群を含む。
− ガス状キセノンは、酸素含有ガスとの混合物であり、特に、キセノンは空気又はN/O混合物と混合される。
− それは、少なくとも5容量%及び/又は50容量%未満の容量比のキセノンを含み、即ち、典型的には5〜50%、好ましくは40%以下の容量比のキセノンを含む。
− それは、少なくとも10容量%及び/又は30容量%以下、好ましくは10〜30%の容量比のキセノンを含む。
− キセノンは、少なくとも21容量%の酸素と混合される。
− キセノンは、一酸化二窒素(NO)、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、HS、CO、NO及び窒素から選択される少なくとも一つの他の化合物と混合される。
【0022】
− キセノンは、ドーパミン作動性アゴニストから選択されるドーパミン置換薬物、特にレボドーパと組み合わせて投与される。
− キセノンは、パーキンソン病の治療において用いられる少なくとも一つのドーパミン作動性アゴニストと共に吸入によって投与される。
− キセノンは、ドーパミン置換薬物の投与の前に、該投与と同時に、及び/又は該投与に続いて投与される。例えば、キセノンは、特にガス状キセノンと液体又は固体形態であるドーパミン置換薬物とを含むエアロゾル又は懸濁液の形態で、ドーパミン置換薬物と同時に投与されてよい。
【0023】
− 吸入可能薬物は、数分から数時間の範囲での投与時間にわたって、及び/又は、1日当たり又は1週間当たり1回から数回に達し得る頻度で、吸入により投与される。
【0024】
さらに通常、本発明によるガス状キセノンは、それ故、誘発されたジスキネジアを治療又は予防するために意図される吸入可能薬物の製造のために使用され、前記薬物は前述の特徴のいくつか又は全てを含み得る。
【0025】
換言すると、本発明によれば、ガス状キセノンは、個体におけるジスキネジア、特に、ドーパミン作動性アゴニスト、ドーパミン前駆物質又はドーパミン作動性レセプターに作用する神経遮断性化合物の結果として生じるか又はそれによって誘発されるジスキネジアを治療又は予防するために、個体、即ち男性又は女性に吸入によって投与され、該ドーパミン作動性アゴニストは好ましくはレボドーパである。好ましくは、吸入可能薬物はガス状形態であり、5〜40容量%のキセノンと酸素とを含有する。
【0026】
本発明は、それ故、N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)レセプター上での作用に基づくジスキネジアの治療に基づく。実際に、NMDAレセプターは、大脳基底核の運動回路において多くの重要な機能を有する興奮性アミノ酸レセプターのクラスである。従って、文献「Rationale for and use of NMDA receptor antagonists in Parkinson’s disease, Hallett P. et al. Pharmacology & Therapeutics, 102 (155-174), 2004」は、パーキンソン病の治療におけるそれらのレセプターの利用を想定している。
【0027】
本発明の状況において、それらのNMDAレセプターは、ドーパミン作動性アゴニストによって誘発されるジスキネジアの治療又は予防を開発するための、さらにはドーパミン又は神経弛緩薬の置換のための療法によって引き起こされる合併症及び他の副作用を減少させるための、選択されるターゲットとしても考慮される。
【0028】
実際に、ジスキネジアにおけるNMDAレセプターの可能な役割は、NMDAレセプターアンタゴニスト、例えば、デキストロファン(dextrophan)及びデキストロメトルマン(dextromethorman)のヒトにおける作用、及び、MPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)によって治療された霊長類におけるNMDAレセプターアンタゴニストの範囲によってサポートされ、これは、それらの物質が不随意運動(ジスキネジア)を著しく減少させるものの、明らかな副作用をもたらすために、文献「Molecular mechanisms of L-DOPA-induced dyskinesia, Peter J., Nature Reviews Neuroscience, 2008)」に示されているように、ドーパミン作動性ニューロン(パーキンソン病の動物モデル)の強力な選択的神経毒性である。
【0029】
ドーパミン作動性アゴニストによって誘発されるジスキネジアの処置、即ち、減少におけるキセノンの効力を証明するために、以下の実験プロトコールが用いられ、これは、パーキンソン病の動物モデルにおけるレボドーパによるジスキネジアの誘発に基づく。このモデルは、文献においてよく認められており、従来、ジスキネジアに対する将来の治療を確認するために用いられている。
【0030】
試験結果は添付の図において説明される。ここで、
−図1は、ラットの脳における注入サイトの模式的表示である。
−図2は、動物が実際にパーキンソン病様疾患であることを確かめるために用いられる自動ロトメーター(rotometer)を示す。
−図3A及び3Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける軸性ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果を説明する。
−図4A及び4Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける後ろ足のジスキネジアに及ぼすキセノンの効果を説明する。
−図5A及び5Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける口唇のジスキネジアに及ぼすキセノンの効果を説明する。
−図6A及び6Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける歩行運動ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果を説明する。
【0031】
より正確には、ジスキネジアの治療としてのいくつかのガスの投与の効果は、上行性の黒質線条体の経路(パーキンソン病の動物モデル)における、6−OHDA(6−ヒドロキシドーパミン、強力な神経毒性)の片側のみの注入によって生じた病変を有するラットにおいて評価された。
【0032】
このモデルにおいて、レボドーパによるラットの長期間の治療は、ヒトにおいてレボドーパにより誘発されたジスキネジアにおけるものと類似の異常な不随意運動(AIM)を誘発する。
【0033】
それ故、試験の目的は、吸入されたキセノンが、ラットに注入されたレボドーパにより生じるか又はそれによって誘発される、即ち、それらのラットの抗パーキンソン病様疾患の治療に用いられる分子によって誘発される、それらのAIMの出現を抑制するか又は少なくとも制限することを可能にするということを証明することである。
【0034】
試験プロトコール及び試験結果
パーキンソン病のモデルとして役立つ、6−OHDAにより誘発された病変を有するラットは以下のように準備される。
【0035】
体重が250〜300gであるSDラット16匹を、食物及び水に自由に近づける状態で、12時間の昼/夜サイクルで、制御された温度(約22℃)で、室内で維持する。この動物は、処置の30分前に、パルギリン(5mg/kg;モノアミン酸化酵素−Bの阻害剤)及びデシプラミン(25mg/kg;ノルエピネフリン再取り込み阻害剤)の腹腔内注射を受ける。
【0036】
この動物は、1.5L/分の酸素と3%イソフルランの連続的な流れを有する麻酔チャンバー中に置かれる。麻酔後、動物は、定位固定フレームに置かれる。
【0037】
図1に見られるように、滅菌水に溶解した0.1%のアスコルビン酸(5mg/ml)を含む6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)を、右前脳の中央繊維束(1)に、5μl/分で5分の間、5μlのハミルトン2シリンジを用いて手動で注入する(図1の上行性の黒質線条体の経路)。この注入サイトは、ブレグマに対する座標に従って局在化される:吻側−2.8mm、外側2mm及び頭蓋下9mm(Paxinos and Watson, 1986)。ラットは、病変後3週間の間、回復するままにされる。
【0038】
動物は、0.05mg/kgのアポモルフィンを皮下に受けた。その後の1時間に自動ロトメーター(図2を参照)上で50回の完全な回転を行えない動物は調査から外される。
【0039】
残りの動物は、連続21日間、1日2回、6mg/kgのレボドーパと15mg/kgのベンゼラジンの投与(腹腔内)を受ける。その21日間の間、1、7、14及び21日目に異常な不随意運動(AIM)を評価する。
【0040】
22日目に治療処置を始める。それは、以下を吸入によりラットに投与することによる:
− 本発明に従う試験ガスとして、キセノン/Oガス混合物(容量で50%/50%);及び、
− コントロールとして、N/Oガス混合物(容量で50%/50%)。
【0041】
ガス混合物は、エアリキッド(商標)により供給される予混合物である。ガス濃度は、連続的に監視される。
【0042】
ガスへの暴露は、長さ42cm、幅及び高さが26cmのプレキシガラスチャンバー中で実行される。各回、4又は5匹のラットがチャンバー中に入れられ、試験ガスを1時間吸入する。チャンバーは新鮮なガスを4L/分の流量で供給される。
【0043】
異常な不随意運動(AIM)を、レボドーパの注射後180分の間評価する。より正確には、動物は箱(22cm×34cm×20cm)の中に入れられ、それらの環境に慣れるように15分間放置される。次いで、レボドーパメチルエステル(6mg/kg、腹腔内)を、ラット同士で1分の時間間隔で投与する。各ラットは、注射後180分の間、30分間隔で1分間観察される。
【0044】
4つのサブタイプのAIMが評価される。即ち:
−歩行運動(Lo):病変の反対側の動きの増大
−後ろ足(Li):病変の反対側の後ろ足の制御されないランダムな動き
−口唇(Ol):過剰な咀嚼及び舌の押出しを伴う顎の動き
−軸性(Ax):筋緊張異常の姿勢又は首の及び上体の舞踏病様の対側性のねじり。
【0045】
MIAの重症度は、1分間の観察におけるMIAの持続期間に従って1〜4に得点される。
【0046】
.1=30秒未満、MIAがある
.2=30秒超、MIAがある
.3=1分の間、外部刺激によって中断されるMIAがある
.4=1分の間、外部刺激によて中断されないMIAがある。
【0047】
得られた結果は、L−ドーパを受けたパーキンソン病様疾患の動物が、4つのタイプのジスキネジア:Lo、Li、Ol、Axを発展させることを確証する。これは、図3〜6に示される、キセノンを有さないガス混合物(N/O混合物50%/50%)を呼吸する「コントロール」群の曲線に見ることができる。
【0048】
実際に、図3A及び3Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける軸性ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果を説明する。図3Aに見られるように、L−ドーパの投与(t=0)後の軸性ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果のカイネティクスは、キセノンを含有しないガス混合物を呼吸したコントロール群と比較して、振幅及び持続期間の両方において、それらのジスキネジアにおける明らかな減少を示す。
【0049】
さらに、図3Bにおいて、60〜180分の軸性ジスキネジアの平均値は、全体的に、キセノン含有混合物を呼吸したラットが軸性ジスキネジア(Axial)をほとんど有さないことを明らかにしている。
【0050】
次に、図4A及び4Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける後ろ足のジスキネジア(Li)に及ぼすキセノンの効果を示す。図4Aに見られるように、L−ドーパの投与(t=0)後の後ろ足のジスキネジアに及ぼすキセノンの効果のカイネティクスは、キセノンを含有しないガス混合物を吸入したコントロール群に対して、振幅及び持続期間の両方において、同様に、それらのジスキネジアにおける著しい減少を示す。
【0051】
図4Bにおいて、60〜180分の後ろ足のジスキネジア(Li)の平均値は、キセノン含有混合物を呼吸したラットの全体が、後ろ足のジスキネジアをほとんど有さないことを明らかにしている。
【0052】
図5A及び5Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける口唇ジスキネジア(Ol)に及ぼすキセノンの効果を説明する。図5Aに見られるように、L−ドーパの投与(t=0)後の口唇ジスキネジア(Ol)に及ぼすキセノンの効果のカイネティクスは、キセノンを含有しないガス混合物を吸入したコントロール群に対して、振幅及び持続期間の両方において、それらのジスキネジアの明らかな減少を示す。
【0053】
さらに、図5Bにおいて、60〜180分の口唇ジスキネジア(Ol)の平均値は、平均で、本発明に従うキセノン含有混合物を吸入したラットは、口唇ジスキネジアをほとんど有さないことを明らかにしている。
【0054】
最後に、図6A及び6Bは、パーキンソン病様疾患のラットにおける歩行運動ジスキネジア(Lo)に及ぼすキセノンの効果を説明する。図6Aに見られるように、L−ドーパの投与(t=0)後の歩行運動ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果のカイネティクスは、キセノンを含有しないガス混合物を吸入したコントロール群に対して、振幅及び持続期間の両方において、同様に、それらのジスキネジアの大きな減少を示す。
【0055】
また、60〜180分の歩行運動ジスキネジアの平均値は、図6Bに示されているように、全体的に、キセノン含有混合物を呼吸したラットが歩行運動ジスキネジアをほとんど有さないことを明らかにしている。
【0056】
まとめとして、キセノン/Oのガス混合物(容量で50%/50%)を呼吸する動物群において、4つのタイプのジスキネジアの出現は大きく減少される。この減少は、ジスキネジアの振幅及び持続期間の両方で見ることができる。
【0057】
この得られた試験結果は、キセノンがレボドーパにより誘発されるジスキネジアに対する有効な薬剤であることを示しており、また、このガスはそれ故、ヒトにおけるジスキネジアの治療処置方法の状況において用いられ得ることを示している。
【0058】
それ故、本発明に従って、動物、特にヒトにおけるジスキネジア、より具体的にはドーパミン作動性のアゴニスト、好ましくはレボドーパ又はドーパミン前駆物質によって誘発されるジスキネジアを治療又は予防するために吸入によって投与されるガス状キセノンの使用が提案される。
【0059】
しかしながら、本発明によるキセノンベースの吸入可能薬物は、パーキンソン病自体の適切な治療であることを意図するものではなく、パーキンソン病の治療に用いられる化合物、特にレボドーパによって生じ得るか又は誘発されるジスキネジアの発現を予防するか、最小化するか、又は治療することを可能にするものであることは、再度強調されるべきである。
【0060】
一般に、ガス状キセノンに基づくガス状薬物を使用する本発明の状況での治療において、キセノンは、フェイスマスク又は鼻マスク、又は鼻ゴーグルに連結された、換気装置により、噴霧器により又は予め包装されたボトルを用いて自発的に、ヒトに投与され得る。
【0061】
投与の期間は、問題の患者を冒しているジスキネジアの重篤度の関数として個々に選択され、例えばキセノンは、数分から数十分又は数時間にまでなる時間、例えば1時間未満の時間で、1日又は1週間あたり一回以上に達する頻度で、例えば、2週間の間1日1回の頻度で、投与されてよい。
【0062】
治療の有効性は、所定の期間の間にヒトで生じる、例えばレボドーパにより誘発されたジスキネジアの回数及び/又は頻度を記録し、その数を参照値と比較することにより評価され得る。
【0063】
キセノン又はキセノンベースのガス混合物は、好ましくは、圧力をかけられたガスシリンダー中に詰められるか、又は、液体形態で例えば1リットル(水分含量)以上のボトル中に2〜300barの圧力で詰められる。
【0064】
キセノン又はキセノンベースのガス混合物は、例えば、予め酸素を混合された「使用する用意ができている」形態であってよく、又は、使用時のサイトにおいて混合されても良く、特に酸素及び任意に他のガス状化合物と混合されてよく、又は、ドーパミン置換薬物との組み合わせであってよく、上記で説明したように、前記ドーパミン置換薬物は好ましくは、例えばレボドーパなどのドーパミン作動性のアゴニストから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】ラットの脳における注入サイトの模式的表示。
【図2】動物が実際にパーキンソン病様疾患であることを確かめるために用いられる自動ロトメーター(rotometer)。
【図3A】パーキンソン病様疾患のラットにおける軸性ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図3B】パーキンソン病様疾患のラットにおける軸性ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図4A】パーキンソン病様疾患のラットにおける後ろ足ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図4B】パーキンソン病様疾患のラットにおける後ろ足ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図5A】パーキンソン病様疾患のラットにおける口唇ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図5B】パーキンソン病様疾患のラットにおける口唇ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図6A】パーキンソン病様疾患のラットにおける歩行運動ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。
【図6B】パーキンソン病様疾患のラットにおける歩行運動ジスキネジアに及ぼすキセノンの効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類におけるジスキネジアを治療又は予防するために吸入によって使用するためのガス状キセノンに基づくガス状薬物であって、前記ジスキネジアは、レボドーパ(L−ドーパ)によって誘発される薬物。
【請求項2】
前記哺乳類はヒトであることを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項3】
前記ジスキネジアはレボドーパを用いるパーキンソン病の治療によって誘発されることを特徴とする、請求項1〜2の何れか一項に記載の薬物。
【請求項4】
前記ガス状キセノンは、酸素含有ガスと混合されることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の薬物。
【請求項5】
5〜50%の容量比のキセノンを含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の薬物。
【請求項6】
5〜40%の容量比のキセノンを含有することを特徴とする請求項5に記載の薬物。
【請求項7】
前記キセノンは少なくとも21容量%の酸素と混合されることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の薬物。
【請求項8】
キセノンは、一酸化二窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、HS、CO、NO及び窒素から選択される少なくとも一つの他の化合物と混合されることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の薬物。
【請求項9】
キセノンはレボドーパと組み合わせて投与されることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の薬物。
【請求項10】
キセノンは、レボドーパの投与より前に、該投与と同時に及び/又は該投与の後に投与されることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の薬物。
【請求項11】
前記ガス状キセノンは、空気又はN/O混合物と混合されることを特徴とする、請求項4に記載の薬物。
【請求項12】
10〜30%の容量比のキセノンを含有することを特徴とする請求項6に記載の薬物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2013−510187(P2013−510187A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538383(P2012−538383)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052350
【国際公開番号】WO2011/058262
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】