説明

誘電体セラミック、及び積層セラミックコンデンサ

【課題】温度特性を損なうことなく高誘電率を維持し、かつ所望の信頼性やAC電界特性を確保することができるようにする。
【解決手段】本発明の誘電体セラミックは、結晶粒子1と結晶粒界2とを備えている。そして、任意の断面で観察したとき、70%以上の結晶粒子1が、BaTiOを主成分とする第1の領域3と、(Ba,Ca)TiOを主成分とする第2の領域4とを有する。さらに、第1の領域3の結晶粒界2への露出部分の周縁長L1が、第2の領域4の結晶粒界2への露出部分の周縁長L2よりも長く形成されている。第2の領域4が第1の領域3で取り囲まれている。必要に応じ、副成分としてSi、Mg、Mn、及びVの群から選択された少なくとも1種の元素、更にはSm、Gd、Dy、Er、Ho、Y、及びZrの群から選択された少なくとも1種の元素を添加するのも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体セラミック、及び積層セラミックコンデンサに関し、より詳しくは小型・大容量の積層セラミックコンデンサの誘電体材料に適した誘電体セラミック、及び該誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、多種多様な電子デバイスの回路に用いられる電子部品であり、電子デバイスの小型化に伴い、積層セラミックコンデンサについても小型化が求められている。
【0003】
この種の積層セラミックコンデンサは、通常、誘電体層と誘電体層との間に内部電極が介在されたものを積層し、積層体を焼結させて形成される。そして、積層セラミックコンデンサの容量を低下させずに小型化するためには誘電体層を薄層化する必要がある。
【0004】
ところで、誘電体層の薄層化に伴い、高誘電率を有しかつ高温での長時間駆動にも耐え得る高信頼性を有する誘電体セラミックが求められる。
【0005】
高誘電率を有し、かつ信頼性の良好な誘電体セラミック材料としては、(Ba,Ca)TiO(以下、「BCT」という。)系材料が知られている。このBCTは、BaTiO(以下、「BT」という。)のBaの一部をCaで置換することにより、BTに比べて格子間距離が縮まり、これにより信頼性低下の原因と考えられる酸素空孔の移動を抑制することができる。したがって、BCTはBTに比べ信頼性に優れている。
【0006】
このBCTを使用した先行技術としては、例えば、BCT系結晶粒子と、BT系結晶粒子とを有する誘電体セラミック(誘電体磁器)であって、前記BT系結晶粒子の平均粒径が前記BCT系結晶粒子の平均粒径よりも小さく、前記BT系結晶粒子の全域にわたってMg及びMnが存在するとともに、前記BT系結晶粒子表面に、アルカリ土類元素、希土類元素及びSiを含有する複合酸化物からなる被覆層を有し、かつ、前記BCT系結晶粒子がコアシェル構造を有する誘電体セラミックが知られている(特許文献1)。
【0007】
この特許文献1の誘電体セラミックは、高い誘電率を有し温度特性の良好なBT系結晶粒子と、DCバイアス特性の良好なBCT系結晶粒子との混晶構造を有しているので、BT系結晶粒子からなる均一構造の誘電体セラミックに比べ、良好なDCバイアス特性を得ることが可能となり、また、BCT系結晶粒子からなる均一構造の誘電体セラミックに比べ、高誘電率かつ良好な静電容量の温度特性を得ることが可能となる。
【0008】
【特許文献1】特開2003−63863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1では、誘電体セラミックの磁器構造を、BCT系結晶粒子とBT系結晶粒子との混晶構造としているものの、BT系結晶粒子が偏って局所的に存在したり、BCT系結晶粒子が局所的に偏って存在してしまう場合があり、斯かる局所的な偏りは、誘電体層の薄層化に伴い、相対的に顕著になる。すなわち、誘電体層が薄層化すると、内部電極の断面を厚み方向から観察した場合、BT系結晶粒子又はBCT系結晶粒子のいずれか一方の結晶粒子のみからなる部分の存在確率が大きくなる。
【0010】
したがって、例えば、信頼性の劣るBT系結晶粒子のみで形成された部分の割合が増加すると、内部電極−内部電極間に、前記BT系結晶粒子からなるショートパスが形成され、その結果、電界を印加した場合、負荷によっては電気抵抗値の低下を招くおそれがある。
【0011】
この場合、結晶粒子の粒子径を小さくすることにより、上記不具合を回避することも可能であるが、結晶粒子の微小化は比誘電率の低下を招くおそれがある。
【0012】
また、結晶粒子を微小化するためには、原料となるセラミック粉末の粒子径も微小化する必要があるが、セラミック粉末の粒子径を微小化すると、粒子同士の凝集が生じ易くなる。そしてその結果、セラミック粉末をシート成形する際に、パッキング性が低くなって成形密度の低下を招くおそれがあり、また、焼成後も局所的な結晶粒子の粗密化を招くおそれがあることから、所望の信頼性を確保することが困難である。
【0013】
また、最近の誘電体層の薄層化に伴い、IC周辺に用いられる積層セラミックコンデンサでは、印加されるAC電圧が0.1V以下に小さくなる場合がある。したがって、AC印加電圧が低下しても、静電容量の変動を極力抑制する必要がある。すなわちAC電界特性の良好な誘電体セラミックの実現が望まれる。
【0014】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであって、温度特性を損なうことなく高誘電率を維持し、かつ信頼性とAC電界特性を確保することができる誘電体セラミック、及びこれらの誘電体セラミックを使用した積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明に係る誘電体セラミックは、結晶粒子と結晶粒界とを備えた誘電体セラミックであって、任意の断面を観察したとき、70%以上の結晶粒子が、BaTiOを主成分とする第1の領域と、(Ba,Ca)TiOを主成分とする第2の領域とを有し、かつ、前記第1の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長が、前記第2の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長よりも長いことを特徴としている。
【0016】
尚、本発明では、「結晶粒界」は、「結晶三重点」を含むものとする。
【0017】
また、本発明の誘電体セラミックは、前記第2の領域が前記第1の領域で取り囲まれていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の誘電体セラミックは、Si、Mg、Mn、及びVの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれていることを特徴としている。
【0019】
さらに、本発明の誘電体セラミックは、Sm、Gd、Dy、Er、Ho、Y、及びZrの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれていることを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極が交互に積層されてなるセラミック焼結体を有すると共に、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成され、該外部電極と前記内部電極とが電気的に接続された積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層が、上記いずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の誘電体セラミックによれば、任意の断面を観察したとき、70%以上の結晶粒子が、BaTiOを主成分とする第1の領域と、(Ba,Ca)TiOを主成分とする第2の領域とを有し、かつ、前記第1の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長が、前記第2の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長よりも長いので、結晶粒子がBCT又はBTの均一構造となる割合を低減できると共に、信頼性向上に寄与するBCTの周囲をAC電界特性の向上に寄与するBTが囲んだ構造を実現することが可能となる。そしてこれにより、誘電体層が薄層化しても、温度特性を損なうことなく高誘電率を維持し、かつ高い信頼性を有しながら、AC電界特性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、Si、Mg、Mn、及びVの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれ、さらにはSm、Gd、Dy、Er、Ho、Y、及びZrの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれているので、比誘電率をより一層向上させることが可能となり、かつ更なる信頼性向上を図ることができる。
【0023】
また、本発明の積層セラミックコンデンサによれば、誘電体層が、上記いずれかに記載の誘電体セラミックで形成されているので、誘電体層が薄層化(例えば、2μm以下)された場合であっても、AC電界特性と信頼性の両立が可能であり、かつ温度特性が良好で高誘電率を有する所望の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら詳説する。
【0025】
図1は、本発明に係る誘電体セラミックの一実施の形態(第1の実施の形態)の要部を模式的に示した断面図である。
【0026】
本発明の誘電体セラミックは、結晶粒子1と結晶粒界2とを備え、任意の断面を観察したとき、70%以上の結晶粒子1が、下記(1)、(2)の要件を満たしている。すなわち、
(1)BTを主成分とする第1の領域3と、BCTを主成分とする第2の領域4とを有し、かつ
(2)図2に示すように、第1の領域3の結晶粒界2への露出部分の周縁長L1と、第2の領域4の結晶粒界2への露出部分の周縁長L2とは、L1>L2の関係を有している。
【0027】
そして、これによりAC電界特性と信頼性の双方の両立が可能な誘電体セラミックを得ることができる。
【0028】
すなわち、BCTは、BTのBaの一部をCaで置換することによって、格子間距離を縮めることができ、これにより信頼性低下の原因となる酸素空孔の移動を抑制することができる。一方、BTは高誘電率を有すると共に温度特性に優れ、さらにはBCTに比べてAC電界特性の向上に寄与する。
【0029】
したがって、BTを主成分とする第1の領域3とBCTを主成分とする第2の領域4とを同一の結晶粒子内に共存させることにより、温度特性を損なうことなく高誘電率を維持し、かつ信頼性とAC電界特性の両立を図ることができると考えられる。
【0030】
ところが、本発明者らの研究結果により、L1<L2、すなわち第2の領域4の結晶粒界への露出部分の周縁長L2を第1の領域3の結晶粒界への露出部分の周縁長L1よりも長くした場合は、第1の領域3の周縁のほぼ全域を第2の領域4で覆うことが難しく、第1の領域3の結晶粒界2への露出部分が少なからず形成されてしまうことが分かった。
【0031】
したがって、この場合、積層セラミックコンデンサに電界を印加すると、該電界は、結晶粒界2に沿って伝播することなく、結晶粒子1の中心部、すなわち信頼性の低い第1の領域3を伝播することができる。すなわち、前記BT系結晶粒子からなるショートパスが内部電極−内部電極間に形成され、電界が前記ショートパスを伝播するため、信頼性を向上させることが困難となる。
【0032】
これに対しL1>L2、すなわち第1の領域3の結晶粒界への露出部分の周縁長L1が第2の領域4の結晶粒界2への露出部分の周縁長L2よりも長い場合は、第2の領域4を第1の領域3で囲うことができる。そして、結晶粒子1の中心部が、信頼性の高いBCTを主成分とした第2の領域4であるので、電界は結晶粒界2に沿って伝播しなければならず、内部電極−内部電極間にショートパスが形成され難い。その結果、高い信頼性を得ることが可能となる。
【0033】
このような構造とすることにより、信頼性とAC電界特性の両立を図ることが可能となる。
【0034】
また、上記(1)(2)の要件を満たす結晶粒子を、70%以上としたのは、以下の理由による。
【0035】
結晶粒子中、上記(1)(2)の要件を満たす結晶粒子が存在しても、その割合が70%未満の場合は、BCTがBTに十分に囲まれていない結晶粒子の割合が相対的に増加し、所望の信頼性向上を図ることができなくなるからである。
【0036】
尚、上記(1)(2)の要件を満足する誘電体セラミックは、原料粉末の製造条件を制御することにより製造することができる。すなわち、後述するように、例えば、BCT粉末を作製した後、BCTとBTが所定配合量となるように該BCT粉末にBa化合物、Ti化合物を添加し、仮焼温度を調整することにより、上記(1)(2)の要件を満足する誘電体セラミックを容易に製造することができる。
【0037】
図3は、誘電体セラミックの第2の実施の形態を模式的に示した断面図であって、任意の断面で観察したとき、70%以上の結晶粒子は、この図3に示すように、第1の領域3の内部に第2の領域4が形成されている。
【0038】
すなわち、この第2の実施の形態においても、任意の断面で観察したとき、70%以上の結晶粒子が、BTを主成分とする第1の領域3と、BCTを主成分とする第2の領域4とを有している。そして、第1の領域3の周縁のみが結晶粒界2に露出しており、第2の領域4の周縁は結晶粒界2に露出していない。つまり、第2の領域4が、第1の領域3に包囲された状態となっている。したがって、第1の実施の形態と同様、第1の領域3の結晶粒界2への露出部分の周縁長L1が、第2領域3の結晶粒界2への露出部分の周縁長L2よりも長く形成されていることとなる。
【0039】
そして、この第2の実施の形態でも、第1の実施の形態(図1及び図2)で述べたのと同様の理由から、温度特性を損なうことなく高誘電率を維持し、かつ高い信頼性を有しながら、AC電界特性を改善することができる。
【0040】
また、本誘電体セラミックは、BT及びBCTを主成分とするが、特性に影響を与えない範囲で、必要に応じて副成分を添加するのも好ましい。特に、Si、Mg、Mn、及びVの群から選択された少なくとも1種の元素や、Sm、Gd、Dy、Er、Ho、Y、及びZrの群から選択された少なくとも1種の元素を副成分として添加することにより、良好な温度特性やAC電界特性を維持しつつ、より一層の比誘電率の向上を図ることができ、更には信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0041】
尚、これらの副成分は、結晶粒内の主成分に固溶していても良く、結晶粒界に存在していても良い。
【0042】
次に、本誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサについて詳述する。
【0043】
図4は上記積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0044】
該積層セラミックコンデンサは、セラミック焼結体5に内部電極6a〜6fが埋設されると共に、該セラミック焼結体5の両端部には外部電極7a、7bが形成され、さらに該外部電極7a、7bの表面には第1のめっき皮膜8a、8b及び第2のめっき皮膜9a、9bが形成されている。
【0045】
すなわち、セラミック焼結体5は、上記誘電体セラミックで形成された誘電体層10a〜10gと内部電極層6a〜6fとが交互に積層されて焼成されてなり、内部電極層6a、6c、6eは外部電極7aと電気的に接続され、内部電極層6b、6d、6fは外部電極7bと電気的に接続されている。そして、内部電極層6a、6c、6eと内部電極層6b、6d、6fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0046】
次に、上記積層セラミックコンデンサの製造方法の一例について詳述する。
【0047】
まず、セラミック素原料として、BaCO、CaCO、TiOを用意し、所定量秤量する。
【0048】
次いで、この秤量物をPSZ(Partially Stabilized Zirconia:部分安定化ジルコニア)ボール等の玉石及び純水と共にボールミルに投入し、湿式で十分に混合粉砕した後、1000℃以上の温度で仮焼し、BCT粉末を作製する。
【0049】
次いで、主成分原料粉末中のBCTとBTとの割合が所定比率となるように、BCT粉末、及びBaCO、TiOを所定量秤量する。そして、この秤量物をPSZボール等の玉石及び純水と共にボールミルに投入し、湿式で十分に混合粉砕した後、1000〜1150℃程度の温度で仮焼し、BCT及びBTからなる主成分原料粉末を作製する。
【0050】
さらに、必要に応じ、上述した副成分化合物を上記主成分原料粉末に添加し、ボールミルで湿式混合した後、乾燥させ、これによりセラミック原料粉末を得る。
【0051】
次いで、このセラミック原料粉末を有機バインダや有機溶剤と共にボールミルに投入して湿式混合し、これによりセラミックスラリーを作製する。その後、ドクターブレード法等を使用してセラミックスラリーに成形加工を施し、セラミックグリーンシートを作製する。
【0052】
次いで、内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0053】
尚、内部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料としては、低コスト化の観点から、Ni、Cuやこれら合金を主成分とした卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0054】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。そしてこの後、温度300℃〜500℃で脱バインダ処理を行ない、さらに、酸素分圧が10-9〜10-12MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、温度1200〜1300℃で約2時間焼成処理を行なう。これにより導電膜とセラミックグリーンシートとが共焼結され、内部電極6a〜6fと誘電体層10a〜10gとが交互に積層されてなるセラミック焼結体5が得られる。
【0055】
次に、セラミック焼結体5の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行い、これにより外部電極7a、7bが形成される。
【0056】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても、低コスト化の観点からCu等の卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0057】
また、外部電極7a、7bの形成方法として、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0058】
そして、最後に、電解めっきを施して外部電極7a、7bの表面にNi等からなる第1のめっき皮膜8a、8bを形成し、さらに該第1のめっき皮膜8a、8bの表面にはんだやスズ等からなる第2のめっき皮膜9a、9bを形成し、これにより積層セラミックコンデンサが製造される。
【0059】
このように本積層セラミックコンデンサは、誘電体層10a〜10gが上記誘電体セラミックを使用して製造されているので、誘電体層10a〜10gが薄層化されても、温度特性を損なうことなく、高誘電率を維持し、さらに良好なAC電界特性を確保することができ、しかも高温負荷寿命が良好で信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0060】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、主成分であるBCT及びBTを固相合成法により作製したが、加水分解法や水熱合成法、共沈法等により作製してもよい。さらに、セラミック素原料についても、炭酸塩や酸化物以外に、硝酸塩、水酸化物、有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等、合成反応の形態に応じて適宜選択することができる。
【0061】
また、積層セラミックコンデンサの焼成処理で内部電極成分が結晶粒子内や結晶粒界に拡散するおそれがあるが、この場合も積層セラミックコンデンサの電気特性に何ら影響を及ぼすものではない。
【0062】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0063】
〔主成分原料粉末の作製及び準備〕
[試料番号1]
平均粒径200nmのBaTiO粉末を準備し、試料番号1の主成分原料粉末とした。
【0064】
[試料番号2]
平均粒径200nmの(Ba0.95Ca0.05)TiO粉末を準備し、試料番号2の主成分原料粉末とした。
【0065】
[試料番号3]
平均粒径200nmの(Ba0.95Ca0.05)TiO粉末を準備した。そして、(Ba0.95Ca0.05)TiO(BCT)とBaTiO(BT)が、モル比でBCT:BT=8:2となるように、(Ba0.95Ca0.05)TiO、BaCO及びTiOを秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入して混合した。次いで、これを乾燥させた後、1000℃の温度で2時間仮焼し、試料番号3の主成分原料粉末を作製した。
【0066】
[試料番号4]
仮焼温度を1050℃とした以外は試料番号3と同様の方法で試料番号4の主成分原料粉末を作製した。
【0067】
[試料番号5]
仮焼温度を1100℃とした以外は試料番号3と同様の方法で試料番号5の主成分原料粉末を作製した。
【0068】
[試料番号6]
仮焼温度を1150℃とした以外は試料番号3と同様の方法で試料番号6の主成分原料粉末を作製した。
【0069】
[試料番号7]
平均粒径200nmのBaTiO粉末を準備した。そして、(Ba0.95Ca0.05)TiO(BCT)とBaTiO(BT)が、モル比でBCT:BT=8:2となるように、BaTiO、BaCO、CaCO及びTiOを秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入して混合した。次いで、これを乾燥させた後、1000℃の温度で2時間仮焼し、試料番号7の主成分原料粉末を作製した。
【0070】
〔積層セラミックコンデンサの作製〕
上記試料番号1〜7の主成分原料粉末100モル部に対し1モル部のMgO、0.3モル部のMnOをPSZボール及び純水と共にボールミルに投入して混合し、その後、乾燥させてセラミック原料を得た。
【0071】
次に、このセラミック原料に対し、ポリビニルブチラール系バインダ及びエタノール等の有機溶媒を加え、ボールミルで所定時間湿式で混合し、セラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、厚み2.5μmの矩形のセラミックグリーンシートを作製した。そして、Niを主成分とする内部電極用導電性ペーストを用意し、該内部電極用導電性ペーストを前記セラミックグリーンシート上にスクリーン印刷し、該セラミックグリーンシート上に導電層を形成した。
【0072】
次に、導電層が形成されたセラミックグリーンシートを導電層の引き出されている側が互い違いとなるように複数枚積層し、積層体を得た。この積層体を窒素雰囲気中、300℃の温度で加熱してバインダを燃焼させた後、酸素分圧10-9〜10-12MPaのH−N−HOガスからなる還元性雰囲気中、1200〜1300℃で2時間焼成し、セラミック焼結体を得た。
【0073】
次に、B−LiO−SiO−BaOガラスフリットを含有したCuを主成分とする外部電極用導電性ペーストを用意した。そして、この外部電極用導電性ペーストをセラミック焼結体の両端面に塗布し、窒素雰囲気下、800℃の温度で焼き付けて外部電極を形成し、これにより試料番号1〜7の積層セラミックコンデンサを得た。
【0074】
尚、このようにして得られた積層セラミックコンデンサは、外形寸法が長さ:2.0mm、幅:1.2mm、厚さ:1.0mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは2μmであった。また、有効誘電体層の総数は100であり、一層当たりの対向電極面積は1.8mmであった。
【0075】
〔誘電体セラミックの構造分析〕
走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscopy;以下、「STEM」という。)とエネルギー分散型X線装置(energy dispersive x-ray spectroscopy;以下、「EDX」という。)を使用したSTEM−EDX法で元素分析を行い、結晶粒子の組成を同定した。
【0076】
具体的には、結晶粒子の外周から内方約15nmの周縁において、均等に10箇所サンプリングし、組成がBTを主成分とするかBCTを主成分とするかを同定した。すなわち、各サンプリング点において、CaとTiとのモル比Ca/Tiを測定し、モル比Ca/Tiが1%以上の場合をBCTとし、モル比Ca/Tiが1%未満の場合をBTとし、BTであると同定された箇所が7箇所以上存在した場合を本発明範囲内の結晶粒子とした。
【0077】
このようにして10個の結晶粒子の構造分析を行い、本発明の範囲内にある結晶粒子の個数割合を調べた。
【0078】
〔特性評価〕
試料番号1〜7の各試料について、比誘電率εr、AC電界特性、及び信頼性を評価した。
【0079】
すなわち、自動ブリッジ式測定器を使用し、周波数1kHz、実効電圧1.0Vrms、温度25℃の条件で静電容量Cを測定し、試料寸法と静電容量Cから比誘電率εrを算出した。
【0080】
AC電界特性については、実効電圧1.0Vrmsの静電容量を基準とし、実効電圧を0.1Vrmsとしたときの静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0を求め、該電圧変化率ΔC0.1/C1.0が±20%以内を良品として評価した。
【0081】
信頼性については、高温負荷試験を行い、高温負荷寿命により評価した。すなわち、各試料10個について、温度150℃の高温下、16Vの直流電圧(電界換算で8kV/mm)を印加した。そして、絶縁抵抗の経時変化を測定し、絶縁抵抗が200kΩに低下した時点を故障が発生したと判断し、各試料についての平均値を平均故障時間として信頼性を評価した。
【0082】
表1は試料番号1〜7の誘電体セラミックの構造、及び測定結果を示している。尚、表1中、L1はBTを主成分とする第1の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長、L2はBCTを主成分とする第2の領域の同じ結晶粒界への露出部分の周縁長である。
【0083】
【表1】

【0084】
試料番号1は、誘電体セラミックの結晶粒子が、BTの均一構造からなるため、静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0は−17%であり、AC電界特性は良好であるが、平均故障時間が5時間と短く、信頼性に劣ることが分かった。
【0085】
試料番号2は、誘電体セラミックの結晶粒子が、BCTの均一構造からなるため、平均故障時間は40時間であり、信頼性は良好であるが、静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0は−42%であり、AC電界特性に劣ることが分かった。
【0086】
また、試料番号7は、静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0は−18%であり、AC電界特性は良好であるが、平均故障時間が10時間と短く、信頼性に劣ることが分かった。これは、BTとBCTが結晶粒子内で共存するものの、L1>L2が成立する結晶粒子が、全結晶粒子の50%しかなく、したがってBCTがBTで囲まれている結晶粒子の割合が少なく、このため十分な信頼性が得られなかったものと思われる。
【0087】
これに対し試料番号3〜6は、L1>L2である結晶粒子が70〜100%であり、結晶粒子の表面露出部分がBTで十分に覆われた結晶構造となっているため、静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0は−13〜−19%、平均故障時間は30〜45時間となり、1600〜1800の高比誘電率を維持しつつ、AC電界特性と信頼性の両立を図れることが分かった。
【0088】
尚、試料番号3〜6については、温度25℃を基準とし、−55℃〜+85℃の範囲で静電容量の変化率を測定したところ、いずれも±15%以内に抑制できた。すなわち、EIA規格のX5R特性を満足することが確認された。
【実施例2】
【0089】
〔実施例1〕の試料番号3の主成分原料粉末に副成分を添加し、特性を評価した。
【0090】
すなわち、副成分化合物として、SiO、MgO、MnO、V、Sm、Gd、Dy、Er、Ho、Y及びBaZrOの各粉末を用意した。
【0091】
そして、上記副成分化合物が、試料番号3の主成分原料粉末100モル部に対し、表2に示すモル部となるように、これら副成分化合物を秤量した。そして、前記主成分原料粉末及び副成分化合物をPSZボールや純水と共にボールミルに投入して混合した。次いで、これを乾燥させ、セラミック原料を得た。
【0092】
その後は、上記〔実施例1〕と同様の方法・手順により、試料番号11〜23の積層セラミックコンデンサを得た。
【0093】
次に、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、比誘電率εr、静電容量の電圧変化率ΔC0.1/C1.0、平均故障時間を測定した。
【0094】
また、+25℃の静電容量を基準とし、−55℃〜+125℃の範囲で静電容量の温度変化率を測定した。
【0095】
温度変化率が−55℃〜+85℃の範囲で±15%以内であればEIA規格のX5R特性を満足し、温度変化率が−55℃〜+105℃の範囲で±15%以内であればEIA規格のX6R特性を満足し、温度変化率が−55℃〜+125℃の範囲で±15%以内であればEIA規格のX7R特性を満足する。そして、これらを指標に温度特性を評価した。
【0096】
表2は、主成分原料粉末100モル部に対する試料番号11〜23の各副成分元素のモル部、及びその測定結果を示している。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から明らかなように、副成分元素を主成分原料粉末に添加することにより、実施例1と同等以上のAC電界特性及び信頼性を得ることのできることが分かった。また、温度特性もX5R特性以上を確保できることも分かった。
【0099】
特に、Sm、Gd、Dy、Er、Ho、Y等の希土類元素やZrを添加した試料番号15〜23は、比誘電率をより一層向上させることができ、さらに平均故障時間が100時間以上となり、信頼性の大幅な向上を図ることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る誘電体セラミックの一実施の形態の要部を模式的に示した断面図である。
【図2】第1の領域3の結晶粒界への露出部分の周縁長L1と第2の領域4の結晶粒界への露出部分の周縁長L2との関係を示す図である。
【図3】本発明に係る誘電体セラミックの他の実施の形態の要部を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の誘電体セラミックを使用して製造された積層セラミックコンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 結晶粒子
2 結晶粒界
3 第1の領域
4 第2の領域
5 セラミック焼結体
6a〜6f 内部電極
7a、7b 外部電極
10a〜10g 誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶粒子と結晶粒界とを備えた誘電体セラミックであって、
任意の断面を観察したとき、70%以上の結晶粒子が、BaTiOを主成分とする第1の領域と、(Ba,Ca)TiOを主成分とする第2の領域とを有し、
かつ、前記第1の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長が、前記第2の領域の結晶粒界への露出部分の周縁長よりも長いことを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記第2の領域が、前記第1の領域で取り囲まれていることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
Si、Mg、Mn、及びVの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
Sm、Gd、Dy、Er、Ho、Y、及びZrの群から選択された少なくとも1種の元素が含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
誘電体層と内部電極が交互に積層されてなるセラミック焼結体を有すると共に、該セラミック焼結体の両端部に外部電極が形成され、該外部電極と前記内部電極とが電気的に接続された積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体層が、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249257(P2009−249257A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101475(P2008−101475)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】