説明

誘電体セラミックおよびそれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】誘電体層として用いた場合に、寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることが可能な誘電体セラミックおよびそれを用いて誘電体層を形成した信頼性(寿命特性)に優れた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】誘電体セラミックを、BaTiO3系セラミック粒子を主相粒子とする焼結体からなり、BaTiO3系セラミック粒子が、シェル部とコア部とを備え、副成分として、R(Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびYから選ばれる少なくとも1種)、および、M(Mg,Mn,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Al,Mo,WおよびVから選ばれる少なくとも1種)を含み、RおよびMは、BaTiO3系セラミック粒子のシェル部に存在するとともに、RおよびMの合計濃度が、粒界からコア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分C2と、極大となる部分C3とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体セラミックおよびそれを用いたコンデンサに関し、詳しくは、BaTiO3系の誘電体セラミックおよびそれを誘電体層の構成材料として用いた積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型・軽量化にともない、小型で、大容量を取得することが可能な積層セラミックコンデンサが広く用いられている。この積層セラミックコンデンサは、例えば、図1に示すように、セラミック積層体(積層セラミック素子)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層であるセラミック層(誘電体セラミック層)11を介して積層され、かつ、セラミック積層体10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有している。
【0003】
そして、このような積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層として、 高い誘電率を有するBaTiO3系セラミック材料が一般的に用いられている。
【0004】
さらに、BaTiO3系セラミック材料として、温度特性や絶縁性、信頼性(寿命特性)などの特性を向上させる目的で、種々の副成分、例えば、希土類元素やMgなどを添加したものが用いられている。
【0005】
また、BaTiO3系セラミック材料の温度特性や信頼性(寿命特性)を制御可能に保ちつつ、両立させるために、セラミック粒子(結晶粒子)の表層部に副成分が固溶し、結晶粒子の内部には殆ど副成分が固溶していない、いわゆるコア・シェル構造とよばれる結晶構造とすることも行われている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、誘電体層が、コア部とコア部を囲繞するシェル部とからなるセラミック粒子の焼結体から構成されているとともに、セラミック粒子のシェル部にはMn,V,Cr,Co,Fe,Ni,CuおよびMoから選択された1種又は2種以上のアクセプタ型元素、Mgおよび希土類元素(Ho,Sc,Y,Gd,Dy,Er,Yb,Tb,Tm,Lu)が含まれており、シェル部に含まれている上記アクセプタ型元素の濃度がコア・シェル境界から粒界側に向かって高くなるようにした積層セラミックコンデンサが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、誘電体層に特許文献1に示されているようなセラミック誘電体を用いた積層セラミックコンデンサの場合、例えば、高温や高電界強度の環境下で使用すると、信頼性(寿命特性)が低下するという問題点がある。そのため、さらに寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを構成することが可能な誘電体材料の開発が望まれているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−230149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、積層セラミックコンデンサの誘電体層として用いた場合に、容量温度特性が良好で、かつ、寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることが可能な誘電体セラミック、およびそれを用いて誘電体層を形成した信頼性(寿命特性)に優れた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の誘電体セラミックは、
BaTiO3系セラミック粒子を主相粒子とする焼結体からなり、
前記BaTiO3系セラミック粒子は、表層部であるシェル部と、シェル部の内側のコア部とを備え、
副成分として、R(Rは、希土類元素であって、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種)、および、M(Mは、Mg,Mn,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Al,Mo,WおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含み、
前記BaTiO3系セラミック粒子の前記シェル部が、前記Rおよび前記Mを含むとともに、前記Rおよび前記Mの合計濃度は、粒界から前記コア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分と、極大となる部分とを有していること
を特徴としている。
【0011】
本発明の誘電体セラミックにおいては、前記Rおよび前記Mの合計濃度が極小となる部分および極大となる部分の、少なくとも一方を2つ以上有していてもよい。
【0012】
また、前記Rおよび前記Mの合計濃度が極大となる部分の値である極大値は、粒界における前記Rおよび前記Mの合計濃度の値よりも小さいことが望ましい。
【0013】
また、前記BaTiO3系セラミック粒子において、Baの一部がCaおよび/またはSrで置換されていてもよく、Tiの一部がZrおよび/またはHfで置換されていてもよい。
すなわち、Baの一部がCaおよび/またはSrで置換され、かつ、Tiの一部がZrおよび/またはHfで置換されていてもよく、また、BaとTiのいずれか一方だけが上述の成分で置換されていてもよい。
【0014】
本発明の積層セラミックコンデンサは、
複数の誘電体層と複数の内部電極とが一体的に積層された構造を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層が、本発明にかかる誘電体セラミックから形成されていること
を特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体セラミックは、BaTiO3系セラミック粒子を主相粒子とする焼結体からなり、BaTiO3系セラミック粒子は、シェル部とコア部とを備え、副成分として、R(Rは、希土類元素であって、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種)、および、M(Mは、Mg,Mn,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Al,Mo,WおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含み、RおよびMが、BaTiO3系セラミック粒子のシェル部に存在するとともに、RおよびMの合計濃度は、粒界からコア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分と、極大となる部分とを有するように構成されているので、温度特性や絶縁性、信頼性(寿命特性)などに優れた誘電体セラミックを得ることが可能になる。そして、本発明の誘電体セラミックを用いて誘電体層を形成することにより、容量温度特性に優れ、高温や高電界強度の環境下でも、良好な信頼性(寿命特性)を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
なお、このような作用効果が得られるのは、RおよびMの合計濃度が、粒界からコア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分と、極大となる部分とを有することで、キャリアとなる導電電子や酸素空孔などの移動を抑制できることによる。
【0016】
また、本発明の誘電体セラミックにおいて、上述の極小となる部分および極大となる部分は、1つである場合に限らず、少なくとも一方を2つ以上有していてもよく、その場合にも、温度特性や絶縁性、寿命特性などに優れた誘電体セラミックが得られ、この誘電体セラミックを誘電体層として用いることにより、容量温度特性に優れ、高温や高電界強度の環境下でも、良好な寿命特性を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0017】
また、RおよびMの合計濃度の極大値を、粒界におけるRおよびMの合計濃度の値よりも小さくなるようにした場合、良好なバイアス特性を得る(DC電圧を印加したときの静電容量の変化率を小さくする)ことが可能になり好ましい。
【0018】
また、本発明において、BaTiO3系セラミック粒子のBaの一部をCaおよび/またはSrで置換したり、Tiの一部をZrおよび/またはHfで置換したりすることにより、特性を制御して、所望の特性を備えた誘電体セラミックを得ることが可能になる。
【0019】
本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層が、本発明の誘電体セラミックから形成されているので、高温や高電界強度の環境のもとでも、良好な寿命特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例にかかる積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例にかかるBaTiO3セラミック粒子の透過電子顕微鏡像(TEM像)を示す図である。
【図3】本発明の実施例にかかるBaTiO3系セラミック粒子(試料番号1の試料)中のR成分とM成分の合計濃度の分布状態を示す線図である。
【図4】本発明の実施例にかかるBaTiO3系セラミック粒子(試料番号1の試料)の構成を、シェル部におけるR成分とM成分の合計濃度の分布状態とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0022】
(A)誘電体セラミック原料の作製
まず、出発原料として主成分原料であるBaTiO3粉末を準備した。
なお、主成分原料であるBaTiO3粉末は、その製造方法に特別の制約はなく、固相合成法、水熱合成法、加水分解法など、公知の種々の方法で作製されたものを使用することが可能である。さらに、BaTiO3を作製する際に用いる素材や、添加成分の化合物形態は、酸化物、炭酸物に限らず、塩化物、金属有機化合物など種々の形態のものを用いることができる。
【0023】
それから、このBaTiO3粉末に対し、表1に記載のM成分の酸化物粉末を添加し、純水を媒体として、ボールミルにより12時間混合した後、乾燥することにより混合粉末を得た。
【0024】
この混合粉末を1000℃で仮焼することにより仮焼体(組成物)を得た。そして、この仮焼体(組成物)を1次粒子にまで解砕することにより、仮焼済みの原料粉末を得た。
【0025】
次に、得られた仮焼済みの原料粉末に、表1に記載のR成分の酸化物粉末およびガラス成分であるSiO2を配合した。なお、表1におけるR成分、M成分、ガラス成分のmol部は、主成分(BaTiO3系粉末)100mol部に対する割合である。
【0026】
それから、上述のようにSiO2を配合した原料粉末に対し、アンモニア水を0.2wt%添加し、水を媒体として、ボールミルにより24時間混合することにより、原料粉末粒子の表面改質処理を行った。
【0027】
次に、24時間混合して表面改質処理を行った後のスラリーを蒸発乾燥し、400℃で熱処理して残留アンモニウムを除去することにより、表1の試料番号1〜19の誘電体配合原料粉末を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
なお、この誘電体配合原料粉末において、M成分、R成分、およびガラス成分(SiO2)は、通常、主成分原料であるBaTiO3粉末100mol部に対して、以下の範囲で配合することが望ましい。
M成分 :0.2〜4.0mol部
R成分 :0.1〜4.0mol部
ガラス成分:0.05〜3.0mol部
【0030】
また、表1の試料番号20の誘電体配合原料粉末は、BaTiO3粉末に、R成分の酸化物粉末、M成分の酸化物粉末およびSiO2粉末を配合し、アンモニア水を添加することなく、純水を媒体として、ボールミルにて混合した後、乾燥することにより得た、比較例としての誘電体配合原料粉末である。なお、この試料番号20の誘電体配合原料粉末については、特に熱処理も行わなかった。
【0031】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記(A)で作製した、表1の試料番号1〜20の誘電体セラミック原料に、ポリビニルブチラール系バインダーおよび有機溶媒(この実施例1ではエタノール)を加えて、ボールミルにより所定の時間、湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。
【0032】
このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、矩形で、焼成後の誘電体セラミック層厚が1μmになるようなセラミックグリーンシートを作製した。
【0033】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、ニッケル粉末を導電成分とする導電ペーストをスクリーン印刷し、焼成後に内部電極となる導電ペースト層(内部電極パターン)を形成した。
【0034】
それから、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを、内部電極パターンが交互に逆側に引き出されるような態様で所定枚数積層し、さらに、上下両面側に、導電ペーストパターンが形成されていないセラミックグリーンシートを外層として積層することにより、積層ブロックを作製した。
【0035】
なお、この実施例では、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを、有効誘電体層(コンデンサ形成層)の層数が100層となるように積層した。
【0036】
次ぎに、この積層ブロックを所定の寸法となるようにカットすることにより得た未焼成の積層体を、大気中で300℃に加熱してバインダーを燃焼させた後、酸素分圧10-10MPaのH2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中で、1200℃、2時間の条件で焼成し、焼成済みの積層体(セラミック積層体)を得た。
【0037】
それから、焼成済みのセラミック積層体の、内部電極が引き出された両端面に、導電成分である銅粉末と、B23−Li2O−SiO2−BaO系のガラスフリットとを含有する導電ペーストを塗布した後、800℃で焼き付けることにより、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0038】
これにより、図1に模式的に示すように、積層セラミック素子(焼成済みのセラミック積層体)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層(誘電体セラミック層)11を介して積層され、かつ、積層セラミック素子10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有する積層セラミックコンデンサを得た。
【0039】
なお、得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ:1.6mm、幅:0.8mm、厚さ:0.8mmであり、内部電極12間に介在する誘電体層(誘電体セラミック層)11の厚みは1.0μmであった。
【0040】
(C)特性の測定、誘電体セラミック層の構造分析、および評価
(1)特性の測定
上述のようにして作製した試料番号1〜20の各試料(積層セラミックコンデンサ)について、室温での比誘電率、温度変化に対する静電容量の変化率(容量変化率)、寿命特性(高温負荷寿命)、およびバイアス特性を調べた。
【0041】
比誘電率は、温度25℃,1kHz,0.5Vrmsの条件下で静電容量を測定し、得られた静電容量の値から計算した。各試料について調べた比誘電率の値を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
また、温度変化に対する静電容量の変化率(容量変化率)は、25℃での静電容量を基準とした−55℃から125℃の温度範囲における変化率の最大値を示した。各試料について測定した静電容量の変化率を表2に併せて示す。
なお、−55℃から125℃の範囲での変化率が±15%以内であれば、EIA規格のX7R特性を満足することになる。
【0044】
また,寿命特性(高温負荷寿命)は、それぞれ100個の試料について、温度150℃で20Vの電圧(20kV/mm)を印加する高温負荷寿命試験を行い、2000時間経過時点および3000時間経過時点における絶縁抵抗値を調べ、絶縁抵抗値が200kΩ以下になった試料を不良と判定した。なお、表2には、試験に供した100個の試料のうち不良の発生した試料の個数の割合を示している。
【0045】
また、バイアス特性は、上述のようにして作製した試料番号1〜20の各試料(積層セラミックコンデンサ)について、DCバイアスを印加しない場合における静電容量と、DCバイアス(DC4V)を印加した場合における静電容量を測定し、DCバイアスの印加により静電容量が低下した割合を調べた。そして、静電容量が低下した割合をバイアス特性として表2に示した。
【0046】
(2)誘電体セラミック層の構造分析
上述のようにして作製した試料番号1〜20の各試料(積層セラミックコンデンサ)を構成する誘電体セラミック層について、エネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)により、2nmのプローブを用いてR成分およびM成分を定量し、それぞれの濃度分布を観察した。
【0047】
なお、R成分およびM成分の定量(濃度の測定)は、図2に示すようにセラミック粒子の粒界から粒子中心までを10等分し、各区分領域の両端側のポイントで行った。したがって、測定ポイントは11ポイントとなる。
【0048】
図3に、試料番号1の試料について上述の方法で測定した、濃度分布(各測定ポイントにおけるR成分とM成分の合計濃度の関係)を示す。
【0049】
(3)評価
表2に示すように、試料番号1〜19の試料はいずれも本発明の実施例にかかる試料であり、比誘電率が3500以上と高く、容量温度特性がX7R特性を満足するものであることが確認された。
なお、表1の試料番号20の比較例の試料も比誘電率および容量温度特性については、特に問題となるようなものではないことが確認された。
【0050】
また、試料番号1〜19の試料はいずれも、高温負荷寿命試験の2000時間経過時点および3000時間経過時点において絶縁抵抗値が200kΩ以下になったものはなく(不良数がいずれも0個)、寿命特性は高水準であることが確認された。
【0051】
また、試料番号1〜19の試料はいずれも、エネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)によるR成分およびM成分の定量結果より、図3,図4,表3に示すように、誘電体セラミック層に、R成分とM成分の合計濃度の極小(極小値C2)となる部分と、極大(極大値C3)となる部分が存在することが確認された。なお、表3におけるC1,C2およびC3のmol部は、主成分(BaTiO3系粉末)100mol部に対する割合である。
【0052】
【表3】

【0053】
なお、図4は、本発明の実施例にかかる誘電体セラミック粒子(試料番号1の試料)の構成と、シェル部におけるR成分とM成分の合計濃度の分布状態を示す図である。そして、図4に示すように、誘電体セラミック粒子20は、シェル部22においてR成分とM成分が検出され、粒界25からコア部21に向かって、R成分とM成分の合計濃度に勾配があり、かつ、シェル部22に、R成分とM成分の合計濃度の極小値C2と極大値C3が存在するとともに、極大値C3が、粒界25におけるR成分とM成分の合計濃度の値C1より小さいという、本発明の特徴的な構成を備えている。
【0054】
一方、試料番号20の試料の誘電体層(誘電体セラミック層)は、BaTiO3粉末に、R成分の酸化物粉末、M成分の酸化物粉末およびSiO2粉末を配合し、混合、乾燥することにより製造された誘電体配合原料粉末を用いてなるセラミックグリーンシートを積層、焼成することにより形成されたものであって、コアシェル構造粒子からなる誘電体材料であるが、表3に示すように、R成分とM成分の合計濃度の極小となる部分および極大となる部分を備えていない材料であることから、高温負荷寿命試験において、2000時間以上の信頼性(寿命)レベルは満足できたが、3000時間経過時点では、100個の試料中14個の試料に不良が発生し、寿命特性には改善の余地があることが確認された。
【0055】
また、試料番号1〜8,10,12〜19については、R成分とM成分の合計濃度が極大となる部分の値である極大値C3が、粒界におけるR成分とM成分の合計濃度の値C1よりも小さくなっており、良好なバイアス特性が得られる(DC4Vを印加したときの静電容量の変化率が小さい)ことが確認された。
【0056】
また、この実施例の試料番号1〜19の試料では、表3に示すようにR成分とM成分の合計濃度が極小となる部分の値である極小値C2と、極大となる部分の値である極大値C3の比率C2/C3の値が0.24〜0.74の範囲にあるが、極小値C2と、極大値C3の比率C2/C3は、通常、0.60以下の範囲にあることが望ましい。
【0057】
また、この実施例では、シェル部に、R成分とM成分の合計濃度が極小となる部分および極大となる部分がそれぞれ1つずつである場合を例にとって説明したが、極小となる部分と極大となる部分の少なくとも一方を2つ以上存在するようにしてもよい。
【0058】
また、本発明においては、BaTiO3系セラミック粒子を構成するBaの一部をCaおよび/またはSrで置換したり、Tiの一部をZrおよび/またはHfで置換したりすることも可能であり、その場合には、特性を制御して、所望の特性を備えた誘電体セラミックを得ることができる。
【0059】
また、この実施例では、本発明の誘電体セラミックを、積層セラミックコンデンサの誘電体層として用いる場合を例にとって説明したが、本発明にかかる誘電体セラミックは、積層セラミックコンデンサに限らず、LC複合部品などにも適用することが可能である。
【0060】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、本発明の誘電体セラミックを製造する場合の各原料の種類、製造工程の具体的な条件、R成分、M成分などの具体的な配合割合などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 積層セラミック素子
11 セラミック層
12 内部電極層
13a,13b 外部電極
20 セラミック粒子
21 コア部
22 シェル部
25 粒界
C1 粒界におけるR成分とM成分の合計濃度
C2 R成分とM成分の合計濃度の極小となる部分(極小値)
C3 R成分とM成分の合計濃度の極大となる部分(極大値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3系セラミック粒子を主相粒子とする焼結体からなり、
前記BaTiO3系セラミック粒子は、表層部であるシェル部と、シェル部の内側のコア部とを備え、
副成分として、R(Rは、希土類元素であって、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびYからなる群より選ばれる少なくとも1種)、および、M(Mは、Mg,Mn,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Al,Mo,WおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種)を含み、
前記BaTiO3系セラミック粒子の前記シェル部が、前記Rおよび前記Mを含むとともに、前記Rおよび前記Mの合計濃度は、粒界から前記コア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分と、極大となる部分とを有していること
を特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記Rおよび前記Mの合計濃度が極小となる部分および極大となる部分の、少なくとも一方を2つ以上有していることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記Rおよび前記Mの合計濃度が極大となる部分の値である極大値が、粒界における前記Rおよび前記Mの合計濃度の値よりも小さいことを特徴とする請求項1または2記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
前記BaTiO3系セラミック粒子において、Baの一部がCaおよび/またはSrで置換されていること、および/または、Tiの一部がZrおよび/またはHfで置換されていること
を特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
複数の誘電体層と複数の内部電極とが一体的に積層された構造を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層が、請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体セラミックから形成されていること
を特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−256091(P2011−256091A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134067(P2010−134067)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】