説明

誘電体セラミックスおよびこれを備える誘電体フィルタ

【課題】 所望の比誘電率εrが安定して得られ、かつ高いQf値と、良好な共振周波数の温度係数を示す誘電体セラミックスを得ること。
【解決手段】 主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、前記主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上であれば、高い比誘電率εrと、高い品質係数Qf値と、0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとを有する誘電体セラミックスを得ることができる。また、上記誘電体セラミックスを備える誘電体フィルタは、良好な性能を有する誘電体フィルタとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波、ミリ波等を含む高周波領域において、高い比誘電率εrと高い品質係数Qf値と0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとを有する誘電体セラミックスおよびこれを備える共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話、パソコン等のモバイル通信の技術進展に伴い、通信用の中継基地局、BSアンテナ等の誘電体フィルタに使用される誘電体セラミックスは、比誘電率および品質係数が高く、なおかつ温度係数が良好であるなど諸条件を同時に満足することが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1では、BaO,TiO,Ndから成り、これを一般式XBaO+YTiO+ZNdと表したとき、X,Y,Zがそれぞれ8.5≦X≦19.0,67.0≦Y≦71.0,14.0≦Z≦24.5(モル%。ただし、X+Y+Z=100)の範囲にある組成物100重量部に対し、Alを2.0重量部以下添加したBaO−Nd−TiO系の誘電体セラミックスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−227303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のBaO−Nd−TiO系の誘電体セラミックスでは、品質係数Qf値を向上させることができなかった。
【0006】
本発明では、高い比誘電率εrと、高い品質係数Qf値と、0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとを有する誘電体セラミックスおよびこの誘電体セラミックスを備える誘電体フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、前記主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上であることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の誘電体フィルタは、上記の誘電体セラミックスと、該誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、前記誘電体セラミックスと電磁界結合されて前記誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体セラミックスによれば、主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上であると、高い比誘電率εrと、高い品質係数Qf値と、0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとを有する誘電体セラミックスを得ることができる。
【0010】
また、本発明の誘電体フィルタによれば、高い比誘電率、高い品質係数Qf値が得られ、0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfを有する誘電体セラミックスと、誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、誘電体セラミックスと電磁界結合されて誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることから、良好な性能を有する誘電体フィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の誘電体フィルタの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の誘電体セラミックスおよびこれを用いた誘電体フィルタの実施の形態の例について説明する。
【0013】
本実施形態の誘電セラミックスは、主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上である。なお、本実施形態において主結晶相とは、2つ以上の結晶相のうち、もっとも体積比率の大きい結晶相を示す。また、主結晶相以外の結晶相は、Ba,Nd,Sm,AlおよびTiの少なくとも1つを含まない酸化物で、
例えば、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Sm,Nd等があげられる。ここで、Alは主結晶相のほか,主結晶相以外の結晶相やこれらの結晶相の結晶粒界に存在する。
【0014】
主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上であると、高い比誘電率εr,高い品質係数Qf値,0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとなる。これは、その理由は明らかではないが、主結晶相に含まれるTiの一部がAlで置換されることによって主結晶相の歪みが緩和されると考えられ、この主結晶相の歪みの緩和によって高い比誘電率εr,高い品質係数Qf値,0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfとなるものと考えられる。
【0015】
また、Tiの一部がAlで置換されてなる固溶体を主結晶相として含み、主結晶相に含有されるAlの含有量が、モル%換算でAlの全含有量の50%以上であると、より高い比誘電率εr,より高い品質係数Qf値,0ppm/℃により近い共振周波数の温度係数τfとなる傾向がある。
【0016】
なお、誘電体セラミックスの磁器表面または内部断面を、EPMAまたはTEMによるEDS(Energy・Dispersive・Spectroscopy)分析により、主結晶相を構成している元素のピークを解析したとき、Ba,Nd,Sm,TiおよびAl元素のピークを観測できれ
ば主結晶相はこれらの元素で構成されており、Tiの一部がAlで置換されていると判別できる。また、EPMAまたはTEMによるEDS分析により結晶相に含有される元素の含有量を測定できる。
【0017】
さらに、誘電体セラミックス中に含まれる元素の含有量は、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定することにより求める。このとき、分析値をnとすると分析値の誤差は±√nである。
【0018】
また、主結晶相に含有されるAlの含有量の、Alの全含有量に対する割合は、上述した測定方法を用いて、主結晶相に含有されるAlの含有量を測定し、Alのモル%に換算
する。そして、主結晶相に含有されるAlの含有量(モル%)の値を、誘電体セラミックス中に含まれるAlの含有量(モル%)で除することで、主結晶相に含有されるAlの含有量の、Alの全含有量に対するモル%換算の割合を算出できる。
【0019】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式をaBaO・bNd・cSm・dTiO・eAlと表したとき、モル比a,b,c,d,eが、13.9≦a≦16.7,13.7≦b≦14.9,3.0≦c≦4.6,63.3≦d≦66.2,1.0≦e≦3.2、a+b+c+d+e=100を満足することが好ましい。また、モル比a,b,c,d,eが、15.0≦a≦15.5,14.0≦b≦14.5,3.3≦c≦3.7,64.4≦d≦65.0,1.8≦e≦2.2、a+b+c+d+
e=100を満足することがより好ましい。
【0020】
本実施形態の誘電体セラミックスは、モル比a,b,c,d,eの値の範囲が13.9≦a≦16.7,13.7≦b≦14.9,3.0≦c≦4.6,63.3≦d≦66.2,1.0≦e≦3.2、a+b+c+d+e=100であるときには、主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有し、Tiの
一部がAlで置換されてなる固溶体となるとともに、主結晶相に含有されるAlの含有量が、モル%換算でAlの全含有量の10%以上となる傾向があるので、高い比誘電率εr、高い品質係数Qf値が得られ、0ppm/℃により近い共振周波数の温度係数τfとなる傾向がある。例えば、比誘電率εrは70以上、品質係数Qf値は12000GHz以上、共振
周波数の温度係数τfの値は−10〜+10ppm/℃となる傾向がある。
【0021】
また、モル比a,b,c,d,eが、15.0≦a≦15.5,14.0≦b≦14.5,3.3≦c≦3.7,64.4≦d≦65.0,1.8≦e≦2.2、a+b+c+d+e=100であるときには、主結晶相
に含有されるAlの含有量が、モル%換算でAlの全含有量の50%以上となる傾向があるので、より高い比誘電率εr,より高い品質係数Qf値が得られ、0ppm/℃により近い共振周波数の温度係数τfとなる傾向があるので好ましい。例えば、比誘電率εrは75以上,品質係数Qf値は13800GHz以上,共振周波数の温度係数τfの値は−3.3〜+3.7ppm/℃となる傾向がある。
【0022】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式の成分100質量%に対して、マンガンをM
nO換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことが好ましい。
【0023】
誘電体セラミックスに、組成式の成分100質量%に対して、マンガンをMnO換算で
3質量%以下(0質量%を除く)含むときには、焼成時のマンガン酸化物の価数変化によって生じる酸素が、誘電体セラミックス内の酸素欠陥に入ることによって、誘電体セラミックス内に生じる酸素欠陥を抑制することで、品質係数Qf値が高まる傾向がある。また、マンガンをMnO換算で0.1〜1質量%の範囲で含むことにより、品質係数Qf値が
より高まる傾向がある。
【0024】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは平均ボイド率が5%以下であることが好ましい。
【0025】
本実施形態の誘電体セラミックスは、平均ボイド率を5%以下とすると、比誘電率εr,品質係数Qf値を高く維持できる傾向がある。より好ましくはボイド率を3%以下にすると、比誘電率εr,品質係数Qf値をより高く維持できる傾向がある。なお、本実施形態の誘電体セラミックスを含むセラミック体を誘電体フィルタに配置するときにおいて、誘電体セラミックスの平均ボイド率を5%以下とすると、セラミック体の密度を高く維持できるため、機械的特性を高く維持することができる。したがって、セラミック体のハンドリング時や落下時、共振器内への取付け時、各基地局へ設置した後にかかる振動や衝撃が加わった時などに、セラミック体のカケ,割れまたは破損が生じにくくなる。
【0026】
なお、上記ボイド率は例えば100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM等により、誘電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、単位面積あたりのボイドの面積が占める割合をボイド率として、数カ所のボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0027】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。例えば以下の工程(1)〜(7)により製造することが可能である。
【0028】
(1)原料として、高純度の炭酸バリウム(BaCO),酸化ネオジウム(Nd),酸化サマリウム(Sm),酸化チタン(TiO),および酸化アルミニウム(Al)の各粉末を準備する。そして、BaCO,Nd,Sm,TiO,およびAlを所望の割合となるように秤量する。次に秤量された粉末をボールミルに入れて純水を加え、混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜50時
間、ジルコニアボールを使用して粉砕混合し、混合物を得る。
【0029】
(2)この混合物を乾燥後、1000〜1300℃で1〜10時間焼成して一次原料を得る。
【0030】
(3)得られた一次原料を平均粒径0.5〜3μmとなるまで、ボールミル等により粉砕
し、得られた混合物をASTM E 11−61に記載されている粒度番号が80のメッシュの篩いに通し、分級された一次粉末を得る。なお、一次原料の粉砕には、ボールミルの代わりに増幸産業社製のマスコロイダーを用いてもよい。
【0031】
(4)(3)で得られた一次粉末をボールミルに入れて純水を加えた後、平均粒径が2.0μm以下となるまで1〜30時間、ジルコニアボールを使用して粉砕混合し、スラリーを
得る。
【0032】
(5)得られたスラリーに3〜10質量%のバインダ、例えば、パラフィンワックス,アクリル系ポリマー,ウレタン系ポリマー,ポリビニルアルコール(PVA),またはポリエチレングリコール(PEG)等の有機バインダを加えて、その後、例えばスプレードライ法等により造粒または整粒し、得られた造粒体または整粒粉体等を、例えば金型プレス法,冷間静水圧プレス法により任意の形状に成形して成形体を得る。なお、一次粉末を(4)で示すように混合粉砕したものを用いて杯土を作製し、押出成形法を用いて任意の形状に成形してもよい。
【0033】
(6)得られた成形体を大気雰囲気中1350℃〜1550℃で1〜10時間保持して焼成し焼結体を得る。より好ましくは1400〜1500℃で焼成するのがよい。
【0034】
(7)必要に応じて、得られた焼結体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度900〜1500℃,圧力0.1〜300MPaで、30分〜100時間熱処理する。より好ましくは、温度1000〜1300℃,圧力1〜1000気圧で1〜60時間熱処理するのがよい。
【0035】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスを使用した誘電体フィルタの一例について以下に説明する。
【0036】
図1は、本実施形態の誘電体フィルタの断面の一例を示す模式図である。
【0037】
図1に示すように、本実施形態のTEモ−ド型の誘電体フィルタ1は、金属ケース2、入力端子3、出力端子4、セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽
量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる。そして、セラミック体5は、入力端子3と出力端子4の間に配置され、入力端子3および出力端子4とそれぞれ電磁界結合されている。このような、誘電体フィルタ1において、外部から電気信号を入力端子3に入力することによって、金属ケース2内の入力端子3で磁界が発生する。その磁気エネルギーによって、セラミック体5は特定の周波数で共振を起こして、磁界が発生する。この磁気エネルギーによって出力端子4で磁界が発生して電流が流れ、出力端子4から電気信号が出力される。このように、誘電体フィルタ1は、誘電体セラミックスの共振周波数に対応した電気信号を選択的に出力することができる。
【0038】
なお、TEモードに限らず、TMモード,TEMモードまたは多重モードとしてもよい。また、誘電体フィルタ1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は筒状体、直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が好ましい。
【0039】
そして、本実施形態の誘電体フィルタは、高い比誘電率,高い品質係数Qf値が得られ,0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfを有する、本実施形態の誘電体セラミックスを備えるので、良好な性能を有する誘電体フィルタとすることができる。
【0040】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、各種誘電体フィルタ用材料以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板、誘電体導波路、誘電体アンテナまたは積層型セラミックコンデンサの誘電体等に使用してもよい。
【実施例1】
【0041】
本実施形態によるBaO−Nd−Sm−TiO−Al系材料のモル比a,b,c,d,eを種々変更して試料を作製し、比誘電率εr,品質係数Qf値および25〜85℃の共振周波数の温度係数τfの測定をした。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0042】
出発原料として、純度99.5質量%以上のBaCO,Nd,Sm,TiOおよびAlを準備した。
【0043】
次に、それぞれの材料を表1の割合となるように秤量する。そして、BaCO,Nd,Sm,TiOおよびAlを混合したものを、ボールミル内に投入し、ボールミル内に純水を加える。その後、混合原料の平均粒径が0.5〜2.0μmの範囲内となるまで、ジルコニアボールを使用して粉砕混合して混合物を得た。
【0044】
そして、得られた混合物を乾燥後、1100℃で焼成し一次原料を得て、その一次原料をASTM E 11−61に記載されている粒度番号が80のメッシュの篩いに通すことによって、分級された一次粉末を得た後、その一次粉末をボールミルに入れて純水を加えて1〜30時間、ジルコニアボールを使用して粉砕混合を行うことによって0.5〜2.0μmの平均粒径となるようにし、表1に示す試料No.1〜34を作製するためのスラリーを得た。
【0045】
次に、上記スラリーに、それぞれ3〜10質量%のポリビニルアルコールを加えてから所定時間混合した後、このスラリーをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得た。この2次原料を金型プレス成形法によりφ20mm,高さ15mmの円柱体に成形し成形体を
得た。
【0046】
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃〜1500℃で2時間保持して焼成し、試料No.1〜34を得た。なお、焼成後の試料は表面の表面粗さが粗く、特性の測定値にばらつきが生じやすいから、試料の焼成後に上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行ったものである。
【0047】
次に、これら試料No.1〜34について、誘電特性を評価した。誘電特性の評価は、試料No.1〜34を用いて誘電体円柱共振器法(国際規格IEC61338-1-3(1999))により測定周波数4〜5GHzにおける比誘電率εrとQ値を測定した。なお、Q値については測定周波数fとの積で表される品質係数Qf値に換算している。また、25〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、25℃での共振周波数を基準にして25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを算出した。なお、試料を入力端子および出力端子が接続された金属キャビティ内にセットして、次に、その金属キャビティを恒温槽内にセットした後、所望の温度で観測される共振周波数を測定して、25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを次の式で算出した。
τf=(f85−f25)/f25/(85−25)
ここで、f85は85℃のときに測定された共振周波数、f25は25℃のときに測定された共振周波数である。
【0048】
なお、作製した試料それぞれについて、主結晶相をTEMによるEDS分析で測定したとき、Ba,Nd,Sm,TiおよびAl元素のピークが観測され、主結晶相が、Ba,
Nd,SmおよびTiを含有し、Tiの一部がAlで置換されてなる固溶体であることを確認した。また、TEMによるEDS分析により主結晶相に含有されるAlの含有量を測定し、Alのモル%に換算した。また、試料中に含まれるAlの全含有量(モル%)を、試料の一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いてAlの含有量(モル%)を測定することにより求めた。そして、主結晶相に含有されるAlの含有量(モル%)の値を、試料中に含まれるAlの含有量(モル%)で除することで、主結晶相に含有されるAlの含有量の、試料中のAlの含有量に対する割合を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、Ba,Nd,SmおよびTiを含有し、Tiの一部がAlで置換されてなる固溶体を主結晶相として含み、主結晶相に含有されるAlの含有量が、試料に含有されるAlの全含有量のモル%換算で10%以上である試料No.1〜31は、試料に含有さ
れるAlの全含有量のモル%換算で10%未満であるNo.32〜34に比べて、より高い比誘
電率εr,より高い品質係数Qf値,0ppm/℃により近い共振周波数の温度係数τfであった。
【0051】
さらに、組成式をaBaO・bNd・cSm・dTiO・eAlと表したとき、モル比a,b,c,d,eが、13.9≦a≦16.7,13.7≦b≦14.9,3.0≦
c≦4.6,63.3≦d≦66.2,1.0≦e≦3.2、a+b+c+d+e=100を満足する試料No.1〜30は、比誘電率εrが70以上,品質係数Qf値が12000GHz以上,共振周波数の
温度係数τfの値が−10〜+10ppm/℃となりより高い特性を示した。
【0052】
また、No.1〜30のうち、組成式をaBaO・bNd・cSm・dTiO・eAlと表したとき、モル比a,b,c,d,eが、15.0≦a≦15.5,14.0≦b≦14.5,3.3≦c≦3.7,64.4≦d≦65.0,1.8≦e≦2.2、a+b+c+d+e=100
であるNo.3,4,9,10,15,16,21,22,27,28は、主結晶相に含有されるAlの含有量が、試料に含有されるAlの全含有量のモル%換算で50%以上となり、比誘電率ε
rが75以上,品質係数Qf値が13800GHz以上,25〜85℃の共振周波数の温度係数τf
の値は−3.3〜+3.7ppm/℃と特に高い特性を示した。
【実施例2】
【0053】
次に、試料No.35〜45
を、焼成温度を1450℃,焼成時間を2時間,2種類の一次原料を混合する際に予め準備した純度99.5質量%以上の炭酸マンガン(MnCO)を表2に示すMnO換算量添加する方法以外は、実施例1と同様の製造方法により作製した。また、試験組成については、炭酸マンガンを添加する以外は実施例1の試料No.4と同様の組成とした。作製した試料No.35〜45については、比誘電率εr,品質係数Qf値,25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを実施例1と同様の測定方法により測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、試料中のマンガンを、MnO換算で3.0質量%以下で含む試料N
o.35〜44では品質係数Qf値が14100GHz以上と実施例1の試料No.4よりも高い
値を示した。また、炭酸マンガンをMnO換算で0.05〜1.0質量%で含む時、品質係数
Qf値が増加する傾向を示した。
【実施例3】
【0056】
次に、試料No.46〜51を、焼成保持時間をそれぞれ10,8,6,4,3,2時間と変更した以外は実施例1の試料No.4と同様の製造方法により実施した。なお、焼成保持時間が短くなるほど、平均ボイド率は大きくなる。作製した試料No.41〜51については、比誘電率εr,品質係数Qf値,25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを実施例1と同様の測定方法により測定した。また、平均ボイド率については、作製した試料の表面および任意の断面の100μm×100μmの範囲が観察可能なSEM写真をとり、この写真を画像解析装置(ニレコ社製LUZEX−FS)により解析することにより、単位面積(100μ
m×100μm)あたりのボイドの面積が占める割合をボイド率として、作製した試料の表
面および任意の断面それぞれにおいて5カ所のボイド率を算出し、それらの平均値を求めることで算出した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、試料No.46〜50は、平均ボイド率が5面積%以下であるので、比誘電率εr、品質係数Qf値、20℃の共振周波数を基準とした25〜85℃の共振周波数の温度係数τf(B)が高く、特に品質係数Qf値が14100GHz以上と実施例1の試料No
.4よりも高い値を示した。
【0059】
以上の実施例1〜3から、試料No.1〜30,35〜51は、高い比誘電率εr,高い品質係数Qf値,0ppm/℃に近い共振周波数の温度係数τfを有することがわかった。また、比誘電率εr,品質係数Qf値、温度係数τfは、図1に示す誘電体フィルタと同様の振動モードであるTEモードを用いる誘電体円柱共振器法(国際規格IEC61338-1-3(1999))に基づいて計測しているので、試料No.No.1〜30,35〜51を備える誘電体フィルタは良好な性能を有することがわかった。
【符号の説明】
【0060】
1:誘電体フィルタ
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相がBa,Nd,SmおよびTiを含有するとともに、Tiの一部がAlで置換されてなり、前記主結晶相に含有されるAlの含有量がモル%換算でAlの全含有量の10%以上である誘電体セラミックス。
【請求項2】
組成式をaBaO・bNd・cSm・dTiO・eAlと表したとき、モル比a,b,c,d,eが、13.9≦a≦16.7,13.7≦b≦14.9,3.0≦c≦4.6,63.3≦d≦66.2,1.0≦e≦3.2、a+b+c+d+e=100を満足することを特徴とする
請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
前記組成式の成分100質量%に対して、マンガンをMnO換算で3質量%以下(0質
量%を除く)含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックスと、該誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、前記誘電体セラミックスと電磁界結合されて前記誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることを特徴とする誘電体フィルタ。
































【図1】
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【公開番号】特開2012−184122(P2012−184122A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46488(P2011−46488)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】