説明

誘電体セラミックスおよびこれを備える誘電体フィルタ

【課題】 材料に希土類を含むことなく38〜44の比誘電率を有する誘電体セラミックスを安価に作製することができ、誘電特性として、Qf値が高く、かつ広範囲な温度域における共振周波数の温度係数τfが小さく、かつ低温域(−40〜25℃)および高温域(25〜85℃)で共振周波数の温度係数τfの差(Δτf)の小さい誘電体セラミックスおよびこれを備える誘電体フィルタを提供する。
【解決手段】 組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δNbと表したとき、モル比α,β,γおよびδが、0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦1を満足
し、前記組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含む誘電体セラミックスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の中継基地局およびBSアンテナで使用される誘電体セラミックスおよびこの誘電体セラミックスを備える誘電体フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局およびBSアンテナ等には、誘電体セラミックスを備えた誘電体フィルタが組み込まれている。この誘電体セラミックスに求められる誘電特性としては、比誘電率εr,円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により測定周波数
が3.5〜4.5GHzで測定され、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでの値に換算したQf値および共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfがある。そして、誘電体フィルタへの要求特性の違いから、誘電体セラミックスに求められる比誘電率εrは様々であるが、それぞれの比誘電率εrにおいて、Qf値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さいことが求められ、このような誘電体セラミックスとして、La−Al−Ca−Ti系などの希土類を含む材料が用いられている。しかしながら、最近の希土類原料の価格高騰から、希土類を含まず安価に作製することができ、誘電特性に優れた誘電体セラミックスが求められている。
【0003】
そして、希土類を含まない誘電体セラミックスとしては、Zrと、Tiと、Mg,Co,Zn,Ni,MnからなるA群から選ばれた少なくとも一種の成分と、Nb,TaからなるB群から選ばれた少なくとも一種の成分の複合酸化物を主成分とし、さらに副成分として、Ba,Sr,Ca,Cu,Bi,WからなるC群から選ばれた少なくとも一種の成分を含むものが提案されていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−225369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希土類を含まない誘電体セラミックスとして特許文献1が提案され、実施例に−25℃〜85℃における共振周波数の温度係数の小さい試料が示されているものの、今般の誘電体セラミックスにおいては、高いQf値とともに、さらに広範囲な温度域、具体的には低温域(−40〜25℃)および高温域(25〜85℃)で共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さいことが求められている。また、広範囲な温度域において、安定した誘電特性が得られるように、各温度域における共振周波数の温度係数τfの差が小さいことが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、材料に希土類を含むことなく38〜44の比誘電率を有する誘電体セラミックスを安価に作製することができ、誘電特性として、Qf値が高く、かつ広範囲な温度域における共振周波数の温度係数τfが小さく、かつ低温域(−40〜25℃)および高温域(25〜85℃)で共振周波数の温度係数τfの差(Δτf)の小さい誘電体セラミックスおよびこれを備える誘電体フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、3組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δ
Nbと表したとき、モル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3200≦α≦0.5700,0.2800
≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦1を満足し、前記組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の誘電体フィルタは、上記構成の誘電体セラミックスと、該誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、前記誘電体セラミックスと電磁界結合されて前記誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体セラミックスによれば、組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δNbと表したとき、モル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦1を満足し、前記組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含むことにより、比誘電率が38〜44、Qf値が40000以上、−40〜25℃の低温域および25〜80℃の高温域にわたる広範囲な温度域において共振周波数の変化の小さい誘電体セラミックスとすることができる。また、材料に希土類を含んでいないことから、38〜44の比誘電率を有する誘電体セラミックスを安価に作製することができる。
【0010】
また、本発明の誘電体フィルタによれば、本発明の誘電体セラミックスと、該誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、前記誘電体セラミックスと電磁界結合されて前記誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることにより、本発明の誘電体セラミックスが、Qf値が高く、−40〜25℃の低温域から25〜80℃の高温域にわたる広範囲な温度域において共振周波数の変化が小さいことから、気温差の激しい場所においても安定して良好な性能を維持することができるので長期間にわたって信頼性の高い誘電体フィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の誘電体フィルタの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本実施形態の誘電体セラミックスの一例について説明する。
【0013】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δNbと表したとき、モル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦1を満足し、この組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含むものである。
【0014】
本実施形態の誘電体セラミックスは、上述した構成を満たすものであることにより、比誘電率εrが38〜44、Qf値が40000以上、−40〜25℃(以下、低温域という。)および25〜80℃(以下、高温域という。)の共振周波数の温度係数τfの絶対値がそれぞれ30p
pm/℃以下、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの差(以下、Δτfという。)を2ppm/℃以下とすることができる。なお、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの差であるΔτfとは、低温域の共振周波数の温度係数τf1(以下、単にτf1ともいう。)から高温域の共振周波数の温度係数τf2(以下、単にτf2ともいう。)を差し引いて絶対値で示すものである。
【0015】
ここで、誘電体セラミックスの誘電特性の測定方法および算出方法について説明する。比誘電率εrについては、円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))に基づ
いて、3.5〜4.5GHzの周波数で測定された値である。また、Qf値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでの値に換算したものである。さらに、低温域および高温域のそれぞれの共振周波数の温度係数τfは、−40〜80℃の温度範囲における共振周波数を測定し、25℃での共振周波数を基準にして算出する。Δτfについては、τf1からτf2を差し引いて絶対値とする。
【0016】
そして、比誘電率εrが38〜44、Qf値が40000以上、低温域および高温域における共
振周波数の温度係数τfの絶対値がそれぞれ30ppm/℃以下とすることができるのは、前記組成式において、モル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1,0.5<γ/
δ≦1を満足していることによる。上述したモル比の数値範囲、または、γとδとの関係のいずれかを満足しない場合には、比誘電率εr、Qf値、共振周波数の温度係数τfの数値のいずれかが上述した誘電特性を満たすことができない。特に、γ/δの値が0.5以
下であるときには、焼結させることが困難であり、得られたとしても比誘電率εrが小さく、Qf値の低いものしか得ることができない。また、γ/δの値が1を超えるとQf値は、低下していくため、0.5<γ/δ≦1を満足していることが重要である。
【0017】
また、上述した誘電特性に加えて、Δτfを2ppm/℃以下とすることができるのは、前記組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超えて含むこ
とによる。これに対し、組成式の成分100質量%に対して、Caの含有量がCaO換算で0.01質量%以下では、Δτfの値を2ppm/℃以下とすることができない。なお、組成
式の成分100質量%に対してCaの含有量がCaO換算で0.3質量%を超えると、Δτfの値は2ppm/℃以下とすることができるものの、Qf値が低下するため、Caの含有量は、CaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含むことが重要である。
【0018】
ここで、Δτfの値を2ppm/℃以下とすることができる、すなわち広範囲な温度域において共振周波数の変化を小さくできる点については、理由は明らかではないが、Zr,Ti,Mg,Nbの酸化物からなる主結晶にCaOが固溶することによって、共振周波数の温度に対する変化を抑えていると考えられる。
【0019】
また、CaOを含有させることにより、CaOが焼結助剤として働き、焼結を促進させることができるので、焼成温度を下げることができ、焼成時に蒸発しやすい成分の蒸発を抑制することができる。そのため、調合組成と焼結体組成との差が小さくなり、所望の焼結体組成とするために、各成分の蒸発量を加味した調合組成とする必要が少なくなる。
【0020】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、前記組成式におけるモル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3700≦α≦0.4500,0.4300≦β≦0.4800,0.0330≦γ≦0.0580,0.0660≦δ≦0.1130,α+β+γ+δ=1および0.5008≦γ/δ≦0.5385を満足することが好ましい。上述したモル比の数値範囲およびγとδとの関係を満足するときには、比誘電率εrが40〜43、Qf値が50000以上、低温域および高温域における共振周波数の温度係数τfの
絶対値がそれぞれ6ppm/℃以下とすることができる。
【0021】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、Si,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物を含み、酸化物の含有量が前記組成式の成分100質量%に対し、それぞ
れSiO,Al,MnOおよびCuOに換算した値の合計で0.005質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。これらの酸化物は、焼結助剤として働くので、さらに焼成温度を下げることができる。また、理由はあきらかではないが、酸化物の含有量が、前記組成式の成分100質量%に対し、それぞれSiO,Al,MnOおよび
CuOに換算した値の合計で0.005質量%以上0.2質量%以下であるときには、焼成温度ばらつきによる誘電特性の変化が小さいので、優れた誘電特性を示す誘電体セラミックスを安定して得ることが可能となる。また、これらを含まないときと焼成温度が同じであるときで比較すれば、磁器密度およびQf値を高めることができるので、これらを含まないときと同等の磁器密度およびQf値を得ようとすれば、焼成温度を下げることが可能となる。
【0022】
なお、誘電体セラミックス中に含まれる各成分の含有量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物換算することにより求めることができる。また、ここで求められたZrO,TiO,MgO,Nbの値を用いて、それぞれの分子量からモル比を算出することができる。
【0023】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、磁器密度が4.86g/cm以上であることが好ましい。磁器密度が4.86g/cm以上であれば、焼成後の研削加工時に欠けや割れなどが生じることの少ない機械的特性を有する誘電体セラミックスとなる。なお、この磁器密度については、JIS R 1634−1998に準拠して測定すればよい。
【0024】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスを備える誘電体フィルタの一例を示す断面図である図1に基づいて以下に説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のTEモ−ド型の誘電体フィルタ1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,誘電体セラミックス5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。また、誘電体セラミックス5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる。そして、誘電体セラミックス5は、入力端子3と出力端子4の間に配置され、入力端子3および出力端子4とそれぞれ電磁界結合されている。このような、誘電体フィルタ1において、外部から電気信号が入力端子3に入力され、金属ケース2内で磁界が発生し、誘電体セラミックス5が特定の周波数で共振を起こして、この共振周波数に対応した電気信号が出力端子4から出力される。このように、誘電体フィルタ1は、誘電体セラミックスの共振周波数に対応した電気信号を選択的に出力することができる。
【0026】
なお、TEモードに限らず、TMモード,TEMモードもしくは多重モードとしてもよい。また、誘電体フィルタ1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4を誘電体セラミックス5に直接設けてもよい。また、誘電体セラミックス5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は筒状体,直方体,立方体,板状体,円板,円柱,多角柱またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては500MHz〜10GHz程度が実用上好ましい。
【0027】
そして、本実施形態の誘電体フィルタ1は、比誘電率εrが38〜44、Qf値が40000以
上、低温域および高温域における共振周波数の温度係数τfの絶対値がそれぞれ30ppm/℃以下、Δτfの値が2ppm/℃以下である本実施形態の誘電体セラミックスを備えていることから、気温差の激しい場所においても安定して良好な性能を維持することができるので、長期間にわたって信頼性の高い誘電体フィルタとすることができる。
【0028】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法の一例について説明する。
【0029】
まず、出発原料として高純度の酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム(MgO)または炭酸マグネシウム(MgCO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化カルシウム(CaO)を所望の割合となるように秤量後、純水とともにジルコニアボールなどを使用したボールミルに入れて、平均粒径が2μm以下となるまで1〜50時間の湿式混合および粉砕することにより1次原料を得る。
【0030】
次に、この1次原料を乾燥後、1050℃以上1200℃以下の温度で1〜10時間仮焼し、ボールミル等により平均粒径が2μm以下、好ましくは平均粒径1μm以下となるまで湿式粉砕する。そして、ステンレス容器に移し、乾燥後、メッシュを通過させて仮焼粉体を得る。なお、仮焼については、1000℃程度でも可能であるが、本実施形態においては、仮焼温度を1050℃以上1200℃以下とすることにより、Zr,Ti,Mg,Nbの酸化物からなる主結晶の合成度を高めている。なお、酸化カルシウム(CaO)については、前述のように仮焼前に添加しても良いが、仮焼後に添加しても良い。
【0031】
また、Si,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物を含ませるには、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、炭酸マンガン(MnCO)、酸化銅(CuO)を用いればよく、これらは上記1次原料の仮焼後に添加するのが良い。
【0032】
次に、仮焼粉体に所定量のSi,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物、純水およびバインダを加えた後、ボールミル等により所定時間湿式混合した後、スプレードライヤで噴霧造粒して2次原料を得る。そして、この2次原料を用いて、金型プレス法,冷間静水圧プレス成形法,押出成形法等により任意の形状に成形して成形体を得る。そして、得られた成形体を大気雰囲気中1250℃以上1350℃以下の最高温度で30分〜10時間保持して焼成した後、必要に応じて研削加工を施すことにより、本実施形態の誘電体セラミックスを得ることができる。なお、仮焼後に、酸化カルシウム(CaO)を添加した場合には、焼成において最高温度の保持時間を3時間以上とすることが好ましい。
【0033】
そして、上述した製造方法によって得られた本実施形態の誘電体セラミックスは、合成度を高めたZr,Ti,Mg,Nbの酸化物からなる主結晶に上述した量の酸化カルシウム(CaO)を固溶させることにより、誘電特性に優れた誘電体セラミックスとすることができる。
【0034】
なお、本実施形態の誘電体セラミックスにおいて、Si,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物を含み、酸化物の含有量が前記組成式の成分100質量%に対し、
それぞれSiO,Al,MnOおよびCuOに換算した値の合計で0.005質量
%以上0.2質量%以下含んでいるときには、磁器密度およびQf値を高めることができる
ので、これらを含んでいないときと同等の磁器密度およびQf値を得ようとすれば、焼成温度を下げることができ、製造コストの低減に繋がる。
【0035】
そして、上記製造方法により作製された本実施形態の誘電体セラミックスは、誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力するフィルタとして用いることができる。また、本実施形態の誘電体セラミックスは、共振器以外に、MIC(Monolithic Integrated Circuit)用誘電体基板,誘電体導波路または積層型セラミックコンデ
ンサに使用することもできる。
【実施例1】
【0036】
組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δNbと表したとき、モル比α,β,γおよびδの値と、CaOの含有量を種々変更した試料を作製し、比誘電率εr,Qf値、共振周波数の温度係数τfの測定およびΔτfの算出を行なった。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0037】
出発原料として、純度が99.5%以上の酸化ジルコニウム(ZrO),酸化チタン(TiO),酸化マグネシウム(MgO)および酸化ニオブ(Nb)の各粉末を準備した。次に、誘電体セラミックスの組成が表1の割合(モル比)となるように各粉末を用いて秤量した。そして、秤量した酸化ジルコニウム(ZrO),酸化チタン(TiO),酸化マグネシウム(MgO)および酸化ニオブ(Nb)を純水とともにジルコニアボール等を使用したボールミルに入れて、平均粒径が2μm以下となるまで湿式混合および粉砕することにより1次原料を得た。
【0038】
次に、この1次原料を乾燥後、1100℃で2時間仮焼し、誘電体セラミックスにおける含有量が表1に示す含有量となるように、仮焼粉体100質量%に対して純度が99.5%以上の
酸化カルシウム(CaO)を秤量して添加し、ボールミルにより平均粒径が1μmとなるまで湿式混合および粉砕した。そして、湿式混合および粉砕後のスラリーをステンレス容器に移し、乾燥後、メッシュを通過させて仮焼粉体を得た。
【0039】
次に、仮焼粉体に純水を加え、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより、湿式混合を行なった。次に、これに5質量%のバインダを加えてさらに混合し、スプレードライヤで噴霧造粒して2次原料を得た。
【0040】
次に、この2次原料を用いて、金型プレス成形法によりφ20mm,高さが15mmの円柱体の成形体を得た。そして、得られた成形体を大気中1300℃の焼成温度で2時間保持して、試料No.1〜26の誘電体セラミックスを得た。なお、これら試料は、焼成後に上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行なった。
【0041】
なお、試料No.21については、酸化カルシウム(CaO)を添加しないこと以外は上述した製造方法と同様の工程にて作製した。
【0042】
そして、これら試料No.1〜26について、誘電特性を測定した。誘電特性は円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により測定周波数3.5〜4.5GHzで比誘電
率εrおよびQf値を測定した。Qf値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQf値に換算した。また、−40〜80℃の温度範囲における共振周波数を測定し、25℃での共振周波数を基準にして低温域(−40〜25℃)の共振周波数の温度係数τf1、高温域(25〜80℃)の共振周波数の温度係数τf2をそれぞれ算出した。さらに、Δτfとして、τf1からτf2の値を差し引いて絶対値で示した。
【0043】
なお、各試料の一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物換算し、酸化ジルコニウム(ZrO),酸化チタン(TiO),酸化マグネシウム(MgO)および酸化ニオブ(Nb)のモル比と、これらの成分100質量%に対するCaOの含有量を算出した。結果を表1に
示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、モル比α,β,γおよびδが、0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦1
のいずれかを満足しない、試料No.1,7,8,13,14,20については、比誘電率εrが38〜44の範囲外またはQf値が40000未満であった。また、試料No.1,7,8,13
については、低温域および高温域の共振周波数の温度係数τfの絶対値が30ppm/℃を超えていた。
【0046】
また、酸化カルシウム(CaO)を添加しなかった試料No.21およびCaの含有量がCaO換算で0.01質量%以下である試料No.22については、Δτfの値が2ppm/℃を超えていた。また、Caの含有量がCaO換算で0.3質量%を超える試料No.26につ
いては、Qf値が40000未満であった。
【0047】
これに対し、モル比α,β,γおよびδが、0.3200≦α≦0.5700,0.2800≦β≦0.5300,0.0101≦γ≦0.0774,0.0199≦δ≦0.1526,α+β+γ+δ=1および0.5<γ/δ≦
1を満足するとともに、組成式の成分100質量%に対してCaをCaO換算で0.01質量%
を超え0.3質量%以下含む試料No.2〜6,9〜12,15〜19,23〜25は、比誘電率εr
が38〜44、Qf値が40000以上、低温域および高温域それぞれにおける共振周波数の温度
係数τfの絶対値が30ppm/℃以下、Δτfの値が2ppm/℃以下であった。
【0048】
以上の結果、本実施形態の誘電体セラミックスは、誘電体フィルタに備えれば、気温差の激しい場所においても安定して良好な性能を維持することができるので長期間にわたって信頼性の高い誘電体フィルタとできることがわかった。
【0049】
また、組成式におけるモル比α,β,γ,δがそれぞれ0.3700≦α≦0.4500,0.4300≦β≦0.4800,0.0330≦γ≦0.0580,0.0660≦δ≦0.1130,α+β+γ+δ=1および0.5008≦γ/δ≦0.5385を満足する試料No.3〜5,10,11,16〜18,23〜25は、比誘電率εrが40〜43、Qf値が50000以上、低温域および高温域それぞれにおける共振周波数の
温度係数τfの絶対値が6ppm/℃以下、Δτfの値が2ppm/℃以下であり、誘電特性にさらに優れる誘電体セラミックスとできることがわかった。
【実施例2】
【0050】
次に、Si,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物の含有量および焼成温度を異ならせた試料を作製し、磁器密度と、誘電特性として比誘電率εrおよびQf値の測定を行なった。なお、磁器密度については、JIS R1634−1998に準拠して測定し、比誘電率εrおよびQf値については、実施例1と同様の測定方法を用いて測定した。
【0051】
試料の作製については、実施例1で作製した試料No.4を基準試料とし、試料No.27の1300℃焼成が試料No.4にあたる。試料No.28〜48については、試料No.4の作製時と同じ組成、同じ方法で仮焼まで行ない、誘電体セラミックスにおける含有量が表2に示す含有量となるように、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、炭酸マンガン(MnCO)、酸化銅(CuO)を添加し、表2に示す焼成温度で焼成した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から、Si,Al,MnおよびCuうち少なくとも1種の酸化物を含み、酸化物の含有量が前記組成式の成分100質量%に対し、それぞれSiO,Al,MnO
およびCuOに換算した値の合計で0.005質量%以上0.2質量%以下であることにより、焼成温度による誘電特性の変化が小さいため、優れた誘電特性を示す誘電体セラミックスを安定して得られることがわかった。また、試料No.27と焼成温度が同じであるときと比較すれば、磁器密度およびQf値を向上することができ、試料No.27の各温度で焼成し
たときのそれぞれと同等の磁器密度およびQf値を得ようとするときには、焼成温度を下げることが可能となることがわかった。
【符号の説明】
【0054】
1:誘電体フィルタ
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:誘電体セラミックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式を、αZrO・βTiO・γMgO・δNbと表したとき、モル比α,β,γ,δが下記を満足し、前記組成式の成分100質量%に対して、CaをCaO換算で0.01質量%を超え0.3質量%以下含むことを特徴とする誘電体セラミックス。
0.3200≦α≦0.5700
0.2800≦β≦0.5300
0.0101≦γ≦0.0774
0.0199≦δ≦0.1526
α+β+γ+δ=1
0.5<γ/δ≦1
【請求項2】
Si,Al,MnおよびCuのうち少なくとも1種の酸化物を含み、該酸化物の含有量が前記組成式の成分100質量%に対し、それぞれSiO,Al,MnOおよびCuOに換算した値の合計で0.005質量%以上0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックスと、該誘電体セラミックスと電磁界結合され、外部から電気信号が入力される入力端子と、前記誘電体セラミックスと電磁界結合されて前記誘電体セラミックスの共振周波数と対応した電気信号を選択的に出力する出力端子とを備えることを特徴とする誘電体フィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−6721(P2013−6721A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139621(P2011−139621)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】