説明

誘電体セラミックスおよびその製造方法

【課題】誘電特性に優れる結晶構造を有し、燃焼合成法により得られる酸化物系の誘電体セラミックス、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含む誘電体セラミックスであって、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、上記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られ、X線回折法2θの回折ピーク位置は、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃焼合成法により得られる酸化物系の誘電体セラミックス、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動電話や衛星通信等の高周波通信技術の著しい発展に伴い、誘電体共振器、フィルター等の高周波デバイス用の誘電体セラミックスに対する需要はますます増えている。通信信号の周波数および通信機の大きさは、例えば、通信機内部に組み込まれたアンテナ基板の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータであり、アンテナ材料に用いられる誘電体セラミックスの比誘電率が高いほど、電子部品回路を伝播する信号の波長は短くなり、信号は高周波化する。従って、比誘電率の高い電子部品を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機等の小型化が図れる。また、上記のようなデバイスに用いられる誘電体セラミックスに対しては、低い誘電損失および良好な温度安定性も同時に要求される。
【0003】
従来、誘電体セラミックスの合成には、1000℃から 2000℃前後に加熱できる炉を用いて長時間、外部加熱を行なわなくてはならない。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。
一方、外部加熱を行なわないセラミックスの製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成( self propagating high temperature synthesis:SHS ))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。該方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。
【0004】
燃焼合成法を利用するものとして、1 種類の金属酸化物と 2 種類の異なる金属元素の計 3 種類の原料を出発原料とし、金属間化合物あるいは非酸化物セラミックスと酸化物セラミックスの2種類を合成する方法が知られている(特許文献1参照)。例えば、酸化ニッケル粉末とアルミニウム粉末とアルミナ粉末とを混合し成形体とした後、高圧反応容器内に収納し、アルゴン雰囲気下で該成形体の上端面を着火することによりアルミニウム粉末の酸化燃焼反応を誘導し、還元されたニッケルが過剰に添加したアルミニウムと反応してNiAlを合成しながら、燃焼反応が連鎖的に進行する。その結果、外部加熱なしに金属間化合物の1つであるNiTiのインゴットを製造することができる。
また、本出願人は、発熱源として比表面積を限定したTi粉末を含む反応原料を用いること等により、燃焼合成反応で酸化物系の誘電体セラミックスを製造する方法等を出願している(例えば、特願2005−99073)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の燃焼合成法では酸化物系の誘電体セラミックスを製造することができない。また、特許文献1では、同時に合成されるAl23 はNiTiに対する濡れ性や比重、粘性、融点および熱力学的安定性の違いから、NiTiから容易に分割して得られるとされているが、これら2種類の合成物を正確に分離することは難しいという問題がある。
一方、上記特願2005−99073の方法では、燃焼合成法における原料組成を調整することで、所望組成の誘電体セラミックスを得ることはできるが、誘電特性に優れるセラミックスを得るためには、セラミックス組成に加えて適切な結晶構造を有していることも重要となる。
【特許文献1】特開平5−9009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、誘電特性に優れる結晶構造を有し、燃焼合成法により得られる酸化物系の誘電体セラミックス、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含み、燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスであって、上記誘電体セラミックスのX線回折法2θの回折ピーク位置は、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲にあることを特徴とする。
また、上記誘電体セラミックスは、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、上記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする。
なお、各元素記号は、それぞれSr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、O(酸素)、Nd(ネオジム)、Zr(ジルコニウム)、Sm(サマリウム)である。
【0008】
上記金属酸化物はNd23およびSm23、上記炭酸塩はCaCO3およびLi2CO3、上記イオン結合性物質はNaClO4であることを特徴とする。
また、上記反応原料であるTi粉末の一部を、TiO2 粉末に置き換えて配合することを特徴とする。
【0009】
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含む誘電体セラミックスの製造方法であって、反応原料粉末として少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、上記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを、得られる反応生成物のX線回折法2θの回折ピーク位置が、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲となる割合で配合する工程と、上記所定割合で配合された配合物を、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程と、上記燃焼合成反応により得られた反応生成物を粉砕する工程と、上記粉砕された粉末を水で洗浄する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体セラミックス(少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含む)は、燃焼合成法で得られるとともに、X線回折法2θの回折ピーク位置が、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲にあるので、誘電体特性に優れた結晶構造であり、高誘電率かつ低誘電正接である。
【0011】
燃焼合成反応時において、Ti粉末の一部をTiO2 粉末に置き換えて配合するので、混合時に爆発や発火の危険性がなく、置き換えられたTiO2粉末が燃焼合成反応において、反応希釈剤として作用するため断熱火炎温度の制御が容易になる。
【0012】
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、各反応原料粉末の配合割合を、得られる反応生成物のX線回折法2θの回折ピーク位置が所定位置となるように微調整して決定するので、所望の組成および結晶構造を有する誘電体セラミックスを燃焼合成法により得ることができる。
また、合成粉末を微粉化した後、水で洗浄することで十分な副生成物の除去が可能となるので、理論密度に近い焼結体が得られる。
さらに、燃焼合成法を用いることで、従来の外部加熱を行なう固相法と比較して、同程度の誘電特性を有する誘電体セラミックスを、低コスト、短時間で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の誘電体セラミックスは、少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含み、燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスである。燃焼合成法としては、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、上記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を所定割合で配合した後、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成反応を行なう方法が挙げられる。
【0014】
本発明に用いるTi粉末は、微粉末であることが好ましく、比表面積が 0.01〜2 m2/g である。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすい好ましい比表面積の範囲は 0.1〜0.6 m2/g である。比表面積が 0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となる金属粉未と酸素供給源となる物質との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、誘電体セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえる金属粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。また、Ti粉末に代えて水素化Ti粉末を使用することもできる。本発明において、金属粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
【0015】
本発明に用いるTi粉末は平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150μm 以下、好ましくは 0.1〜100μm である。150μm をこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
【0016】
また、Ti粉末の一部を置き換えて配合することができるTiO2 粉末は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、TiO2 粉末の配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。具体的には、TiO2 の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がる。
また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、例えば、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2 粉末とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
ただし、該TiO2 粉末を多量に使用すると、反応生成物への不純物の混入のおそれがあり、また、後述の実施例等に示すように所定量をこえて使用すると燃焼波が伝播しなくなるので、コスト面、反応に必要な断熱火炎温度等を考慮して、併用することが好ましい。
【0017】
本発明に用いる酸素供給源となる物質としては、加熱により酸素を発生させるイオン結合性物質が配合される。該イオン結合性物質としては、KClO3、NaClO3、NH4ClO3等の塩素酸塩類、KClO4、NaClO4、NH4ClO4等の過塩素酸塩類、NaClO2などの亜塩素酸塩類、KBrO3などの臭素酸塩類、KNO3、NaNO3、NH4NO3等の硝酸塩類、NaIO3、KIO3等のよう素酸塩類、KMnO4、NaMnO4・3H2Oの過マンガン酸塩類、K2Cr27、(NH42Cr27等の重クロム酸塩類、NaIO4などの過よう素酸塩類、HIO4・2H2Oなどの過よう素酸類、CrO3などのクロム酸類、NaNO2などの亜硝酸塩類等が挙げられる。
これらの中で過塩素酸塩類、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類が好ましく、繰り返し純水で洗浄することで副生成物であるNaCl、KClを除去できるNaClO4、KClO4を用いることがより好ましい。さらにコストの面で有利なNaClO4を用いることが特に好ましい。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
【0018】
誘電体セラミックスの構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩として、Li供給源としてはLi2CO3粉末を、Ca供給源としてはCaCO3 粉末を、Nd供給源としてはNd23粉末を、Sm供給源としてはSm23粉末を、それぞれ用いる。なお、Nd、Sm供給源としては、それぞれの水酸化物を用いてもよい。
また、誘電体セラミックスの構成元素として、Li、Ca、Ti、O、Nd、Smに加えて、Srが含まれることが好ましい。Srを含むことで誘電特性の向上が図れる。この場合、Sr供給源としてSrCO3 粉末を用いる。
【0019】
本発明の誘電体セラミックスは、X線回折法2θの回折ピーク位置が、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲にある。この回折ピーク位置は、あらかじめ固相法で得られている高誘電性セラミックスの回折ピーク(図1参照)から求めた位置である。図1は、固相法で合成した材料の文献値を参考にして燃焼合成した粉末の回折ピークを示す図である。
上記の燃焼合成法における各反応原料は、得られる誘電体セラミックスの回折ピーク位置が、上記範囲となる所定割合で配合する。すなわち、各反応原料の配合割合で回折ピークの位置は変化するので、配合割合を微調整してその都度得られる回折ピーク位置を考慮して、最終的な反応原料の配合割合を適宜決定する。
【0020】
上記反応原料をそれぞれ所定割合で配合する工程において、過塩素酸ナトリウム等と、Ti粉末とを直接接触させると発火、爆発等の危険がある。よって、Ti粉末は予め安定な金属炭酸塩(CaCO3、SrCO3 等)と予備混合して安定な中間原料とした後、過塩素酸ナトリウム等と混合することが好ましい。
上記予備混合に用いる撹拌機は、タンブラー、ヘンシェルミキサ、ボールミル、乳鉢と乳棒等を用いた混合等特に制限されることなく使用できる。また、得られた中間原料に、過塩素酸ナトリウム等を加えての混合に用いる撹拌機は、撹拌翼と撹拌機壁面とのクリアランスが十分にあり、Ti粉末と、過塩素酸ナトリウム等とに撹拌によるせん断力の加わることの少ないヘンシェルミキサや撹拌翼のないボールミル等を使用することが好ましい。
【0021】
混合粉末は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素Si34 等が使用できる。これらの中で炭素(C)材が反応容器材料としての熱伝導性と形状加工性とに優れているので好ましい。
混合粉末をるつぼへ投入する方法としては、混合粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
【0022】
上記所定割合で配合された配合物を燃焼合成法により反応させる。燃焼合成法の条件について、反応系の断熱火炎温度は 1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス雰囲気等を利用することも可能である。また、酸素分圧を制御可能であれば、酸素ガスを使用することも可能である。
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約 1〜60 秒で終了する。
【0023】
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒径が 10μm 以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒径が 100μm をこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生成物であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
【0024】
粉砕工程後の微粉末には、副生成物であるイオン結合性塩が含まれる。例えばNaClO4 を原料に用いた場合はNaClが、KClO4 を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。これらの塩は上述のように水で洗浄することで除去できる。
塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm 以下であればよい。
【0025】
以上の工程により誘電体セラミックス(合成粉末)が得られる。また、用途に応じて、洗浄乾燥後、該粉末を焼結してもよい。焼結するとき、ポリビニルブチラールなどの成形用粘結剤を配合できる。焼結条件としては、10〜100 MPa の圧力で成形後、大気雰囲気下、1200〜1500℃の温度で焼成する条件が挙げられる。
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去するため、900〜1100℃で仮焼することも可能である。
【実施例】
【0026】
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3
以下の方法で誘電体セラミックスを合成した。各反応原料を表1に示すモル配合比(モル比)でボールミルを用いて 5 時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100 g )をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。
なお、表1中において、Ti金属粉末は住友チタニウム社製TSP−350(比表面積 0.3 m2/g)を、NaClO4、TiO2、SrCO3、CaCO3およびLi2CO3、BaO2 は和光純薬工業社製各試薬を、Nd23およびSm23は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
実施例1〜実施例6は、図1に示す固相法で合成した高誘電性セラミックスの回折ピークと一致するように原料組成の微調整を行なった原料を用いた。
【0027】
実施例1〜実施例6、比較例1〜比較例3の組成物について燃焼波が伝播し、燃焼合成法により合成粉末と副生成物(NaCl)が得られた。なお、CO2、Cl2 は合成反応工程でガス化して合成粉末中には残らなかった。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が 2μm の未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。この未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。
得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。X線回折法2θの回折ピーク位置をそれぞれ表1に示す。
【0028】
また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られた誘電体セラミックス粉末に成形用バインダ(ポリビニルブチラール樹脂)を 1 重量%添加して混合した。次に混合粉末を 10 mm×80 mm の金型に投入し、1.5 トン/cm2 の圧力を加えてグリーン体(10 mm×90 mm×3 mm )を得た。このグリーン体を 600℃で 1 時間保持し、有機分を除去した後、1300℃で 3 時間焼成した。得られた焼結体を 70 mm×1.5 mm×1.5 mm の試験片に加工し、空洞共振器法を用いて、1、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように全ての実施例はX線回折法2θの回折ピーク位置が優れた誘電特性を有する結晶構造であることを示す所定の位置にあり、誘電率かつ誘電正接の測定値も優れた誘電特性を示した。一方、全ての比較例はX線回折法2θの回折ピーク位置が所定の範囲になく、誘電特性も実施例より劣る値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の誘電体セラミックスは、あらかじめ反応原料を固相法で合成した高誘電性セラミックスと同様の結晶構造を示し、優れた誘電特性を有するとともに、固相法で合成したものよりもコスト面で優れる。よって、誘電体アンテナ、コンデンサ、誘電体共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】固相法で合成した高誘電性セラミックスのX線回折法による測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含み、燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスであって、
前記誘電体セラミックスのX線回折法2θの回折ピーク位置は、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲にあることを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
前記誘電体セラミックスは、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、前記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
前記金属酸化物はNd23およびSm23、前記炭酸塩はCaCO3およびLi2CO3、前記イオン結合性物質はNaClO4であることを特徴とする請求項2記載の誘電体セラミックス。
【請求項4】
前記反応原料であるTi粉末の一部を、TiO2 粉末に置き換えて配合することを特徴とする請求項2または請求項3記載の誘電体セラミックス。
【請求項5】
少なくともLi、Ca、Ti、O、Nd、Smを構成元素として含む誘電体セラミックスの製造方法であって、
反応原料粉末として少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、前記構成元素源となる金属酸化物および炭酸塩とを、得られる反応生成物のX線回折法2θの回折ピーク位置が、第一ピークが 32.8°、第二ピークが 47.2°、第三ピークが 59.0°、第四ピークが 40.5°、第五ピークが 69.3°のそれぞれ±0.5°の範囲となる割合で配合する工程と、
前記所定割合で配合された配合物を、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程と、
前記燃焼合成反応により得られた反応生成物を粉砕する工程と、
前記粉砕された粉末を水で洗浄する工程とを備えることを特徴とする誘電体セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−261891(P2007−261891A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90154(P2006−90154)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】