説明

誘電体フィルム、関連物品及び方法

【課題】シアノ樹脂誘電体フィルムを含んでなる物品、およびそれを用いたコンデンサを提供する。
【解決手段】シアノ樹脂誘電体フィルムを有するシアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでおり、かかるシアノ樹脂誘電体フィルムが、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロース及びこれらの組合せからなる群から選択される1種以上のシアノ樹脂からなるのが好ましく、かつ、それに結合された1以上の電極を含んでなるコンデンサであって、その製法は、シアノ樹脂を溶媒に溶解して溶液を調製する段階、強化材料を溶液中に分散させる段階、及び溶液を基材に塗工してシアノ樹脂誘電体フィルムを形成する段階を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には高エネルギー密度コンデンサに関し、さらに詳しくは高い比誘電率及び高い絶縁破壊強度を有するポリマーの薄膜を組み込んだかかるコンデンサに関する。本発明はさらに、かかる誘電体フィルムの製造方法及びそれを含んでなるコンデンサにも関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度コンデンサは、様々な工業用、軍用及び商用の活動においてますます重要になってきた。ポリマー系コンデンサは計量かつコンパクトであり、したがって様々な陸上用途及び宇宙用途にとって魅力的である。しかし、誘電性ポリマーの多くは低いエネルギー密度(<5J/cc)によって特徴づけられると共に、低い絶縁破壊強度(<450kV/mm)を有し、これがコンデンサの動作電圧を制限することがある。高エネルギー密度を達成するためには、高い比誘電率特性及び高い絶縁破壊強度の両方を有するのが望ましい場合がある。これら2つの特性間のトレードオフは有利でないことがある。
【0003】
高い絶縁破壊強度を示す誘電性ポリマーの多くは低い比誘電率を有する。通例、ポリマーの比誘電率を高めるために高誘電率のセラミック充填剤が使用される。ポリマーの比誘電率をさらに高めるためには、高濃度のセラミック充填剤を含めればよい。例えば、150に等しい比誘電率を有するポリマー−セラミック複合体は85体積%ものセラミック充填剤添加密度を有し、これは約98重量%である。しかし、高濃度のセラミック充填剤は複合体の機械的柔軟性を低下させるばかりでなく、界面欠陥を導入することで複合体の絶縁破壊強度も低下させる。
【0004】
シアノ樹脂系列のポリマーは高い比誘電率(ε>15)を有しており、フィルム形成樹脂として商業的に入手可能である。商用グレードの高誘電率シアノ樹脂が入力可能であり、エレクトロルミネセントランプ用のコーティング材料として広く使用されている。しかし、シアノ樹脂はコンデンサ作製用の自立フィルムに加工するのに十分なだけの機械的強度を有していないのが普通である。通常、フィルムは材料の脆化のために亀裂を生じる。
【0005】
これらのフィルムの一部の絶縁破壊強度は、200kV/mm未満であると報告されている。これらの樹脂は、高い絶縁破壊強度を有する高品質フィルムを得るために研究されかつ加工されてきた。しかし、CR−C(シアノエチルセルロース)及びCR−E(シアノエチルヒドロキシエチルセルロース)のような純粋シアノ樹脂フィルムは極めて脆いことが報告されている。したがって、これらは他のポリマーとのブレンドとしてのみ使用するのが好都合である。CR−S(シアノエチルプルラン)は、性質及び加工の点から見て別の好適なポリマーである。
【0006】
このように、その誘電特性を損なうことなしにシアノ樹脂の靱性を向上させることが要望されている。また、既存の誘電体フィルムに比べて向上した機械的強度を有しながら、高い比誘電率及び高い絶縁破壊強度を有するシアノ樹脂フィルムを得ることも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
米国特許第7542265号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の若干の実施形態は、アノ樹脂誘電体フィルムを含んでなる物品を提供する。シアノ樹脂誘電体フィルムは強化材料のナノ構造体を含んでいる物品
本発明の若干の実施形態に従えば、コンデンサが提供される。かかるコンデンサは、シアノ樹脂誘電体フィルム及びシアノ樹脂誘電体フィルムに結合された1以上の電極を含んでいる。シアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでいる。
【0009】
若干の実施形態では、誘電体フィルムの形成方法が提供される。本方法は、シアノ樹脂を溶媒に溶解して溶液を調製する段階、及び強化材料を溶液中に分散させる段階を含んでいる。本方法はさらに、溶液を基材に塗工してシアノ樹脂誘電体フィルムを形成する段階を含んでいる。シアノ樹脂誘電体フィルムは強化材料のナノ構造体を含んでいる。
【0010】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシアノ樹脂の化学構造を表す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るコンデンサを図示している。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に従ってシアノ樹脂誘電体フィルムを形成する方法のフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係るシアノ樹脂誘電体フィルムの透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通じて使用される概略表現用語は、それが関係する基本機能の変化を生じることなしに変動することが許容される任意の数量表現を修飾するために適用できる。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、明記された厳密な値に限定されない。場合によっては、概略表現用語は値を測定するための計器の精度に対応することがある。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲中では、“a”、“an”“the”を伴う単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0014】
本明細書中で使用される「し得る」及び「あり得る」という用語は、1組の状況の範囲内である出来事が起こる可能性を表し、明記された性質、特性又は機能を所有する可能性を表し、及び/又は修飾された動詞に関連する力量、能力又は可能性の1以上を表現することで別の動詞の意味を限定する。したがって、「し得る」及び「あり得る」の使用は、ある状況の下では修飾された用語が時には適切、有能又は好適でないことも考慮に入れながら、修飾された用語が表示された能力、機能又は使用にとって見掛け上適切、有能又は好適であることを表す。例えば、ある状況下ではある事象又は能力が期待できるが、他の状況下ではかかる事象又は能力が起こり得ない場合、このような違いが「し得る」及び「あり得る」という用語によって表現される。
【0015】
本明細書中で考察される誘電特性の一部は、比誘電率、絶縁破壊電圧又は絶縁破壊強度、及びエネルギー密度である。誘電体の「比誘電率」とは、電極間及び電極周囲の空間が誘電体で満たされているコンデンサのキャパシタンスと、真空中における同一配置の電極のキャパシタンスとの比である。本明細書中で使用される「絶縁破壊強度」とは、印加AC又はDC電圧下におけるポリマー複合体(誘電体)の絶縁破壊抵抗性の尺度をいう。絶縁破壊前の印加電圧を誘電体(ポリマー)の厚さで割ることで、絶縁破壊強度値又は絶縁破壊電圧が得られる。それは一般に、長さの単位に対する電位差の単位(例えば、キロボルト/ミリメートル(kV/mm))で測定される。
【0016】
コンデンサのエネルギーは、一般に式E=(1/2)CV2によって計算される。式中、Cはファラド(F)単位のキャパシタンスであり、Vはコンデンサのボルト(V)単位の動作電圧である。これらの関係は電界Eの関数として表すこともできる。誘電体の比誘電率Kが印加電界E(V/μm単位)と共に変化しなければ、コンデンサ中に蓄積される電気エネルギー密度UE(J/cc単位)は次式によって計算できる。
E=1/2ε0KE2
式中、ε0は真空の誘電率である。誘電体に印加できる最大の電界は、その絶縁破壊強度と呼ばれる。本明細書中で使用される「高温」という用語は、特記しない限り、約100℃より高い温度をいう。
【0017】
本発明の一実施形態に従えば、シアノ樹脂誘電体フィルムを含んでなる物品が提供される。シアノ樹脂誘電体フィルムは強化材料のナノ構造体を含んでいる。本明細書中で使用される「強化材料」とは、基礎材料(シアノ樹脂)の機械的強度を約5%以上増大させる添加剤をいう。
【0018】
誘電体フィルム又は誘電体層は、特定のシアノ樹脂に限定されない。好適なシアノ樹脂の例には、特に限定されないが、シアノエチルプルラン(CR−S樹脂)、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース(CR−E)及びシアノエチルセルロース(CR−C樹脂)がある。例示的な一実施形態では、シアノ樹脂はシアノエチルセルロースを含む。別の実施形態では、シアノ樹脂はシアノエチルプルランを含む。本発明の若干の実施形態で使用するためのシアノ樹脂の繰返し単位の構造を図1に示す。構造10はCR−S樹脂の繰返し単位を示しており、構造12はCR−C樹脂の繰返し単位を示している。式中、Rは−CH2−CH2−CN又はHである。所望の窒素含有量を与えるの十分な量のシアノ基が存在すべきである。構造12に対応する式中では、個々のペンダントCH2OR基は別法としてCH2OR’基(式中、R’は−CH2−CH2−OH又はHである。)であり得る。若干の実施形態では、シアノ樹脂のブレンドを誘電体フィルムとして使用できる。
【0019】
シアノ樹脂は、脂肪族、芳香族又はアリールオキシ主鎖を有し得る。シアノ樹脂はCN基に基づく窒素含有量を有している。若干の実施形態では、窒素含有量は約7〜約15重量%である。他の実施形態では、窒素含有量は約9〜約13重量%である。シアノ樹脂は、通常、約100〜約1000センチポアズ(cP)の粘度(20℃の20%N,N−ジメチルホルムアミド又はDMF溶液)によって特徴づけられる。CN基は実質的に高い双極子モーメント及び実質的に高い移動度を有することで、電界下で再配向し、高い比誘電率を生み出すことができる。CR−S樹脂は室温で19.5の比誘電率を有し、CR−C樹脂は16.5の比誘電率を有する。シアノ樹脂の高い比誘電率は、その高い絶縁破壊強度と相まって、高いエネルギー密度をもたらすことができる。
【0020】
シアノ樹脂は有効量の強化材料を含んでいる。強化材料の主要な目的は、薄膜形成用のシアノ樹脂の靱性を向上させることである。しかし、特定の強化材料及びそのレベルは、フィルム形成用のシアノ樹脂の機械的強度(例えば、引張強さ)を向上させると共にシアノ樹脂の誘電特性を維持するように選択される。
【0021】
好適な強化材料は熱可塑性ポリマーを含み得る。その非限定的な例には、アクリレートブロックコポリマー、芳香族ポリイミド、シロキサン−イミドブロックコポリマーなどがある。芳香族ポリイミドは、通常はポリ(アミド酸)から製造される。芳香族ポリイミドは、通常は芳香族二無水物及び芳香族ジアミンから合成される。芳香族二無水物の例には、特に限定されないが、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビスフェノールA二無水物、オキシジフタル酸無水物及びピロメリット酸二無水物がある。芳香族ジアミンの例には、特に限定されないが、オキシジアニリン(ODA)、フェニレンジアミン(PDA)、ビス−アミノフェノキシベンゼン及びビス(アミノフェノキシフェニル)プロパンがある。
【0022】
アクリレートブロックコポリマーは、通常、ABA又はABCアクリレートブロック構成を含んでいる。A、B及びCは各モノマーのブロックであり、ABA又はABCはアクリレートブロックコポリマー中の繰返し単位を表している。Aの好適な例には、特に限定されないが、ポリ(メチルメタクリレート)がある。Bの好適な例には、特に限定されないが、ポリシロキサン及びポリブチルアクリレート/ポリブタジエンがある。Cの非限定的な例にはポリスチレンがある。
【0023】
例示的な実施形態では、ABAアクリレートブロックコポリマーの繰返し単位はPMMA−PBA−PMMAである。式中、「PMMA」はポリ(メチルメタクリレート)であり、「PBA」はポリ(ブチルアクリレート)である。別の例示的な実施形態では、ABCアクリレートブロックコポリマーの繰返し単位はPS−PBd−PMMAである。式中、「PS」はポリスチレンであり、「PBd」はポリブタジエンであり、「PMMA」はポリ(メチルメタクリレート)である。好ましい実施形態では、アクリレートブロックコポリマーはABAブロックコポリマー(Arkema,Inc.からのM22及びM22N)及びシロキサン−ポリエーテルイミドブロックコポリマー(SABIC Innovative Plastics社からのSTM1700)である。
【0024】
強化材料の最も適切な量は、通常、材料を使用する用途並びに特定の強化剤の正体によって決定される。強化材料の「有効量」とは、その誘電特性を顕著に損なうことなしにシアノ樹脂の靱性を向上させるのに十分な量である。本発明の実施形態では、約10重量%以上の強化材料を含むシアノ樹脂が使用できる。好ましくは、強化材料(即ち、強化剤)は約10〜約20重量%の量で存在している。
【0025】
その上、本発明の実施形態に関しては、強化材料はナノ構造体としてシアノ樹脂中に存在している。本明細書中で使用される「ナノ構造体」という用語は、約500nm未満、約200nm未満、約100nm未満、約50nm未満、さらには約20nm未満のフィーチャサイズをもった、1以上の領域又は特徴的寸法を有する構造体を記述するものである。かかる構造体の例には、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、分岐ナノ結晶、ナノテトラポッド、トライポッド、バイポッド、ナノ結晶、ナノドット、ナノ粒子などがある。ナノ構造体は、材料特性が実質的に均一であってよい。しかし、他の実施形態では、ナノ構造体は不均一であってもよい。ナノ構造体は実質的に結晶質(単結晶質又は多結晶質)、非晶質又はこれらの組合せであり得る。ナノ構造体の他のフィーチャは、マイクロメートル範囲、さらにはミリメートル範囲のサイズを有し得る。一態様では、ナノ構造体の1以上の寸法は約500nm未満、例えば約200nm未満、約100nm未満、約50nm未満、さらには約20nm未満のサイズを有している。
【0026】
若干の実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムは約0.1〜約50μmの範囲内の厚さを有している。特定の実施形態では、誘電体フィルムは約0.1〜約10μmの範囲内の厚さを有している。下記に詳しく記載される通り、誘電体フィルムの絶縁破壊強度はフィルム厚さに逆比例することが判明した。したがって、誘電体フィルムの選択厚さは一部では所要エネルギー密度及び加工可能性に依存する。若干の実施形態では、誘電体フィルムはそれより大きいフィルム厚さ、例えば約3〜約50μmの範囲内の厚さを有し得る。
【0027】
特定の実施形態では、シアノ樹脂マトリックス中に充填剤粒子が分散している。充填剤粒子はフィルムの比誘電率に対してプラスの作用を及ぼし、したがって有利に使用できる。これらの充填剤粒子は、すべての他の高い性能パラメータ(例えば、高い抵抗率、低い誘電正接及び高い絶縁破壊電圧)を維持しながら、比誘電率、したがってエネルギー蓄積容量を高めることが判明した。
【0028】
一実施形態では、充填剤粒子はセラミック材料からなる。セラミック粒子は強誘電性又は反強誘電性粒子であり得る。強誘電性又は反強誘電性効果は、ある種のイオン結晶が自発的双極子モーメントを示すことができる電気現象である。好適なセラミックの例には、特に限定されないが、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化セシウム、イットリア、シリカ、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコニウム鉛及びこれらの様々な組合せがある。一実施形態では、好ましい充填剤粒子は反強誘電性粒子である。
【0029】
反強誘電性粒子は、電界の印加で強誘電性粒子に変換することができる。したがって反強誘電性粒子は、通常、電界に暴露されると低誘電状態(反強誘電性状態)から高誘電状態(強誘電性状態)への相転移を生じることができる電界調整可能な非線形誘電体粒子である。シアノ樹脂中に組み込まれた反強誘電性粒子の状態を(反強誘電性状態から強誘電性状態に)変化させるためには、一般に約100キロボルト/ミリメートル以下のバイアス電界が使用される。このバイアス電界は試料の加熱を伴うことがある。バイアス電界の印加中に、対流、伝導又は放射の形態で試料に熱を加えることができる。
【0030】
電界は充填剤粒子を柱状構造に整列させることで、一層高い比誘電率を生み出す。かかる反強誘電性粒子及びポリマーの誘電特性に対するその効果は、2005年11月23日に提出された、“Antiferroelectric Polymer Composites,Methods of Manufacture Thereof,And Articles Comprising the Same”と称する米国特許出願(米国特許出願公開第2007/0117913号)(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)中に記載されている。
【0031】
充填剤粒子は、通常、約5〜約500nmの範囲内の平均粒径によって特徴づけられる。一実施形態では、平均粒径は約10〜約100nmの範囲内にある。充填剤粒子は、前述した因子のいくつかに応じ、適当な量で存在している。通例、充填剤粒子の量はシアノ樹脂の重量の約60重量%未満である。一実施形態では、充填剤粒子の量はシアノ樹脂の約0.1〜約30重量%の範囲内にある。一実施形態では、充填剤粒子の量はシアノ樹脂の約0.1〜約20重量%の範囲内にある。充填剤粒子の粒径及び重量%はフィルム形成能力に影響を及ぼすことがあり、したがって適切に最適化すればよい。
【0032】
誘電体フィルムの絶縁破壊強度は、一部ではフィルム組成、フィルム厚さ並びに(通常は表面欠陥、フィルム堆積法及び表面の化学的改質で定義される)フィルム品質によって制御できる。通例、本発明の一般的な実施形態に関しては、誘電体フィルムは約200kV/mm以上の絶縁破壊強度を有する。一実施形態では、誘電体フィルムは約200〜約1000kV/mmの範囲内の絶縁破壊強度を有する。若干の好ましい実施形態では、誘電体フィルムは約300〜約700kV/mmの範囲内の絶縁破壊強度を有する。
【0033】
誘電体フィルムが薄いほど、通常は高い絶縁破壊強度値を示す(誘電体フィルムの絶縁破壊強度はフィルムの厚さを減少させることで向上させ得る)。強化誘電体フィルムは良好な機械的強度を有し、自立フィルム、さらには厚さの減少した自立フィルムに加工できる。例えば、20重量%の強化材料M22(上述)を含みかつ15μmの厚さを有するCR−Cフィルムは400kV/mmの絶縁破壊強度値を示した。フィルム厚さを5.5μmに減少させると、570kV/mmの向上した絶縁破壊強度が得られた。
【0034】
一実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムの比誘電率は約10〜約50の範囲内にあり得る。別の実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムの比誘電率は約10〜約30の範囲内にあり得る。その上、一実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムは1kHzで約0.01〜約0.1の範囲内の誘電正接を有している。
【0035】
本発明の実施形態は、誘電体フィルム及び誘電体フィルムに結合された1以上の電極を含んでなるコンデンサを提供する。図2は、基材24上に堆積させた誘電体フィルム22を有するコンデンサ20の略図である。誘電体フィルム22はシアノ樹脂を含んでいる。シアノ樹脂誘電体フィルムは強化材料のナノ構造体を含んでいる。誘電体フィルム22には電極26が結合されている。通例、電極26は導電性ポリマー又は金属の層を含むことができる。常用される金属には、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、亜鉛及び銅がある。電極層は通例薄くて、約50〜約500Å程度である。若干の実施形態では、コンデンサは多層コンデンサであり得る。かかる実施形態では、複数の誘電体フィルム及び電極層を交互に配列することで多層コンデンサが形成される。
【0036】
フィルムに関する実質的に高い比誘電率値及び高い絶縁破壊強度値は、コンデンサに関して高エネルギー蓄積を可能にする。一実施形態では、コンデンサのエネルギー密度は約5J/立方センチメートル以上である。別の実施形態では、コンデンサのエネルギー密度は約10J/cc以上である。さらに別の実施形態では、コンデンサのエネルギー密度は約20J/cc以上である。
【0037】
コンデンサは、任意には誘電体フィルム上に配置されたキャッピング層を含み得る。好適なキャッピング層材料の例には、特に限定されないが、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエーテルイミド、フルオロポリマー、パリレン、アクリレート、酸化ケイ素、窒化ケイ素及びポリフッ化ビニリデンがある。特定の実施形態に関しては、キャッピング層は誘電体フィルムの厚さの約10%未満の厚さを有している。キャッピング層は充填又は他の方法で表面欠陥を緩和するために役立ち、したがってフィルムの絶縁破壊強度を向上させることができる。また、本明細書中に記載したフィーチャが存在する限り、本発明はいかなる特定のタイプのコンデンサにも限定されないことを強調しておきたい。
【0038】
本発明の実施形態はさらに、図3のフローチャートに示すようなシアノ樹脂誘電体フィルムの形成方法30を提供する。方法30は、シアノ樹脂を溶媒に溶解して溶液を調製する段階32、強化材料を溶液中に分散させる段階34、及び溶液を基材に塗工してシアノ樹脂誘電体フィルムを形成する段階38を含んでいる。シアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでいる。本方法は、段階38の実施に先立って充填剤粒子を溶液中に分散させる追加の任意段階36を含むことができる。
【0039】
段階32では、シアノ樹脂を任意適宜の溶媒に溶解する。特定の実施形態では、溶媒は、アセトン、アセトニトリル、シクロヘキサノン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、アセト酢酸メチル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ブチロラクトン、プロピレンカーボネート及びこれらの様々な組合せからなる群から選択される。例示的な実施形態では、溶媒はN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0040】
段階34では、強化材料を好適な分散方法によって溶液中に分散させる。好適な分散技法の例には、特に限定されないが、溶媒分散及び溶媒分散がある。これらの分散技法はまた、追加のエネルギー(例えば、剪断、圧縮、超音波振動など)を用いて強化ナノ構造体とシアノ樹脂との均質化を促進することもできる。一実施形態では、流体(例えば、溶媒)中に懸濁したシアノ樹脂を強化ナノ構造体と共に超音波処理装置内に導入できる。混合物は、ナノ構造体をシアノ樹脂及び流体中に分散させるのに有効な時間にわたり、超音波処理によって溶液ブレンドすればよい。
【0041】
若干の実施形態では、方法30は、溶液を基材に塗工する段階38に先立って充填剤粒子を溶液中に分散させる段階36を任意に含んでいる。充填剤粒子はまた、上述したのと同じ分散技法により、強化材料の分散時又は分散後にシアノ樹脂中に分散させることもできる。
【0042】
段階38では、当技術分野で知られている任意適宜の方法によってシアノ樹脂の溶液を来田に塗工する。好適なコーティング方法の例には、特に限定されないが、テープキャスティング、ディップコーティング、スピンコーティング、化学蒸着、溶融押出し及び物理蒸着(例えば、スパッタリング)がある。通例、誘電体フィルムは約5μm未満の厚さを有している。好ましい一実施形態では、テープキャスティング法によってフィルムを適用できる。フィルム厚さが実質的に小さい場合には、スピンコーティング又はディップコーティングのような溶液に基づくコーティング技法が使用できる。例示的な実施形態では、フィルムは好ましくはスピンコーティング法によって適用できる。
【0043】
コーティングプロセスでのフィルム形成中に、分子状の強化材料がシアノ樹脂から凝離し、自己集合してナノサイズ又はマイクロサイズのドメイン又はナノ構造体を形成する。このような強化材料の凝離は、シアノ基と強化材料との相互作用によって起こる。当業者であれば、温度のような加工条件並びに溶液中の強化材料及びシアノ樹脂の濃度を調整することで、シアノ基と強化材料との相互作用、したがってナノ構造体の特徴的寸法を制御できよう。ナノ構造体の寸法は加工条件に応じて変化することを理解すべきである。
【0044】
若干の実施形態では、ナノ構造体は約50〜約500nmの範囲内の特徴的寸法を有している。例示的な実施形態では、図4はナノ強化シアノエチルセルロース(CR−C)フィルム42の横断面の顕微鏡写真40を示している。顕微鏡写真は透過型電子顕微鏡写真である。図4の顕微鏡写真は、CR−Cフィルム42中に強化材料から形成された、最大寸法が約500nmのナノ構造体44を明確に示している。
【0045】
一部ではこれらの強化ナノ構造体の形成のため、シアノ樹脂誘電体フィルムは良好な機械的強度を有しながら柔軟になるが、これは薄膜形成にとって必須である。表1(下記)は、ナノ強化CR−C誘電体フィルムに関する引張強さの値を示している。さらに、これらの強化シアノ樹脂フィルムは、表2(下記)に示すように優れた誘電特性を維持する。かくして、シアノ樹脂の強化は、良好な機械的強度を有する誘電体フィルムの薄膜形成を可能にする。
【0046】
本発明の実施形態に従えば、シアノ樹脂誘電体フィルムは堆積条件を制御することで改良できる。例えば、コーティングプロセスをクリーンルーム環境で実施することにより、高品質の薄膜を得ることができる。上記プロセスで加工されたシアノ樹脂フィルムは、予想外に高い絶縁破壊強度を示した。一実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムは約300kV/mm以上の絶縁破壊強度を有している。特定の実施形態では、シアノ樹脂誘電体フィルムは約300〜約1000kV/mmの範囲内の絶縁破壊強度を有している。
【実施例】
【0047】
実施例1
10グラムのシアノエチルセルロース(CR−C樹脂)粉末を約90グラムの溶媒に添加することで、約10重量%のポリマーを含む溶液を調製した。溶液を磁気撹拌機により室温で2時間撹拌してCR−C樹脂を溶解した。強化材料M22(CR−C樹脂の20wt%)を溶液に添加した。M22材料を撹拌プロセスによって溶液に溶解した。次いで、1μmフィルターを用いて溶液を濾過した。次いで、溶液を清浄なスライドガラス上に流延し、100℃で2時間乾燥した。次いで、強化CR−Cフィルムをスライドガラスから剥離し、さらに真空オーブン内で一晩乾燥した。約5.5〜約15μmの厚さの自立フィルムを流延した。次いで、一般にASTM D149の方法に従って絶縁破壊強度を測定した。上部電極及び下部電極はステンレス鋼板であった。フィルムを清浄な絶縁鉱油中に浸漬し、500V/sの増加速度で直流(DC)電圧を試料が破壊するまで加えた。ナノ強化CR−Cフィルムの絶縁破壊強度は、厚さ5.5μmのフィルムについては400kV/mmであり、厚さ15μmのフィルムについては570kV/mmであることが判明した。
【0048】
実施例2
それぞれ約12μmの厚さを有する5wt%、10wt%及び20wt%のCR−Cフィルムを、上記実施例1に記載したのと同じ方法で流延した。各フィルムの引張強さを測定した。表1は、各々のナノ強化CR−Cフィルムの引張強さが非強化CR−C(CR−Cニート)フィルムに比べて向上していることを示している。
【0049】
【表1】

実施例3
CR−C樹脂の約20wt%の様々な強化材料、即ちM22、M22N、STM1700(SABIC社からのシロキサンポリエーテルイミドブロックコポリマー)及びBTDA−ODA/PDA(ポリイミド)で強化されたナノ強化誘電体フィルムを、上記実施例1に記載した方法で流延した。表2は、各フィルムの比誘電率を非強化CR−C(CR−Cニート)フィルムの比誘電率と共に示している。データから明らかな通り、CR−C樹脂を強化材料で強化した場合に比誘電率の実質的な変化は存在しない。
【0050】
【表2】

以上、本明細書中には本発明の若干の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の真の技術思想の範囲内に含まれるすべてのかかる修正及び変更を包括するものであることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0051】
20 コンデンサ
22 誘電体フィルム
24 基材
26 電極
42 ナノ強化CR−Cフィルム
44 ナノ構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノ樹脂誘電体フィルムを含んでなる物品であって、シアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでいる物品。
【請求項2】
シアノ樹脂誘電体フィルムが、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロース及びこれらの組合せからなる群から選択される1種以上のシアノ樹脂からなる、請求項1記載の物品。
【請求項3】
強化材料が熱可塑性ポリマーからなる、請求項1記載の物品。
【請求項4】
熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリマー又はアクリレートブロックコポリマーを含む、請求項3記載の物品。
【請求項5】
シアノ樹脂誘電体フィルムが約10重量%以上の強化材料を含んでいる、請求項1記載の物品。
【請求項6】
強化材料がシアノ樹脂中に分散している、請求項1記載の物品。
【請求項7】
シアノ樹脂誘電体フィルムがさらにシアノ樹脂中に分散した充填剤粒子を含み、充填剤粒子が強誘電性又は反強誘電性材料からなる、請求項1記載の物品。
【請求項8】
シアノ樹脂誘電体フィルムが約200〜約1000kV/mmの範囲内の絶縁破壊強度を有する、請求項1記載の物品。
【請求項9】
シアノ樹脂誘電体フィルム及びシアノ樹脂誘電体フィルムに結合された1以上の電極を含んでなるコンデンサであって、シアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでいるコンデンサ。
【請求項10】
シアノ樹脂誘電体フィルムの形成方法であって、
シアノ樹脂を溶媒に溶解して溶液を調製する段階、
強化材料を溶液中に分散させる段階、及び
溶液を基材に塗工してシアノ樹脂誘電体フィルムを形成する段階
を含んでなり、シアノ樹脂誘電体フィルムが強化材料のナノ構造体を含んでいる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−77038(P2011−77038A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212954(P2010−212954)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】