説明

誘電体フィルム用シアノレジンポリマー、製造方法及び物品

【課題】高エネルギー密度コンデンサーの性能要件を満たすように、良好な電気的特性及び良好な機械的特性を有するシアノレジンフィルムを提供する。
【解決手段】ポリマー側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーについて記載する。また、かかるシアノレジンポリマーを形成する方法について記載する。さらに、かかるシアノレジンポリマーを含む誘電体フィルムを有するコンデンサーについても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義にはシアノレジンポリマーに関し、具体的には、高エネルギー密度コンデンサーの誘電体材料として用いられるシアノレジンポリマーに関する。本発明はさらに、シアノレジンポリマーの製造方法並びにかかるシアノレジンポリマーの誘電体フィルムを含むコンデンサー(キャパシター)に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度コンデンサーは、様々な産業、軍事及び商業活動で次第に重要性をましている。ポリマー系コンデンサーは軽量でコンパクトであり、様々な陸用及び宇宙用途で魅力的である。しかし、誘電体ポリマーの大半は低エネルギー密度(<5J/cc)であるという特徴を有し、絶縁破壊強度が低い(<450kV/mm)ため、コンデンサーの作動電圧が制限されかねない。比較的高いエネルギー密度を達成するには、材料が高誘電率特性と高絶縁破壊強度特性を共に示すことが必要とされる。これら2つの特性の間の「トレードオフ」は状況によっては好ましくないことがある。
【0003】
高い絶縁破壊強度を示す誘電体ポリマーの大半は低い誘電率を有する。典型的には、ポリマーの誘電率を高めるため高誘電率セラミック充填材が用いられる。高濃度のセラミック充填材を配合することによって、ポリマーの誘電率をさらに高めることができる。例えば、誘電率が150のポリマー−セラミック複合材は、セラミック充填材の配合密度が85体積%にもなるが、これは約98重量%に相当する。しかし、高濃度のセラミック充填材は複合材の機械的可撓性を低下させるだけでなく、界面欠陥を生じて複合材の絶縁破壊強度が低下する。
【0004】
シアノレジン系ポリマーは概して高い誘電率(ε>15)を特徴としており、これらの材料はフィルム形成用樹脂として市販されている。商用グレードの高誘電率シアノレジンが市販されており、エレクトロルミネセンスランプ用のコーティング材料として広く用いられている。CR−C(シアノエチルセルロース)、CR−S(シアノエチルプルラン)及びCR−(シアノエチルヒドロキシエチルセルロース)のような純粋なシアノレジンフィルムは脆性が高いと報告されている。そのため、従前、これらは他のポリマーとのブレンドとしてしか用いられていない。しかし、ブレンド材料は、その他の短所、例えば、低い誘電率値、低いエネルギー密度、非常に高い誘電損等を呈しかねない。
【0005】
シアノレジンについては、高い絶縁破壊強度を有する高品質フィルムに関する研究及び加工がなされている。しかし、幾つかの状況でのこれらの材料の追加の短所は、コンデンサー製造のための自立フィルムとして加工するのに十分な機械的強度に欠けていることである。通常、これらのフィルムは材料の脆化のため割れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シアノレジンの幾つかの有益な特性が極めて顕著であるという理解のもと、欠けている他の特性の幾つかを、高エネルギー密度コンデンサーの性能要件を満たすように改善することが望まれている。また、シアノレジンフィルムが、既存の誘電体フィルムに比べて、良好な電気的特性及び良好な機械的特性をもつようにできれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態では、ポリマー側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーを提供する。
【0008】
他の幾つかの実施形態では、ポリマー側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーの製造方法を提供する。本方法は、ベースポリマーを用意するステップと、ベースポリマーを、シアノ基を含むオレフィンと反応させるステップとを含む。ベースポリマーは、ヒドロキシル基を含有する1以上の側鎖を含む。
【0009】
本発明の幾つかの実施形態では、物品は、シアノレジンポリマーを含む誘電体フィルムを含む。シアノレジンポリマーは、約10%〜約60%のシアノ基含有側鎖と、残部の実質的にすべてのヒドロキシル基含有ポリマー側鎖とを含む。
【0010】
本発明の幾つかの実施形態では、コンデンサーを提供する。本コンデンサーは、誘電体フィルムと、誘電体フィルムと結合した1以上の電極とを備える。誘電体フィルムは、側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーを含む。
【0011】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点については、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによってさらに理解を深めることができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンデンサーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲で用いる近似表現は、数量を修飾し、その数量が関係する基本機能に変化をもたらさない許容範囲内で変動し得る数量を表現するために適用される。したがって、「約」のような用語で修飾された値はその厳密な数値に限定されない。場合によっては、近似表現は、その値を測定する機器の精度に対応する。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数形で記載したものであっても、文脈から別途明らかでない限り、標記のものが複数存在する場合も含む。
【0015】
本明細書で用いる「してもよい」、「し得る」等の用語は、ある状況下での事象の可能性、標記の特性・特徴又は機能を有すること、及び/又は標記の動作に関する1又は複数の能力、性能又は可能性を表す。従って、「してもよい」、「し得る」等の用語は、それらで示すものが、標記の性能、機能又は用途に関して、明らかに適切であるか、可能であるか或いは好適であることを意味しているが、状況によっては、適切でも、可能でも、好適でもないこともあるとことを考慮されたい。例えば、ある状況では、ある事象又は性能が期待されるが、別の状況ではその事象又は性能が起こり得ないが、この区別を「してもよい」、「し得る」等の用語で表す。
【0016】
本明細書で検討する誘電特性としては、誘電率、誘電正接(dissipation factor)、誘電体絶縁破壊電圧又は誘電体絶縁破壊強度及びエネルギー密度がある。誘電体材料の「誘電率」は、電極間及びその周囲の空間をその誘電体材料で満たしたときのコンデンサーのキャパシタンスと、真空中での同じ電極構成のキャパシタンスとの比である。本明細書で用いる「誘電正接」又は「誘電損」という用語は、誘電体材料で散逸する電力と印加電圧との比をいう。誘電正接は概して損失角(δ)の正接又は位相角の余接として測定される。
【0017】
本明細書で用いる「誘電体絶縁破壊強度」とは、印加したAC電圧又はDC電圧の下での誘電体材料の誘電体絶縁破壊抵抗の尺度をいう。絶縁破壊までに印加した電圧を誘電体(例えばポリマー)材料の厚さで除算すれば、絶縁破壊強度値又は絶縁破壊電圧が得られる。この値は一般に、キロボルト毎ミリメートル(kV/mm)のように(電位差の単位)/(長さの単位)として測定される。
【0018】
コンデンサーのエネルギーは一般に式E=(1/2)CVで計算される。ここで、Cはファラド(F)単位のキャパシタンスであり、Vはボルト(V)単位のコンデンサーの作動電圧である。これらの関係は、電場Eの関数として表すこともできる。材料の誘電率Kが印加電場E(V/μm)で変化しないとすると、コンデンサーに蓄積される電気エネルギー密度U(J/cc)は次式で計算することができる。
【0019】
=(1/2)εKE
式中、εは真空の誘電率である。材料に印加することのできる最大の電場を誘電体絶縁破壊強度と呼ぶ。本明細書で用いる「高温」という用語は、別途記載しない限り、摂氏約100度(℃)を超える温度をいう。
【0020】
本明細書で検討する機械的特性及び熱機械的特性としは、延性及び軟化温度がある。延性は、材料を破壊も破断もせずに可塑変形することのできる能力を表す機械的特性である。材料の延性は、例えば線材又は薄板の形成の際のような、引張応力下での変形能力によって特徴付けられることが多い。
【0021】
本明細書で記載するシアノレジンポリマーは部分的な結晶化構造を有し、一般に、ガラス転移温度の測定値ではなく軟化温度の測定値を用いて特徴付けられる。本明細書で用いるシアノレジンポリマーの「軟化温度」は、実質的な分解も軟化も起こさずにシアノレジンポリマーを使用することのできる最大温度をいう。
【0022】
典型的には、シアノレジンフィルムの多くは機械的特性に劣ることがある。しかし、可撓性の高品質フィルムの形成に当たっては、延性のような機械的特性と高温作動温度での機械的安定性が概して必要とされる。現在入手可能なシアノレジン又はシアノレジンブレンドの多くは良好な電気的特性を有するが、十分な熱機械的特性に欠けている。これら両方の特性が必要とされることが多い。
【0023】
本発明の一実施形態では、シアノレジンポリマーを提供する。本シアノレジンポリマーは、側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含んでおり、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含んでいる。幾つかの実施形態では、ポリマーの側鎖の約10%〜約35%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含んでいる。他の実施形態では、側鎖はビスシアノ基を含んでいてもよい。各種側鎖でのシアノ基の置換度の調整によって、所望の特性を最適化することができる。
【0024】
幾つかの実施形態はシアノレジンポリマーの製造方法に関する。本方法は、ベースポリマーを用意するステップと、ベースポリマーを、シアノ基を含むオレフィンと反応させるステップとを含む。この化学反応で上述のシアノレジンポリマーが得られる。
【0025】
ベースポリマーは、ヒドロキシル基を含む少なくとも1種の側鎖を有するポリマーである。一実施形態では、ベースポリマーは、実質的にすべての側鎖がヒドロキシル基を含むポリマーである。ベースポリマーの適当な具体例としては、セルロース、プルラン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート及びポリビニルアルコールが挙げられる。ある例示的な実施形態では、ベースポリマーはセルロース系材料を含む。別の実施形態では、ベースポリマーはプルランを含む。
【0026】
オレフィンは、二重結合で結合した1対以上の炭素原子(C=C)を含む不飽和炭化水素である。本明細書で用いるオレフィンという用語は、シアノ基を含むオレフィン化合物をいう。かかるオレフィンの適当な具体例としては、アクリロニトリル化合物が挙げられる。アクリロニトリルの化学式はCNである。本明細書で用いるアクリロニトリルという用語には、アクリロニトリル単量体、シアノエチレン、プロペンニトリル、ペンテンニトリル、シンナモニトリル、ビニルシアニド又はこれらの組合せが包含される。一実施形態では、次のアクリロニトリル単量体:1,1−ジシアノエチレン、1,2−ジシアノエチレン及び4−ペンテンニトリルが好ましいオレフィンである。
【0027】
上述の通り、これらの材料の製造方法は、ベースポリマーをオレフィンと反応させてシアノレジンポリマーを生成させるステップを含む。ベースポリマーのヒドロキシル基が、シアノ基を含有するオレフィンと反応して、シアノ含有側鎖を生じる。幾つかの実施形態では、ベースポリマーのヒドロキシル基の約10%〜約60%がオレフィンと反応して、側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含むようになる。残りのポリマー側鎖の実質的にすべてはヒドロキシル基を含む。幾つかの実施形態では、ベースポリマーの約10%〜約35%のヒドロキシル基がオレフィンと反応して、側鎖の約10%〜約35%がシアノ基を含むようになり、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてはヒドロキシル基を含む。
【0028】
本発明の幾つかの実施形態では、反応ステップは、オレフィンによるベースポリマーのシアノアルキル化を含む。「シアノアルキル化」という用語は、反応性水素を含有する化合物への、アクリロニトリルのようなシアノアルケン化合物の付加を伴う化学反応をいう。例えば、セルロースのシアノアルキル化は次式で表される。
【0029】
【化1】

シアノレジンポリマーは、ベースポリマーの選択に応じて、脂肪族、芳香族又はアリールオキシ主鎖を有する。シアノレジンポリマーの分子量は約10000〜約5000000である。シアノレジンポリマーのシアノ側鎖は一般に極性が大きく、シアノレジンポリマーに高い誘電率を与える。特に、シアノ(CN)基は実質的に高い双極子モーメントと実質的に高い易動度を有していて、電場の下で分子が再配向できる。これは、シアノレジンポリマーの高い誘電率の値に寄与する。幾つかの実施形態では、シアノレジンポリマーは、20℃及び1kHzで約10を超える誘電率を有する。幾つかの実施形態では、シアノレジンポリマーは、20℃及び1kHzで約13を超える誘電率を有する。さらに、本明細書に記載するシアノレジンポリマーの誘電正接は、幾つかの実施形態では約0.01未満である。
【0030】
シアノレジンポリマーの高い軟化温度によって、高温作動温度での強度及び熱機械的安定性が得られる。本発明の幾つかの実施形態では、シアノレジンポリマーは好ましくは約200℃を超える軟化温度を有する。一実施形態では、シアノレジンポリマーは約220℃を超える軟化温度を有する。さらに別の実施形態では、シアノレジンポリマーは約250℃を超える軟化温度を有する。。
【0031】
本発明の幾つかの実施形態では物品を提供する。本物品は、シアノレジンポリマー又はシアノレジンポリマー含有材料からなる誘電体フィルムを含む。かかる誘電体フィルムは「シアノレジン誘電体フィルム」と呼ぶことができる。シアノレジンポリマーは約10%〜約60%の側鎖がシアノ基を含んでおり、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてはヒドロキシル基を含んでいる。
【0032】
幾つかの実施形態では、シアノレジン誘電体フィルムは、約0.05μm〜約20μmの厚さを有する。特定の実施形態では、誘電体フィルムは、約0.1μm〜約10μmの厚さを有する。後で詳しく説明する通り、誘電体フィルムの誘電体絶縁破壊強度は、フィルム厚さに反比例することが判明した。従って、誘電体フィルムの厚さの選択は、所要のエネルギー密度及び加工容易性にある程度依存する。幾つかの実施形態では、誘電体フィルムはさらに大きいフィルム厚さ(例えば約1μm〜約50μm)を有していてもよい。
【0033】
シアノレジンポリマーにおけるシアノ側鎖の量は、フィルム形成のためのシアノレジンポリマーの引張強さのような機械的強度を向上させるとともにそれらの誘電特性を維持するように最適化し得る。誘電体フィルムの引張強さは、誘電体フィルムの可撓性及び延性の尺度である。一実施形態では、誘電体フィルムは、約5000psiを超える引張強さを有する。別の実施形態では、誘電体フィルムは、約9000psiを超える引張強さを有する。
【0034】
誘電体フィルムの誘電体絶縁破壊強度は、フィルム組成、フィルム厚さ、フィルムの品質(通常は表面欠陥によって規定される)、フィルム堆積及び表面化学修飾によってある程度制御し得る。本発明の一般的な実施形態では、典型的には、誘電体フィルムは約200kV/mm以上の絶縁破壊強度を有する。一実施形態では、誘電体フィルムは約200kV/mm〜約1000kV/mmの絶縁破壊強度を有する。幾つかの好適実施形態では、誘電体フィルムは約300kV/mm〜約700kV/mmの絶縁破壊強度を有する。
【0035】
薄い誘電体フィルムの方が通常は絶縁破壊強度の値が高く、フィルムの厚さを低減することによって誘電体フィルムの絶縁破壊強度を向上させることができる。本シアノレジン誘電体フィルムは、良好な機械的強度を有しており、厚さを減少させても自立フィルムとして加工することができる。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態では、誘電体フィルムと、該誘電体フィルムと結合した1以上の電極とを備えるコンデンサーを提供する。図1に、基材14上に誘電体フィルム12を堆積させたコンデンサー10の単純化した図を示す。誘電体フィルム12は、上述のシアノレジンポリマーを含む。電極16が誘電体フィルム12に結合している。通常、電極16は伝導性ポリマー又は金属の層を含む。慣用される金属としては、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、亜鉛及び銅が挙げられる。電極層は通例薄く、約50Å〜約500Å程度である。幾つかの実施形態では、コンデンサーは多層コンデンサーであってもよい。かかる実施形態では、多数の誘電体フィルムと電極層を交互に配置して多層コンデンサーを形成することができる。
【0037】
誘電体フィルムの実質的に高い誘電率及び高い縁破壊強度は、コンデンサーの高いエネルギー密度に資する。一実施形態では、コンデンサーのエネルギー密度は約5J/cc以上である。別の実施形態では、コンデンサーのエネルギー密度は約10J/cc以上である。さらに別の実施形態では、コンデンサーのエネルギー密度は約20J/cc以上である。
【0038】
コンデンサーは、適宜、誘電体フィルムの上に設けられたキャップ層を含んでいてもよい。適当なキャップ層材料の具体例としては、特に限定されないが、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリエーテルイミド、フルオロポリマー、パリレン、アクリレート、酸化ケイ素、窒化ケイ素及びポリビニリデンフルオリドが挙げられる。特定の実施形態では、キャップ層は、誘電体フィルムの厚さの約10%未満の厚さを有する。キャップ層は、表面欠陥を充填その他軽減するのに役立ち、フィルムの絶縁破壊強度を高めることができる。なお、本発明は、本明細書に記載した特徴が存在する限り、特定の種類のコンデンサーに限定されるものではない。
【0039】
幾つかの実施形態では、シアノレジンマトリックス中に充填材粒子が分散している。充填材粒子はフィルムの誘電率に有益に寄与し、好適に利用することができる。かかる充填材粒子は、高い抵抗率、低い誘電正接及び高い絶縁破壊電圧のような他のすべての高い性能パラメーターを保持したまま、誘電率を増大させ、エネルギー蓄積能力を高めることが判明した。かかる充填材粒子及びポリマーの誘電特性に対する効果は、2005年11月23日出願の“Antiferroelectric Polymer Composites, Methods of Manufacture Thereof, And Articles Comprising the Same”と題する特許出願(米国特許出願公開第2007/0117913号)に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0040】
さらに、幾つかの実施形態では、シアノレジンポリマーに強化材を添加してもよい。強化材は、基材(シアノレジン)の機械的強度を約5%以上増大させる添加材料であればよい。かかる強化材及びポリマーの誘電特性に対する効果は、2009年9月30日出願の“Dielectric Film, Associated Article and Method”と題する米国特許出願第12/570761号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0041】
シアノレジンポリマーを適当な溶媒に溶解して溶液として調製してもよい。溶液は、当技術分野で公知の適当な方法で基材に塗工し得る。幾つかの特定の実施形態では、溶媒は、アセトン、アセトニトリル、シクロヘキサノン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルアセトアセテート、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ブチロラクトン、プロピレンカーボネート及びそれらの様々な組合せからなる群から選択される。ある例示的な実施形態では、溶媒はN,N−ジメチルホルムアミドを含む。
【0042】
適当な塗工法の例としては、特に限定されないが、テープ成形(tape casting)、ディップコーティング、スピンコーティング、化学気相堆積、溶融押出、並びにスパッタリングのような物理気相堆積が挙げられる。典型的には、誘電体フィルムは約5μm未満の厚さを有する。好ましい実施形態では、フィルムは、テープ成形法で施工し得る。フィルム厚さが実質的に小さいときには、スピンコーティング又はディップコーティングのような溶液式コーティング法を用いることができる。ある例示的な実施形態では、フィルムは好ましくはスピンコーティング法で施工し得る。
【0043】
シアノレジン誘電体フィルムは、堆積条件の制御によって改良することができる。例えば、コーティングプロセスをクリーンルーム環境で実施することによって、高品質の薄膜を得ることができる。上述の方法で処理されたシアノレジンフィルムは、予想を超える高い絶縁破壊強度を呈する。一実施形態では、シアノレジン誘電体フィルムは、約300kV/mm以上の絶縁破壊強度を有する。一実施形態では、シアノレジン誘電体フィルムは約300kV/mm〜約1000kV/mmの絶縁破壊強度を有する。
【実施例】
【0044】
以下の実施例で、本発明の幾つかの実施形態をさらに詳しく例示する。これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0045】
比較例
CR−C及びCR−Sのような市販の公知のシアノエチルセルロース系材料の大半は概して約80%を超える量のアクリロニトリルによるセルロースのシアノアルキル化によって合成される。CR−C及びCR−Sの誘電特性及び軟化温度を以下の表1に示す。
【0046】
実施例1
機械式攪拌機、計量滴下漏斗及び熱電対プローブを取り付けた500mL三つ口フラスコ中の約160mLの脱イオン水に、約50%水酸化ナトリウム水溶液39.8gを加えた。フラスコを氷水浴に浸漬して、その内部の温度を約3℃〜約7℃に制御した。フラスコに、セルロース粉末(Aldrich 435236)40gを脱イオン水10mLと共に流し込んだ。上記の内部温度を維持しながら、撹拌した反応フラスコにアクリロニトリル64.8g(1.22モル)を約1.25時間にわたってゆっくりと滴下して、混合物を調製した。次いで、内部温度を約10℃未満に維持しながら、混合物を約3時間攪拌した。次いで、氷酢酸30gと脱イオン水120mLの混液の添加によって反応を止めた。この添加は約45分間行った。反応混合物をプラスチック瓶に移して、遠心分離して固体を液体を分離した。液体を固体からデカントし、固体を脱イオン水で洗浄した。洗液から固体を濾別して、25インチ水銀柱の真空度の真空炉内に約85℃で約18時間入れた。得られた回収ポリマー(約48g)をDMSO中の炭素13NMRに付して、シアノエチル化のレベルを測定した。炭素13NMRから、ヒドロキシル基からシアノエチルエーテルへの転化率が49%であることが判明した。
【0047】
実施例2
機械式攪拌機、計量滴下漏斗及び熱電対プローブを取り付けた500mL三つ口フラスコ中の約80mLの脱イオン水に、約50%水酸化ナトリウム水溶液20gを加えた。フラスコを氷水浴に浸漬して、その内部の温度を約3℃〜約7℃に制御した。フラスコに、セルロース粉末(Aldrich 435236)20gを脱イオン水10mLと共に流し込んだ。上記の内部温度を維持しながら、撹拌した反応フラスコにアクリロニトリル15.72g(0.296モル)を約1時間にわたってゆっくりと滴下して、混合物を調製した。次いで、内部温度を約10℃未満に維持しながら、混合物を約3時間攪拌した。得られたポリマーを、実施例1に記載した通り混合物から回収した。得られた回収ポリマー(約22.1g)をDMSO中の炭素13NMRに付して、シアノエチル化のレベルを測定した。炭素13NMRから、セルロースのヒドロキシル基のシアノエチルエーテルへの転化率が約30%であることが判明した。
【0048】
上記で調製したシアノレジンポリマーのすべての特性を決定し、誘電率、誘電正接及び軟化温度を求めた。表1に、実施例1及び実施例2に記載した2種類のシアノレジンポリマーの結果を比較例と併せて示す。比較例と対比すると、実施例1及び2は、誘電正接は低い(約10分の1)が、軟化温度が高く、電気的特性と熱機械的特性とバランスに優れている。
【0049】
【表1】

本明細書では本発明の幾つかの特徴について説明してきたが、数多くの修正及び変更は当業者には自明であろう。従って、特許請求の範囲は、本発明の要旨に属するそうした修正及び変更をすべて包含する。
【符号の説明】
【0050】
10 コンデンサー
12 誘電体フィルム
14 基材
16 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノレジンポリマーの側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含む、シアノレジンポリマー。
【請求項2】
ポリマー側鎖の約10%〜約35%がシアノ基を含む、請求項1記載のシアノレジンポリマー。
【請求項3】
誘電率が1kHzで約10超であることを特徴とする、請求項1記載のシアノレジンポリマー。
【請求項4】
当該シアノレジンポリマーの誘電正接が約0.01未満である、請求項1記載のシアノレジンポリマー。
【請求項5】
約200℃超の軟化温度を有する、請求項1記載のシアノレジンポリマー。
【請求項6】
1以上の側鎖がヒドロキシル基を含むベースポリマーを用意するステップと、
上記ベースポリマーを、シアノ基を含むオレフィンと反応させて、ポリマー側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーを生成させるステップと
を含むシアノレジンポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記ベースポリマーが、セルロース、プルラン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート及びポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記オレフィンが、アクリロニトリル、1,1−ジシアノエチレン、1,2−ジシアノエチレン、4−ペンテンニトリル、シンナモニトリル及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
約10%〜約60%のシアノ基含有側鎖を含み、残部の側鎖がヒドロキシル基を含むシアノレジンポリマーを含む誘電体フィルムを備える物品。
【請求項10】
側鎖を含むシアノレジンポリマーを含む誘電体フィルムと、
該誘電体フィルムに結合した1以上の電極と
を備えるコンデンサーであって、上記シアノレジンポリマーの側鎖の約10%〜約60%がシアノ基を含み、残りのポリマー側鎖の実質的にすべてがヒドロキシル基を含む、コンデンサー。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−246690(P2011−246690A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63536(P2011−63536)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】