説明

誘電体共振器測定装置

【目的】 高い周波数まで誤差なく測定できる、誘電体共振器の測定装置を提供することを目的とする。
【構成】 1対の導体板(1,12)の間に誘電体共振器(14)を配置し、アンテナ(16,18)により共振器(14)を励振して測定を行なうとき、一方の導体板(1)の外周形状を中心に対して非対称とし、導体板の上で対になる電磁界の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は誘電体共振器測定装置に関し、特にブランク伝送量を低減した測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】無線通信用電子機器小型化への要望が高まるにつれて誘電体共振器を利用したフィルターやデュプレクサなどが数多く開発されている。
【0003】これらの誘電体共振器の共振特性から誘電体の複素誘電率を評価するための治具として最も標準的な治具は、図6に示すように円筒形誘電体14を、平行な円形の導体板10,12の間の円板の中心部に配置し、送信アンテナ16から共振器をTE011 モードで励振し、受信アンテナ18で受信した受信信号により共振特性を測定する、両端短絡型の装置である。
【0004】標準的な誘電体測定においては、TE011 モードを発生させて誘電体共振器の共振周波数とQ値を測定し、その結果から複素誘電率を評価している。
【0005】TE011 モードは基底モードでなく、円筒の直径と高さの比を変化させると、このモードと縮退する他のモードが発生して正確な共振特性が測定できない。最もコンパクトな形状として、直径・高さ比が2対1のとき、他のモードと縮退しにくい事が知られており、標準形状として、直径10mm、高さ5mmの試料が広く使用されている。
【0006】この試料を治具に装着して共振性能を測定する場合、誘電率に応じて共振周波数が変化し、上記の標準試料では誘電率と共振周波数の間におおよそ、 λ=0.7195√ε・D ・・・(1)
但し、λ:測定周波数の波長、D:試料の直径、ε:試料の誘電率のような関係があることが理論的に導かれている。測定対象となる誘電体の誘電率は20から120の間に分布しているが、この式によれば、試料の共振周波数は3.8GHzから9.2GHzの間に分布する事になり、測定治具は非常に広い周波数範囲をカバーしなければならない。また、この周波数範囲においては、治具内にTE011 モードのみを発生し他のモードは発生しないように構成されねばならない。
【0007】しかし、従来の測定治具に誘電体試料を装着せず、高周波信号のみ印加してその出力を測定してみると、本来はバックグランド雑音だけでなければならないが、図7のような応答が観測される。図中に*印で示した応答は上下の短絡板が共振器を構成した結果生じたものである。このような応答は短絡板の直径が大きいほど低い周波数から発生する。
【0008】なお図7でたて軸の1目盛は20dBである。
【0009】さらに、誘電体共振器測定治具に誘電体を装着して周波数を掃引した時、治具からの出力を調べてみると、図8のようになっている場合が多い。このような応答は寄生共振によるもので、図中に(a)で示してある応答が寄生共振で、(b)で示してあるのが誘電体共振器の共振信号である。寄生共振は、誘電体試料を装着した時に上下の短絡板と誘電体により新たな共振器が構成された結果発生するもので、測定誤差の原因になる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、高い周波数においてもブランク伝送量の小さな誘電体共振器測定装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の特徴は、1対の導体板の間に円筒型の誘電体共振器を配置し該共振器の入出力特性を評価する誘電体共振器測定装置において、少なく共一方の導体板の外周形状が中心に対して非対称である誘電体共振器測定装置にある。
【0012】
【実施例】一般にこのような共振現象は短絡板縁部の間に、図2(a)のように、共振器駆動電極の中心(駆動中心)に対して対称的になったような電磁界E1 〜E4 が発生した結果生ずるもので、短絡板の形状が偶数回の対称性を示す場合には、対になる電磁界が存在できるので発生しやすく、奇数回の対称性を示すような場合には、対になる電磁界が存在できないので発生しにくい。
【0013】偶数回対称及び奇数回対称の例として、図2R>2の(b),(c),(d)に各々2回対称,3回対称,4回対称の例を示す。
【0014】短絡板の形状が駆動中心に対して非対称の場合でも、対になる電磁界が発生しないので、短絡板は共振しにくい。
【0015】短絡板に対して、寄生共振を抑制するのに必要とされる非対称性の規模(サイズ又は導体板の面積)は、対象とする周波数(波長)によって決まり、非対称性の規模が波長とほぼ一致すると寄生共振を抑制する効果が最も高くなる。したがって、周波数が低い範囲では短絡板に半波長を単位とする奇数回の対称性を与えれば寄生共振を抑制できるが、周波数が高い領域では低周波において非対称性を構成したサイズが波長以上の規模になるので、異なったタイプの非対称性を与える必要がある。同一短絡板上でこのような条件を満足させるために、奇数回の対称性を持った短絡板の周辺をランダムな凹凸を示す多角形に成形して高周波側の共振を抑制する。
【0016】本発明の実施例を図3(a)に示す。この形状は『最小径と最大径を規定した円環を15°毎に24等分して、その等分線上に最小径と最大径の間でランダムに点を打ち、それらをつないだ多角形』をコンピュータで発生させ、その中からおよそ3回対称性を示すパターンを選定したものである。なお、図3(b)は比較のための円である。
【0017】図1に本発明による誘電体共振器測定装置を示し、1が図3(a)の上側導体板であり、その他の参照番号は図6の場合と同じである。誘電体共振器測定において短絡板の縁部から少量の電磁界漏洩が観測される。本実施例のように構成された短絡板においては、最小径が測定誤差の上限を与え、最大径が測定誤差の下限を与える。標準的な測定においては最小径を試料直径の4倍としているので本実施例でもこの例にならっている。最大径は測定系の分解能から決定されるが、最小径の2倍あれば充分と判断して、試料直径の8倍に選定した。
【0018】試料を装着しない状態における測定治具の周波数応答を、試料直径の4倍の直径を有する円形の短絡板と本発明による短絡板について比較した結果を図4(a)及び(b)に示す。通常の短絡板(a)では8.2GHzより寄生伝搬による出力が見られるのに対して本発明の短絡板(b)では10.2GHz間で出力が観測されていない。この結果より明らかなように、本発明による短絡板は従来の短絡板より大きな直径であるにもかかわらず、円形の短絡板と比較して、高い周波数まで寄生共振を抑制できる。なお、図4でたて軸のひと目盛は20dBで、曲線(b)は見やすくするために1目盛だけ上にシフトさせて書いてある。
【0019】同様にして、試料(誘電体)を装着した状態における測定治具の周波数応答を図5(a)及び(b)に示す。この結果からも明らかなように、本発明による短絡板は高い周波数まで寄生共振を抑制している。なお、*印の共振は試料の寄生共振によるもので、どの様な治具によっても発生するため本発明とは関係ない。Y印で示す共振は共振器の正常な共振を示す。
【0020】
【発明の効果】本発明は測定治具の一方の短絡板を駆動電磁界の中心に対して非対称にすることにより、短絡板の間に対称的な電磁界が発生するのを防ぎ、寄生共振を抑制するので、高い周波数まで測定誤差なく誘電体共振器を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による測定装置の構造を示す。
【図2】導体板の形状と電磁界の関係の説明図である。
【図3】本発明による導体板の形状を示す。
【図4】本発明のブランク伝送特性を示す。
【図5】本発明により測定した誘電体共振器の測定結果を示す。
【図6】従来の測定装置を、導体板の一部を破断して示す。
【図7】従来の測定装置のブランク伝送量を示す。
【図8】従来の測定装置による誘電体共振器の測定結果を示す。
【符号の説明】
1 上側導体板(短絡板)
12 下側導体板(短絡板)
14 誘電体共振器
16,18 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1対の導体板の間に円筒型の誘電体共振器を配置し該共振器の入出力特性を評価する誘電体共振器測定装置において、少なく共一方の導体板の外周形状が中心に対して非対称であることを特徴とする誘電体共振器測定装置。
【請求項2】 非対称な導体板が、該導体板の最小半径と最大半径を規定する円を中心に対して扇形に等分し、等分線上の最小半径と最大半径の間にランダムに打った点をつないで構成される多角形から、ほゞ奇数回対称性を示すパターンを選択したものであることを特徴とする請求項1記載の誘電体共振器測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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