説明

誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法及び金属膜付き誘電体基材

【課題】
誘電体基材の表面に結合させてグラフト化した錯化高分子に、金属イオンを配位結合させた後、大気圧プラズ処理による還元により無電解めっきにおける触媒金属ナノ粒子を形成する誘電体基材表面の金属化方法において、金属ナノ粒子形成機構及び無電解めっき反応における自己触媒作用を解明し、処理条件を検討することにより、誘電体基材表面に密着性が良く品質が優れた金属膜を形成することが可能な誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法を提供し、併せて金属膜付き誘電体基材を提供する。
【解決手段】
誘電体基材表面に導入した親水性官能基を反応点として、錯化高分子を自発的に共有結合させて高密度にグラフト化させた後、未反応の錯化高分子を洗浄除去すること、及び金属の前駆体をプラズマ還元処理により、分解、還元して50〜200nmのサイズの金属ナノ粒子を三次元的に成長させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法及び金属膜付き誘電体基材に係わり、更に詳しくはフッ素樹脂等の誘電体基材の表面に金属膜を形成する方法及びそれにより製造された金属膜付き誘電体基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報の大容量化、高速処理に伴う電気信号の高周波化が進んでおり、配線基板にも高周波への対応が要求されている。つまり、誘電体材料表面に高密着性の導体を積層した積層板、特に電気抵抗が低く安価なことから銅張積層板に対するニーズが高まっている。動作周波数の高速化や低消費電力を実現するためには、低誘電率性プラスチック材料表面に〜20μm厚の極薄導体層を被覆する必要がある。このとき誘電体/導体界面には、ナノメートルレベルの平滑性と0.5N/mmレベルの密着強度が要求される。フッ素樹脂基板は、その優れた高周波特性から、高周波回路設計には必要不可欠な材料である。一方でフッ素樹脂は表面エネルギーが低く、化学的に不活性であるため、高密着性を有する導体層を積層するためには表面改質が必要となる。とりわけGHz帯域を取り扱う場合、表皮効果を考慮し、導体と誘電体界面はナノレベルで平滑であることが望ましい。そのため、従来のナトリウム-ナフタレン錯体を用いた粗面化による導体層の高密着性化技術を用いることができない。分子レベルの平滑性を維持したまま高密着性導体薄膜をフッ素樹脂上に積層する技術の開発は急務といえる。
【0003】
ナノレベルの平滑性と高密着性を同時に達成するための手法として表面グラフト法が既に提案されている。表面グラフト法とは、誘電体基板表面に光照射等の処理を行うことによりラジカルなどの活性種を発生させ、それを起点に基板表面からモノマーの重合を行い、基板表面に直接接合したポリマーを形成する表面修飾法である。たとえば、PETフィルム表面にポリアクリル酸をグラフト化させ、めっき触媒を吸着させたのち、無電解めっきを行うことにより、1.1N/mmの高い密着性を有する高密着性無電解銅めっき層の被覆に成功している。誘電体であるPET層と導体である銅層界面に偏在化した銀触媒ナノ粒子の形成が密着性の向上に寄与していることを報告している(非特許文献1)。
【0004】
表面グラフト化法は界面の平滑性を維持したまま、高密着性の誘電体/導体界面の形成を実現可能な有用な方法であることが既に明らかになっている。しかしながら、基板上にモノマーを接触させた状態で、紫外線照射を行うことによりグラフト化させるため、ラジカルの失活を抑制するために脱酸素雰囲気下にてプロセスを行う必要がある。また、十分な密着性を有するためには100nm以上の厚さのグラフト層を形成する必要がある。汎用的に用いられるポリアクリル酸はガラス転移温度が100℃付近であり、また吸水性が高いことから、高温・高湿度下における素子の信頼性に欠ける。
【0005】
一方で、導体層を析出させる無電解めっきプロセスにおいては、プロセス時間及びコスト面において大きな課題を残している。一般に、基板表面を活性化させたのち触媒粒子を担持し、無電解めっきを行う。触媒粒子にはパラジウムや銀などの粒子が用いられる。触媒粒子の吸着または、前躯体である金属イオンを吸着させ化学還元により粒子化することにより、基板表面に触媒粒子を担持することができる。しかしながら、従来法では触媒粒子の密着強度が低いため、無電解めっき浴中への触媒粒子の拡散によるめっき浴の劣化や無電解めっき反応開始までの時間遅れの発生の原因になっている。
【0006】
この改善策として、本発明者らは、液相中の自己組織化と大気圧プラズマプロセスを融合させた化学液相堆積法によるフッ素樹脂基板表面の高密着性銅メタライジングプロセスを開発した(特許文献1)。特許文献1には、誘電体基材の表面を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して表面に親水性官能基を導入する工程、既に重合された一次構造が明確な錯化高分子及び目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し超薄膜を作製する工程、前記親水性官能基を反応点として、錯化高分子が自発的に共有結合を形成し高密度にグラフト化されるとともに、錯化高分子に前駆体が配位結合により連結され、この金属イオンを含む錯化高分子膜を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して、金属イオンを原子状金属へ還元する工程、生成した原子状金属が自己組織的に凝集してナノサイズのクラスターを形成した後、無電解めっき浴中に浸漬して、金属ナノクラスターを触媒として金属層を形成する工程、とよりなる誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法が開示されている。具体的には、大気圧ヘリウムプラズマ処理によるフッ素樹脂表面からの脱フッ素化と過酸化物ラジカル基の導入、溶液塗布によるpoly(4-vinylpyridine) (P4VP)単分子鎖のグラフト化、溶液塗布による酢酸銅超薄膜の積層、大気圧ヘリウムプラズマ処理による銅イオンの還元と銅ナノ粒子の自発的形成を行ったのち、市販の無電解銅めっき浴に浸漬することにより、フッ素樹表面に強固に担持した銅ナノ粒子を触媒とした自己触媒反応が高速で進行し、密着強度1.0N/mm以上の高密着性を有する無電解銅めっき層の積層を達成できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−156022号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.V.Beshtolsheim,V.Zaporojtchenko,F.Faupel,Applied Surf.Sci.151(1999) 119.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された無電解めっきプロセスを利用した誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法によって、常温常圧下の一貫したプロセスにより、Na、Sn、Pdなどの外部金属種を全く必要とせず、フッ素樹脂等の化学的に不活性な表面に銅等の金属膜を形成できる技術が原理的に確立されたものの、金属膜の密着性、品質にバラツキがあり、工業的に利用できる高度に制御された技術とは言い難かった。本発明者らはその原因を追求した結果、錯化高分子を塗布してグラフト化させた後に、表面と直接結合していない未反応の余剰錯化高分子の存在が密着性に悪影響を及ぼしていることと、錯化高分子に担持させた金属イオンを原子状金属へ還元させるときに行う大気圧プラズマ処理の条件によって、生成する金属ナノ粒子のサイズと集積密度が異なり、それによって無電解めっきにおける自己触媒作用に大きな差が生じること、にあることを見出して、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、誘電体基材の表面に親水性官能基を導入する工程と、グラフト化した錯化高分子に配位結合した金属イオンを原子状金属へ還元させる工程とに、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理を利用する、液相中の自己組織化と大気圧プラズマプロセスを融合させた化学液相堆積法による誘電体基材表面の金属化方法において、大気圧プラズマ照射下における金属ナノ粒子形成機構、及びその後の無電解めっき反応における自己触媒作用を解明し、処理条件を検討することにより、誘電体基材表面に密着性が良く品質が優れた金属膜を形成することが可能な誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法を提供し、併せて金属膜付き誘電体基材を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述の課題解決のために、誘電体基材の表面を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して表面に親水性官能基を導入する工程、既に重合された一次構造が明確な錯化高分子を塗布し、前記親水性官能基を反応点として、錯化高分子を自発的に共有結合させて高密度にグラフト化させる工程、前記誘電体基材に直接結合していない未反応の錯化高分子を洗浄除去する工程、目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し、前記錯化高分子に前駆体を配位結合させる工程、前記前駆体により導入された金属イオンを含む錯化高分子膜を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して、金属イオンを原子状金属へ還元させるとともに、生成した原子状金属が自己組織的に凝集することにより、三次元的に50〜200nmのサイズの金属ナノ粒子に成長させる工程、金属ナノ粒子が表面に形成された前記誘電体基材を無電解めっき浴中に浸漬して、金属ナノ粒子を触媒として金属層を形成する工程、とよりなる誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法を提供する(請求項1)。
【0012】
ここで、前記金属ナノ粒子の集積密度が、5×108/cm2以上であることがより好ましい(請求項2)。
【0013】
そして、前記誘電体基材が、フッ素含有高分子樹脂、あるいはフッ素含有高分子樹脂とポリエステルなどの液晶性高分子、ポリイミド誘導体との高分子アロイや共重合体であることが好ましい(請求項3)。特に、前記誘電体基材が、ポリテトラフルオロエチレンであるとより好ましい(請求項4)。
【0014】
また、前記錯化高分子は、金属イオンと配位結合を形成するような、カルボニル基、低級アミノ基、高級アミノ基、アミド基、ピリジル基、ピロール基、イミダゾール基、水酸基、エーテル基、エステル基、リン酸基、ウレア基、チオール基、ジチオール基、チオウレア基を構造式中に一つ以上含む高分子である(請求項5)。
【0015】
また、金属種としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロディウム、イリジウムなどの貴金属及びそれらの合金を用いる(請求項6)。
【0016】
そして、錯化高分子及び金属前駆体は、スピンコート法、スプレー噴霧法、インクジェット法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法のうちの何れかの液相法により誘電体基材表面に塗布することができる(請求項7)。
【0017】
また、本発明は、前述の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法を用いて、誘電体基材表面に金属層を形成したことを特徴とする金属膜付き誘電体基材を提供する(請求項8)。
【0018】
以下に本発明の原理を誘電体基材表面に銅層を形成する技術を例に説明する。本発明は、既に重合されている錯化高分子の溶液を基板上に塗布・洗浄することにより、予めプラズマ処理により誘電体基材の表面に導入した過酸化物ラジカル基を起点として、錯化高分子単分子鎖が自発的にグラフト化されることを利用している。過酸化物ラジカルによるピリジン環からの水素引き抜き反応により、基材と錯化高分子鎖は共有結合を形成し、強固に接合される。ここで、高密着性の無電解銅めっき層の形成には、錯化高分子を単分子鎖状にグラフト化することが重要であり、基材表面に直接結合していない未反応の錯化高分子を洗浄除去する。グラフト処理済みの基材を酢酸銅などの有機金属錯体や塩化銅、硫酸銅などの銅前駆体を溶解させた水溶液と接触させることにより、銅イオンが自発的に錯化高分子と配位結合を形成し強固に担持される。錯化高分子を介して基材表面に担持した銅イオンはプラズマ処理により還元すれば、原子状銅ナノ粒子化させることができる。高密着性無電解銅めっき層の形成には、誘電体基材表面に平均粒子径50〜200nmの銅ナノ粒子を高密度に析出させることが重要である。粒子径が50〜200nm範囲の銅ナノ粒子を担持した触媒層のみが無電解めっき反応を加速する触媒層として作用する。それにより、めっき浴浸漬後2秒以内にめっき反応が開始し、5分程度の浸漬時間で膜厚10μm以上の無電解めっき層の析出が可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法は、以下に示す顕著な効果を奏するものである。先ず、錯化高分子を塗布してグラフト化させた後に、表面と直接結合していない未反応の余剰錯化高分子を洗浄除去したので、誘電体基材表面に対する金属層の密着性が大幅に改善するとともに、密着性の不均一も無くなる。
【0020】
錯化高分子によるグラフト層の厚さは10nm以下であることから、高温・高湿度下における素子の信頼性劣化を最小限に抑制可能である。塗布プロセスにて、錯化高分子鎖に銅イオンを担持した後、プラズマ処理により還元し、三次元的に成長させて平均粒子径50〜200nmの銅ナノ粒子を高密度に作製した触媒層を有する誘電体基材は、市販されている最も汎用的な無電解銅めっき浴に浸漬すると、無電解めっき反応開始までの時間遅れを2秒以内に短縮させることができる。得られた無電解銅めっき層は2.0N/mm以上の高い密着性を有し、また厚さが均一で高品質となる。本発明による無電解めっきプロセスは大気圧下におけるプラズマ処理及び塗布またはディップによるナノレベルの自己組織化を利用しているため、原理的に基材形状による制限を受けず、平板以外にもワイヤ形状や多数のスルーホールが形成されているような基材に対しても同等の効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明における無電解めっきプロセスでは、ラジカルの失活を抑制するために脱酸素雰囲気を要することなく、誘電体基材表面をナノレベルの平滑性を維持したままその表面に高密着性無電解銅めっき層を作製可能である。つまり、従来法と異なり脱酸素雰囲気を必要とせず大気開放下での処理が可能であるため、プロセスの高効率化が期待できる。また、無電解めっきプロセスにおいて課題となっていたプロセス時間の短縮と低コスト化を同時に達成することができるため、誘電体基材の形状にとらわれることなく、情報・通信用プリント配線基板や電線ケーブルを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法の各工程、手順を示す説明図である。
【図2】大気圧プラズマ処理装置の概念図であり、(a)は全体側面図、(b)は棒状電極と基板との関係を示す平面図である。
【図3】PTFE表面を15Wで大気圧プラズマ処理したときの静的接触角の処理時間依存性を示すグラフである。
【図4】未処理及びプラズマ処理後(15W、15秒)のPTFE表面のC1s軌道XPSスペクトルを示す。
【図5】大気圧プラズマ処理による親水化処理後のPTFE表面のESRスペクトルを示す。
【図6】過酸化物ラジカル基密度のESRスペクトル(3D)を示す。
【図7】PTFEシート表面の観察結果を示し、(a)は未処理のPTFEシート表面の状態(左はSEM、右はSTMによる画像)、(b)はプラズマ処理による親水化処理後のPTFEシート表面の状態(左はSEM、右はSTMによる画像)である。
【図8】親水化処理後及びP4VPスピンコート後のPTFEシート表面についての洗浄前(点線)と洗浄後(実線)のXPS測定結果を示し、(a)はC1s軌道XPSスペクトル、(b)はN1s軌道XPSスペクトルをそれぞれ示す。
【図9】(a)はP4VP/CuAc積層PTFEシートを投入電力40Wでプラズマ処理時間を変化させたときの表面のCu2p軌道XPSスペクトル、(b)は932eVのピーク強度のプラズマ処理時間依存性を示し、併せてその半値全幅の変化を示す。
【図10】P4VP/CuAc積層PTFEシートを投入電力40Wでプラズマ処理時間を変化させたときの表面のSEM像を示している。
【図11】P4VP/CuAc積層PTFEシートを投入電力40Wでプラズマ処理時間を変化させたときの表面のSTM像を示している。
【図12】銅イオンをプラズマ還元処理して三次元的に成長する様子を図式的に示した説明図である。
【図13】金属ナノ粒子のサイズがピークになる前におけるプラズマ処理時間と金属ナノ粒子のサイズと集積密度の概略傾向を示すグラフである。
【図14】プラズマ還元処理時間が150秒、300秒、450秒の場合において、無電解銅めっきの浸漬時間による銅析出状況を示したSEM像である。
【図15】P4VPスピンコート後のPTFEシート表面について洗浄の有無による無電解銅めっき薄膜の密着性の比較を示し、(a)は洗浄有りの場合のテープ剥離試験の結果の表面状態の写真、(b)は洗浄無しの場合のテープ剥離試験の結果の表面状態の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本実施形態では、誘電体基材としてフッ素樹脂基板を用いてプリント基板を作製する例を示す。特に断わりがない場合、フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0024】
本発明に係る誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法の概念図を図1に示している。図1(a)は誘電体基材としてのフッ素樹脂基板1を大気圧プラズマ処理するステップを示している。プリント基板となるフッ素樹脂基板1を二枚の対向する電極間に設置し、主成分として希ガスを用いた誘電体バリア放電処理を大気圧下で行う。プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、フッ素樹脂表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成を誘起する(図1(b)参照)。その後、大気に数分から10分程度曝すことにより、大気中の水成分と反応して、ダングリングボンドに過酸化物基、水酸基、カルボニル基が自発的に形成される(図1(c)参照)。
【0025】
このように親水性官能基が表面に導入されフッ素樹脂基板1の表面に、既に重合された一次構造が明確な錯化高分子をスピンコート法等の液相法により塗布し超薄膜を作製する(図1(d)参照)。このとき、フッ素樹脂表面に形成した過酸化物基を反応点として、錯化高分子2と自発的に共有結合を形成し、フッ素樹脂表面から錯化高分子が高密度にグラフトされる(図1(e)参照)。それから、フッ素樹脂基板1の表面に直接結合していない未反応の錯化高分子を洗浄除去し(図1(f)参照)、最後に形成する金属層の密着性を改善する(図1(g)参照)。その後、目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体をスピンコート法等の液相法により塗布し超薄膜を作製する(図1(h)参照)。前駆体を塗布すると同時に、錯化高分子と金属前駆体間は配位結合により連結し、錯化高分子を介してフッ素樹脂基板表面に前駆体により供給された金属イオンが強固に固定される(図1(i)参照)。
【0026】
次に、フッ素樹脂基板1の表面に積層された金属イオンを含む錯化高分子膜を再び希ガスを用いた大気圧プラズマに曝すことにより(図1(j)参照)、プラズマ中に含まれる電子及び、大気中の水より発生した水素ラジカル等により、金属イオンは原子状金属へ還元される(図1(k))参照)。このとき、生成した原子状金属は自己組織的に凝集し、ナノサイズの金属ナノ粒子3を形成する。この状態で、錯化高分子2を介してフッ素樹脂表面に金属ナノ粒子3が担持されることになる。ここで、プラズマ処理の時間の経過につれて、金属ナノ粒子は表面上を拡散し、合体を繰り返すことにより、三次元的に成長してサイズが大きくなるとともに、集積密度は減少する。このとき、金属ナノ粒子3のサイズが最適な範囲になり、必要な集積密度になるように、プラズマ処理条件を最適化することが重要である。最後に、無電解めっき浴中にフッ素樹脂基板1を浸漬して無電解めっきを行う(図1(l)参照)。配位結合により強固に固定された金属ナノ粒子3を触媒として、自己触媒的な反応により金属層4が形成される。この金属層4の無電解めっき速度と品質は、金属ナノ粒子3のサイズと集積密度に依存する。ここで、金属ナノ粒子3のサイズとは、平面視形状における最大寸法のことであるが、三次元的に成長したものであるので、高さも同程度になっている。本発明では、金属ナノ粒子3のサイズを50〜200nmの範囲に調製することが重要である。
【0027】
この場合、ベースとなるフッ素樹脂基板には、フッ素含有高分子樹脂の他、フッ素含有高分子樹脂とポリエステル系に代表されるような液晶性高分子、ポリイミド誘導体との高分子アロイや共重合体が用いられることになる。これらの高分子膜の膜厚は特に限定されない。また、それらの高分子膜中にはガラスクロスなどの無機物を含むものが用いられることが考えられる。本発明では、誘電体基材の形態は、基板の他、線状や任意曲面であっても構わない。
【0028】
また、大気圧プラズマの発生には、50Hzから2.45GHzの高周波電源を用いる。対向電極には、少なくとも片側が誘電体で被覆された円筒状又は平板状の金属を用いることができる。対向させた電極間の距離は5mm以下が望ましい。プラズマを発生させるために、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの希ガスを主成分として、適量の酸素や窒素、水素、アンモニア、アルコール類を混合させておくことが考えられる。チャンバーを用いた雰囲気制御条件又は希ガスを電極部にフローさせる形態をとる完全大気開放条件においてプラズマを発生させることが考えられる。
【0029】
錯化高分子には、金属イオンと配位結合を形成するような、カルボニル基、低級アミノ基、高級アミノ基、アミド基、ピリジル基、ピロール基、イミダゾール基、水酸基、エーテル基、エステル基、リン酸基、ウレア基の他に、チオール基、ジチオール基、チオウレア基などを構造式中に一つ以上含む全ての高分子を用いることが考えられる。
【0030】
金属種としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロディウム、イリジウム、などの貴金属及びそれらの合金を用いることが考えられる。
【0031】
金属ナノ粒子析出のための、金属前駆体には、めっきしたい金属を含む無機化合物、及び有機金属錯体を用いることが考えられる。
【0032】
無電解めっき浴には、通常の市販されている各種のものを用いることができるが、めっきする金属以外の金属イオン種を含まないものを用いる。
【0033】
錯化高分子及び金属ナノ粒子の前駆体は、スピンコート法やスプレー噴霧法、インクジェット法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法などの液相法によりフッ素樹脂表面に塗布する。図1に示した全プロセスは、全て常温常圧下において行うことができるので、連続して一貫して処理を行うロールツーロールプロセスの適用ができる。
【実施例1】
【0034】
以下の6つのプロセスにより、日本バルカー工業製のPTFEシート(50mm×50mm)表面に無電解銅めっきを行った。(第1工程)大気圧プラズマ処理によるPTFEシート表面への過酸化物ラジカル基の導入、(第2工程)ポリ4−ビニルピリジン(poly(4-vinylpyridine):P4VP)のグラフト化、(第3工程)未反応のP4VPの洗浄除去、(第4工程)酢酸銅(II)薄膜の作製、(第5工程)大気圧プラズマ処理を用いた酢酸銅(II)の還元による銅ナノ粒子の形成と担持及びサイズの調製、(第6工程)無電解銅めっきの各工程である。
【0035】
本発明で使用した容量結合型大気圧プラズマ処理装置の概念図を図2に示す。本装置は、13.56MHz高周波電源10、マッチングユニット11、チャンバー12、真空排気系13、電極14、電極昇降機構15、走査ステージ16、走査ステージ制御部から構成されている。前記電極14は図2(b)に示すように、棒状形状になっており、直径3mmの銅ロッド17に内径3mm、外径5mmのアルミナパイプ18を被覆した構造である。走査ステージ16上に設置したアルミ合金製試料ホルダー19(20mm×50mm)との間にプラズマを発生させた。これにより、誘電体バリア放電条件下でのグロー放電を実現している。電極間距離は2.5mmに設定した。チャンバー12内を10Paまで真空排気した後、Heガスを大気圧になるまで流入し、投入電力を15Wの条件で大気圧プラズマを発生させた。走査ステージを0.7mm/sの速度で走査しながら、プラズマ処理を行った。このとき、マッチングユニット11を利用して反射電力が0Wになることを確認した。ここで、大気圧プラズマの発生に用いることができるガスは、空気、希ガス、ハロゲン系ガス、アンモニア、酸素等であるが、本実施形態ではヘリウムガスを用いた。
【0036】
プラズマ照射時間は、走査ステージ16の走査速度を制御して基板表面に対するプラズマ発生領域の滞在時間で制御する。走査ステージの移動速度は0.7mm/sで固定した。走査ステージが静止した状態でのプラズマ処理において、親水化した領域は棒状電極の中心の直下から前後に5mmずつ、10mmの領域であった。このことから、上記の走査速度においては、1passにつき15秒のプラズマ処理がおこなわれる。プラズマ処理時間の増減はpass回数を変化させることにより行った。
【0037】
また、PTFE基板の濡れ性評価は、超純水に対する静的接触角を静適法により、接触角計(協和界面科学、DropMaster300)を用いて測定した。超純水がPTFE表面に接触して5秒後の接触角を測定した。また、プラズマ処理後のPTFE基板をX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy, XPS)による化学構造解析を行った。XPS測定装置はULVAC-PHI製PHI Quantum 2000を用いた。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)による表面形状観察を行った。
【0038】
以下、各処理工程毎に説明する。
(第1工程)
先ず、PTFEシート表面を、アセトン、超純水中でそれぞれ30秒超音波洗浄を行った。それから、15Wの電力を電極間に投入し、大気圧下において誘電体バリア放電を15秒間行った。大気圧プラズマ処理の後のPTFEシート表面の水に対する静的接触角の値は40°を示した。参考のため、図3にPTFEシート表面を投入電力15Wでプラズマ処理したときの、処理時間に対する水の静的接触角の変化を示す。初期状態では120°程度であった接触角が、15秒のプラズマ処理後40°程度まで減少することが分かった。それ以上処理時間を長くしても接触角は40°程度で一定であった。
【0039】
それから、プラズマ処理後、大気中に1分程度曝すことにより、PTFE表面に過酸化物基の導入を行った。図4に未処理(大気圧プラズマ処理をしない)及び親水化処理(大気圧プラズマ処理後に大気に曝す)PTFEシートのXPSの測定におけるC1sスペクトルを示す。未処理PTFEシートについて、292.4eVに−CF2に由来するメインピークが、284.5eV付近にそのサテライトピークが観察された。一方、親水化処理PTFEシートは、−CF2に由来するピーク強度が減少しており、−C=O(288.5eV)、−C−O(286.2eV)、−C=C−や−CH2(284.6eV)などに由来するブロードなピークが確認された。この結果は、大気圧プラズマ処理によってPTFE表面が脱フッ素化され、大気中に曝すことにより親水基(過酸化物基)が導入されたことを示している。これにより、PTFE表面の水に対する接触角の減少は、水との極性相互作用の向上に起因するものであることが分かった。
【0040】
図5に大気圧プラズマ処理による親水化処理後のPTFE表面のESRスペクトルを示し、図6に過酸化物ラジカル基密度のESRスペクトル(3D)を示す。この結果、4×1011radicals/mm3の密度で、過酸化物ラジカル基が形成されていることが分かった。図7は、PTFEシート表面の観察結果を示し、図7(a)は未処理のPTFEシート表面の状態(左はSEM、右はSTMによる画像)、図7(b)はプラズマ処理による親水化処理後のPTFEシート表面の状態(左はSEM、右はSTMによる画像)である。この結果、プラズマ処理によるPTFEシート表面の構造変化は観られなかった。つまり、PTFEシート表面の粗面化を抑制できていることが分かった。
【0041】
(第2工程)
次に、プラズマ処理後のグラフト化処理表面に、1.56×10-3Mに調整したP4VPエタノール溶液を塗布し、P4VP単分子鎖のグラフト化を行った。P4VPエタノール溶液は、調製後の溶液を振動撹拌器でよく撹拌した後、1日以上放置したものを使用した。親水化PTFE基板上にP4VPエタノール溶液を300μL滴下し、2000rpmで20秒間スピンコートを行った。P4VPがPTFE表面に単分鎖状にグラフトされていることをXPS等により確認している。
【0042】
(第3工程)
その後、P4VPコーティングPTFEシートを、ホットエタノールで洗浄することによりPTFE表面と直接接合されていない余剰のP4VPを取り除いた。具体的には、P4VPの良溶媒である45℃のエタノール中で24時間洗浄を行った。最後に示すが、高密着性を獲得するためには、単分子レベルの超薄膜が望ましいことが分かった。
【0043】
図8は、親水化処理後及びP4VPスピンコート後のPTFEシート表面についての洗浄前(点線)と洗浄後(実線)のXPS測定結果を示している。図8(a)はC1s軌道XPSスペクトル、図8(b)はN1s軌道XPSスペクトルをそれぞれ示す。ホットエタノールで洗浄することにより、アルキレン鎖由来の284.6eVに中心をもつC1sピーク強度とN1sピーク強度の低下、及び292.4eVのパーフルオロアルキレン基(−CF2−CF2−)由来のピークの増大が確認できた。これは、PTFE表面からP4VPの一部のみが剥離し、大半が良溶媒で洗浄した後でも安定にPTFE表面に滞在していることを意味している。この洗浄では、エタノールを使用しているため、ピリジン基とカルボキシル基、エーテル基、ケトン基などの水素結合は全て解離する。このことから、PTFE基板とP4VPは共有結合を介してグラフト化されていることが分かった。
【0044】
スピン塗布法による高分子膜製膜は、その溶液濃度を変化させることにより膜厚を変化させることができる。そこで、上記の実験よりも十倍高濃度のP4VP溶液を調製し、厚膜を成膜し同様の洗浄操作を行ったところ、洗浄後に得られたC1sとN1s軌道のXPSスペクトル強度が低濃度から成膜し、洗浄した試料と全く一致することが分かっている。また、未処理のPTFEに溶媒乾燥法により堆積させたP4VPを同様に洗浄すると、P4VP由来のXPSピークが完全に消失することも分かっている。これらの結果は、プラズマ処理によってPTFE表面に生成された過酸化物を起点として、その近傍にいるP4VPのみが選択的に相互作用し、耐溶剤性が著しく増強されていることを如実に表した結果といえる。PTFE表面に形成された過酸化物とピリジン環の酸化またはP4VP主鎖の開裂によるグラフト化によって耐溶剤性が向上したと考えている。
【0045】
(第4工程)
グラフト化処理したPTFEシート(P4VP−g−PTFE)表面に、3.9×10-1Mに調整した酢酸銅(II)水溶液をスピンコート法により塗布した。
【0046】
(第5工程)
P4VPと酢酸銅膜を積層したPTFEシートを、投入電力40Wの条件で大気圧プラズマ処理を行い、酢酸銅(II)を還元し、銅ナノ粒子の形成を行った。図9(a)にCu2p3/2−XPSスペクトルの変化を示す。プラズマ処理時間の増大にともない、932eV付近に出現する金属銅由来のピーク強度の増大と半値幅の狭小化(図9(b)参照)、サテライトピークの消失からヘリウムプラズマ処理による銅イオンの還元が進行していることが分かった。表面の銅濃度はプラズマ処理時間が300秒で最大値を迎え、その後は強度が低下することが分かった(図9(b)参照)。一方で、プラズマ処理時間が300秒を越えても半値幅の低下、サテライトピークの出現等は観測されなかったことから、過度なプラズマ処理による酸化銅の形成やエッチングによるピーク強度の低下は考えにくい。
【0047】
SEM、AFMにより観測したプラズマ処理時間に対するP4VP−g−PTFE表面のモルフォロジ変化を図10及び図11に示す。プラズマ処理初期過程では、AFMでのみ観測可能であった粒子径10〜20nmの無数の銅ナノ粒子とSEMで検出可能な50nmサイズの粒子が同時に高密度に形成されていた。プラズマ処理時間の増大に伴い銅ナノ粒子の粒子径が増大したことから、銅ナノ粒子の成長が進行していることが分かった。更にプラズマ処理が進むと、銅ナノ粒子は三次元的に成長し、最終的には高さ200nm以上の粒子の形成が確認された。銅ナノ粒子の成長が進行する一方で、プラズマ処理初期過程で観られた粒子径10nm程度の微小粒子の消失と、P4VP−g−PTFE表面に存在する全銅ナノ粒子数の劇的な減少が確認された。本実施形態におけるプラズマ還元処理では、処理時間が150秒で銅ナノ粒子のサイズが平均50nm、処理時間が450秒で銅ナノ粒子のサイズが平均200nmとなった。但し、銅ナノ粒子のサイズには大きなバラツキがある。
【0048】
図12に、P4VP−g−PTFE表面に付着した酢酸銅が、プラズマ処理により分解、還元されて銅ナノ粒子が三次元的に成長する様子を示している。プラズマ処理初期過程において同時に形成された10nmサイズの微小粒子と50nmサイズの比較的大きなナノ粒子間において物質移動が起こっていることを示唆しており、プラズマ下においてオストワルド熟成機構に基づいたナノ粒子の成長が進行していることが考えられる。
【0049】
図13に、金属ナノ粒子のサイズがピークになる前におけるプラズマ処理時間と金属ナノ粒子のサイズと集積密度の概略傾向を示している。本発明において、金属ナノ粒子のサイズが50〜200nmの範囲のとき、その後の無電解めっきによる金属層の密着性が良好であることが分かった。金属ナノ粒子の総量は、プラズマ還元処理の前におけるP4VP−g−PTFE表面に付着した酢酸銅(前駆体)の総量に規制されるので、金属ナノ粒子のサイズの増大に伴ってその集積密度は減少する。例えば、金属ナノ粒子のサイズが300nmになると集積密度は、1×108/cm2となる。これは、1μm四方に1個の金属ナノ粒子が存在することと同じである。
【0050】
(第6工程)
所定のサイズの銅ナノ粒子を表面に担持させたPTFEシートを、市販の銅めっき浴(奥野製薬株式会社製)に浸漬させ、無電解銅めっき薄膜の析出を行った。銅イオン還元処理時間の異なるそれぞれの試料において、無電解銅めっき反応における、その自己触媒作用について調べた結果、銅ナノ粒子径が50nm以上の三次元的に成長した銅ナノ粒子のみが優れた触媒作用を示し、無電解銅めっき浴浸漬後2秒以内に肉眼で無電解銅めっき層の析出が確認できた。一方で、50nm以下の微小サイズのナノ粒子においては、無電解銅めっき反応の開始が確認できなかった。めっき浴中において銅ナノ粒子層が全て溶解していることが原因であった。一方、銅ナノ粒子径が200nmを越えると、該粒子を核として銅の析出は進むが、銅ナノ粒子径の集積密度が低くなるので、銅ナノ粒子間を埋めるのに長時間を要し、膜厚が均一な銅薄膜の形成ができなくなる。従って、金属ナノ粒子のサイズが50〜200nmの範囲で、金属ナノ粒子の集積密度に対する条件は、概ね5×108/cm2より大きいことが好ましい。そして、高密着性で高速に無電解めっきできる条件として、金属ナノ粒子のサイズが50〜100nmの範囲で、金属ナノ粒子の集積密度が、4×109/cm2以上であることが更に好ましい。尚、金属ナノ粒子は、50〜100nmのサイズのものが混在していても構わないが、できるだけ均一なサイズであることが望ましい。金属ナノ粒子のサイズ(粒径)及び集積密度は、SEM画像又はSTM画像を画像処理して測定することが可能であり、あるいはSEM画像又はSTM画像の所定範囲内の全ての金属ナノ粒子の大きさを実測し、個数を数え上げても算出することも可能である。
【0051】
図14は、プラズマ還元処理時間が150秒、300秒、450秒の場合において、無電解銅めっきの浸漬時間による銅析出状況を示したSEM像である。無電解めっき時間が120秒での比較では、プラズマ処理時間が150秒の場合が最も緻密な銅薄膜が得られているが、めっき時間をそれ以上に延ばすと殆ど差は無くなる。因みに、10分の無電解銅めっきによって厚さ10μmの銅薄膜が形成された。
【0052】
そして、図15に、無電解銅めっき膜の90°剥離強度試験を行った結果を示す。試験には市販されているフォースゲージを用いた。グラフト化したP4VP層が単分子鎖である場合、その密着強度は2.0N/mmを示した(図15(a))。一方で、図15(b)に示すように、グラフト化の後、未反応のP4VPを洗浄除去せずに、P4VP層がPTFEと直接連結していない成分を含む場合、テープ試験で剥離するような低密着性の無電解銅めっき層しか得られなかった。剥離された銅膜の表面からP4VP層が検出されたことから、PTFEと直接結合していないP4VP膜界面で剥離していることが分かった。高密着性を獲得するためには、PTFEと共有結合を形成して連結した単分子レベルの超薄膜が望ましいことが分かった。
【0053】
プラズマ還元処理におけるプラズマ発生条件の違いによって、処理時間の増大とともに銅ナノ粒子の三次元的成長と同時に微小サイズのナノ粒子の消失が観測される場合と、プラズマ処理初期過程で観測されていた微小サイズのナノ粒子が、処理時間の進行とともに、その密度は増大し、やがて二次元的に連続した平滑なドメインの形成が観測される場合があることが分かった。前者は、プラズマ密度が高い場合、後者はプラズマ密度が低い場合に生じた。プラズマ密度の差は、銅イオンの還元速度に直接影響を及ぼすことから、プラズマ密度が高い場合には速度論で制御されたナノ粒子の異方成長が、一方でプラズマ密度が低い場合には熱力学的に支配されてナノ粒子の等方的な成長が誘起されたと考えられる。無電解銅めっき反応におけるその自己触媒作用について調べた結果、三次元的に成長した銅ナノ粒子のみが優れた触媒作用を示し、無電解銅めっき浴浸漬後2秒以内に肉眼で無電解銅めっき層の析出が確認できた。一方で、二次元成長したナノ粒子においては、無電解銅めっき反応の開始が確認できなかった。めっき浴中において銅ナノ粒子層が全て溶解していることが原因と考えられる。
【0054】
最後に、より短時間で高密着性の無電解めっき膜を形成するためには、触媒となる金属ナノ粒子の集積密度を高めることが必要である。そのためには、誘電体基材の表面に共有結合する錯化高分子の密度を高める必要がある。それには、P4VPの塗布に用いる溶媒をエタノールから1−ブタノールに変更することにより、グラフト密度が増大し、より多くの銅イオンを担持できるようになることを実験的に確かめている。その理由は、エタノールは沸点が低いため、蒸発過程においてP4VP鎖が伸びず絡まってしまう(糸くずのイメージ)傾向にあるが、沸点の高い1−ブタノールを用いると、P4VP鎖が比較的に伸びた状態になり、PTFE表面の過酸化物ラジカルと反応しやすくなったと考えられる。
【0055】
また、誘電体基材の表面に共有結合する錯化高分子の密度を高めるために、RF電源を用いた水中プラズマ処理によって、誘電体基材の表面にナノスポンジ構造を導入する方法もある。誘電体基材の表面にナノサイズのスポンジ構造を導入することにより、グラフト処理後の基板表面の錯化高分子濃度が増大する。その理由は、誘電体基材の比表面積の増大により、最表面以外にも、基板内部にも錯化高分子がグラフトされたと考えられる。無電解めっきによる金属層の密着強度が飛躍的に増大することを実験的に確かめている。
【符号の説明】
【0056】
1 フッ素樹脂基板、
2 錯化高分子、
3 金属ナノ粒子、
4 金属層、
10 高周波電源、
11 マッチングユニット、
12 チャンバー、
13 真空排気系、
14 電極、
15 電極昇降機構、
16 走査ステージ、
17 銅ロッド、
18 アルミナパイプ、
19 アルミ合金製試料ホルダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基材の表面を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して表面に親水性官能基を導入する工程、
既に重合された一次構造が明確な錯化高分子を塗布し、前記親水性官能基を反応点として、錯化高分子を自発的に共有結合させて高密度にグラフト化させる工程、
前記誘電体基材に直接結合していない未反応の錯化高分子を洗浄除去する工程、
目的とするめっき層と同じ金属種を含む前駆体を液相法により誘電体基材の表面に塗布し、前記錯化高分子に前駆体を配位結合させる工程、
前記前駆体により導入された金属イオンを含む錯化高分子膜を、希ガスを用いた大気圧プラズマ処理して、金属イオンを原子状金属へ還元させるとともに、生成した原子状金属が自己組織的に凝集することにより、三次元的に50〜200nmのサイズの金属ナノ粒子に成長させる工程、
金属ナノ粒子が表面に形成された前記誘電体基材を無電解めっき浴中に浸漬して、金属ナノ粒子を触媒として金属層を形成する工程、
とよりなる誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の集積密度が、5×108/cm2以上である請求項1記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項3】
前記誘電体基材が、フッ素含有高分子樹脂、あるいはフッ素含有高分子樹脂とポリエステルなどの液晶性高分子、ポリイミド誘導体との高分子アロイや共重合体である請求項1又は2記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項4】
前記誘電体基材が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項3記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項5】
前記錯化高分子は、金属イオンと配位結合を形成するような、カルボニル基、低級アミノ基、高級アミノ基、アミド基、ピリジル基、ピロール基、イミダゾール基、水酸基、エーテル基、エステル基、リン酸基、ウレア基、チオール基、ジチオール基、チオウレア基を構造式中に一つ以上含む高分子である請求項1〜4何れか1項に記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項6】
金属種としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロディウム、イリジウムなどの貴金属及びそれらの合金を用いる請求項1〜5何れか1項に記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項7】
錯化高分子及び金属前駆体は、スピンコート法、スプレー噴霧法、インクジェット法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法のうちの何れかの液相法により誘電体基材表面に塗布する請求項1〜6何れか1項に記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7何れか1項に記載の誘電体基材表面の触媒フリー金属化方法を用いて、誘電体基材表面に金属層を形成したことを特徴とする金属膜付き誘電体基材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図1】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−62543(P2012−62543A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208747(P2010−208747)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第59回(2010年)高分子討論会 高分子学会予稿集 平成22年9月1日 2010年度精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集 平成22年9月10日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】