説明

誘電体導波管スロットアンテナおよびそれを用いたアレイアンテナ

【課題】従来の誘電体導波管スロットアンテナは利得が低かったり、高利得化のために放射板の構造を変化させた場合は、専有面積が大きくなり過ぎて近接配置しずらいという問題があった。
【解決手段】誘電体の一表面に、誘電体が露出する少なくとも1つのスロットを具えた誘電体導波管と、前記スロットに対向する位置に、前記スロットと略同じ形状のビアホールを具えた基板と、前記ビアホールに対向する位置に、前記ビアホールの長手方向の長さより長手方向の長さの長い放射孔を具えた放射板とが接合され、前記放射板の表面の、前記放射孔の中心から周波数の1.5波長以下の距離に、微小な突起を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にマイクロ波帯およびミリ波帯で用いられている、誘電体導波管により給電される誘電体導波管スロットアンテナ、および、それを用いたアレイアンテナに係わり、特に簡便な構造でアンテナの利得を増大させることができる誘電体導波管スロットアンテナに係わる。
【背景技術】
【0002】
(従来例1)
マイクロ波帯やミリ波帯で利用できるアンテナの構造として、誘電体導波管スロットアンテナが知られている。
図9は、特許文献1において本願発明者が提案した、誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。
図9に示すように、誘電体導波管スロットアンテナ108は、誘電体の一表面に、誘電体が露出する長穴形状のスロット28を具えた誘電体導波管18と、スロット28に対向する位置に、内壁に導体膜が形成された、スロット28と略同じ形状のビアホール48を具えた基板38と、ビアホール48に対向する位置にビアホール48の長さよりも長い長孔形状の放射孔68を具えた導体からなる放射板58とが積み重ねられている。
スロット28から放出された電磁波は、ビアホール48の内壁と放射孔68の内壁により形成された導波路を通して、放射孔68から自由空間に放出される。
【0003】
(従来例2)
図10は、従来例1に示した誘電体導波管スロットアンテナをさらに改良し、特許文献2において本願発明者が提案した誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。
図10に示すように、誘電体導波管スロットアンテナ109は、図9に示した誘電体導波管スロットアンテナ108の放射板58の表面の放射孔68の近傍に、くの字形状の一対の溝79、79が形成されている。溝79以外の構成は、上記した従来例1と同様であり、同じ物には同じ番号を付しており、説明は省略する。
くの字形状の溝79、79は、放射孔68に対して対称に配置され、放射孔68の中心から、くの字形状の溝79の距離は、1.5波長より近い。
【0004】
誘電体導波管スロットアンテナ109は、放射孔68から放射される直接波と、溝69、69から再放射される反射波との位相を揃えることにより、アンテナの利得を増大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−221714号公報
【特許文献2】特開2005−217865号公報
【特許文献3】特開2005−341488号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Sano,K.Ito,“Dielectric waveguide slot antenna with integrated filter for automotive UWB radar applications”,IEEE MTT−S Symp. Dig.,p.113−116,2008.
【非特許文献2】佐野和久、伊藤一洋、“非共振型誘電体導波管スロットアンテナの開発”、[online]、東光技術時報、No.20(2008年号)、[平成23年8月22日検索]、インターネット<URL:http://www.toko.co.jp/products/jp/report/pdf/20/toko_technical_report_2008_4.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来例1に示した誘電体導波管スロットアンテナは、得られる最大利得が、7[dBi]程度であり、高周波無線通信の分野では、さらに高い利得のアンテナが求められている。
高い利得を得るために複数のアンテナ素子を並べて配置したアレイアンテナとする場合、従来例1に示した誘電体導波管スロットアンテナは、個々の誘電体導波管スロットアンテナの利得が低いために、より多くの誘電体導波管スロットアンテナを配列する必要があり、アレイアンテナの大きさが大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
また、アレイアンテナでは、隣接するアンテナ素子とアンテナ素子との間の距離は、自由空間における電波の1波長より近くする必要がある。しかし、従来例2に示した誘電体導波管スロットアンテナは、専有面積が大きくなり過ぎて近接配置しずらいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、
誘電体の一表面に、誘電体が露出する少なくとも1つのスロットを具えた誘電体導波管と、
前記スロットに対向する位置に、前記スロットの長手方向の長さより、長手方向の長さが長い放射孔を具えた放射板とが、対向して配置され、
前記スロットと前記放射孔とは、前記スロット側の断面形状が前記スロットと略同じであり、前記放射板の断面形状が前記放射孔と略同じである導波路により接続され、
前記放射板の表面であって、前記放射孔の近傍に、微小な突起を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体導波管スロットアンテナによれば、利得の高い誘電体導波管スロットアンテナとすることができる。さらに、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは専有面積が小さいので、アレイアンテナを構成し易く、個々のアンテナ素子の利得も高いので、アレイアンテナを構成するアンテナの素子の数を減らすことができ、アレイアンテナを小型、高性能化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の誘電体導波管スロットアンテナの斜視図である。
【図2】本発明の誘電体導波管スロットアンテナを説明する平面図と切断部端面図である。
【図3】図1の誘電体導波管スロットアンテナの電界強度分布を示す図である。
【図4】図1の誘電体導波管スロットアンテナの放射パターンを3D表示した図である。
【図5】図1の誘電体導波管スロットアンテナのアンテナパターンを示すグラフである。
【図6】アレイアンテナの一実施例を示す分解斜視図である。
【図7】アレイアンテナの別の一実施例を示す分解斜視図である。
【図8】図7のアレイアンテナの指向性の示すグラフである。
【図9】従来例1の誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。
【図10】従来例2の誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、本発明の誘電体導波管スロットアンテナの一実施例を示す分解斜視図であり、
図1に示すように誘電体導波管スロットアンテナ100は、
表面を導体膜で覆われた直方体形状の誘電体の一表面に、誘電体が露出するスロット20を具えた誘電体導波管10と、
スロット20に対向する位置に、内壁に導体膜が形成されたスロット20と略同じ形状のビアホール40を具えた基板30と、
ビアホール40に対向する位置に、ビアホール40の長さよりも長い放射孔60を具えた導体からなる放射板50とが積み重ねられている。
【0013】
スロット20、ビアホール40と放射孔60は、直線状の長孔形状であり、スロット20の長手方向の長さLとビアホール40の長手方向の長さLは略等しく、放射孔60の長手方向の長さLは、ビアホール40の長手方向の長さLより長く、それぞれの中心および長手方向は一致している。
【0014】
図2は、図1に示した誘電体導波管スロットアンテナをさらに説明する図であり、図2(a)は平面図を示し、図2(b)は、図2(a)中にA−Aで示した断面部端面図を示す。
図2に示すように、放射板50の放射面の放射孔60の近傍には、長さl×幅w×高さhの直方体形状の微小な突起80、80が、放射孔60に対して対称に配置されている。なお、放射孔60の長手方向を長さ方向とする。
放射孔60の中心から微小な突起80までの距離は、1波長以下である。
スロット20から放出された電磁波は、ビアホール40の内壁と放射孔60の内壁により形成された導波路90を通して、放射孔60から自由空間に放出される。
【0015】
図3は、図9に示した従来例1の誘電体導波管スロットアンテナと、図1に示した本発明の誘電体導波管スロットアンテナの電界強度分布を、電磁界シミュレータで解析した結果であり、スロットの中央のE面(YZ平面)における電界強度分布を示す。
図3(a)は従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを示し、図3(b)は本発明の誘電体導波管スロットアンテナを示す。
図3(a)に示すように、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナでは、スロットから放射された電磁波はスロットを中心に同心円状に拡がっている。一方、図3(b)に示すように、本発明の誘電体導波管スロットアンテナでは、スロットから放射された電磁波は微小な突起により反射もしくは回折している。そのため、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナに比べて、電磁波の拡がりが少なくなっていることがわかる。
【0016】
図4は、図9に示した従来例1の誘電体導波管スロットアンテナと、図1に示した本発明の誘電体導波管スロットアンテナの放射パターンを電磁界シミュレータで解析して3D表示した結果である。
図4(a)は従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを示し、図4(b)は本発明の誘電体導波管スロットアンテナを示す。
図4に示すように、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナに比べて、E面(YZ平面)の指向性が鋭くなっていることがわかる。
【0017】
微小な突起の長さlは、インピーダンスの変動を少なくして、整合を取りやすくするために、2分の1波長以下であることが望ましく、
微小な突起の高さhは、2分の1波長以上にしても効果が薄く、波長に対して25%〜30%程度が好適である。
微小な突起の幅wは、波長の長さに対して無関係なので、必要な機械的強度に応じて適宜変更可能であり、例えば、波長の10分の1から4分の1程度の寸法に選ばれる。
また、微小な突起と放射孔との距離が遠い場合は、微小な突起による回折や反射の効果が弱くなるため、微小な突起は、放射孔の中心から周波数の1波長以内の距離に配置されるのが好適である。
【0018】
図5は、図9に示した従来例1の誘電体導波管スロットアンテナと、図1に示した本発明の誘電体導波管スロットアンテナのE面(YZ平面)およびH面(XZ平面)におけるアンテナパターンを電磁界シミュレータで解析したグラフである。
図5(a)は従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを示し、図5(b)は本発明の誘電体導波管スロットアンテナを示す。図5において、横軸は角度[°]、縦軸は絶対利得[dBi]、実線はE面(YZ平面)におけるアンテナパターン、点線はH面(XZ平面)におけるアンテナパターンを示す。
図5に示すように、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナの最大利得が7.3[dBi]であるのに対し、本発明の誘電体導波管スロットアンテナの最大利得は10.1[dBi]であり、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナに比べて、利得が2.8[dB]増大している。
【0019】
上記の結果から、放射板上に微小な突起を設けるだけで、誘電体導波管スロットアンテナの指向性を大きく変化させ、利得を増大することができることがわかる。なお、微小な突起は放射孔の近傍に配置されるのでアンテナの専有面積が大きくなることはない。
【0020】
上記した実施例では、基板に設けられたビアホールと放射板に設けられた放射孔とで導波路を構成し、ビアホールと放射孔との大きさを変えることにより、導波路の形状を途中で変えたが、貫通孔の形状が途中で変えられた、誘電体板または金属版のみを用いても良い。また、微小な突起は、直方体形状に限らず、三角錐形状、蒲鉾形状等、種々変形可能である。
【0021】
本発明の誘電体導波管スロットアンテナをアレイアンテナ化することにより、さらに利得を向上することができる。
図6と図7は、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いてアレイアンテナを構成した場合の実施例を示す。
【0022】
図6は、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いた直線偏波用のリニアアレイアンテナの一実施例を示す斜視図である。
図6に示すように、リニアアレイアンテナ101は、誘電体導波管11と、基板31と、放射板51とからなる。
誘電体導波管11には、長手方向の角度が誘電体導波管11の管軸方向に対して垂直なスロット21が、誘電体導波管11の管軸方向に一列に、20個設けられている。
放射板51には、スロット21に対応する位置に放射孔61と、放射孔61の両側に一対の微小な突起81a、81bが配置されている。
基板31には、スロット21に対応する位置にビア41が配置されている。
なお、隣接するアンテナは、隣接するアンテナの間には微小な突起は1個あればよく、図6に示した実施例では、隣接するアンテナ間の微小な突起を共有している。
【0023】
図7は、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いた45度直線偏波用のアレイアンテナの別の一実施例を示す斜視図である。
図7に示すように、リニアアレイアンテナ102は、誘電体導波管12と、基板32と、放射板52とからなり、
誘電体導波管12には、長手方向の角度が誘電体導波管12の管軸方向に対して45度傾いたスロット22が、誘電体導波管12の管軸方向に一列に、20個設けられている。
放射板52には、スロット22に対応する位置に放射孔62と、放射孔62の両側に一対の微小な突起82a、82bが配置されている。
基板32には、スロット22に対応する位置にビア42が配置されている。
スロット22は、誘電体導波管12の管軸方向に対して45度傾いているので、隣接する微小な突起の位置は、ずれて配置される。
【0024】
図7に示した、スロットの長手方向が誘電体導波管の管軸方向に対して45度傾いている誘電体導波管スロットアンテナは、45度直線偏波を放射する。この45度直線偏波は、自動車用レーダとして用いられており、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナは、特に自動車用レーダの小型化、高性能化に有用である。
【0025】
図8は、図9に示した従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを用いた20素子のアレイアンテナと、図7に示した本発明の20素子のアレイアンテナの指向性を、電磁界シミュレータで解析したグラフである。
図8(a)は従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナを示し、図8(b)は本発明のアレイアンテナの特性を示す。図8において、横軸は角度[°]、縦軸は絶対利得[dBi]、実線はYZ平面におけるアンテナパターン、点線はXZ平面におけるアンテナパターンを示す。
従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナの最大利得は19.9[dBi]であるのに対して、本発明のアレイアンテナの最大利得は、22.6[dBi]であり、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナの方が、2.7[dB]利得が向上していることがわかる。これは、アレイアンテナの素子数が同じ場合、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナの利得は、従来例1の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナの1.86倍であり、たとえば、所望の利得を得るためには、従来例1の誘電体導波管フィルタを用いたアレイアンテナでは37素子が必要だが、本発明の誘電体導波管スロットアンテナを用いたアレイアンテナでは20素子しか必要でなく、アレイアンテナの長さを54%程度に小型化できるということを示している。
【0026】
このように、アンテナの素子単体の利得を向上したことにより、そのアンテナ素子を用いて構成されたアレイアンテナも利得を向上することができる。
【符号の説明】
【0027】
誘電体導波管 10、11、12、18
スロット 20、21、22、28
基板 30、31、32、38
ビアホール 40、41、42、48
放射板 50、51、52、58
放射孔 60、61、62、68
溝 79
導波路 90
微小な突起 80、81a、81b、82a、82b
誘電体導波管スロットアンテナ 100、108、109
リニアアレイアンテナ 101、102

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体の一表面に、誘電体が露出する少なくとも1つのスロットを具えた誘電体導波管と、
前記スロットに対向する位置に、前記スロットの長手方向の長さより、長手方向の長さが長い放射孔を具えた放射板とが、対向して配置され、
前記スロットと前記放射孔とは、前記スロット側の断面形状が前記スロットと略同じであり、前記放射板側の断面形状が前記放射孔と略同じである導波路により接続され、
前記放射板の表面であって、前記放射孔の近傍に、微小な突起を設けたことを特徴とする誘電体導波管スロットアンテナ。
【請求項2】
前記の微小な突起は、
前記放射孔の中心から1波長以下の領域に設けた
ことを特徴とする請求項1記載の誘電体導波管スロットアンテナ。
【請求項3】
前記微小な突起は、
長手方向が前記放射孔の長手方向と並行に配置され、
前記放射孔の長手方向と並行な辺の長さが、2分の1波長以下、
高さが、波長の25%から30%である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の誘電体導波管スロットアンテナ。
【請求項4】
前記の微小な突起は、
前記放射孔の長手方向に対して対称に配置した
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の誘電体導波管スロットアンテナ。

【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載の誘電体導波管スロットアンテナを用いた
ことを特徴とするアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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