説明

誘電体層をコートされた基板およびそれを製造するプロセスおよび装置

本発明は、少なくとも一つの薄い誘電体層がコートされた基板(1)、例えばガラス基板に関する。本発明によれば、誘電体層はカソード・スパッタリングによって、例えば、磁界によってたすけられる、好ましくは酸素および/または窒素の存在下で反応性であるカソード・スパッタリングによって、イオン源(4)からの少なくとも一つのイオンビーム(3)への曝露と、堆積される。本発明は、イオンビームに曝露された誘電体層がイオン源のパラメータに基づいて調整できる屈折率を有し、前記イオン源が線状源であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体をベースとする薄膜コーティングの分野に関し、特に、透明な基板に、特にガラス基板に、真空蒸着法によって堆積される金属酸化物、窒化物、酸化窒化物タイプの薄膜コーティングの分野に関する。
【0002】
本発明は、コートされた基板、その基板を製造しコートする製造プロセスおよび装置、および/または少なくとも一つの本発明による基板を含むグレージング・アセンブリ、特にダブル・グレージングまたはラミネート・グレージング・アセンブリを生産するプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
いわゆる“機能的”グレージング・アセンブリを製造するために、通常のやり方は、それを構成する少なくとも一つの基板に薄膜の層または薄膜多重層を堆積してグレージング・アセンブリに光学的性質(例えば、反射防止性)、赤外における性質(低放出能)、および/または導電性を付与するということである。しばしば、酸化物および/または窒化物誘電体をベースとする層が、例えば銀層またはドープされた金属酸化物層のいずれかの側に、または低および高屈折率誘電体が交互に並ぶ多重層における干渉層として用いられる。
【0004】
スパッタリングによって堆積される層は、高温(pyrolithic)堆積によって堆積される層に比べて化学的および機械的な抵抗が多少弱いと言われている。このため、イオンビーム、例えば酸素またはアルゴンのイオンビームによってある層を叩いて層の密度を増大させキャリア基板への付着力を高めるイオンビームを援用する堆積の実験方法が開発された。この方法は長い間きわめて小さなサイズの基板にしか応用できなかった。それは特に、一方において非常に局所化された源から発するイオンビームと、他方において標的の蒸発またはスパッタリングから生ずる粒子との間の収斂に関する問題のためであった。
【0005】
特許文書EP 601 928は、最初にスパッタリング・チャンバである層を堆積し、次に、それが堆積された後にこの誘電体層を点源から発する“低エネルギー”のイオンビームによって叩くことによる堆積された層のシーケンシャル処理を開示している。用いるエネルギーは、ビームのイオンの衝撃の下での層のスパッタリングを制限できるエネルギーであり、普通500eVより低く、100eV程度である。
【0006】
この処理は、本質的に層の密度を増大させることによって層の物理的および/または化学的耐久性を高めることを狙っており、低い表面粗さの層を実現して、その後その上に堆積される層の“層形成”を有利にする。
【0007】
しかし、この処理は完全に堆積された層の上でなければ実行できないという欠点がある。
【0008】
この処理のもう一つの欠点は、このようにして処理された層に密度増大だけを可能にし、この密度増大は処理された層の屈折率を増大させるということである。したがって、このように処理された層は、光学的性質が異なるために未処理の層の代わりにはならず、この材料を組み込まなければならない多重層システムを改めて完全に定義し直す必要がある。
【0009】
さらに、この処理は、大きな基板で実行するには、例えば建築のグレージング・アセンブリを生産するには、最適ではない。
【0010】
さらに、このプロセスはスパッタリング・プロセスと全く両立しない、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングとは、特に非常に異なる作業圧力のため、両立しない:本発明の時点で、スパッタリングのプロセス、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリング、で用いられる圧力に比べて、イオン源は10〜100倍低い圧力で用いられていた。
【0011】
最近、スパッタリングによって薄膜を堆積するプロセスともっと両立できるイオン源、特に粒子ビームの収斂の問題を解決し、一方においてカソードの、他方においてイオン源の、サイズと幾何形状のマッチングを改善することによって両立できるイオン源が開発された。これらのシステムは“線状源”と呼ばれており、例えばUS 6 214 183またはUS 6 454 910に記載されている。
【0012】
特許文書WO 02/46491は、銀の標的を用いるスパッタリングを酸素イオンビームによる衝撃と合わせて機能的な銀酸化物層を生成するためのこのタイプの源の利用を開示している。イオンビームは銀の密度を高め、酸化銀を含む層に転換するために用いられる。密度の増大の結果、酸化銀層はかなりの量のUVを吸収および/または反射することができるようになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来技術の欠点を矯正し、ガラス・タイプの透明基板をコートするのに用いることができる新しい薄膜材料、新しい堆積・プロセスおよび新しい装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、誘電体、特に酸化物および/または窒化物によって作られる薄膜層を、イオンビームへの曝露によって、従来の仕方で堆積された、すなわち、イオンビームに曝露することなく堆積された物質の結晶化度に比べて、最終層の物質がずっと高度に結晶化されるように条件をコントロールして堆積することが可能であるという事実に依拠している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この点に関連して、請求項1に記載されるように、本発明の主題は基板、特にガラス基板である。本発明による基板は、イオン源からの少なくとも一つのイオンビームへの曝露と、スパッタリング、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングによって堆積される少なくとも一つの誘電体薄膜層でコートされ、イオンビームへの曝露と堆積された誘電体層は、イオン源のパラメータ、特にその端子に印加される電圧によって調整できる屈折率を有し、前記イオン源は線状源である。
【0016】
本発明を実施するのに用いられるイオンビームはいわゆる“高エネルギー”ビームであり、普通約数百eVから数千eVまでの範囲のエネルギーを有する。
【0017】
有利な形として、パラメータはまた、層の屈折率が、イオンビームなしで堆積された層の屈折率よりもずっと小さく、またはずっと大きくなるような仕方でコントロールすることもできるが、屈折率はまたイオンビームなしで堆積された層の屈折率に近くすることもできる。
【0018】
本明細書で用いられる場合、“近い”という用語は、基準値から高々約5%の差がある屈折率を意味する。
【0019】
本発明はまた、堆積された層の内部に屈折率の勾配を作り出すことを可能にする。
【0020】
ある変型例では、前記層は、イオン源のパラメータに従って調整された屈折率勾配を有する。
【0021】
有利な形としては、堆積できる誘電体物質の少なくともいくつかに関して、生ずる屈折率の変化がどうであれ、イオンビームへの曝露に合わせてスパッタリングによって基板に堆積される誘電体層の密度は同様のまたは同一の値に維持される。
【0022】
本明細書で用いられる場合、“同様の”密度値は、基準値から高々約10%しか異ならない。
【0023】
本発明は特に、化学量論的であれ非化学量論的であれ、金属酸化物またはシリコン窒化物から作られる、または金属窒化物または酸化窒化物またはシリコン窒化物または酸化窒化物から作られる誘電体層の製造に適用される。
【0024】
特に、誘電体層は、シリコン、亜鉛、タンタル、チタン、錫、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、インジウム、セリウム、およびタングステンから取られる少なくとも一つの元素の酸化物から作ることができる。考えられる混合酸化物としては、特にインジウム錫酸化物(ITO)があげられる。
【0025】
層は、ドープされた金属から作られるカソード、すなわち、ある少量の元素を含む金属、から作られるカソードから得られる:一例として、小さな比率の別の金属、例えばアルミニウムやガリウムを含む亜鉛から作られるカソードを用いることは普通のことである。本明細書において、“酸化亜鉛”という用語は、小さな比率の別の金属を含む可能性がある酸化亜鉛を意味するものとする。同じことは、上記の他の酸化物にもあてはまる。
【0026】
例えば、本発明にしたがって堆積されたこの酸化亜鉛層は、その屈折率が1.95以下という値、特に約1.35〜1.95という値に調整できる。その密度は、低圧で堆積されたZnO層の密度、すなわち5.3g/cmと同一の、5.3g/cmに近い値、特に約5.3±0.2g/cmという値に保つことができる。
【0027】
屈折率が1.88未満の値、およびこれと同様の値に調整された酸化亜鉛層は、イオン衝撃の影響を補償するように、スパッタリング条件(特に雰囲気の酸素含有量)を意図する酸化物の化学量論から少しずれるように設定することによって得られる。
【0028】
誘電体層は、シリコン窒化物または酸化窒化物から作ることもできる。このような窒化物誘電体層は、イオン衝撃の影響を補償するように、スパッタリング条件(特に雰囲気の窒素含有量)を意図する窒化物の化学量論から少しずれるように設定することによって得られる。
【0029】
一般に、イオンビームは誘電体層の機械的性質を改善する効果がある。
イオン衝撃の結果、打ち込まれる一つ以上のイオン種のある量が層に導入され、その比率は源における気体混合物の性質および源/カソード/基板の形態に依存する。一例として、アルゴン・イオンビームの衝撃の下で堆積された層は、アルゴンを約0.2〜0.6at%という量で、特に約0.45at%という量で、含む。
【0030】
軟鉄のカソードまたは他の材料、特に常磁性材料のカソードを用いるイオン源によってイオンビームを発生させると、カソードがこのプロセスで浸食されて、堆積された層に微量の鉄が存在する原因になる。3at%以下という量で存在する鉄は、層の光学的性質や電気的性質を低下させないので受容できることが確認されている。有利なのは、堆積・パラメータ(特に基板の輸送速度)を調整して鉄含有量を1at%未満にすることである。
【0031】
通常の光学的性質を維持することによって、こうして得られた誘電体層を、いわゆる“機能的”グレージング・アセンブリを、特に銀をベースとする金属の機能層を用いて製造するための公知の多重層に組み込むことは非常に容易である。
【0032】
標準値と異なる値に調整された屈折率の誘電体を組み込んだ特定の多重層を設計することができる。
【0033】
したがって、本発明の主題は、イオンビームに曝露された前記誘電体層の上に銀層が堆積された多重層をコートされた基板である。その後で別の誘電体層をこの銀層の上に堆積することもできる。
【0034】
この形態は、下方の誘電体層が酸化亜鉛および/または酸化錫をベースとしている場合、酸化物の層の上に銀の層が特に良く配向されて成長し、最終的な性質が向上するので特に有利であることが証明された。銀の下に酸化亜鉛層が存在すると銀層の品質に大きなかなり影響があることが知られている。本発明によって堆積された酸化亜鉛層の上の銀層を形成するときわめて著しい改善が得られる。
【0035】
多重層は、このようにして表面抵抗Rが6Ω/□よりも低く、さらに2.1Ω/□よりも低く、特に約1.9Ω/□になる。
【0036】
したがって、これらの基板は、低放出能または遮光グレージング・アセンブリ、または高導電性の光透過エレメント、例えばプラズマ・ディスプレー装置の電磁遮蔽スクリーン、の生産において有利である。
【0037】
これらの基板で、別の誘電体層を銀層の上に作ることもできる。これは上記の酸化物または窒化物または酸化窒化物に基づいて選ぶことができる。この別の層はイオンビームへの曝露と堆積しても、そうしなくてもよい。
【0038】
多重層は、少なくとも二つの銀層、または三つまたは四つの銀層を含むことができる。
本発明に従って製造できる多重層は次のような層の配列を含む:
ZnO(i) / Ag / ZnOなどの酸化物...
Si / ZnO(i) / Ag / ZnOなどの酸化物...
Si / ZnO(i) / Ag / Si /(オプションとして酸化物)
【0039】
Si / ZnO(i) / Ag / Si / ZnO(i) / Ag / Si...
【0040】
Si / ZnO(i) / Ag / Si / ZnO(i) / Ag / Si /(酸化物)
【0041】
ここで、(i) は、その層がイオンビームに曝露され、少なくとも一つの銀層の上および/または下にブロックする金属層が挿入できることを示す。
【0042】
用いられる基板はプラスチック、特に透明プラスチックで作ることもできる。
本発明の主題はまた、上述したような基板を製造するプロセス、すなわち、多重層を堆積するプロセスであって、このプロセスでは、少なくとも一つの誘電体層がスパッタリング・チャンバでスパッタリングによって、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングによって、イオン源から発する少なくとも一つのイオンビームへの曝露と堆積される。本発明によるプロセスでは、イオンビームは線状源から生成され、イオンビームに曝露される前記誘電体層の屈折率はイオン源のパラメータによって調整することができる。
【0043】
イオンビームに曝露された誘電体層の屈折率は、イオンビームに曝露されずに堆積された同じ層の屈折率に比べて減少させることもでき、増大させることもできる。
【0044】
有利な形としては、堆積される誘電体物質の少なくともいくつかについて、生ずる屈折率の変化がどうであれ、イオンビームへの曝露と基板に堆積される誘電体層の密度は維持される。
【0045】
イオンビームへの曝露は、スパッタリング・チャンバにおいて、スパッタリングによる層の堆積と同時におよび/またはシーケンスとしてその後で行われる。
【0046】
“と同時に”という表現は、誘電体薄膜層の構成物質がまだ完全に堆積されていないうちに、すなわち、まだ最終厚さに達していない間にイオンビームの作用にさらされることを意味するものとする。
【0047】
“シーケンスとしてその後で”という用語は、誘電体薄膜層の構成物質が完全に堆積された後に、すなわち、最終厚さに達した後にイオンビームの作用にさらされることを意味するものとする。
【0048】
暴露が堆積と同時に行われる変型例では、イオン源の位置は、好ましくは標的から発するスパッターされた粒子の最大密度にイオンビーム(単数または複数)が並置する(juxtaposed)ように最適化される。
【0049】
好ましくは、酸化物をベースとする誘電体層を生成するには、イオン源で大部分が酸素を含む雰囲気、特に100%酸素である雰囲気で酸素イオンビームを生成し、他方でスパッタリング・カソードでの雰囲気は100%アルゴンで構成することが好ましい。
【0050】
この変型例では、イオンビームへの曝露はスパッタリングによる層の堆積と同時に行われる。このためには、従来のようにイオン・エネルギーを制限することは不必要である:逆に、200から2000eVの間、さらには500から5000eVの間、特に500から3000eVの間のエネルギーのイオンビームを生成することが有利である。
【0051】
イオンビームは基板および/またはスパッタリング・カソードに、特にそれぞれ基板および/またはカソードの表面の方向にまたはそれと非ゼロの角度で、標的からスパッタリングによって放出される中性種の流束とイオンビームが並置する(juxtapose)ように導かれる。
【0052】
この角度は、例えばカソードの中心線上で垂直にまたはカソードが円筒状の場合はその軸と垂直な線上で測定して、基板の法線に対してほぼ10〜80°である。
【0053】
標的への直接の流束の場合、源からのイオンビームはスパッタリングによって生成される標的の“走路(racetrack)”と並置する、すなわち、それぞれカソードおよびイオン源から来る二つのビームの中心が基板の表面で合致する。
【0054】
有利な形として、イオンビームはこの走路の外側で用いて、カソードの方に向けて、標的の利用度を増大させることもできる(アブレーション(ablation))。したがって、イオンビームをスパッタリング・カソードに、カソードの中心を通る、特にカソードが円筒形である場合はその軸を通る基板の法線に対して±10〜80°の角度で向けることができる。
【0055】
源/基板の距離は、シーケンシャルまたは同時形態で、5〜25cm、好ましくは10±5cmである。
【0056】
イオン源は、基板が走行する方向でスパッタリング・カソードの前であっても後であってもよい(すなわち、イオン源とカソードまたは基板の間の角度は、カソードの中心を通る基板の法線に対してそれぞれ負または正である)。
【0057】
本発明のある変型例では、スパッタリングによる層の堆積と同時にイオンビームが線状イオン源を用いてスパッタリング・チャンバで生成され、堆積された層が少なくとも一つの他のイオンビームによる追加処理を受ける。
【0058】
本発明は、例示的な、しかし非限定的な実施例についての以下の詳細な説明を読み、添付された図面を見ることによってさらに明らかに理解されるであろう:
【実施例】
【0059】
対照例1
この例では、厚さが30 nmの薄い酸化亜鉛の層が図1に示される装置(10)を用いてガラス基板(1)にコートされた。
【0060】
堆積装置は、真空スパッタリング・チャンバ(2)を含み、それを通って基板(1)が輸送手段(図示せず)に沿って矢印Fで示される方向および向きに移動した。
【0061】
装置(2)は磁気強化型スパッタリング・システム(5)を含んでいた。このシステムは、少なくとも一つの回転する円筒形カソードを含み(しかし、これはフラット・カソードであってもよい)、それはほぼ基板の全幅にわたって伸び、カソードの軸は基板とほぼ平行に置かれている。このスパッタリング・システム(5)は、基板から265mm上の高さH5に位置していた。
【0062】
スパッタリング・システムのカソードから引き出された物質はほぼビーム(6)として基板に導かれた。
【0063】
装置(2)はまた、イオンビーム(3)を放出する線状イオン源(4)を含み、これもほぼ基板の全幅にわたって伸びていた。この線状イオン源(4)は基板が移動する方向に対してカソードの前方にカソード軸から170mmの距離L4に、基板の上120mmの高さH4に位置していた。
【0064】
イオンビーム(3)はカソードの軸を通る基板の推薦に対して角度Aで導かれた。
この堆積は、公知の堆積方法を用いて、スパッタリング・チャンバ(2)を通って回転カソードを経て移動する基板(1)に、重量で約2%のアルミニウムを含むZnをベースとしてアルゴンと酸素を含む雰囲気で行われた。移動スピードは少なくとも1m/分であった。
【0065】
下の表1aに示されている堆積条件を、屈折率が1.88のわずかに化学量論を下回る(substoichiometric)酸化亜鉛層が生成されるように適合させた(これに対して、化学量論的なZnO層の屈折率は1.93−1.95である)。
【0066】
1a
【表1】

【0067】
最初に、堆積はイオンビームへの曝露なしに行われ、二回目に線状イオン源(4)を用いて酸素イオンビーム(3)が印加された。イオンビームは45°の角度で基板に導かれ、イオン源の端子間の電圧[V]は3000eVまで変えられた。
【0068】
図2は、得られた屈折率nの変化を示す。
イオンビームへの曝露なしに堆積された層と種々の電圧で堆積された層が、X線反射法によって分析されて密度が決定された。測定された値を下の表1bに示す。
【0069】
表1b
【表2】

イオン源の端子間に印加される電圧および得られる屈折率が何であれ、こうして形成された層の密度は一定に保たれる。
【0070】
したがって、密度は減少しないので、ZnOの屈折率は層に多孔性を導入することなく低下した。したがって、この処理によってZnO層の機械的な完全性(integrity)は影響されなかった。これは機械的完全性テストで確認された。
【0071】
イオンビーム曝露と堆積されたZnO層についてのSIMS測定は層の鉄含有量が1at%未満であることを示し、Rutherford後方散乱スペクトロスコピー測定はこれらの層のアルゴン含有量が0.45at%であることを示した。
【0072】
実施例2
この例では、ガラス基板が次の多重層にコートされた:
10 nm ZnO / 19.5 nm Ag / 10 nm ZnO
ここで、下の酸化亜鉛層は実施例1のようにイオンビームへの曝露と得られた。
【0073】
実施例1におけるように、下の層は酸化物層の厚さを10 nmに減らすようにチャンバにおける基板の滞留時間を調整して生成された。
【0074】
次に、基板は100%アルゴンで構成された雰囲気中で銀カソードを通過し、再び対照例1の条件の下でアルゴン/酸素雰囲気中で亜鉛カソードを通過するように移動された。
【0075】
これらの性質が、下の酸化亜鉛層がイオンビームへの曝露なしに生成された対照例2のそれと比較される。
【0076】
銀の下のZnO層の屈折率、およびその密度が測定された。実施例1と同様な値が得られた。
【0077】
対照例3
この例では、次の多重層がガラス基板に作成された:
【0078】
【表3】

【0079】
ここで、下の酸化亜鉛層は実施例1と同様にイオンビームへの曝露と得られた。
【0080】
酸化亜鉛層は、実施例1と同様に酸化物層の厚さを8 nmに減らすようにチャンバにおける基板の滞留時間を調整して生成された。
【0081】
次に、基板は100%アルゴンで構成される雰囲気中で銀カソードを通過するように移動された。
【0082】
実施例3
線状イオン源がスパッタリング・チャンバに置かれ、スパッタリングと同時に酸化亜鉛層の生成の間に100%酸素で構成された源の雰囲気でイオンビームを生成するために用いられたことを除き、対照例3と同じ堆積条件が用いられた。源は、イオンビームを基板に30°の角度で導くように傾けられ、基板から14cmの距離に配置された。
【0083】
この変更された堆積条件によって、屈折率と密度が実質的に実施例1で得られたものと同じである酸化亜鉛層を生成することが可能になった。
【0084】
対照例4
次の層厚(単位、ナノメーター)の多重層がガラス基板に作成された。これはSaint-Gobainglass Franceが商標名PLANISTARの下で販売している多重層に対応する:
【0085】
【表4】

【0086】
実施例4
線状イオン源がスパッタリング・チャンバに置かれ、各銀機能層のすぐ下の各酸化亜鉛層の生成の間に、スパッタリングと同時にイオンビームを生成するために用いられたことを除き、対照例4と同じ層厚を有する多重層が対照例4と同じ条件の下で作成された。
【0087】
源の雰囲気は100%酸素で構成された。源は、イオンビームを基板に30°の角度で導くように傾けられ、基板から14cmの距離に配置された。イオンビームのエネルギーは、各パスで、約3000eVであった。チャンバ内の圧力は最初のパスで0.1μbar、二回目のパスで4.5μbar、標的パワーは最初のパスで5.5 kW、二回目のパスで10 kWであった。
【0088】
この変更された堆積条件によって、屈折率と密度が実質的に実施例1で得られたものと同じである酸化亜鉛層を生成することが可能になった。
【0089】
実施例5
この例では、厚さ95 nmの酸化チタン層が本発明にしたがってガラス基板に堆積された。
【0090】
この堆積は実施例1と同じスパッタリング・チャンバで移動する基板に、アルゴンだけを含むスパッタリング・カソードでの雰囲気で行われた。スパッタリング・チャンバに置かれた線状イオン源を用いて、スパッタリングと同時に、100%酸素で構成される雰囲気を用いてイオンビームが生成された。源は、ビームを基板に20°または45°という角度Aで導くように傾けられた。
【0091】
堆積条件は表2aに示されている。
2a
【表5】

【0092】
最初に、堆積はイオンビームへの曝露なしに行われ、二回目に線状イオン源(4)を用いて酸素イオンビーム(3)が印加された。イオンビームは20または45°の角度で基板に導かれ、イオン源の端子間に、500、1000eV、および2000eVの電圧[V]が印加された。
【0093】
図3は、得られた屈折率nの変化を示す。
イオンビームへの曝露なしに堆積された層と種々の電圧で堆積された層が、X線反射法によって分析されて密度が決定された。測定された値を下の表2bに示す。
【0094】
2b
【表6】

【0095】
*nm:値は測定されなかった
この場合、層の屈折率はこうして形成される層の密度と同じような仕方で変化することが見られる。
【0096】
次のことが見出された:
−イオン源の角度を増大させることによって屈折率を増加させることが可能である(TiOの密度にわずかな増加);
【0097】
−低い電圧(500 V)、したがって、低いエネルギー(250eV)で衝撃することによって屈折率を増加させることが可能になる(密度にわずかな増加);および
【0098】
−高い電圧(700−2000 V)で衝撃することによって屈折率を減少させることが可能になる。
【0099】
したがって、TiO層の機械的完全性はこの処理によって影響されなかった。これは機械的完全性テストによって確認された。
【0100】
Rutherford後方散乱スペクトロスコピー測定は、TiO層が0.45at%という量のアルゴンを含むことを示した。
【0101】
本発明を上で実施例について説明してきた。もちろん、当業者は本発明の別の種々の態様を特許請求の範囲で定められる本発明の範囲から逸脱することなく作り出すことができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明による装置の長手方向断面図を示す。
【図2】図2は、本発明にしたがって堆積されたZnO層で得られた屈折率をイオン源の端子に印加された電圧の関数として示す。
【図3】図3は、本発明にしたがって堆積されたTiO層で得られた屈折率をイオン源の端子に印加された電圧の関数として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)、特にガラス基板、であって、イオン源(4)からの少なくとも一つのイオンビーム(3)への曝露と(with)、スパッタリング、特に磁気強化型(magnetically enhanced)スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングによって堆積される少なくとも一つの誘電体薄膜層がコートされ、該イオンビームに曝露された前記誘電体層がイオン源のパラメータによって調整される屈折率を有し、前記イオン源が線状(linear)源であることを特徴とする基板(1)。
【請求項2】
該イオンビームへの曝露とスパッタリングによって該基板に堆積された前記誘電体層の密度が保たれることを特徴とする請求項1に記載の基板(1)。
【請求項3】
該イオンビームへ曝露された該誘電体層の屈折率が該イオンビームへの曝露なしに堆積された層の屈折率に近いことを特徴とする請求項1または2に記載の基板(1)。
【請求項4】
該イオンビームへ曝露された該誘電体層の屈折率が該イオンビームへの曝露なしに堆積された層の屈折率よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項5】
該イオンビームへ曝露された該誘電体層の屈折率が該イオンビームへの曝露なしに堆積された層の屈折率よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項6】
前記層の屈折率勾配が該イオン源層のパラメータにしたがって調整されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項7】
前記誘電体層が、化学量論的であるかどうかに関わりなく金属酸化物またはシリコン酸化物から作られる、または金属窒化物または酸化窒化物、またはシリコン窒化物または酸化窒化物から作られることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項8】
前記誘電体層が、シリコン、亜鉛、タンタル、チタン、錫、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、インジウム、セリウム、およびタングステンから取られる少なくとも一つの元素の酸化物から作られることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項9】
該層が酸化亜鉛から作られ、その屈折率が1.95以下、特に1.85〜1.95であることを特徴とする請求項8に記載の基板(1)。
【請求項10】
該層が酸化亜鉛から作られ、その密度が約5.3g/cmであることを特徴とする請求項8または9に記載の基板(1)。
【請求項11】
前記誘電体層がシリコン窒化物または酸化窒化物から作られることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項12】
前記層のアルゴン含有量が約0.2〜0.6at%であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項13】
前記層の鉄含有量が3at%以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項14】
基板が多重層によってコートされ、その中で銀層がイオンビームに曝露された前記誘電体層の上に置かれていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項15】
別の誘電体層が該銀層の上に置かれていることを特徴とする請求項14に記載の基板(1)。
【請求項16】
該多重層が少なくとも二つの銀層を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の基板(1)。
【請求項17】
該基板の表面抵抗Rが6 Ω/□よりも小さい、さらには2.1Ω/□よりも小さい、特に約1.9Ω/□であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の基板(1)。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の基板(1)を少なくとも一つ含むグレージング・アセンブリ、特にダブル・グレージングまたはラミネーテッド・グレージング・アセンブリ。
【請求項19】
基板(1)への堆積のプロセスであって、少なくとも一つの誘電体薄膜層が、スパッタリング・チャンバ(2)においてスパッタリングによって、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングによって、イオン源(4)から来る少なくとも一つのイオンビーム(3)への曝露と該基板に堆積され、該スパッタリング・チャンバにおいて線状源を用いてイオンビームが生成され、該イオンビームに曝露された前記誘電体層の屈折率は該イオン源のパラメータによって調整できることを特徴とするプロセス。
【請求項20】
酸素イオンビームが生成されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
イオンビームが200〜2000eVのエネルギーで、さらには500〜5000eVのエネルギーで生成されることを特徴とする請求項19または20に記載のプロセス。
【請求項22】
該イオンビームへの曝露とスパッタリングによって該基板に堆積された該誘電体層の密度が保存される(preserved)ことを特徴とする請求項19〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
該イオンビームに曝露された誘電体層の屈折率が、該イオンビームなしで堆積されたこの層の屈折率に比べて低下していることを特徴とする請求項19〜22のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
該イオンビームに曝露された誘電体層の屈折率が、該イオンビームなしで堆積されたこの層の屈折率に比べて増加していることを特徴とする請求項19〜22のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】
イオンビームへの曝露がスパッタリングによる該層の堆積と同時に行われることを特徴とする請求項19〜24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
イオンビームへの曝露がスパッタリングによって該層が堆積された後で継起的(sequentially)に行われることを特徴とする請求項19〜25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
イオンビームが該基板(1)に、特に該基板の表面とゼロでない角度をなす方向に沿って、好ましくは該基板の表面と10〜80°の角度をなす方向に沿って導かれることを特徴とする請求項19〜26のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項28】
イオンビームが少なくとも一つのカソードに、特に該カソードの表面とゼロでない角度をなす方向に沿って、好ましくは該カソードの表面と10〜80°の角度をなす方向に沿って導かれることを特徴とする請求項19〜27のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項29】
該誘電体層が酸化亜鉛をベースとすることを特徴とする請求項19〜28のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項30】
イオンビーム(3)がスパッタリング・チャンバ(2)においてスパッタリングによる該層の堆積と同時に線状イオン源(4)から生成され、堆積された層が次に少なくとも一つの他のイオンビームによって追加処理を受けることを特徴とする請求項19〜29のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項31】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の基板を製造するために、または請求項19〜30のいずれか1項に記載のプロセスを実施するために、基板(1)、特にガラス基板に堆積する装置(10)であって、その中で少なくとも一つのイオンビーム(3)への曝露と、スパッタリング、特に磁気強化型スパッタリング、および好ましくは酸素および/または窒素の存在下における反応性スパッタリングによって少なくとも一つの誘電体薄膜層が該基板に堆積されるスパッタリング・チャンバ(2)を含み、少なくとも一つのイオンビームを生成できる少なくとも一つの線状イオン源(4)を該スパッタリング・チャンバ(2)内に含むことを特徴とする装置(10)。
【請求項32】
線状イオン源が、イオンビームを基板に、特に基板の表面とゼロでない角度、好ましくは10〜80°の角度をなす方向に沿って導くように配置されることを特徴とする請求項31に記載の装置(10)。
【請求項33】
線状イオン源が、イオンビームを少なくとも一つのカソードに、特にこのカソードの表面とゼロでない角度、好ましくは10〜80°の角度をなす方向に沿って導くように配置されることを特徴とする請求項31または32に記載の装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−519817(P2007−519817A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516336(P2006−516336)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001652
【国際公開番号】WO2005/000759
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】