説明

誘電体形状の非接触測定用プローブ及び非接触測定装置

【課題】微小穴の内径等の微細形状の測定に際して、測定の非接触化による高精度化を図ると共に、光量変化の検出という単純な検出原理によるシステムの簡素化、低価格化を図る。
【解決手段】側面がセンシング面12Bであるコア12のみで構成され、該コア12の端面12A、または、前記センシング面12Bとコア端面12Aとの間の該コア12内、もしくは該コア端面12Aの外側の少なくともいずれか一つに反射面を有する光ファイバ10を備え、前記センシング面12Bへの誘電体ワーク16の近接により生じる、前記光ファイバ10に入射され、前記反射面で反射されて戻ってきた光の減衰を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体形状の非接触測定用プローブ及び非接触測定装置に係り、特に、ガラス等の透明体(誘電体)に開いた直径数十μm程度の微小穴の内径等の微細形状測定に用いるのに好適な、誘電体形状の非接触測定用プローブ、及び、これを用いた誘電体形状の非接触測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小穴の内径等の微細形状測定に関して、出願人は特許文献1で、先端球直径が数十μmの3次元測定用スタイラスの製造方法と、このスタイラスを備えた接触式センサを提案し、特許文献2で、このスタイラスを圧電素子により軸方向に微小振動させながら、接触による振動状態の変化を検出して表面形状を測定する技術を提案している。特許文献1で提案したように極細スタイラスの製作を可能としたことで、それまで困難とされてきた、非常に小さな穴の内径等の測定が可能となっている。
【0003】
しかしながら特許文献1や2に記載した技術では、加工の難しい、スタイラス先端の微小球の形状誤差が測定誤差を生ずる。又、接触式であるため、測定力によるワークの変形やスタイラス軸の変形が測定誤差を生ずる。更に、スタイラスを圧電素子で微小振動させて、接触による振動状態の変化を検出する必要があるため、測定システムが複雑、高価になる等の問題点を有していた。
【0004】
一方、屈折率が大きい媒質から小さい媒質に光が入るとき、入射角がある一定の角度以上の場合、入射光が境界面を透過せず、全て反射する。この現象を全反射という。しかし、厳密には、図2(A)に示す如く、屈折率の小さい媒質(図では空気)中に光の波長の数倍程度だけ境界面から浸透した後、屈折率の大きい物質(図ではコア12)へと戻っている。この浸透する光をエバネッセント光(近接場光)という。
【0005】
このエバネッセント光に、図2(B)に示す如く、屈折率の大きい媒質(図では誘電体ワーク16)を近づけていくと、光の一部は、近づけた媒質側へ透過する(全反射が崩れる)。
【0006】
このようなエバネッセント光を利用した技術として、特許文献3や4がある。
【0007】
特許文献3に記載の光ファイバカプラは、2本の光ファイバのクラッド部を薄くしてコア同士を近づけることで、光の全反射の崩れを利用して、エバネッセント光が互いのコア間で行き来できるようにして、光を分岐、結合するものである(クラッド研磨型の光カプラ)。光ファイバ型のビームスプリッタとも言えるもので、コア間距離により分岐を調整することができる。
【0008】
一方、特許文献4に記載の走査型近接場顕微鏡(SNOM)では、光の全反射の崩れではなく、光のトンネル効果を利用して、延伸や加工により先端を細く尖らせた微細な光ファイバの先端を除く周囲を金属コーティングしたプローブを試料表面に近接させた時に、光ファイバ先端の小開口に生じるエバネッセントフィールドが、試料の近接により変化することを利用して、エバネッセント光により光ファイバの軸方向先端への試料近接を検出するようにしている。
【0009】
又、特許文献5には、光ファイバのコア内部に特定の波長の光を反射する反射面を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−114118号公報
【特許文献2】特許第4009152号公報
【特許文献3】特公平7−7136号公報
【特許文献4】特開2003−207437号公報
【特許文献5】特開平10−213719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら従来、光ファイバのコア側面におけるエバネッセント光の全反射の崩れを利用したプローブは提案されていなかった。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、光ファイバのコア側面におけるエバネッセント光の全反射の崩れを利用して、微小穴の内径等の微細形状の測定の非接触化による高精度化を可能にすると共に、光量変化の検出という単純な検出原理によるシステムの簡素化、低価格化を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
光ファイバでは、屈折率の大きい内側のコアと屈折率の小さい外側のクラッドとの境界で光を全反射させながら、光をコア内に閉じ込めて伝送している。ここで、図1に示す如く、光ファイバ10の途中から先のクラッド14を、例えば化学エッチングで除去してコア12のみとする(コア径、例えば直径6μmから数百μm、除去長さ数mm〜数cm程度)。このとき、むき出しのコア側面12Bがセンシング面となる。
【0014】
この際、屈折率の大きいコアと屈折率の小さい周りの空気との間で、全反射条件は満たし続けるはずである。従って、測定対象の誘電体が近接しないときには、図2(A)に示す如く、エバネッセント光がコア12に戻り、全反射を維持してコア内を伝搬する。
【0015】
一方、空気より屈折率が大きい誘電体(例えば透明体)ワークがコア側面(センシング面)12Bに近付いていき、光波長程度の距離(数μm)まで近接すると、図2(B)に示す如く、全反射が崩れ、エバネッセント光の一部がコア12に戻らず、近接した誘電体ワーク16側へ透過する現象が生じる。
【0016】
従って、図1に示すプローブの第1例の如く、例えば光ファイバコア12の先端面12Aを平面研磨して、ミラーコートし、図1(B)の上から入射した光がファイバ10内を戻るようにしておけば、センシング面であるコア側面12Bへの誘電体の近接を、反射光の光量変化による検出されるファイバ中の光量減衰の度合から非接触で検出できる。なお、光ファイバ内を伝播する光を反射する方法は、これに限定されず、特許文献5に記載されているように、光ファイバのコア内部に特定の波長の光を反射する反射面を設けたり、コア端面の外側に別途反射面を設けても良い。
【0017】
本発明は、このような原理に基づいてなされたもので、側面がセンシング面であるコアのみで構成され、該コアの端面、または、前記センシング面とコア端面との間の該コア内、もしくは該コア端面の外側の少なくともいずれか一つに反射面を有する光ファイバを備え、前記センシング面への誘電体ワークの近接により生じる、前記光ファイバに入射され、前記反射面で反射されて戻ってきた光の減衰を検出することを特徴とする誘電体形状の非接触測定用プローブにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
本発明は、又、側面がセンシング面であるコアのみで構成され、該コアの端面、または、前記センシング面とコア端面との間の該コア内、もしくは該コア端面の外側の少なくともいずれか一つに反射面を有する光ファイバを備えた非接触測定用プローブと、該プローブの光ファイバに光を入射する光源と、前記プローブの前記反射面で反射されて光ファイバを戻ってきた光を受光する受光素子と、該受光素子で検出される光の減衰を検出する光量減衰検出回路と、該光量減衰検出回路で検出される、前記センシング面への誘電体ワークの近接により生じる光の減衰が閾値以上になった時にワーク近接検出信号を生成するワーク近接検出信号生成回路と、を備えたことを特徴とする誘電体形状の非接触測定装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、(1)測定を非接触で行なえるので、高精度化を図ることができる。即ち、特許文献1や2のスタイラス先端球の形状誤差等が無い。又、非接触式なので、測定力によるワークの変形や、スタイラス軸の変形による測定誤差が無く、軟質ワークでも、精度良く測定できる。更に、プローブ内に能動素子が無いので、発熱によるドリフトが無い。
【0020】
又、(2)プローブの構造が簡単で、光ファイバ内に光を送り、戻り光の光量減衰を検出するだけの簡単な信号処理であるため、システムの低価格化と簡素化が実現できる。
【0021】
更に、(3)光ファイバのむき出しのコアで構成されるセンシング部が細いので、微小穴の内径の測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るプローブの第1例の構成を示す(A)平面図及び(B)縦断面図
【図2】本発明の原理を示す断面図
【図3】本発明に係る測定装置の第1実施形態の構成を示すブロック図
【図4】第1実施形態を三次元座標測定機に取付けた状態を示す斜視図
【図5】本発明の作用を説明するための平面図
【図6】本発明に係る測定装置の第2実施形態の要部構成を示す正面図
【図7】本発明に係る測定装置の第3実施形態の要部構成を示す正面図
【図8】本発明に係るプローブの第2例の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る測定装置の第1実施形態は、図3に示す如く、先端部のクラッドを除去してコアのみを残し、コア先端面(図では下端面)を平面研磨してミラーコートした光ファイバ10(図1参照)を備えた第1例のプローブ20と、該プローブ20の光ファイバ10に光を入射する光源(例えばレーザダイオードLD)22と、該光源22を駆動する発光回路24と、前記プローブ20のコア先端面で反射されて光ファイバ10を戻ってきた光を取り出すための、例えば特許文献3に記載されたような構成の光ファイバカプラ30と、該光ファイバカプラ30によって光ファイバ32に取り出した光を受光する受光素子34と、該受光素子34で検出される光の減衰を検出する光量減衰検出回路36と、該光量減衰検出回路36で検出される、センシング面であるコア側面への誘電体ワーク16の近接による生じる光の減衰が閾値以上になったときにワーク近接検出信号を生成するワーク近接検出信号生成回路38とを備えている。
【0025】
前記プローブ20は、微動機構40により、ワーク16の(内径)測定方向へ狭い範囲で高精度に移動される。
【0026】
又、前記プローブ20及び微動機構40は、例えば図4に示すような3次元座標測定装置42のヘッド44に装着され、ワーク16の全体形状に沿って移動可能とされている。
【0027】
以下、ガラス等の透明な誘電体に開いた微小穴(直径数十μm程度)の内径測定を例にとって、作用を説明する。
【0028】
図5に示す如く、光ファイバ10の先端を、ワーク16の穴16Aの中に入れ、穴の直径方向に移動可能な微動機構40で動かし、戻り光が減衰閾値になる穴径方向両端の位置x1、x2を測定する。
【0029】
すると、穴の内径Dは、次式により測定できる。
【0030】
D=X+2r+2d …(1)
ここで、Xは、前記両端位置x1、x2の間の距離(x2−x1)、rは光ファイバ10のコア12の半径、dは、減衰閾値での誘電体とコア側面12B間の距離である。
【0031】
なお、光ファイバには、ガラス光ファイバとプラスチック光ファイバとがあるが、本発明は、いずれの光ファイバにも適用可能である。ガラスには、空気中の水分(水酸基)による材料劣化特性があるので、保護膜を光ファイバにコートすることが望ましい。このとき、センシング面であるコア側面12Bのコート厚さは、サブミクロン以下として、センシング感度を確保することができる。
【0032】
又、光ファイバを伝搬する光のモードとしては、シングルモード、マルチモードのいずれも使用可能である。
【0033】
コアをむき出しにする方法は、化学エッチングに限定されず、戻り光を取り出す方法も、光ファイバカプラ30を用いる方法に限定されない。
【0034】
前記実施形態においては、本発明が穴の内径の測定に適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、図4に示したように、例えば3次元座標測定機42のヘッド44により、プローブ20をワーク16の外側に沿って移動することによって、外形等、穴以外の微細形状の測定も可能である。
【0035】
更に、ワーク16の形状によっては、図6に示す第2実施形態の如く、コア12の下端を把持機構46により把持し、下方から引張ってコア側面(センシング面)12Bが曲がらないようにすることができる。この場合、把持機構46側にミラーコートしても良い。
【0036】
又、図7に示す第3実施形態の如く、コア12をU字形状に曲げて、ワーク16の側面でなく、上面の位置を検出可能とすることもできる。
【0037】
又、プローブに関しても、図1に示した第1例に限定されず、図8に示す第2例のように、特許文献5に記載されたような、光ファイバのコア内部に特定の波長の光を反射する反射面を設けた物を用いても良い。図において、50はファイバコリメータ(屈折率分布型ファイバチップレンズ)、52はファイバ回折格子(ブラック回折格子付ガラスファイバチップ)である。又、図6の場合は、光ファイバ側でなく、把持機構46側に反射面を設けても良い。
【符号の説明】
【0038】
10…光ファイバ
12…コア
12A…コア先端面(ミラーコート面)
12B…コア側面(センシング面)
14…クラッド
16…誘電体ワーク
16A…穴
20…プローブ
22…光源(LD)
24…発光回路
30…光ファイバカプラ
34…受光素子
36…光量減衰検出回路
38…ワーク近接検出信号生成回路
40…微動機構
42…3次元座標測定機
44…ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面がセンシング面であるコアのみで構成され、該コアの端面、または、前記センシング面とコア端面との間の該コア内、もしくは該コア端面の外側の少なくともいずれか一つに反射面を有する光ファイバを備え、
前記センシング面への誘電体ワークの近接により生じる、前記光ファイバに入射され、前記反射面で反射されて戻ってきた光の減衰を検出することを特徴とする誘電体形状の非接触測定用プローブ。
【請求項2】
側面がセンシング面であるコアのみで構成され、該コアの端面、または、前記センシング面とコア端面との間の該コア内、もしくは該コア端面の外側の少なくともいずれか一つに反射面を有する光ファイバを備えた非接触測定用プローブと、
該プローブの光ファイバに光を入射する光源と、
前記プローブの前記反射面で反射されて光ファイバを戻ってきた光を受光する受光素子と、
該受光素子で検出される光の減衰を検出する光量減衰検出回路と、
該光量減衰検出回路で検出される、前記センシング面への誘電体ワークの近接により生じる光の減衰が閾値以上になった時にワーク近接検出信号を生成するワーク近接検出信号生成回路と、
を備えたことを特徴とする誘電体形状の非接触測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−27639(P2011−27639A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175794(P2009−175794)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】