誘電体材料、誘電体素子、および誘電体素子作成方法
【課題】結晶構造が同一で異なる誘電率を示す誘電体、およびこれを用いた誘電体素子を提供する。
【解決手段】酸素と金属元素からなる金属酸化物絶縁体であり、絶縁体を構成する酸素原子のすべてがO17またはO18、あるいは酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかであり、金属酸化物を構成する酸素同位体の種類あるいは比率を変えることにより、誘電率を変化できる誘電体材料、およびこれを用いた誘電体素子。誘電体素子では酸素同位体の分布が不均一であり、酸素原子の平均質量が大きい部分の誘電率が高く、酸素の平均質量が小さい部分の誘電率が低くなっている。素子は、O17あるいはO18からなる水を用いるゾルゲル法により作成される。
【解決手段】酸素と金属元素からなる金属酸化物絶縁体であり、絶縁体を構成する酸素原子のすべてがO17またはO18、あるいは酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかであり、金属酸化物を構成する酸素同位体の種類あるいは比率を変えることにより、誘電率を変化できる誘電体材料、およびこれを用いた誘電体素子。誘電体素子では酸素同位体の分布が不均一であり、酸素原子の平均質量が大きい部分の誘電率が高く、酸素の平均質量が小さい部分の誘電率が低くなっている。素子は、O17あるいはO18からなる水を用いるゾルゲル法により作成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数が数10ギガヘルツから数テラヘルツの電磁波の伝送に必要な誘電体材料及び誘電体素子、並びに誘電体素子作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波エレクトロニクスの発展により、周波数が数10から数テラヘルツの電磁波応用が注目されている。これらの高周波は、これまで宇宙天文学やプラズマ物理学等の学術分野で活用されてきたが、高周波技術の発展により、最近は車載レーダ、高速無線LAN、画像伝送、危険物検査等の民生技術への適用も行われはじめている。
【0003】
周波数が数10から数テラヘルツの高周波は、光波としての性質が強く、その伝送には光波に対するのと同様に導波路が用いられる。導波には平行2線(レッヘル線)、同軸線、ストリップ線に代表される2導体系伝送路、中空導波管、誘電体導波路等の技術が用いられる。2導体系伝送路及び中空導波管は、導体が電磁波を反射すること、誘電体導波路は屈折率が異なる誘電体の界面で電磁波が反射されることを利用するものである。周波数が数10〜数100ギガヘルツであるミリ波伝送の従来技術は、たとえば内藤著「マイクロ波・ミリ波工学」(コロナ社、1986年)に示されている。また、ミリ波の中でも周波数が数100から数テラヘルツのサブミリ波に関する伝送技術は、テラヘルツテクノロジーフォーラム編「テラヘルツ技術便覧」(エヌ・ジー・ティー社、2007年)に示されている。
【0004】
ミリ波及びサブミリ波はマイクロ波より周波数が高いため、2導体系伝送路や導波管等のマイクロ波技術により伝送を行うと伝送損失が大きくなるという問題がある、これは、ミリ波に対しては導体の抵抗はゼロでなく、導体表面でジュール損が発生するためである。ミリ波及びサブミリ波の伝送技術としては、これら導体を用いる伝送技術より、導体を用いない誘電体導波路がより適している。誘電体導波路の提案例としては、たとえば特許文献1(特開2005-31574)、特許文献2(特開2004-23697)等がある。誘電体導波路は、屈折率が異なる2種類の誘電体からなり、誘電率が高い誘電体を伝送路(コア)とし、コアの周囲を誘電率の低い誘電体(クラッド)で覆うことにより形成される。誘電体導波路の形成法に関しては、たとえば特許文献3(特開2003-161852)の提案がある。
【0005】
誘電体導波路には、誘電損失が低い材料を用いる必要がある。ミリ波域における誘電損失に関しては非特許文献1に総説がある。
【0006】
また、ミリ波およびサブミリ波のフィルターには、誘電体多層フィルターが用いられる。誘電体多層フィルターは、誘電率が異なる2種類の誘電体を交互に周期的に積層したものであり、積層構造を適宜設計することに様々なフィルター特性が得られる。誘電体フィルターは、導体を使用した干渉フィルターと比較して損失が小さい利点がある。誘電体多層フィルターに関しては、たとえば、前出の「テラヘルツ技術便覧」322ページに低誘電体材料にアルミナ(Al2O3)、高屈折率材料にチタニア(TiO2)を用いてサブミリ波用誘電体多層フィルターを作成した例が紹介されている。
【0007】
なお、本発明の誘電体材料に関する先行技術情報として、誘電率の同位体効果について記述した以下の非特許文献がある。
【0008】
非特許文献2は、塩化カリウムにLi6をドープした場合とLi7ドープした場合で、温度1K以下で観測される誘電率が異なることを示した文献である。非特許文献3は、電磁波のエネルギーが約3eV付近の光学領域で同位体効果によりSi28とSi30シリコン結晶の誘電率が異なることを報告した文献である。
【0009】
非特許文献2の報告内容は、常温においても誘電率を変化できる本発明とは本質的に異なる。また、非特許文献3の報告内容は、電子遷移が関与する光学域における誘電率の同位体効果に関するものであり、イオン振動が関与する周波数が数10ギガヘルツから数テラヘルツの電磁波に対する誘電率に関する本発明とは物理的な原理が異なる。
【0010】
なお、本発明は、金属酸化物のミリ波およびサブミリ波に対する誘電率が、酸化物を構成する酸素の同位体の種類および比率により異なるという従来にはない知見に基づくものであり、これら公知の非特許文献により示唆されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-31574公報
【特許文献2】特開2004-23697公報
【特許文献3】特開2003-161852公報
【特許文献4】特開2004-257822公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. T. Sebastian and H. Jantunen, “Low loss dielectric materials for LTCC: a review”, International Material Reviews, vol. 53, pp.57-80 (2008).
【非特許文献2】C. Eness, M. Gaukler, M. Nullmeier, and R. Weis, “Novel Dielectric Relaxation in Li+ dopled KCl”, Physical Review Letters, vol.78, pp.370-373 (1997)
【非特許文献3】L. F. Lastras−Martines, T. Ruf, M. Konuma, and M. Cardona,” Isotope Effects on the Dielectric response of Si around the E1 gap”, Physical Review B, vol. 61, pp.12946-12951 (2000)
【非特許文献4】C. Kittel, “Introduction to Solid State Physics 6-th edition, pp.368-372, John Wiley & Sons, Inc. New York, 1986.
【非特許文献5】生研リーフレット ソフトウェアベース No.76 東京大学生産技術研究所, 2008; http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/publication/leaflet/041201/soft76.pdf
【非特許文献6】UVSOR 3.18東京大学生産技術研究所,2008;http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/rss21/result/download/index.php#download_4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路は、誘電体界面での誘電率差による電磁波の反射を利用して、電磁波のフィルターあるいは導波するものである。従来技術では、材料の誘電率が材料の結晶構造より異なることを利用して、結晶構造が異なる材料を組み合わせることにより、これらの誘電体素子を実現してきた。
【0014】
しかし、材料の結晶構造と誘電率の関係は自明ではなく、試行錯誤により材料を選定しなければいけないという問題点がある。
【0015】
たとえば、非特許文献1に掲載されているK0.9Ba0.1Ga1.1Ge2.9 O8とK0.4Ba0.6Ga1.6Ge2.4O8の誘電率と誘電損失を比較すると、前者の誘電率およびQf値はそれぞれ6.44および94.7テラヘルツであるのに対し、後者の誘電率およびQf値はそれぞれ6.60および12.6テラヘルツである。ここで、Qf値とは誘電損失の指標であり、誘電率実部に対する虚部の比であるtanδの逆数に測定周波数をかけたものである。Qf値が大きいほど、tanδが小さく誘電損失が小さい。上記二つの材料は化学組成が異なるにもかかわらず誘電率が類似しており、一方両者の誘電損失は大きく異なっている。
【0016】
このように、材料を組み合わせて誘電体素子に必要な誘電率差を得ることは容易ではない。また、材料の結晶構造と誘電損失の関係はより複雑であり、素子に必要な誘電損失が小さい材料を結晶構造から判断することは、現在の材料科学をもってしてもほとんど不可能である。
【0017】
従来の技術は、材料の誘電率が材料の化学組成により異なるというよく知られた事実に基き、複数の異なる化学組成を有する誘電体を組み合わせて誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路等の誘電体素子を構成していた。しかし、誘電体の化学組成と誘電率の関係は必ずしも自明ではないため、素子内部の誘電率差を精密に制御することが不可能であった。
【0018】
このため、従来技術では、材料の誘電率測定実験行うことにより、素子に必要な誘電体を見出そうとするが、ミリ波およびサブミリ波周波数域の誘電率測定実験は困難であるのが現状である。
【0019】
また、従来の技術では異なる誘電体材料を組み合わせて誘電体素子を作成するため、必然的に異種材料界面が形成され、界面おける化学反応あるいは材料の線膨張係数の違いによる熱応力による材料の破損が発生しやすいという問題があった。
【0020】
このように、異なる誘電体材料を組み合わせて誘電体素子を作成する従来技術は、材料設計上および素子設計上の問題を有する。
【0021】
本発明の目的は、従来技術の問題点を解決するための誘電体材料、およびそれを用いた誘電体素子、ならびに素子の作成方法を提供し、ミリ波およびサブミリ波用誘電体素子の作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための手段である本発明の誘電体材料、誘電体素子、および素子作成方法は以下の通りである。
本発明の誘電体材料は、酸素原子と金属原子からなる金属酸化物絶縁体であり、絶縁体を構成する酸素原子のすべてがO17またはO18、あるいは酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかであり、金属酸化物を構成する酸素同位体の種類あるいは比率を変えることにより、結晶構造を同一に保ちつつ常温における電磁波に対する誘電率を変化できる誘電体材料である
本発明の誘電体材料は、金属原子がハフニウムであり、金属酸化物絶縁体が立方晶ハフニアである誘電体材料である。
【0023】
本発明の誘電体素子は、酸素同位体の分布が不均一であり、酸素原子の平均質量の大きな部分の誘電率が大きく、酸素原子の平均質量の小さな部分の誘電率が小さいことを特徴とする、誘電体素子である。
【0024】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニアと酸素原子のすべてがO17である立方晶ハフニアを交互に周期的に積層して形成され、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用する、誘電体素子である。
【0025】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニアと酸素原子のすべてがO18ある立方晶ハフニアを交互に周期的に積層して形成され、周波数が2500ヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用する、前記類似の誘電体素子である。
【0026】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニア基板にO17を部分的にドープして形成され、O17がドープされた部分が導波路コア、それ以外の部分が導波路クラッドとして機能し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波する、誘電体素子である。
【0027】
本発明の誘電体素子は、前記誘電体材料基板にO18を部分的にドープして形成され、O18がドープされた部分が導波路コアとして機能し、周波数が2500ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波することを特徴とする前記類似の誘電体素子である。
【0028】
本発明の素子作成方法は、自然状態の水およびO17あるいはO18で構成される水を用いるゾル・ゲル法により前記電磁波に対するフィルターとして作用する誘電体素子ならびに導波路として作用する素子を作成する方法である。
【0029】
本願発明の思想は以下のとおりである。すなわち、結晶構造が同一で誘電率が連続に変化する材料を用いて誘電体素子を作成すれば、素子内部の誘電率差を精密に設計することができ、材料の選定に関する従来技術の問題点、ならびに素子材料界面に関する従来技術の問題点は解決する。結晶構造が同一であれば、その材料は化学的に同一であるので、材料を接合させた場合でも材料界面がそもそも存在しないからである。
【0030】
周波数が数10から数テラヘルツのミリ波およびサブミリ波帯における材料の誘電率は、材料の電子状態と材料を構成する原子の振動状態に依存して変化することが知られている。材料の化学構造が異なると誘電率が異なるのは、構造により電子状態とイオンの振動状態が異なるためである。従来技術はこのことを利用して、化学構造が異なる材料を組み合わせて誘電体素子を作成している。
【0031】
しかし、誘電率を変えるには、材料の電子状態と材料を構成する原子の振動状態の両方を変化させる必要はなく、どちらかを変えれば十分である。材料の電子状態を変えるには、材料の結晶構造を変える必要があるが、原子の振動状態は原子をその同位体で置換すれば変化できる。材料を構成する原子の振動状態は、原子の質量と原子間の化学結合の強さで決まるが、原子をその同位体で置換すれば、化学結合を変えずに原子の質量のみを変えることができるからである。
【0032】
ここで、同位体とは、質量が異なる同一の元素を意味する。同位体の原子核は、同一の電荷を有するため化学的な性質が同じであるが、原子核を構成する中性子の数が異なるため、質量が異なる。
材料を構成する酸素の同位体の種類および比率を変えて誘電率を変化させた場合でも結晶構造は変化しないので、本発明の誘電体材料を用いて誘電体素子を作成すれば、従来技術の問題点は解決する。
【0033】
本発明の誘電体素子は、本発明の誘電体材料を用いることにより、結晶構造が単一の誘電体材料により誘電体多層フィルターおよび誘電体導波路を構成したものである。
誘電体素子は、一般に誘電率の高い部分と低い部分からなり、誘電率の高い部分と低い部分の界面で電磁波を反射して機能を発現する。
本発明の誘電体材料は、材料を構成する酸素原子の平均質量に依存し、平均質量が大きな材料ほど誘電率が大きい特徴がある。そこで本発明では、本発明の誘電体材料の有するこの性質を利用し、誘電率を高くすべき素子の部分を構成する材料の酸素の平均質量をより大きく、誘電率を低くすべき素子の部分の酸素の平均質量をより小さくして、前者の部分の誘電率をより高く、後者の部分の誘電率をより低くすることにより、誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路として機能する誘電体素子を構成できるようにした。
【0034】
本発明の誘電体素子では、素子内部の酸素の同位体分布を変えることにより酸素の平均質量を変化させて素子に必要な誘電率差を生じさせるので、異なる材料を組み合わせて素子を作成する従来技術と比較して素子の作成プロセスが簡便である。
【0035】
また、本発明の誘電体素子は、高誘電率部分と低誘電率部分の化学組成が同じであるため、従来技術のように素子界面での化学反応や熱応力が問題とならない利点がある。
【0036】
本発明の素子作成方法は、立方晶ハフニアからなる誘電体多層フィルターとして機能する本発明の誘電体素子をゾル・ゲル法により作成するものである。ゾル・ゲル法で使用する水に含まれる酸素の同位体の種類あるいは酸素同位体の存在比を変えることにより、酸素の平均質量が大きく誘電率の高いハフニア層と平均質量が小さく誘電率の小さいハフニア層を作成でき、これらのハフニア層を交互に積層することにより誘電体多層フィルターとして機能する本発明の誘電体素子を作成できる。
ゾル・ゲル法によるハフニア膜の作成法は公知であり、容易に行うことができる。ゾル・ゲル法によるハフニア膜の作成法に関しては、たとえば特許文献4(特開2004-267822)がある。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、材料の結晶構造を変えることなく、材料を構成する原子をその同位体で置換することにより誘電率を変えることができる。
【0038】
本発明の誘電体材料は金属酸化物であり、材料を構成する酸素の同位体の種類および比率を変えることにより、誘電率が連続的変化する特徴がある。また、本発明の素子作成方法は、公知の技術を用いて本発明の誘電体素子を作成でき、材料プロセスが容易であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】立方晶ハフニアの誘電関数を示す図。
【図2】立方晶ハフニア誘電率の酸素同位体依存性を示す図。
【図3】立方晶ハフニア誘電関数のハフニウム同位体依存性を示す図。
【図4】立方晶ハフニアの誘電率差を示す図。
【図5】立法晶ハフニアの誘電損失を示す図。
【図6】実施例1の誘電体素子の断面説明図。
【図7】実施例3の説明図。
【図8】実施例5の誘電体素子の断面説明図。
【図9】実施例5の誘電体素子の断面説明図。
【図10】実施例5の誘電体素子に電磁波を導波させる方法を示す図。
【図11】実施例7の説明図。
【図12】電磁波周波数とdの関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の誘電体材料は、結晶構造が同一で誘電率が連続的に変化する材料、という従来にはない知見に基づくものであるため、まずこれについて述べる。材料の誘電率は、材料に外部より電場をかけた場合に材料が電気的に分極することにより生じ、電気分極が外部電場の強度に比例することはよく知られている。比例係数は線形感受率と呼ばれ、誘電率はこの線形感受率に真空の誘電率を足したものとして定義される。真空の誘電率に対する材料の誘電率の比が材料の比誘電率である。以下、誘電率は比誘電率を意味するものとする。
【0041】
材料の電気分極には、双極子分極、格子分極、ならびに電子分極がある、これらの分極は、それぞれ外部電場による双極子の配向、格子のひずみ、および電子状態の変化に起因する。これらの分極に対応して、双極子誘電率、格子誘電率、および電子誘電率が定義され、全誘電率はそれら誘電率の和として与えられる。
【0042】
材料の誘電率は、外部電場の周波数に応じて変化することが知られている。誘電率の周波数依存性は、双極子分極、格子分極、および電子分極の緩和時間(分極状態からもとの状態に戻るのに必要な時間)が異なるために生じる。固体の場合、双極子分極の緩和時間はマイクロ(10−6)秒程度、格子分極の緩和時間はピコ秒(10−12)秒程度、電子分極の緩和時間はフェムト(10−15)秒程度である。これらの分極は、緩和時間より短い電場の応答には追従できない。したがって、一般的に、双極子誘電率は、電場の周波数がメガ(106)ヘルツ、格子誘電率は周波数がテラ(1012)ヘルツ、電子誘電率は周波数がペタ(1015)ヘルツ以下でみられる。なお、双極子誘電率は液体、高分子および強誘電体でのみ観測される。電場周波数と誘電率の関係については、非特許文献4に詳しく記載されている。
【0043】
周波数は数10から数100ギガヘルツのミリ波に対する誘電率は、材料の格子誘電率と電子誘電率の和で与えられる。したがって、材料のミリ波誘電率は、材料の格子誘電率と電子誘電率を計算できれば予測できる。
【0044】
発明者は、第一原理法を用いて本発明の誘電体材料である立方晶ハフニア結晶の格子および電子誘電率を求め、同ハフニア結晶の常温での誘電率を求めた。
【0045】
ここで第一原理法とは、実験パラメータを用いることなく、材料の電子状態や格子振動状態を計算し、材料の構造あるは性質を明らかにする方法のことである。これまでの研究により、密度汎関数近似と呼ばれる第一原理法により、誘電体の構造や誘電率を実験によらずに計算できるようになっている。誘電率の第一原理計算は、絶対零度の条件で行われるが、常温での誘電率実測値をよく再現することが知られている。第一原理計算により、常温での誘電率が再現されることを示した文献として、非特許文献5がある。
【0046】
発明者は、非特許文献6に記載されているプログラムを用いて、本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアのミリ波およびサブミリ波域の誘電関数を計算した。使用したプログラムは、常温における誘電体の誘電率を精度よく計算できることがわかっており、結果は十分信用できるものである。
【0047】
誘電率計算に用いたパラメータは、立方晶ハフニアの結晶格子定数、格子を構成する原子の種類、位置パラメータ、ならびに質量である。誘電体を構成する原子の種類は、計算対象により決まり、立方晶ハフニアの場合には、ハフニウム(Hf)と酸素(O)である。O16、O17、あるいはO18の質量はそれぞれ16、17、および18とした。Hfの原子量は、自然界におけるHfの平均原子量(178.49)を用いた。
【0048】
ここで、原子の平均質量とは、原子の同位体の質量を存在比率で加重平均したものである。自然界におけるHfの平均原子量は、自然界に安定に存在するHfの同位体Hf177、Hf178、およびHf180の質量を、それらの存在比率(18.6:27.3:35.1)で加重平均して得られる。自然界におけるOの平均原子量は、安定な酸素同位体であるO16、O17、およびO18の質量をこれら同位体の存在比率(99.76:0.04:0.01)で加重平均して得られ、その値は15.9994である。
【0049】
比較のため、通常の立方晶ハフニアの誘電率を計算した。通常のハフニアとは、自然界のハフニウム(平均原子量178.49)および酸素(平均原子量15.9994)からなるハフニアのことである。
【0050】
計算では、まず立方晶ハフニアの格子定数ならびにHfとOの位置パラメータをエネルギーが最小になるように最適化し、次に最適構造での誘電率を計算した。最適化された格子定数および位置パラメータは、0の質量に依存せず、一定の値となった。本発明の誘電体材料である立方位ハフニアは、酸素同位体の種類および比率に依存せず、同一の結晶構造を有する。
【0051】
図1に誘電率計算結果を示す。ここで、HfO2(nat)は、自然状態の酸素からなるハフニア、HfO2(16)はO16からなるハフニア、HfO2(17)はO17からなるハフニア、HfO2(18)はO18からなるハフニアを意味する。ハフニア誘電率の依存性は、ハフニアを構成する酸素の同位体により異なり、零以外の周波数で比較すると、より重い酸素を有するハフニアはより大きな誘電率を有する。誘電率の大きさの序例は、HfO2(16)<HfO2(17)<HfO2(18)である。このように、本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアは、結晶構造が同一で誘電率が異なる。
【0052】
立方結晶ハフニアの酸素の質量を16から18まで0.5ごとに変化させて、その誘電率を計算した。4000ギガヘルツにおけるハフニア誘電率と酸素質量の関係を図2に示す。誘電率は、酸素質量とともに単調に増加する。他の周波数においても同様であるが、周波数が低くなるにつれ、周波数の変化幅が小さくなり、周波数が零では変化幅が零となる。
【0053】
本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアは、結晶構造を維持しつつ、同位体の存在比率を変えることにより誘電率を一定の範囲で連続的に変化させることができる。
【0054】
本発明の誘電体材料は、単一の酸素同位体あるいは複数の酸素同位体で構成されるが、酸素の平均質量が大きいほど大きなミリ波誘電率を示す特徴がある。
【0055】
ここでは、立方晶ハフニアにより本発明の誘電体材料を構成したが、O16、O17、あるいはO18のいずれかで構成される正方晶あるいは単斜晶ハフニアによって同様に本発明の誘電体材料が構成される。
【0056】
本発明では、金属酸化物の酸素の同位体の種類および存在比率を変えて本発明の誘電体材料を構成したが、化学構造が同一という意味では、酸素ではなく金属元素の同位体とその存在比率を変えて、本発明類似の誘電体材料を構成することも考えられる。
【0057】
そこで、Hf177、Hf178、あるいはHf180と自然状態の酸素からなる立方晶ハフニアの誘電率を同様に計算した。その結果を図3に示す。
【0058】
ここで、Hf(177)OはHf177からなるハフニア、Hf(178)OはHf178からなるハフニア、Hf(180)OはHf180からなるハフニアを意味する。Hf177、Hf178、あるいはHf180からなるハフニアの誘電関数はほぼ重なっており、これらハフニアはほぼ同じ誘電率を有する。すなわち、これらのハフニアは本発明の誘電体材料として機能しない。
【0059】
図4は、HfO2(16)、HfO2(17)、およびHfO2(18)とHfO2(nat)の各周波数における誘電率差をプロットしたものである。HfO2(16)とHfO2(nat)の誘電率差はほぼ零である。一方、HfO2(17)およびHfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差は周波数が零の場合を除き零ではない。
【0060】
誘電体素子は、誘電率の高い部分と低い部分を有するが、これら部分の間の誘電率差は、誘電率の平方根で与えられる屈折率に換算して1%以上とする必要がある。立方晶ハフニアの誘電率は約37であるので、立方晶ハフニアを用いて本発明の誘電体素子を作成する場合、ハフニアの誘電率を0.6以上である変化させる必要がある。
【0061】
HfO2(16)とHfO2(nat)の誘電率差はほぼ零であるため、これらのハフニアは本発明の誘電体材料を構成するには適さない。
【0062】
一方、HfO2(17)およびHfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差は、周波数を適切に選ぶことにより0.6以上とすることができ、本発明の誘電体素子を構成するのに適している。HfO2(17)とHfO2(nat)の誘電率差が0.6以上となるのは、3000ギガヘルツ以上、HfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差が0.6以上となるのは2500ギガヘルツ以上である。
【0063】
誘電体素子では、素子を構成する材料による電磁波の吸収を小さくする必要がある。材料による電磁波の吸収は、誘電損失で与えられ、損失の程度は誘電率虚部の実部に対する比率であるtanδで示される。
【0064】
HfO2(16)、HfO2(17)、およびHfO2(18)とHfO2(nat)のtanδの周波数依存性を計算した結果を図5に示す。
【0065】
tanδの値は低いほどよいが、少なくとも0.01以下である必要がある。上記立方晶ハフニアのtanδは周波数が4000ギガヘルツ以下で0.01以下であり、これらのハフニアは動作周波数を4000ギガヘルツである本発明の誘電体素子に適している。
【0066】
このように、本発明の誘電体素子は、本発明の誘電体材料を用いて構成される。以下、本発明の誘電体素子の具体例および素子の作成方法について、具体的な実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0067】
図6は、誘電体多層フィルターとして作用する本発明の誘電体素子の断面説明図である。低誘電率層1および高誘電率層2は立方晶ハフニアである本発明の誘電体材料であり、低誘電率層1のハフニアは、O16、O17、およびO18の比率が自然界における存在比である自然状態の酸素からなるハフニア、高誘電率層2のハフニアは、O17からなるハフニアである。入射電磁波3は本実施例の誘電体素子に入射される電磁波、反射波4は素子により反射される電磁波、透過波5は素子を透過する電磁波である。
【0068】
低誘電率層1と高誘電率層2は酸素の平均質量が異なり、低誘電率層1の酸素の質量は15.9994、高誘電率層2の酸素の平均質量は17であり、高誘電率層2の酸素平均質量は低誘電率層1のそれよりも大きく、高誘電率層2は低誘電率層1よりも電磁波に対する誘電率が大きくなっている。本実施例は、電磁波に対する誘電体多層フィルターとなっている。
【0069】
図4が示すように、低誘電率層1と高誘電率層2の誘電差は、入射電磁波3の周波数が3000ギガヘルツ以上で屈折率差に換算して1%より大きくなる。このため、本実施例は、入射電磁波3の周波数が3000ギガヘルツ以上の場合、有効な誘電体多層フィルターとして機能する。
【0070】
一方、図5に示したように、低誘電率層1および高誘電率層2のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下となる。電磁波の損失を抑えるためには、入射電磁波3の周波数は4000ギガヘルツ以下であることが望ましい。本実施例は、周波数が3000ギガヘルツから4000ヘルツの入射電磁波3に対する低損失な誘電体多層フィルターとして機能することができる。
【0071】
本実施例では、低誘電率層1と高誘電率層2の膜厚dを変えることにより、反射波4と透過波5の周波数を変えることができる。反射波4の周波数とdの関係を図12の表1に示す。透過波5は、反射波4以外の周波数を有する電磁波である。
【実施例2】
【0072】
本実施例は、図示はしないが、実施例1に類似の誘電体多層フィルターとして作用する本発明の誘電体素子である。本実施例では、高誘電率層2にO18からなる立方結晶ハフニアを用いる点が実施例1と異なり、他の構成は同じである。
【0073】
本実施例の場合、図4の説明においてのべたように、3の周波数が2500ギガヘルツ以上で1と2の誘電率差が屈折率差に換算して1%よりも大きくなり、周波数が2500以上の3にたいして有効な誘電体多層フィルターとして機能する。
【0074】
本実施例においても、1と2のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下となる。したがって、本実施例は、周波数が2500ギガヘルツから4000ヘルツの3に対する低損失な誘電体多層フィルターとして機能する。4の周波数とdの関係は図12の表1であたえられる。
【実施例3】
【0075】
本実施例は、本発明の素子作成方法を用いて実施例1の誘電体素子を作成する方法を説明するものである。本実施例による素子作成方法を図7に示す。
【0076】
最初に立方晶ハフニアの結晶を研磨し、作成すべき誘電体素子に必要な膜厚に加工して、基板6とする(図7(a))。使用するハフニア結晶は、酸素同位体O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率である通常のハフニア結晶である。膜厚の加工は、研磨により行う。素子に必要な膜厚は、作成される素子がフィルターすべき電磁波の周波数で決まり、その値は表1にまとめられている。
【0077】
四フッ化ハフニウム(HfF4)をO17からなる水H2O17に溶解したゾル液を作成し、室温で基板6の上に塗布し、誘電体層7を形成する。温度を100度程度に昇温し、HfF4とH2O17を反応させることにより、誘電体層7をアモルファス構造のハフニア(HfO2(17))とする(図7(b))。誘電体層8の膜厚は、素子が必要とする誘電体膜厚の1.5倍程度になるようにする。誘電体層7の膜厚を必要な厚さの1.5倍程度としたのは、続く結晶化プロセスで誘電体層7の膜厚が減少すること、ならびに研磨による膜厚の調整を可能にするためである。基板6と誘電体層7の2層膜を高温炉を用いて2700Kで熱処理し、誘電体層7を結晶化させて立方晶HfO17とする。熱処理後、常温まで冷却し、誘電体層7を研磨して素子に必要な膜厚に加工する。
【0078】
続いて、四フッ化ハフニウム(HfF4)を通常の水に溶解したゾル液を誘電体層7の上に塗布して誘電体層8を形成し、さきほど同様に反応・結晶化させて研磨することにより、誘電体層8を素子に必要な膜厚を有する通常の立方晶ハフニアとする(図7(c))。
【0079】
以上のプロセスにより、HfO2/HfO2(17)/HfO2の構造を有する3層膜が作成される。
ここで、3層膜を構成するHfO2の酸素Oの右肩に数字が記載されていない場合は、自然の酸素であることを示す。このプロセスを繰り替えることにより、
HfO2/HfO2(17)/HfO2/ HfO2(17)/HfO2の構造を有する油誘電体多層膜が作成される。この多層膜は、すべての誘電体層が立方晶ハフニアであり、第1、3、5層が通常の立方晶ハフニア、第2および4層がO17からなる立方晶ハフニアとなっている。各誘電体層の膜厚は、必要な膜厚に調整されている。
【0080】
このように、本発明の素子作成法を用いて、実施例1の誘電体素子を作成することができる。
【0081】
本実施例では、四フッ化ハフニウムをH2O17に溶解したゾル液を作成し、これを用いて素子を作成したが、四塩化ハフニウム(HfCl4)、四臭化ハフニウム(HfBr4)四ヨウ化ハフニウム(HfI4)をH2O17に溶解したゾル液を作成し、同様なプロセスで素子を作成することも可能である。
【実施例4】
【0082】
本実施例は、詳細な説明はしないが、本発明の素子作成方法を用いて実施例2の誘電体素子を作成する実施例3に類似の方法である。本実施例では、四フッ化ハフニウム(HfF4)をO18らなる水H2O18溶解したゾル液を用いる点のみが実施例3と異なる。
【実施例5】
【0083】
本実施例は、誘電体導波路として作用する本発明の誘電体素子の例である。図8に本実施例の誘電体素子の断面説明図を示す。クラッド9及び11はO16、O17、およびO18の比率が自然界におけるこれら同位体の比率に等しい通常の立方晶ハフニアからなる導波路クラッドである。コア10はO17からなる本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアにより構成される導波路コアである。コア10の断面形状は、周波数が3000ギガヘルツから4000ヘルツの電磁波がコア10に入射できる形状となっている。
【0084】
図9は、図8のAB面断面図である。コア10は直線状であり、コア10に外部から電磁波を入射できるようになっている。図9のCD面断面図が図8である。
【0085】
コア10はクラッド9およびクラッド11より酸素の平均質量が大きく、クラッド9およびクラッド11より上記電磁波に対する誘電率が大きくなっている。クラッド9とクラッド11は、通常の立方晶により構成され、誘電率が同じである。コア10とクラッド9およびクラッド11の上記電磁波に対する誘電率差は、図4に示したように、屈折率に換算して1%以上であるので、コア10に上記周波数の電磁波を入射すると、クラッド9およびクラッド11導波路クラッド、コア10は導波路コアとして作用し、本実施例は誘電体導波路として動作する。
【0086】
クラッド9、コア10、およびクラッド11を構成する立方晶ハフニアの上記周波数域の電磁波に対するtanδは0.01以下であり、本実施例は上記周波数の電磁波の伝送損失が少ない。
【0087】
本実施例の誘電体素子を用いて電磁波を導波させる場合の例を図10に示す。電磁波源12は電磁波源、電磁波13は周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの範囲にある電磁波、14はレンズ、15は半球面レンズである。
【0088】
電磁波源12で発生した電磁波13はレンズ14で集光され、コア10の一端に入射されるようになっている。コア10に入射された電磁波13は、コア10とクラッド9およびコア10とクラッド11の界面で反射されコア10内部を導波し、コア10の他方の単部より放射されて半球面レンズ15により平行電磁波となる。
【実施例6】
【0089】
本実施例は、図示はしないが、実施例5に類似の誘電体導波路として作用する本発明の誘電体素子である。本実施例では、コア10にO18からなる立方結晶ハフニアを用いる点が実施例6と異なり、他の構成は同じである。
【0090】
本実施例の場合、コア10に入射される電磁波の周波数が2500ギガヘルツ以上で1と2の誘電率差が屈折率差に換算して1%よりも大きくなり、有効な誘電体導路として作用する。
【0091】
本実施例においても、クラッド9、コア10、及びクラッド11のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下であり、上記周波数域の電磁波に対する低損失誘電体導波路として作用する。本実施例を用いて、電磁波を導波するには、図10と同じ方法を用いる。
【実施例7】
【0092】
本実施例は、実施例5の誘電体素子を作成する本発明の素子作成法の例である。本実施例の説明図を図11に示す。
【0093】
最初にハフニウム基板16の表面にレジスト17を配置する。ハフニウム基板16はアモルファス状のハフニアで構成されている。このアモルファスハフニアは、O16、O17、およびO18の比率が自然界の比率である通常の水と4フッ化ハフニウムを原料にゾル・ゲル法で作成されるハフニアである。レジスト17は、ハフニウム基板16のうち導波路コアを作成する部分18の表面には配置されていない(図11(a))
次にふっ酸ガスを用いた気相エッチングにより、コアを形成する部分18の部分を除去し、ハフニウム基板16中にトラフ状の空間19を作成し、レジストを除去する(図11(b))。
【0094】
4フッ化ハフニウムおよびO17で構成される水(H2O17)の混合物であるゾルを18に室温で充填しコア20とする。ゾル液のトラフ状の空間19への充填には、毛細管現象、あるいはスピンコート法を用いる。その後、全体を100℃で処理してコア20に充填されたゾル液を反応させO17で構成されるアモルファスハフニアとする。続いて、全体を2700Kで熱処理し、ハフニウム基板16およびコア20部分のアモルファスハフニアを立方晶ハフニアに結晶化させる。この結果、ハフニウム基板16には通常の立方結ハフニア、コア20にはO17で構成される立方晶ハフニアが形成さる(図11(c)。
【0095】
最後に、ハフニウム基板16とコア20の表面上に薄膜状の通常の立方晶ハフニア結晶(クラッド)21を配置して圧着する(図11(d))。
【0096】
図11(d)の素子は、ハフニウム基板16とクラッド21が通常の立方晶ハフニア、コア20がO17からなる立方晶ハフニアで構成されており、実施例5の誘電体素子である。
【0097】
本実施例では、四フッ化ハフニウムをH2O17に溶解したゾル液を作成し、これを用いて素子を作成したが、四塩化ハフニウム(HfCl4)、四臭化ハフニウム(HfBr4)四ヨウ化ハフニウム(HfI4)をH2O17に溶解したゾル液を作成し、同様なプロセスで素子を作成してもよい。
【実施例8】
【0098】
本実施例は、詳細な説明はしないが、本発明の素子作成方法により、実施例6の誘電体素子を作成する例である。本実施例は、実施例のトラフ状の空間19に充填するゾル液にO18構成される水(H2O18)を用いる点が実施例7と異なる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、周波数が数10〜数テラヘルツの電磁波を伝送あるいは分離する誘電体素子の作成に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
1…低誘電率層、2…高誘電率層、3…入射電磁波、4…反射波、5…透過波、6…基板、7…誘電体層、8…誘電体層、9…クラッド、10…コア、11…クラッド、12…電磁波源、13…電磁波、14…レンズ、15…レンズ、16…ハフニウム基板、17…レジスト、18…コアを形成する部分、19…トラフ状の空間(エッチングされた18の部分)、20…コア、21…クラッド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数が数10ギガヘルツから数テラヘルツの電磁波の伝送に必要な誘電体材料及び誘電体素子、並びに誘電体素子作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波エレクトロニクスの発展により、周波数が数10から数テラヘルツの電磁波応用が注目されている。これらの高周波は、これまで宇宙天文学やプラズマ物理学等の学術分野で活用されてきたが、高周波技術の発展により、最近は車載レーダ、高速無線LAN、画像伝送、危険物検査等の民生技術への適用も行われはじめている。
【0003】
周波数が数10から数テラヘルツの高周波は、光波としての性質が強く、その伝送には光波に対するのと同様に導波路が用いられる。導波には平行2線(レッヘル線)、同軸線、ストリップ線に代表される2導体系伝送路、中空導波管、誘電体導波路等の技術が用いられる。2導体系伝送路及び中空導波管は、導体が電磁波を反射すること、誘電体導波路は屈折率が異なる誘電体の界面で電磁波が反射されることを利用するものである。周波数が数10〜数100ギガヘルツであるミリ波伝送の従来技術は、たとえば内藤著「マイクロ波・ミリ波工学」(コロナ社、1986年)に示されている。また、ミリ波の中でも周波数が数100から数テラヘルツのサブミリ波に関する伝送技術は、テラヘルツテクノロジーフォーラム編「テラヘルツ技術便覧」(エヌ・ジー・ティー社、2007年)に示されている。
【0004】
ミリ波及びサブミリ波はマイクロ波より周波数が高いため、2導体系伝送路や導波管等のマイクロ波技術により伝送を行うと伝送損失が大きくなるという問題がある、これは、ミリ波に対しては導体の抵抗はゼロでなく、導体表面でジュール損が発生するためである。ミリ波及びサブミリ波の伝送技術としては、これら導体を用いる伝送技術より、導体を用いない誘電体導波路がより適している。誘電体導波路の提案例としては、たとえば特許文献1(特開2005-31574)、特許文献2(特開2004-23697)等がある。誘電体導波路は、屈折率が異なる2種類の誘電体からなり、誘電率が高い誘電体を伝送路(コア)とし、コアの周囲を誘電率の低い誘電体(クラッド)で覆うことにより形成される。誘電体導波路の形成法に関しては、たとえば特許文献3(特開2003-161852)の提案がある。
【0005】
誘電体導波路には、誘電損失が低い材料を用いる必要がある。ミリ波域における誘電損失に関しては非特許文献1に総説がある。
【0006】
また、ミリ波およびサブミリ波のフィルターには、誘電体多層フィルターが用いられる。誘電体多層フィルターは、誘電率が異なる2種類の誘電体を交互に周期的に積層したものであり、積層構造を適宜設計することに様々なフィルター特性が得られる。誘電体フィルターは、導体を使用した干渉フィルターと比較して損失が小さい利点がある。誘電体多層フィルターに関しては、たとえば、前出の「テラヘルツ技術便覧」322ページに低誘電体材料にアルミナ(Al2O3)、高屈折率材料にチタニア(TiO2)を用いてサブミリ波用誘電体多層フィルターを作成した例が紹介されている。
【0007】
なお、本発明の誘電体材料に関する先行技術情報として、誘電率の同位体効果について記述した以下の非特許文献がある。
【0008】
非特許文献2は、塩化カリウムにLi6をドープした場合とLi7ドープした場合で、温度1K以下で観測される誘電率が異なることを示した文献である。非特許文献3は、電磁波のエネルギーが約3eV付近の光学領域で同位体効果によりSi28とSi30シリコン結晶の誘電率が異なることを報告した文献である。
【0009】
非特許文献2の報告内容は、常温においても誘電率を変化できる本発明とは本質的に異なる。また、非特許文献3の報告内容は、電子遷移が関与する光学域における誘電率の同位体効果に関するものであり、イオン振動が関与する周波数が数10ギガヘルツから数テラヘルツの電磁波に対する誘電率に関する本発明とは物理的な原理が異なる。
【0010】
なお、本発明は、金属酸化物のミリ波およびサブミリ波に対する誘電率が、酸化物を構成する酸素の同位体の種類および比率により異なるという従来にはない知見に基づくものであり、これら公知の非特許文献により示唆されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-31574公報
【特許文献2】特開2004-23697公報
【特許文献3】特開2003-161852公報
【特許文献4】特開2004-257822公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. T. Sebastian and H. Jantunen, “Low loss dielectric materials for LTCC: a review”, International Material Reviews, vol. 53, pp.57-80 (2008).
【非特許文献2】C. Eness, M. Gaukler, M. Nullmeier, and R. Weis, “Novel Dielectric Relaxation in Li+ dopled KCl”, Physical Review Letters, vol.78, pp.370-373 (1997)
【非特許文献3】L. F. Lastras−Martines, T. Ruf, M. Konuma, and M. Cardona,” Isotope Effects on the Dielectric response of Si around the E1 gap”, Physical Review B, vol. 61, pp.12946-12951 (2000)
【非特許文献4】C. Kittel, “Introduction to Solid State Physics 6-th edition, pp.368-372, John Wiley & Sons, Inc. New York, 1986.
【非特許文献5】生研リーフレット ソフトウェアベース No.76 東京大学生産技術研究所, 2008; http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/publication/leaflet/041201/soft76.pdf
【非特許文献6】UVSOR 3.18東京大学生産技術研究所,2008;http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/rss21/result/download/index.php#download_4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路は、誘電体界面での誘電率差による電磁波の反射を利用して、電磁波のフィルターあるいは導波するものである。従来技術では、材料の誘電率が材料の結晶構造より異なることを利用して、結晶構造が異なる材料を組み合わせることにより、これらの誘電体素子を実現してきた。
【0014】
しかし、材料の結晶構造と誘電率の関係は自明ではなく、試行錯誤により材料を選定しなければいけないという問題点がある。
【0015】
たとえば、非特許文献1に掲載されているK0.9Ba0.1Ga1.1Ge2.9 O8とK0.4Ba0.6Ga1.6Ge2.4O8の誘電率と誘電損失を比較すると、前者の誘電率およびQf値はそれぞれ6.44および94.7テラヘルツであるのに対し、後者の誘電率およびQf値はそれぞれ6.60および12.6テラヘルツである。ここで、Qf値とは誘電損失の指標であり、誘電率実部に対する虚部の比であるtanδの逆数に測定周波数をかけたものである。Qf値が大きいほど、tanδが小さく誘電損失が小さい。上記二つの材料は化学組成が異なるにもかかわらず誘電率が類似しており、一方両者の誘電損失は大きく異なっている。
【0016】
このように、材料を組み合わせて誘電体素子に必要な誘電率差を得ることは容易ではない。また、材料の結晶構造と誘電損失の関係はより複雑であり、素子に必要な誘電損失が小さい材料を結晶構造から判断することは、現在の材料科学をもってしてもほとんど不可能である。
【0017】
従来の技術は、材料の誘電率が材料の化学組成により異なるというよく知られた事実に基き、複数の異なる化学組成を有する誘電体を組み合わせて誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路等の誘電体素子を構成していた。しかし、誘電体の化学組成と誘電率の関係は必ずしも自明ではないため、素子内部の誘電率差を精密に制御することが不可能であった。
【0018】
このため、従来技術では、材料の誘電率測定実験行うことにより、素子に必要な誘電体を見出そうとするが、ミリ波およびサブミリ波周波数域の誘電率測定実験は困難であるのが現状である。
【0019】
また、従来の技術では異なる誘電体材料を組み合わせて誘電体素子を作成するため、必然的に異種材料界面が形成され、界面おける化学反応あるいは材料の線膨張係数の違いによる熱応力による材料の破損が発生しやすいという問題があった。
【0020】
このように、異なる誘電体材料を組み合わせて誘電体素子を作成する従来技術は、材料設計上および素子設計上の問題を有する。
【0021】
本発明の目的は、従来技術の問題点を解決するための誘電体材料、およびそれを用いた誘電体素子、ならびに素子の作成方法を提供し、ミリ波およびサブミリ波用誘電体素子の作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための手段である本発明の誘電体材料、誘電体素子、および素子作成方法は以下の通りである。
本発明の誘電体材料は、酸素原子と金属原子からなる金属酸化物絶縁体であり、絶縁体を構成する酸素原子のすべてがO17またはO18、あるいは酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかであり、金属酸化物を構成する酸素同位体の種類あるいは比率を変えることにより、結晶構造を同一に保ちつつ常温における電磁波に対する誘電率を変化できる誘電体材料である
本発明の誘電体材料は、金属原子がハフニウムであり、金属酸化物絶縁体が立方晶ハフニアである誘電体材料である。
【0023】
本発明の誘電体素子は、酸素同位体の分布が不均一であり、酸素原子の平均質量の大きな部分の誘電率が大きく、酸素原子の平均質量の小さな部分の誘電率が小さいことを特徴とする、誘電体素子である。
【0024】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニアと酸素原子のすべてがO17である立方晶ハフニアを交互に周期的に積層して形成され、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用する、誘電体素子である。
【0025】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニアと酸素原子のすべてがO18ある立方晶ハフニアを交互に周期的に積層して形成され、周波数が2500ヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用する、前記類似の誘電体素子である。
【0026】
本発明の誘電体素子は、O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率に等しい立方晶ハフニア基板にO17を部分的にドープして形成され、O17がドープされた部分が導波路コア、それ以外の部分が導波路クラッドとして機能し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波する、誘電体素子である。
【0027】
本発明の誘電体素子は、前記誘電体材料基板にO18を部分的にドープして形成され、O18がドープされた部分が導波路コアとして機能し、周波数が2500ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波することを特徴とする前記類似の誘電体素子である。
【0028】
本発明の素子作成方法は、自然状態の水およびO17あるいはO18で構成される水を用いるゾル・ゲル法により前記電磁波に対するフィルターとして作用する誘電体素子ならびに導波路として作用する素子を作成する方法である。
【0029】
本願発明の思想は以下のとおりである。すなわち、結晶構造が同一で誘電率が連続に変化する材料を用いて誘電体素子を作成すれば、素子内部の誘電率差を精密に設計することができ、材料の選定に関する従来技術の問題点、ならびに素子材料界面に関する従来技術の問題点は解決する。結晶構造が同一であれば、その材料は化学的に同一であるので、材料を接合させた場合でも材料界面がそもそも存在しないからである。
【0030】
周波数が数10から数テラヘルツのミリ波およびサブミリ波帯における材料の誘電率は、材料の電子状態と材料を構成する原子の振動状態に依存して変化することが知られている。材料の化学構造が異なると誘電率が異なるのは、構造により電子状態とイオンの振動状態が異なるためである。従来技術はこのことを利用して、化学構造が異なる材料を組み合わせて誘電体素子を作成している。
【0031】
しかし、誘電率を変えるには、材料の電子状態と材料を構成する原子の振動状態の両方を変化させる必要はなく、どちらかを変えれば十分である。材料の電子状態を変えるには、材料の結晶構造を変える必要があるが、原子の振動状態は原子をその同位体で置換すれば変化できる。材料を構成する原子の振動状態は、原子の質量と原子間の化学結合の強さで決まるが、原子をその同位体で置換すれば、化学結合を変えずに原子の質量のみを変えることができるからである。
【0032】
ここで、同位体とは、質量が異なる同一の元素を意味する。同位体の原子核は、同一の電荷を有するため化学的な性質が同じであるが、原子核を構成する中性子の数が異なるため、質量が異なる。
材料を構成する酸素の同位体の種類および比率を変えて誘電率を変化させた場合でも結晶構造は変化しないので、本発明の誘電体材料を用いて誘電体素子を作成すれば、従来技術の問題点は解決する。
【0033】
本発明の誘電体素子は、本発明の誘電体材料を用いることにより、結晶構造が単一の誘電体材料により誘電体多層フィルターおよび誘電体導波路を構成したものである。
誘電体素子は、一般に誘電率の高い部分と低い部分からなり、誘電率の高い部分と低い部分の界面で電磁波を反射して機能を発現する。
本発明の誘電体材料は、材料を構成する酸素原子の平均質量に依存し、平均質量が大きな材料ほど誘電率が大きい特徴がある。そこで本発明では、本発明の誘電体材料の有するこの性質を利用し、誘電率を高くすべき素子の部分を構成する材料の酸素の平均質量をより大きく、誘電率を低くすべき素子の部分の酸素の平均質量をより小さくして、前者の部分の誘電率をより高く、後者の部分の誘電率をより低くすることにより、誘電体多層フィルターあるいは誘電体導波路として機能する誘電体素子を構成できるようにした。
【0034】
本発明の誘電体素子では、素子内部の酸素の同位体分布を変えることにより酸素の平均質量を変化させて素子に必要な誘電率差を生じさせるので、異なる材料を組み合わせて素子を作成する従来技術と比較して素子の作成プロセスが簡便である。
【0035】
また、本発明の誘電体素子は、高誘電率部分と低誘電率部分の化学組成が同じであるため、従来技術のように素子界面での化学反応や熱応力が問題とならない利点がある。
【0036】
本発明の素子作成方法は、立方晶ハフニアからなる誘電体多層フィルターとして機能する本発明の誘電体素子をゾル・ゲル法により作成するものである。ゾル・ゲル法で使用する水に含まれる酸素の同位体の種類あるいは酸素同位体の存在比を変えることにより、酸素の平均質量が大きく誘電率の高いハフニア層と平均質量が小さく誘電率の小さいハフニア層を作成でき、これらのハフニア層を交互に積層することにより誘電体多層フィルターとして機能する本発明の誘電体素子を作成できる。
ゾル・ゲル法によるハフニア膜の作成法は公知であり、容易に行うことができる。ゾル・ゲル法によるハフニア膜の作成法に関しては、たとえば特許文献4(特開2004-267822)がある。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、材料の結晶構造を変えることなく、材料を構成する原子をその同位体で置換することにより誘電率を変えることができる。
【0038】
本発明の誘電体材料は金属酸化物であり、材料を構成する酸素の同位体の種類および比率を変えることにより、誘電率が連続的変化する特徴がある。また、本発明の素子作成方法は、公知の技術を用いて本発明の誘電体素子を作成でき、材料プロセスが容易であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】立方晶ハフニアの誘電関数を示す図。
【図2】立方晶ハフニア誘電率の酸素同位体依存性を示す図。
【図3】立方晶ハフニア誘電関数のハフニウム同位体依存性を示す図。
【図4】立方晶ハフニアの誘電率差を示す図。
【図5】立法晶ハフニアの誘電損失を示す図。
【図6】実施例1の誘電体素子の断面説明図。
【図7】実施例3の説明図。
【図8】実施例5の誘電体素子の断面説明図。
【図9】実施例5の誘電体素子の断面説明図。
【図10】実施例5の誘電体素子に電磁波を導波させる方法を示す図。
【図11】実施例7の説明図。
【図12】電磁波周波数とdの関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の誘電体材料は、結晶構造が同一で誘電率が連続的に変化する材料、という従来にはない知見に基づくものであるため、まずこれについて述べる。材料の誘電率は、材料に外部より電場をかけた場合に材料が電気的に分極することにより生じ、電気分極が外部電場の強度に比例することはよく知られている。比例係数は線形感受率と呼ばれ、誘電率はこの線形感受率に真空の誘電率を足したものとして定義される。真空の誘電率に対する材料の誘電率の比が材料の比誘電率である。以下、誘電率は比誘電率を意味するものとする。
【0041】
材料の電気分極には、双極子分極、格子分極、ならびに電子分極がある、これらの分極は、それぞれ外部電場による双極子の配向、格子のひずみ、および電子状態の変化に起因する。これらの分極に対応して、双極子誘電率、格子誘電率、および電子誘電率が定義され、全誘電率はそれら誘電率の和として与えられる。
【0042】
材料の誘電率は、外部電場の周波数に応じて変化することが知られている。誘電率の周波数依存性は、双極子分極、格子分極、および電子分極の緩和時間(分極状態からもとの状態に戻るのに必要な時間)が異なるために生じる。固体の場合、双極子分極の緩和時間はマイクロ(10−6)秒程度、格子分極の緩和時間はピコ秒(10−12)秒程度、電子分極の緩和時間はフェムト(10−15)秒程度である。これらの分極は、緩和時間より短い電場の応答には追従できない。したがって、一般的に、双極子誘電率は、電場の周波数がメガ(106)ヘルツ、格子誘電率は周波数がテラ(1012)ヘルツ、電子誘電率は周波数がペタ(1015)ヘルツ以下でみられる。なお、双極子誘電率は液体、高分子および強誘電体でのみ観測される。電場周波数と誘電率の関係については、非特許文献4に詳しく記載されている。
【0043】
周波数は数10から数100ギガヘルツのミリ波に対する誘電率は、材料の格子誘電率と電子誘電率の和で与えられる。したがって、材料のミリ波誘電率は、材料の格子誘電率と電子誘電率を計算できれば予測できる。
【0044】
発明者は、第一原理法を用いて本発明の誘電体材料である立方晶ハフニア結晶の格子および電子誘電率を求め、同ハフニア結晶の常温での誘電率を求めた。
【0045】
ここで第一原理法とは、実験パラメータを用いることなく、材料の電子状態や格子振動状態を計算し、材料の構造あるは性質を明らかにする方法のことである。これまでの研究により、密度汎関数近似と呼ばれる第一原理法により、誘電体の構造や誘電率を実験によらずに計算できるようになっている。誘電率の第一原理計算は、絶対零度の条件で行われるが、常温での誘電率実測値をよく再現することが知られている。第一原理計算により、常温での誘電率が再現されることを示した文献として、非特許文献5がある。
【0046】
発明者は、非特許文献6に記載されているプログラムを用いて、本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアのミリ波およびサブミリ波域の誘電関数を計算した。使用したプログラムは、常温における誘電体の誘電率を精度よく計算できることがわかっており、結果は十分信用できるものである。
【0047】
誘電率計算に用いたパラメータは、立方晶ハフニアの結晶格子定数、格子を構成する原子の種類、位置パラメータ、ならびに質量である。誘電体を構成する原子の種類は、計算対象により決まり、立方晶ハフニアの場合には、ハフニウム(Hf)と酸素(O)である。O16、O17、あるいはO18の質量はそれぞれ16、17、および18とした。Hfの原子量は、自然界におけるHfの平均原子量(178.49)を用いた。
【0048】
ここで、原子の平均質量とは、原子の同位体の質量を存在比率で加重平均したものである。自然界におけるHfの平均原子量は、自然界に安定に存在するHfの同位体Hf177、Hf178、およびHf180の質量を、それらの存在比率(18.6:27.3:35.1)で加重平均して得られる。自然界におけるOの平均原子量は、安定な酸素同位体であるO16、O17、およびO18の質量をこれら同位体の存在比率(99.76:0.04:0.01)で加重平均して得られ、その値は15.9994である。
【0049】
比較のため、通常の立方晶ハフニアの誘電率を計算した。通常のハフニアとは、自然界のハフニウム(平均原子量178.49)および酸素(平均原子量15.9994)からなるハフニアのことである。
【0050】
計算では、まず立方晶ハフニアの格子定数ならびにHfとOの位置パラメータをエネルギーが最小になるように最適化し、次に最適構造での誘電率を計算した。最適化された格子定数および位置パラメータは、0の質量に依存せず、一定の値となった。本発明の誘電体材料である立方位ハフニアは、酸素同位体の種類および比率に依存せず、同一の結晶構造を有する。
【0051】
図1に誘電率計算結果を示す。ここで、HfO2(nat)は、自然状態の酸素からなるハフニア、HfO2(16)はO16からなるハフニア、HfO2(17)はO17からなるハフニア、HfO2(18)はO18からなるハフニアを意味する。ハフニア誘電率の依存性は、ハフニアを構成する酸素の同位体により異なり、零以外の周波数で比較すると、より重い酸素を有するハフニアはより大きな誘電率を有する。誘電率の大きさの序例は、HfO2(16)<HfO2(17)<HfO2(18)である。このように、本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアは、結晶構造が同一で誘電率が異なる。
【0052】
立方結晶ハフニアの酸素の質量を16から18まで0.5ごとに変化させて、その誘電率を計算した。4000ギガヘルツにおけるハフニア誘電率と酸素質量の関係を図2に示す。誘電率は、酸素質量とともに単調に増加する。他の周波数においても同様であるが、周波数が低くなるにつれ、周波数の変化幅が小さくなり、周波数が零では変化幅が零となる。
【0053】
本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアは、結晶構造を維持しつつ、同位体の存在比率を変えることにより誘電率を一定の範囲で連続的に変化させることができる。
【0054】
本発明の誘電体材料は、単一の酸素同位体あるいは複数の酸素同位体で構成されるが、酸素の平均質量が大きいほど大きなミリ波誘電率を示す特徴がある。
【0055】
ここでは、立方晶ハフニアにより本発明の誘電体材料を構成したが、O16、O17、あるいはO18のいずれかで構成される正方晶あるいは単斜晶ハフニアによって同様に本発明の誘電体材料が構成される。
【0056】
本発明では、金属酸化物の酸素の同位体の種類および存在比率を変えて本発明の誘電体材料を構成したが、化学構造が同一という意味では、酸素ではなく金属元素の同位体とその存在比率を変えて、本発明類似の誘電体材料を構成することも考えられる。
【0057】
そこで、Hf177、Hf178、あるいはHf180と自然状態の酸素からなる立方晶ハフニアの誘電率を同様に計算した。その結果を図3に示す。
【0058】
ここで、Hf(177)OはHf177からなるハフニア、Hf(178)OはHf178からなるハフニア、Hf(180)OはHf180からなるハフニアを意味する。Hf177、Hf178、あるいはHf180からなるハフニアの誘電関数はほぼ重なっており、これらハフニアはほぼ同じ誘電率を有する。すなわち、これらのハフニアは本発明の誘電体材料として機能しない。
【0059】
図4は、HfO2(16)、HfO2(17)、およびHfO2(18)とHfO2(nat)の各周波数における誘電率差をプロットしたものである。HfO2(16)とHfO2(nat)の誘電率差はほぼ零である。一方、HfO2(17)およびHfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差は周波数が零の場合を除き零ではない。
【0060】
誘電体素子は、誘電率の高い部分と低い部分を有するが、これら部分の間の誘電率差は、誘電率の平方根で与えられる屈折率に換算して1%以上とする必要がある。立方晶ハフニアの誘電率は約37であるので、立方晶ハフニアを用いて本発明の誘電体素子を作成する場合、ハフニアの誘電率を0.6以上である変化させる必要がある。
【0061】
HfO2(16)とHfO2(nat)の誘電率差はほぼ零であるため、これらのハフニアは本発明の誘電体材料を構成するには適さない。
【0062】
一方、HfO2(17)およびHfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差は、周波数を適切に選ぶことにより0.6以上とすることができ、本発明の誘電体素子を構成するのに適している。HfO2(17)とHfO2(nat)の誘電率差が0.6以上となるのは、3000ギガヘルツ以上、HfO2(18)とHfO2(nat)の誘電率差が0.6以上となるのは2500ギガヘルツ以上である。
【0063】
誘電体素子では、素子を構成する材料による電磁波の吸収を小さくする必要がある。材料による電磁波の吸収は、誘電損失で与えられ、損失の程度は誘電率虚部の実部に対する比率であるtanδで示される。
【0064】
HfO2(16)、HfO2(17)、およびHfO2(18)とHfO2(nat)のtanδの周波数依存性を計算した結果を図5に示す。
【0065】
tanδの値は低いほどよいが、少なくとも0.01以下である必要がある。上記立方晶ハフニアのtanδは周波数が4000ギガヘルツ以下で0.01以下であり、これらのハフニアは動作周波数を4000ギガヘルツである本発明の誘電体素子に適している。
【0066】
このように、本発明の誘電体素子は、本発明の誘電体材料を用いて構成される。以下、本発明の誘電体素子の具体例および素子の作成方法について、具体的な実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0067】
図6は、誘電体多層フィルターとして作用する本発明の誘電体素子の断面説明図である。低誘電率層1および高誘電率層2は立方晶ハフニアである本発明の誘電体材料であり、低誘電率層1のハフニアは、O16、O17、およびO18の比率が自然界における存在比である自然状態の酸素からなるハフニア、高誘電率層2のハフニアは、O17からなるハフニアである。入射電磁波3は本実施例の誘電体素子に入射される電磁波、反射波4は素子により反射される電磁波、透過波5は素子を透過する電磁波である。
【0068】
低誘電率層1と高誘電率層2は酸素の平均質量が異なり、低誘電率層1の酸素の質量は15.9994、高誘電率層2の酸素の平均質量は17であり、高誘電率層2の酸素平均質量は低誘電率層1のそれよりも大きく、高誘電率層2は低誘電率層1よりも電磁波に対する誘電率が大きくなっている。本実施例は、電磁波に対する誘電体多層フィルターとなっている。
【0069】
図4が示すように、低誘電率層1と高誘電率層2の誘電差は、入射電磁波3の周波数が3000ギガヘルツ以上で屈折率差に換算して1%より大きくなる。このため、本実施例は、入射電磁波3の周波数が3000ギガヘルツ以上の場合、有効な誘電体多層フィルターとして機能する。
【0070】
一方、図5に示したように、低誘電率層1および高誘電率層2のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下となる。電磁波の損失を抑えるためには、入射電磁波3の周波数は4000ギガヘルツ以下であることが望ましい。本実施例は、周波数が3000ギガヘルツから4000ヘルツの入射電磁波3に対する低損失な誘電体多層フィルターとして機能することができる。
【0071】
本実施例では、低誘電率層1と高誘電率層2の膜厚dを変えることにより、反射波4と透過波5の周波数を変えることができる。反射波4の周波数とdの関係を図12の表1に示す。透過波5は、反射波4以外の周波数を有する電磁波である。
【実施例2】
【0072】
本実施例は、図示はしないが、実施例1に類似の誘電体多層フィルターとして作用する本発明の誘電体素子である。本実施例では、高誘電率層2にO18からなる立方結晶ハフニアを用いる点が実施例1と異なり、他の構成は同じである。
【0073】
本実施例の場合、図4の説明においてのべたように、3の周波数が2500ギガヘルツ以上で1と2の誘電率差が屈折率差に換算して1%よりも大きくなり、周波数が2500以上の3にたいして有効な誘電体多層フィルターとして機能する。
【0074】
本実施例においても、1と2のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下となる。したがって、本実施例は、周波数が2500ギガヘルツから4000ヘルツの3に対する低損失な誘電体多層フィルターとして機能する。4の周波数とdの関係は図12の表1であたえられる。
【実施例3】
【0075】
本実施例は、本発明の素子作成方法を用いて実施例1の誘電体素子を作成する方法を説明するものである。本実施例による素子作成方法を図7に示す。
【0076】
最初に立方晶ハフニアの結晶を研磨し、作成すべき誘電体素子に必要な膜厚に加工して、基板6とする(図7(a))。使用するハフニア結晶は、酸素同位体O16、O17、およびO18の比率が自然界における比率である通常のハフニア結晶である。膜厚の加工は、研磨により行う。素子に必要な膜厚は、作成される素子がフィルターすべき電磁波の周波数で決まり、その値は表1にまとめられている。
【0077】
四フッ化ハフニウム(HfF4)をO17からなる水H2O17に溶解したゾル液を作成し、室温で基板6の上に塗布し、誘電体層7を形成する。温度を100度程度に昇温し、HfF4とH2O17を反応させることにより、誘電体層7をアモルファス構造のハフニア(HfO2(17))とする(図7(b))。誘電体層8の膜厚は、素子が必要とする誘電体膜厚の1.5倍程度になるようにする。誘電体層7の膜厚を必要な厚さの1.5倍程度としたのは、続く結晶化プロセスで誘電体層7の膜厚が減少すること、ならびに研磨による膜厚の調整を可能にするためである。基板6と誘電体層7の2層膜を高温炉を用いて2700Kで熱処理し、誘電体層7を結晶化させて立方晶HfO17とする。熱処理後、常温まで冷却し、誘電体層7を研磨して素子に必要な膜厚に加工する。
【0078】
続いて、四フッ化ハフニウム(HfF4)を通常の水に溶解したゾル液を誘電体層7の上に塗布して誘電体層8を形成し、さきほど同様に反応・結晶化させて研磨することにより、誘電体層8を素子に必要な膜厚を有する通常の立方晶ハフニアとする(図7(c))。
【0079】
以上のプロセスにより、HfO2/HfO2(17)/HfO2の構造を有する3層膜が作成される。
ここで、3層膜を構成するHfO2の酸素Oの右肩に数字が記載されていない場合は、自然の酸素であることを示す。このプロセスを繰り替えることにより、
HfO2/HfO2(17)/HfO2/ HfO2(17)/HfO2の構造を有する油誘電体多層膜が作成される。この多層膜は、すべての誘電体層が立方晶ハフニアであり、第1、3、5層が通常の立方晶ハフニア、第2および4層がO17からなる立方晶ハフニアとなっている。各誘電体層の膜厚は、必要な膜厚に調整されている。
【0080】
このように、本発明の素子作成法を用いて、実施例1の誘電体素子を作成することができる。
【0081】
本実施例では、四フッ化ハフニウムをH2O17に溶解したゾル液を作成し、これを用いて素子を作成したが、四塩化ハフニウム(HfCl4)、四臭化ハフニウム(HfBr4)四ヨウ化ハフニウム(HfI4)をH2O17に溶解したゾル液を作成し、同様なプロセスで素子を作成することも可能である。
【実施例4】
【0082】
本実施例は、詳細な説明はしないが、本発明の素子作成方法を用いて実施例2の誘電体素子を作成する実施例3に類似の方法である。本実施例では、四フッ化ハフニウム(HfF4)をO18らなる水H2O18溶解したゾル液を用いる点のみが実施例3と異なる。
【実施例5】
【0083】
本実施例は、誘電体導波路として作用する本発明の誘電体素子の例である。図8に本実施例の誘電体素子の断面説明図を示す。クラッド9及び11はO16、O17、およびO18の比率が自然界におけるこれら同位体の比率に等しい通常の立方晶ハフニアからなる導波路クラッドである。コア10はO17からなる本発明の誘電体材料である立方晶ハフニアにより構成される導波路コアである。コア10の断面形状は、周波数が3000ギガヘルツから4000ヘルツの電磁波がコア10に入射できる形状となっている。
【0084】
図9は、図8のAB面断面図である。コア10は直線状であり、コア10に外部から電磁波を入射できるようになっている。図9のCD面断面図が図8である。
【0085】
コア10はクラッド9およびクラッド11より酸素の平均質量が大きく、クラッド9およびクラッド11より上記電磁波に対する誘電率が大きくなっている。クラッド9とクラッド11は、通常の立方晶により構成され、誘電率が同じである。コア10とクラッド9およびクラッド11の上記電磁波に対する誘電率差は、図4に示したように、屈折率に換算して1%以上であるので、コア10に上記周波数の電磁波を入射すると、クラッド9およびクラッド11導波路クラッド、コア10は導波路コアとして作用し、本実施例は誘電体導波路として動作する。
【0086】
クラッド9、コア10、およびクラッド11を構成する立方晶ハフニアの上記周波数域の電磁波に対するtanδは0.01以下であり、本実施例は上記周波数の電磁波の伝送損失が少ない。
【0087】
本実施例の誘電体素子を用いて電磁波を導波させる場合の例を図10に示す。電磁波源12は電磁波源、電磁波13は周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの範囲にある電磁波、14はレンズ、15は半球面レンズである。
【0088】
電磁波源12で発生した電磁波13はレンズ14で集光され、コア10の一端に入射されるようになっている。コア10に入射された電磁波13は、コア10とクラッド9およびコア10とクラッド11の界面で反射されコア10内部を導波し、コア10の他方の単部より放射されて半球面レンズ15により平行電磁波となる。
【実施例6】
【0089】
本実施例は、図示はしないが、実施例5に類似の誘電体導波路として作用する本発明の誘電体素子である。本実施例では、コア10にO18からなる立方結晶ハフニアを用いる点が実施例6と異なり、他の構成は同じである。
【0090】
本実施例の場合、コア10に入射される電磁波の周波数が2500ギガヘルツ以上で1と2の誘電率差が屈折率差に換算して1%よりも大きくなり、有効な誘電体導路として作用する。
【0091】
本実施例においても、クラッド9、コア10、及びクラッド11のtanδは、4000ギガヘルツ以下で0.01以下であり、上記周波数域の電磁波に対する低損失誘電体導波路として作用する。本実施例を用いて、電磁波を導波するには、図10と同じ方法を用いる。
【実施例7】
【0092】
本実施例は、実施例5の誘電体素子を作成する本発明の素子作成法の例である。本実施例の説明図を図11に示す。
【0093】
最初にハフニウム基板16の表面にレジスト17を配置する。ハフニウム基板16はアモルファス状のハフニアで構成されている。このアモルファスハフニアは、O16、O17、およびO18の比率が自然界の比率である通常の水と4フッ化ハフニウムを原料にゾル・ゲル法で作成されるハフニアである。レジスト17は、ハフニウム基板16のうち導波路コアを作成する部分18の表面には配置されていない(図11(a))
次にふっ酸ガスを用いた気相エッチングにより、コアを形成する部分18の部分を除去し、ハフニウム基板16中にトラフ状の空間19を作成し、レジストを除去する(図11(b))。
【0094】
4フッ化ハフニウムおよびO17で構成される水(H2O17)の混合物であるゾルを18に室温で充填しコア20とする。ゾル液のトラフ状の空間19への充填には、毛細管現象、あるいはスピンコート法を用いる。その後、全体を100℃で処理してコア20に充填されたゾル液を反応させO17で構成されるアモルファスハフニアとする。続いて、全体を2700Kで熱処理し、ハフニウム基板16およびコア20部分のアモルファスハフニアを立方晶ハフニアに結晶化させる。この結果、ハフニウム基板16には通常の立方結ハフニア、コア20にはO17で構成される立方晶ハフニアが形成さる(図11(c)。
【0095】
最後に、ハフニウム基板16とコア20の表面上に薄膜状の通常の立方晶ハフニア結晶(クラッド)21を配置して圧着する(図11(d))。
【0096】
図11(d)の素子は、ハフニウム基板16とクラッド21が通常の立方晶ハフニア、コア20がO17からなる立方晶ハフニアで構成されており、実施例5の誘電体素子である。
【0097】
本実施例では、四フッ化ハフニウムをH2O17に溶解したゾル液を作成し、これを用いて素子を作成したが、四塩化ハフニウム(HfCl4)、四臭化ハフニウム(HfBr4)四ヨウ化ハフニウム(HfI4)をH2O17に溶解したゾル液を作成し、同様なプロセスで素子を作成してもよい。
【実施例8】
【0098】
本実施例は、詳細な説明はしないが、本発明の素子作成方法により、実施例6の誘電体素子を作成する例である。本実施例は、実施例のトラフ状の空間19に充填するゾル液にO18構成される水(H2O18)を用いる点が実施例7と異なる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、周波数が数10〜数テラヘルツの電磁波を伝送あるいは分離する誘電体素子の作成に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
1…低誘電率層、2…高誘電率層、3…入射電磁波、4…反射波、5…透過波、6…基板、7…誘電体層、8…誘電体層、9…クラッド、10…コア、11…クラッド、12…電磁波源、13…電磁波、14…レンズ、15…レンズ、16…ハフニウム基板、17…レジスト、18…コアを形成する部分、19…トラフ状の空間(エッチングされた18の部分)、20…コア、21…クラッド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子と金属原子から構成される金属酸化物絶縁体であって、
前記金属酸化物絶縁体は、酸素同位体であるO16、O17、およびO18の少なくともいずれか一つの酸素原子を含む結晶構造を有し、
常温における電磁波に対する前記金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記酸素同位体の各々の組成比率を調整することにより決定されることを特徴とする誘電体材料。
【請求項2】
酸素原子と金属原子から構成される金属酸化物絶縁体であって、
前記金属酸化物絶縁体を構成する酸素原子は、酸素同位体であるO17、またはO18であり、
常温における電磁波に対する前記金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記酸素同位体の各々の組成比率を調整することにより決定されることを特徴とする誘電体材料。
【請求項3】
前記電磁波の周波数が、ミリ波帯域にあることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体材料。
【請求項4】
前記金属原子がハフニウムであり、前記金属酸化物絶縁体が立方晶ハフニアであることを特徴とする請求項1記載の誘電体材料。
【請求項5】
第1の金属酸化物絶縁体と、前記第1の金属酸化物絶縁体と酸素同位体であるO16、O17、およびO18の組成比率が異なる第2の金属酸化物絶縁体とを有し、
前記第1の金属酸化物絶縁体の酸素原子の平均質量が、前記第2の金属酸化物絶縁体の酸素原子の平均質量より大きいことを特徴とする誘電体素子。
【請求項6】
前記第1の金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記第2の金属酸化物絶縁体の誘電率より大きいことを特徴とする請求項5記載の誘電体素子。
【請求項7】
前記第1の金属酸化物絶縁体の周囲が、前記第1の金属酸化物絶縁体の誘電率より低い誘電率を有する前記第2の金属酸化物絶縁体で覆われた構造体であることを特徴とする請求項5記載の誘電体素子。
【請求項8】
酸素原子と金属原子から構成され、前記酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかの酸素同位体を含む誘電体材料で構成された誘電体多層フィルターであって、
前記誘電体多層フィルターは、前記酸素同位体O16、O17、およびO18のそれぞれの比率が自然界における比率に等しい組成比率を有する第1の誘電体材料と、前記O16以外の酸素同位体を含まない第2の誘電体材料とが交互に周期的に積層された構造を有し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対してフィルターとして作用することを特徴とする誘電体素子。
【請求項9】
前記誘電体多層フィルターが、前記第1の誘電体材料と前記第2の誘電体材料において前記酸素同位体O17の代わりに酸素同位体O18を用いた第3の誘電体材料とを交互に周期的に積層して形成され、
周波数が2500ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用することを特徴とする請求項8記載の誘電体素子。
【請求項10】
前記酸素同位体であるO16、O17、およびO18のそれぞれの比率が自然界における比率に等しい組成比率を有する部分と酸素同位体組成がO17である誘電体材料基板であって、
前記誘電体材料基板の前記酸素同位体組成がO17である部分が導波路コアとして機能し、前記ドープされた部分以外の部分が導波路クラッドとして機能し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波することを特徴とする請求項8記載の誘電体素子。
【請求項11】
所望の膜厚を有し、通常の立方晶ハフニア(HfO2)の結晶からなる基板を準備する工程と、
四フッ化ハフニウム(HfF4)を酸素同位体O17からなる水(H2O17)に溶解して作成された第1のゾル液を室温で前記基板上に塗布し、第1の誘電体層を形成する工程と、
前記基板を100度程度に加熱し、前記四フッ化ハフニウム(HfF4)と前記水(H2O17)を反応させることにより、前記第1の誘電体層をアモルファス構造のハフニア(HfO172)にする工程と、
前記基板と前記第1の誘電体層の2層膜を絶対温度2700Kで熱処理し、前記第1の誘電体層を結晶化させて立方晶ハフニア(HfO172)とする工程と、
前記熱処理後、常温まで冷却し、前記第1の誘電体層を研磨して所望の膜厚に加工する工程と、
前記四フッ化ハフニウム(HfF4)を通常の水に溶解したゾル液を前記第1の誘電体層上に塗布して第2の誘電体層を形成する工程と、
前記基板を100度程度に加熱し、前記四フッ化ハフニウム(HfF4)と前記通常の水とを反応させることにより、前記第2の誘電体層を通常の立方晶ハフニア(HfO2)にする工程と、
前記通常の立方晶ハフニア(HfO2)と、前記結晶化された立方晶ハフニア(HfO172)とが積層されてなるHfO2/HfO172/HfO2の構造を有する3層膜を形成する工程とを有することを特徴とする誘電体素子の作成方法。
【請求項12】
前記ハフニウム化合物が、四フッ化ハフニウム、四塩化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウムのいずれかである請求項11記載の誘電体素子の作成方法。
【請求項1】
酸素原子と金属原子から構成される金属酸化物絶縁体であって、
前記金属酸化物絶縁体は、酸素同位体であるO16、O17、およびO18の少なくともいずれか一つの酸素原子を含む結晶構造を有し、
常温における電磁波に対する前記金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記酸素同位体の各々の組成比率を調整することにより決定されることを特徴とする誘電体材料。
【請求項2】
酸素原子と金属原子から構成される金属酸化物絶縁体であって、
前記金属酸化物絶縁体を構成する酸素原子は、酸素同位体であるO17、またはO18であり、
常温における電磁波に対する前記金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記酸素同位体の各々の組成比率を調整することにより決定されることを特徴とする誘電体材料。
【請求項3】
前記電磁波の周波数が、ミリ波帯域にあることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体材料。
【請求項4】
前記金属原子がハフニウムであり、前記金属酸化物絶縁体が立方晶ハフニアであることを特徴とする請求項1記載の誘電体材料。
【請求項5】
第1の金属酸化物絶縁体と、前記第1の金属酸化物絶縁体と酸素同位体であるO16、O17、およびO18の組成比率が異なる第2の金属酸化物絶縁体とを有し、
前記第1の金属酸化物絶縁体の酸素原子の平均質量が、前記第2の金属酸化物絶縁体の酸素原子の平均質量より大きいことを特徴とする誘電体素子。
【請求項6】
前記第1の金属酸化物絶縁体の誘電率が、前記第2の金属酸化物絶縁体の誘電率より大きいことを特徴とする請求項5記載の誘電体素子。
【請求項7】
前記第1の金属酸化物絶縁体の周囲が、前記第1の金属酸化物絶縁体の誘電率より低い誘電率を有する前記第2の金属酸化物絶縁体で覆われた構造体であることを特徴とする請求項5記載の誘電体素子。
【請求項8】
酸素原子と金属原子から構成され、前記酸素原子がO16、O17、およびO18のいずれかの酸素同位体を含む誘電体材料で構成された誘電体多層フィルターであって、
前記誘電体多層フィルターは、前記酸素同位体O16、O17、およびO18のそれぞれの比率が自然界における比率に等しい組成比率を有する第1の誘電体材料と、前記O16以外の酸素同位体を含まない第2の誘電体材料とが交互に周期的に積層された構造を有し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対してフィルターとして作用することを特徴とする誘電体素子。
【請求項9】
前記誘電体多層フィルターが、前記第1の誘電体材料と前記第2の誘電体材料において前記酸素同位体O17の代わりに酸素同位体O18を用いた第3の誘電体材料とを交互に周期的に積層して形成され、
周波数が2500ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波に対するフィルターとして作用することを特徴とする請求項8記載の誘電体素子。
【請求項10】
前記酸素同位体であるO16、O17、およびO18のそれぞれの比率が自然界における比率に等しい組成比率を有する部分と酸素同位体組成がO17である誘電体材料基板であって、
前記誘電体材料基板の前記酸素同位体組成がO17である部分が導波路コアとして機能し、前記ドープされた部分以外の部分が導波路クラッドとして機能し、周波数が3000ギガヘルツから4000ギガヘルツの電磁波を導波することを特徴とする請求項8記載の誘電体素子。
【請求項11】
所望の膜厚を有し、通常の立方晶ハフニア(HfO2)の結晶からなる基板を準備する工程と、
四フッ化ハフニウム(HfF4)を酸素同位体O17からなる水(H2O17)に溶解して作成された第1のゾル液を室温で前記基板上に塗布し、第1の誘電体層を形成する工程と、
前記基板を100度程度に加熱し、前記四フッ化ハフニウム(HfF4)と前記水(H2O17)を反応させることにより、前記第1の誘電体層をアモルファス構造のハフニア(HfO172)にする工程と、
前記基板と前記第1の誘電体層の2層膜を絶対温度2700Kで熱処理し、前記第1の誘電体層を結晶化させて立方晶ハフニア(HfO172)とする工程と、
前記熱処理後、常温まで冷却し、前記第1の誘電体層を研磨して所望の膜厚に加工する工程と、
前記四フッ化ハフニウム(HfF4)を通常の水に溶解したゾル液を前記第1の誘電体層上に塗布して第2の誘電体層を形成する工程と、
前記基板を100度程度に加熱し、前記四フッ化ハフニウム(HfF4)と前記通常の水とを反応させることにより、前記第2の誘電体層を通常の立方晶ハフニア(HfO2)にする工程と、
前記通常の立方晶ハフニア(HfO2)と、前記結晶化された立方晶ハフニア(HfO172)とが積層されてなるHfO2/HfO172/HfO2の構造を有する3層膜を形成する工程とを有することを特徴とする誘電体素子の作成方法。
【請求項12】
前記ハフニウム化合物が、四フッ化ハフニウム、四塩化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウムのいずれかである請求項11記載の誘電体素子の作成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−260776(P2010−260776A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114502(P2009−114502)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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