説明

誘電体磁器、誘電体磁器の製造方法及び誘電体磁器製造用粉末の製造方法

【課題】低温での焼成を可能としつつ、誘電特性及び強度を維持することができる誘電体磁器、誘電体磁器の製造方法及び誘電体磁器製造用粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る誘電体磁器は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO)で表され、BaOに対するTiOのモル比xが4.6以上8.0以下であり、X線回折において、BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上である主成分と、ホウ素酸化物及び銅酸化物とを含み、ホウ素酸化物の含有量がB23換算で主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、銅酸化物の含有量がCuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下である副成分と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag等を主成分とする低融点導体材を内部電極などとして使用可能な低温焼結性を有する誘電体磁器、誘電体磁器の製造方法及び誘電体磁器製造用粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が増加している携帯電話等の移動体通信機器では、数百MHzから数GHz程度のいわゆる準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器に用いられるフィルタ、共振器、コンデンサ等の電子デバイスとして、良好な高周波特性を有するデバイス(以下、「高周波デバイス」という。)が要求されている。また、近年の移動体通信機器の小型化に伴い、高周波デバイスにも小型化が要求されている。
【0003】
このような高周波デバイスに関して、目的によっては、使用周波数における比誘電率が30から60で、誘電損失の小さな誘電体材料が要望される場合がある。このような誘電体材料としては、BaO−TiO系化合物を主成分とした材料の中でもBaTi49及びBa2Ti920の結晶を含む誘電体材料が提案されている。
【0004】
例えば、BaTi49及びBa2Ti920の結晶を含み、BaTi49とBa2Ti920との和に対するBa2Ti920の含有比を0.19未満とし、クラックの発生を抑制したBaO−xTiO2系の誘電体磁器が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−70222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高周波デバイスを形成する際、誘電体材料と高周波デバイス内部の電極や配線となる導体材とを同時焼成するため、導体材としては、誘電体材料の焼結温度よりも融点が高く、誘電体材料との同時焼成中に溶融しない材料を用いる必要があった。BaO−TiO系の誘電体材料では、焼結温度が1000℃以上と高いため、従来は、融点が高く、高価なPdやPtを導体材に用いなければならなかった。一方、Ag又はAgを主成分とする合金(以下、「Ag系金属」という。)は、安価で抵抗が低く、高周波領域での導体による損失を低減できるが、Ag系金属を導体材として用いる場合、Ag系金属は、融点が900℃から1000℃程度であり、誘電体材料の焼結温度よりも低い。そのため、Ag系金属等の低融点の導体材を内部電極として用い、導体材と誘電体材料とを含む多機能基板を同時焼成により得ようとする場合、例えば900℃程度まで焼成温度を低下させる必要があった。
【0007】
しかしながら、Ag系金属等の低融点の導体材を内部電極として用いた多機能基板を同時焼成する際、BaTi49やBa2Ti920の結晶相を主成分に含むBaO−TiO系誘電体材料ではBaTi49の結晶相を多く含み、Ba2Ti920の結晶相を少なく含んでいる場合、誘電体材料の低温焼成のために副成分を加えても焼結が十分に行なわれない、という問題があった。そのため、誘電体材料の比誘電率εrやQfなど誘電特性は低下し、誘電体材料の強度が低下していた。Qfは、品質係数Q=1/tanδと共振周波数fとの積で表され、誘電損失が小さくなればQfの値は大きくなる。誘電損失は高周波部品の電力損失を意味し、Qfの値が大きな低損失誘電体材料が求められている。
【0008】
また、十分な焼結を行なうため、低融点の導体材と誘電体材料とを含む多機能基板を同時焼成する際の焼成温度をAg系金属が溶融する例えば960℃以上とすると、導体材のAgが溶融してしまう、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低温での焼成を可能としつつ、誘電特性及び強度を維持することができる誘電体磁器、誘電体磁器の製造方法及び誘電体磁器製造用粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiOのモル比xが4.6以上8.0以下であり、X線回折において、前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上である主成分と、ホウ素酸化物及び銅酸化物とを含み、前記ホウ素酸化物の含有量が、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、前記銅酸化物の含有量が、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下である副成分と、を含むことを特徴とする。
【0011】
X線回折ピーク強度比I29/I14を1以上とし、主成分に含まれるBa2Ti920結晶相をBaTi49結晶相の割合よりも多くすることで、この主成分を含む誘電体磁器組成物はAg系金属が溶融しない程度の低温(Ag系金属の融点より低い温度)でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持する効果が得られる。
【0012】
本発明に係る誘電体磁器の製造方法は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である主成分と、ホウ素酸化物及び銅酸化物を含み、前記ホウ素酸化物の含有量を、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下とし、銅酸化物の含有量を、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下とする副成分とを含む誘電体磁器を製造するにあたり、バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含むチタン酸バリウムを有する主成分粉末を作製する主成分粉末の作製工程と、前記主成分粉末と前記ホウ素酸化物及び前記銅酸化物を含む副成分とを混合し、誘電体磁器組成物を得る誘電体磁器組成物の作製工程と、前記誘電体磁器組成物を用いて成型体を作製する成型体作製工程と、前記成型体を複数積層し、積層体を得る積層体作製工程と、前記積層体を焼成して、焼結体を得る焼成工程とを含み、前記主成分粉末をX線回折して得られる前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上であることを特徴とする。
【0013】
主成分粉末のX線回折ピーク強度比I29/I14を1以上とし、主成分粉末に含まれるBa2Ti920結晶相をBaTi49結晶相の割合よりも多くすることで、この主成分粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属が溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持する効果が得られる。
【0014】
本発明に係る誘電体磁器の製造方法は、BaTi49結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である主成分と、ホウ素酸化物及び銅酸化物を含み、前記ホウ素酸化物の含有量を、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下とし、銅酸化物の含有量を、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下とする副成分とを含む誘電体磁器を製造するにあたり、バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合して得られる主成分原料混合粉末を、熱処理温度T1を下記式(1)を満たす温度範囲として熱処理し、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含む主成分粉末を作製する主成分粉末の作製工程と、前記主成分粉末と前記ホウ素酸化物及び前記銅酸化物を含む副成分とを混合し、誘電体磁器組成物を得る誘電体磁器組成物の作製工程と、前記誘電体磁器組成物を用いて成型体を作製する成型体作製工程と、前記成型体を複数積層し、積層体を得る積層体作製工程と、前記積層体を焼成して、焼結体を得る焼成工程とを含み、前記主成分原料混合粉末の粒度分布を測定した際の累積10%粒子径をD10とし、累積50%粒子径をD50とし、累積90%粒子径をD90とした時、前記主成分原料混合粉末の粒度分布の指標値αが下記式(2)を満たすことを特徴とする。
T1≧1080+42/α ・・・(1)
α=(D50−D10)/(D90−D10) ・・・(2)
【0015】
なお、累積50%粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が50%に達する粒子径のことをいい、全粒子の粒子径の平均粒子径をいう。累積90%粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が90%に達する粒子径のことをいい、累積10%粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が10%に達する粒子径をいう。
【0016】
主成分原料混合粉末の10%粒子径D10と、50%粒子径D50と、90%粒子径D90とを用いて上記式(2)を用いて主成分原料混合粉末の粒度分布を指標値αとし、熱処理温度T1が上記式(1)を満たす温度範囲では、主成分粉末はBaTi49結晶相よりもBa2Ti920結晶相の割合が多くなる。このため、この主成分粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属の溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持する効果が得られる。
【0017】
本発明では、前記T1及びαが、下記式(3)及び(4)を満たすことが好ましい。
T1≧1040+62/α ・・・(3)
α≧0.350 ・・・(4)
【0018】
上記式(3)及び(4)を満たすことで、主成分粉末のBaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14は、5以上となり、Ba2Ti920結晶相を十分生成することができる。
【0019】
本発明に係る誘電体磁器製造用粉末の製造方法は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である誘電体磁器製造用粉末を製造するにあたり、バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、前記主成分原料混合粉末を準備する主成分原料混合粉末の準備工程と、前記主成分原料混合粉末を熱処理し、前記誘電体磁器製造用粉末を得る主成分原料混合粉末の熱処理工程とを含み、前記誘電体磁器製造用粉末をX線回折して得られる前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上であることを特徴とする。
【0020】
誘電体磁器製造用粉末をX線回折して得られるX線回折ピーク強度比I29/I14を1以上とし、誘電体磁器製造用粉末に含まれるBa2Ti920結晶相をBaTi49結晶相の割合よりも多くすることができる。このため、この誘電体磁器製造用粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属の溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性を維持する効果が得られる。
【0021】
本発明に係る誘電体磁器製造用粉末の製造方法は、Ba2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である誘電体磁器製造用粉末を製造するにあたり、バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、前記主成分原料混合粉末を準備する主成分原料混合粉末の準備工程と、前記主成分原料混合粉末を、熱処理温度T1を下記式(1)を満たす温度範囲として熱処理し、前記誘電体磁器製造用粉末を得る主成分原料混合粉末の熱処理工程とを含み、前記主成分原料混合粉末の粒度分布を測定した際の累積10%粒子径をD10とし、累積50%粒子径をD50とし、累積90%粒子径をD90とした時、前記主成分原料混合粉末の粒度分布の指標値αが下記式(2)を満たすことを特徴とする。
T1≧1080+42/α ・・・(1)
α=(D50−D10)/(D90−D10) ・・・(2)
【0022】
主成分原料混合粉末の10%粒子径D10と、50%粒子径D50と、90%粒子径D90とを用いて上記式(2)を用いて主成分原料混合粉末の粒度分布を指標値αとし、熱処理温度T1が上記式(1)を満たす温度範囲では、誘電体磁器製造用粉末はBaTi49結晶相よりもBa2Ti920結晶相の割合を多く含む。このため、この誘電体磁器製造用粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属の溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持する効果が得られる。
【0023】
本発明では、前記T1及びαが、下記式(3)及び(4)を満たすことが好ましい。
T1≧1040+62/α ・・・(3)
α≧0.350 ・・・(4)
【0024】
上記式(3)及び(4)を満たすことで、誘電体磁器製造用粉末に含まれるBaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が5以上となり、Ba2Ti920結晶相を十分生成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明者らは、低温での焼成を可能としつつ、誘電特性及び強度を維持することができる誘電体磁器、誘電体磁器の製造方法、誘電体磁器製造用粉末の製造方法及び電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本実施形態に係る誘電体磁器の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態の誘電体磁器を用いて得られるバンドパスフィルタの構成を示す概略断面図である。
【図3】図3は、X線回折ピーク強度比I29/I14と熱処理温度T1との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<誘電体磁器>
本実施形態に係る誘電体磁器は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO)で表され、BaOに対するTiOのモル比xが4.6以上8.0以下であり、X線回折において、前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上である主成分を含む。また、本実施形態に係る誘電体磁器は、ホウ素酸化物及び銅酸化物とを含み、前記ホウ素酸化物の含有量が、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、前記銅酸化物の含有量が、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下である副成分を含む。
【0029】
なお、本明細書において、誘電体磁器組成物とは、誘電体磁器の原料組成物であり、誘電体磁器組成物を焼結させることによって、焼結体である誘電体磁器が得られる。また、焼結とは、誘電体磁器組成物を加熱すると、誘電体磁器組成物が焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象である。一般に、加熱前の誘電体磁器組成物に比べて、焼結体の密度、機械的強度等は大きくなる。また、焼結温度とは、誘電体磁器組成物が焼結する際の誘電体磁器組成物の温度である。また、焼成とは、焼結を目的とした加熱処理を意味し、焼成温度とは、加熱処理の際に誘電体磁器組成物が曝される雰囲気の温度である。
【0030】
また、本実施形態に係る誘電体磁器の焼結前の誘電体磁器組成物を低温で焼成することが可能であるか否か(低温焼結性)の評価は、誘電体磁器組成物の焼成温度を徐々に下げて焼成し、誘電体磁器が所望の誘電体高周波特性が得られる程度に誘電体磁器組成物が焼結しているかどうかで判断することができる。また、本実施形態に係る誘電体磁器についての誘電特性は、Qf値、温度変化による共振周波数の変化(共振周波数の温度係数τf)、及び比誘電率εrによって評価することができる。Qf値、比誘電率εrは、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R1627 1996年度))に従って測定することができる。
【0031】
(主成分)
本実施形態に係る誘電体磁器に含まれる主成分は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含むBaO−TiO系化合物である。前記結晶相を含むことで、比誘電率εrが30以上60以下で、高いQf値を有する低損失材料となる。
【0032】
前記BaO−TiO系化合物をBaO・xTiO2と表記したとき、BaO・xTiOにおけるBaOに対するTiOのモル比xは、4.6以上8.0以下を満たすようにしている。
【0033】
モル比xを上記範囲内とすることで、生成される誘電体磁器の線膨張係数の値及び比誘電率εrを調整すると共に、Qf値を調整して電気的特性が悪化するのを抑制することができる。一般に誘電体磁器を用いて得られるフィルタ等の電子部品は、樹脂基板上に半田付けにより搭載されることが多い。モル比xの値が4.6未満の場合、即ち、BaOに対するTiOの含有比率が少なくなり過ぎると、線膨張係数の値が目的とする値よりも小さすぎるため、対象となる樹脂基板の線膨張係数との差が大きくなってしまう。一方、モル比xの値が8を超えた場合、即ち、BaOに対するTiOの含有比率が多くなり過ぎると、線膨張係数の値は若干大きくなるものの、目的以上の比誘電率εrになってしまうと共に、Qf値が小さくなる傾向を示し、電気的特性が悪化するからである。よって、本実施形態に係る誘電体磁器に含まれる主成分は、BaOに対するTiOのモル比xを4.6以上8.0以下の範囲内としている。
【0034】
本実施形態に係る誘電体磁器は、X線回折において、主成分に含まれるBaTi49結晶相の最大ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が、1以上となるようにしている。また、X線回折ピーク強度比I29/I14は、5以上となることがより好ましく、7以上となることが更に好ましい。
【0035】
X線回折ピーク強度比I29/I14を1以上とすることで、主成分に含まれるBaTi49結晶相よりもBa2Ti920結晶相の割合は多くなる。この結果、この主成分を含む誘電体磁器組成物はAg系金属が溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる本実施形態に係る誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性を維持することができる。
【0036】
(副成分)
本実施形態に係る誘電体磁器に含まれる副成分は、ホウ素酸化物及び銅酸化物を含む。副成分は、後述するように得られる誘電体磁器組成物を焼成する際に液相を形成する焼結助剤として用いられる。ホウ素酸化物は、例えば、B23などがある。銅酸化物は、例えば、CuOなどがある。副成分として、ホウ素酸化物及び銅酸化物を焼成時に液相を形成する焼結助剤として添加することで、BaO−TiO系化合物を含む主成分粉末とAg系金属などの低融点の導体材との同時焼成を可能とし、低温焼成化を図ることができる。また、副成分として銅酸化物を含むことで、主成分であるBaO・xTiO2のモル比xは、上記範囲内において低温焼結化を図ると共に、Qf値を維持することができる。
【0037】
ホウ素酸化物の含有量は、B23換算で主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、銅酸化物の含有量は、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下としている。Qf値の特性低下は電子部品の損失が大きくなることを意味し、Qf値が大きいほど、電子部品の損失は小さく抑えられる。ホウ素酸化物及び銅酸化物の含有量を上記範囲内とすることで、本実施形態に係る誘電体磁器のQf値を、所定値(例えば、10000GHz)以上を維持しながら、誘電体磁器組成物の低温焼結化を図ることができる。これにより、本実施形態に係る誘電体磁器は、Ag系金属等の低融点の導体材を内部電極とする電子部品に用いられる低温焼成が可能な誘電体磁器を提供することができる。
【0038】
ホウ素酸化物は、少量のほうが主成分の特性(Qf値)を活かすのに有効となるが、ホウ素酸化物の含有量が、主成分100質量部に対して0.5質量部を下回ると、Ag系金属等の導体材との同時焼成が可能な温度までの低温焼成化が難しくなると共に、Qf値も低下してしまうため、ホウ素酸化物の含有量は、0.5質量部以上とした。また、ホウ素酸化物は、含有量を増加させる程、低温焼成化は容易となるものの、ホウ素酸化物の含有量が、主成分100質量部に対して5.0質量部を超えると、主成分の特性(Qf値)が低下してしまうと共に、低温焼成化も困難となり、焼結後の密度が低下してしまうため、ホウ素酸化物の含有量は、5.0質量部以下とした。ホウ素酸化物の含有路量は、好適には2.5質量部程度含まれていることが好ましい。
【0039】
銅酸化物は、少量のほうが主成分の特性(Qf値)を活かすのに有効となるが、銅酸化物の含有量が、0.1質量部を下回ると、Ag系金属等の低融点の導体材との同時焼成が可能な温度までの低温焼成化が困難となると共に、Qf値も低下してしまうため、銅酸化物の含有量は、0.1重量%以上とした。また、銅酸化物は、含有量を増加させる程、低温焼成化は容易となるものの、銅酸化物の含有量が、3.0質量部を超えると、主成分の特性(Qf値)が低下してしまうと共に、低温焼成化も難しくなり、焼結後の密度が低くなってしまうため、銅酸化物の含有量は3.0質量部以下とした。銅酸化物の含有量は、好適には、1質量部程度含まれていることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る誘電体磁器においては、副成分として、ホウ素酸化物及び銅酸化物の他に亜鉛酸化物を添加するようにしてもよい。亜鉛酸化物としては、例えば、ZnOなどがある。副成分として、ホウ素酸化物及び銅酸化物に加えて、わずかな亜鉛酸化物を添加することで、さらに低温焼成化を図ることができる。亜鉛酸化物の含有量は、酸化亜鉛ZnO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下であるのが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る誘電体磁器は、亜鉛酸化物を含んでもよいが、ガラス成分を含まない組成で構成されている。
【0042】
本実施形態に係る誘電体磁器によれば、X線回折ピーク強度比I29/I14を1以上とすることで、Ag系金属が溶融しない程度の低温で誘電体磁器組成物とAg系金属等の低融点の導体材との同時焼成を可能とすることができると共に、誘電特性及び強度を維持することができる。
【0043】
<誘電体磁器の製造方法>
本実施形態に係る誘電体磁器の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る誘電体磁器の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係る誘電体磁器の製造方法は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含むBaO−xTiO系化合物を主成分とし、ホウ素酸化物及び銅酸化物を副成分として含む誘電体磁器を製造するにあたり、以下の工程を含む。
(a) 主成分としてバリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、主成分粉末を作製する主成分粉末の作製工程(ステップS11)
(b) 主成分粉末と副成分とを混合して誘電体磁器組成物を得る誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS12)
(c) 誘電体磁器組成物の粉末を含むペーストを基板上に塗布し、成型体を作製する成型体作製工程(ステップS13)
(d) グリーンシートを複数積層し、積層体を得る積層体作製工程(ステップS14)
(e) 積層体を焼成して、焼結体を得る焼成工程(ステップS15)
【0044】
<主成分粉末の作製工程:ステップS11>
主成分粉末の作製工程(ステップS11)は、主成分としてバリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、主成分粉末を作製する工程である。主成分粉末の作製工程(ステップS11)は、主成分原料混合粉末の準備工程(ステップS11−1)と、主成分原料混合粉末の熱処理(仮焼き)工程(ステップS11−2)とを含む。主成分粉末の作製工程(ステップS11)により得られる主成分粉末は誘電体磁器を製造するための誘電体磁器製造用粉末として用いられる。
【0045】
(主成分原料混合粉末の準備工程:ステップS11−1)
主成分原料混合粉末の準備工程(ステップS11−1)は、主成分としてバリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、主成分原料混合粉末を準備する工程である。誘電体磁器の主成分の原料は、例えば、炭酸バリウム(BaCO3)や酸化チタン(TiO2)やBaO−TiO2系化合物又は後述する仮焼き等の熱処理で焼成することによってこれらの酸化物となる化合物などである。後述する仮焼き等の熱処理で焼成することによってこれらの酸化物となる化合物は、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等がある。
【0046】
主成分の原料となるバリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とをそれぞれ所定量秤量して混合する。この混合の際は、得られる誘電体磁器の主成分の組成式BaO・xTiO2におけるBaOに対するTiO2のモル比xが、上述の範囲内となるように、各原料を秤量する。即ち、BaO−xTiO系化合物をBaO・xTiO2と表記したとき、BaOに対するTiO2のモル比xは4.6以上8.0以下となるように混合する。BaOに対するTiO2のモル比xを上記範囲内とすることで、上記のように、生成される誘電体磁器の線膨張係数の値及び比誘電率εrを調整すると共に、Qfの値を調整して電気的特性が悪化するのを抑制することができる。BaCO3粉末及びTiO2粉末の混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で純水、エタノール等の溶媒を用いて混合する。ボールミルの場合の混合時間は4時間から24時間程度とする。
【0047】
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末との主成分原料混合粉末を、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下で12時間から36時間程度乾燥する。主成分原料混合粉末を準備した後、主成分原料混合粉末の仮焼き工程(ステップS11−2)に移行する。
【0048】
(主成分原料混合粉末の仮焼き(熱処理)工程:ステップS11−2)
主成分原料混合粉末の仮焼き(熱処理)工程(ステップS11−2)は、主成分原料混合粉末を仮焼き(熱処理)し、主成分粉末を得る工程である。主成分原料混合粉末を、1100℃以上1400℃以下の温度で、1時間から10時間程度仮焼き(熱処理)する。仮焼き(熱処理)温度は、1100℃以上1400℃以下であることが好ましく、1100℃以上1350℃以下であることがより好ましい。この仮焼き(熱処理)によって、BaO−TiO2系化合物が合成され、誘電体磁器の主成分粉末が得られる。主成分原料混合粉末を仮焼き(熱処理)して得られた主成分粉末は、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含む。
【0049】
主成分粉末をX線回折した際、BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14は1以上となるようにしている。また、X線回折ピーク強度比I29/I14は、5以上となることがより好ましく、7以上となることが更に好ましい。
【0050】
X線回折ピーク強度比I29/I14が1以上となる場合、主成分粉末には、Ba2Ti920結晶相の割合の方がBaTi49結晶相よりも多く含まれる。このため、この主成分粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属の溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持する効果を得ることができる。
【0051】
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とからなる主成分原料混合粉末を仮焼きする際、熱処理温度T1は下記式(1)を満たす温度範囲であると共に、主成分原料混合粉末の粒度分布を測定した際の累積10%粒子径をD10とし、累積50%粒子径をD50とし、累積90%粒子径をD90とした時、前記主成分原料混合粉末の粒度分布の指標値αが下記式(2)を満たすようにする。
T1≧1080+42/α ・・・(1)
α=(D50−D10)/(D90−D10) ・・・(2)
【0052】
なお、累積50%粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が50%に達する粒子径のことをいい、全粒子の粒子径の平均粒子径をいう。累積90% 粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が90%に達する粒子径のことをいい、累積10%粒子径とは主成分原料混合粉末の粒度分布において累積頻度が10%に達する粒子径をいう。
【0053】
主成分原料混合粉末の10%粒子径D10と、50%粒子径D50と、90%粒子径D90とを用いて上記式(2)を用いて主成分原料混合粉末の粒度分布を指標値αとし、熱処理温度T1が上記式(1)を満たす温度範囲では、主成分粉末はBaTi49結晶相よりもBa2Ti920結晶相の割合が多くなる。このため、この主成分粉末を用いて得られる誘電体磁器組成物はAg系金属の溶融しない程度の低温でAg系金属と同時焼成することができると共に、誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は比誘電率εrやQfなど誘電特性及び強度を維持することができる。
【0054】
T1及びαは、更に下記式(3)及び(4)を満たすようにするのが好ましい。
T1≧1040+62/α ・・・(3)
α≧0.350 ・・・(4)
【0055】
上記式(3)及び(4)を満たすことで、主成分粉末のBaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)とBa2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14は、5以上となり、Ba2Ti920結晶相を十分生成することができる。
【0056】
誘電体磁器の主成分粉末を得た後、誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS12)に移行する。
【0057】
<誘電体磁器組成物の作製工程:ステップS12>
誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS12)は、主成分粉末を粉砕すると同時に、副成分粉末を混合し、主成分と副成分とからなる誘電体磁器組成物を得る工程である。主成分粉末を粉砕することにより、所望の平均粒子径の大きさを有する主成分粉末を得る。また、得られる主成分粉末と、誘電体磁器組成物の副成分の原料であるホウ素酸化物及び酸化銅とを混合することで誘電体磁器組成物を得ることができる。誘電体磁器組成物の副成分の原料として、ホウ素酸化物及び酸化銅を各々所定量秤量し、準備する。ホウ素酸化物としては、例えばB23が挙げられる。酸化銅としては、例えばCuOが挙げられる。また、副成分の原料として、後述する仮焼き等の熱処理で焼成することによってホウ素酸化物及び銅酸化物となる化合物を用いることもできる。誘電体磁器組成物の副成分の原料としては、例えば、ホウ素酸化物及び酸化銅以外に、亜鉛酸化物やリチウム酸化物やアルカリ土類金属酸化物又は後述する仮焼き等の熱処理で焼成することによってこれらの酸化物となる化合物を用いることができる。焼成(後述する仮焼き等の熱処理)により上記酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。
【0058】
副成分の各原料の秤量は、完成後の誘電体磁器組成物において、各副成分の含有量が、主成分に対して所望の上記比率(質量部)となるように行う。即ち、ホウ素酸化物の含有量は、B23換算で主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下とし、銅酸化物の含有量は、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下となるように行う。また、必要に応じて、副成分として酸化亜鉛ZnOを所定量用意する。混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4時間から24時間程度とすればよい。
【0059】
主成分粉末と副成分粉末とを混合した誘電体磁器組成物は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の乾燥温度で12時間から36時間程度乾燥する。
【0060】
主成分粉末と副成分を混合した誘電体磁器組成物を、後述する焼成温度(860℃以上1000℃以下)より低い温度、例えば600℃以上800℃以下で、1時間から10時間程度仮焼きしてもよい。
【0061】
この仮焼きを行った場合には、仮焼きした粉末を粉砕して乾燥し、誘電体磁器組成物を得る。この粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行なうことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4時間から24時間程度とする。粉砕後の誘電体磁器組成物の乾燥は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の処理温度で12時間から36時間程度とする。
【0062】
誘電体磁器組成物を得た後、成型体を作製する成型体作製工程(ステップS13)に移行する。
【0063】
<成型体作製工程:ステップS13>
成型体作製工程(ステップS13)は、誘電体磁器組成物の粉末を含むペーストを基板上に塗布し、成型体を作製する工程である。得られた誘電体磁器組成物の粉末を、ポリビニルアルコール系、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等に添加した後、得られた混合物をシート状に成型してグリーンシートを得る。グリーンシートの成型方法は、シート法や印刷法等の湿式成型法やプレス成型等の乾式成型法などがある。成型体を作製した後、積層体を作製する積層体作製工程(ステップS14)に移行する。
【0064】
<積層体作製工程:ステップS14>
積層体作製工程(ステップS14)では、形成したグリーンシート上に、所定形状の内部電極が形成されるようにAgを含有する導電性ペーストを塗布する。導電性ペーストが塗布されたグリーンシートを必要に応じて複数作製し、積層してプレスし、積層体を得る。また、必要に応じて、この積層体には、所定形状の端子が形成されるように導電性ペーストを塗布する。その後、積層体を乾燥することにより導電性ペーストから有機溶剤を除去する。積層体を作製した後、積層体を焼成する焼成工程(ステップS15)に移行する。
【0065】
<焼成工程:ステップS15>
焼成工程(ステップS15)では、得られた積層体に脱バインダー処理を施した後に、積層体を焼成して、焼結体を得る。これにより、本実施形態に係る誘電体磁器が得られる。焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼成温度は、導体材として用いるAg系金属の融点以下であることが好ましく、具体的には、860℃以上1000℃以下であることが好ましく、880℃以上940℃以下であることがより好ましい。
【0066】
焼結体の冷却後、必要に応じて、得られた誘電体磁器に外部電極等を形成し、誘電体磁器を所望の寸法に切断することで、誘電体磁器に外部電極等が形成された電子部品が完成する。
【0067】
以上のようにして本実施形態に係る誘電体磁器の製造方法を用いれば、得られる電子部品は、本実施形態に係る誘電体磁器を備えているため、Ag系金属が溶融しない程度の低温で誘電体磁器組成物とAg系金属等の低融点の導体材との同時焼成を可能とすると共に、誘電特性及び強度に優れた電子部品を提供することができる。
【0068】
<電子部品>
本実施形態に係る誘電体磁器を用いて得られる電子部品は、例えば、携帯電話等における高周波通信用のバンドパスフィルタなどがある。図2は、本実施形態の誘電体磁器を用いて得られるバンドパスフィルタの構成を示す概略断面図である。図2に示すように、バンドパスフィルタ10は、複数の誘電体層11と、コイル12と、キャパシタパターン部13−1から13−3と、ビア(ビア導体)14とを含む。誘電体層11は、本実施形態の誘電体磁器を形成するために用いられる誘電体磁器組成物が用いられている。コイル12、キャパシタパターン部13−1から13−3はAg導体で形成されている。ビア14は、コイル12とキャパシタパターン部13−1とを導通させるAg導体が充填されたビアホール部分であり、LC共振回路が形成されている。キャパシタパターン部13−1はビア(ビア導体)14によってコイル12と接続されている。バンドパスフィルタ10のコンデンサー部は3層構造としているが、バンドパスフィルタ10は3層構造に限定されず、任意の多層構造とすることができる。上述の通り、誘電体層11の作製において、主成分にはBa2Ti920結晶相の割合がBaTi49結晶相よりも多く含まれるBaO−xTiO系化合物を含む誘電体磁器組成物を用いている。これにより、バンドパスフィルタ10は、前記誘電体磁器組成物と、コイル12とキャパシタパターン部13−1から13−3とビア14とを同時焼成して得られ、誘電体層11の誘電特性及び強度を維持することが可能となる。
【0069】
また、複数の誘電体層11は、主成分に含まれるBaO−xTiO系化合物を、組成式(BaO・xTiO)で表記したとき、BaOに対するTiOのモル比xが4.6以上8.0以下であり、ホウ素酸化物の含有量が、B23換算で主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、銅酸化物の含有量が、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下である誘電体磁器組成物を用いて作製されている。バンドパスフィルタ10を搭載する樹脂基板として、例えば線膨張係数が13ppm/℃の材料で形成されるFR−4グレードの樹脂基板と、線膨張係数が10ppm/℃の材料で形成される樹脂基板とを用いる場合、バンドパスフィルタ10を樹脂基板上に半田付けして搭載する際、作製されたバンドパスフィルタ10は、線膨張係数が10ppm/℃程度であり上記樹脂基板との差を小さくできる。このため、温度条件が−55℃以上+125℃以下、試験サイクル数が1000サイクルの熱衝撃試験を行った場合でも、誘電体層11にクラックが発生するのを抑制することができると共に、バンドパスフィルタ10と樹脂基板との半田付け部分が外れるのを防ぐことができる。
【0070】
本実施形態に係る誘電体磁器は、図2に示すような誘電体層11と内部電極が交互に積層される電子部品に限定されるものではなく、誘電体層11を含む電子部品であれば好適に用いることができる。また、本実施形態に係る誘電体磁器は、外部に更に素子が個別に実装される電子部品であっても好適に用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
<実施例1−1から1−6:主成分原料混合粉末の指標値αと混合分散性の評価>
主成分原料粉末として純度99.2%のBaCOの粉末と純度99.8%のTiOの粉末とを組成式がBaO・xTiO2となるように秤量し、ZrOビーズを使用する混合分散機の混合分散条件を変えて主成分原料混合粉末(AからF)を作製した。混合分散機の処理条件は、処理条件aからfの順に混合分散性を高くした。
【0073】
(粒度分布)
主成分原料混合粉末(AからF)の粒度分布は、レーザ回折式粒度測定分布計(商品名:Microtrac X100、日機装社製)を用いて測定した。主成分原料混合粉末(AからF)の測定結果から粒度分布の指標値αを計算した。計算結果を表1に示す。表1より、混合分散機の処理条件aからfの順に指標値αは増加した。よって、主成分原料混合粉末(AからF)の混合分散性が高くなるに従って指標値αが大きくなることが確認された。
【0074】
主成分原料混合粉末(AからF)の分散性は、X線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro-Analysis)を用いて測定した。EPMAにより主成分原料混合粉末(AからF)のBaとTiとの元素分布状態を主成分原料混合粉末(AからF)の200μm四方(200μm×200μm)の範囲で確認し、各元素のX線強度の標準偏差σを各元素のX線強度の平均値で除した変動係数(標準偏差σ/平均値)を求めた。変動係数の測定結果を表1に示す。相対的なばらつきを表す変動係数の値は小さいほど、元素偏析が小さい状態となっていることを示す。表1に示すように、混合分散機の処理条件aからfの順にBa及びTiの分散性が高くなった。
【0075】
よって、主成分原料混合粉末(AからF)の粒度分布の測定結果から求められた指標値αと主成分原料混合粉末の元素の混合分散状態とには相関関係があり、主成分原料混合粉末(AからF)の粒度分布の測定結果から求められた指標値αが高くなるに従ってBa及びTiの混合分散状態が良好になっていることが確認された。
【0076】
また、BET法により主成分原料混合粉末(AからF)の比表面積を測定し、主成分原料混合粉末(AからF)は混合分散状態が良好な細かい粉末となっていることが確認された。
【0077】
【表1】

【0078】
<実施例2−1から2−6:主成分粉末のX線回折ピーク強度比の評価>
主成分原料混合粉末(AからF)を1170℃から1250℃の温度範囲で仮焼き(熱処理)を行ない、Cu管球を使用しているX線回折装置を用いて主成分粉末に生成しているBaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相の回折ピーク強度の比較を行なった。その際、各々の結晶相の最大回折ピークを使用することとし、BaTi49結晶相については、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードのリファレンスコード01−077−1565に掲載されている最大回折ピークデータに基づき、2θ=30.106(deg)付近の強度(I14)を使用した。Ba2Ti920結晶相については、ICDDカードのリファレンスコード01−076−1424に掲載されている最大回折ピークデータに基づき、2θ=28.583(deg)付近の強度(I29)を使用した。主成分原料混合粉末(AからF)を熱処理して得られた主成分粉末のX線回折ピーク強度比I29/I14を求めた。X線回折ピーク強度比I29/I14の算出結果を表2に示す。表2中、二重丸印は、X線回折ピーク強度比I29/I14が5以上であり、丸印は、X線回折ピーク強度比I29/I14が1以上5未満であり、バツ印は、X線回折ピーク強度比I29/I14が1未満を表す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示すように、高温で仮焼き(熱処理)を行なうほど、BaTi49結晶相の回折ピークに対してBa2Ti920結晶相の回折ピークが高くなったが、指標値αが大きい主成分原料混合粉末を使用するほどより低温でBa2Ti920結晶相の生成が進んでいることが分かった。また、実施例2−1では、1250℃まで温度を上げてもX線回折ピーク強度比I29/I14を5以上にすることはできず、X線回折ピーク強度比I29/I14を5以上とするためには、指標値αが0.350以上であることが必要であることが分かった。図3は、指標値αと熱処理温度T1との関係を示す。図3中、実線は、T1=1080+42/αの式を表し、破線は、T1=1040+62/αの式を表す。図3に示すように、熱処理温度T1が式1080+42/α(図3中、実線)より大きいと、X線回折ピーク強度比I29/I14は1以上とすることができ、Ba2Ti920結晶相の最大回折ピークがBaTi49結晶相の最大回折ピークと同等以上となることが分かった。また、指標値αが0.350以上、かつ、T1が式1040+62/α(図3中、破線)以上の温度範囲とすることで、X線回折ピーク強度比I29/I14を5以上とすることができることがわかった。
【0081】
<実施例3−1から3−4、比較例3−1:誘電体磁器の密度、強度、誘電特性の評価>
仮焼き(熱処理)を行なった主成分粉末についてX線回折を行ない、異なる結晶相状態が確認された試料を用意した(実施例3−1から実施例3−4、比較例3−1、参照)。その主成分粉末を粉砕すると同時に副成分としてB23及びCuOを湿式混合した。その主成分と副成分とからなる誘電体磁器組成物を後述する焼成温度よりも低い温度で再度仮焼きした後、粉砕した。得られた粉末に有機バインダーなどを添加し、乾式成型体を作製した。また、別の有機バインダーなどを添加してポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate:PET)の基板上にシート成型体を作製した。一部のシート成型体には、導体材としてAgを主成分とする導電性ぺ−ストを塗布し、適量の枚数のシートを積層後プレスし、導電性ぺ−ストを含むシート積層成型体を作製した。残りのシート成型体には、Agを主成分とする導電性ぺ−ストを塗布せずに適量の枚数のシートを積層後プレスし、導電性ぺ−ストを含まないシート積層成型体を作製した。これらの乾式成型体と、導電性ぺ−ストを含むシート積層成型体と導電性ぺ−ストを含まないシート積層成型体とを、各々Agが溶融しない基準温度(A)℃(930℃)で焼成した。導電性ぺ−ストを含まないシート積層成型体を焼成した試料(誘電体磁器)で、誘電体磁器の密度と3点曲げ強度の測定を行なった。また、乾式成型体を焼成した試料(誘電体磁器)を用いて、共振器法による誘電特性(比誘電率εr、品質係数Qf)を測定した。また、導電性ぺ−ストを含むシート積層成型体を焼成して得られた試料(誘電体磁器)で導電性ぺ−ストに含まれるAgが溶融していないか確認を行なった。実施例3−1から3−4と比較例3−1で用いた主成分粉末のX線回折ピーク強度比I29/I14と、誘電体磁器のX線回折ピーク強度比I29/I14と、密度と、3点曲げ強度と、誘電特性(比誘電率εr、品質係数Qf)と、Agの溶融状態の測定結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示すように、誘電体磁器のX線回折ピーク強度比I29/I14が、1未満であると、誘電体磁器の密度、強度、誘電特性(比誘電率εr、品質係数Qf)が低下したのが確認された(比較例3−1参照)。また、誘電体磁器組成物の主成分粉末のX線回折ピーク強度比I29/I14が1未満の場合、基準温度A(930℃)では十分焼結しなかった。また、誘電体磁器組成物の粉末を十分焼結させるため、基準温度Aより40℃高い温度(970℃)で焼結すると、導体材であるAgが溶融した(比較例3−1参照)。これに対し、誘電体磁器の主成分粉末としてX線回折ピーク強度比I29/I14が高い粉末を用いると、誘電体磁器のX線回折ピーク強度比I29/I14も高くなった(実施例3−1から3−4参照)。従って、誘電体磁器の粉末の主成分粉末のX線回折ピーク強度比I29/I14が高い粉末を用いると、誘電体磁器の回折ピークのX線回折ピーク強度比I29/I14も高くなり、誘電体磁器の密度、強度、誘電特性(比誘電率εr、品質係数Qf)を向上させることができることが判明した。
【符号の説明】
【0084】
10 バンドパスフィルタ
11 誘電体層
12 コイル
13−1〜13−3 キャパシタパターン部
14 ビア(ビア導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiOのモル比xが4.6以上8.0以下であり、X線回折において、前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上である主成分と、
ホウ素酸化物及び銅酸化物とを含み、前記ホウ素酸化物の含有量が、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であり、前記銅酸化物の含有量が、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下である副成分と、
を含むことを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である主成分と、
ホウ素酸化物及び銅酸化物を含み、前記ホウ素酸化物の含有量を、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下とし、銅酸化物の含有量を、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下とする副成分とを含む誘電体磁器を製造するにあたり、
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含む主成分粉末を作製する主成分粉末の作製工程と、
前記主成分粉末と前記ホウ素酸化物及び前記銅酸化物を含む副成分とを混合し、誘電体磁器組成物を得る誘電体磁器組成物の作製工程と、
前記誘電体磁器組成物を用いて成型体を作製する成型体作製工程と、
前記成型体を複数積層し、積層体を得る積層体作製工程と、
前記積層体を焼成して、焼結体を得る焼成工程とを含み、
前記主成分粉末をX線回折して得られる前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上であることを特徴とする誘電体磁器の製造方法。
【請求項3】
Ba2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である主成分と、
ホウ素酸化物及び銅酸化物を含み、前記ホウ素酸化物の含有量を、B23換算で前記主成分100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下とし、銅酸化物の含有量を、CuO換算で主成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下とする副成分とを含む誘電体磁器を製造するにあたり、
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合して得られる主成分原料混合粉末を、熱処理温度T1を下記式(1)を満たす温度範囲として熱処理し、BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含む主成分粉末を作製する主成分粉末の作製工程と、
前記主成分粉末と前記ホウ素酸化物及び前記銅酸化物を含む副成分とを混合し、誘電体磁器組成物を得る誘電体磁器組成物の作製工程と、
前記誘電体磁器組成物を用いて成型体を作製する成型体作製工程と、
前記成型体を複数積層し、積層体を得る積層体作製工程と、
前記積層体を焼成して、焼結体を得る焼成工程とを含み、
前記主成分原料混合粉末の粒度分布を測定した際の累積10%粒子径をD10とし、累積50%粒子径をD50とし、累積90%粒子径をD90とした時、前記主成分原料混合粉末の粒度分布の指標値αが下記式(2)を満たすことを特徴とする誘電体磁器の製造方法。
T1≧1080+42/α ・・・(1)
α=(D50−D10)/(D90−D10) ・・・(2)
【請求項4】
前記T1及びαが、下記式(3)及び(4)を満たす請求項3に記載の誘電体磁器の製造方法。
T1≧1040+62/α ・・・(3)
α≧0.350 ・・・(4)
【請求項5】
BaTi49結晶相及びBa2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2
で表され、BaOに対するTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である誘電体磁器
製造用粉末を製造するにあたり、
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、前記主成分原料混合粉末を準備する主成分原料混合粉末の準備工程と、
前記主成分原料混合粉末を熱処理し、前記誘電体磁器製造用粉末を得る主成分原料混合粉末の熱処理工程とを含み、
前記誘電体磁器製造用粉末をX線回折して得られる前記BaTi49結晶相の最大回折ピーク強度(I14)と前記Ba2Ti920結晶相の最大回折ピーク強度(I29)とのX線回折ピーク強度比I29/I14が1以上であることを特徴とする誘電体磁器製造用粉末の製造方法。
【請求項6】
Ba2Ti920結晶相を含み、組成式(BaO・xTiO2)で表され、BaOに対す
るTiO2のモル比xが4.6以上8.0以下である誘電体磁器製造用粉末を製造するに
あたり、
バリウムを含む原料粉末とチタンを含む原料粉末とを混合し、前記主成分原料混合粉末を準備する主成分原料混合粉末の準備工程と、
前記主成分原料混合粉末を、熱処理温度T1を下記式(1)を満たす温度範囲として熱処理し、前記誘電体磁器製造用粉末を得る主成分原料混合粉末の熱処理工程とを含み、
前記主成分原料混合粉末の粒度分布を測定した際の累積10%粒子径をD10とし、累積50%粒子径をD50とし、累積90%粒子径をD90とした時、前記主成分原料混合粉末の粒度分布の指標値αが下記式(2)を満たすことを特徴とする誘電体磁器製造用粉末の製造方法。
T1≧1080+42/α ・・・(1)
α=(D50−D10)/(D90−D10) ・・・(2)
【請求項7】
前記T1及びαが、下記式(3)及び(4)を満たす請求項6に記載の誘電体磁器製造用粉末の製造方法。
T1≧1040+62/α ・・・(3)
α≧0.350 ・・・(4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−225435(P2011−225435A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73609(P2011−73609)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】