説明

誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品

【課題】高い電界強度下においても良好な特性を示す誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用されたセラミック電子部品を提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを主成分として含有し、チタン酸バリウム100モルに対して、副成分として、Mgの酸化物をMgO換算で1.0〜3.0モル、Rの酸化物(Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)をR換算で2.0〜5.0モル、Mnの酸化物をMnO換算で0.05〜1.0モル、Siを含む酸化物をSiO換算で2.0〜12.0モル、含有し、Mgの酸化物の含有量(α)およびRの酸化物の含有量(β)が、0.45≦α/β<1.00である関係を満足する誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用されたセラミック電子部品に関し、良好な特性を示す誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が適用されたセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進むとともに、用途も拡大し、要求される特性は様々である。
【0003】
たとえば、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサは、ECM(エンジンエレクトリックコンピュータモジュール)、燃料噴射装置、電子制御スロットル、インバータ、コンバータ、HIDヘッドランプユニット、ハイブリッドエンジンのバッテリコントロールユニット、デジタルスチールカメラ等の機器に好適に用いられる。
【0004】
さらに、上記のような高い定格電圧で使用される場合、高い電界強度下において使用されることとなるが、電界強度が高くなると、比誘電率や絶縁抵抗が低下してしまい、その結果、使用環境における実効容量あるいは信頼性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
ところで、特許文献1には、組成式が100BaTiO+aRE+bMnO+cMgOで表され、a、bおよびcやそれらの比等が特定の範囲にある誘電体磁器組成物が開示されている。この誘電体磁器組成物によれば、非還元性で、比誘電率、絶縁性、容量温度変化率、誘電正接等の特性を良好にできることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、直流電圧印加等の高い電界強度下における特性や信頼性については、何ら記載されておらず、これらの特性が良好であるかどうかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−31232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い電界強度下においても良好な特性を示す誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用されたセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
チタン酸バリウムを、主成分として含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対して、副成分として、
Mgの酸化物を、MgO換算で、1.0〜3.0モル、
Rの酸化物(Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つである)を、R換算で、2.0〜5.0モル、
Mnの酸化物を、MnO換算で、0.05〜1.0モル、
Siを含む酸化物を、SiO換算で、2.0〜12.0モル、含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Mgの酸化物の含有量および前記Rの酸化物の含有量を、それぞれ、αおよびβとすると、0.45≦α/β<1.00である関係を満足することを特徴とする。
【0010】
本発明では、各成分の含有量を上記の範囲内とすることで、種々の特性が良好な誘電体磁器組成物を得ることができる。特に、Mgの酸化物の含有量およびRの酸化物の含有量を特定の範囲とし、かつそれらの比率を特定の範囲とすることで、比誘電率、絶縁抵抗等の特性を良好に維持し、しかもDCバイアス特性および高温負荷寿命を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係るセラミック電子部品は、上記に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有している。セラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、R元素の酸化物の含有量(β)に対するMgの酸化物の含有量(α)の比である(α/β)と、DCバイアス特性と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0014】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0015】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、図1に示すように、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0016】
誘電体層2
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、主成分として、チタン酸バリウムを有している。
【0017】
本実施形態では、チタン酸バリウムとしては、たとえば、組成式BaTiO2+m で表され、組成式中のmが、0.99≦m≦1.01であることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムに加え、副成分として、Rの酸化物と、Mgの酸化物と、Mnの酸化物と、Siを含む酸化物と、を含有する。
【0019】
Mgの酸化物の含有量をαとすると、αは、チタン酸バリウム100モルに対して、MgO換算で、1.0〜3.0モル、好ましくは2.0〜2.5モルである。αが多すぎても少なすぎても、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。
【0020】
Rの酸化物の含有量をβとすると、βは、チタン酸バリウム100モルに対して、R換算で、2.0〜5.0モル、好ましくは3.5〜4.0モルである。βが多すぎても少なすぎても、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、Y、Sm、Gd、Tb、Dy、Hoからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0021】
また、αおよびβは、0.45≦α/β<1.00である関係を満足する。好ましくは0.50≦α/β≦0.98、より好ましくは0.60≦α/β≦0.80である。α/βが小さすぎると、焼成後の誘電体粒子の粒子径が大きくなりすぎ、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。逆に、α/βが大きすぎると、アニール後に異相が多く生じるため、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。
【0022】
Mnの酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、MnO換算で、0.05〜1.0モル、好ましくは0.07〜0.09モルである。Mnの酸化物の含有量が多すぎても少なすぎても、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。
【0023】
Siを含む酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、SiO換算で、2.0〜12.0モル、好ましくは4.0〜10.0モルである。Siを含む酸化物の含有量が多すぎると、高温負荷寿命が悪化する傾向にある。逆に、少なすぎると、高温負荷寿命が悪化すると共に、焼結性が低下する傾向にある。
【0024】
また、Siを含む酸化物としては、特に制限されず、SiO単独の形態であってもよいし、Siと、他の元素たとえばアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素と、の複合酸化物の形態であってもよい。本実施形態では、Siを含む酸化物としては、SiOが好ましい。
【0025】
このように、Mgの酸化物の含有量(α)、Rの酸化物の含有量(β)およびその他の副成分の含有量を上記の範囲とし、さらにαとβとの比率(α/β)を上記の範囲に制御することで、良好な特性を有する誘電体磁器組成物を得ることができる。特に、α/βを上記の範囲とすることで、DCバイアス特性を向上できる。また、各副成分の含有量およびα/βを上記の範囲とすることで、比誘電率、絶縁抵抗(IR)等の特性を良好に維持しつつ、高温負荷寿命を向上させることができる。
【0026】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0027】
誘電体層2の厚みは、特に制限されないが、一層あたり0.5〜10μm程度であることが好ましい。
【0028】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上、特に好ましくは、100以上である。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0029】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2を構成する材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜3μm程度であることが好ましい。
【0030】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0031】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0032】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0033】
誘電体原料として、まずチタン酸バリウムの原料と、Rの酸化物の原料と、Mgの酸化物の原料と、Mnの酸化物の原料と、Siを含む酸化物の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0034】
チタン酸バリウムの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0035】
さらに、誘電体層に、上記の主成分および副成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、上記と同様に、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0036】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0037】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0038】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0039】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0040】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0041】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0042】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0043】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0044】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0045】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0046】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成では、昇温速度を好ましくは100〜500℃/時間とする。焼成時の保持温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1160〜1250℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5〜8時間である。保持温度が上記の範囲未満であると緻密化が不十分となり、この範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0047】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0048】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が上記の範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。降温速度は、好ましくは50〜500℃/時間である。
【0049】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(絶縁抵抗の寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0050】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−4MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記の範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、上記の範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0051】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に1000〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記の範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が上記の範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0052】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、降温速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0053】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0054】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0055】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0056】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0058】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示したが、このようなセラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【0059】
上述したように、本発明に係る電子部品は、DCバイアス特性や信頼性に優れるため、中高圧用途の電子部品として特に好適である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
まず、主成分の原料としてBaTiO粉末を準備した。また、Rの酸化物の原料としてR粉末、Mgの酸化物の原料としてMgCO粉末、Mnの酸化物の原料としてMnO粉末、Siを含む酸化物の原料としてSiO粉末を、それぞれ準備した。
【0062】
次に、上記で準備した各原料粉末を、表1に示す量となるように秤量し、ボールミルで20時間湿式混合・粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0063】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0064】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0065】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが5μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0066】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、素子本体となる焼結体を得た。
【0067】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0068】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200〜1300℃とし、保持時間を2時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガスとし、酸素分圧が10−13MPaとなるようにした。
【0069】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−6MPa)とした。
【0070】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0071】
次いで、得られた焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み4μm、内部電極層の厚み1μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は5とした。
【0072】
得られたコンデンサ試料について、DCバイアス特性、比誘電率、誘電損失(tanδ)、容量温度特性、絶縁抵抗(IR)および高温負荷寿命(HALT)の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0073】
比誘電率ε
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では1000以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0074】
DCバイアス特性
コンデンサ試料に対し、25℃にて、50Vの直流電圧の印可状態で1分間保持し、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、上記で測定した基準温度25℃における静電容量に対する変化率を算出した。本実施例では−50%以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0075】
また、実施例1〜5および比較例1、2について、α/βと、DCバイアス特性との関係を示すグラフを図2に示す。
【0076】
誘電損失(tanδ)
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では2.0%以下を良好とした。結果を表2に示す。
【0077】
静電容量の温度特性
コンデンサ試料に対し、−55〜125℃における静電容量を測定し、静電容量の変化率ΔCを算出し、EIA規格のX7R特性を満足するか否かについて評価した。すなわち、上記温度域における変化率ΔCが、±15%以内であるか否かを評価した。結果を表2に示す。
【0078】
絶縁抵抗(IR)
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃において200Vの直流電圧を、コンデンサ試料に10秒間印加し、印加後50秒放置した後の絶縁抵抗IRを測定した。本実施例では、1.0×1011Ω以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0079】
高温負荷寿命(HALT)
コンデンサ試料に対し、200℃にて、40V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を破壊時間とし、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)を寿命と定義した。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、その平均値を高温負荷寿命とした。本実施例では20時間以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1、2および図2より、R元素の酸化物の含有量(β)に対するMgの酸化物の含有量(α)の比である(α/β)が上述した範囲外である場合には(比較例1〜4)、DCバイアス特性が悪化することが確認できた。すなわち、高い電界強度下では、静電容量の低下率が大きいことが確認できた。
【0083】
また、各副成分の含有量が上述した範囲外である場合には(比較例5〜12)、DCバイアス特性および高温負荷寿命の少なくとも1つが悪化することが確認できた。
【0084】
これに対し、α/βおよび各副成分の含有量が上述した範囲内である場合には(実施例1〜5)、比誘電率、誘電損失、容量温度特性、絶縁抵抗を良好にすることができ、かつ、DCバイアス特性および高温負荷寿命を向上できることが確認できた。
【符号の説明】
【0085】
1… 積層セラミックコンデンサ
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
10… コンデンサ素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを、主成分として含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対して、副成分として、
Mgの酸化物を、MgO換算で、1.0〜3.0モル、
Rの酸化物(Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つである)を、R換算で、2.0〜5.0モル、
Mnの酸化物を、MnO換算で、0.05〜1.0モル、
Siを含む酸化物を、SiO換算で、2.0〜12.0モル、含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対する前記Mgの酸化物の含有量および前記Rの酸化物の含有量を、それぞれ、αおよびβとすると、0.45≦α/β<1.00である関係を満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有するセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41226(P2012−41226A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183087(P2010−183087)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】