説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いられ、高周波数領域において誘電損失を低くすることができ、しかも誘電率温度特性に優れ、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】酸化ストロンチウムをSrTiO換算で29.34〜44.70重量%、酸化ビスマスをBi換算で22.56〜28.48重量%、酸化チタンをTiO換算で26.36〜30.27重量%、酸化マグネシウムをMgO換算で3.61〜5.56重量%、酸化ネオジムを、Nd換算で、1.86〜3.42重量%、酸化マンガンをMnO換算で0.21〜0.99重量%、酸化ケイ素をSiO換算で0.06〜0.50重量%含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の誘電体層などに用いられる誘電体磁器組成物に係り、さらに詳しくは、高周波数領域において誘電損失を低くすることができ、さらに高い比誘電率を示しながら温度特性が良好である誘電体磁器組成物およびそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に進む電気機器の高性能化に伴い、電気回路の小型化、複雑化もまた急速に進んでいる。そのため、電子部品もより一層の小型化、高性能化が求められており、たとえば、所定の温度域において誘電率(容量)の温度特性が良好な誘電体磁器組成物が求められている。
【0003】
誘電率温度特性は要求される特性に応じて種々の規格が存在するが、たとえばJIS規格のSL特性がある。このSL特性を満足する誘電体磁器組成物としては、SrTiO−CaTiO−Bi−TiO系の誘電体磁器組成物などが挙げられるが、比誘電率が200〜300程度と低く、小型化、高性能化には対応できないという問題があった。
【0004】
一方、特許文献1には、SrTiO−Bi−TiO−MgO系の誘電体磁器組成物が記載されている。この誘電体磁器組成物は、比誘電率は比較的高いものの、誘電率温度特性が劣る傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−68000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いられ、高周波数領域において誘電損失を低くすることができ、しかも誘電率温度特性に優れ、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を提供することである。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物を用いて得られる電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
酸化ストロンチウムを、SrTiO換算で、29.34〜44.70重量%、
酸化ビスマスを、Bi換算で、22.56〜28.48重量%、
酸化チタンを、TiO換算で、26.36〜30.27重量%、
酸化マグネシウムを、MgO換算で、3.61〜5.56重量%、
酸化ネオジムを、Nd換算で、1.86〜3.42重量%、
酸化マンガンを、MnO換算で、0.21〜0.99重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で、0.06〜0.50重量%含有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、各成分を上記の組成および含有量とすることにより、高周波数領域において誘電損失を低くしつつ、高い比誘電率および良好な温度特性を有する誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0009】
本発明によれば、上記の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品が提供される。本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、たとえば液晶パネルのバックライト用部品や樹脂モールドされた表面実装部品などが例示される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体磁器組成物は、各成分の比率を上記所定の範囲としている。その結果、高い周波数領域において誘電損失を低くすることができ、しかも、誘電率温度特性に優れ、比誘電率が高い誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0011】
このような本発明の誘電体磁器組成物を、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いることにより、高性能でありながら、小型化(低背化)を実現する電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの正面図、図1(B)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0014】
セラミックコンデンサ2
図1(A)、図1(B)に示すように、本実施形態に係るセラミックコンデンサ2は、誘電体層10と、その対向表面に形成された一対の端子電極12,14と、この端子電極12,14に、それぞれ接続されたリード端子6,8とを有する構成となっており、これらは保護樹脂4に覆われている。セラミックコンデンサ2の形状は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態では、誘電体層10が円板形状となっている円板型のコンデンサである。また、そのサイズも目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、直径が2.5〜14.5mm程度、好ましくは3.0〜4.0mm程度である。
【0015】
誘電体層10
誘電体層10は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されており、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、酸化ストロンチウムと、酸化ビスマスと、酸化チタンと、酸化マグネシウムと、酸化ネオジムと、酸化マンガンと、酸化ケイ素とを含有する。各成分の含有量は以下の通りである。
【0016】
酸化ストロンチウムは、SrTiO換算で、29.34〜44.70重量%、好ましくは33.12〜41.62重量%、より好ましくは37.83〜37.99重量%含有される。
【0017】
酸化ビスマスは、Bi換算で、22.56〜28.48重量%、好ましくは23.66〜27.30重量%、より好ましくは26.06〜26.15重量%含有される。
【0018】
酸化チタンは、TiO換算で、26.36〜30.27重量%、好ましくは27.18〜29.52重量%、より好ましくは27.86〜27.99重量%含有される。
【0019】
酸化マグネシウムは、MgO換算で、3.61〜5.56重量%、好ましくは4.19〜5.14重量%、より好ましくは4.71〜4.75重量%含有される。
【0020】
酸化ネオジムは、Nd換算で、1.86〜3.42重量%、好ましくは2.13〜3.02重量%、より好ましくは2.62〜2.64重量%含有される。
【0021】
酸化マンガンは、MnO換算で、0.21〜0.99重量%、好ましくは0.29〜0.99重量%、より好ましくは0.38〜0.39重量%含有される。
【0022】
酸化ケイ素は、SiO換算で、0.06〜0.50重量%、好ましくは0.10〜0.49重量%、より好ましくは0.19〜0.21重量%含有される。
【0023】
上記のような組成で各成分を含有する誘電体磁器組成物は、比較的高い比誘電率(たとえば、650以上)を示すとともに、高周波領域において誘電損失が小さく(たとえば100KHzにおいて0.30%以下)、誘電率温度特性に優れる(たとえば、JIS規格のSL特性を満足)。
【0024】
誘電体層10の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すれば良いが、好ましくは0.3〜2mmである。
【0025】
端子電極12,14
端子電極12,14は、導電材で構成される。端子電極12,14に用いられる導電材は、たとえば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、In−Ga合金等を主成分として含む。これらの中では、Cu、Cu合金が好ましい。また、端子電極12,14は、これらの金属または合金の単層構造でもあってもよく、複層構造であってもよい。
【0026】
セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係るセラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を形成することとなる誘電体磁器組成物の粉末を製造する。
【0027】
まず、誘電体磁器組成物を構成する各成分の原料を準備する。各成分の原料としては、特に限定されず、上記した各成分の酸化物や複合酸化物、または焼成によりこれら酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。たとえば、MnCO 、MgCOなどの炭酸化物や、TiO などの酸化物を用いることができる。また、チタン酸ストロンチウムの原料は、固相法により製造してもよいし、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により製造してもよいが、製造コストの面から、固相法により製造することが好ましい。
【0028】
次いで、各成分の原料を、上記した所定の組成となるように配合し、水を分散媒として75重量%程度の濃度において、ボールミルなどを用いて、湿式混合する。湿式混合後のスラリーを乾燥して、誘電体磁器組成物の粉末を得る。
【0029】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末にバインダなどを添加して造粒し、得られた造粒物を、所定の大きさを有する円板状に成形することにより、グリーン成形体とする。そして、得られたグリーン成形体を、焼成することにより、焼結体としての誘電体磁器組成物を得る。なお、焼成の条件としては、特に限定されないが、保持温度が好ましくは1200〜1340℃であり、焼成雰囲気を空気中とすることが好ましい。
【0030】
そして、得られた誘電体磁器組成物の焼結体の主表面に、端子電極を印刷し、必要に応じて焼き付けすることにより、端子電極12,14を形成する。その後、端子電極12,14に、ハンダ付等により、リード端子6,8を接合し、最後に、素子本体を保護樹脂4で覆うことにより、図1(A)、図1(B)に示すような単板型セラミックコンデンサを得る。
【0031】
このようにして製造された本発明のセラミックコンデンサは、リード端子6,8を介してプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0033】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として単板型セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、単板型セラミックコンデンサに限定されず、上記した誘電体磁器組成物粉末を含む誘電体ペーストおよび電極ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により作製される積層型セラミックコンデンサであっても良い。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0035】
実施例1
まず、原料としてSrTiO、Bi、TiO、MgCO、Nd(OH)、MnCOおよびSiOをそれぞれ準備した。準備した原料を、表1に示す重量組成となるように、それぞれ秤量し、分散媒として水を用いてボールミルにより湿式混合し、スラリーを調製した。スラリーの固形分濃度は75重量%とした。このスラリーを乾燥して誘電体磁器組成物の粉末を得た。
【0036】
なお、MgCO、Nd(OH)およびMnCOは、焼成後にそれぞれ酸化物として含有されることになる。
【0037】
次いで、得られた誘電体磁器組成物の粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール水溶液を、固形分濃度が1.93重量%となるように添加、混合し、スプレードライヤーにより造粒して、メッシュパスを通して造粒粉を得た。その後、得られた造粒粉を3t/cmの圧力で成形することにより、直径12mm、厚さ約1.2mmの円盤状のグリーン成形体を得た。
【0038】
次いで、得られたグリーン成形体を、空気中、1200〜1340℃、2時間の条件で焼成することにより、円盤状の焼結体を得た。そして、得られた焼結体の主表面にAg電極を塗布し、さらに空気中、650℃で20分間焼付け処理を行うことによって、図1に示すような円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料の誘電体層10の厚みは約1mmであった。そして、得られた各コンデンサ試料について、以下の方法により、比誘電率、誘電損失および誘電率温度特性をそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0039】
比誘電率ε
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、650以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0040】
誘電損失(tanδ)
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHzおよび100kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では、周波数100kHzで0.30%以下を良好とした。結果を表1に示す。
【0041】
誘電率温度特性
コンデンサ試料に対し、−25〜85℃の温度範囲で1Vの電圧での静電容量を測定し、+20℃での静電容量に対する誘電率の変化率(単位はppm/℃)を算出した。本実施例では、変化率が+350〜−1000ppm/℃の範囲にあるものを良好とした(JIS規格のSL特性)。結果を表1に示す。なお、表1では85℃での変化率を示しており、この変化率が上記の範囲にある試料は全てSL特性を満足していた。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、誘電体磁器組成物の組成が、本発明の範囲内である場合(試料番号2〜4、7〜10、13〜16、19〜21、24〜26、29〜32、36〜40)には、比誘電率650以上、誘電損失(100kHz)0.30%以下、−25℃〜85℃の全範囲において20℃に対する誘電率変化率+350〜−1000ppm/℃(JIS規格のSL特性)を満足していることが確認できた。
【0044】
これに対し、誘電体磁器組成物の組成が、本発明の範囲外である場合(試料番号1、5、6、11、12、17、18、22、23、27、28、33〜35および41)には、比誘電率、誘電損失(100kHz)、誘電率温度特性の少なくとも1つが、悪化していることが確認できた。
【0045】
実施例2
Ndの代わりに、表2に示す酸化物を表2に示す量で含有させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサの試料を作製し、実施例1と同様の特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、Ndの代わりに、表2に示す酸化物を用いた場合(試料番号51〜66)、比誘電率、誘電損失(100kHz)、誘電率温度特性の少なくとも1つが、大幅に悪化していることが確認できた。この傾向は酸化物の含有量を変化させても同様であった。
【符号の説明】
【0048】
2… セラミックコンデンサ
4… 保護樹脂
6,8… リード端子
10… 誘電体層
12,14… 端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ストロンチウムを、SrTiO換算で、29.34〜44.70重量%、
酸化ビスマスを、Bi換算で、22.56〜28.48重量%、
酸化チタンを、TiO換算で、26.36〜30.27重量%、
酸化マグネシウムを、MgO換算で、3.61〜5.56重量%、
酸化ネオジムを、Nd換算で、1.86〜3.42重量%、
酸化マンガンを、MnO換算で、0.21〜0.99重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で、0.06〜0.50重量%含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−173776(P2011−173776A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40793(P2010−40793)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】