説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】高い電界強度下においても良好な特性を示す誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品を提供すること。
【解決手段】複数の誘電体粒子と、誘電体粒子間に存在する粒界と、を有する誘電体磁器組成物であって、誘電体粒子が、コアとコアの周囲に存在しMnが固溶しているシェルとからなるコアシェル構造を有する粒子を含み、シェルに存在するMn量に対する粒界に存在するMn量が4倍以上である。誘電体粒子の平均結晶粒子径は0.3μm以下であることが好ましい。誘電体磁器組成物は、主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として、希土類元素の酸化物と、Baおよび/またはCaの酸化物と、Mnの酸化物と、Mg、V、ZrおよびCrから選ばれる1つ以上の酸化物と、Siを含む酸化物と、を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品に関する。さらに詳しくは、信頼性等の特性が良好な誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が適用された電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高い。たとえば、電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでおり、これに伴い用途も拡大している。その結果、このようなコンデンサには様々な特性が要求される。
【0003】
たとえば、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサは、ECM(エンジンエレクトリックコンピュータモジュール)、燃料噴射装置、電子制御スロットル、インバータ、コンバータ、HIDヘッドランプユニット、ハイブリッドエンジンのバッテリコントロールユニット、デジタルスチールカメラ等の機器に好適に用いられる。
【0004】
上記のような高い定格電圧で使用される場合、高い電界強度下において使用されることとなるが、電界強度が高くなると、絶縁抵抗が低下してしまう傾向にある。その結果、使用環境における信頼性が低下してしまうという問題があった。さらに、このような問題は、誘電体層が薄層化するほど顕著であった。
【0005】
たとえば、特許文献1には、組成式が100(Ba1−xCaTiO+aMnO+bCuO+cSiO+dMgO+eROで表され、組成式中のa、b、c、d、eおよびmが特定の範囲にあり、平均粒径が0.35〜0.65μmである誘電体セラミックを備えた積層セラミックコンデンサが開示されている。この積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層を1μm以下まで薄層化しても、信頼性を確保できる旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、電界強度が比較的低い場合の特性について記載されているため、さらに高い電界強度下における信頼性等の特性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−180124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い電界強度下においても良好な特性を示す誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
複数の誘電体粒子と、前記誘電体粒子間に存在する粒界と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子が、コアと、前記コアの周囲に存在し、Mnが固溶しているシェルと、からなるコアシェル構造を有する粒子を含み、
前記シェルに存在するMn量に対する前記粒界に存在するMn量が4倍以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明では、シェルにMnが固溶したコアシェル構造粒子を存在させ、しかも、シェルにおけるMn量と粒界におけるMn量とを、上記の範囲としている。すなわち、コアとシェルと粒界とでMn量が異なっており、シェルよりも粒界にMnを選択的に存在させている。このような構造を有する誘電体磁器組成物においては、粒界に多くのMnがほぼ均一に存在しており、その結果、粒界の絶縁性を高め、粒界抵抗を向上し、良好な寿命特性が得られる。
【0011】
好ましくは、前記誘電体粒子の平均結晶粒子径が0.3μm以下である。平均結晶粒子径を上記の範囲とすることで、粒界の数が増加するため、本発明の効果をより高めることができる。
【0012】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、主成分として、チタン酸バリウムを含有し、副成分として、R元素の酸化物(R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、A元素の酸化物(A元素は、BaおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、B元素の酸化物(B元素は、Mnと、Mg、V、ZrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つとである)と、Siを含む酸化物と、を含有する。
【0013】
好ましくは、前記チタン酸バリウム100モルに対し、前記R元素の酸化物の含有量が、R換算で、1.0〜3.0モル、前記A元素の酸化物の含有量が、BaOおよびCaO換算で、0.5〜2.0モル、前記B元素の酸化物の含有量が、MnO、MgO、V、ZrOおよびCr換算で、3.0〜5.0モル、Siを含む酸化物の含有量が、SiO換算で、0.5〜2.0モルである。
【0014】
好ましくは、前記Mnの酸化物の含有量が、MnO換算で、1.0〜2.0モルである。
【0015】
誘電体磁器組成物の組成を上記の構成とすることで、上述した構造が容易に得られ、上述した効果が得られる。
【0016】
また、本発明に係る電子部品は、上記のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有している。電子部品としては、特に限定されないが、高い定格電圧で使用される中高圧用の電子部品が好ましい。このような電子部品としては、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3(A)および(B)は、誘電体粒子のシェルにおけるMn量および粒界におけるMn量を測定する方法を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、シェルにおけるMn量および粒界におけるMn量を測定した領域のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
(積層セラミックコンデンサ1)
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0020】
(誘電体層2)
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子と、誘電体粒子間に存在する粒界と、を有する。
【0021】
(誘電体粒子および粒界)
本実施形態では、誘電体粒子は、主成分粒子内に、Mnが固溶(拡散)した粒子を含む。該粒子は、図2に示すように、実質的に主成分からなるコア21aと、コア21aの周囲に存在し、Mnが主成分に拡散しているシェル21bと、から構成されるコアシェル構造を有する結晶粒子(コアシェル構造粒子21)である。すなわち、コア21aは実質的に主成分からなっており、シェル21bはMnが固溶した主成分からなっている。なお、Mn以外の元素が主成分粒子に固溶していてもよい。
【0022】
誘電体粒子には、図2に示すように、コアシェル構造を有さない粒子20が含まれていてもよい。また、通常、コアシェル構造の有無は、誘電体層2の断面写真を基にして、コアとシェルとのコントラストの差あるいは主成分に固溶する元素の濃淡により判断している。そのため、実際にはコアシェル構造を有しているにもかかわらず、断面写真においてシェルのみしか現れていないコアシェル構造粒子がある。
【0023】
粒界22は、主として、誘電体層に含有される元素の酸化物から構成されているが、製造工程において不純物として混入する元素の酸化物などが含まれていてもよい。また、内部電極層を構成する元素の酸化物が含まれていてもよい。通常、粒界22は主としてアモルファス質で構成されているが、結晶質で構成されていてもよい。
【0024】
本実施形態では、粒界22には、Mnが酸化物あるいは複合酸化物として含まれており、粒界にほぼ均一に存在している。そのため、誘電体層2には、Mnを主成分とする偏析はほとんど存在しない。
【0025】
Mnは誘電体粒子に固溶しやすく、誘電体粒子中にMnが含まれると、粒子中の電荷のバランスが崩れ、酸素欠陥が生じる。この酸素欠陥の移動に起因して、絶縁抵抗の寿命が低下するため、酸素欠陥が少ないことが好ましい。したがって、通常は、誘電体磁器組成物中におけるMnの含有量を少なくしている。一方、Mnが粒界に存在する場合、Mnは粒界抵抗を高める役割を有しており、その結果、絶縁抵抗の寿命の向上に寄与する。
【0026】
そこで、本実施形態では、粒界におけるMn量を、誘電体粒子(コアシェル構造粒子)のシェルにおけるMn量よりも多くしている。具体的には、粒界におけるMn量は、シェルにおけるMn量の4倍以上、好ましくは7倍以上である。
【0027】
シェルにおけるMn量と、粒界におけるMn量と、の関係を上記の範囲とすることで、酸素欠陥の移動に起因する寿命の低下よりも、粒界抵抗を高める効果が有利となり、その結果、寿命を大幅に高めることができる。
【0028】
シェルにおけるMn量および粒界におけるMn量を測定する方法としては、特に制限されず、たとえば、Mnのマッピング画像を解析することで測定してもよい。本実施形態では、以下のようにしてシェルにおけるMn量および粒界におけるMn量を測定する。
【0029】
まず、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて誘電体層を観察することにより、誘電体粒子と粒界とを判別する。さらに、TEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、粒界における点分析を行い、粒界における各元素の含有比を算出する。
【0030】
具体的には、誘電体層の断面をTEMにより撮影し、明視野(BF)像を得る。この明視野像において誘電体粒子と誘電体粒子との間に存在し、該誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域を粒界とする。異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0031】
続いて、図3(A)に示すように、粒界22であると判断した領域において、EDSにより点分析を行い、分析により得られた特性X線を解析して、Mn量を算出する。このとき、粒界以外の領域、たとえば誘電体粒子などに含まれる元素の情報が検出されないように、ビーム径、加速電圧、CL絞り等の測定条件を調整する。なお、測定点の数は特に制限されないが、5点以上であることが好ましい。
【0032】
Mn量は、測定点において検出された全ての元素の含有比の合計を100原子%としたときに、Mn原子が含まれる割合として算出される。そして、各測定点におけるMn量の平均値を算出し、この値を粒界におけるMn量とする。
【0033】
次に、図3(A)に示すように、コアシェル構造粒子21のシェル21bにおいて、上記と同様の測定を行い、シェル21bにおけるMn量を算出する。コアシェル構造粒子21のコア21aとシェル21bとを判別する方法としては、該粒子の明視野像や粒子内におけるMnやR元素の分布を示すマッピング画像などから目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0034】
シェル21bにおける測定点は、シェル21bの中央付近とすることが好ましい。本実施形態では、粒界22からコアシェル構造粒子21の中心方向に5nm程度の距離にある点がシェルの中央付近となる。なお、測定点は、粒界22における測定点1点に対し1点以上が対応する。したがって、測定点の数は5点以上であることが好ましく、任意に選択した粒子5個以上から測定点を選択することがより好ましい。そして、各測定点におけるMn量の平均値をシェル21bにおけるMn量とする。
【0035】
そして、図3(B)のように、得られた粒界におけるMn量と、シェルにおけるMn量(n)と、を比較して、粒界におけるMn量がシェルにおけるMn量の4倍以上(4n以上)であるかを判断する。
【0036】
上述した構造は、たとえば、誘電体磁器組成物の組成、粒子径や焼成条件等を制御することで達成される。
【0037】
本実施形態では、誘電体粒子の平均結晶粒子径は、0.3μm以下であることが好ましい。平均結晶粒子径を上記の範囲とすることで、粒界の数を増やすことができる。その結果、誘電体層を薄層化した場合であっても、誘電体層中に粒界が多く存在しているため、絶縁抵抗の向上に粒界抵抗が寄与する。その結果、絶縁抵抗の寿命等の信頼性を向上させることができる。
【0038】
なお、誘電体粒子の平均結晶粒子径は、たとえば以下のようにして算出すればよい。まず、コンデンサ素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に平行な面で切断する。そして、その断面において誘電体粒子の面積を測定し、その面積に相当する円の直径(円相当径)を算出し、この円相当径を1.27倍した値を結晶粒子径とする。
【0039】
得られた結晶粒子径から平均結晶粒子径を算出する方法としては特に制限されないが、たとえば、結晶粒子径を150個以上の誘電体粒子について測定し、得られた結晶粒子径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均結晶粒子径とすればよい。
【0040】
本実施形態では、上記の構造を容易に得るために、誘電体磁器組成物が、以下の成分を含むことが好ましい。
【0041】
まず、該誘電体磁器組成物は、主成分として、ペロブスカイト型構造を有するチタン酸バリウムを含むことが好ましい。チタン酸バリウム(BaTiO)において、Ba(Aサイト原子)とTi(Bサイト原子)との比を示すBa/Ti比は、化学量論組成から若干偏倚してもよい。本実施形態では、誘電体粒子の平均結晶粒子径を微細に制御できるため、Ba/Ti比は、1.000以上であることが好ましい。また、酸素(O)量も化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0042】
また、該誘電体磁器組成物は、副成分として、R元素の酸化物、A元素の酸化物、B元素の酸化物およびSiを含む酸化物を含むことが好ましい。
【0043】
R元素の酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、R換算で、好ましくは1.0〜3.0モルである。R元素の酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、誘電体粒子中の電荷が補償され、高温加速寿命を向上できるという利点がある。なお、R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つであり、Y、Tb、DyおよびHoから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0044】
A元素の酸化物は、ペロブスカイト型構造中の主にAサイトを置換しやすい成分である。本実施形態では、A元素はBaおよび/またはCaである。その含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、BaOおよびCaO換算で、好ましくは0.5〜2.0モルである。A元素の酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、結晶粒子径を小さくできるという利点がある。また、A元素の酸化物は、ガラスとしてではなく、酸化物として含まれることが好ましい。
【0045】
B元素の酸化物は、ペロブスカイト型構造中の主にBサイトを置換しやすい成分である。本実施形態では、B元素は、Mnと、Mg、V、ZrおよびCrから選ばれる少なくとも1つと、である。すなわち、B元素は、Mnを必須とし、さらにMg等の元素を含む。その含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、MnO、MgO、V、ZrOおよびCr換算で、好ましくは3.0〜5.0モルである。B元素の酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、Mnが粒界に析出しやすくなり、粒界抵抗を向上できるという利点がある。
【0046】
また、Mn単独での好ましい含有量は、MnO換算で、1.0〜2.0モルである。Mnの含有量を上記の範囲内とすることで、誘電体粒子への固溶限界を超えたMnが粒界に析出しやすくなる。
【0047】
Siを含む酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、SiO換算で、好ましくは0.5〜2.0モルである。Siを含む酸化物は焼結助剤として働く。また、Siを含む酸化物としては、特に制限されないが、本実施形態では、SiOが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0049】
誘電体層2の厚みは、薄層化の要求に応えるため、一層あたり1〜2μm程度であることが好ましい。
【0050】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましい。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0051】
(内部電極層3)
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNiまたはNi合金など公知の導電材を用いればよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜3μm程度であることが好ましい。
【0052】
(外部電極4)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNi,Cuや、これらの合金など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0053】
(積層セラミックコンデンサ1の製造方法)
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、公知の方法により製造すればよい。本実施形態では、ペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成することで、積層セラミックコンデンサを製造する。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0054】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0055】
本実施形態では、誘電体原料として、まずチタン酸バリウムの原料と副成分の原料とを準備する。副成分の原料には、少なくともMnの酸化物の原料が含まれる。本実施形態では、副成分の原料には、R元素の酸化物の原料と、A元素の酸化物の原料と、Mnを除くB元素の酸化物の原料と、Siを含む酸化物の原料と、がさらに含まれていることが好ましい。
【0056】
これらの原料としては、酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いてもよい。
【0057】
誘電体層用ペーストは、上記の誘電体原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0058】
内部電極層用ペーストは、上記の導電材と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0059】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0060】
得られたペーストを用いて、グリーンシートや内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0061】
得られたグリーンチップに対し、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは180〜400℃とする。
【0062】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、焼結体としてのコンデンサ素子本体を得る。焼成条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、還元性雰囲気において、保持温度を1300℃以下とすることが好ましい。
【0063】
焼成後、得られたコンデンサ素子本体に対し、再酸化処理(アニール)を行うことが好ましい。アニール条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1100℃以下とすることが好ましい。
【0064】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0065】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0067】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示したが、このようなセラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。本発明に係る電子部品は、中高圧用途の電子部品として特に好適である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0069】
まず、主成分の原料としてBaTiO粉末を準備した。副成分の原料は、以下に示す原料を準備した。R元素の酸化物の原料として、Y粉末を準備し、A元素の酸化物の原料としてBaO粉末およびCaO粉末を準備し、B元素の酸化物の原料として、MnO粉末、MgO粉末およびV粉末を準備し、Siを含む酸化物の原料として、SiO粉末を準備し、これらを粉砕した。なお、BaTiO粉末のBa/Ti比は表1に示す値であった。
【0070】
次に、上記で準備したBaTiO粉末と粉砕した副成分の原料とをボールミルで5時間湿式粉砕し、これを乾燥して誘電体原料を得た。なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において、主成分であるBaTiO100モルに対して、各元素換算で、表1に示す量となるようにした。
【0071】
次いで、得られた誘電体原料100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP)5重量部と、溶媒としてのアルコール100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0072】
また、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0073】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが2μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体を得て、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0074】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件で行い、コンデンサ素子本体としての焼結体を得た。
【0075】
脱バインダ処理条件は、昇温速度を25℃/時間、保持温度を260℃、温度保持時間を8時間、雰囲気を空気中とした。
【0076】
焼成条件は、昇温速度および降温速度を600℃/時間、保持温度を1200〜1300℃とし、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−13MPa)とした。
【0077】
アニール条件は、昇温速度および降温速度を200℃/時間、保持温度を1050℃、温度保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。
【0078】
次いで、得られた焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、2.0mm×1.2mm×0.6mmであり、誘電体層の厚みが1.6μm程度、内部電極層の厚みが1.4μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は5であった。
【0079】
得られたコンデンサ試料について、平均結晶粒子径を測定し、シェルにおけるMn量および粒界におけるMn量を算出した。さらに比誘電率、誘電損失、絶縁抵抗(IR)および高温加速寿命(HALT)の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0080】
(平均結晶粒子径)
コンデンサ試料を切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、SEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体粒子の境界を判別し、各誘電体粒子の面積を算出した。そして、算出された誘電体粒子の面積を円相当径に換算して結晶粒子径を算出した。この測定を150個の誘電体粒子について行い、その平均値を平均結晶粒子径とした。平均結晶粒子径は0.30μm以下を良好とした。結果を表3に示す。
【0081】
(粒界におけるMn量およびシェルにおけるMn量)
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、コアシェル構造粒子と粒界との判別を行い、さらにコアシェル構造粒子におけるコアとシェルとの判別を行った。次いで、任意に選択した5点の粒界において、TEMに付属のEDS装置を用いて、点分析を行った。測定により得られた特性X線を定量分析し、検出された元素の含有比に占めるMnの割合を算出した。各測定点で得られたMnの割合の平均値を求めることで、粒界におけるMn量を算出した。
【0082】
さらに、粒界におけるMn量の測定点の近傍に存在する誘電体粒子のシェルの中央付近において任意に選択した5点において、上記と同様にして、シェルにおけるMn量を算出した。試料番号2および4について、粒界におけるMn量およびシェルにおけるMn量を測定した領域のTEM写真を図4に示し、粒界におけるMn量およびシェルにおけるMn量を表2に示した。また、表3では、各試料について、シェルにおけるMn量に対する粒界におけるMn量が7倍以上である場合には「◎」、4倍以上である場合には「○」、4倍未満である場合を「×」と表記した。
【0083】
(比誘電率ε)
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(HP社製4284A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、比誘電率が1500以上であった試料を良好であると判断した。結果を表3に示す。
【0084】
(誘電損失(tanδ))
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(HP社製4284A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では、誘電損失が4%以下であった試料を良好であると判断した。結果を表3に示す。
【0085】
(高温加速寿命(HALT))
コンデンサ試料に対し、190℃にて、10V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を故障時間とし、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)を寿命と定義した。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、その平均値を高温加速寿命とした。本実施例では高温加速寿命が100時間以上であった試料を良好であると判断した。結果を表3に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
図4および表2より、試料番号4では、粒界におけるMn量が、シェルにおけるMn量よりも4倍以上多いことが確認できた。一方、試料番号2では、粒界におけるMn量と、シェルにおけるMn量と、がほとんど変わらないことが確認できた。
【0090】
表3より、シェルにおけるMn量に対する粒界におけるMn量が4倍未満である場合(試料番号1〜3、7〜15、17および18)には、高温加速寿命が劣っていることが確認できた。すなわち、高い電界強度下では、信頼性に劣ることになる。
【0091】
一方、シェルにおけるMn量に対する粒界におけるMn量が4倍以上である場合には(試料番号4〜6、16および19)、高温加速寿命が良好であることが確認できた。特に、シェルにおけるMn量に対する粒界におけるMn量が7倍以上である場合に、高温加速寿命が非常に良好になることが確認できた。また、平均結晶粒子径が0.3μm以下であることが好ましいことも確認できた。
【符号の説明】
【0092】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
21… コアシェル構造粒子
21a… コア
21b… シェル
22… 粒界
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体粒子と、前記誘電体粒子間に存在する粒界と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子が、コアと、前記コアの周囲に存在し、Mnが固溶しているシェルと、からなるコアシェル構造を有する粒子を含み、
前記シェルに存在するMn量に対する前記粒界に存在するMn量が4倍以上であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体粒子の平均結晶粒子径が0.3μm以下である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記誘電体磁器組成物が、主成分として、チタン酸バリウムを含有し、副成分として、R元素の酸化物(R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、
A元素の酸化物(A元素は、BaおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1つ)と、
B元素の酸化物(B元素は、Mnと、Mg、V、ZrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1つとである)と、
Siを含む酸化物と、を含有する請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記チタン酸バリウム100モルに対し、前記R元素の酸化物の含有量が、R換算で、1.0〜3.0モル、前記A元素の酸化物の含有量が、BaOおよびCaO換算で、0.5〜2.0モル、前記B元素の酸化物の含有量が、MnO、MgO、V、ZrOおよびCr換算で、3.0〜5.0モル、Siを含む酸化物の含有量が、SiO換算で、0.5〜2.0モルである請求項3に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記Mnの酸化物の含有量が、MnO換算で、1.0〜2.0モルである請求項4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201530(P2012−201530A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65753(P2011−65753)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】