説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】
寿命特性が良好な誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】
誘電体粒子を含む誘電体磁器組成物であって、前記誘電体粒子は、チタン酸バリウムからなる主成分と、酸化マグネシウムからなる第1副成分と、酸化マンガンからなる第2副成分と、酸化ケイ素からなる第3副成分と、希土類元素からなる第4副成分と、から構成され、前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、酸化物換算で、第1副成分:1〜3モル、第2副成分:0.05〜1.0モル、第3副成分:2〜12モル、第4副成分:2〜5モルであり、前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の粒度分布を示すガウス関数の半値幅をWとし、前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の平均粒径をRとしたとき、WとRが1.00≦W/R≦1.30の関係式を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および電子部品に関し、特に寿命特性が良好な誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化および高性能化に対する要求は高く、これに伴い、たとえば積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が進んでいるが、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
このような要求に対し、例えば、特許文献1では、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に含まれる誘電体粒子の粒径や粒径の標準偏差を所定の範囲にすることで、積層セラミックコンデンサの寿命特性を向上させる技術が研究されている。
【0004】
しかしながら、従来、誘電体粒子の粒度分布の半値幅と寿命特性の関係については、研究されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−52964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、寿命特性が良好な誘電体磁器組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、誘電体磁器組成物に含まれる誘電体粒子の粒度分布が所定の要件を満たすことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決する本発明に係る誘電体磁器組成物は、
誘電体粒子を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子は、
チタン酸バリウムからなる主成分と、
酸化マグネシウムからなる第1副成分と、
酸化マンガンからなる第2副成分と、
酸化ケイ素からなる第3副成分と、
希土類元素からなる第4副成分と、から構成され、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、酸化物換算で、
第1副成分:1〜3モル、
第2副成分:0.05〜1.0モル、
第3副成分:2〜12モル、
第4副成分:2〜5モルであり、
前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の粒度分布を示すガウス関数の半値幅をWとし、
前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の平均粒径をRとしたとき、
WとRが1.00≦W/R≦1.30の関係式を満たす。
【0009】
本発明によれば、寿命特性が良好な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0010】
前記誘電体磁器組成物は、好ましくは、前記誘電体粒子の平均粒径Rが0.3μm以下である。
【0011】
また、本発明の電子部品は、
内部電極層と誘電体層とが交互に複数積層された電子部品であって、
前記誘電体層が前記誘電体磁器組成物で構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る誘電体層を構成する誘電体粒子と粒界の拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例または比較例に係るガウス関数を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例または比較例に係るW/Rと加速寿命の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例または比較例に係るW/Rと加速寿命の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施例または比較例に係るW/Rと加速寿命の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0014】
<積層セラミックコンデンサ1>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0015】
<誘電体層2>
誘電体層2は、本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。前記誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムからなる主成分と、後述する各副成分と、を含む誘電体粒子から構成される。
【0016】
前記副成分は、酸化マグネシウムからなる第1副成分と、酸化マンガンからなる第2副成分と、酸化ケイ素からなる第3副成分と、希土類元素の酸化物からなる第4副成分と、である。
【0017】
誘電体磁器組成物における前記第1副成分の比率は、主成分100モルに対して、酸化物換算で1〜3モルである。第1副成分の含有量をこの範囲内にすることで、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上し、比誘電率が高まる傾向となる。
【0018】
誘電体磁器組成物における前記第2副成分の比率は、主成分100モルに対して、酸化物換算で0.05〜1.0モルである。第2副成分の含有量をこの範囲内にすることで、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上し、比誘電率が高まる傾向となる。
【0019】
誘電体磁器組成物における第3副成分の比率は、主成分100モルに対して、酸化物換算で、2〜12モルである。前記第3副成分の比率をこの範囲内にすることで、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上し、比誘電率が高まる傾向となる。
【0020】
誘電体磁器組成物における第4副成分の比率は、主成分100モルに対して、酸化物換算で、2〜5モルである。前記第4副成分の比率をこの範囲内にすることで、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上し、比誘電率が高まる傾向となる。
【0021】
前記第4副成分を構成する希土類元素の酸化物としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも一種の酸化物が挙げられる。
【0022】
また、本実施形態の誘電体粒子を構成する副成分としては、前記第1副成分〜第4副成分に限定されず、所望の特性に応じて、第1副成分〜第4副成分以外の種々の元素または化合物を含んでもよい。前記第1副成分〜第4副成分以外の副成分を含む場合において、その含有量は、前記第1副成分〜第4副成分の比率が前記の各範囲に含まれている限り、特に限定されない。
【0023】
誘電体層2の厚みおよび積層数は、特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0024】
<誘電体磁器組成物の構造>
図2に示すように、誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物は、誘電体粒子20と、隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界21と、を有する。
【0025】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、誘電体磁器組成物中の誘電体粒子20の粒度分布の特性が所定の要件を満たす。
【0026】
すなわち、前記誘電体粒子の粒度分布を示すガウス関数の半値幅をWとし、前記誘電体磁器組成物中の誘電体粒子の平均粒径をRとしたとき、WとRが1.00≦W/R≦1.30の関係式を満たす。WとRが1.00≦W/R≦1.30の関係式を満たすことにより、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上し、比誘電率が高くなる傾向となる。
【0027】
ここで、ガウス関数とは、下記式(1)で表される正規分布関数であり、ガウス関数の半値幅は下記式(2)で表される。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
式(1)および(2)中、Rは誘電体磁器組成物中の誘電体粒子の平均粒径を示し、σは誘電体磁器組成物中の誘電体粒子の粒径の標準偏差を示す。
【0031】
本実施形態の誘電体粒子の平均粒径Rは、好ましくは、0.3μm以下である。また、誘電体粒子の平均粒径Rが前記範囲に含まれる場合においては、誘電体粒子の平均粒径をより大きくすることで、比誘電率が高くなる傾向となる。
【0032】
誘電体粒子の粒径の測定方法は特に限定されず、例えば、以下の方法により、測定することができる。まず、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて誘電体層2の断面を撮影することにより、明視野(BF)像を得る。この明視野像において誘電体粒子20と、誘電体粒子20と誘電体粒子の間に存在し、該誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域を粒界21として確認する。そして、その断面における各誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出することにより誘電体粒子の粒径を得ることができる。
【0033】
なお、異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0034】
また、誘電体粒子の平均粒径は、200個以上の誘電体粒子について、上述の方法により、粒径を測定し、相加平均により算出すればよい。
【0035】
また、本実施形態の誘電体粒子20の微細構造としては、特に限定されず、主成分に副成分が全固溶している焙焼粉としての誘電体粒子であっても、また、実質的に主成分で構成される主成分相と前記主成分相の周囲に副成分が拡散した拡散相とを有する構造であってもよいが、本実施形態では、主成分に副成分が全固溶している焙焼粉としての誘電体粒子であることが好ましい。
【0036】
前記拡散相23は、チタン酸バリウムからなる主成分に、前記第1副成分〜第4副成分から選ばれる少なくとも1種の副成分が拡散することにより形成されているが、本実施形態の誘電体粒子の拡散相は、チタン酸バリウムからなる主成分に、少なくとも第4副成分が拡散することにより形成されていることが好ましい。
【0037】
<内部電極層3>
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種類以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
<外部電極4>
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
<積層セラミックコンデンサ1の製造方法>
本実施形態の誘電体磁器組成物を誘電体層として有する積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明するが、本実施形態の積層セラミックコンデンサの製造方法は以下の方法に限定されない。
【0040】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0041】
誘電体原料として、まずチタン酸バリウムの原料と、酸化マグネシウム(第1副成分)の原料と、酸化マンガン(第2副成分)の原料と、酸化ケイ素(第3副成分)の原料と、希土類元素の酸化物(第3副成分)の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0042】
なお、チタン酸バリウムの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0043】
さらに、誘電体層に、上記の主成分および副成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、上記と同様に、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0044】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0045】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0046】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法などに応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0047】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0048】
本実施形態では、前記誘電体層用ペーストが有機系の塗料であっても水系の塗料であっても、誘電体原料と有機ビヒクル、または誘電体原料と水系ビヒクルを、ボールミルまたはビーズミルで湿式粉砕することが好ましく、この際に用いられるボール径またはビーズ径は0.5〜1mmであることが好ましい。ボール径またはビーズ径をこの範囲内にすることで、誘電体粒子の粒度分布を示すガウス関数の半値幅Wを比較的大きくすることができ、その結果、寿命特性が向上する傾向となる。
【0049】
内部電極層用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製すればよい。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0050】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0051】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0052】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0053】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0054】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。本実施形態における脱バインダの条件は特に限定されず、通常の脱バインダの条件で行えばよい。
【0055】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。本実施形態の焼成は、昇温速度を100℃/時間以下とすることが好ましく、80〜60℃/時間とすることがより好ましい。焼成の昇温速度をこの範囲にすることで、誘電体粒子の異常粒成長を抑えることができ、寿命特性が向上する傾向となる。焼成の保持温度、保持時間、冷却速度、雰囲気は特に限定されず、通常の焼成条件で行えばよい。
【0056】
焼成工程後、グリーンチップにアニールを施す。本実施形態のアニールの条件は特に限定されず、通常のアニール条件で行えばよい。
【0057】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿する場合には、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0058】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行っても、独立におこなってもよい。
【0059】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成し、積層セラミックコンデンサを得る。得られた積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0060】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサの誘電体層は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物により構成され、具体的には誘電体粒子の粒度分布の特性が所定の要件を満たす。これにより、誘電体磁器組成物の寿命特性が向上する。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0062】
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、前記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0064】
<試料1〜16>
主成分であるチタン酸バリウムの原料として、BaTiO粉末を準備した。また、副成分の原料としては、Mgの酸化物の原料としてMgCO粉末、MnO粉末、SiO粉末、Tbの酸化物の原料としてTb粉末を準備した。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることになる。
【0065】
次に、前記で準備したBaTiOと副成分の原料とをボールミルで15時間湿式粉砕し、乾燥して誘電体原料を得た。なお、ボールミルのボール径を表1または表3に示す。
【0066】
なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において主成分であるチタン酸バリウム100モルに対して、各酸化物換算で、MgOが2.0モル、MnOが0.2モル、SiOが3.0モル、Tbが3.5モルとなるようにした。
【0067】
次いで得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。なお、ペースト中の誘電体原料の平均粒径は表1および表3に示す。
【0068】
また、上記とは別に、Ni粉末:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0069】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルムに厚さ5μmのグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0070】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成工程およびアニールを下記条件にて行って、焼結体としての素子本体を得た。
【0071】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、保持時間:8時間、雰囲気ガス:空気中とした。
【0072】
焼成条件は、昇温速度を表1、表3に記載のものとし、保持温度:1200〜1300℃、保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNとHの混合ガス、酸素分圧:10−12気圧とした。
【0073】
アニールは、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス、酸素分圧:10−5気圧とした。
【0074】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0075】
次いで、得られた素子本体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0076】
得られたコンデンサ試料について、誘電体層中の誘電体粒子の粒径を測定し、平均粒径Rを求め、粒度分布のガウス関数の半値幅Wを求め、W/Rを算出した。また、得られたコンデンサ試料の加速寿命と比誘電率を下記の方法により測定した。結果を表2および表4に示す。また、試料1については、更に誘電損失(tanδ)、容量温度特性(TC)、絶縁抵抗(IR)も測定した。
【0077】
誘電体粒子の粒径(平均粒径および粒度分布の半値幅)
コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直に切断した。この切断面について、STEM観察を行い、誘電体粒子と粒界の判別を行い、500個の誘電体粒子について、各誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出することにより、誘電体粒子の粒径を求めた。
次に、得られた誘電体粒子の相加平均による平均粒径を算出し、標準偏差を求め、下式(2)により、半値幅Wを求めた。
なお、試料1、2、5、6については、下記式(1)によるガウス関数を図3に示す。
【0078】
【数2】

【0079】
【数1】

【0080】
加速寿命(MTTF)
コンデンサ試料に対し、200℃にて、200Vの印加状態に保持し、抵抗(IR)が初期の一桁落ちるまでの時間を加速寿命とした。本実施例では5時間以上を良好と判断した。W/Rの値と加速寿命の関係を図4〜6に示す。図4は試料1〜8に関し、図5は試料9〜16に関し、図6は後述する試料17〜37に関する。
【0081】
比誘電率(ε)
比誘電率は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高い方が好ましい。
【0082】
誘電損失(tanδ)
コンデンサの試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、誘電損失tanδを測定した。
【0083】
容量温度特性(TC)
コンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、静電容量を測定し、基準温度を25℃としたとき、−55〜85℃の温度範囲内で、温度に対する静電容量変化率(ΔC/C)を測定することにより、容量温度特性TCを評価した。本実施例においては、−55〜85℃の温度範囲内で±15%以内(EIA規格のX5R特性)を満足するものを良好とした。
【0084】
絶縁抵抗(IR)
コンデンサ試料について、25℃における絶縁抵抗(IR)を測定した。絶縁抵抗(IR)を測定の際の電圧はDC100Vであり、印加開始から60秒後の値とした(単位は「Ω」)。
【0085】
<試料17〜37>
試料17〜37では、各副成分の添加量を、焼成後の誘電体磁器組成物において主成分であるチタン酸バリウム100モルに対して、各酸化物換算で、MgO、MnO、SiOおよび希土類元素の酸化物が表5に記載の通りになるように変え、希土類元素の種類を表5に記載の通りになるように変えた以外は、試料1〜16と同様にしてコンデンサ試料を作製した。得られたコンデンサ試料に対して、試料1〜16と同様にして、誘電体層中の誘電体粒子の粒径を測定し、平均粒径Rを求め、粒度分布のガウス関数の半値幅Wを求め、W/Rを算出し、加速寿命と比誘電率を測定した。結果を表6に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
表1〜表4より、W/Rの値が1.00≦W/R≦1.30の範囲に含まれている場合(試料1〜4、9〜12)は、W/Rの値が1.00≦W/R≦1.30の範囲に含まれない場合(試料5〜8、13〜16)に比べて、加速寿命が高くなることが確認できた。
【0093】
また、表1〜表4より、ボールミルのボール径が2.0mm未満であり、なおかつ焼成時の昇温速度が200℃/時間未満である場合(試料1〜4、9〜12)は、W/Rの値が1.00≦W/R≦1.30の範囲に含まれていることが確認できた。
【0094】
これは、ボールミルのボール径を小さくしたことで、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料の粒径をより小さくすることができ、その結果、チタン酸バリウムへの各副成分の固溶が進み、副成分が全固溶している誘電体粒子の数が増加したことにより、粒度分布の半値幅Wが大きくなり、W/Rが大きくなったと考えられる。
【0095】
また、焼成時の昇温速度を低くすることで、異常粒成長を抑制することができたことから、平均粒径を小さくすることができ、その結果、W/Rが小さくなったと考えられる。そして、このようなコンデンサ試料は、異常粒成長を抑制できたことから、加速寿命が向上したと考えられる。
【0096】
また、誘電体粒子の平均粒径がより大きい方(試料9〜12)が、比誘電率が高くなることが確認できた。
【0097】
さらに、試料1の誘電損失(tanδ)は1.2%であり、容量温度特性(TC)は−55℃で−3.4%、85℃で−7.8%であり、X5Rを満足し、絶縁抵抗(IR)は2.0×1011 Ωであり、いずれも良好な値を示すことが確認できた。
【0098】
表5、6より、誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の主成分100モルに対する各副成分の比率が、酸化物換算で、MgO:1〜3モル、MnO:0.05〜1モル、SiO:2〜12モル、希土類元素の酸化物:2〜5モルの場合(試料17〜21)は、W/Rの範囲が1.00≦W/R≦1.30の範囲に含まれ、なおかつ、前記副成分の比率が前記範囲から外れる場合(試料22〜37)に比べて、加速寿命が高くなることが確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
20… 誘電体粒子
21… 粒界
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体粒子を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子は、
チタン酸バリウムからなる主成分と、
酸化マグネシウムからなる第1副成分と、
酸化マンガンからなる第2副成分と、
酸化ケイ素からなる第3副成分と、
希土類元素からなる第4副成分と、から構成され、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、酸化物換算で、
第1副成分:1〜3モル、
第2副成分:0.05〜1.0モル、
第3副成分:2〜12モル、
第4副成分:2〜5モルであり、
前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の粒度分布を示すガウス関数の半値幅をWとし、
前記誘電体磁器組成物中の前記誘電体粒子の平均粒径をRとしたとき、
WとRが1.00≦W/R≦1.30の関係式を満たすことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体粒子の平均粒径Rが0.3μm以下である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
内部電極層と誘電体層とが交互に複数積層された電子部品であって、
前記誘電体層が請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物で構成されている電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−214316(P2012−214316A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79873(P2011−79873)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】