説明

誘電体磁器組成物

【課題】高い誘電率と共振周波数を有しつつ、共振周波数の温度係数を低い値に調整できる誘電体組成物および材料を得ること。
【解決手段】aATiO−bNaNbO(AはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記aおよびbが0.030≦a≦0.170かつ0.830≦b≦0.970かつa+b=1を満足する磁器組成物を主材料系として、それに誘電率などを高く保ったまま共振周波数の温度係数を低くするための組成物と混合して、焼結体または混合物を得ることにより解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波誘電体、特にマイクロ波やミリ波等の高周波領域において使用される種々の共振器材料、フィルター材料、MIC用誘電体基板材料、アンテナ材料、積層チップコンデンサー材料、アイソレータ材料等の携帯電話部品の容量素子等に好適に用いることができるマイクロ波誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信技術の進歩により、自動車電話や携帯電話、PHS(簡易型携帯電話)などの移動体通信システムやGPS(汎地球測位システム)が急速に普及している。そのため通信機に利用される周波数帯域が拡大し、マイクロ波帯域での利用が盛んになっている。
このマイクロ波帯域で使用される回路には、空洞共振器、アンテナ等の部品が用いられていた。しかし、これらの部品はマイクロ波の波長と同程度の大きさになるため、携帯電話基地局用のフィルター装置、自動車用電話機、携帯電話機および小型GPS装置等に適用できるような部品の小型化は不可能であった。
これに対し、近年のマイクロ波フィルターや発信器の周波数安定化回路に誘電体共振器を用いることによって回路部品の小型化が盛んに行われ一般化しつつある。
【0003】
近年、通信技術の進歩により、自動車電話や携帯電話、PHS等の移動体通信システム、GPSが急速に普及し、マイクロ波帯域での利用が盛んになっている。このマイクロ波帯域で使用される回路には、空洞共振器、アンテナ等の部品が用いられてきた。
しかし、これらの部品はマイクロ波の波長と同程度の大きさになるため、自動車用電話機、携帯電話機および小型GPS装置等に適用できるような部品の小型化は不可能であった。
【0004】
このような誘電体共振器に用いられる誘電体材料には、使用周波数帯域における誘電率(εr)が高く、マイクロ波帯域での無負荷品質係数(Q)と共振周波数(f0)との積(Q×f0、以下、Qfと略称する。)が高く、かつ共振周波数の温度係数(τf:ppm/K)がゼロを中心に正から負に自由に制御できることが強く要望され、携帯電話部品等に用いられるコンデンサーなどの容量素子材には、εrが180以上さらにはτfが任意に制御可能であることが要望されている。
【0005】
このような誘電体磁器組成物として、例えば特許文献1には、LiO−Bi−Ln−TiO−CaO系の誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、この組成系における誘電率の最大値は220を僅かに超える程度であり、温度係数を好適に調整した場合は200程度までしか高くできないという欠点があった。さらには原料としてランタノイド系酸化物などを用いており、近年の希土類の価格高騰により製品価格が高くなるという欠点も有している。
また特許文献2にはAg(Nb1−xTa)Oを含有する誘電率460以下の複合誘電体材料が開示されている。この中で例えば誘電率455のAg(Nb0.75Ta0.25)Oに対し、CaTiOおよび有機高分子を添加した材料が述べられているが、誘電率に関しては12以上とするのみで具体的な記述は無く、更にはこの組成系は酸化銀を原料の一部に利用していることから、原料原価が極めて高くなり、なおかつその合成には高酸素濃度雰囲気中での焼成が必要になるという欠点を有しており、製品コストが極めて高くなるという問題点を有している。

このように以上の従来技術では、何れも近年の小型化に要求されるεr>250、Qf≧100GHzにおいて共振周波数の温度係数τfを自由にコントロールできるものは開示されておらず、更に原料価格の面からも工業的に利用価値の低いものであった。

【特許文献1】特開2000−335964号公報
【特許文献2】特開2006−260895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特に高価な原料を使用することなく、極めて高い誘電率を有する誘電体組成物を提供し、さらにそれを用いて高い誘電率を有しながら温度安定性に優れた複合誘電体磁器組成物、それを用いた誘電体磁器、樹脂誘電体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(Ca、Sr)TiO−NaNbO系複合酸化物はマイクロ波領域において十分なQ値を保持しつつ、極めて高い誘電率をもつ。また、これらの複合酸化物のモル比を制御した共振周波数の温度変化τfが負の誘電体磁器組成物に対し、高誘電率かつ温度係数がプラスの誘電体磁器組成物を複合化することにより、誘電率が極めて高く、温度変化に対して特性を安定させることができた。
これらの技術により誘電体磁器および誘電体樹脂を得ることができ、前記課題を解決した。
【0008】
即ち、本願請求項1に記載の誘電体磁器組成物は、aATiO−bNaNbO(AはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記aおよびbが、0.030≦a≦0.170、0.83≦b≦0.970、a+b=1を満足し、かつATiO成分およびNaNbO成分がお互いに固溶体を形成していることを特徴とする。
A(AはCa、Srのいずれか1種または2種)成分は誘電体磁器として高周波領域において安定した電気特性を有しており、Tiとの複合酸化物を形成し、誘電率を上昇させる作用がある。また、NaNbO成分との固溶体を作り、その組成比に応じて誘電率を170〜1400の範囲内で、共振周波数の温度係数τfを−650〜−1800(ppm/K)と負の範囲で調整することを可能とする。
【0009】
組成比である前記a,bを前記範囲に限定することにより、次の効果が得えられる。まずaを0.030以上の値とすることにより誘電率及び共振周波数の温度変化τfを調整することができ、誘電率も170以上と高いまま保つことができる。また、aが0.170以下の値とするのは、τf値が負の値を保てるためである。aの値が0.030未満であれば、誘電率及び共振周波数の温度変化τfを調整する効果が十分に得られず、また、aの値が0.170より大きい場合は共振周波数の温度変化τfが急激に大きな正の値となり、高温安定性に優れた高誘電率誘電体が得られなくなる。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、共振周波数の温度係数τf値が正であり、かつ誘電率が150以上である第2の誘電体磁器組成物を10〜80体積%と、請求項1に記載の誘電体磁器組成物20〜90体積%とを混合した複合誘電体磁器組成物である。
共振周波数の温度係数τfが正の値を示し、かつ誘電率が150以上である第2の誘電体磁器組成物を、請求項1の誘電体磁器組成物と混合し、第2の誘電体磁器組成物をその10〜80体積%とすることにより、誘電率の温度変化の調整を容易にすることができる複合誘電体磁器組成物が得られる。第2の誘電体磁器組成物を10〜80体積%に限定した理由は、この範囲においては誘電特性を安定化するのが容易であるためである。これに対して、第2の誘電体磁器組成物が10体積%以下であれば誘電率が低下し、さらには温度係数が負へ大きくシフトし、逆に80体積%を超えると、温度係数が正へ大きくシフトし、誘電率の温度安定性が低下してしまう。
【0011】
前記第2の誘電体磁器組成物に当てはまるのは、たとえばAgNbO、AgTaO、SrTiO、CaTiO、ATiOとNaNbOとの組成比を変えたcBTiO−dNaNbO(ただしBはCa、Srのいずれか1種または2種、cおよびdが0.171≦c≦1.000かつ、0.000≦d<0.829かつ、c+d=1)などであり、いずれも化学的に安定で、150以上の高誘電率かつ共振周波数の温度係数τfが正の材料であるが、これらの誘電体磁器組成物などを適量混合することによって、高誘電率を有しながら温度安定性に優れた誘電体磁器組成物や、高誘電率を有しながら任意の温度における誘電率変化挙動を示す誘電体磁器組成物を容易に得ることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、前記第2の誘電体磁器組成物が一般式cBTiO−dNaNbO(BはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記cおよびdが0.171≦c≦1.000、0.000≦d≦0.829、c+d=1を満足し、BTiO成分およびNaNbO成分がお互いに固溶体を形成してからなる請求項2に記載の複合誘電体磁器組成物である。
この範囲のc、d値を満たすcBTiO−dNaNbO成分は、誘電率が170〜1400と高く、共振周波数の温度変化τfが正に大きいため、請求項1に記載のaATiO−bNaNbOの成分と混合することにより、誘電率が高く、温度変化しても特性の変化が少ない、優れた複合誘電体磁器組成物を得られる。
このように、誘電率が極めて高く、かつ共振周波数が負の誘電体磁器組成物を用いることは、高誘電率材料の設計の自由度を広げ、高誘電率ながら温度変化に対して安定した誘電体磁器組成物の設計を容易に得ることが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の複合誘電体磁器組成物20〜97体積%と、残部が絶縁体磁器組成物からなる複合誘電体磁器組成物であり、前記絶縁体磁器組成物は1050℃以下で焼成可能であることを特徴とする複合誘電体磁器組成物である。
すなわち前記絶縁体磁器組成成分は3〜80体積%となる。
絶縁体磁器組成成分は、高誘電率でτf値が負である前記aATiO−bNaNbO成分と、τf値が正である前記cBTiO−dNaNbOとの固溶体成分、この両固溶体同士の固溶体化を阻害し、焼結ロットごとの特性バラツキおよびτf値が小さく安定した誘電体磁器を得る効果がある。3〜80体積%の範囲の限定については、前記両固溶体同士の固溶体化を妨げる働きが十分であり、τf値を小さい値に制御できるためである。3体積%以下の添加では前記両固溶体化を妨げる働きが低く、逆に80体積%を超えるとτf値の増加が避けられない。
1050℃以下で焼成可能とした理由は、この温度を超えると前記両固溶体同士の固溶が進行し、その混合比に応じてaATiO−bNaNbO成分系固溶体単一相あるいはcATiO−dNaNbO成分系固溶体単一相となり、目的の特性が得られないため適していないのである。
【0014】
請求項5に記載の本発明は、前記絶縁体磁器組成物が、特にガラスあるいは酸化ビスマスであることを特徴とする複合誘電体磁器組成物である。
これらは、誘電体磁器組成物の混合物に対し、ガラス成分あるいは酸化ビスマスの低温で固化可能な組成物を添加することにより、共振周波数温度特性τfが負である成分と、τfが正である成分の固溶体化を進行させずに焼結することが可能となる。
【0015】

請求項6に記載の本発明は、請求項1の誘電体組成物、または請求項2から請求項5のいずれかに記載の複合誘電体磁器組成物を粉末状態で樹脂中に分散した構造を有する樹脂誘電体である。樹脂と混合することにより、柔軟性や易加工性、割れ欠けにくさなどを持つことにより、アンテナや携帯用電子機器などに使用する誘電体として使用することができる。樹脂については特に下記に限定するものではないが、適当な例としてはポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、液晶ポリマー、シンジオタクチックポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができる。樹脂誘電体は、そのうちの樹脂が占める割合が3体積%以上80体積%以下の範囲が柔軟性や易加工性、誘電率や温度変化による変化が少ないために好ましく、さらには5〜30体積%の範囲が良い。

【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1から請求項6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物、複合誘電体磁器組成物、誘電体樹脂を用いることは、これら誘電体基板、誘電体共振器、誘電体多層基板、誘電体アンテナのサイズを小さく設計でき、またその高い誘電率や、0に近く制御したτf値により使用時の温度変化に対して特性の変動が小さく、これらを搭載した電子機器の小型化や、更には省スペース設計により生じた電子機器の空き領域に他の機能部品を搭載させて多機能化を図れるようになるなどの産業的な効果を有する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を基に詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
実施例1
本発明の誘電体磁器組成物を以下の要領で試料を作製し、その特性を調べた。 この実施例1は、請求項1に記載の磁器組成成分に関する実施例を示す。
まず、99.9%以上の高純度のTiO、CaCO、SrCO、NaCO、Nbの各種原料を用い、表1の各配合比率になるように秤量し、その後メタノールを用い、300mlのウレタン内張りポットミルおよび高純度で直径5mm〜直径12mmの球状酸化ジルコニウムボールを用いて24時間混合し、その後60℃で乾燥させた。
その後乾燥粉末をアルミナ製乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼを用いて900〜1300℃の範囲で、粒子同士がネッキングを起こし始める程度までの加熱、いわゆる仮焼結を行なった。
そして、この仮焼物を再度乳鉢で粉砕した後、PVA(ポリビニルアルコール)5%水溶液を4質量部添加し、乳鉢で均一になるよう攪拌し、その後320メッシュの篩いを用い整粒し、プレス圧100MPaで直径12mm、厚み7mmの円盤状に成型した。
その後、上記成型体を焼成温度1400℃で約2時間保持で焼成しマイクロ波誘電体磁器を得た。得られたマイクロ波誘電体磁器の上下面を番手#200のダイヤモンドホイールを用い研磨し直径10mm×厚さ5mmの測定用素子に加工した後、Hakki−Coleman法によりヒューレットパッカード社のネットワークアナライザーを用い測定周波数5〜10GHz、さらに恒温槽を用いεr値、Qf値および温度に対する変化特性τfを調べた。
【0019】
以上の作業を表1に示す試料について行った。 表1は、第1誘電体磁器組成成分であるaATiO−bNaNbOはa、b各々の成分量およびA成分を変化させたときの諸特性との関連を調べたものである。
【0020】
【表1】

表1に記載の試料番号で、*印のつくものは、本発明外の比較試料
【0021】
表1から明らかなように、本発明の基本成分である第1誘電体磁器組成成分aATiO−bNaNbOでのa値、b値を前記請求の範囲内とした試料.1〜試料.8については、誘電率が170以上、Qf値が100(GHz)以上、τf値がいずれも負の範囲であり、目的とする特性が得られた。
また、a値が請求の範囲より小さい値である0.02とした比較試料.9および11は、誘電率の低下が起こり、適していない。また、aの値が逆に0.170を超えて大きい比較試料.10,12の場合は、τf値が大きく正の値を示すために、やはり適していない。
【0022】
実施例2
本発明請求項2に記載の複合誘電体磁器組成物試料を以下の要領で製作し、その特性を調べた。この実施例2は、実施例1中の試料.6を請求項1に記載の誘電体磁器組成物として、第2の誘電体磁器組成物と混合した実施例である。
試料の製作はおおむね実施例1に示した方法と同じであるが、乾燥粉末を乳鉢で粉砕する段階で実施例1中の試料.6と第2の誘電体磁器組成物を混合した。
第2の誘電体磁器組成物の材質や量を変えて実施例1と同様の実験を行い、誘電特性を測定した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に記載の試料番号で、*印のつくものは、本発明外の比較試料
【0025】
表2の結果より本発明請求項2に示す複合誘電体磁器組成物は、誘電率はいずれも250を超えつつQf値も300(GHz)超える良好な特性を有していることがわかる。特筆すべきはτfが正負に100(ppm/K)以内と非常に制御されており、高温特性にも優れていることがわかる。
第2の誘電体磁器組成物の割合が、10体積%未満もしくは80体積%を超える比較試料.26、27はいずれもτf値が正負に大きい値となり適さなかった。
比較試料である試料.29および30は、AlおよびTiOの誘電率が低いために、混合した複合磁器組成物も誘電率をはじめ誘電特性が満足できなかった。
【0026】
実施例3
この実施例3は、請求項3に記載の複合誘電体磁器組成物に関する実施例を示す。
請求項1に記載の誘電体磁器組成物は試料.6を用いた。
第2の誘電体磁器組成物は10〜80体積%を占め、cBTiO−dNaNbO(BはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記cおよびdが0.171≦c≦1.000、かつ0.000≦d<0.829、かつc+d=1を満足し、BTiO成分およびNaNbO成分がお互いに固溶体を形成してからなる。
この両者をc、d値および組成の条件を変え、実施例2と同様の方法にて両者を混合し、最終的に複合誘電体磁器組成物を得た。この結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に記載の試料番号で、*印のつくものは、本発明外の比較試料
表3の「※割合」は、cBTiO−dNaNbOの複合誘電体磁器組成物に占める割合を体積%で表したもの
【0029】
表3から明らかなように、本発明の範囲内である試料.41〜44は温度係数τfが±100(ppm/K)以内であるにもかかわらず、誘電率が350を超える極めて優秀な値を示した。しかしながら、本発明の範囲外である比較試料.45、46では請求項1に記載の誘電体磁器組成成分aATiO−bNaNbOおよび第2の誘電体磁器組成成分cBTiO−dNaNbO同士の固溶体化が起こり、誘電率は極めて高いものの温度係数τfが正負に大きいという、好ましくない特性となった。
【0030】
実施例4、実施例5
この実施例4は、本発明請求項4および請求項5に記載の、複合誘電体磁器組成物に関する実施例である。
20〜97体積%を占める請求項3に記載の誘電体磁器組成物は試料.42を用いた。一方3〜80体積%を占める絶縁体組成物は、1050℃以下の熱処理で硬化可能であるガラス、酸化ビスマス、酸化ホウ素、三酸化アンチモンを挙げた。
これらを実施例1に示した工程の仮焼結後に混合し、複合誘電体組成物を得た。
【0031】
【表4】

【0032】
表4に記載の試料番号で、*印のつくものは、本発明外の比較試料
表4の「※割合」は、絶縁体組成物の複合誘電体磁器組成物に占める割合を体積%で表したもの
【0033】
表4の結果より、請求項4の複合誘電体組成物は、絶縁体組成物を3〜80体積%の組成では、誘電率自体は試料.42より劣るものの、τf値をきわめて小さくすることができ、また製造ロットごとのばらつきも非常に小さいという結果を得た。また、特に有効なのはガラスと酸化ビスマスであることが分かった。
また、実施例には記載していないが1050℃を超える温度でしか固化しない絶縁体組成物の場合は、試料.42のaATiO−bNaNbOとcBTiO−dNaNbO両成分の固溶体同士の固溶体化が進行するために、誘電諸特性に低下が見られた。
【0034】
実施例5
実施例3で得られた試料.42の組成物を、粉末の段階で各種樹脂(フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)と混合を行い、樹脂誘電体を作製した。粉状の誘電体磁器組成物が樹脂で固められた構造となるために、高誘電率で取り扱いや加工が簡単にでき、アンテナや携帯用電子機器などに適用できた。樹脂の種類や誘電体磁器組成物の分量は、求められる誘電率や耐環境性、アンテナ特性、密度、費用などから適当な種類と組成を選ぶことができる。
【0035】
以上に述べた本発明の誘電体磁器組成物、複合誘電体磁器組成物、樹脂誘電体は、それぞれの組成成分を特定範囲内で制御することによって、高周波領域における誘電率を250以上と極めて高く保ちながら、Qf値を100以上と高く、τfを制御することで共振周波数の温度係数を制御することを可能にする。また、前記誘電体組成物と樹脂を複合したものは、高誘電率で樹脂の優位点(変形、被加工性、破壊のしにくさなど)を持つ樹脂誘電体とすることができた。
また、本発明に使用する材料は、Ca,Sr,Na,Tiなどであり、希少金属や高価な原料を必要とせずに製造できるために、誘電体組成物として極めて安価に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の基本組成成分のマイクロ波誘電体磁器組成物は、Qf値が高いので、マイクロ波領域において使用される共振器材料、フィルター材料、コンデンサー材料、温度補償用コンデンサー材料、高放電材料、バリア放電用材料、イオン発生源、高周波医療器具用部材、アイソレータ等の部材として利用できる。
またその高い誘電率や0に近く制御したτf値により、これらを搭載した電子機器の小型化や、更には省スペース設計により生じた電子機器の空き領域に他の機能部品を搭載させて多機能化を図れるようになるなどの産業的な効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成成分が、一般式aATiO−bNaNbO(AはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記aおよびbが
0.030≦a≦0.170かつ
0.830≦b≦0.970かつ
a+b=1
を満足し、ATiO成分およびNaNbO成分がお互いに固溶体を形成してなる誘電体磁器組成物。
【請求項2】
共振周波数の温度係数τf値が正であり、かつ誘電率が150以上である第2の誘電体磁器組成物を10〜80体積%と、
請求項1に記載の誘電体磁器組成物20〜90体積%とを混合した複合誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記第2の誘電体磁器組成物が一般式cBTiO−dNaNbO(BはCa、Srのいずれか1種または2種)で表され、前記cおよびdが
0.171≦c≦1.000かつ
0.000≦d≦0.829かつ
c+d=1
を満足し、BTiO成分およびNaNbO成分がお互いに固溶体を形成してからなる請求項2に記載の複合誘電体磁器組成物
【請求項4】
請求項3に記載の複合誘電体磁器組成物20〜97体積%と、残部絶縁体組成物からなる複合誘電体組成物であり、
前記絶縁体組成物は1050℃以下の熱処理を行なうことで固化可能であることを特徴とする複合誘電体組成物。
【請求項5】
前記絶縁体組成物が、特にガラス、酸化ビスマスのいずれかであることを特徴とする複合誘電体組成物。
【請求項6】
請求項1の誘電体組成物、または請求項2から請求項5のいずれかに記載の複合誘電体磁器組成物を、樹脂中に分散した構造を有する樹脂誘電体。

【公開番号】特開2009−234888(P2009−234888A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85955(P2008−85955)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】