説明

誘電体磁器組成物

【課題】プレッシャークッカー試験での外観不良がなく、かつ電気的特性が優れた誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】本発明による誘電体磁器組成物は、主成分として組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される成分を含み、BaO、Nd23、及びTiO2のモル比率を表すx、y、及びzが、それぞれ特定のモル比率の範囲内にあり、主成分における各成分の体積比率を表すα、及びβが、それぞれ特定の体積比率の範囲内にあり、主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物及び銀を含むとともに、主成分に対する各副成分の質量比率を表すa、b、c及びdが、それぞれ特定の質量比率の関係を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が増加している携帯電話等の移動体通信機器では、数百MHz〜数GHz程度の準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器等に用いられるフィルタ、共振器、コンデンサ等の電子デバイスとして、高周波特性を有するデバイスが要求されている。また、近年の移動体通信機器の小型化に伴い、高周波デバイスにも小型化が要求されている。
【0003】
このような高周波デバイスの小型化に資するべく、内部に電極や配線等の導体(以下、高周波デバイスの内部に備わる電極や配線等の導体を「内部導体」という)を備えた表面実装型(SMD:Surface Mount Device)が主流となっている。
【0004】
また、デバイスの低価格化を実現させるために、低抵抗の導体でかつ安価なAg等の導体を内部導体として使用できることが望まれている。Agを内部導体として使用可能な低温焼結性を有する誘電体磁器組成物に関しては、様々な組成のものが提案されている。例えば、BaO−希土類酸化物−TiO2系を主成分とした材料は、比誘電率(εr)が高く、Q値が大きく、共振周波数の温度特性(τf)が小さいこと等から、広範な研究がなされている。
【0005】
例えば、上述した高比誘電率の誘電体磁器と、それよりも低比誘電率の誘電体磁器との異材質同士を同時焼成することで、特性が改善されたデバイスを作製する技術が研究されている。
【0006】
例えば、特許文献1、2及び3には、Ag又はAgを主成分とする合金等を内部導体として使用することができるように、低温焼結性を有する、BaO−希土類酸化物−TiO2系と2MgO・SiO2(フォルステライト)とを主成分とした誘電体磁器組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3940424号公報
【特許文献2】特許第3940419号公報
【特許文献3】特開2006−124270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したBaO−希土類酸化物−TiO2系と2MgO・SiO2(フォルステライト)とを主成分とする誘電体磁器組成物は、該誘電体磁器組成物を使用した製品についてプレッシャークッカー試験(PCT)を実施すると、製品の外部端子近傍の誘導体素地が変色する等といった外観不良が起こりうる。このような外観不良は、外部Ag導体が誘電体に拡散すること等によって発生すると考えられる。
【0009】
そこで、本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、プレッシャークッカー試験(PCT)における外観不良がなく、かつ電気的特性に優れた誘電体磁器組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意研究を行った結果、主成分として組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される成分を含み、BaO、Nd23、及びTiO2のモル比率を表すx、y、及びzが、それぞれ特定の範囲にあるとともに、主成分における各成分(xBaO・yNd23・zTiO2及び2MgO・SiO2)の体積比率を表すα及びβが、それぞれ特定の範囲にあり、主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物及び銀を含み、かつ、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCoO及びdAgと表したときに、主成分に対する各副成分の質量比率を表すa、b、c、及びdが、それぞれ特定の範囲にある誘電体磁器組成物が、プレッシャークッカー試験(PCT)においても外観不良がなく、かつ、優れた電気的特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明による誘電体磁器組成物は;
主成分として組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される成分を含み、
BaO、Nd23、及びTiO2のモル比率を表すx、y、及びzがそれぞれ、
14(モル%)≦x≦19(モル%)、
12(モル%)≦y≦17(モル%)、
65(モル%)≦z≦71(モル%)、の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100の関係を満たし、
主成分における各成分の体積比率を表すα、及びβがそれぞれ、
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲内にあるとともに、
α+β=100の関係を満たし、
主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物及び銀を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCoO、dAgと表したときに、
主成分に対する各副成分の質量比率を表すa、b、c、d、及びeがそれぞれ、
0.5(質量%)≦a≦12.0(質量%)、
0.5(質量%)≦b≦6.0(質量%)、
0.2(質量%)≦c≦6.0(質量%)、
0.3(質量%)≦d≦3.0(質量%)、
の関係を有するものである。
【0012】
上記組成によれば、Ag系金属の融点よりも低い温度において誘電体磁器組成物の焼成が可能であり、これによりプレッシャークッカー試験において外観不良の発生が抑止され、かつ、電気的特性に優れた誘電体磁器組成物を実現することができる。
【0013】
なお、「誘電体磁器組成物」とは、誘電体磁器の原料組成物であり、誘電体磁器組成物を焼結させることによって、焼結体である誘電体磁器が得られる。また、「焼結」とは、誘電体磁器組成物を加熱すると、誘電体磁器組成物が焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象である。一般に、加熱前の誘電体磁器組成物に比べて、焼結体の密度、機械的強度等は大きくなる。また、「焼結温度」とは、誘電体磁器組成物が焼結する際の誘電体磁器組成物の温度である。また、「焼成」とは、焼結を目的とした加熱処理を意味し、「焼成温度」とは、加熱処理の際に誘電体磁器組成物が曝される雰囲気の温度を示す。
【0014】
また、本発明では、副成分としてマンガン酸化物を更に含み、主成分に対するマンガン酸化物としての質量比率をeMnO2と表したときに、e≦3.0(質量%)を満たすことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明では、副成分としてアルカリ土類金属酸化物を更に含むことが好ましい。前記主成分に対する前記アルカリ土類金属酸化物としての質量比率をfROと表した場合、アルカリ金属RとしてCaOを用いた場合、CaO換算で0(質量%)<f≦1.5(質量%)であり、アルカリ土類金属RとしてBaを用いた場合、BaO換算で0(質量%)<f≦3.5(質量%)であり、アルカリ土類金属RとしてSrを用いた場合、SrO換算で0(質量%)<f≦2.5(質量%)であることが好ましい。アルカリ土類金属としては、CaOを用いることが好ましい。
【0016】
またさらに、本発明では、副成分としてビスマス酸化物を更に含み、主成分に対するビスマス酸化物としての質量比率をgBi23と表したときに、0.1(質量%)≦g≦6.0(質量%)を満たすことが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明では、副成分として銅酸化物を更に含み、主成分に対する銅酸化物としての質量比率をhCuOと表したときに、h≦5.0(質量%)を満たすことが好ましく、銅酸化物を実質的に含まないことがより好ましい。
【0018】
加えて、本発明の誘電体磁器組成物のQ・f値は、4500GHz以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プレッシャークッカー(PCT)試験において外観不良がなく、かつ優れた電気的特性を有する誘電体磁器組成物を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法の一態様のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0022】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される主成分を含むものである。
【0023】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、更に、この主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物及び銀を含んでいる。
【0024】
<主成分>
本実施形態の誘電体磁器組成物は、主成分として組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される成分を含み、当該組成式においてBaO、Nd23、及びTiO2のモル比率を表すx、y、及びzがそれぞれ、
14(モル%)≦x≦19(モル%)、
12(モル%)≦y≦17(モル%)、
65(モル%)≦z≦71(モル%)、の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100の関係を満たすように構成されている。
【0025】
さらに、主成分における各成分の体積比率(体積%)を表すα及びβはそれぞれ、
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲内にあるとともに、
α+β=100の関係を満たすように構成されている。
【0026】
ここで、BaOの含有割合xは、14(モル%)≦x≦19(モル%)であり、好ましくは15(モル%)≦x≦19(モル%)であり、より好ましくは17(モル%)≦y≦19(モル%)である。
【0027】
このBaOの含有割合xが14モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスとした際の電力損失が過度に大きくなってしまう。また、このBaOの含有割合xが19モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じ、さらにはQ・f値が大きく低下するため高周波デバイスの電力損失が過度に大きくなってしまう。
【0028】
また、Nd23の含有割合yは、12(モル%)≦y≦17(モル%)、であり、好ましくは13(モル%)≦y≦16(モル%)であり、より好ましくは14(モル%)≦y≦16(モル%)である。
【0029】
このNd23の含有割合yが12モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスとした際の電力損失が過度に大きくなってしまう。また、このNd23の含有割合yが17モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じ、さらにはQ・f値が大きく低下するため高周波デバイスの電力損失が過度に大きくなってしまう。
【0030】
さらに、TiO2の含有割合zは、65(モル%)≦z≦71(モル%)、であり、好ましくは65(モル%)≦z≦69(モル%)であり、より好ましくは65(モル%)≦z≦67(モル%)である。
【0031】
このTiO2の含有割合zが65モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じるとともに、共振周波数の温度係数τfも負方向へ大きくなってしまう傾向にある。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。また、このTiO2の含有割合zが71モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じる。
【0032】
また、本実施形態における主成分の上記組成式において、α及びβは、それぞれ、本実施形態の誘電体磁器組成物の主成分である(1)BaO、Nd23及びTiO2と、(2)MgO及びSiO2の体積比率を表している。
【0033】
上記組成式においてαとβは、
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲にあるとともに、
α+β=100の関係を満たすように構成されている。
【0034】
xBaO・yNd23・zTiO2成分の体積比率αは、45(体積%)≦α≦65(体積%)、であることが好ましく、50(体積%)≦α≦60(体積%)であることがより好ましい。
【0035】
また、2MgO・SiO2成分の体積比率βは、35(体積%)≦β≦55(体積%)、であることが好ましく、40(体積%)≦β≦50(体積%)であることがより好ましくい。
【0036】
αが65を超えてかつβが35未満となると、誘電体磁器組成物のεrが大きくなる傾向にあり、従来の高誘電率材と接合した多層型デバイスの高特性化が困難となる傾向にある。またαが65を超えてかつβが35未満となると、τfが正方向へ大きくなる傾向にあり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向にある。一方、αが35未満となりかつβが65を超えると、誘電体磁器組成物のτfが負方向へ大きくなる傾向にあり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向にある。そこで、xBaO・yNd23・zTiO2成分の体積比率α、及び2MgO・SiO2成分の体積比率βを、上記の好適な範囲内とすることによって、これらの不都合な傾向を抑制することができる。
【0037】
なお、主成分の一部として含有されている2MgO・SiO2は、誘電損失を小さくする観点から、フォルステライト結晶の形態で誘電体磁器組成物に含有されていることが好ましい。誘電体磁器組成物にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(XRD)によって確認できる。
【0038】
BaO−Nd23−TiO2系化合物は、高い比誘電率εrを有し、その値は55〜105程度である。一方、2MgO・SiO2(フォルステライト)は、単体で低い比誘電率εrを有し、その値は6.8程度である。本実施形態の誘電体磁器組成物は、主成分として、比誘電率εrが高いBaO−Nd23−TiO2系化合物と、比誘電率εrが低い2MgO・SiO2を含有することにより、誘電体磁器組成物の比誘電率εrを好適に下げることができる。
【0039】
本実施形態の誘電体磁器組成物から形成される誘電体層を、従来公知のBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物(高誘電率材)から形成される誘電体層と接合して多層型デバイスを形成する場合、本実施形態の誘電体磁器組成物の比誘電率が、高誘電率材の比誘電率より低いほど多層型デバイスを高特性化できる。このような理由から、本実施形態の誘電体磁器組成物の比誘電率εrは40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、25〜35であることが更に好ましい。
【0040】
BaO−Nd23−TiO2系化合物は、正の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)を有する場合が多い。一方、2MgO・SiO2(フォルステライト)はそれ単体で負の共振周波数の温度係数τfを有し、その値は−65(ppm/K)程度である。本実施形態では、誘電体磁器組成物に、主成分として、正の共振周波数の温度係数τfを有するBaO−Nd23−TiO2系化合物と、負の共振周波数の温度係数τfを有する2MgO・SiO2とを含有させることで、正のτfと負のτfとが相殺され、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfをゼロ近傍にすることができる。さらに、主成分中の2MgO・SiO2の含有率を増減させることで、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfを調整することができる。なお、温度係数τf、及び後述するQ・f値は、焼結後の誘電体磁器組成物、すなわち誘電体磁器が示す値である。
【0041】
また、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)は下記式(1)で表わされる関係によって算出される。
【0042】
τf=〔fT−fref/fref(T−Tref)〕×106(ppm/K)・・・(1)
【0043】
式中、fTは温度Tにおける共振周波数(kHz)を示し、frefは基準温度Trefにおける共振周波数(kHz)を示す。τfの絶対値の大きさは、温度変化に対する誘電体磁器組成物の共振周波数の変化量の大きさを意味する。コンデンサ、誘電体フィルタ等の高周波デバイスでは、温度による共振周波数の変化を小さくする必要があるため、誘電体磁器組成物のτfの絶対値を小さくすることが要求される。
【0044】
本実施形態の誘電体磁器組成物のτfは、−30(ppm/K)〜+30(ppm/K)であることが好ましく、−25(ppm/K)〜+25(ppm/K)であることがより好ましく、−20(ppm/K)〜+20(ppm/K)であることが更に好ましい。τfを上記の好適な範囲内の値とすることによって、誘電体磁器組成物を誘電体共振器に利用する場合、誘電体共振器の共振周波数の温度変化を低減することができ、誘電体共振器を高特性化することができる。
【0045】
また、BaO−Nd23−TiO2系化合物のQ・f値は、2000〜8000GHz程度である。一方、2MgO・SiO2(フォルステライト)単体のQ・f値は、200000GHz程度であり、2MgO・SiO2の誘電損失は、BaO−Nd23−TiO2系化合物の誘電損失に比べて小さい。本実施形態では、誘電体磁器組成物の主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物と、BaO−Nd23−TiO2系化合物に比べて誘電損失の小さいフォルステライトとを含有させることで、誘電損失の小さい誘電体磁器組成物を得ることができる
【0046】
なお、誘電体磁器組成物のQ・f値(単位:GHz)とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)と、共振周波数fとの積である。
【0047】
理想的な誘電体磁器に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体磁器の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより、電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)を生じ、現実の電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。このような位相差に起因して、高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を、誘電損失と呼ぶ。誘電損失の大きさは、上述のQ・f値で表される。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味し、高周波デバイスでは高特性化を実現するために誘電損失が小さいことが要求されるため、Q・f値の大きい誘電体磁器組成物が求められる。
【0048】
本実施形態の誘電体磁器組成物のQ・f値は、上記観点から、4500GHz以上であることが好ましい。
【0049】
<副成分>
本実施形態の誘電体磁器組成物は、上記主成分(BaO−Nd23−TiO2系化合物及び2MgO・SiO2)に対する副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物、及び銀を含み、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCoO、dAgと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の質量比率を表すa、b、c、及びdがそれぞれ、
0.5(質量%)≦a≦12.0(質量%)、
0.5(質量%)≦b≦6.0(質量%)、
0.2(質量%)≦c≦6.0(質量%)、
0.3(質量%)≦d≦3.0(質量%)、
の関係を満たす。
【0050】
上記の各副成分を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の焼結温度が低下するため、Ag系金属からなる導体材の融点より低い温度で、誘電体磁器組成物をAg系金属と同時に焼成することが可能となる。
【0051】
また、副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の値a(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.5≦a≦12.0であり、1.0≦a≦9.0であることが好ましく、3.0≦a≦7.0であることがより好ましい。
【0052】
aが0.5未満となると、低温焼結効果(より低い温度での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不十分なものとなる傾向にある。一方、aが12.0を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向にある。そこで、亜鉛酸化物の含有量aを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。なお、具体的な亜鉛酸化物としては、ZnO等が挙げられる。
【0053】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB23に換算した場合の値b(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.5≦b≦6.0であり、1.0≦b≦4.0であることが好ましく、1.0≦b≦3.0であることがより好ましい。
【0054】
bが0.5未満となると、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。一方、bが6.0を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向にある。そこで、ホウ素酸化物の含有量bを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。なお、具体的なホウ素酸化物としては、B23等が挙げられる。
【0055】
副成分の一種であるコバルト酸化物の含有量は、コバルト酸化物の質量をCoOに換算した場合の値c(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.2≦c≦6.0であり、0.2≦c≦4.0であることが好ましく、0.5≦c≦3.0であることがより好ましい。
【0056】
cが0.2未満となると、Q・f値の向上が不十分なものとなる傾向にある。一方、cが6.0を超えると、低温焼結が困難となる傾向にある。そこで、コバルト酸化物の含有量cを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、かつQ・f値を向上させることができる。具体的なコバルト酸化物としては、上記効果を得やすいという理由から、CoOを用いることが好ましい。
【0057】
副成分の一種として銀を更に含有する。銀の含有量は、Agに換算した場合の値d(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.3≦d≦3.0であり、0.3≦d≦2.0であることが好ましく、0.5≦d≦1.5であることがより好ましい。
【0058】
dが0.3未満となると、低温焼結効果が十分に得られなくなる傾向にあり、また、誘電体素地中へのAgの拡散を十分に抑制できない傾向にある。誘電体素地中へのAgの拡散を十分に抑制できない場合、誘電体内のAgの含有量が不均一化して誘電率のバラツキが発生したり、内部導体中のAgの含有量が低減することによって内部導体と誘電体素地との間で空隙が発生したり、外部との接続部分における内部導体の引き込みによって導体不良が発生したりする傾向にある。一方、dが3.0を超えると、低温焼結効果は得られるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向にある。また、誘電体素地中へ拡散したAgの量が、誘電体が許容できるAgの取り込み量を超えてしまい、誘電体素地中においてAgが偏析しやすくなり、高周波デバイス等における電圧負荷寿命等の信頼性が低下する傾向にある。そこで、副成分であるAgの含有量を上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0059】
さらに、副成分であるAgの含有量を上記の好適範囲内とすることによって、誘電体磁器組成物の低温焼結効果がより顕著となり、安定した静電容量や絶縁抵抗値を有する誘電体磁器を得ることが可能となる。また、誘電体磁器組成物に副成分としてAgを含有させることにより、内部導体にAg系金属を使用した場合に、内部導体から誘電体素地中へのAgの拡散を抑制することができる。
【0060】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、副成分として、マンガン酸化物を更に含有することが好ましい。副成分の一種であるマンガン酸化物の含有量は、マンガン酸化物の質量をMnO2に換算した場合の値e(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、e≦3.0であり、0.1≦e≦2.0であることが好ましく、0.3≦e≦1.0であることがより好ましい。
【0061】
eが0.1未満となると、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。一方、eが3.0を超えると、Q・f値が下がる傾向にある。そこで、マンガン酸化物の含有量eを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、かつQ・f値を向上させることができる。具体的なマンガン酸化物としては、上記効果を得やすいという理由から、MnO2を用いることが好ましい。
【0062】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、副成分として、アルカリ土類金属酸化物を更に含有することが好ましい。アルカリ土類金属であるRとしては、Ca、Ba、Srのいずれかがより好ましく、Caが更に好ましい。これらは2種以上を混合して用いてもよい。アルカリ土類金属RとしてCaを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量f(単位:質量%)は、CaO換算で0<f≦1.5であることが好ましい。アルカリ土類金属RとしてBaを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量fは、BaO換算で0<f≦3.5であることが好ましい。また、アルカリ土類金属RとしてSrを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量fは、SrO換算で0<f≦2.5であることが好ましい。具体的なアルカリ土類金属酸化物ROとしては、CaO、BaO、SrO等が挙げられる。アルカリ土類金属酸化物を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が顕著となる。
【0063】
fが上記範囲を超えると、低温焼結効果は顕著となるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向にある。そこで、アルカリ土類金属酸化物の含有量fを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。より好ましくは、アルカリ土類金属酸化物としては、CaOを用いる。
【0064】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、副成分として、ビスマス酸化物を更に含有することが好ましい。副成分の一種であるビスマス酸化物の含有量は、ビスマス酸化物の質量をBi23に換算した場合の値g(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.1≦g≦6.0であり、0.5≦g≦5.0であることが好ましく、1.0≦g≦3.0であることがより好ましい。
【0065】
gが0.1未満となると、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。一方、gが6.0を超えると、Q・f値が下がる傾向にある。そこで、ビスマス酸化物の含有量gを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、かつ低温焼結効果が十分なものとすることができる。具体的なビスマス酸化物としては、上記効果を得やすいという理由から、Bi23を用いることが好ましい。
【0066】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、低温焼結を可能とするために従来から副成分として用いられている銅酸化物(後述)の代わりに、ビスマス酸化物を用いることでも十分な低温焼結効果を得ることができる。
【0067】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、副成分として、銅酸化物を更に含有してもよい。副成分の一種である銅酸化物の含有量は、銅の質量をCuOに換算した場合の値h(単位:質量%)が、主成分100質量%に対してh≦5.0であることが好ましく、h≦3.0であることがより好ましく、実質的に含有しないことが更に好ましい。本発明者らは、誘電体磁器組成物の副成分として従来から用いられている銅酸化物を含有しなくとも、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で焼成することが可能であり、かつPCTによる外観不良が発生しないことを見出した。かかる作用機序の詳細は未だ解明されてはいないが、本実施形態の誘電体磁器組成物において銅酸化物の含有量を低減することで、PCTでの外観不良の発生を効果的に抑制できるものと考えられる(ただし、作用はこれに限定されない)。従って、本実施形態の誘電体磁器組成物では銅酸化物を含有しなくとも外観が良好であり、かつ誘電特性が優れた誘電磁器体組成物とすることができる。
【0068】
上記本実施形態では、誘電体磁器組成物の主成分は、BaO−Nd23−TiO2系化合物を含むため、従来のBaO−希土類酸化物−TiO2系の誘電体磁器組成物(高誘電率材)の材質と類似している。そのため、本実施形態の誘電体磁器組成物の焼成時における収縮挙動および線膨張係数が、高誘電率材と同等となる。従って、本実施形態の誘電体磁器組成物と高誘電率材とを接合し、焼成して、多層型デバイスを製造することによって、接合面に欠陥が生じ難く、デバイスの外観が良好であり、かつ高特性の多層型デバイスを得ることができる。
【0069】
<製造方法>
次に、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法の一例について説明する。図1は、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0070】
誘電体磁器組成物の主成分及び副成分の各原料としては、例えば、BaO−Nd23−TiO2系化合物、2MgO・SiO2、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、ビスマス酸化物、コバルト酸化物、マンガン炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、又は焼成(後述する仮焼等の熱処理)によりこれらの酸化物となり得る化合物を用いることができる。
【0071】
焼成により上記酸化物となり得る化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0072】
(主成分)
まず、主成分の原料となる炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンをそれぞれ所定量秤量して混合する。この際、組成式xBaO・yNd23・zTiO2におけるモル比であるx、y及びzが上述した好適な範囲内となるように、各原料を秤量する。
【0073】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は例えば4〜24時間程度とすればよい。
【0074】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、BaO−Nd23−TiO2系化合物を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることがより好ましい。また、仮焼は、1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0075】
合成されたBaO−Nd23−TiO2系化合物を粉砕して粉末とした後、乾燥する。これにより、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を得る。粉砕は、乾式粉砕又は湿式粉砕等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0076】
次に、他の主成分である2MgO・SiO2(フォルステライト)の原料である酸化マグネシウムと酸化ケイ素とをそれぞれ所定量秤量し混合して、仮焼を行う。酸化マグネシウムと酸化ケイ素の混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0077】
酸化マグネシウムと酸化ケイ素の混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、2MgO・SiO2(フォルステライト)を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることがより好ましい。また、仮焼は1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0078】
合成したフォルステライト結晶を粉砕して粉末とした後に乾燥する。これにより、フォルステライト結晶の粉末を得る。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0079】
或いは、上述のようにマグネシウム含有原料及びケイ素含有原料からフォルステライト結晶を合成するのではなく、市販のフォルステライトを用いてもよい。例えば、市販のフォルステライトを、上述した方法で粉砕し、乾燥してフォルステライトの粉末を得ることもできる。
【0080】
次に、得られたBaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、2MgO・SiO2(フォルステライト結晶)の粉末とを、上述した体積比率α:βで配合することによって、誘電体磁器組成物の主成分が得られる。このように、BaO−Nd23−TiO2系化合物と2MgO・SiO2とを配合することにより、BaO−Nd23−TiO2系化合物単独を主成分とする場合等に比べて、誘電体磁器組成物のεrを下げることができ、共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができ、かつ誘電損失を小さくすることができる。
【0081】
上記の2MgO・SiO2の添加効果を大きくするためには、フォルステライト中に含まれる未反応の原料成分を少なくすることが好ましい。具体的には、酸化マグネシウムと酸化ケイ素との混合物を調製する際は、マグネシウムのモル数がケイ素のモル数の2倍となるように、酸化マグネシウムと酸化ケイ素とを混合することが好ましい。
【0082】
(副成分)
次に、得られた誘電体磁器組成物の主成分の粉末と、誘電体磁器組成物の副成分の原料である亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、ビスマス酸化物、コバルト酸化物、マンガン炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩を、それぞれ所定量秤量した後、これらを混合して原料混合粉末とする。
【0083】
副成分の各原料の秤量は、完成後の誘電体磁器組成物において、各副成分の含有量が、主成分に対して上記した質量比となるように行う。混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0084】
原料混合粉末を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度乾燥させる。
【0085】
原料混合粉末を、後述する焼成温度(860〜1000℃)以下の温度、例えば700〜800℃で、1〜10時間程度仮焼する。このように焼成温度以下の温度で仮焼することによって、原料混合粉末中のフォルステライトが融解することを抑制できる。その結果、誘電体磁器組成物中に、フォルステライトが結晶の形で含有させることができる。
【0086】
上記のように、各原料を混合する以前の時点と、各原料を混合して原料混合粉末とした後の時点と、計2回の仮焼及び粉砕を行うことによって、誘電体磁器組成物の主成分と副成分とを均一に混合でき、材質が均一な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0087】
その後、仮焼をした原料混合粉末を粉砕する際に、副成分の1つであるAgを含有する原料を添加する。しかる後、乾燥処理が行われる。なお、Agを含有する原料の添加は、粉砕時に限定されるものではなく、仮焼前の混合時に行うようにしてもよい。Agを含有する原料としては、例えば、金属状態のAg(以下、「金属Ag」という場合がある)、又は仮焼により金属Agとなり得る化合物が挙げられる。仮焼により金属Agとなり得る化合物としては、例えば、硝酸銀、酸化銀、塩化銀等が挙げられる。
【0088】
粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。粉砕時間は例えば4〜24時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は100〜200℃、好ましくは120〜140℃の処理温度で12〜36時間程度とすればよい。
【0089】
上記のようにして得られた粉末に対して、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系、ナイロン系等の有機バインダーを混合した後、所望の形状に成形を行い、成形物を焼成して焼結する。成形は、シート法や印刷法等の湿式成形や、プレス成形等の乾式成形でもよく、所望の形状に応じて成形方法を適宜選択することができる。また、焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気下で行うことが好ましく、焼成温度は内部電極として用いうるAg又はAgを主成分とする合金等の導体の融点以下であることが好ましい。焼成温度としては、具体的には、800〜950℃以下がより好ましく、850〜900℃が更に好ましい。
【0090】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、例えば、高周波デバイスの一種である多層型デバイスの原料として好適に用いることができる。多層型デバイスは、内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスが一体的に作り込まれた(一体に埋設された)複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から製造される。この多層セラミック基板は、互いに誘電特性が異なる誘電体磁器組成物から形成されるグリーンシートにスルーホールを形成した後に、グリーンシートを複数積層し、これらを同時焼成して製造できる。
【0091】
多層型デバイスの製造においては、本実施形態の誘電体磁器組成物に、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等を混合した後、得られた混合物をシート状に成形してグリーンシートを得る。グリーンシートの成形方法としては、シート法等の湿式成形法を用いる。
【0092】
次に、得られたグリーンシートと、これとは誘電特性が異なる他のグリーンシートとを、その間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層し、この積層体を所望の寸法に切断してグリーンチップを形成する。得られたグリーンチップに脱バインダー処理を施した後に、グリーンチップを焼成して、焼結体を得る。焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼成温度は、導体材として用いるAg系金属の融点以下であることが好ましく、具体的には、860〜1000℃であることが好ましく、870〜940℃であることがより好ましい。得られた焼結体に外部電極等を形成することにより、Ag系金属からなる内部電極を備える多層型デバイスを製造できる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1〜25]
誘電体磁器組成物の主成分組成及び副成分添加量が表1に示す値となるように、それぞれの含有量を変化させて実施例1〜25の誘電体磁器組成物を作製した。そして、得られた各誘電体磁器組成物を用いて測定用試料を作製し、それらの誘電特性(Q・f値、τf)の測定及びPCTを行った。これらの結果を表1にまとめて示す。誘電体磁器組成物の作製方法、測定用試料の作製方法、及び評価方法は、表1に示した条件を変化させたこと以外は、全て以下に例として示す実施例4における場合と同様とした。
【0095】
(実施例4)
組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表される成分を含み、α=55(体積%)、β=45(体積%)、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%)である主成分と、主成分100質量%に対して、6.67質量%であるZnOと、2.48質量%であるB23と、0.50質量%であるCoOと、0.75質量%であるAgと、仮焼の熱処理によりMnO2換算で0.50質量%となるMnCO3と、仮焼の熱処理によりCaO換算で0.60質量%となるCaCO3と、3.00質量%であるBi23と、を副成分として含有する誘電体磁器組成物を、以下に示す手順で作製した。
【0096】
まず、主成分の原料であるBaCO3、Nd(OH)3及びTiO2を、これらを仮焼した後に得られるxBaO・yNd23・zTiO2におけるモル比x、y及びzが上記の値となるようにそれぞれ秤量した。
【0097】
秤量した原料に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式混合した後、120℃で乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、4時間、1200℃で仮焼して、組成式xBaO・yNd23・zTiO2(x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%))で表されるBaO−Nd23−TiO2系化合物を得た。このBaO−Nd23−TiO2系化合物に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて粉砕した後、120℃で乾燥し、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を製造した。
【0098】
次に、主成分の他の原料であるMgO及びSiO2を、マグネシウム原子のモル数がケイ素原子のモル数の2倍となるようにそれぞれ秤量した。秤量した原料に純水を加え、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式混合した後、120℃で乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、3時間、1200℃で仮焼して、フォルステライト結晶(2MgO・SiO2)を得た。このフォルステライト結晶に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて粉砕した後、120℃で乾燥して、フォルステライト結晶の粉末を製造した。
【0099】
そして、次に、得られたBaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、フォルステライト結晶の粉末とを、55:45の体積比率で混合した混合物に対して、誘電体磁器組成物の副成分の原料であるZnO、B23、CoO、MnCO3、CaCO3、及びBi23をそれぞれ配合した後、更に純水を加えて、スラリーを作製した。このスラリーをボールミルにて湿式混合した後、120℃で乾燥して、原料混合粉末を得た。得られた原料混合粉末を、空気中で、2時間、750℃で仮焼して、仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末に、誘電体磁器組成物の副成分である金属Agを配合した。次に、金属Agを配合した仮焼粉末にエタノールを加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式粉砕した後、100℃で乾燥して、実施例4の誘電体磁器組成物の粉末を得た。
【0100】
なお、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末とフォルステライト結晶の粉末との混合物に対するZnO、B23、CoO、MnO2、CaO、Bi23、及び金属Agの各配合量は、完成後の誘電体磁器組成物において、主成分100質量%に対して、ZnOが6.67質量%、B23が2.48質量%、CoOが0.5質量%、MnO2が0.50質量部、CaOが0.60質量部、Bi23が3.00質量%、及び金属Agが0.75質量部それぞれ含有されるように調整した。
【0101】
実施例4の誘電体磁器組成物の粉末に、バインダーとしてナイロン樹脂水溶液を加えて造粒したものを、直径12mm×高さ6mmの円柱状に成型し、これを900℃の焼成温度で2時間焼成して、誘電体磁器を得た。次に、誘電体磁器の表面を削り、直径10mm×高さ5mmの円柱ペレットを作製して実施例4の測定用試料を得た。
【0102】
(誘電特性測定)
実施例4の測定用試料の誘電特性を示すQ・f値(単位:GHz)及びτf(単位:ppm/K)を、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度)に従って測定した。これらの測定結果を表1に併せて示す。なお、Q・f値、及びτfの測定に際して、測定周波数は7.3GHzとした。また共振周波数fを−40〜85℃の温度範囲で測定し、τf=〔fT−fref/fref(T−Tref)〕×106(ppm/K)・・・式(1)によりτfを算出した。また、式(1)におけるTは85℃とし、基準温度Trefは−40℃とした。
【0103】
(プレッシャークッカー試験)
実施例4の測定用試料から下記の積層セラミックコンデンサを作製し、プレッシャークッカー試験(PCT)を行った。PCTは、温度121℃、相対湿度96%RH、2気圧の環境下で、投入条件60時間で行い、積層セラミックコンデンサの外観の変色の有無を実体顕微鏡による目視で判定した。
(積層セラミックコンデンサの作製方法)
実施例4の誘電体磁器組成物の粉末に、アクリル樹脂バインダー、分散剤、可塑剤、有機溶剤としてトルエンを加えてボールミルにて混合して、誘電体ペーストを作製した。次いで、上記誘電体ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ約70μmのグリーンシートを形成した。このグリーンシート上にAg電極ペーストを印刷したのち、これらのグリーンシートと外層用グリーンシート(Ag電極ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着した。Ag電極を有するシートの積層枚数は2枚とし、外層用グリーンシートは、上下各8枚とした。次いで、所定サイズに切断してグリーンチップを得て、脱バインダー処理、900℃、2hrで焼成を行った後に、端子電極としてAgを焼き付けて、さらにNi−Snめっき処理を施すことで、積層セラミックコンデンサを得た。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1〜25は、PCT後の製品外観が良好であり、Q・f値が4500GHz以上であり、かつτfが−12(ppm/K)〜+25(ppm/K)の範囲内であった。即ち、実施例1〜25は、製品外観と誘電特性が良好であった。一方、比較例1、2は、PCT後の製品外観が不良であった。比較例3は、Q・f値が4500GHz未満であった。比較例4は、焼結体を得ることができず測定できなかった。
以上より、本実施例によれば、本実施形態の誘電体磁器組成物は、PCT後の製品外観が良好であり、かつ電気的特性が優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、各種の電子部品等として幅広い分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として組成式が{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}で表される成分を含み、
BaO、Nd23、及びTiO2のモル比率を表すx、y、及びzがそれぞれ、
14(モル%)≦x≦19(モル%)、
12(モル%)≦y≦17(モル%)、
65(モル%)≦z≦71(モル%)、の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100の関係を満たし、
前記主成分における各成分の体積比率を表すα、及びβがそれぞれ
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲内にあるとともに、
α+β=100の関係を満たし、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、コバルト酸化物及び銀を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCoO、dAgと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の質量比率を表すa、b、c、及びdがそれぞれ、
0.5(質量%)≦a≦12.0(質量%)、
0.5(質量%)≦b≦6.0(質量%)、
0.2(質量%)≦c≦6.0(質量%)、
0.3(質量%)≦d≦3.0(質量%)、
の関係を有する、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
副成分として、マンガン酸化物を更に含み、前記主成分に対する前記マンガン酸化物としての質量比率をeMnO2と表したときに、
e≦3.0(質量%)、
である、
請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
副成分として、アルカリ土類金属酸化物を更に含有する、
請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
副成分として、アルカリ土類金属酸化物を更に含み、前記主成分に対する前記アルカリ土類金属酸化物としての質量比率をfROと表した場合、
アルカリ土類金属RとしてCaOを用いた場合、CaO換算で0(質量%)<f≦1.5(質量%)であり、
アルカリ土類金属RとしてBaを用いた場合、BaO換算で0(質量%)<f≦3.5(質量%)であり、
アルカリ土類金属RとしてSrを用いた場合、SrO換算で0(質量%)<f≦2.5(質量%)である、
請求項3に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
副成分として、ビスマス酸化物を更に含み、前記主成分に対する前記ビスマス酸化物としての質量比率をgBi23と表したときに、
0.1(質量%)≦g≦6.0(質量%)、
である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
副成分として、銅酸化物を更に含み、前記主成分に対する前記銅酸化物としての質量比率をhCuOと表したときに、
h≦5.0(質量%)、
である、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
銅酸化物を含まない、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
Q・f値が4500GHz以上である、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−235325(P2010−235325A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82026(P2009−82026)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】