説明

誘電体磁器組成物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は誘電体磁器組成物に関し、特に磁器積層コンデンサなどの材料として用いられる誘電体磁器組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、電圧依存性が小さく、磁器の強度が高く、平坦な誘電率温度特性を持つ誘電体磁器組成物として、BaTiO3を主成分とし、これにBi23−TiO2、Bi23−SnO2、Bi23−ZrO2などのビスマス化合物と希土類元素を副成分として添加したものが広く知られている。
【0003】一方、上記組成の誘電体磁器組成物とは別に、BaTiO3を主成分とし、これにNb25、希土類酸化物、およびCr,Mn,Fe,Co,Niなどの遷移金属酸化物を副成分として添加したものも、誘電率が3000以上の高誘電率でありながら、平坦な誘電率温度特性が得られることが報告されている。
【0004】これらの誘電体磁器組成物の温度特性は、EIA規格のX7R特性、すなわち−55℃〜+125℃の温度域で、+25℃における静電容量を基準としたときの容量変化率が±15%以内であることを満足するものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、自動車のエンジンル−ム内に搭載するEECモジュ−ル(エンジンの電子制御装置)に、磁器積層コンデンサが用いられるようになった。この装置はエンジン制御を安定して行うためのものなので、回路の温度安定性という面からみて、使用するコンデンサの温度特性としては、容量変化率が±15%以内を満足することが望ましい。
【0006】ところが、自動車のエンジンル−ム内は、寒冷地の冬期には−20℃程度まで温度が下がり、またエンジンを始動すると、夏期では+130℃程度にまで温度が上がることが予測される。特にエンジンのオ−バ−ヒ−トなどが起こった場合には、+150℃程度にまで温度が上がることは十分考えられる。したがって、従来のX7R特性の誘電体磁器組成物はエンジンル−ム内が高温になった場合に対応しきれない。
【0007】一方、この積層コンデンサは通常、プリント基板に実装された状態で使用されることが多いが、このとき実装状態においても十分な破壊強度を有していることが必要とされている。
【0008】さらに、誘電体磁器組成物の電圧依存性が大きいと、誘電体の薄膜化に対応できず、小型大容量の磁器積層コンデンサを作製することができず、また、回路の安定性の面から見ても好ましくない。
【0009】ところで、BaTiO3を主成分とし、これにNb25、希土類酸化物、およびCr,Mn,Fe,Co,Niなどの遷移金属酸化物を副成分として添加した誘電体磁器組成物は、磁器強度が低いため基板実装状態で破壊することがあった。また、これらの大きな誘電率を有する誘電体磁器組成物は、電圧依存性が大きいため、最近の薄膜化に対応できず、小型大容量の磁器積層コンデンサを作製することができなかった。
【0010】一方、BaTiO3を主成分とし、これにビスマス化合物を添加した誘電体磁器組成物は、上述したように、電圧依存性が小さく、磁器強度が高いが、誘電率を高くすると、誘電率の温度変化率が大きくなる。また、焼成温度を1160℃以上と高くすると、磁器積層コンデンサとした場合、内部電極にPdを多く含有させなければならない。そのため、内部電極中のPdとBi23との反応が起こりやすくなる上、内部電極にかかるコストも高くなってしまう。
【0011】それゆえに、この発明の主たる目的は、1160℃以下で焼成でき、1000以上の高誘電率でありながら、EIA規格のX8R特性、すなわち+25℃における静電容量を基準としたとき、−55℃〜+150℃の広い範囲にわたって静電容量の温度変化率(以下、TCという)が±15%以内を満足し、かつ、磁器の機械強度が高く、さらに、誘電体磁器層の厚みを10μm〜15μmと薄膜化したときに、JIS C6429のRB特性の規格に準じて、定格電圧の50%の直流電圧を印加したときの静電容量の温度変化率(以下、バイアスTCという)が+15%〜−40%以内と小さい、誘電体磁器組成物を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、一般式、{100−(a+b+c+d+e)}BaTiO3+aBi23+bNb25+cMaO+dMbO2+eMc(ただし、MaはMg,C 中から選ばれる少なくとも1種類、MbはTi,Sn,Zrの中から選ばれる少なくとも1種類、Mcは希土類酸化物のうちのY,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Dy,Ho,Erの中から選ばれる少なくとも1種類、a,b,c,dおよびeはモル%)で表される主成分が97.5〜99.95重量%、ただし、前記一般式のa,b,c,dおよびeがそれぞれ次の範囲にある1.0≦a≦ 6.00.5≦b≦ 4.50 ≦c≦ 4.01.5≦d≦15.00.5≦e≦ 5.5SiO2を主成分とするガラスからなる第1副成分が0.05〜2.5重量%、からなる誘電体磁器組成物である。
【0013】請求項2に係る発明は、一般式、{100−(a+b+c+d+e)}BaTiO3+aBi23+bNb25+cMaO+dMbO2+eMc(ただし、MaはMg,C 中から選ばれる少なくとも1種類、MbはTi,Sn,Zrの中から選ばれる少なくとも1種類、Mcは希土類酸化物のうちのY,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Dy,Ho,Erの中から選ばれる少なくとも1種類、a,b,c,d、およびeはモル%)で表される主成分が97.0〜99.94重量%、ただし、前記一般式のa,b,c,d、およびeがそれぞれ次の範囲にある1.0≦a≦ 6.00.5≦b≦ 4.50 ≦c≦ 4.01.5≦d≦15.00.5≦e≦ 5.5SiO2を主成分とするガラスからなる第1副成分が0.05〜2.5重量%、Cr,Mn,Fe,CoおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の酸化物からなる第2副成分が0.01〜0.5重量%、からなる誘電体磁器組成物である。
【0014】ここで、第1副成分であるSiO2を主成分とするガラスとしては、例えば、BaO−SrO−CaO−Li2O−SiO2がある。このガラスは焼成温度を1160℃以下にする焼結助剤であり、これに限られるものでなく、たとえば、BaO−Li2O−B23−SiO2系などの酸化ホウ素を含む酸化物ガラスを用いてもよい。また、SiO2−B4C系などの非酸化物を含む系を用いてもよい。なお、ガラスの酸化ホウ素を含む場合、セラミック原料の成形用バインダーとして水系バインダーを用いるときは、酸化ホウ素の原料として水に対して安定なB4Cを用いるのが好ましい。
【0015】
【発明の効果】この発明にかかる誘電体磁器組成物は、1160℃以下の低温で焼成でき、−55℃から+150℃までの広い温度範囲にわたって、TCが±15%以内の特性を満足し、平坦な温度特性を持つ。したがって、この誘電体磁器組成物を用いた磁器積層コンデンサは、温度変化の大きな場所に設置される電装機器に使用することができる。
【0016】また、磁器の機械的強度が高いため、磁器積層コンデンサとして用いる場合に、基板実装状態における割れ、欠けなどの破壊が起こらない。そのため、ショ−ト不良や発熱による焼損などの事故を防ぐことができる。
【0017】さらに、バイアスTCが優れているため、誘電体磁器層の厚みを10μm〜15μmと薄膜化することが可能であり、磁器積層コンデンサの小型化かつ大容量化を進めることができる。
【0018】この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【0019】
【実施例】まず、誘電体磁器組成物の主成分の調製法について述べる。出発原料として工業用原料であるBaTiO3,Bi23,Nb25,MaO(MaはMg,Ca,Zn),MbO2(MbはTi,Sn,Zr)およびMc(McはY,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Dy,Ho,Erの酸化物)を準備した。これらの出発原料を、表1に示す組成比となるように秤量し、ボ−ルミルで16時間湿式混合粉砕した後、蒸発乾燥して混合粉末を得た。得られた混合粉末をジルコニア質の匣に入れて、自然雰囲気中で1000℃、2時間仮焼した後、200メッシュの篩を通過するように粗粉砕して、磁器組成物の主成分の原料粉末とした。
【0020】次に誘電体磁器組成物の第1副成分の調製法について述べる。この実施例では、焼成温度を1160℃以下にする第1副成分として、組成が8BaO−6SrO−6CaO−30Li2O−50SiO2(モル%)で表される酸化物ガラスを用いた。出発原料として工業用原料であるBaCO3,SrCO3,CaCO3,Li2OおよびSiO2を準備した。これらの出発原料を上記の組成となるように秤量し、ボ−ルミルで16時間湿式混合粉砕した後、蒸発乾燥して混合粉末を得た。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼに入れて1300℃の温度で1時間放置し、その後急冷してガラス化した。これを200メッシュの篩を通過するように粉砕して、磁器組成物の第1副成分の原料粉末とした。
【0021】以上のようにして得られた磁器組成物の第1副成分の原料粉末を、磁器組成物の主成分の原料粉末に対して、表2に示す重量比になるように添加した。
【0022】また誘電体磁器組成物の第2副成分の調製法について述べる。出発原料として工業用原料であるCr23,MnO2,Fe23,Co23およびNiOを準備した。主成分組成が83.5BaTiO3−4.5Bi23−1.0Nb25−1.0CaO−1.0ZnO−6.0TiO2−0.5SnO2−0.5ZrO2−2.0Nd23−1.0Dy23(モル%)で、上記の第1副成分を1.0重量%添加したものに対して、表3に示す組成比となるように第2副成分を添加した。表3の磁器組成物とは主成分と第1副成分を混合したものの値である。
【0023】これらにポリビニルブチラ−ル系のバインダおよびトルエン、エチルアルコ−ルなどの有機溶剤を加えて、ボ−ルミルで16時間湿式混合した後、ドクタ−ブレ−ド法によりシ−ト成形を行って、グリ−ンシ−トを得た。このグリーンシートの厚みは19μmであった。このグリーンシートに内部電極パタ−ンをAg/Pd=70/30(重量%)のペ−ストを用いて印刷した後、グリーンシートを6層積み重ねて、ダミ−のシ−トとともに熱圧着し、圧着体を得た。この圧着体から長さ5.5mm、幅4.5mm、厚さ1mmの成形体を切り出した。その後、この成形体をそれぞれ表4および表5に示す焼成温度で2時間焼成し、焼結体を得た。焼結後の誘電体厚みは13μmであった。
【0024】そして、得られた焼結体の端面に銀電極を焼き付けて測定試料(積層コンデンサ)として、その室温での誘電率(ε)、誘電損失(tanδ)、TC及びバイアスTCを測定した。
【0025】この場合、誘電率(ε)および誘電損失(tanδ)は、温度25℃、1kHz、1Vrmsの条件下で測定した。TCは、25℃での静電容量を基準として、−55℃〜+150℃の間における容量変化率が最大である値、すなわち最大変化率(ΔCmax)を求めた。またバイアスTCについては、上記の温度範囲で直流電圧25Vを測定試料に重畳しながら、その静電容量を測定して、温度25℃、印加電圧0Vのときの静電容量を基準として、TCと同様に最大変化率(ΔCmaxB)を求めた。
【0026】また、磁器の抗折強度を3点曲げにより測定した。まず表1、表2および表3に示したそれぞれの組成の原料をシ−ト成形したものを圧着成形し、この圧着体から長さ35mm、幅7mm、厚さ1.2mmの成形体を切り出した。その後、これらの成形体をそれぞれ表4および表5に示す焼成温度で2時間焼成し、短冊状の磁器を得た。このようにして、それぞれの組成で20本の試料について抗折強度を測定し、その平均をもって各組成の抗折強度とした。
【0027】以上の各試験の結果を、表1および表2の組成物における結果を表4、表3の組成物における結果を表5にそれぞれ合わせて示す。
【0028】この発明において、主成分量、第1副成分量および第2副成分量の範囲を限定した理由を説明する。
【0029】まず、主成分組成を限定した理由について説明する。aの値すなわちBi23について、その範囲を1.0〜6.0モル%としたのは、試料番号9のように、1.0モル%未満では、TCが最大変化率(ΔCmax)で絶対値が15%を越え、抗折強度も1500kg/cm2以下の低い値となり好ましくない。一方、試料番号10のように、6.0モル%を越えると、誘電率(ε)が1000未満になり、またTCがΔCmaxで15%を越える変化となり好ましくない。
【0030】また、bの値すなわちNb25について、その範囲を0.5〜4.5モル%としたのは、試料番号11のように0.5モル%未満あるいは試料番号12のように4.5モル%を越えると、TCが最大変化率(ΔCmax)で−15%を越え、バイアスTCも−40%を越える変化となり好ましくない。
【0031】cの値すなわちMaOについて、その範囲を0〜4.0モル%としたのは、試料番号5のように、0モル%の場合でも、誘電率が高いなどの特性を得られるが、試料番号13のように、4.0モル%を越えると、TCが最大変化率(ΔCmax)で−15%を越える変化となり好ましくない。
【0032】また、dの値すなわちMbO2について、その範囲を1.5〜15.0モル%としたのは、試料番号14のように1.5モル%未満あるいは試料番号15のように15.0モル%を越えると、TCが最大変化率(ΔCmax)で−15%を越える変化となり好ましくない。
【0033】eの値すなわちMcについて、その範囲を0.5〜5.5モル%としたのは、試料番号16のように、0.5モル%未満では、TCが最大変化率(ΔCmax)で15%を越える変化となり、バイアスTCも−40%を越える変化となり好ましくない。一方、試料番号17に示すように、eの値が5.5モル%を越えると、TCが最大変化率(ΔCmax)で−15%を越えるため好ましくない。
【0034】次に、第1副成分量を限定した理由について説明する。第1副成分量について、その範囲を0.05〜2.5重量%としたのは、試料番号18のように、第1副成分量が0.05重量%未満になると、焼成温度が1160℃を越えるため好ましくない。一方、試料番号19のように第1副成分量が2.5重量%を越えると、誘電率(ε)が1000未満となり好ましくない。
【0035】次に、第2副成分量を限定した理由について説明する。この第2副成分量は誘電体磁器の還元を防止するためのものであり、第2副成分量について、その範囲を0.01〜0.5重量%としたのは、第2副成分量が0.01重量%未満であると還元防止の効果がなく、一方、試料番号30のように0.5重量%を越えると、誘電損失(tanδ)が2.5%を越える大きな値となるため好ましくない。
【0036】上述の実施例においては、あらかじめ所定の組成比に調合し、高温に熱処理して溶融した後に粉砕してガラス化した第1副成分を、磁器組成物の主成分に添加配合した。しかし、この第1副成分の添加方法としては、この他、あらかじめ所定の割合に調合して溶融しない程度に加熱し、出発原料を改質したものを添加するか、あるいは第1副成分の各構成元素を、例えば金属アルコキシドといった任意の状態で主成分に対して個々に添加し、焼成中に溶融反応してガラス化するようにしても良い。
【0037】また、第2副成分においても、上述の実施例では最初から酸化物の形で添加したが、原料作製時の出発原料としては、各元素の炭酸物など、仮焼、焼成の段階で酸化物になるものを用いてもよい。
【0038】
【表1】


【0039】
【表2】


【0040】
【表3】


【0041】
【表4】


【0042】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式、{100−(a+b+c+d+e)}BaTiO3+aBi23+bNb25+cMaO+dMbO2+eMc(ただし、MaはMg,C 中から選ばれる少なくとも1種類、MbはTi,Sn,Zrの中から選ばれる少なくとも1種類、Mcは希土類酸化物のうちのY,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Dy,Ho,Erの中から選ばれる少なくとも1種類、a,b,c,dおよびeはモル%)で表される主成分が97.5〜99.95重量%、ただし、前記一般式のa,b,c,dおよびeがそれぞれ次の範囲にある1.0≦a≦ 6.00.5≦b≦ 4.50 ≦c≦ 4.01.5≦d≦15.00.5≦e≦ 5.5SiO2を主成分とするガラスからなる第1副成分が0.05〜2.5重量%、からなる誘電体磁器組成物。
【請求項2】 一般式、{100−(a+b+c+d+e)}BaTiO3+aBi23+bNb25+cMaO+dMbO2+eMc(ただし、MaはMg,C 中から選ばれる少なくとも1種類、MbはTi,Sn,Zrの中から選ばれる少なくとも1種類、Mcは希土類酸化物のうちのY,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Dy,Ho,Erの中から選ばれる少なくとも1種類、a,b,c,dおよびeはモル%)で表される主成分が97.0〜99.94重量%、ただし、前記一般式のa,b,c,dおよびeがそれぞれ次の範囲にある1.0≦a≦ 6.00.5≦b≦ 4.50 ≦c≦ 4.01.5≦d≦15.00.5≦e≦ 5.5SiO2を主成分とするガラスからなる第1副成分が0.05〜2.5重量%、Cr,Mn,Fe,CoおよびNiの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種類からなる第2副成分が0.01〜0.5重量%、からなる誘電体磁器組成物。

【特許番号】特許第3161278号(P3161278)
【登録日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【発行日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−102338
【出願日】平成7年4月26日(1995.4.26)
【公開番号】特開平8−295559
【公開日】平成8年11月12日(1996.11.12)
【審査請求日】平成10年6月15日(1998.6.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【参考文献】
【文献】特開 平7−73734(JP,A)
【文献】特開 平7−37428(JP,A)
【文献】特開 平7−37427(JP,A)
【文献】特開 平7−315921(JP,A)